(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】部分構造試験方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/30 20060101AFI20231213BHJP
G01N 3/04 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
G01N3/30 N
G01N3/04 P
(21)【出願番号】P 2020051742
(22)【出願日】2020-03-23
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 祐衣
(72)【発明者】
【氏名】浅間 洋海
(72)【発明者】
【氏名】島 哲也
(72)【発明者】
【氏名】安福 大輔
(72)【発明者】
【氏名】吉田 博司
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0350791(US,A1)
【文献】国際公開第2011/016499(WO,A1)
【文献】特開2018-194446(JP,A)
【文献】特開2018-194445(JP,A)
【文献】特開2011-108184(JP,A)
【文献】特開2016-090573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/30
G01N 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
部分構造試験方法であって、
フィジカル部分構造部材を準備するフィジカル部分構造部材準備工程と、
前記フィジカル部分構造部材を支持するフィジカル試験準備工程と、
前記フィジカル部分構造部材に荷重を作用させる載荷工程と、
前記載荷工程の後に、前記フィジカル部分構造部材の変位量を含むフィジカル部分構造物理量を測定する測定工程と、を含み、
前記フィジカル試験準備工程は、前記フィジカル部分構造部材の端部を支持する端部支持治具及び前記端部を除く前記フィジカル部分構造部材の中間部を支持する中間部支持治具を備える支持治具構造によって、前記フィジカル部分構造部材を支持する支持工程を含
み、
前記フィジカル部分構造部材準備工程は、
サイドシル及び前記サイドシルの長手方向に対して略垂直に接合されたフロアクロスを含むフルカー構造モデルに対して、所定位置に荷重を作用させて、前記サイドシル及び前記フロアクロスに作用するフルカー物理量を出力するフルカーシミュレーション工程と、
前記フルカー構造モデルから、前記サイドシル及び前記フロアクロスを含む部分を境界で切り出して、バーチャル切り出しモデルを作成するバーチャル切り出しモデル作成工程と、
前記バーチャル切り出しモデルにおける前記境界に回転軸の位置を含む境界条件を設定して、バーチャル部分構造モデルを設定するバーチャル部分構造モデル設定工程と、
前記境界条件に対応するように、前記バーチャル部分構造モデルの端部を支持する端部支持治具及び前記端部を除く前記バーチャル部分構造モデルの中間部を支持する中間部支持治具を含む前記支持治具構造を設計する支持治具設計工程と、
前記バーチャル部分構造モデルのサイズに対応するサイズの前記フィジカル部分構造部材を準備する準備工程と、を含み、
前記フルカー物理量は、前記サイドシルの長手方向に垂直な断面に作用するサイドシル物理量の前記サイドシルの長手方向に沿う分布であるサイドシル物理量分布と、前記フロアクロスの長手方向に垂直な断面に作用するフロアクロス物理量の前記フロアクロスの長手方向に沿う分布であるフロアクロス物理量分布と、前記サイドシルの変位量と、を含み、
前記バーチャル切り出しモデル作成工程において、前記サイドシル物理量分布における前記サイドシル物理量の勾配が閾値より小さくなる箇所を前記境界とする範囲内のサイズで切り出して、前記バーチャル切り出しモデルを作成する
ことを特徴とする部分構造試験方法。
【請求項2】
部分構造試験方法であって、
フィジカル部分構造部材を準備するフィジカル部分構造部材準備工程と、
前記フィジカル部分構造部材を支持するフィジカル試験準備工程と、
前記フィジカル部分構造部材に荷重を作用させる載荷工程と、
前記載荷工程の後に、前記フィジカル部分構造部材の変位量を含むフィジカル部分構造物理量を測定する測定工程と、を含み、
前記フィジカル試験準備工程は、前記フィジカル部分構造部材の端部を支持する端部支持治具及び前記端部を除く前記フィジカル部分構造部材の中間部を支持する中間部支持治具を備える支持治具構造によって、前記フィジカル部分構造部材を支持する支持工程を含み、
前記フィジカル部分構造部材準備工程は、
サイドシル及び前記サイドシルの長手方向に対して略垂直に接合されたフロアクロスを含むフルカー構造モデルに対して、所定位置に荷重を作用させて、前記サイドシル及び前記フロアクロスに作用するフルカー物理量を出力するフルカーシミュレーション工程と、
前記フルカー構造モデルから、前記サイドシル及び前記フロアクロスを含む部分を境界で切り出して、バーチャル切り出しモデルを作成するバーチャル切り出しモデル作成工程と、
前記バーチャル切り出しモデルにおける前記境界に回転軸の位置を含む境界条件を設定して、バーチャル部分構造モデルを設定するバーチャル部分構造モデル設定工程と、
前記境界条件に対応するように、前記バーチャル部分構造モデルの端部を支持する端部支持治具及び前記端部を除く前記バーチャル部分構造モデルの中間部を支持する中間部支持治具を含む前記支持治具構造を設計する支持治具設計工程と、
前記バーチャル部分構造モデルのサイズに対応するサイズの前記フィジカル部分構造部材を準備する準備工程と、を含み、
前記フルカー物理量は、前記サイドシルの長手方向に垂直な断面に作用するサイドシル物理量の前記サイドシルの長手方向に沿う分布であるサイドシル物理量分布と、前記フロアクロスの長手方向に垂直な断面に作用するフロアクロス物理量の前記フロアクロスの長手方向に沿う分布であるフロアクロス物理量分布と、前記サイドシルの変位量と、を含み、
前記バーチャル切り出しモデル作成工程において、前記フロアクロス物理量分布における前記フロアクロス物理量の絶対量が閾値より小さくなる箇所を前記境界とする範囲内のサイズで切り出して、前記バーチャル切り出しモデルを作成する
