(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】関節安定性のためのβ-ヒドロキシ-β-メチルブチレート(HMB)の組成物および使用方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/19 20060101AFI20231213BHJP
A61K 31/22 20060101ALI20231213BHJP
A61K 31/365 20060101ALI20231213BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
A61K31/19
A61K31/22
A61K31/365
A61P19/02
(21)【出願番号】P 2018536498
(86)(22)【出願日】2017-01-13
(86)【国際出願番号】 US2017013404
(87)【国際公開番号】W WO2017123922
(87)【国際公開日】2017-07-20
【審査請求日】2020-01-10
【審判番号】
【審判請求日】2021-10-04
(32)【優先日】2016-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512157966
【氏名又は名称】メタボリック・テクノロジーズ,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】フラー,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ラスメイチャー,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ハリス,エミリー
(72)【発明者】
【氏名】ベイアー,ショーン
【合議体】
【審判長】藤原 浩子
【審判官】渕野 留香
【審判官】岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-530542(JP,A)
【文献】特表2013-515009(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0057346(US,A1)
【文献】国際公開第2015/137387(WO,A1)
【文献】特開2015-134074(JP,A)
【文献】特開2015-009032(JP,A)
【文献】関西理学療法,2006年,Vol.6,p.27-30
【文献】希心院 得意とする症例-ひざ痛,2013年,[検索日2021.12.21],インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20130622130727/http://www.kishinin.com/jsp/confidence3.jsp>
【文献】Jan/2001~ 膝関節 Q&A ライブラリー,2001年,[検索日2021.12.21],インターネット<URL:https://www.tqtq.jp/medical/tomosqa/qa_knee1.htm>
【文献】膝痛の症例,2015年,[検索日2021.12.21],インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20150220012240/http://sakuramon.com/itami/hizatuu.html>
【文献】J.Appl.Physiol.,2003年,Vol.94,p.651-659
【文献】J.Appl.Physiol.,1996年,Vol.81,No.5,p.2095-2104
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K,A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膝の関節炎症、
膝の関節損傷および/または
膝の関節傷害の部位に対して身体の対側における
筋肉強度を増大させる方法において使用するための組成物であって、該方法は
膝の関節炎症、
膝の関節損傷および/または
膝の関節傷害を伴なう動物に体重キログラム当たり0.01から0.2gまでのβ-ヒドロキシ-β-メチル酪酸(HMB)を含む前記組成物を24時間で投与することを含み、投与の必要がある動物への組成物の投与はその
膝の関節炎症、
膝の関節損傷および/または
膝の関節傷害の部位に対して身体の対側における
筋肉強度を増大させる効果を有する、前記組成物。
【請求項2】
HMBが、それの遊離酸形、それの塩、それのエステル、およびそれのラクトンからなる群から選択される、請求項
1に記載の組成物。
【請求項3】
筋肉量を増大させる方法において使用するための組成物であって、該方法は
膝の関節炎症、
膝の関節損傷および/または
膝の関節傷害を伴なう動物に体重キログラム当たり0.01から0.2gまでのβ-ヒドロキシ-β-メチル酪酸(HMB)を含む前記組成物を24時間で投与することを含み、投与の必要がある動物への組成物の投与はその
膝の関節炎症、
膝の関節損傷および/または
膝の関節傷害の部位に対して身体の対側における筋肉量を増大させる効果を有する、前記組成物。
【請求項4】
HMBが、それの遊離酸形、それの塩、それのエステル、およびそれのラクトンからなる群から選択される、請求項
3に記載の組成物。
【請求項5】
筋肉量を増大させる方法において使用するための組成物であって、該方法は
膝の関節炎症、
膝の関節損傷および/または
膝の関節傷害を伴なう動物に0.5から30gまでのβ-ヒドロキシ-β-メチル酪酸(HMB)を含む前記組成物を24時間で投与することを含み、投与の必要がある動物への組成物の投与はその
膝の関節炎症、
膝の関節損傷および/または
膝の関節傷害の部位に対して身体の対側における筋肉量を増大させる効果を有する、前記組成物。
【請求項6】
膝の関節炎症、
膝の関節損傷および/または
膝の関節傷害の部位に対して身体の対側における
筋肉強度を増大させる方法において使用するための組成物であって、該方法は
膝の関節炎症、
膝の関節損傷および/または
