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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】溶融Zn系めっき鋼板
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/06 20060101AFI20231213BHJP
   C23C 2/02 20060101ALI20231213BHJP
   C23C 2/28 20060101ALI20231213BHJP
   C23C 2/26 20060101ALI20231213BHJP
   C23C 2/40 20060101ALI20231213BHJP
   C22C 18/04 20060101ALI20231213BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20231213BHJP
   C22C 38/04 20060101ALN20231213BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20231213BHJP
【FI】
C23C2/06
C23C2/02
C23C2/28
C23C2/26
C23C2/40
C22C18/04
C22C38/00 301T
C22C38/04
C21D9/46 J
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022556436
(86)(22)【出願日】2021-08-19
(86)【国際出願番号】 JP2021030412
(87)【国際公開番号】W WO2022080004
(87)【国際公開日】2022-04-21
【審査請求日】2023-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2020174453
(32)【優先日】2020-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】光延 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】赤星 真琴
(72)【発明者】
【氏名】竹林 浩史
(72)【発明者】
【氏名】高橋 武寛
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/139619(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/132412(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/169085(WO,A1)
【文献】特開2021-172878(JP,A)
【文献】国際公開第2020/213688(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00- 2/40
C22C 5/00-45/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板と、
前記鋼板の表面の少なくとも一部に形成されためっき層と、を有し、
前記めっき層が、質量%で、
Al:6.00~35.00%、
Mg:2.00~12.00%、
Ca:0.005~2.00%、
Si:0~2.00%、
Fe:0~2.00%、
Sb:0~0.50%、
Sr:0~0.50%、
Pb:0~0.50%、
Sn:0~1.00%、
Cu:0~1.00%、
Ti:0~1.00%、
Ni:0~1.00%、
Mn:0~1.00%、
Cr:0~1.00%、
残部:Zn及び不純物、からなる化学組成を有し、
前記めっき層は、厚さ方向の断面において、MgZn相の面積率が、15~60%であり、
前記MgZn相は、円相当直径が0.10μm以下のCa系金属間化合物を含む、
溶融Zn系めっき鋼板。
【請求項2】
前記めっき層の前記化学組成が、質量%で、
Al:11.00~30.00%、
Mg:5.00~10.00%、
Ca:0.10~1.00%、
