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特許7401775パンチ、バーリング加工方法およびバーリング加工品の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】パンチ、バーリング加工方法およびバーリング加工品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 19/08 20060101AFI20231213BHJP
   B21D 24/00 20060101ALI20231213BHJP
   B21D 22/26 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
B21D19/08 D
B21D24/00 F
B21D22/26 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020083783
(22)【出願日】2020-05-12
(65)【公開番号】P2021178333
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】田畑 亮
(72)【発明者】
【氏名】加藤 遼馬
【審査官】石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-201627(JP,A)
【文献】特開平04-327322(JP,A)
【文献】特開平08-010871(JP,A)
【文献】特開2001-038424(JP,A)
【文献】国際公開第2014/017436(WO,A1)
【文献】特開2017-148847(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 19/08
B21D 24/00
B21D 22/26
B21D 28/00-28/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バーリング加工するために用いられるパンチであって、
前記パンチの軸線方向に並ぶ先行加工部、中間加工部および仕上げ加工部を備え、
前記先行加工部は、
前記パンチの軸線回りに周回する周方向に複数配置され、前記パンチの軸線に対して傾斜するとともに前記仕上げ加工部側に向かうに従い前記軸線から離間しつつ大きくなる第1傾斜壁面と、
前記周方向に隣り合う前記第1傾斜壁面を繋ぐ第1稜線と、を備え、
前記中間加工部は、
複数の前記第1傾斜壁面それぞれに連なり、前記周方向に複数配置されるとともに前記仕上げ加工部側に向かうに従い前記軸線から離間しつつ小さくなる第2傾斜壁面と、
前記周方向に隣り合う前記第2傾斜壁面の間に配置され、前記軸線に沿って延びるとともに前記軸線方向に沿って前記仕上げ加工部側に向かうに従い大きくなる第1直壁面と、
前記周方向に隣り合う前記第2傾斜壁面と前記第1直壁面とを繋ぎ、前記第1稜線に連なる第2稜線と、を備え、
前記仕上げ加工部は、
複数の前記第1直壁面それぞれに連なり、前記周方向に複数配置された第2直壁面と、
前記周方向に隣り合う前記第2直壁面を繋ぐ隅壁面と、を備えるパンチ。
【請求項2】
前記第1傾斜壁面および前記第2傾斜壁面は、同一平面によって形成されている請求項1に記載のパンチ。
【請求項3】
前記第1傾斜壁面および前記第2傾斜壁面それぞれが前記軸線に対してなす傾斜角度は、10°以上80°以下である請求項1または2に記載のパンチ。
【請求項4】
前記第1直壁面および前記第2直壁面は、同一平面によって形成されている請求項1から3のいずれか1項に記載のパンチ。
【請求項5】
前記第1稜線を、前記第1稜線が延びる方向に直交する横断面で見たときに、前記第1稜線は、外側に向けて凸となる曲線をなす請求項1から4のいずれか1項に記載のパンチ。
【請求項6】
前記第1稜線がなす曲線の曲率半径は、1mm以上20mm以下である請求項5に記載のパンチ。
【請求項7】
前記第2稜線を、前記第2稜線が延びる方向に直交する横断面で見たときに、前記第2稜線は、外側に向けて凸となる曲線をなす請求項1から6のいずれか1項に記載のパンチ。
【請求項8】
前記第2稜線がなす曲線の曲率半径は、1mm以上20mm以下である請求項7に記載のパンチ。
【請求項9】
ブランクに形成された平面視非真円形状の下穴に、請求項1から8のいずれか1項に記載のパンチを用いてバーリング加工する方法であって、
前記パンチの前記先行加工部、前記中間加工部、前記仕上げ加工部が順に前記下穴をバーリング加工し、
前記先行加工部が前記ブランクを加工するときには、前記第1稜線が前記下穴を加工し、
前記中間加工部が前記ブランクを加工するときには、前記第1直壁面および前記第2稜線が前記下穴を加工し、
前記仕上げ加工部が前記ブランクを加工するときには、前記第2直壁面および前記隅壁面が前記下穴を加工するバーリング加工方法。
【請求項10】
前記下穴が平面視多角形状であり、
前記パンチは、前記平面視多角形状の複数の辺部それぞれにおいて、各前記辺部を間に挟む一対の前記平面視多角形状の角部から離れて位置する所定の領域を先行してバーリング加工し、その後、前記所定の領域から一対の前記角部それぞれに向けて逐次バーリング加工する請求項9に記載のバーリング加工方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載のバーリング加工方法により、前記ブランクにバーリング部が加工されてなるバーリング加工品を製造するバーリング加工品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パンチ、バーリング加工方法およびバーリング加工品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車体部品に適用される鋼板の高強度・薄肉化が推進される中、高強度化に伴いプレス成形時の伸びフランジ破断(材料端部の破断)が課題となっている(例えば、下記特許文献1、2参照)。