膝の関節傷害を伴なう動物に0.5から30gまでのβ-ヒドロキシ-β-メチル酪酸(HMB)を含む前記組成物を24時間で投与することを含み、投与の必要がある動物への組成物の投与はその
膝の関節炎症、
膝の関節損傷および/または
膝の関節傷害の部位に対して身体の対側における
筋肉強度を増大させる効果を有する、前記組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、United States Provisional Patent Application No. 62/278,252, 2016年1月13日出願に基づく優先権を主張し、その出願を本明細書に援用する。
本発明は、β-ヒドロキシ-β-メチルブチレート(HMB)を含む組成物、ならびに関節不安定性を低減し、関節安定性を増大させ、均衡運動(balanced movement)を改善するためにHMBを使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動物が老化するのに伴なって、それらの身体状態が変化し、関節安定性を与える関節周囲の筋骨格系が衰弱する可能性がある。関節不安定性は、運動範囲および柔軟性の低減ならびに炎症および痛みの増大につながる可能性がある。その結果、活動性が低下し、階段上りなどの日常作業ができなくなる。
【0003】
関節不安定性に対する抵抗は、関節周囲の健康な腱、靭帯、筋膜および筋組織により達成され、痛みを伴わない運動範囲および柔軟性を維持する際の重要な決定因子となる可能性がある。
【0004】
神経筋系は神経筋接合部からなり、協調した力強い筋収縮に関与する。筋肉運動に際して、これらの系は一緒になって骨格関節の均衡運動および安定性をもたらす。標的栄養療法は、ヒトおよび愛玩動物を含めた(ただし、これらに限定されない)高齢の動物において、この均衡、よって運動性およびクオリティー・オブ・ライフの維持を補助できる可能性がある。以下に記載するHMBの投与を含む栄養療法計画は、均衡運動を改善し、関節硬直を低減し、健康な関節の維持および関節安定性の改善を支援し、その結果、活動性を高め、クオリティー・オブ・ライフを改善する。
【0005】
HMB
アルファ-ケトイソカプロエート(Alpha-ketoisocaproate)(KIC)は、ロイシンの第1の主要な活性代謝産物である。KIC代謝の少量生成物がβ-ヒドロキシ-β-メチルブチレート(HMB)である。HMBは多様な用途に関して有用であることが見出されている。具体的には、U.S. Patent No. 5,360,613 (Nissen)に、HMBが総コレステロールおよび低密度リポタンパク質コレステロールの血中レベルを低減するのに有用であると記載されている。U.S. Patent No. 5,348,979 (Nissen et al.)には、HMBがヒトにおいて窒素保持を促進するのに有用であると記載されている。U.S. Patent No. 5,028,440 (Nissen)は、動物において除脂肪組織の発達を増大させるためのHMBの有用性について考察している。同様にU.S. Patent No. 4,992,470 (Nissen)には、HMBが哺乳類の免疫応答を増強させるのに有効であると記載されている。U.S. Patent No. 6,031,000 (Nissen et al.)には、疾患関連の衰弱を治療するためのHMBおよび少なくとも1種類のアミノ酸の使用が記載されている。
【0006】
タンパク質分解を抑制するためのHMBの使用は、ロイシンがタンパク質節約特性(protein-sparing characteristics)をもつという所見に由来する。必須アミノ酸であるロイシンは、タンパク質合成のために使われるか、あるいはα-ケト酸(α-ケトイソカプロエート,KIC)にアミノ基転移する可能性がある。一経路において、KICは酸化されてHMBになる可能性があり、これはロイシン酸化のおおよそ5%を占める。HMBは筋肉の量および強度の増強においてロイシンに勝る。HMBの最適効果は、HMBのカルシウム塩として投与した場合に3.0グラム/日、または0.038g/kg体重/日で達成でき、一方、ロイシンの場合は30.0グラム/日以上が必要である。
【0007】
HMBは、産生または摂取されると2つの結末をもつと思われる。第1の結末は尿中における単純な排出である。HMBが供給された後、尿濃度が上昇し、その結果、おおよそ20~50%のHMBが尿中へ失われる。もうひとつの結末は、HMBからHMB-CoAへの活性化に関係する。HMB-CoAに変換されると、さらなる代謝、すなわちHMB-CoAからMC-CoAへの脱水またはHMB-CoAからHMG-CoAへの直接変換のいずれかが起きる可能性があり、それにより細胞内コレステロール合成のための基質が提供される。幾つかの研究により、HMBがコレステロール合成経路に取り込まれ、損傷を受けた細胞膜の再生に使われる新たな細胞膜の供給源となる可能性があることが示された。ヒトの研究は、血漿CPK(creatine phosphokinase)(クレアチンホスホキナーゼ)上昇により測定して、激しい運動に伴なう筋損傷が最初の48時間以内のHMB補給で軽減することを示した。HMBの保護効果は、毎日の連続使用で最大3週間持続する。多数の研究により、HMBの有効量はCaHMB(HMBカルシウム)として3.0グラム/日(約38mg/kg体重/日)であることが示された。この用量で、レジスタンストレーニング(resistance training)に伴なう筋肉の量および強度の増加が増大し、一方で激しい運動(strenuous exercise)に伴なう筋損傷が最小限に抑えられる。HMBは安全性について試験され、健康な青少年または高齢者において副作用を示さなかった。L-アルギニンおよびL-グルタミンと組み合わせたHMBも、エイズおよび癌の患者に補給した際、安全であることが示された。
【0008】
最近、HMBの新たな送達形態であるHMB遊離酸が開発された。この新たな送達形態はCaHMBより速やかに吸収され、より大きな組織クリアランスをもつことが示された。この新たな送達形態はU.S. Patent Publication Serial No. 20120053240に記載されており、それの全体を本明細書に援用する。
