(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】シルセスキオキサン誘導体及びその利用
(51)【国際特許分類】
C07F 7/08 20060101AFI20231213BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20231213BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
C07F7/08 Y
H01L23/30 R
(21)【出願番号】P 2021574114
(86)(22)【出願日】2021-01-28
(86)【国際出願番号】 JP2021003072
(87)【国際公開番号】W WO2021153683
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2020011975
(32)【優先日】2020-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 賢明
(72)【発明者】
【氏名】岩本 雄二
(72)【発明者】
【氏名】本多 沢雄
(72)【発明者】
【氏名】大幸 裕介
(72)【発明者】
【氏名】角谷 祐輔
【審査官】小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-070071(JP,A)
【文献】特開2019-001961(JP,A)
【文献】特開2019-133851(JP,A)
【文献】特開2017-226746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(1)で表される、シルセスキオキサン誘導体。
【化4】
〔式中、R
1は、ヒドロシリル化反応可能な、炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~30の有機基であり、R
2、R
3、R
4及びR
5は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数5~10のアリール基及び炭素原子数6~10のアラルキル基からなる群から選択される少なくとも1種であり、t、u、w及びxは正の数であり、s、v及びyは
0であり、
前記式(1)において、
0<t/(t+u+w+x)≦0.3、
0.35≦u/(t+u+w+x)≦0.6、
0<w/(t+u+w+x)≦0.2、及び
0<x/(t+u+w+x)≦0.3である。〕
【請求項2】
前記式(1)において、
0.1≦t/(t+u+w+x)≦0.3、及び
0.1≦x/(t+u+w+x)≦0.3である、請求項1に記載のシルセスキオキサン誘導体。
【請求項3】
前記式(1)において、
0.4≦u/(t+u+w+x)≦0.6、
0<w/(t+u+w+x)≦0.18である、請求項1又は2に記載のシルセスキオキサン誘導体。
【請求項4】
前記式(1)において、R
2及びR
3は、同一である、請求項1~
3のいずれかに記載のシルセスキオキサン誘導体。
【請求項5】
前記式(1)において、R
2、R
3及びR
4は同一である、請求項1~
4のいずれかに記載のシルセスキオキサン誘導体。
【請求項6】
前記式(1)において
、t:u:w:
x=0.8以上2.2以下:1.5以上3.6以下:0.25以上0.6以下:0.8以上2.2以
下である、請求項1~
5のいずれかに記載のシルセスキオキサン誘導体。
【請求項7】
前記式(1)において
、t:u:w:
x=0.8以上1.2以下:2.4以上3.6以下:0.4以上0.6以下:0.8以上1.2以
下であり、R
1はビニル基であり、R
2、R
3及びR
4は、メチル基であ
る、請求項1~
6のいずれかに記載のシルセスキオキサン誘導体。
【請求項8】
C/Siのモル比が、0.9より大きい、請求項1~
7のいずれかに記載のシルセスキオキサン誘導体。
【請求項9】
硬化物の25℃での熱伝導率が0.22W/mK以上である、請求項1~
8のいずれかに記載のシルセスキオキサン誘導体。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれかに記載のシルセスキオキサン誘導体を含む、熱硬化性組成物。
【請求項11】
請求項1~
9のいずれかに記載のシルセスキオキサン誘導体を含む、接着剤組成物。
【請求項12】
請求項1~
9のいずれかに記載のシルセスキオキサン誘導体を含む、バインダー組成物。
【請求項13】
請求項1~
9のいずれかに記載のシルセスキオキサン誘導体と、熱伝導性フィラーとを含む、絶縁材組成物。
【請求項14】
前記熱伝導性フィラーは、窒化物である、請求項
13に記載の絶縁材組成物。
【請求項15】
前記窒化物は、窒化ホウ素である、請求項
14に記載の絶縁材組成物。
【請求項16】
前記窒化ホウ素の選択配向パラメータは、0.800以上1.200以下である、請求項
15に記載の絶縁材組成物。
【請求項17】
前記窒化ホウ素の選択配向パラメータは、0.850以上1.150以下である、請求項
16に記載の絶縁材組成物。
【請求項18】
前記窒化ホウ素の結晶子サイズは、50nm以上300nm以下である、請求項
15~17のいずれかに記載の絶縁材組成物。
【請求項19】
前記窒化ホウ素の結晶子サイズは、100nm以上200nm以下である、請求項
15~18のいずれかに記載の絶縁材組成物。
【請求項20】
前記窒化ホウ素の選択配向パラメータは、0.850以上1.150以下であり、前記窒化ホウ素の結晶子サイズは、100nm以上200nm以下である、請求項
15に記載の絶縁材組成物。
【請求項21】
前記シルセスキオキサン誘導体と前記熱伝導性フィラーとの総体積に対して、前記熱伝導性フィラーを20体積%以上95体積%以下含有する、請求項
13~20のいずれかに記載の絶縁材組成物。
【請求項22】
請求項1~
9のいずれかに記載のシルセスキオキサン誘導体の硬化物と熱伝導性フィラーとを含む、絶縁要素。
【請求項23】
請求項
22に記載の絶縁要素を備える、構造体。
【請求項24】
半導体装置である、請求項
23に記載の構造体。
【請求項25】
前記半導体装置は、Si層、SiC層又はGaN層を有する半導体素子を備える、請求項
24に記載の構造体。
【請求項26】
請求項1~
9のいずれかに記載のシルセスキオキサン誘導体と熱伝導性フィラーとを含む熱硬化性組成物を調製する工程と、
前記熱硬化性組成物中の前記シルセスキオキサン誘導体を硬化させて前記熱硬化性組成物の硬化物を調製する工程と、
を備える、絶縁要素の製造方法。
【請求項27】
請求項1~
9のいずれかに記載のシルセスキオキサン誘導体と熱伝導性フィラーとを含む熱硬化性組成物の硬化物を絶縁対象に供給する工程、又は
前記熱硬化性組成物を前記絶縁対象に供給し、その後、その場硬化させることにより前記硬化物を前記絶縁対象に供給する工程と、
を備える、構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、シルセスキオキサン誘導体及びその利用に関する。
(関連出願の相互参照等)
本願は、2020年1月28日に出願された日本国特許出願である特願2020-011975の関連出願であり、この日本出願に基づく優先権を主張するものであり、この日本出願に記載された全ての内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パワーモジュールなどの半導体製品においては、一層の高放熱化が求められるようになってきている。このための放熱要素として、熱硬化性樹脂とセラミックス等の熱伝導性フィラーとを含む絶縁性高熱伝導性コンポジット材料が注目されている。
【0003】
こうしたコンポジット材料の高熱伝導化のために、種々の試みがなされている(非特許文献1)。一つは、例えば、シリコーンやエポキシ樹脂をマトリックスなどがマトリックス樹脂として用いることによる樹脂自体の高熱伝導化である。また、こうしたマトリックス樹脂に対して、さらに熱伝導性を高めるために、熱伝導性フィラーとして、アルミナや窒化アルミ等のセラミックスフィラーが混合される場合もある。
【0004】
一方、マトリックス樹脂の改質も検討されている。例えば、エポキシ樹脂硬化相に秩序性の高い構造を導入して、その硬化時に自己配列によって高い秩序を有する液晶構造を部分的に導入することが試みられている(非特許文献2~4)。
【0005】
さらに、シルセスキオキサン化合物をマトリックスとして用い、窒化物充填材又は酸化物充填材とを含むことで、耐熱性、熱伝導性に優れる絶縁材組成物を提供できることが記載されている(特許文献1)。シルセスキオキサン化合物は、主鎖骨格が、Si-O結合からなり、[R(SiO)3/2](Rは有機基を表す。)というケイ素原子1個に対して1.5個の酸素原子を有する構造単位(以下、単に、T単位ともいう。)を含むポリシロキサン化合物である。特許文献1には、所定組成のシルセスキオキサン化合物は、シロキサン結合部分と炭化水素基置換部分を有するため、耐熱性と絶縁耐圧性とを備えることが記載されている。また、窒化ホウ素との密着性に優れることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】三村ら、高熱伝導複合材料、ネットワークポリマー、Vol.35、No.2(2014)、p76-82
【文献】竹澤ら、ネットワークポリマー、Vol.31、No.3(2010)、p134-140
【文献】S-H Song et al., Polymer 53 (2012) 4489-4492
【文献】Masaki Akatsuka et al., Journal of Applied Polymer Science, Vol. 89, 2464-2467 (2003)
【文献】Wen-Ying Zhou et al., POLYMER COMPOSITE 2007 23-28
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、マトリックスとしてのエポキシ樹脂は、概して、加熱に伴う酸化やガラス転移が起こることによる性能低下が問題となる。また、エポキシ樹脂に高次構造を導入したとしても、そのために樹脂自体が固体になりがちで使い勝手が悪く、また、加熱硬化条件の制約や高温での高次構造崩壊が懸念される。
【0009】
また、シリコーン樹脂は耐熱性に優れるものの、樹脂自体の熱伝導率は低く、高放熱化は高熱伝導性のフィラーに依存したものであった。シリコーン樹脂は、高温での分解や低分子シロキサンの生成により電子部品への悪影響が懸念される。
【0010】
また、例えば、特許文献1に記載されるシルセスキオキサン化合物と窒化ホウ素との複合体は、230℃での耐熱性が確保されているものの、10W/m・K近傍という熱伝導率は、いずれも室温においてのみ確認されているに過ぎず、高温下での高熱伝導性が十分に確立されているとはいえない。また、絶縁性高熱伝導性コンポジット材料を用いて、250℃~300℃程度の高温作動が可能なSiCなどのパワーモジュール用の半導体素子に対して絶縁部材を実装することを考慮すると、樹脂マトリックス自体の熱伝導性向上等が一層要請される。
【0011】
シルセスキオキサン化合物は、一般に、耐熱性と絶縁耐圧性とを備えることが知られている。しかしながら、それ自体の熱伝導性については報告されていないし、検討もされていない。
【0012】
本明細書は、かかる現状に鑑み、熱伝導率の向上にさらに貢献できるシルセスキオキサン誘導体を提供する。また、本明細書は、かかるシルセスキオキサン誘導体を含む熱硬化性化合物及び高温下での高熱伝導性と絶縁性とを兼ね備える絶縁基材等として有用な絶縁材組成物及びその利用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、T単位を少なくとも含むシルセスキオキサン誘導体に着目し、鋭意検討した。その結果、少なくともT単位の有機性を高めるようにすることで、意外にも、それ自体の熱伝導率を向上させうることを見出した。さらに、かかるシルセスキオキサン誘導体は、高熱伝導性フィラーの分散性・充填性にも一層優れ、かかるフィラーを高含有量で含む絶縁材料の加工性を向上させうることも見出した。さらにまた、かかるシルセスキオキサン誘導体は、絶縁破壊特性も向上させることを見出した。これらの知見に基づき、以下の手段が提供される。
