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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20231213BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C19/18
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019057262
(22)【出願日】2019-03-25
(65)【公開番号】P2020159399
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松谷 亮太
【審査官】山本 健晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-223257(JP,A)
【文献】特開2018-096478(JP,A)
【文献】特開2009-286308(JP,A)
【文献】実開昭63-011929(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/78
F16C 19/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、
外周に軸方向に延びる小径段部、および前記小径段部よりもアウター側に配置される車輪取り付けフランジを有するハブ輪、ならびにこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、外周に前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面を有する内方部材と、
この内方部材と前記外方部材のそれぞれの軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間のうちアウター側開口端を塞ぐアウター側シール部材と、を備え、
前記アウター側シール部材は、前記外方部材に嵌合された芯金と、前記芯金に接合されたシール部材と、前記内方部材に嵌合されて前記シール部材が摺接する金属環とを有し、
前記金属環は、その外周縁に前記ハブ輪の回転に伴って回転する複数の翼形状の羽根部を備え、
前記複数の羽根部は、周方向に等間隔で設けられるとともに、前記車輪取り付けフランジと軸方向に対向して設けられる、車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記羽根部は、前記外方部材の外周面よりも径方向外側に設けられている、請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車輪用軸受装置には、泥水等の異物の入り込みを防止するシール部材が外方部材と内方部材との間に設けられている。車輪用軸受装置のアウター側シール部材は、外方部材のアウター側端部に嵌合され、外方部材と内方部材とによって形成された環状空間のアウター側開口端を塞いでいる。
【0003】
車輪用軸受装置において、アウター側シール部材のシール構造を工夫して密封性を向上させているものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
従来のアウター側シール部材では、密封性向上のために、ハブ輪の車輪取付けフランジと微小間隔を空けて配置されるラビリンスリップ、又は、外方部材の外周面に沿って延びる堰を設けているものが存在する。しかし、ラビリンスリップ又は堰を設けるためには外方部材のアウター側端部の径方向厚さを薄くして空間を確保する必要があり、外方部材に形状的な制限が発生する。そのため、形状的な制限を設けずに泥水等の異物の侵入を防止できるように構成されたアウター側シール部材が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-89999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、外方部材に形状的な制限を設けずに軸受内部への泥水等の異物の侵入を防止することができるアウター側シールを備えた車輪用軸受装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第一の発明は、内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、外周に軸方向に延びる小径段部、および前記小径段部よりもアウター側に配置される車輪取り付けフランジを有するハブ輪、ならびにこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、外周に前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面を有する内方部材と、この内方部材と前記外方部材のそれぞれの軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間のうちアウター側開口端を塞ぐアウター側シール部材と、を備え、前記アウター側シール部材は、前記外方部材に嵌合された芯金と、前記芯金に接合されたシール部材と、前記内方部材に嵌合されて前記シール部材が摺接する金属環とを有し、前記金属環は、その外周縁に前記ハブ輪の回転に伴って回転する羽根部を備える。
【0008】