一般に、多角形状のバーリング加工においては、予め素板に打ち抜き加工や切削加工により多角形の下穴が設けられている。そして、下穴よりも大きいパンチを押し込むことによって、バーリング部が成形される。その際に、バーリング部の辺部については、パンチのストローク方向に対して素板が押し曲げられる単純なフランジ成形となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2014/017436号
【文献】特開2017-148847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、穴縁の角部については、下穴の平面視において辺部よりも曲率が大きい高曲率部であることもあり、素板が穴の周方向に伸ばされながら曲げられる伸びフランジ成形となる。そのため、延性の低い高強度鋼板をバーリング加工する際には、角部での、き裂発生が課題となる。
【0005】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、バーリング部の破断を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
本発明の一態様は、バーリング加工するために用いられるパンチであって、前記パンチの軸線方向に並ぶ先行加工部、中間加工部および仕上げ加工部を備え、前記先行加工部は、前記パンチの軸線回りに周回する周方向に複数配置され、前記パンチの軸線に対して傾斜するとともに前記仕上げ加工部側に向かうに従い前記軸線から離間しつつ大きくなる第1傾斜壁面と、前記周方向に隣り合う前記第1傾斜壁面を繋ぐ第1稜線と、を備え、前記中間加工部は、複数の前記第1傾斜壁面それぞれに連なり、前記周方向に複数配置されるとともに前記仕上げ加工部側に向かうに従い前記軸線から離間しつつ小さくなる第2傾斜壁面と、前記周方向に隣り合う前記第2傾斜壁面の間に配置され、前記軸線に沿って延びるとともに前記仕上げ加工部側に向かうに従い大きくなる第1直壁面と、前記周方向に隣り合う前記第2傾斜壁面と前記第1直壁面とを繋ぎ、前記第1稜線に連なる第2稜線と、を備え、前記仕上げ加工部は、複数の前記第1直壁面それぞれに連なり、前記周方向に複数配置された第2直壁面と、前記周方向に隣り合う前記第2直壁面を繋ぐ隅壁面と、を備える。
【0007】
ブランクとパンチとが軸線方向に相対的に接近し、ブランクの下穴にパンチが挿入されることで、先行加工部、中間加工部、仕上げ加工部が順に下穴をバーリング加工する。
先行加工部がブランクを加工するときには、第1稜線が下穴を加工する。これにより、パンチが、下穴の穴縁のうちの所定の領域を先行してバーリング加工する。
その後、中間加工部がブランクを加工するときには、第1直壁面および第2稜線が下穴を加工する。これにより、パンチが、下穴の穴縁を、前記所定の領域から下穴の穴縁に沿って広がるように逐次バーリング加工する。
そして、仕上げ加工部がブランクを加工するときには、第2直壁面および隅壁面が下穴を加工する。これにより、パンチがバーリング部をその全周にわたって仕上げ加工する。
以上より、このパンチによれば、下穴の穴縁において、所定の領域から下穴の穴縁に沿って広がるように逐次的にバーリング部を成形することができる。よって、下穴の平面視において、下穴の穴縁のうちの曲率が低い低曲率部を先行してバーリング加工することで、成形の過程で、バーリング部において平面視での曲率が高い高曲率部の中央を伸ばしながら成形するのではなく、高曲率部に周囲から材料を流入させながら成形するこができる。その結果、バーリング部でのき裂発生を抑制することが可能になり、成形性を向上させることができる。
【0008】
前記第1傾斜壁面および前記第2傾斜壁面は、同一平面によって形成されていてもよい。
【0009】
第1傾斜壁面および第2傾斜壁面が、同一平面によって形成されている。したがって、パンチの形状を簡素なものとすることができる。
【0010】
前記第1傾斜壁面および前記第2傾斜壁面それぞれが前記軸線に対してなす傾斜角度は、10°以上80°以下であってもよい。
【0011】
前記傾斜角度が10°以上80°以下であることによって、前記傾斜壁面を利用して、下穴の穴縁を、所定の領域から下穴の穴縁に沿って広がるように逐次的にバーリング加工し、高曲率部に周囲から材料を流入させ成形性を向上させることがより容易になる。
【0012】
前記第1直壁面および前記第2直壁面は、同一平面によって形成されていてもよい。
【0013】
第1直壁面および第2直壁面が、同一平面によって形成されている。したがって、パンチの形状を簡素なものとすることができる。
【0014】
前記第1稜線を、前記第1稜線が延びる方向に直交する横断面で見たときに、前記第1稜線は、外側に向けて凸となる曲線をなしてもよい。
【0015】
前記横断面で見たときに、第1稜線が外側に向けて凸となる曲線をなす。したがって、例えば、前記横断面で見たときに、第1稜線が外側に向けて凸となる鋭角をなす場合に比べて、第1稜線が下穴を加工するときに、下穴の穴縁に過度な負荷が集中するのを抑制することができる。よって、成形性を更に高めることができる。