からなる群から選択される1種以上を含有する、
請求項1に記載の溶融Zn系めっき鋼板。
【請求項3】
前記MgZn相に含まれる前記Ca系金属間化合物の数密度が、10個/μm以上である、
請求項1または2に記載の溶融Zn系めっき鋼板。
【請求項4】
前記めっき層と前記鋼板との間に、平均厚みが0.05~3.0μmのAl-Fe系金属間化合物からなる合金層を有する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の溶融Zn系めっき鋼板。
【請求項5】
前記鋼板は、前記めっき層側の表層部に、内部酸化層を有する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の溶融Zn系めっき鋼板。
【請求項6】
前記鋼板は、前記合金層側の表層部に、内部酸化層を有する、
請求項4に記載の溶融Zn系めっき鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融Zn系めっき鋼板に関する。
本願は、2020年10月16日に、日本に出願された特願2020-174453号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護のため、自動車の燃費向上が求められている。自動車の燃費向上に関し、自動車部品に用いられる鋼板(自動車用鋼板)に対しては、耐衝突性能を確保しつつ車体を軽量化するため、高強度鋼板の適用が進んでいる。
しかしながら、腐食による板厚減や穴あきの懸念がある場合、高強度化してもある一定板厚以下に薄手化できない場合がある。鋼板の高強度化の目的の一つは、薄手化による軽量化であることから、高強度鋼板を開発しても、耐食性が低いと適用部位が限られる。
現状でも、耐食性向上の観点から、自動車用鋼板には、めっき鋼板、特に溶融亜鉛めっき鋼板が多く適用されているが、高強度が進められている高強度鋼板に対して、腐食による板厚減の懸念を回避するため、耐食性向上への要求はさらに高まっている。
特に、自動車用鋼板では、めっき鋼板に対し、さらに自動車用の化成処理及び電着塗装が行われ、耐食性の向上が図られるものの、切断端面部等では化成処理及び電着塗装が施された後も、その耐食性(端面耐食性)は、平面部に比べ低下するという課題がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、質量%で、Al:25~90%及びSn:0.01~10%を含有し、さらに、Mg、Ca及びSrからなる群より選択される一種以上を合計で0.01~10%含有しためっき層を有することを特徴とする、溶融Al-Zn系めっき鋼板が開示されている。
しかしながら、特許文献1では、60サイクルまたは120サイクルでの腐食促進試験後のクロスカット傷部からの最大塗膜膨れ幅で評価する塗装後耐食性の向上には一定の効果があるものの、端面耐食性の向上を対象としていない。本発明者らの検討の結果、特許文献1の技術は、端面耐食性を向上させるために有効なものとは言えないことが分かった。
【0004】
また、特許文献2には、めっき層最表面に占める〔Al/Zn/ZnMgの三元共晶組織〕の割合が60面積%以上である溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板を基材とし、Ni,Co,Fe,Mnから選ばれた少なくとも一種を含み、Ni,Co,Feの合計付着量が0.05~5.0mg/mの範囲であり、Mnの付着量が0.05~30mg/mの範囲である析出層、平均粒径:0.5~5.0μmのリン酸塩結晶からなるリン酸塩皮膜、バルブメタルの酸化物又は水酸化物とバルブメタルのフッ化物が共存している化成皮膜でめっき層表面が覆われ、リン酸塩結晶は基部がめっき層に食い込んでめっき層から起立しており、化成皮膜はリン酸塩結晶の間で露出しためっき層又は析出層との界面に生成した界面反応層を介した有機樹脂皮膜であることを特徴とする、耐食性、塗膜密着性、接着性に優れた化成処理鋼板が開示されている。特許文献2では、また、この化成処理鋼板が、塗装後耐食性に優れると開示されている。