ことを特徴とする部分構造試験方法。
【請求項3】
前記サイドシル物理量は、せん断力、軸力及びモーメントを含む
ことを特徴とする請求項
1又は請求項2に記載の部分構造試験方法。
【請求項4】
前記フロアクロス物理量は、軸力を含む
ことを特徴とする請求項
1から請求項3のいずれか1項に記載の部分構造試験方法。
【請求項5】
前記バーチャル部分構造モデル設定工程は、前記バーチャル切り出しモデルにおける前記境界に回転軸の位置を含む仮境界条件を設定して、バーチャル仮部分構造モデルを作成するバーチャル仮部分構造モデル作成工程と、
前記バーチャル仮部分構造モデルに対して、前記所定位置に対応する位置に前記荷重を作用させて、前記フルカー物理量に対応するバーチャル仮部分構造物理量を出力する仮部分構造シミュレーション工程と、
前記フルカー物理量と、前記バーチャル仮部分構造物理量との第1差分を計算する第1差分計算工程と、
前記第1差分が所定値以上である場合、前記仮境界条件を変更し、前記バーチャル仮部分構造モデル作成工程と、前記仮部分構造シミュレーション工程と、前記第1差分計算工程とを、前記第1差分が所定値未満になるまで繰り返す仮境界条件調節工程と、
前記第1差分が所定値未満である場合、前記仮境界条件を前記境界条件として設定した前記バーチャル仮部分構造モデルを、前記バーチャル部分構造モデルとして設定するバーチャル部分構造モデル決定工程と、を含む
ことを特徴とする請求項
1から請求項
4のいずれか1項に記載の部分構造試験方法。
【請求項6】
前記支持治具設計工程は、前記回転軸の位置に基づいて仮支持治具構造を設計する仮支持治具構造設計工程と、
前記バーチャル部分構造モデルを前記仮支持治具構造で支持したバーチャル仮支持部分構造モデルを作成するバーチャル仮支持部分構造モデル作成工程と、
前記バーチャル仮支持部分構造モデルに対して、前記所定位置に対応する位置に前記荷重を作用させて、前記フルカー物理量に対応する第2バーチャル仮部分構造物理量を出力する第2仮部分構造シミュレーション工程と、
前記フルカー物理量と、前記第2バーチャル仮部分構造物理量との第2差分を計算する第2差分計算工程と、
前記第2差分が所定値以上である場合、前記仮支持治具構造を変更し、前記仮支持治具構造設計工程と、前記バーチャル仮支持部分構造モデル作成工程と、前記第2仮部分構造シミュレーション工程と、前記第2差分計算工程とを、前記第2差分が所定値未満になるまで繰り返す仮支持治具構造調節工程と、
前記第2差分が所定値未満である場合、前記バーチャル部分構造モデル及び前記仮支持治具構造を、それぞれ、前記フィジカル部分構造部材及び前記支持治具構造の設計モデルとして設定するフィジカル部分構造設計モデル設定工程と、を含む
ことを特徴とする請求項
5に記載の部分構造試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部分構造試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の全体構造の一部を構成する部分構造を設計するため、その部分構造に要求される衝突性能を評価する必要があった。しかしながら、部分構造の衝突性能は、全体構造に影響されるため、部分構造の単体に対して試験を行ったとしても、衝突性能を適切に評価し難い場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記背景技術の問題点に鑑み、部分構造に要求される衝突性能を適切に評価できる部分構造試験方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0006】
(1)本発明の一態様に係る部分構造試験方法は、フィジカル部分構造部材を準備するフィジカル部分構造部材準備工程と、前記フィジカル部分構造部材を支持するフィジカル試験準備工程と、前記フィジカル部分構造部材に荷重を作用させる載荷工程と、前記載荷工程の後に、前記フィジカル部分構造部材の変位量を含むフィジカル部分構造物理量を測定する測定工程と、を含み、前記フィジカル試験準備工程は、前記フィジカル部分構造部材の端部を支持する端部支持治具及び前記端部を除く前記フィジカル部分構造部材の中間部を支持する中間部支持治具を備える支持治具構造によって、前記フィジカル部分構造部材を支持する支持工程を含み、前記フィジカル部分構造部材準備工程は、サイドシル及び前記サイドシルの長手方向に対して略垂直に接合されたフロアクロスを含むフルカー構造モデルに対して、所定位置に荷重を作用させて、前記サイドシル及び前記フロアクロスに作用するフルカー物理量を出力するフルカーシミュレーション工程と、前記フルカー構造モデルから、前記サイドシル及び前記フロアクロスを含む部分を境界で切り出して、バーチャル切り出しモデルを作成するバーチャル切り出しモデル作成工程と、前記バーチャル切り出しモデルにおける前記境界に回転軸の位置を含む境界条件を設定して、バーチャル部分構造モデルを設定するバーチャル部分構造モデル設定工程と、前記境界条件に対応するように、前記バーチャル部分構造モデルの前記端部を支持する端部支持治具及び前記端部を除く前記バーチャル部分構造モデルの中間部を支持する中間部支持治具を含む前記支持治具構造を設計する支持治具設計工程と、前記バーチャル部分構造モデルのサイズに対応するサイズの前記フィジカル部分構造部材を準備する準備工程と、を含み、前記フルカー物理量は、前記サイドシルの長手方向に垂直な断面に作用するサイドシル物理量の前記サイドシルの長手方向に沿う分布であるサイドシル物理量分布と、前記フロアクロスの長手方向に垂直な断面に作用するフロアクロス物理量の前記フロアクロスの長手方向に沿う分布であるフロアクロス物理量分布と、前記サイドシルの変位量と、を含み、前記バーチャル切り出しモデル作成工程において、前記サイドシル物理量分布における前記サイドシル物理量の勾配が閾値より小さくなる箇所を前記境界とする範囲内のサイズで切り出して、前記バーチャル切り出しモデルを作成する。
