(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】ヒドロキシアパタイト微粒子
(51)【国際特許分類】
C01B 25/32 20060101AFI20231213BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20231213BHJP
A61K 8/24 20060101ALI20231213BHJP
A61K 33/42 20060101ALI20231213BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20231213BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
C01B25/32 Q
A61K8/02
A61K8/24
A61K33/42
A61P1/02
A61Q11/00
(21)【出願番号】P 2020562499
(86)(22)【出願日】2019-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2019051429
(87)【国際公開番号】W WO2020138422
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2018245024
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】598039965
【氏名又は名称】白石工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸 昂平
(72)【発明者】
【氏名】梅本 奨大
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-075722(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105502323(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0011395(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第105347322(CN,A)
【文献】国際公開第2014/038195(WO,A1)
【文献】特開2014-181231(JP,A)
【文献】特開2005-325102(JP,A)
【文献】特開平09-020508(JP,A)
【文献】特表2015-506971(JP,A)
【文献】特開2018-065715(JP,A)
【文献】特開平11-292524(JP,A)
【文献】特開2020-105106(JP,A)
【文献】KIM, M. S. et al.,Materials Letters,NL,2011年08月24日,Vol.66,pp.33-35,<DOI:10.1016/j.matlet.2011.08.050>
【文献】CACCIOTTI, I. et al.,Ceramics International,2010年08月21日,Vol.37,pp.127-137,<DOI:10.1016/j.ceramint.2010.08.023>
【文献】LUKIC, M. et al.,Journal of the European Ceramic Society,2011年,Vol.31,pp.19-27,<DOI:10.1016/j.jeurceramsoc.2010.09.006>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/00 - 25/46
A61K 6/033
A61K 8/02
A61K 8/24
A61K 33/42
A61P 1/02
A61Q 11/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CuKα線を使用して測定したX線回折パターンにおける2θ=26°付近の回折ピーク強度に対する2θ=32°付近の回折ピーク強度の比が0.8~1.6であり、板状粒子の凝集体であり、2θ=40°付近の(130)面による回折ピークから算出した結晶子サイズが12nm以下であり、Ca/Pモル比が
1.4以下であり、メジアン径が5μm以下であり、且つ前記X線回折パターンにおける2θ=32°付近の回折ピーク強度に対する2θ=34°付近の回折ピーク強度の比(34°/32°)が1以下である、ヒドロキシアパタイト微粒子。
【請求項2】
比表面積が30~200m
2/gである、請求項
1に記載のヒドロキシアパタイト微粒子。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載のヒドロキシアパタイト微粒子を含有する、口腔用組成物用添加剤。
【請求項4】
請求項1
又は2に記載のヒドロキシアパタイト微粒子からなる、象牙細管封鎖材。
【請求項5】
pHが
5以上7未満であるリン酸アルカリ塩水溶液と
BET比表面積が5m
2
/g以上である水酸化カルシウムスラリーとを混合して35~85℃で反応させる工程を含む、請求項1
又は2に記載のヒドロキシアパタイト微粒子を製造する方法。
【請求項6】
前記水酸化カルシウムスラリーが磨砕処理水酸化カルシウムスラリーである、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記水酸化カルシウムスラリーのシュウ酸反応性(5質量%の濃度に調製され、25±1℃に保たれた水酸化カルシウムスラリー50gに、25±1℃に保たれた0.5モル/リットルの濃度のシュウ酸水溶液40gを一気に添加し、添加後pH7.0になるまでの時間(分))が40分以下である、請求項
5又は
6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシアパタイト微粒子等に関する。
【背景技術】
【0002】
知覚過敏は、ブラッシング等の物理的磨耗、酸による化学的磨耗等により象牙質が露出することによって発症する。象牙質が露出すると、外部刺激が象牙質中の象牙細管内の神経を刺激し、疼痛が生じ易くなる。
