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特許7401977ポリオルガノシロキサン及びその製造方法、並びに塗料用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】ポリオルガノシロキサン及びその製造方法、並びに塗料用組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/14 20060101AFI20231213BHJP
   C08G 77/06 20060101ALI20231213BHJP
   C08G 59/20 20060101ALI20231213BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20231213BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20231213BHJP
   C09D 183/06 20060101ALI20231213BHJP
   C09D 133/14 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
C08G77/14
C08G77/06
C08G59/20
C08L83/04
C08L63/00 A
C09D183/06
C09D133/14
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019064113
(22)【出願日】2019-03-28
(65)【公開番号】P2020164583
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深海 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】松尾 陽一
(72)【発明者】
【氏名】横井 宙是
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-111188(JP,A)
【文献】特開2014-169414(JP,A)
【文献】特開2006-182688(JP,A)
【文献】特開平07-278497(JP,A)
【文献】特開2014-185263(JP,A)
【文献】特開2017-197591(JP,A)
【文献】特開平10-087834(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77/00- 77/62
C08G 59/00- 59/72
C08L 83/00- 83/16
C08L 63/00- 63/10
C08K 3/00- 13/08
C09D 183/00-183/16
C09D 133/00-133/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノオルガノトリアルコキシシラン90~100モル%及びジオルガノジアルコキシシラン10~0モル%を含有するアルコキシシラン成分の加水分解縮合物であるポリオルガノシロキサンであって、
前記アルコキシシラン成分が、エポキシ基を有しないアルコキシシラン70モル%以上99.7モル%以下と、エポキシ基を有するアルコキシシラン0.3モル%以上30モル%以下を含有し、
前記ポリオルガノシロキサンは、反応性ケイ素基としてアルコキシシリル基又はシラノール基を有し、
重量平均分子量が1500未満であり、
前記モノオルガノトリアルコキシシランに由来する構成単位を、シロキサン結合を1個形成している構成単位T1、シロキサン結合を2個形成している構成単位T2、及び、シロキサン結合を3個形成している構成単位T3に分類し、29Si-NMRによって測定されたT1、T2、T3のモル比率から算出した、T1、T2、T3の合計モル数に対するT1、T2の合計モル数の割合が、80%以上99%以下である、ポリオルガノシロキサン。
【請求項2】
エポキシ基を有しないアルコキシシランが、メチルトリアルコキシランであり、エポキシ基を有するアルコキシシランが、グリシジルオキシプロピルトリアルコキシシランである、請求項に記載のポリオルガノシロキサン。
【請求項3】
ポリオルガノシロキサン100重量部に対して、エポキシ基を有する炭化水素化合物を0.1重量部以上5重量部以下含有する、ポリオルガノシロキサン組成物であって、
前記ポリオルガノシロキサンが、モノオルガノトリアルコキシシラン90~100モル%及びジオルガノジアルコキシシラン10~0モル%を含有するアルコキシシラン成分の加水分解縮合物であり、
反応性ケイ素基としてアルコキシシリル基又はシラノール基を有し、
重量平均分子量が1500未満であり、
前記モノオルガノトリアルコキシシランに由来する構成単位を、シロキサン結合を1個形成している構成単位T1、シロキサン結合を2個形成している構成単位T2、及び、シロキサン結合を3個形成している構成単位T3に分類し、29Si-NMRによって測定されたT1、T2、T3のモル比率から算出した、T1、T2、T3の合計モル数に対するT1、T2の合計モル数の割合が、80%以上99%以下である、ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項4】
水酸基を有するアクリル樹脂、
イソシアナート基を2個以上有する化合物、及び、
ポリオルガノシロキサン、
を含み、前記水酸基を有するアクリル樹脂と前記ポリオルガノシロキサンの合計に対して前記ポリオルガノシロキサンの占める割合が1~30重量%であり、
前記ポリオルガノシロキサンが、
モノオルガノトリアルコキシシラン90~100モル%及びジオルガノジアルコキシシラン10~0モル%を含有するアルコキシシラン成分の加水分解縮合物であるポリオルガノシロキサンであって、
前記アルコキシシラン成分は、エポキシ基を有するアルコキシシランを含み、
前記ポリオルガノシロキサンは、反応性ケイ素基としてアルコキシシリル基又はシラノール基を有し、
重量平均分子量が1500未満であり、
前記モノオルガノトリアルコキシシランに由来する構成単位を、シロキサン結合を1個形成している構成単位T1、シロキサン結合を2個形成している構成単位T2、及び、シロキサン結合を3個形成している構成単位T3に分類し、 29 Si-NMRによって測定されたT1、T2、T3のモル比率から算出した、T1、T2、T3の合計モル数に対するT1、T2の合計モル数の割合が、80%以上99%以下である、塗料用組成物。
【請求項5】
水酸基を有するアクリル樹脂、
イソシアナート基を2個以上有する化合物、及び、
請求項3に記載のポリオルガノシロキサン組成物、
を含み、前記水酸基を有するアクリル樹脂と前記ポリオルガノシロキサン組成物に含まれるポリオルガノシロキサンの合計に対して前記ポリオルガノシロキサン組成物に含まれるポリオルガノシロキサンの占める割合が1~30重量%である、塗料用組成物。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の塗料用組成物から形成された塗膜。
【請求項7】
ポリオルガノシロキサンを製造する方法であって、
モノオルガノトリアルコキシシラン90~100モル%及びジオルガノジアルコキシシラン10~0モル%を含有するアルコキシシラン成分を水の存在下、50~110℃で加水分解及び脱水縮合反応させて、ポリオルガノシロキサンを形成する工程、及び、
前記加水分解反応により発生したアルコールを50~110℃で除去して、重量平均分子量が1500未満のポリオルガノシロキサンを得る工程、を含み、
前記水の添加量が、前記アルコキシシラン成分に含まれる、ケイ素原子に直結したアルコキシ基の合計モル数100%に対して、30モル%以上50モル%以下であり、
前記アルコキシシラン成分が、エポキシ基を有するアルコキシシランを含み、
前記ポリオルガノシロキサンは、反応性ケイ素基としてアルコキシシリル基又はシラノール基を有し、
重量平均分子量が1500未満であり、
前記モノオルガノトリアルコキシシランに由来する構成単位を、シロキサン結合を1個形成している構成単位T1、シロキサン結合を2個形成している構成単位T2、及び、シロキサン結合を3個形成している構成単位T3に分類し、 29 Si-NMRによって測定されたT1、T2、T3のモル比率から算出した、T1、T2、T3の合計モル数に対するT1、T2の合計モル数の割合が、80%以上99%以下である、製造方法。
