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特許7401763水位予測プログラム、水位予測方法および情報処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】水位予測プログラム、水位予測方法および情報処理装置
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/06 20120101AFI20231213BHJP
   G01W 1/14 20060101ALI20231213BHJP
   E02B 3/00 20060101ALI20231213BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20231213BHJP
   G06Q 10/04 20230101ALI20231213BHJP
【FI】
G06Q50/06
G01W1/14 Z
E02B3/00
G06N20/00 130
G06Q10/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020038611
(22)【出願日】2020-03-06
(65)【公開番号】P2021140536
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002918
【氏名又は名称】弁理士法人扶桑国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宗 美佐子
【審査官】大野 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-002658(JP,A)
【文献】特開2005-231392(JP,A)
【文献】特開平09-095917(JP,A)
【文献】特開2019-159506(JP,A)
【文献】特開2019-094640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
G01W 1/14
E02B 3/00
G06N 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに、
水位の計測値と前記水位の計測値より前に計測された複数の時刻の雨量の計測値とを対応付けた訓練データを用いて、減衰パラメータの値と、特定の減衰パターンに応じて複数の時刻の雨量を実効雨量に変換し前記変換した実効雨量を水位に変換する水位予測モデルに用いられる、前記減衰パラメータ以外の1以上のモデルパラメータの値とを算出し、
前記減衰パラメータの異なる値と時間の経過に応じた減衰パターンを示す複数の減衰関数とを対応付けた減衰関数情報が示す前記複数の減衰関数のうち、算出した前記減衰パラメータの値に対応する減衰関数と、算出した前記1以上のモデルパラメータの値とに基づいて、前記水位予測モデルを決定し、
決定した前記水位予測モデルと複数の時刻の雨量の計測値とから水位を予測する、
処理を実行させる水位予測プログラム。
【請求項2】
前記減衰パラメータおよび前記1以上のモデルパラメータの値の算出では、前記減衰パラメータの値を選択し、選択した前記減衰パラメータの値に対応する減衰関数を特定し、前記特定した減衰関数と前記訓練データとを用いて前記1以上のモデルパラメータの値を算出し、算出した前記1以上のモデルパラメータの値を含む前記水位予測モデルの予測精度を評価し、前記予測精度に応じて前記減衰パラメータの値を変更する、
請求項1記載の水位予測プログラム。
【請求項3】
前記変換した実効雨量は、前記特定の減衰パターンが示す減衰比率に応じた重みを用いて算出される、前記複数の時刻の雨量の重み付き和である、
請求項1記載の水位予測プログラム。
【請求項4】
前記1以上のモデルパラメータは、前記変換した実効雨量と水位との間の関係を示す係数パラメータと、雨量の減衰比率が所定比率に達するまでの経過時間を示す時定数パラメータとを含む、
請求項1記載の水位予測プログラム。
【請求項5】
前記複数の減衰関数は、経過時間を示す変数が指数に用いられる指数関数を示す第1の減衰関数と、前記変数が分母に用いられる分数関数を示す第2の減衰関数とを含む、
請求項1記載の水位予測プログラム。
【請求項6】
前記減衰関数情報では、前記減衰パラメータの値がP(Pは1以上の実数)である減衰関数は、当該減衰関数を経過時間で微分した導関数が、当該減衰関数のP乗に比例するという微分方程式を満たすように規定される、
請求項1記載の水位予測プログラム。
【請求項7】
コンピュータが、
水位の計測値と前記水位の計測値より前に計測された複数の時刻の雨量の計測値とを対応付けた訓練データを用いて、減衰パラメータの値と、特定の減衰パターンに応じて複数の時刻の雨量を実効雨量に変換し前記変換した実効雨量を水位に変換する水位予測モデルに用いられる、前記減衰パラメータ以外の1以上のモデルパラメータの値とを算出し、
前記減衰パラメータの異なる値と時間の経過に応じた減衰パターンを示す複数の減衰関数とを対応付けた減衰関数情報が示す前記複数の減衰関数のうち、算出した前記減衰パラメータの値に対応する減衰関数と、算出した前記1以上のモデルパラメータの値とに基づいて、前記水位予測モデルを決定し、
決定した前記水位予測モデルと複数の時刻の雨量の計測値とから水位を予測する、
水位予測方法。
【請求項8】
水位の計測値と前記水位の計測値より前に計測された複数の時刻の雨量の計測値とを対応付けた訓練データと、減衰パラメータの異なる値と時間の経過に応じた減衰パターンを示す複数の減衰関数とを対応付けた減衰関数情報と、を記憶する記憶部と、
前記訓練データを用いて、前記減衰パラメータの値と、特定の減衰パターンに応じて複数の時刻の雨量を実効雨量に変換し前記変換した実効雨量を水位に変換する水位予測モデルに用いられる、前記減衰パラメータ以外の1以上のモデルパラメータの値とを算出し、前記減衰関数情報が示す前記複数の減衰関数のうち、算出した前記減衰パラメータの値に対応する減衰関数と、算出した前記1以上のモデルパラメータの値とに基づいて、前記水位予測モデルを決定し、決定した前記水位予測モデルと複数の時刻の雨量の計測値とから水位を予測する処理部と、
を有する情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水位予測プログラム、水位予測方法および情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
