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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】含フッ素共重合体
(51)【国際特許分類】
   C08F 214/26 20060101AFI20231213BHJP
   H01B 3/44 20060101ALI20231213BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
C08F214/26
H01B3/44 C
B29C45/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023054994
(22)【出願日】2023-03-30
(65)【公開番号】P2023153014
(43)【公開日】2023-10-17
【審査請求日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2022055228
(32)【優先日】2022-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022135143
(32)【優先日】2022-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井坂 忠晴
(72)【発明者】
【氏名】善家 佑美
(72)【発明者】
【氏名】山本 有香里
【審査官】前田 直樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第01/018076(WO,A1)
【文献】特開2017-197690(JP,A)
【文献】国際公開第01/036504(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/119053(WO,A1)
【文献】特表2004-502853(JP,A)
【文献】特開昭62-192411(JP,A)
【文献】特開2013-126760(JP,A)
【文献】国際公開第2008/047759(WO,A1)
【文献】特表2011-530627(JP,A)
【文献】特表2004-507571(JP,A)
【文献】特開2019-172962(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
H01B
B29C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレン単位、ヘキサフルオロプロピレン単位およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位を含有する含フッ素共重合体であって、
ヘキサフルオロプロピレン単位の含有量が、全単量体単位に対して、9.4~10.1質量%であり、
パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位の含有量が、全単量体単位に対して、0.8~1.7質量%であり、
テトラフルオロエチレン単位の含有量が、全単量体単位に対して、88.2~89.8質量%であり、
372℃におけるメルトフローレートが、4.5~8.5g/10分であり、
カルボニル基含有末端基、-CF=CFおよび-CHOHの合計数が、主鎖炭素数10個当たり、90個以下である
含フッ素共重合体(ただし、テトラフルオロエチレン単位、ヘキサフルオロプロピレン単位およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位を含有する含フッ素共重合体であって、ヘキサフルオロプロピレン単位の含有量が、全単量体単位に対して、9.5~11.4質量%であり、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位の含有量が、全単量体単位に対して、0.5~1.6質量%であり、372℃におけるメルトフローレートが、4.1~6.9g/10分であり、テトラフルオロエチレン単位の含有量が、全単量体単位に対して、87.0~90.0質量%であり、カルボニル基含有末端基、-CF=CF および-CH OHの合計数が、主鎖炭素数10 個当たり、90個以下である含フッ素共重合体を除く)
【請求項2】
ヘキサフルオロプロピレン単位の含有量が、全単量体単位に対して、9.5~10.1質量%である請求項1に記載の含フッ素共重合体。
【請求項3】
パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位の含有量が、全単量体単位に対して、0.8~1.3質量%である請求項1または2に記載の含フッ素共重合体。
【請求項4】
372℃におけるメルトフローレートが、4.5~7.5g/10分である請求項1または2に記載の含フッ素共重合体。
【請求項5】
-CFHの数が、主鎖炭素数10個当たり、50個以上である請求項1または2に記載の含フッ素共重合体。
【請求項6】
請求項1または2に記載の含フッ素共重合体を含有する射出成形体。
【請求項7】
請求項1または2に記載の含フッ素共重合体を含有する被覆層を備える被覆電線。
【請求項8】
請求項1または2に記載の含フッ素共重合体を含有する成形体であって、前記成形体が、バルブ、チューブ、継手、配管部材、フィルムまたは電線被覆である成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、含フッ素共重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、(a)テトラフルオロエチレン、(b)ターポリマーの重量に基づいて約4~約12重量%のヘキサフルオロプロピレン、および(c)ターポリマーの重量に基づいて約0.5~約3重量%のパーフルオロ(エチルビニルエーテル)またはパーフルオロ(n-プロピルビニルエーテル)、を共重合した形で含有するターポリマーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭52-109588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示では、射出成形法により成形して美麗な射出成形体を得ることができ、115℃耐摩耗性、薬液低透過性、135℃耐引張クリープ特性、繰り返し荷重に対する耐久性、80℃高温時剛性、耐クリープ性、耐ソルベントクラック性、110℃で加わる引張力に対する延性に優れる成形体を得ることができる含フッ素共重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示によれば、テトラフルオロエチレン単位、ヘキサフルオロプロピレン単位およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位を含有する含フッ素共重合体であって、ヘキサフルオロプロピレン単位の含有量が、全単量体単位に対して、9.4~10.1質量%であり、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位の含有量が、全単量体単位に対して、0.8~1.7質量%であり、372℃におけるメルトフローレートが、4.5~8.5g/10分であり、カルボニル基含有末端基、-CF=CFおよび-CHOHの合計数が、主鎖炭素数10個当たり、90個以下である含フッ素共重合体が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、射出成形法により成形して美麗な射出成形体を得ることができ、115℃耐摩耗性、薬液低透過性、135℃耐引張クリープ特性、繰り返し荷重に対する耐久性、80℃高温時剛性、耐クリープ性、耐ソルベントクラック性、110℃で加わる引張力に対する延性に優れる成形体を得ることができる含フッ素共重合体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本開示の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本開示は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0008】
本開示の含フッ素共重合体は、テトラフルオロエチレン(TFE)単位、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)単位およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)単位を含有する。
【0009】
フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの非溶融加工性のフッ素樹脂と、溶融加工性のフッ素樹脂とが知られている。PTFEは、優れた特性を有しているが、溶融加工が極めて困難であるという欠点がある。一方、溶融加工性のフッ素樹脂としては、TFE/HFP共重合体(FEP)、TFE/PPVE共重合体(PFA)などが知られているが、PTFEよりも耐熱性などに劣る欠点がある。そこで、特許文献1では、これらの欠点を改良したフルオロカーボンポリマーとして、上述したターポリマーが提案されている。
【0010】
しかしながら、特許文献1では、高温の引張強さおよび曲げ寿命の向上が検討されているが、薬液を透過させにくく、荷重によりたわみにくく、繰り返し荷重により劣化せず、圧縮により潰れにくく、薬液と接してもクラックが生じにくく、しかも、耐摩耗性および引張力に対する延性に優れる成形体を与えることができる含フッ素共重合体について、一切検討されていない。したがって、バルブ、チューブ、継手、配管部材などの成形体の性能を一層向上させるために、これらの特性を向上させることができる含フッ素共重合体が求められている。
【0011】
TFE単位、HFP単位およびPPVE単位を含有する含フッ素共重合体のHFP単位およびPPVE単位の含有量、ならびに、メルトフローレートを極めて限定された範囲内に調整することによって、含フッ素共重合体から得られる成形体の115℃耐摩耗性、薬液低透過性、135℃耐引張クリープ特性、繰り返し荷重に対する耐久性、80℃高温時剛性、耐クリープ性、耐ソルベントクラック性、110℃で加わる引張力に対する延性が向上することが見出された。さらに、本開示の含フッ素共重合体を、射出成形法により成形することにより、美麗な射出成形体を得ることができる。
