(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】電磁鋼板および回転電機用コア
(51)【国際特許分類】
H02K 1/22 20060101AFI20231213BHJP
H01F 27/245 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
H02K1/22 Z
H01F27/245 150
(21)【出願番号】P 2020071485
(22)【出願日】2020-04-13
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】名取 義顕
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-007939(JP,A)
【文献】特開2015-192587(JP,A)
【文献】特開平10-112965(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F27/24-27/26
H02K1/00-1/16
1/18-1/26
1/28-1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機用コアを構成するために用いられる電磁鋼板であって、
平板状の主板部と、
前記主板部から前記主板部の厚み方向に突出する加工部と、を備え、
前記加工部の外周部は、前記主板部に対して傾斜しつつ前記厚み方向に直交する方向において前記主板部から離れる方向に延びるように前記主板部から前記厚み方向に突出し、
前記厚み方向から見て前記加工部の前記外周部のうち前記主板部に隣接する全ての部分において、前記加工部の両面は隣接する前記主板部の両面にそれぞれ連続し
、
前記加工部の全ての部分が、前記厚み方向に直交する方向から見て前記主板部に対して傾斜する複数の傾斜板部によって構成され、
前記傾斜板部の表面に直交する方向における当該傾斜板部の厚みは、前記主板部の厚みの0.9倍以下である、電磁鋼板。
【請求項2】
回転電機用コアを構成するために用いられる電磁鋼板であって、
平板状の主板部と、
前記主板部から前記主板部の厚み方向に突出する加工部と、を備え、
前記加工部の外周部は、前記主板部に対して傾斜しつつ前記厚み方向に直交する方向において前記主板部から離れる方向に延びるように前記主板部から前記厚み方向に突出し、
前記厚み方向から見て前記加工部の前記外周部のうち前記主板部に隣接する全ての部分において、前記加工部の両面は隣接する前記主板部の両面にそれぞれ連続し、
前記加工部は、前記厚み方向に直交する方向から見て、前記主板部に対して傾斜しつつ前記主板部に対して前記厚み方向における一方側に突出する少なくとも2つ
の傾斜板部と、前記主板部に対して傾斜しつつ前記主板部に対して前記厚み方向における他方側に突出する少なくとも2つ
の傾斜板部とを含む
、電磁鋼板。
【請求項3】
前記傾斜板部の表面に直交する方向における当該傾斜板部の厚みは、前記主板部の厚みの0.9倍以下である、請求項
2に記載の電磁鋼板。
【請求項4】
前記主板部の厚み方向から見て、前記加工部の前記外周部のうちの一部は空間に接している、請求項1
から3のいずれかに記載の電磁鋼板。
【請求項5】
前記加工部は、前記回転電機用コアにおいてフラックスバリアとして用いられる、請求項1
から4のいずれかに記載の電磁鋼板。
【請求項6】
前記主板部および前記加工部の両面に形成された絶縁被膜をさらに備え、
前記絶縁被膜は、前記主板部と当該主板部に隣接する前記加工部との境界の全体を覆うように、前記主板部から前記加工部に亘って連続して形成されている、請求項1から
5のいずれかに記載の電磁鋼板。
【請求項7】
前記加工部の外周部のうち前記主板部に隣接する前記全ての部分の、前記主板部に対する傾斜角度は、80°以下である、請求項1から
6のいずれかに記載の電磁鋼板。
【請求項8】
前記主板部の前記厚み方向における前記傾斜板部の厚みは、前記主板部の厚みの0.95~1.05倍の間である、請求項
1から7のいずれかに記載の電磁鋼板。
【請求項9】
前記傾斜板部の前記主板部に対する傾斜角度は80°以下である、請求項
1から8のいずれかに記載の電磁鋼板。
【請求項10】
前記加工部の前記厚み方向における一方側および他方側の面の表面積はそれぞれ、前記加工部を前記厚み方向に投影して得られる投影図の面積の1.1倍以上である、請求項1から
9のいずれかに記載の電磁鋼板。
【請求項11】
請求項1から
10のいずれかに記載の複数の前記電磁鋼板を積層した積層鋼板からなる回転電機用コア。