【0016】
前記第1稜線がなす曲線の曲率半径は、1mm以上20mm以下であってもよい。
【0017】
前記曲率半径が1mm以上20mm以下であることによって、第1稜線を利用して、下穴の穴縁の所定の領域から下穴の穴縁に沿って逐次的に広がるようにバーリング加工することが容易になる。そのため、高曲率部に周囲から材料を流入させ成形性を向上させることがより容易になる。
【0018】
前記第2稜線を、前記第2稜線が延びる方向に直交する横断面で見たときに、前記第2稜線は、外側に向けて凸となる曲線をなしてもよい。
【0019】
前記横断面で見たときに、第2稜線が外側に向けて凸となる曲線をなす。したがって、例えば、前記横断面で見たときに、第2稜線が外側に向けて凸となる鋭角をなす場合に比べて、第2稜線が下穴を加工するときに、下穴の穴縁に過度な負荷が集中するのを抑制することができる。よって、成形性を更に高めることができる。
【0020】
前記第2稜線がなす曲線の曲率半径は、1mm以上20mm以下であってもよい。
【0021】
前記曲率半径が1mm以上20mm以下であることによって、第2稜線を利用して、下穴の穴縁を、所定の領域から下穴の穴縁に沿って広がるように逐次的にバーリング加工し、高曲率部に周囲から材料を流入させ成形性を向上させることがより容易になる。
【0022】
本発明の一態様は、ブランクに形成された平面視非真円形状の下穴に、前記パンチを用いてバーリング加工する方法であって、前記パンチの前記先行加工部、前記中間加工部、前記仕上げ加工部が順に前記下穴をバーリング加工し、前記先行加工部が前記ブランクを加工するときには、前記第1稜線が前記下穴を加工し、前記中間加工部が前記ブランクを加工するときには、前記第1直壁面および前記第2稜線が前記下穴を加工し、前記仕上げ加工部が前記ブランクを加工するときには、前記第2直壁面および前記隅壁面が前記下穴を加工する。
【0023】
前記下穴が平面視多角形状であり、前記パンチは、前記平面視多角形状の複数の辺部それぞれにおいて、各前記辺部を間に挟む一対の前記平面視多角形状の角部から離れて位置する所定の領域を先行してバーリング加工し、その後、前記所定の領域から一対の前記角部それぞれに向けて逐次バーリング加工してもよい。
【0024】
この場合、先行加工部がブランクを加工するときには、第1稜線が辺部を加工する。これにより、パンチが、複数の辺部それぞれにおいて、各辺部を間に挟む一対の角部から離れて位置する所定の領域を先行してバーリング加工する。
その後、中間加工部がブランクを加工するときには、第1直壁面および第2稜線が辺部および角部を加工する。これにより、パンチが、前記所定の領域から一対の角部それぞれに向けて逐次バーリング加工する。
そして、仕上げ加工部がブランクを加工するときには、第2直壁面および隅壁面が辺部および角部を加工する。これにより、パンチがバーリング部をその全周にわたって仕上げ加工する。
以上より、このバーリング加工方法によれば、辺部のうちの所定の領域から角部にかけて逐次的にバーリング部を成形することができる。これにより、成形の過程でバーリング部における角部の中央を伸ばしながら成形するのではなく、角部の中央に周囲から材料を流入させながら成形するこができる。その結果、バーリング部における角部での、き裂発生を抑制することが可能になり、成形性を向上させることができる。
【0025】
本発明の一態様は、前記バーリング加工方法により、前記ブランクにバーリング部が加工されてなるバーリング加工品を製造するバーリング加工品の製造方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、バーリング部の破断を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態に係るバーリング加工装置によって加工されるブランクの一部を示す斜視図である。
図2図1に示すブランクがバーリング加工されてなるバーリング加工品の一部を示す斜視図である。
図3】本発明の一実施形態に係るバーリング加工装置を示す側面図である。
図4図3に示すバーリング加工装置における要部を示す斜視図である。
図5図3に示すバーリング加工装置を構成するパンチの斜視図である。
図6図5に示すパンチの平面図である。
図7図5に示すパンチの側面図である。
図8図5に示すVIII-VIII断面矢視図である。
図9図5に示すIX-IX断面矢視図である。
図10図3に示すバーリング加工装置によってブランクをバーリング加工する過程を示す図であって、先行加工部がブランクを加工している状態を示す側面図である。
図11図10に示すバーリング加工装置における要部を示す斜視図である。
図12図3に示すバーリング加工装置によってブランクをバーリング加工する過程を示す図であって、中間加工部がブランクを加工している状態を示す側面図である。
図13図12に示すバーリング加工装置における要部を示す斜視図である。
図14図3に示すバーリング加工装置によってブランクをバーリング加工する過程を示す図であって、仕上げ加工部がブランクを加工している状態を示す側面図である。
図15図14に示すバーリング加工装置における要部を示す斜視図である。
図16】比較例のバーリング加工装置を構成するパンチの斜視図である。
図17図16に示すバーリング加工装置によってブランクをバーリング加工する過程を示す斜視図である。
図18】検証試験の実施例に係るバーリング加工装置によって製造されたバーリング加工品のせん断ひずみ量についてのコンター図である。
図19図18に示すXIX矢視図である。
