(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】圧縮機および空気調和装置
(51)【国際特許分類】
F04C 29/12 20060101AFI20231213BHJP
F04B 39/06 20060101ALI20231213BHJP
F04C 18/356 20060101ALI20231213BHJP
F04C 29/04 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
F04C29/12 E
F04B39/06 R
F04C18/356 L
F04C29/04 B
(21)【出願番号】P 2022075940
(22)【出願日】2022-05-02
【審査請求日】2023-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】和田 遼介
(72)【発明者】
【氏名】砂原 裕也
(72)【発明者】
【氏名】入川 洪一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 絵夢
(72)【発明者】
【氏名】細越 悠月
【審査官】丹治 和幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/039080(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/145713(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/00-39/16
F04C 18/356
F04C 23/00-29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒が圧縮される圧縮室(40)を有する圧縮機構(15)と、
前記圧縮室と連通するインジェクション通路(84g)に配置されるインジェクション弁(93)と、
前記インジェクション通路に前記冷媒を供給するインジェクション配管(92)と、
を備え、
前記インジェクション弁は、
第1方向(D1)に沿って移動可能に配置された弁本体(94)と、
前記弁本体よりも前記インジェクション配管側に配置され、前記弁本体の前記インジェクション配管側への移動を規制する弁押さえ(95)と、
前記弁本体よりも前記圧縮室側に配置され、前記弁本体の前記圧縮室側への移動を規制する弁座(96)と、
を有し、
前記弁押さえは、
前記冷媒が通過する第1孔(95a)が形成され、
前記弁本体は、
前記冷媒が通過する第2孔(94a)が形成され、
前記弁押さえと前記弁座との間において前記弁本体が収容された第1空間(97)に連通し、前記圧縮室から前記第1空間に流入した前記冷媒が流れ込むバッファ空間(95c)が形成さ
れ、
前記バッファ空間の前記弁本体に対向する開口(95co)は、
前記第1方向に沿って見た場合に、前記弁本体の前記第2孔の周囲に位置する環状の周縁部(94b)と重ならない、
圧縮機(21)。
【請求項2】
冷媒が圧縮される圧縮室(40)を有する圧縮機構(15)と、
前記圧縮室と連通するインジェクション通路(84g)に配置されるインジェクション弁(93)と、
前記インジェクション通路に前記冷媒を供給するインジェクション配管(92)と、
を備え、
前記インジェクション弁は、
第1方向(D1)に沿って移動可能に配置された弁本体(94)と、
前記弁本体よりも前記インジェクション配管側に配置され、前記弁本体の前記インジェクション配管側への移動を規制する弁押さえ(95)と、
前記弁本体よりも前記圧縮室側に配置され、前記弁本体の前記圧縮室側への移動を規制する弁座(96)と、
を有し、
前記弁押さえは、
前記冷媒が通過し、前記圧縮室から前記冷媒が流出する際に前記弁本体により閉塞される第1孔(95a)が形成され、
前記弁本体は、
前記冷媒が通過する第2孔(94a)が形成され、
前記弁押さえと前記弁座との間において前記弁本体が収容された第1空間(97)に連通し、前記圧縮室から前記第1空間に流入した前記冷媒が前記第1孔に達する前に流れ込むバッファ空間(95c)が形成さ
れ、
前記バッファ空間の前記弁本体に対向する開口(95co)は、
前記第1方向に沿って見た場合に、前記弁本体の前記第2孔の周囲に位置する環状の周縁部(94b)と重ならない、
圧縮機(21)。
【請求項3】
前記バッファ空間は、
前記第2孔よりも前記インジェクション配管側に形成されている、
請求項1または2に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記バッファ空間は、
前記弁押さえの前記弁本体に対向する面に形成された凹部である、
請求項1または2に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記第1空間は、
円筒状であり、
前記弁本体は、
中央に前記第2孔が形成された円形の平板であり、
前記バッファ空間は、
前記第2孔とともに前記第1空間の中心軸(CL)上に位置する、
請求項1または2に記載の圧縮機。
【請求項6】
前記バッファ空間の前記弁本体に対向する開口(95co)の面積と、前記第2孔の流路面積との比は、
0.5以上1.0以下である、
請求項1または2に記載の圧縮機。
【請求項7】
前記バッファ空間の前記第1空間の前記第1方向における深さ(d)と、前記第1孔の前記第1方向における長さ(L)との比は、
0.3以上0.6以下である、
請求項1または2に記載の圧縮機。
【請求項8】
前記弁座は、
前記第1空間と前記圧縮室とを連通する第3孔(96a)が形成され、
前記第1空間及び前記第3孔の容積と、前記バッファ空間の容積との比は、
0.2以上0.8以下である、
請求項1または2に記載の圧縮機。
【請求項9】
冷媒が圧縮される圧縮室(40)と、
前記圧縮室に連通するインジェクション通路に配置される弁(93)と、
を備え、
前記弁(93)は、
第1空間(97)に収容され
、第2孔(94a)が形成された弁本体(94)と、
前記第1空間と連通する第1孔(95a)が形成され、前記第1空間を区画する弁押さえ(95)と、
前記第1空間と連通する第3孔(96a)が形成され、前記第1空間を区画する弁座(96)と
を有し
前記弁押さえは、
前記第1空間に対向する面に開口が設けられたバッファ空間(95c)である凹部が形成さ
れ、
前記バッファ空間の前記弁本体に対向する開口(95co)は、
前記インジェクション通路が延びる第1方向(D1)に沿って見た場合に、前記弁本体の前記第2孔の周囲に位置する環状の周縁部(94b)と重ならない、
圧縮機(40)。
【請求項10】
前記弁本体は、
第2孔が形成された円形の平板であり、