【請求項12】
前記複数の電磁鋼板は、前記主板部が前記厚み方向において互いに重なり、かつ前記加工部が前記厚み方向において互いに重なるように積層されており、
前記主板部が重なっている部分および前記加工部が重なっている部分のそれぞれにおいて、前記厚み方向における前記電磁鋼板の占積率は、90%以上である、請求項
11に記載の回転電機用コア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機用の電磁鋼板およびそれを備えた回転電機用コアに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータの効率を向上させるために、ロータコアまたはステータコアに、フラックスバリアとしての空隙を形成することが知られている。一方で、コアに空隙を形成すると、コアの剛性が低下する。そこで、従来、コアにおいてフラックスバリア(空隙)が形成された部分のうち、高い剛性を確保する必要がある部分には、フラックスバリアを横切るようにブリッジが形成される場合がある。
【0003】
しかしながら、コアにブリッジを形成すると、ブリッジにおいて漏れ磁束が生じ、フラックスバリア効果が低下する。そこで、ブリッジにおける漏れ磁束の低下を抑制するための技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に開示されたリラクタンスモータ用ロータコアでは、ブリッジの主面が、塑性変形加工によって、本体部およびリラクタンス磁路部の主面よりも10~50%陥没している。特許文献1には、このような構成のブリッジによれば、トルク発生に寄与しない漏れ磁束を大幅に低減することができると記載されている。すなわち、特許文献1の構成によれば、ブリッジも、フラックスバリアとして機能させることができると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されたロータコアのブリッジは、コアシート(電磁鋼板)のうちの一部を、パンチング加工またはプレス加工等によって押圧することによって形成されている。しかしながら、本発明者による検討の結果、特許文献1に開示されているようにコアシートの一部を単に押圧して陥没させると、押圧された部分が板厚方向に直交する方向に拡がり、ロータコア(コアシート)の寸法精度が低下することが分かった。また、コアシートを押圧して特許文献1に開示された形状のブリッジを形成しようとすると、コアシートの一部がせん断されるおそれがある。コアシートの一部がせん断されると、コアシートを積層した際に、隣り合うコアシート間で短絡が生じ、モータの効率を十分に向上することができない。
【0007】
そこで、本発明は、寸法精度の低下を抑制しつつフラックスバリアを形成でき、かつ回転電機用コアにおいて短絡が発生することを抑制できる電磁鋼板およびそれを備えた回転電機用コアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の電磁鋼板および回転電機用コアを要旨とする。
【0009】
(1)回転電機用コアを構成するために用いられる電磁鋼板であって、
平板状の主板部と、
前記主板部から前記主板部の厚み方向に突出する加工部と、を備え、
前記加工部の外周部は、前記主板部に対して傾斜しつつ前記厚み方向に直交する方向において前記主板部から離れる方向に延びるように前記主板部から前記厚み方向に突出し、
前記厚み方向から見て前記加工部の前記外周部のうち前記主板部に隣接する全ての部分において、前記加工部の両面は隣接する前記主板部の両面にそれぞれ連続している、電磁鋼板。
【0010】
なお、本明細書においては、主板部の厚み方向から見て、電磁鋼板の任意の部分と、その任意の部分に隣り合う他の部分とが、互いに対応するせん断面を介して隣り合っている場合には、これらの部分は互いに隣接しているとする。言い換えると、電磁鋼板の任意の部分と、その任意の部分に隣り合う他の部分とがせん断加工されることによって分離された2つの部分である場合には、互いに対応する一対のせん断面の間にわずかに隙間が形成されていたとしても、これら2つの部分は互いに隣接しているものとする。一方、主板部の厚み方向から見て、電磁鋼板の任意の部分と他の部分との間に打ち抜き加工によって形成された空間(例えば、フラックスバリアとしての空隙)が存在している場合には、これら2つの部分は互いに隣接していないものとする。したがって、本明細書において、主板部の厚み方向から見て、加工部の外周部のうちフラックスバリアとしての空隙に接している部分は主板部に隣接していないものとする。
【0011】