【0003】
知覚過敏に対しては、例えば、フッ化物、アルミニウム塩(一例として、特許文献1)等の粒子により象牙細管を封鎖することにより、外部刺激の神経への到達を抑制することが行われている。しかし、従来法の多くは、封鎖後の固着性が不十分であり、効果の持続性に問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、象牙細管の封鎖性を有し、且つ象牙細管内での固着性に優れた粒子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、CuKα線を使用して測定したX線回折パターンにおける2θ=26°付近の回折ピーク強度に対する2θ=32°付近の回折ピーク強度の比が0.8~1.6であり、且つ粒子の凝集体である、ヒドロキシアパタイト微粒子であれば、上記課題を解決できることを見出した。この知見に基づいてさらに研究が進められた結果、本発明が完成した。
【0007】
即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0008】
項1. CuKα線を使用して測定したX線回折パターンにおける2θ=26°付近の回折ピーク強度に対する2θ=32°付近の回折ピーク強度の比が0.8~1.6であり、且つ粒子の凝集体である、ヒドロキシアパタイト微粒子。
【0009】
項2. Ca/Pモル比が1.67未満である、項1に記載のヒドロキシアパタイト微粒子。
【0010】
項3. Ca/Pモル比が1.60以下である、項1又は2に記載のヒドロキシアパタイト微粒子。
【0011】
項4. メジアン径が5μm以下である、項1~3のいずれかに記載のヒドロキシアパタイト微粒子。
【0012】
項5. 比表面積が30~200m2/gである、項1~4のいずれかに記載のヒドロキシアパタイト微粒子。
【0013】
項6. CuKα線を使用して測定したX線回折パターンにおける2θ=32°付近の回折ピーク強度に対する2θ=34°付近の回折ピーク強度の比が1以下である、項1~5のいずれかに記載のヒドロキシアパタイト微粒子。
【0014】
項7. 項1~6のいずれかに記載のヒドロキシアパタイト微粒子を含有する、口腔用組成物用添加剤。
【0015】
項8. 項1~6のいずれかに記載のヒドロキシアパタイト微粒子からなる、象牙細管封鎖材。
【0016】
項9. pHが4以上7未満であるリン酸アルカリ塩水溶液と水酸化カルシウムスラリーとを混合して35~85℃で反応させる工程を含む、ヒドロキシアパタイト微粒子を製造する方法。
【0017】
項10. 前記水酸化カルシウムスラリーが磨砕処理水酸化カルシウムスラリーである、項9に記載の方法。
【0018】
項11.前記水酸化カルシウムスラリーのシュウ酸反応性(5質量%の濃度に調製され、25±1℃に保たれた水酸化カルシウムスラリー50gに、25±1℃に保たれた0.5モル/リットルの濃度のシュウ酸水溶液40gを一気に添加し、添加後pH7.0になるまでの時間(分))が40分以下である、項9又は10に記載の方法。
【0019】
項12.前記水酸化カルシウムスラリーのBET比表面積が5m2/g以上である、項9~11のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、象牙細管の封鎖性を有し、且つ象牙細管内での固着性に優れたヒドロキシアパタイト微粒子を提供することができる。また、この微粒子を利用した、口腔用組成物用添加剤、象牙細管封鎖材等を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例1のヒドロキシアパタイト微粒子のX線回折ピークを示す。
【
図2】市販される試薬品ヒドロキシアパタイト微粒子のX線回折ピークを示す。
【
図3】実施例1のヒドロキシアパタイト微粒子のSEM写真を示す。
【
図4】実施例2のヒドロキシアパタイト微粒子のX線回折ピークを示す。
【
図5】実施例2のヒドロキシアパタイト微粒子のSEM写真を示す。
【
図6】実施例3のヒドロキシアパタイト微粒子のX線回折ピークを示す。
【
図7】実施例3のヒドロキシアパタイト微粒子のSEM写真を示す。
【
図8】実施例4のヒドロキシアパタイト微粒子のX線回折ピークを示す。
【
図9】実施例4のヒドロキシアパタイト微粒子のSEM写真を示す。
【
図10】実施例5のヒドロキシアパタイト微粒子のX線回折ピークを示す。
【
図11】実施例5のヒドロキシアパタイト微粒子のSEM写真を示す。
【
図12】実施例6のヒドロキシアパタイト微粒子のX線回折ピークを示す。
【
図13】実施例6のヒドロキシアパタイト微粒子のSEM写真を示す。
【
図14】実施例7のヒドロキシアパタイト微粒子のX線回折ピークを示す。
【
図15】実施例8のヒドロキシアパタイト微粒子のX線回折ピークを示す。
【
図16】実施例8のヒドロキシアパタイト微粒子のSEM写真を示す。
【
図17】比較例1のヒドロキシアパタイト微粒子のX線回折ピークを示す。
【
図18】比較例1のヒドロキシアパタイト微粒子のSEM写真を示す。
【
図19】比較例2の試料のX線回折ピークを示す。黒丸で示したピークはモネタイトの回折ピーク
【
図23】比較例4の試料のX線回折ピークを示す。黒丸で示したピークはモネタイトの回折ピーク
【
図25】ヒドロキシアパタイト微粒子の人口唾液浸漬前後のX線回折ピーク(試験例1)を示す。
【
図26】ブラッシング前後の象牙細管のSEM写真(試験例2)を示す。
【
図27】水圧処理前後の象牙細管のSEM写真(試験例3)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0023】
1.ヒドロキシアパタイト微粒子
本発明は、その一態様において、CuKα線を使用して測定したX線回折パターンにおける2θ=26°付近の回折ピーク強度に対する2θ=32°付近の回折ピーク強度の比が0.8~1.6であり、且つ粒子の凝集体である、ヒドロキシアパタイト微粒子(本明細書において、「本発明の微粒子」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0024】
