(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】セラミック造孔用粒子材、セラミック体形成用材料及び空孔を有するセラミック体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 38/06 20060101AFI20231213BHJP
C04B 35/634 20060101ALI20231213BHJP
C08F 212/36 20060101ALI20231213BHJP
C08F 220/20 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
C04B38/06 D
C04B35/634 240
C08F212/36
C08F220/20
(21)【出願番号】P 2019095476
(22)【出願日】2019-05-21
【審査請求日】2022-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2018096821
(32)【優先日】2018-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 沙織
(72)【発明者】
【氏名】山田 恭幸
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-041803(JP,A)
【文献】特開2014-159549(JP,A)
【文献】特開2008-247630(JP,A)
【文献】特開2017-149630(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 38/06
C04B 35/634
C08F 212/36
C08F 220/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の粒
子を含み、
前記粒子全体が、有機材料により形成されており、
前記粒子の25℃における20%圧縮したときの平均圧縮弾性率が、2000N/mm
2以上であり、かつ、前記粒子の平均圧縮回復率が、50%以上であり、
前記粒子の平均粒子径の1.7倍以上の粒子径を有する粗大粒子を含まないか、又は、前記粒子の全個数100%中、前記粒子の平均粒子径の1.7倍以上の粒子径を有する粗大粒子を0.0002%以下で含む、セラミック造孔用粒子材。
【請求項2】
前記粒子の平均粒子径が、0.1μm以上5μm以下である、請求項1に記載のセラミック造孔用粒子材。
【請求項3】
前記粒子の300℃での熱分解重量減少率が、10重量%以下である、請求項1又は2に記載のセラミック造孔用粒子材。
【請求項4】
前記粒子の200℃における10%圧縮したときの平均圧縮弾性率の、前記粒子の25℃における10%圧縮したときの平均圧縮弾性率に対する比が、0.9以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のセラミック造孔用粒子材。
【請求項5】
ガスセンサ素子のセラミック保護層を形成するために用いられる、請求項1~4のいずれか1項に記載のセラミック造孔用粒子材。
【請求項6】
セラミック原料と、請求項1~5のいずれか1項に記載のセラミック造孔用粒子材とを含む、セラミック体形成用材料。
【請求項7】
セラミック原料と、請求項1~5のいずれか1項に記載のセラミック造孔用粒子材とを含むセラミック体形成用材料を、成形することにより成形体を得る成形工程と、
前記成形体を焼成して、セラミック体を得る焼成工程とを備え、
前記焼成工程において、セラミック造孔用粒子材を焼失させて、前記セラミック体に空孔を形成する、空孔を有するセラミック体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック体に空孔を形成するために用いることができるセラミック造孔用粒子材に関する。また、本発明は、上記セラミック造孔用粒子材を用いたセラミック体形成用材料及び空孔を有するセラミック体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微細な空孔を有するセラミック体が、燃料電池の電極、プロトン伝導性膜やガスセンサ素子等に用いられている。
【0003】
ガスセンサには、例えば、酸素イオン伝導性の固体電解質体と、被測定ガス側電極及び基準ガス側電極と、多孔質の拡散抵抗層とを有するガスセンサ素子が内蔵されている。
【0004】
ガスセンサ素子では、被測定ガスの導入口となる拡散抵抗層の外表面が、多孔質の保護層によって覆われた構造を有することがある。このような構造により、被測定ガス中の被毒物質(例えば、鉛及びリン等)を多孔質の保護層においてトラップし、被測定ガス側電極の被毒劣化及びそれに伴うセンサ特性の低下を防止している。
【0005】
上記ガスセンサ素子では、多孔質の保護層を形成するために、樹脂粒子等の造孔材が用いられることがある。
【0006】
下記の特許文献1には、素子本体部と、上記拡散抵抗層の外表面上に形成された保護層とを備えるガスセンサ素子の製造方法が開示されている。上記素子本体部は、酸素イオン伝導性の固体電解質体と、被測定ガス側電極及び基準ガス側電極と、被測定ガスを透過させる多孔質の拡散抵抗層とを有する。上記被測定ガス側電極及び基準ガス側電極は、上記固体電解質体の一方の面と他方の面とにそれぞれ設けられている。
【0007】
