(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】往復部材及び支持部材を有するロータリー圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04C 18/356 20060101AFI20231213BHJP
F04C 18/32 20060101ALI20231213BHJP
F04C 29/02 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
F04C18/356 K
F04C18/32
F04C29/02 311A
(21)【出願番号】P 2021044527
(22)【出願日】2021-03-18
【審査請求日】2022-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】岩井 雄大
(72)【発明者】
【氏名】石野 拓也
(72)【発明者】
【氏名】樋口 順英
【審査官】丹治 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-315112(JP,A)
【文献】特開2003-172279(JP,A)
【文献】特開2014-148968(JP,A)
【文献】特開2003-269351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/356
F04C 18/344
F04C 18/32
F04C 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油を貯留する油貯留部(17)を内部に有するケーシング(10)と、
圧縮室(45)を画定するとともに第1方向(M1)に沿って往復する往復部材(43)、及び前記往復部材を支持する支持面(S)を有する支持部材(49A~49F、41)、を有し、前記支持面には第1溝(51)及び第2溝(52)が形成されており、前記第1溝は、前記第1方向に交差する第2方向(M2)に沿って延びるとともに、前記潤滑油を前記第2溝へ渡し、前記第2溝は、前記第1溝の中央部(51c)から前記第1方向に沿って前記圧縮室へ向かって延び
、前記第2溝は、前記圧縮室に近い第3端(52a)及び前記圧縮室から遠い第4端(52b)を有し、前記第3端と前記支持面の輪郭(CT)とは離間している、
圧縮機構(40)と、
を備える、
ロータリー圧縮機(90A、90G)。
【請求項2】
前記第1溝は、第1端(51a)及び第2端(51b)を有し、前記第1端及び前記第2端はいずれも前記支持面の輪郭(CT)に達している、
請求項1に記載のロータリー圧縮機。
【請求項3】
前記第1溝は、前記第1端及び前記第2端の両方から前記潤滑油を取得する、
請求項2に記載のロータリー圧縮機。
【請求項4】
前記第2溝は、前記第4端から前記潤滑油を取得する、
請求項
1から3のいずれか1項に記載のロータリー圧縮機。
【請求項5】
前記支持面には、前記第3端から前記第2方向に延びる分岐溝(53、531、532)、がさらに設けられている、
請求項
1から4のいずれか1項に記載のロータリー圧縮機。
【請求項6】
前記支持面には、複数の前記第2溝が形成されている、
請求項1から
5のいずれか1項に記載のロータリー圧縮機。
【請求項7】
前記第1方向と前記分岐溝は、鋭角(α、β)を形成する、
請求項
5に記載のロータリー圧縮機。
【請求項8】
前記第1溝の幅(W51)は、前記支持面の第1方向に延びる辺(E1)の長さ(L1)の1/20以上である、又は、
前記第2溝の幅(W52)は、前記支持面の第2方向に延びる辺(E2)の長さ(L2)の1/40以上である、
請求項1から
7のいずれか1項に記載のロータリー圧縮機。
【請求項9】
前記支持面において前記第1溝及び前記第2溝が形成する面積(GA)は、前記支持面の面積(SA)の1/50以上である、
請求項1から
8のいずれか1項に記載のロータリー圧縮機。
【請求項10】
前記圧縮機構は、シリンダ(41)、前記シリンダに接しかつ移動する円筒状のピストン(42)、及び、前記シリンダ及び前記ピストンと協働して圧縮室(45)を画定するベーン(43)を有し、