図20】検証試験の比較例に係るバーリング加工装置によって製造されたバーリング加工品のせん断ひずみ量についてのコンター図である。
図21図20に示すXXI矢視図である。
図22】検証試験の実施例に係るバーリング加工装置によって製造されたバーリング加工品のせん断ひずみと伸びフランジ変形との関係について説明するためのバーリング加工品の斜視図である。
図23】検証試験の比較例に係るバーリング加工装置によって製造されたバーリング加工品のせん断ひずみと伸びフランジ変形との関係について説明するためのバーリング加工品の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図1から図23を参照し、本発明の一実施形態に係るパンチ50を備えるバーリング加工装置20(プレス加工装置)を説明する。
【0029】
(ブランク10)
バーリング加工装置20の説明にあたり、バーリング加工装置20により加工されるブランク10(ブランクシート)について説明する。
【0030】
図1は、ブランク10の一部を示す斜視図である。ブランク10の厚さは、例えば、0.4mm以上2.9mm以下である。ブランク10の厚さは、例えば、ブランク10において、後述する下穴11の軸線を中心とする同一円周上において周方向に等間隔をあけた5か所の板厚の平均値を採用することができる。ブランク10の引張強さは、例えば、590MPa以上である。ブランク10の引張強さは、例えば、JIS Z 2241:2011により測定することができる。ブランク10は、例えば、鋼やアルミニウム合金などの金属、具体的には、厚さ2.9mm以下、引張強さ590MPa以上1470MPa以下の鋼板などにより形成される。
【0031】
ブランク10には、平面視非真円形状の下穴11が形成されている。図示の例では、下穴11は、平面視正多角形状、具体的には平面視正方形状に形成されている。下穴11は、辺部12(低曲率部)と、角部13(高曲率部)と、を備えている。辺部12および角部13は、いずれも下穴11の穴縁11aである。辺部12は、前記平面視多角形状の辺部である。角部13は、前記平面視多角形状の角部である。
【0032】
なお、本発明において、正方形状等を含む多角形状は、厳密な意味での多角形状に限定されない。多角形状を形成する複数の角部のうち一部または全部は、曲線で構成されていてもよい。多角形状の角部が曲線で形成される場合、当該曲線は、単一の円弧によって形成されていてもよく、複数の円弧によって形成されていてもよい。また、多角形状を形成する複数の辺部のうち一部または全部は、曲線で構成されていてもよい。多角形状の辺部が曲線で形成される場合、当該曲線は、単一の円弧によって形成されていてもよく、複数の円弧によって形成されていてもよい。ただし、多角形状の角部および辺部がともに曲線で形成される場合、多角形状の角部を形成する曲線では、多角形状の辺部を形成する曲線より曲率が大きくなる。
図1に例示した下穴11は、正方形状の全ての角部が単一の円弧によって形成されるとともに、全ての辺部が直線によって形成されている。言い換えると、角部13は平面視円弧状をなし、辺部12は平面視直線状をなす。
【0033】
なお本実施形態の変形例において、下穴11の平面視形状は、正方形状に限られない。下穴11の平面視形状は、正方形状以外の正多角形状であってもよい。例えば、下穴11の平面視形状は、正三角形状や正五角形などであってもよい、さらに本実施形態の変形例において、下穴11の平面視形状は、正多角形状に限られない。例えば、下穴11の平面視形状は、正方形状ではない矩形状であってもよく、非対称な(いびつな)多角形状であってもよい。
【0034】
(バーリング加工品10A)
バーリング加工装置20は、図2に示すように、ブランク10の下穴11にバーリング加工を施す。バーリング加工は、ブランク10にバーリング部15を加工する方法である。ブランク10にバーリング加工を施すことにより、ブランク10にバーリング部15が加工されてなるバーリング加工品10Aが製造される。
【0035】
バーリング部15は、ブランク10から、ブランク10の板厚方向に立ち上がっている。バーリング部15の高さは、例えば、4mm以上15mm以下である。バーリング部15の高さは、例えば、周方向に等間隔をあけた5か所の高さの平均値を採用することができる。バーリング部15は、周方向に連続して延びている。バーリング部15は、筒状に形成されている。
【0036】
バーリング部15は、平面視多角形状に形成されている。本実施形態では、バーリング部15は、平面視正方形状に形成されている。バーリング部15は、辺部16と、角部17と、を備えている。辺部16は、前記平面視多角形状の辺部である。角部17は、前記平面視多角形状の角部である。角部17は、平面視円弧状をなし、辺部16は平面視直線状をなす。
【0037】
バーリング部15は、下穴11の穴縁11aを板厚方向(ブランク10の面外)に曲げ加工することで形成される。このような曲げ加工において、下穴11の穴縁11aは下穴11の周方向に伸びる。すなわち、バーリング部15は、下穴11の穴縁11aが伸びフランジ成形されることで形成される。
【0038】
(バーリング加工装置20)
次に、バーリング加工装置20について説明する。
図3および図4に示すように、バーリング加工装置20は、ダイ30と、ブランクホルダー40と、パンチ50と、を備えている。これらのダイ30、ブランクホルダー40およびパンチ50には、一般的なプレス金型に用いられる公知の材料を適宜採用することができる。
【0039】