前記第1空間は、
円筒状であり、
前記凹部は、
前記第2孔とともに前記第1空間の中心軸(CL)上に位置する、
請求項9に記載の圧縮機。
【請求項11】
前記バッファ空間は、
前記第1空間に流入した冷媒が流れ込む空間である、
請求項9に記載の圧縮機。
【請求項12】
請求項1、請求項2、及び請求項9から11のいずれか1項に記載の圧縮機を備える空気調和装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
圧縮機および空気調和装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(国際公開第2017/221571号)は、中間圧の冷媒を圧縮室へ流入させるインジェクション機構を備える圧縮機を開示している。このインジェクション機構は、圧縮室からインジェクション通路への冷媒の流れを抑制する逆止弁を有する。この逆止弁は、弁体およびバネ部材を有し、圧縮室内の冷媒が高圧である場合は圧縮室からインジェクション通路へ冷媒が流出することを規制し、圧縮室内の冷媒が低圧である場合はインジェクション通路から圧縮室へ中間圧の冷媒が流入することを許容する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これとは異なる形態の逆止弁として、収容空間に収容された板状の弁体を圧縮室の内外における冷媒の圧力差を用いて動かす逆止弁が知られている。板状の弁体を有する逆止弁は、バネ部材を有する逆止弁と比べて構造がシンプルである反面で、弁体の重量や形状によっては、圧縮室内の冷媒が高圧になっても速やかに弁体が動かず、圧縮室から高圧の冷媒を流出させてしまい高い圧縮効率を得られないという課題があった。
【0004】
本開示は、シンプルな構造でありながら高い圧縮効率を得られる圧縮機およびこの圧縮機を備えた空気調和装置を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1観点の圧縮機は、圧縮機構と、インジェクション弁と、インジェクション配管とを備える。圧縮機構は、冷媒が圧縮される圧縮室を有する。インジェクション弁は、圧縮室と連通するインジェクション通路に配置される。インジェクション配管は、インジェクション通路に冷媒を供給する。
【0006】
インジェクション弁は、弁本体と、弁押さえと、弁座とを有する。弁本体は、第1方向に沿って移動可能に配置される。弁押さえは、弁本体よりもインジェクション配管側に配置され、弁本体のインジェクション配管側への移動を規制する。弁座は、弁本体よりも圧縮室側に配置され、弁本体の圧縮室側への移動を規制する。弁押さえは、冷媒が通過し、圧縮室から冷媒が流出する際に弁本体により閉塞される第1孔が形成される。弁本体は、冷媒が通過する第2孔が形成される。
【0007】
圧縮機は、弁押さえと弁座との間において弁本体が収容された第1空間に連通し、圧縮室から第1空間に流入した冷媒が第1孔に達する前に流れ込むバッファ空間が形成される。
【0008】
圧縮機では、中間圧の冷媒が圧縮機に供給される中間インジェクションの終了する直前に第1空間に流入した冷媒の少なくとも一部は、第1孔に達する前にバッファ空間に流れ込む。これにより、冷媒が第1空間に流入してから第1孔に達するまでの間にタイムラグが生じる。中間インジェクションにおいて弁座に当たっていた弁本体は、このタイムラグの間に弁押さえに向かって移動し圧縮室からインジェクション通路へ冷媒の流出を抑制できる。
【0009】
このように、本圧縮機は、インジェクション弁がバネ部材を用いないシンプルな構造でありながら、中間インジェクションが終了する直前における圧縮室からインジェクション通路への冷媒の流出を抑制することで、高い圧縮効率を得られる。
【0010】
第2観点の圧縮機は、第1観点の圧縮機であって、バッファ空間が、第2孔よりもインジェクション配管側に形成されている。
【0011】
第3観点の圧縮機は、第2観点の圧縮機であって、バッファ空間が、弁押さえの弁本体に対向する面に形成された凹部である。
【0012】
第4観点の圧縮機は、第1乃至第3観点のいずれか1つの圧縮機であって、第1空間が、円筒状である。弁本体は、中央に第2孔が形成された円形の平板である。バッファ空間は、第2孔とともに第1空間の中心軸上に位置する。
【0013】
これにより、バッファ空間と第2孔とが中心軸上に位置するため、第2孔を通過した冷媒の大部分がバッファ空間に流れ込むことができ、圧縮室からの冷媒の流出が効果的に抑制される。従って、本圧縮機によれば、高い圧縮効率が得られる。
【0014】
第5観点の圧縮機は、第1乃至第4観点のいずれか1つの圧縮機であって、バッファ空間の弁本体に対向する開口の面積と、第2孔の流路面積との比は、0.5以上1.0以下である。
【0015】
これにより、第2孔を通過した冷媒の大部分がバッファ空間に流れ込むことができるため、圧縮室からの冷媒の流出が効果的に抑制される。従って、本圧縮機によれば、高い圧縮効率が得られる。
【0016】
第6観点の圧縮機は、第1乃至第5観点のいずれか1つの圧縮機であって、バッファ空間の第1空間の第1方向における深さと、第1孔の第1方向における長さとの比は、0.3以上0.6以下である。
【0017】
これにより、第2孔を通過した冷媒の大部分がバッファ空間に流れ込むことができるため、冷媒が第1空間に流入してから第1孔に達するまでのタイムラグを確実に発生させて圧縮室からの冷媒の流出が効果的に抑制される。従って、本圧縮機によれば、高い圧縮効率が得られる。
【0018】
第7観点の圧縮機は、第1乃至第6観点のいずれか1つの圧縮機であって、弁座が、第1空間と圧縮室とを連通する第3孔が形成されている。第1空間及び第3孔の容積と、バッファ空間の容積との比は、0.2以上0.8以下である。
【0019】
これにより、第1空間に流入した冷媒の大部分がバッファ空間に流れ込むことができるため、冷媒が第1空間に流入してから第1孔に達するまでのタイムラグを確実に発生させて圧縮室からの冷媒の流出が効果的に抑制される。従って、本圧縮機によれば、高い圧縮効率が得られる。
【0020】
第8観点の空気調和装置は、第1乃至第7観点のいずれか1つの圧縮機を備える。
【0021】
本空気調和装置は、圧縮効率の高い圧縮機を備えるため高効率での空調運転が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施形態の空気調和装置1の概略構成図である。
【
図3】
図2の線分A―Aにおける圧縮機構15の断面図である。
【
図5】第1状態におけるインジェクション弁93の構成を示す断面図である。
【
図6】第2状態におけるインジェクション弁93の構成を示す断面図である。
