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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】ガス分析方法及びガス分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3504 20140101AFI20231213BHJP
   F27D 21/00 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
G01N21/3504
F27D21/00 G
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020056417
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021156701
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】坂本 明洋
(72)【発明者】
【氏名】菅原 翔太
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/119283(WO,A1)
【文献】特開平08-044863(JP,A)
【文献】特開2006-350562(JP,A)
【文献】特開2015-040747(JP,A)
【文献】特開2016-186464(JP,A)
【文献】特開2005-287750(JP,A)
【文献】CT半導体レーザ吸収法を用いた高温域における2次元温度分布計測の特性評価,自動車技術会論文集,2014年11月,Vol.45, No6,971-976
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/61
F27D 21/00
G06T 1/60
G06T 3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
500℃~2000℃の範囲の被測定ガスを内部に含む測定チャンバにおいて、前記被測定ガスの温度と濃度の空間内分布を分析するガス分析方法であって、
レーザ入光部からレーザ受光部に向けてレーザ光を照射して、前記被測定ガス中に前記レーザ光を通過させ、前記レーザ受光部で受光した前記レーザ光の強度を測定する測定工程と、
前記レーザ受光部におけるレーザ光強度の測定値に基づいて、前記被測定ガスの温度と濃度の空間内分布を算出する算出工程と、を有し、
前記レーザ入光部と前記レーザ受光部の対が複数設けられ、
前記算出工程は、
前記被測定ガスの温度と濃度の推定値を、前記測定チャンバの内部空間内で離散的に推定する第1工程と、
前記第1工程で離散的に推定された前記推定値の空間補間を三次以下の多項式補間式で行う第2工程と、
前記第1工程で推定された前記推定値から算出されるレーザ光強度と、前記測定工程で測定された前記レーザ光強度の測定値との誤差を最小化するように、前記推定値を補正する繰返最適化の計算を行う第3工程と、
前記第3工程で補正された前記推定値の空間内の点数を段階的に増加させ、前記被測定ガスの温度と濃度の空間内分布を算出する第4工程と、を有することを特徴とする、ガス分析方法。
【請求項2】
前記レーザ入光部と前記レーザ受光部の対が8つ以上設けられ、
前記レーザ入光部とレーザ受光部の間のレーザ光経路が、前記被測定ガス内で二次元メッシュ状になるよう構成されたことを特徴とする、請求項1に記載のガス分析方法。
【請求項3】
前記第2工程において、前記三次以下の多項式補間式として、双三次畳込補間法を利用することを特徴とする、請求項1又は2に記載のガス分析方法。
【請求項4】
前記第3工程において、前記繰返最適化の手順として、最小自乗法を利用することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のガス分析方法。
【請求項5】
前記第4工程において、前記推定値の空間内の点数を段階的に増加させていく手順として、前記推定値の空間内の格子間隔を逐次的に2分割していくことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のガス分析方法。
【請求項6】