ダイ30およびブランクホルダー40は、ブランク10を、ブランク10の板厚方向に挟む。ブランク10は、ダイ30およびブランクホルダー40によって、板厚方向に固定される。ダイ30およびブランクホルダー40それぞれには、開口31、41が形成されている。ダイ30およびブランクホルダー40の各開口31、41の平面視形状は、ブランク10の下穴11の平面視形状よりも大きい。ダイ30およびブランクホルダー40がブランク10を挟んだ状態で、ダイ30およびブランクホルダー40の各開口31、41は、ブランク10の下穴11と同軸に配置される。
【0040】
パンチ50は、ダイ30およびブランクホルダー40に挟まれたブランク10の下穴11と同軸に配置された状態で、ブランク10に接近し、下穴11に挿入される。パンチ50は、パンチ50の軸線O方向に平行移動(進退)する。バーリング加工を施す前において、パンチ50は、ブランクホルダー40を間に挟んでダイ30の反対側に配置されている。パンチ50は、軸線O方向に沿って、ブランク10に対してブランクホルダー40が位置する側から、ブランク10に接近する。
【0041】
パンチ50の大きさは、ダイ30およびブランクホルダー40の各開口31、41を通過可能な大きさである。パンチ50は、ブランクホルダー40の開口41を通過しながら、ブランク10の下穴11の穴縁11aを、ダイ30の開口31内に向けて曲げ変形(曲げフランジ成形)させる。パンチ50は、ダイ30と協働してバーリング部15を加工する。パンチ50がブランク10の下穴11の穴縁11aを曲げ変形させているとき、ブランク10のうちの曲げ変形している部分は、パンチ50とダイ30との間に挟まれる。
【0042】
(パンチ50)
図5から図9に示すように、パンチ50は、軸線O方向に並ぶ先行加工部51、中間加工部52および仕上げ加工部53を備えている。なお以下では、軸線O方向に沿う先行加工部51側を、軸線O方向の第1側D1という。軸線O方向に沿う仕上げ加工部53側を、軸線O方向の第2側D2という。パンチ50の軸線O回りに周回する方向を周方向という。パンチ50の軸線Oに直交する方向を径方向という。径方向に沿って軸線Oに近づく側を径方向の内側という。径方向に沿って軸線Oから離れる側を径方向の外側という。
【0043】
先行加工部51は、多角錘状である。本実施形態では、先行加工部51は、正多角錘状、より具体的には、正四角錘状である。なお本実施形態の変形例において、先行加工部51は、多角錘状に限られず、例えば、多角錘台状であってもよい。ここで、多角錘状および多角錘台状は、軸線O方向に直交する横断面視において、前述したような多角形状をなす形状である。
【0044】
先行加工部51は、第1傾斜壁面54と、第1稜線55と、を備えている。
第1傾斜壁面54は、周方向に複数配置されている。複数の第1傾斜壁面54は、互いに同等の形状かつ同等の大きさである。なお本実施形態の変形例において、複数の第1傾斜壁面54は、それぞれ互いに異なる形状であってもよく、互いに異なる大きさであってもよい。
【0045】
各第1傾斜壁面54は、平面によって形成されている。各第1傾斜壁面54は、軸線Oに対して傾斜するとともに仕上げ加工部53に向かうに従い軸線Oから離間しつつ大きくなる。各第1傾斜壁面54は、第1側D1から第2側D2に向かうに従い、径方向の外側に延びている。各第1傾斜壁面54が軸線Oに対してなす傾斜角度θ1は、10°以上80°以下であることが好ましい。各第1傾斜壁面54は、第1側D1から第2側D2に向かうに従い、周方向に大きく(幅広に)なっている。各第1傾斜壁面54は、第1側D1に向けて凸となる二等辺三角形状である。
【0046】
第1稜線55は、周方向に隣り合う第1傾斜壁面54を繋ぐ。第1稜線55は、周方向に隣り合う第1傾斜壁面54の等辺(頂角を挟む辺)を繋ぐ。各第1稜線55は、軸線Oに対して傾斜している。各第1稜線55は、第1側D1から第2側D2に向かうに従い、径方向の外側に延びている。第1稜線55が軸線Oに対してなす傾斜角度θ2(図5参照)は、10°以上80°以下であることが好ましい。第1稜線55が軸線Oに対してなす傾斜角度θ2は、第1傾斜壁面54が軸線Oに対してなす傾斜角度θ1よりも大きい。
【0047】
図8に示すように、第1稜線55を、第1稜線55が延びる方向に直交する横断面で見たときに、第1稜線55は、外側に向けて凸となる曲線をなす。第1稜線55がなす曲線の曲率半径R1は、1mm以上20mm以下である。曲率半径R1は、例えば、前記延びる方向に等間隔をあけた5か所の曲率半径の平均値を採用することができる。
なお本実施形態の変形例において、第1稜線55は前記横断面で見たときに、曲線をなしていなくてもよく、例えば、鋭角をなしていてもよい。
【0048】
図5から図7に示すように、仕上げ加工部53は、多角柱状である。本実施形態では、仕上げ加工部53は、正多角柱状、具体的には正四角柱状である。ここで多角柱状は、軸線O方向に直交する横断面視において、前述したような多角形状をなす形状である。仕上げ加工部53の平面視形状は、バーリング部15の内周の平面視形状と同一である。パンチ50を平面視したときに、仕上げ加工部53は、先行加工部51に外接している。
【0049】
仕上げ加工部53は、第2直壁面56と、隅壁面57と、を備えている。
第2直壁面56は、後述する中間加工部52を形成する第1直壁面59に連なり、周方向に複数配置されている。複数の第2直壁面56は、互いに同等の形状かつ同等の大きさである。なお本実施形態の変形例において、複数の第2直壁面56は、それぞれ互いに異なる形状であってもよく、互いに異なる大きさであってもよい。