土木や防災の分野では、過去の雨量から、将来における河川水位や地下水位などの水位を予測することが行われている。ただし、雨量と水位との間の関係は単純ではない。ある時刻の雨量は、その後の長時間にわたって水位に影響を与える。ある時刻の水位は、その直前の雨量だけでなく更に過去の雨量の影響も受ける。よって、雨量の時系列変化から水位を予測することになる。そこで、雨量の時系列変化とその直後の水位とを対応付けた訓練データを収集し、機械学習により水位予測モデルを生成することが行われている。
【0003】
例えば、河川の水位および河川流域の雨量を示す計測データから機械学習により水位予測モデルを生成し、新たな計測データが到着すると既存の計測データと結合し、再学習により水位予測モデルを更新する河川水位予測装置が提案されている。また、例えば、複数地点で計測された雨量を加重平均して流域平均雨量を算出し、算出した流域平均雨量と河川の流量との間の関係を示す流量予測モデルを生成する流量予測装置が提案されている。また、例えば、計測された雨量および水位を示す訓練データから、水位予測用のニューラルネットワークを生成する水位予測装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-256338号公報
【文献】特開2007-205001号公報
【文献】特開2019-95240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
雨量の時系列変化から水位を予測する水位予測モデルでは、ある時刻の雨量が水位に与える影響は、時間の経過に伴って徐々に減衰する(逓減する)ことを前提とすることが多い。この点、機械学習によって生成される従来の水位予測モデルは、雨量の影響の減衰を示す減衰関数として、ネイピア数の逆数のべき乗といった固定の減衰関数を採用している。しかし、水位を予測しようとする土地によっては、雨量の影響の減衰が固定の減衰関数に上手くフィットしないことがある。そのため、機械学習によって生成される水位予測モデルの予測精度が低くなることがあるという問題がある。
【0006】
一方で、特定の減衰関数を仮定せず、多層ニューラルネットワークなどの自由度の高いモデルを水位予測モデルとして採用することも考えられる。しかし、自由度の高いモデルの予測精度を向上させるには、多量の訓練データを使用することになるところ、多量の雨量データや水位データを用意するのが難しいことがある。
【0007】
1つの側面では、本発明は、水位予測モデルの精度を向上させることができる水位予測プログラム、水位予測方法および情報処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1つの態様では、コンピュータに実行させる水位予測プログラムが提供される。水位の計測値と水位の計測値より前に計測された複数の時刻の雨量の計測値とを対応付けた訓練データを用いて、減衰パラメータの値と、特定の減衰パターンに応じて複数の時刻の雨量を実効雨量に変換し変換した実効雨量を水位に変換する水位予測モデルに用いられる、減衰パラメータ以外の1以上のモデルパラメータの値とを算出する。減衰パラメータの異なる値と時間の経過に応じた減衰パターンを示す複数の減衰関数とを対応付けた減衰関数情報が示す複数の減衰関数のうち、算出した減衰パラメータの値に対応する減衰関数と、算出した1以上のモデルパラメータの値とに基づいて、水位予測モデルを決定する。決定した水位予測モデルと複数の時刻の雨量の計測値とから水位を予測する。
【0009】
また、1つの態様では、コンピュータが実行する水位予測方法が提供される。また、1つの態様では、記憶部と処理部とを有する情報処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
1つの側面では、水位予測モデルの精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施の形態の情報処理装置を説明するための図である。
図2】第2の実施の形態の情報処理システムの例を示す図である。
図3】水位予測装置のハードウェア例を示すブロック図である。
図4】減衰関数の例を示すグラフである。
図5】水位予測装置の機能例を示すブロック図である。
図6】水位テーブルおよび雨量テーブルの例を示す図である。
図7】減衰関数テーブルの例を示す図である。
図8】水位予測モデル生成の手順例を示すフローチャートである。
図9】水位予測例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本実施の形態を図面を参照して説明する。
[第1の実施の形態]
第1の実施の形態を説明する。
【0013】
図1は、第1の実施の形態の情報処理装置を説明するための図である。
第1の実施の形態の情報処理装置10は、機械学習によって水位予測モデルを生成し、生成した水位予測モデルを用いて水位を予測する。情報処理装置10は、クライアント装置でもよいしサーバ装置でもよい。情報処理装置10を、水位予測装置、機械学習装置、分析装置、コンピュータなどと言うこともできる。
【0014】
情報処理装置10は、記憶部11および処理部12を有する。記憶部11は、RAM(Random Access Memory)などの揮発性半導体メモリでもよいし、HDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの不揮発性ストレージでもよい。処理部12は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)などのプロセッサである。ただし、処理部12は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などの特定用途の電子回路を含んでもよい。プロセッサは、RAMなどのメモリ(記憶部11でもよい)に記憶されたプログラムを実行する。複数のプロセッサの集合を「マルチプロセッサ」または単に「プロセッサ」と言うこともある。
【0015】
記憶部11は、訓練データ13および減衰関数情報14を記憶する。
訓練データ13は、水位予測モデル16の機械学習に使用される。訓練データ13は、複数のレコードを含む。訓練データ13の各レコードは、ある時刻に計測された水位の計測値と、当該水位の計測値より前の異なる複数の時刻に計測された雨量の計測値とを対応付けている。訓練データ13の各レコードが、水位と同じ時刻に計測された雨量の計測値を含んでもよい。水位は目的変数や教師ラベルに相当し、雨量は説明変数に相当する。
【0016】
