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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20231213BHJP
   H01M 8/04537 20160101ALI20231213BHJP
   H01M 8/043 20160101ALI20231213BHJP
   H01M 8/04858 20160101ALI20231213BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20231213BHJP
   B60L 50/75 20190101ALI20231213BHJP
   B60L 58/30 20190101ALI20231213BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20231213BHJP
【FI】
H01M8/04 Z
H01M8/04537
H01M8/043
H01M8/04858
H01M8/00 A
B60L50/75
B60L58/30
H01M8/10 101
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020044866
(22)【出願日】2020-03-16
(65)【公開番号】P2021150005
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174366
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 史郎
(72)【発明者】
【氏名】水下 佳紀
(72)【発明者】
【氏名】竹井 力
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 哲也
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-527943(JP,A)
【文献】特開2010-040426(JP,A)
【文献】特開2004-146209(JP,A)
【文献】特開2012-138176(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0020491(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00- 3/12
7/00-13/00
15/00-58/40
H01M 8/04- 8/0668
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を用いて発電する複数のセルを含む燃料電池を有する燃料電池システムであって、
前記複数のセルのうち少なくともひとつのセルを稼働させる稼働装置と、
前記複数のセルのうち少なくともひとつのセルに、被毒状態を正常な状態に回復させる回復処理を実行する回復処理装置と、
前記複数のセルのうち前記回復処理の実行が必要なセルである要回復セルを選択する要回復セル選択部と、
前記複数のセルのうち前記要回復セル以外のセルの少なくともひとつのセルである稼働セルを選択する稼働セル選択部と、
前記回復処理装置を制御して前記要回復セルに前記回復処理を実行する回復処理制御部と、
前記稼働装置を制御して前記稼働セルを稼働させる稼働制御部と、
を備える燃料電池システム。
【請求項2】
前記複数のセルそれぞれの電圧値を検出する電圧検出部を備え、
前記要回復セル選択部は、前記複数のセルのうち前記電圧検出部によって検出される前記電圧値が所定値以下のセルを前記要回復セルとして選択する、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記複数のセルそれぞれの前記回復処理を最後にした時を記憶する記憶部を備え、
前記要回復セル選択部は、前記複数のセルのうち前記記憶部に記憶される前記回復処理を最後にした時から一定時間経過したセルを前記要回復セルとして選択する、請求項1または2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記回復処理制御部は、前記回復処理を開始してから所定時間が経過すると該回復処理を終了する、請求項1~3のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記複数のセルのそれぞれの電圧値を検出する電圧検出部を備え、
前記回復処理制御部は、前記電圧検出部によって検出される前記電圧値に応じて前記所定時間を変更する、請求項4に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記稼働セル選択部は、前記要回復セルのうち少なくともひとつのセルを前記稼働セルによって挟むよう該稼働セルを選択する、請求項1~5のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記燃料電池によって発電される電力を蓄電するバッテリを備え、
前記燃料電池システムは、前記バッテリを介して電力を出力する、請求項1~6のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池システムに係り、特に被毒したセルの特性を回復させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
所謂燃料電池自動車(以下、FCV(Fuel Cell Vehicle)ともいう)は、水素タンクに貯留した水素とFCVの外部から取り込んだ空気中に含まれる酸素を用いて、燃料電池内の電極触媒の発電反応により走行する。この燃料電池には、空気の反応が起こる空気極及び水素の反応が起こる水素極を有している。また、いずれの電極も、電極触媒として主にPtが用いられている。そのため、空気極では取り込んだ空気中に含有される硫黄不純物により、水素極では燃料とする水素ガス製造時に混入される硫黄不純物またはFCの部材の分解により発生する硫黄不純物により被毒する虞がある。
