(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】噴霧装置、および空気処理装置
(51)【国際特許分類】
A61M 11/00 20060101AFI20231213BHJP
A61L 9/14 20060101ALI20231213BHJP
B05B 12/12 20060101ALI20231213BHJP
F24F 1/008 20190101ALI20231213BHJP
B05B 7/30 20060101ALN20231213BHJP
【FI】
A61M11/00 A
A61L9/14
B05B12/12
F24F1/008
B05B7/30
(21)【出願番号】P 2022199352
(22)【出願日】2022-12-14
【審査請求日】2022-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2021202619
(32)【優先日】2021-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】武田 信明
(72)【発明者】
【氏名】趙 俊秀
【審査官】今関 雅子
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第213374464(CN,U)
【文献】特表2010-536519(JP,A)
【文献】特開平01-218458(JP,A)
【文献】国際公開第2008/084864(WO,A1)
【文献】特開2017-033226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 11/00-15/00
A61L 9/14
F24F 1/008
F24F 6/00- 6/18
F24F 11/00-11/89
B05B 3/00- 3/18
B05B 12/02-12/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗酸化作用または抗炎症作用を有する有用物質と、
対象者(T)が存在する空間(S)に前記有用物質を噴霧する噴霧部(20)と、
前記噴霧部(20)を制御する制御装置(30)と、
前記空間(S)の空気の湿度を調整する調湿部(14)と、
前記有用物質と前記有用物質に対応する設定湿度とを含むデータを記憶する記憶部(31)とを備え、
前記噴霧部(20)から噴霧される前記有用物質の粒径は、1μm以上かつ10μm以下であり、
前記制御装置(30)は、前記記憶部(31)に記憶された前記データに基づき前記噴霧部(20)から噴霧される前記有用物質に対応する設定湿度を取得し、該設定湿度を満たすように前記調湿部(14)を制御する
噴霧装置。
【請求項2】
抗酸化作用または抗炎症作用を有する有用物質と、
対象者(T)が存在する空間(S)に前記有用物質を噴霧する噴霧部(20)と、
前記噴霧部(20)を制御する制御装置(30)と、
前記対象者(T)の鼻の位置を検出する位置センサ(16)と、
前記噴霧部(20)による前記有用物質の噴霧方向を変更する方向変更部(13)とを備え、
前記噴霧部(20)から噴霧される前記有用物質の粒径は、1μm以上かつ10μm以下であり、
前記制御装置(30)は、前記位置センサ(16)による位置の検出結果に応じて前記対象者(T)の鼻に向けて前記有用物質が噴霧されるように前記方向変更部(13)を駆動させる
噴霧装置。
【請求項3】
前記噴霧部(20)から噴霧される前記有用物質の粒径は、5μm以上かつ10μm以下である
請求項1または2に記載の噴霧装置。
【請求項4】
前記設定湿度は、50%以上であり、
前記制御装置(30)は、前記噴霧部(20)の動作中において、
前記設定湿度を満たすように前記調湿部(14)を制御する
請求項
1に記載の噴霧装置。
【請求項5】
前記設定湿度は、70%以上かつ85%以下であり、
前記制御装置(30)は、前記噴霧部(20)の動作中において、
前記設定湿度を満たすように前記調湿部(14)を制御する
請求項4に記載の噴霧装置。
【請求項6】
抗酸化作用を有する有用物質と、
対象者(T)が存在する空間(S)に前記有用物質を噴霧する噴霧部(20)と、
前記噴霧部(20)を制御する制御装置(30)と、
前記空間(S)の空気の湿度を調整する調湿部(14)と、
前記有用物質と前記有用物質に対応する設定湿度とを含むデータを記憶する記憶部(31)と、
前記対象者(T)の生体情報を検出する生体センサ(15)
とを備え、
前記噴霧部(20)から噴霧される前記有用物質の粒径は、1μm以上かつ10μm以下であり、
前記制御装置(30)は、
前記記憶部(31)に記憶された前記データに基づき前記噴霧部(20)から噴霧される前記有用物質に対応する設定湿度を取得し、該設定湿度を満たすように前記調湿部(14)を制御し、
前記生体センサ(15)で検出した生体情報に基づいて前記対象者(T)の副交感神経が優位であると判断した場合に、前記噴霧部(20)から前記有用物質を噴霧させる
噴霧装置。
【請求項7】
前記有用物質は、ブドウ、黒米、ブルーベリー、ゴマ、ブロッコリー、ニンニク、ホウレンソウ、トマト、スイカ、柑橘類、ローズマリー、オレガノ、タイム、セサミシード、キダチトウガラシ、コショウ、ジンジャー、シャゼンシ、およびヒメノボタンから選ばれる少なくとも1つの天然物を含む
請求項6に記載の噴霧装置。
【請求項8】
前記有用物質は、アントシアニン、セサミノール、スルフォラファン、アリシン、ルテイン、リコピン、リモネン、ロスマノール、ロスマリジフェノール、プロトカテク酸、コーヒー酸、ロスマリン酸、チモール、カルバクロール、カプサイシン、ハイドロカプサイシン、ピペリン、ジンゲロン、ギンゲロール、ジンジャーオール、ゲニポシド酸、およびオスベッキア酸から選ばれる少なくとも1つの物質を含む
請求項6に記載の噴霧装置。
【請求項9】
前記有用物質は、スルフォラファンを含み、
前記制御装置(30)は、1日におけるスルフォラファンの総噴霧量が10μmol以上かつ1000μmol以下となるように、前記噴霧部(20)から前記有用物質を噴霧させる
請求項6に記載の噴霧装置。
【請求項10】
抗炎症作用を有する有用物質と、
対象者(T)が存在する空間(S)に前記有用物質を噴霧する噴霧部(20)と、
前記噴霧部(20)を制御する制御装置(30)と、
前記空間(S)の空気の湿度を調整する調湿部(14)と、
前記有用物質と前記有用物質に対応する設定湿度とを含むデータを記憶する記憶部(31)と、
前記対象者(T)の生体情報を検出する生体センサ(15)
とを備え、
前記噴霧部(20)から噴霧される前記有用物質の粒径は、1μm以上かつ10μm以下であり、
前記制御装置(30)は、