【0014】
[1]以下の式(1)で表される、シルセスキオキサン誘導体。
【化1】
〔式中、R
1は、ヒドロシリル化反応可能な、炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~30の有機基であり、R
2、R
3、R
4及びR
5は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数5~10のアリール基及び炭素原子数6~10のアラルキル基からなる群から選択される少なくとも1種であり、t、u、w及びxは正の数であり、s、v及びyは0又は正の数である。〕
[2]前記式(1)において、u>vである、[1]に記載のシルセスキオキサン誘導体。
[3]前記式(1)において、0≦yである、[2]に記載のシルセスキオキサン誘導体。
[4]前記式(1)において、
0<t/(t+u+v+w+x+y)≦0.3であり、
0<u/(t+u+v+w+x+y)<0.6であり、
0<w/(t+u+v+w+x+y)≦0.2であり、
0≦y/(t+u+v+w+x+y)≦0.1である、
[1]~[3]のいずれかに記載のシルセスキオキサン誘導体。
[5]前記式(1)において0<x/(t+u+v+w+x+y)≦0.3である、[4]に記載のシルセスキオキサン誘導体。
[6]前記式(1)において、R
2及びR
3は、同一である、[1]~[5]のいずれかに記載のシルセスキオキサン誘導体。
[7]前記式(1)において、R
2、R
3及びR
4は同一である、[1]~[6]のいずれかに記載のシルセスキオキサン誘導体。
[8]前記式(1)において、s=0、v=0であり、t:u:w:x:y=0.8以上2.2以下:1.5以上3.6以下:0.25以上0.6以下:0.8以上2.2以下:0以上0.6以下である、[1]~[7]のいずれかに記載のシルセスキオキサン誘導体。
[9]前記式(1)において、s=0、v=0であり、t:u:w:x:y=0.8以上1.2以下:2.4以上3.6以下:0.4以上0.6以下:0.8以上1.2以下:0以上0.6以下であり、R
1はビニル基であり、R
2、R
3及びR
4は、メチル基である(ただし、0<yのとき、R
5は、メチル基である。)、[1]~[8]のいずれかに記載のシルセスキオキサン誘導体。
[10]C/Siのモル比が、0.9より大きい、[1]~[9]のいずれかに記載のシルセスキオキサン誘導体。
[11]硬化物の25℃での熱伝導率が0.22W/mK以上である、[1]~[10]のいずれかに記載のシルセスキオキサン誘導体。
[12][1]~[11]のいずれかに記載のシルセスキオキサン誘導体を含む、熱硬化性組成物。
[13][1]~[11]のいずれかに記載のシルセスキオキサン誘導体を含む、接着剤組成物。
[14][1]~[11]のいずれかに記載のシルセスキオキサン誘導体を含む、バインダー組成物。
[15][1]~[11]のいずれかに記載のシルセスキオキサン誘導体と、熱伝導性フィラーとを含む、絶縁材組成物。
[16]前記熱伝導性フィラーは、窒化物である、[15]に記載の絶縁材組成物。
[17]前記窒化物は、窒化ホウ素である、[16]に記載の絶縁材組成物。
[18]前記窒化ホウ素の選択配向パラメータは、0.800以上1.200以下である、[17]に記載の絶縁材組成物。
[19]前記窒化ホウ素の選択配向パラメータは、0.850以上1.150以下である、[18]に記載の絶縁材組成物。
[20]前記窒化ホウ素の結晶子サイズは、50nm以上300nm以下である、[17]~[19]のいずれかに記載の絶縁材組成物。
[21]前記窒化ホウ素の結晶子サイズは、100nm以上200nm以下である、[17]~[20]のいずれかに記載の絶縁材組成物。
[22]前記窒化ホウ素の選択配向パラメータは、0.850以上1.150以下であり、前記窒化ホウ素の結晶子サイズは、100nm以上200nm以下である、[17]に記載の絶縁材組成物。
[23]前記シルセスキオキサン誘導体と前記熱伝導性フィラーとの総体積に対して、前記熱伝導請求項フィラーを20体積%以上95体積%以下含有する、[15]~[22]のいずれかに絶縁材組成物。
[24][1]~[11]のいずれかに記載のシルセスキオキサン誘導体の硬化物と熱伝導性フィラーとを含む、絶縁要素。
[25][24]に記載の絶縁要素を備える、構造体。
[26]半導体装置である、[25]に記載の構造体。
[27]前記半導体装置は、Si層、SiC層又はGaN層を有する半導体素子を備える、[26]に記載の構造体。
[28][1]~[11]のいずれかに記載のシルセスキオキサン誘導体と熱伝導性フィラーとを含む熱硬化性組成物を調製する工程と、
前記熱硬化性組成物中の前記シルセスキオキサン誘導体を硬化させて前記熱硬化性組成物の硬化物を調製する工程と、
を備える、絶縁要素の製造方法。
[29][1]~[11]のいずれかに記載のシルセスキオキサン誘導体と熱伝導性フィラーとを含む熱硬化性組成物の硬化物を絶縁対象に供給する工程、又は
前記熱硬化性組成物を前記絶縁対象に供給し、その後、その場硬化させることにより前記硬化物を前記絶縁対象に供給する工程と、
を備える、構造体の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例で作製したシルセスキオキサン誘導体及び比較例の硬化物の示差熱熱重量同時測定(TG/DTA)の分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書は、熱伝導率等を高めるのに有効なシルセスキオキサン誘導体及びその利用に関する。本明細書に開示するシルセスキオキサン誘導体(以下、本シルセスキオキサン誘導体ともいう。)は、所定の組成式で表されるシルセスキオキサン化合物である。本シルセスキオキサン誘導体は、硬化時において良好な熱伝導率を発揮することができる。このため、本シルセスキオキサン誘導体は、熱伝導性(放熱効果)が求められる絶縁要素や構造体などに有用である。
【0017】
また、本シルセスキオキサン誘導体は、常温(25℃)で液体であるとともに流動性に優れるほか、熱伝導性フィラーの良好な分散性能及び充填性能を有している。したがって、高濃度に熱伝導性フィラーを含んでいても加工性に優れた熱硬化性組成物を提供することができる。また、絶縁対象に適用したとき、絶縁対象の凹凸に十分に倣って絶縁及び放熱効果を発揮する構造体を形成することができる。
【0018】
また、本シルセスキオキサン誘導体は、構造中のSi-O/Si-Cによって、高い耐熱性を有し、その硬化物は250℃であってもガラス転移せず、その分解も極めて抑制されている。このため、本シルセスキオキサン誘導体の硬化物では、例えば、200℃以上、また例えば、250℃以上、また例えば、300℃以上においても、シリコーン樹脂等において懸念される高温での低分子分解物の生成も抑制されるため、半導体装置などの電子部品への悪影響も回避されている。
【0019】
本開示によれば、本シルセスキオキサン誘導体の硬化物は、高温での安定した作動が求められるパワーモジュールなどの半導体装置の耐熱絶縁部材などの絶縁要素として用いたとき、本シルセスキオキサン誘導体の硬化物の本来的な高耐熱性とともに優れた熱伝導性を発揮して、放熱性の良好な、例えば半導体装置などの構造体の提供に貢献できる。また、本開示によれば、熱伝導性フィラーの良好な分散性を有しているために、絶縁対象に対する加工性に優れるとともに、確実に放熱されかつ絶縁された構造体の提供に貢献できる。また、本シルセスキオキサン誘導体は、多くの熱伝導性フィラーを配合できるため、こうしたフィラーによる熱伝導率の向上効果を高めることができる。
【0020】
また、本シルセスキオキサン誘導体は、例えば、キャスティング等によりフィルム、シートなどの形態に容易に成形可能であり、こうした3次元形状の放熱用材料の適用にあたって有用な場合がある。
【0021】
本明細書において、炭素-炭素不飽和結合は、炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合を意味する。
【0022】
本明細書において、絶縁対象となる物品は特に限定するものではない。例えば、半導体装置、コンピュータのCPU、LED、インバータ等が挙げられる。また、構造体賭しては、例えば、半導体装置が挙げられる。半導体装置とは、特に限定するものではないが、例えば、電力変換や電力制御などに利用するいわゆるパワーモジュールを構成するパワー半導体装置が挙げられる。パワー半導体装置等に使用される素子や制御回路は特に限定するものではなく、公知の種々の素子や制御回路を包含している。また、本明細書における半導体装置は、単に素子や制御回路のみならず、放熱や冷却等のためのユニットを備える半導体モジュールも包含している。
【0023】
また、絶縁要素とは、絶縁すべき個所に供給されて絶縁機能(電流遮断機能)を発揮する構成要素をいう。絶縁要素としては、同時に、放熱機能や冷却機能が求められている構成要素が挙げられる。こうした絶縁要素としては、特に限定するものではないが、例えば、種々の電子部品や半導体装置における絶縁層、絶縁膜のほか、絶縁フィルム、絶縁シート、絶縁基板などが挙げられる。
【0024】
以下、本開示の代表的かつ非限定的な具体例について、適宜図面を参照して詳細に説明する。この詳細な説明は、本開示の好ましい例を実施するための詳細を当業者に示すことを単純に意図しており、本開示の範囲を限定することを意図したものではない。また、以下に開示される追加的な特徴ならびに発明は、さらに改善されたシルセスキオキサン誘導体及びその利用を提供するために、他の特徴や発明とは別に、又は共に用いることができる。
【0025】
また、以下の詳細な説明で開示される特徴や工程の組み合わせは、最も広い意味において本開示を実施する際に必須のものではなく、特に本開示の代表的な具体例を説明するためにのみ記載されるものである。さらに、上記及び下記の代表的な具体例の様々な特徴、ならびに、独立及び従属クレームに記載されるものの様々な特徴は、本開示の追加的かつ有用な実施形態を提供するにあたって、ここに記載される具体例のとおりに、あるいは列挙された順番のとおりに組合せなければならないものではない。
【0026】
本明細書及び/又はクレームに記載された全ての特徴は、実施例及び/又はクレームに記載された特徴の構成とは別に、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、個別に、かつ互いに独立して開示されることを意図するものである。さらに、全ての数値範囲及びグループ又は集団に関する記載は、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、それらの中間の構成を開示する意図を持ってなされている。
【0027】
以下、本シルセスキオキサン誘導体、その製造方法、本シルセスキオキサン誘導体の硬化物の製造方法等について、詳細に説明する。
【0028】
(本シルセスキオキサン誘導体)
本シルセスキオキサン誘導体は、以下の式(1)で表されうる。
【0029】
【0030】
本シルセスキオキサン誘導体の有することができる各構成単位(a)~(g)を以下のとおり称するものとし、以下説明する。
【0031】
構成単位(a):[SiO4/2]s
構成単位(b):[R1-SiO3/2]t
構成単位(c):[R2-SiO3/2]u
構成単位(d):[H-SiO3/2]v
構成単位(e):[R3
2-SiO2/2]w
構成単位(f):[H, R4
2-SiO1/2]x
構成単位(g):[R5
3-SiO1/2]y
【0032】
本シルセスキオキサン誘導体は、上記した構成単位(a)~(g)を含むことができる。式(1)におけるs、t、u、v、w、x及びyは、それぞれの構成単位のモル比を表す。なお、式(1)において、s、t、u、v、w、x及びyは、式(1)で表される本シルセスキオキサン誘導体が含有する各構成単位の相対的なモル比を表す。すなわち、モル比は、式(1)で表される各構成単位の反復数の相対比である。モル比は、本シルセスキオキサン誘導体のNMR分析値から求めることができる。また、本シルセスキオキサン誘導体の各原料の反応率が明らかなとき又は収率が100%のときには、その原料の仕込み量から求めることができる。
【0033】