訓練データ13が示す水位は、同一の水位計によって計測されたものである。水位は、基準面から水面までの高さを表すものであればよく、河川水位でも地下水位でもよい。例えば、河川の特定の場所に設置された水位計によって水位が計測される。訓練データ13が示す雨量は、同一の雨量計によって計測されたものである。雨量計は、水位計によって計測される水位と相関がある雨量を計測できるような場所に設置されている。雨量計は、水位計と同一の場所または近い場所に設置されていることが好ましく、水位計よりも河川または地下水脈の上流側に設置されていることが好ましい。
【0017】
ある時刻の雨量の計測値は、当該時刻の直近の所定時間の累積雨量を示す。所定時間として、10分、15分、1時間などが挙げられる。複数の時刻の雨量の計測値は、10分間隔、15分間隔、1時間間隔などの所定間隔の計測値である。例えば、訓練データ13の1つのレコードは、ある時刻の水位が0.83メートルであり、10分前の雨量が1.0ミリメートルであり、20分前の雨量が1.5ミリメートルであり、30分前の雨量が1.0ミリメートルであることを表している。訓練データ13の各レコードは、水位が計測された時刻の直近数週間分など所定数の雨量の計測値を列挙している。
【0018】
なお、訓練データ13は、2箇所以上の雨量計の計測値を含んでもよい。2箇所以上の雨量計の計測値を用いることで、水位予測モデル16の予測精度が向上することがある。その場合、水位予測モデル16に含まれる説明変数が増えることになる。その結果、後述する減衰パラメータ15aやモデルパラメータ15bが増えることがある。
【0019】
減衰関数情報14は、後述する減衰パラメータ15aの異なる値(パラメータ値)と異なる複数の減衰関数とを対応付けている。減衰関数情報14を、減衰関数データベースと言うこともできる。減衰関数情報14は、水位予測モデル16の機械学習の前に予め用意される。減衰関数情報14が示す複数の減衰関数はそれぞれ、経過時間を示す変数を含んでおり、時間の経過に応じた減衰パターンを示す。各減衰関数は、通常、経過時間の増加に応じて単調に減少する比率を示している。
【0020】
一例として、減衰関数情報14が示す複数の減衰関数には、減衰関数14a,14bが含まれる。減衰関数14aは、経過時間を示す変数が指数に用いられた指数関数である。減衰関数14bは、経過時間を示す変数が分母に用いられた分数関数である。減衰関数が、時定数などモデルパラメータ15bに相当する未知数を含むことがある。ただし、異なる減衰関数は、次数が異なるなど減衰曲線の基本的な形が異なるため、時間方向の伸縮によっては同一にならないことがある。例えば、減衰パラメータP(Pは1以上の実数)に対応する減衰関数は、当該減衰関数を経過時間で微分した導関数が、当該減衰関数のP乗に比例するという微分方程式を満たすように規定される。
【0021】
処理部12は、訓練データ13および減衰関数情報14を用いて、機械学習によって水位予測モデル16を生成する。水位予測モデル16は、特定の減衰パターンを仮定して複数の時刻の雨量を実効雨量に変換し、実効雨量を水位に変換する計算モデルである。水位予測モデル16は、実効雨量を算出するための非線形式を含むことがあり、実効雨量から水位を算出するための多項式を含むことがある。
【0022】
実効雨量は、例えば、複数の時刻の雨量の重み付き和(線形和)である。重みとして減衰関数が示す比率を用いてもよい。その場合、減衰関数に従って、複数の時刻の雨量のうち、経過時間が短い新しい時刻の雨量には大きい重みが与えられ、経過時間が長い古い時刻の雨量には小さい重みが与えられることになる。水位予測モデル16は、モデルパラメータ15bを含む。モデルパラメータ15bは、減衰関数を適用するにあたって時間方向の伸縮調整を示す時定数パラメータであることもある。また、モデルパラメータ15bは、実効雨量から水位を算出する多項式の係数パラメータであることもある。水位予測モデル16は、モデルパラメータ15bに相当するパラメータを2個以上含むこともある。
【0023】
水位予測モデル16を生成するにあたり、処理部12は、減衰パラメータ15aおよびモデルパラメータ15bを含むパラメータセット15を定義する。処理部12は、訓練データ13を用いて、パラメータセット15に含まれる各パラメータの値を算出する。
【0024】
例えば、処理部12は、減衰パラメータ15aの最適化とモデルパラメータ15bの最適化の二重ループによって、パラメータセット15の各パラメータの値を決定する。その場合、処理部12は、減衰パラメータ15aの値を1つ選択する。処理部12は、選択した減衰パラメータ15aの値に対応する減衰関数を減衰関数情報14から特定する。処理部12は、特定した減衰関数を組み込んで、減衰パラメータ15aを含まずモデルパラメータ15bを含む水位予測モデル16の雛形を生成する。
【0025】
処理部12は、訓練データ13を用いて、特定した減衰関数のもとでモデルパラメータ15bを最適化する。モデルパラメータ15bの値は、最小自乗法などの回帰分析手法によって算出してもよいし、確率的勾配降下法などの勾配法の探索アルゴリズムによって算出してもよい。処理部12は、特定した減衰関数および最適化されたモデルパラメータ15bの値を組み込んだ水位予測モデル16の予測精度を評価する。処理部12は、予測精度に応じて減衰パラメータ15aの値を変更する。処理部12は、これを反復的に実行することで、減衰パラメータ15aを最適化する。
【0026】
これにより、パラメータセット15の各パラメータの値が算出される。この各パラメータの値は、例えば、水位予測モデル16の予測精度が最大化される値である。処理部12は、減衰関数情報14が示す複数の減衰関数のうち減衰パラメータ15aの値に対応する減衰関数と、モデルパラメータ15bの値とに基づいて、水位予測モデル16を決定する。処理部12は、決定した水位予測モデル16を用いて水位を予測する。例えば、処理部12は、訓練データ13に含まれていない複数の時刻の雨量の計測値を水位予測モデル16に入力して、それら雨量の計測値よりも先の時刻の水位を予測する。
【0027】
第1の実施の形態の情報処理装置10によれば、実効雨量に乗じる係数や減衰関数を時間軸にフィットさせるための時定数などを示すモデルパラメータ15bに加えて、減衰関数の基本形を表す減衰パラメータ15aが、パラメータセット15に追加される。訓練データ13を用いて、パラメータセット15に含まれる減衰パラメータ15aおよびモデルパラメータ15bが最適化される。そして、減衰関数情報14が示す複数の減衰関数のうち減衰パラメータ15aの値に対応する減衰関数と、モデルパラメータ15bの値とを用いて、水位予測モデル16が決定される。決定された水位予測モデル16に、複数の時刻の雨量の計測値を入力することで、水位の予測値が算出される。
【0028】