【0012】
本開示の含フッ素共重合体は溶融加工性のフッ素樹脂である。溶融加工性とは、押出機および射出成形機などの従来の加工機器を用いて、ポリマーを溶融して加工することが可能であることを意味する。
【0013】
含フッ素共重合体のHFP単位の含有量は、全単量体単位に対して、9.4~10.1質量%であり、好ましくは9.5質量%以上であり、好ましくは10.0質量%以下であり、より好ましくは9.9質量%以下である。HFP単位の含有量が少なすぎると、115℃耐摩耗性、110℃で加わる引張力に対する延性に優れる成形体を得ることができない。HFP単位の含有量が多すぎると、135℃耐引張クリープ特性、繰り返し荷重に対する耐久性、80℃高温時剛性、耐クリープ性に優れる成形体を得ることができない。
【0014】
含フッ素共重合体のPPVE単位の含有量は、全単量体単位に対して、0.8~1.7質量%であり、好ましくは1.6質量%以下であり、より好ましくは1.5質量%以下であり、さらに好ましくは1.4質量%以下であり、尚さらに好ましくは1.3質量%以下であり、特に好ましくは1.2質量%以下であり、最も好ましくは1.1質量%以下である。PPVE単位の含有量が少なすぎると、115℃耐摩耗性、耐ソルベントクラック性、110℃で加わる引張力に対する延性に優れる成形体を得ることができない。PPVE単位の含有量が多すぎると、薬液低透過性、135℃耐引張クリープ特性、80℃高温時剛性、耐クリープ性に優れる成形体を得ることができない。
【0015】
含フッ素共重合体のTFE単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは88.2質量%以上であり、さらに好ましくは88.3質量%以上であり、尚さらに好ましくは88.5質量%以上であり、殊更に好ましくは88.6質量%以上であり、特に好ましくは88.8質量%以上であり、最も好ましくは89.0質量%以上であり、好ましくは89.8質量%以下であり、より好ましくは89.7質量%以下である。また、HFP単位、PPVE単位、TFE単位およびその他の単量体単位の含有量の合計が100質量%となるように、TFE単位の含有量を選択してもよい。
【0016】
本開示の含フッ素共重合体は、上記の3つの単量体単位を含有するものであれば、上記の3つの単量体単位のみを含有する共重合体であっても、上記の3つの単量体単位およびその他の単量体単位を含有する共重合体であってもよい。
【0017】
その他の単量体としては、TFE、HFPおよびPPVEと共重合可能な単量体であれば特に限定されず、フルオロモノマーであっても、フッ素非含有モノマーであってもよい。
【0018】
フルオロモノマーとしては、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブチレン、CH=CZ(CF(式中、ZはHまたはF、ZはH、FまたはCl、nは1~10の整数である)で表される単量体、CF=CF-ORf(式中、Rfは炭素数1~8のパーフルオロアルキル基)で表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕(ただし、PPVEを除く)、CF=CF-O-CH-Rf(式中、Rfは、炭素数1~5のパーフルオロアルキル基)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体、パーフルオロ-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール〔PDD〕、および、パーフルオロ-2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン〔PMD〕からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0019】
CH=CZ(CFで表される単量体としては、CH=CFCF、CH=CH-C、CH=CH-C13、CH=CF-CHなどが挙げられる。
【0020】
CF=CF-ORfで表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)としては、CF=CF-OCF、CF=CF-OCFCFなどが挙げられる。
【0021】
フッ素非含有モノマーとしては、TFE、HFPおよびPPVEと共重合可能な炭化水素系モノマーなどが挙げられる。炭化水素系モノマーとしては、たとえば、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等のアルケン類;エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、n-酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、吉草酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、パラ-t-ブチル安息香酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、モノクロル酢酸ビニル、アジピン酸ビニル、アクリル酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、桂皮酸ビニル、ウンデシレン酸ビニル、ヒドロキシ酢酸ビニル、ヒドロキシプロピオン酸ビニル、ヒドロキシ酪酸ビニル、ヒドロキシ吉草酸ビニル、ヒドロキシイソ酪酸ビニル、ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸ビニル等のビニルエステル類;エチルアリルエーテル、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、イソブチルアリルエーテル、シクロヘキシルアリルエーテル等のアルキルアリルエーテル類;エチルアリルエステル、プロピルアリルエステル、ブチルアリルエステル、イソブチルアリルエステル、シクロヘキシルアリルエステル等のアルキルアリルエステル類等が挙げられる。
【0022】
フッ素非含有モノマーとしては、また、TFE、HFPおよびPPVEと共重合可能な官能基含有炭化水素系モノマーであってもよい。官能基含有炭化水素系モノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシプロピルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ヒドロキシイソブチルビニルエーテル、ヒドロキシシクロヘキシルビニルエーテル等のヒドロキシアルキルビニルエーテル類;グリシジルビニルエーテル、グリシジルアリルエーテル等のグリシジル基を有するフッ素非含有モノマー;アミノアルキルビニルエーテル、アミノアルキルアリルエーテル等のアミノ基を有するフッ素非含有モノマー;(メタ)アクリルアミド、メチロールアクリルアミド等のアミド基を有するフッ素非含有モノマー;臭素含有オレフィン、ヨウ素含有オレフィン、臭素含有ビニルエーテル、ヨウ素含有ビニルエーテル;ニトリル基を有するフッ素非含有モノマー等が挙げられる。
【0023】
本開示の含フッ素共重合体におけるその他の単量体単位の含有量としては、全単量体単位に対して、好ましくは0~1.6質量%であり、より好ましくは1.0質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以下であり、特に好ましくは0.1質量%以下である。
【0024】
含フッ素共重合体のメルトフローレート(MFR)は、4.5~8.5g/10分であり、好ましくは4.6g/10分以上であり、より好ましくは4.8g/10分以上であり、さらに好ましくは5.0g/10分以上であり、尚さらに好ましくは5.1g/10分以上であり、殊さらに好ましくは5.5g/10分以上であり、特に好ましくは6.1g/10分以上であり、最も好ましくは6.5g/10分以上であり、好ましくは8.3g/10分以下であり、より好ましくは8.1g/10分以下であり、さらに好ましくは7.9g/10分以下であり、尚さらに好ましくは7,7g/10分以下であり、殊さらに好ましくは7.5g/10分以下であり、特に好ましくは7.0g/10分以下であり、最も好ましくは6.5g/10分以下である。MFRが低すぎると、薬液低透過性、80℃高温時剛性に優れる成形体を得ることができず、また、射出成形法により成形して美麗な射出成形体を得ることができない。MFRが高すぎると、115℃耐摩耗性、135℃耐引張クリープ特性、繰り返し荷重に対する耐久性に優れる成形体を得ることができない。
【0025】
本開示において、メルトフローレートは、ASTM D-1238に準拠して、メルトインデクサーG-01(東洋精機製作所製)を用い、372℃、5kg荷重下で、内径2mm、長さ8mmのダイから10分間あたりに流出するポリマーの質量(g/10分)として得られる値である。
【0026】
MFRは、単量体を重合する際に用いる重合開始剤の種類および量、連鎖移動剤の種類および量などを調整することによって、調整することができる。
【0027】
本開示の含フッ素共重合体は、カルボニル基含有末端基、-CF=CFまたは-CHOHを有していてもよいし、有してなくてもよい。本開示の含フッ素共重合体は、カルボニル基含有末端基、-CF=CFおよび-CHOHの合計数が、主鎖炭素数10個当たり、90個以下である。カルボニル基含有末端基、-CF=CFおよび-CHOHの合計数は、好ましくなる順に、80個以下、70個以下、60個以下、50個以下、40個以下である。カルボニル基含有末端基、-CF=CFおよび-CHOHの合計数を上記範囲内とすることにより、薬液低透過性(テトラヒドロフランなどの薬液に対する低透過性)に優れる成形体を得ることができる。カルボニル基含有末端基、-CF=CFおよび-CHOHの合計数は、たとえば、重合開始剤または連鎖移動剤の種類の適切な選択により、あるいは、後述する含フッ素共重合体の湿潤熱処理またはフッ素化処理により、調整することができる。
【0028】