【
図7】第2状態における第1空間97周辺を拡大した断面図である。
【
図8】第1方向D1に沿って見た場合の弁本体94の平面図である。
【
図9】シリンダ内周面86c側から第1方向D1に沿って見た場合の弁押さえ95の平面図である。
【
図10】ピストン81が上死点に位置する時の圧縮機構15の断面図である。
【
図11】ピストン81が吸入孔84bを塞いでいる時の圧縮機構15の断面図である。
【
図12】ピストン81がインジェクション通路84gを塞いでいる時の圧縮機構15の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本開示の一実施形態の圧縮機21を備える空気調和装置1について、図面を参照しながら説明する。
【0024】
(1)空気調和装置
(1-1)全体構成
図1に示されるように、空気調和装置1は、蒸気圧縮式の冷凍サイクルを行うことによって、建物等の室内の冷房および暖房を行うことが可能な装置である。空気調和装置1は、主として、室外ユニット2と、室内ユニット3と、液冷媒連絡管4と、ガス冷媒連絡管5とを備える。液冷媒連絡管4およびガス冷媒連絡管5は、室外ユニット2と室内ユニット3とを接続する。空気調和装置1の蒸気圧縮式の冷媒回路6は、室外ユニット2と室内ユニット3とが液冷媒連絡管4およびガス冷媒連絡管5を介して接続されることによって構成される。
【0025】
(1-2)詳細構成
(1-2-1)室内ユニット
室内ユニット3は、室内(居室および天井裏空間等)に設置され、冷媒回路6の一部を構成する。室内ユニット3は、主として、室内熱交換器31を有する。室内熱交換器31は、冷房運転時には冷媒の吸熱器(蒸発器)として機能して室内空気を冷却し、暖房運転時には冷媒の放熱器(凝縮器)として機能して室内空気を加熱する。室内熱交換器31の液側は、液冷媒連絡管4に接続される。室内熱交換器31のガス側は、ガス冷媒連絡管5に接続される。
【0026】
(1-2-2)室外ユニット
室外ユニット2は、室外(建物の屋上、および、建物の壁面近傍等)に設置され、冷媒回路6の一部を構成する。室外ユニット2は、主として、圧縮機21と、四路切換弁22と、室外熱交換器23と、室外膨張弁24と、アキュムレータ25と、液閉鎖弁26と、ガス閉鎖弁27と、エコノマイザ熱交換器28と、制御部29とを有する。
【0027】
圧縮機21は、低圧のガス冷媒を圧縮して高圧のガス冷媒にする。圧縮機21は、圧縮機用モータによって駆動される。圧縮機21は、回転式の圧縮機である。圧縮機21では、室外熱交換器23から室外膨張弁24に向かって流れる中間圧の冷媒の一部が冷媒を圧縮している圧縮機21に供給される、中間インジェクションが行われる。中間圧は、圧縮機21に吸入されるガス冷媒の圧力(低圧)と、圧縮機21から吐出されるガス冷媒の圧力(高圧)との間の所定の圧力である。
【0028】
四路切換弁22は、室外ユニット2の内部配管の接続状態を切り替える。空気調和装置1が冷房運転を行う場合、四路切換弁22は、
図1の破線で示される接続状態を実現する。空気調和装置1が暖房運転を行う場合、四路切換弁22は、
図1の実線で示される接続状態を実現する。
【0029】
室外熱交換器23は、冷媒回路6を循環する冷媒と、室外空気との熱交換を行う。室外熱交換器23は、冷媒が流れる冷媒流路と、室外空気と接する伝熱フィンとを有する。室外熱交換器23は、冷房運転時には冷媒の放熱器(凝縮器)として機能し、暖房運転時には冷媒の吸熱器(蒸発器)として機能する。
【0030】
室外膨張弁24は、開度調整が可能な電動弁又は電磁弁である。室外膨張弁24は、室外ユニット2の内部配管を流れる冷媒を減圧させる。室外膨張弁24は、室外ユニット2の内部配管を流れる冷媒の流量を制御する。
【0031】
アキュムレータ25は、圧縮機21の吸入側の配管に配置される。アキュムレータ25は、冷媒回路6を流れる気液混合冷媒を、ガス冷媒と液冷媒とに分離して、液冷媒を貯留する。アキュムレータ25で分離されたガス冷媒は、圧縮機21の吸入ポートに送られる。
【0032】
液閉鎖弁26およびガス閉鎖弁27は、冷媒流路を遮断することが可能な弁である。液閉鎖弁26は、室内熱交換器31と室外膨張弁24との間に配置される。ガス閉鎖弁27は、室内熱交換器31と四路切換弁22との間に配置される。液閉鎖弁26およびガス閉鎖弁27は、例えば、空気調和装置1の設置時等において、作業者によって開閉される。
【0033】
エコノマイザ熱交換器28は、室外熱交換器23と室外膨張弁24との間に配置される。エコノマイザ熱交換器28は、室外熱交換器23から室外膨張弁24に向かって流れる冷媒と、エコノマイザ配管90を流れる冷媒との熱交換を行う。エコノマイザ配管90は、冷媒回路6において、エコノマイザ熱交換器28と室外膨張弁24との間から分岐し、インジェクション配管92(後述)に接続された管である。エコノマイザ配管90には、エコノマイザ弁91が取り付けられている。エコノマイザ配管90を流れる冷媒は、エコノマイザ弁91により減圧された後、室外熱交換器23から室外膨張弁24に向かって流れる冷媒とエコノマイザ熱交換器28で熱交換する。室外熱交換器23から室外膨張弁24に向かって流れる冷媒とエコノマイザ熱交換器28で熱交換した冷媒は、中間圧の冷媒としてインジェクション配管92に供給される。
【0034】
制御部29は、室外ユニット2の構成機器を制御するコンピュータである。制御部29は、主として、演算装置と記憶装置とを備える。演算装置は、例えば、CPU又はGPUである。演算装置は、記憶装置に記憶されるプログラムを読み出し、このプログラムに従って所定の演算処理を行う。演算装置は、プログラムに従って、演算結果を記憶装置に書き込んだり、記憶装置に記憶される情報を読み出したりする。
【0035】
(1-2-3)冷媒連絡管
液冷媒連絡管4およびガス冷媒連絡管5は、冷媒回路6を備える空気調和装置1をビル等の設置場所に設置する際に、現地にて施工される冷媒配管である。液冷媒連絡管4およびガス冷媒連絡管5の長さおよび管径は、空気調和装置1の設置場所、および、室外ユニット2と室内ユニット3との組み合わせ等の設置条件に応じて決定される。液冷媒連絡管4を流れる冷媒は、液体であってもよく、気液二相であってもよい。
【0036】
(1-3)空気調和装置の動作
図1を参照しながら、空気調和装置1の冷房運転および暖房運転時の動作について説明する。
【0037】
(1-3-1)暖房運転
空気調和装置1が暖房運転を行う場合、四路切換弁22は、