これにより、過去の雨量が水位に与える影響を、経過時間の観点から適切に評価することができ、実効雨量を適切に算出することができる。よって、雨量の時系列変化から水位を精度よく予測することが可能となる。また、実効雨量を算出するにあたり、ネイピア数の逆数のべき乗といった固定の減衰関数を使用する場合と比べて、減衰関数が現実の水の流れにフィットする可能性が高くなり誤差が小さくなる。よって、水位を予測する場所や雨量を計測する場所に適合した水位予測モデルを生成でき、水位の予測精度が向上する。
【0029】
また、多層ニューラルネットワークなどパラメータが多く自由度の高いモデルを水位予測モデルとして使用することも考えられる。自由度の高いモデルを用いれば、特定の減衰関数を仮定しなくても雨量の影響の減衰が自動的に表現されて、高い予測精度を達成できる可能性がある。しかし、自由度の高いモデルの予測精度を向上させるには、通常、多量の訓練データを用意することになる。この点、特定の河川など特定の場所において、大雨や洪水の発生回数は限られており、様々な水位の計測値を含む多量の訓練データを用意することが困難な場合がある。これに対して、第1の実施の形態の情報処理装置10によれば、少ない訓練データからでも予測精度の高い水位予測モデルを生成できる。
【0030】
[第2の実施の形態]
次に、第2の実施の形態を説明する。
図2は、第2の実施の形態の情報処理システムの例を示す図である。
【0031】
第2の実施の形態の情報処理システムは、水位および雨量の計測値を収集し、収集した水位および雨量の計測値を分析して、雨量から水位を予測する水位予測モデルを生成する。また、第2の実施の形態の情報処理システムは、生成した水位予測モデルを用いて将来の水位を予測する。第2の実施の形態の情報処理システムは、水位計31,32、雨量計33,34、データ収集装置41および水位予測装置100を含む。
【0032】
水位計31は、河川30の場所W1に設置されており、場所W1における河川水位を計測する。水位計32は、河川30の場所W2に設置されており、場所W2における河川水位を計測する。水位計31,32は、例えば、10分間隔で各時刻における水位を計測する。なお、第2の実施の形態では水位として河川水位を計測しているが、地下水位を計測してもよい。河川水位は、川底などの基準面から河川水面までの高さである。地下水位は、海水面などの基準面から地下水面までの高さである。河川水面が地表の上側に存在するのに対し、地下水面は地表の下側に存在する。
【0033】
雨量計33は、場所R1に設置されており、場所R1における雨量を計測する。雨量計34は、場所R2に設置されており、場所R2における雨量を計測する。雨量計33,34は、例えば、10分間隔で10分間の累積雨量を計測する。水位計31によって計測される水位と雨量計33によって計測される雨量とは関連している。場所W1と場所R1は、同一であるか、水の伝播の遅延を無視できる程度に十分近い。また、水位計32によって計測される水位と雨量計34によって計測される雨量とは関連している。ただし、場所W2と場所R2は、水の伝播の遅延を無視できない程度に離れている。
【0034】
データ収集装置41および水位予測装置100は、ネットワーク40に接続されている。ネットワーク40は、例えば、インターネットなどの広域データ通信ネットワークである。水位予測装置100は、第1の実施の形態の情報処理装置10に対応する。
【0035】
データ収集装置41は、水位および雨量の計測値を収集するサーバコンピュータである。データ収集装置41は、水位計31,32から、無線通信または有線通信によって水位の計測値を収集する。また、データ収集装置41は、雨量計33,34から、無線通信または有線通信によって雨量の計測値を収集する。データ収集装置41は、ネットワーク40を介して水位予測装置100に、収集した水位および雨量の計測値を提供する。
【0036】
水位予測装置100は、水位予測モデルを生成し、生成した水位予測モデルを用いて将来の水位を予測するコンピュータである。水位予測装置100は、クライアント装置でもよいしサーバ装置でもよい。水位予測装置100を、機械学習装置、分析装置、情報処理装置などと言うこともできる。水位予測装置100は、ネットワーク40を介してデータ収集装置41から、水位及び雨量の計測値を受信する。水位予測装置100は、機械学習によって、雨量の時系列変化から水位を予測する水位予測モデルを生成する。また、水位予測装置100は、図示しない気象予報サーバから、場所R1,R2を含むエリアの雨量の予報値を受信する。水位予測装置100は、最近の雨量の計測値および予報値を水位予測モデルに入力することで、今後の場所W1,W2の水位を予測する。
【0037】
図3は、水位予測装置のハードウェア例を示すブロック図である。
水位予測装置100は、CPU101、RAM102、HDD103、画像インタフェース104、入力インタフェース105、媒体リーダ106および通信インタフェース107を有する。水位予測装置100が有するこれらのユニットは、バスに接続されている。CPU101は、第1の実施の形態の処理部12に対応する。RAM102またはHDD103は、第1の実施の形態の記憶部11に対応する。データ収集装置41も、水位予測装置100と同様のハードウェアを用いて実装することができる。
【0038】
CPU101は、プログラムの命令を実行するプロセッサである。CPU101は、HDD103に記憶されたプログラムやデータの少なくとも一部をRAM102にロードし、プログラムを実行する。CPU101は複数のプロセッサコアを備えてもよく、水位予測装置100は複数のプロセッサを備えてもよい。複数のプロセッサの集合を「マルチプロセッサ」または単に「プロセッサ」と言うことがある。
【0039】
RAM102は、CPU101が実行するプログラムやCPU101が演算に使用するデータを一時的に記憶する揮発性半導体メモリである。水位予測装置100は、RAM以外の種類のメモリを備えてもよく、複数のメモリを備えてもよい。
【0040】
HDD103は、OS(Operating System)やミドルウェアやアプリケーションソフトウェアなどのソフトウェアのプログラム、および、データを記憶する不揮発性ストレージである。水位予測装置100は、フラッシュメモリやSSD(Solid State Drive)など他の種類のストレージを備えてもよく、複数のストレージを備えてもよい。
【0041】