500℃~2000℃の範囲の被測定ガスを内部に含む測定チャンバにおいて、前記被測定ガスの温度と濃度の空間内分布を分析するガス分析装置であって、
前記被測定ガス中にレーザ光を入光するレーザ入光部と、
前記被測定ガス中を通過したレーザ光を受光するレーザ受光部と、
前記レーザ受光部におけるレーザ光強度の測定値に基づいて、前記被測定ガスの温度と濃度の空間内分布を算出する算出部と、を有し、
前記レーザ入光部と前記レーザ受光部の対が複数設けられ、
前記算出部は、
前記被測定ガスの温度と濃度の推定値を、前記測定チャンバの内部空間内で離散的に推定する第1工程と、
前記第1工程で離散的に推定された前記推定値の空間補間を三次以下の多項式補間式で行う第2工程と、
前記第1工程で推定された前記推定値から算出されるレーザ光強度と、前記レーザ受光部における前記レーザ光強度の測定値との誤差を最小化するように、前記推定値を補正する繰返最適化の計算を行う第3工程と、
前記第3工程で補正された前記推定値の空間内の点数を段階的に増加させ、前記被測定ガスの温度と濃度の空間内分布を算出する第4工程と、を行うことを特徴とする、ガス分析装置。
【請求項7】
前記レーザ入光部と前記レーザ受光部の対が8つ以上設けられ、
前記レーザ入光部とレーザ受光部の間のレーザ光経路が、前記被測定ガス内で二次元メッシュ状になるよう構成されたことを特徴とする、請求項6に記載のガス分析装置。
【請求項8】
前記算出部は、前記第2工程において、前記三次以下の多項式補間式として、双三次畳込補間法を利用することを特徴とする、請求項6又は7に記載のガス分析装置。
【請求項9】
前記算出部は、前記第3工程において、前記繰返最適化の手順として、最小自乗法を利用することを特徴とする、請求項6~8のいずれか一項に記載のガス分析装置。
【請求項10】
前記算出部は、前記第4工程において、前記推定値の空間内の点数を段階的に増加させていく手順として、前記推定値の空間内の格子間隔を逐次的に2分割していくことを特徴とする、請求項6~9のいずれか一項に記載のガス分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、500℃~2000℃の範囲の被測定ガスを内部に含む測定チャンバにおいて、被測定ガスの温度と濃度の空間内分布を分析するガス分析方法及びガス分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼製造工程で多用される燃焼加熱炉において、炉内の温度分布や物質濃度分布を定量的に監視する計測技術は、多量の燃料を消費する加熱炉の最適操業に直結する重要技術である。この温度分布や濃度分布の計測を実現する有望技術の1つとして、例えば非特許文献1には、CT-TDLAS(Computed Tomographic and Tunable Diode Laser Absorption Spectroscopy)が提案されている。
【0003】
CT-TDLASの優れている点は、非接触で加熱炉内の状態を計測できることである。すなわち、炉外から炉内に向けて入射させたレーザ光を、反対側の炉外の受光部で計測し、スペクトル分析することで、レーザ光の光路積分値としての温度情報及び濃度情報を得ることができる(TDLAS技術)。さらに、このレーザ光の経路を格子状に構成することにより、炉内の平面あるいは空間における温度分布及び濃度分布を得ることができる(CT技術)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】神本崇博、出口祥啓ら著 第56回日本伝熱シンポジウム講演論文集(2019)G112-G125
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に開示されているCT画像再構成アルゴリズムにおいては、次の問題があるために計算が不安定となり、また計算コストが過大なものとなっている。
【0006】