2θ=26°付近の回折ピークは、ヒドロキシアパタイトのピークであり、具体的には、2θ=25.5~26.5°の回折ピークである。回折ピークが複数存在する場合、最も強度が高い回折ピークを意味する。
【0025】
2θ=32°付近の回折ピークは、ヒドロキシアパタイトのピークであり、具体的には、2θ=31.5~32.5°の回折ピークである。回折ピークが複数存在する場合、最も強度が高い回折ピークを意味する。
【0026】
X線回折パターンの取得方法は特に制限されず、公知の方法に従った方法を採用することができる。一例として、次の条件により取得することができる:装置:X線回折装置MultiFlex 2kW(株式会社リガク製)、ターゲット:Cu、管電圧:40kV、管電流:30mA、サンプリング幅:0.02°、スキャンスピード:2.00°/min、発散スリット:1.0°、散乱スリット:1.0°、受光スリット:0.3mm。または、次の条件により取得することもできる:装置:X線回折装置Miniflex500(株式会社リガク製)、ターゲット:Cu、管電圧:40kV、管電流:15mA、サンプリング幅:0.02°、スキャンスピード:2.00°/min、発散スリット:1.25°、散乱スリット:1.25°、受光スリット:0.3mm。
【0027】
本発明の微粒子は、2θ=26°付近の回折ピーク強度に対する2θ=32°付近の回折ピーク強度の比(32°/26°)が0.8~1.6である。該ピーク強度比は、好ましくは0.8~1.5、より好ましくは0.9~1.3、さらに好ましくは1.0~1.25、よりさらに好ましくは1.05~1.2、とりわけ好ましくは1.05~1.15である。また、該ピーク強度比の上限は、好ましくは1.60、1.59、1.58である。
【0028】
本発明の微粒子のそれぞれは、粒子の凝集体である。本発明の微粒子を構成する粒子は、板状粒子であることが特に好ましい。本発明の微粒子を構成する板状粒子の形状は特に制限されず、円形、多角形、棒状に近い形状、或いはこれらを組み合わせた形状等が挙げられる。また、板状粒子は、面が折り曲げられてなる状態、面が折り曲げられずに平面構造を保った状態のいずれの状態でもよい。
【0029】
本発明の微粒子は、ヒドロキシアパタイトを主成分として含む粒子である。本発明の微粒子のX線回折パターンにおいては、他の物質(例えばモネタイト等)のピークは分離して観察されない。このため、本発明の微粒子は、これらのピークのピーク強度が高い微粒子とは区別されるものである。
【0030】
限定的な解釈を望むものではないが、本発明の微粒子は、特定のX線回折パターンで表される形状・構造を有すること及び粒子が凝集して構成されていることを一因として、これらが相まって、象牙細管の優れた封鎖性と象牙細管内での優れた固着性を発揮すると考えられる。
【0031】
本発明の微粒子の好ましい一態様においては、X線回折パターンにおける2θ=32°付近の回折ピーク強度に対する2θ=34°付近の回折ピーク強度の比(34°/32°)が1以下である。2θ=34°付近の回折ピークは、具体的には、2θ=33.5~34.5°の回折ピークである。回折ピークが複数存在する場合、最も強度が高い回折ピークを意味する。該ピーク強度比は、好ましくは0.1~1、より好ましくは0.2~0.9、さらに好ましくは0.3~0.8、よりさらに好ましくは0.4~0.7、特に好ましくは0.4~0.6である。
【0032】
本発明の微粒子の好ましい一態様においては、25°≦2θ≦35°の範囲内の全ての回折ピークの面積の総和100%に対して、25.5°≦2θ≦26.5°の範囲内の全ての回折ピークの面積と31.5°≦2θ≦32.5°の範囲内の全ての回折ピークの面積との総和が30~45%である。該値は、好ましくは33~42%、より好ましくは35~40%である。また、本発明の微粒子の好ましい一態様においては、2θ=40°付近の(130)面による回折ピークから算出した結晶子サイズは、12nm以下、好ましくは10nm以下である。限定的な解釈を望むものではないが、結晶性が比較的低いことにより、象牙細管封鎖後に細管内での結晶成長性がより高まると考えられ、これにより細管内での固着性がより向上すると考えられる。該結晶子サイズの下限は、特に制限されないが、例えば1nm、2nm、3nm、4nm、5nmである。
【0033】
本発明の微粒子のCa/Pモル比は、ヒドロキシアパタイトが採り得る値である限り特に制限されない。本発明の微粒子においては、カルシウムの一部が他の元素(ナトリウム等)に置換していると考えられ、このため、Ca/Pモル比は比較的低い値であり得る。この観点から、本発明の微粒子のCa/Pモル比は、好ましくは1.67未満、より好ましくは1.60以下、さらに好ましくは1.5以下、よりさらに好ましくは1.4以下である。本発明の微粒子のCa/Pモル比の下限は、特に制限されず、例えば1.0、1.1、1.2である。
【0034】
本発明の微粒子のメジアン径(Dx(50))は、特に制限されるものではないが、象牙細管封鎖性、固着性等の観点から、好ましくは5μm以下、より好ましくは4.5μm以下である。該メジアン径の下限は、特に制限されないが、例えば1μm、2μm、3μmである。
【0035】
本発明の微粒子の比表面積は、特に制限されるものではないが、象牙細管封鎖性、固着性等の観点から、好ましくは30m2/g以上、より好ましくは40m2/g以上、さらに好ましくは55m2/g以上、よりさらに好ましくは55m2/g以上である。該比表面積の上限は、特に制限されないが、例えば200m2/g、150m2/g、120m2/g、100m2/g、90m2/gである。
【0036】
2.製造方法
本発明は、その一態様として、pHが4以上7未満であるリン酸アルカリ塩水溶液と水酸化カルシウムスラリーとを混合して35~85℃で反応させる工程を含む、ヒドロキシアパタイト微粒子を製造する方法に関する。本発明の微粒子は、例えばこの方法により製造することができる。
【0037】