前記往復部材は前記ベーンである、
請求項1から
9のいずれか1項に記載のロータリー圧縮機。
【請求項11】
前記ベーンは、前記ピストンと一体に形成されている、
請求項
10に記載のロータリー圧縮機。
【請求項12】
前記ベーンは、前記ピストンと別体に形成されている、
請求項
10に記載のロータリー圧縮機。
【請求項13】
請求項1から
12のいずれか1項に記載のロータリー圧縮機、
を備える、空気調和機(400A)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
往復部材及び支持部材を有するロータリー圧縮機、並びに、そのようなロータリー圧縮機を用いる空気調和機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特許第5413493号公報)に開示されるロータリー圧縮機は、圧縮機構を有する。圧縮機構は、公転運動をするピストン、ピストンと一体成形され、往復運動をするベーン(又はブレードと呼ばれることもある)、及び、ベーンを支持するブッシュを有する。ブッシュには潤滑油を保持するための溝が形成されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ブッシュのような摺動部品における潤滑油保持のための構造の設計は、潤滑性能に影響を与える。例えば、従来のロータリー圧縮機においては、ブッシュの高さ方向の中央部における潤滑油の保持が十分でないために、ベーン及びブッシュの高さ付近の中央部において焼き付きが生じることがあった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1観点に係るロータリー圧縮機は、ケーシングと、圧縮機構と、を備える。ケーシングは、潤滑油を貯留する油貯留部を内部に有する。圧縮機構は、往復部材、及び支持部材を有する。往復部材は、圧縮室を画定する。往復部材は、第1方向に沿って往復する。支持部材は、支持面を有する。支持面は、往復部材を支持する。支持面には第1溝及び第2溝が形成されている。第1溝は、第1方向に交差する第2方向に沿って延びる。第1溝は、潤滑油を第2溝へ渡す。第2溝は、第1溝の中央部から第1方向に沿って圧縮室へ向かって延びる。
【0005】
この構成によれば、第1溝が、第2方向における支持部材の中央へ潤滑油を運ぶ。次いで、第2溝が、中央に運ばれた潤滑油を支持部材の第1方向へ広げる。したがって、支持部材の中央は多くの潤滑油を得るので、支持部材の中央における焼き付きが抑制される。
【0006】
第2観点に係るロータリー圧縮機は、第1観点に係るロータリー圧縮機において、第1溝が、第1端及び第2端を有する。第1端及び第2端はいずれも支持面の輪郭に達している。
【0007】
この構成によれば、第1溝の第1端と第2端は支持面の輪郭に達している。したがって、第1溝は支持部材の両端において潤滑油を取得することができる。
【0008】
第3観点に係るロータリー圧縮機は、第2観点に係るロータリー圧縮機において、第1溝が、第1端及び第2端の両方から前記潤滑油を取得する。
【0009】
この構成によれば、潤滑油は第1端と第2端の両方から支持部材の中央部へ供給される。したがって、中央部が得る潤滑油の量が多い。
【0010】
第4観点に係るロータリー圧縮機は、第1観点から第3観点のいずれか1つに係るロータリー圧縮機において、第2溝が、圧縮室に近い第3端及び圧縮室から遠い第4端を有する。第3端と支持面の輪郭とは離間している。
【0011】
この構成によれば、第3端と支持面の輪郭は離間している。したがって、支持部材の中央部が得た潤滑油が、第2溝を介して圧縮室へ排出されることが抑制される。
【0012】
第5観点に係るロータリー圧縮機は、第4観点に係るロータリー圧縮機において、第2溝が、第4端から潤滑油を取得する。
【0013】
この構成によれば、第2溝は支持部材の中央部に設けられており、第2溝の第4端は潤滑油を取得する。したがって、第2溝が、支持部材の中央部の潤滑に関与するので、中央部に供給される潤滑油の量がより多くなる。