カルボニル基含有末端基は、たとえば、-COF、-COOH、-COOR(Rはアルキル基)、-CONH、および、-O(C=O)O-R(Rはアルキル基)である。-COORおよび-O(C=O)O-Rが有するアルキル基(R)の種類は、含フッ素共重合体を製造する際に用いた重合開始剤、連鎖移動剤などにより決まり、たとえば、-CHなどの炭素数1~6のアルキル基である。
【0029】
本開示の含フッ素共重合体は、-CFHを有していてもよいし、有してなくてもよい。含フッ素共重合体を溶融成形する場合に発泡などの成形不良が生じにくくなるとともに、含フッ素共重合体の耐熱性が優れたものとなることから、本開示の含フッ素共重合体は-CFHを有していることが好ましい。含フッ素共重合体の-CFHの数は、主鎖炭素数10個当たり、50個以上であってよく、好ましくは60個以上であり、より好ましくは90個超であり、さらに好ましくは120個超であり、尚さらに好ましくは150個超であり、特に好ましくは200個以上であり、最も好ましくは250個以上である。-CFHの数の上限は、特に限定されず、たとえば800個であってよい。-CFHの数は、たとえば、重合開始剤または連鎖移動剤の種類の適切な選択により、あるいは、後述する含フッ素共重合体の湿潤熱処理またはフッ素化処理により、調整することができる。
【0030】
上記官能基の種類の同定および官能基数の測定には、赤外分光分析法を用いることができる。
【0031】
官能基数については、具体的には、以下の方法で測定する。まず、上記含フッ素共重合体をコールドプレスにより成形して、厚さ0.25~0.30mmのフィルムを作製する。このフィルムをフーリエ変換赤外分光分析により分析して、上記含フッ素共重合体の赤外吸収スペクトルを得、完全にフッ素化されて官能基が存在しないベーススペクトルとの差スペクトルを得る。この差スペクトルに現れる特定の官能基の吸収ピークから、下記式(A)に従って、上記含フッ素共重合体における炭素原子1×10個あたりの官能基数Nを算出する。
【0032】
N=I×K/t (A)
I:吸光度
K:補正係数
t:フィルムの厚さ(mm)
【0033】
参考までに、いくつかの官能基について、吸収周波数、モル吸光係数および補正係数を表1に示す。また、モル吸光係数は低分子モデル化合物のFT-IR測定データから決定したものである。
【表1】
【0034】
-CHCFH、-CHCOF、-CHCOOH、-CHCOOCH、-CHCONHの吸収周波数は、それぞれ表中に示す、-CFH、-COF、-COOH freeと-COOH bonded、-COOCH、-CONHの吸収周波数から数十カイザー(cm-1)低くなる。
【0035】
たとえば、-COFの官能基数とは、-CFCOFに起因する吸収周波数1883cm-1の吸収ピークから求めた官能基数と、-CHCOFに起因する吸収周波数1840cm-1の吸収ピークから求めた官能基数との合計である。
【0036】
また、-CFH基の数は、核磁気共鳴装置を用い、測定温度を(ポリマーの融点+20)℃として19F-NMR測定を行い、-CFH基のピーク積分値からも求めることができる。
【0037】
-CFH基などの官能基は、含フッ素共重合体の主鎖末端または側鎖末端に存在する官能基、および、主鎖中または側鎖中に存在する官能基である。これらの官能基は、たとえば、含フッ素共重合体を製造する際に用いた連鎖移動剤や重合開始剤によって、含フッ素共重合体に導入される。たとえば、連鎖移動剤としてアルコールを使用する、あるいは重合開始剤として-CHOHの構造を有する過酸化物を使用した場合、含フッ素共重合体の主鎖末端に-CHOHが導入される。また、官能基を有する単量体を重合することによって、上記官能基が含フッ素共重合体の側鎖末端に導入される。
【0038】
このような官能基を有する含フッ素共重合体に対して、湿潤熱処理、フッ素化処理などの処理をすることによって、上記範囲内の官能基数を有する含フッ素共重合体を得ることができる。本開示の含フッ素共重合体は、湿潤熱処理されたものであることがより好ましい。
【0039】
含フッ素共重合体の融点は、好ましくは220~290℃であり、より好ましくは240~280℃である。融点が上記範囲内にあることにより、射出成形法により成形して一層美麗な射出成形体を得ることができ、115℃耐摩耗性、薬液低透過性、135℃耐引張クリープ特性、繰り返し荷重に対する耐久性、80℃高温時剛性、耐クリープ性、耐ソルベントクラック性、110℃で加わる引張力に対する延性に一層優れる成形体を得ることができる。
【0040】
本開示において、融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて測定できる。
【0041】
共重合体のテトラヒドロフラン透過度は、好ましくは48.0mg・cm/m・day以下であり、より好ましくは46.0mg・cm/m・day以下であり、さらに好ましくは45.7mg・cm/m・day以下である。本開示の共重合体は、HFP単位およびPPVE単位の含有量、メルトフローレート(MFR)および官能基数が適切に調整されていることから、優れたテトラヒドロフラン低透過性を有している。すなわち、本開示の共重合体を用いることにより、テトラヒドロフランなどの薬液を透過させにくい成形体を得ることができる。
【0042】
本開示において、テトラヒドロフラン透過度は、温度60℃、35日間の条件で、測定できる。テトラヒドロフラン透過度の具体的な測定は、実施例に記載の方法により行うことができる。
【0043】
本開示の含フッ素共重合体は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などのいずれの重合方法によっても製造することができる。これらの重合方法において、温度、圧力等の各条件、重合開始剤、連鎖移動剤、溶媒やその他の添加剤は、所望の含フッ素共重合体の組成や量に応じて適宜設定することができる。
【0044】
重合開始剤としては、油溶性ラジカル重合開始剤または水溶性ラジカル開始剤を使用できる。
【0045】
油溶性ラジカル重合開始剤としては、公知の油溶性の過酸化物であってよく、たとえば、
ジノルマルプロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジsec-ブチルパーオキシジカーボネートなどのジアルキルパーオキシカーボネート類;
t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシピバレートなどのパーオキシエステル類;
ジt-ブチルパーオキサイドなどのジアルキルパーオキサイド類;
ジ[フルオロ(またはフルオロクロロ)アシル]パーオキサイド類;
などが代表的なものとしてあげられる。
【0046】
ジ[フルオロ(またはフルオロクロロ)アシル]パーオキサイド類としては、[(RfCOO)-](Rfは、パーフルオロアルキル基、ω-ハイドロパーフルオロアルキル基またはフルオロクロロアルキル基)で表されるジアシルパーオキサイドが挙げられる。
【0047】
ジ[フルオロ(またはフルオロクロロ)アシル]パーオキサイド類としては、たとえば、ジ(ω-ハイドロパーフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(ω-ハイドロ-ドデカフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ジ(ω-ハイドロ-テトラデカフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ジ(ω-ハイドロ-ヘキサデカフルオロノナノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロブチリル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロパレリル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロノナノイル)パーオキサイド、ジ(ω-クロロ-ヘキサフルオロブチリル)パーオキサイド、ジ(ω-クロロ-デカフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(ω-クロロ-テトラデカフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ω-ハイドロ-ドデカフルオロヘプタノイル-ω-ハイドロヘキサデカフルオロノナノイル-パーオキサイド、ω-クロロ-ヘキサフルオロブチリル-ω-クロローデカフルオロヘキサノイル-パーオキサイド、ω-ハイドロドデカフルオロヘプタノイル-パーフルオロブチリル-パーオキサイド、ジ(ジクロロペンタフルオロブタノイル)パーオキサイド、ジ(トリクロロオクタフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(テトラクロロウンデカフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ジ(ペンタクロロテトラデカフルオロデカノイル)パーオキサイド、ジ(ウンデカクロロトリアコンタフルオロドコサノイル)パーオキサイドなどが挙げられる。
【0048】
水溶性ラジカル重合開始剤としては、公知の水溶性過酸化物であってよく、たとえば、過硫酸、過ホウ素酸、過塩素酸、過リン酸、過炭酸などのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、t-ブチルパーマレエート、t-ブチルハイドロパーオキサイドなどがあげられる。亜硫酸塩類のような還元剤も併せて含んでもよく、その使用量は過酸化物に対して0.1~20倍であってよい。
【0049】
重合開始剤として、油溶性ラジカル重合開始剤を用いると、-COFおよび-COOHの生成を回避でき、含フッ素共重合体の-COFおよび-COOHの合計数を容易に上述した範囲に調整できることから好ましい。また、油溶性ラジカル重合開始剤を用いると、カルボニル基含有末端基および-CHOHを上述した範囲に調整することも容易になる傾向がある。特に、油溶性ラジカル重合開始剤を用いた懸濁重合により、含フッ素共重合体を製造することが好適である。油溶性ラジカル重合開始剤としては、ジアルキルパーオキシカーボネート類およびジ[フルオロ(またはフルオロクロロ)アシル]パーオキサイド類からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、ジノルマルプロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネートおよびジ(ω-ハイドロ-ドデカフルオロヘプタノイル)パーオキサイドからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0050】