リン酸アルカリ塩としては、特に制限されず、水和物及び無水物を包含する。リン酸アルカリ塩としては、例えばリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸四ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム等が挙げられ、好ましくはリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム等のリン酸ナトリウム塩が挙げられ、より好ましくはリン酸二水素ナトリウムが挙げられる。
【0038】
リン酸アルカリ塩水溶液中のリン酸アルカリ塩の濃度は、特に制限されず、例えば3~50質量%である。該濃度は、好ましくは3~30質量%、より好ましくは5~20質量%、さらに好ましくは7~15質量%である。
【0039】
リン酸アルカリ塩水溶液のpHは、好ましくは4以上7未満である。該pHは、より好ましくは5~6.5である。なお、後述のように、リン酸アルカリ塩水溶液のpHが比較的低い場合(例えば、pH4以上5未満の場合)は、リン酸アルカリ塩として無水物を使用し、且つ反応温度を比較的高い温度、例えば65~85℃、好ましくは70~85℃、より好ましくは75~85℃に設定することが望ましい。
【0040】
水酸化カルシウムスラリーは、シュウ酸に対して反応性を有する水酸化カルシウムのスラリーである限り、特に制限されない。
【0041】
シュウ酸に対する反応性は、例えば、以下の定義で表すことができる:
シュウ酸反応性:5質量%の濃度に調製され、25±1℃に保たれた水酸化カルシウムスラリー50gに、25±1℃に保たれた0.5モル/リットルの濃度のシュウ酸水溶液40gを一気に添加し、添加後pH7.0になるまでの時間(分)。
【0042】
シュウ酸反応性は、上記定義で表す場合、好ましくは40分以下、より好ましくは30分以下、さらに好ましくは20分以下である。
【0043】
水酸化カルシウムスラリーのBET比表面積は、好ましくは5m2/g以上、より好ましくは6m2/g以上である。該BET比表面積の上限は、特に制限されないが、例えば20m2/g、15m2/g、10m2/gである。
【0044】
シュウ酸反応性が高い水酸化カルシウムスラリーは、典型的には、水酸化カルシウムスラリーを磨砕処理することにより得ることができる。磨砕処理により、シュウ酸反応性をより高める(上記定義の時間をより短くする)ことができる。磨砕処理は、例えばビーズミルを用いて行われる。磨砕処理の条件としては特に制限されず、例えば特開2017-036176号公報に記載の方法に従った条件を採用することができる。
【0045】
水酸化カルシウムスラリーは、例えば、石灰石を焼成して得られる生石灰(酸化カルシウム)に水を反応させることにより、調製することができる。例えば、石灰石をキルン内において約1000℃で焼成して、生石灰を生成し、この生石灰に約10倍量の熱水を投入し、30分間攪拌させることにより、水酸化カルシウムスラリーを調製することができる。
【0046】
水酸化カルシウムスラリーの固形分濃度は、特に制限されないが、例えば1~30質量%、好ましくは3~20質量%、より好ましくは5~15質量%、さらに好ましくは6~12質量%である。
【0047】
リン酸アルカリ塩水溶液と水酸化カルシウムスラリーとの量比は、ヒドロキシアパタイト微粒子を製造できる比である限り特に制限されない。該量比は、Ca/Pモル比が、好ましくは0.3~0.7、より好ましくは0.4~0.6、さらに好ましくは0.45~0.55になるように調整されることが望ましい。
【0048】
リン酸アルカリ塩水溶液と水酸化カルシウムスラリーとを混合する態様は特に制限されない。例えば、リン酸アルカリ塩水溶液を含む反応容器に水酸化カルシウムスラリーを添加する態様(態様1)、水酸化カルシウムスラリーを含む反応容器にリン酸アルカリ塩水溶液を添加する態様(態様2)、リン酸アルカリ塩水溶液と水酸化カルシウムスラリーを同時に反応容器に添加する態様(態様3)等が挙げられる。これらの中でも、態様1が好ましい。反応容器への上記添加の際には、通常、反応容器中の液は攪拌されている。
【0049】
反応容器への上記添加は、一定程度の時間をかけて行うことが望ましい。添加開始から添加終了までの時間は、例えば10~90分間、好ましくは20~60分間、より好ましくは20~40分間である。
【0050】
反応は、通常、攪拌下で行う。反応温度は、35~85℃である。該反応温度は、好ましくは40~75℃、より好ましくは45~70℃、さらに好ましくは50~70℃、よりさらに好ましくは55~65℃である。リン酸アルカリ塩水溶液のpHが比較的低い場合(例えば、pH4以上5未満の場合)は、リン酸アルカリ塩として無水物を使用し、且つ反応温度を比較的高い温度、例えば65~85℃、好ましくは70~85℃、より好ましくは75~85℃に設定することが望ましい。反応時間(リン酸アルカリ塩水溶液と水酸化カルシウムスラリーが全て混合されてから開始する時間、上記態様1~3において、リン酸アルカリ塩水溶液と水酸化カルシウムスラリーの添加が終了した時点から開始する時間)は、例えば10~180分間、好ましくは20~120分間、より好ましくは40~90分間、さらに好ましくは50~70分間である。
【0051】
上記工程により生成した本発明の微粒子は、必要に応じて、精製処理に供される。精製処理としては、例えばろ過処理、水洗処理等が挙げられる。また、必要に応じて、乾燥処理に供することもできる。
【0052】
3.用途
本発明の微粒子は、象牙細管の封鎖性を有し、且つ象牙細管内での固着性に優れる。したがって、本発明の微粒子は、口腔用組成物用添加剤、象牙細管封鎖材等として利用することができる。この観点から、本発明は、その一態様として、本発明の微粒子を含有する口腔用組成物用添加剤、本発明の微粒子からなる象牙細管封鎖材等に関する。
【実施例】
【0053】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0054】
実施例1
