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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】観察装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20231213BHJP
   G02B 21/14 20060101ALI20231213BHJP
   G02B 21/26 20060101ALI20231213BHJP
   G02B 21/34 20060101ALI20231213BHJP
   C12M 3/00 20060101ALN20231213BHJP
   C12M 1/00 20060101ALN20231213BHJP
【FI】
C12M1/34 B
G02B21/14
G02B21/26
G02B21/34
C12M3/00 A
C12M1/00 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020529047
(86)(22)【出願日】2019-07-04
(86)【国際出願番号】 JP2019026633
(87)【国際公開番号】W WO2020009186
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2022-07-01
(31)【優先権主張番号】P 2018129146
(32)【優先日】2018-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】307014555
【氏名又は名称】北海道公立大学法人 札幌医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117101
【弁理士】
【氏名又は名称】西木 信夫
(74)【代理人】
【識別番号】100120318
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 朋浩
(72)【発明者】
【氏名】本望 修
(72)【発明者】
【氏名】吉川 義洋
(72)【発明者】
【氏名】舘山 大揮
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏輔
(72)【発明者】
【氏名】舘山 航星
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-174764(JP,A)
【文献】国際公開第2016/185619(WO,A1)
【文献】特開2004-348104(JP,A)
【文献】特開平08-194160(JP,A)
【文献】特開2011-059205(JP,A)
【文献】特開2014-167587(JP,A)
【文献】特開2000-295462(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
G02B 19/00-21/00
G02B 21/06-21/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明光源、上記照明光源からの照明光を生物細胞である観察対象物に出射する照明光学系、上記照明光が上記観察対象物を通過して反射された反射光から上記観察対象物の光学像を形成する観察光学系を備え、上記観察光学系は、上記反射光のうち、反射面で反射された直接反射光の位相を変更する位相板を備え、上記照明光学系及び上記観察光学系の双方が上記観察対象物の下方に配置されている落式位相差顕微鏡と、
上記観察光学系によって得られた上記光学像を光電変換して、上記観察対象物の画像データを作成する撮像素子と、
上記画像データを表示する表示装置と、を備えており、
上記照明光学系から出射され、上記観察対象物を通過する上記照明光が、上記照明光学系の光軸と平行な平行光である観察装置。
【請求項2】
上記観察対象物と上記落式位相差顕微鏡とを相対的に移動させる移動装置を備えている請求項1に記載の観察装置。
【請求項3】
開口を有する筐体、上記開口を開閉可能な蓋体、及び、上記筐体及び上記蓋体によって画定される内部空間を上方の培養室及び下方の機械室に区画する区画壁を備えるインキュベータを備えており、
上記観察対象物は、上記培養室内に配置されており、
上記落式位相差顕微鏡、上記撮像素子、及び上記移動装置は、上記機械室内に配置されており、
上記区画壁は、上記培養室を上記機械室に対して気密性及び水密性を保つように上記筐体に固定され、上記区画壁の少なくとも一部は、上記照明光を透過する透明材料で形成されている請求項2に記載の観察装置。