しかしながら、特許文献2の化成処理鋼板は、化成皮膜を有することが前提であり、化成皮膜を有さないめっき鋼板では、十分な耐食性が得られるとは言えない。また、特別な化成皮膜を有する必要があり、自動車用の化成処理を行う必要がある自動車用鋼板への適用は困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特開2015-214747号公報
【文献】日本国特許第4579715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされた。ただし、自動車部品に用いられる鋼板は、部品にする際に加工が行われるので、十分な加工性を有することも求められる。そのため、耐食性に優れていても、加工性が十分でないと、適用が難しくなる。
したがって、本発明は、従来の自動車用めっき鋼板と同等以上の加工性を有し、従来の自動車用めっき鋼板よりも端面耐食性に優れた溶融Zn系めっき鋼板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、溶融Zn系めっき鋼板において、電着塗装後の端面耐食性の向上について検討を行った。その結果、めっき層がAl、Mg、Caを含有し、所定の組織を有する場合に、電着塗装後の端面耐食性が向上することを見出した。
【0008】
本発明は上記の知見に基づいてなされた。本発明の要旨は以下の通りである。
[1]本発明の一態様に係る溶融Zn系めっき鋼板は、鋼板と、前記鋼板の表面の少なくとも一部に形成されためっき層と、を有し、前記めっき層が、質量%で、Al:6.00~35.00%、Mg:2.00~12.00%、Ca:0.005~2.00%、Si:0~2.00%、Fe:0~2.00%、Sb:0~0.50%、Sr:0~0.50%、Pb:0~0.50%、Sn:0~1.00%、Cu:0~1.00%、Ti:0~1.00%、Ni:0~1.00%、Mn:0~1.00%、Cr:0~1.00%、残部:Zn及び不純物、からなる化学組成を有し、前記めっき層は、厚さ方向の断面において、MgZn相の面積率が、15~60%であり、前記MgZn相は、円相当直径が0.10μm以下のCa系金属間化合物を含む。
[2]前記[1]に記載の溶融Zn系めっき鋼板は、前記めっき層の前記化学組成が、質量%で、Al:11.00~30.00%、Mg:5.00~10.00%、Ca:0.10~1.00%、からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
[3]前記[1]または[2]に記載の溶融Zn系めっき鋼板は、前記MgZn相に含まれる前記Ca系金属間化合物の数密度が、10個/μm以上であってもよい。
[4]前記[1]~[3]のいずれか一項に記載の溶融Zn系めっき鋼板は、前記めっき層と前記鋼板との間に、平均厚みが0.05~3.0μmのAl-Fe系金属間化合物からなる合金層を有してもよい。
[5]前記[1]~[3]のいずれか一項に記載の溶融Zn系めっき鋼板は、前記鋼板は、前記めっき層側の表層部に、内部酸化層を有してもよい。
[6]前記[4]に記載の溶融Zn系めっき鋼板は、前記鋼板は、前記合金層側の表層部に、内部酸化層を有してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の上記態様によれば、十分な加工性を有し、端面耐食性に優れる溶融Zn系めっき鋼板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態に係る溶融Zn系めっき鋼板(以下、本実施形態に係るめっき鋼板という)は、鋼板と、鋼板の表面の少なくとも一部に形成された、所定の化学組成を有するめっき層と、を有する。
また、このめっき層は、厚さ方向の断面において、MgZn相の面積率が15~60%であり、このMgZn相は、円相当直径が0.10μm以下のCa系金属間化合物を含んでいる。
本実施形態に係るめっき鋼板は、鋼板とめっき層との間に、FeとAlとを含む金属間化合物からなる合金層を有していてもよい。
以下、詳細に説明する。
【0011】
<鋼板>
本実施形態に係るめっき鋼板はめっき層が重要であり、鋼板の種類については特に限定されない。適用される製品や要求される強度や板厚等によって決定すればよい。例えば、JIS G3193:2008に記載された熱延鋼板やJIS G3141:2017に記載された冷延鋼板を用いることができる。