【0014】
第6観点に係るロータリー圧縮機は、第4観点又は第5観点に係るロータリー圧縮機において、支持面には、第3端から第2方向に延びる分岐溝、がさらに設けられている。
【0015】
この構成によれば、支持部材の中央部には分岐溝が設けられる。したがって、分岐溝が中央部の潤滑の程度をより強くする。
【0016】
第7観点に係るロータリー圧縮機は、第1観点から第6観点のいずれか1つに係るロータリー圧縮機において、支持面には、複数の第2溝が形成されている。
【0017】
この構成によれば、中央部には複数の第2溝がある。したがって、中央部は、複数の第2溝のそれぞれから潤滑油の供給を受けるので、中央部に供給される潤滑油の量がより多くなる。
【0018】
第8観点に係るロータリー圧縮機は、第6観点に係るロータリー圧縮機において、第1方向と分岐溝は、鋭角を形成する。
【0019】
この構成によれば、第2溝が延びる第1方向と分岐溝は鋭角を形成する。したがって、分岐溝が、第1方向及び第2方向の両方に潤滑油を広げるので、支持部材の潤滑の程度がより強くなる。
【0020】
第9観点に係るロータリー圧縮機は、第1観点から第8観点のいずれか1つに係るロータリー圧縮機において、第1溝の幅が、支持面の第1方向に延びる辺の長さの1/20以上である、又は、第2溝の幅が、支持面の第2方向に延びる辺の長さの1/40以上である。
【0021】
この構成によれば、溝の幅が支持面の辺に占める割合が所定値以上である。したがって、所定割合の寸法が潤滑に関与するので、支持部材の潤滑の程度がより強くなる。
【0022】
第10観点に係るロータリー圧縮機は、第1観点から第9観点のいずれか1つに係るロータリー圧縮機において、支持面において第1溝及び第2溝が形成する面積は、支持面の面積の1/50以上である。
【0023】
この構成によれば、溝が形成する面積が支持面の面積に占める割合が1/50以上である。したがって、所定割合の面積が潤滑に関与するので、支持部材の潤滑の程度がより強くなる。
【0024】
第11観点に係るロータリー圧縮機は、第1観点から第10観点のいずれか1つに係るロータリー圧縮機において、圧縮機構が、シリンダ、シリンダに接しかつ移動する円筒状のピストン、及び、シリンダ及びピストンと協働して圧縮室を画定するベーンを有する。
往復部材はベーンである。
【0025】
この構成によれば、圧縮部材は、シリンダ、円筒状のピストン、及びベーンを有する。したがって、ロータリー圧縮機のベーンの潤滑が確実になる。
【0026】
第12観点に係るロータリー圧縮機は、第11観点に係るロータリー圧縮機において、ベーンが、シリンダと一体に形成されている。
【0027】
この構成によれば、ベーンはピストンと一体に形成されている。したがって、ピストンと同時に動くベーンの潤滑が確実になる。
【0028】
第13観点に係るロータリー圧縮機は、第11観点に係るロータリー圧縮機において、ベーンが、シリンダと別体に形成されている。
【0029】
この構成によれば、ベーンはピストンと別体に形成されている。したがって、ピストンとは独立して動くベーンの潤滑が確実になる。
【0030】
第14観点に係る空気調和機は、第1観点1から第13観点のいずれか1つに係るロータリー圧縮機を備える。
【0031】
この構成によれば、圧縮機の内部の焼き付きが抑制されるので、空気調和機の製品寿命が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】第1実施形態に係る空気調和機400Aの回路図である。
【
図2】ロータリー圧縮機90Aの垂直面に沿った断面図である。
【
図3】圧縮機構40の水平面に沿った断面図である。
【
図7】第1実施形態の第1変形例に係る圧縮機のブッシュ49Bの側面図である。
【
図8】第1実施形態の第2変形例に係る圧縮機のブッシュ49Cの側面図である。
【
図9】第1実施形態の第3変形例に係る圧縮機のブッシュ49Dの側面図である。
【
図10】第1実施形態の第4変形例に係る圧縮機のブッシュ49Eの側面図である。
【