第1に、非特許文献1に開示のCT画像再構成アルゴリズムでは、計測面上の温度分布T(x,y)及び濃度分布n(x,y)を双m次多項式で近似し、各定数係数を最適化計算の手法により決定するが、そのmの次数は14次と高次になっていることが問題である。すなわち、最適化すべき定数係数の数は2×(14+1)=450変数に及ぶため、最適化計算の探索初期値を適切に設定しないと、大域最適解に辿り着かなかったり、辿り着くまでに非常に時間が掛かったりするという問題がある。また高次多項式による近似では、一般にRunge現象と呼ばれる不安定な数値振動が発生するという数学的な問題も存在する。この数値振動を抑制するには、実用的にはm≦6程度の次数が望ましいが、この程度の次数では温度分布に多峰性があった場合に対応できない。また高次多項式では、各定数係数の桁数が異なるため計算が不安定になる。さらに高次多項式の定数係数には物理的な意味がないため、計算が不安定になった場合に、不安定の要因となる変数を特定し難い。
【0007】
第2に、非特許文献1に開示のCT画像再構成アルゴリズムでは、上記の大域最適解に辿り着く時間を短縮するために、初期値データベースを構築し、データベースの一次結合から最適な探索初期値を選定するアルゴリズムを採用するが、この探索初期値の設定に問題がある。すなわち、探索初期値は例えばCFD(Computational Fluid Dynamics)計算で適切に設定することとしているが、このCFD計算自体に計算コストが掛かるうえ、CFD計算のための条件も手作業で適切に設定する必要がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、CT-TDLASのCT画像再構成アルゴリズムにおいて、安定的な計算を実現するとともに、計算コストを低廉化させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するため、本発明者は鋭意検討を行い、上記の第1の問題点と第2の問題点を同時に解決するCT画像再構成計算アルゴリズムを想到した。すなわち、測定面上の温度分布T(x,y)及び濃度分布n(x,y)として非特許文献1で開示されているアルゴリズムでは高次多項式で近似しているところを、離散格子状に温度分布T(x,y)及び濃度分布n(x,y)を仮定し、格子間を三次以下の多項式補間式により補間する。これにより、格子境界での連続性と一階微分連続性を保証し、連続的に滑らかな温度分布T(x,y)及び濃度分布n(x,y)を、数値振動を抑えた低次多項式で得ることができる。
【0010】
また、離散格子状に仮定する温度分布T(x,y)及び濃度分布n(x,y)について、適当な最適化計算により、測定値に最も近い値を選択することができる。さらに、仮定した格子間隔を段階的に狭めていくことにより、安定的に最適化計算の精度を高めることが可能となる。この手順により、最適解の十分近傍から探索を開始しなくても安定的かつ高速に最適解まで辿り着くことができる。
【0011】
本発明は、かかる知見に基づいてなされたものであり、500℃~2000℃の範囲の被測定ガスを内部に含む測定チャンバにおいて、前記被測定ガスの温度と濃度の空間内分布を分析するガス分析方法であって、レーザ入光部からレーザ受光部に向けてレーザ光を照射して、前記被測定ガス中に前記レーザ光を通過させ、前記レーザ受光部で受光した前記レーザ光の強度を測定する測定工程と、前記レーザ受光部におけるレーザ光強度の測定値に基づいて、前記被測定ガスの温度と濃度の空間内分布を算出する算出工程と、を有し、前記レーザ入光部と前記レーザ受光部の対が複数設けられ、前記算出工程は、前記被測定ガスの温度と濃度の推定値を、前記測定チャンバの内部空間内で離散的に推定する第1工程と、前記第1工程で離散的に推定された前記推定値の空間補間を三次以下の多項式補間式で行う第2工程と、前記第1工程で推定された前記推定値から算出されるレーザ光強度と、前記測定工程で測定された前記レーザ光強度の測定値との誤差を最小化するように、前記推定値を補正する繰返最適化の計算を行う第3工程と、前記第3工程で補正された前記推定値の空間内の点数を段階的に増加させ、前記被測定ガスの温度と濃度の空間内分布を算出する第4工程と、を有することを特徴としている。
【0012】
前記ガス分析方法において、前記レーザ入光部と前記レーザ受光部の対が8つ以上設けられ、前記レーザ入光部とレーザ受光部の間のレーザ光経路が、前記被測定ガス内で二次元メッシュ状になるよう構成されていてもよい。
【0013】
前記ガス分析方法において、前記第2工程において、前記三次以下の多項式補間式として、双三次畳込補間法を利用してもよい。
【0014】
前記ガス分析方法において、前記第3工程において、前記繰返最適化の手順として、最小自乗法を利用してもよい。
