(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】畳表、畳表織機、及び畳表の製造方法
(51)【国際特許分類】
E04F 15/02 20060101AFI20231213BHJP
D03D 47/39 20060101ALI20231213BHJP
D06M 15/277 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
E04F15/02 104A
D03D47/39 F
D03D47/39 Z
D06M15/277
(21)【出願番号】P 2019038649
(22)【出願日】2019-03-04
【審査請求日】2022-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】593005220
【氏名又は名称】東海機器工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】内藤 誠治
【審査官】吉村 庄太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-001336(JP,A)
【文献】登録実用新案第3160216(JP,U)
【文献】特開昭63-243378(JP,A)
【文献】特開平03-124845(JP,A)
【文献】実開昭53-064773(JP,U)
【文献】特開2002-188276(JP,A)
【文献】登録実用新案第3141809(JP,U)
【文献】特開平01-092447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 15/02
D03D 1/00-27/18
D03D 47/39
D06M 15/277
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然い草を織って形成された天然い草の畳目と、
工業い草を織って形成された工業い草の畳目と、
を備え、
前記天然い草の畳目と前記工業い草の畳目とが規則的に配置され
、
前記工業い草の直径は、前記天然い草の直径の60%~90%の範囲内に設定されている畳表。
【請求項2】
前記天然い草の本数の割合は、前記天然い草と前記工業い草との総量に対して25%~75%の範囲内に設定されている、
請求項1に記載の畳表。
【請求項3】
前記工業い草は、前記天然い草よりも剛性が弱く設定されている、
請求項1または2に記載の畳表。
【請求項4】
前記天然い草は、撥水撥油加工が施されたものである、
請求項1から
3のいずれか一項に記載の畳表。
【請求項5】
前記工業い草は、着色されたものである、
請求項1から
4のいずれか一項に記載の畳表。
【請求項6】
請求項1から
5のいずれか一項に記載の畳表を製造するための畳表織機であって、
い草の投入を受けて前記い草を織って畳表を形成する織機本体と、
い草の束が配置されて前記い草の束の中から前記い草を1本ずつ前記織機本体に投入する少なくとも3つの投入部と、
を備えている畳表織機。
【請求項7】
前記投入部は、前記織機本体の左右両側に2つずつ設けられている、
請求項
6に記載の畳表織機。
【請求項8】
各前記投入部によるい草の投入順序を制御可能な制御装置を更に備えている、
請求項
6又は
7に記載の畳表織機。
【請求項9】
請求項
6から
8のいずれか一項に記載の畳表織機を用いた畳表の製造方法であって、
各前記投入部から天然い草または工業い草を所定本数ずつ前記織機本体に投入する工程、を備える畳表の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、畳表、畳表織機、及び畳表の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本古来より、畳表の主要原料として天然い草が用いられている。天然い草は、有害物質の吸着機能や調湿機能、更には独自の良い香りや手触りを備えており、住空間の快適性の向上に寄与する。しかしながら、近年、天然い草の栽培農家が減少しており、天然い草の供給量が減って価格が高騰している。そのため、天然い草を用いた畳表の市場への出荷量が年々減少している。そこで、天然い草の代わりとして安価な工業い草を用いた畳表の出荷量が増えている。
【0003】
しかしながら、工業い草を用いた畳表は、外見は天然い草を用いた畳表に類似しているが、天然い草が備える有害物質の吸着機能や調湿機能を備えておらず、また、天然い草のような良い香りや手触りを備えていない。そのため、住空間の快適性の向上には寄与し難かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、住空間の快適性の向上に寄与し、かつ安価な畳表、その畳表を製造するための畳表織機、及びその畳表の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の畳表は、天然い草を織って形成された天然い草の畳目と、工業い草を織って形成された工業い草の畳目と、を備えている。