第二の発明は、前記羽根部は、前記外方部材の外周面よりも径方向外側に設けられている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、羽根部が回転することによって発生する風により、軸受内部に侵入する泥水等を吹き飛ばすため、ラビリンスリップ又は堰を設けていなくても、耐泥水性が向上されたアウター側シール部材を備えた車輪用軸受装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】車輪用軸受装置の第一実施形態における全体構成を示す断面図。
図2】車輪用軸受装置の第一実施形態におけるアウター側シール部材を示す拡大断面図。
図3】金属環の鍔部に複数並べて配置された羽根部を模式的に示す正面図。
図4】車輪用軸受装置の第二実施形態におけるアウター側シール部材を示す拡大断面図。
図5】車輪用軸受装置の第三実施形態におけるアウター側シール部材を示す拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、図1から図3を用いて、車輪用軸受装置の第一実施形態である車輪用軸受装置1について説明する。なお、以下の説明において、インナー側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表し、アウター側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表す。
【0012】
図1に示すように、車輪用軸受装置1は、自動車等の車両の懸架装置において車輪を回転自在に支持する。車輪用軸受装置1は、外輪2、ハブ輪3、内輪4、転動体5、インナー側シール部材6およびアウター側シール部材7を具備する。
【0013】
図1に示すように、外方部材である外輪2は、ハブ輪3と内輪4とを支持する。外輪2のインナー側端部には、インナー側シール部材6が嵌合可能なインナー側開口部2bが設けられている。外輪2のアウター側端部2fには、アウター側シール部材7を嵌合可能なアウター側開口部2cが設けられている。外輪2の外周面2eには、図示しない懸架装置のナックルに取り付けるための車体取り付けフランジ2dが一体に設けられている。外輪2の内周面には、そのインナー側及びアウター側に周方向に複列の内側軌道面2a・2aが設けられている。
【0014】
内方部材は、ハブ輪3と内輪4とによって構成されている。ハブ輪3は、図示しない車両の車輪を回転自在に支持する。ハブ輪3のインナー側端部には、外周面に縮径された小径段部3aが設けられている。ハブ輪3のアウター側端部には、車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジ3bが一体的に設けられている。車輪取り付けフランジ3bには、ハブ輪3と車輪又はブレーキ装置とを締結するためのハブボルト3cが圧入されている。また、ハブ輪3のアウター側の外周面には、内側軌道面3dが設けられている。
【0015】
内輪4は、ハブ輪3の小径段部3aに圧入されている。内輪4の外周面には、内側軌道面4aが設けられている。つまり、ハブ輪3のインナー側には、内輪4によって内側軌道面4aが構成されている。
【0016】
転動体5は、複数のボールと、当該ボールを保持する保持器とを有している。
【0017】
インナー側シール部材6は、略円筒状のシール板6aと略円筒状のスリンガ6bとを有している。シール板6aは外輪2のインナー側開口部2bに嵌合され、スリンガ6bは内輪4に嵌合されている。
【0018】
図1及び2に示すように、アウター側シール部材7は、外輪2とハブ輪3とによって形成された環状空間のうちアウター側開口端を塞いでいる。アウター側シール部材7は、芯金8と、金属環9と、シール部材10とを有している。
【0019】
芯金8は、例えば鋼板をプレス加工することによって形成されている。図2に示すように、芯金8は、円筒部8aと屈曲部8bとを含んでいる。
【0020】
円筒部8aは、外輪2のアウター側開口部2c(外輪2のうちアウター側端部2fの内周面)に嵌合している。屈曲部8bは、円筒部8aのアウター側端部から屈曲しつつ径方向内方に延びている。
【0021】
芯金8には、例えば合成ゴムからなるシール部材10が接合(ここでは、加硫接着)されている。屈曲部8bには、シール部材10のラジアルリップ10a、内側アキシアルリップ10b及び外側アキシアルリップ10cが接合されている。ラジアルリップ10aは、屈曲部8bの最も径方向内側に設けられている。ラジアルリップ10aは、車輪用軸受装置1の内部のグリースが外部へ漏れることを防止している。内側アキシアルリップ10bは、ラジアルリップ10aよりも径方向外側に設けられている。外側アキシアルリップ10cは、内側アキシアルリップ10bよりも径方向外側に設けられている。
【0022】
金属環9は、例えば鋼板をプレス加工することによって形成されている。金属環9は、円筒部9aと、折曲部9bと、円板部9cと、テーパ部9dと、鍔部9eと、羽根部9fとを含んでいる。
【0023】
円筒部9aは、ハブ輪3の肩部3f(内周軌道面3dとアウター側で隣接している部分)に嵌合している。円筒部9aには、ラジアルリップ10aがグリース油膜を介して摺接している。折曲部9bは、円筒部9aのアウター側端部からアウター側に向かうにつれて径方向外側に拡径している。折曲部9bには、内側アキシアルリップ10bがグリース油膜を介して摺接している。円板部9cは、折曲部9bの先端部から径方向外側に延びている。円板部9cには、外側アキシアルリップ10cがグリース油膜を介して摺接している。
【0024】
テーパ部9dは、円板部9cの外周縁からインナー側に向かうにつれて拡径している。鍔部9eは、テーパ部9dの先端部から径方向外側に延びている。
【0025】
