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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】ダイカスト金型用スプールブッシュ
(51)【国際特許分類】
   B22D 17/22 20060101AFI20231213BHJP
【FI】
B22D17/22 F
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020053873
(22)【出願日】2020-03-25
(65)【公開番号】P2021154292
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】502281574
【氏名又は名称】株式会社吉田金型工業
(74)【代理人】
【識別番号】100098615
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 学
(74)【代理人】
【識別番号】100165489
【弁理士】
【氏名又は名称】榊原 靖
(72)【発明者】
【氏名】吉田 正生
(72)【発明者】
【氏名】江部 幸造
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-110156(JP,U)
【文献】特開2006-326635(JP,A)
【文献】特開平10-328804(JP,A)
【文献】実開平04-011613(JP,U)
【文献】実開昭61-027550(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 17/20-17/22
B22C 9/06-9/08
B29C 45/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属溶湯をダイカスト金型に圧入する流路に用いるスプールブッシュであって、
全体が円筒形状で且つ外周面に冷却水の流路が形成されたブッシュ本体と、
上記ブッシュ本体の内周面側の全長沿って挿入され且つ中空部を有するインナースリーブと、
上記ブッシュ本体の外周面および上記冷却水の流路の開口部を覆う取り外し可能なアウタースリーブと、
上記ブッシュ本体、インナースリーブ、およびアウタースリーブにおけるダイカスト金型側の各端面に、前記ダイカスト金型とは反対側の端面が面接触し且つ取り除き可能に配置されるテーパーリングと、を備え
上記テーパーリングの内部には、軸方向の視覚で正多角形状あるいは円形状を呈する冷却水の循環流路が内蔵されており、
上記テーパーリングの中心側には、軸方向に沿って上記ダイカスト金型側が拡大するように傾斜するテーパー孔が内設され、該テーパー孔の傾斜は、上記インナースリーブの中空部における上記ダイカスト金型側の内周面まで連続している、
ダイカスト金型用スプールブッシュ。
【請求項2】
前記ブッシュ本体の外周面の円周方向に沿った前記冷却水の流路の前後両側には、凹溝が個別に形成され、該凹溝内ごとには該凹溝の外側に突出する外周部分が前記アウタースリーブの内周面に密着するOリングが全周に亘り嵌め込まれている、
請求項1に記載のダイカスト金型用スプールブッシュ。
【請求項3】
前記インナースリーブの中空部の内径は、前記テーパーリングを貫通する前記テーパー孔において最小の内径よりも小さい、
請求項1または2に記載のダイカスト金型用スプールブッシュ。
【請求項4】
前記テーパーリングのダイカスト金型側とは反対側の端面は、前記ブッシュ本体、前記インナースリーブ、および前記アウタースリーブのダイカスト金型側の各端面による全体が円錐形状の凸型の端面を受け入れる全体が円錐形状の凹型を呈している、
請求項1乃至3の何れか一項に記載のダイカスト金型用スプールブッシュ。
【請求項5】
前記ブッシュ本体における前記ダイカスト金型とは反対側の端部には、前記アウタースリーブにおける前記ダイカスト金型側とは反対側の端面に当接するフランジが放射方向に沿って突設されている、
請求項1乃至4の何れか一項に記載のダイカスト金型用スプールブッシュ。
【請求項6】
前記ブッシュ本体のフランジには、前記アウタースリーブにおける前記ダイカスト金型側とは反対側の端面および前記インナースリーブの外側面の少なくとも一方に、雄ネジの先端が当接するボルトが螺入する雌ネジ孔が形成されている、