連鎖移動剤としては、たとえば、エタン、イソペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族類;アセトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類;メタノール、エタノール、2,2,2-トリフルオロエタノール等のアルコール類;メチルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、塩化メチル等のハロゲン化炭化水素;3-フルオロベンゾトリフルオライド等が挙げられる。添加量は用いる化合物の連鎖移動定数の大きさにより変わりうるが、通常、溶媒100質量部に対して0.01~20質量部の範囲で使用される。
【0051】
たとえば、重合開始剤として、ジアルキルパーオキシカーボネート類、ジ[フルオロ(またはフルオロクロロ)アシル]パーオキサイド類などを用いる場合、得られる含フッ素共重合体の分子量が高くなりすぎ、所望のメルトフローレートに調整することが容易でない場合があるが、連鎖移動剤を用いて、分子量を調整することができる。特に、アルコール類などの連鎖移動剤および油溶性ラジカル重合開始剤を用いた懸濁重合により、含フッ素共重合体を製造することが好適である。
【0052】
溶媒としては、水、水とアルコールとの混合溶媒等が挙げられる。また、本開示の含フッ素共重合体の重合に用いるモノマーを、溶媒として用いることもできる。
【0053】
懸濁重合では、水に加えて、フッ素系溶媒を使用してもよい。フッ素系溶媒としては、CHCClF、CHCClF、CFCFCClH、CFClCFCFHCl等のハイドロクロロフルオロアルカン類;CFClCFClCFCF、CFCFClCFClCF等のクロロフルオロアルカン類;パーフルオロシクロブタン、CFCFCFCF、CFCFCFCFCF、CFCFCFCFCFCF等のパーフルオロアルカン類等が挙げられ、なかでも、パーフルオロアルカン類が好ましい。フッ素系溶媒の使用量は、懸濁性および経済性の面から、溶媒100質量部に対して、10~100質量部が好ましい。
【0054】
重合温度としては特に限定されず、0~100℃であってよい。また、重合開始剤として、ジアルキルパーオキシカーボネート類、ジ[フルオロ(またはフルオロクロロ)アシル]パーオキサイド類などを用いる場合など、重合開始剤の分解速度が速すぎる場合には、重合温度を0~35℃の範囲とするなど、比較的低温の重合温度を採用することが好ましい。
【0055】
重合圧力は、用いる溶媒の種類、溶媒の量、蒸気圧、重合温度などの他の重合条件に応じて適宜定められるが、通常、0~9.8MPaGであってよい。重合圧力は、好ましくは0.1~5MPaG、より好ましくは0.5~2MPaG、さらに好ましくは0.5~1.5MPaGである。また、重合圧力を1.5MPaG以上とすると、生産効率を向上させることができる。
【0056】
重合における添加剤としては、たとえば、懸濁安定剤が挙げられる。懸濁安定剤としては、従来公知のものであれば特に限定されず、メチルセルロース、ポリビニルアルコール等を使用することができる。懸濁安定剤を用いると、重合反応により生成する懸濁粒子が水性媒体に安定に分散するので、グラスライニングなどの付着防止処理を施していないSUS製の反応槽を使用しても、反応槽に懸濁粒子が付着しにくい。したがって、高圧に耐える反応槽を使用することができるので、高圧下での重合が可能となり、生産効率を向上させることができる。これに対し、懸濁安定剤を用いずに重合を行った場合、付着防止処理を施していないSUS製の反応槽を使用すると、懸濁粒子が付着して生産効率が低下するおそれがある。懸濁安定剤の水性媒体に対する濃度は、条件によって適宜調節することができる。
【0057】
重合反応によりフルオロポリマーを含む水性分散液が得られる場合は、水性分散液中に含まれる含フッ素共重合体を凝析させ、洗浄し、乾燥することにより乾燥フルオロポリマーを回収してもよい。また、重合反応により含フッ素共重合体がスラリーとして得られる場合は、反応容器からスラリーを取り出し、洗浄し、乾燥することにより乾燥フルオロポリマーを回収してもよい。乾燥することによりパウダーの形状で含フッ素共重合体を回収できる。
【0058】
重合により得られた含フッ素共重合体を、ペレットに成形してもよい。ペレットに成形する成形方法としては、特に限定はなく、従来公知の方法を用いることができる。たとえば、単軸押出機、二軸押出機、タンデム押出機を用いて含フッ素共重合体を溶融押出しし、所定長さに切断してペレット状に成形する方法などが挙げられる。溶融押出しする際の押出温度は、含フッ素共重合体の溶融粘度や製造方法により変える必要があり、好ましくは含フッ素共重合体の融点+20℃~含フッ素共重合体の融点+140℃である。含フッ素共重合体の切断方法は、特に限定は無く、ストランドカット方式、ホットカット方式、アンダーウオーターカット方式、シートカット方式などの従来公知の方法を採用できる。得られたペレットを、加熱することにより、ペレット中の揮発分を除去してもよい(脱気処理)。得られたペレットを、30~200℃の温水、100~200℃の水蒸気、または、40~200℃の温風と接触させて処理してもよい。
【0059】
重合により得られた含フッ素共重合体を、空気および水の存在下で、100℃以上の温度に加熱してもよい(湿潤熱処理)。湿潤熱処理の方法としては、たとえば、押出機を用いて、空気および水を供給しながら、重合により得られた含フッ素共重合体を溶融させ、押し出す方法が挙げられる。湿潤熱処理により、含フッ素共重合体の-COF、-COOHなどの熱的に不安定な官能基を、熱的に比較的安定な-CFHに変換することができ、含フッ素共重合体の-COFおよび-COOHの合計数、ならびに、カルボニル基含有末端基および-CHOHの合計数を容易に上述した範囲に調整できる。空気および水に加えて、アルカリ金属塩の存在下で、含フッ素共重合体を加熱することにより、-CFHへの変換反応を促進することができる。しかしながら、含フッ素共重合体の用途によっては、アルカリ金属塩による汚染を回避すべきであることに留意すべきである。
【0060】
重合により得られた含フッ素共重合体を、フッ素化処理してもよいし、フッ素化処理しなくてもよい。時間的および経済的な負担を回避する観点から、含フッ素共重合体をフッ素化処理しないことが好ましい。フッ素化処理は、フッ素化処理されていない含フッ素共重合体とフッ素含有化合物とを接触させることにより行うことができる。フッ素化処理により、含フッ素共重合体のカルボニル基含有末端基、-CHOHなどの熱的に不安定な官能基、および、熱的に比較的安定な-CFHなどの官能基を、熱的に極めて安定な-CFに変換することができる。結果として、含フッ素共重合体のカルボニル基含有末端基および-CHOHの合計数を容易に上述した範囲に調整できる。
【0061】
フッ素含有化合物としては特に限定されないが、フッ素化処理条件下にてフッ素ラジカルを発生するフッ素ラジカル源が挙げられる。上記フッ素ラジカル源としては、Fガス、CoF、AgF、UF、OF、N、CFOF、フッ化ハロゲン(たとえばIF、ClF)などが挙げられる。
【0062】
ガスなどのフッ素ラジカル源は、100%濃度のものであってもよいが、安全性の面から不活性ガスと混合し、5~50質量%に希釈して使用することが好ましく、15~30質量%に希釈して使用することがより好ましい。上記不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスなどが挙げられるが、経済的な面より窒素ガスが好ましい。
【0063】
フッ素化処理の条件は、特に限定されず、溶融させた状態の含フッ素共重合体とフッ素含有化合物とを接触させてもよいが、通常、含フッ素共重合体の融点以下、好ましくは20~220℃、より好ましくは100~200℃の温度下で行うことができる。上記フッ素化処理は、一般に1~30時間、好ましくは5~25時間行う。フッ素化処理は、フッ素化処理されていない含フッ素共重合体をフッ素ガス(Fガス)と接触させるものが好ましい。
【0064】
本開示の含フッ素共重合体と、必要に応じてその他の成分とを混合し、組成物を得てもよい。その他の成分としては、充填剤、可塑剤、加工助剤、離型剤、顔料、難燃剤、滑剤、光安定剤、耐候安定剤、導電剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、発泡剤、香料、オイル、柔軟化剤、脱フッ化水素剤等を挙げることができる。
【0065】
充填剤としては、たとえば、シリカ、カオリン、クレー、有機化クレー、タルク、マイカ、アルミナ、炭酸カルシウム、テレフタル酸カルシウム、酸化チタン、リン酸カルシウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、架橋ポリスチレン、チタン酸カリウム、カーボン、チッ化ホウ素、カーボンナノチューブ、ガラス繊維等が挙げられる。導電剤としてはカーボンブラック等があげられる。可塑剤としては、ジオクチルフタル酸、ペンタエリスリトール等があげられる。加工助剤としては、カルナバワックス、スルホン化合物、低分子量ポリエチレン、フッ素系助剤等があげられる。脱フッ化水素剤としては有機オニウム、アミジン類等があげられる。
【0066】
また、上記その他の成分として、上記した含フッ素共重合体以外のその他のポリマーを用いてもよい。その他のポリマーとしては、上記した含フッ素共重合体以外のフッ素樹脂、フッ素ゴム、非フッ素化ポリマーなどが挙げられる。
【0067】
上記組成物の製造方法としては、含フッ素共重合体とその他の成分とを乾式で混合する方法や、含フッ素共重合体とその他の成分とを予め混合機で混合し、次いで、ニーダー、溶融押出し機等で溶融混練する方法等を挙げることができる。
【0068】