【請求項4】
上記照明光源は、上記照明光の波長を、複数の異なる波長の間で切り換え可能に構成されている請求項1から3のいずれかに記載の観察装置。
【請求項5】
上記画像データを修正する画像処理部を備えており、
上記画像データには、色情報として輝度値を含む画素が2次元座標で配列されており、
上記画像処理部は、
2つの異なる上記波長の上記照明光によって得られた2つの上記画像データについて、同一座標の上記画素毎に、上記輝度値の差分を算出する算出部と、
上記差分が所定値よりも小さい上記画素を、誤情報を含むノイズ画素として認識する認識部と、
上記2つの画像データからそれぞれ上記ノイズ画素を削除して2つの修正画像データを作成する作成部と、を備える請求項4に記載の観察装置。
【請求項6】
上記観察対象物の上方に配置された反射鏡を備えている請求項1から5のいずれかに記載の観察装置。
【請求項7】
透光性材料で構成された下皿及び上皿からなり、上記生物細胞が収納されるシャーレを備え、
上記上皿には、上記反射鏡が固定されている請求項6に記載の観察装置。
【請求項8】
上記照明光学系は、上記照明光源からの上記照明光を反射するハーフミラーと、上記ハーフミラーで反射された上記照明光を屈折させる第1対物レンズ及び第2対物レンズと、を備えており、
上記観察光学系は、上記観察対象物からの上記反射光を屈折させる上記第1対物レンズ及び上記第2対物レンズと、屈折された上記反射光を透過させる上記ハーフミラーと、を備えている請求項1から7のいずれかに記載の観察装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物細胞の観察に用いられる観察装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生物細胞を培養しながら観察するために、染色することなく生物細胞を観察できる位相差顕微鏡が使用されている。観察対象物としての生物細胞は、温度を一定に保つことが可能なインキュベータ内で培養される。生物細胞を観察するために、位相差顕微鏡をインキュベータ内に配置する必要がある。インキュベータ内に組み込み可能に構成した位相差顕微鏡の一例が、特許文献1に開示されている。この位相差顕微鏡は、落式の位相差顕微鏡であり、照明光学系及び観察光学系の双方が観察対象物に対して同じ側に配置されている。
【0003】
照明光学系から発光された照明光は、反射面において反射されて反射光になる。反射光は、観察対象物を通過する際に観察対象物の内部で回折せず反射面の表面で反射された直接反射光と、観察対象物を通過する際に観察対象物の内部で回折され位相が1/4波長だけ遅れて反射面の表面で反射された回折反射光と、からなる。位相差顕微鏡による観察では、反射面の表面で反射された直接反射光の位相が、1/4波長だけ進められるか、遅らされる。直接反射光の位相が操作されることで、直接反射光と回折反射光との位相差が0又は1/2波長となり、直接反射光と回折反射光とが強め合うか又は弱め合う。直接反射光と回折反射光との位相差が、明暗のコントラストに変換されるので、人間の目で感知可能な光学像が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平08-194160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数の観察対象物を観察する場合に、観察対象物毎に位相差顕微鏡を設けることは、コストの観点から現実的ではない。したがって、観察対象物又は位相差顕微鏡を移動させる必要がある。ところが、観察対象物又は位相差顕微鏡を移動させると、観察対象物又は位相差顕微鏡の停止位置の精度に限界があるため、位相板から反射面までの距離にばらつきが生じる。
【0006】
ここで、位相差顕微鏡は、位相を1/4波長だけ変更する位相膜領域と位相を変更しない透過領域とを有する位相板を有している。直接反射光が位相膜領域を通過し且つ回折反射光が透過領域を通過することで、直接反射光の位相が1/4波長だけ変更される。
【0007】
特許文献1に記載の位相差顕微鏡では、照明光学系から観察対象物に向けて発光される照明光が光軸に対して傾斜している。そのため、位相板から反射面までの距離にばらつきが生じると、直接反射光が位相板において収束する位置(収束点)が変化してしまう。収束点の変動により直接反射光が位相膜領域を通過しなくなると、コントラストに変動が生じ、それまでの調整によって得られた良好な光学像が得られなくなってしまう。したがって、位相差顕微鏡を移動させる度に、直接反射光が位相膜領域を通過するように位相差顕微鏡から観察対象物までの距離、つまり位相板から反射面の距離を調整する作業が必要であるが、これでは作業性の低下を招いてしまう。