請求項5に記載のダイカスト金型用スプールブッシュ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイカスト金型用スプールブッシュに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、円筒形状のブッシュ本体の内周面側に該内周面と同軸心の凹陥部を設け、該凹陥部内に円筒形状のインサートライナーを嵌合し、該インサートライナーの外周面に冷却用流体を流すための冷却溝を設けた、ダイスカスト鋳造機用スプールブッシュが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載のダイカスト鋳造機用スプールブッシュによれば、冷却用流体による良好な冷却効果が得られ、しかも、熱応力による割れが生じ難くなる。
【0003】
更に、所定の熱膨張係数である高強度低熱膨張金属材料からなるスプールブッシュ本体の溶湯と接する内周面にFe基合金、Co基合金、Ni基合金、Ti基合金の何れかからなる厚さ2mmの被覆層を、HIP法または肉盛法によって金属接合したダイカストマシン用スプールブッシュも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
特許文献2に記載のダイカストマシン用スプールブッシュによれば、スプールプッシュ本体と被覆層との複合構造を有しているため、一般的な熱間金型用鋼(JIS:SKD61等)に比べて、スプールブッシュ本体の加熱による熱膨張を小さくでき、且つ高温での引張り強さが高められることにより、熱変形を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003- 10953号公報(第1~4頁、図1~5)
【文献】特開2008-221220号公報(第1~8頁、図1,2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記特許文献1に記載のダイカスト鋳造機用スプールブッシュでは、ブッシュ本体の凹嵌部が射出スリーブ側にのみ開口しているため、前記凹嵌部内に嵌合したインサートライナーが、プランジャチップや凝固金属によるカジリを受けた場合、前記インサートライナーを取り替えるには、煩雑な手間と時間とを要する、という問題があった。
一方、前記特許文献2に記載のダイカストマシン用スプールブッシュでは、被覆層を被覆するために特殊な設備と多大なコストとが必要となる。しかも、仮に、前記被覆層自体にカジリが生じた場合、係る被覆層のみならず、スプールブッシュ本体を含む前記スプールブッシュ全体を新たなものに更新せざるを得ないため、著しく不経済となる、という問題があった。
【0007】
本発明は、背景技術で説明した問題点を解決し、ブッシュ本体の内周面側にプランジャチップなどによるカジリが生じても、該カジリを受けた内周面側のインナースリーブのみを容易に取り替えられ、且つ良好な冷却効果が得られるダイカスト金型用スプールブッシュを提供する、ことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するため、ブッシュ本体の内周面および外周面に一対のスリーブを個別に嵌め込むと共に、これらの先端面(ダイカスト金型)側にテーパーリングを配設する、ことに着想して成されたものである。
即ち、本発明のダイカスト金型用スプールブッシュは、金属溶湯をダイカスト金型に圧入する流路に用いるスプールブッシュであって、全体が円筒形状で且つ外周面に冷却水の流路が形成されたブッシュ本体と、該ブッシュ本体の内周面側の全長沿って挿入され且つ中空部を有するインナースリーブと、上記ブッシュ本体の外周面および上記冷却水の流路の開口部を覆う取り外し可能なアウタースリーブと、上記ブッシュ本体、インナースリーブ、およびアウタースリーブにおけるダイカスト金型側の各端面に、前記ダイカスト金型とは反対側の端面が面接触し且つ取り除き可能に配置されるテーパーリングと、を備え、前記テーパーリングの内部には、軸方向の視覚で正多角形状あるいは円形状を呈する冷却水の循環流路が内蔵されており、上記テーパーリングの中心側には、軸方向に沿って上記ダイカスト金型側が拡大するように傾斜するテーパー孔が内設され、該テーパー孔の傾斜は、上記インナースリーブの中空部における上記ダイカスト金型側の内周面まで連続している、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