式(1)における構成単位(b)、(c)、(e)、(f)及び(g)のそれぞれについては、1種のみであってよいし、2種以上であってもよい。また、式(1)における配列順序は、構成単位の組成を示すものであって、その配列順序を意味するものではない。したがって、本シルセスキオキサン誘導体における構成単位の縮合形態は、必ずしも式(1)の配列順通りでなくてよい。
【0034】
<構成単位(a):[SiO4/2]s>
構成単位(a)は、ケイ素原子1個に対してO1/2を4個(酸素原子として2個)備えるQ単位である。本シルセスキオキサン誘導体における構成単位(a)の割合は特に限定するものではないが、本シルセスキオキサン誘導体の粘度を考慮すると、例えば、全構成単位に占めるモル比率(s/(s+t+u+v+w+x+y))は、0.1以下であり、また例えば、0である。
【0035】
<構成単位(b):[R1-SiO3/2]t>
構成単位(b)は、ケイ素原子1個に対してO1/2を3個(酸素原子として1.5個)備えるT単位である。R1は、ヒドロシリル化反応可能な、炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~30の有機基を表すことができる。すなわち、この有機基R1は、ヒドロシリル化反応可能な、炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合を持つ官能基とすることができる。かかる有機基R1の具体例としては、特に限定するものではないが、例えば、ビニル基、オルトスチリル基、メタスチリル基、パラスチリル基、アクリロイルオキシメチル基、メタクリロイルオキシメチル基、2-アクリロイルオキシエチル基、2-メタクリロイルオキエメチル基、3-アクリロイルオキシプロピル基、3-メタクリロイルオキシプロピル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-メチルエテニル基、1-ブテニル基、3-ブテニル基、1-ペンテニル基、4-ペンテニル基、3-メチル-1-ブテニル基、1-フェニルエテニル基、2-フェニルエテニル基、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、3-ブチニル基、1-ペンチニル基、4-ペンチニル基、3-メチル-1-ブチニル基、フェニルブチニル基等が例示される。
【0036】
式(1)で表されるシルセスキオキサン誘導体は、全体として有機基R1を2種以上含むことができるが、その場合、全ての有機基R1は、互いに同一であってよいし、異なってもよい。有機基R1としては、構成単位(1-2)を形成する原料モノマーが得やすいことから、例えば、炭素原子数が少ないビニル基及び2-プロペニル基(アリル基)である。尚、無機部分とは、SiO部分を意味する。
【0037】
また、構成単位(b)において、R1は、前述に例示のとおり炭素原子数1~20のアルキレン基(2価の脂肪族基)、炭素原子数6~20の2価の芳香族基又は炭素原子数3~20の2価の脂環族基から選択される少なくとも1種を含むことができる。炭素原子数1~20のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、i-プロピレン基、n-ブチレン基、i-ブチレン基等が例示される。炭素原子数6~20の2価の芳香族基としてはフェニレン基、ナフチレン基等が例示される。また、炭素原子数3~20の2価の脂環族基としては、ノルボルネン骨格、トリシクロデカン骨格又はアダマンタン骨格を有する2価の炭化水素基等が例示される。
【0038】
R1は炭素原子数2~30の有機基であり、炭素原子数が少ないことは、本シルセスキオキサン誘導体の硬化物の無機部分の割合を高くし、耐熱性の優れたものにすることができることから、好ましくは炭素原子数が2~20であり、より好ましくは炭素原子数が2~10であり、さらに好ましくは炭素原子数が2~5である。例えば、炭素原子数が少ないビニル基及び2-プロペニル基(アリル基)が特に好適である。
【0039】
<構成単位(c):[R2-SiO3/2]u>
構成単位(c)は、ケイ素原子1個に対してO1/2を3個備えるT単位である。R2は、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数5~10のアリール基及び炭素原子数6~10のアラルキル基からなる群から選択される少なくとも1種とすることができる。構成単位(c)は、後段で説明する構成単位(d)と比較して、水素原子を含まない点において相違する。構成単位(c)は、本シルセスキオキサン誘導体の熱伝導率向上に貢献する。また、本シルセスキオキサン誘導体の硬化物において残存する水素原子量を低減することができる。また、本シルセスキオキサン誘導体のC/Siのモル比の増大に貢献することができる。さらに、本シルセスキオキサン誘導体におけるヒドロシリル化反応を、構成単位(a)及び構成単位(f)との間に規制することができて、構造規則性を向上させて熱伝導率向上に貢献できる場合がある。
【0040】
炭素原子数1~10のアルキル基は、脂肪族基及び脂環族基のいずれでもよく、また、直鎖状及び分岐状のいずれでもよい。特に限定されるものではないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。熱伝導率の観点からは、例えば、メチル基、エチル基等が挙げられる。また例えば、メチル基である。
【0041】
炭素数5~10のアリール基としては、特に限定されるものではないが、例えば、フェニル基、炭素数1~4のアルキル基で置換されたフェニル基等が挙げられる。熱伝導率の観点からは、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0042】
炭素数6~10のアラルキル基としては、に限定されるものではないが、炭素数1~4のアルキル基の水素原子の1つがフェニル基などのアリール基で置換されたアルキル基が挙げられる。例えば、ベンジル基、フェネチル基が挙げられる。
【0043】
構成単位(c)に含まれるR2が、メチル基など、炭素数1~4のアルキル基のとき、後段で説明する構成単位(e)における複数のR3も同一とすることができる。こうすることで、熱伝導率やフィラー分散性を高めることができる。また、R2が、フェニル基など、フェニル基などのアリール基又はアラルキル基のとき、後段で説明する構成単位(e)(D単位)における複数のR3も同一とすることができる。こうすることで、熱伝導率やフィラー分散性を高めることができる。
【0044】
また、R2がメチル基などの炭素数1~4のアルキル基のとき、構成単位(f)におけるR4と同一とすることができる。また、同様に、構成単位(g)におけるR5と同一とすることができる。耐熱性、分散性及び粘度とのバランスが良いため、R2はメチル基又はフェニル基がより好ましい。
【0045】
<構成単位(d):[H-SiO3/2]v>
構成単位(d)も、構成単位(c)と同様、ケイ素原子1個に対してO1/2を3個備えるT単位であるが、構成単位(d)は、構成単位(c)とは異なり、ケイ素原子に結合する水素原子を備えている。本シルセスキオキサン誘導体における構成単位(d)の割合は特に限定するものではないが、本シルセスキオキサン誘導体の熱伝導率や耐熱性を考慮すると、例えば、全構成単位に占めるモル比は0.1以下であり、また例えば、0である。
【0046】
<構成単位(e):[R3
2-SiO2/2]w>
構成単位(e)は、ケイ素原子1個に対してO1/2を2個(酸素原子として1個)備えるD単位である。R3は、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数5~10のアリール基及び炭素原子数6~10のアラルキル基からなる群から選択される少なくとも1種を表すことができる。構成単位(e)に含まれる複数のR3は同種であってよく、異っていてもよい。これらの各置換基は、構成単位(c)のR3について規定された各種態様が挙げられる。
【0047】
<構成単位(f):[H, R4
2-SiO1/2]x>
構成単位(f)は、ケイ素原子1個に対してO1/2を1個(酸素原子として0.5個)備える単位である。R4は、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数5~10のアリール基及び炭素原子数6~10のアラルキル基からなる群から選択される少なくとも1種を表すことができる。構成単位(f)に含まれる複数のR4は同種であってよく、異っていてもよい。これらの各置換基は、構成単位(c)のR2について規定された各種態様が挙げられる。
【0048】
<構成単位(g):[R5
3-SiO1/2]y>
構成単位(g)は、ケイ素原子1個に対してO1/2を1個(酸素原子として0.5個)備えるM単位である。構成単位(g)は、ケイ素原子に結合する水素原子を備えず全てがアルキル基等である点において、構成単位(f)と相違している。本構成単位により、本シルセスキオキサン誘導体の有機性を向上させることができるし、粘度も低下させることができる。R5は、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数5~10のアリール基及び炭素原子数6~10のアラルキル基からなる群から選択される少なくとも1種を表すことができる。構成単位(g)に含まれる複数のR5は同種であってよく、異っていてもよい。これらの各置換基は、構成単位(c)のR2について規定された各種態様が挙げられる。
【0049】
本シルセスキオキサン誘導体は、さらに、Siを含まない構成単位として[R6O1/2]を備えることができる。ここで、R6は水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基であり、脂肪族基及び脂環族基のいずれでもよく、また、直鎖状及び分岐状のいずれでもよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0050】
この構成単位は、後述する原料モノマーに含まれる加水分解性基であるアルコキシ基、又は、反応溶媒に含まれたアルコールが、原料モノマーの加水分解性基と置換して生成したアルコキシ基であって、加水分解・重縮合せずに分子内に残存したものであるか、あるいは、加水分解後、重縮合せずに分子内に残存した水酸基である。
【0051】
以上のように、本シルセスキオキサン誘導体の各構成単位は、それぞれ独立に種々の態様を採ることができるが、例えば、R1としては、ビニル基、アリル基等が好適である。また例えば、構成単位(c)、同(e)、同(f)及び同(g)におけるそれぞれR2、R3、R4及びR5は、それぞれ独立して、メチル基などの炭素原子数1~10のアルキル基であることが好適であり、より好適には、R2及びR3が、メチル基など同一のアルキル基であり、さらに好適には、R2、R3及びR4が、メチル基などの同一のアルキル基であり、より一層好適には、R2、R3、R4及びR5(ただし、0<yのとき)、メチル基などの同一のアルキル基である。また例えば、構成単位(c)、同(e)におけるR2及びR3がフェニル基などのアリール基であり、同(f)及び同(g)がメチル基などのアルキル基であることも好適である。
【0052】
各構成単位のモル比は、t、u、w及びxは正の数であり、s、v及びyは0又は正の数である。ここで、モル比が0であることは、その構成単位を含んでいないことを意味している。
【0053】
本シルセスキオキサン誘導体における構成単位(a)の割合は特に限定するものではないが、本シルセスキオキサン誘導体の粘度を考慮すると、式(1)の全構成単位に占めるモル比率(s/(s+t+u+v+w+x+y))として、例えば、0.1以下であり、また例えば、0である。
【0054】
本シルセスキオキサン誘導体における構成単位(b)の割合は特に限定するものではないが、本シルセスキオキサン誘導体の硬化性等を考慮すると、式(1)の全構成単位に占めるモル比率(t/(s+t+u+v+w+x+y))として、例えば、0超0.3以下である。架橋反応性を有するT単位である構成単位(b)をかかるモル比率で備えることで、良好な架橋構造を有するシルセスキオキサン誘導体を得ることができる。また例えば、当該モル比率は、0.1以上であり、また例えば、0.15以上であり、また例えば、0.17以上であり、また例えば、0.18以上であり、また例えば、0.20以上であり、また例えば、0.25以上である。また例えば、0.28以下であり、また例えば、0.27以下であり、また例えば、0.26以下である。これらの下限及び上限は、それぞれを組み合わせることができるが、例えば、0.1以上0.27以下であり、また例えば、0.15以上0.26以下である。