【0015】
前記ガス分析方法において、前記第4工程において、前記推定値の空間内の点数を段階的に増加させていく手順として、前記推定値の空間内の格子間隔を逐次的に2分割してもよい。
【0016】
別な観点による本発明は、500℃~2000℃の範囲の被測定ガスを内部に含む測定チャンバにおいて、前記被測定ガスの温度と濃度の空間内分布を分析するガス分析装置であって、前記被測定ガス中にレーザ光を入光するレーザ入光部と、前記被測定ガス中を通過したレーザ光を受光するレーザ受光部と、前記レーザ受光部におけるレーザ光強度の測定値に基づいて、前記被測定ガスの温度と濃度の空間内分布を算出する算出部と、を有し、前記レーザ入光部と前記レーザ受光部の対が複数設けられ、前記算出部は、前記被測定ガスの温度と濃度の推定値を、前記測定チャンバの内部空間内で離散的に推定する第1工程と、前記第1工程で離散的に推定された前記推定値の空間補間を三次以下の多項式補間式で行う第2工程と、前記第1工程で推定された前記推定値から算出されるレーザ光強度と、前記レーザ受光部における前記レーザ光強度の測定値との誤差を最小化するように、前記推定値を補正する繰返最適化の計算を行う第3工程と、前記第3工程で補正された前記推定値の空間内の点数を段階的に増加させ、前記被測定ガスの温度と濃度の空間内分布を算出する第4工程と、を行うことを特徴としている。
【0017】
前記ガス分析装置において、前記レーザ入光部と前記レーザ受光部の対が8つ以上設けられ、前記レーザ入光部とレーザ受光部の間のレーザ光経路が、前記被測定ガス内で二次元メッシュ状になるよう構成されていてもよい。
【0018】
前記ガス分析装置において、前記算出部は、前記第2工程において、前記三次以下の多項式補間式として、双三次畳込補間法を利用してもよい。
【0019】
前記ガス分析装置において、前記算出部は、前記第3工程において、前記繰返最適化の手順として、最小自乗法を利用してもよい。
【0020】
前記ガス分析装置において、前記算出部は、前記第4工程において、前記推定値の空間内の点数を段階的に増加させていく手順として、前記推定値の空間内の格子間隔を逐次的に2分割してもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、CT-TDLASのCT画像再構成アルゴリズムにおいて、安定的な計算を実現するとともに、計算コストを低廉化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施形態にかかるガス分析装置の構成の概略を示す説明図である。
図2】温度分布T(x,y)及び濃度分布n(x,y)を示す説明図である。
図3】温度分布T(x,y)及び濃度分布n(x,y)の推定値の空間内の点数を段階的に増加させる様子を示す説明図である。
図4】実施例における原画像を示す説明図である。
図5】実施例において吸光度の平均自乗誤差和の推移を示す説明図である。
図6】実施例においてCT画像再構成計算アルゴリズムを用いて再構成された画像を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0024】
<ガス分析装置>
先ず、本実施形態にかかるガス分析装置の構成について説明する。図1は、ガス分析装置の構成の概略を示す説明図である。
【0025】
図1に示すようにガス分析装置10は、測定チャンバ20の内部に含まれる被測定ガスの温度と濃度の空間内分布を測定して分析する装置である。測定チャンバ20は、例えば熱延加熱炉におけるチャンバであって、内部の被測定ガスは500℃~2000℃の範囲のガスである。この500℃~2000℃の範囲は、TDLASにおける測定限界にもほぼ一致している。
【0026】
ガス分析装置10は、複数のレーザ入光部11と複数のレーザ受光部12を有している。レーザ入光部11は、測定チャンバ20の内部に向けてレーザ光を照射し、被測定ガス中にレーザ光を入光する。レーザ受光部12は、レーザ入光部11から照射され、被測定ガス中を通過したレーザ光を受光する。
【0027】