【0012】
鋼板は、めっき層側(鋼板とめっき層との界面側)の表層部(鋼板とめっき層との間に後述する合金層が形成されている場合には、合金層側(鋼板と合金層との界面側)の表層部)に、内部酸化層を有していることが好ましい。
内部酸化層は、めっき前の鋼板に所定の雰囲気下で焼鈍を行うことで形成される。鋼板に内部酸化層が存在することで、Ca系金属間化合物が分散したMgZn相の形成を促進する効果が得られる。この効果を得る場合、内部酸化層の厚みは、0.1~8.0μmであることが好ましい。
【0013】
[合金層]
本実施形態に係るめっき鋼板は、鋼板とめっき層との間に合金層が形成されていてもよい。合金層が形成されることで、鋼板とめっき層との密着性が向上するので好ましい。上記効果を得る場合、合金層の平均厚みが0.05~3.0μmであることが好ましい。
合金層は、Al-Fe系金属間化合物(例えばAl-Fe合金または、めっき層がSiを含んでいる場合には、Al-Fe-Si合金)からなる。合金層は主としてめっき層中のAlとFeとが熱処理により反応してできたAlとFeとを主体するとする金属間化合物である。本実施形態においては、鋼板とめっきとの間に位置する、Alを30%以上、かつ、Feを30%以上含む層を合金層とする。本合金層には、めっき層に含有されるSiとZnとがそれぞれ20%以下で含有される場合がある。
【0014】
合金層の有無及び厚みはEDS測定から得た元素分布像から、Al-Fe系金属間化合物の厚みを測定することで得られる。
【0015】
<めっき層>
本実施形態に係るめっき鋼板では、鋼板の表面の少なくとも一部にめっき層を備える。めっき層は鋼板の片面に形成されていてもよく、両面に形成されていてもよい。
めっき層の付着量は、15~250g/mが好ましい。
【0016】
[化学組成]
本実施形態に係るめっき鋼板のめっき層の化学組成について説明する。各元素の含有量の%は、質量%を意味する。また、「~」を挟んで示される数値範囲は、その両端の値を、上下限として含む。
【0017】
Al:6.00~35.00%
Alは、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)を含むめっき層において、端面耐食性を確保するために有効な元素である。また、Alは、合金層(Al-Fe合金層)の形成に寄与し、めっき密着性の向上に有効な元素でもある。上記効果を十分に得るため、Al含有量を6.00%以上とする。Al含有量は、好ましくは11.00%以上である。
一方、Al含有量が35.00%超であると、(Al-Zn)デンドライトの面積率が高くなるとともに、MgZn相中にCa系金属間化合物が形成されなくなり、めっき層の端面耐食性が低下する。そのため、Al含有量は35.00%以下とする。Al含有量は、好ましくは30.00%以下である。
【0018】
Mg:2.00~12.00%
Mgは、めっき層の端面耐食性を高める効果を有する元素である。上記効果を十分に得るため、Mg含有量を2.00%以上とする。
一方、Mg含有量が12.00%超であると、端面耐食性が低下する上、めっき層の加工性が低下する。また、めっき浴のドロス発生量が増大する等、製造上の問題が生じる。そのため、Mg含有量を12.00%以下とする。Mg含有量は、好ましくは11.00%以下、より好ましくは10.00%以下である。
【0019】
Ca:0.005~2.00%
Caは、Ca系金属間化合物を形成するために必要な元素である。本実施形態に係るめっき鋼板では、MgZn相中にCa系金属間化合物を形成させるため、Ca含有量を0.005%以上とする。Ca含有量は、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.10%以上である。また、Caは、Mg含有量の増加に伴ってめっき操業時に形成されやすいドロスの形成量を減少させ、めっき製造性の向上に寄与する元素でもある。
一方、Ca含有量が2.00%を超えると、Caが粗大な金属間化合物として晶出し、加工性が低下する。そのため、Ca含有量は2.00%以下とする。Ca含有量は、好ましくは1.00%以下である。