【0055】
本シルセスキオキサン誘導体における構成単位(c)の割合は特に限定するものではないが、本シルセスキオキサン誘導体の熱伝導率等を考慮すると、式(1)の全構成単位に占めるモル比率(u/(s+t+u+v+w+x+y))として、例えば、0超0.6以下である。また例えば、0.2以上であり、また例えば、0.3以上であり、また例えば、0.35以上であり、また例えば、0.4以上であり、また例えば、0.45以上であり、また例えば、0.5以上であり、また例えば、0.55以上である。また例えば、0.55以下であり、また例えば、0.5以下であり、また例えば、0.4以下である。これらの下限及び上限は、それぞれを組み合わせることができるが、例えば、0.3以上0.6以下であり、また例えば、0.4以上0.55以下である。
【0056】
本シルセスキオキサン誘導体における構成単位(d)の割合は特に限定するものではないが、本シルセスキオキサン誘導体の熱伝導率や耐熱性を考慮すると、式(1)の全構成単位に占めるモル比率(v/(s+t+u+v+w+x+y))として、例えば、0.1以下であり、また例えば、0.05以下であり、また例えば、0である。
【0057】
式(1)において、例えば、u>vである。すなわち、いずれもT単位である構成単位(c)及び同(d)に関し、構成単位(c)が構成単位(d)よりも多いことを意味している。好ましくは、u/(u+v)が、例えば、0.6以上であり、また例えば、0.7以上であり、また例えば、0.8以上であり、また例えば、0.9以上であり、また例えば、1である。
【0058】
本シルセスキオキサン誘導体における構成単位(e)の割合は特に限定するものではないが、本シルセスキオキサン誘導体の粘度等を考慮すると、式(1)の全構成単位に占めるモル比率(w/(s+t+u+v+w+x+y))として、例えば、0超0.2以下である。また例えば、0.05以上であり、また例えば、0.07以上であり、また例えば、0.08以上であり、また例えば、0.09以上であり、また例えば、0.1以上である。また例えば、0.18以下であり、また例えば、0.16以下であり、また例えば、0.15以下である。これらの下限及び上限は、それぞれを組み合わせることができるが、例えば、0.04以上0.15以下であり、また例えば、0.05以上0.1以下である。
【0059】
本シルセスキオキサン誘導体における構成単位(f)の割合は特に限定するものではないが、本シルセスキオキサン誘導体の耐熱性、粘度及び硬化性等を考慮すると、式(1)の全構成単位に占めるモル比率(x/(s+t+u+v+w+x+y))として、例えば、0超0.3以下である。また例えば、当該モル比率は、0.1以上であり、また例えば、0.15以上であり、また例えば、0.17以上であり、また例えば、0.18以上であり、また例えば、0.20以上であり、また例えば、0.25以上である。また例えば、0.28以下であり、また例えば、0.27以下であり、また例えば、0.26以下である。これらの下限及び上限は、それぞれを組み合わせることができるが、例えば、0.1以上0.27以下であり、また例えば、0.15以上0.26以下である。
【0060】
本シルセスキオキサン誘導体における構成単位(g)の割合は特に限定するものではないが、本シルセスキオキサン誘導体の粘度等を考慮すると、全構成単位に占めるモル比率(y/(s+t+u+v+w+x+y))として、例えば、0以上0.1以下であり、また例えば、0以上0.08以下であり、また例えば、0以上0.05以下であり、また例えば、0である。
【0061】
また、式(1)において、硬化性や耐熱性を考慮すると、x>yである。M単位である構成単位(f)を備えることで、本シルセスキオキサンの粘度低下に貢献することができるが、他のM単位である構成単位(g)が多いと硬化性や耐熱性が低下する恐れがあるからである。x/(x+y)は、例えば、0.5以上であり、また例えば、0.7以上であり、また例えば、0.8以上であり、また例えば、0.9以上であり、また例えば1である。
【0062】
本シルセスキオキサン誘導体は、式(1)における各構成単位のモル比が、以下の(1)又は(2)の条件を充足することができる。かかるモル比を充足することで、熱伝導性、耐熱性及び粘度のバランスの採れたシルセスキオキサン誘導体を得ることができる。なお、以下のモル比において、好ましくは、t=1である。
(1)s=0、v=0であり、t:u:w:x:y=0.8以上2.2(好ましくは、1.2以下)以下:1.5以上3.6以下:0.25以上0.6以下:0.8以上2.2(好ましくは、1.2)以下:0以上0.6以下
(2)s=0、v=0であり、t:u:w:x:y=0.8以上1.2以下:2.4以上3.6以下:0.4以上0.6以下:0.8以上1.2以下:0以上0.6以下であり、Aはビニル基であり、R2、R3及びR4は、メチル基である(ただし、0<yのとき、R5は、メチル基である。)。
【0063】
本シルセスキオキサン誘導体において、C/Siのモル比は、例えば、0.9超である。この範囲であると、熱伝導率が向上されるからである。また例えば、当該モル比は、1以上であり、また例えば、1.2以上である。C/Siのモル比は、例えば、1H-NMR測定により、本シルセスキオキサン誘導体を評価することにより得ることができる。ケミカルシフトδ(ppm)が-0.2~0.6のシグナルはSi-CH3の構造に基づき、δ(ppm)が0.8~1.5はOCH(CH3)CH2CH3、OCH(CH3)2及びOCH2CH3の構造に基づき、δ(ppm)が3.5~3.9のシグナルはOCH2CH3の構造に基づき、δ(ppm)が3.9~4.1のシグナルはOCH(CH3)CH2CH3の構造に基づき、δ(ppm)が4.2~5.2のシグナルはSi-Hの構造に基づき、δ(ppm)が5.7~6.3のシグナルはCH=CH2の構造に基づくと考えられるので、各々のシグナル強度積分値から、側鎖に関する連立方程式を立てて決定することができる。尚、構成単位Tについては、仕込んだモノマー(トリエトキシシラン、トリメトキシビニルシラン等)がそのままシルセスキオキサン誘導体に組み込まれることが分かっているので、全てのモノマーの仕込み値とNMR測定値とから、シルセスキオキサン誘導体に含まれる各構成単位のモル比を決定し、さらに、C/Siモル比を決定できる。
【0064】
<分子量等>
本シルセスキオキサン誘導体の数平均分子量は、300~30,000の範囲にあることが好ましい。かかるシルセスキオキサンは、それ自体が液体で、取り扱いに適した低粘性であり、有機溶剤に溶け易く、その溶液の粘度も扱い易く、保存安定性に優れる。数平均分子量は、より好ましくは500~15,000、更に好ましくは700~10,000、特に好ましくは1,000~5,000である。数平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)により、例えば、後述の〔実施例〕における測定条件で、標準物質としてポリスチレンを使用して求めることができる。
【0065】
本シルセスキオキサン誘導体は、液状であって、25℃における粘度が100,000mPa・s以下であることが好ましく、80,000mPa・s以下であることがより好ましく、50,000mPa・s以下であることが特に好ましい。但し、上記粘度の下限は、通常、1mPa・sである。なお、粘度は、E型粘度計(東機産業(株)TVE22H形粘度計)を使用し、25℃で測定することができる。
【0066】
<本シルセスキオキサン誘導体の製造方法>
本シルセスキオキサン誘導体は、公知の方法で製造することができる。シルセスキオキサン誘導体の製造方法は、国際公開第2005/01007号パンフレット、同第2009/066608号パンフレット、同第2013/099909号パンフレット、特開2011-052170号公報、特開2013-147659号公報等においてポリシロキサンの製造方法として詳細に開示されている。
【0067】
本シルセスキオキサン誘導体は、例えば、以下の方法で製造することができる。すなわち、本シルセスキオキサン誘導体の製造方法は、適当な反応溶媒中で、縮合により、上記式(1)中の構成単位を与える原料モノマーの加水分解・重縮合反応を行う縮合工程を備えることができる。この縮合工程においては、例えば、構成単位(a)(Q単位)を形成する、シロキサン結合生成基を4個有するケイ素化合物(以下、「Qモノマー」という。)と、構成単位(b)~(d)(T単位)を形成する、シロキサン結合生成基を3個有するケイ素化合物(以下、「Tモノマー」という。)と、構成単位(e)(D単位)を形成する、シロキサン結合生成基を2個有するケイ素化合物(以下、「Dモノマー」という。)と、シロキサン結合生成基を1個有する構成単位(f)及び(g)(M単位)を形成する、ケイ素化合物(以下、「Mモノマー」という。)とを用いることができる。
【0068】
本明細書において、例えば、構成単位(b)を形成するTモノマーと、構成単位(c)及び(d)を形成するTモノマー、構成単位(e)を形成するDモノマー、及び、構成単位(f)、(g)を形成するMモノマーのそれぞれにつき少なくとも1種が用いられる。原料モノマーを、反応溶媒の存在下に、加水分解・重縮合反応させた後に、反応液中の反応溶媒、副生物、残留モノマー、水等を留去させる留去工程を備えることが好ましい。
【0069】
原料モノマーであるQモノマー、Tモノマー、Dモノマー又はMモノマーに含まれるシロキサン結合生成基は、水酸基又は加水分解性基である。このうち、加水分解性基としては、ハロゲノ基、アルコキシ基等が挙げられる。Qモノマー、Tモノマー、Dモノマー及びMモノマーの少なくとも1つは、加水分解性基を有することが好ましい。縮合工程において、加水分解性が良好であり、酸を副生しないことから、加水分解性基としては、アルコキシ基が好ましく、炭素原子数1~3のアルコキシ基がより好ましい。
【0070】
縮合工程において、各々の構成単位に対応するQモノマー、Tモノマー又はDモノマーのシロキサン結合生成基はアルコキシ基であり、Mモノマーに含まれるシロキサン結合生成基はアルコキシ基又はシロキシ基であることが好ましい。また、各々の構成単位に対応するモノマーは、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0071】
構成単位(a)を与えるQモノマーとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等が挙げられる。構成単位(b)を与えるTモノマーとしては、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、(p-スチリル)トリメトキシシラン、(p-スチリル)トリエトキシシラン、(3-メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(3-メタクリロイルオキシプロピル)トリエトキシシラン、(3-アクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(3-アクリロイルオキシプロピル)トリエトキシシラン等が挙げられる。構成単位(c)を与えるTモノマーとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン等が挙げられる。構成単位(d)を与えるTモノマーとしては、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、トリクロロシラン等が挙げられる。構成単位(e)を与えるDモノマーとしては、ジメトキシジメチルシラン、ジメトキシジエチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジエトキシジエチルシラン、ジプロポキシジメチルシラン、ジプロポキシジエチルシラン、ジメトキシベンジルメチルシラン、ジエトキシベンジルメチルシラン、ジクロロジメチルシラン、ジメトキシメチルシラン、ジメトキシメチルビニルシラン、ジエトキシメチルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン等が挙げられる。構成単位(f)、(g)を与えるMモノマーとしては、加水分解により2つの構成単位(f)を与えるヘキサメチルジシロキサン、ヘキサエチルジシロキサン、ヘキサプロピルジシロキサン、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンの他、メトキシジメチルシラン、エトキシジメチルシラン、メトキシジメチルビニルシラン、エトキシジメチルビニルシラン、メトキシトリメチルシラン、エトキシトリメチルシラン、メトキシジメチルフェニルシラン、エトキシジメチルフェニルシラン、クロロジメチルシラン、クロロジメチルビニルシラン、クロロトリメチルシラン、ジメチルシラノール、ジメチルビニルシラノール、トリメチルシラノール、トリエチルシラノール、トリプロピルシラノール、トリブチルシラノール等が挙げられる。構成単位(h)を与える有機化合物としては、2-プロパノール、2-ブタノール、メタノール、エタノール等のアルコールが挙げられる。