(2)本発明の一態様に係る部分構造試験方法は、フィジカル部分構造部材を準備するフィジカル部分構造部材準備工程と、前記フィジカル部分構造部材を支持するフィジカル試験準備工程と、前記フィジカル部分構造部材に荷重を作用させる載荷工程と、前記載荷工程の後に、前記フィジカル部分構造部材の変位量を含むフィジカル部分構造物理量を測定する測定工程と、を含み、
前記フィジカル試験準備工程は、前記フィジカル部分構造部材の端部を支持する端部支持治具及び前記端部を除く前記フィジカル部分構造部材の中間部を支持する中間部支持治具を備える支持治具構造によって、前記フィジカル部分構造部材を支持する支持工程を含み、前記フィジカル部分構造部材準備工程は、サイドシル及び前記サイドシルの長手方向に対して略垂直に接合されたフロアクロスを含むフルカー構造モデルに対して、所定位置に荷重を作用させて、前記サイドシル及び前記フロアクロスに作用するフルカー物理量を出力するフルカーシミュレーション工程と、前記フルカー構造モデルから、前記サイドシル及び前記フロアクロスを含む部分を境界で切り出して、バーチャル切り出しモデルを作成するバーチャル切り出しモデル作成工程と、前記バーチャル切り出しモデルにおける前記境界に回転軸の位置を含む境界条件を設定して、バーチャル部分構造モデルを設定するバーチャル部分構造モデル設定工程と、前記境界条件に対応するように、前記バーチャル部分構造モデルの前記端部を支持する端部支持治具及び前記端部を除く前記バーチャル部分構造モデルの中間部を支持する中間部支持治具を含む前記支持治具構造を設計する支持治具設計工程と、前記バーチャル部分構造モデルのサイズに対応するサイズの前記フィジカル部分構造部材を準備する準備工程と、を含み、前記フルカー物理量は、前記サイドシルの長手方向に垂直な断面に作用するサイドシル物理量の前記サイドシルの長手方向に沿う分布であるサイドシル物理量分布と、前記フロアクロスの長手方向に垂直な断面に作用するフロアクロス物理量の前記フロアクロスの長手方向に沿う分布であるフロアクロス物理量分布と、前記サイドシルの変位量と、を含み、前記バーチャル切り出しモデル作成工程において、前記フロアクロス物理量分布における前記フロアクロス物理量の絶対量が閾値より小さくなる箇所を前記境界とする範囲内のサイズで切り出して、前記バーチャル切り出しモデルを作成する。
(3)上記(1)又は(2)において、前記サイドシル物理量は、せん断力、軸力及びモーメントを含んでよい。
(4)上記(1)から(3)のいずれかにおいて、前記フロアクロス物理量は、軸力を含んでよい。
(5)上記(1)から(4)のいずれかにおいて、前記バーチャル部分構造モデル設定工程は、前記バーチャル切り出しモデルにおける前記境界に回転軸の位置を含む仮境界条件を設定して、バーチャル仮部分構造モデルを作成するバーチャル仮部分構造モデル作成工程と、前記バーチャル仮部分構造モデルに対して、前記所定位置に対応する位置に前記荷重を作用させて、前記フルカー物理量に対応するバーチャル仮部分構造物理量を出力する仮部分構造シミュレーション工程と、前記フルカー物理量と、前記バーチャル仮部分構造物理量との第1差分を計算する第1差分計算工程と、前記第1差分が所定値以上である場合、前記仮境界条件を変更し、前記バーチャル仮部分構造モデル作成工程と、前記仮部分構造シミュレーション工程と、前記第1差分計算工程とを、前記第1差分が所定値未満になるまで繰り返す仮境界条件調節工程と、前記第1差分が所定値未満である場合、前記仮境界条件を前記境界条件として設定した前記バーチャル仮部分構造モデルを、前記バーチャル部分構造モデルとして設定するバーチャル部分構造モデル決定工程と、を含んでよい。
(6)上記(5)において、前記支持治具設計工程は、前記回転軸の位置に基づいて仮支持治具構造を設計する仮支持治具構造設計工程と、前記バーチャル部分構造モデルを前記仮支持治具構造で支持したバーチャル仮支持部分構造モデルを作成するバーチャル仮支持部分構造モデル作成工程と、前記バーチャル仮支持部分構造モデルに対して、前記所定位置に対応する位置に前記荷重を作用させて、前記フルカー物理量に対応する第2バーチャル仮部分構造物理量を出力する第2仮部分構造シミュレーション工程と、前記フルカー物理量と、前記第2バーチャル仮部分構造物理量との第2差分を計算する第2差分計算工程と、前記第2差分が所定値以上である場合、前記仮支持治具構造(断面形状、断面の向き又は長さ)を変更し、前記仮支持治具構造設計工程と、前記バーチャル仮支持部分構造モデル作成工程と、前記第2仮部分構造シミュレーション工程と、前記第2差分計算工程とを、前記第2差分が所定値未満になるまで繰り返す仮支持治具構造調節工程と、前記第2差分が所定値未満である場合、前記バーチャル部分構造モデル及び前記仮支持治具構造を、それぞれ、前記フィジカル部分構造部材及び前記支持治具構造の設計モデルとして設定するフィジカル部分構造設計モデル設定工程と、を含んでよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、部分構造に要求される衝突性能を適切に評価できる部分構造試験方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】部分構造試験の状況を説明する斜視図である。
【
図3】部分構造試験の状況を説明する平面図である。
【
図5】フルカー構造モデルを説明する底面図である。
【
図6】バーチャル切り出しモデル及びバーチャル部分構造モデルの説明図である。
【
図7】フルカー構造モデルにおけるサイドシルに作用する荷重及び変位量の説明図である。
【
図8】フルカー構造モデルにおけるフロアクロスに作用する荷重の説明図である。
【
図9】バーチャル部分構造モデル設定工程のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
自動車分野では、地球環境への負荷軽減等の観点から、車両の軽量化が求められている。このため、車両の骨格構造は、高強度化された材料及び薄肉化された板厚に基づいて設計されている。新たに設計された車両に対しては、安全性評価の一環として、衝突の際の影響、すなわち、衝突性能を評価することが求められている。そして、車両の全体構造(フルカー構造)における部分構造(例えば、サイドシル)を評価対象部分として、その部分構造の衝突性能を評価することも求められている。部分構造の衝突性能を評価するため、車両を丸ごと用いた試験(フルカー試験)を実施することも考えられる。しかしながら、車両を丸ごと用いた試験は、その実施に高いコストを要する。そのため、比較的低いコストで実施可能な、試験体として部分構造部材を用いた試験(部分構造試験)を実施することがある。