上記ガスセンサ素子の製造方法は、セラミック粒子と、焼成により焼失する焼失性粒子と、水又は有機溶剤により構成される溶媒と、上記溶媒に可溶な有機バインダ樹脂とを含有する保護層形成用材料を作製する保護層形成用材料作製工程を備える。上記ガスセンサ素子の製造方法は、上記保護層形成用材料を上記素子本体部の上記拡散抵抗層の上記外表面上に塗布する塗布工程を備える。上記ガスセンサ素子の製造方法は、上記保護層形成用材料を焼成し、上記保護層を形成する焼成工程を備える。上記ガスセンサ素子の製造方法では、上記保護層形成用材料における上記焼失性粒子の焼失開始温度は、上記有機バインダ樹脂の焼失開始温度よりも高い。下記の特許文献1では、上記焼失性粒子として、アクリル樹脂を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の造孔材を用いたセラミック体では、焼成の際に、セラミック原料等により造孔材が押し潰されることがある。結果として、造孔材が焼失した後に空孔となる空間が塞がれて、空孔が形成されないことがある。また、従来の造孔材では、平均粒子径よりも大きな粒子径を有する粗大粒子が混入することがある。粗大粒子が混入した造孔材を用いてセラミック体を得ると、粗大粒子により形成された空孔によりセラミック体が欠けることがあり、セラミック体の強度が低下することがある。例えば、セラミック体の厚みが薄い場合に、粗大粒子により形成された空孔によって、壁部が形成されないことがある。
【0010】
本発明の目的は、セラミック体の原料として用いた場合に、セラミック体に均一な空孔を形成することができ、かつ、セラミック体の強度の低下を効果的に抑制することができるセラミック造孔用粒子材を提供することである。また、本発明の目的は、上記セラミック造孔用粒子材を用いたセラミック体形成用材料及び空孔を有するセラミック体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の広い局面によれば、複数の粒子を含み、前記粒子の25℃における20%圧縮したときの平均圧縮弾性率が、2000N/mm2以上であり、かつ、前記粒子の平均圧縮回復率が、50%以上であり、前記粒子の平均粒子径の1.7倍以上の粒子径を有する粗大粒子を含まないか、又は、前記粒子の全個数100%中、前記粒子の平均粒子径の1.7倍以上の粒子径を有する粗大粒子を0.0002%以下で含む、セラミック造孔用粒子材が提供される。
【0012】
本発明に係るセラミック造孔用粒子材のある特定の局面では、前記粒子の平均粒子径が、0.1μm以上5μm以下である。
【0013】
本発明に係るセラミック造孔用粒子材のある特定の局面では、前記粒子の300℃での熱分解重量減少率が、10重量%以下である。
【0014】
本発明に係るセラミック造孔用粒子材のある特定の局面では、前記粒子の200℃における10%圧縮したときの平均圧縮弾性率の、前記粒子の25℃における10%圧縮したときの平均圧縮弾性率に対する比が、0.9以下である。
【0015】
本発明に係るセラミック造孔用粒子材のある特定の局面では、前記セラミック造孔用粒子材が、ガスセンサ素子のセラミック保護層を形成するために用いられる。
【0016】
本発明の広い局面によれば、セラミック原料と、上述したセラミック造孔用粒子材とを含む、セラミック体形成用材料が提供される。
【0017】
本発明の広い局面によれば、セラミック原料と、上述したセラミック造孔用粒子材とを含むセラミック体形成用材料を、成形することにより成形体を得る成形工程と、前記成形体を焼成して、セラミック体を得る焼成工程とを備え、前記焼成工程において、セラミック造孔用粒子材を焼失させて、前記セラミック体に空孔を形成する、空孔を有するセラミック体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るセラミック造孔用粒子材は、複数の粒子を含む。本発明に係るセラミック造孔用粒子材では、上記粒子の25℃における20%圧縮したときの平均圧縮弾性率が、2000N/mm2以上であり、かつ、上記粒子の平均圧縮回復率が、50%以上である。本発明に係るセラミック造孔用粒子材は、上記粒子の平均粒子径の1.7倍以上の粒子径を有する粗大粒子を含まないか、又は、上記粒子の全個数100%中、上記粒子の平均粒子径の1.7倍以上の粒子径を有する粗大粒子を0.0002%以下で含む。本発明に係るセラミック造孔用粒子材では、上記の構成が備えられているので、セラミック体の原料として用いた場合に、セラミック体に均一な空孔を形成することができ、かつ、セラミック体の強度の低下を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明に係るセラミック造孔用粒子材をセラミック保護層の原料として用いたガスセンサ素子の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0021】
(セラミック造孔用粒子材)
本発明に係るセラミック造孔用粒子材は、複数の粒子を含む。本発明に係るセラミック造孔用粒子材では、上記粒子の25℃における20%圧縮したときの平均圧縮弾性率が、2000N/mm2以上である。本発明に係るセラミック造孔用粒子材では、上記粒子の平均圧縮回復率が、50%以上である。本発明に係るセラミック造孔用粒子材は、上記粒子の平均粒子径の1.7倍以上の粒子径を有する粗大粒子を含まないか、又は、上記粒子の全個数100%中、上記粒子の平均粒子径の1.7倍以上の粒子径を有する粗大粒子を0.0002%以下で含む。