【0008】
本発明は、前述された事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、位相板から反射面までの距離を調整する作業を不要にしながら、コントラストを一定に保つことにより良好な光学像を得ることができる観察装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1) 本発明に係る観察装置によれば、照明光源、上記照明光源からの照明光を生物細胞である観察対象物に出射する照明光学系、上記照明光が上記観察対象物を通過して反射された反射光から上記観察対象物の光学像を形成する観察光学系を備え、上記観察光学系は、上記反射光のうち、反射面で反射された直接反射光の位相を変更する位相板を備え、上記照明光学系及び上記観察光学系の双方が上記観察対象物の下方に配置されている落式位相差顕微鏡と、上記観察光学系によって得られた上記光学像を光電変換して、上記観察対象物の画像データを作成する撮像素子と、上記画像データを表示する表示装置と、を備えており、上記照明光学系から出射される上記照明光が平行光である。
【0010】
上記構成によれば、照明光学系から平行な照明光が出射されるので、観察光学系に平行な反射光が入射する。反射光が光軸に対して平行であるので、位相板から反射面までの距離が変動しても、直接反射光の位相板における収束点が変動しない。したがって、落式位相差顕微鏡を移動させることによって上記距離が変動しても、コントラストを一定に保つことができ、良好な光学像が得られる。
【0011】
(2) 好ましくは、上記観察装置は、上記観察対象物と上記落式位相差顕微鏡とを相対的に移動させる移動装置を備えている。
【0012】
上記構成によれば、上記観察装置は、移動装置を備えているので、手動で観察対象物又は落式位相差顕微鏡を移動させる必要がない。したがって、作業性が向上する。
【0013】
(3) 好ましくは、上記観察装置は、開口を有する筐体、上記開口を開閉可能な蓋体、及び、上記筐体及び上記蓋体によって画定される内部空間を上方の培養室及び下方の機械室に区画する区画壁を備えるインキュベータを備えており、上記観察対象物は、上記培養室内に配置されており、上記落式位相差顕微鏡、上記撮像素子、及び上記移動装置は、上記機械室内に配置されており、上記区画壁は、上記培養室を上記機械室に対して気密性及び水密性を保つように上記筐体に固定され、上記区画壁の少なくとも一部は、上記照明光を透過する透明材料で形成されている。
【0014】
上記構成によれば、インキュベータ内に落式位相差顕微鏡が配置されているので、観察対象物を観察するためにインキュベータを開放して外部から顕微鏡をインキュベータに移動させる必要がない。そのため、観察対象物の観察の度に、インキュベータが開放されても差し支えがないように、インキュベータの外部環境を無菌状態に保つ必要もない。したがって、インキュベータの観察に要する作業工数及びコストが軽減される。また、培養室の気密性及び水密性が機械室に対して保たれているので、培養室の雰囲気から機械室の雰囲気が分離されている。そのため、培養室と機械室との間に温度差が発生したとしても、機械室内の落式位相差顕微鏡に結露が発生することが抑制される。
【0015】
(4) 好ましくは、上記照明光源は、上記照明光の波長を、複数の異なる波長の間で切り換え可能に構成されている。
【0016】
上記構成によれば、照明光の波長が複数の異なる波長の間で切り換え可能である。そのため、得られた画像をぼかして、観察対象物の細胞境界における画像データ量を減らすことができ、細胞数の計測を行いやすくすることができる。また、結像面における光学像に含まれる各部のうち、対物レンズに付着したゴミ等の異物による部分は、照明光の波長の変更によって影響を受けない。そのため、照明光の波長の変更により、光学像の各部について、観察対象物の像なのか異物による像なのかが特定できる。
【0017】
(5) 好ましくは、上記観察装置は、上記画像データを修正する画像処理部を備えており、上記画像データには、色情報として輝度値を含む画素が2次元座標で配列されており、上記画像処理部は、2つの異なる上記波長の上記照明光によって得られた2つの上記画像データについて、同一座標の上記画素毎に、上記輝度値の差分を算出する算出部と、上記差分が所定値よりも小さい上記画素を、誤情報を含むノイズ画素として認識する認識部と、上記2つの画像データからそれぞれ上記ノイズ画素を削除して2つの修正画像データを作成する作成部と、を備える。
【0018】