【0072】
縮合工程においては、反応溶媒としてアルコールを用いることができる。アルコールは、一般式R-OHで表される、狭義のアルコールであり、アルコール性水酸基の他には官能基を有さない化合物である。特に限定するものではないが、かかる具体例としては、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、2-ブタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-メチル-2-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、シクロペンタノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、2-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-2-ペンタノール、2-メチル-3-ペンタノール、3-メチル-3-ペンタノール、2-エチル-2-ブタノール、2,3-ジメチル-2-ブタノール、シクロヘキサノール等が例示できる。これらの中でも、イソプロピルアルコール、2-ブタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、3-メチル-2-ブタノール、シクロペンタノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、3-メチル-2-ペンタノール、シクロヘキサノール等の第2級アルコールが用いられる。縮合工程においては、これらのアルコールを1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。より好ましいアルコールは、縮合工程で必要な濃度の水を溶解できる化合物である。このような性質のアルコールは、20℃におけるアルコールの100gあたりの水の溶解度が10g以上の化合物である。
【0073】
縮合工程で用いるアルコールは、加水分解・重縮合反応の途中における追加投入分も含めて、全ての反応溶媒の合計量に対して0.5質量%以上用いることで、生成する本シルセスキオキサン誘導体のゲル化を抑制することができる。好ましい使用量は1質量%以上60質量%以下であり、更に好ましくは3質量%以上40質量%以下である。
【0074】
縮合工程で用いる反応溶媒は、アルコールのみであってよいし、さらに、少なくとも1種類の副溶媒との混合溶媒としても良い。副溶媒は、極性溶剤及び非極性溶剤のいずれでもよいし、両者の組み合わせでもよい。極性溶剤として好ましいものは炭素原子数3若しくは7~10の第2級又は第3級アルコール、炭素原子数2~20のジオール等である。
【0075】
非極性溶剤としては、特に限定するものではないが、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、塩素化炭化水素、エーテル、アミド、ケトン、エステル、セロソルブ等が挙げられる。これらの中では、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素及び芳香族炭化水素が好ましい。こうした非極性溶媒としては、特に限定するものではないが、例えば、n-ヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン、塩化メチレン等が、水と共沸するので好ましく、これらの化合物を併用すると、縮合工程後、シルセスキオキサン誘導体を含む反応混合物から、蒸留によって反応溶媒を除く際に、水分を効率よく留去することができる。非極性溶剤としては、比較的沸点が高いことから、芳香族炭化水素であるキシレンが特に好ましい。
【0076】
縮合工程における加水分解・重縮合反応は、水の存在下に進められる。原料モノマーに含まれる加水分解性基を加水分解させるために用いられる水の量は、加水分解性基に対して好ましくは0.5~5倍モル、より好ましくは1~2倍モルである。また、原料モノマーの加水分解・重縮合反応は、無触媒で行ってもよいし、触媒を使用して行ってもよい。触媒を用いる場合は、通常、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、シュウ酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸に例示される酸触媒が好ましく用いられる。酸触媒の使用量は、原料モノマーに含まれるケイ素原子の合計量に対して、0.01~20モル%に相当する量であることが好ましく、0.1~10モル%に相当する量であることがより好ましい。
【0077】
縮合工程における加水分解・重縮合反応の終了は、既述の各種公報等に記載される方法にて適宜検出することができる。なお、本シルセスキオキサン誘導体の製造の縮合工程においては、反応系に助剤を添加することができる。例えば、反応液の泡立ちを抑える消泡剤、反応罐や撹拌軸へのスケール付着を防ぐスケールコントロール剤、重合防止剤、ヒドロシリル化反応抑制剤等が挙げられる。これらの助剤の使用量は、任意であるが、好ましくは反応混合物中の本シルセスキオキサン誘導体濃度に対して1~100質量%程度である。
【0078】
本シルセスキオキサン誘導体の製造における縮合工程後、縮合工程より得られた反応液に含まれる反応溶媒及び副生物、残留モノマー、水等を留去させる留去工程を備えることにより、生成した本シルセスキオキサン誘導体の安定性を向上させることができる。
【0079】
(熱硬化性組成物)
本明細書に開示される熱硬化性組成物(以下、本組成物ともいう。)は、本シルセスキオキサン誘導体を含んでいる。本シルセスキオキサン誘導体は、流動性、熱伝導性フィラーの分散性に優れるとともに、後述するように硬化物の熱伝導性及び耐熱性に優れるため放熱性が求められうる絶縁要素のための良好な絶縁材料となる。また、本組成物は、それ自体は、良好な硬化性及び接着性を発揮できるため、接着剤組成物やフィラーのバインダー組成物として用いることができる。
【0080】
本組成物は、本シルセスキオキサン誘導体のほかに熱伝導性フィラーを含むことができる。本シルセスキオキサン誘導体は、熱伝導性フィラーの良好なバインダーとして機能するとともに、この組成物を硬化して得られる硬化物に高い熱伝導率を効果的に付与できる高熱伝導性マトリックスとしても機能する。したがって、本組成物は、種々の絶縁要素を形成するための絶縁材組成物として有用である。
【0081】
熱伝導性フィラーとしては、特に限定するものではないが、例えば、非導電性フィラーとしては、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、シリカ、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛等が挙げられる。また、導電性フィラーとしては、黒鉛、金、銀、ニッケル、銅等が挙げられる。熱伝導性フィラーは、本組成物の用途等に応じて1種又は2種以上を用いることができる。
【0082】
熱伝導性フィラーとしては、窒化ホウ素、窒化アルミニウム及び窒化ケイ素などの窒化物セラミックスを好ましく用いることができる。シルセスキオキサン誘導体との分散性及び密着性に優れ、本シルセスキオキサン誘導体の高熱伝導性と相まって効果的に熱伝導率を向上させることができる。
【0083】
熱伝導性フィラーの平均粒子径やメジアン径等の粒子径は、特に限定するものではないが、例えば、メジアン径又は平均粒子径が1μm以上1000μm以下、また例えば、10μm以上200μm以下などとすることができる。なお、平均粒子径やメジアン径等の粒子径は、レーザー・回折散乱方により、測定することができる。具体的には、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置により、熱伝導性フィラーの粒径分布を体積基準で作成し、その平均粒子径やメジアン径を測定することができる。なお、熱伝導性フィラーが、一次粒子の凝集体である二次粒子の場合には、当該二次粒子の平均粒子径やメジアン径などが、熱伝導性フィラーの平均粒子径やメジアン径などに相当する。
【0084】
熱伝導性フィラーの形状は、特に限定するものではないが、例えば、球状、棒状、針状、柱状、繊維状、板状、鱗片状、ナノシートおよびナノファイバーなどが挙げられ、結晶でも非結晶でも良い。なお、熱伝導性フィラーが、一次粒子の凝集体である二次粒子の場合には、当該二次粒子の形状が、熱伝導性フィラーの形状に相当する。
【0085】
窒化ホウ素などの熱伝導性フィラーは、メジアン径として、例えば、5μm以上200μm以下、また例えば、例えば、10μm以上200μm以下、また例えば、10μm以上180μm以下、また例えば、20μm以上150μm以下、また例えば、30μm以上180μm以下、また例えば、50μm以上150μm以下などとすることができる。また例えば、20μm以上100μm以下、また例えば、30μm以上100μm以下、また例えば、40μm以上100μm以下とすることもできる。本シルセスキオキサン誘導体においては、用いる熱伝導性フィラーのメジアン径を選択することで、硬化物の熱伝導率を向上させるとともに高温での絶縁性も確保することができる。なかでも、例えば、熱伝導性フィラーのメジアン径が20μm以上であると、本シルセスキオキサン誘導体との配合によって、熱伝導性向上に貢献できる場合がある。また例えば、同メジアン径は、30μm以上であり、また例えば、40μm以上である。また、メジアン径又は平均粒子径が100μm以下又は90μm以下であっても、本シルセスキオキサン誘導体との配合によって、熱伝導性向上に貢献できる。
【0086】
窒化ホウ素などの熱伝導性フィラーは、結晶子サイズとして、例えば、50nm以上、また例えば、60nm以上、また例えば、70nm以上、また例えば、80nm以上、また例えば、90nm以上、また例えば、100nm以上、また例えば、110nm以上、また例えば、120nm以上、また例えば、130nm以上、また例えば、140nm以上、また例えば、150nm以上などとすることができる。結晶子サイズが大きいほど熱伝導率の増大に貢献できる。また、結晶子サイズは、例えば、300nm以下、また例えば、280nm以下、また例えば、260nm以下、また例えば、240nm以下、また例えば、220nm以下、また例えば、200nm以下、また例えば、190nm以下、また例えば、180nm以下、また例えば、170nm以下また例えば、180nm以下などとすることができる。結晶子サイズが大きいほど熱伝導率の増大に貢献できる。結晶子サイズが大きいと熱伝導率の増大に貢献できるが、実用的な観点や熱伝導性フィラーのメジアン径等に対する影響があるからである。結晶子サイズの範囲は、これらの各下限値及び上限値をいずれかを組み合わせて設定することができるが、例えば、50nm以上300nm以下、また例えば、50nm以上200nm以下、また例えば、80nm以上200nm以下、また例えば、100nm以上200nm以下、また例えば、100nm以上190nm以下、また例えば、110nm以上190mn以下、などとすることができる。本シルセスキオキサン誘導体においては、用いる熱伝導性フィラーの結晶子サイズを選択することで、硬化物の熱伝導率を向上させることができる。なお、熱伝導性フィラーの結晶子サイズは、実施例に開示する方法(X線回折法)で測定することができる。