【0007】
実施形態の畳表織機は、い草の投入を受けて前記い草を織って畳表を形成する織機本体と、複数本のい草が配置されて前記い草を1本ずつ前記織機本体に投入する少なくとも3つの投入部と、を備えている。
【0008】
実施形態の畳表の製造方法は、上記の畳表織機を用いた畳表の製造方法であって、左右両側の2つの前記投入部のうち一方の前記投入部には前記天然い草の穂先を投入方向側に向けて配置し他方の前記投入部には前記天然い草の根本を投入方向側に向けて配置するとともに残りの前記投入部に工業い草を配置する工程と、各前記投入部から天然い草または工業い草を所定本数ずつ前記織機本体に投入する工程と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態による畳表の一例を示す図(その1)
【
図2】一実施形態による畳表の一例を示す図(その2)
【
図3】一実施形態による畳表の一例を示す図(その3)
【
図4】一実施形態による畳表の一例を示す図(その4)
【
図5】一実施形態について、天然い草と工業い草の直径の範囲の一例を示す図
【
図6】一実施形態による畳表織機の構成を概念的に示す図
【
図7】一実施形態による畳表織機の動作順序の一例を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
まず、本実施形態の畳表について
図1~
図5を参照して説明する。
図1~
図4に示す畳表1~4は、本発明の畳表の一例であって、それぞれ天然い草11を織って形成された天然い草の畳目10と、工業い草21を織って形成された工業い草の畳目20と、を1枚の畳表に形成したものである。
図1~
図4に示すように、本実施形態において天然い草11を織って形成された天然い草の畳目10は白色若しくは薄い灰色部分であって天然のい草そのものの色である。また、工業い草21を織って形成された工業い草の畳目20は濃い灰色部分である。本実施形態の場合、工業い草21は、青や赤等の任意の色に着色されている。
【0011】
本実施形態の場合、天然い草11は、い草農家が農地で農業的手法を用いて生産されたものであり、いわゆる天然素材である。工業い草21は、工業的手法によって例えば工場で製造されたものであり、いわゆる人工素材である。工業い草21は、人工い草とも称され、例えば和紙などの紙材を撚って長尺の棒状に形成されている。工業い草21は、必要に応じて、着色加工、着香加工、撥水撥油加工、抗菌加工などが施されている。
【0012】
本実施形態の場合、1枚の畳表において、天然い草11の本数の割合は、天然い草11と工業い草21との総量に対して25%~75%の範囲内に設定されている。この場合、1枚の畳表に占める天然い草11の本数と工業い草21の本数との比率は、天然い草の畳目10の全面積と工業い草の畳目20の全面積との比率に等しい。そのため、1枚の畳表に示す天然い草の畳目10の全面積は、当該畳表全体の面積の25%~75%の範囲内に設定されている。換言すれば、1枚の畳表に示す工業い草の畳目20の全面積は、当該畳表全体の面積の75%~25%の範囲内に設定されている。
【0013】
また、
図5に示すように、本実施形態において、工業い草21の直径は、天然い草11の直径よりも大きくつまり太く設定されている。この場合、工業い草21の直径は、天然い草11の直径の60%~90%の範囲内に設定されている、本実施形態の場合、天然い草11は、その直径が1.4mm~1.6mmの範囲内のもの、つまり1.5mm±0.1mmのものを採用している。これに対し、工業い草21の直径は、1.0mm~1.2mmの範囲内、つまり1.1mm±0.1mmの範囲内に設定されている。これにより、本実施形態の工業い草21は、当該工業い草21の直径が天然い草11の直径よりも小さい値に設定されていることにより、天然い草11よりも剛性が弱く設定されている。
【0014】
また、本実施形態の場合、天然い草11は、撥水撥油加工が施されている。撥水撥油加工は、例えば天然い草11を水性エマルジョンタイプ又は水性ディスパージョンタイプのフッ素系撥水撥油剤を含む液体に浸し、その後、乾燥機などにより加熱乾燥を行うことで行われる。これにより、撥水撥油加工が施された天然い草11は、水だけでなく油などの液体もはじくことができ、これにより、水、コーヒー、ワイン、ミルクといった水溶性の液体のみならず、油、アルコールなどの浸透性の高い液体の付着も防ぐことができる。
【0015】
次に、
図6を参照して、本実施形態の畳表を製造するための畳表織機30について説明する。畳表織機30は、い草の投入を受けて畳表を織ることができるものである。畳表織機30は、織機本体31と、縦糸供給部32と、少なくとも3つこの場合4つの投入部331~334と、制御装置35と、を備えている。
【0016】