実際の車両の全体構造における評価対象部分となる部分構造は、その端部のみならず、中間部もフロアクロス、バッテリーボックス等によって支持されている場合がある。この場合、評価対象部分に対応する部分構造部材(試験体)の端部のみを治具で支持した状態で部分構造試験をしても、全体構造における部分構造と全体構造における他の部材との間の境界条件を適切に反映できず、部分構造の衝突性能を適切に評価できない場合がある。
【0010】
例えば、評価対象部分となるサイドシルに対応する試験体の端部のみを治具で支持した状態で、試験体に荷重を作用させて部分構造試験をしたとしても、その試験体は、サイドシルの中間部がフロアクロス、バッテリーボックス等によって支持されている影響を適切に反映できていないので、サイドシルの衝突性能を適切に評価できない場合がある。
【0011】
そこで、本発明に係る部分構造試験方法は、フィジカル部分構造部材を準備するフィジカル部分構造部材準備工程と、フィジカル部分構造部材を支持するフィジカル試験準備工程と、フィジカル部分構造部材に荷重を作用させる載荷工程と、載荷工程の後に、フィジカル部分構造部材の変位量を含むフィジカル部分構造物理量を測定する測定工程と、を含む部分構造試験方法である。ここで、フィジカル試験準備工程は、フィジカル部分構造部材の端部を支持する端部支持治具及び端部を除くフィジカル部分構造部材の中間部を支持する中間部支持治具を備える支持治具構造によって、フィジカル部分構造部材を支持する支持工程を含む。これにより、試験体の端部のみならず中間部も支持した状態で部分構造試験ができるので、全体構造における部分構造と全体構造における他の部材との間の境界条件を適切に反映した試験を実施できる。よって、部分構造に要求される衝突性能を適切に評価できる部分構造試験方法を提供できる。
【0012】
(実施形態)
本発明の実施形態に係る部分構造試験方法を説明する。
なお、以下では、車両の部分構造であるサイドシルの衝突性能を評価するための部分構造試験方法を例に挙げて説明する。
図1は、車両の全体構造Wを説明する底面図である。
図2は、部分構造試験を説明する斜視図である。
図3は、部分構造試験を説明する平面図である。
なお、以下の説明において、フィジカル試験は、物理的な実体のある物体に対して、物理的に荷重をかけて、変位、ひずみ等の物理的な測定結果を得る試験を意味する。これに対して、バーチャル試験とは、物理的な実体のない仮想の物体モデルに対して、仮想の荷重を入力し、仮想の出力結果を得る試験を意味する。
なお、以下の説明において、
図1に示すように、車両の進行方向をX方向、車両の進行方向に対して垂直な水平方向をY方向、X方向に対して垂直な鉛直方向をZ方向という場合がある。
【0013】
図1に示すように、車両の全体構造Wにおいて、評価対象部分となるサイドシルPは、棒状体である。サイドシルPは、例えば、鋼製である。サイドシルPは、例えば、長手方向に垂直な中空断面を有している。サイドシルPは、その長手方向が車両の進行方向となるX方向に沿うようにして、X方向に垂直な水平方向となるY方向における両側に配置されている。すなわち、サイドシルPは、第1サイドシルP1及び第2サイドシルP2を備えている。なお、以下では、第1サイドシルP1を代表としてサイドシルPについて説明する。また、サイドシルPは、長手方向の両方の端部Peを、車両の全体構造Wにおける他の構造部分に支持されている。ここで、評価対象部分となるサイドシルPは、中間部Pmを、フロアクロスB、バッテリーボックス(不図示)等によって支持されている。ここでは、サイドシルPは、中間部Pmを、第1フロアクロスB1及び第2フロアクロスB2によって支持されている。
【0014】
フロアクロスBは、X方向に垂直なY方向に沿うように配置されている。
第1フロアクロスB1及び第2フロアクロスB2は、両端部を、サイドシルPの中間部Pmに支持されている。第1フロアクロスB1及び第2フロアクロスB2は、互いに並行している。なお、フロアクロスBの数は、2本に限らず、1本であってよく、3本以上であってもよい。
【0015】
車両の全体構造Wにおいて、評価対象部分となるサイドシルPが上述のように支持されている場合、
図2及び
図3に示すように、サイドシルPに対応する試験体となるフィジカル部分構造部材TFの端部TFeを、端部支持治具Seで支持し、端部TFeを除くフィジカル部分構造部材TFの中間部TFmを中間部支持治具Smで支持した状態で、フィジカル部分構造部材TFに対してアクチュエータa(
図3参照)で動作するインパクタi(
図3参照)を衝突させることによって荷重Fを作用させる。このようにして、部分構造試験方法を行う。なお、荷重Fは、衝撃荷重であってよい。
このように、試験体となるフィジカル部分構造部材TFは、端部TFeを端部支持治具Seによって支持されているのみならず、中間部TFmをも中間部支持治具Smで支持されている。すなわち、フィジカル部分構造部材TFは、端部支持治具Se及び中間部支持治具Smを備えた支持治具構造Sによって支持されている。よって、実際の車両においてサイドシルPが支持された状態(境界条件)を適切に反映した部分構造試験ができる。すなわち、本実施形態に係る部分構造試験方法によれば、全体構造Wにおける部分構造と全体構造Wにおける他の部材との間の境界条件を適切に反映して部分構造試験ができるので、部分構造の衝突性能を適切に評価できる。
【0016】
フィジカル部分構造部材TFは、部分構造試験における試験体となるものである。フィジカル部分構造部材TFは、物理的な実体のある物体である。フィジカル部分構造部材TFは、全体構造Wの中で、評価対象部分となる部分構造に対応する部分構造部材である。フィジカル部分構造部材TFは、例えば、車両の全体構造Wから、サイドシルPの一部を切り取ったものである。したがって、
図2及び