観察対象物を通過した反射光の場合、波長が変更されると、焦点位置が収束又は拡散するように変化し、輝度値の差分が変化する。観察対象物を通過していない反射光、例えば対物レンズに付着したゴミからの反射光の場合、波長が変更されても、焦点位置が収束又は拡散するように変化せず、輝度値の差分があまり変化しない。
【0019】
上記構成によれば、輝度値の差分が所定値よりも小さい画素が、誤情報を含むノイズ画素として認識され、ノイズ画素が削除された2つの修正画像データが作成される。したがって、観察対象物の画像データにおいて、ゴミによる誤情報の影響を排除できる。
【0020】
(6) 好ましくは、上記観察装置は、上記観察対象物の上方に配置された反射鏡を備えている。
【0021】
上記構成によれば、観察対象物からの反射光だけでなく、反射鏡からの反射光が観察光学系に入射する。観察光学系に入射する光量が増大するので、より識別性の高い観察対象物の画像データを得ることができる。
【0022】
(7) 好ましくは、上記観察装置は、透光性材料で構成された下皿及び上皿からなり、上記生物細胞が収納されるシャーレを備え、上記上皿には、上記反射鏡が固定されている。
【0023】
上記構成によれば、上皿に反射鏡が固定されているので、反射鏡を容易に配置できる。
【0024】
(8) 好ましくは、上記照明光学系は、上記照明光源からの上記照明光を反射するハーフミラーと、上記ハーフミラーで反射された上記照明光を屈折させる第1対物レンズ及び第2対物レンズと、を備えており、上記観察光学系は、上記観察対象物からの上記反射光を屈折させる上記第1対物レンズ及び上記第2対物レンズと、屈折された上記反射光を透過させる上記ハーフミラーと、を備えている。
【発明の効果】
【0025】
本発明の観察装置によれば、位相差顕微鏡から観察対象物までの距離を調整する作業を不要にしながら、コントラストを一定に保つことができ、良好な光学像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本実施形態に係る観察装置10のブロック図である。
図2図2は、本実施形態に係るインキュベータ11を示す図であり、図2(a)はインキュベータ11の斜視図であり、図2(b)はインキュベータ11内に配置された区画壁23、顕微鏡12及び移動装置13を示す斜視図である。
図3図3は、図2(a)のIII-III切断線から視たインキュベータ11の断面図である。
図4図4は、顕微鏡12の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。なお、本実施形態は、本発明の一実施態様にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で実施態様を変更できることは言うまでもない。
【0028】
[観察装置10]
図1に示されるように、本実施形態に係る観察装置10は、生物細胞である観察対象物28を観察する装置である。観察装置10は、インキュベータ11と、落式位相差顕微鏡(以下、顕微鏡)12と、移動装置13と、観察用コンピュータ14と、表示装置15と、操作装置16と、を備えている。インキュベータ11は、雰囲気制御機構39を備えている。顕微鏡12は、照明光源50を備えている。顕微鏡12には撮像素子53が設けられている。観察用コンピュータ14は、光源制御部44、画像処理部45、及び移動制御部46を備えている。
【0029】
観察装置10を構成する要素は、概略的には、以下のように機能する。照明光源50は、観察対象物28を照明する。顕微鏡12は、照明された観察対象物28の光学像を取得する。移動装置13は、顕微鏡12が観察対象物28の光学像を取得できるように、顕微鏡12を移動させる。撮像素子53は、顕微鏡12によって取得された光学像を光電変換して画像データを作成する。画像処理部45は、撮像素子53で得られた画像データを修正する。表示装置15は、修正前及び修正後の画像データを表示する。移動制御部46は、移動装置13の駆動を制御する。光源制御部44は、照明光源50の駆動を制御する。操作装置16は、画像処理部45への指令を入力可能且つ移動制御部46への指令を入力可能である。操作装置16は、例えばキーボード及びマウスである。ユーザは、操作装置16を操作して、画像処理部45への処理内容を設定し、且つ、移動装置13の駆動を介して顕微鏡12の移動を制御できる。このようにして、観察装置10により、観察対象物28が観察される。
【0030】
[インキュベータ11]