図1の実線で示される状態に切り換えられる。冷媒回路6において、冷凍サイクルの低圧のガス冷媒は、圧縮機21に吸入され、冷凍サイクルの高圧になるまで圧縮された後に吐出される。圧縮機21から吐出された高圧のガス冷媒は、四路切換弁22、ガス閉鎖弁27およびガス冷媒連絡管5を通じて、室内熱交換器31に送られる。室内熱交換器31に送られた高圧のガス冷媒は、室内熱交換器31において、室内空気と熱交換を行って凝縮して、高圧の液冷媒になる。これにより、室内空気が加熱される。室内熱交換器31で凝縮した液冷媒は、液冷媒連絡管4および液閉鎖弁26を通じて、室外膨張弁24に送られる。室外膨張弁24に送られた冷媒は、室外膨張弁24によって冷凍サイクルの低圧まで減圧される。室外膨張弁24で減圧された低圧の冷媒は、室外熱交換器23に送られる。室外熱交換器23に送られた低圧の冷媒は、室外熱交換器23において、室外空気と熱交換を行って蒸発して、低圧のガス冷媒となる。室外熱交換器23で蒸発した低圧の冷媒は、四路切換弁22およびアキュムレータ25を通じて、再び、圧縮機21に吸入される。
【0038】
(1-3-2)冷房運転
空気調和装置1が冷房運転を行う場合、四路切換弁22は、
図1の破線で示される状態に切り換えられる。冷媒回路6において、冷凍サイクルの低圧のガス冷媒は、圧縮機21に吸入され、冷凍サイクルの高圧になるまで圧縮された後に吐出される。圧縮機21から吐出された高圧のガス冷媒は、四路切換弁22を通じて、室外熱交換器23に送られる。室外熱交換器23に送られた高圧のガス冷媒は、室外熱交換器23において、室外空気と熱交換を行って凝縮して、高圧の液冷媒となる。室外熱交換器23で凝縮した液冷媒は、室外膨張弁24によって冷凍サイクルの低圧まで減圧される。室外膨張弁24で減圧された低圧の冷媒は、液閉鎖弁26および液冷媒連絡管4を通じて、室内熱交換器31に送られる。室内熱交換器31に送られた冷媒は、室内熱交換器31において、室内空気と熱交換を行って蒸発して、低圧のガス冷媒になる。これにより、室内空気は冷却される。室内熱交換器31で蒸発したガス冷媒は、ガス冷媒連絡管5、ガス閉鎖弁27、四路切換弁22およびアキュムレータ25を通じて、再び、圧縮機21に吸入される。
【0039】
(2)圧縮機
(2-1)全体構成
図2に示されるように、圧縮機21は、主として、ケーシング10と、圧縮機構15と、駆動モータ16と、クランクシャフト17と、吸入管19と、吐出管20と、インジェクション配管92と、インジェクション弁93とを備える。
【0040】
(2-1-1)ケーシング
ケーシング10は、円筒形の胴部11と、ボウル形の頂部12と、ボウル形の底部13とから構成される。頂部12は、胴部11の上端部と気密状に連結される。底部13は、胴部11の下端部と気密状に連結される。
【0041】
ケーシング10は、ケーシング10の内部空間および外部空間の圧力および温度の変化によって変形および破損が起こりにくい剛性部材で成形される。ケーシング10は、胴部11の円筒形の軸方向が鉛直方向に沿うように配置される。ケーシング10の内部空間の下部は、潤滑油が貯留される油貯留部10aである。潤滑油は、ケーシング10の内部の摺動部の潤滑性を向上させるために用いられる冷凍機油である。
【0042】
ケーシング10は、主として、圧縮機構15と、駆動モータ16と、クランクシャフト17とを収容する。圧縮機構15は、クランクシャフト17を介して駆動モータ16と連結される。吸入管19、吐出管20およびインジェクション配管92は、ケーシング10を貫通するように、ケーシング10と気密状に連結される。
【0043】
(2-1-2)圧縮機構
図2および
図3に示されるように、圧縮機構15は、主として、フロントヘッド83と、シリンダ84と、リアヘッド85と、ピストン81と、ブッシュ82とから構成される。フロントヘッド83、シリンダ84およびリアヘッド85は、ボルト等によって一体的に締結される。圧縮機構15の上方の空間は、圧縮機構15によって圧縮された冷媒が吐出される高圧空間HSである。
【0044】
圧縮機構15は、油貯留部10aに貯留される潤滑油に浸漬される。油貯留部10aの潤滑油は、差圧等によって、圧縮機構15の内部の摺動部に供給される。次に、圧縮機構15の各構成要素について説明する。
【0045】
(2-1-2-1)シリンダ
図4に示されるように、シリンダ84は、主として、シリンダ孔84aと、吸入孔84bと、吐出切り欠き84cと、ブッシュ収容孔84dと、ベーン収容孔84eと、インジェクション通路84gとを有する。シリンダ84は、フロントヘッド83とリアヘッド85との間に位置する。シリンダ84の上側の端面である第1シリンダ端面86aは、フロントヘッド83の下面と接する。シリンダ84の下側の端面である第2シリンダ端面86bは、リアヘッド85の上面と接する。
【0046】
シリンダ孔84aは、第1シリンダ端面86aから第2シリンダ端面86bに向かって、鉛直方向にシリンダ84を貫通する円柱状の孔である。シリンダ孔84aは、シリンダ84の内周面であるシリンダ内周面86cによって囲まれる空間である。シリンダ孔84aは、クランクシャフト17の偏心軸部17a、および、ピストン81を収容する。
【0047】
吸入孔84bは、シリンダ84の外周面であるシリンダ外周面86dからシリンダ内周面86cに向かって、シリンダ84の径方向に沿って貫通する孔である。
【0048】
吐出切り欠き84cは、シリンダ内周面86cの一部が切り欠かれることによって、鉛直方向にシリンダ84を貫通することなく形成される空間である。吐出切り欠き84cは、第1シリンダ端面86aの側に形成される。
【0049】
ブッシュ収容孔84dは、鉛直方向にシリンダ84を貫通し、かつ、シリンダ84を鉛直方向に沿って見た場合において吸入孔84bと吐出切り欠き84cとの間に配置される孔である。ブッシュ収容孔84dは、ベーン81bの一部、および、ブッシュ82を収容する。
【0050】
ベーン収容孔84eは、鉛直方向にシリンダ84を貫通し、かつ、ブッシュ収容孔84dと連通する孔である。ベーン収容孔84eは、ベーン81bの一部を収容する。
【0051】
インジェクション通路84gは、シリンダ外周面86dからシリンダ内周面86cに向かって、シリンダ84の径方向に沿って貫通する孔である。
図3に示されるように、シリンダ84を鉛直方向に沿って見た場合において、ブッシュ収容孔84dは、吸入孔84bとインジェクション通路84gとの間に配置される。インジェクション通路84gには、インジェクション弁93が配置される。インジェクション通路84gは、シリンダ外周面86dの側においてインジェクション配管92と連通し、シリンダ内周面86cの側において圧縮室40と連通している。
【0052】
(2-1-2-2)ピストン
ピストン81は、シリンダ84のシリンダ孔84aに挿入される略円筒状の部材である。ピストン81の上側の端面は、フロントヘッド83の下面と接する。ピストン81の下側の端面は、リアヘッド85の上面と接する。