【0087】
窒化ホウ素などの熱伝導性フィラーは、選択配向関数における選択配向パラメータとして、例えば、0.700以上1.300以下、また例えば、0.800以上1.200以下、また例えば、0.850以上1.150以下、また例えば、0.900以上1.100以下、さらに例えば0.970以上1.030以下、また例えば、0.975以上1.025以下、また例えば、0.980以上1.020以下、また例えば、0.985以上1.015以下、また例えば、0.990以上1.010以下、0.995以上1.005以下などとすることができる。本シルセスキオキサン誘導体においては、用いる熱伝導性フィラーの選択配向パラメータが1.000により近い値を選択することで、硬化物の熱伝導率を向上させることができる。尚、選択配向パラメータが1の場合は、配向性がないことを意味し、1に近いほど配向性が小さいことを意味する。
【0088】
選択配向パラメータは、選択配向関数に関する値であって、配向状態の指標となる値である。選択配向パラメータは、文献(W. A. Dollase, J. Appl. Crystallogr., 19, 267(1986))で述べられている。選択配向パラメータは、粉末X線回折シュミレーションを行って規定される。選択配向パラメータ(r値)を0.5から5まで変化させたときの(002)面と(100)面のピーク強度比(I1/I2)を求め、r値とI1/I2との関係を最小二乗法で累乗式に近似される。なお、r値は、約1の時に無配向状態にあり、無配向状態を基準にr値が大きいとa面(つまり(100)面)配向性が強く、r値が小さいとc面(つまり(001)面)配向性が強いといえる。選択配向パラメータは、粉末X線回折につき、一般的なリートベルト解析ソフトウエアを用いたシミュレーションを行って算出される。本明細書における選択配向パラメータは、実施例に開示される方法により具体的に規定される。
【0089】
窒化ホウ素などの熱伝導性フィラーは、メジアン径などの粒子径、結晶子サイズおよび選択配向パラメータを適切に組み合わせることにより、本シルセスキオキサン誘導体との配合による、相加的及び/又は相乗的な効果により、硬化物の熱伝導率を向上させることができる。
【0090】
本組成物が、本シルセスキオキサン誘導体と熱伝導性フィラーとを含む場合、特に限定するものではないが、これらの総体積に対して、例えば、熱伝導性フィラーを20体積%以上95体積%以下、また例えば30体積%以上85体積%以下、また例えば40体積%以上80体積%以下含有することができる。本シルセスキオキサン誘導体は、無機-有機ハイブリッド組成に基づいて、セラミックスなどの熱伝導性フィラーの分散性に優れており、熱伝導性フィラーを高濃度に含有していても、加工性及び流動性に優れた本組成物を調製することができる。なかでも、窒化ホウ素の分散性及び充填性に関し、従来のシルセスキオキサン化合物よりも優れており、分散性、充填性に課題のある鱗片状の窒化ホウ素などのフィラーであっても、充填性を高めた硬化物を得ることができる。
【0091】
本組成物は、本シルセスキオキサン誘導体及び熱伝導性フィラーのほか、必要に応じて他の成分を含むことができる。例えば、シルセスキオキサン化合物以外の樹脂成分、酸化防止剤、難燃剤、着色剤等の添加剤が挙げられる。
【0092】
また、本硬化性組成物は、必要に応じて、後述する本シルセスキオキサン誘導体のための溶剤、触媒などを含むことができる。なお、溶剤及び触媒は、後述する硬化物の製造において添加することも可能である。
【0093】
本組成物に、以下で説明する本シルセスキオキサン誘導体の硬化方法に従って熱処理をほどこすことで、本シルセスキオキサン誘導体を硬化させて、熱伝導性フィラーを含む硬化物などを得ることができる。
【0094】
<本シルセスキオキサン誘導体の硬化物及びシルセスキオキサン誘導体の硬化方法>
シルセスキオキサン誘導体は、本シルセスキオキサン誘導体中のアルコキシシリル基の加水分解・重縮合及び/又はシルセスキオキサン誘導体中のヒドロシリル基とヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和基とのヒドロシリル化反応によって、架橋構造を有するシルセスキオキサン誘導体の硬化物(以下、本硬化物ともいう。)を得ることができる。本硬化物の製造は、無触媒であってもよいし、ヒドロシリル化反応用の触媒の使用を伴っていてもよい。硬化のために用いうる触媒については後段で詳述する。
【0095】
硬化反応は、本シルセスキオキサン誘導体は、特に限定するものではないが、例えば、概して、加熱処理により、アルコキシシリル基の加水分解・重縮合及び/又はヒドロシリル基とヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和基とのヒドロシリル化反応による架橋構造を備える硬化物とすることができる。ヒドロシリル化触媒を用いない場合には、例えば、100℃の温度で加熱することが好ましい。100℃未満であると、未反応のアルコキシシリル基やヒドロシリル基が残存しやすくなる傾向があるからである。また例えば、200℃以上300℃以下程度で加熱することで容易に加熱した硬化物を得ることができる。
【0096】
また、ヒドロシリル化反応用の触媒を使用する場合、より低い温度(例えば、室温~200℃、好ましくは50℃~150℃、より好ましくは100℃~150℃)で硬化物を得ることができる。この場合の硬化時間は、通常、0.05~24時間であり、0.1~5時間が好ましい。触媒の存在下では、100℃以上であれば、十分に、加水分解・重縮合とヒドロシリル化反応による硬化物を得ることができる。
【0097】
ヒドロシリル化反応用の触媒としては、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金等の第8属から第10属金属の単体、有機金属錯体、金属塩、金属酸化物等が挙げられる。通常、白金系触媒が使用される。白金系触媒としては、cis-PtCl2(PhCN)2、白金カーボン、1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサンが配位した白金錯体(Pt(dvs))、白金ビニルメチル環状シロキサン錯体、白金カルボニル・ビニルメチル環状シロキサン錯体、トリス(ジベンジリデンアセトン)二白金、塩化白金酸、ビス(エチレン)テトラクロロ二白金、シクロオクタジエンジクロロ白金、ビス(シクロオクタジエン)白金、ビス(ジメチルフェニルホスフィン)ジクロロ白金、テトラキス(トリフェニルホスフィン)白金等が例示される。これらのうち、特に好ましくは1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサンが配位した白金錯体(Pt(dvs))、白金ビニルメチル環状シロキサン錯体、白金カルボニル・ビニルメチル環状シロキサン錯体である。なお、Phはフェニル基を表す。触媒の使用量は、シルセスキオキサン誘導体の量に対して、0.1質量ppm~1000質量ppmであることが好ましく、0.5~100質量ppmであることがより好ましく、1~50質量ppmであることが更に好ましい。
【0098】
ヒドロシリル化反応用の触媒を使用する場合、触媒が添加された本シルセスキオキサン誘導体のゲル化抑制および保存安定性向上のため、ヒドロシリル化反応抑制剤が添加されてもよい。ヒドロシリル化反応抑制剤の例としては、メチルビニルシクロテトラシロキサン、アセチレンアルコール類、シロキサン変性アセチレンアルコール類、ハイドロパーオキサイド、窒素原子、イオウ原子またはリン原子を含有するヒドロシリル化反応抑制剤などが挙げられる。
【0099】
本シルセスキオキサン誘導体の硬化工程は、触媒の有無に関わらず、空気中で行われてもよいし、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気中で行ってもよく、また、減圧下で行ってもよい。
【0100】
(本硬化物の熱伝導性)
本硬化物の25℃での熱伝導率は、例えば、0.22W/mk以上である。また例えば、0.23W/mk以上であり、また例えば、0.24W/mk以上であり、また例えば、0.25W/mk以上であり、また例えば、0.26W/mk以上である。
【0101】
なお、本シルセスキオキサン誘導体の成型物(硬化物)は、以下の方法で取得することができる。例えば、本シルセスキオキサン誘導体1gに対して白金触媒20mg滴下し、よく攪拌した。得られた液をアルミナ製の坩堝に移し、送風オーブン中150℃で1時間加熱して硬化物とし、以下の評価に用いる。なお、本シルセスキオキサン誘導体の採取量及び白金触媒の採取量は、必要とする測定試料の大きさに合わせてその量比を維持したまま適宜変更することができる。
【0102】
熱伝導率λ(W/m・K)は、密度ρ(g/cm3)、比熱c(J/g・K)、熱拡散率α(mm2/s)の値を用い、以下の式aに基づいて算出することができる。
λ=α・ρ・c (a)
【0103】
密度は、アルキメデスの原理に則り、空気中及び純水中での質量を電子天秤で測定した値から以下の式bを用いて算出する。式中、Mは質量を示す。
【数1】
【0104】
なお、測定は25℃で実施し、25℃での純水の密度については、流体工業株式会社ホームページ (https://www.ryutai.co.jp/shiryou/liquid/water-mitsudo-1.htm)で公開されている値(997.062)を使用した。
【0105】
比熱の測定は、DSC(TA Instruments社製Q100)を使用し、標準物質にはアルミナ粉末(住友化学株式会社製AKP-30)を比熱0.78(J/g・K)として行った。測定は空容器・標準物質・被験サンプル各々に対して昇温速度10℃/minで行い、25℃での標準物質・被験サンプル各々の熱流(mW)と空容器の熱流の差H及び測定時の質量Mを用いて式cより算出することができる。
【数2】
【0106】
熱拡散率測定はレーザーフラッシュ法(Netzsch社製LFA-467)で、25℃で実施した。サンプルは、本シルセスキオキサン誘導体を1.2cm×1.2cm、厚み0.5~1mmに成型したもの(硬化物)を用いる。また、測定時にはレーザーの反射を抑制する為、カーボンスプレーでサンプル表面を塗装する。測定は1サンプルにつき3回実施し、その平均値を熱拡散率として熱伝導率の計算に使用することができる。
【0107】
本硬化物の耐熱性は、示差熱熱重量同時測定(TG/DTA)装置などにより評価することができる。例えば、Ptパンに硬化物を秤量し、空気中、10℃/minで昇温して重量及び発熱の挙動を評価する。測定装置は、セイコーインスツルメンツ株式会社製EXSTAR6000 TG/DTA 6300又はその同等物を用いることができる。
【0108】
本硬化物は、本硬化物は、これらの各種特性をいずれも備えていることが好適である。
【0109】
本シルセスキオキサン誘導体の硬化は種々の形態で実施が可能である。例えば、本シルセスキオキサン誘導体は、25℃における粘度が、100,000mPa・s以下の液状物質であるので、硬化にあたって、基材に対してそのまま塗布することができるが、必要に応じて溶剤で希釈して使用することもできる。溶剤を使用する場合、本シルセスキオキサン誘導体を溶解する溶剤が好ましく、その例としては、脂肪族系炭化水素溶剤、芳香族系炭化水素溶剤、塩素化炭化水素溶剤、アルコール溶剤、エーテル溶剤、アミド溶剤、ケトン溶剤、エステル溶剤、セロソルブ溶剤等の各種有機溶剤を挙げることができる。溶剤が使用された場合は、シルセスキオキサン誘導体の硬化のための加熱に先立って、含まれる溶剤を揮発させることが好ましい。溶剤の揮発は空気中でなされてもよく、不活性ガス雰囲気中でなされてもよく、また、減圧下でなされてもよい。溶剤の揮発のため加熱してもよいが、その場合の加熱温度は、200℃未満が好ましく、50℃以上150℃以下がより好ましい。本硬化物の他の製造方法において、シルセスキオキサン誘導体を50℃以上200℃未満又は50℃以上150℃以下に加熱して一部硬化させ、これを溶剤の揮発工程とすることも可能である。
【0110】