本開示の含フッ素共重合体または上記の組成物は、加工助剤、成形材料等として使用できるが、成形材料として使用することが好適である。また、本開示の含フッ素共重合体の水性分散液、溶液、懸濁液、および共重合体/溶媒系も利用可能であり、これらは塗料として塗布したり、包封、含浸、フィルムの流延に使用したりできる。しかし、本開示の含フッ素共重合体は上述した特性を有するものであるので、上記成形材料として使用することが好ましい。
【0069】
本開示の含フッ素共重合体または上記の組成物を成形して、成形体を得てもよい。
【0070】
上記含フッ素共重合体または上記組成物を成形する方法は特に限定されず、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法、ブロー成形法、トランスファー成形法、ロト成形法、ロトライニング成形法等が挙げられる。成形方法としては、なかでも、押出成形法、圧縮成形法、射出成形法またはトランスファー成形法が好ましく、高い生産性で成形体を生産できることから、射出成形法、押出成形法またはトランスファー成形法がより好ましく、射出成形法がさらに好ましい。すなわち、成形体としては、押出成形体、圧縮成形体、射出成形体またはトランスファー成形体であることが好ましく、高い生産性で生産できることから、射出成形体、押出成形体またはトランスファー成形体であることがより好ましく、射出成形体であることがさらに好ましい。本開示の含フッ素共重合体を射出成形法により成形することにより、美麗な成形体を得ることができる。
【0071】
本開示の含フッ素共重合体を含有する成形体としては、たとえば、ナット、ボルト、継手、フィルム、ボトル、ガスケット、電線被覆、チューブ、ホース、パイプ、バルブ、シート、シール、パッキン、タンク、ローラー、容器、コック、コネクタ、フィルターハウジング、フィルターケージ、流量計、ポンプ、ウェハーキャリア、ウェハーボックス等であってもよい。
【0072】
本開示の含フッ素共重合体、上記の組成物、または上記の成形体は、例えば、次の用途に使用できる。
食品包装用フィルム、食品製造工程で使用する流体移送ラインのライニング材、パッキン、シール材、シート等の食品製造装置用流体移送部材;
薬品用の薬栓、包装フィルム、薬品製造工程で使用される流体移送ラインのライニング材、パッキン、シール材、シート等の薬液移送部材;
化学プラントや半導体工場の薬液タンクや配管の内面ライニング部材;
自動車の燃料系統並びに周辺装置に用いられるO(角)リング・チューブ・パッキン、バルブ芯材、ホース、シール材等、自動車のAT装置に用いられるホース、シール材等の燃料移送部材;
自動車のエンジン並びに周辺装置に用いられるキャブレターのフランジガスケット、シャフトシール、バルブステムシール、シール材、ホース等、自動車のブレーキホース、エアコンホース、ラジエーターホース、電線被覆材等のその他の自動車部材;
半導体製造装置のO(角)リング、チューブ、パッキン、バルブ芯材、ホース、シール材、ロール、ガスケット、ダイヤフラム、継手等の半導体装置用薬液移送部材;
塗装設備用の塗装ロール、ホース、チューブ、インク用容器等の塗装・インク用部材;
飲食物用のチューブ又は飲食物用ホース等のチューブ、ホース、ベルト、パッキン、継手等の飲食物移送部材、食品包装材、ガラス調理機器;
廃液輸送用のチューブ、ホース等の廃液輸送用部材;
高温液体輸送用のチューブ、ホース等の高温液体輸送用部材;
スチーム配管用のチューブ、ホース等のスチーム配管用部材;
船舶のデッキ等の配管に巻き付けるテープ等の配管用防食テープ;
電線被覆材、光ファイバー被覆材、太陽電池の光起電素子の光入射側表面に設ける透明な表面被覆材および裏面剤等の各種被覆材;
ダイヤフラムポンプのダイヤフラムや各種パッキン類等の摺動部材;
農業用フィルム、各種屋根材・側壁等の耐侯性カバー;
建築分野で使用される内装材、不燃性防火安全ガラス等のガラス類の被覆材;
家電分野等で使用されるラミネート鋼板等のライニング材;
【0073】
上記自動車の燃料系統に用いられる燃料移送部材としては、更に、燃料ホース、フィラーホース、エバポホース等が挙げられる。上記燃料移送部材は、耐サワーガソリン用、耐アルコール燃料用、耐メチルターシャルブチルエーテル・耐アミン等ガソリン添加剤入燃料用の燃料移送部材として使用することもできる。
【0074】
上記薬品用の薬栓・包装フィルムは、酸等に対し優れた耐薬品性を有する。また、上記薬液移送部材として、化学プラント配管に巻き付ける防食テープも挙げることができる。
【0075】
上記成形体としては、また、自動車のラジエータタンク、薬液タンク、ベロース、スペーサ、ローラー、ガソリンタンク、廃液輸送用容器、高温液体輸送用容器、漁業・養魚タンク等が挙げられる。
【0076】
上記成形体としては、更に、自動車のバンパー、ドアトリム、計器板、食品加工装置、調理機器、撥水撥油性ガラス、照明関連機器、OA機器の表示盤・ハウジング、電照式看板、ディスプレイ、液晶ディスプレイ、携帯電話、プリント基盤、電気電子部品、雑貨、ごみ箱、浴槽、ユニットバス、換気扇、照明枠等に用いられる部材も挙げられる。
【0077】
本開示の含フッ素共重合体を含有する成形体は、115℃耐摩耗性、薬液低透過性、135℃耐引張クリープ特性、繰り返し荷重に対する耐久性、80℃高温時剛性、耐クリープ性、耐ソルベントクラック性、110℃で加わる引張力に対する延性に優れていることから、バルブ、チューブ、継手、配管部材、フィルム、電線被覆などに好適に利用することができる。
【0078】
本開示の含フッ素共重合体を含有する成形体は、ガスケット、パッキンなどの被圧縮部材として好適に利用することができる。本開示の被圧縮部材は、ガスケットまたはパッキンであってよい。
【0079】
本開示の被圧縮部材の大きさや形状は用途に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。本開示の被圧縮部材の形状は、たとえば、環状であってよい。また、本開示の被圧縮部材は、平面視で円形、長円形、角を丸めた四角形などの形状を有し、かつその中央部に貫通孔を有するものであってよい。
【0080】
本開示の被圧縮部材は、非水電解液電池を構成するための部材として用いることが好ましい。本開示の被圧縮部材は、非水電解液電池中の非水電解液と接する状態で用いられる部材として、特に好適である。すなわち、本開示の被圧縮部材は、非水電解液電池中の非水電解液との接液面を有するものであってもよい。
【0081】
非水電解液電池としては、非水電解液を備える電池であれば特に限定されず、たとえば、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタなどが挙げられる。また、非水電解液電池を構成する部材としては、封止部材、絶縁部材などが挙げられる。
【0082】
上記非水電解液は、特に限定されるものではないが、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ-ブチルラクトン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどの公知の溶媒の1種もしくは2種以上が使用できる。非水電解液電池は、電解質をさらに備えてもよい。上記電解質は、特に限定されるものではないが、LiClO、LiAsF、LiPF、LiBF、LiCl、LiBr、CHSOLi、CFSOLi、炭酸セシウムなどを用いることができる。
【0083】
本開示の被圧縮部材は、たとえば、封止ガスケット、封止パッキンなどの封止部材、絶縁ガスケット、絶縁パッキンなどの絶縁部材として、好適に利用できる。封止部材は、液体もしくは気体の漏出または外部からの液体もしくは気体の侵入を防止するために用いられる部材である。絶縁部材は、電気を絶縁するために用いられる部材である。本開示の被圧縮部材は、封止および絶縁の両方の目的のために用いられる部材であってもよい。
【0084】
本開示の被圧縮部材は、非水電解液電池用封止部材または非水電解液電池用絶縁部材として好適に使用できる。また、本開示の被圧縮部材は、上記の含フッ素共重合体を含有することから、優れた絶縁特性を有している。したがって、本開示の被圧縮部材を絶縁部材として使用した場合には、2以上の導電部材にしっかりと密着して、短絡を長期間に渡って防止する。
【0085】
本開示の含フッ素共重合体は、電線被覆を形成するための材料として好適に利用することができる。本開示の含フッ素共重合体を含有する被覆層を備える被覆電線は、外径の変動がほとんどないことから、電気特性に優れている。
【0086】
被覆電線は、心線と、前記心線の周囲に設けられており、本開示の含フッ素共重合体を含有する被覆層と、を備えるものである。例えば、心線上に本開示の含フッ素共重合体を溶融押出成形した押出成形体を上記被覆層とすることができる。被覆電線は、LANケーブル(Eathernet Cable)、高周波伝送ケーブル、フラットケーブル、耐熱ケーブル等に好適であり、なかでも、LANケーブル(Eathernet Cable)、高周波伝送ケーブルなどの伝送ケーブルに好適である。
【0087】
心線の材料としては、例えば、銅、アルミ等の金属導体材料を用いることができる。心線は、直径0.02~3mmであるものが好ましい。心線の直径は、0.04mm以上であることがより好ましく、0.05mm以上が更に好ましく、0.1mm以上が特に好ましい。心線の直径は、2mm以下がより好ましい。
【0088】
心線の具体例としては、例えば、AWG(アメリカンワイヤゲージ)-46(直径40マイクロメートルの中実銅製ワイヤー)、AWG-26(直径404マイクロメートルの中実銅製ワイヤー)、AWG-24(直径510マイクロメートルの中実銅製ワイヤー)、AWG-22(直径635マイクロメートルの中実銅製ワイヤー)等を用いてもよい。
【0089】
被覆層の厚みは、0.1~3.0mmであるものが好ましい。被覆層の厚みは、2.0mm以下であることも好ましい。
【0090】
高周波伝送ケーブルとしては、同軸ケーブルが挙げられる。同軸ケーブルは、一般に、内部導体、絶縁被覆層、外部導体層および保護被覆層が芯部より外周部に順に積層することからなる構造を有する。本開示の含フッ素共重合体を含有する成形体は、含フッ素共重合体を含有する絶縁被覆層として、好適に利用することができる。上記構造における各層の厚さは特に限定されないが、通常、内部導体は直径約0.1~3mmであり、絶縁被覆層は、厚さ約0.3~3mm、外部導体層は、厚さ約0.5~10mm、保護被覆層は、厚さ約0.5~2mmである。