図3に示すように、フィジカル部分構造部材TFは、サイドシルPより短い長さ寸法を有する棒状体である。そして、フィジカル部分構造部材TFは、実質的に、サイドシルPと同じ材質、断面形状である。フィジカル部分構造部材TFは、部材軸が略水平になるような姿勢で、支持治具構造Sによって支持されている。フィジカル部分構造部材TFは、両側に、端部TFeを有している。
【0017】
支持治具構造Sを構成する端部支持治具Seは、フィジカル部分構造部材TFの端部TFeを支持するものである。端部支持治具Seは、剛体Rに支持されている。詳細には、端部支持治具Seは、フィジカル部分構造部材TFの端部TFeに剛結される試験体接続部Se1と、剛体Rに剛結される剛体接続部Se2と、試験体接続部Se1と剛体接続部Se2とを接続し、荷重Fが作用した際に塑性変形する塑性部Se3と、を備えている。なお、剛体Rは、実質的に変形が無視できるような剛性の高いものである。剛体Rは、例えば、部分構造試験を実施するための試験室を構成する構造物の壁等である。
【0018】
支持治具構造Sを構成する中間部支持治具Smは、フィジカル部分構造部材TFの中間部TFmを支持するものである。中間部支持治具Smは、剛体Rに支持されている。詳細には、中間部支持治具Smは、フィジカル部分構造部材TFの中間部TFmに剛結される試験体接続部Sm1と、剛体Rに剛結される剛体接続部Sm2と、を備えている。
【0019】
(部分構造試験方法)
次に、本実施形態に係る部分構造試験方法を、時系列に沿って添付の図面を参照しながら説明する。
図4は、部分構造試験の全体フロー図である。
図5は、フルカー構造モデルWVを説明する底面図である。
図6は、バーチャル切り出しモデルTV及びバーチャル部分構造モデルTVVの説明図である。
図7は、フルカー構造モデルWVにおけるサイドシルPVに作用するサイドシル物理量A1及び変位量dの説明図である。
図8は、フルカー構造モデルWVにおけるフロアクロスBVに作用するフロアクロス物理量A2の説明図である。
図9は、バーチャル部分構造モデル設定工程13のフロー図である。
図10は、支持治具設計工程14のフロー図である。
【0020】
図4に示すように、本実施形態に係る部分構造試験方法の全体の大きな流れとしては、概ね、まず、フィジカル部分構造部材準備工程1を実施した後、フィジカル試験準備工程2を実施し、フィジカル試験準備工程2を実施した後、載荷工程3を実施し、載荷工程3を実施した後、測定工程4を実施する。
本実施形態に係る部分構造試験方法は、フィジカル部分構造部材TFを準備するフィジカル部分構造部材準備工程1と、フィジカル部分構造部材TFを支持するフィジカル試験準備工程2と、フィジカル部分構造部材TFに荷重Fを作用させる載荷工程3と、載荷工程の後に、フィジカル部分構造部材TFの変位量を含むフィジカル部分構造物理量を測定する測定工程4と、を含んでいる。
【0021】
(フィジカル部分構造部材準備工程1)
フィジカル部分構造部材準備工程1は、
図2及び
図3に示すようなフィジカル部分構造部材TFを準備する工程である。具体的には、例えば、実際の車両の全体構造Wから、評価対象となる部分構造を切り取り、切り取った部分構造をフィジカル部分構造部材TFとする。具体的には、例えば、車両の全体構造Wから、評価対象となるサイドシルPの一部分をカッターによって切り取り、切り取った部材をフィジカル部分構造部材TFとしてもよい。または、例えば、実際の車両の評価対象となる部分構造に相当する部材を個別に製造し、その部材をフィジカル部分構造部材TFとしてもよい。
【0022】
詳細には、
図4に示すように、フィジカル部分構造部材準備工程1において、まず、サイドシルPV及びサイドシルPVの長手方向に対して略垂直に接合されたフロアクロスBVを含むフルカー構造モデルWV(
図5参照)を作成する。なお、フルカー構造モデルWVは、例えば、全体構造Wを模擬した三次元の有限要素モデル等の構造解析モデルであってよい。そして、そのフルカー構造モデルWVに対して、所定位置に荷重FVを作用させて、サイドシルPV及びフロアクロスBVに作用するフルカー物理量Aを出力する(フルカーシミュレーション工程11)。
次に、
図5に示すフルカー構造モデルWVから、サイドシルPV及びフロアクロスBVを含む部分を境界b及び境界gで切り出して、
図6に示すような、バーチャル切り出しモデルTVを作成する(バーチャル切り出しモデル作成工程12)。
次に、バーチャル切り出しモデルTVにおける、サイドシルPVの境界bに、回転軸Qの位置を含む境界条件を設定する。また、適宜、フロアクロスBVの境界gに、境界条件を設定する。このようにして、バーチャル部分構造モデルTVVを設定する(バーチャル部分構造モデル設定工程13)。バーチャル部分構造モデル設定工程13については、後で詳述する。
次に、バーチャル部分構造モデル設定工程13で設定した境界条件に対応するように、バーチャル部分構造モデルTVVの端部TVVeを支持する端部支持治具Se(
図2及び
図3参照)及び端部TVVeを除くバーチャル部分構造モデルTVVの中間部TVVbを支持する中間部支持治具Sm(
図2及び
図3参照)を含む支持治具構造Sを設計する(支持治具設計工程14)。支持治具設計工程14については後で詳述する。
バーチャル部分構造モデルTVVのサイズαに対応するサイズのフィジカル部分構造部材TF(
図2及び
図3参照)を準備する(準備工程15)。
このように、フィジカル部分構造部材準備工程1は、
図4に示すような、フルカーシミュレーション工程11と、バーチャル切り出しモデル作成工程12と、バーチャル部分構造モデル設定工程13と、支持治具設計工程14と、準備工程15と、を含んでいる。
【0023】
ここで、フルカー物理量Aは、サイドシルの長手方向に垂直な断面に作用するサイドシル物理量A1のサイドシルの長手方向に沿う分布であるサイドシル物理量分布A1d(
図7参照)と、フロアクロスの長手方向に垂直な断面に作用するフロアクロス物理量A2のフロアクロスの長手方向に沿う分布であるフロアクロス物理量分布A2d(
図8参照)と、サイドシルの変位量A3(
図7参照)と、を含んでいる。なお、サイドシルの変位量A3は、
図7に示すように、荷重FVが作用した際に、サイドシルPVが水平方向における車内側へ侵入するように変形した量である変位量d(侵入量ともいう。)のサイドシルの長手方向に沿う分布を表している。