前記ダイカスト金型用スプールブッシュによれば、以下のような効果(1)~(3)を得ることができる。
(1)金属溶湯をダイカスト金型側に圧送するプランジャチップ(ピストン)の先端面や、前記金属溶湯の凝固物によってインナースリーブの内周面側にカジリが生じても、テーパーリングを取り除き、且つ前記インナースリーブに先端部が進入していたボルトを緩めた後、カジリを受けたインナースリーブの端面を、例えば、銅ハンマーなどにより軸方向に沿って打設することによって、新たなインナースリーブとの取り替え作業を短時間で且つ容易に行うことができる。
(2)前記アウタースリーブは、ブッシュ本体とテーパーリングとに挟まれているので、前述のように該テーパーリングを取り除き、且つ当該アウタースリーブを取り外すことによって、ブッシュ本体の外周面に形成された冷却水の流路や、該流路の前後(両側)に配置してあるOリングなどのシール材の点検および取り替えなどのメンテナンスを、迅速且つ確実に行うことができる。
(3)前記ブッシュ本体、アウタースリーブ、インナースリーブ、およびテーパーリングを互いに嵌合し、ボルト止めする作業により、容易に組み立てられるので、前記特許文献2のスプールブッシュに比べて比較的低コストで製作し得る。
【0010】
尚、前記金属溶湯には、例えば、アルミニウムとその合金、亜鉛とその合金、あるいは、マグネシウムとその合金などの溶湯が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のダイカスト金型用スプールブッシュの使用態様を示す概略の断面図。
図2】(A)は、前記スプールブッシを示す断面図、(B)は(A)中の一点鎖線部分Bの拡大図。
図3】(A)、(B)は、前記スプールブッシュに含まれ、且つ互いに異なる形態のテーパーリングを示す部分概略図。
図4】(A)、(B)は、前記スプールブッシュのメンテナンス手順を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明ダイカスト金型スプールブッシュ(以下、単にスプールブッシュと称する)1の使用態様を示す概略の断面図であり、同図中の矢印は、金属溶湯の流れを示す。尚、便宜上の観点から、図1図2中では、右側を先端側と、左側を基端側と称する。
前記スプールブッシュ1は、図1に示すように、ダイカスト金型30とプランジャスリーブ35との間において、緊密に配管される。前記ダイカスト金型30は、固定側金型31と可動側金型32とからなり、両者の間には、図示しないキャビティ内に連通する上向きのスプルコアー33が位置している。
【0013】
一方、前記プランジャスリーブ35は、アルミニウム合金などからなる金属溶湯を注入する上向きに開口した注湯口36と、前記プランジャスリーブ35の管内を先端側および基端側に向かって摺動するプランジャチップ(ピストン)38と、該プランジャチップ38を進退させるプランジャロッド39とを備えている。
尚、前記プランジャスリーブ35の先端面は、前記スプールブッシュ1において、後述するブッシュ本体2とインナースリーブ10との基端側の端面に位置する凹部内に進入している。
【0014】
図2(A)は、本発明による前記スプールブッシュ1を示す断面図である。尚、図2(A)中の矢印は、圧送される金属溶湯が流れる方向を示す。
スプールブッシュ1は、図2(A)に示すように、全体が円筒形状を呈し、且つ外周面4に複数(2個)の冷却水の流路5が並列に形成されたブッシュ本体2と、該ブッシュ本体2の内周面3側に密に挿入(嵌合)された円筒形状のインナースリーブ10と、前記ブッシュ本体2の外周面4側を覆う円筒形状のアウタースリーブ13と、該アウタースリーブ13、前記ブッシュ本体2、およびインナースリーブ10における先端側の端面に、基端側の端面が凹凸嵌合を含めて面接触によって配置されたテーパーリング14と、を備えている。
【0015】
前記ブッシュ本体2の外周面4の円周方向に沿って設けられた前後一対の冷却水の流路5の前後(両側)には、断面が矩形状で且つ幅の狭い凹溝6が個別に形成され、該凹溝6内ごとには、当該凹溝6の外側に突出する外周部分が前記アウタースリーブ13の内周面に密着させるOリング7が全周に亘り嵌め込まれている。前後一対の前記Oリング7によって、前記各冷却水の流路5内の冷却水をシールすると共に、前記アウタースリーブ13の取り外しを可能としている。