【0091】
被覆層は、気泡を含有するものであってもよく、気泡が被覆層中に均一に分布しているものが好ましい。
【0092】
気泡の平均泡径は限定されるものではないが、例えば、60μm以下であることが好ましく、45μm以下であることがより好ましく、35μm以下であることが更に好ましく、30μm以下であることが更により好ましく、25μm以下であることが特に好ましく、23μm以下であることが殊更に好ましい。また、平均泡径は、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましい。平均泡径は、電線断面の電子顕微鏡画像を取り、画像処理により各泡の直径を算出し、平均することにより求めることができる。
【0093】
被覆層は、発泡率が20%以上であってもよい。より好ましくは30%以上であり、更に好ましくは33%以上であり、更により好ましくは35%以上である。上限は特に限定されないが、例えば、80%である。発泡率の上限は60%であってもよい。発泡率は、((電線被覆材の比重-被覆層の比重)/電線被覆材の比重)×100として求める値である。発泡率は、例えば後述する押出機中のガスの挿入量の調節等により、あるいは、溶解するガスの種類を選択することにより、用途に応じて適宜調整することができる。
【0094】
被覆電線は、上記心線と上記被覆層との間に別の層を備えていてもよく、被覆層の周囲に更に別の層(外層)を備えていてもよい。被覆層が気泡を含有する場合、本開示の電線は、心線と被覆層の間に非発泡層を挿入した2層構造(スキン-フォーム)や、外層に非発泡層を被覆した2層構造(フォーム-スキン)、更にはスキン-フォームの外層に非発泡層を被覆した3層構造(スキン-フォーム-スキン)であってもよい。非発泡層は特に限定されず、TFE/HFP系共重合体、TFE/PAVE共重合体、TFE/エチレン系共重合体、フッ化ビニリデン系重合体、ポリエチレン〔PE〕等のポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル〔PVC〕等の樹脂からなる樹脂層であってよい。
【0095】
被覆電線は、たとえば、押出機を用いて、含フッ素共重合体を加熱し、含フッ素共重合体が溶融した状態で心線上に押し出し、被覆層を形成することにより製造することができる。
【0096】
被覆層の形成に際しては、含フッ素共重合体を加熱し、含フッ素共重合体が溶融した状態で、含フッ素共重合体中にガスを導入することにより、気泡を含有する上記被覆層を形成することもできる。ガスとしては、たとえば、クロロジフルオロメタン、窒素、二酸化炭素等のガス又は上記ガスの混合物を用いることができる。ガスは、加熱した含フッ素共重合体中に加圧気体として導入してもよいし、化学的発泡剤を含フッ素共重合体中に混和させることにより発生させてもよい。ガスは、溶融状態の含フッ素共重合体中に溶解する。
【0097】
また、本開示の含フッ素共重合体は、高周波信号伝送用製品の材料として、好適に利用することができる。
【0098】
上記高周波信号伝送用製品としては、高周波信号の伝送に用いる製品であれば特に限定されず、(1)高周波回路の絶縁板、接続部品の絶縁物、プリント配線基板等の成形板、(2)高周波用真空管のベース、アンテナカバー等の成形体、(3)同軸ケーブル、LANケーブル等の被覆電線等が挙げられる。上記高周波信号伝送用製品は、衛星通信機器、携帯電話基地局などのマイクロ波、特に3~30GHzのマイクロ波を利用する機器に、好適に使用することができる。
【0099】
上記高周波信号伝送用製品において、本開示の含フッ素共重合体は、誘電正接が低い点で、絶縁体として好適に用いることができる。
【0100】
上記(1)成形板としては、良好な電気特性が得られる点で、プリント配線基板が好ましい。上記プリント配線基板としては特に限定されないが、例えば、携帯電話、各種コンピューター、通信機器等の電子回路のプリント配線基板が挙げられる。上記(2)成形体としては、誘電損失が低い点で、アンテナカバーが好ましい。
【0101】
本開示の含フッ素共重合体は、フィルムに好適に利用することができる。
【0102】
本開示のフィルムは、離型フィルムとして有用である。離型フィルムは、本開示の含フッ素共重合体を、溶融押出成形、カレンダー成形、プレス成形、流延成形等により成形して製造することができる。均一な薄膜が得られる観点から、溶融押出成形により離型フィルムを製造することができる。
【0103】
本開示のフィルムは、OA機器に用いるロールの表面に適用することができる。また、本開示の含フッ素共重合体を、押出成形、圧縮成形、プレス成形などにより必要な形状に成形してシート状やフィルム状、チューブ状に成形し、OA機器ロールまたはOA機器ベルト等の表面材料に使用することができる。特に溶融押出成形法により薄肉のチューブやフィルムを製造することができる。
【0104】
本開示の含フッ素共重合体は、チューブ、ボトルなどにも好適に利用することができる。
【0105】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【0106】
<1> 本開示の第1の観点によれば、
テトラフルオロエチレン単位、ヘキサフルオロプロピレン単位およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位を含有する含フッ素共重合体であって、
ヘキサフルオロプロピレン単位の含有量が、全単量体単位に対して、9.4~10.1質量%であり、
パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位の含有量が、全単量体単位に対して、0.8~1.7質量%であり、
372℃におけるメルトフローレートが、4.5~8.5g/10分であり、
カルボニル基含有末端基、-CF=CFおよび-CHOHの合計数が、主鎖炭素数10個当たり、90個以下である
含フッ素共重合体が提供される。
<2> 本開示の第2の観点によれば、
ヘキサフルオロプロピレン単位の含有量が、全単量体単位に対して、9,5~10.1質量%である第1の観点による含フッ素共重合体が提供される。
<3> 本開示の第3の観点によれば、
パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位の含有量が、全単量体単位に対して、0.8~1.3質量%である第1または第2の観点による含フッ素共重合体が提供される。
<4> 本開示の第4の観点によれば、
372℃におけるメルトフローレートが、4.5~7.5g/10分である第1~第3のいずれかの観点による含フッ素共重合体が提供される。
<5> 本開示の第5の観点によれば、
-CFHの数が、主鎖炭素数10個当たり、50個以上である第1~第4のいずれかの観点による含フッ素共重合体が提供される。
<6> 本開示の第6の観点によれば、
第1~第5のいずれかの観点による含フッ素共重合体を含有する射出成形体が提供される。
<7> 本開示の第7の観点によれば、
第1~第5のいずれかの観点による含フッ素共重合体を含有する被覆層を備える被覆電線が提供される。
<8> 本開示の第8の観点によれば、
第1~第5のいずれかの観点による含フッ素共重合体を含有する成形体であって、前記成形体が、バルブ、チューブ、継手、配管部材、フィルムまたは電線被覆である成形体が提供される。
【実施例
【0107】
つぎに本開示の実施形態について実施例をあげて説明するが、本開示はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0108】
実施例の各数値は以下の方法により測定した。
【0109】
(単量体単位の含有量)
含フッ素共重合体の各単量体単位の含有量は、NMR分析装置(たとえば、ブルカーバイオスピン社製、AVANCE300 高温プローブ)、または、赤外吸収測定装置(パーキンエルマー社製、Spectrum One)を用いて測定した。
【0110】
(メルトフローレート(MFR))
含フッ素共重合体のMFRは、ASTM D-1238に準拠して、メルトインデクサーG-01(東洋精機製作所製)を用い、372℃、5kg荷重下で、内径2mm、長さ8mmのダイから10分間あたりに流出するポリマーの質量(g/10分)を測定することにより、求めた。
【0111】
(-CFHの数)
含フッ素共重合体の-CFH基の数は、核磁気共鳴装置AVANCE-300(ブルカーバイオスピン社製)を用い、測定温度を(ポリマーの融点+20)℃として19F-NMR測定を行い、-CFH基のピーク積分値から求めた。
【0112】
(-COOH、-COOCH、-CHOH、-COF、-CF=CF、-CONHの数)
実施例および比較例で得られた乾燥粉体もしくはペレットを、コールドプレスにより成形して、厚さ0.25~0.3mmのフィルムを作製した。このフィルムをフーリエ変換赤外分光分析装置〔FT-IR(Spectrum One、パーキンエルマー社製)〕により40回スキャンし、分析して赤外吸収スペクトルを得た。得られた赤外吸収スペクトルを、既知のフィルムの赤外吸収スペクトルと比較して末端基の種類を決定した。また、得られた赤外吸収スペクトルと、既知のフィルムの赤外吸収スペクトルとの差スペクトルに現れる特定の官能基の吸収ピークから、下記式(A)に従って試料における炭素原子1×10個あたりの官能基数Nを算出した。
【0113】
N=I×K/t (A)
I:吸光度
K:補正係数
t:フィルムの厚さ(mm)
【0114】
参考までに、実施例における官能基について、吸収周波数、モル吸光係数および補正係数を表2に示す。また、モル吸光係数は低分子モデル化合物のFT-IR測定データから決定したものである。
【0115】
【表2】
【0116】
(-OC(=O)O-R(カーボネート基)の数)
国際公開第2019/220850号に記載の方法にて分析を行った。吸収周波数を1817cm-1、モル吸光度係数を170(l/cm/mol)、補正係数を1426とした以外は、官能基数Nの算出方法と同様にして、-OC(=O)O-R(カーボネート基)の数を算出した。
【0117】
(融点)