【0003】
このように硫黄不純物によって電極触媒が被毒すると、電極触媒の発電性能が低下するという問題がある。特に、温泉地や交通量の多い交差点付近やトンネル内では、空気中に含有される硫黄不純物の割合が比較的高いため、電極触媒の被毒が顕著である。
そこで、硫黄不純物によって被毒した電極触媒の硫黄を除去する(特性回復処理)方法として、電極触媒を高電位状態(約0.9V)にする事により酸化させて除去する技術が開発されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-40426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示される技術では、電極触媒を高電位状態にするために燃料電池の出力を停止する必要がある。すなわち、燃料電池の出力を停止するとFCVの駆動力等の出力が大きく低下するため、FCVが走行中である場合には、被毒した電極触媒の硫黄を除去できないという問題がある。
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、特性回復処理を実行しつつ車両の走行性能の低下を抑制できる燃料電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明の燃料電池システムは、燃料を用いて発電する複数のセルを含む燃料電池を有する燃料電池システムであって、前記複数のセルのうち少なくともひとつのセルを稼働させる稼働装置と、前記複数のセルのうち少なくともひとつのセルに、被毒状態を正常な状態に回復させる特性回復処理を実行する回復処理装置と、前記複数のセルのうち前記特性回復処理の実行が必要なセルである要回復セルを選択する要回復セル選択部と、前記複数のセルのうち前記要回復セル以外のセルの少なくともひとつのセルである稼働セルを選択する稼働セル選択部と、前記回復処理装置を制御して前記要回復セルに前記特性回復処理を実行する回復処理制御部と、前記稼働装置を制御して前記稼働セルを稼働させる稼働制御部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
これにより、燃料電池の複数のセルのうち、要回復セル選択部により設定した要回復セルに特性回復処理を実行しつつ、稼働セル選択部により設定した稼働セルを稼働することで、燃料電池による発電を停止することなく、要回復セルの被毒状態を回復させることが可能とされる。
その他の態様として、前記複数のセルそれぞれの電圧値を検出する電圧検出部を備え、前記要回復セル選択部は、前記複数のセルのうち前記電圧検出部によって検出される前記電圧値が所定値以下のセルを前記要回復セルとして選択するのが好ましい。
【0008】
これにより、複数のセルのうち電圧検出部によって検出される電圧値が所定値以下のセルの特性回復処理を実行することで、被毒状態となることで電圧が低下したセルについて特性回復処理を実行可能とされる。
その他の態様として、前記複数のセルそれぞれの前記特性回復処理を最後にした時を記憶する記憶部を備え、前記要回復セル選択部は、前記複数のセルのうち前記記憶部に記憶される前記特性回復処理を最後にした時から一定時間経過したセルを前記要回復セルとして選択するのが好ましい。
【0009】
これにより、複数のセルのうち記憶部に記憶される特性回復処理を最後にした時から一定時間経過したセルの特性回復処理を実行することで、経時的に被毒したセルの被毒を定期的に回復させることが可能とされる。
その他の態様として、前記回復処理制御部は、前記特性回復処理を開始してから所定時間が経過すると該特性回復処理を終了するのが好ましい。
【0010】
これにより、特性回復処理を開始してから所定時間が経過すると特性回復処理を終了することで、簡単な構成にして特性回復処理の終了時期を設定可能とされる。
その他の態様として、前記複数のセルのそれぞれの電圧値を検出する電圧検出部を備え、前記回復処理制御部は、前記電圧検出部によって検出される前記電圧値に応じて前記所定時間を変更するのが好ましい。
【0011】
これにより、電圧検出部によって検出される電圧値に応じて回復処理装置による特性回復処理をする時間を変更することで、電圧が低下した度合から被毒の度合を推定し、必要充分な特性回復処理を可能とされる。
その他の態様として、前記稼働セル選択部は、前記要回復セルのうち少なくともひとつのセルを前記稼働セルによって挟むよう該稼働セルを選択するのが好ましい。
【0012】
これにより、要回復セルのうち少なくともひとつのセルを稼働セルによって挟むよう該稼働セルを選択することで、例えば稼働セルで発生する熱を利用して要回復セルを温めることや要回復セルで発生する熱を利用して稼働セルを温めることが可能とされる。
その他の態様として、前記燃料電池によって発電される電力を蓄電するバッテリを備え、前記燃料電池システムは、前記バッテリを介して電力を出力するのが好ましい。
【0013】
これにより、燃料電池システムに備えられるバッテリを介して電力を出力することで、特性回復処理を実行することにより、一時的に燃料電池の出力が低下した場合であっても、バッテリに蓄電された電力を出力可能とされる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の燃料電池システムによれば、燃料電池の複数のセルのうち、要回復セル選択部により設定した要回復セルに特性回復処理を実行しつつ、稼働セル選択部により設定した稼働セルを稼働したので、燃料電池による発電を停止することなく、要回復セルの被毒状態を回復させることができる。すなわち、特性回復処理を実行しつつ車両の走行性能の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】車両の概略構成図である。