サイドシル物理量A1(サイドシル物理量分布A1d)は、
図7に示すような、せん断力(shear force)A11、軸力(axial force)A12及びモーメント(bending moment)A13を含んでいてもよい。
フロアクロス物理量A2は、
図8に示すような、軸力(axial force)A21を含んでいてもよい。
【0024】
ここで、バーチャル切り出しモデル作成工程12において、
図7に示すように、サイドシル物理量分布A1dにおけるサイドシル物理量A1(せん断力A11、軸力A12及びモーメントA13)の変化の度合いを示す勾配θ(絶対値)が所定の閾値より小さい箇所、すなわち、サイドシル物理量A1の絶対量があまり増減せずに安定している箇所を境界bとする範囲内のサイズαで切り出して、バーチャル切り出しモデルTVを作成してよい。これにより、サイドシル物理量A1が急激に増減する箇所を境界bとしないので、境界bの位置の微妙な違いによる、後述のフィジカル部分構造部材TF及び支持治具構造Sの適切な設計への影響をできるだけ低減できる。そして、全体構造Wにおける部分構造の境界条件を適切に反映したバーチャル切り出しモデルTVを作成できる。よって、このように切り出されたバーチャル切り出しモデルTVに基づいて設計され、支持治具構造Sで支持されたフィジカル部分構造部材TFに対して衝撃試験を行うことにより、全体構造Wにおける部分構造の挙動(変位量、反力等)に対応する挙動を、適切に再現できる。また、解析モデルをコンパクトにできるので、解析に係る計算負荷を低減できる。なお、境界bは、サイドシル物理量A1の絶対量が所定の閾値より小さくなる箇所としてもよい。
【0025】
また、バーチャル切り出しモデル作成工程12において、
図8に示すように、フロアクロス物理量分布A2dにおけるフロアクロス物理量A2(軸力A21)の変化の度合いを示す勾配φ(絶対値)が所定の閾値より小さい箇所、すなわち、勾配φの絶対量があまり増減せずに安定している箇所を境界gとする範囲内のサイズβで切り出して、バーチャル切り出しモデルTVを作成してもよい。これにより、フロアクロス物理量分布A2dが急激に増減する箇所を境界gとしないので、境界gの位置の微妙な違いによる、後述のフィジカル部分構造部材TF及び支持治具構造Sの適切な設計への影響をできるだけ低減できる。そして、全体構造Wにおける部分構造の境界条件を適切に反映したバーチャル切り出しモデルTVを作成できる。よって、このように切り出されたバーチャル切り出しモデルTVに基づいて設計され、支持治具構造Sで支持されたフィジカル部分構造部材TFに対して衝撃試験を行うことにより、全体構造Wにおける部分構造の挙動に対応する挙動を、適切に再現できる。また、解析モデルをコンパクトにできるので、解析に係る計算負荷を低減できる。
【0026】
バーチャル部分構造モデル設定工程13について、
図9に基づいて説明する。バーチャル部分構造モデル設定工程13において、詳細には、まず、バーチャル切り出しモデルTVにおける境界bに回転軸Qの位置を含む仮境界条件を設定して、
図6に示すバーチャル部分構造モデルTVVに類似したバーチャル仮部分構造モデル(不図示)を作成する(バーチャル仮部分構造モデル作成工程131)。
次に、バーチャル仮部分構造モデルに対して、所定位置に対応する位置に荷重FVを作用させて、フルカー物理量Aに対応するバーチャル仮部分構造物理量を出力する(仮部分構造シミュレーション工程132)。
次に、フルカー物理量Aと、バーチャル仮部分構造物理量との第1差分を計算する(第1差分計算工程133)。なお、第1差分は、バーチャル切り出しモデルTV(バーチャル部分構造モデルTVV)の部分に対応するフルカー物理量Aとバーチャル仮部分構造物理量との差分を、バーチャル切り出しモデルTV(バーチャル部分構造モデルTVV)の長手方向に積分した値であってよい。また、第1差分は、バーチャル切り出しモデルTV(バーチャル部分構造モデルTVV)の部分に対応するフルカー物理量Aとバーチャル仮部分構造物理量との差分の、バーチャル切り出しモデルTVの長手方向における最大値であってもよい。
ここで、フルカー物理量Aと、バーチャル仮部分構造物理量との第1差分が所定値以上である場合、仮境界条件を変更し、バーチャル仮部分構造モデル作成工程131と、仮部分構造シミュレーション工程132と、第1差分計算工程133とを、第1差分が所定値未満になるまで繰り返す(仮境界条件調節工程134)。すなわち、仮境界条件調節工程134において、第1差分が所定値以上であるか否かが判定される。なお、この判定は、コンピュータによって行ってよく、部分構造試験の設計者が行ってもよい。
例えば、第1差分が所定値以上である場合、回転軸Qの位置を変更して新たな仮境界条件を設定して、
図6に示すようなバーチャル部分構造モデルTVVに類似したバーチャル仮部分構造モデル(不図示)を作成する(バーチャル仮部分構造モデル作成工程131)。次に、新たに作成されたバーチャル仮部分構造モデルに対して、所定位置に荷重FVを作用させて、フルカー物理量Aに対応するバーチャル仮部分構造物理量を出力する(仮部分構造シミュレーション工程132)。次に、フルカー物理量Aと、新たに出力されたバーチャル仮部分構造物理量との第1差分を計算する(第1差分計算工程133)。そして、これらのルーティンを、再び、第1差分が所定値未満になるまで繰り返す(仮境界条件調節工程134)。
そして、第1差分が所定値未満である場合、仮境界条件を境界条件として設定したバーチャル仮部分構造モデルを、バーチャル部分構造モデルTVVとして設定する(バーチャル部分構造モデル決定工程135)。
このように、バーチャル部分構造モデル設定工程13は、
図9に示すように、バーチャル仮部分構造モデル作成工程131と、仮部分構造シミュレーション工程132と、第1差分計算工程133と、仮境界条件調節工程134と、バーチャル部分構造モデル決定工程135と、を含んでいる。よって、全体構造Wにおける部分構造の境界条件をより適切に反映したバーチャル部分構造モデルTVVを設定できる。
【0027】
支持治具設計工程14について、