【0009】
現在の証拠は、HMBが高強度または長時間の運動後の骨格筋の再生能を加速することにより作用することを示唆する。トレーニングおよび/または食事を制御すると、HMBは骨格筋損傷およびタンパク質破壊の指数を用量依存性で低下させることができる。最近、改良された生物学的利用能を備えた遊離酸型HMB(HMB-FA)が開発された。初期の試験は、この型のHMBの補給が現在利用されている型であるカルシウムHMBと比較してほぼ2倍の血漿HMBレベルを投与後約1/4の時間でもたらすことを示した。さらに、急激な1回の高ボリュームのレジスタンストレーニング(resistancetraining)の30分前に投与したHMB-FAが、レジスタンストレーニングするアスリートにおいて筋損傷の指数を減衰させ、回復感覚を改善することができた(61)。さらに、2.4グラムのHMB-FAを短時間に摂取すると、骨格筋のタンパク質合成が増大し、タンパク質分解が低減する(それぞれ+70%および-56%)。
【0010】
HMBが筋肉に及ぼす影響については十分な記載がある。HMB補給は筋肉の量および強度を増大させ、結果的に酸素利用を改善できることが知られている。本発明は、HMBの組成物、ならびに筋肉運動に際して関節不安定性を低減し、関節安定性を増大させ、均衡運動を改善し、骨格関節安定性を改善することをもたらすためにHMBを使用する方法を含む。
【0011】
関節問題はクオリティー・オブ・ライフに対して著しい影響をもつ可能性がある。関節が不安定になると、関節は最終的に形状が変化し、変形が生じる可能性がある。炎症および痛みも不安定関節の結果である。筋肉、腱、靭帯および軟骨は協同作業して円滑な関節機能を確実にし、関節をそれらの運動範囲にわたってガイドおよび整合し、運動を可能にする。関節不安定性は、上下運動に支障がある、動きが遅いまたは硬い、階段上りが困難、跛行、および/または片方の足を他の足より優先するなどを含めた多様な影響をもつ可能性がある。
【0012】
筋肉量および筋肉収縮は機能性関節を維持するために必須である。筋肉は負荷力に反作用し、関節の機能を維持する。関節安定作用体としての筋肉の参入は筋肉が及ぼすことができる力に依存し、それは多数の因子に基づく;しかし、筋肉量または筋肉サイズは関節の安定性および適正な機能を維持する際に、より重要な決定因子のひとつであると考えられる。筋肉量の損失は関節不安定性につながり、関節機能に影響を及ぼす可能性があり、それは次いで炎症につながり、最終的には関節炎を生じる場合がある。
【0013】
身体の片側の1つの関節または複数の関節が関節不安定性、炎症または傷害の影響を受けると、対側の強度の維持または改善が、それらの関節不安定性、炎症または傷害から生じる運動障害の克服を補助し、特に損傷を受けた同側の筋肉および関節による均衡欠如の代償を補助する(Jeon K. Comparison of knee laxity and isokinetic muscle strength in patients with a posterior cruciate ligament injury. J Phys Ther Sci 2016; 28:831-836)。
【0014】
膝の不安定性および低い筋肉強度を伴なう患者においては膝安定化トレーニングを行なう以前に筋肉加強が重要であることが示された(Knoop J, van der LM, Roorda LD et al. Knee joint stabilization therapy in patients with osteoarthritis of the knee and knee instability: subgroup analyses in a randomized, controlled trial. J Rehabil Med 2014; 46(7):703-707)。足強度の改善は関節萎縮を伴なう患者において有益であり、彼らが歩行および階段上りなどの日常活動をより容易に行なうのに役立つ(Knoop J, Steultjens MP, Roorda LD et al. Improvement in upper leg muscle strength underlies beneficial effects of exercise therapy in knee osteoarthritis: secondary analysis from a randomised controlled trial. Physiotherapy 2015; 101(2):171-177)。
【0015】
強度は均衡運動に重要である。下肢強度の低下は均衡の低下と関連することが示された。強度の大きい高齢者ほど均衡の低下が少なかった(Messier SP, Glasser JL, Ettinger WH, Jr., Craven TE, Miller ME. Declines in strength and balance in older adults with chronic knee pain: a 30-month longitudinal, observational study. Arthritis Rheum 2002; 47(2):141-148)。
【0016】
関節問題には関節炎症、関節損傷、関節傷害、ならびに変形性関節問題、たとえば骨関節炎ならびに股関節および/または肘関節の異形成が含まれる。よって、関節問題に対処し、関節を安定化し、関節硬直を低減し、均衡運動を改善するための組成物およびその組成物の使用方法に対するニーズがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】U.S. Patent No. 5,360,613
【文献】U.S. Patent No. 5,348,979
【文献】U.S. Patent No. 5,028,440
【文献】U.S. Patent No. 4,992,470
【文献】U.S. Patent No. 6,031,000
【文献】U.S. Patent Publication Serial No. 20120053240