画像インタフェース104は、CPU101からの命令に従って、水位予測装置100に接続された表示装置111に画像を出力する。表示装置111として、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)、有機EL(OEL:Organic Electro-Luminescence)ディスプレイ、プロジェクタなど、任意の種類の表示装置を使用することができる。水位予測装置100に、プリンタなど表示装置111以外の出力デバイスが接続されてもよい。
【0042】
入力インタフェース105は、水位予測装置100に接続された入力デバイス112から入力信号を受け付ける。入力デバイス112として、マウス、タッチパネル、タッチパッド、キーボードなど、任意の種類の入力デバイスを使用することができる。水位予測装置100に複数種類の入力デバイスが接続されてもよい。
【0043】
媒体リーダ106は、記録媒体113に記録されたプログラムやデータを読み取る読み取り装置である。記録媒体113として、フレキシブルディスク(FD:Flexible Disk)やHDDなどの磁気ディスク、CD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)などの光ディスク、半導体メモリなど、任意の種類の記録媒体を使用することができる。媒体リーダ106は、例えば、記録媒体113から読み取ったプログラムやデータを、RAM102やHDD103などの他の記録媒体にコピーする。読み取られたプログラムは、例えば、CPU101によって実行される。なお、記録媒体113は可搬型記録媒体であってもよく、プログラムやデータの配布に用いられることがある。また、記録媒体113やHDD103を、コンピュータ読み取り可能な記録媒体と言うことがある。
【0044】
通信インタフェース107は、ネットワーク40に接続され、ネットワーク40を介してデータ収集装置41などと通信する。通信インタフェース107は、スイッチやルータなどの有線通信装置に接続される有線通信インタフェースでもよいし、基地局やアクセスポイントなどの無線通信装置に接続される無線通信インタフェースでもよい。
【0045】
次に、水位予測モデルについて説明する。
第2の実施の形態の水位予測モデルは、数式(1)に示すように、時刻tにおける実効雨量R(t)から時刻tにおける水位Y(t)を算出する多項式モデルである。この多項式モデルは、実効雨量R(t)に乗ずる係数であるパラメータαと、定数であるパラメータαとを含む。パラメータα,αの値は、機械学習によって決定される。実効雨量R(t)は、時刻t以前の所定期間(例えば、数週間)の雨量の重み付き和である。これは、水位Y(t)は直前の雨量だけでなく更に前の雨量の影響を受けるものの、その影響は時間の経過に伴って減衰すると考えるためである。
【0046】
【数1】
【0047】
具体的には、実効雨量R(t)は数式(2)のように算出される。数式(2)において、rは雨量実効値を表し、xは雨量計測値を表し、φは減衰関数を表す。rは時刻tにおける雨量実効値であり、rt-kは時刻tからk個前の雨量実効値である。雨量の計測間隔が10分である場合、rt-kは時刻tよりk×10分前の雨量実効値である。実効雨量R(t)は、時刻t以前のn+1個の雨量実効値の和であり、雨量の計測間隔が10分である場合、直近の(n+1)×10分間の雨量実効値の和になる。
【0048】
【数2】
【0049】
雨量実効値rt-kは、雨量計測値x(t-k)に、減衰関数φが示す実効比率を乗じたものである。雨量計測値x(t-k)は、時刻tからk個前の雨量の計測値であり、計測間隔が10分である場合、時刻tよりk×10分前の計測値である。なお、雨量計測値x(t-k)が計測された時刻を、時刻t-kと言うこともできる。減衰関数φは、kを入力すると実効比率を出力する関数であり、kの増大に応じて実効比率が単調に減少する減衰曲線を示している。実効比率は、雨量計測値x(t-k)が実効雨量R(t)に与える影響の強さを示す重みであり、k=0のときの実効比率は1である。
【0050】
減衰関数φは、パラメータλとパラメータPを含む。パラメータλは、減衰曲線を時間方向に伸縮するための時定数である。kがパラメータλと一致するとき、実効比率が所定比率に等しくなる。パラメータPは、減衰関数φの基本的形状を決定するための減衰パラメータである。パラメータλ,Pの値は、機械学習によって決定される。後述するように、実効比率は、k/λとPを引数としてもつ関数の出力とみなすことができ、雨量実効値rは、k/λとPを引数としてもつ関数の出力とみなすことができる。
【0051】
なお、時刻tにおける水位Y(t)を予測しようとするときに、時刻tの雨量計測値やその直前の雨量計測値がまだ計測されておらず存在しない場合がある。その場合、存在しない雨量計測値の代わりに雨量予報値を使用してもよい。また、時刻tの雨量計測値およびその直前所定個の雨量計測値を、説明変数から除外して、時刻tの水位Y(t)を予測する水位予測モデルを生成するようにしてもよい。
【0052】
また、上記の数式(1)が示す水位予測モデルは、1つの雨量計の計測値から1箇所の水位を予測するものである。これに対して、2以上の雨量計の計測値から1箇所の水位を予測する水位予測モデルを生成することもできる。例えば、2以上の雨量計に対応する2以上の実効雨量の線形和を示す多項式を、水位予測モデルとすることが考えられる。その場合、水位予測モデルに含まれる係数パラメータが増える。また、例えば、2以上の雨量計の計測値を重み付けして、単一の実効雨量を算出することが考えられる。
【0053】
また、上記の数式(2)が示す実効雨量R(t)は、k=0のときの実効比率が1である減衰関数φをそのまま使用しており、水の伝播の遅延を無視することができる場合を想定している。よって、数式(2)の実効雨量R(t)は、雨量計33の計測値から場所W1の水位(水位計31の水位)を予測する場合に好適である。これに対して、雨量計34の計測値から場所W2の水位(水位計32の水位)を予測する場合など、水の伝播の遅延を無視しない場合には、数式(3)の実効雨量R(t)が好適である。
【0054】
【数3】
【0055】
数式(3)は、パラメータDを含む点で数式(2)と異なる。パラメータDは、雨量計測値が実効雨量に影響を与え始めるまでの遅延時間を表す遅延パラメータである。パラメータDの値は、機械学習によって決定される。数式(3)では、数式(2)のkがk-Dに置き換えられている。kがDより小さい間は実効比率が0であり、時刻t-Dより後の雨量計測値は実効雨量R(t)の算出に使用されない。この実効比率は、(k-D)/λとPを引数としてもつ関数の出力とみなすことができ、雨量実効値rは、(k-D)/λとPを引数としてもつ関数の出力とみなすことができる。
【0056】