図11】第1実施形態の第5変形例に係る圧縮機のブッシュ49Fの側面図である。
【
図12】第2実施形態に係るロータリー圧縮機90Gの圧縮機構40の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
<第1実施形態>
(1)全体構成
図1は、第1実施形態に係る空気調和機400Aを示す。空気調和機400Aは、室外ユニット100、室内ユニット200、連絡配管300を有する。
【0034】
室外ユニット100は、ロータリー圧縮機90A、四路切換弁110、室外熱交換器120、室外ファン130、室外膨張弁140、液閉鎖弁150、ガス閉鎖弁160を有する。
【0035】
室内ユニット200は、室内熱交換器220、室内ファン230を有する。
【0036】
連絡配管300は、液連絡配管310及びガス連絡配管320を有する。
【0037】
空気調和機400Aが冷房運転を行う場合、四路切換弁110は
図1の実線の接続を形成し、冷媒は矢印Cの方向に循環する。冷房運転において、室内熱交換器220は蒸発器として機能し、室内ファン230と協働してユーザに冷たい空気を提供する。空気調和機400Aが暖房運転を行う場合、四路切換弁110は
図1の破線の接続を形成し、冷媒は矢印Hの方向に循環する。暖房運転において、室内熱交換器220は凝縮器として機能し、室内ファン230と協働してユーザに温かい空気を提供する。
【0038】
(2)ロータリー圧縮機90Aの詳細構成
図2は、ロータリー圧縮機90Aを示す。ロータリー圧縮機90Aは、低圧ガス冷媒を吸入し、それを圧縮することによって、高圧ガス冷媒を生成する。ロータリー圧縮機90Aは、ケーシング10、吸入管15、吐出管16、モータ20、クランク軸30、圧縮機構40、第1給油機構71、第2給油機構72を有する。
【0039】
(2-1)ケーシング10、吸入管15、吐出管16
ケーシング10は、ロータリー圧縮機90Aの各種構成要素、冷媒、潤滑油を収容する。ケーシング10は、気密的に接続された胴部11、蓋部12、及び底部13を有する。
【0040】
胴部11には、低圧ガス冷媒を吸入するための吸入管15が取り付けられている。胴部11には、また、高圧ガス冷媒を吐出するための吐出管16が取り付けられている。
【0041】
ケーシング10の内部には、潤滑油が貯留される油貯留部17が存在する。油貯留部17は、底部13の近傍に位置する。
【0042】
(2-2)モータ20
モータ20は、ロータリー圧縮機90Aの外部から電力の供給を受け、圧縮機構40を駆動する動力を発生する。モータ20は、胴部11に取り付けられている。モータ20は、ステータ21、及びロータ22を有する。
【0043】
ステータ21は円筒形状を有し、胴部11に固定されている。ステータ21は電力を交流磁界に変換する。
【0044】
ロータ22はステータ21の内側に配置される。ロータ22は、ステータ21が発する交流磁界と相互作用することによって回転する。
【0045】
(2-3)クランク軸30
クランク軸30はロータ22に固定されており、ロータ22とともに回転軸心RAを中心として回転する。クランク軸30は、ロータ22が生み出す回転力を圧縮機構40へ伝達する。
【0046】
クランク軸30は、回転軸心RAと同心である主軸部31と、回転軸心RAに対して偏心している偏心部32を有する。主軸部31の一部はロータ22に固定される。偏心部32は、圧縮機構40の中に位置する。
【0047】
(2-4)圧縮機構40
圧縮機構40は、低圧ガス冷媒を圧縮することによって高圧ガス冷媒を生成する。圧縮機構40は、シリンダ41、ピストン42、ベーン43、フロントヘッド46、リアヘッド47、マフラ48、一対のブッシュ49Aを有する。
【0048】
図3は、圧縮機構40を示す断面図である。シリンダ41は剛体製の部品である。シリンダ41には、第1空洞41a、第2空洞41b、及び、吸入ポート41cが設けられている。第1空洞41aと第2空洞41bは互いに接続している。吸入ポート41cは高圧ガス冷媒を取り込むためのものであり、吸入管15に接続されている。
【0049】