図10に基づいて説明する。支持治具設計工程14において、詳細には、まず、バーチャル部分構造モデルTVVで設定した境界条件に含まれる回転軸Qの位置(バーチャル部分構造モデル決定工程135、
図6参照)に基づいて、仮支持治具構造(不図示)を設計する(仮支持治具構造設計工程141)。例えば、所定の機械的性質(降伏比等)を有し、所定のねじり剛性及び曲げ剛性を備えた所定の断面形状を有し、部材の長手方向が回転軸Qに沿い、回転軸Qと断面の図心が重なるような構造を備える仮支持治具構造を設計する。
次に、バーチャル部分構造モデルTVVを仮支持治具構造で支持したバーチャル仮支持部分構造モデル(不図示)を作成する(バーチャル仮支持部分構造モデル作成工程142)。具体的には、例えば、仮支持治具構造設計工程141で設計した仮支持治具構造を、回転軸Qの位置、すなわち、
図6に示すように、バーチャル部分構造モデルTVVにおけるサイドシルPに対応する部分PVPの部材軸(図心軸)ωから距離j離れ、バーチャル仮支持部分構造モデルの端部TVVeから距離k離れた位置、に配置する。バーチャル部分構造モデルTVVの端部TVVeが回転軸Qにおいて回転自在に支持された状態となるように、仮支持治具構造と、バーチャル部分構造モデルTVVとを所定の剛性で固定する。
次に、バーチャル仮支持部分構造モデルに対して、所定位置に対応する位置に荷重FVを作用させて、フルカー物理量Aに対応する第2バーチャル仮部分構造物理量を出力する(第2仮部分構造シミュレーション工程143)。
次に、フルカー物理量Aと、第2バーチャル仮部分構造物理量との第2差分を計算する(第2差分計算工程144)。なお、第2差分は、バーチャル切り出しモデルTV(バーチャル部分構造モデルTVV)の部分に対応するフルカー物理量Aと第2バーチャル仮部分構造物理量との差分を、バーチャル切り出しモデルTV(バーチャル部分構造モデルTVV)の長手方向に積分した値であってよい。また、第2差分は、バーチャル切り出しモデルTV(バーチャル部分構造モデルTVV)の部分に対応するフルカー物理量Aと第2バーチャル仮部分構造物理量との差分の、バーチャル切り出しモデルTV(バーチャル部分構造モデルTVV)の長手方向における最大値であってもよい。
ここで、第2差分が所定値以上である場合、仮支持治具構造(断面形状、長さ等)を変更し、仮支持治具構造設計工程141と、バーチャル仮支持部分構造モデル作成工程142と、第2仮部分構造シミュレーション工程143と、第2差分計算工程144とを、第2差分が所定値未満になるまで繰り返す(仮支持治具構造調節工程145)。すなわち、仮支持治具構造調節工程145において、第2差分が所定値以上であるか否かが判定される。なお、この判定は、コンピュータによって行ってよく、部分構造試験の設計者が行ってもよい。
例えば、第2差分が所定値以上である場合、仮支持治具構造の長さ、断面形状又は引張強度、降伏比等の機械的性質、を変更して剛性の異なる新たな仮支持治具構造を設計する(仮支持治具構造設計工程141)。次に、バーチャル部分構造モデルを新たに設計した仮支持治具構造で支持した新たなバーチャル仮支持部分構造モデル(不図示)を作成する(バーチャル仮支持部分構造モデル作成工程142)。次に、新たに作成したバーチャル仮支持部分構造モデルに対して、所定位置に対応する位置に荷重FVを作用させて、フルカー物理量Aに対応する第2バーチャル仮部分構造物理量を出力する(第2仮部分構造シミュレーション工程143)。次に、フルカー物理量Aと、新たに出力された第2バーチャル仮部分構造物理量との第2差分を計算する(第2差分計算工程144)。そして、これらのルーティンを、再び、第2差分が所定値未満になるまで繰り返す(仮支持治具構造調節工程145)。
そして、第2差分が所定値未満である場合、バーチャル部分構造モデルTVV及び仮支持治具構造を、それぞれ、フィジカル部分構造部材TF及び支持治具構造Sの設計モデルとして設定する(フィジカル部分構造設計モデル設定工程146)。
このように、支持治具設計工程14は、
図10に示すように、仮支持治具構造設計工程141と、バーチャル仮支持部分構造モデル作成工程142と、第2仮部分構造シミュレーション工程143と、第2差分計算工程144と、仮支持治具構造調節工程145と、フィジカル部分構造設計モデル設定工程146と、を含んでいる。よって、全体構造Wにおける部分構造の境界条件をより適切に反映した支持治具構造Sを設計できる。
【0028】
図4に戻り、準備工程15について、説明する。準備工程15において、バーチャル部分構造モデルTVVのサイズαに対応するサイズのフィジカル部分構造部材TF(
図2及び
図3参照)を準備する。言い換えると、部分構造試験で用いる実体のある試験体であるフィジカル部分構造部材TFを、バーチャル部分構造モデル設定工程13で設定された、境界b及びサイズαを有するバーチャル部分構造モデルTVVの形状に基づいて製造する。具体的には、フィジカル部分構造設計モデル設定工程146で設定されたフィジカル部分構造部材TFの設計モデルに基づいて、バーチャル部分構造モデルTVVのサイズαと同じサイズα、例えば、長さ1,000mmを有するフィジカル部分構造部材TFを製造する。これにより、部材に生じる軸力等の物理量の絶対量又は変化量が比較的小さく、隣接する構造による影響の比較的小さい境界bで切り出したサイズαでフィジカル部分構造部材TFを製造できるので、車両の全体構造Wを用いることなく、試験体及び試験装置をコンパクトにした部分構造試験を実施できる。
【0029】
(フィジカル試験準備工程2)
図2及び
図3に戻り、フィジカル試験準備工程2について説明する。フィジカル試験準備工程2は、
図2に示すように、フィジカル部分構造部材TFを、支持治具構造Sを介して、剛体Rに支持する工程である。
詳細には、フィジカル試験準備工程2は、準備工程15で準備されたフィジカル部分構造部材TFの端部TFeを支持する端部支持治具Se及び端部TFeを除くフィジカル部分構造部材TFの中間部TFmを支持する中間部支持治具Smを備える支持治具構造Sによって、フィジカル部分構造部材TFを支持する支持工程21を含んでいる。詳細には、フィジカル部分構造設計モデル設定工程146において設定された、フィジカル部分構造部材TFの設計モデルに基づいて、フィジカル部分構造部材TF及び支持治具構造Sを製造する。そして、製造したフィジカル部分構造部材TFを、