図2】燃料電池の構成図である。
図3】本発明に係る燃料電池システムの制御に係るECUの接続構成が示されたブロック図である。
図4】ECUが実行する、本発明に係る燃料電池システムの制御手順のルーチンを示すフローチャートである。
図5】要回復セル設定部が実行する、要回復セル設定制御の制御手順のルーチンを示すフローチャートである。
図6】稼働セル設定部が実行する、稼働セル設定制御の制御手順のルーチンを示すフローチャートである。
図7】回復処理制御部が実行する、回復処理制御の制御手順のルーチンを示すフローチャートである。
図8】本発明に係る燃料電池システムの制御による、電圧センサが検出する各セルの電圧の変化及びSOCセンサが検出するバッテリのSOCの変化の一例が示されたグラフを縦に並べた図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づき本発明の一実施形態について説明する。
図1を参照すると、車両1の概略構成図が示されている。車両1には、駆動輪3、従動輪5、モータ7、減速機9、駆動軸11及び燃料電池システム13が搭載されている。この車両1は、燃料電池システム13から電力の供給を受けたモータ7が減速機9を介して駆動軸11を回転させることで、駆動輪3を駆動して走行可能である。
【0017】
すなわち、車両1は、水素燃料及び車両1外部の空気中に含まれる酸素から電気エネルギを生成する所謂FCVである。また、車両1は、バッテリ31に蓄電した電力でモータ7を駆動して走行可能な所謂ハイブリット車でもある。
燃料電池システム13は、燃料電池21、水素タンク23、コンプレッサ25、バッテリ31及びインバータ33を備えている。燃料電池21は、水素(燃料)と酸素とを結合させて水を生成する際に電気エネルギを生成(発電)可能な水素燃料電池である。なお、燃料電池21の詳細な構成については後述する。
【0018】
水素タンク23は、水素を高圧下で貯蓄するタンクである。この水素タンク23に貯蓄されている水素は、水素供給経路23aを介して燃料電池21に供給される。また、燃料電池21で消費されなかった水素は、水素排出経路23bを介して再び水素タンク23に貯蓄される。コンプレッサ25は、車両1の外部から空気を吸引する吸引装置である。このコンプレッサ25によって吸引された空気は、空気供給経路25aを介して燃料電池21に供給される。
【0019】
これにより、燃料電池21は、水素タンク23に貯蓄されている水素と車両1の外部からコンプレッサ25によって吸引する空気内に含まれている酸素とを結合させることで発電できる。このように発電した燃料電池21は、発電する際に生成された水である水蒸気や空気中に含まれる酸素以外の物質を空気排出経路25bを介して車両1の外部に排出する。
【0020】
バッテリ31は、繰り返し充放電可能な、例えばリチウムイオン二次電池である。インバータ33は、電圧を昇圧または降圧することや、交流電流から直流電流または直流電流から交流電流に変換可能な変換装置である。このインバータ33は、モータ7、燃料電池21及びバッテリ31と通電可能に接続している。
これにより、インバータ33は、燃料電池21によって発電された直流電流の電力を昇圧または降圧してバッテリ31に蓄電することや、バッテリ31に蓄電された電力を三相交流電流に変換してモータ7に供給可能である。ゆえに、車両1は、燃料電池21によって発電した電力をバッテリ31に蓄電し、バッテリ31に蓄電された電力を用いてモータ7を駆動して走行できる。
【0021】
図2を参照すると、燃料電池21の構成図が示されている。燃料電池21には、第1セルC1、第2セルC2、第3セルC3及び第4セルC4(複数のセル)が一列に並べて配設されている。また、各セルは、アノード集電板44、第1カソード集電板45a、第2カソード集電板45b、第3カソード集電板45c及び第4カソード集電板45dによって仕切られている。
【0022】
第1セルC1は、アノードセパレータ41とカソードセパレータ42との間に膜電極接合体43を挟むようにして構成されている。アノードセパレータ41は、水素供給経路23aから供給される水素を膜電極接合体43の接触する面に均一に拡散させる多孔質材料である。カソードセパレータ42は、空気供給経路25aから供給される空気を膜電極接合体43の接触する面に均一に拡散させる多孔質材料である。
【0023】
膜電極接合体43は、高分子電解質膜43a、触媒層43b及びガス拡散層43cを含んでいる。高分子電解質膜43aは、例えばプロトン交換膜やアニオン交換膜等の固体高分子膜である。触媒層43bは、例えば多孔質の炭素膜に白金やパラジウムなどの貴金属の触媒を担持させて形成されている。この触媒層43bは、高分子電解質膜43aの両面に配設されている。ガス拡散層43cは、例えば導電性多孔質体やカーボン繊維で形成されており、水素や空気を拡散させることが可能である。このガス拡散層43cは、触媒層43bをさらに挟むように配設されている。
【0024】
これにより、第1セルC1は、アノードセパレータ41に供給された水素をガス拡散層43cにて拡散させて均一に触媒層43b及び高分子電解質膜43aに供給し、カソードセパレータ42に供給された空気をガス拡散層43cにて拡散させて均一に触媒層43b及び高分子電解質膜43aに供給し、高分子電解質膜43a及び触媒層43bにて水素イオンと酸素イオンとを結合させて水を生成し、水蒸気として空気排出経路25bから排出する。
【0025】