含フッ素共重合体の融点は、示差走査熱量計(商品名:X-DSC7000、日立ハイテクサイエンス社製)を用いて、昇温速度10℃/分で200℃から350℃までの1度目の昇温を行い、続けて、冷却速度10℃/分で350℃から200℃まで冷却し、再度、昇温速度10℃/分で200℃から350℃までの2度目の昇温を行 い、2度目の昇温過程で生ずる溶融曲線ピークから融点を求めた。
【0118】
比較例1
容積174Lの攪拌機付きオートクレーブに脱イオン水40.25kgとメタノール0.244kgを投入し、オートクレーブ内を十分に真空窒素置換した。その後、オートクレーブ内を真空脱気し、真空状態となったオートクレーブ内にHFP40.25kgとPPVE0.44kg投入し、オートクレーブを25.5℃に加温した。続けて、オートクレーブの内部圧力が0.843MPaになるまでTFEを投入し、次に8質量%のジ(ω-ヒドロパーフルオロヘキサノイル)パーオキサイド溶液(以下DHPと略す)1.25kgをオートクレーブ内に投入して重合を開始した。重合開始時点のオートクレーブの内部圧力を0.843MPaに設定し、TFEを連続追加することで設定圧力を保つようにした。重合開始から1.5時間後にメタノール0.244kgを追加投入した。重合開始から2時間後、4時間後、にDHP1.25kgを追加投入するとともに内部圧力を0.002MPa下げ、6時間後に0.96kgを投入するとともに内部圧力を0.002MPa下げた。以降、反応が終了するまで2時間ごとにDHP0.25kgを追加投入し、その都度内部圧力を0.002MPa下げた。
【0119】
なお、PPVEはTFEの連続追加投入量が8.1kg、16.2kg、24.3kgに達した時点でそれぞれ0.11kg追加投入した。 また、TFEの追加投入量が6.0kg、18.1kgに達した時点でそれぞれ0.244kgのメタノールをオートクレーブ内に追加投入した。 そして、TFEの追加投入量が40.25kgに達したところで重合を終了させた。重合終了後、未反応のTFE及びHFPを放出し、湿潤粉体を得た。そしてこの湿潤粉体を純水で洗浄した後、150℃で10時間乾燥し、45.2kgの乾燥粉体を得た。
【0120】
得られた粉末を、スクリュー押出機(商品名:PCM46、池貝社製)により370℃にて溶融押出して、共重合体のペレットを得た。得られたペレットを用いて、上記した方法により各種物性を測定した。結果を表3に示す。
【0121】
比較例2
容積174Lの攪拌機付きオートクレーブに脱イオン水40.25kgとメタノール0.278kgを投入し、オートクレーブ内を十分に真空窒素置換した。その後、オートクレーブ内を真空脱気し、真空状態となったオートクレーブ内にHFP40.25kgとPPVE0.52kg投入し、オートクレーブを30.0℃に加温した。続けて、オートクレーブの内部圧力が0.897MPaになるまでTFEを投入し、次に8質量%のジ(ω-ヒドロパーフルオロヘキサノイル)パーオキサイド溶液(以下DHPと略す)0.63kgをオートクレーブ内に投入して重合を開始した。重合開始時点のオートクレーブの内部圧力を0.897MPaに設定し、TFEを連続追加することで設定圧力を保つようにした。重合開始から1.5時間後にメタノール0.278kgを追加投入した。重合開始から2時間後、4時間後、にDHP0.63kgを追加投入するとともに内部圧力を0.001MPa下げ、6時間後に0.48kgを投入するとともに内部圧力を0.001MPa下げた。以降、反応が終了するまで2時間ごとにDHP0.13kgを追加投入し、その都度内部圧力を0.001MPa下げた。
【0122】
なお、PPVEはTFEの連続追加投入量が8.1kg、16.2kg、24.3kgに達した時点でそれぞれ0.17kg追加投入した。 また、TFEの追加投入量が6.0kg、18.1kgに達した時点でそれぞれ0.278kgのメタノールをオートクレーブ内に追加投入した。 そして、TFEの追加投入量が40.25kgに達したところで重合を終了させた。重合終了後、未反応のTFE及びHFPを放出し、湿潤粉体を得た。そしてこの湿潤粉体を純水で洗浄した後、150℃で10時間乾燥し、46.7kgの乾燥粉体を得た。
【0123】
得られた粉末を、スクリュー押出機(商品名:PCM46、池貝社製)により370℃にて溶融押出して、共重合体のペレットを得た。得られたペレットを用いて、上記した方法により各種物性を測定した。結果を表3に示す。
【0124】
比較例3
重合開始前に投入するメタノールの量を0.219kgに変更し、重合開始後に分割して追加投入するメタノールの量をそれぞれ0.219kgに変更し、重合開始前に投入するPPVEの量を0.50kgに変更し、重合開始後に分割して追加投入するPPVEの量をそれぞれ0.14kgに変更し、重合開始前後のオートクレーブ内部の設定圧力を0.921MPaに変更した以外は、比較例2と同様にして共重合体ペレットを得た。得られたペレットを用いて、上記した方法により各種物性を測定した。結果を表3に示す。
【0125】
比較例4
重合開始前に投入するメタノールの量を0.105kgに変更し、重合開始後に分割して追加投入するメタノールの量をそれぞれ0.105kgに変更し、重合開始前に投入するPPVEの量を0.52kgに変更し、重合開始後に分割して追加投入するPPVEの量をそれぞれ0.14kgに変更し、重合開始前後のオートクレーブ内部の設定圧力を0.928MPaに変更した以外は、比較例2と同様にして共重合体ペレットを得た。得られたペレットを用いて、上記した方法により各種物性を測定した。結果を表3に示す。
【0126】
比較例5
容積174Lの攪拌機付きオートクレーブに脱イオン水40.25kgとメタノール0.311kgを投入し、オートクレーブ内を十分に真空窒素置換した。その後、オートクレーブ内を真空脱気し、真空状態となったオートクレーブ内にHFP40.25kgを投入し、オートクレーブを30.0℃に加温した。続けて、オートクレーブの内部圧力が0.928MPaになるまでTFEを投入し、次に8質量%のジ(ω-ヒドロパーフルオロヘキサノイル)パーオキサイド溶液(以下DHPと略す)0.63kgをオートクレーブ内に投入して重合を開始した。重合開始時点のオートクレーブの内部圧力を0.928MPaに設定し、TFEを連続追加することで設定圧力を保つようにした。重合開始から1.5時間後にメタノール0.311kgを追加投入した。重合開始から2時間後、4時間後、にDHP0.63kgを追加投入するとともに内部圧力を0.001MPa下げ、6時間後に0.48kgを投入するとともに内部圧力を0.001MPa下げた。以降、反応が終了するまで2時間ごとにDHP0.13kgを追加投入し、その都度内部圧力を0.001MPa下げた。
【0127】
また、TFEの追加投入量が6.0kg、18.1kgに達した時点でそれぞれ0.311kgのメタノールをオートクレーブ内に追加投入した。 そして、TFEの追加投入量が40.25kgに達したところで重合を終了させた。重合終了後、未反応のTFE及びHFPを放出し、湿潤粉体を得た。そしてこの湿潤粉体を純水で洗浄した後、150℃で10時間乾燥し、45.2kgの乾燥粉体を得た。
【0128】
得られた粉末を、スクリュー押出機(商品名:PCM46、池貝社製)により370℃にて溶融押出して、共重合体のペレットを得た。得られたペレットを用いて上記した方法によりHFP含有量とPPVE含有量を測定した。結果を表3に示す。
【0129】
比較例6
重合開始前に投入するメタノールの量を0.126kgに変更し、重合開始後に分割して追加投入するメタノールの量をそれぞれ0.126kgに変更し、重合開始前に投入するPPVEの量を1.02kgに変更し、重合開始後に分割して追加投入するPPVEの量をそれぞれ0.29kgに変更し、重合開始前後のオートクレーブ内部の設定圧力を0.926MPaに変更した以外は、比較例2と同様にして共重合体ペレットを得た。得られたペレットを用いて、上記した方法により各種物性を測定した。結果を表3に示す。
【0130】
実施例1
重合開始前に投入するメタノールの量を0.272kgに変更し、重合開始後に分割して追加投入するメタノールの量をそれぞれ0.272kgに変更し、重合開始前に投入するPPVEの量を0.54kgに変更し、重合開始後に分割して追加投入するPPVEの量をそれぞれ0.14kgに変更し、重合開始前後のオートクレーブ内部の設定圧力を0.940MPaに変更した以外は、比較例2と同様にして共重合体ペレットを得た。得られたペレットを用いて、上記した方法により各種物性を測定した。結果を表3に示す。
【0131】
実施例2
重合開始前に投入するメタノールの量を0.245kgに変更し、重合開始後に分割して追加投入するメタノールの量をそれぞれ0.245kgに変更し、重合開始前に投入するPPVEの量を0.45kgに変更し、重合開始後に分割して追加投入するPPVEの量をそれぞれ0.12kgに変更し、重合開始前後のオートクレーブ内部の設定圧力を0.933MPaに変更した以外は、比較例2と同様にして共重合体ペレットを得た。得られたペレットを用いて、上記した方法により各種物性を測定した。結果を表3に示す。
【0132】
実施例3
重合開始前に投入するメタノールの量を0.220kgに変更し、重合開始後に分割して追加投入するメタノールの量をそれぞれ0.220kgに変更し、重合開始前に投入するPPVEの量を0.31kgに変更し、重合開始後に分割して追加投入するPPVEの量をそれぞれ0.09kgに変更し、重合開始前後のオートクレーブ内部の設定圧力を0.926MPaに変更した以外は、比較例2と同様にして共重合体ペレットを得た。得られたペレットを用いて、上記した方法により各種物性を測定した。結果を表3に示す。
【0133】
実施例4
重合開始前に投入するメタノールの量を0.182kgに変更し、重合開始後に分割して追加投入するメタノールの量をそれぞれ0.182kgに変更し、重合開始前に投入するPPVEの量を0.32kgに変更し、重合開始後に分割して追加投入するPPVEの量をそれぞれ0.09kgに変更し、重合開始前後のオートクレーブ内部の設定圧力を0.930MPaに変更した以外は、比較例2と同様にして共重合体ペレットを得た。得られたペレットを用いて上記した方法によりHFP含有量とPPVE含有量を測定した。結果を表3に示す。
【0134】