【非特許文献】
【0018】
【文献】Jeon K. Comparison of knee laxity and isokinetic muscle strength in patients with a posterior cruciate 靭帯 injury. J Phys Ther Sci 2016; 28:831-836
【文献】Knoop J, van der LM, Roorda LD et al. Knee joint stabilization therapy in patients with osteoarthritis of the knee and knee instability: subgroup analyses in a randomized, controlled trial. J Rehabil Med 2014; 46(7):703-707
【文献】Knoop J, Steultjens MP, Roorda LD et al. Improvement in upper leg muscle strength underlies beneficial effects of exercise therapy in knee osteoarthritis: secondary analysis from a randomised controlled trial. Physiotherapy 2015; 101(2):171-177
【文献】Messier SP, Glasser JL, Ettinger WH, Jr., Craven TE, Miller ME. Declines in strength and balance in older adults with chronic knee pain: a 30-month longitudinal, observational study. Arthritis Rheum 2002; 47(2):141-148
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的のひとつは、関節不安定性を低減するのに使用するための組成物を提供することである。
本発明のさらなる目的は、関節安定性を増大させるのに使用するための組成物を提供することである。
【0020】
本発明の他の目的は、筋肉運動に際して骨格関節の均衡運動および安定性を付与するための組成物を提供することである。
本発明の他の目的は、関節不安定性を低減するのに使用するための組成物を投与する方法を提供することである。
【0021】
本発明のさらに他の目的は、関節安定性を増大させるための組成物を投与する方法を提供することである。
本発明のさらなる目的は、筋肉運動に際して骨格関節の改善された均衡運動および安定性を得るための組成物を投与する方法を提供することである。
【0022】
本発明の他の目的は、関節硬直を低減するための組成物を投与する方法を提供することである。
本発明のさらに他の目的は、同側に関節損傷、関節炎症、関節衰弱、または関節傷害がある場合に、対側の強度を維持および/または改善するための組成物を投与する方法を提供することである。
すなわち、本明細書は以下の発明の開示を包含する:
[1]関節の健康状態を改善する方法であって、投与の必要がある動物に体重キログラム当たり約0.01から約0.2gまでのβ-ヒドロキシ-β-メチル酪酸(HMB)を含む組成物を24時間で投与することを含み、投与の必要がある動物への組成物の投与は筋肉運動に際しての関節不安定性の低減、関節安定性の増大、関節硬直の低減、関節機能の改善、関節の健康状態の改善、均衡運動の改善、および骨格関節安定性の改善を含む群から選択される少なくとも1つの効果を有する、前記方法。
[2]HMBが、それの遊離酸型、それの塩、それのエステル、およびそれのラクトンからなる群から選択される、[1]に記載の方法。
[3]塩が、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、クロム塩およびカルシウム塩からなる群から選択される、[2]に記載の方法。
[4]強度を増大させる方法であって、関節炎症、関節損傷および/または関節傷害を伴なう動物に体重キログラム当たり約0.01から約0.2gまでのβ-ヒドロキシ-β-メチル酪酸(HMB)を含む組成物を24時間で投与することを含み、その際、投与の必要がある動物への組成物の投与はその関節炎症、関節損傷および/または関節傷害の部位に対して身体の対側における強度を増大させる効果を有する、前記方法。
[5]動物の対側における強度を増大させる効果により均衡運動の改善が生じる、[4]に記載の方法。
[6]HMBが、それの遊離酸形、それの塩、それのエステル、およびそれのラクトンからなる群から選択される、[4]に記載の方法。
[7]筋肉量を増大させる方法であって、関節炎症、関節損傷および/または関節傷害を伴なう動物に体重キログラム当たり約0.01から約0.2gまでのβ-ヒドロキシ-β-メチル酪酸(HMB)を含む組成物を24時間で投与することを含み、投与の必要がある動物への組成物の投与はその関節炎症、関節損傷および/または関節傷害の部位に対して身体の対側における筋肉量を増大させる効果を有する、前記方法。
[8]動物の対側における強度を増大させる効果により均衡運動の改善が生じる、[7]に記載の方法。
[9]HMBが、それの遊離酸形、それの塩、それのエステル、およびそれのラクトンからなる群から選択される、[7]に記載の方法。
[10]関節の健康状態を増大させる方法であって、投与の必要がある動物に約0.5から約30gまでのβ-ヒドロキシ-β-メチル酪酸(HMB)を含む組成物を24時間で投与することを含み、その際、投与の必要がある動物への組成物の投与は筋肉運動に際しての関節不安定性の低減、関節安定性の増大、関節硬直の低減、関節機能の改善、関節の健康状態の改善、均衡運動の改善、および骨格関節安定性の改善を含む群から選択される少なくとも1つの効果を有する、前記方法。