【0053】
ピストン81は、クランクシャフト17の偏心軸部17aに嵌め込まれた状態で、シリンダ84のシリンダ孔84aに挿入される。これにより、ピストン81は、クランクシャフト17の軸回転によって偏心回転して、クランクシャフト17の回転軸17gを中心とする公転運動を行う。ピストン81は、圧縮機構15を上面視した場合に、時計回りに公転する。
【0054】
ベーン81bは、シリンダ84のブッシュ収容孔84dおよびベーン収容孔84eに収容される。ベーン81bは、ピストン81と一体に形成される。ベーン81bは、ピストン81の径方向外側に突出するように、ピストン81の径方向に沿って延びる。ピストン81が公転することで、ベーン81bは、揺動しながら、その長手方向に沿って進退する。このとき、ブッシュ82は、ブッシュ収容孔84dにおいて回転しながらベーン81bを支持する。
【0055】
圧縮機構15は、シリンダ84と、ピストン81と、ベーン81bと、フロントヘッド83と、リアヘッド85とによって囲まれる空間である圧縮室40を有する。圧縮室40は、シリンダ孔84aの一部であって、ピストン81の公転に伴い容積が変化することで冷媒が圧縮される空間である。圧縮室40には、油貯留部10aの潤滑油が供給される。
【0056】
圧縮室40は、ピストン81およびベーン81bによって、吸入孔84bと連通する低圧室40aと、吐出切り欠き84cおよびインジェクション通路84gと連通する高圧室40bとに区画される。
図3において、低圧室40aおよび高圧室40bは、シリンダ内周面86cと、ピストン81の外周面であるピストン外周面81cとによって囲まれる領域である。低圧室40aおよび高圧室40bの容積は、ピストン81の位置に応じて変化する。
【0057】
(2-1-2-3)ブッシュ
ブッシュ82は、一対の略半円柱状の部材である。ブッシュ82は、ベーン81bを挟み込むようにして、シリンダ84のブッシュ収容孔84dに収容される。ブッシュ82は、シリンダ84と摺動可能である。
【0058】
(2-1-2-4)フロントヘッド
フロントヘッド83は、シリンダ84の第1シリンダ端面86aを覆う部材である。フロントヘッド83は、ボルト等によって、ケーシング10に締結される。フロントヘッド83は、クランクシャフト17を支持するための上部軸受部23aを有する。
【0059】
フロントヘッド83は、吐出ポート23bを有する。吐出ポート23bは、フロントヘッド83を鉛直方向に貫通する円筒形状の孔である。吐出ポート23bは、鉛直方向下側において、吐出切り欠き84cおよび圧縮室40(高圧室40b)と連通する。吐出ポート23bは、鉛直方向上側において、高圧空間HSと連通する。吐出ポート23bは、圧縮機構15によって圧縮された冷媒を、高圧室40bから高圧空間HSに送るための流路である。
【0060】
フロントヘッド83の上面には、吐出ポート23bを塞ぐ吐出弁23cが取り付けられる。吐出弁23cは、高圧空間HSから高圧室40bへの冷媒の逆流を防ぐための弁である。吐出弁23cは、吐出ポート23b内部の冷媒の圧力によって上方に持ち上げられる。これにより、吐出ポート23bが開き、吐出ポート23bは、高圧空間HSと連通する。
【0061】
(2-1-2-5)リアヘッド
リアヘッド85は、シリンダ84の第2シリンダ端面86bを覆う部材である。リアヘッド85は、クランクシャフト17を支持するための下部軸受部25aを有する。シリンダ84のシリンダ孔84aは、フロントヘッド83およびリアヘッド85によって閉塞される。
【0062】
(2-1-3)駆動モータ
駆動モータ16は、ケーシング10の内部に収容され、圧縮機構15の上方に配置されるブラシレスDCモータである。駆動モータ16は、主として、ケーシング10の内壁面に固定されるステータ51と、ステータ51の内側に回転自在に収容されるロータ52とから構成される。ステータ51とロータ52との間には、エアギャップが設けられる。
【0063】
ステータ51は、ステータコア61と、ステータコア61の鉛直方向の両端面に取り付けられる一対のインシュレータ62とを有する。ステータコア61は、円筒部と、円筒部の内周面から径方向内側に向かって突出する複数のティース(図示せず)とを有する。ステータコア61のティースは、一対のインシュレータ62とともに、導線が巻き付けられる。これにより、ステータコア61の各ティースには、コイル72aが形成される。
【0064】
ステータ51の外側面には、ステータ51の上端面から下端面に亘り、かつ、周方向に所定間隔をおいて、切欠形成される複数のコアカット部(図示せず)が設けられる。コアカット部は、胴部11とステータ51との間を鉛直方向に延びるモータ冷却通路を形成する。
【0065】
ロータ52は、鉛直方向に積層される複数の金属板から構成されるロータコア52aと、ロータコア52aに埋め込まれる複数の磁石52bとを有する。磁石52bは、ロータコア52aの周方向に沿って、等間隔に配置される。ロータ52は、その回転中心を鉛直方向に貫通するクランクシャフト17に連結される。ロータ52は、クランクシャフト17を介して、圧縮機構15と接続される。
【0066】
(2-1-4)クランクシャフト
クランクシャフト17は、ケーシング10の内部に収容され、その軸方向が鉛直方向に沿うように配置される。クランクシャフト17は、駆動モータ16のロータ52、および、圧縮機構15のピストン81に連結される。クランクシャフト17は、偏心軸部17aを有する。偏心軸部17aは、シリンダ84のシリンダ孔84aに挿入されるピストン81に連結される。クランクシャフト17の上側の端部は、駆動モータ16のロータ52に連結される。クランクシャフト17は、フロントヘッド83の上部軸受部23a、および、リアヘッド85の下部軸受部25aによって支持される。クランクシャフト17は、回転軸17gを中心として回転する。
【0067】
(2-1-5)吸入管
吸入管19は、ケーシング10の胴部11を貫通する管である。ケーシング10の内部にある吸入管19の端部は、シリンダ84の吸入孔84bに嵌め込まれる。ケーシング10の外部にある吸入管19の端部は、冷媒回路6に接続される。吸入管19は、冷媒回路6から圧縮機構15に冷媒を供給する。
【0068】
(2-1-6)吐出管
吐出管20は、ケーシング10の頂部12を貫通する管である。ケーシング10の内部にある吐出管20の端部は、駆動モータ16の上方の空間に位置する。ケーシング10の外部にある吐出管20の端部は、冷媒回路6に接続される。吐出管20は、圧縮機構15によって圧縮された冷媒を冷媒回路6に供給する。
【0069】
(2-1-7)インジェクション配管