【請求項8】
請求項に記載のポリオルガノシロキサン組成物を製造する方法であって、
モノオルガノトリアルコキシシラン90~100モル%及びジオルガノジアルコキシシラン10~0モル%を含有するアルコキシシラン成分を水の存在下、50~110℃で加水分解及び脱水縮合反応させて、ポリオルガノシロキサンを形成する工程、及び、
前記加水分解反応により発生したアルコールを50~110℃で除去して、重量平均分子量が1500未満のポリオルガノシロキサンを得る工程、を含み、
前記水の添加量が、前記アルコキシシラン成分に含まれる、ケイ素原子に直結したアルコキシ基の合計モル数100%に対して、30モル%以上50モル%以下であり、
前記ポリオルガノシロキサン100重量部に対して0.1重量部以上5重量部以下のエポキシ基を有する炭化水素化合物を、加水分解及び脱水縮合反応を開始する前及び/又は前記アルコールを除去する前の反応系に添加する工程をさらに含み、
前記エポキシ基を有する炭化水素化合物が、エポキシシクロヘキシル基を有する炭化水素化合物である、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオルガノシロキサン及びその製造方法、並びに塗料用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料として使用可能な硬化性組成物を構成する、硬化性を示す有機樹脂としては、ポリエステル、ポリイミド、ポリエーテル、塩化ビニル、ポリ乳酸など多数の樹脂が知られている。なかでも、アクリル樹脂には、透明性や、耐候性などの物性が求められることが多い。アクリル樹脂の耐候性を改善するために、アクリル樹脂を構成するアクリル酸モノマーの種類や使用割合を調節することが考えられるが、汎用のアクリルモノマーの組合せでは、耐候性を向上させるにも限界がある。
【0003】
また、一般的なアクリルモノマーと、加水分解性シリル基を有するアクリルモノマーとを共重合し、得られた樹脂(アクリルシリコン)を架橋させる技術や、一般的なアクリルモノマーと、水酸基を有するアクリルモノマーとを共重合し、得られた樹脂(アクリルポリオール)をイソシアネートと共架橋させる技術などが知られているが、これらによる耐候性の改善効果も十分ではなかった。
【0004】
アクリル樹脂の耐候性を改善する技術としては、アクリル樹脂にポリオルガノシロキサンを配合する技術も知られている。ポリオルガノシロキサンとは、オルガノアルコキシシランが加水分解・脱水縮合反応をすることで形成される無機樹脂である。この樹脂を形成しているシロキサン結合はエネルギー的に強固であるため、ポリオルガノシロキサンは熱や紫外線によって分解しにくい特性を有する。このようなポリオルガノシロキサンとしては、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-228832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アクリルシリコンやアクリルポリオールなどの硬化性アクリル樹脂の耐候性を改善するため、これにポリオルガノシロキサンを配合すると、両樹脂は相溶性が低いため、該混合塗料から形成される塗膜で相分離が生じ、塗膜が白濁して透明性が低下するという難点がある。この場合、塗膜内部で生じている界面が原因となって、塗膜が劣化しやすくなるという問題も生じる。
【0007】
特許文献1では、オルガノアルコキシシラン1モルに対して、2~10モルの水と酸性化合物の存在下で加水分解縮合反応させてポリオルガノシロキサンを得ることが記載されているが、この方法で得られるポリオルガノシロキサンは、有機樹脂に配合して形成される塗膜の透明性が十分なものではなかった。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、アクリル樹脂等の有機樹脂を含む塗料用組成物に対し配合された時に、優れた透明性及び耐候性を示す塗膜を形成可能なポリオルガノシロキサン及びその製造方法、並びに、該ポリオルガノシロキサンを含む塗料用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、モノオルガノトリアルコキシシランを主成分とするアルコキシシラン成分の加水分解縮合物であるポリオルガノシロキサンを、該シロキサンが反応性ケイ素基を有し、重量平均分子量が特定値未満であり、モノオルガノトリアルコキシシランのうちシロキサン結合を1個又は2個形成している構成単位の割合が特定範囲となるように設計することによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち本発明は、モノオルガノトリアルコキシシラン70~100モル%及びジオルガノジアルコキシシラン30~0モル%を含有するアルコキシシラン成分の加水分解縮合物であるポリオルガノシロキサンであって、反応性ケイ素基を有し、重量平均分子量が1500未満である、ポリオルガノシロキサンに関する。好ましくは、前記アルコキシシラン成分が、エポキシ基を有しないアルコキシシランのみからなるか、又は、エポキシ基を有しないアルコキシシランと、エポキシ基を有するアルコキシシランを含有する。好ましくは、前記アルコキシシラン成分が、エポキシ基を有しないアルコキシシラン50モル%以上99.7モル%以下と、エポキシ基を有するアルコキシシラン0.3モル%以上30モル%以下を含有する。好ましくは、エポキシ基を有しないアルコキシシランが、メチルトリアルコキシランであり、エポキシ基を有するアルコキシシランが、グリシジルオキシプロピルトリアルコキシシランである。
また本発明は、前記ポリオルガノシロキサン100重量部に対して、エポキシ基を有する炭化水素化合物を0.1重量部以上5重量部以下含有する、ポリオルガノシロキサン組成物にも関する。
さらに本発明は、アクリル樹脂、ポリエステル、及びポリエーテルからなる群より選択される少なくとも1種の有機樹脂、及び、前記ポリオルガノシロキサン、を含み、前記有機樹脂と前記ポリオルガノシロキサンの合計に対して前記ポリオルガノシロキサンの占める割合が1~30重量%である、塗料用組成物にも関する。好ましくは、前記有機樹脂が、水酸基を有するアクリル樹脂、又は、反応性ケイ素基を有するアクリル樹脂である。
さらにまた、本発明は、前記塗料用組成物から形成された塗膜にも関する。
また、本発明は、前記ポリオルガノシロキサンを製造する方法であって、モノオルガノトリアルコキシシラン70~100モル%及びジオルガノジアルコキシシラン30~0モル%を含有するアルコキシシラン成分を水の存在下、加水分解及び脱水縮合反応させて、ポリオルガノシロキサンを形成する工程、及び、前記加水分解反応により発生したアルコールを除去して、重量平均分子量が1500未満のポリオルガノシロキサンを得る工程、を含み、前記水の添加量が、前記アルコキシシラン成分に含まれる、ケイ素原子に直結したアルコキシ基の合計モル数100%に対して、30モル%以上50モル%以下である、製造方法にも関する。前記製造方法は、前記ポリオルガノシロキサン100重量部に対して0.1重量部以上5重量部以下のエポキシ基を有する炭化水素化合物を、加水分解及び脱水縮合反応を開始する前及び/又は前記アルコールを除去する前の反応系に添加する工程をさらに含むことができる。好ましくは、アルコキシシラン成分が、エポキシ基を有するアルコキシシランを含む。好ましくは、前記アルコールの除去を、110℃以下の温度で実施する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アクリル樹脂等の有機樹脂を含む塗料用組成物に対し配合された時に、優れた透明性及び耐候性を示す塗膜を形成可能なポリオルガノシロキサン及びその製造方法、並びに、該ポリオルガノシロキサンを含む塗料用組成物を提供することができる。本発明によると、汎用の有機樹脂に対して、少量のポリオルガノシロキサンを配合するだけで、優れた耐候性を得ることができる。これは、塗膜が硬化する過程で、ポリオルガノシロキサンが塗膜表面近傍に局在化するためと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
【0013】
(ポリオルガノシロキサン)