図2(a)に示されるように、インキュベータ11は、開口20を有する筐体21と、開口20を開閉可能な蓋体22と、筐体21内に配置された区画壁23と、を備える。以下において、上下方向17、前後方向18、及び左右方向19は、図1に示されるインキュベータ11の姿勢に基づいて定義されている。開口20は、前後方向18に開いている。筐体21及び蓋体22によってインキュベータ11の内部空間24が画定されている。筐体21及び蓋体22の外形形状は、直方体形状である。また、内部空間24の形状も直方体形状である。蓋体22が閉じられた状態で、内部空間24は、インキュベータ11の外気に対して、気密性及び水密性が保たれている。
【0031】
図2(a)及び図2(b)に示されるように、区画壁23は、内部空間24を上方の培養室25及び下方の機械室26に区画する。培養室25内には、4つのシャーレ27が配置されている。シャーレ27内には、生物細胞である観察対象物28(図3図4)が収納されている。機械室26内には、撮像素子53が搭載された顕微鏡12及び移動装置13が収納されている。
【0032】
区画壁23は、上下方向17より視て四角形である平板形状である。区画壁23は、4つの開口29を有する枠板30と、4つの開口29にそれぞれ嵌め込まれた透明板31と、を有する。透明板31は光を透過する材料で形成されており、上下方向17に光を透過可能である。透明板31の材料は、例えば、ガラス又はアクリルである。4つの透明板31は、上下方向17より視て四角形の頂点位置にそれぞれ位置している。
【0033】
[シャーレ27]
図3に示されるように、シャーレ27は、入れ子となる下皿47及び上皿48を有する。下皿47及び上皿48は、共に底面を有する浅い円筒状の容器である。上皿48が下皿47よりも大きく、下皿47を上皿48に被せることで、シャーレ27の内部が閉じられる。下皿47及び上皿48は、共に光を透過する材料、例えばポリスチレン樹脂により構成されている。
【0034】
[反射鏡49]
図1から図3に示されるように、観察装置10は、顕微鏡12からの照明光61を反射する反射鏡49を備えている。反射鏡49は、上皿48の上面に固定されている。反射鏡49は、円板形状である。反射鏡49は、本実施形態ではステンレスで形成されており、反射鏡49の下面に設けられた反射面49a(下面49a)は光を反射可能に鏡面加工されている。
【0035】
[雰囲気制御機構39]
再び図1を参照して、インキュベータ11の雰囲気制御機構39が説明される。雰囲気制御機構39は、培養室25の雰囲気(温度及び湿度)を制御する機構であり、機械室26の雰囲気とは独立して制御可能である。具体的には、雰囲気制御機構39は、加熱装置32と、温度センサ33と、加湿装置34と、湿度センサ35と、培養用コンピュータ36と、操作装置37と、表示装置38と、を備える。加熱装置32は、培養室25の温度を加熱可能である。温度センサ33は、培養室25の温度を検出可能である。加湿装置34は、培養室25の湿度を加湿可能である。湿度センサ35は、培養室25の湿度を検出可能である。培養用コンピュータ36は、加熱装置32の作動及び加湿装置34の作動を制御可能である。操作装置37は、培養室25の温度及び湿度の目標値を指定可能な装置である。表示装置38は、温度センサ33によって検出された温度、湿度センサ35によって検出された湿度、操作装置37によって指定された目標値を表示可能である。培養用コンピュータ36は、温度センサ33及び湿度センサ35によって得られた温度及び湿度の検出値が、指定された温度及び湿度の目標値に一致するように、加熱装置32の作動及び加湿装置34の作動を制御する。このようにして、培養室25の雰囲気が制御される。
【0036】
[移動装置13]
図2及び図3に示されるように、移動装置13は、顕微鏡12が観察対象物28を収納したシャーレ27の直下方に位置するように、顕微鏡12を移動させる装置である。移動装置13は、底部40と、本体41と、第1アーム42と、第2アーム43と、を備える。底部40は、インキュベータ11の筐体21に固定されている。本体41は、底部40に固定されており、第1アーム42及び第2アーム43を駆動する駆動機構及び制御機構を収納する。第1アーム42及び第2アーム43は、多関節アームに構成されている。第1アーム42の基端部が本体41に対して上下方向17の軸周りに回転可能に連結されている。第2アーム43の基端部が第1アーム42の先端部に対して上下方向17の軸周りに回転可能に連結されている。第2アーム43の先端部には顕微鏡12が固定されている。移動装置13の駆動により、顕微鏡12は水平方向で、すなわち前後方向18及び左右方向19の双方において移動可能である。そのため、区画壁23の上方に位置する4つのシャーレ27のいずれの直下方にも、移動装置13は移動できる。
【0037】
[顕微鏡12]