インジェクション配管92は、ケーシング10の胴部11を貫通する管である。ケーシング10の内部にあるインジェクション配管92の端部は、シリンダ84のインジェクション通路84g内に配置されるインジェクション弁93に接続される。ケーシング10の外部にあるインジェクション配管92の端部は、エコノマイザ配管90に接続される。インジェクション配管92は、エコノマイザ配管90内の冷媒を、インジェクション通路84gに供給する。
【0070】
(2-1-8)インジェクション弁
インジェクション弁93は、中間インジェクションを行うとともに、圧縮室40からインジェクション通路84gへの冷媒の逆流を抑制する。
図5および
図6に示されるように、インジェクション弁93は、主として、弁本体94と、弁押さえ95と、弁座96とを有する。弁押さえ95および弁座96は、インジェクション通路84gに圧入されることにより、シリンダ84に固定されている。インジェクション通路84gが延びる第1方向D1に沿って、弁押さえ95および弁座96は、互いに離れるように配置されている。弁押さえ95と弁座96との間の空間は、弁本体94が第1方向D1に沿って移動可能なように収容される第1空間97である。第1空間97は、円筒状の空間である。弁押さえ95は、弁本体94よりもインジェクション配管92側に配置される。弁座96は、弁本体94よりも圧縮室40側に配置される。
【0071】
インジェクション通路84gは、第1方向D1に沿って内径が異なる円形の孔である。インジェクション通路84gは、シリンダ外周面86d側の端部において最も大きな内径を有し、シリンダ内周面86c側の端部において最も小さな内径を有する。具体的には、インジェクション通路84gの内径は、シリンダ内周面86c側からシリンダ外周面86d側に向かって大きくなっている。
【0072】
弁本体94は、円形の平板である。弁本体94は、GIN6(日立金属社製のステンレス焼き入れ鋼)等のばね鋼で成形される。
図8に示されるように、弁本体94の中央部には、円形の第2孔94aが形成されている。弁本体94は、第2孔94aの周囲に位置する環状の周縁部94bを有する。
図8では、周縁部94bは、ハッチングされた領域として示されている。弁本体94は、第1空間97に、第1方向D1に沿って移動可能に配置される。
【0073】
弁押さえ95は、インジェクション通路84gのシリンダ外周面86d側において圧入される。弁押さえ95は、第1方向D1に沿って外径が異なる形状を有する。弁押さえ95の一部は、シリンダ外周面86dよりも外側に突出している。弁押さえ95には、シリンダ外周面86d側からインジェクション配管92が挿入されている。インジェクション配管92は、弁押さえ95に固定されている。
図5および
図6に示されるように、インジェクション配管92に取り付けられるOリング92aによって、インジェクション通路84gと高圧空間HSとが隔てられている。弁押さえ95は、第1孔95aと閉鎖部95bとバッファ空間95cとが形成されている。
【0074】
第1孔95aは、冷媒が通過する孔であって、圧縮室40から冷媒が流出する際に弁本体94により閉塞される。第1孔95aは、第1方向D1に沿って弁押さえ95を貫通する。閉鎖部95bは、
図9に示されるように、シリンダ内周面86c側から第1方向D1に沿って弁押さえ95を見た場合、弁押さえ95の中央に位置する円環の領域である。複数の第1孔95aは、閉鎖部95bの周囲に形成されている。バッファ空間95cは、第1方向D1に沿って中心が閉鎖部95bの中心と重なるように形成されている。
図9では、閉鎖部95bは、ハッチングされた領域として示されている。
図9に示される弁押さえ95では、12個の第1孔95aが円形に配置される。閉鎖部95bの外径は、弁本体94の第2孔94aの径よりも大きい。第1孔95aの径は、弁本体94の周縁部94bの幅(弁本体94の径方向の寸法)よりも小さい。
【0075】
バッファ空間95cは、圧縮室40から第1空間97に流入した冷媒が第1孔95aに達する前に流れ込むように、第1空間97に連通して形成された空間である。バッファ空間95cは、第2孔94aよりもインジェクション配管92側に形成されている。本実施形態では、バッファ空間95cは、閉鎖部95bの弁本体94に対向する面に形成された円柱状の凹部である。バッファ空間95cは、第2孔94aとともに第1空間97の中心軸CL上に位置するように形成されている(
図7参照)。
【0076】
本実施形態では、バッファ空間95cは、弁本体94に対向する円形の開口95coの面積が第2孔94aの流路面積よりも小さく形成される。バッファ空間95cの弁本体94に対向する開口95coの面積と、第2孔94aの流路面積との比は、0.5以上1.0以下であることが好ましい。開口95coは、全体が第2孔94aを通してシリンダ内周面86c側に露出するように形成されていることが好ましい。言い換えると、開口95coは、シリンダ内周面86c側から第1方向D1に沿って見た場合に、周縁部94bと重なる領域が生じないように形成されることが好ましい。
【0077】
また、バッファ空間95cの第1空間97の第1方向D1における深さd(
図7参照)と、第1孔95aの第1方向D1における長さLとの比は、0.3以上0.6以下であることが好ましい。また、第1空間97及び弁座96に形成される第3孔96a(後述)の容積と、バッファ空間95cの容積との比は、0.2以上0.8以下であることが好ましい。
【0078】
弁押さえ95は、弁本体94のインジェクション配管92側への移動を規制する。言い換えると、弁本体94は、インジェクション配管92に向かって第1方向D1に移動する場合、弁押さえ95に当たるまで移動可能である。弁本体94が弁押さえ95に当たっている状態では、弁押さえ95の第1孔95aは、弁本体94の周縁部94bによって塞がれている。このとき、弁本体94の第2孔94aは、弁押さえ95の閉鎖部95bによって塞がれている。弁本体94が弁押さえ95から離れている状態では、弁押さえ95の第1孔95aは、弁本体94の周縁部94bによって塞がれていない。このとき、弁本体94の第2孔94aは、弁押さえ95の閉鎖部95bによって塞がれていない。
【0079】
このように、弁押さえ95の第1孔95aは、弁本体94により開閉される。具体的には、弁本体94が弁押さえ95に当たっている状態では、弁本体94の第2孔94a、および、弁押さえ95の第1孔95aは塞がれているので、インジェクション弁93は閉じている状態にある(
図5参照)。このため、インジェクション配管92内の冷媒は、第1孔95aおよび第2孔94aを通過して、圧縮室40に流入できない。一方、弁本体94が弁押さえ95から離れている状態では、弁本体94の第2孔94a、および、弁押さえ95の第1孔95aは塞がれていないので、インジェクション弁93は開いている状態にある(