【0050】
各第2直壁面56は、平面によって形成されている。各第2直壁面56は、軸線Oに沿って延びている。各第2直壁面56は、軸線O方向に位置によらず周方向の大きさが同一である。各第2直壁面56は、矩形状である。
なお、第2直壁面56が軸線Oに沿って延びていることには、第2直壁面56が軸線Oに完全に平行である場合だけでなく、第2直壁面56が軸線Oに対してわずかに傾斜している場合が含まれる。この場合における傾斜角度は、例えば5°以下である。
【0051】
隅壁面57は、周方向に隣り合う第2直壁面56を繋ぐ。隅壁面57は、径方向の外側に向けて凸となる凸曲面によって形成されている。パンチ50の軸線Oに直交する横断面で見たときに、隅壁面57は、径方向の外側に向けて凸となる曲線をなす。隅壁面57は、軸線Oに沿って延びている。
隅壁面57は、先行加工部51の第1稜線55に対して周方向にずらされて配置されている。隅壁面57と第1稜線55とは、周方向に交互に配置されている。
【0052】
中間加工部52は、先行加工部51と仕上げ加工部53とを繋ぐ。中間加工部52は、第2傾斜壁面58と、第1直壁面59と、第2稜線60と、を備えている。
第2傾斜壁面58は、周方向に複数配置されている。第2傾斜壁面58は、仕上げ加工部53側に向かうに従い軸線Oから離間しつつ小さくなる。複数の第2傾斜壁面58は、互いに同等の形状かつ同等の大きさである。なお本実施形態の変形例において、複数の第2傾斜壁面58は、それぞれ互いに異なる形状であってもよく、互いに異なる大きさであってもよい。
【0053】
各第2傾斜壁面58は、平面によって形成されている。各第2傾斜壁面58は、軸線Oに対して傾斜している。各第2傾斜壁面58は、第1側D1から第2側D2に向かうに従い、径方向の外側に延びている。各第2傾斜壁面58が軸線Oに対してなす傾斜角度θ3(図5参照)は、10°以上80°以下である。
各第2傾斜壁面58は、第1側D1から第2側D2に向かうに従い、周方向に小さく(幅狭に)なっている。各第2傾斜壁面58は、第2側D2に向けて凸となる二等辺三角形状である。各第2傾斜壁面58の頂角は、仕上げ加工部53の隅壁面57と軸線O方向に隣り合う。
【0054】
第2傾斜壁面58は、複数の前記第1傾斜壁面54それぞれに連なる。本実施形態では、第1傾斜壁面54および第2傾斜壁面58の各傾斜角度θ1、θ3が、同一である。第1傾斜壁面54および第2傾斜壁面58は、同一平面によって形成されている。第1傾斜壁面54および第2傾斜壁面58を形成する平面は、ひし形状である。
なお本実施形態の変形例において、第1傾斜壁面54および第2傾斜壁面58が同一平面によって形成されていなくてもよい。例えば、第1傾斜壁面54および第2傾斜壁面58の傾斜角度θ1、θ3が、互いに異なっていてもよい。
【0055】
第1直壁面59は、周方向に隣り合う第2傾斜壁面58の間に配置されている。第1直壁面59は、軸線Oに沿って延びるとともに仕上げ加工部53側に向かうに従い大きくなる。第1直壁面59は、周方向に複数配置されている。複数の第1直壁面59は、互いに同等の形状かつ同等の大きさである。なお本実施形態の変形例において、複数の第1直壁面59は、それぞれ互いに異なる形状であってもよく、互いに異なる大きさであってもよい。
各第1直壁面59は、平面によって形成されている。各第1直壁面59は、軸線Oに沿って延びている。各第1直壁面59は、第1側D1から第2側D2に向かうに従い周方向に大きく(幅広に)なっている。各第1直壁面59は、第1側D1に向けて凸となる二等辺三角形状である。
【0056】
なお、第1直壁面59が軸線Oに沿って延びていることには、第1直壁面59が軸線Oに完全に平行である場合だけでなく、第1直壁面59が軸線Oに対してわずかに傾斜している場合が含まれる。この場合における傾斜角度は、例えば5°以下である。
各第1直壁面59は、複数の第2直壁面56それぞれに連なっている。第1直壁面59および第2直壁面56は、同一平面によって形成されている。
【0057】
第2稜線60は、周方向に隣り合う第2傾斜壁面58と第1直壁面59を繋ぐ。第2稜線60は、第2傾斜壁面58がなす二等辺三角形の等辺(頂角を挟む辺)と、第1直壁面59がなす二等辺三角形の等辺(頂角を挟む辺)と、を繋ぐ。
第2稜線60は、周方向に複数配置されている。第2稜線60は、全周にわたって配置されている。周方向に隣り合う第2稜線60は、互いに連なっている。以上により、第2稜線60は、周方向の全周にわたって連続して延びている。第2稜線60は、第1側D1および第2側D2に交互に波打ちながら周方向に延びている。
【0058】
第1直壁面59を間に挟んで周方向に隣り合う2つの第2稜線60は、第1側D1に向けて凸となる鋭角をなす。この鋭角は、第1稜線55の第2側D2の端部に連なっている。各第2稜線60は、第1直壁面59を正面(径方向の外側)から見た正面視において、軸線Oに直交する仮想線L(図7参照)に対して傾斜している。各第2稜線60は、第1側D1から第2側D2に向かうに従い、互いに離れていて、第1稜線55から隅壁面57に向けて延びている。第2稜線60が仮想線Lに対してなす傾斜角度θ4は、45°以上80°以下である。
【0059】
第2傾斜壁面58を間に挟んで周方向に隣り合う2つの第2稜線60は、第2側D2に向けて凸となる円弧をなす。この円弧は、第2傾斜壁面58と隅壁面57とを軸線O方向に繋ぐ。
【0060】