本発明のポリオルガノシロキサンは、少なくともモノオルガノトリアルコキシシラン70~100モル%及びジオルガノジアルコキシシラン30~0モル%を含有するアルコキシシラン成分の加水分解縮合物から構成されるものである。ここで、モノオルガノトリアルコキシシランとは、ケイ素原子上の置換基として、1個の有機基と、3個のアルコキシ基を有するシラン化合物を指し、ジオルガノジアルコキシシランとは、ケイ素原子上の置換基として、2個の有機基と、2個のアルコキシ基を有するシラン化合物を指す。モノオルガノトリアルコキシシランは必須成分であるが、ジオルガノジアルコキシシランは使用してもよいし、使用しなくてもよい。
【0014】
モノオルガノトリアルコキシシラン及びジオルガノジアルコキシシランの合計のうちジオルガノジアルコキシシランが占める割合は30モル%以下であるが、20モル%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましく、5モル%以下がさらに好ましく、1モル%以下がより更に好ましい。
【0015】
モノオルガノトリアルコキシシラン及びジオルガノジアルコキシシラン(以下、まとめてアルコキシシランともいう)がケイ素原子上の置換基として有する有機基とは、アルコキシ基以外の有機基を指す。その具体例は特に限定されないが、例えば、炭素数1~6のアルキル基や、フェニル基等の炭素数6~12のアリール基等が挙げられる。前記アルキル基やアリール基は、無置換の基であってもよいし、グリシジルオキシ基、エポキシシクロヘキシル基等の、エポキシ基を置換基として有するものであっても良い。前記炭素数1~6のアルキル基とは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、又は、ヘキシル基である。前記アルキル基の炭素数は、好ましくは1~5であり、より好ましくは1~4であり、さらに好ましくは1~3であり、より更に好ましくは1~2である。前記有機基としては1種類のみであってもよいし、2種以上が混在していてもよい。
【0016】
アルコキシシランが有する有機基としては、メチル基、エチル基、ビニル基、及びフェニル基からなる群より選択される1種が好ましい。この場合、アルコキシシランが有する有機基の全体に対するメチル基、エチル基、ビニル基、及びフェニル基の合計が占める割合は50重量%以上であることが好ましく、70重量%以上がより好ましく、80重量%以上がさらに好ましい。製造されるポリオルガノシロキサンを塗液の成分として用いる時に塗液の硬化性が高くなることから、アルコキシシランが有する有機基は、メチル基及び/又はエチル基を含むことがより好ましく、メチル基を含むことが特に好ましい。
【0017】
アルコキシシランがケイ素原子上の置換基として有するアルコキシ基としては、例えば、炭素数1~3のアルコキシ基等が挙げられる。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基であり、メトキシ基、エトキシ基が好ましく、メトキシ基がより好ましい。前記アルコキシ基としては1種類のみであってもよいし、2種以上が混在していてもよい。
【0018】
モノオルガノトリアルコキシシランの具体例としては特に限定されないが、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリイソプロポキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ブチルトリイソプロポキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルトリイソプロポキシシラン等が挙げられる。なかでも、メチルトリアルコキシランが好ましい。
【0019】
ジオルガノジアルコキシシランの具体例としては特に限定されないが、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0020】
ケイ素原子上の有機基が、上述したグリシジルオキシ基、エポキシシクロヘキシル基等の、エポキシ基を有する場合のアルコキシシランは、モノオルガノトリアルコキシシラン、ジオルガノジアルコキシシランのいずれであってもよい。そのようなアルコキシシランの具体例としては、例えば、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、8-グリシジルオキシオクチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。なかでも、グリシジルオキシプロピルトリアルコキシシランが好ましい。このようなエポキシ基を有するアルコキシシランを使用すると、このエポキシ基が酸捕捉剤として作用するため、シラノール基及び/又はアルコキシシリル基への酸の作用が抑制され、本発明に係る低分子量のポリオルガノシロキサンを製造することが容易になる。エポキシ基を有するアルコキシシランを使用する場合、その使用量は、アルコキシシラン成分の全体に対する割合として0.3~30モル%が好ましく、0.5~20モル%がより好ましく、1~10モル%がさらに好ましく、2~8モル%が特に好ましい。
【0021】
本発明の好ましい一態様によると、アルコキシシラン成分は、エポキシ基を有しないアルコキシシラン50~99.7モル%と、エポキシ基を有するアルコキシシラン0.3~30モル%を含有する。このような比率で、エポキシ基を有しないアルコキシシランとエポキシ基を有するアルコキシシランを併用することで、低分子量のポリオルガノシロキサンの製造を容易にすると同時に、有機樹脂を含む塗料用組成物に対し配合された時に、優れた透明性及び耐候性を示す塗膜を形成可能なポリオルガノシロキサンを製造するという効果も達成することができる。エポキシ基を有しないアルコキシシランの含有比率は、60~99.5モル%がより好ましく、70~99モル%がさらに好ましく、80~98モル%がより更に好ましく、90~98モル%が特に好ましい。
【0022】
しかし、エポキシ基を有するアルコキシシランは使用せず、エポキシ基を有しないアルコキシシランのみから構成されるアルコキシシラン成分から、本発明のポリオルガノシロキサンを製造してもよい。この場合、ポリオルガノシロキサンの製造時又は製造後に、後述するエポキシ基を有する炭化水素化合物を添加することで、低分子量のポリオルガノシロキサンを製造することができる。
【0023】
アルコキシシラン成分は、モノオルガノトリアルコキシシランのみから構成されるものであってよいし、モノオルガノトリアルコキシシランとジオルガノジアルコキシシランのみから構成されるものであってもよい。また、これらに加えて、モノオルガノトリアルコキシシランとジオルガノジアルコキシシランのいずれにも属しない他のアルコキシシランをさらに含有してもよい。他のアルコキシシランとしては、例えば、(メタ)アクリロイル基を有するアルコキシシランや、ビニル基を有するアルコキシシラン、トリオルガノモノアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン等が挙げられる。他のアルコキシシランは使用しなくともよいが、他のアルコキシシランを使用する場合、その使用量は本発明の効果を阻害しない範囲で決定すればよく、例えば、アルコキシシラン成分の全体に対する割合として10モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましく、1モル%以下がさらに好ましい。
【0024】
本発明のポリオルガノシロキサンは、反応性ケイ素基を有するものである。ここで、反応性ケイ素基とは、アルコキシシリル基とシラノール基の双方を含む概念である。本発明のポリオルガノシロキサンが有する反応性ケイ素は、アルコキシシラン成分に含まれていた一部のアルコキシ基が未反応で残留し、または、該アルコキシ基が加水分解反応を受けた後、脱水縮合反応は進行せずにシラノール基として残留したものである。この反応性ケイ素基が存在することで、本発明のポリオルガノシロキサンは加水分解・脱水縮合反応による硬化性を示すことができる。
【0025】