ピストン42は、円筒状の部材である。ピストン42の空洞には偏心部32が取り付けられる。ピストン42は、クランク軸30の回転によって、シリンダ41に接触しながら公転運動をする。
【0050】
ベーン43は、平板状の部材である。ベーン43は、ピストン42と一体に形成されている、
一対のブッシュ49Aは、それぞれ、半円柱状の部材である。一対のブッシュ49Aは、ベーン43を支持するために、それぞれベーン43に対して異なる側に配置される。
【0051】
シリンダ41の第1空洞41aにはピストン42が収容される。シリンダ41の第2空洞41bにはベーン43及び一対のブッシュ49Aが収容される。
【0052】
ベーン43を収容している第2空洞41bの一部は、ベーン後部空間41dである。ベーン43は第1端43a及び第2端43bを有する。第1端43aは第1空洞41aに面する。第2端43bは第1端43aと反対側であり、ベーン後部空間41dに面する。
【0053】
ベーン43は、実質的に第1方向M1へ往復する。すなわち、ピストン42が第2空洞41bから離間するように動くとき、ベーン43は第2空洞41bから突出する。一方、ピストン42が第2空洞41bへ接近するように動くとき、ベーン43は第2空洞41bへ後退する。
【0054】
ベーン43は、シリンダ41及びピストン42と協働して圧縮室45を画定する。圧縮室45は、互いに接触するシリンダ41、ピストン42、及びベーン43によって囲まれる空間である。圧縮室45は、第1圧縮室45a及び第2圧縮室45bを含む。第1圧縮室45aは、クランク軸30の回転にしたがって容積を増加させる。第1圧縮室45aは、低圧ガス冷媒を取り込むのに用いられる。第2圧縮室45bは、クランク軸30の回転にしたがって容積を減少増加させる。第2圧縮室45bは、冷媒の圧力を高めるのに用いられる。
【0055】
図2に戻り、フロントヘッド46はシリンダ41の上面を塞ぐ。フロントヘッド46には、圧縮室45から高圧ガス冷媒を吐出するための吐出ポート46aが設けられている。フロントヘッド46は大きな直径を有している。フロントヘッド46はケーシング10の胴部11に固定される。これによって、圧縮機構40の全体がケーシング10に対して固定される。リアヘッド47はシリンダ41の下面を塞ぐ。マフラ48は、吐出ポート46aを覆うようにフロントヘッド46に取り付けられる。マフラ48は、吐出ポート46aから吐出される高圧ガス冷媒の圧力の脈動に起因する騒音を低減する。
【0056】
(2-5)第1給油機構71、第2給油機構72
第1給油機構71、及び第2給油機構72は、油貯留部17の潤滑油を圧縮機構40へ供給するものである。第1給油機構71及び第2給油機構72の少なくとも一方は、潤滑油の一部をベーン後部空間41dへ供給する。ベーン後部空間41dの潤滑油は、ベーン43及びブッシュ49Aの潤滑に利用される。
【0057】
(3)ブッシュ49Aの詳細構成
図4は、一対のブッシュ49Aの斜視図である。それぞれのブッシュ49Aは、ベーン43を支持する支持面Sを有する。支持面Sは、第1方向M1及び第2方向M2の両方に対して平行である。第2方向M2は、第1方向M1に交差する。
【0058】
図5に示すように、支持面Sには、第1溝51、及び第2溝52が形成されている。第1溝51は、第2方向M2に沿って延びる。第1溝51は、第1端51a、第2端51b、及び中央部51cを有する。第1端51a及び第2端51bはいずれも支持面Sの輪郭CTに達している。
【0059】
第1溝51は、第1端51a及び第2端51bにおいて取得した潤滑油を中央部51cへ向かって運ぶ。さらに、第1溝51は、取得した潤滑油を第2溝52へ渡す。
【0060】
第2溝52は、第3端52a及び第4端52bを有する。第3端52aは、第4端52bと比較して、圧縮室45により近い。第4端52bは、第3端52aと比較して、圧縮室45からより遠い。第2溝52は、第1溝51の中央部51cを通過する。第2溝52は、中央部51cから第1方向M1に沿って、第1空洞41aへ向かって、すなわち圧縮室45へ向かって延びる。第3端52aと支持面Sの輪郭CTとは離間している。第4端52bは支持面Sの輪郭CTに達している。第2溝52は、第4端52bから潤滑油を取得する。第2溝52はまた、中央部51cにおいても第1溝51から潤滑油を取得する。第2溝52が取得した潤滑油は少なくとも部分的に第3端52aへ運ばれる。