【0020】
Si:0~2.00%
Siは、Mgとともに化合物を形成して、端面耐食性の向上に寄与する元素である。また、Siは、鋼板上にめっき層を形成するにあたり、鋼板とめっき層との間に形成される合金層が過剰に厚く形成されることを抑制して、鋼板とめっき層との密着性を高める効果を有する元素でもある。そのため含有させてもよい。上記効果を得る場合、Si含有量を0.10%以上とすることが好ましい。Si含有量は、より好ましくは0.20%以上である。
一方、Si含有量が2.00%超であると、めっき層中に過剰なSiが晶出し、端面耐食性が低下したり、めっき層の加工性が低下したりする。従って、Si含有量を2.00%以下とする。Si含有量は、より好ましくは1.50%以下である。Siは必ずしも含有させる必要はなく、下限は0%である。
【0021】
Fe:0~2.00%
Feはめっき層を製造する際に、不純物としてめっき層に混入する。2.00%程度まで含有されることがあるが、この範囲であれば本実施形態に係るめっき鋼板の特性への悪影響は小さい。そのため、Fe含有量を2.00%以下とすることが好ましい。Fe含有量は、より好ましくは1.50%以下、さらに好ましくは1.00%以下である。
Fe含有量は、0%でもよいが、Fe含有量を0%にすることは容易ではないので、Fe含有量を0.10%以上としてもよい。
【0022】
本実施形態に係るめっき鋼板のめっき層の化学組成は、上記の化学組成を有し、残部がZn及び不純物であることを基本とする。不純物の含有量は、5.0%以下であることが好ましく、3.0%以下であることがより好ましい。
しかしながら、本実施形態に係るめっき鋼板のめっき層は、更にZnの一部に代えて、例えば、Sb、Sr、Pb、Sn、Cu、Ti、Ni、Mn、Crを以下の範囲で含んでもよい。これらの元素は必ずしも含まなくてもよいので含有量の下限は0%である。また、これらの元素は不純物レベルで含まれていても、めっき層の特性に実質的な影響を及ぼさない。
【0023】
Sb:0~0.50%
Sr:0~0.50%
Pb:0~0.50%
Sr、Sb、Pbがめっき層中に含有されると、めっき層の外観が変化し、スパングルが形成されて、金属光沢の向上が確認される。そのため、Sr、Sb、Pbの1種以上を含有させてもよい。上記効果を得る場合、Sr、Sb、Pbの1種以上の含有量を0.001%以上、または0.01%以上とすることが好ましい。
一方、これらの元素の含有量が0.50%超になると、様々な金属間化合物が形成され、加工性および耐食性が悪化する。また、これらの元素の含有量が過剰になるとめっき浴の粘性が上昇し、めっき浴の建浴そのものが困難となることが多く、めっき性状が良好なめっき鋼板を製造できない。そのため、含有させる場合でも、Sr含有量を0.50%以下、Sb含有量を0.50%以下、及び/またはPb含有量を0.50%以下とする。
【0024】
Sn:0~1.00%
Snは、Zn、Al、Mgを含むめっき層において、Mg溶出速度を上昇させる元素である。Mgの溶出速度が上昇すると、犠牲防食性が向上し、耐食性が向上する。そのため、Snを含有させてもよい。
一方で、Mg溶出速度が過剰になると、むしろ耐食性が低下する。そのため、含有させる場合でも、Sn含有量を1.00%以下とする。
【0025】
Cu:0~1.00%
Ti:0~1.00%
Ni:0~1.00%
Mn:0~1.00%
Cr:0~1.00%
これらの元素は、耐食性の向上に寄与する元素である。そのため、含有させてもよい。上記効果を得る場合、これらの元素の1種以上の含有量を0.001%以上または0.01%以上とすることが好ましい。
一方、これらの元素の含有量が過剰になるとめっき浴の粘性が上昇し、めっき浴の建浴そのものが困難となることが多く、めっき性状が良好なめっき鋼板を製造できない。そのため、含有させる場合でも、各元素の含有量を、それぞれ1.00%以下とする。
【0026】
めっき層の化学組成は、次の方法により測定する。
まず、地鉄(鋼材)の腐食を抑制するインヒビターを含有した酸でめっき層を剥離溶解した酸液を得る。次に、得られた酸液をICP分析で測定することで、めっき層の化学組成(めっき層と鋼板との間に合金層が形成されている場合には、めっき層と合金層との合計の化学組成となるが合金層は薄いので影響は小さい)を得ることができる。酸種は、めっき層を溶解できる酸であれば、特に制限はない。化学組成は、平均化学組成として測定される。