レーザ入光部11とレーザ受光部12は、測定チャンバ20を挟んで1対1の対に設けられている。レーザ入光部11とレーザ受光部12の対は、複数、本実施形態では16個設けられている。以下の説明においては、これら16個のレーザ入光部11とレーザ受光部12をそれぞれ、レーザ入光部11a~11pとレーザ受光部12a~12pという場合がある。レーザ入光部11a~11hとレーザ受光部12a~12hの対はそれぞれ、測定チャンバ20を挟んでX方向に対向して配置されている。レーザ入光部11i~11pとレーザ受光部12i~12pの対はそれぞれ、測定チャンバ20を挟んでY方向に対向して配置されている。そして、レーザ入光部11とレーザ受光部12のレーザ光経路が、測定チャンバ20の被測定ガス内で二次元メッシュになるように構成されている。
【0028】
なお、レーザ入光部11とレーザ受光部12の対の数は、本実施形態に限定されないが、後述する計算の精度を向上させる観点から、例えば8つ以上が好ましい。また、本実施形態では、レーザ入光部11とレーザ受光部12は、レーザ光経路が被測定ガス内で二次元メッシュになるように構成されたがこれに限定されない。例えば、レーザ入光部11とレーザ受光部12は、レーザ光経路が45度でクロスするように構成されてもよい。
【0029】
ガス分析装置10は、レーザ受光部12で受光したレーザ光の強度(以下、「レーザ光強度」という。)の測定値に基づいて、被測定ガスの濃度と被測定ガスの温度と濃度の空間内分布を算出する算出部13を有している。算出部13は、例えばCPUやメモリ等を備えたコンピュータであり、プログラム格納部(図示せず)を有している。プログラム格納部には、ガス分析を行うための各種プログラムが格納されている。なお、レーザ受光部12と算出部13との通信は、特に限定されるものではないが、例えばインターネットや有線LAN、無線LANなどにより構成される。
【0030】
<ガス分析方法>
次に、以上の実施形態のガス分析装置10を用いて、測定チャンバ20の内部の被測定ガスの温度と濃度の空間内分布を算出(分析)する方法、すなわちCT画像の再構成計算アルゴリズムについて説明する。
【0031】
[測定工程]
先ず、レーザ入光部11からレーザ受光部12に向けてレーザ光を照射して、測定チャンバ20の内部の被測定ガス中にレーザ光を通過させ、レーザ受光部12で受光したレーザ光の強度を測定する。レーザ受光部12a~12pにおける測定結果は、算出部13に出力される。
【0032】
[算出工程]
次に、算出部13において、被測定ガスの温度と濃度の空間内分布を算出する工程について説明する。この算出工程は、次の第1工程~第4工程に分かれている。
【0033】
(第1工程)
第1工程では、被測定ガスの温度と濃度の推定値を、測定チャンバ20の内部空間内で離散的に推定する。図1に示したようにレーザ入光部11とレーザ受光部12のレーザ光経路は、被測定ガス内で二次元メッシュになる。そして第1工程では、図2に示すようにレーザ光経路が二次元メッシュで表現された測定面において、温度分布T(x,y)及び濃度分布n(x,y)を離散格子状に推定する(図2中の白丸に対応)。
【0034】
(第2工程)
第2工程では、第1工程で離散的に推定された推定値の格子間を、双三次畳込補間法(BCI法:Bicubic Convolution Interpolation)を用いて補間する。具体的には、下記式(1)を用いて推定値を補間する。図2に示すように対象点(図2中の黒丸に対応)の近傍4×4=16点(図2中の白丸に対応)との距離から、各近傍点の値を三次式補完することにより、対象点の値を算出する。
【0035】
【数1】
【0036】
このように温度分布T(x,y)及び濃度分布n(x,y)の格子間を双三次畳込補間法で補間することで、格子境界(ブロック境界)での連続性と一階微分連続性を保証し、連続的に滑らかな温度分布T(x,y)及び濃度分布n(x,y)を低次多項式で得ることができる。また、低次多項式であるため、Runge現象のような数値振動を抑えることでき、計算を高精度かつ安定的に行うことが可能となる。このような双三次畳込補間法を用いた効果については、例えば上田裕巳著「3次畳み込み補間に関する一考察」電子情報通信学会技術研究報告Vol.113,No.114,(2013),pp.7-14.においても報告されている。
【0037】