前記記憶部(31)に記憶された前記データに基づき前記噴霧部(20)から噴霧される前記有用物質に対応する設定湿度を取得し、該設定湿度を満たすように前記調湿部(14)を制御し、
前記生体センサ(15)で検出した生体情報に基づいて前記対象者(T)の交感神経が優位であると判断した場合に、前記噴霧部(20)から前記有用物質を噴霧させる
噴霧装置。
【請求項11】
前記有用物質は、レモングラス、レッドタイム、パチュリ、スペアミント、ユーカリ、ティートリー、トゥルーラベンダー、ゼラニウム・ブルボン、ジュニパー、カモミール、ジャーマンカモミール、フランキンセンス、レモン、ジンジャー、ブラックペッパー、クローブ、シナモン、オレガノ、ウィンターセイボリ、スターアニス、レモンバーム、シトロネラ、メリッサ、レモンガム、およびバーベナから選ばれる少なくとも1つの天然物を含む
請求項10に記載の噴霧装置。
【請求項12】
前記有用物質は、シトラール、チモール、パチョロール、カルボン、1,8-シネオール、テルピネン-4-オール、リナロール、ゲラニオール、β-シトロネロール、α-ピネン、カマズレン、ファルネセン、ビサボレン、オイゲノール、カルバクロール、アネトール、シトロネラール、およびネラールから選ばれる少なくとも1つの物質を含む
請求項10に記載の噴霧装置。
【請求項13】
前記有用物質は、テルピネン-4-オールを含み、
前記制御装置(30)は、1日におけるテルピネン-4-オールの総噴霧量が10μmol以上かつ1000μmol以下となるように、前記噴霧部(20)から前記有用物質を噴霧させる
請求項10に記載の噴霧装置。
【請求項14】
請求項1
、2、6または10に記載の噴霧装置(10)を備える空気処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、噴霧装置、および空気処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、人が手軽に抗酸化作用や抗炎症作用を得るための手段として、抗酸化作用や抗炎症作用を有する成分を含む食品(例えば、野菜、果物、サプリメントなど)を経口摂取する手段が知られている。特許文献1には、抗酸化作用のある成分であるスルフォラファンを有効に含むブロッコリー加工食品の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
食品の経口摂取によって抗酸化作用や抗炎症作用を得る場合には、摂取した食品が体内で消化される過程で、抗酸化作用や抗炎症作用を有する有用物質が体内で吸収されることにより、これらの作用が得られる。しかし、経口摂取の場合、食品の消化に時間がかかるとともに、消化の度合いに個人差があるため、有用物質が体内に十分に吸収されないことがあった。
【0005】
本開示の目的は、抗酸化作用または抗炎症作用を有する有用物質を効率よく体内で吸収することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様は、抗酸化作用または抗炎症作用を有する有用物質と、対象者(T)が存在する空間(S)に前記有用物質を噴霧する噴霧部(20)と、前記噴霧部(20)を制御する制御装置(30)とを備え、前記噴霧部(20)から噴霧される前記有用物質の粒径は、1μm以上かつ10μm以下である噴霧装置である。
【0007】
第1の態様では、噴霧部(20)から1μm以上かつ10μm以下の粒径の有用物質が噴霧されるので、該有用物質が対象者(T)の鼻腔粘膜または口腔粘膜に捕捉される。これにより、有用物質が鼻腔粘膜または口腔粘膜から効率よく体内に吸収できる。
【0008】
第2の態様は、第1の態様において、前記噴霧部(20)から噴霧される前記有用物質の粒径は、5μm以上かつ10μm以下である。
【0009】
第2の態様では、噴霧部(20)から5μm以上かつ10μm以下の粒径の有用物質が噴霧されるので、有用物質の多くが気管や気管支まで達することなく、鼻腔粘膜で捕捉される。これにより、有用物質が人の自律神経系および粘膜免疫系を介してより効率よく体内に吸収される。
【0010】
第3の態様は、第1または第2の態様において、前記空間(S)の空気の湿度を調整する調湿部(14)と、前記有用物質と前記有用物質に対応する設定湿度とを含むデータを記憶する記憶部(31)とを更に備え、前記制御装置(30)は、前記記憶部(31)に記憶された前記データに基づき前記噴霧部(20)から噴霧される前記有用物質に対応する設定湿度を取得し、該設定湿度を満たすように前記調湿部(14)を制御する。
【0011】
第3の態様では、制御装置(30)が、記憶部(31)に記憶されたデータに基づいて噴霧部(20)から噴霧される有用物質に対応する設定湿度を満たすように調湿部(14)を制御する。これにより、有用物質が対象者(T)に効率よく作用する湿度の情報を記憶部(31)に記憶させることによって、対象者(T)の体内で有用物質を効率よく吸収できる。
【0012】
第4の態様は、第1~第3のいずれか1つの態様において、前記空間(S)の空気の湿度を調整する調湿部(14)を備え、前記制御装置(30)は、前記噴霧部(20)の動作中において、前記空間(S)の湿度が50%以上になるように前記調湿部(14)を制御する。
【0013】
第4の態様では、制御装置(30)が調湿部(14)を制御することにより、噴霧部(20)の動作中において、空間(S)の湿度が50%以上に保たれる。これにより、有用物質が体内に吸収されやすい環境を整えることができる。
【0014】
第5の態様は、第4の態様において、前記制御装置(30)は、前記噴霧部(20)の動作中において、前記空間(S)の湿度が70%以上かつ85%以下となるように前記調湿部(14)を制御する。
【0015】
第5の態様では、制御装置(30)が調湿部(14)を制御することにより、噴霧部(20)の動作中において、空間(S)の湿度が70%以上かつ85%以下に保たれる。これにより、より有用物質が体内に吸収されやすい環境を整えることができる。
【0016】
第6の態様は、第1~第5のいずれか1つの態様において、前記対象者(T)の鼻の位置を検出する位置センサ(16)と、前記噴霧部(20)による前記有用物質の噴霧方向を変更する方向変更部(13)とを備え、前記制御装置(30)は、前記位置センサ(16)による位置の検出結果に応じて前記対象者(T)の鼻に向けて前記有用物質が噴霧されるように前記方向変更部(13)を駆動させる。
【0017】
第6の態様では、方向変更部(13)によって有用物質の噴霧方向を対象者(T)の鼻の方向に変更できるので、有用物質を対象者(T)の鼻の周辺に到達させることができる。これにより、有用物質を効率よく体内に吸収できる。