[11]筋肉量を増大させる方法であって、関節炎症、関節損傷および/または関節傷害を伴なう動物に約0.5から約30gまでのβ-ヒドロキシ-β-メチル酪酸(HMB)を含む組成物を24時間で投与することを含み、投与の必要がある動物への組成物の投与はその関節炎症、関節損傷および/または関節傷害の部位に対して身体の対側における筋肉量を増大させる効果を有する、前記方法。
[12]強度を増大させる方法であって、関節炎症、関節損傷および/または関節傷害を伴なう動物に約0.5から約30gまでのβ-ヒドロキシ-β-メチル酪酸(HMB)を含む組成物を24時間で投与することを含み、投与の必要がある動物への組成物の投与はその関節炎症、関節損傷および/または関節傷害の部位に対して身体の対側における強度を増大させる効果を有する、前記方法。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明のこれらおよび他の目的は、以下の詳細な記載、図面、および特許請求の範囲を参照すると当業者に明らかになるであろう。
本発明は、これまで遭遇してきた困難を克服することを意図する。そのために、HMBを含む組成物を提供する。この組成物を投与の必要がある対象に投与する。すべての方法が、動物にHMBを投与することを含む。本発明に含まれる対象には、ヒト、ならびにイヌ、ネコおよびウマなどの愛玩動物を含めた非ヒト哺乳類が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【発明を実施するための形態】
【0025】
HMBが関節安定性を改善し、関節硬直を減弱させ、健全な関節機能を保存および/または改善し、かつ筋肉運動を改善することが、驚くほどにそして予想外に見出された。本発明は、関節不安定性を低減し、関節安定性を改善し、関節硬直を減弱させ、健全な関節を促進し、関節運動範囲を拡大し、均衡運動および骨格関節安定性を改善することをもたらすHMBの組成物およびHMBの使用方法を含む。
【0026】
この組成物は、これらの転帰を求めるすべての年齢グループに使用できる。この組成物は、同様にヒト、ならびにイヌ、ネコおよびウマなどの愛玩動物を含めた(これらに限定されない)非ヒト哺乳類に使用できる。
【0027】
HMB
β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸、またはβ-ヒドロキシ-イソ吉草酸は、それの遊離酸型で(CH3)2(OH)CCH2COOHとして表わすことができる。用語“HMB”は、上記の化学式をもつ化合物(それの遊離酸型および塩型の両方)、およびその誘導体を表わす。誘導体には代謝産物、エステルおよびラクトンが含まれる。いかなる形態のHMBも本発明に関して使用できるが、好ましくはHMBは遊離酸、塩、エステル、およびラクトンからなる群から選択される。HMBエステルには、メチルおよびエチルエステルが含まれる。HMBラクトンには、イソバレリルラクトンが含まれる。HMB塩には、ナトリウム塩、カリウム塩、クロム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルカリ金属塩、および土類金属塩が含まれる。
【0028】
HMBおよびそれの誘導体を製造する方法は当技術分野で周知である。たとえば、HMBはジアセトンアルコールの酸化により合成できる。適切な1方法がCoffman et al., J. Am. Chem. Soc. 80: 2882-2887 (1958)により記載されている。そこに記載されるように、HMBはジアセトンアルコールのアルカリ性次亜塩素酸ナトリウム酸化により合成される。生成物は遊離酸型で回収され、それを塩に変換することができる。たとえば、Coffman et al. (1958)のものと類似の方法により、HMBをそれのカルシウム塩として製造でき、その際、HMBの遊離酸を水酸化カルシウムで中和し、エタノール水溶液から結晶化により回収する。HMBのカルシウム塩がMetabolic Technologies(アイオワ州エイムズ)から販売されている。
【0029】
β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸(HMB)カルシウムの補給
20年以上前に、HMBのカルシウム塩がヒトのための栄養補給剤として開発された。多数の研究により、CaHMB補給は、レジスタンス運動(resistance-exercise)トレーニングとの併用で筋肉の量および強度の増加を改善し、癌およびエイズなどの状態における筋肉量の損失を減少させることが示された。NissenおよびSharpはレジスタンストレーニングと併用したサプリメントのメタ解析を実施し、HMBは臨床試験がレジスタンストレーニングで強度および除脂肪量(lean mass)の有意の増大を示したわずか2つのサプリメントのうちの1つであることを見出した。試験は、38mgのCaHMB/kg体重が平均的なヒトに有効な投与量であると思われることを示した。
【0030】
強度および筋肉量の増加に加えて、CaHMB補給は筋損傷およびタンパク質分解の指標も低下させる。ヒトの試験は、血漿CPK(クレアチンホスホキナーゼ)増大により測定して、激しい運動の後の筋損傷がHMB補給で低減することを示した。HMBの保護効果は、毎日の継続使用で少なくとも3週間はみられることが示された。分離したラット筋肉におけるインビトロ試験は、HMBが特にストレス期間中の筋タンパク質分解の有効な阻害剤であることを示す。これらの所見はヒトにおいて確認された;たとえば、HMBはレジスタンストレーニングを行なっている対象における筋タンパク質分解を阻止する。
【0031】
HMBがタンパク質分解を低減しかつタンパク質合成を増大させる分子機構がレポートされた。Eleyらは、HMBがmTORリン酸化によりタンパク質合成を刺激することを示すインビトロ試験を実施した。他の試験は、タンパク質分解誘導因子(proteolysis inducing factor)(PIF)、リポ多糖(LPS)、およびアンギオテンシンIIによって筋タンパク質の異化を刺激した際、HMBがユビキチン-プロテアソームタンパク質分解経路の誘導を減衰させることによってタンパク質分解を低減することを示した。さらに他の試験は、HMBがカスパーゼ-3および-8プロテアーゼの活性化も減衰させることを立証した。これらの試験を合わせると、HMB補給はタンパク質分解の低減とタンパク質合成の増大との組合わせによって除脂肪量の増大および付随する強度増加をもたらすことが示される。