このとき、水素を水素イオンに分解する際に発生する電子は、アノード集電板44及びアノード側に延びるアノード電線41Lを介してアノード側に移動し、カソードセパレータ42内の酸素を酸素イオンに分解するために必要な電子は、第1カソード集電板45a及びカソード側に延びるカソード電線42Lを介してカソード側から供給される。これにより、膜電極接合体43のアノード側から水素イオンが供給され、カソード側から酸素イオンが供給されて水素と酸素とを結合させることができる。また、このように第1セルC1内で水素と酸素とを結合させて水を生成することで、電子の移動が発生して発電できる。なお、第2セルC2、第3セルC3及び第4セルC4も同様の構成であるため、説明を省略する。
【0026】
第1セルC1のアノードセパレータ41には、水素供給経路23aから供給される水素の量を調整及び閉弁可能な第1水素供給弁51aが設けられている。また、アノードセパレータ41には、水素排出経路23bに排出される水素の量を調整及び閉弁可能な第1水素排出弁51bが設けられている。同様に、第1セルC1のカソードセパレータ42には、空気供給経路25aから供給される空気の量を調整及び閉弁可能な第1空気供給弁51cが設けられている。
【0027】
また、カソードセパレータ42には、空気排出経路25bに排出される空気の量を調整及び閉弁可能な第1空気排出弁51dが設けられている。また、これら第1水素供給弁51a、第1水素排出弁51b、第1空気供給弁51c及び第1空気排出弁51dは、図示はしないが、後述するECU80と電気的に接続しており、それぞれの開閉を制御できる。
【0028】
この第1水素供給弁51a、第1水素排出弁51b、第1空気供給弁51c及び第1空気排出弁51dをそれぞれ制御することで、アノードセパレータ41及びカソードセパレータ42の水素及び空気の流量を調整できる。このようにアノードセパレータ41及びカソードセパレータ42の水素及び空気の流量を調整することで、水素及び空気の流量を増加させて第1セルC1における発電を促進することや、アノードセパレータ41に水素を供給することを停止してアノードセパレータ41内の水素を消費できる。
【0029】
なお、第2セルC2、第3セルC3及び第4セルC4にも同様に第2水素供給弁52a、第2水素排出弁52b、第2空気供給弁52c及び第2空気排出弁52d、第3水素供給弁53a、第3水素排出弁53b、第3空気供給弁53c及び第3空気排出弁53d並びに第4水素供給弁54a、第4水素排出弁54b、第4空気供給弁54c及び第4空気排出弁54dが設けられており、同様の構成であるため、ここでの説明は省略する。また、説明の便宜上、上記供給弁51a、51c、52a、52c、53a、53c、54a、54c、及び上記排出弁51b、51d、52b、52d、53b、53d、54b、54dを総じて制御弁50ともいう。
【0030】
第1セルC1と第2セルC2とを仕切る第1カソード集電板45aは、第1カソードスイッチ61を介してカソード電線42Lに接続している。第1カソードスイッチ61は、通電(ON)または絶縁(OFF)に切り替えることが可能なスイッチである。換言すると、第1カソードスイッチ61は、ONにすることで第1セルC1の電位を下げるとともにカソード電線42Lに放電でき、OFFにすることで、第1セルC1の電位が下がることを抑制できる。
【0031】
この第1カソードスイッチ61は、後述するECU80と電気的に接続しており、制御できる。なお、第2カソード集電板45b、第3カソード集電板45c及び第4カソード集電板45dからカソード電線42Lに接続する第2カソードスイッチ62、第3カソードスイッチ63及び第4カソードスイッチ64についても同様の構成であるため、説明を省略する。また、説明の便宜上、第1カソードスイッチ61、第2カソードスイッチ62、第3カソードスイッチ63及び第4カソードスイッチ64を総じてカソード出力スイッチ60ともいう。
【0032】
アノード集電板44は、第1スイッチ61と同様の第1アノードスイッチ66を介してアノード電線41Lに接続している。第1アノードスイッチ66は、通電(ON)または絶縁(OFF)に切り替えることが可能なスイッチである。換言すると、第1アノードスイッチ66は、ONにすることで第1セルC1の電位を下げるとともにアノード電線41Lに放電でき、OFFにすることで、第1セルC1の電位が下がることを抑制できる。
【0033】
この第1アノードスイッチ66は、後述するECU80と電気的に接続しており、制御できる。なお、第1カソード集電板45a、第2カソード集電板45b及び第3カソード集電板45cからアノード電線41Lに接続する第2アノードスイッチ67、第3アノードスイッチ68及び第4アノードスイッチ69についても同様の構成であるため、説明を省略する。また、説明の便宜上、第1アノードスイッチ66、第2アノードスイッチ67、第3アノードスイッチ68及び第4アノードスイッチ69を総じてアノード出力スイッチ65ともいう。
【0034】
このように、燃料電池21は、アノード集電板44、第1カソード集電板45a、第2カソード集電板45b、第3カソード集電板45c及び第4カソード集電板45dにカソード出力スイッチ60及びアノード出力スイッチ65が配設されることにより、例えば第1カソードスイッチ61及び第1アノードスイッチ66をONにし、その他のカソード出力スイッチ60及びアノード出力スイッチ65をOFFにするようにして、稼働するセル(後述する稼働セルCd)を選択的に稼働させることができる。
【0035】
第1カソード集電板45aと第1スイッチ61との間には、第1電圧センサ71が配設されている。第1電圧センサ71は、第1カソード集電板45aからカソード電線42Lに通電する電流の電圧値を検出するセンサである。なお、第2カソード集電板45b、第3カソード集電板45c及び第4カソード集電板45dからカソード電線42Lに接続する第2電圧センサ72、第3電圧センサ73及び第4電圧センサ74についても同様の構成であるため、説明を省略する。また、説明の便宜上、第1電圧センサ71、第2電圧センサ72、第3電圧センサ73及び第4電圧センサ74を総じて電圧センサ(電圧検出部)70ともいう。
【0036】