【0018】
第7の態様は、第1~第6のいずれか1つの態様において、前記対象者(T)の生体情報を検出する生体センサ(15)を備え、前記有用物質は、抗酸化作用を有し、前記制御装置(30)は、前記生体センサ(15)で取得した検出した生体情報に基づいて前記対象者(T)の副交感神経が優位であると判断した場合に、前記噴霧部(20)から前記有用物質を噴霧させる。
【0019】
第7の態様では、対象者(T)の副交感神経が優位なときに抗酸化作用を有する有用物質が噴霧されるので、対象者(T)が抗酸化作用を効率よく得ることができる。
【0020】
第8の態様は、第7の態様において、前記有用物質は、ブドウ、黒米、ブルーベリー、ゴマ、ブロッコリー、ニンニク、ホウレンソウ、トマト、スイカ、柑橘類、ローズマリー、オレガノ、タイム、セサミシード、キダチトウガラシ、コショウ、ジンジャー、シャゼンシ、およびヒメノボタンから選ばれる少なくとも1つの天然物を含む。
【0021】
第9の態様は、第7または第8の態様において、前記有用物質は、アントシアニン、セサミノール、スルフォラファン、アリシン、ルテイン、リコピン、リモネン、ロスマノール、ロスマリジフェノール、プロトカテク酸、コーヒー酸、ロスマリン酸、チモール、カルバクロール、カプサイシン、ハイドロカプサイシン、ピペリン、ジンゲロン、ギンゲロール、ジンジャーオール、ゲニポシド酸、およびオスベッキア酸から選ばれる少なくとも1つの物質を含む。
【0022】
第10の態様は、第7~第9のいずれか1つの態様において、前記有用物質は、スルフォラファンを含み、前記制御装置(30)は、1日におけるスルフォラファンの総噴霧量が10μmol以上かつ1000μmol以下となるように、前記噴霧部(20)から前記有用物質を噴霧させる。
【0023】
第10の態様では、対象者が高い抗酸化作用を得るのに適切なスルフォラファンの量を噴霧できる。
【0024】
第11の態様は、第1~第6のいずれか1つの態様において、前記対象者(T)の生体情報を検出する生体センサ(15)を備え、前記有用物質は、抗炎症作用を有し、前記制御装置(30)は、前記生体センサ(15)で検出した生体情報に基づいて前記対象者(T)の交感神経が優位であると判断した場合に、前記噴霧部(20)から前記有用物質を噴霧させる。
【0025】
第11の態様では、対象者(T)の交感神経が優位なときに抗炎症作用を有する有用物質が噴霧されるので、対象者(T)が抗炎症作用を効率よく得ることができる。
【0026】
第12の態様は、第11の態様において、前記有用物質は、レモングラス、レッドタイム、パチュリ、スペアミント、ユーカリ、ティートリー、トゥルーラベンダー、ゼラニウム・ブルボン、ジュニパー、カモミール、ジャーマンカモミール、フランキンセンス、レモン、ジンジャー、ブラックペッパー、クローブ、シナモン、オレガノ、ウィンターセイボリ、スターアニス、レモンバーム、シトロネラ、メリッサ、レモンガム、およびバーベナから選ばれる少なくとも1つの天然物を含む。
【0027】
第13の態様は、第11または第12の態様において、前記有用物質は、シトラール、チモール、パチョロール、カルボン、1,8-シネオール、テルピネン-4-オール、リナロール、ゲラニオール、β-シトロネロール、α-ピネン、カマズレン、ファルネセン、ビサボレン、オイゲノール、カルバクロール、アネトール、シトロネラール、およびネラールから選ばれる少なくとも1つの物質を含む。
【0028】
第14の態様は、第11~第13のいずれか1つの態様において、前記有用物質は、テルピネン-4-オールを含み、前記制御装置(30)は、1日におけるテルピネン-4-オールの総噴霧量が10μmol以上かつ1000μmol以下となるように、前記噴霧部(20)から前記有用物質を噴霧させる。
【0029】
第14の態様では、対象者が高い抗炎症作用を得るのに適切なテルピネン-4-オールの量を噴霧することができる。
【0030】
第15の態様は、第1~第14のいずれか1つの態様の噴霧装置(10)を備える空気処理装置である。
【0031】
第15の態様では、噴霧装置(10)を空気処理装置(A)に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、実施形態1の噴霧装置の概略の全体構成図である。
【
図2】
図2は、噴霧装置の概略のブロック図である。
【
図4】
図4は、制御装置が行う処理の流れを示したフローチャートである。
【
図10】
図10は、実施形態3の制御テーブルの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示される実施形態に限定されるものではなく、本開示の技術的思想を逸脱しない範囲内で各種の変更が可能である。各図面は、本開示を概念的に説明するためのものであるから、理解容易のために必要に応じて寸法、比または数を誇張または簡略化して表す場合がある。
【0034】
《実施形態1》
実施形態1の噴霧装置(10)について説明する。
【0035】
(1)噴霧装置の概要
図1に示すように、本実施形態の噴霧装置(10)は、対象者(T)が存在する室内空間(S)に配置される。噴霧装置(10)は、室内空間(S)の床面に設置される。室内空間(S)は、本開示の空間に対応する。対象者(T)は、例えば室内空間(S)において、ベッドなどの寝具の上で就寝する。
【0036】
噴霧装置(10)は、対象者(T)に対して抗酸化作用または抗炎症作用を有する有用物質を噴霧する。本実施形態の噴霧装置(10)は、抗酸化作用を有する有用物質を含む薬液を噴霧する。具体的には、薬液に含まれる有用物質には、抗酸化作用を有する物質としてスルフォラファンが含まれる。スルフォラファンは、主にブロッコリースプラウト等に含まれる成分である。
【0037】
ところで、人の体内では、呼吸等で取り込んだ酸素の一部が変化して活性酸素が発生している。この活性酸素は、細胞を酸化させる力が強く、体内で過剰に発生すると正常な細胞を攻撃してしまう。これに対し、人はこの活性酸素を抑制する働き(抗酸化機能)を備えている。本開示でいう「抗酸化作用」とは、物質自体の働きによって対象物(例えば、食品や工業原材料)の酸化を抑制する作用に限られず、体内に取り込むことによってもともと人に備わっている活性酸素を抑制する働き(抗酸化機能)を高める作用を含む。抗酸化作用を有する有用物質の詳細については、後述する。
【0038】
なお、本実施形態の薬液には、抗酸化作用を有する有用物質以外の物質を含んでもよい。有用物質を含む薬液において、抗酸化作用が十分に発揮される量の有用物質が配合されていればよく、薬液における各成分の配合量は、有用物質の他に配合される成分などに応じて適宜選択されるものであり、特に限定されるものではない。