【0032】
HMB遊離酸型
大部分の場合、臨床試験に用いられたエルゴジェニックエイド(強壮剤)(ergogenic aid)として市販されているHMBは、カルシウム塩型のものであった。最近の進歩によりHMBを栄養補給剤として使用するために遊離酸型として製造できるようになった。最近、新たな遊離酸型のHMBが開発され、それはCaHMBより速やかに吸収されて、より急速に、より高いピーク血清HMBレベルをもたらし、かつ血清から組織へのクリアランスを改善することをもたらすことが示された。遊離酸型のHMBは“HMB酸”の名称で表わされる。
【0033】
したがって、特に激しい運動の直前に投与する場合、HMB遊離酸はカルシウム塩型より有効なHMB投与方法である可能性がある。急激な1回の運動の30分前に開始したHMB遊離酸は、筋損傷の減衰および炎症性応答の軽減においてCaHMBより有効であった。しかし、本発明がいかなる形態のHMBをも包含することは当業者に認識されるであろう。
【0034】
いずれの形態のHMBも、24時間で約0.5グラムのHMB~約30グラムのHMBの一般的投与量範囲を生じる様式で送達および/または投与剤形に取り込ませることができる。HMBは、24時間で体重キログラム当たり0.01~0.2gのHMBの投与量範囲で投与することもできる。
【0035】
HMB自体はいかなる形態で存在することもできる;たとえば、CaHMBは一般にいかなる送達剤形中にも取り込ませることができる粉末であり、一方、HMB酸は一般にいかなる送達剤形中にも取り込ませることができる液体またはゲルである。送達剤形の限定ではない例には、ピル、錠剤、カプセル剤、ゲルカプセル剤(gelcap)、液剤、飲料、固形剤およびゲル剤が含まれる。愛玩動物などの動物については、市販のペットフード、チュー(chew)(咬むペットフード)およびおやつ(treat)を含めた飼料に、HMBを上記に挙げた送達剤形で単独で含有させることができる。
【0036】
投与するまたは投与という用語は、組成物を哺乳動物に与えること、組成物を摂取すること、およびその組合わせを含む。
前記組成物を食用形態で経口投与する場合、組成物は好ましくは栄養補助食品(dietary supplement)、食品、または医薬(pharmaceutical medium)の形態、より好ましくは栄養補助食品または食品の形態である。前記組成物を含むいずれか適切な栄養補助食品または食品を本発明に関して使用できる。組成物が形態(たとえば、栄養補助食品、食品または医薬)に関係なくアミノ酸、タンパク質、ペプチド、炭水化物、脂肪、糖類、無機質および/または微量元素を含有できることは、当業者には理解されるであろう。
【0037】
組成物を栄養補助食品または食品として調製するために、組成物は普通は組成物が栄養補助食品または食品中に実質的に均一に分布するように混和または混合されるであろう。あるいは、組成物を液体、たとえば水に溶解することができる。
【0038】
栄養補助食品の組成物は、粉末、ゲル、液体であってもよく、あるいは打錠またはカプセル封入されてもよい。
組成物を含むいずれか適切な医薬を本発明に関して使用できるが、好ましくは組成物を適切な医薬用キャリヤー、たとえばデキストロースまたはスクロースと混和する。
【0039】
さらに、医薬組成物をいずれか適切な様式で静脈内投与することができる。静脈内注入により投与するためには、組成物は好ましくは水溶性、無毒性の形態である。静脈内投与は、特に静脈内(IV)療法を受けている入院患者に適切である。たとえば、患者に投与されているIV溶液(たとえば、生理食塩水またはグルコース溶液)に組成物を溶解することができる。アミノ酸、ペプチド、タンパク質および/または脂質を含有してもよい栄養補給IV溶液に組成物を添加することもできる。静脈内投与する組成物の量は、経口投与に用いるレベルと同様であってもよい。静脈内注入は経口投与より制御可能かつ正確である。
【0040】
組成物を投与する頻度を計算する方法は当技術分野で周知であり、本発明に関してはいずれか適切な投与頻度(たとえば、6g量を1日1回、または3g量を1日2回)をいずれか適切な期間にわたって採用できる(たとえば、1回量を5分間にわたって、または1時間にわたって投与でき、あるいは多数回量を長期間にわたって投与できる)。HMBは長期間、たとえば数週間、数か月間または数年間にわたって投与できる。組成物は、1日当たり1以上の用量/個別投与量を含む個別投与量で投与して、1日または24時間に投与する組成物の全量を含む1日分の投与量にすることができる。
【0041】
いずれか適切な用量のHMBを本発明に関して使用できる。適量を計算する方法は当技術分野で周知である。
一般に、筋肉運動に際して関節不安定性を低減し、関節安定性を増大させ、関節硬直を低減し、対側の強度を増大または維持し、均衡運動および骨格関節安定性を改善することをもたらすのに十分なレベルの量のHMBを供給する。
【実施例】
【0042】
症例研究
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。本明細書中で全般的に記載し、実施例中に説明する本発明の組成物は、多様な配合および剤形で調製でき、ヒトおよび非ヒト動物を含めたあらゆる年齢範囲およびあらゆる種にわたって適用できることは、容易に理解されるであろう。よって、以下の現在好ましい本発明の方法、配合物および組成物の態様のより詳細な記載は特許請求の範囲に記載する本発明の範囲を限定するためのものではなく、それは現在好ましい本発明の態様の代表例にすぎない。
【0043】
約70ポンドの体重の11歳の雌ゴールデンレトリーバーが複数の関節における関節炎を伴なうと診断され、明らかな代償性(paid)である著しい活動低下を呈していた。関節炎を発症する前には、このイヌは階段を上がり、車に跳び乗り、跳び降り、家具に登っていた。
【0044】
カプセル形のCaHMBを2グラム/日の量で、1グラム量を普通食と共にイヌに投与した。