また、双三次畳込補間法を用いた場合、非特許文献1で開示されているアルゴリズムに対して次のような利点がある、すなわち、非特許文献1に開示のアルゴリズムにおいて最適化計算の対象は高次多項式の各定数係数であるのに対して、双三次畳込補間法では温度分布Tや濃度分布nといった物理係数を直截的に最適化対象としているため、データの見通しが良くデータ分析が容易になる。また高次多項式において各定数係数の桁数は大きく異なっていたが、双三次畳込補間法では上記式(1)に示すように最適化対象の係数の桁数をそろえることができ、計算を安定化させることができる。さらに高次多項式において1つの定数係数の修正は対象空間全体の分布状態に波及するが、双三次畳込補間法において1つの仮定値の修正の影響はその周辺の局所空間のみに限定されるため、より安定的に最適化計算を進行することができる。
【0038】
なお、本実施形態では、推定値の空間補間として双三次畳込補間法を用いたが、補間方法はこれに限定されない。例えば三次以下の多項式補間式を用いて、推定値を補間するのが好ましい。例えば、三次スプライン補間(Bicubic Spline補間)やNURBS(Non-Uniform Rational B-Spline)を用いてもよい。これらの方法を用いると、二次微分連続性まで保証するが、計算負荷が増大する。また例えば、双線形補間(Bilinear Interpolation)を用いてもよい。かかる場合、対象点の近傍2×2=4点との距離から、各近傍点の値を線形補間することにより対象点の値を算出する。この双線形補間を用いると、格子境界での連続性を保証し、計算負荷が小さくなるが、格子境界での一階微分連続性がなく、補間精度が悪い。したがって、計算負荷や補間精度を総合的に鑑みると、推定値の空間補間として双三次畳込補間法を用いるのが好ましい。
【0039】
(第3工程)
第3工程では、第1工程で推定された推定値から算出されるレーザ光強度と、測定工程で測定されたレーザ光強度の測定値との誤差を最小化するように、推定値を補正する繰返最適化の計算を行う。そして、離散格子状に推定された温度分布T(x,y)及び濃度分布n(x,y)の推定値について、測定値に最も近い値を選択することができる。
【0040】
上述した繰返最適化の計算としては、例えば最小自乗法を利用する。本実施形態では、例えばネルダーミード法(Nelder-Mead method)などの、簡便な非線形シンプレックス法を用いる。なお、最適化計算の方法はこれに限定されない。例えば他にも共役勾配法、SA法(Simulated Annealing)、GA法(Genetic Algorithm)、SB法(Simulated Bifurcation)などを用いてもよい。
【0041】
(第4工程)
第4工程では、第3工程で補正された推定値の空間内の点数を段階的に増加させ、推定値の格子間隔を段階的に狭めていく。例えば図3に示すように推定値の空間内の格子間隔を1/2ずつ狭めていく。これにより、被測定ガスの温度と濃度の空間内分布を算出することができる。
【0042】
なお、推定値の空間内の数密度の逐次的増加は、本実施形態に限定されず、例えば格子間隔を3分割や5分割にしてもよい。但し、本実施形態のように推定値の格子間隔を逐次的に2分割すると、計算の効率がよい。
【0043】
ここで、非特許文献1に開示のアルゴリズムでは、初期値データベースを構築し、データベースの一次結合から最適な探索初期値を選定するアルゴリズムを採用するが、この探索初期値をCFD計算で設定するため、計算コストがかかり、計算作業も手作業になる。これに対して、本実施形態の第4工程では、領域分割数を逐次二分で増加させることで、安定的に最適化計算の精度を高めることが可能となる。そして、最適解の十分近傍から探索を開始しなくても安定的かつ高速に最適解まで辿り着けるため、上述した初期値データベースが不要となり、安定的な計算を実現し、計算コストを低廉化することができる。
【0044】
以上の実施形態によれば、第2工程において、測定平面上の温度分布T(x,y)及び濃度分布n(x,y)を、従来法では双m次多項式(m≒14)で近似していたところを双三次畳込補間法で近似することにより、高次多項式の数学的不安定性を解消することができる。さらに第4工程において、補間の分割幅を段階的に狭めていくことにより、初期値を設定する計算コストを削減することができる。したがって、CT-TDLASのCT画像再構成アルゴリズムにおいて、高速かつ安定的な計算を実現するとともに、計算コストを低廉化させることができる。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例