本シルセスキオキサン誘導体は、硬化に供される際に、各種添加剤が添加されてもよい。添加剤の例としては、テトラアルコキシシラン、トリアルコキシシラン類(トリアルコキシシラン、トリアルコキシビニルシランなど)などの反応性希釈剤などが挙げられる。これら添加剤は、得られる本硬化物が熱伝導性や耐熱性を損なわない範囲で使用される。
【0111】
(絶縁要素及びその製造方法、構造体及びその製造方法)
本明細書に開示される絶縁要素は、本硬化物と熱伝導性フィラーとを含有している。絶縁要素は、例えば、熱伝導性フィラーを含む熱硬化性組成物を硬化することにより得ることができる。絶縁要素は、典型的には、本硬化物のマトリックスに熱伝導性フィラーを備える形態となる。
【0112】
絶縁要素は、例えば、本シルセスキオキサン誘導体と熱伝導性フィラーとを混合して熱硬化性組成物(混合物)を調製し、この混合物を、本シルセスキオキサン誘導体の硬化処理温度で処理して硬化物を調製することにより得ることができる。この組成物における本シルセスキオキサン誘導体と熱伝導性フィラーとの配合比は、本組成物において既に記載した態様を採ることができる。また、混合物の調製にあたっては、必要に応じて、適当なアルコールなどの溶剤を用いることで、混合を容易に行うことができる。
【0113】
熱処理工程は、必要に応じて、種々の形態を採ることができる。すなわち、熱処理にあたって、得ようとする硬化物に所望の3次元形態を付与することができるような方法を採ることもできるし、後述するように絶縁対象の絶縁部位に対して層状、膜状又は凹部等に充填するように供給するようにして熱処理することもできる。
【0114】
絶縁要素の3次元形状としては、特に限定するものではないが、フィルム、シートなどの形態を採ることができる。また、成形方法等としては、キャスティング、スピンコート法、バーコート法等の通常の塗工方法を用いることができる。金型を用いた成形方法も用いることができる。
【0115】
こうして得られた絶縁要素は、例えば、シート状やフィルム状の場合、種々の電子部品の絶縁対象の絶縁部位に硬化物として供給して、さらに必要に応じて他の層が積層等されることで構造体を得ることができる。また、本組成物は、絶縁対象の絶縁部位においてその場で硬化されることで、絶縁要素を備える構造体を得ることができる。前者の方法によれば、予めシート状等に成形体されているために、絶縁対象を含んで加熱処理することなく放熱構成が可能となっている。また、後者の方法によれば、本組成物を本シルセスキオキサン誘導体の流動性に依拠して絶縁部位に供給できるために、種々の形状や微細個所への適用が可能である。構造体としては、例えば、絶縁基板などの絶縁材、積層基板、半導体装置などが挙げられる。
【0116】
こうして得られる放熱構造体における熱伝導性フィラーのメジアン径等の粒子径は特に限定されないが、効率的に熱伝導率を発現することから、熱伝導性フィラーとシルセスキオキサン誘導体を含む硬化物からなる放熱構造体の厚さに対するメジアン径の相対比として、好ましくは1%以上、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは7%以上、特に好ましくは10%以上である。
【0117】
(その他の要素及びその他の構造体)
本組成物を接着剤組成物として用いる場合、本硬化物は、絶縁要素に限定されることなく、接合材などの接合要素を構成することができる。また、本組成物をバインダー組成物として用いる場合、例えば、適当なフィラーを含みうる被覆材などの被覆要素、フィラーを含みうるマトリックスである充填材などの内部要素を構成することができる。
【0118】
接合要素については、その形状等は特に限定しないが、例えば、形状としては層状等が挙げられ、適用先としては、従来、シルセスキオキサン誘導体が接合材として適用されていた構造体が挙げられる。被覆要素や内部要素としては、その形状等は特に限定しないが、例えば、形状としては層状等が挙げられ、適用先としては、従来、シルセスキオキサン誘導体の硬化物が被覆材や充填材として適用されていた構造体が挙げられる。
【0119】
また、任意の構造体において接合が求められる部位(接合対象部位)に対して接着剤組成物を供給して提供して硬化させることで、接合要素を備える構造体を提供することができる。また、予め硬化された本硬化物を接合対象部位に供給して、接合要素を備える構造体を提供することもできる。同様に、任意の構造体において被覆が求められる部位(被覆対象部位)や充填が求められる部位(充填対象部位)に対してバインダー組成物の硬化物を、あるいはバインダー組成物をその場硬化した硬化物を供給することで、被覆要素や充填要素を備える構造体を得ることができる。
【実施例】
【0120】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。但し、本発明は、この実施例に何ら限定されるものではない。なお、「Mn」及び「Mw」は、それぞれ、数平均分子量及び重量平均分子量を意味し、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法(以下、「GPC」と略す)により、トルエン溶媒中、40℃において、連結したGPCカラム「TSK gel G4000HX」及び「TSK gel G2000HX」(型式名、東ソー社製)を用いて分離し、リテンションタイムから標準ポリスチレンを用いて分子量を算出したものである。また、得られたシルセスキオキサン誘導体の1H-NMR分析では、試料を、重クロロホルムに溶解し、目的通りの構造になっていることの確認を行った。
【実施例1】
【0121】
(シルセスキオキサン誘導体の合成)
本実施例では、以下の操作によりシルセスキオキサン誘導体を合成した。合成したシルセスキオキサン誘導体の一般式及び置換基を以下に示す。
【0122】
【化3】
シルセスキオキサン誘導体1:R
1=ビニル基、R
2 、R
3= Me
シルセスキオキサン誘導体2:R
1=アリル基、R
2 、R
3 = Ph
【0123】
(合成例1:シルセスキオキサン誘導体1)
温度計・滴下漏斗・攪拌翼を取り付けた200mlの4つ口丸底フラスコにビニルトリメトキシシラン(7.4g、50mmol)、メチルトリエトキシシラン(26.7g、150mmol)、ジメトキシジメチルシラン(3.0g、25mmol)、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(3.4g、25mmol)、キシレン(15g)、2-プロパノール(15g)を量り取り、水浴中20℃程度でよく攪拌した。ここに別途1mol/L塩酸水溶液(0.45g、4.4mmol)、純水(11.4g)、2-プロパノール(4.5g)を混合して調製しておいた溶液を滴下漏斗から1時間程度で滴下し、更に一晩室温で攪拌を続けた。得られた溶液から真空下60℃で溶媒を除去し、無色透明の液体としてシルセスキオキサン誘導体1 19gを得た(収率100%)。
【0124】
(合成例2:シルセスキオキサン誘導体2)
メチルトリエトキシシランの代わりにフェニルトリメトキシシラン(29.7g、150mmol)、ジメトキシジメチルシランの代わりにジメトキシジフェニルシラン(6.1g、25mmol)を使用した以外は全てシルセスキオキサン誘導体1と同様な操作を行うことで、無色透明の液体としてシルセスキオキサン誘導体2 32gを得た(収率100%)。
【0125】
(合成例3及び4)
以下に示すシルセスキオキサン誘導体3及び4を、比較例1及び2として合成した。これらのシルセスキオキサン誘導体の化学構造は実施例1に記載の一般式において以下の置換基を備えるものであり、それぞれ以下の方法で合成した。
シルセスキオキサン誘導体3:R1=ビニル基、R2 =H、R3= Me
シルセスキオキサン誘導体4:R1=アリル基、R2 =H、R3 =Me
【0126】
シルセスキオキサン誘導体3は、合成例1において、メチルトリエトキシシランの代わりにトリエトキシシラン(24.6g、150mmol)を用いる以外は、合成例1と同様に操作して合成した(収率100%、Mw=3830)。また、シルセスキオキサン誘導体4は、ビニルトリメトキシシランの代わりにアリルトリメトキシシラン(8.1g、50mmol)、メチルトリエトキシシランの代わりにトリエトキシシラン(24.6g、150mmol)を用いる以外は合成例1と同様に操作して合成した(収率100%)。
【実施例2】
【0127】
(硬化物の作製及び評価)
実施例1で合成した合成例1~2のシルセスキオキサン誘導体1~2の硬化物を以下の2条件で作製し、熱伝導率及びTG/DTAで予備的に評価したところ、これら2条件での熱的挙動に差異が認められなかったため、より硬化時にクラックが入りにくかった、150℃で触媒を使用した条件[1]を用いた得た硬化物を、製造例1及び2の硬化物として、評価を行った。また、シルセスキオキサン誘導体3~4についても、条件[1]を用いて比較製造例1及び2の硬化物を作製し、評価を行った。
【0128】
[1]150℃、触媒使用
実施例1で合成した各シルセスキオキサン誘導体1gに対して白金触媒(Gelest 社 SIP 6829.2)を20mg滴下し、よく攪拌した。得られた液をアルミナ製の坩堝に移し、送風オーブン中150℃で1時間加熱して硬化物を得た。
【0129】
[2]230℃・触媒不使用
実施例1で合成した各シルセスキオキサン誘導体1gをアルミナ製の坩堝に量り取り、送風オーブン中、120℃で2時間、180℃で2時間、230℃で2時間と段階的に加熱して硬化物を得た。
【0130】
なお、比較例3としてエポキシ樹脂を用いた硬化物を以下の方法で作製した。ビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER828,三菱ケミカル株式会社製)0.8g及びDDM(ジアミノジフェニルメタン,東京化成株式会社製)0.2gを用い、これらを20mlナスフラスコに量り取り、アセトン5gを加えて溶解した後、真空下でアセトンを除去した。得られた油状物質をアルミナ製の坩堝に移し、送風オーブン中150℃で2時間加熱して硬化物を得た。
【0131】
得られた製造例1~2及び比較製造例1~3の硬化物につき、TG/DTA、密度、比熱、熱拡散率及び熱伝導率を測定した。なお、測定方法は以下のとおりとした。
【0132】
(TG/DTA)
シルセスキオキサン誘導体の硬化物を、30℃から1000℃まで昇温し、その間の熱重量減少率で評価した。具体的には、熱分析装置(セイコーインスツルメンツ株式会社製 EXSTAR6000 TG/DTA 6300)を用いて、硬化物を、Ptパンに秤量し、空気中、30℃から1000℃まで10℃/分の昇温速度で昇温してその間の重量及び発熱挙動を評価した。結果を
図1に示す。
【0133】
(密度)
密度は、アルキメデスの原理に則り、空気中及び純水中での質量を電子天秤で測定した値から以下の式bを用いて算出する。式中、Mは質量を示す。結果を、表1に示す。
【数3】
【0134】
なお、測定は25℃で実施し、25℃での純水の密度については、流体工業株式会社ホームページ(https://www.ryutai.co.jp/shiryou/liquid/water-mitsudo-1.htm)で公開されている値(997.062)を使用した。
【0135】
(比熱)
比熱の測定は、DSC(TA Instruments社製Q100)を使用し、標準物質にはアルミナ粉末(住友化学株式会社製AKP-30)を比熱0.78(J/g・K)とし用いて行った。測定は空容器・標準物質・被験サンプル各々に対して昇温速度10℃/minで行い、25℃での標準物質・被験サンプル各々の熱流(mW)と空容器の熱流の差H及び測定時の質量Mを用いて式cより算出した。結果を、表1に示す。
【0136】
【0137】
(熱拡散率)
熱拡散率測定はレーザーフラッシュ法(Netzsch社製LFA-467)で、25℃で実施した。サンプルは、本シルセスキオキサン誘導体を1.2cm×1.2cm、厚み0.5~1mmに成型したものを用いた。また、測定時にはレーザーの反射を抑制する為、カーボンスプレーでサンプル表面を塗装した。測定は1サンプルにつき3回実施し、その平均値を熱拡散率として熱伝導率の計算に使用した。結果を表1に示す。なお、この熱拡散率は、上記成型体の厚み方向で測定した値である。
【0138】
(熱伝導率)