【0027】
[組織]
厚さ方向の断面において、MgZn相の面積率が、15~60%であり、MgZn相は、円相当直径が0.10μm以下のCa系金属間化合物を含む
本発明者らは、上述のようにAl、Mg、Caを含むめっき層を有する溶融Zn系めっき鋼板において、電着塗装後の端面耐食性の向上について検討を行った。その結果、めっき層が所定の組織を有する場合に、電着塗装後の端面耐食性が向上することを見出した。
具体的には、めっき層の厚さ方向の断面において、Ca系金属間化合物が分散したMgZn相が、面積率で15~60%であると、端面耐食性が向上することを見出した。
そのため、本実施形態に係るめっき鋼板では、めっき層の断面において、MgZn相の面積率を15~60%とし、MgZn相が、円相当直径が0.10μm以下のCa系金属間化合物を含むようにする。
ここで、本実施形態において、MgZn相が、円相当直径が0.10μm以下のCa系金属間化合物を含むとは、MgZn相において、Ca系金属間化合物が1個/μm以上存在することを示す。
また、Ca系金属間化合物とは、Alを8~15at%、Caを8~15at%、Znを70~84at%、Siを0~5at%含有し、三方晶系の結晶構造を有する化合物である。
【0028】
Ca系金属間化合物を含むMgZn相によって端面耐食性が向上する理由は明らかではないが、微細なCa系金属間化合物によって、母相であるMgZn相からのMgの溶出が促進され、犠牲防食性が向上するためであると考えられる。
MgZn相の面積率が15%未満である、または、MgZn相の面積率が15%以上であっても、MgZn相に0.10μm以下のCa系金属間化合物が含まれない場合には、十分な効果が得られない。
一方、円相当直径が0.10μm以下のCa系金属間化合物を含むMgZn相の面積率が60%超の場合、加工性が低下するので好ましくない。
MgZn相に含まれる前記Ca系金属間化合物の数密度は、5個/μm以上が好ましく、10個/μm以上がより好ましい。
Ca系金属間化合物は、微細な方が好ましいので、MgZn相が、円相当直径が0.07μm以下のCa系金属間化合物を1個/μm以上含むことが好ましい。
【0029】
本実施形態に係るめっき鋼板のめっき層において、MgZn相以外は限定されないが、例えば、AlとZnとからなる(Al-Zn)相、Zn/Al/MgZn三元共晶組織、MgSi相、及び/またはその他の金属間化合物を含んでもよい。
加工性の観点からは、面積率で、(Al-Zn)相は30~70%、MgSi相は8.0%以下、その他の金属間化合物は、10.0%以下であることが好ましい。また、その他の金属間化合物は、その円相当直径が5μm以下であることが好ましい。
【0030】
めっき層の断面の各相の面積率は、以下の方法で求める。
めっき鋼板から、圧延方向に直角方向に25mm×圧延方向に15mmのサイズのサンプルを採取し、このサンプルのめっき層の厚さ方向が観察面となるように、樹脂に埋め込み、研磨し、このめっき層の断面SEM像ならびにEDSによる元素分布像を得る。このSEM像および元素分布像に基づき、めっき層の、MgZn相、Zn/Al/MgZn三元共晶組織、(Al-Zn)デンドライト、その他の金属間化合物の面積率を測定する。本実施形態では、めっき層の断面EDSマッピング像を異なる5サンプルから、各1視野(180μm×150μm)で合計5視野(倍率1500倍)を撮影し、それぞれの相について、5視野で得られた面積率を平均した値を、それぞれの相の面積率とする。
【0031】
また、Ca系金属間化合物の数密度は、以下の方法で求める。
めっき鋼板のめっき層からTEM観察用の薄片試料を作製し、めっき層断面に含有されるMgZn相に対してTEM-EDSマッピング像を得る。Caが存在する位置をCa系金属間化合物と判断し、視野中に含有される円相当直径が0.10μm以下または0.07μm以下のCa系金属間化合物の数を計上し、測定面積に基づいてそれぞれのサイズのCa系金属間化合物の数密度を算出する。ただし、測定精度を考慮し、0.001μm以上の金属間化合物を計上の対象とする。