【0046】
本発明の効果(有効性)を検証するため、以下のとおり数値的な検証を実施した。
【0047】
先ず、サンプルデータとして、図4に示すように矩形平面内に3つのピークをもつ吸光度分布を仮定する。それぞれのピーク1~3の高さと広がりは、下記式(2)に示す変形Gauss関数で連続値として与える。式(2)における各ピーク1~3の係数等は表1のとおりである。
【0048】
【数2】
【0049】
【表1】
【0050】
次に、図4に示した矩形平面内にレーザ光路を縦方向に8本、横方向に8本仮定し、それぞれのレーザ光路における経路平均吸光度(経路積分吸光度)を下記式(3)に示すTDLAS信号の理論式によって算出する。それぞれのレーザ光路の端点の座標と、算出した経路平均吸光度の一覧を表2に示す。
【0051】
【数3】
【0052】
【表2】
【0053】
そして、表2に示した模擬CTデータから、図3及び以下に記述する試行的計算手段によって図4に示した原画像を再構成した。
【0054】
先ず、矩形平面を2×2のブロックに分割し、それぞれの小矩形の頂点における吸光度を仮定する。すなわち、合計9点の仮定値(上記実施形態における推定値)がこの段階で発生する。また矩形内の吸光度分布は上記式(1)に示す双三次畳込補間法で算出するものとする。
【0055】
次に、仮定した吸光度に基づき、上記レーザ光路上の経路平均吸光度を算出する。この値と表2のサンプルデータとの誤差を比較し、誤差が大きければ仮定値を修正する。ここでは、誤差として平均自乗誤差和を用いる。また仮定値の修正方法として、本実施例ではネルダーミード法(Nelder-Mead method)などの非線形シンプレックス法を用いたが、他にも上述したように共役勾配法、SA法、GA法、SB法などを用いてもよい。
【0056】
誤差が小さければ、矩形平面の分割数を2倍に増加し、新たに発生した小矩形頂点における吸光度を仮定値群に加え、上記サンプルデータとの誤差比較と仮定値の修正を繰り返す。
【0057】
上記の矩形平面の分割と吸光度仮定値の修正を繰り返し、矩形分割幅がレーザ光路同士の間隔の半分程度になった段階で計算を終了する。
【0058】
上述の繰返計算において、平均自乗誤差和の推移を図5に示す。図5の横軸は繰返計算のステップ(繰返計算の1計算が1ステップ)を示し、縦軸は平均自乗誤差和を示す。図5を参照すると、計算の進行に従って、自乗誤差和が小さくなっていくことが示されている。
【0059】
また、繰返計算の最終段階のデータから再構成された画像を図6に示す。図4の原画像と類似した吸光度分布を再構成できていることが示されている。この吸光度分布から、ガス成分とレーザ波長に応じたモデル式を用いて、ガスの濃度と温度を推定することができる。
【0060】
ここで、従来の非特許文献1に開示のCT画像再構成アルゴリズム(CT-TDLAS)に対する、本発明の相違を表3にまとめる。従来法では、初期値を仮定する場合で1時間、仮定しない場合は手作業による試行が発生するために1週間程度の計算時間が必要だったものに対し、本発明のCT画像再構成計算アルゴリズムによれば初期値を仮定せずに1秒で計算が終了する。また、従来法において初期値を仮定する場合はCFD計算で計算条件を整える作業とCFD計算の時間が発生するため、通常1週間程度を要するに対し、本発明では初期値の設定は不要である。以上から、本発明のCT画像再構成計算アルゴリズムによれば、計算コストが著しく改善することが示される。
【0061】
また、従来法の分布関数は双高次多項式であるのに対し、本発明の分布関数は双三次畳込補間である。そして、従来法の最適化変数は多項式の定数係数であるのに対し、本発明の最適化変数は温度及び濃度の物理量である。このため、本発明のCT画像再構成計算アルゴリズムによれば、データの見通しが良くデータ分析が容易になる。
【0062】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、CT-TDLASのCT画像を再構成する際に有用である。
【符号の説明】
【0064】
10 ガス分析装置
11(11a~11p) レーザ入光部
12(12a~12p) レーザ受光部
13 算出部
20 測定チャンバ
図1
図2
図3
図4
図5
図6