【0039】
噴霧装置(10)は、対象者(T)の鼻および口に向けて、粒径が1μm以上かつ10μm以下の有用物質を噴霧する。ここでいう「粒径」は、平均粒子径のことである。噴霧装置(10)は、対象者(T)の鼻の周辺に向けて所定の粒径の有用物質を噴霧することで、対象者(T)の鼻腔粘膜から有用物質が効率よく吸収される。本実施形態の噴霧装置(10)では、対象者(T)の鼻および口に向けて有用物質を噴霧する。
【0040】
(2)噴霧装置の詳細
図1~
図3に示すように、噴霧装置(10)は、ケーシング(11)、噴霧部(20)、ノズル可動モータ(13)、調湿部(14)、生体センサ(15)、カメラ(16)、湿度センサ(17)、および制御装置(30)を備える。本実施形態では、ケーシング(11)の内部に、噴霧部(20)、ノズル可動モータ(13)、調湿部(14)、および制御装置(30)が収容される。
【0041】
(2-1)ケーシング
ケーシング(11)は、中空状に形成される。ケーシング(11)には、供給口(12)が形成される。供給口(12)は、微粒化された薬液を室内空間(S)に供給する。
【0042】
(2-2)噴霧部
噴霧部(20)は、室内空間(S)に有用物質を噴霧する。
図3に示すように、噴霧部(20)は、液体貯留部(21)、気体供給部(24)、および二流体ノズル(29)を有する。
【0043】
(2-2-1)液体貯留部
液体貯留部(21)は、貯留された薬液を二流体ノズル(29)に供給する。液体貯留部(21)は、タンク(22)、および液体側継手(23)を有する。タンク(22)には、薬液が貯留される。タンク(22)は、液体側継手(23)を介して二流体ノズル(29)に接続される。タンク(22)の上部にはキャップ(22a)が取り付けられる。タンク(22)の内部には、配管(22b)が配置される。配管(22b)は、タンク(22)内の薬液を吸い込んで、二流体ノズル(29)に送る。タンク(22)は、液体側継手(23)に対して着脱可能に構成される。
【0044】
液体側継手(23)は、その一端がタンク(22)のキャップ(22a)に取り付けられるとともに配管(22b)の上端に接続される。液体側継手(23)の他端は、後述する二流体ノズル(29)の液体吸入口(29b)に接続される。これにより、液体側継手(23)を介してタンク(22)の内部と二流体ノズル(29)とが連通する。
【0045】
(2-2-2)気体供給部
気体供給部(24)は、圧縮空気を二流体ノズル(29)に供給する。気体供給部(24)は、エアポンプ(25)、空気流路(26)、電磁弁(27)、および気体側継手(28)を有する。
【0046】
エアポンプ(25)は、室内空間(S)の空気を吸い込み、吸い込んだ空気を空気流路(26)に吐出する。エアポンプ(25)の吐出部には、空気流路(26)が接続される。
【0047】
空気流路(26)は、気体側継手(28)とエアポンプ(25)とを接続する。本実施形態の空気流路(26)は、チューブで構成される。空気流路(26)を通過した空気は、気体側継手(28)を介して二流体ノズル(29)に供給される。
【0048】
電磁弁(27)は、空気流路(26)に配置される。電磁弁(27)は、空気流路(26)を開閉する開閉弁である。電磁弁(27)の代わりに空気流路(26)の開度を細かく調節できる流量調節弁を用いてもよい。
【0049】
気体側継手(28)は、空気流路(26)と二流体ノズル(29)とを接続する。気体側継手(28)の一端は、空気流路(26)の流出端に接続される。気体側継手(28)の他端は、後述する二流体ノズル(29)の気体流入口(29a)に接続される。
【0050】
(2-2-3)二流体ノズル
二流体ノズル(29)は、タンク(22)の薬液を微粒化させる微粒化機構を構成する。具体的には、二流体ノズル(29)は、薬液の液膜を気流の剪断力によって微粒化する。微粒化機構は、圧電式、静電噴霧式、超音波式などの他の方式であってもよい。二流体ノズル(29)は、気体流入口(29a)、液体吸入口(29b)、および噴霧口(29c)が形成される。
【0051】
気体流入口(29a)は、空気が流入する。気体流入口(29a)は、二流体ノズル(29)の後端に形成される。液体吸入口(29b)は、薬液を吸入する。液体吸入口(29b)は、二流体ノズル(29)の下部に形成される。噴霧口(29c)は、微粒化した薬液を放出する。噴霧口(29c)は、二流体ノズル(29)の前端に形成される。噴霧口(29c)は、ケーシング(11)の供給口(12)と連通する。
【0052】
噴霧口(29c)から放出される薬液の粒径は、1μm以上かつ10μm以下である。薬液の粒径が10μmより大きい場合、対象者(T)の鼻腔粘膜または口腔粘膜で補足されず、喉を通過して胃に流入するものが多くなってしまう。本実施形態では、薬液の粒径が十分に小さいので、薬液に含まれる有用物質が対象者(T)の鼻腔粘膜および口腔粘膜に捕捉されやすい。これらの粘膜に捕捉された有用物質は血管やリンパに入り、体内で作用させることができる。
【0053】
噴霧口(29c)から放出される薬液の粒径は、5μm以上かつ10μm以下がより好ましい。5μm以上かつ10μm以下の粒径の薬液は、特に鼻腔粘膜において捕捉されやすい。粒径が5μm未満の場合には、鼻腔を通過して気管および気管支に流入し肺胞に達する。これに対し、5μm以上かつ10μm以下の粒径の薬液は鼻腔粘膜に留まって吸収されるので、鼻腔粘膜から嗅神経を経由して、体内の自律神経系や免疫系に作用させることができる。
【0054】
(2-3)ノズル可動モータ
ノズル可動モータ(13)は、本開示の方向変更部に対応する。
図2に示すノズル可動モータ(13)は、噴霧部(20)による有用物質の噴霧方向を変更する。ノズル可動モータ(13)は、回転軸を介して、二流体ノズル(29)と連結される。ノズル可動モータ(13)によって回転軸が回転駆動されると、二流体ノズル(29)の向きが調整される。
【0055】
(2-4)調湿部
調湿部(14)は、室内空間(S)の空気の湿度を調節する。本実施形態の調湿部(14)は、室内空間(S)の空気を吸い込んで、該空気を加湿する。調湿部(14)は、気化式、加熱式、ハイブリッド式、超音波式などのいずれの方式でもよく、特に限定されない。調湿部(14)は、加湿機能に加えて、室内空間(S)の空気を除湿する除湿機能を備えてもよい。
【0056】
(2-5)生体センサ、カメラ、湿度センサ
生体センサ(15)は、対象者(T)の心拍の基となる信号を検出する。生体センサ(15)は、接触型でもよく、非接触型でもよい。本実施形態の生体センサ(15)は、接触型の生体センサ(15)である。具体的には、本実施形態の生体センサ(15)は、腕時計と一体に構成されるウェアラブルセンサであり、対象者(T)の腕に装着される。なお、生体センサ(15)は、心拍以外の生体情報(例えば、体温、血圧、血糖、体動等)の基となる信号を検出してもよい。