ここで、減衰関数φを簡易的に、ネイピア数の逆数のべき乗など所定の減衰関数に固定することも考えられる。しかし、水位を予測しようとする場所によっては、固定の減衰関数φが現実の水の流れに上手くフィットせず、パラメータλ,Dを調整しても、適切な実効雨量R(t)を算出することが難しいことがある。その結果、水位Y(t)の予測精度の向上に限界があり、予測精度が低くなってしまうことがある。
【0057】
そこで、第2の実施の形態では、上記のパラメータPをパラメータセットに加えて機械学習を行うことで、減衰関数φが示す減衰曲線の基本的形状を調整可能にする。具体的には、パラメータPに対応する減衰関数φが数式(4)の微分方程式を満たすようにする。ここでは、減衰関数φは、経過時間を示す変数τの連続関数であり、変数τに対して実効比率が単調に減少する減衰曲線を表しているものとする。φ(0)=1である。
【0058】
【数4】
【0059】
数式(4)の微分方程式は、減衰関数φを変数τで微分した導関数が、減衰関数φのP乗に比例することを規定している。パラメータPの値を変更することで異なる減衰関数φが得られる。あるパラメータPの値についての数式(4)の解が、当該パラメータPの値に対応付けられる減衰関数φとなる。
【0060】
数式(4)の微分方程式を解くと、数式(5)のようになる。パラメータPの値が1以上の場合に減衰関数φが定義される。パラメータPの値が1未満の場合、数式(4)の解となる減衰関数φは存在しない。パラメータPの値が1である場合、減衰関数φは、引数τ/λを指数に含む指数関数である。パラメータPの値が1より大きい場合、減衰関数φは、引数τ/λを分母に含む関数である。
【0061】
【数5】
【0062】
数式(5)に規定される減衰関数φは何れも、変数τに対して単調減少かつ下に凸の減衰曲線を表している。ただし、パラメータPの値が異なる減衰関数φは、変数τの次数などが異なる関数であり、凸の程度が本質的に異なるものである。よって、時定数を表すパラメータλを調整しても、パラメータPの値が異なる減衰曲線は同一にならない。
【0063】
上記の数式(2)の実効雨量R(t)を算出する場合、数式(5)の変数τにkを代入して使用することになる。これにより、数式(6)が得られる。数式(1)と数式(2)と数式(6)とを組み合わせたものが、水位予測モデルとなる。この水位予測モデルのパラメータセットは、パラメータα,α,λ,Pである。このパラメータα,α,λ,Pの値が、機械学習によって決定される。
【0064】
【数6】
【0065】
また、上記の数式(3)の実効雨量R(t)を算出する場合、数式(5)の変数τにk-Dを代入して使用することになる。これにより、数式(7)が得られる。数式(1)と数式(3)と数式(7)とを組み合わせたものが、水位予測モデルとなる。この水位予測モデルのパラメータセットは、パラメータα,α,λ,D,Pである。このパラメータα,α,λ,D,Pの値が、機械学習によって決定される。
【0066】
【数7】
【0067】
一例として、λ=2かつP=1の場合の減衰関数φは、数式(8)のようになる。これは、底がネイピア数eであり指数が-τ/2である指数関数である。また、λ=2かつP=2の場合の減衰関数φは、数式(9)のようになる。これは、分母が1+τ/2の分数関数である。また、λ=2かつP=3の場合の減衰関数φは、数式(10)のようになる。これは、分母が1+τの平方根である関数である。
【0068】
【数8】
【0069】
【数9】
【0070】
【数10】
【0071】
図4は、減衰関数の例を示すグラフである。
グラフ50は、横軸が経過時間を表し縦軸が実効比率を表すグラフである。横軸は変数τに相当する。変数τの値は、雨量計測値の個数に相当する。雨量の計測間隔が10分である場合、τ=0,1,2,3,…は、0分,10分,20分,30分,…を表す。
【0072】
曲線51は、上記の数式(8)の減衰関数φによって規定される減衰曲線である。曲線52は、上記の数式(9)の減衰関数φによって規定される減衰曲線である。曲線53は、上記の数式(10)の減衰関数φによって規定される減衰曲線である。曲線51,52,53は何れも、(0,1)を通り単調減少かつ下に凸の曲線である。ただし、曲線51よりも曲線52の方が減衰が緩やかであり、曲線52よりも曲線53の方が更に減衰が緩やかである。パラメータPは微分方程式の指数であることから、パラメータPの値が大きいほど実効比率の減衰が緩やかになる。なお、ここではパラメータPの値を整数にしているが、パラメータPの値を整数でない実数としてもよい。
【0073】
次に、水位予測装置100の機能について説明する。
図5は、水位予測装置の機能例を示すブロック図である。
水位予測装置100は、計測データ記憶部121、予報データ記憶部122、減衰関数記憶部123および水位予測モデル記憶部124を有する。これらの記憶部は、例えば、RAM102またはHDD103の記憶領域を用いて実現される。また、水位予測装置100は、モデル生成部125および水位予測部126を有する。これらの処理部は、例えば、CPU101が実行するプログラムを用いて実現される。
【0074】
計測データ記憶部121は、データ収集装置41によって収集された水位計31,32の水位計測値を記憶する。また、計測データ記憶部121は、データ収集装置41によって収集された雨量計33,34の雨量計測値を記憶する。予報データ記憶部122は、雨量計33,34が存在するエリアの雨量予報値を記憶する。雨量予報値は、例えば、気象情報を提供している気象予報サーバから入手する。
【0075】
減衰関数記憶部123は、パラメータPの値と減衰関数φとを対応付けた減衰関数情報を記憶する。減衰関数情報は、前述の数式(5)に従って予め作成されている。水位予測モデル記憶部124は、機械学習によって生成された水位予測モデルを記憶する。水位予測モデルは、何れかの減衰関数φが組み込まれており、かつ、パラメータα,α,λ(または、パラメータα,α,λ,D)の値を含む数式モデルである。
【0076】
モデル生成部125は、水位を予測する場所に相当する1つの水位計と、水位予測に使用する雨量を計測する1以上の雨量計とを選択する。対象の水位計および雨量計は、ユーザから指定されてもよい。また、モデル生成部125は、水位を予測する場所がユーザから指定されると、水位と関連のある雨量が計測される1以上の雨量計を、各雨量計の場所やその周辺の地形に基づいて自動的に判定するようにしてもよい。例えば、モデル生成部125は、水位計31と雨量計33のペアを選択する。また、例えば、モデル生成部125は、水位計32と雨量計34のペアを選択する。
【0077】