ポリオルガノシロキサンが反応性ケイ素基を持つ場合、モノオルガノトリアルコキシシランのうちシロキサン結合を1個又は2個形成している構成単位のモル割合が0ではないことが必要である。当該モル割合は、ポリオルガノシロキサンの原料に含まれるモノオルガノトリアルコキシシランのうちシロキサン結合を1~3個形成している構成単位の合計モル数に対する、前記モノオルガノトリアルコキシシランのうちシロキサン結合を1個又は2個形成している構成単位の合計モル数の割合[(T1+T2)/(T1+T2+T3)]×100を示すものである。モノオルガノトリアルコキシシランが有する全てのアルコキシ基がシロキサン結合を形成した場合は、前記モル割合は0になる。
【0026】
前記モル割合は、モノオルガノトリアルコキシシランに由来する構成単位を、シロキサン結合を1個形成している構成単位T1、シロキサン結合を2個形成している構成単位T2、及び、シロキサン結合を3個形成している構成単位T3に分類し、29Si-NMRによって測定されたT1、T2、T3のモル比率から、T1、T2、T3の合計モル数に対するT1、T2の合計モル数の割合(%)として算出される。
【0027】
前記モル割合が0に近い値であると、ほぼ全てのアルコキシ基がシロキサン結合に変換されていることになるため、ポリオルガノシロキサンが持つ反応性ケイ素基の数が少なくなる。逆に前記モル比率が1であると、シロキサン結合を3個形成している構成単位T3が存在しておらず、ポリオルガノシロキサンによる物性を発現しにくくなる。以上の観点から、本発明のポリオルガノシロキサンは、前記モル割合が50%を超え100%未満であることが好ましい。より好ましくは60%以上99%以下であり、さらに好ましくは70%以上98%以下であり、より更に好ましくは80%以上97%以下である。
【0028】
なお、前記モル割合は、ポリオルガノシロキサンを形成するための加水分解・脱水縮合反応時に使用する水の使用量や触媒の種類・量、反応温度などを調節したり、酸捕捉剤を反応系に共存させたりすることで調節できる。
【0029】
本発明のポリオルガノシロキサンは、該ポリオルガノシロキサンと有機樹脂を含む塗料用組成物から形成された塗膜の透明性を向上させるため、重量平均分子量(MW)が1500未満を示すものである。ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量(MW)が1500未満であることによって、ポリオルガノシロキサンと有機樹脂を含む塗料用組成物から、優れた透明性と耐候性を有する塗膜を形成することができる。前記重量平均分子量は、好ましくは1400以下であり、より好ましくは1200以下であり、さらに好ましくは1000以下である。重量平均分子量の下限値は、上述したモル割合を満足する範囲であればよく、特に限定されないが、例えば、300以上であってよく、好ましくは500以上である。なお、ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量は、実施例の項に記載した方法によって決定できる。
【0030】
なお、本発明のポリオルガノシロキサンは、例えば国際公開第2017/169459号に開示されているようなオルガノポリシロキサンとアクリルシリコンを複合化した複合樹脂を指すものではなく、有機樹脂と結合していないポリオルガノシロキサンを指すものである。
【0031】
本発明のポリオルガノシロキサンは、有機溶剤を含む溶液の形態であってもよい。有機溶剤としては後述のものを使用することができる。
【0032】
また、本発明のポリオルガノシロキサンは、エポキシ基を有する炭化水素化合物と組み合わせて、ポリオルガノシロキサン組成物を構成してもよい。エポキシ基を有する炭化水素化合物は、ポリオルガノシロキサンの製造時又は製造後に添加されるものであり、酸捕捉剤として機能し、反応性ケイ素基を有し低分子量のポリオルガノシロキサンを安定化させることができる。詳細については後述する。
【0033】
(ポリオルガノシロキサンの製造)
上述したアルコキシシラン成分を、水と、必要に応じて縮合触媒の存在下で、加水分解及び脱水縮合反応させることによって、本発明のポリオルガノシロキサンを製造することができる。当該反応時に、アルコキシシラン成分に含まれていた一部のアルコキシ基が未反応で残留し、または、該アルコキシ基が加水分解反応を受けた後、脱水縮合反応は進行せずにシラノール基として残留することで、製造されたポリオルガノシロキサンは、反応性ケイ素基(アルコキシシリル基及び/又はシラノール基)を有することができる。
【0034】
前記加水分解及び脱水縮合反応では水を添加して該反応を進行させる。この時、水の使用量を制御することによって、得られるポリオルガノシロキサンの分子量を低く抑え、前記モル割合を特定範囲内に制御することができる。この観点から、水の使用量は、アルコキシシラン成分に含まれるケイ素原子上のアルコキシ基の合計モル数を100%とし、これに対して30モル%以上50モル%以下であることが好ましく、32モル%以上45モル%以下がより好ましく、35モル%以上40モル%以下がさらに好ましい。
【0035】
前記加水分解および脱水縮合工程では、水に加えて、水以外の有機溶剤を使用してもよい。このような有機溶剤としては、水と併用するため水溶性の有機溶剤が好ましい。また、アルコキシシラン成分の溶解性を確保するため、炭素数が4以上の有機溶剤が好ましい。以上の観点から、好ましい有機溶剤としては、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
ポリオルガノシロキサンの製造後や、塗膜の形成時に有機溶剤を揮発させることになるため、大気圧下における沸点が150℃以下の有機溶剤が好ましく、具体的には、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテルが特に好ましい。
【0037】
前記加水分解及び脱水縮合反応は、反応促進のため、縮合触媒の存在下で行うことができる。縮合触媒としては公知のものを使用することができる。縮合触媒には、大別して塩基性触媒と酸性触媒とがあるが、酸性触媒は縮合よりも加水分解を速める作用を有し、結果、得られるポリオルガノシロキサンがシラノール基を比較的多く有することとなり、シラノール基は溶剤中で安定化するため、得られるポリオルガノシロキサンの貯蔵安定性が向上する。そのため、縮合触媒として酸性触媒の存在下で本発明の加水分解および脱水縮合工程を実施することが好ましい。
【0038】
酸性触媒としては、アルコキシシラン成分や有機溶剤との相溶性から、有機酸が好ましく、リン酸エステルやカルボン酸がより好ましい。有機酸の具体例としては、エチルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ジブチルピロホスフェート、ブトキシエチルアシッドホスフェート、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、イソトリデシルアシッドホスフェート、ジブチルホスフェート、ビス(2-エチルヘキシル)ホスフェート、ギ酸、酢酸、酪酸、イソ酪酸等が挙げられる。
【0039】
塩基性触媒としては、例えば、N-エチルモルホリン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-n-ブチルジエタノールアミン、N-t-ブチルジエタノールアミン、トリエチルアミン、n-ブチルアミン、ヘキシルアミン、トリエタノールアミン、ジアザビシクロウンデセン、アンモニア等のアミン系化合物や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の金属水酸化物等が挙げられる。
【0040】
また、縮合触媒として、中性塩を使用することもできる。中性塩を使用しても、酸性触媒を使用した場合と同等の効果を得ることができる。ここで、中性塩とは、強酸と強塩基からなる正塩のことであり、例えば、カチオンとして第一族元素イオン、第二族元素イオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、グアニジウムイオンよりなる群から選ばれるいずれかと、アニオンとしてフッ化物イオンを除く第十七族元素イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、過塩素酸イオンよりなる群から選ばれるいずれかとの組合せからなる塩のことである。特に、アニオンとしては、求核性が高いため、第十七族元素イオンが好ましく、カチオンとしては、求核作用を阻害しないように、嵩高くないイオンとして、第一族元素イオン、第二族元素イオンが好ましい。