【0057】
カメラ(16)は、ケーシング(11)に取り付けられて、室内空間(S)に存在する対象者(T)を撮像する。カメラ(16)は、対象者(T)の鼻および口の位置を検出する。言い換えると、カメラ(16)は、対象者(T)の所定部位の位置情報を特定する位置センサを構成する。カメラ(16)は、鼻の位置のみを検出してもよい。
【0058】
なお、カメラ(16)は、対象者(T)の所定部位の位置情報以外の情報(例えば、呼吸周期、心拍、脈波、顔色等の生体情報)を検出してもよい。この場合には、カメラ(16)は、生体センサを構成する。
【0059】
湿度センサ(17)は、室内空間(S)の湿度を測定する。本実施形態の湿度センサ(17)は、ケーシング(11)に取り付けられる。なお、湿度センサ(17)は、独立して室内空間(S)に設けられてもよい。
【0060】
(2-6)制御装置
制御装置(30)は、制御基板上に搭載されたマイクロコンピュータと、該マイクロコンピュータを動作させるためのソフトウエアを格納するメモリディバイス(具体的には、半導体メモリ)とを含む。
図2に示すように、制御装置(30)は、記憶部(31)を含む。なお、制御装置(30)は、制御基板とは別体の記憶部(31)を備えてもよい。
【0061】
記憶部(31)は、複数種の有用物質と、各有用物質に対応する総噴霧量とを含むデータを記憶する。ここでいう有用物質に対応する総噴霧量とは、1日(24時間)における該有用物質の総噴霧量(累積噴霧量)のことである。記憶部(31)に記憶された有用物質は、単一の物質で構成されてもよく、複数の物質が混合された混合物質でもよい。混合物質は、他の混合物質と含まれる物質の混合比が異なっていてもよい。
【0062】
図2に示すように、制御装置(30)は、噴霧部(20)、ノズル可動モータ(13)、調湿部(14)、生体センサ(15)、カメラ(16)、および湿度センサ(17)と有線または無線により接続され、これらと信号の授受が可能に構成されている。
【0063】
制御装置(30)は、噴霧部(20)の噴霧動作を制御する。具体的には、制御装置(30)は、エアポンプ(25)を運転させるとともに、電磁弁(27)を開放させることにより、噴霧部(20)から薬液を噴霧させる。なお、噴霧部(20)の噴霧動作は、連続的に行われてもよく、間欠的に行われてもよい。
【0064】
制御装置(30)は、生体センサ(15)で検出した生体情報(心拍の情報)に基づいて、噴霧部(20)を制御する。本実施形態では、制御装置(30)は、生体センサ(15)で検出した生体情報に基づいて対象者(T)の副交感神経が優位な状態であると判断した場合に、噴霧部(20)に微粒化された薬液を噴霧させる。これにより、体内で抗酸化作用が作用しやすい状態のときに有用物質が噴霧されることにより、対象者(T)が高い抗酸化作用を得ることができる。
【0065】
制御装置(30)は、記憶部(31)に記憶されたデータに基づいて、噴霧部(20)に貯留された有用物質に対応する1日の総噴霧量の情報を取得し、取得した所定の総噴霧量の有用物質が噴霧されるように噴霧部(20)を制御する。言い換えると、制御装置(30)は、所定の起算時刻から24時間後の終算時刻までの間に、噴霧部(20)から噴霧される有用物質の総噴霧量が、記憶部(31)から取得した所定の総噴霧量を超えると、噴霧装置(10)の運転を停止する。有用物質の総噴霧量は、例えば、所定の起算時刻から24時間後の終算時刻までの間に、電磁弁(27)が開放されていた時間の累積時間に基づいて算出してもよく、それ以外の方法で総噴霧量を算出してもよい。
【0066】
本実施形態では、制御装置(30)は、1日におけるスルフォラファンの総噴霧量が10μmol以上かつ1000μmol以下となるように、噴霧部(20)から薬液を噴霧させる。これにより、対象者(T)が有用物質の作用を得るのに適切な有用物質の量を噴霧することができる。
【0067】
制御装置(30)は、カメラ(16)による鼻および口の位置の検出結果に応じて、対象者(T)の鼻および口に向けて薬液(有用物質)が噴霧されるようにノズル可動モータ(13)を駆動させる。これにより、対象者(T)の鼻および口から有用物質が効率よく吸収される。
【0068】
制御装置(30)は、噴霧部(20)の動作中において、室内空間(S)の湿度が50%以上になるように調湿部(14)を制御する。好ましくは、制御装置(30)は、噴霧部(20)の動作中において、室内空間(S)の湿度が70%以上かつ85%以下になるように調湿部(14)を制御する。ここで、室内空間(S)の湿度が50%以上である場合、体内に有用物質が吸収されやすく、室内空間(S)の湿度が70%以上かつ85%以下である場合、体内に有用物質がより吸収されやすい。したがって、制御装置(30)が調湿部(14)を制御することにより、噴霧部(20)から噴霧された有用物質が体内に吸収されやすい環境を整えることができる。
【0069】
制御装置(30)は、ケーシング(11)以外の場所に設けられてもよい。例えば、制御装置(30)は、ローカルネットワークまたはインターネットなどに接続するサーバ装置や、各種の通信端末(携帯端末、パソコンなど)に設けられてもよい。
【0070】
(3)抗酸化作用を有する有用物質の詳細
噴霧装置(10)から噴霧される抗酸化作用を有する有用物質は、以下の天然物または物質を含む。言い換えると、噴霧装置(10)から噴霧される抗酸化作用を有する有用物質として、スルフォラファン以外のものを採用してもよい。ここで、抗酸化作用を有する有用物質は、該有用物質自体が酸化を抑制する作用を持つ物質に限られず、人の持つ抗酸化機能を増強または亢進させる作用を持つ物質を含む。
【0071】
本実施形態の有用物質は、ブドウ、黒米、ブルーベリー、ゴマ、ブロッコリー、ニンニク、ホウレンソウ、トマト、スイカ、柑橘類、ローズマリー、オレガノ、タイム、セサミシード、キダチトウガラシ、コショウ、ジンジャー、シャゼンシ、およびヒメノボタンから選ばれる少なくとも1つの天然物を含む。
【0072】
本実施形態の有用物質は、アントシアニン(Anthocyanins)、セサミノール(Sesaminol)、スルフォラファン(Sulforaphane)、アリシン(Allicin)、ルテイン(Lutein)、リコピン(Lycopene)、リモネン(Limonene)、ロスマノール(Rosmanol)、ロスマリジフェノール(Rosmari diphenol)、プロトカテク酸(Protocatechuic acid)、コーヒー酸(Caffeic acid)、ロスマリン酸(Rosmarinic acid)、チモール(Thymol)、カルバクロール(Carvacrol)、カプサイシン(Capsaicin)、ハイドロカプサイシン(Hydrocapsaicin)、ピペリン(Piperine)、ジンゲロン(Zingerone)、ギンゲロール(Gingerol)、ジンジャーオール(Ginger all)、ゲニポシド酸(Geniposidic acid)、およびオスベッキア酸(Osbekic acid)から選ばれる少なくとも1つの物質を含む。