(2)前記主板部の厚み方向から見て、前記加工部の前記外周部のうちの一部は空間に接している、上記(1)に記載の電磁鋼板。
【0012】
(3)前記加工部は、前記回転電機用コアにおいてフラックスバリアとして用いられる、上記(1)または(2)に記載の電磁鋼板。
【0013】
(4)前記主板部および前記加工部の両面に形成された絶縁被膜をさらに備え、
前記絶縁被膜は、前記主板部と当該主板部に隣接する前記加工部との境界の全体を覆うように、前記主板部から前記加工部に亘って連続して形成されている、上記(1)から(3)のいずれかに記載の電磁鋼板。
【0014】
(5)前記加工部の外周部のうち前記主板部に隣接する前記全ての部分の、前記主板部に対する傾斜角度は、80°以下である、上記(1)から(4)のいずれかに記載の電磁鋼板。
【0015】
(6)前記加工部は、前記厚み方向に直交する方向から見て、前記主板部に対して傾斜する複数の傾斜板部を含む、上記(1)から(5)のいずれかに記載の電磁鋼板。
【0016】
(7)前記傾斜板部の表面に直交する方向における当該傾斜板部の厚みは、前記主板部の厚みの0.9倍以下である、上記(6)に記載の電磁鋼板。
【0017】
(8)前記主板部の前記厚み方向における前記傾斜板部の厚みは、前記主板部の厚みの0.95~1.05倍の間である、上記(6)または(7)に記載の電磁鋼板。
【0018】
(9)前記傾斜板部の前記主板部に対する傾斜角度は80°以下である、上記(6)から(8)のいずれかに記載の電磁鋼板。
【0019】
(10)前記加工部は、前記厚み方向に直交する方向から見て、前記主板部に対して傾斜しつつ前記主板部に対して前記厚み方向における一方側に突出する少なくとも2つの第1傾斜板部と、前記主板部に対して傾斜しつつ前記主板部に対して前記厚み方向における他方側に突出する少なくとも2つの第2傾斜板部とを含む、上記(1)から(9)のいずれかに記載の電磁鋼板。
【0020】
(11)前記加工部の前記厚み方向における一方側および他方側の面の表面積はそれぞれ、前記加工部を前記厚み方向に投影して得られる投影図の面積の1.1倍以上である、上記(1)から(10)のいずれかに記載の電磁鋼板。
【0021】
(12)上記(1)から(11)のいずれかに記載の複数の前記電磁鋼板を積層した積層鋼板からなる回転電機用コア。
【0022】
(13)前記複数の電磁鋼板は、前記主板部が前記厚み方向において互いに重なり、かつ前記加工部が前記厚み方向において互いに重なるように積層されており、
前記主板部が重なっている部分および前記加工部が重なっている部分のそれぞれにおいて、前記厚み方向における前記電磁鋼板の占積率は、90%以上である、上記(12)に記載の回転電機用コア。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、寸法精度の低下を抑制しつつフラックスバリアを形成でき、かつ回転電機用コアにおいて短絡が発生することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る回転電機用コアを備えた回転電機の一部を示す図である。
【
図2】
図2は、フラックスバリアを説明するための図である。
【
図3】
図3は、主板部および加工部を模式的に示した図である。
【
図5】
図5は、加工部のその他の例を示す図である。
【
図7】
図7は、フラックスバリアの他の例を示す図である。
【
図8】
図8は、フラックスバリアのその他の例を示す図である。
【
図9】
図9は、加工部のその他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態に係る電磁鋼板およびそれを備えた回転電機用コアについて図面を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る回転電機用コアを備えた回転電機の一部を示す図である。なお、
図1には、回転電機の一例としてリラクタンスモータを示している。
【0026】
図1に示すように、回転電機10は、ステータコア12および本発明の一実施形態に係るロータコア14を備える。なお、
図1には、ステータコア12およびロータコア14を、ロータコア14の回転軸方向から見た図を示している。また、
図1においては、ステータコア12およびロータコア14それぞれについて、周方向における1/4の領域を示している。
【0027】
図1においては、回転電機10のうち、ステータコア12およびロータコア14以外の構成についての図示は省略している。ステータコア12およびロータコア14以外の構成については、公知の種々の回転電機の構成を利用できるので、説明は省略する。