モデル生成部125は、計測データ記憶部121から、選択した雨量計の計測値および選択した水位計の計測値を抽出し、訓練データを組み立てる。また、モデル生成部125は、未知数の集合であるパラメータセットを定義する。パラメータセットは、パラメータα,α,λ,Pまたはパラメータα,α,λ,D,Pである。遅延を示すパラメータDを考慮するか否かは、ユーザから指定されてもよいし、選択した雨量計と水位計との間の距離に応じてモデル生成部125が決定してもよい。例えば、距離が閾値を超える場合にパラメータDを考慮し、距離が閾値以下の場合にパラメータDを考慮しない。
【0078】
モデル生成部125は、生成した訓練データと減衰関数記憶部123に記憶された減衰関数情報とに基づいて、パラメータセットに含まれる各パラメータを最適化する。最適化では、水位予測モデルの予測精度が高くなるように各パラメータの値が調整される。水位予測モデルの予測精度は、ある雨量計測値を水位予測モデルに入力したときの水位予測値と実際の水位計測値との間の誤差によって評価される。予測精度の指標として、例えば、複数のテスト用レコードに対する誤差の二乗平均平方根が使用される。
【0079】
パラメータセットの最適化は、二重ループによって行われる。外側ループでは、パラメータPが最適化される。内側ループでは、パラメータセットのうちパラメータP以外のパラメータが最適化される。モデル生成部125は、あるパラメータPの値を選択し、減衰関数情報から当該パラメータPの値に対応する減衰関数φを選択する。モデル生成部125は、選択した減衰関数φを水位予測モデルに組み込み、訓練データを用いて、予測精度が高くなるようにパラメータP以外のパラメータの値を調整する。モデル生成部125は、パラメータP以外のパラメータを最適化した後の誤差に基づいて、パラメータPの値を調整する。これを繰り返すことで、パラメータセットが最適化される。
【0080】
パラメータセットが最適化されると、モデル生成部125は、パラメータPの値に対応する減衰関数φが組み込まれており、かつ、パラメータα,α,λ(または、パラメータα,α,λ,D)の値を含む水位予測モデルを生成する。モデル生成部125は、生成した水位予測モデルを水位予測モデル記憶部124に格納する。
【0081】
水位予測部126は、水位予測モデル記憶部124に記憶された水位予測モデルを用いて将来の水位を予測する。何れの時刻の水位を予測するかは、例えば、ユーザから指定される。水位予測部126は、予測対象の時刻以前の所定期間の雨量計測値を計測データ記憶部121から抽出する。また、水位予測部126は、まだ雨量計測値が存在しない時刻に対応する雨量予報値を予報データ記憶部122から抽出する。水位予測部126は、抽出した雨量計測値および雨量予報値を列挙した雨量ベクトルを水位予測モデルに入力し、水位予測モデルから水位予測値を読み出す。
【0082】
水位予測部126は、取得した水位予測値を出力する。例えば、水位予測部126は、水位予測値を表示装置111に表示する。また、例えば、水位予測部126は、水位予測値をHDD103などのストレージに保存する。また、例えば、水位予測部126は、水位予測値をプリンタなどの他の出力デバイスに出力する。また、例えば、水位予測部126は、水位予測値を他の情報処理装置に送信する。
【0083】
図6は、水位テーブルおよび雨量テーブルの例を示す図である。
計測データ記憶部121は、水位テーブル131を記憶する。水位テーブル131は、それぞれ場所、時刻および水位の項目を含む複数のレコードを記憶する。場所として、水位計を識別する識別子が登録される。時刻として、水位が計測された計測時刻が登録される。水位として、水位系の計測値が登録される。
【0084】
また、計測データ記憶部121は、雨量テーブル132を記憶する。雨量テーブル132は、それぞれ場所、時刻および雨量の項目を含む複数のレコードを記憶する。場所として、雨量計を識別する識別子が登録される。時刻として、雨量が計測された計測時刻が登録される。雨量として、雨量系の計測値が登録される。
【0085】
水位テーブル131および雨量テーブル132から、水位予測モデルの機械学習に用いる訓練データを生成することができる。訓練データは複数のレコードを含む。訓練データの各レコードは、所定個の雨量計測値を列挙した雨量ベクトルを説明変数として含み、1つの水位計測値を目的変数(教師ラベル)として含む。列挙される雨量計測値は、水位計測値の計測時刻以前の所定期間に計測されたものである。
【0086】
例えば、モデル生成部125は、水位テーブル131から水位計測値を1つ抽出する。モデル生成部125は、抽出した水位計測値の計測時刻以前の所定期間に計測されたn+1個の雨量計測値を雨量テーブル132から抽出する。モデル生成部125は、抽出したn+1個の雨量計測値と抽出した水位計測値とを対応付けたレコードを訓練データに追加する。これを、水位テーブル131に含まれる各水位計測値に対して行う。
【0087】
図7は、減衰関数テーブルの例を示す図である。
減衰関数記憶部123は、減衰関数テーブル133を記憶する。減衰関数テーブル133は、それぞれパラメータおよび減衰関数の項目を含む複数のレコードを記憶する。パラメータとして、パラメータPの値が登録される。パラメータPの値は、1以上の実数である。減衰関数として、減衰関数φを示す式が登録される。減衰関数φは、経過時間を表す変数τと時定数を表すパラメータλとを含む。遅延を表すパラメータDを考慮する場合、減衰関数φを使用する際にτをk-Dに置換すればよい。
【0088】
次に、水位予測装置100の処理手順について説明する。
図8は、水位予測モデル生成の手順例を示すフローチャートである。
(S10)水位予測装置100は、水位計31,32の計測値を含む水位データと、雨量計33,34の計測値を含む雨量データとを収集する。
【0089】
(S11)モデル生成部125は、水位の計測場所と雨量の計測場所とを選択する。
(S12)モデル生成部125は、ステップS10で収集された水位データから、選択した水位計測場所の計測値を抽出する。また、モデル生成部125は、ステップS10で収集された雨量データから、選択した雨量計測場所の計測値を抽出する。モデル生成部125は、ある時刻の水位計測値とその直近一定期間のn+1個の雨量計測値とを対応付けた複数のレコードを含む訓練データを生成する。
【0090】
(S13)モデル生成部125は、パラメータセット{α,α,λ,D,P}を定義する。なお、以下ではパラメータセットがパラメータDを含むものとして説明するが、パラメータセットがパラメータDを含まない場合もある。モデル生成部125は、パラメータPをPに初期化する。Pは、例えば、0または1である。また、モデル生成部125は、最小誤差Eminを定義し、Emin=∞(十分に大きな値)に初期化する。