図2及び
図3に示すように、支持治具構造Sによって、剛体Rに支持する。
例えば、支持治具構造Sを構成する端部支持治具Seは、長手方向に直交するX字状の開断面を有し、試験体であるフィジカル部分構造部材TFへの荷重Fの作用により塑性変形する塑性部Se3を備えている。また、例えば、支持治具構造Sを構成する中間部支持治具Smは、フロアクロスBと同様の断面を有する試験体接続部Sm1を備えている。
【0030】
(載荷工程3)
載荷工程3について説明する。載荷工程3は、フィジカル部分構造部材TFに荷重Fを作用させる工程である。具体的には、例えば、フィジカル部分構造部材TFに対して、アクチュエータa(
図3参照)の駆動によって所定の運動エネルギーで動作するインパクタi(
図3参照)を衝突させることによって、フィジカル部分構造部材TFに衝撃荷重を与える(荷重Fを作用させる)。
【0031】
(測定工程4)
測定工程4は、載荷工程3の後に、フィジカル部分構造部材TFの変位量を含むフィジカル部分構造物理量を測定する工程である。具体的には、フィジカル部分構造部材TFに衝撃荷重が作用した際に、フィジカル部分構造部材TFが水平方向に変位した変位量(
図7に示す変位量dに対応する変位量)と、適宜、フィジカル部分構造部材TFに作用する反力と、を測定する。このように、フィジカル部分構造部材TFは、全体構造Wにおける部分構造の境界条件を反映した支持治具構造Sによって支持されている。そのため、フィジカル部分構造部材TFの変位量(フィジカル部分構造物理量)を測定することで、全体構造WにおけるサイドシルPの変位量を評価できる。
なお、フィジカル部分構造物理量は、フィジカル部分構造部材TFのひずみであってもよい。フィジカル部分構造物理量は、フィジカル部分構造部材TFに作用する荷重(フィジカル部分構造部材TFが受ける反力、インパクタiが受ける反力等)であってもよい。フィジカル部分構造物理量は、フィジカル部分構造部材TFの変形前(衝突前)から変形後(衝突後)まで、時系列的に実質的に連続的に測定されてもよい。
なお、測定工程4において、剛体Rと支持治具構造Sとの間に作用する荷重、又は、インパクタiとアクチュエータaとの間に作用する荷重を、例えば、剛体Rと支持治具構造Sとの間にロードセル等の、実質的な剛体とみなせる検出装置を介在させることによって、測定してもよい。
このようにして、本実施形態に係る部分構造試験方法を実施できる。
【0032】
(他の実施形態)
上述の実施形態は、サイドシルPの端部Peに加えて、中間部Pmを、並べられた二つのフロアクロスBによって支持された全体構造Wに対する部分構造試験を実施する場合を例にとって説明したが、これに限らない。例えば、全体構造Wは、サイドシルPの端部Peに加えて、中間部Pmを、長手方向の所定範囲にわたって、バッテリーボックスのような、剛性の高い構造で支持されたものであってもよい。この場合、フィジカル部分構造部材TFの中間部TFmを、剛体とみなせるような高い剛性を有する中間部支持治具Smで支持された状態で、部分構造試験を行う。なお、この場合の中間部支持治具Smは、剛体Rそのものであってもよい。
【0033】
本実施形態に係る部分構造試験方法は、フィジカル部分構造部材TFを準備するフィジカル部分構造部材準備工程1と、フィジカル部分構造部材TFを支持するフィジカル試験準備工程2と、フィジカル部分構造部材TFに荷重Fを作用させる載荷工程3と、載荷工程3の後に、フィジカル部分構造部材TFの変位量を含むフィジカル部分構造物理量を測定する測定工程4と、を含んでいる。そして、フィジカル試験準備工程2は、フィジカル部分構造部材TFの端部TFeを支持する端部支持治具Se及び端部TFeを除くフィジカル部分構造部材TFの中間部TFmを支持する中間部支持治具Smを備える支持治具構造Sによって、フィジカル部分構造部材TFを支持する支持工程21を含んでいる。これにより、試験体の端部TFeのみならず中間部TFmも支持した状態で、全体構造Wにおける部分構造と他の部材との間の境界条件を反映して部分構造試験ができるので、部分構造の衝突性能を適切に評価できる。よって、部分構造に要求される衝突性能を適切に評価できる部分構造試験方法を提供できる。
【符号の説明】
【0034】
1 フィジカル部分構造部材準備工程
2 フィジカル試験準備工程
3 載荷工程
4 測定工程
11 フルカーシミュレーション工程
12 バーチャル切り出しモデル作成工程
13 バーチャル部分構造モデル設定工程
14 支持治具設計工程
15 準備工程
21 支持工程
131 バーチャル仮部分構造モデル作成工程
132 仮部分構造シミュレーション工程
133 第1差分計算工程
134 仮境界条件調節工程
135 バーチャル部分構造モデル決定工程
141 仮支持治具構造設計工程
142 バーチャル仮支持部分構造モデル作成工程
143 第2仮部分構造シミュレーション工程
144 第2差分計算工程
145 仮支持治具構造調節工程
146 フィジカル部分構造設計モデル設定工程
A フルカー物理量
A1 サイドシル物理量
A1d サイドシル物理量分布
A2 フロアクロス物理量
A2d フロアクロス物理量分布
A3 変位量
A11 せん断力
A12 軸力
A13 モーメント
A21 軸力
a アクチュエータ
b 境界
B フロアクロス
B1 第1フロアクロス
B2 第2フロアクロス
BV フロアクロス
d 変位量
F 荷重
FV 荷重
g 境界
i インパクタ
j 距離
k 距離
P サイドシル
P1 第1サイドシル
P2 第2サイドシル
Pe 端部
Pm 中間部
PV サイドシル
PVP 部分
Q 回転軸
R 剛体
S 支持治具構造
Se 端部支持治具
Se1 試験体接続部
Se2 剛体接続部
Se3 塑性部
Sm 中間部支持治具
Sm1 試験体接続部
Sm2 剛体接続部
TF フィジカル部分構造部材
TFe 端部
TFm 中間部
TV バーチャル切り出しモデル
TVV バーチャル部分構造モデル
TVVb 中間部
TVVe 端部
W 全体構造
WV フルカー構造モデル
α サイズ
β サイズ
θ 勾配
φ 勾配
ω 部材軸(図心軸)