Ca/Pモル比が0.5になるように、10.7質量%リン酸二水素ナトリウム・2水和物水溶液及び、固形分濃度8.6質量%磨砕処理水酸化カルシウムスラリー(BET比表面積:6.7m2/g シュウ酸反応性:15分30秒 特開第2017-036176号公報)を調製した。リン酸二水素ナトリウム・2水和物水溶液をステンレスビーカーに入れ、撹拌しながら60℃に加温し撹拌停止まで維持した。10%NaOH水溶液を添加してpHを5.5に調整した。そこに水酸化カルシウムスラリーを30分かけて添加した。添加終了後、更に1時間撹拌したあとに、ろ過、水洗、及び80℃にて乾燥させ、ヒドロキシアパタイト微粒子(粉末)を得た。
【0055】
得られたヒドロキシアパタイト微粒子についてX線結晶回折、比表面積測定、粒度分布測定、Ca/Pモル比測定、及び形状観察を行った。
【0056】
X線回折装置MultiFlex 2kW(株式会社リガク製)によって2θ=25~45°の範囲で測定を行った。測定条件は以下の通りである。ターゲット:Cu、管電圧40kV、管電流:30mA、サンプリング幅:0.02°、スキャンスピード:2.00°/min、発散スリット:1.0°、散乱スリット:1.0°、受光スリット:0.3mm。結果を
図1に示す。また、市販される試薬品であるヒドロキシアパタイトのX線回折パターンを
図2に示す。2θ=26°付近の(002)面による回折ピーク強度比に対する、2θ=32°付近の(211)面による回折ピーク強度の比が1.1であり、試薬HApの同ピーク強度比2.7に比べ明確に低い結果となった。これより、実施例1のヒドロキシアパタイト微粒子はc面が多く露出している板状微粒子であることが分かった。また、25°≦2θ≦35°の範囲内の全ての回折ピークの面積の総和100%に対して、25.5°≦2θ≦26.5°の範囲内の全ての回折ピークの面積と31.5°≦2θ≦32.5°の範囲内の全ての回折ピークの面積との総和は、37.2%であった。これは試薬HApが示した52.1%よりも明確に低い値を示しており、またX線回折パターンが比較的ブロードであることからも結晶性が低いことが示される。また、2θ=40°付近の(130)面による回折ピークから算出した結晶子サイズは7nmであり、試薬HApが示す52nmに比べて明確に小さく、この点からも結晶性が低いことが示される。
【0057】
比表面積は、全自動比表面積測定装置Macsorb HMmodel-1208 (株式会社マウンテック製)を使用し、窒素ガス吸着法によって測定した。その結果、比表面積は61.9 m2/gであった。
【0058】
粒度分布は、レーザー回折式粒度分布測定装置MASTER SIZER 3000を使用して乾式粒度分布測定により測定した。その結果、Dx(50)は3.76μmであった。
【0059】
Ca/Pモル比は、iCAP 6000 ICP-OES (ThermoFisher社製) を使用して誘導結合プラズマ発光分光分析によってCa及びP含有量を測定し、その測定値から算出した。その結果、Ca/Pモル比は1.33であった。
【0060】
形状観察は、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製:以下SEM)を用いて行った。結果を
図3に示す。この結果より本発明で得られたヒドロキシアパタイトは板状微粒子の凝集体を形成していることが示された。
【0061】
実施例2
Ca/Pモル比が0.5になるように、10.7質量%リン酸二水素ナトリウム・2水和物水溶液及び、固形分濃度8.6質量%磨砕処理水酸化カルシウムスラリー(BET比表面積:7.9m2/g シュウ酸反応性:12分30秒 特開第2017-036176号公報)を調製した。リン酸二水素ナトリウム・2水和物水溶液をステンレスビーカーに入れ、撹拌しながら60℃に加温し撹拌停止まで維持した。10%NaOH水溶液を添加してpHを6.0に調整した。そこに水酸化カルシウムスラリーを30分かけて添加した。添加終了後、更に1時間撹拌したあとに、ろ過、水洗、及び80℃にて乾燥させ、ヒドロキシアパタイト微粒子(粉末)を得た。
【0062】
得られたヒドロキシアパタイト微粒子について、実施例1と同様にしてX線結晶回折、比表面積測定及び形状観察を行った。
【0063】
X線結晶回折結果を
図4に示す。2θ=26°付近の(002)面による回折ピーク強度比に対する、2θ=32°付近の(211)面による回折ピーク強度の比が1.1であり、実施例1と同等の値であった。また、25°≦2θ≦35°の範囲内の全ての回折ピークの面積の総和100%に対して、25.5°≦2θ≦26.5°の範囲内の全ての回折ピークの面積と31.5°≦2θ≦32.5°の範囲内の全ての回折ピークの面積との総和は、38.6%であった。また、2θ=40°付近の(130)面による回折ピークから算出した結晶子サイズは7nmであった。
【0064】
比表面積は75.4 m2/gであった。
【0065】
形状観察結果を
図5に示す。実施例1と同様に板状微粒子の凝集体であることが確認された。
【0066】
実施例3
Ca/Pモル比が0.5になるように、10.7質量%リン酸二水素ナトリウム・2水和物水溶液及び、固形分濃度8.6質量%磨砕処理水酸化カルシウムスラリー(BET比表面積7.9m2/g シュウ酸反応性:12分30秒 特開第2017-036176号公報)を調製した。リン酸二水素ナトリウム・2水和物水溶液をステンレスビーカーに入れ、撹拌しながら40℃に加温し撹拌停止まで維持した。10%NaOH水溶液を添加してpHを5.5に調整した。そこに水酸化カルシウムスラリーを50分かけて添加した。添加終了後、更に1時間撹拌したあとに、ろ過、水洗、及び80℃にて乾燥させ、ヒドロキシアパタイト微粒子(粉末)を得た。
【0067】
得られたヒドロキシアパタイト微粒子について、実施例1と同様にしてX線結晶回折、比表面積測定及び形状観察を行った。
【0068】
X線結晶回折結果を
図6に示す。2θ=26°付近の(002)面による回折ピーク強度比に対する、2θ=32°付近の(211)面による回折ピーク強度の比が1.2であり、実施例1と同等の値であった。また、25°≦2θ≦35°の範囲内の全ての回折ピークの面積の総和100%に対して、25.5°≦2θ≦26.5°の範囲内の全ての回折ピークの面積と31.5°≦2θ≦32.5°の範囲内の全ての回折ピークの面積との総和は、36.0%であった。また、2θ=40°付近の(130)面による回折ピークから算出した結晶子サイズは6nmであった。