【0028】
ステータコア12は、円筒状のヨーク12aと、ヨーク12aからヨーク12aの径方向内側に向かって延びる複数のティース12bとを有する。なお、本実施形態では、ステータコア12の構成として、公知の種々のステータコアの構成を利用できるので、詳細な説明は省略する。
【0029】
ロータコア14は、円筒形状を有し、ステータコア12の内側に回転可能に配置される。ロータコア14には、複数のフラックスバリア14a,14b,14c,14d,14eが形成されている。
【0030】
図2は、フラックスバリアを説明するための図であり、(a)は、
図1のフラックスバリア14aの周辺を示す拡大図であり、(b)は、(a)のb-b断面を示す図であり、(c)は、(a)のc-c断面を示す図である。
【0031】
図2(b),(c)に示すように、ロータコア14は、複数の電磁鋼板(コアシート)16を積層した積層鋼板である。なお、
図2(b),(c)においては、ロータコア14の構成を簡略化して示すために4枚の電磁鋼板16のみを示しているが、電磁鋼板16の枚数は回転電機10に要求される性能等に応じて適宜決定される。
【0032】
各電磁鋼板16は、母材部60と、母材部60の厚み方向(
図2(b),(c)において矢印Xで示す方向。以下、厚み方向Xと記載する。)における両面に形成された絶縁被膜62a,62bとを含む。なお、
図2(a)においては、母材部60の表面形状を示すために、絶縁被膜62aは図示していない。
【0033】
母材部60の化学組成は特に限定されず、公知の電磁鋼板と同様の化学組成とすることができる。また、絶縁被膜62a,62bの種類についても特に限定されず、電磁鋼板の絶縁被膜として用いられる公知の絶縁被膜を用いることが可能である。
【0034】
図2(a)~(c)に示すように、母材部60は、平板状の主板部64と、主板部64から主板部64の厚み方向Xに突出する加工部66とを有する。本実施形態では、各電磁鋼板16の加工部66が主板部64の厚み方向Xにおいて互いに重なるように、複数の電磁鋼板16が積層されている。本実施形態では、互いに重なるように配置された複数の加工部66によって、フラックスバリア14aが構成されている。
【0035】
なお、以下においては、フラックスバリア14aについて主に説明するが、フラックスバリア14b~14eも同様に、加工部66と同様の断面形状を有する複数の加工部を厚み方向Xに重ねることによって構成されている。すなわち、本実施形態では、複数の電磁鋼板16は、各電磁鋼板16の主板部64が厚み方向Xにおいて互いに重なり、かつ各電磁鋼板に形成された複数の加工部が厚み方向Xにおいて互いに重なるように積層されている。
【0036】
図2に示すように、加工部66の外周部は、主板部64に対して傾斜しつつ主板部64から厚み方向Xに突出している。本実施形態では、主板部64の厚み方向Xから見て加工部66の外周部のうち主板部64に隣接する全ての部分が、主板部64に対して傾斜しつつ主板部64から厚み方向Xに突出している。また、主板部64の厚み方向Xから見て加工部66の外周部のうち主板部64に隣接する全ての部分において、加工部66の両面は、隣接する主板部64の両面にそれぞれ連続している。なお、本明細書においては、加工部66の両面がせん断面を介して主板部64の両面に接続されている場合は、加工部66の両面が主板部64の両面に連続しているとはいわない。
【0037】
図2(a)に示すように、本実施形態では、主板部64の厚み方向Xから見て、加工部66の全周が主板部64に隣接している。したがって、本実施形態では、加工部66の外周部の全周が、主板部64に対して傾斜しつつ主板部64から厚み方向Xに突出している。また、加工部66の外周部の全周において、加工部66の両面は、隣接する主板部64の両面にそれぞれ連続している。
【0038】
図2に示すように、本実施形態では、絶縁被膜62a,62bは、主板部64と当該主板部64に隣接する加工部66との境界(
図2(a)において一点鎖線で示す部分)の全体(本実施形態では、全周)を覆うように、主板部64から加工部66に亘って連続して形成されている。
【0039】
図3は、母材部60の主板部64および加工部66を模式的に示した図である。なお、
図3には、
図2(a)のb-b部分に対応する主板部64および加工部66が示されている。
図3に示すように、加工部66の外周部(本実施形態では、上記全ての部分)は、主板部64に対して傾斜しつつ厚み方向Xに直交する方向において主板部64から離れる方向に延びるように、主板部64から厚み方向Xに突出している。言い換えると、主板部64に対する加工部66の外周部(本実施形態では、上記全ての部分)の傾斜角度αは、90°未満である。本実施形態では、傾斜角度αは、80°以下であることが好ましい。