図1に戻り、バッテリ31には、SOCセンサ75が配設されている。このSOCセンサ75は、バッテリ31の充電率であるSOC(State of Charge)を検出可能なセンサである。
図3を参照すると、本発明に係る燃料電池システム13の制御に係るECU80の接続構成がブロック図で示されている。
【0037】
ECU80は、燃料電池システム13の運転制御をはじめとして総合的な制御を行うための制御装置であり、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央処理装置(CPU)等を含んで構成されている。このECU80の入力側には、電圧センサ70及びSOCセンサ75が電気的に接続している。これにより、電圧センサ70からは各セルそれぞれの電圧値に関する情報が入力され、SOCセンサ75からはバッテリ31のSOCに関する情報が入力される。
【0038】
一方、ECU80の出力側には、制御弁50(後述する50D及び50C)、カソード出力スイッチ60(後述する60D及び60C)及びアノード出力スイッチ65(後述する65D及び65C)が電気的に接続している。これにより、制御弁50を制御することで、各セルの水素及び空気の供給や排出を制御でき、カソード出力スイッチ60及びアノード出力スイッチ65を制御することで、各セルからの放電を調整して各セルの電位をそれぞれ調整できる。
【0039】
また、ECU80には、要回復セル設定部(要回復セル選択部)81、稼働セル設定部(稼働セル選択部)82、計時部83、記憶部84、稼働制御部85及び回復処理制御部86が設けられている。要回復セル設定部81は、電圧センサ70から入力される各セルそれぞれの電圧値に関する情報に基づいて、後述する要回復セル設定制御を実行し、要回復セルCcを設定する設定部である。
【0040】
ここで、要回復セルCcとは、例えばセル内の膜電極接合体43における特に触媒層43b内に含まれる白金が、空気中に含まれる硫黄等と化合して硫化白金となり、発電性能が低下した状態(以下、硫黄被毒状態という。)のセルのことである。この硫黄被毒状態のセルは、発電性能が低下しているため、正常なセルと比較して電圧値が低いという特性を有している。
【0041】
稼働セル設定部82は、SOCセンサ75から入力されるバッテリ31のSOCに関する情報及び要回復セル設定部81によって設定される要回復セルCcに基づいて、後述する稼働セル設定制御を実行し、稼働セルCdを設定する設定部である。ここで、稼働セルCdとは、要回復セルCc以外のセルのうち少なくともひとつのセルのことであり、後述するように、単数の場合もあれば複数の場合もある。
【0042】
計時部83は、時間の経過を計時するタイマである。記憶部84は、ECU80内の各種情報を記憶するメモリである。稼働制御部85は、稼働セル設定部82によって設定された稼働セルCdの制御弁(稼働装置)50D、カソード出力スイッチ(稼働装置)60D及びアノード出力スイッチ(稼働装置)65Dを制御する制御部である。回復処理制御部86は、要回復セル設定部81によって設定された要回復セルCcの制御弁(回復処理装置)50C、カソード出力スイッチ(回復処理装置)60C及びアノード出力スイッチ(回復処理装置)65Cを制御する制御部である。
【0043】
図4を参照すると、ECU80が実行する、本発明に係る燃料電池システム13の制御手順を示すルーチンがフローチャートで示されており、以下、同フローチャートに沿い説明する。まず、全体的な流れとして、ステップS10では、要回復セル設定部81により、要回復セル設定制御を実行することで、上記した要回復セルCcを設定する。その後、ステップS20では、稼働セル設定部82により、稼働セル設定制御を実行することで、上記した稼働セルCdを設定する。そして、ステップS30では、稼働セルCdの稼働をしつつ、要回復セルCcの硫黄被毒状態を回復させる回復処理制御(特性回復処理)を実行し、本ルーチンを繰り返し実行する。
【0044】
これにより、複数のセルのうち、要回復セルCcと稼働セルCdとをそれぞれ設定し、稼働セルCdの稼働をしつつ、要回復セルCcの硫黄被毒状態を回復させることで、燃料電池21による発電を停止することなく、要回復セルCcを硫黄被毒状態から回復させることができる。
図5を参照すると、要回復セル設定部81が実行する、要回復セル設定制御の制御手順を示すルーチンがフローチャートで示されている。ステップS11では、回復処理制御(ステップS30)によって硫黄被毒状態から回復してから一定時間経過したセルがあるか否かを判別する。ステップS11の判別結果が真(Yes)で硫黄被毒状態から回復してから一定時間経過したセルがあると判別した場合には、ステップS14に移行し、この一定時間経過したセル(該当するセル)を要回復セルCcとして設定したあと、ステップS16に以降する。ステップS16では、要回復セルCcの電圧値を記憶部84に記憶させて要回復セル設定制御を終了する。一方、ステップS11の判別結果が偽(No)で硫黄被毒状態から回復してから一定時間経過したセルがないと判別した場合には、ステップS12に移行する。
【0045】
ステップS12では、電圧センサ70から入力される各セルそれぞれの電圧値に関する情報に基づき、電圧値が所定値以下のセルがあるか否かを判別する。ステップS11の判別結果が偽(No)で電圧値が所定値以下のセルがないと判別した場合には、要回復セル設定制御及び燃料電池システム13の制御(図4のフロー)を終了する。一方、ステップS11の判別結果が真(Yes)で電圧値が所定値以下のセルがあると判別した場合には、ステップS15に移行し、最も電圧値が低いセルを要回復セルCcとして設定してステップS17に以降する。ステップS17では、要回復セルCcの電圧値を記憶部84に記憶させて要回復セル設定制御を終了する。
【0046】