【0069】
比表面積は81.5 m2/gであった。
【0070】
形状観察結果を
図7に示す。実施例1と同様に板状微粒子の凝集体であることが確認された。
【0071】
実施例4
Ca/Pモル比が0.5になるように、10.7質量%リン酸二水素ナトリウム無水物水溶液及び、固形分濃度8.6質量%磨砕処理水酸化カルシウムスラリー(BET比表面積7.9m2/g シュウ酸反応性:12分30秒 特開第2017-036176号公報)を調製した。リン酸二水素ナトリウム無水物水溶液をステンレスビーカーに入れ、撹拌しながら80℃に加温した。pHは4.2のまま調整しなかった。そこに水酸化カルシウムスラリーを30分かけて添加した。添加終了後、更に1時間撹拌したあとに、ろ過、水洗、及び80℃にて乾燥させ、ヒドロキシアパタイト微粒子(粉末)を得た。
【0072】
得られたヒドロキシアパタイト微粒子について、実施例1と同様にしてX線結晶回折、比表面積測定及び形状観察を行った。
【0073】
X線結晶回折結果を
図8に示す。2θ=26°付近の(002)面による回折ピーク強度比に対する、2θ=32°付近の(211)面による回折ピーク強度の比が1.4であり、実施例1と同等の値であった。また、25°≦2θ≦35°の範囲内の全ての回折ピークの面積の総和100%に対して、25.5°≦2θ≦26.5°の範囲内の全ての回折ピークの面積と31.5°≦2θ≦32.5°の範囲内の全ての回折ピークの面積との総和は、37.8%であった。また、2θ=40°付近の(130)面による回折ピークから算出した結晶子サイズは9nmであった。
【0074】
比表面積は163.4 m2/gであった。
【0075】
形状観察結果を
図9に示す。実施例1と同様に板状微粒子の凝集体であることが確認された。
【0076】
実施例5
Ca/Pモル比が0.5になるように、10.7質量%リン酸二水素ナトリウム無水物水溶液及び、固形分濃度8.6質量%磨砕処理水酸化カルシウムスラリー(BET比表面積7.9m2/g シュウ酸反応性:12分30秒 特開第2017-036176号公報)を調製した。リン酸二水素ナトリウム無水物水溶液をステンレスビーカーに入れ、撹拌しながら60℃に加温した。pHは4.2のまま調整しなかった。そこに水酸化カルシウムスラリーを30分かけて添加した。添加終了後、更に1時間撹拌したあとに、ろ過、水洗、及び80℃にて乾燥させ、ヒドロキシアパタイト微粒子(粉末)を得た。
【0077】
得られたヒドロキシアパタイト微粒子について、実施例1と同様にしてX線結晶回折、比表面積測定及び形状観察を行った。
【0078】
X線結晶回折結果を
図10に示す。2θ=26°付近の(002)面による回折ピーク強度比に対する、2θ=32°付近の(211)面による回折ピーク強度の比が1.1であり、実施例1と同等の値であった。また、25°≦2θ≦35°の範囲内の全ての回折ピークの面積の総和100%に対して、25.5°≦2θ≦26.5°の範囲内の全ての回折ピークの面積と31.5°≦2θ≦32.5°の範囲内の全ての回折ピークの面積との総和は、31.6%であった。また、2θ=40°付近の(130)面による回折ピークから算出した結晶子サイズは7nmであった。
【0079】
比表面積は94.7m2/gであった。
【0080】
形状観察結果を
図11に示す。実施例1と同様に板状微粒子の凝集体であることが確認された。
【0081】
実施例6
Ca/Pモル比が0.5になるように、10.7質量%リン酸二水素ナトリウム無水物水溶液及び、固形分濃度8.6質量%磨砕処理水酸化カルシウムスラリー(BET比表面積7.9m2/g シュウ酸反応性:12分30秒 特開第2017-036176号公報)を調製した。リン酸二水素ナトリウム無水物水溶液をステンレスビーカーに入れ、撹拌しながら80℃に加温した。pHは4.2のまま調整しなかった。そこに水酸化カルシウムスラリーを30分かけて添加した。添加終了後、更に1時間撹拌したあとに、ろ過、水洗、及び80℃にて乾燥させ、ヒドロキシアパタイト微粒子(粉末)を得た。
【0082】
得られたヒドロキシアパタイト微粒子について、実施例1と同様にしてX線結晶回折、比表面積測定及び形状観察を行った。
【0083】
X線結晶回折結果を
図12に示す。2θ=26°付近の(002)面による回折ピーク強度比に対する、2θ=32°付近の(211)面による回折ピーク強度の比が1.58であった。また、25°≦2θ≦35°の範囲内の全ての回折ピークの面積の総和100%に対して、25.5°≦2θ≦26.5°の範囲内の全ての回折ピークの面積と31.5°≦2θ≦32.5°の範囲内の全ての回折ピークの面積との総和は、40.9%であった。また、2θ=40°付近の(130)面による回折ピークから算出した結晶子サイズは7nmであった。
【0084】
比表面積は105.0m2/gであった。
【0085】
形状観察結果を
図13に示す。実施例1と同様に板状微粒子の凝集体であることが確認された。
【0086】
実施例7
Ca/Pモル比が0.5になるように、10.7質量%リン酸二水素ナトリウム・2水和物水溶液及び、固形分濃度8.6質量%磨砕処理水酸化カルシウムスラリー(BET比表面積:6.7m2/g シュウ酸反応性:15分30秒 特開第2017-036176号公報)を調製した。リン酸二水素ナトリウム・2水和物水溶液をステンレスビーカーに入れ、撹拌しながら60℃に加温し撹拌停止まで維持した。10%NaOH水溶液を添加してpHを5.5に調整した。そこに水酸化カルシウムスラリーを30分かけて添加した。添加終了後、更に1時間撹拌したあとに、ろ過、水洗、及び80℃にて乾燥させた後に40℃、75%RHの条件で6か月静置し、ヒドロキシアパタイト微粒子(粉末)を得た。
【0087】
得られたヒドロキシアパタイト微粒子について、実施例1と同様にしてX線結晶回折、比表面積測定及び形状観察を行った。
【0088】
X線結晶回折結果を