図2(A)に示すように、前記ブッシュ本体2における基端側の端部には、前記アウタースリーブ13における同じ基端側の端面に当接し、断面が矩形状を呈するフランジ8が放射方向に沿って突設(張り出)している。該フランジ8内には、その軸方向に沿って貫通する雌ネジ孔21が少なくとも1個(例えば4個)刻設されている。
尚、前記雌ネジ孔21内にネジ込まれる図示しないボルトは、通常では雄ネジの先端をアウタースリーブ13の基端側の端面に当接しているが、該アウタースリーブ13の取り外し時および前記Oリング7のメンテナンス時には、前記雌ネジ孔21から取り外すか、基端側に若干緩められる。
【0016】
また、前記ブッシュ本体2のフランジ8内には、その半径方向に沿って貫通する少なくとも1個の雌ネジ孔22が刻設されている。該雌ネジ孔22の最深部は、インナースリーブ10の内部に位置している。即ち、前記雌ネジ孔22内にネジ込まれる図示しないボルトは、その雄ネジの先端を前記インナースリーブ10の外周面からその内部に進入することによって、該インナースリーブ10の不用意な移動を阻止している。尚、上記雌ネジ孔22の開口部側には、前記ボルトのボルト頭を収容するための大きめの凹部23が同軸心で位置している。
また、図2(A)に示すように、前記インナースリーブ10は、中空部11とテーパ付き内周面12とを内設している。該インナースリーブ10における基端側の端面には、中心軸に対して対称な位置に刻設された一対(2個)の雌ネジ孔20が刻設されている。後述するように、該雌ネジ孔20ごとに細長いボルト(図示せず)を個別にネジ込むことで、当該インナースリーブ10の取り替え時における作業の容易化に活用される。
【0017】
尚、前記ブッシュ本体2およびインナースリーブ10は、何れも熱間金型用鋼(例えば、JIS:SKD61相当)の素材に対し、所要の切削加工などを施したものである。これらの表面には、図2(B)で例示するように、イソナイト処理時のN元素とC元素の浸透・拡散により生成される窒化鉄(FeとNとの化合物)の簿層(厚み約数μm~数10μm)40が被覆され、該窒化鉄の薄層40の下層側には、窒素の拡散層41が形成されている。
また、図2(A)に示すように、前記アウタースリーブ13には、前記冷却水の流路5ごとの端部に個別に連通する給水・排水接続金具18が取り付けられている。
更に、前記アウタースリーブ13は、ダイブロック用鋼(例えば、JIS:STK41相当)の素材に対し、所要の塑性加工などを施した後、少なくともその内周面の表面には、無電解Niメッキによる防錆用のニッケルの皮膜層(図示せず)が被覆されている。
【0018】
加えて、図2(A)に示すように、前記テーパーリング14は、軸方向に沿って先端側が拡大するテーパー孔16を内設し、且つ基端側の厚肉部15内には、冷却水の循環流路17が内蔵されている。前記テーパーリング14の基端側は、前記ブッシュ本体2、インナースリーブ10、およびアウタースリーブ13の各先端面による、全体が円錐形状の凸型の端面を受け入れる円錐形状の凹型の端面を有している。上記テーパー孔16は、先端側が大径で且つ基端側が小径となっており、仮想の水平線(中心線)に対して、約3~6度(例えば、5度)の傾斜が付されている。係る傾斜は、図示のように、前記インナースリーブ10における先端側の内周面12にまで連続している。
【0019】
前記内周面12と連続する傾斜によって、インナースリーブ10の中空部11の内径d1は、テーパーリング14を貫通するテーパー孔16において最小位置の内径d2よりも小さくなっている。その結果、インナースリーブ10の中空部11の内周面が、後述する金属溶湯との接触によって最も影響を受ける部位となっている。
更に、前記冷却水の循環流路17の下端側には、図2(A)の前後方向で一組の給水・排水接続金具19が連通している。
尚、前記テーパーリング14も、前記同様の熱間金型用鋼を切削加工した後、その表面にはイソナイト処理などによる前記窒化鉄(化合物)の簿層40や前記窒素の拡散層41が被覆されている。
【0020】
図3(A)は、前記テーパーリング14をその軸方向に沿った視覚で示す上半部の透視的な部分概略図である。