このように、ステップS11~ステップS15では、硫黄被毒状態から回復してから一定時間経過し再び硫黄被毒状態にあると推定されるセルを要回復セルCcとして設定し(ステップS11でYes、ステップS14)、硫黄被毒状態から回復してから一定時間経過していない場合であっても(ステップS11でNo)電圧値が所定値以下であり硫黄被毒状態にあると推定されるセルを要回復セルCcとして設定できる(ステップS12でYes、ステップS15)。また、電圧値が所定値以下のセルがない場合は(ステップS12でNo)、硫黄被毒状態にあると推定されるセルがないと推定し、要回復セル設定制御及び燃料電池システム13の制御を終了する。
【0047】
これにより、ステップS10の要回復セル設定制御では、回復処理制御(ステップS30)によって硫黄被毒状態から回復させる必要があるセルを的確に推定し、要回復セルCcとして設定できる。
図4に戻り、ステップS10の要回復セル設定制御で要回復セルCcを設定すると、ステップS20に移行し、稼働セル設定制御を実行する。
【0048】
図6を参照すると、稼働セル設定部82が実行する、稼働セル設定制御の制御手順を示すルーチンがフローチャートで示されている。ステップS21では、SOCセンサ75から入力されるバッテリ31のSOCに関する情報に基づき、バッテリ31のSOCが一定値(例えば50%)以上か否かを判別する。ステップS21の判別結果が真(Yes)でバッテリ31のSOCが一定値以上であると判別するとステップS22に移行し、ステップS21の判別結果が偽(No)でバッテリ31のSOCが一定値未満であると判別するとステップS23に移行する。
【0049】
ステップS22では、要回復セルCcと近接する少なくともひとつのセルを稼働セルCdとして設定して稼働セル設定制御を終了する。ここで、要回復セルCcと近接する少なくともひとつのセルとは、図2によると、例えば要回復セルCcが第2セルC2である場合は、第1セルC1及び第3セルC3のことであり、要回復セルCcが第1セルC1である場合は、第2セルC2のことである。
【0050】
これにより、要回復セルCcと近接するセルを稼働させる際に発生する熱を利用して回復処理制御を良好に実行できる。なお、要回復セルCcが第2セルC2である場合であれば、第1セルC1または第3セルC3のいずれか一方のみを稼働セルCdとして設定してもよく、要回復セルCcが第1セルC1である場合であれば、第2セルC2及び第4セルC4を稼働セルCdとして設定してもよく、各セルの排熱性や車両1の運転手による要求トルクに応じて要回復セルCc以外のセルであればその他のセルを稼働セルCdとして適宜設定してもよい。
【0051】
一方、ステップS23では、要回復セルCc以外のセルすべてを稼働セルCdとして設定して稼働セル設定制御を終了する。これにより、要回復セルCcについて回復処理制御を実行する間の発電を要回復セルCc以外のすべてのセルで補うことができる。図4に戻り、ステップS20の稼働セル設定制御で稼働セルCdを設定したあと、ステップS30に移行し、回復処理制御を実行する。
【0052】
図7を参照すると、回復処理制御部86が実行する、回復処理制御の制御手順を示すルーチンがフローチャートで示されている。ステップS31では、要回復セルCcの制御弁50Cをすべて開弁(例えば要回復セルCcが第1セルC1であれば、第1水素供給弁51a、第1水素排出弁51b、第1空気供給弁51c及び第1空気排出弁51dを開弁)し、要回復セルCcのカソード出力スイッチ60C及びアノード出力スイッチ65CをOFF(例えば要回復セルCcが第1セルC1であれば、第1カソードスイッチ61及び第1アノードスイッチ65をOFF)にし、ステップS32に移行する。
【0053】
ここで、上記したように、カソード出力スイッチ60C及びアノード出力スイッチ65CをOFFにすると、要回復セルCcの電位が下がることを抑制できる。また、要回復セルCcの制御弁50Cをすべて開弁することで、水素及び空気の流量を増加させて要回復セルCcにおける発電を促進できる。これにより、ステップS31により、要回復セルCcの電位を高めることができる。
【0054】
ステップS32では、計時部83による計時に基づき、ステップS31により要回復セルCcの電位を高めることを開始してから設定時間A(所定時間)を経過したか否かを判別する。ここで、設定時間Aとは、要回復セル設定制御のステップS16またはステップS17で記憶部84に記憶した要回復セルCcの電圧値を基に、要回復セルの電圧値Ccが所定値より低ければ低いほど設定時間Aを長時間に設定し、要回復セルの電圧値が所定値より高ければ高いほど設定時間Aを短時間に設定する。ステップS32では、判別結果が偽(No)で設定時間Aを経過していないと判別する間はステップS32を繰り返し実行し、判別結果が真(Yes)で設定時間Aを経過したと判別すると、ステップS33に移行する。
【0055】
ステップS33では、要回復セルCcの制御弁50Cをすべて閉弁(例えば要回復セルCcが第1セルC1であれば、第1水素供給弁51a、第1水素排出弁51b、第1空気供給弁51c及び第1空気排出弁51dを閉弁)し、要回復セルCcのカソード出力スイッチ60C及びアノード出力スイッチ65CをON(例えば要回復セルCcが第1セルC1であれば、第1カソードスイッチ61及び第1アノードスイッチ65をON)にし、回復処理制御及び燃料電池システム13の制御を終了する。このように、制御弁50Cをすべて閉弁してカソード出力スイッチ60C及びアノード出力スイッチ65CをONにすることで、要回復セルCcの電位が高いまま放電して膜電極接合体43が劣化することを抑制できる。
【0056】
このように、回復処理制御では、ステップS31により要回復セルCcの電位を高めた状態を設定時間Aの間維持することで(ステップS32)、要回復セルCcを硫黄被毒状態から回復させることができる。また、要回復セルCcの電圧値を基に設定時間Aを設定することで、要回復セルCcの硫黄被毒の度合に応じて要回復セルCcの電位を高めた状態を維持する時間を長くできる。