図14に示す。2θ=26°付近の(002)面による回折ピーク強度比に対する、2θ=32°付近の(211)面による回折ピーク強度の比が1.21であった。また、25°≦2θ≦35°の範囲内の全ての回折ピークの面積の総和100%に対して、25.5°≦2θ≦26.5°の範囲内の全ての回折ピークの面積と31.5°≦2θ≦32.5°の範囲内の全ての回折ピークの面積との総和は、39.4%であった。また、2θ=40°付近の(130)面による回折ピークから算出した結晶子サイズは8nmであった。
【0089】
比表面積は34.8m2/gであった。
【0090】
実施例8
Ca/Pモル比が0.5になるように、10.7質量%リン酸二水素ナトリウム・2水和物水溶液及び、固形分濃度8.6質量%磨砕処理水酸化カルシウムスラリー(BET比表面積7.9m2/g シュウ酸反応性:12分30秒 特開第2017-036176号公報)を調製した。リン酸二水素ナトリウム・2水和物水溶液をステンレスビーカーに入れ、10%NaOH水溶液を添加してpHを5.5に調整した。そこに水酸化カルシウムスラリーを50分かけて添加した。添加終了後、更に1時間撹拌したあとに撹拌を停止し、9日間常温で静置後、ろ過、水洗、及び80℃にて乾燥させ、ヒドロキシアパタイト微粒子(粉末)を得た。
【0091】
得られたヒドロキシアパタイト微粒子について、実施例1と同様にしてX線結晶回折及び形状観察を行った。
【0092】
X線結晶回折結果を
図15に示す。2θ=26°付近の(002)面による回折ピーク強度比に対する、2θ=32°付近の(211)面による回折ピーク強度の比が1.3であった。
【0093】
形状観察結果を
図16に示す。粒子の形状は微小な紡錘状粒子の凝集体であることが確認された。
【0094】
比較例1
Ca/Pモル比が0.5になるように、10.7質量%リン酸二水素ナトリウム無水物水溶液及び、固形分濃度8.6質量%磨砕処理水酸化カルシウムスラリー(BET比表面積7.9m2/g シュウ酸反応性:12分30秒 特開第2017-036176号公報)を調製した。水酸化カルシウムスラリーをステンレスビーカーに入れ、撹拌しながら40℃に加温した。そこにリン酸二水素ナトリウム無水物水溶液(pH:4.2)を30分かけて添加した。添加終了後、更に1時間撹拌したあとに、ろ過、水洗、及び80℃にて乾燥させ、ヒドロキシアパタイト微粒子(粉末)を得た。
【0095】
得られたヒドロキシアパタイト微粒子について、実施例1と同様にしてX線結晶回折、比表面積測定及び形状観察を行った。
【0096】
X線結晶回折結果を
図17に示す。2θ=26°付近の(002)面による回折ピーク強度比に対する、2θ=32°付近の(211)面による回折ピーク強度の比が1.7であり、実施例1と比較して明確に高い値を示した。また、2θ=33°付近の(300)面による回折ピークが分離して現れた。
【0097】
比表面積は50.9 m2/gであった。
【0098】
形状観察結果を
図18に示す。粒子の形状は紡錘状の微粒子が凝集していることが示された。
【0099】
比較例2
Ca/Pモル比が0.5になるように、10.7質量%リン酸二水素ナトリウム・2水和物水溶液及び、固形分濃度8.6質量%磨砕処理水酸化カルシウムスラリー(特開第2017-036176号公報)を調製した。リン酸二水素ナトリウム・2水和物水溶液をステンレスビーカーに入れ、撹拌しながら60℃に加温し撹拌停止まで維持した。pHは4.2のまま調整しなかった。そこに水酸化カルシウムスラリーを45分かけて添加した。添加終了後、更に1時間撹拌したあとに、ろ過、水洗、及び80℃にて乾燥させ試料を得た。
【0100】
得られた試料について、実施例1と同様にしてX線結晶回折及び形状観察を行った。
【0101】
X線結晶回折結果を
図19に示す。ヒドロキシアパタイトの回折ピークに加え、他の物質の回折ピークが確認された。図中に黒丸で示したピークはモネタイトの回折ピークであり、酸性状態で生成しやすいリン酸カルシウムである。
【0102】
形状観察結果を
図20に示す。モネタイトの板状の大きな粒子が確認された。
【0103】
比較例3
Ca/Pモル比が0.5になるように、10.7質量%リン酸二水素ナトリウム・2水和物水溶液及び、固形分濃度8.6質量%高純度水酸化カルシウムスラリー(BET比表面積:2.4m2/g、シュウ酸反応性:25秒 特開第2011-126772号公報)を調製した。リン酸二水素ナトリウム・2水和物水溶液をステンレスビーカーに入れ、撹拌しながら60℃に加温し撹拌停止まで維持した。10%NaOH水溶液を添加してpHを5.5に調整した。そこに水酸化カルシウムスラリーを30分かけて添加した。添加終了後、更に1時間撹拌したあとに、ろ過、水洗、及び80℃にて乾燥させ、試料を得た。
【0104】
得られた試料について、実施例1と同様にしてX線結晶回折を行った。
【0105】
X線結晶回折結果を
図21に示す。ヒドロキシアパタイトの回折ピークに加え、2θ=28°付近及び34°付近に水酸化カルシウムの回折ピークが確認された。
【0106】
また、形状観察結果を
図22に示す。水酸化カルシウムの板状の大きな粒子が確認された。実施例1との違いが出たことについて、原料水酸化カルシウムの物性が影響していると考えられた。
【0107】
比較例4
Ca/Pモル比が0.5になるように、10.7質量%リン酸二水素ナトリウム・2水和物水溶液及び、固形分濃度8.6質量%磨砕処理水酸化カルシウムスラリー(特開第2017-036176号公報)を調製した。リン酸二水素ナトリウム・2水和物水溶液をステンレスビーカーに入れ、撹拌しながら80℃に加温し撹拌停止まで維持した。pHは4.2のまま調整しなかった。そこに水酸化カルシウムスラリーを50分かけて添加した。添加終了後、更に1時間撹拌したあとに、ろ過、水洗、及び80℃にて乾燥させ試料を得た。
【0108】
得られた試料について、実施例1と同様にしてX線結晶回折及び形状観察を行った。
【0109】
X線結晶回折結果を
図23に示す。ヒドロキシアパタイトの回折ピークに加え、他の物質の回折ピークが確認された。図中に黒丸で示したピークはモネタイトの回折ピークであり、酸性状態で生成しやすいリン酸カルシウムである。