【0073】
ここで、人には、恒常性維持機能(ホメオスタシスシステム)が備わっている。この恒常性維持機能は、人が生体環境を正常な状態を保とうとする機能であり、例えば病気の原因となるウイルスや細菌に感染したような場合でも常に体内環境を快適な一定した状態に維持する機能のことである。恒常性維持機能は、免疫系、自律神経系、および内分泌系から構成され、各系統は互いに影響し合っている。
【0074】
自律神経系である交感神経の活動は、1日のうちで身体の活動性が高まる時間帯に上昇し、身体の活動性が低くなる時間帯に低下する(日内変動)。交感神経の活動性が高まる時間帯には、リンパ球がリンパ節からの脱出が抑制され、リンパ節におけるリンパ球数が増加する。これにより、交感神経の活動性が高まる時間帯では免疫系の応答が強くなる。一方、交感神経の活動性が低くなる(交感神経に比べて副交感神経が優位になる)時間帯では、リンパ球がリンパ節から脱出し、リンパ液や血液を介して体内を循環する。そのためリンパ設におけるリンパ球数が減少する。これにより、交感神経の活動性が低くなる時間帯では、免疫系の応答が弱まる。
【0075】
このような人の恒常性維持機能の性質から、免疫系の応答が強くなる交感神経の活動性が高まる(交感神経が優位)ときには、抗炎症作用が効率よく発揮される。一方、免疫系の応答が弱まる交感神経の活動が低くなる(副交感神経が優位)ときには、抗酸化作用が効率よく発揮される。このように人の恒常性維持機能の性質から、本実施形態では、対象者(T)の副交感神経が優位なときに、抗酸化作用を有する有用物質を対象者(T)に向けて噴霧する。
【0076】
(4)運転動作
噴霧装置の運転動作について、
図1~
図5を参照しながら説明する。
【0077】
図4に示すように、噴霧装置(10)が運転状態になると、制御装置(30)は、調湿部(14)を制御する(ステップST1)。詳細には、
図5に示すように、湿度センサ(17)が室内空間(S)の湿度を検出する(ステップST21)。次に、制御装置(30)は、湿度センサ(17)によって検出された室内空間(S)の湿度が50%未満か否かを判定する(ステップST22)。室内空間(S)の湿度が50%未満である場合(ステップST22のYES)、制御装置(30)は、室内空間(S)の湿度が50%以上になるように調湿部(14)に加湿させる。これにより、噴霧部(20)の動作中において対象者(T)の体内に有用物質が吸収されやすい環境を整えることができる。
【0078】
図4に示すように、生体センサ(15)が対象者(T)の心拍を検出する(ステップST2)。次に、制御装置(30)は、対象者(T)の副交感神経が優位か否かを判定する(ステップST3)。具体的には、制御装置(30)は、生体センサ(15)で検出された心拍のRR間隔の情報を取得することで、対象者(T)の副交感神経が優位か否かを判定する。
【0079】
対象者(T)の副交感神経が優位だった場合(ステップST3のYES)、カメラ(16)が対象者(T)の鼻および口の位置を検出する(ステップST4)。次に、制御装置(30)は、二流体ノズル(29)の向きを変更させる。具体的には、制御装置(30)は、カメラ(16)の検出値に基づいて、二流体ノズル(29)の噴霧口(29c)が対象者(T)の鼻および口の位置に向くように、ノズル可動モータ(13)を制御する。これにより、有用物質を含む薬液を対象者(T)の鼻および口に向けて噴霧することができる。
【0080】
次に、制御装置(30)は、有用物質を含む薬液を噴霧する噴霧動作を噴霧部(20)に実行させる(ステップST6)。具体的には、噴霧動作では、エアポンプ(25)がONされ、電磁弁(27)が開状態となり、エアポンプ(25)で搬送された空気が二流体ノズル(29)の気体流入口(29a)に導入される。同時に、タンク(22)内に貯留された薬液が配管(22b)を介して二流体ノズル(29)の液体吸入口(29b)に吸入される。二流体ノズル(29)では、気体流入口(29a)から流入した空気の気流によって、液体吸入口(29b)から吸入した薬液が微粒化される。微粒化された薬液は、噴霧口(29c)および供給口(12)を通じてケーシング(11)の外に放出される。このとき、噴霧部(20)から噴霧される有用物質の粒径は、5μm以上かつ10μm以上である。
【0081】
このように、微粒化された有用物質が対象者(T)の鼻および口に向けて噴霧されることで、鼻腔粘膜および口腔粘膜に捕捉され、体内に吸収される。また、対象者(T)の鼻および口に向けて有用物質を噴霧することにより、室内空間(S)に放出する場合に比べて、有用物質の使用量を低減できる。
【0082】
次に、制御装置(30)は、現時点での1日における所定の有用物質の総噴霧量(累積噴霧量)が所定量以上であるか否かを判定する(ステップST7)。本実施形態では、制御装置は、現時点での1日のスルフォラファンの総噴霧量が100μmol以上であるか否かを判定する。なお、1日のスルフォラファンの総噴霧量が10μmol以上かつ1000μmol以下となるように噴霧部(20)の噴霧動作が行われればよく、ここに示す1日のスルフォラファンの総噴霧量の上限値は一例である。
【0083】
噴霧部(20)から噴霧された有用物質の累積噴霧量が所定量以上であった場合(ステップST7のYES)、制御装置(30)は、噴霧装置(10)の運転を停止させる。噴霧部(20)から噴霧された有用物質の累積噴霧量が所定量以上であった場合(ステップST7のNO)、制御装置(30)は、再びステップST1に戻る。これにより、有用物質を必要以上に噴霧することを抑制できる。
【0084】
(5)特徴
(5-1)
噴霧部(20)から噴霧される有用物質の粒径は、1μm以上かつ10μm以下である。これによれば、噴霧される有用物質が所定の粒径に微粒化されているので、該有用物質が対象者(T)の鼻腔粘膜または口腔粘膜に捕捉されやすい。これにより、有用物質を効率よく体内に吸収できる。
【0085】
(5-2)