【0057】
この回復処理制御を実行している間、稼働制御部85は、稼働セル設定部82により設定された稼働セルCdを適宜稼働させることで稼働セルCdによりバッテリ31の充電をできる。
図8を参照すると、本発明に係る燃料電池システム13の制御による、電圧センサ70が検出する各セルの電圧の変化及びSOCセンサ75が検出するバッテリ31のSOCの変化の一例がグラフを縦に並べた図が示されている。以下、主に図8に沿いつつ、本発明に係る燃料電池システム13の制御による作用効果を説明する。
【0058】
各セルは、上記したように、発電をするにつれて空気中の硫黄により白金が硫化し、発電性能が低下する。したがって、各セルは、稼働時間が長くなるにつれて電圧が低下する。第1時期T1のとき、第2電圧センサ72により、第2セルC2の電圧値が所定値(所定値以下)となることを検出する(図5のステップS12でYes)。このように、第2電圧センサ72を用いることで、第2セルC2が硫黄被毒状態であることを検出し、第2セルC2を要回復セルCcとして設定できる(ステップS15)。このように要回復セルCcとして設定された第2セルC2は、回復処理制御により硫黄被毒状態から回復する(ステップS31~S33)。
【0059】
また、第1時期T1のとき、バッテリ31のSOCが一定値未満であるため(図6ステップS21でNo)、稼働セル設定制御により、第2セルC2以外のセルである、第1セルC1、第3セルC3及び第4セルC4を稼働セルCdとして設定できる(ステップS23)。
ここで、第2セルC2は、回復処理制御のステップS31により第2スイッチ62がOFFであるため、放電できない(ステップS31)。一方で、第2セルC2以外のセルを稼働セルCdとすることにより、稼働制御部85が第1セルC1、第3セルC3及び第4セルC4を稼働させて発電し、バッテリ31に電力を供給できる。
【0060】
図8によると、第2セルC2は、回復処理制御により、第1時期T1から第2時期T2までの間(第2セル回復期間)、発電しない。このような第2セル回復期間に車両1が走行等することによりバッテリ31に蓄電された電力は消費される。一方で、稼働制御部85は、第1セルC1、第3セルC3及び第4セルC4を稼働させて発電し、バッテリ31に電力を供給することで、バッテリ31のSOCが低下することを抑制できる。
【0061】
これにより、車両1の走行性能の低下を抑制しつつ、第2セルC2の回復処理制御を実行できる。なお、第2セルC2の回復処理制御を一例として説明したが、第1セルC1、第3セルC3及び第4セルC4の回復処理制御を実行する場合も同様である。
第2セル回復期間の経過後、第3時期T3から第4時期T4までの間(第1セル回復期間)、第2セル回復期間と同様に、第1セルC1の回復処理制御を実行する。ここで、第1セル回復期間と第2セル回復期間との各制御の違いは、第1セル回復期間の始期である第3時期T3のとき、第1セルC1の電圧値が所定値より大きい点、第2セル回復期間と比較して第1セル回復期間が短い点及びバッテリ31のSOCが一定値以上である点にある。
【0062】
第3時期T1のとき、第1セルC1が硫黄被毒状態から回復してから一定時間経過したと判別し(図5のステップS11でYes)、第1セルC1を要回復セルCcとして設定し(ステップS14)、第1セルC1の電圧値を記憶部84に記憶させる(ステップS16)。このように、硫黄被毒状態から回復してから一定時間経過したセルを要回復セルCcと設定して(ステップS14)回復処理制御(ステップS30)を実行することで、いずれのセルも電圧値が所定値より大きい場合であっても、各セルに回復処理制御を定期的に実行できる(ステップS15)。
【0063】
また、第1セルC1の電圧値を記憶部84に記憶させ(ステップS16)、第1セルC1の電圧値が所定値より高ければ高いほど設定時間Aを短時間に設定することで(図7のステップS32)、回復処理制御に要する時間を低減する、換言すると、第2セル回復期間と比較して第1セル回復期間を短くできる。
さらに、稼働セル設定制御(ステップS20)の際、バッテリ31のSOCが一定値以上であることを判別し(ステップS21でYes)、第1セルC1と近接する第2セルC2及び任意のセルとして第3セルC3を稼働させることで、第2セルC2が発電する際に生じる熱を第1セルC1に伝達させて回復処理の効率を向上させることや、回復処理制御によって発熱する第1セルC1の熱を利用して第2セルC2を温めることができる。また、バッテリ31のSOCが一定値以上のときは、車両1が減速する際に発電する所謂回生ブレーキによってバッテリを発電することが考えられる。
【0064】
したがって、第4セルC4を休止させて第2セルC2及び第3セルC3のみ稼働するようにしてバッテリ31のSOCが低下することを抑制しつつ、バッテリ31が満充電になることを抑制できる。
第1セル回復期間の経過後、第5時期T5から第6時期T6までの間(第3セル回復期間)、第2セル回復期間と同様に、第3セルC3の回復処理制御を実行する。ここで、第1セル回復期間と第3セル回復期間との各制御の違いは、第3セル回復期間の始期である第5時期T5のとき、バッテリ31のSOCが一定値以上である点にある。
【0065】
第1セル回復期間の際の説明のように、稼働セル設定制御(ステップS20)の際、バッテリ31のSOCが一定値以上であることを判別し(ステップS21でYes)、第3セルC3と近接するセルを稼働させる。ここで、第3セルC3に隣接するセルは、第2セルC2及び第4セルC4である(図2参照)。したがって、第1セルC1を休止させて第2セルC2及び第4セルC4をさせることで、第2セルC2及び第4セルC4が発電する際に生じる熱を第3セルC3に伝達させて回復処理の効率を向上させることや、回復処理制御によって発熱する第3セルC3の熱を利用して第2セルC2及び第4セルC4を温めることができる。