図6参照)。このため、インジェクション配管92内の冷媒は、第1孔95aおよび第2孔94aを通過して、圧縮室40に流入できる。
【0080】
弁座96は、弁本体94の圧縮室40側への移動を規制する。弁座96は、インジェクション通路84gのシリンダ内周面86c側において圧入される。弁座96は、第1方向D1に沿って外径がほぼ一定である円柱形状を有する。弁座96は、第3孔96aを有する。第3孔96aは、第1方向D1に沿って弁座96を貫通する。弁座96は、第1空間97と圧縮室40とを連通する。第3孔96aは、圧縮室40側からインジェクション配管92側の開口まで内径が拡大する拡大部96aeを含む。第3孔96aの最も小さい内径は、弁本体94の第2孔94aの内径とほぼ同じである。第3孔96aの最も大きい内径である拡大部96aeの開口の内径は、弁本体94の第2孔94aの内径よりも大きい。第3孔96aは、インジェクション通路84gを介して、圧縮室40と常に連通している。
【0081】
弁本体94は、圧縮室40に向かって第1方向D1に移動する場合、弁座96に当たるまで移動可能である。弁本体94が弁座96に当たっている状態では、弁本体94の第2孔94aは、弁座96の第3孔96aと連通している。弁本体94が弁座96に当たっている時、弁本体94は弁押さえ95から離れているので、インジェクション弁93は開いている状態にある(
図6参照)。
【0082】
(2-2)圧縮機の動作
駆動モータ16が始動すると、クランクシャフト17の偏心軸部17aは、クランクシャフト17の回転軸17gを中心に偏心回転する。これにより、偏心軸部17aに連結されるピストン81は、シリンダ84のシリンダ孔84a内で公転する。ピストン81が公転している間、ピストン外周面81cは、シリンダ内周面86cと接する。ピストン81の公転によって、ベーン81bは、その両側面をブッシュ82に挟まれながら進退する。
【0083】
ピストン81の公転に伴い、吸入孔84bと連通する圧縮室40(低圧室40a)は、徐々に容積を増加させる。このとき、ケーシング10の外部から吸入管19を経由して、低圧室40aに低圧の冷媒が流入する。ピストン81の公転に伴い、低圧室40aは、吐出切り欠き84cと連通する高圧室40bとなり、高圧室40bは、徐々に容積を減少させて消滅し、その後、新たな低圧室40aが形成される。これにより、吸入管19から吸入孔84bを経由して低圧室40aに流入した低圧の冷媒は、圧縮室40(高圧室40b)で圧縮される。圧縮室40において冷媒が圧縮されている間、ベーン81bは、一対のブッシュの間で進退可能に保持される。
【0084】
高圧室40bで圧縮された高圧の冷媒は、吐出切り欠き84cおよび吐出ポート23bを経由して、高圧空間HSに吐出される。高圧空間HSに吐出された冷媒は、駆動モータ16のモータ冷却通路を通過して上方に向かって流れた後、吐出管20からケーシング10の外部に吐出される。
【0085】
(2-3)中間インジェクション
中間インジェクションは、インジェクション弁93が開いている状態において、インジェクション通路84gから高圧室40bに中間圧の冷媒が供給されることにより行われる。中間インジェクションは、圧縮室40(高圧室40b)の圧力が中間圧よりも低い場合に行われ、圧縮室40(高圧室40b)の圧力が中間圧以上の場合には行われない。
【0086】
ピストン81が公転している間、次に説明するようにして、インジェクション弁93は開閉を繰り返す。
【0087】
図10に示されるように、ピストン81が上死点に位置している時、ベーン81b全体が一対のブッシュ82によって支持されている。この時、圧縮室40は、ピストン81によって低圧室40aと高圧室40bとに区画されておらず、圧縮室40は、吸入孔84bおよびインジェクション通路84gの両方と連通している。そのため、圧縮室40は、吸入孔84bから流入する低圧の冷媒で満たされている。圧縮室40の圧力は中間圧よりも低いので、中間圧によって弁本体94は弁座96に向かって移動して弁座96に当たる。その結果、インジェクション弁93が開き、中間インジェクションが行われる(
図6参照)。
【0088】
図10に示される状態からピストン81が公転すると、
図11に示されるように、ピストン81は、シリンダ内周面86cにおける吸入孔84bの開口を塞ぐ。この時、圧縮室40は、ピストン81によって低圧室40aと高圧室40bとに区画され、高圧室40bは、インジェクション通路84gと連通している。その後、ピストン81がさらに公転して高圧室40bの圧力が上昇すると、高圧室40bの圧力は中間圧以上になる。これにより、高圧室40bの圧力によって弁本体94は弁押さえ95に向かって移動して弁押さえ95に当たる。その結果、インジェクション弁93が閉じ、中間インジェクションが終了する(
図5参照)。
【0089】
圧縮室40(高圧室40b)の冷媒は、中間インジェクションが終了する直前に、第1空間97に流入する。第1空間97に流入した冷媒の少なくとも一部は、
図7に矢印で示されるように、弁本体94の第2孔94aを通過して第1孔95aに達する前にバッファ空間95cに流れ込む。これにより、冷媒が第1空間97に流入してから第1孔95aに達するまでの間にタイムラグが生じる。中間インジェクションにおいて弁座96に当たっていた弁本体94は、このタイムラグの間に弁押さえ95に向かって移動し弁押さえ95の第1孔95aを塞ぐことができる。
【0090】
また、上述したように、第3孔96aに形成された拡大部96aeの開口の内径は、弁本体94に形成された第2孔94aの内径よりも大きく形成されている。これにより、圧縮室40から第3孔96aに流入した冷媒の一部が第2孔94aの周囲に当たるため、弁本体94は、弁押さえ95に向かって確実に移動し弁押さえ95の第1孔95aを塞ぐことができる。
【0091】
次に、ピストン81がさらに公転すると、
図12に示されるように、ピストン81は、シリンダ内周面86cにおけるインジェクション通路84gの開口を塞ぐ。この時、圧縮室40は、ピストン81によって低圧室40aと高圧室40bとに区画され、低圧室40aは、吸入孔84bと連通している。そのため、低圧室40aは、吸入孔84bから流入する低圧の冷媒で満たされている。その後、ピストン81がさらに公転して、低圧室40aがインジェクション通路84gと連通すると、低圧室40aの圧力は中間圧よりも低いので、中間圧によって弁本体94は弁座96に向かって移動して弁座96に当たる。その結果、インジェクション弁93が開き、中間インジェクションが行われる(
図6参照)。その後、ピストン81がさらに公転すると、
図10に示されるように、ピストン81は上死点に位置する。
【0092】