【0040】
本実施形態では、加工部66は、厚み方向Xに直交する方向から見て主板部64に対して傾斜する複数の傾斜板部66a,66b,66c,66dを含む。本実施形態では、各傾斜板部66a,66b,66c,66dの主板部64に対する傾斜角度は、90°未満である。各傾斜板部66a,66b,66c,66dの主板部64に対する傾斜角度は、80°以下であることが好ましい。
【0041】
本実施形態では、素材となる電磁鋼板に対して塑性加工を施すことによって、加工部66が成形される。加工部66は、素材となる電磁鋼板をロータコア14として利用される際の形状(コアシートの形状)に打ち抜き加工する前にプレス成形を行うことによって形成されてもよく、打ち抜き加工した後にプレス成形を行うことによって形成されてもよい。
【0042】
上記のように、加工部66は、素材となる電磁鋼板に対して塑性加工が施された部分であるので、加工部66の透磁率は、主板部64の透磁率よりも低い。本実施形態では、JIS C 2550-1(2011)に規定されたエプスタイン法によって得られる磁場の強さが200A/mの時の磁束密度B2が、主板部64では、0.9T以上であることが好ましく、加工部66では0.5T以下であることが好ましい。
【0043】
図3に示すように、傾斜板部66aの表面に直交する方向における傾斜板部66aの厚みt1は、主板部64の厚みTの0.9倍以下であることが好ましい。傾斜板部66b~66dの厚みについても同様である。この場合、傾斜板部66a~66dにおいて十分な塑性ひずみを生じさせることができ、傾斜板部66a~66dの透磁率を十分に低減することができる。
【0044】
また、主板部64の厚み方向Xにおける傾斜板部66aの厚みt2は、主板部64の厚みTの0.95~1.05倍であることが好ましい。傾斜板部66b~66dの厚みについても同様である。この場合、ロータコア14において主板部64が重なっている部分と、加工部66が重なっている部分とで、厚み方向Xにおける寸法に差が生じることを抑制でき、複数の電磁鋼板16を適切に積層することができる。これにより、厚み方向Xにおける電磁鋼板16の占積率の低下を十分に抑制することができる。本実施形態では、主板部64が重なっている部分および加工部66が重なっている部分のそれぞれにおいて、厚み方向Xにおける電磁鋼板16の占積率が90%以上であることが好ましい。
【0045】
なお、詳細な説明は省略するが、フラックスバリア14b~14dを構成する加工部の傾斜板部の厚みも、傾斜板部66aと同様に設定されることが好ましい。
【0046】
図2に示したように、本実施形態では、加工部66の外周部は主板部64に対して傾斜しつつ突出するように形成されている。このため、主板部64に対して厚み方向Xに平行な方向に陥没するように加工部を形成する場合に比べて、加工部66の一方側および他方側の面の表面積を大きくすることができる。言い換えると、本実施形態で、厚み方向Xにおける加工部66の一方側および他方側の面の表面積をそれぞれ、加工部66を厚み方向Xに投影して得られる投影図の面積よりも大きくすることができる。本実施形態では、厚み方向Xにおける加工部66の一方側および他方側の面の表面積はそれぞれ、加工部66を厚み方向Xに投影して得られる投影図の面積の1.1倍以上であることが好ましい。この場合、加工部66において十分な塑性ひずみを生じさせることができ、加工部66の透磁率を十分に低減することができる。
【0047】
(本実施形態の効果)
以上のように、本実施形態に係るロータコア14では、フラックスバリア14aを構成する加工部66の外周部は、主板部64に対して傾斜しつつ厚み方向Xに突出している。この場合、素材(電磁鋼板)に対して塑性加工を施して加工部66を形成する際に、素材において加工部66となる部分が厚み方向Xに直交する方向に拡がることを抑制しつつ、加工部66となる部分を引き延ばすことができる。これにより、加工部66(フラックスバリア14a)を形成するに際して、加工部66に塑性ひずみを生じさせつつ、ロータコア14(コアシート)の寸法精度が低下すること抑制することができる。
【0048】
また、本実施形態では、上記のように加工部66の外周部が主板部64に対して傾斜しているので、主板部64に対して厚み方向Xに平行な方向に陥没するように加工部を形成する場合に比べて、加工部66における磁路長を長くすることができる。これにより、加工部66のフラックスバリアとしての効果をより高めることができる。
【0049】