得られたペレットを、電気炉にて200℃で8時間脱気した後、真空振動式反応装置VVD-30(大川原製作所社製)に入れ、200℃に昇温した。真空引き後、Nガスで20体積%に希釈したFガスを大気圧まで導入した。Fガス導入時から0.5時間後、いったん真空引きし、再度Fガスを導入した。さらにその0.5時間後、再度真空引きし、再度Fガスを導入した。以降、上記Fガス導入及び真空引きの操作を1時間に1回行い続け、200℃の温度下で8時間反応を行った。反応終了後、反応器内をNガスに十分に置換して、フッ素化反応を終了し、ペレットを得た。得られたペレットを用いて、上記した方法により各種物性を測定した。結果を表3に示す。
【0135】
【表3】
【0136】
表3中の「その他(個/C10)」との記載は、-COOCH、-CF=CFおよび-CONHの合計数を表す。表3中の「<9」との記載は、-CFH基の数(合計数)が9個未満であること意味する。表3中の「<6」との記載は、対象の官能基の数(合計数)が6個未満であることを意味する。表3中の「ND」との記載は、対象の官能基について、定量できる程度のピークを確認できなかったことを意味する。
【0137】
次に得られたペレットを用いて、下記の特性を評価した。結果を表4に示す。
【0138】
(摩耗試験)
ペレットおよびヒートプレス成形機を用いて、厚さ約0.2mmのシート状試験片を作製し、これから10cm×10cmの試験片を切り出した。テーバー摩耗試験機(No.101 特型テーバー式アブレーションテスター、安田精機製作所社製)の試験台に作製した試験片を固定し、試験片表面温度115℃、荷重500g、摩耗輪CS-10(研磨紙#240で20回転研磨したもの)、回転速度60rpmの条件で、テーバー摩耗試験機を用いて摩耗試験を行った。1000回転後の試験片重量を計量し、同じ試験片でさらに3400回転試験後に試験片重量を計量した。次式により、摩耗量を求めた。
摩耗量(mg)=M1-M2
M1:1000回転後の試験片重量(mg)
M2:3400回転後の試験片重量(mg)
【0139】
(THF透過度)
ペレットおよびヒートプレス成形機を用いて、厚さ約0.2mmのシート状試験片を作製した。試験カップ(透過面積12.56cm)内にTHFを10g入れ、シート状試験片で覆い、PTFEガスケットを挟んで締め付け、密閉した。シート状試験片とテトラヒドロフラン(THF)が接するようにして、温度60℃で35日間保持した後取出し、室温で1時間放置後に質量減少量を測定した。次式により、THF透過度(mg・cm/m・day)を求めた。
THF透過度(mg・cm/m・day)=[質量減少量(mg)×シート状試験片の厚さ(cm)]/[透過面積(m)・日数(day)]
【0140】
(引張クリープ試験)
日立ハイテクサイエンス社製TMA-7100を用いて引張クリープ歪を測定した。ペレットおよびヒートプレス成形機を用いて、厚さ約0.1mmのシートを作製し、シートから幅2mm、長さ22mmのサンプルを作製した。サンプルを治具間距離10mmで測定治具に装着した。サンプルに対して、断面荷重が3.52N/mmになるように荷重を負荷し、135℃に放置し、試験開始後70分の時点から試験開始後525分の時点までのサンプルの長さの変位(mm)を測定し、初期のサンプル長(10mm)に対する長さの変位(mm)の割合(引張クリープ歪(%))を算出した。135℃、525分間の条件で測定する引張クリープ歪(%)が小さいシートは、非常に高温の環境中で引張荷重が負荷されても伸びにくく、高温耐引張クリープ特性に優れている。
【0141】
(15万回サイクル後引張強度)
島津製作所社製疲労試験機MMT-250NV-10を用いて15万回サイクル後引張強度を測定した。ペレットおよびヒートプレス成形機を用いて、厚さ約2.4mmのシートを作製し、ASTM D1708マイクロダンベル用いて、ダンベル形状(厚み2.4mm、幅5.0mm、測定部長さ22mm)のサンプルを作製した。サンプルを測定治具に装着し、サンプルを装着した状態で測定治具を140℃の恒温槽中に設置した。ストローク0.2mm、周波数100Hzで、一軸方向への引張りを繰り返し、引張り毎の引張強度(ストロークが+0.2mmの時の引張強度、単位:N)を測定した。
【0142】
15万回サイクル後引張強度が高いシートは、荷重を15万回負荷した後でも高い引張強度を維持しており、繰り返し荷重に対する耐久性(140℃)に優れている。
【0143】
(80℃荷重たわみ率)
ペレットおよびヒートプレス成形機を用いて、厚さ約2.9mmのシート状試験片を作製し、これから80×10mmの試験片を切り出し、電気炉にて100℃で20時間加熱した。得られた試験片を用いた以外は、JIS K-K 7191-1に記載の方法に準じて、ヒートディストーションテスター(安田精機製作所社製)にて、試験温度30~150℃、昇温速度120℃/時間、曲げ応力1.8MPa、フラットワイズ法の条件にて試験を行った。次式により荷重たわみ率を求めた。80℃での荷重たわみ率が小さいシートは、高温時剛性に優れている。
荷重たわみ率(%)=a2/a1×100
a1:試験前の試験片厚み(mm)
a2:80℃でのたわみ量(mm)
【0144】
(耐クリープ性評価)
耐クリープ性の測定は、ASTM D395またはJIS K6262:2013に記載の方法に準じた。ペレットおよびヒートプレス成形機を用いて、外径13mm、高さ8mmの成形体を作製した。得られた成形体を切削することにより、外径13mm、高さ6mmの試験片を作製した。作製した試験片を、圧縮装置を用いて、常温で圧縮変形率25%まで圧縮した。圧縮した試験片を圧縮装置に固定したまま、電気炉内に静置し、45℃、72時間放置した。電気炉から圧縮装置を取り出し、室温まで冷却後、試験片を取り外した。回収した試験片を室温で30分放置した後、回収した試験片の高さを測定し、次式により復元割合を求めた。
復元割合(%)=(t-t)/t×100
:スペーサーの高さ(mm)
:圧縮装置から取り外した試験片の高さ(mm)
:圧縮変形させた高さ(mm)
上記の試験においては、t=4.5mm、t=1.5mmである。
【0145】
(薬液浸漬クラック試験(薬剤浸漬クラック試験))
ペレットおよびヒートプレス成形機を用いて、厚み約2mmの成形体を作製した。13.5mm×38mmの長方形ダンベルを用いて、得られたシートを打ち抜くことにより、3個の試験片を得た。得られた各試験片の長辺の中心に、ASTM D1693に準じて、19mm×0.45mmの刃でノッチを入れた。100mLポリプロピレン製ボトルに、ノッチ試験片3個と85%リン酸水溶液25gを入れ、電気炉にて120℃で20時間加熱後、ノッチ試験片を取り出した。得られたノッチ試験片3個をASTM D1693に準じた応力亀裂試験治具に取り付け、電気炉にて120℃で24時間加熱した後、ノッチおよびその周辺を目視で観察し、亀裂の数を数えた。亀裂が生じないシートは、耐ソルベントクラック性が優れている。
○:亀裂の数が0個である
×:亀裂の数が1個以上である
【0146】
(射出成形性)
・条件
射出成形機(住友重機械工業社製、SE50EV-A)を使用し、シリンダ温度を385℃、金型温度を180℃、射出速度3mm/sとして、含フッ素共重合体を射出成形した。金型として、HPM38にCrめっきを施した金型(100mm×100mm×3mmt、フィルムゲート、ゲートからの流動長100mm)を用いた。得られた射出成形体を観察し、以下の基準により評価した。白濁の有無は、目視により確認した。表面の荒れの有無は、射出成形体の表面を触ることにより、確認した。
3:射出成形体全体が透明であり、かつ、表面全体が平滑である
2:金型のゲートが位置していた箇所から1cmの範囲内に白濁が観察され、かつ、表面全体が平滑である
1:金型のゲートが位置していた箇所から1cmの範囲内に白濁が観察され、かつ、金型のゲートが位置していた箇所から1cmの範囲内の表面に荒れが確認される
0:金型全体に共重合体が充填されず、所望の形状の成形体が得られない
【0147】
(110℃引張伸び)
ペレットおよびヒートプレス成形機を用いて、2.0mm厚の試験片(圧縮成形)を得た。上記試験片から、ASTM V型ダンベルを用いてダンベル状試験片を切り抜き、得られたダンベル状試験片を用いて、オートグラフ(島津製作所社製 AG―I 300kN)を使用して、ASTM D638に準じて、50mm/分の条件下で、110℃で引張伸びを測定した。
【0148】
(電線被覆成形)
30mmφ電線被覆成形機(田辺プラスチック機械社製)により、導体径1.00mmの導体上に、下記被覆厚みで押出被覆し、被覆電線を得た。電線被覆押出成形条件は以下の通りである。
a)心導体:軟鋼線導体径1.00mm
b)被覆厚み:0.70mm
c)被覆電線径:2.40mm
d)電線引取速度:3m/分)
e)押出条件:
・シリンダー軸径=30mm,L/D=22の単軸押出成形機
・ダイ(内径)/チップ(外形)=24.0mm/10.0mm
押出機の設定温度:バレル部C-1(340℃)、バレル部C-2(375℃)、バレル部C-3(390℃)、ヘッド部H(400℃)、ダイ部D-1(400℃)、ダイ部D-2(400℃)。心線予備加熱は80℃に設定した。
問題なく被覆電線が作製されたことを目視で確認した。
【0149】
(フィルム成形)
φ14mm押出機(井元製作所製)にて、Tダイを用い、フィルムを作製した。押出成形条件は以下の通りである。
a)巻き取り速度:1m/分
b)ロール温度:120℃
c)フィルム幅:70mm
d)厚み:0.10mm
e)押出条件:
・シリンダー軸径=14mm,L/D=20の単軸押出成形機
押出機の設定温度:バレル部C-1(330℃)、バレル部C-2(350℃)、バレル部C-3(365℃)、Tダイ部(370℃)
問題なくフィルムが作製されたことを目視で確認した。
【0150】
(チューブ成形)
φ30mm押出機(田辺プラスチックス機械製)にて、外径10.0mm、肉厚1.0mmのチューブを押出成形した。押出成形条件は以下の通りである。
a)ダイ内径:25mm
b)マンドレル外径:13mm
c)サイジングダイ内径:10.5mm
d)引取り速度:0.4m/分
e)外径:10.0mm
f)肉厚:1.0mm
g)押出条件:
・シリンダー軸径=30mm,L/D=22の単軸押出成形機
押出機の設定温度:バレル部C-1(350℃)、バレル部C-2(370℃)、バレル部C-3(380℃)、ヘッド部H-1(390℃)、ダイ部D-1(390℃)、ダイ部D-2(390℃)
問題なくチューブが作製されたことを目視で確認した。
【0151】
【表4】