織機本体31は、い草の投入を受けて、そのい草を縦糸とともに織って畳表を形成するものであり、公知の構成である。縦糸供給部32は、織機本体31に縦糸を供給するものであり、公知の構成である。投入部331~334は、それぞれ、天然い草11又は工業い草21の束が配置されて、このい草の束の中からい草を1本ずつ織機本体31に投入する機能を有する。投入部331~334は、例えば畳表織機30の運転中は常に回転するローラを有しており、このローラにい草を1本ずつ接触させることで、い草を1本ずつ織機本体31に飛ばして供給する構成である。
【0017】
本実施形態の場合、各投入部331~334の機械的構成は同一である。作業者90側を正面とした場合に、各投入部331~334のうち作業者90から見て左前側の投入部331を左前投入部331と称し、作業者90から見て左後側の投入部332を左後投入部332と称する。また、作業者90から見て右前側の投入部333を右前投入部333と称し、作業者90から見て右後側の投入部334を右後投入部334と称する。
【0018】
この場合、投入部331~334は、織機本体31の左右両側に2つずつ設けられている。すなわち、織機本体31の左側には2つの投入部331、332が設けられており、織機本体31の右側には2つの投入部333、334が設けられている。そして、複数の投入部、この場合、4つの投入部331~334のうち少なくとも1つには、天然い草11の束が配置される。また、4つの投入部331~334のうち少なくとも1つには、工業い草21の束が配置される。
【0019】
制御装置35は、例えば図示しないCPUや、ROM、RAM、及び書き換え可能なフラッシュメモリなどの記憶領域を有するマイクロコンピュータを主体に構成されており、畳表織機30の全体を制御する。制御装置35は、畳表の製造プログラムを記憶している。制御装置35は、CPUにおいて畳表の製造プログラムを実行することにより、投入部331~334及び織機本体31の動作を制御して畳表を製造する。この場合、制御装置35は、各投入部331~334によるい草の投入順序を制御することができる。すなわち、制御装置35は、予め決められた順序で予め決められた所定本数ずつ、各投入部331~334から織機本体31にい草を投入する。
【0020】
次に、上記の畳表織機30を用いた畳表の製造方法について説明する。作業者90は、畳表織機30の運転に先立って、畳表の原料となるい草を各投入部331~334に配置する工程を実行する。この工程において、作業者90は、4つの投入部331~334のうち例えば左右一対の投入部、この場合、左前投入部331及び右前投入部333に、天然い草11の束を配置する。また、作業者90は、4つの投入部331~334のうち例えば左後投入部332及び右後投入部334に、工業い草21の束を配置する。
【0021】
次に、作業者90が畳表織機30を動作させると、制御装置35は、各投入部331~334を動作させて、各投入部331~334から天然い草11または工業い草21を所定本数ずつ織機本体31に投入する工程を実行するとともに、織機本体31において畳表を織る工程を実行する。
【0022】
この場合、作業者90は、制御装置35の図示しない操作パネル等を操作して、各投入部331~334によるい草の投入パターンを選択して実行する。
図7は、各投入部331~334によるい草の投入パターンの一例である。
図7に示された「左前」は、左前投入部331から1本のい草を織機本体31に投入することを意味し、「右前」は、右前投入部333から1本のい草を織機本体31に投入することを意味する。同様に、「左後」は、左後投入部332から1本のい草を織機本体31に投入することを意味し、「右後」は、右後投入部334から1本のい草を織機本体31に投入することを意味する。そして、「所定回数」は、上述した投入部311~334によるい草の投入を予め設定された回数繰り返すことを意味する。
【0023】
この場合、
図7のNo.1が選択されると、畳表織機30は、ステップS11を所定回数繰り返し、その後、ステップS12を所定回数繰り返し、その後、ステップS13を所定回数繰り返し、その後、ステップS14を所定回数繰り返す。そして、再びステップS11へ処理を戻す。同様に、No.2が選択された場合は、ステップS21~S24を繰り返し、No.3が選択された場合は、ステップS31~S34を繰り返す。これにより、例えば
図1~
図4に示したような、天然い草11と工業い草21とが混在した様々な模様を備える畳表、つまり天然い草の畳目10と工業い草の畳目20との両方を同時に備える畳表を製造することができる。
【0024】
以上説明した実施形態によれば、例示した畳表1~4は、天然い草11を織って形成された天然い草の畳目10と、工業い草21を織って形成された工業い草の畳目20と、を備えている。これによれば、天然い草11を使用することで天然い草11の有害物質の吸着機能や調湿機能を発揮し、更には独自の良い香りや手触りを備えつつ、工業い草21に比べて高価な天然い草11の使用量を低減することができる。その結果、天然い草11の特性により住空間の快適性の向上に寄与し、かつ安価な畳表を提供することができる。
【0025】