【0061】
(4)寸法
図6を参酌して説明するに、各部の寸法を例えば以下の通りに設定することによって、ブッシュ49Aの潤滑に寄与する潤滑油の量を確保することができる。
【0062】
- 第1溝51の幅W51は、支持面Sの第1方向M1に延びる辺E1の長さL1の1/20以上であるか、又は、第2溝52の幅W52は、支持面Sの第2方向M2に延びる辺E2の長さL2の1/40以上である。
【0063】
- 支持面Sにおいて第1溝51及び第2溝52が形成する面積GAは、支持面Sの面積SAの1/50以上である。
【0064】
(5)特徴
(5-1)
第1溝51が、第2方向M2におけるブッシュ49Aの中央へ潤滑油を運ぶ。次いで、第2溝52が、中央に運ばれた潤滑油をブッシュ49Aの第1方向M1へ広げる。したがって、ブッシュ49Aの中央は多くの潤滑油を得るので、ブッシュ49Aの中央における焼き付きが抑制される。
【0065】
(5-2)
第1溝51の第1端51a及び第2端51bは支持面Sの輪郭CTに達している。したがって、第1溝51はブッシュ49Aの両端、すなわち、第1空洞41aの側及びベーン後部空間41dの側において潤滑油を取得することができる。
【0066】
(5-3)
第2溝52の第3端52aと支持面Sの輪郭CTは離間している。したがって、ブッシュ49Aの中央部が得た潤滑油が、第2溝52を介して圧縮室45の側へ排出されることが抑制される。
【0067】
(5-4)
第1溝51の幅W51が支持面Sの辺E1に占める割合が1/20以上であるか、又は、第2溝52の幅W52が支持面Sの辺E2に占める割合が1/40以上である。したがって、所定割合の寸法が潤滑に関与するので、ブッシュ49Aの潤滑の程度がより強くなる。
【0068】
(5-5)
第1溝51及び第2溝52が形成する面積GAが支持面Sの面積SAに占める割合が1/50以上である。したがって、所定割合の面積が潤滑に関与するので、ブッシュ49Aの潤滑の程度がより強くなる。
【0069】
(5-6)
ベーン43は、ピストン42と一体に形成されている。したがって、ピストン42と同時に動くベーン43の潤滑が確実になる。
【0070】
(5-7)
ロータリー圧縮機90Aの内部の焼き付きが抑制されるので、空気調和機400Aの製品寿命が向上する。
【0071】
(6)変形例
(6-1)第1実施形態の第1変形例
第1実施形態のブッシュ49Aでは、第2溝52の第4端52bが支持面Sの輪郭CTに達している。これに代えて、
図7に示すブッシュ49Bに見られるように、第4端52bが支持面Sの輪郭CTから離間してもよい。例えば、第2溝52の第4端52bは、第1溝51の中央部51cに配置される。
【0072】
この構成によっても、第2溝52が潤滑油をブッシュ49Bの中央に留める機能を有するので、ブッシュ49Bの中央における焼き付きが抑制される。
【0073】
(6-2)第1実施形態の第2変形例
第1実施形態のブッシュ49Aでは、第2溝52の第4端52bが支持面Sの輪郭CTに達している。これに代えて、
図8に示すブッシュ49Cに見られるように、第4端52bが支持面Sの輪郭CTから離間してもよい。例えば、第2溝52の第4端52bは、ベーン後部空間41dの側の輪郭CTと、第1溝51の中央部51cとの間に配置される。
【0074】
この構成によっても、第2溝52が潤滑油をブッシュ49Cの中央に留める機能を有するので、ブッシュ49Cの中央における焼き付きが抑制される。
【0075】
(6-3)第1実施形態の第3変形例
第1実施形態のブッシュ49Aでは、支持面Sには一本の第2溝52が形成されている。これに代えて、
図9に示すブッシュ49Dに見られるように、支持面Sには、複数の第2溝52が形成されてもよい。
【0076】
この構成によれば、ブッシュ49Dの中央部には複数の第2溝52がある。したがって、中央部は、複数の第2溝52のそれぞれから潤滑油の供給を受けるので、中央部に供給される潤滑油の量がより多くなる。