【0091】
(S14)モデル生成部125は、減衰関数テーブル133から、現在のパラメータPの値に対応する減衰関数φを検索する。
(S15)モデル生成部125は、ステップS14の検索結果が減衰関数φ=nullであるか、すなわち、パラメータPの値に対応する減衰関数φが存在しないか判断する。φ=nullの場合はステップS20に進み、それ以外の場合はステップS16に進む。
【0092】
(S16)モデル生成部125は、ステップS14で検索された減衰関数φを組み込むことで、パラメータα,α,λ,Dを含む水位予測モデルの雛形を生成する。
(S17)モデル生成部125は、ステップS12で生成された訓練データを用いて、パラメータα,α,λ,Dを最適化する。例えば、モデル生成部125は、回帰分析によって誤差が最小化されるようなパラメータα,α,λ,Dの値を求める。また、例えば、モデル生成部125は、確率的勾配降下法などの勾配法によってパラメータα,α,λ,Dの値を反復的に更新する。モデル生成部125は、最適化後の水位予測モデルの予測精度の指標として誤差Eを算出する。
【0093】
勾配法では、モデル生成部125は、パラメータα,α,λ,Dの初期値を設定する。モデル生成部125は、訓練データの中の1つまたは少数のレコードの雨量計測値を水位予測モデルに入力し、水位予測モデルが出力する水位予測値と当該レコードの水位計測値とを比較して誤差を算出する。モデル生成部125は、パラメータα,α,λ,Dの値をそれぞれ微少量だけ変化させて、誤差の勾配を算出する。モデル生成部125は、誤差の勾配に所定の学習率を乗じた分だけパラメータα,α,λ,Dの値を動かす。モデル生成部125は、これを所定回数または誤差が収束するまで繰り返す。
【0094】
(S18)モデル生成部125は、ステップS17で算出された誤差Eが現在の最小誤差Eminより小さいか判断する。誤差Eが最小誤差Eminより小さい場合はステップS19に進み、誤差Eが最小誤差Emin以上である場合はステップS21に進む。
【0095】
(S19)モデル生成部125は、最小誤差Eminを誤差Eに置き換える。
(S20)モデル生成部125は、パラメータPの値を所定量ΔPだけ増加させる。ΔPは、例えば、0.2~0.5の範囲で予め決めておく。そして、ステップS14に戻る。なお、第2の実施の形態では、パラメータPの値を大きくするにつれて減衰関数φの曲線が徐々に緩やかになる。よって、パラメータPに対して誤差Eは単一の極小点をもつ。パラメータPの値の増加に対して、最初は誤差Eが減少していき、あるパラメータPの値を超えると、誤差Eが増加に転じることになる。これは、パラメータPの値を大きくしていく途中で、現実の水の流れに最もフィットする減衰関数φが現れることを意味する。
【0096】
(S21)モデル生成部125は、最小誤差Eminが達成されたパラメータα,α,λ,D,Pの値を特定する。モデル生成部125は、パラメータPの値に対応する減衰関数φを組み込み、パラメータα,α,λ,Dの値を含む水位予測モデルを生成し、生成した水位予測モデルを水位予測モデル記憶部124に出力する。
【0097】
図9は、水位予測例を示すグラフである。
グラフ60は、横軸が時刻を表し縦軸が水位を表すグラフである。曲線61は、ある河川で計測された水位の計測値を示している。曲線62は、減衰関数をネイピア数の逆数のべき乗に固定した水位予測モデルを用いて算出した水位の予測値を示している。曲線63は、第2の実施の形態の水位予測モデルを用いて算出した水位の予測値を示している。
【0098】
曲線62が示す予測値は、曲線61が示す計測値から大きく乖離している。これは、水位を予測しようとした場所では、過去の雨量の影響の減衰が指数関数よりも緩やかであり、予め固定した減衰関数では当該減衰の態様を上手く説明できないためである。これに対して、曲線63が示す予測値は、曲線61が示す計測値と十分に近似している。これは、水位を予測しようとした場所に合わせてパラメータPの値が調整されて、指数関数よりも緩やかな減衰関数が使用されているためである。このように、減衰関数を入れ替え可能にすることで、水位予測モデルの予測精度が改善する。
【0099】
なお、前述の数式(2)および数式(3)では単一の時定数(パラメータλ)を用いているが、異なる時定数を含む項の線形和として実効雨量を定義するなど、異なる複数の時定数を用いることも可能である。例えば、時定数を示すパラメータλを含む長期実効雨量R(t)と、λより小さい時定数を示すパラメータλを含む短期実効雨量R(t)との線形和を、実効雨量R(t)としてもよい。この場合、R(t)=qR(t)+(1-q)R(t)である。ただし、qは0以上1以下の実数をとる重みである。
【0100】
長期実効雨量R(t)および短期実効雨量R(t)それぞれの形は、数式(2)または数式(3)と同様である。ただし、長期実効雨量R(t)と短期実効雨量R(t)とでは、パラメータλ,D,Pの値が異なることになる。よって、上記の実効雨量R(t)を決定するためのパラメータセットは、{q,α,α,λ,λ,P,P}または{q,α,α,λ,λ,D,D,P,P}となる。
【0101】
第2の実施の形態の情報処理システムによれば、過去の雨量が水位に与える影響を、経過時間の関数として適切に定義することができ、実効雨量を適切に算出できる。よって、雨量の時系列変化から水位を精度よく予測することが可能となる。また、実効雨量を算出するにあたり、固定の減衰関数を使用する場合と比べて、減衰関数が現実の水の流れにフィットする可能性が高くなり誤差が小さくなる。よって、水位を予測する場所や雨量を計測する場所に適合した水位予測モデルを生成でき、水位の予測精度が向上する。
【0102】
また、水位予測モデルに使用する減衰関数の候補は、水の流れの特性上、経過時間に対して単調に減少しかつ下に凸の減衰曲線になるという制約条件を満たすにように用意される。よって、多層ニューラルネットワークなど、このような制約条件を仮定しない自由度の高いモデルを水位予測モデルとして使用する場合と比べて、少ない訓練データからでも予測精度の高い水位予測モデルを生成することができる。これにより、中小河川など水位および雨量の計測値の蓄積が少ない河川でも、精度の高い水位予測が可能となる。
【符号の説明】
【0103】
10 情報処理装置
11 記憶部
12 処理部
13 訓練データ
14 減衰関数情報
14a,14b 減衰関数
15 パラメータセット
15a 減衰パラメータ
15b モデルパラメータ
16 水位予測モデル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9