熱伝導率λ(W/m・K)は、密度ρ(g/cm3)、比熱c(J/g・K)、熱拡散率α(mm2/s)の値を用い、以下の式aに基づいて、25℃における熱伝導率を算出することができる。結果を表1に示す。なお、この熱伝導率は、上記成型体の熱拡散率を利用して算出したものであり、上記成型体の厚み方向での値に相当する。
λ=α・ρ・c (a)
【0139】
図1に示すように、R
2としてHを含有するシルセスキオキサン誘導体の硬化物である比較製造例1及び比較製造例2は、200℃近傍から発熱が観察されるのに対して、R
2としてメチル基及びフェニル基をそれぞれ備えるシルセスキオキサン誘導体1及び2の硬化物である製造例1及び製造例2では、より高温まで顕著な発熱が観測されなかった。ここで見られる発熱は酸化反応の発生を示すものであり、製造例1及び同2は、比較製造例1及び2に比べて加熱時の酸化が起こりにくいと言える。すなわち、R
2にHを持たないことにより、より高温または長時間での使用に耐えうることがわかった。
【0140】
熱伝導率について、表1に示すように、シルセスキオキサン誘導体の硬化物である製造例1、同2、比較製造例1及び同2は、いずれも、比較製造例3であるエポキシ樹脂硬化物よりも、熱伝導率が高く、いずれも高熱伝導率であることがわかった。一般に、樹脂の熱伝導率を向上させるのは困難である。これに対して、製造例1及び同2のシルセスキオキサン誘導体1及び2の硬化物は、比較製造例3であるエポキシ樹脂の熱伝導率に対して、それぞれ、126%、135%と極めて高い熱伝導率を呈した。
【0141】
また、製造例1及び同2は、シルセスキオキサン誘導体3及び4の硬化物である比較製造例1及び2の熱伝導性伝導率(平均すると0.231W/m・K)に比較してそれぞれ106%及び114%高い熱伝導率を示した。
【0142】
【0143】
製造例1及び同2の硬化物は、耐熱性にも優れることから、合成例1及び同2のシルセスキオキサン誘導体1,2は、高い熱伝導性、耐熱性が求められる絶縁要素のほか、本シルセスキオキサン誘導体が本来的に有する硬化性能等から高い熱伝導性、耐熱性及び絶縁性のいずれか又はこれらを複合的に求められる接着剤やフィラー用バインダーなどの用途に有用な材料であることがわかった。
【実施例3】
【0144】
(シルセスキオキサン誘導体等と熱伝導性フィラーとのコンポジット(熱硬化物)の作製及びコンポジットの熱伝導率等の評価)
以下に示す方法にて、実施例1で合成したシルセスキオキサン誘導体1及び同3並びに、実施例2の比較製造例3で用いたエポキシ樹脂と、種々の粒子径(メジアン径)、結晶子サイズ及び選択配向パラメータを備える窒化ホウ素(BN)粉末(凝集粉)及びアルミナ(Al2O3)粉末(不定形)を用いて、以下の表2の組成に従いコンポジットを合成した。なお、同一の結晶子サイズ及び選択配向パラメータを備えるBN粉末は、同一種類である。
【0145】
[1]シルセスキオキサン誘導体と熱伝導性フィラーとのコンポジットの作製
ガラス製スクリュー管瓶にシルセスキオキサン誘導体1(SQ)と窒化ホウ素粉末又はアルミナ粉末を表2に示す体積分率となるように合計1g量り取った。ここに2-プロパノール(富士フィルム和光純薬製)1.5gを加え、自転公転ミキサーを用いて1800rpmで1分間攪拌した。得られた溶液は20mlナスフラスコに移液し、エバポレーターで2-プロパノールを除去してコンポジット前駆体を得た。得られたコンポジット前駆体を0.1g量り取り、粉末成型金型(NPaシステム株式会社製オール超硬ダイス、10mm)に移し、真空加熱プレス機中で60MPaの圧力をかけながら真空中120℃で2時間、180℃で2時間、大気中230℃で2時間、段階的に加熱して、最終的に、実施例試料1~6及び比較例試料1のSQ/BNコンポジット及び実施例試料4のSQ/Al2O3コンポジットを得た。
【0146】
[2]エポキシ樹脂と熱伝導性フィラーとのコンポジットの作製
ガラス製スクリュー管瓶に比較製造例3において用いたエポキシ樹脂の油状物質と窒化ホウ素粉末又はアルミナ粉末を表2に示す体積分率となるように合計1g量り取った。ここにアセトン1.5gを加え、自転公転ミキサーを用いて1800rpmで1分間攪拌した。得られた溶液は20mlナスフラスコに移液し、エバポレーターでアセトンを除去してコンポジット前駆体を得た。得られたコンポジット前駆体を0.1g量り取り、粉末成型金型(NPaシステム株式会社製オール超硬ダイス、10mm)に移し、真空加熱プレス機中で60MPaの圧力をかけながら真空中150℃で2時間加熱して、最終的に、比較例試料2のエポキシ/BNコンポジット及び比較例試料3のエポキシ/Al2O3コンポジットを得た。
【0147】
【0148】
なお、窒化ホウ素粉末のメジアン径は、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置により、熱伝導性フィラーの粒径分布を体積基準で作成して得た。
【0149】
X線回折(XRD)は以下の条件で測定した。
装置:D8Advance(ブルカー)
X線源:Cu Kα(λ=1.54Å), 40kV, 40mA
測定範囲:20~90degree
光学系:集中法
【0150】
選択配向パラメータ、及び結晶子のサイズは、上記のX線回折方法で測定して得られた回折パターンをRietveld法(リートベルト法)により精密化して求めた。リートベルト解析には、Bruker社のTOPAS ver.4.2を用いた。選択配向の補正には、March-Dollaseの選択配向関数を、(0 0 2)面に使用した。
【0151】
<コンポジットの熱伝導率>
得られたコンポジットにつき、25℃における熱伝導率を実施例2と同様にして算出した結果を表2に併せて示す。高熱伝導性の窒化ホウ素粉末が、様々な粒子径分布を有していても、本シルセスキオキサン誘導体が良好に分散可能であることを示していると考えられた。
【0152】
また、実施例試料2と比較例試料1との対比によれば、同じ熱伝導性フィラーを用いているにも関わらず、実施例試料2の熱伝導率は、比較例試料1の130%以上となっておいた。これは、実施例試料2に用いた製造例1のシルセスキオキサン誘導体1自体の熱伝導率が、比較例試料1に用いた比較製造例1のシルセスキオキサン誘導体3の107.5%しかないことから、実施例のシルセスキオキサン誘導体とこうした熱伝導性フィラーとの配合が相乗効果を奏していることがわかる。
【0153】
また、熱伝導性フィラーの結晶子サイズと選択配向パラメータとに着目すると、結晶子サイズが大きいほど、選択配向パラメータが1に近いほど、コンポジットの熱伝導率が高くなる傾向が明らかであった。
【0154】
すなわち、実施例試料1~3及び同5~6の結晶子サイズと選択配向パラメータに着目すると、用いるシルセスキオキサン誘導体が同一であっても、熱伝導性フィラーの結晶子サイズと選択配向パラメータとの選択によっては、最大2倍程度(実施例試料1の熱伝導率が7.5であるのに対し、実施例試料6の熱伝導率は15.0である。)まで熱伝導率が変化することがわかる。
【0155】
また、同等のメジアン径(90μm)を有するが、異なる結晶子サイズと選択配向パラメータとを有するBN粉末を用いた実施例試料3と同5の対比からは、用いる窒化ホウ素などの熱伝導性フィラーの結晶子サイズが大きくなり、選択配向パラメータが1に近づくほど熱伝導率は増大することがわかる。
【0156】
さらにまた、実施例試料5と同6とを対比してみても、用いる窒化ホウ素などの熱伝導性フィラーの結晶子サイズがより大きく、選択配向パラメータがより1に近ければ、熱伝導率が増大することがわかる(実施例試料5の熱伝導率は、11.0であるのに対して実施例試料6の熱伝導率は15.0である。)。
【0157】
さらに、実施例試料1~3及び同5~6の熱伝導率と用いたBN粉末の選択配向パラメータに着目すると、BN粉末の選択配向パラメータが1に近くなる傾向と、試料の熱伝導率の増大傾向とは強い関連性があることがわかる。一方、同一試料について、用いたBN粉末の結晶子サイズに着目すると、結晶子サイズの増大傾向と試料の熱伝導率の増大傾向とは必ずしも強い関連があるとはいえないことがわかる。すなわち、シルセスキオキサン誘導体コンポジットの熱伝導率は、用いる熱伝導性フィラーの選択配向パラメータにより強く依存していることがわかる(特に、実施例試料1と実施例試料5~6との対比において明らかである。)。
【0158】
また、結晶子とは単結晶と認識し得る(by XRD, TEM, etc.)範囲を示すもので、そのサイズが大きい方が、粒子中の結晶粒界が少なくなり、フォノンの散乱の頻度が低下し、熱伝導率が向上すると考えられる。上記結果は、熱伝導性フィラーの結晶子サイズの大きいことが熱伝導率に貢献していることを示しているといえる。
【0159】
なお、以上の結果からは、用いる熱伝導性フィラーのメジアン径自体が、熱伝導率の増大に強く関連するとはいえない。一般に、選択配向パラメータがより1に近い粉末粒子は、一次粒子が多数凝集した二次粒子で構成されるであろうこと、及び、結晶子サイズの大きさは一次粒子の大きさに関連すると考えられる。さらに、熱伝導性フィラーのシルセスキオキサン誘導体における分散性はメジアン径が関連すると考えられる。以上のことを考慮して表2を参照すると、熱伝導性フィラーのメジアン径は、20μm程度から、100μm程度以下が好適な場合があることがわかる。
【0160】
表2に示すように、実施例試料2と比較例試料1との対比から、本シルセスキオキサン誘導体を用いたコンポジットは、従来のシルセスキオキサン誘導体を用いたコンポジットに比較して高い熱伝導率を発揮することがわかった。すなわち、比較例1のシルセスキオキサン誘導体3を使用した場合の熱伝導率は9.6W/mKであったのに対し、合成例1のシルセスキオキサン誘導体1を使用した場合では12.5W/mKと、比較例1のシルセスキオキサン誘導体3よりも30%以上高い値が得られた。
【0161】
また、実施例試料1と比較例試料2との対比から、本シルセスキオキサン誘導体は、従来用いられてきたエポキシ樹脂に比較して、優れた熱伝導率を発揮することがわかった。すなわち、シルセスキオキサン誘導体1を使用した場合、熱伝導率は7.5W/mKであったのに対し、エポキシ樹脂を使用した場合では4.4W/mKと、低い値となった。シルセスキオキサン誘導体1を使用した場合の実測密度は体積分率より算出される理論密度と同等であったのに対し、エポキシを使用した場合の密度は理論密度よりも10%低い値となった。すなわち、10%程度の体積の空隙がコンポジット中に発生していると言える。このことからシルセスキオキサン誘導体はエポキシ樹脂に対して窒化ホウ素への濡れ性が優れていると考えられる。
【0162】
<コンポジットの熱伝導率からみた耐熱性>
実施例試料4及び比較例試料3につき、送風オーブン中、230℃で100時間の加熱を行い、加熱前後での熱伝導率を測定し、その変化を評価した。加熱後の熱伝導率を加熱前の熱伝導率で除し、その値を1から差し引いて100を乗した値を「減少率」とした結果を、併せて表2に示す。
【0163】
表2に示すように、本シルセスキオキサン誘導体を使用した場合では減少率は3%未満であったのに対し、エポキシ樹脂を使用した場合には15%程度の減少率であった。本シルセスキオキサン誘導体は、耐酸化性及び耐熱性にも優れるため、結果として、熱に抗して、高い熱伝導率を維持できるという効果を備えることがわかった。このことは、本シルセスキオキサン誘導体は、フィラーのバインダーや接着剤としても優れた耐熱性を有していることを示している。
【0164】
<絶縁耐力>
実施例試料3のコンポジットにつき、25℃及び205℃における絶縁破壊試験を行い、絶縁耐力を測定した。絶縁破壊試験は、YAMABISHI社製 YHTA/D-30K-2KDRを制御装置とし、JIS C2110-1に準拠して印加電圧60Hz交流、500V/sec.で昇圧して10mA以上の電流が流れた際の電圧値を絶縁破壊電圧とした。さらにこの絶縁破壊電圧値を、サンプル中で破壊が起こった箇所の厚みで除すことで、絶縁耐力とした。試験はシリコーンオイル中、25℃と205℃で実施し、電極は両極とも6mmΦの棒電極とした。結果を表2に併せて示す。
【0165】
表2に示すように、絶縁耐力は、61.6kV/mm(25℃)及び50.0kV/mm(205℃)であり、温度にかかわらず、高い絶縁性を示した。本シルセスキオキサン誘導体は、非常に優れた耐熱絶縁高熱伝導材料を形成できることがわかった。