【0110】
形状観察結果を
図24に示す。モネタイトの板状の大きな粒子が確認された。
【0111】
試験例1.結晶性変化確認試験
[試験目的]
ヒドロキシアパタイト微粒子の口腔内での反応性を評価するべく、人工唾液浸漬前後の結晶性の変化を粉末X線回折装置により測定した。
【0112】
[試験方法]
実施例1と同様にして得られたヒドロキシアパタイト微粒子0.5gを人工唾液(CaCl2:1.5mM,KH2PO4:0.9mM,KCl:130mM,HEPES:20mM,pH7.0(KOH))200mLに7日間浸漬させた。吸引ろ過によりろ別した粉体を粉末X線回折装置により測定し、人工唾液浸漬前後での結晶性の変化を観測した。
【0113】
[測定条件]
・使用機種:Miniflex II (株式会社リガク)
・開始角度:20°
・終了角度:40°
・サンプリング幅:0.02°
・スキャンスピード:4.0°/min
・電圧:30kV
・電流:15mA
・発散スリット:1.25°
・散乱スリット:8.0mm
・受光スリット:0.3mm。
【0114】
結果を
図25に示す。人工唾液浸漬により、結晶性の向上(=ピークのシャープさが上昇、ブロードで隠れていたピークの出現)が確認された。これより本発明のヒドロキシアパタイト微粒子は口腔内で変化する(反応性を有した)粒子であることが確認できた。
【0115】
試験例2.ヒドロキシアパタイト微粒子の象牙細管封鎖性試験
[試験目的]
ヒドロキシアパタイト微粒子の象牙細管を封鎖する能力を評価するべく、ウシ象牙質表面をヒドロキシアパタイト微粒子液でブラッシングし、象牙細管の封鎖度合いを電子顕微鏡(SEM)観察で調べた。
【0116】
[試験方法]
象牙質ブロック(サンプル)の作成
1. ウシ抜去歯根面部の象牙質を5×5mmのサイズに切り出した。
2. 切り出した歯片をレジン樹脂(ポリメチルメタクリレート)に埋没、ブロックを作成し、耐水研磨紙を用いて研磨し、表面出しを行った。
3. 象牙質ブロックを5%w/w EDTA水溶液(pH7.0)に2分間浸漬させた。
4. 蒸留水中で5分間超音波処理を行った。
【0117】
ヒドロキシアパタイト微粒子液の調製
5. 実施例1と同様にして得られたヒドロキシアパタイト微粒子0.3gを粘性希釈液39.7gに懸濁させた。
【0118】
ブラッシング処理
6. ヒドロキシアパタイト微粒子液(40g)中で、象牙質ブロックを30秒間歯ブラシ(GUM #211)でブラッシングした(ストローク:150rpm、荷重:160g)。
7. 象牙質ブロックを水洗したのち、人工唾液(CaCl2:1.5mM,KH2PO4:0.9mM,KCl:130mM,HEPES:20mM,pH7.0(KOH))に5分間浸漬させた。
8. 上記操作1と2を6回繰り返した。
【0119】
SEM観察
9. 表面を蒸着処理した後、電子顕微鏡にて観察した。
【0120】
[観察測定条件]
{蒸着処理}
・使用機種:MCI1000(株式会社日立ハイテクノロジーズ)
・電流:20mA
・処理時間:120秒
{SEM観察}
・使用機種:S-3400N(株式会社日立ハイテクノロジーズ)
・検出器:SE(二次電子像)
・印加電圧:5kV
・プローブ電流:50mA
・倍率:25000倍。
【0121】
結果を
図26に示す。ヒドロキシアパタイト微粒子液中でのブラッシングにより、象牙細管が封鎖されていることが確認できた。これよりヒドロキシアパタイト微粒子は、象牙質表面に存在する象牙細管を封鎖する粒子であることが確認できた。
【0122】
試験例3.固着性試験
[試験目的]
ヒドロキシアパタイト微粒子の象牙細管内で固着する能力を評価するべく、ウシ象牙質表面をヒドロキシアパタイト微粒子溶液でブラッシングした後、象牙質裏面から水圧をかけ、その水圧にヒドロキシアパタイト微粒子の封鎖が耐えたかどうかを電子顕微鏡(SEM)観察で調べた。
【0123】
[試験方法]
象牙質ディスク(サンプル)の作成
1. ウシ抜去歯根面部の象牙質を5×5mmのサイズに切り出した。
2. 切り出した歯片を耐水研磨紙で研磨した。
3. 象牙質ディスクを5%w/w EDTA水溶液(pH7.0)に2分間浸漬させた。
4. 蒸留水中で5分間超音波処理を行った。
【0124】
ヒドロキシアパタイト微粒子液の調製
5. 実施例1と同様にして得られたヒドロキシアパタイト微粒子1gを粘性希釈液39gに懸濁させた。
【0125】
ブラッシング処理
6. ヒドロキシアパタイト微粒子液(40g)中で、象牙質ディスクを30秒間歯ブラシ(GUM #211)でブラッシングした(ストローク:150rpm、荷重:160g)。
7. ディスクを水洗したのち、人工唾液(CaCl2:1.5mM,KH2PO4:0.9mM,KCl:130mM,HEPES:20mM,pH7.0(KOH))に5分間浸漬させた。
8. 上記操作1と2を6回繰り返した。
9. 人工唾液に7日間浸漬させた。
【0126】
水圧処理
10. ブラッシング処理後の象牙質ディスクを、pashleyらの報告(Pashley DH, Galloway SE. The effects of oxalate treatment on the smear layer of ground surfaces of human dentin. Arch Oral Biol 1983; 30: 731-737.)を参考にした装置を用いて0.1MPaで30分加圧した。
【0127】
SEM観察
11. 表面を蒸着処理した後、電子顕微鏡にて観察した。
【0128】
[観察測定条件]
{蒸着処理}
・使用機種:MCI1000(株式会社日立ハイテクノロジーズ)
・電流:20mA
・処理時間:120秒
{SEM観察}
・使用機種:S-3400N(株式会社日立ハイテクノロジーズ)
・検出器:SE(二次電子像)
・印加電圧:5kV
・プローブ電流:50mA
・倍率:25000倍。
【0129】
結果を
図27に示す。水圧処理後も象牙細管が封鎖されていることが確認できた。これよりヒドロキシアパタイト微粒子は、象牙細管内で固着し、封鎖状態を維持する粒子であることが確認できた。