図9に示すように、第2稜線60を、第2稜線60が延びる方向に直交する横断面で見たときに、第2稜線60は、外側に向けて凸となる曲線をなす。第2稜線60がなす曲線の曲率半径R2は、1mm以上20mm以下である。曲率半径R2は、例えば、前記延びる方向に等間隔をあけた5か所の曲率半径の平均値を採用することができる。
なお本実施形態の変形例において、第2稜線60は前記横断面で見たときに、曲線をなしていなくてもよく、例えば、鋭角をなしていてもよい。
【0061】
(バーリング加工方法、バーリング加工品の製造方法)
次に、前記バーリング加工装置20を用いたバーリング加工方法について説明する。
図10から図15に示すように、この方法では、ブランク10とパンチ50とが軸線O方向に相対的に接近し、パンチ50がブランク10の下穴11に挿入されることで、先行加工部51、中間加工部52、仕上げ加工部53が順に下穴11をバーリング加工する。本実施形態では、ブランク10がダイ30とブランクホルダー40によって固定された状態で、パンチ50が軸線O方向の第1側D1に前進し、ブランク10に接近する。
【0062】
図10および図11に示すように、先行加工部51がブランク10を加工するときには、第1稜線55が辺部12を加工する。これにより、パンチ50が、複数の辺部12それぞれにおいて、各辺部12を間に挟む一対の角部13から離れて位置する所定の領域を先行してバーリング加工する。具体的には、パンチ50が前進する過程で、まず、第1稜線55が前記所定の領域のうち、径方向の最も内側に位置する部分に接触する。パンチ50が更に前進すると、第1稜線55が前記所定の領域を第1側D1に押圧して第1側D1に曲げ変形させる。このとき、第1稜線55とブランク10とが接触する範囲が、前記所定の領域において径方向の外側に徐々に広がっていく。
【0063】
図12および図13に示すように、その後、中間加工部52がブランク10を加工するときには、第1直壁面59および第2稜線60が辺部12および角部13を加工する。これにより、パンチ50が、前記所定の領域から一対の角部13それぞれに向けて逐次バーリング加工する。具体的には、パンチ50が前進する過程で、まず、第2稜線60のうちの第1稜線55に連なる部分が、前記所定の領域に接触する。パンチ50が更に前進すると、ブランク10のうち、パンチ50(第1直壁面59および第2稜線60)によって曲げ変形される領域が、周方向に徐々に広がっていく。このとき、ブランク10の辺部12の材料が、徐々に角部13に向けて周方向に流れていく。その結果、バーリング部15の辺部16における角部17寄りの部分が、周方向に大きくせん断変形する。
【0064】
図14および図15に示すように、仕上げ加工部53がブランク10を加工するときには、第2直壁面56および隅壁面57が辺部12および角部13を加工する。これにより、パンチ50が、バーリング部15をその全周にわたって仕上げ加工する。
【0065】
以上説明したように、本実施形態に係るバーリング加工方法によれば、辺部12のうちの所定の領域から角部13にかけて逐次的にバーリング部15を成形することができる。これにより、成形の過程でバーリング部15における角部17の中央を伸ばしながら成形するのではなく、角部17の中央に周囲から材料を流入させながら造形するこができる。その結果、バーリング部15における角部17での、き裂発生を抑制することが可能になり、成形性を向上させることができる。
【0066】
第1傾斜壁面54および第2傾斜壁面58が、同一平面によって形成されている。したがって、パンチ50の形状を簡素なものとすることができる。
第1直壁面59および第2直壁面56が、同一平面によって形成されている。したがって、パンチ50の形状を簡素なものとすることができる。
【0067】
第1傾斜壁面54および第2傾斜壁面58の傾斜角度θ1、θ3が10°以上80°以下であることによって、第1傾斜壁面54および第2傾斜壁面58を利用して、辺部12のうちの所定の領域から角部13にかけて逐次的にバーリング加工することが容易になる。その結果、角部13の中央に周囲から材料を流入させ成形性を向上させることがより容易になる。
【0068】
第1稜線55を前記横断面で見たときに、第1稜線55が外側に向けて凸となる曲線をなす。したがって、例えば、前記横断面で見たときに、第1稜線55が外側に向けて凸となる鋭角をなす場合に比べて、第1稜線55が辺部12を加工するときに、辺部12に過度な負荷が集中するのを抑制することができる。よって、成形性を更に高めることができる。
【0069】
第1稜線55がなす曲線の曲率半径R1が1mm以上20mm以下であることによって、第1稜線55を利用して、辺部12の所定の領域から角部13にかけて逐次的にバーリング加工することが容易になる。その結果、角部13の中央に周囲から材料を流入させ成形性を向上させることがより容易になる。
【0070】
第2稜線60を前記横断面で見たときに、第2稜線60が外側に向けて凸となる曲線をなす。したがって、例えば、前記横断面で見たときに、第2稜線60が外側に向けて凸となる鋭角をなす場合に比べて、第2稜線60が辺部12を加工するときに、辺部12に過度な負荷が集中するのを抑制することができる。よって、成形性を更に高めることができる。
【0071】
第2稜線60がなす曲線の曲率半径R2が1mm以上20mm以下であることによって、第2稜線60を利用して、辺部12の所定の領域から角部13にかけて逐次的にバーリング加工し、角部13の中央に周囲から材料を流入させ成形性を向上させることがより容易になる。
【0072】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