図4を参照して、顕微鏡12が説明される。顕微鏡12は、照明光源50と、照明光学系51と、観察光学系52と、撮像素子53と、を備えている。照明光学系51は、照明光源50からの照明光61を観察対象物28に出射する。観察光学系52は、照明光61が観察対象物28を通過して反射面によって反射された反射光62から、観察対象物28の光学像を形成する。撮像素子53は、観察対象物28の光学像を光電変換して、観察対象物28の画像データを作成する。
【0038】
照明光源50は、照明光61を出射する光源である。照明光源50は、波長可変光源であり、照明光61の波長を変更できる。波長の切換は、ユーザが操作装置16(図1)を操作することにより行われる。操作装置16の操作により波長の目標値が指定されると、光源制御部44(図1)は、当該目標値の波長の照明光61が出射されるように、照明光61を制御する。
【0039】
顕微鏡12は、落式の顕微鏡であり、照明光学系51及び観察光学系52が観察対象物28に対して同じ側に、本実施形態では下側に配置されている。これに伴って、照明光源50も、照明光学系51及び観察光学系52と同じ側(下側)に配置されている。照明光学系51及び観察光学系52が観察対象物28の両側にそれぞれ配置されることがないので、顕微鏡12がコンパクトに構成されている。
【0040】
照明光学系51は、ハーフミラー54と、第1対物レンズ55と、第2対物レンズ56と、を備えている。ハーフミラー54は、照明光源50からの照明光61を反射して、観察対象物28が配置された観察位置に向けて上側へ出射する。ハーフミラー54と観察対象物28との間には、第1対物レンズ55及び第2対物レンズ56が配置されている。第1対物レンズ55がハーフミラー54に近い側に配置され、第2対物レンズ56は観察対象物28に近い側に配置されている。ハーフミラー54からの照明光61は、第1対物レンズ55及び第2対物レンズ56において屈折された後に、透明板31及び下皿47(図3)を透過して、観察対象物28を通過して反射面49aに到達する。光軸60は、ハーフミラー54から出射される照明光61の光束の中心軸であり、第1対物レンズ55及び第2対物レンズ56の中心軸でもある。光軸60は、上下方向17に沿っている。
【0041】
第2対物レンズ56から出射される照明光61は、光軸60と平行な平行光である。このような平行光が出射されるように、第1対物レンズ55及び第2対物レンズ56の屈折率及び配置が設定されている。
【0042】
照明光61は、観察対象物28を通過して反射面49aにおいて反射されて反射光62になる。反射光62は、反射鏡49の反射面49aで反射された後、観察対象物28を通過する際に観察対象物28の内部で回折しない直接反射光62Aと、反射鏡49の反射面49aで反射された後、観察対象物28を通過する際に観察対象物28の内部で回折されて位相が1/4波長だけ遅れた回折反射光62Bと、からなる。図4において、照明光61は実線で示され、直接反射光62Aは実線で示され、回折反射光62Bは破線で示されている。反射光62は、直接反射光62A及び回折反射光62Bを総称する。
【0043】
本実施形態では、観察対象物28の上方に反射鏡49が配置されているので、反射鏡49の反射面49aにおいて、より多くの光が反射されることで反射光62の光量が増大する。直接反射光62Aは、反射鏡49の反射面49aで反射された光のうち、反射の前後において観察対象物28を2回通過し、観察対象物28内で回折されなかった光である。回折反射光62Bは、反射鏡49の反射面49aで反射された光のうち、反射の前後において観察対象物28を2回通過し、観察対象物28内で回折された光である。
【0044】
観察光学系52は、第1対物レンズ55と、第2対物レンズ56と、ハーフミラー54と、位相板57と、結像面58と、を備えている。結像面58は、本実施形態では、撮像素子53の表面に形成された受光面である。ここで、第1対物レンズ55及び第2対物レンズ56と、ハーフミラー54は、照明光学系51及び観察光学系52において共用されている。反射面49aで反射した反射光62は、透明板31及び下皿47(図3)を経由して、第1対物レンズ55及び第2対物レンズ56において屈折された後に、ハーフミラー54及び位相板57を透過して、結像面58に到達する。
【0045】
位相板57は、位相をずらす位相膜領域57Aと、位相を変更しない透過領域57Bとを有する。位相膜領域57Aは、位相板57において光軸60を中心とする円形領域である。透過領域57Bは、位相板57において光軸60を中心とする円環状領域であって、位相膜領域57Aの外側にある。位相膜領域57A及び透過領域57Bは、光を透過する材料で構成されている。光が位相膜領域57Aを通過すると、その光の位相は1/4波長だけずらされる。本実施形態では、1/4波長だけ位相が遅らされるが、逆に1/4波長だけ位相が進まされてもよい。一方、透過領域57Bは、当該透過領域57Bを通過する光の位相を変更しない。