【0077】
(6-4)第1実施形態の第4変形例
第1実施形態のブッシュ49Aでは、支持面Sには第1溝51及び第2溝52が形成される。これに代えて、
図10に示すブッシュ49Eに見られるように、支持面Sには、第2溝52の第3端52aから第2方向M2に延びる分岐溝53がさらに設けられてもよい。
【0078】
この構成によれば、ブッシュ49Eの中央部には分岐溝53が設けられる。したがって、分岐溝53が中央部の潤滑の程度をより強くする。
【0079】
(6-5)第1実施形態の第5変形例
第1実施形態のブッシュ49Aでは、支持面Sには第1溝51及び第2溝52が形成される。これに代えて、
図11に示すブッシュ49Fに見られるように、支持面Sには、第2溝52の第3端52aから、第1分岐溝531及び第2分岐溝532が延びてもよい。ここで、第1分岐溝531は、第1方向M1と交差する方向に延びる。また、第2分岐溝532は、第1方向M1と交差する方向、かつ第1分岐溝531が延びる方向とは異なる方向に延びる。第1方向M1と第1分岐溝531は、鋭角αを形成する。第1方向M1と第2分岐溝532は、鋭角βを形成する。
【0080】
この構成によれば、第2溝52が延びる第1方向M1は、第1分岐溝531又は第2分岐溝532との間に鋭角α、βを形成する。したがって、第1分岐溝531及び第2分岐溝532が、第1方向M1及び第2方向M2の両方に潤滑油を広げるので、ブッシュ49Fの潤滑の程度がより強くなる。
【0081】
<第2実施形態>
(1)構成
図12は、第2実施形態に係る空気調和装置に搭載されるロータリー圧縮機90Gの圧縮機構40を示す。第2実施形態に係る空気調和装置は、ロータリー圧縮機90Aに代えてロータリー圧縮機90Gが搭載される以外は、第1実施形態に係る空気調和機400Aと同じ構成を有する。
【0082】
ロータリー圧縮機90Gの圧縮機構40は、ベーン43がピストン42と別体に形成されている点において第1実施形態と異なる。ベーン43を収容している第2空洞41bの一部は、ベーン後部空間41dである。ベーン後部空間41dにはスプリング44が設置されている。スプリング44は、ベーン43を第1空洞41aの方へ押すことによって、ベーン43をピストン42に接触させる。
【0083】
第1実施形態に係るロータリー圧縮機90Aにおいて、支持面S、第1溝51、及び第2溝52を有するのはブッシュ49Aである。これに対し、第2実施形態に係るロータリー圧縮機90Gにおいては、シリンダ41の第2空洞41bの内壁に、支持面S、第1溝51、及び第2溝52が形成される。
【0084】
(2)特徴
ベーン43はピストン42と別体に形成されている。したがって、ピストン42とは独立して動くベーン43の潤滑が確実になる。
【0085】
(3)変形例
第1実施形態の各変形例を、第2実施形態に適用してもよい。
【0086】
<むすび>
以上、本開示の実施形態を説明したが、特許請求の範囲に記載された本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【符号の説明】
【0087】
10 :ケーシング
17 :油貯留部
40 :圧縮機構
41 :シリンダ(支持部材)
41a :第1空洞
41b :第2空洞
41c :吸入ポート
41d :ベーン後部空間
42 :ピストン
43 :ベーン(往復部材)
45 :圧縮室
49A~49F:ブッシュ(支持部材)
51 :第1溝
51a :第1端
51b :第2端
51c :中央部
52 :第2溝
52a :第3端
52b :第4端
53 :分岐溝
90A :ロータリー圧縮機
90G :ロータリー圧縮機
100 :室外ユニット
200 :室内ユニット
300 :連絡配管
400A :空気調和機
531 :第1分岐溝
532 :第2分岐溝
CT :輪郭
E1 :辺
E2 :辺
GA :面積
L1 :辺の長さ
L2 :辺の長さ
M1 :第1方向
M2 :第2方向
S :支持面
SA :面積
W51 :第1溝の幅
W52 :第2溝の幅
α :鋭角
β :鋭角
【先行技術文献】
【特許文献】
【0088】