この治療計画を開始した後すぐに、このイヌは階段を上がり、限られた距離を走り、家具に登ることを始めた。
【0045】
HMB投与計画を開始した約2カ月後に、イヌは増殖しつつある脳腫瘍に関連したけいれん発作を発現した。けいれん発作の治療にはフェノバルビタール、ガバペンチン(gabapentin)および臭化カリウムが含まれており、これらは重篤な運動失調を引き起こし、そのためイヌは横になった位置から介助なしではもはや立ち上がることができず、階段を上がれず、あるいは家具に乗ることができなかった。けいれんが発症して抗けいれん薬療法を導入している際は、HMB投与を約2週間、一時的に中断した。HMB投与計画を再開すると、イヌは介助なしに立ち上がり始め、さほどの介助なしに階段を上がることができた。飼い主は運動失調も著しく改善されたことを認めた。
【0046】
このイヌへのHMBの投与は、関節安定性の増大、関節不安定性の低減、均衡運動および骨格関節安定性の改善をもたらし、イヌは階段を上ることおよび介助なしに立つことなどの日常活動を再開できた。イヌの飼い主はイヌのクオリティー・オブ・ライフが著しく改善されたと感じた。
【0047】
以上の記載および図面は本発明の具体的態様を含む。以上の態様および本明細書に記載する方法は、当業者の能力、経験および好みに基づいて変更できる。本方法の工程を特定の順序で単に列記したものは、本方法の工程の順序に対する何らかの制限となるものではない。以上の記載および図面は本発明を説明および図示するにすぎず、特許請求の範囲でそのように限定しない限り、本発明はそれらに限定されない。開示内容を見た当業者は本発明の範囲から逸脱することなく本発明の改変および変更を行なうことができるであろう。
【0048】
実験例
21匹の雌ニュージーランド・ホワイトウサギ(43週齢)(Covance Research Products,Inc.,インディアナ州グリーンフィールド)を、カルガリー大学(University of Calgary)(カナダ、アルバータ州カルガリー)で実施した8週間の試験に用いた。軟組織外傷を再現するための薬剤としてBotoxを用いた。これらのウサギを下記の処理グループの1つにランダムに配属した:
(1)対照グループ:生理食塩水を片側注射(n=7);
(2)Botoxグループ:単回Botox片側注射(n=7);
(3)Botox+HMBグループ:単回Botox片側注射+実験期間全体を通してCaHMB飼料を補給(n=7)。CaHMB=β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸カルシウム塩;
グループ1のウサギを対照として用い、大腿四頭筋組織にランダムに(右または左)筋肉内生理食塩水注射を施した。注射した生理食塩水の総体積はBotoxの総体積と同じであった。グループ2および3のウサギには単回筋肉内Botox注射を施し、注射後8週間、データを収集した。
【0049】
生理食塩水注射およびBotox注射:生理食塩水グループのウサギには0.175mlの生理食塩水/kg体重を注射した。BotoxおよびBotox+HMBのグループのウサギにはボツリヌス菌(Clostridium botulinum)A型(BTX-A)神経毒素複合体(Botox(登録商標),Allergan,Inc. カナダ、オンタリオ州トロント)を注射した。要約すると、凍結乾燥した毒素(100U/バイアル)を0.9%塩化ナトリウムで20U/mlの濃度に再構成した。右または左の肢をランダムに選択し、3.5U/kg体重を大腿四頭筋に注射した。大腿の前区画を触診により分離し、大腿四頭筋を上半分と下半分に目視分割した。次いで各半分をそれぞれ内側、外側および中心セクションに小分割した。拡散度を高め、BTX-Aを大腿四頭筋組織全体に均等に分布させるために、BTX-A量の1/6を各セクションに注射した。
【0050】
食事:グループ1および2のウサギに高繊維食(Laboratory Rabbit Diet HF 5326,LabDiet,インディアナ州リッチモンド)を与え、一方、グループ3のウサギには同じ基礎食に0.44%のCaHMB(Metabolic Technologies,Inc.,米国アイオワ州エイムズ)を注文配合したものを与えた。体重および飼料摂取量を週1回記録した。
【0051】
大腿四頭筋強度:試験前に埋め込んだ大腿神経カフ電極で大腿四頭筋を刺激することにより膝伸筋(knee extensor)強度を評価した。神経カフを埋め込んだ後、骨ピンを用いて骨盤および大腿顆(femoral condyle)の位置でウサギを定位固定枠(stereotactic frame)に固定した。ウサギの脛骨の末端部上に配置した歪みゲージ付き較正バー(strain-gauged, calibrated bar)を用いて80°、100°および120°の膝屈曲における等長膝伸筋力を測定した。
【0052】
すべての運動単位を確実に活性化するために、アルファ運動ニューロン(alpha motor neuron)閾値より3倍高い電圧で膝伸筋組織の刺激(Grass S8800刺激装置;Astro-Med Inc.,カナダ、ケベック州ロンゲール)を実施した。刺激期間は500ミリ秒、パルス期間は0.1ミリ秒であり、2種類の刺激周波数100Hzおよび200Hzで測定を行なった。筋疲労を防ぐために刺激間で2分の休止期間を与えた。
【0053】
大腿四頭筋量:8週間の給餌期間後、ウサギを過剰量のEuthanyl(MTC Pharmaceutical,カナダ、オンタリオ州ケンブリッジ)心臓投与により、と殺した。動物をと殺した直後に大腿四頭筋の湿潤筋肉量を測定した。大腿四頭筋群を切除し、大腿直筋(rectus femoris)(RF)、内側広筋(vastus medialis)(VM)、外側広筋(vastus lateralis)(VL)および小外側広筋(small vastus lateralis)(SVL)を分離し、市販の秤を用いて0.01gの精度で個別に秤量した。
【0054】
統計解析