【0041】
中性塩の具体的な化合物は特に限定されないが、例えば、好ましい中性塩として、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ラビジウム、塩化セシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化ラビジウム、臭化セシウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、臭化ストロンチウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ラビジウム、ヨウ化セシウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化ストロンチウムが挙げられる。
【0042】
縮合触媒の添加量は適宜調節できるが、例えば、アルコキシシラン成分に対して50ppm~3重量%程度であってよい。しかし、ポリオルガノシロキサンの製造時又は貯蔵時のゲル化の進行を抑制するため、縮合触媒による反応時間短縮の効果が達成される範囲内で、縮合触媒の使用量は少ないほど好適である。
【0043】
前記加水分解および脱水縮合工程を実施する際の反応温度は当業者が適宜設定できるが、例えば反応液を50~110℃の範囲に加熱することが好ましい。加水分解及び脱水縮合反応を110℃以下の温度で行うと、エポキシ基を有するアルコキシシラン又はエポキシ基を有する炭化水素化合物が酸捕捉剤としての機能を発揮し、シラノール基及び/又はアルコキシシリル基への酸の作用を抑制するため、低分子量のポリオルガノシロキサンを製造することが容易になる。
また、前記加水分解および脱水縮合工程を実施する際の反応時間は、当業者が適宜設定できるが、例えば10分間~12時間程度であってよい。
【0044】
本発明においては、前記加水分解反応で発生したアルコールを反応液から除去する工程を実施することが好ましい。アルコールを除去することによって、アルコールを副生するアルコキシシリル基の加水分解反応をある程度まで進めることができる。当該アルコールの除去工程は、加水分解および脱水縮合工程後の反応液を減圧蒸留に付してアルコールを留去することで実施できる。減圧蒸留の条件は当業者が適宜設定することが可能であるが、この時の温度は、上述と同じ理由により、50~110℃であることが好ましい。この工程においては、加水分解反応により発生したアルコールのうち、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上のアルコールを除去することが好ましい。
【0045】
以上のようにアルコールを除去した後、反応系を例えば30℃以下にまで冷却して、重量平均分子量が1500未満のポリオルガノシロキサンを得ることができる。
【0046】
エポキシ基を有する炭化水素化合物を添加する場合は、加水分解及び脱水縮合反応の進行を終える時点より前のいずれかの段階で、該化合物を反応系に添加することが好ましい。具体的に述べると、加水分解および脱水縮合反応を開始する前の反応系に、エポキシ基を有する炭化水素化合物を添加してもよいし、加水分解および脱水縮合反応を開始した後で該反応の進行を終える前の反応系(好ましくは、アルコールの除去工程を開始する直前の反応系)に、エポキシ基を有する炭化水素化合物を添加してもよい。また、両者の添加方法を組み合わせても良い。これによって、シラノール基の縮合反応の進行を抑制し、低分子量のポリオルガノシロキサンを製造することが容易になる。
【0047】
エポキシ基を有する炭化水素化合物は、酸捕捉剤として作用する。シラノール基は酸性を示す官能基であるため、自己触媒性があり、縮合反応が自然に進行してポリオルガノシロキサンが高分子量化する傾向があるが、本発明ではエポキシ基を有する酸捕捉剤を用いることで、シラノール基の縮合反応の進行を抑制し、これによって、低分子量のポリオルガノシロキサンを容易に得ることが可能になる。この作用は、前述したエポキシ基を有するアルコキシシランにも共通する。
【0048】
エポキシ基を有する炭化水素化合物としては特に限定されず、エポキシ基を有するものであれば、脂肪族炭化水素化合物、脂環式炭化水素化合物、芳香族炭化水素化合物のいずれであってもよいが、脂環式炭化水素化合物が好ましい。特に、脂環式炭化水素基に直結したエポキシ基を有する炭化水素化合物が好ましい。また、脂環式炭化水素基の頂点1点に結合したエポキシ基ではなく、脂環式炭化水素基の環構造の1辺(頂点2点)と酸素原子によって形成されたエポキシ基が好ましい。このようなエポキシ基は、カチオンとの反応性が高い一方、立体障害性が高いことからSN2反応性が低い(即ち、カチオン以外との反応性が低い)ため、酸捕捉剤として有効に機能し得るためである。具体的には、エポキシシクロヘキシル基を有する炭化水素化合物が好ましい。脂環式炭化水素化合物の具体例としては、例えば、エポキシシクロヘキサン、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン、3′,4′-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
エポキシ基を有する炭化水素化合物の使用量は特に限定されず、該化合物の使用により達成される効果を考慮して適宜設定できる。例えば、ポリオルガノシロキサン100重量部に対して、エポキシ基を有する炭化水素化合物を0.1~5重量部使用することが好ましく、より好ましくは0.2~4重量部、さらに好ましくは0.3~3重量部である。
【0050】
(塗料用組成物)
本発明のポリオルガノシロキサンは、塗料用の硬化性有機樹脂に対して配合することで塗料用組成物を構成することができ、塗膜の透明性を損なうことなく、塗膜の耐候性を高めることができる。また、本発明のポリオルガノシロキサンは反応性ケイ素基を有するものであるため、有機樹脂との相溶性が高く、好適な態様によると、これを有機樹脂に添加して常温で撹拌するだけで透明な樹脂混合物を得ることができる。ポリオルガノシロキサンの配合量は、有機樹脂とポリオルガノシロキサンの合計に対してポリオルガノシロキサンの占める割合が1~30重量%であることが好ましい。下限値は2重量%が好ましく、3重量%がより好ましく、5重量%がさらに好ましく、10重量%がより更に好ましく、15重量%が特に好ましい。また、上限値は25重量%が好ましく、20重量%がより好ましい。
【0051】
本発明の塗料用組成物の主成分である有機樹脂は、アクリル樹脂、ポリエステル、及びポリエーテルからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。1種のみであってもよいし、2種以上を併用してもよい。特に、アクリル樹脂が好ましい。
【0052】
前記有機樹脂は、本発明のポリオルガノシロキサンが有する反応性ケイ素基と反応し得る官能基を有する樹脂が好ましい。このような官能基としては、例えば、水酸基、反応性ケイ素基等が挙げられる。有機樹脂が官能基を有する場合、この官能基と、本発明のポリオルガノシロキサンが有する反応性ケイ素基が硬化膜中で反応し架橋構造が形成され、有機樹脂と無機樹脂が結合することになるため、両樹脂を含む塗膜の透明性及び耐候性をより高めることができる。
【0053】
水酸基を有するアクリル樹脂としては、例えば、アクリル系単量体と、水酸基を有する単量体等をラジカル重合することにより得られるものを使用できる。前記アクリル系単量体としては特に限定されないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の炭素数1~20のアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等の炭素数4~20のシクロアルキル(メタ)アクリレート;アリル(メタ)アクリレート;ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート等の炭素数3~20のアラルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0054】