【0032】
<製造方法>
次に、本実施形態に係るめっき鋼板の好ましい製造方法について説明する。本実施形態に係るめっき鋼板は、製造方法によらず上記の特徴を有していればその効果は得られる。しかしながら、以下の方法によれば安定して製造できるので好ましい。
【0033】
本実施形態に係る鋼板は、以下の工程(I)~(III)を含む製造方法によって製造可能である。
(I)鋼板をAl、Mg、Znを含むめっき浴に浸漬するめっき工程、
(II)めっき浴に浸漬後の鋼板(めっき鋼板)を、めっき浴温~20℃の温度までの平均冷却速度が15℃/秒以上となるように冷却する冷却工程、
(III)冷却工程後のめっき鋼板を100~220℃の温度範囲に加熱する後熱処理工程。
【0034】
めっき工程に供する鋼板は、特に限定されず、公知の方法で得られた鋼板(熱延鋼板または冷延鋼板)であればよい。
めっき工程に先立って、鋼板に対し、焼鈍を行ってもよい。焼鈍を行う場合、焼鈍条件については公知の条件でよく、露点が-10℃以上の5%H-Nガス雰囲気下で750~900℃に加熱して、30~240秒保持する条件が例示される。鋼板に内部酸化層を形成する場合には、上記の雰囲気で焼鈍温度を800~870℃、焼鈍時間を60~130秒とすることが好ましい。焼鈍温度が800℃未満では内部酸化層が十分に形成されず、870℃を超えると内部酸化層を所望の厚さに制御しづらくなる。焼鈍時間が60秒未満では内部酸化層の厚さを十分に保つことができないおそれがあり、130秒超えの場合は内部酸化層が8.0μmを超えて厚くなりすぎるおそれがある。
【0035】
[めっき工程]
めっき工程では、鋼板をめっき浴に浸漬させてめっき層を形成する。めっき工程に先立って焼鈍を行う場合には、焼鈍後の降温過程で、鋼板をめっき浴に浸漬させてもよい。
めっき浴の組成は形成されるめっき層の組成と略同一となるので、めっき浴は、形成するめっき層の組成に応じて調整すればよい。
【0036】
[冷却工程]
冷却工程では、めっき浴に浸漬後の鋼板(表面にめっき層を有する鋼板)を、Nなどのワイピングガスでめっき付着量を調整した後、めっき浴温~20℃の温度までの平均冷却速度が15℃/秒以上となるように冷却する。
この冷却によって、凝固過程で晶出するMgZn相へCaを固溶させる。ここで固溶させたCaは、後述する後熱処理において、析出させる。
めっき浴温~20℃までの平均冷却速度が15℃/秒未満になると、MgZn相へのCaの固溶が十分でなく、後熱処理を行っても、所定のCa系金属間化合物が得られない。
平均冷却速度の上限を限定する必要はないが、60℃/秒以下としてもよい。
また、より微細な、具体的には円相当直径0.07μm以下のCa系金属間化合物を析出させる場合、めっき浴温~20℃の温度までの平均冷却速度を15℃/秒以上とした上で、270~20℃の平均冷却速度を30℃/秒以上とすることが好ましい。270~20℃の平均冷却速度を30℃/秒以上とすることによりMgZn相が微細となり、かつMgZn相へのCaの固溶が十分となる。このため、のちの後熱処理の際に析出するCa系金属間化合物が微細となる。
めっき組織において、(Al-Zn)相の面積率を30~70%とする場合、浴温~300℃までの平均冷却速度を20~40℃/秒とすることが好ましい。
【0037】
[後熱処理工程]
後熱処理工程では、冷却工程後のめっき鋼板を100~220℃の温度範囲に加熱(後熱処理)する。この後熱処理によれば、MgZn相へ固溶したCaが、金属間化合物として、MgZn相に微細に析出する。その結果、MgZn相は、円相当直径が0.10μm以下のCa系金属間化合物を含むこととなる。
後熱処理を行わない、または後熱処理温度(加熱温度)が100℃未満の場合には、Ca系金属間化合物が析出しない。一方、後熱処理温度が220℃超の場合、温度が高すぎるために核生成の十分な駆動力が得られず、Ca系金属間化合物が析出しない。
効率的にCa系金属間化合物を析出させ、端面耐食性をより向上させる場合、後熱処理温度は、150℃以下が好ましい。この原因について詳細は明らかでないが、150℃以下であればCa系金属間化合物の析出に十分な駆動力が得られ、かつ、析出後のCa系金属間化合物が微細化するためであると考えられる。