Proc GLMをSAS(Windows 9.4用のSAS,SAS Institute,Inc.,ノースカロライナ州ケアリー)に用いてデータを解析した。このモデルには処理の主効果(main effect)を用いた。実際の筋肉重量および強度の測定には、ウサギの体重を共変量として用いた。レポートした平均値は最小二乗平均値(Least Square mean)であり、平均値の標準誤差を主効果モデルの誤差項(error term)の平均平方(mean square)から計算した。全処理について示したp値は主効果モデルからのものであり、一方、個々の平均値は最小二乗平均値予測差を用いて比較された。p値≦0.05は有意性を示し、一方、0.05<p<0.10はデータにおける有意性の明確な傾向を示す。
【0055】
体重および飼料摂取量
筋肉測定を行なった時点で平均体重には差がなかった。対照、botox、およびbotox+HMBのウサギは、それぞれ4.17±0.08、4.04±0.13、および3.99±0.10kgの体重であった。8週間にわたる飼料摂取量は、対照、botox、およびbotox+HMBのウサギについてそれぞれ、平均168.5±7.6、135.5±7.9、および129.4±8.0 g/日であった。botoxおよびbotox+HMBグループの食餌量が有意に少ないのは、botox注射後の飼料摂取量減少のためである(p<0.005)。
【0056】
筋肉量データ
21匹すべてのウサギについての筋肉量データを表1に示す。用いたBotox注射は、注射した肢の筋肉量を著しく減少させた。唯一の有意差は、Botox+HMBグループの対側の肢の大腿直筋がBotox単独グループの対側大腿直筋より有意に大きいことであった。
【0057】
【0058】
注射した側の筋組織に基づいて21匹のウサギのサブセットを選別した。用いたのがかなり苛酷な投与量のbotoxであったため、各処理グループにおいて最低の総筋組織重量をもつ2匹のウサギをこのサブセット解析から除外した。したがって、21匹のウサギのうち15匹からの筋肉データを解析した。このサブセットからの筋肉量データを表2に示す。
【0059】
【0060】
botox注射は、測定したすべての筋肉において筋肉サイズの約36%の減少をもたらした。小外側広筋のみがbotox注射による影響を受けなかった。注射した肢の内側広筋はbotox+HMBグループにおいてbotox単独グループより大きく、最小二乗平均の差のt-検定はbotoxグループのみが対照グループと有意差があることを示した(p<0.0
6)。さらに、botox+HMBグループにおける注射した肢の小外側広筋は対照グループのものより大きい傾向があった(p<0.07)。botox+HMBグループの対側の大腿直筋の最小二乗平均解析は、対照グループの大腿直筋重量より大きい傾向があった(p<0.08)。botox+HMBグループについて対側の肢において測定した筋肉の総重量は、botox単独グループのおけるものより大きい傾向があり(p<0.07)、対照グループにおける筋肉の総重量より大きい傾向もあった(p<0.09)。さらに、botox注射によって最も大きい影響を受けた筋肉(外側広筋、内側広筋、および大腿直筋)は、botox+HMBグループの対側の肢においてbotoxグループより重量が大きかった(p<0.04)。筋肉重量を体重に対するパーセントとして表わしたものは、HMB対botoxグループ(p<0.10)および対照グループ(p<0.03)について同じ影響、すなわちより大きい対側筋組織を示した。これらの結果を
図1に示す。
【0061】
HMBの補給は、botox注射したウサギにおいて筋肉量の保存を補助した。HMBは、botoxグループおよび対照グループの両方と比較した場合、botox+HMBグループにおいて対側の肢における筋肥大を大幅に増大させた。よって、HMBはボツリヌス毒素の過酷な性質にもかかわらず筋肉の保存および肥大を実際に補助した。
【0062】
筋肉強度データ
生理食塩水注射(対照)またはbotox注射した側および対側の筋組織において、botoxまたは生理食塩水を注射した8週間後に等長膝伸筋強度を測定した。
【0063】
大腿神経を前記に従って刺激し、100および200Hzの周波数での刺激の結果を表3および4に示す。
【0064】
【0065】
【0066】
対照グループと比較すると、botox注射した筋肉についての全体的な強度低下はbotox単独グループおよびbotox+HMBグループの両方について同様であった。botox注射したグループは両方とも、100Hzおよび200Hz両方の刺激周波数で測定して63~66%の筋肉強度を失った。botox注射したウサギにおける対側の筋肉強度は100および200Hzにおいてそれぞれ16.8および26.3%低下し、それに対しbotox+HMBウサギにおける対側の強度は100および200Hzにおいてそれぞれ約半分の9.9および12.3%低下したにすぎなかった。100Hzでは、HMBは対照ウサギと比較して対側の筋肉の強度に統計的に有意の損失を生じておらず、それに対しbotox単独のウサギの対側の筋肉の強度には有意の損失があった(p<0.01)。200Hzの刺激では、HMB処理は対側の筋肉においてよりいっそう大きい強度保存をもたらした。botox+HMB処理ウサギにおける強度は、80度および100度においてbotox単独グループのものより有意に大きく、80度および100度においてbotox+HMBグループと対照グループの間に強度における有意差はなかった。まとめると、botox注射は注射した筋組織だけでなく対側の筋組織においても有意の強度損失を生じ、HMBは対側の筋組織におけるbotox誘導による強度損失の多くを阻止した。これらの結果を
図2に示す。
【0067】
以上の記載および図面は本発明の具体的態様を含む。以上の態様および本明細書に記載する方法は、当業者の能力、経験および好みに基づいて変更できる。本方法の工程を特定の順序で単に列記したものは、本方法の工程の順序に対する何らかの制限となるものではない。以上の記載および図面は本発明を説明および図示するにすぎず、特許請求の範囲でそのように限定しない限り、本発明はそれらに限定されない。開示内容を見た当業者は本発明の範囲から逸脱することなく本発明の改変および変更を行なうことができるであろう。