噴霧部(20)から噴霧される有用物質の粒径は、5μm以上かつ10μm以下である。ここで、有用物質の粒径が5μm未満である場合、有用物質の多くが対象者(T)の鼻腔内や口腔内を通過して気管や気管支に流入する。本実施形態では、有用物質の粒径が5μm以上かつ10μm以下であるので、有用物質が気管や気管支に達することなく、鼻腔粘膜および口腔粘膜に捕捉される。特に、粒径が5μm以上かつ10μm以下の有用物質は、鼻腔粘膜に捕捉されやすい。その結果、自律神経系および粘膜免疫系を介して有用物質をより効率よく体内に吸収できる。
【0086】
(5-3)
制御装置(30)は、噴霧部(20)の動作中において、室内空間(S)の湿度が50%以上になるように調湿部(14)を制御する。これによれば、噴霧部(20)の動作中において、室内空間(S)の湿度が50%以上に保たれる。これにより、有用物質が体内に吸収されやすい環境を整えることができる。
【0087】
(5-4)
制御装置(30)は、噴霧部(20)の動作中において、室内空間(S)の湿度が70%以上かつ85%以下となるように調湿部(14)を制御する。これによれば、噴霧部(20)の動作中において、室内空間(S)の湿度が70%以上かつ85%以下に保たれるので、有用物質がより体内に吸収されやすい環境を整えることができる。
【0088】
(5-5)
制御装置(30)は、カメラ(16)による位置の検出結果に応じて、対象者の鼻および口に向けて有用物質が噴霧されるようにノズル可動モータ(13)を駆動させる。これによれば、有用物質を対象者(T)の鼻および口の周辺に到達させることができるので、鼻腔粘膜や口腔粘膜から有用物質を効率よく体内に吸収できる。
【0089】
加えて、有用物質を対象者(T)の鼻および口の周辺に噴霧するので、室内空間(S)に噴霧する場合に比べて、使用する有用物質の量を低減できる。その結果、壁や衣類への付着による着色を低減できるとともに、有用物質の費用を低減できる。
【0090】
(5-6)
制御装置(30)は、生体センサ(15)で検出した生体情報に基づいて対象者(T)の副交感神経が優位であると判断した場合に、噴霧部(20)から抗酸化作用を有する有用物質を噴霧させる。これによれば、対象者(T)の副交感神経が優位なときに抗酸化作用を有する有用物質が噴霧されるので、対象者(T)が抗酸化作用を効率よく得ることができる。
【0091】
(5-7)
制御装置(30)は、1日におけるスルフォラファンの総噴霧量が10μmol以上かつ1000μmol以下となるように、噴霧部(20)から有用物質を噴霧させる。これによれば、対象者(T)が抗酸化作用を得るのに適切なスルフォラファンの量を噴霧できる。
【0092】
《実施形態2》
実施形態2の噴霧装置(10)について説明する。本実施形態の噴霧装置(10)は、実施形態1の噴霧装置(10)おいて、薬液に含まれる有用物質を、抗炎症作用を有する有用物質に変更したものである。ここでは、本実施形態の噴霧装置(10)について、実施形態1と異なる点を説明する。
【0093】
(1)噴霧装置
図6に示すように、本実施形態では、対象者(T)は、例えば室内空間(S)にある椅子に座っている。噴霧装置(10)は、対象者(T)の前に置かれた机の上に配置されている。
【0094】
本実施形態の薬液には、抗酸化作用を有する有用物質が含まれる。具体的には、抗炎症作用を有する物質として、テルピネン-4-オールが含まれる。テルピネン-4-オールは、ティーツリーの葉や枝、樹皮からの抽出物として得られる。
【0095】
本実施形態では、制御装置(30)は、生体センサ(15)で検出した生体情報(心拍の情報)に基づいて、対象者(T)の交感神経が優位な状態であると判断した場合に、噴霧部(20)に微粒化された薬液を噴霧させる。これにより、体内で抗炎症作用が作用しやすい状態のときに有用物質が噴霧されることによって、対象者(T)が高い抗炎症作用を得ることができる。
【0096】
制御装置(30)は、記憶部(31)に記憶されたデータに基づいて、1日におけるテルピネン-4-オールの総噴霧量が10μmol以上かつ1000μmol以下となるように、噴霧部(20)から薬液を噴霧させる。
【0097】
(2)抗炎症作用を有する有用物質の詳細
噴霧装置(10)から噴霧される抗炎症作用を有する有用物質は、以下の天然物または物質を含む。言い換えると、噴霧装置(10)から噴霧される抗炎症作用を有する有用物質として、テルピネン-4-オール以外のものを採用してもよい。
【0098】
本実施形態の有用物質は、レモングラス、レッドタイム、パチュリ、スペアミント、ユーカリ、ティートリー、トゥルーラベンダー、ゼラニウム・ブルボン、ジュニパー、カモミール、ジャーマンカモミール、フランキンセンス、レモン、ジンジャー、ブラックペッパー、クローブ、シナモン、オレガノ、ウィンターセイボリ、スターアニス、レモンバーム、シトロネラ、メリッサ、レモンガム、およびバーベナから選ばれる少なくとも1つの天然物を含む。
【0099】
本実施形態の有用物質は、シトラール(Citral)、チモール(Thymol)、パチョロール(Patchoulol)、カルボン(Carvone)、1,8-シネオール(1,8-cineole)、テルピネン-4-オール(Terpinen-4-ol)、リナロール(Linalool)、ゲラニオール(Geraniol)、β-シトロネロール(Beta-citronellol)、α-ピネン(Alpha-pinene)、カマズレン(Camazulene)、ファルネセン(Farnesene)、ビサボレン(Bisabolenes)、オイゲノール(Eugenol)、カルバクロール(Carvacrol)、アネトール(Anethole)、シトロネラール(Citronellal)、およびネラール(Neral)から選ばれる少なくとも1つの物質を含む。
【0100】
(3)運転動作
図7に示すように、本実施形態の噴霧装置(10)の運転動作は、実施形態1の噴霧装置(10)の運転動作に対して、ステップST3およびステップST7が異なる。
【0101】
ステップST3では、制御装置(30)は、対象者(T)の交感神経が優位か否かを判定する。具体的には、制御装置(30)は、生体センサ(15)で検出された心拍のRR間隔の情報を取得することで、対象者(T)の交感神経が優位か否かを判定する。対象者(T)の交感神経が優位だった場合(ステップST3のYES)、カメラ(16)が対象者(T)の鼻および口の位置を検出する(ステップST4)。
【0102】
ステップST7では、制御装置(30)は、現時点での1日における所定の有用物質の総噴霧量(累積噴霧量)が所定量以上であるか否かを判定する。本実施形態では、制御装置は、現時点での1日のテルピネン-4-オールの総噴霧量が100μmol以上であるか否かを判定する。なお、1日のテルピネン-4-オールの総噴霧量が10μmol以上かつ1000μmol以下となるように噴霧部(20)の噴霧動作が行われればよく、ここに示す1日のスルフォラファンの総噴霧量の上限値は一例である。