【0046】
反射光62のうち、直接反射光62Aが位相膜領域57Aを通過するように、第1対物レンズ55及び第2対物レンズ56の屈折率及び配置、位相膜領域57Aの大きさ(半径)が設定されている。そのため、直接反射光62Aの位相は位相膜領域57Aにおいてずらされる。一方、回折反射光62Bは透過領域57Bを通過するので、回折反射光62Bの位相は変更されない。直接反射光62Aの位相は1/4波長だけ遅らされるので、位相板57の通過後に、直接反射光62Aと回折反射光62Bとの位相差が0となる。直接反射光62Aの位相が1/4波長だけ進められた場合は、位相板57の通過後に、直接反射光62Aと回折反射光62Bとの位相差は1/2波長となる。
【0047】
観察対象物28の各位置を通過して反射された反射光62の光束は、結像面58において収束する。直接反射光62Aの位相が1/4波長だけ遅らされた場合は、結像面58において、直接反射光62Aと回折反射光62Bとが強め合うので、観察対象物28が明るく背景が暗いブライトコントラストの光学像が得られる。直接反射光62Aの位相が1/4波長だけ進められた場合は、逆に、観察対象物28が暗く背景が明るいダークコントラストの光学像が得られる。
【0048】
結像面58に形成された光学像は、撮像素子53により光電変換され、画像データが作成される。画像データは、画像処理部45(図1)で修正された後、表示装置15に表示される。
【0049】
[画像処理部45]
再び図1を参照して、画像処理部45が説明される。画像処理部45は、撮像素子53により得られた画像データに対してノイズ情報を除去するフィルタ機能を有している。このフィルタ機能は、2つの異なる波長の照明光61によって得られた2つの画像データに基づいて、画像データから第2対物レンズ56に付着したゴミ等によるノイズ情報を除去する機能である。
【0050】
照明光61の波長の変更は、観察対象物28から結像面58までの光路長を変更することに等しい。この変更により、反射光62が収束する位置が変動する。反射光62が結像面58において収束する場合、光学像のピントは合っているが、反射光62が結像面58において収束しない場合、光学像のピントがずれている。つまり、2つの異なる波長の照明光61によって、ピントの合った画像データと、ピントの外れた画像データとが作成される。ここで、第2対物レンズ56に付着したゴミ等による光学像は、光路長の変動の影響を受けないので、輝度の変動がない。そこで、波長の変更によって得られた2つの画像データにおいて、輝度の変動が比較的小さな部分の画素を特定することで、画像データに含まれるノイズ情報を特定できる。さらに、ノイズ情報を含む画素の情報を削除することで、ノイズ情報の削除された画像データを作成できる。
【0051】
画像処理部45にフィルタ機能を発揮させるのに先立って、光源制御部44が照明光源50を制御して、照明光61の波長が変更される。このようにして、第1の波長の照明光61で得られた画像データと、第2の波長の照明光で得られた画像データとが得られる。ここで、画像データは、2次元座標で配列された画素の集合体である。各画素は、色情報として輝度値の情報を有している。
【0052】
画像処理部45は、算出部71と、認識部72と、作成部73と、を備えている。算出部71は、2つの異なる波長の照明光61によって得られた2つの画像データについて、同一座標の画素毎に、輝度値の差分を算出する。認識部72は、この差分が所定値よりも小さい画素を、誤情報を含むノイズ画素として認識する。作成部73は、2つの画像データからそれぞれノイズ画素を削除して2つの修正画像データを作成する。このようにして、画像データに含まれるノイズ情報の有無が認識され、さらにノイズ情報が削除された画像データが作成される。
【0053】
[本実施形態の作用効果]
本実施形態に係る観察装置10によれば、照明光学系51から平行な照明光61が出射されるので、観察光学系52に平行な反射光62が入射する。反射光62が光軸60に対して平行であるので、顕微鏡12から観察対象物28までの距離が変動しても、直接反射光62Aの位相板57における収束点が変動しない。したがって、顕微鏡12を移動させることによって上記距離が変動しても、コントラストを一定に保つことができ、良好な光学像が得られる。
【0054】
また、観察装置10は、移動装置13を備えているので、手動で観察対象物28又は顕微鏡12を移動させる必要がない。したがって、作業性が向上する。