100~220℃に加熱した後、その温度域に保持する時間は、限定されないが、Ca系金属間化合物を十分に析出させる場合、30秒以上が好ましい。また、保持時間が、10分を超えると、生産性が低下するので、保持時間を10分以下とすることが好ましい。
上記後熱処理工程は、冷却工程の完了から48時間以内に行う。冷却工程から後熱処理までの時間が長すぎると、めっき層中のCaが安定化し、後熱処理によって、MgZn相へ析出しにくくなるからである。
【0038】
上記の製造方法によれば、本実施形態に係るめっき鋼板が得られる。
【実施例
【0039】
めっきに供する鋼板として、板厚0.8mmの冷延鋼板(0.2%C-2.0%Si-2.3%Mn)を準備した。
この鋼板を100mm×200mmに切断した後、バッチ式の溶融めっき試験装置を用いて、焼鈍及び溶融めっきを続けて行った。
焼鈍に際しては、酸素濃度20ppm以下の炉内において、Hガスを5%含有し、残部がNガスからなるガスからなり、露点0℃である雰囲気の下で、860℃で120秒間焼鈍を行った。
焼鈍後、鋼板をNガスで空冷して、鋼板温度が浴温+20℃に到達したところで、表1に示す浴温のめっき浴に約3秒浸漬させた。めっき浴組成及び形成されためっき層の組成は、表1に示す通りであった。
めっき層が形成されためっき原板に対し、表1に示す条件で20℃以下まで冷却し、後熱処理を行ってめっき鋼板(溶融Zn系めっき鋼板)を得た。後熱処理の保持時間はいずれも100秒とした。冷却工程の完了から後熱処理の開始までの時間は、表1の通りとした。
【0040】
【表1】
【0041】
得られためっき鋼板に対し、めっき相中の各相の面積率、MgZn相中の円相当直径が0.10μm以下のCa系金属間化合物及び円相当直径が0.07μm以下のCa系金属間化合物の数密度、合金層の厚み、内部酸化層の厚みを、上述した方法で測定した。
【0042】
また、得られためっき鋼板に対し、後述する方法で端面耐食性及び加工性を評価した。
【0043】
[端面耐食性]
めっき鋼板から50×100mmのサンプルを採取し、Znりん酸処理(SD5350システム:日本ペイント・インダストリアルコーディング社製規格)に従い実施し、その後、電着塗装(PN110パワーニクスグレー:日本ペイント・インダストリアルコーディング社製規格)を厚みが20μmになるように実施して、焼き付け温度150℃で20分焼き付けを行った。この塗装めっき鋼板(電着塗装を行っためっき鋼板)を、JASO(M609-91)に従った複合サイクル腐食試験に供して、サンプル端面からの3箇所の最大膨れ幅を測定し、平均値を求めることで塗装後耐食性を評価した。
上述のJASO(M609-91)のサイクル数が150サイクルで、端面からの塗膜膨れ幅が1.0mm未満の場合は「AAA」、1.5mm未満の場合は「AA」、1.5~2.5mmの場合は「A」、塗膜膨れ幅が2.5mm超の場合は「B」とした。
【0044】
[加工性]
めっき層の加工性は、耐パウダリング性で評価した。
めっき鋼板を40mm(C)×100mm(L)×0.8mm(t)に切断し、これを放電精密加工研究所社製のV曲げ試験機を用いてC方向を曲げ軸方向として5Rで60°曲げした後、テープ剥離によって発生しためっき層の剥離幅の5点平均値から評価した。
具体的には、まったく剥離が発生しない場合を「AA」、平均剥離幅が0.1~0.5mmの場合を「A」、平均剥離幅が0.5mm超の場合を「B」とした。
結果を表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
表1、表2の結果から分かるように、本発明例であるNo.3、4、6~11、13~16、21、22、25~33では、化学組成、厚さ方向断面におけるMgZn相の面積率が本発明範囲内であり、MgZn相がCa系金属間化合物を含んでいた。そのため、端面耐食性及び加工性に優れていた。
一方、比較例であるNo.1、2、5、12、17~20、23、24、34では、化学組成、厚さ方向断面におけるMgZn相の面積率、MgZn相中のCa系金属間化合物の数密度の1つ以上が本発明範囲外であった。その結果、端面耐食性、加工性のいずれかが劣っていた。