【0066】
以上説明したように、本発明に係る燃料電池システム13では、水素を用いて発電する複数のセルC1~C4を含む燃料電池21を有する燃料電池システム13であって、複数のセルのうち少なくともひとつのセルを稼働させる稼働セルCdの制御弁50D及びカソード出力スイッチ60D及びアノード出力スイッチ65Dと、複数のセルのうち少なくともひとつのセルに、硫黄被毒状態を正常な状態に回復させる回復処理を実行する要回復セルCcの制御弁50C、カソード出力スイッチ60C及びアノード出力スイッチ65Cと、複数のセルのうち回復処理の実行が必要なセルである要回復セルCcを選択する要回復セル設定部81と、複数のセルのうち要回復セルCc以外のセルの少なくともひとつのセルである稼働セルCdを選択する稼働セル設定部82と、要回復セルCcの制御弁50Cを制御して要回復セルCcに回復処理を実行する回復処理制御部86と、稼働セルCdの制御弁50Dを制御して稼働セルCdを稼働させる稼働制御部85と、を備える。
【0067】
従って、燃料電池21の複数のセルのうち、要回復セル設定部81により設定した要回復セルCcに回復処理を実行しつつ、稼働セル設定部82により設定した稼働セルCdを稼働するようにしたので、燃料電池21による発電を停止することなく、要回復セルCcの硫黄被毒状態を回復させることができる。
そして、複数のセルそれぞれの電圧値を検出する電圧センサ70を備え、要回復セル設定部81は、複数のセルのうち電圧センサ70によって検出される電圧値が所定値以下のセルを要回復セルCcとして選択し、回復処理を実行するようにしたので、硫黄被毒状態となることで電圧が低下したセルについて回復処理を実行できる。
【0068】
そして、複数のセルそれぞれの回復処理を最後にした時を記憶する記憶部84を備え、要回復セル設定部81は、複数のセルのうち記憶部84に記憶される回復処理を最後にした時から一定時間経過したセルを要回復セルCcとして選択し、回復処理を実行するようにしたので、経時的に硫黄被毒したセルの硫黄被毒を定期的に回復させることができる。
そして、回復処理制御部86は、回復処理を開始してから設定時間Aが経過すると該回復処理を終了するようにしたので、簡単な構成にして回復処理の終了時期を設定できる。
【0069】
また、複数のセルのそれぞれの電圧値を検出する電圧センサ70を備え、回復処理制御部86は、電圧センサ70によって検出される電圧値に応じて設定時間Aを変更するようにしたので、電圧が低下した度合から硫黄被毒の度合を推定し、必要充分な回復処理をできる。
そして、稼働セル設定部82は、要回復セルCcのうち少なくともひとつのセルを稼働セルCdによって挟むよう該稼働セルCdを選択するようにしたので、例えば稼働セルCdで発生する熱を利用して要回復セルCcを温めることや要回復セルCcで発生する熱を利用して稼働セルCdを温めることができる。
【0070】
そして、燃料電池21によって発電される電力を蓄電するバッテリ31を備え、燃料電池システム13は、バッテリ31を介して電力を出力するようにしたので、回復処理を実行することにより、一時的に燃料電池21の出力が低下した場合であっても、バッテリ31に蓄電された電力を出力できる。
以上で本発明に係る燃料電池システムの説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0071】
例えば、本実施形態では、本発明に係る燃料電池システム13をFCVである車両1に搭載するようにしたが、鉄道車両や船舶、飛行体に使用するようにしてもよい。
また、本実施形態では、硫黄被毒したセルの特性回復について説明したが、一酸化炭素による被毒に対する特性回復であってもよく、セルの特性を回復させるために当該セルからの放電を停止させる場合に適用可能な技術である。
【0072】
また、本実施形態では、硫黄被毒の回復処理制御として、要回復セルCcの制御弁50Cをすべて開弁することで水素及び空気の流量を増加させて要回復セルCcにおける発電を促進して電位を高めるようにしたが(ステップS31)、例えばアノードセパレータ41に酸素を、カソードセパレータ42に水素をそれぞれ供給可能な回路を別途設け、先に要回復セルCcの制御弁50Cをすべて閉弁してアノードセパレータ41及びカソードセパレータ42内の水素及び酸素を消費したあと、アノードセパレータ41に酸素を、カソードセパレータ42に水素をそれぞれ供給してアノードセパレータ41及びカソードセパレータ42の特性を回復させるようにしてもよい。
【0073】
また、上記のように、先に要回復セルCcの制御弁50Cをすべて閉弁してアノードセパレータ41及びカソードセパレータ42内の水素及び酸素を消費してから、アノードセパレータ41に酸素を、カソードセパレータ42に水素をそれぞれ供給することで、逆電流が発生して膜電極接合体43の触媒層43bが劣化することを抑制できる。
また、本実施形態では、各フローを用いて制御態様を説明したが、これらフローの順番は一例であり、本発明を実施可能な程度に順番を入れ替えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0074】
1 車両
13 燃料電池システム
21 燃料電池
50C 要回復セルの制御弁(回復処理装置)
50D 稼働セルの制御弁(稼働装置)
60C 要回復セルのカソード出力スイッチ(回復処理装置)
60D 稼働セルのカソード出力スイッチ(稼働装置)
65C 要回復セルのアノード出力スイッチ(回復処理装置)
65D 稼働セルのアノード出力スイッチ(稼働装置)
70 電圧センサ(電圧検出部)
81 要回復セル設定部(要回復セル選択部)
82 稼働セル設定部(稼働セル選択部)
85 稼働制御部
86 回復処理制御部
Cc 要回復セル
Cd 稼働セル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8