例えば前記実施形態では、下穴11が平面視多角形状である。しかしながら、例えば、下穴11が平面視楕円形状であってもよい。下穴11の形状としては、平面視非真円形状(平面視において真円でない形状)である任意の形状を適宜採用することができる。
【0073】
次に、前記バーリング加工装置20、前記バーリング加工方法の効果を検証するための検証試験を実施した。
この検証試験では、シミュレーション(ソフトウェア)上で、実施例および比較例のバーリング加工装置20、20Aを用いてブランク10にバーリング加工を施し、バーリング加工品10A、10Bを製造した。
【0074】
実施例のバーリング加工装置20としては、前記実施形態に係るバーリング加工装置20を準備した。パンチ50の仕上げ加工部53は、角部が単一の円弧によって形成され、かつ、辺部が単一の直線によって形成される平面視正方形状とした。仕上げ加工部53が平面視においてなす正方形状において、4つの辺部それぞれを延長させて互いに交差させることで得られる4つの直角を含む仮想の正方形を規定したとき、この仮想の正方形の一辺を83mmとした。第1稜線55の傾斜角度θ2は45°とした。第1稜線55および第2稜線60それぞれがなす曲線の曲率半径R1、R2は3mmとした。
【0075】
比較例のバーリング加工装置20Aとしては、図16および図17に示すバーリング加工装置20Aを準備した。このバーリング加工装置20Aにおいて、ダイ30およびブランクホルダー40は、実施例に係るバーリング加工装置20と共通している。パンチ50Aの平面視形状は、実施例におけるパンチ50の仕上げ加工部53の平面視形状と同様に、バーリング部15の内周の平面視形状と同一である。
【0076】
これらの実施例および比較例の2種類のバーリング加工装置20、20Aを用いて、引張強さが異なる3種類のブランク10(590MPa級鋼板、780MPa級鋼板、および、980MPa級鋼板)に、バーリング加工を施した。ブランク10の板厚は3mmとした。バーリング部15の下穴11は、角部13が単一の円弧によって形成され、かつ、辺部12が単一の直線によって形成される平面視正方形状とした。下穴11が平面視においてなす正方形状において、4つの辺部12それぞれを延長させて互いに交差させることで得られる4つの直角を含む仮想の正方形を規定したとき、この仮想の正方形の一辺を90mmとした。角部13の曲率半径は20mmとした。
【0077】
さらに、同一種類のバーリング加工装置20、20Aを用いて、同一種類のブランク10をバーリング加工する際においても、バーリング部15の高さを異ならせ、複数種類のバーリング部15を加工した。具体的には、バーリング部15の高さを5mmから17mmまで、2mm刻みに異ならせ、7種類のバーリング部15を加工した。
【0078】
すなわち全体で、2(バーリング加工装置20の種類)×3(ブランク10の引張強さの種類)×7(バーリング部15の高さの種類)=42回のバーリング加工を実施した。
【0079】
そして、各バーリング加工品10A、10Bに加工されたバーリング部15に、き裂が発生しているか否か確認した。
結果を以下の表1に示す。表1では、き裂がない場合を「〇」とし、き裂がある場合を「×」とした。
【0080】
【表1】
【0081】
この結果から、いずれの引張強さを具備するブランク10においても、実施例のバーリング加工装置20によりバーリング加工した場合の方が、バーリング部15を高くしても、き裂の発生が抑制されていることが確認された。
【0082】
なお、前記検証試験において実施したシミュレーションにおいて、実施例、比較例それぞれの場合におけるせん断ひずみ量のコンター図を図18から図21に示す。図18および図19は、実施例のバーリング加工装置20により製造されたバーリング加工品10Aを示す。図20および図21は、比較例のバーリング加工装置20Aにより製造されたバーリング加工品10Bを示す。各コンター図におけるバーリング加工品10A、10Bのバーリング部15のうち、色が濃い領域ほど、せん断ひずみが大きいことを示している。
【0083】
図19に示す実施例の場合と、図21に示す比較例の場合と、を比較すると、実施例のバーリング部15における辺部16と角部17との境界部分において比較例より色が濃くなっていることが確認された。
【0084】
すなわち、実施例のバーリング加工装置20によりバーリング加工品10Aを製造した場合、図22に示すように、下穴11の穴縁11aをバーリング加工する過程で、辺部12と角部13との境界部分A1において、辺部12から角部13に向けてせん断変形している。その結果、角部13の中央A2に向けて材料が流入し、角部13の中央A2における伸びフランジ変形が抑制される。
【0085】
一方、比較例のバーリング加工装置20Aによりバーリング加工品10Bを製造した場合、図23に示すように、下穴11の穴縁11aをバーリング加工する過程で、辺部12と角部13との境界部分A1において、実施例ほどのせん断変形が生じていない。その結果、角部13の中央A2における伸びフランジ変形が、実施例ほどには抑制されず、結果としてき裂が生じる。
【符号の説明】
【0086】
10 ブランク
11 下穴
12 辺部
13 角部
15 バーリング部
20 バーリング加工装置
50 パンチ
51 先行加工部
52 中間加工部
53 仕上げ加工部
54 第1傾斜壁面
55 第1稜線
56 第2直壁面
57 隅壁面
58 第2傾斜壁面
59 第1直壁面
60 第2稜線
O 軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23