水酸基を有する単量体としては特に限定されないが、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、4-ヒドロキシスチレンビニルトルエンなど水酸基含有ビニル系単量体;PlaccelFA-1、PlaccelFA-4、PlaccelFM-1、PlaccelFM-4(以上ダイセル化学(株)製)などの重合可能な炭素-炭素二重結合を末端に有する変性ラクトンまたはポリエステル;ブレンマーPPシリーズ、ブレンマーPEシリーズ、ブレンマーPEPシリーズ(以上日油(株)製)、MA-30、MA-50、MA-100、MA-150、RA-1120、RA-2614、RMA-564、RMA-568、RMA-1114、MPG130-MA(以上、日本乳化剤(株)製)などの重合可能な炭素-炭素二重結合を末端に有するポリオキシアルキレン等が挙げられる。
【0055】
また、水酸基を有するアクリル樹脂と共に、架橋剤として、イソシアナート基を2個以上有する化合物を配合することが好ましい。イソシアナート基を2個以上有する化合物の具体例としては、ヘキサメチレンジイソシアナート、ジシクロヘキシルメタン4,4’-イソシアナート、2,2,4-トリメチル-1,6-ジイソシアナート、イソフォロンジイソシアナート等の脂肪族ポリイソシアナート;2,4-トリレンジイソシアナート、2,6-トリレンジイソシアナート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアナート、キシレンジイソシアナート、ポリメチレン-ポリフェニレル-ポリイソシアナート等の芳香族ポリイソシアナート等が挙げられる。これらイソシアナート基を2個以上有する化合物の構造としては、単量体、ビュレット型、アダクト型、イソシアヌレート型がある。これらの化合物は常温硬化用に用いることができる。また、これらのイソシアナート基をブロック剤でマスクしたものを用いることもできる。
【0056】
水酸基を有するアクリル樹脂を本発明のポリオルガノシロキサンと併用すると、有機樹脂とポリオルガノシロキサンが、C-O-Siで表される構造で架橋することになるため、ポリオルガノシロキサンの有機樹脂への配合による効果を容易に得ることができ好ましい。
【0057】
また、反応性ケイ素基を有するアクリル樹脂としては、例えば、アクリル系単量体と、反応性ケイ素基を有する単量体等をラジカル共重合することにより得られるものを使用できる。前記アクリル系単量体としては上述のものを使用することができる。
【0058】
反応性ケイ素基を有する単量体としては特に限定されず、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(n-プロポキシ)シラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、アリルトリエトキシシラン、トリメトキシシリルプロピルアリルアミン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、N-ビニルベンジル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、2-スチリルエチルトリメトキシシラン、3-(N-スチリルメチル-2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロキシエチルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリクロルシラン等が挙げられる。
【0059】
本発明の塗料用組成物には、顔料、可塑剤、分散剤、沈降防止剤、皮張り防止剤、乾燥剤、たれ防止剤、つや消し剤、帯電防止剤、導電剤、難燃剤など、公知の塗料用添加物を適宜配合できる。本発明の塗料用組成物は、あらゆる塗液として使用することが可能であるが、耐候性に優れ、透明性が高いものであることから、顔料を含まないクリア塗膜用塗液、又は、顔料や染料を含んだ着色塗液としても好適に使用できる。
【0060】
本発明の塗料用組成物は、硬化剤の存在下で塗膜の硬化反応が促進され、塗膜形成時の作業時間を短縮することができるので、硬化剤を含有するか、または、硬化剤を別のパッケージで含む2液の形態の組成物または塗液であることが好ましい。
【0061】
当該硬化剤としては、反応性シリル基の加水分解反応および脱水縮合反応を利用した硬化性樹脂組成物に対して用いる硬化剤として公知の硬化剤を適宜使用することができる。具体的には、硬化剤として、上述した縮合触媒を使用することができ、また、有機錫化合物、チタンキレート化合物、アルミニウムキレート化合物、有機アミン化合物などを使用することができる。
【0062】
上記有機錫化合物の具体例としては、ジオクチル錫ビス(2-エチルヘキシルマレート)、ジオクチル錫オキサイドまたはジブチル錫オキサイドとシリケートとの縮合物、ジブチル錫ジオクトエート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジステアレート、ジブチル錫ジアセチルアセトナート、ジブチル錫ビス(エチルマレート)、ジブチル錫ビス(ブチルマレート)、ジブチル錫ビス(2-エチルヘキシルマレート)、ジブチル錫ビス(オレイルマレート)、スタナスオクトエート、ステアリン酸錫、ジ-n-ブチル錫ラウレートオキサイドが挙げられる。また、分子内にS原子を有する有機錫化合物の具体例としては、ジブチル錫ビスイソノニル-3-メルカプトプロピオネート、ジオクチル錫ビスイソノニル-3-メルカプトプロピオネート、オクチルブチル錫ビスイソノニル-3-メルカプトプロピオネート、ジブチル錫ビスイソオクチルチオグルコレート、ジオクチル錫ビスイソオクチルチオグルコレート、オクチルブチル錫ビスイソオクチルチオグルコレート等が挙げられる。
【0063】
チタンキレート化合物の具体例としては、チタンアセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンエチルアセトアセテート、リン酸チタン化合物、チタンオクチレングリコレート、チタンエチルアセトアセテート等が挙げられる。
【0064】
アルミニウムキレート化合物の具体例としては、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(アセチルアセテート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルキルアセチルアセテートアルミニウムジイソプロピレート等が挙げられる。
【0065】
有機アミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、トリメチルアミン、テトラメチレンジアミン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、N,N’-ジエチル-2-メチルピペラジン、ラウリルアミン、ジメチルラウリルアミン等が挙げられる。
【0066】
硬化剤の使用量は、硬化温度と硬化時間とに応じて適宜調整できるが、例えば、有機樹脂100重量部に対して0.01重量部以上20重量部以下程度が好ましく、0.1重量部以上10重量部以下程度がより好ましい。
【0067】
本発明の塗料用組成物は、基材に塗布し、硬化させることで塗膜を形成することができる。塗布や硬化の条件は特に限定されないが、硬化させる際には、熱源を用いて溶剤の蒸発を促進することが好ましい。
【0068】
形成される塗膜の厚みは特に限定されないが、本発明では乾燥後の厚みとして10μm以上100μm以下が好ましい。厚みが10μmより薄くなると、塗膜の耐水性や耐湿性が不十分になる場合がある。厚みが100μmを超えると、塗膜の形成時における硬化収縮によってクラックを生じる場合がある。より好ましくは10μm以上50μm以下、さらに好ましくは20μm以上40μm以下である。
【0069】
本発明の硬化性樹脂組成物を塗布できる基材としては特に限定されず、例えば、ポリカーボネート(PC)、アクリル、ABS、ABS/PC、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の有機基材や、ガラス、アルミニウム、SUS、銅、鉄、石材などの無機基材を使用できる。
【実施例
【0070】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0071】
実施例および比較例で用いた物質は、以下のとおりである。
オルガノアルコキシシラン