以上で説明をしたように、ピストン81が公転している間、インジェクション弁93は、圧縮室40内の冷媒と、インジェクション配管92内の中間圧の冷媒との間の圧力差によって開閉する。この結果、圧縮室40の圧力がインジェクション配管92内の中間圧よりも低い場合にインジェクション弁93が開き、中間インジェクションが行われる。また、圧縮室40の圧力が中間圧以上の場合にインジェクション弁93が閉じ、中間インジェクションが行われない。
【0093】
このようにして、インジェクション弁93は、中間インジェクションを行うとともに、中間インジェクションを行わない際に圧縮室40からインジェクション通路84gへ冷媒が流出することを抑制できる。従って、圧縮機21が動作している間に圧縮室40に十分な量の中間圧の冷媒が供給されるため、圧縮機21は、インジェクション弁93が無い場合と比較して高い圧縮率が得られる。
【0094】
(3)特徴
(3-1)
圧縮機21は、圧縮機構15と、インジェクション弁93と、インジェクション配管92とを備える。圧縮機構15は、冷媒が圧縮される圧縮室40を有する。インジェクション弁93は、圧縮室40と連通するインジェクション通路84gに配置される。インジェクション配管92は、インジェクション通路84gに冷媒を供給する。
【0095】
インジェクション弁93は、弁本体94と、弁押さえ95と、弁座96とを有する。弁本体94は、第1方向D1に沿って移動可能に配置される。弁押さえ95は、弁本体94よりもインジェクション配管92側に配置され、弁本体94のインジェクション配管92側への移動を規制する。弁座96は、弁本体94よりも圧縮室40側に配置され、弁本体94の圧縮室40側への移動を規制する。弁押さえ95は、冷媒が通過し、圧縮室40から冷媒が流出する際に弁本体94により閉塞される第1孔95aが形成される。弁本体94は、冷媒が通過する第2孔94aが形成される。
【0096】
圧縮機21は、弁押さえ95と弁座96との間において弁本体94が収容された第1空間97に連通し、圧縮室40から第1空間97に流入した冷媒が第1孔95aに達する前に流れ込むバッファ空間95cが形成される。
【0097】
圧縮機21のように、圧縮室40とインジェクション通路84gとの圧力差を用いて板状の弁本体94を動かすインジェクション弁93は、バネ部材で弁本体94を動かす逆止弁と比べて構造がシンプルである。その反面、重量や形状によっては、第1空間97の内部で弁本体94が速やかに動かずに、中間インジェクションが終了する直前に高圧の冷媒が圧縮室40からインジェクション通路84gへ流出してしまい、高い圧縮率を実現できないおそれがあった。
【0098】
圧縮機21では、中間インジェクションが終了する直前に第1空間97に流入した冷媒の少なくとも一部は、第1孔95aに達する前にバッファ空間95cに流れ込む。これにより、冷媒が第1空間97に流入してから第1孔95aに達するまでの間にタイムラグが生じる。中間インジェクションにおいて弁座96に当たっていた弁本体94は、このタイムラグの間に弁押さえ95に向かって移動し弁押さえ95の第1孔95aを塞ぎ、圧縮室40からインジェクション通路84gへの冷媒の流出を抑制できる。
【0099】
このように、圧縮機21は、インジェクション弁93がバネ部材を用いないシンプルな構造でありながら、中間インジェクションが終了する直前における圧縮室40からインジェクション通路84gへの冷媒の流出を抑制することで、高い圧縮効率を得られる。
【0100】
(3-2)
バッファ空間95cは、第2孔94aよりもインジェクション配管92側に形成されている。
【0101】
(3-3)
バッファ空間95cは、弁押さえ95の弁本体94に対向する面に形成された凹部である。
【0102】
(3-4)
第1空間97は、円筒状である。弁本体94は、中央に第2孔94aが形成された円形の平板である。バッファ空間95cは、第2孔94aとともに第1空間97の中心軸CL上に位置する。
【0103】
これにより、バッファ空間95cと第2孔94aとが中心軸CL上に位置するため、第2孔94aを通過した冷媒の大部分がバッファ空間95cに流れ込むことができ、圧縮室40からの冷媒の流出が効果的に抑制される。
【0104】
(3-5)
バッファ空間95cの弁本体94に対向する開口95coの面積と、第2孔94aの流路面積との比は、0.5以上1.0以下である。
【0105】
これにより、第2孔94aを通過した冷媒の大部分がバッファ空間95cに流れ込むことができるため、圧縮室40からの冷媒の流出が効果的に抑制される。
【0106】
(3-6)
バッファ空間95cの第1空間97の第1方向D1における深さdと、第1孔95aの第1方向D1における長さLとの比は、0.3以上0.6以下である。
【0107】
これにより、第2孔94aを通過した冷媒の大部分がバッファ空間95cに流れ込むことができるため、冷媒が第1空間97に流入してから第1孔95aに達するまでのタイムラグを確実に発生させて圧縮室40からの冷媒の流出が効果的に抑制される。
【0108】
(3-7)
弁座96は、第1空間97と圧縮室40とを連通する第3孔96aが形成されている。第1空間97及び第3孔96aの容積と、バッファ空間95cの容積との比は、0.2以上0.8以下である。
【0109】
これにより、第1空間97に流入した冷媒の大部分がバッファ空間95cに流れ込むことができるため、冷媒が第1空間97に流入してから第1孔95aに達するまでのタイムラグを確実に発生させて圧縮室40からの冷媒の流出が効果的に抑制される。
【0110】
(3-8)
空気調和装置1は、圧縮機21を備える。
【0111】
空気調和装置1は、圧縮効率の高い圧縮機21を備えるため高効率での空調運転が可能である。
【0112】
(4)変形例
インジェクション弁93は、回転式の圧縮機以外の圧縮機にも適用できる。例えば、インジェクション弁93は、スクロール式の圧縮機にも適用できる。
【0113】
―むすび―
以上、本開示の実施形態を説明したが、特許請求の範囲に記載された本開示の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【符号の説明】
【0114】
1 :空気調和装置
15 :圧縮機構
21 :圧縮機
40 :圧縮室
84g :インジェクション通路
92 :インジェクション配管
93 :インジェクション弁
94 :弁本体
94a :第2孔
95 :弁押さえ
95a :第1孔
95c :バッファ空間
95co:バッファ空間の開口
96 :弁座
96a :第3孔
CL :第1空間の中心軸
d :バッファ空間の第1方向における深さ
L :第1孔の第1方向D1における長さ
D1 :第1方向
【先行技術文献】
【特許文献】
【0115】