また、天然い草11の本数の割合は、天然い草11と工業い草21との総量、つまり1枚の畳表に使用されるい草の総本数の25%~75%の範囲内に設定されている。これによれば、天然い草11の割合を増やした場合には、価格を押さえつつ天然い草11の機能をより目立たせて高品質感や高級感を出すことができる。また、工業い草21の割合を増やした場合には、天然い草11の特性を発揮しつつ、より安価することができる。このように、天然い草11と工業い草21との割合を上記したものとすることで、品質と価格を消費者のニーズに合わせて適切に調整することができる。
【0026】
また、工業い草21は、天然い草11よりも剛性が弱く設定されている。これによれば、ユーザが畳表を触った際に、ユーザに対して、工業い草21の手触りよりも天然い草11の手触りの方をより強く感じさせることができる。その結果、手触りをより向上させることができる。
【0027】
工業い草21は、工業い草21の直径が天然い草11の直径よりも小さい値に設定されていることにより天然い草11よりも剛性が弱く設定されている。この場合、工業い草21は、和紙を撚り合わせるなどして工業的手法により製造されているため、直径を比較的調整し易い。したがって、これによれば、天然い草11と工業い草21との剛性の関係をより簡単に調整することができる。
【0028】
また、工業い草21の直径は、天然い草11の直径の60%~90%の範囲内に設定されている。これによれば、工業い草21の適切な剛性を維持して畳表が過剰に弱くなってしまうことを防ぐことができる。その結果、天然い草11の手触りをより感じさせ易くしつつ、耐久性に優れる畳表を提供することができる。
【0029】
天然い草11は、撥水撥油加工が施されたものである。これによれば、工業い草21だけでなく天然い草11についても撥水撥油加工を施すことで、天然い草11と工業い草21とを混在させた畳表においても、全て工業い草21で構成された畳表と同等程度の撥水撥油作用を奏することができる。その結果、天然い草11を用いた畳表であるにもかかわらず、従来の天然い草では実現できなかった撥水撥油性を有する畳表を実現することができる。
【0030】
ここで、天然い草11は、天然素材であるため着色がし難い。そのため、天然い草11を用いた畳表は、い草そのものの色彩を用いるため、多彩なカラーバリエーションができなかった。これに対し、本実施形態の畳表は、天然い草11と工業い草21とが混在しており、更に工業い草21は、着色されたものである。そのため、本実施形態によれば、天然い草11と工業い草21とが混在したものであるにも関わらず、工業い草21の色彩を任意に変更することによって多彩なカラーバリエーションを実現することができる。
【0031】
ここで、通常、天然い草と工業い草とでは直径や剛性などが異なっている。このため、従来の畳表織機において、天然い草と工業い草とを予め混合して投入部に配置すると、直径が異なることから投入の失敗が増えてしまい、畳表の生産効率が著しく低下してしまう。そのため、従来の畳表の分野においては、直径などの特性が異なる天然い草と工業い草とを同一の畳表に混在させるという発想が存在しなかった。
【0032】
これに対し、本実施形態によれば、畳表織機30は、織機本体31と、少なくとも3つの投入部、この場合、左右2対、4つの投入部331~334を備えている。織機本体31は、い草11、21の投入を受けてい草11、21を織って畳表を形成する。投入部331~334は、い草11、21の束が配置されてい草11、21の束の中からい草11、21を1本ずつ織機本体31に投入する。そのため、各投入部331~334に、それぞれ天然い草11と工業い草21とを混在させない状態で配置することができる。これにより投入の失敗を防ぎ、その結果、天然い草11と工業い草21とを混在させた場合であっても、い草の投入の失敗により畳表の製造効率が低下することを抑制することができる。
【0033】
この場合、投入部331~334は、織機本体31の左右両側に2つずつ設けられている。そして、畳表織機30は、各投入部331~334によるい草11、21の投入順序を制御可能な制御装置35を更に備えている。そして、この畳表織機30を用いた畳表の製造方法は、各投入部331~334から天然い草または工業い草を所定本数ずつ織機本体31に投入する工程を備えている。
【0034】
これによれば、天然い草11と工業い草21の投入順序つまり配置を調整することで、任意の模様を形成することができる。その結果、天然い草11を用いた畳表において、従来になかった模様を実現することができる。
【0035】
なお、上記説明した各実施形態は、上記し且つ図面に記載した各実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更することができる。
例えば
図1~
図4に示す畳表1~4は、あくまで例示したものにすぎず、他の模様や配置、混合比率とすることは当然にできる。
【符号の説明】
【0036】
図面中、10は天然い草の畳目、11は天然い草、20は工業い草の畳目、21は工業い草、30は畳表織機、31は織機本体、331は左前投入部、332は左後投入部、333は右前投入部、334は右後投入部、34は制御装置、を示す。