Me(OFS-6070:ダウ・東レ株式会社製、メチルトリメトキシシラン、分子量136.2)
Ge(OFS-6040:ダウ・東レ株式会社製、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、分子量236.3)。
【0072】
縮合触媒
DBP(城北化学工業株式会社製、ジブチルホスフェート、分子量210.2)。
【0073】
溶剤
LAWS(シェルケミカルズジャパン株式会社製、ミネラルスピリット、キシレン、トリメチルベンゼン、ノナン混合物)
S100(三和化学株式会社製、鉱油、クメン、キシレン、トリメチルベンゼン混合物)
【0074】
(メタ)アクリル樹脂の原料モノマー及び重合開始剤
IBMA(三菱ガス化学株式会社製、メタクリル酸イソブチル、分子量142.2)
2EHA(株式会社日本触媒製、アクリル酸2-エチルヘキシル、分子量184.3)
2EHMA(三菱ガス化学株式会社製、メタクリル酸2-エチルヘキシル、分子量198.3)
HEMA(株式会社日本触媒製、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、分子量130.1)
TSMA(A-174:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、分子量248.4)
V59(和光純薬工業株式会社製、2,2′-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、分子量192.3)。
【0075】
(ポリオルガノシロキサン反応時間)
室温下においてオルガノアルコキシシラン、縮合触媒、及び、水を混合した後、該混合物を、90℃に昇温したオイルバスで加熱し、内温が70℃に達した時を開始点とし、その後90℃オイルバスにて加熱した時間を反応時間とし、4時間反応させた。
【0076】
(ポリオルガノシロキサン合成における脱アルコール)
上記の通り4時間反応させて得られた樹脂溶液は、ポリオルガノシロキサン、反応の過程で発生したアルコール、及び、僅かに残った水から構成されている。ポリオルガノシロキサン以外の揮発成分を蒸留により除去するため、表1中の所定の温度に加熱したオイルバスで前記樹脂溶液を加熱しながら、窒素にて微加圧し、回収液量を計量しながら設定の内容液量になるまで蒸留を続けた。
【0077】
蒸留により除去する必要があるアルコール量を、下記式に従い算出した。
添加した水の量×32/18×2×85%
【0078】
発生可能な全アルコール重量は、反応に用いたオルガノアルコキシシランが有するアルコキシシリル基1モルに対して1モルのアルコールが発生するものとして算出した。例えば、トリメトキシシシリル基1モルはメトキシシリル基を3モル有し、メタノールを3モル発生させ、メチルジメトキシシリル基1モルはメトキシシリル基を2モル有し、メタノールを2モル発生させるものとする。また、水1モルによってアルコキシシリル基1モルから1モルのシラノール基と1モルのアルコールが発生する。更に発生した1モルのシラノール基が1モルのアルコキシシリル基と反応して1モルのアルコールを発生する。すなわち、水1モルからアルコールが2モル発生することになる。縮合触媒によってはこの反応の進行具合に違いがあり、DBPでは85%程度しか進行しないため、この点を考慮して、上記のとおり計算式に補正をかけた。
【0079】
(合成例1)ポリオルガノシロキサンの合成
300ml4口フラスコにメチルトリメトキシシラン202.6g、セロキサイド2021P(化合物名:3′,4′-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)を1.0g、ジブチルホスフェート0.010g、純水30.5g(アルコキシシリル基に対して38モル%)を入れ、90℃に設定したオイルバスで加熱し、4時間反応させた。その後、エバポレーター、及び90℃に設定したオイルバスを用いて蒸留を行い、発生したメタノール、及び残存水(92.3g)を除去し、約141.9gのポリオルガノシロキサン溶液を得た。得られたポリオルガノシロキサンのSC(固形分)を測定すると、30.3%であり、重量平均分子量は500、縮合率は41%だった。塗液として使用する際はS100でSC30.0%となるように調整して使用した。なお、SCは、ポリオルガノシロキサンを105℃に加熱して揮発しなかった成分が、ポリオルガノシロキサンに対して占める重量割合を示すものである。
【0080】
(合成例2~4、9~11、13~15)ポリオルガノシロキサンの合成
表1に記載のアルコキシシラン成分を使用し、セロキサイド2021Pを使用せず、水の使用量や、蒸留時のオイルバスの温度、メタノール及び水の除去量を表1に記載のようにしたこと以外は、合成例1と同様にしてポリオルガノシロキサン溶液を得た。なお、各表中、各成分の配合量の単位はグラム(g)である。
【0081】
(合成例5)ポリオルガノシロキサンの合成
300ml4口フラスコにメチルトリメトキシシラン202.6g、ジブチルホスフェート0.010g、純水30.5g(アルコキシシリル基に対して38モル%)を入れ、90℃に設定したオイルバスで加熱し、4時間反応させた。その後、セロキサイド2021P 1.0gを添加してから、エバポレーター、及び90℃に設定したオイルバスを用いて蒸留を行い、発生したメタノール、及び残存水(92.3g)を除去し、約141.9gのポリオルガノシロキサン溶液を得た。得られたポリオルガノシロキサンのSCを測定すると、59.7%であり、重量平均分子量は1200、縮合率は41%だった。塗液として使用する際はS100でSC30.0%となるように調整して使用した。
【0082】
(合成例6~8、12)ポリオルガノシロキサンの合成
水の使用量や、蒸留時のオイルバスの温度、メタノール及び水の除去量を表1に記載のようにしたこと以外は、合成例5と同様にしてポリオルガノシロキサン溶液を得た。
【0083】
【表1】
【0084】
(合成例16)アクリル樹脂の合成
4口フラスコに窒素導入管、冷却管、及び測温計を設置し、微加圧、還流条件下となるように装置を組み立てた。窒素フローしながら内温が110℃となるようにオイルバスを設定し、表2中の「初期溶剤」に記載しているS100 12.0gとLAWS28.0gを仕込み、110℃になるまで加熱した。
【0085】
上記4口フラスコとは別で、褐色瓶に表2中の「モノマー」+「ラジカル発生剤」+「重合溶剤」を加えて、ポンプ追加用のモノマー溶液を作製した(IBMA71.0g、2EHA10.0g、2EHMA12.0g、HEMA7.0g、V59 0.90g、S100 12.8g、及びLAWS29.8g)。作製したモノマー溶液を、ダイヤフラム式ポンプを用いて、3時間かけて滴下した。
【0086】
残存モノマーを消費するため、褐色瓶に表2中の「残モノマー用ラジカル発生剤」+「残モノマー用重合溶剤」を加えて、残存モノマー用ラジカル発生剤溶液を作製し(V59 0.090g、S100 5.5g、LAWS12.8g)、ポンプを用いて1時間かけて反応液に滴下した。滴下終了後、更に1.5時間加熱することで、目的のアクリル樹脂溶液を得た。得られたアクリル樹脂(アクリルポリオール)はSC50.0%、Mw30000だった。
【0087】
【表2】
【0088】
(重量平均分子量)
ポリオルガノシロキサン及びアクリル樹脂の重量平均分子量をGPCで測定した。GPCは、送液システムとして東ソー(株)製HLC-8320GPCを用い、カラムとして東ソー(株)製TSK-GEL Hタイプを用い、溶媒としてTHFを用いて行い、重量平均分子量は、ポリスチレン換算で算出した。
【0089】
29Si-NMR)
モノオルガノトリアルコキシシランに由来する構成単位は、シロキサン結合を1個形成している構成単位T1、シロキサン結合を2個形成している構成単位T2、及び、シロキサン結合を3個形成している構成単位T3に分類される。BRUKER社製AVANCEIIIHD500を用いて、ポリオルガノシロキサンの29Si-NMRを測定し、得られた各構造に由来するピーク面積比を、ポリオルガノシロキサンに含まれるT1、T2、及びT3構造のモル比とした。
【0090】
(シロキサン結合形成率)
T1、T2、及びT3構造のモル比をX、Y、Zとした時、
式:(1×X+2×Y+3×Z)/3
によって算出された値を、シロキサン結合形成率(縮合率)とした。