図2及び3に示すように、羽根部9fは、金属環9(の鍔部9e)の外周縁に設けられている。羽根部9fは翼形状であり、金属環9の外周縁をプレス加工することによって形成されている。羽根部9fは、金属環9の外周縁において、周方向に等間隔で設けられている。軸方向から視て、隣り合う羽根部9fは、その一部がお互いに重なっている。羽根部9fは、ハブ輪3の回転に伴って回転する動翼として機能する。羽根部9fは、外側アキシアルリップ10cの先端部と軸方向位置が重なっている。羽根部9fは、外輪2の外周面2eよりも径方向外側に設けられていて、車輪取り付けフランジ3bと軸方向に対向している。
【0026】
円板部9c、テーパ部9d及び鍔部9eのうちハブ輪3の外周面3eと軸方向に対向する面には、ゴム部材11が接合(ここでは、加硫接着)されている。ゴム部材11は、例えば、合成ゴムである。ゴム部材11は、ハブ輪3の外周面3eに接触している。
【0027】
以上に説明した構成によれば、アウター側シール部材7において、ハブ輪3の外周面3eには、羽根部9fを備えた金属環9が設けられている。これにより、車両走行時においてハブ輪3が回転した際に金属環9の羽根部9fは外輪2に対して回転する動翼として機能し、羽根部9fの回転によって発生した風(空気)でアウター側シール部材7に降り掛かる泥水等の異物を吹き飛ばすことができる。これにより、アウター側シール部材にラビリンスリップ又は堰を設けていなくても、耐泥水性を向上させることができる。また、金属環9は、例えばプレス加工により成型する際、外周縁の一部に羽根部9fを設けるだけでよいため、羽根部を別体として用意する必要が無く、製造コストを抑えることができる。
【0028】
次に、図を用いて、本発明に係る車輪用軸受装置の変形例として第二実施形態及び第三実施形態について説明する。以下の各実施形態の説明では、各実施形態において追加、変更した部位について主に説明を行い、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0029】
[第二実施形態]
次に、図4を用いて、本発明に係る車輪用軸受装置の第二実施形態である車輪用軸受装置1Aについて説明する。本実施形態に係る車輪用軸受装置1Aは、第一実施形態の変形例であり、第一実施形態である車輪用軸受装置1において、第一実施形態のテーパ部9dをインナー側に傾斜して延ばし、そのインナー側端部と外輪2のアウター側端部2fとが径方向外側から見て重複するように配置されたテーパ部9d1を含んでいる。さらに、外輪2のアウター側端部2fには、外輪2のアウター側の端面2gから外周面2eに向って漸次拡径する所定の傾斜角からなるテーパ面2hが設けられている。金属環9のテーパ部9d1は、外輪2のテーパ面2hに対向して配置され、外輪2のテーパ面2hとの間に僅かな環状の隙間が形成され、金属環9のテーパ部9d1とテーパ面2hとの間でラビリンス構造Aが構成される。
【0030】
これにより、車輪用軸受装置1Aは、第一実施形態の車輪用軸受装置1と同様の効果を有するとともに、テーパ部9d1とテーパ面2hとの間でラビリンス構造Aが構成されるため、軸受内部への泥水等の異物の侵入を更に抑制することができる。なお、車輪用軸受装置1Aは、外輪2のアウター側端部2fの外周面2eの周方向に亘って断面半円状の環状溝を設けてもよい。この環状溝は、後述する第三実施形態の環状溝2iと同様である。
【0031】
[第三実施形態]
次に、図5を用いて、本発明に係る車輪用軸受装置の第三実施形態である車輪用軸受装置1Bについて説明する。本実施形態に係る車輪用軸受装置1Bは、第二実施形態の変形例であり、第二実施形態である車輪用軸受装置1Aにおいて、鍔部9eの外周縁部及び羽根部9fが取り除かれて、弾性部材(ここでは、合成ゴム)からなる羽根部11aが追加されている。さらに、第二実施形態の車輪用軸受装置1Aにおいて、外輪2のアウター側端部2fの外周面2eの周方向に亘って断面半円状の環状溝2iが追加されている。羽根部11aは、複数の板状の部分であり、ゴム部材11の基部11bの外周縁の周方向に沿って等間隔に配置されるとともに片端(径方向内側端)が基部11bの外周縁に支持され、かつ互いに重なり合うように設けられる。羽根部11aは、ハブ輪3の回転に伴って回転する動翼のブレード部分として構成されている。
【0032】
これにより、車輪用軸受装置1Bは、第二実施形態の車輪用軸受装置1Aと同様の効果を有する。また、羽根部11aは、合成ゴムから構成されるため、金属からなる羽根部と比べて成型が容易であり、コストの低減が図れる。さらに、車輪用軸受装置1Bは、環状溝2iを有しているため、例えば外輪2の外周面2eに沿ってインナー側に向けて流れて来る泥水等の異物を、環状溝2iにより外輪2の径方向下方(路面方向)に誘導して排水することができるため、軸受内部への泥水等の異物の侵入を更に抑制することができる。
【0033】
以上、本実施形態に係る車輪用軸受装置1・1A・1Bは、ハブ輪3の外周に転動体5の内側軌道面3dが直接形成されている第3世代構造の車輪用軸受装置として説明したがこれに限定されるものではなく、例えば、ハブ輪3に一対の内輪4が圧入固定された内輪回転の第2世代構造であってもよい。また、上述の実施形態は、本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 車輪用軸受装置
2 外輪
2a 外側軌道面
2e 外周面
2h テーパ面
2f アウター側端部
3 ハブ輪
3a 小径段部
3b 車輪取り付けフランジ
4 内輪
4a 内側軌道面
5 転動体
7 アウター側シール部材
8、8A 芯金
9 金属環
9f 羽根部
10、10A シール部材
11 ゴム部材
11a 羽根部
図1
図2
図3
図4
図5