また、本実施形態では、主板部64の厚み方向Xから見て加工部66の外周部のうち主板部64に隣接する全ての部分において、加工部66の厚み方向における両面は、隣接する主板部64の両面にそれぞれ連続している。加工部66をこのような形状とすることによって、加工部66を形成する際に、主板部64と加工部66との境界上において絶縁被膜62a,62bに亀裂が生じることを十分に抑制することができる。これにより、複数の電磁鋼板16を積層した際に、電磁鋼板16間において短絡が生じることを抑制できる。
【0050】
以上のように、本実施形態に係るロータコア14によれば、各電磁鋼板(コアシート)16の寸法精度の低下を抑制しつつフラックスバリア14a~14eを形成でき、かつロータコア14において短絡が発生することを抑制できる。
【0051】
また、本実施形態では、素材自体に塑性加工を施すことによってフラックスバリア14a~14eを形成することができるので、空隙によってフラックスバリアを形成する場合に比べて、フラックスバリア14a~14eを形成することによるロータコア14の剛性低下を十分に抑制することができる。
【0052】
また、本実施形態では、フラックスバリア14a~14eにおいて熱を伝達することができるで、空隙によってフラックスバリアを形成する場合に比べて、ロータコア14において生じた熱を回転軸心側に効率よく伝達することができる。これにより、ロータコア14の温度上昇を効率よく抑制することができる。
【0053】
(他の実施形態)
上述の実施形態では、
図2に示したように、加工部66が断面V字形状を有する場合について説明したが、加工部の形状は上述の例に限定されない。例えば、加工部66が断面U字形状を有していてもよい。また、例えば、
図4および
図5に示すように、加工部66が、任意の断面において複数のV字部を有するように形成されてもよい。
【0054】
なお、
図4に示す加工部66は、厚み方向Xに直交する方向から見て、主板部64に対して傾斜しつつ主板部64に対して厚み方向Xにおける一方側に突出する2つの第1傾斜板部68a,68bと、主板部64に対して傾斜しつつ加工部66に対して厚み方向Xにおける一方側および他方側に突出する2つの第2傾斜板部68c,68dとを含む。本実施形態では、第1傾斜板部68aと第2傾斜板部68cとによってV字部67aが形成され、第1傾斜板部68bと第2傾斜板部68dとによってV字部67bが形成され、第2傾斜板部68cと第2傾斜板部68dとによってV字部67cが形成されている。加工部66をこのような凹凸形状とすることによって、加工部66において塑性ひずみをより生じさせやすくなる。
【0055】
また、
図5に示す加工部66は、主板部64に対して傾斜しつつ主板部64に対して厚み方向Xにおける一方側に突出する傾斜板部69a,69b,69c,69dと、主板部64に対して平行な平板部70とを含む。本実施形態においても、
図4に示した場合と同様に、加工部66を凹凸形状とすることによって、加工部66において塑性ひずみを生じさせやすくなる。なお、本実施形態では、平板部70は、塑性加工が施されていてもよく、塑性加工が施されていなくてもよい。
【0056】
上述の実施形態では、ロータコア14の回転軸方向から見て、フラックスバリア14a~14eがそれぞれ円弧形状を有する場合について説明したが、ロータコア14に形成されるフラックスバリアの位置および形状は上述の例に限定されない。例えば、
図6に示す回転電機10aのように、ロータコア15の径方向に直線状に延びるように、複数のフラックスバリア15aを形成してもよい。なお、フラックスバリア15aを構成する加工部が、上述の実施形態と同様に断面V字形状またはU字形状を呈する部分(V字部またはU字部)を有する場合には、例えば、V字部またはU字部が、応力印加方向に沿って延びるように、加工部を形成してもよい。具体的には、ロータコア15の径方向に延びるように加工部を形成してもよい。この場合、ロータコア15に作用する遠心力に対して、ロータコア15の剛性を十分に確保することが可能になる。なお、フラックスバリアを構成する加工部の向きおよび形状は、ロータコアに作用する応力等を考慮して適宜決定することができる。
【0057】
図2に示した上述の実施形態では、複数の加工部66を重ねることによってフラックスバリア14aを形成する場合について説明したが、ロータコアが、複数の加工部を重ねることによって形成されたフラックスバリアと、空隙によって形成されたフラックスバリアとを備えていてもよい。例えば、
図7に示すように、ロータコア18において、空隙によって形成されたフラックスバリア30a,30bの間に、複数の加工部20を重ねることによって形成されたフラックスバリア32が形成されていてもよい。なお、