【0091】
(クリア塗液の作製と塗装)
表3及び4に記載の組成に沿って、合成例1~15で得たポリオルガノシロキサン溶液、合成例16で得たアクリル樹脂溶液、イソシアネートとしてスミジュールN3300、硬化触媒として有機錫化合物であるU-20、及び、希釈溶剤としてS100及びLAWSを混合してクリア塗液を作製した。なお、各表中のIP/AC比率は、100×ポリオルガノシロキサン溶液の固形分/(ポリオルガノシロキサン溶液の固形分+アクリル樹脂溶液の固形分)である。
【0092】
作製したクリア塗液6milをアプリケータで塗装し、ドライで約0.076mm厚の塗膜を得た。塗装後、23℃に調整された恒温室で1週間静置したものを硬化塗膜として、塗膜透明性、及び耐候性を評価した。具体的には以下に述べる。
【0093】
(実施例1)
合成例1で得たポリオルガノシロキサン溶液を4.2g、合成例16で得たアクリル樹脂溶液を10.0g、スミジュールN3300 0.52g、U-20(1%溶液) 0.068g、S100 0.67g、及び、LAWS1.56gを混合してクリア塗液を得た。得られたクリア塗液6milを、70×150×2mmのフロートガラス板上に塗装してクリア塗膜を得た。
【0094】
(実施例2~8、比較例1~8)
表3及び4に記載の配合とした以外は、実施例1と同様にしてクリア塗液を得、さらにクリア塗膜を得た。
【0095】
(塗膜透明性)
ガラス板上に塗装して得たクリア塗膜を、23℃に調整された恒温室にて1週間養生後に、色彩・濁度同時測定器 COH400(日本電色工業株式会社製)を用いて塗膜のヘイズ値を測定して評価した。結果を各表に示した。
〇:濁度がない(ヘイズ値<5)、×:濁度がある(ヘイズ値≧5)
【0096】
(耐候性)
後述する方法によって作製した白塗液をアルミ板上に塗装して得た白塗膜を、23℃に調整された恒温室にて1週間養生後に、サンシャインウェザーメーターで促進耐候性試験を実施し、白塗膜を1500時間、2000時間、3000時間それぞれ暴露し、試験前後における光沢保持率に基づいて以下の基準で評価した。結果を各表に示した。
◎:3000時間後の光沢保持率80%以上、
〇:2000時間後の光沢保持率80%以上、3000時間後の光沢保持率80%未満
△:1500時間後の光沢保持率80%以上、2000時間後の光沢保持率80%未満
×:1500時間後の光沢保持率が80%未満
白塗膜を得るための白塗料化、及び、白塗液の作成に関して以下に記載する。
【0097】
(実施例1及び2の白塗料化、及び、白塗液の作成)
合成例16で得たアクリル樹脂溶液を24.1g、合成例1又は2で得たポリオルガノシロキサン溶液を10.1g、白色顔料である酸化チタン(テイカ株式会社製 JR-805)を33.5g、AN45を1.2g、S100を0.5g、ガラスビーズ49gを、それぞれ225mlマヨビンに入れ、ペイントコンディショナーを用いて3時間高速振動させた。次いで、合成例16で得たアクリル樹脂溶液を56.3g、合成例1又は2で得たポリオルガノシロキサン溶液を23.5g、AN45を12.9g、S100を5.5gをそれぞれ加え、更にペイントコンディショナーで1時間高速振動させることで白塗料を167.5g得た。
得られた白塗料10.0gに硬化剤としてイソシアネート(住化コベストロウレタン製、スミジュールN3300)を0.25g、S100で1wt%に希釈した錫触媒(日東化成株式会社製、U-20)を0.055g加え、よく混合することで白塗液を得た。
【0098】
(実施例3及び4の白塗料化、及び、白塗液の作成)
合成例16で得たアクリル樹脂溶液を25.6g、合成例3又は4で得たポリオルガノシロキサン溶液を7.5g、JR-805を33.5g、AN45を1.9g、S100を0.8g、ガラスビーズ49gを、それぞれ225mlマヨビンに入れ、ペイントコンディショナーを用いて3時間高速振動させた。次いで、合成例16で得たアクリル樹脂溶液を59.8g、合成例3又は4で得たポリオルガノシロキサン溶液を17.6g、AN45を14.5g、S100を6.2gをそれぞれ加え、更にペイントコンディショナーで1時間高速振動させることで白塗料を167.5g得た。
得られた白塗料10.0gにスミジュールN3300を0.26g、S100で1wt%に希釈したU-20を0.056g加え、よく混合することで白塗液を得た。
【0099】
(実施例5-7の白塗料化、及び、白塗液の作成)
合成例16で得たアクリル樹脂溶液を27.1g、合成例5-7で得たポリオルガノシロキサン溶液を5.0g、JR-805を33.5g、AN45を2.6g、S100を1.1g、ガラスビーズ49gを、それぞれ225mlマヨビンに入れ、ペイントコンディショナーを用いて3時間高速振動させた。次いで、合成例16で得たアクリル樹脂溶液を63.3g、合成例5-7で得たポリオルガノシロキサン溶液を11.7g、AN45を16.2g、S100を6.9gをそれぞれ加え、更にペイントコンディショナーで1時間高速振動させることで白塗料を167.5g得た。
得られた白塗料10.0gにスミジュールN3300を0.28g、S100で1wt%に希釈したU-20を0.058g加え、よく混合することで白塗液を得た。
【0100】
(実施例8の白塗料化、及び、白塗液の作成)
合成例16で得たアクリル樹脂溶液を28.6g、合成例8で得たポリオルガノシロキサン溶液を2.5g、JR-805を33.5g、AN45を3.3g、S100を1.4g、ガラスビーズ49gを、それぞれ225mlマヨビンに入れ、ペイントコンディショナーを用いて3時間高速振動させた。次いで、合成例16で得たアクリル樹脂溶液を66.8g、合成例8で得たポリオルガノシロキサン溶液を5.9g、AN45を17.8g、S100を7.6gをそれぞれ加え、更にペイントコンディショナーで1時間高速振動させることで白塗料を167.5g得た。
得られた白塗料10.0gにスミジュールN3300を0.29g、S100で1wt%に希釈したU-20を0.059g加え、よく混合することで白塗液を得た。
【0101】
(比較例1-7の白塗料化、及び、白塗液の作成)
合成例16で得たアクリル樹脂溶液を28.6g、合成例9-15で得たポリオルガノシロキサン溶液を2.5g、JR-805を33.5g、AN45を3.3g、S100を1.4g、ガラスビーズ49gを、それぞれ225mlマヨビンに入れ、ペイントコンディショナーを用いて3時間高速振動させた。次いで、合成例16で得たアクリル樹脂溶液を66.8g、合成例9-15で得たポリオルガノシロキサン溶液を5.9g、AN45を17.8g、S100を7.6gをそれぞれ加え、更にペイントコンディショナーで1時間高速振動させることで白塗料を167.5g得た。
得られた白塗料10.0gにスミジュールN3300を0.29g、S100で1wt%に希釈したU-20を0.059g加え、よく混合することで白塗液を得た。
【0102】
(比較例8の白塗料化、及び、白塗液の作成)
合成例16で得たアクリル樹脂溶液を30.2g、JR-805を33.5g、AN45を4.0g、S100を1.7g、ガラスビーズ49gを、それぞれ225mlマヨビンに入れ、ペイントコンディショナーを用いて3時間高速振動させた。次いで、合成例16で得たアクリル樹脂溶液を70.4g、AN45を19.4g、S100を8.3gをそれぞれ加え、更にペイントコンディショナーで1時間高速振動させることで白塗料を167.5g得た。
得られた白塗料10.0gにスミジュールN3300を0.31g、S100で1wt%に希釈したU-20を0.061g加え、よく混合することで白塗液を得た。
【0103】
【表3】
【0104】
【表4】
【0105】
表3より、実施例1~8はいずれも、塗膜の透明性と耐候性の双方が良好であったことが分かる。また、実施例のなかでも、重量平均分子量が小さいポリオルガノシロキサンを用いた実施例では、ポリオルガノシロキサンの配合量が増加しても、塗膜が良好な透明性を保持したことが分かる。表4の比較例1~7はいずれも、ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量が1500以上と大きく、ポリオルガノシロキサンの配合量が5重量%と少ないにも関わらず、塗膜の透明性が不十分で、また、ポリオルガノシロキサンを配合していない比較例8と同様に耐候性も不十分であった。