図3(A)に示すように、前記冷却水の循環流路17は、上半部では台形状を呈し、且つテーパーリング14の全体では、ほぼ正八角形状を呈すると共に、その底部側には水平辺がなく、仮想の該水平辺の両端に連通する左右一対の対称な傾斜辺の下端側に、一組の前記給水・排水接続金具19が個別に連通している。
尚、全体がほぼ正八角形状を呈する前記冷却水の循環流路17を得るには、軸方向の視覚で、テーパーリング14の素材であるリング形状の前記鋼材の外周面からテーパー孔16の内周面に対して、接線上に進入する7個の直線孔を45度ごとずらして穿孔し、且つ互いに途中で連通させた後、前記直線孔ごとの外周端側を水栓17zで閉塞している。
【0021】
図3(B)は、前記とは異なる形態の冷却水の循環流路17rを内蔵する前記テーパーリング14の軸方向に沿った視覚の透視的な部分概略図である。
図3(B)に示すように、冷却水の循環流路17rは、上半部ではテーパー孔16に沿った半円形状を呈し、且つテーパーリング14の全体では、ほぼ円形状を呈すると共に、その最底部側で互いに接近する一対の端部に、前記一組の給水・排水接続金具19が個別に連通している。
尚、テーパーリング14に円形状である前記冷却水の循環流路17rを内設するには、例えば、予め、該冷却水の循環流路17rの外形全体と相似形状のアルミニウム合金またはマグネシウム合金などの比較的低融点の金属ロウ材によって、円弧形状の中子(図示せず)を製作する。次いで、前記中子の表面全体に対して、鋼材の被膜を溶射などにより付着させた後、該被膜付きの前記中子を、テーパーリング14専用である図示しない鋳型内にセットした状態で、前記同様の鋼種である鋳鋼の溶湯を鋳込むと同時に、上記金属ロウ材を脱ロウさせる方法が挙げられる。
【0022】
以下において、前記スプールブッシュ1の使用方法およびメンテナンス手順を説明する。
前記図1中の矢印で示したように、金属溶湯は、プランジャチップ38に押されて、プランジャスリーブ35内から前記スプールブッシュ1におけるインナースリーブ10の中空部11内などを通過した後、固定側金型31と可動側金型32との間のスプルコアー33を経て、キャビティ内に圧送される。係るダイカスト鋳造を繰り返して行う間において、前記プランジャチップ38が不用意に軸心振れを生じたり、あるいは、前記インナースリーブ10の中空部11の内壁面に金属溶湯の一部が不用意に凝固し、係る凝固金属がインナースリーブ10の中空部11の内周面に衝突したり、擦ったりする場合が生じ得る。
【0023】
前記プランジャチップ38の軸心振れや、凝固金属の衝突などを受け続けた前記インナースリーブ10は、その表面に被覆された前記窒化鉄の簿層40による耐カジリ性を含む耐摩耗性、耐熱性、耐食性、および、高い疲労強度により、前記中空部11の内周面の局部的な変形(以下、カジリと称する)に対し、有効に対抗することが可能である(以下、効果(4)と称する)。
しかし、長期間に亘って、前記プランジャチップ38の軸心振れや、前記凝固金属の衝突などを受け続けた前記インナースリーブ10の中空部11の内周面は、熱応力による熱変形を含めて、所要の平滑性を喪失する結果、例えば、前記プランジャチップ38の摺動(進退)操作が不能となり、ダイカスト鋳造の操業が停止する場合が、生じ得る。
【0024】
前述のダイカスト鋳造が停止となった際には、前記ダイカスト金型30を、プランジャスリーブ35とスプールブッシュ1とから取り外した後、更に、図4(A)に示すように、前記スプールブッシュ1からテーパーリング14を取り外した後、ブッシュ本体2のフランジ8の雌ネジ孔22にネジ込まれていたボルトを緩める。
その結果、前記ブッシュ本体2の内周面3側に挿入されていたインナースリーブ10の先端面が外部に露出する。尚、該インナースリーブ10において、一対の雌ネジ孔20が形成された基端側の端面は、既に外部に露出している。
かかる状態で、図4(B)中の実線の矢印で示すように、前記インナースリーブ10の先端面を、その軸方向に沿って、例えば、図示しない銅ハンマーなどによって、軽い圧力Pにより打設する。
【0025】
その結果、図4(B)に示すように、前記インナースリーブ10の基端側をブッシュ本体2の基端側の端面から外部に、順次抜き出すことが可能となる。
あるいは、図4(B)中の破線の矢印で示すように、インナースリーブ10の基端側の端面に刻設された一対の雌ネジ孔20に、比較的細長いボルト20bを個別にネジ込み、該一対のボルト20bを軸方向に沿って基端側に引っ張る操作を行っても良い。