【0055】
また、インキュベータ11内に顕微鏡12が配置されているので、観察対象物28を観察するためにインキュベータ11を開放して外部から顕微鏡12をインキュベータ11に移動させる必要がない。そのため、観察対象物28の観察の度に、インキュベータ11が開放されても差し支えがないように、インキュベータ11の外部環境を無菌状態に保つ必要もない。したがって、インキュベータ11の観察に要する作業工数及びコストが軽減される。また、培養室25の気密性及び水密性が機械室26に対して保たれているので、培養室25の雰囲気から機械室26の雰囲気が分離されている。そのため、培養室と機械室との間に温度差が発生したとしても、機械室内の落式位相差顕微鏡に結露が発生することが抑制される。
【0056】
また、照明光61の波長が複数の異なる波長の間で切り換え可能である。そのため、得られた画像をぼかして、観察対象物28の細胞境界における画像データ量を減らすことができ、細胞数の計測を行いやすくすることができる。また、結像面58における光学像に含まれる各部のうち、第2対物レンズ56に付着したゴミ等の異物による部分は、照明光61の波長の変更によって影響を受けない。そのため、照明光61の波長の変更により、光学像の各部について、観察対象物28の像なのか異物による像なのかが特定できる。
【0057】
また、輝度値の差分が所定値よりも小さい画素が、誤情報を含むノイズ画素として認識され、ノイズ画素が削除された2つの修正画像データが作成される。したがって、観察対象物28の画像データにおいて、ゴミによる誤情報の影響を排除できる。
【0058】
また、観察対象物28からの反射光62及び反射鏡49からの反射光62が観察光学系52に入射する。観察光学系52に入射する光量が増大するので、より識別性の高い観察対象物28の画像データを得ることができる。
【0059】
また、上皿48に反射鏡49が固定されているので、反射鏡49を容易に配置できる。
【0060】
[変形例]
本実施形態では、移動装置13は、顕微鏡12を移動させる装置であるが、この構成に限定されない。移動装置13は、観察対象物28と顕微鏡12とを相対的に移動させる装置であればよい。移動装置13は、顕微鏡12を移動させる代わりに、観察対象物28を移動させる装置であってもよい。また、本実施形態では、顕微鏡12を自動で移動させるために移動装置13が設けられている。移動装置13は必須の構成要素ではなく、顕微鏡12又は観察対象物28を手動で移動させる場合は、移動装置13が設けられなくてもよい。
【0061】
本実施形態では、反射面49aを下面に設けた反射鏡49が設けられている。反射鏡49は必須の構成要素ではなく、反射鏡49が設けられなくてもよい。この場合、観察対象物28を通過して別の反射面の表面において反射された反射光62に基づいて、顕微鏡12に観察対象物28の光学像が形成される。例えば、図3における上皿48の下面、または上皿48の上下方向17の上側にさらに下皿47を載せた場合における下皿47の下面なども反射面49aと同様に反射面として利用することが可能である。
【0062】
本実施形態では、反射鏡49は、シャーレ27の上皿48に固定された板材であるが、この構成に限定されない。反射鏡49は、観察対象物28の上方に配置されて照明光61を反射可能であれば良く、反射鏡49が配置される位置や反射鏡49が固定される対象物は限定されない。反射鏡49は、培養室25内に配置されて、インキュベータ11の筐体21に固定されてもよい。
【0063】
本実施形態では、照明光61の波長を複数の異なる波長の間で切り換えることにより、
得られる画像をぼかすことができ、ゴミ等の異物の画像データの抽出ができるが、これに限らず、照明光61の波長を異なる波長に切り換えることにより、位相板と反射面の距離を調整することもでき、直接反射光が位相板において収束する位置(収束点)を変化させることもでき、結像面のピントを合わせたりすることもできる。
【符号の説明】
【0064】
10・・・観察装置
11・・・インキュベータ
12・・・落式位相差顕微鏡(顕微鏡)
13・・・移動装置
15・・・表示装置
20・・・開口
21・・・筐体
22・・・蓋体
23・・・区画壁
24・・・内部空間
25・・・培養室
26・・・機械室
27・・・シャーレ
28・・・観察対象物
45・・・画像処理部
47・・・下皿
48・・・上皿
49・・・反射鏡
49a・・反射面(反射鏡の下面)
50・・・照明光源
51・・・照明光学系
52・・・観察光学系
53・・・撮像素子
61・・・照明光
62・・・反射光
71・・・算出部
72・・・認識部
73・・・作成部
図1
図2
図3
図4