図7には、ロータコア18の回転軸方向から見た当該ロータコア18の一部を示している。
【0058】
図7に示すロータコア18では、電磁鋼板22の主板部24の厚み方向から見て、加工部20の外周部のうち主板部24に隣接する全ての部分(
図7において、一点鎖線で示す部分)が、上述の実施形態と同様に、主板部24に対して傾斜しつつ主板部24から上記厚み方向に突出している。また、加工部20の外周部のうち主板部24に隣接する上記全ての部分において、加工部20の両面は、隣接する主板部24の両面にそれぞれ連続している。また、図示は省略するが、上述の実施形態と同様に、主板部24の両面に形成された絶縁被膜は、主板部24と加工部20との境界の全体を覆うように、主板部24から加工部20に亘って連続して形成されている。
【0059】
なお、
図7においては、加工部20が、フラックスバリア30a,30bとしての空隙(空間)に接する場合について説明したが、
図8に示すように、加工部20がロータコア18の外周縁18aまで延びるように形成されることによって、加工部20がロータコア18とステータコア12(
図1参照)との間の空間に接していてもよい。
【0060】
上述の実施形態では、加工部が溝状(V字状、U字状等)の形状を有し、主板部の厚み方向から見て加工部の外周部のうち主板部に隣接する全ての部分が、主板部に対して傾斜する場合について説明した。しかしながら、
図9に示すロータコア34のように、電磁鋼板36の母材部38の加工部38aが、主板部38bに対して厚み方向Xにおける一方側および他方側に交互に突出するように凹凸形状を有していてもよい。なお、
図9において(a)は、ロータコア34の回転軸方向から見た当該ロータコア34の一部を示し、(b)は、(a)のb-b部分を示し、(c)は、(a)のc-c部分を示し、(d)は、(a)のd-d部分を示している。ただし、
図9(b)~(d)においては、ロータコア34を構成する複数の電磁鋼板36のうちの1枚の電磁鋼板36のみを図示している。また、
図9(a)においては、母材部38の両面に形成された絶縁被膜39a,39bの図示は省略している。
【0061】
本実施形態では、
図9(d)に示すように、加工部38aは、主板部38bに対して厚み方向Xに突出しない部分38c(一点鎖線で囲んだ部分。以下、非突出部38cと記載する。)を有している。すなわち、本実施形態では、加工部38aの外周部のうち主板部に隣接する部分のうちの一部は、主板部38bに対して傾斜していない。加工部38aがこのような非突出部38cを有する場合、非突出部38cが応力印加方向に沿って延びるように加工部38aを形成することによって、電磁鋼板36に作用する応力に対して十分な剛性を確保することができる。本実施形態では、例えば、非突出部38cがロータコア34の径方向に延びるように加工部38aを形成してもよい。この場合、ロータコア34に作用する遠心力に対して、ロータコア34の剛性を十分に確保することが可能になる。
【0062】
なお、
図10に示すロータコア40のように、加工部42が、主板部44に対して傾斜する複数の傾斜板部(
図10においては、三角形状の複数の傾斜板部42aおよび四角形状の複数の傾斜板部42b)によって構成された、コーナーキューブアレイのような凹凸形状を有していてもよい。この場合、ロータコア40の周方向および径方向における剛性を十分に確保することができる。
【0063】
上述の実施形態では、本発明をロータコアに適用する場合について説明したが、本発明をステータコアに適用してもよい。例えば、上述のフラックスバリア14aと同様の構成のフラックスバリアを、ステータコア12のヨーク12aに設けてもよい。
【0064】
また、上述の実施形態では、本発明を、リラクタンスモータにおいて利用する場合について説明したが、他の回転電機において本発明を利用してもよい。例えば、永久磁石モータ等の他の公知の種々のモータにおいて本発明を利用してもよく、発電機において本発明を利用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、寸法精度の低下を抑制しつつフラックスバリアを形成でき、かつ回転電機用コアにおいて短絡が発生することを抑制できる。
【符号の説明】
【0066】
10,10a 回転電機
12 ステータコア
14,15,18,34,40 ロータコア
16,22,36 電磁鋼板
38,60 母材部
39a,39b,62a,62b 絶縁被膜
24,38b,44,64 主板部
20,38a,42,66 加工部