仮に、何らかの原因によって、前記圧力Pによる打設では、前記インナースリーブ10がブッシュ本体2の内周面3から抜け出しにくい場合には、上記一対のボルト20bを引っ張る作業を併用しても良い。
【0026】
更に、新たなインナースリーブ10を前記の逆の操作によって、ブッシュ本体2の内周面3内に挿入することにより、新たなインナースリーブ10への取り替え作業を容易且つ迅速に完了することができる。
尚、併せて、前記テーパーリング14を除去した際、前記ブッシュ本体2からアウタースリーブ13を取り外して、外部に露出する一対の冷却水の流路5や、その前後に位置する一対のOリング7を点検しても良い。この場合、特に、該Oリング7の劣化程度によっては、新たなOリング7と交換することが望ましい。
【0027】
前記スプールブッシュ1によれば、アルミニウム合金などの金属溶湯をダイカスト金型30側に圧送するプランジャチップ38の先端面や、前記金属溶湯の凝固物によって前記インナースリーブ10の中空部11の内周面にカジリが生じても、前記テーパーリング14を取り外し、且つ先端部がインナースリーブ10内に進入していたボルトをブッシュ本体2側に緩めた後、前記カジリが生じたインナースリーブ10の先端面を、銅ハンマーなどにより軸方向に沿って打設するだけで、新たなインナースリーブ10との交換作業を、短時間で且つ容易に行うことができる。
また、前記アウタースリーブ13は、前記と同じく該テーパーリング14を取り外すだけで、前記ブッシュ本体2の外周面4に形成された冷却水の流路5や、該冷却水の流路5の前後に配置したOリング7の点検および取り替えなどのメンテナンス作業を迅速にして、確実に行ない得る。
【0028】
更に、前記ブッシュ本体2、アウタースリーブ13、インナースリーブ10、およびテーパーリング14を互いに嵌合したり、ボルト止めする作業により、容易に組み立てられるので、従来のスプールブッシュに比べて低コストで製作し得る。
加えて、前記ブッシュ本体2、インナースリーブ10、およびテーパーリング14の表面には、耐カジリ性を含む耐摩耗性、耐熱性、耐食性、および、高い疲労強度を併有する前記窒化鉄の簿層40が形成されているので、前記スプルールブッシュ1の耐久性が高められている(効果(4))。
従って、前記スプルールブッシュ1によれば、前記効果(1)~(4)を得られることが容易に理解される。
【0029】
本明細書における前記実施の形態は、全ての開示ではない。
例えば、前記ブッシュ本体2の外周面4に設ける冷却水の流路5は、1個または3個以上の複数個を並列に設けた形態としても良い。
また、前記ブッシュ本体2、インナースリーブ10、およびアウタースリーブ13からなる先端面と、前記テーパーリング14の基端面との面接触部は、前記図2(A)で示した視覚で、ほぼ直角形状同士の凹部と凸部との嵌合形態としても良い。
【0030】
更に、前記テーパーリング14の厚肉部15と、アウタースリーブ13の先端面側とに跨がって、軸方向に沿った少なくとも1個の雌ネジ孔(図示せず)を更に刻設し、該雌ネジ孔にネジ込むボルトの雄ネジの先端部を、アウターリング13内に進入させることによって、テーパーリング14の不用意な離脱を予防可能としても良い。
加えて、前記テーパーリング14に内蔵される冷却水の循環流路17,17rは、軸方向の前後に沿って2個以上を並列に設けた形態としても良い。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によれば、ブッシュ本体の内周面側にプランジャチップなどによるカジリが生じても、該カジリを有する内周面側のインナースリーブを容易に取り替えられ、且つ良好な冷却効果が得られるダイカスト金型用スプールブッシュを確実に提供できる。
【符号の説明】
【0032】
1 スプールブッシュ(ダイカスト金型用スプールブッシュ)
2 ブッシュ本体
3 内周面
4 外周面
5 冷却水の流路
6 凹溝
7 Oリング
8 フランジ
10 インナースリーブ
11 中空部
12 内周面
13 アウタースリーブ
14 テーパーリング
16 テーパー孔
17,17r 循環流路
21,22 雌ネジ孔
30 ダイカスト金型
40 窒化鉄の薄層
d1,d2 内径
図1
図2
図3
図4