【0103】
(4)特徴
(4-1)
制御装置(30)は、生体センサ(15)で検出した生体情報に基づいて対象者(T)の交感神経が優位であると判断した場合に、噴霧部(20)から抗炎症作用を有する有用物質を噴霧させる。これによれば、対象者(T)の交感神経が優位なときに抗炎症作用を有する有用物質が噴霧されるので、対象者(T)が効率よく得ることができる。
【0104】
(4-2)
前記制御装置(30)は、1日におけるテルピネン-4-オールの総噴霧量が10μmol以上かつ1000μmol以下となるように、噴霧部(20)から有用物質を噴霧させる。これによれば、対象者(T)が抗炎症作用を得るのに適切なテルピネン-4-オールの量を噴霧できる。
【0105】
《実施形態3》
実施形態3の噴霧装置(10)について説明する。本実施形態の噴霧装置(10)は、実施形態1の噴霧装置(10)おいて制御装置(30)を変更したものである。ここでは、本実施形態の噴霧装置(10)について、実施形態1と異なる点を説明する。
【0106】
(1)制御装置
図9に示すように、制御装置(30)は、記憶部(31)および決定部(32)を含む。
【0107】
記憶部(31)は、制御テーブルを記憶する。
図10に示すように、制御テーブルには、複数種の有用物質と、各有用物質に対応する総噴霧量および設定湿度とを含むデータが規定されている。ここでいう総噴霧量とは、実施形態1と同様に、1日(24時間)における有用物質の総噴霧量(累積噴霧量)のことである。設定湿度とは、有用物質が対象者(T)に効率よく作用する湿度のことである。総噴霧量および設定湿度は、対応する有用物質ごとに異なる。設定湿度は、50%以上で規定される。好ましくは、設定湿度は、70%以上かつ85%以下で規定される。
図10に示す数値は、単なる例示であり、これに限定されるものではない。
【0108】
制御テーブルには、各有用物質に対応する総噴霧量および設定湿度の他に、各有用物質に対応する設定温度、有用物質の濃度、噴霧対象部位などが規定されてもよい。なお、ここでいう噴霧対象部位は、対象者(T)に有用物質を効率よく作用させるために設定される体の一部分のことである。例えば、噴霧対象部位として口および鼻が設定されている場合には、対象者(T)の口および鼻に向かって有用物質が噴霧される。言い換えると、噴霧対象部位のデータは、噴霧方向を示す情報である。
【0109】
決定部(32)は、噴霧部(20)から噴霧される有用物質を決定する。決定部(32)は、例えば、スイッチやタッチパネルのボタンなどの手段により対象者(T)が特定の有用物質を入力した場合や、噴霧装置(10)のタンク(22)が液体側継手(23)に装着された場合などに、噴霧される有用物質の種類の情報を取得して決定する。
【0110】
噴霧する有用物質が決定されると、制御装置(30)は、決定された有用物質および
図10の制御テーブルに基づいて、該有用物質に対応する総噴霧量や設定湿度等の情報を取得する。制御装置(30)は、取得した総噴霧量の有用物質が噴霧されるように噴霧部(20)を制御する。制御装置(30)は、取得した設定湿度を満たすように調湿部(14)を制御する。
【0111】
(2)運転動作
本実施形態の噴霧装置(10)の運転動作は、実施形態1の噴霧装置(10)の運転動作に対して湿度制御が異なる。以下では、本実施形態の湿度制御について説明する。
【0112】
図11に示すように、制御装置(30)は、記憶部(31)に記憶されたデータに基づき、決定された有用物質に対応する設定湿度を取得する(ステップST31)。次に、制御装置(30)は湿度センサ(17)の出力に基づき、室内空間(S)の湿度を検出する(ステップST32)。
【0113】
次に、制御装置は、取得した設定湿度と室内空間(S)の湿度とを比較する(ステップST33)。次に、制御装置(30)は、ステップST33において比較した結果に基づいて、室内空間(S)の湿度が設定湿度になるように調湿部(14)を制御する(ステップST34)。このように、対象者(T)が所定の有用物質を吸収しやすい湿度に室内空間(S)の湿度を調整することにより、対象者(T)の体内で有用物質を効率よく吸収できる。
【0114】
(3)変形例
上記実施形態では実施形態1と異なる点を説明したが、上記実施形態の噴霧装置(10)においても薬液に含まれる有用物質を実施形態2で示した抗炎症作用を有する有用物質に変更してもよい。
【0115】
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。なお、以下の説明では、上記実施形態と異なる点について説明する。
【0116】
上記各実施形態の噴霧装置(10)は、空気処理装置に備えられてもよい。具体的には、例えば
図8に示すように、噴霧装置(10)は、空気処理装置(A)としての空気調和装置と一体に構成されてもよい。空気調和装置は、室内空間(S)の空気の温度を調節する。この場合、制御装置(30)は、噴霧部(20)の動作中において、室内空間(S)の温度を有用物質が体内に吸収されやすい温度になるよう空気処理装置(A)を制御してもよい。なお、空気処理装置(A)と噴霧装置(10)とは、別体に設けられてもよい。
【0117】
上記各実施形態の噴霧装置(10)の位置センサ(16)は、ケーシング(11)に取り付けられなくてもよく、例えば天井や照明装置などに取り付けられてもよい。
【0118】
上記各実施形態の噴霧装置(10)では、有用物質を含む薬液を噴霧したが、有用物質を含む粉状の固体を噴霧してもよい。
【0119】
上記実施形態の噴霧装置(10)は、複数のタンク(22)を備えてもよい。この場合には、複数のタンク(22)のそれぞれには、抗酸化作用を有する有用物質を含む薬液、および抗炎症作用を有する有用物質を含む薬液を貯留してもよい。また、複数のタンク(22)のそれぞれには、異なる種類の抗酸化作用を有する有用物質を含む薬液、または種類の異なる抗炎症作用を有する有用物質を含む薬液を貯留してもよい。
【0120】
以上、実施形態および変形例を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。また、以上の実施形態、変形例、その他の実施形態に係る要素を適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0121】
以上説明したように、本開示は、噴霧装置、および空気処理装置について有用である。
【符号の説明】
【0122】
10 噴霧装置
13 ノズル可動モータ(方向変更部)
14 調湿部
15 生体センサ
16 カメラ(位置センサ)
20 噴霧部
30 制御装置
31 記憶部
A 空気処理装置
S 室内空間(空間)
T 対象者