【0022】
本発明に係るセラミック造孔用粒子材では、上記の構成が備えられているので、セラミック体の原料として用いた場合に、セラミック体に均一な空孔を形成することができ、かつ、セラミック体の強度の低下を効果的に抑制することができる。
【0023】
本発明に係るセラミック造孔用粒子材は、空孔を有するセラミック体を得るために用いることができる。本発明に係るセラミック造孔用粒子材は、焼成により形状が保持されなくなり、焼成により焼失する。本発明に係るセラミック造孔用粒子材を含むセラミック体形成用材料を焼成し、上記セラミック造孔用粒子材を焼失させることで、上記セラミック造孔用粒子材の部分が空孔となり、空孔を有するセラミック体を得ることができる。得られるセラミック体では、複数の空孔が形成されている。上記セラミック造孔用粒子材は、造孔材であることが好ましい。
【0024】
本発明に係るセラミック造孔用粒子材は、比較的高い圧縮弾性率及び圧縮回復率を有する。このため、上記セラミック造孔用粒子材を含むセラミック体形成用材料を焼成する際に、セラミック原料等により、上記セラミック造孔用粒子材が押し潰されることなく、焼失する。結果として、上記セラミック造孔用粒子材が焼失した後に空孔となる空間が塞がれることなく、セラミック体に均一な空孔を形成することができる。
【0025】
また、本発明に係るセラミック造孔用粒子材は、比較的小さくかつ均一な粒子径を有する。このため、上記セラミック造孔用粒子材を含むセラミック体形成用材料では、上記セラミック造孔用粒子材により形成される空孔によりセラミック体が欠けることを効果的に防止することができ、セラミック体の強度の低下を効果的に抑制することができる。
【0026】
本発明に係るセラミック造孔用粒子材では、上記粒子の25℃における20%圧縮したときの平均圧縮弾性率(平均20%K値)は、2000N/mm2以上である。上記粒子の平均20%K値は、好ましくは2500N/mm2以上、より好ましくは3000N/mm2以上であり、好ましくは5000N/mm2以下、より好ましくは4000N/mm2以下である。上記粒子の平均20%K値が、上記下限以上及び上記上限以下であると、セラミック体により一層均一な空孔を形成することができる。なお、上記粒子の平均20%K値は、上記粒子を構成する有機材料の構造及び架橋度を調整することにより制御することができる。
【0027】
上記セラミック造孔用粒子材では、上記粒子の25℃における10%圧縮したときの平均圧縮弾性率(平均10%K値(25))は、好ましくは2000N/mm2以上、より好ましくは3000N/mm2以上であり、好ましくは6000N/mm2以下、より好ましくは5000N/mm2以下である。上記粒子の平均10%K値(25)が、上記下限以上及び上記上限以下であると、セラミック体により一層均一な空孔を形成することができる。
【0028】
上記セラミック造孔用粒子材では、上記粒子の200℃における10%圧縮したときの平均圧縮弾性率(平均10%K値(200))は、好ましくは1500N/mm2以上、より好ましくは1800N/mm2以上であり、好ましくは3000N/mm2以下、より好ましくは2700N/mm2以下である。上記粒子の平均10%K値(200)が、上記下限以上及び上記上限以下であると、セラミック体により一層均一な空孔を形成することができる。
【0029】
上記セラミック造孔用粒子材では、上記粒子の平均10%K値(200)の、上記粒子の平均10%K値(25)に対する比(平均10%K値(200)/平均10%K値(25))は、好ましくは0.9以下、より好ましくは0.7以下であり、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.5以上である。上記比(平均10%K値(200)/平均10%K値(25))が、上記下限以上及び上記上限以下であると、セラミック体により一層均一な空孔を形成することができる。なお、上記粒子を構成する有機材料の架橋構造の割合を高くすることにより、上記比(平均10%K値(200)/平均10%K値(25))を上記下限以上及び上記上限以下に容易に制御することができる。
【0030】
上記粒子の圧縮弾性率(20%K値、10%K値(25)及び10%K値(200))は、以下のようにして測定できる。
【0031】
微小圧縮試験機を用いて、円柱(直径100μm、ダイヤモンド製)の平滑圧子端面で、25℃又は200℃、圧縮速度0.3mN/秒、及び最大試験荷重20mNの条件下で粒子1個を圧縮する。このときの荷重値(N)及び圧縮変位(mm)を測定する。得られた測定値から、圧縮弾性率(20%K値、10%K値(25)及び10%K値(200))を下記式により求めることができる。上記微小圧縮試験機として、例えば、フィッシャー社製「フィッシャースコープH-100」等が用いられる。上記セラミック造孔用粒子材における上記平均圧縮弾性率(平均20%K値、平均10%K値(25)及び平均10%K値(200))は、任意に選択された50個の粒子の圧縮弾性率(20%K値、10%K値(25)及び10%K値(200))を算術平均することにより、算出することが好ましい。
【0032】
20%K値、10%K値(25)又は10%K値(200)(N/mm2)=(3/21/2)・F・S-3/2・R-1/2
F:粒子が10%又は20%圧縮変形したときの荷重値(N)
S:粒子が10%又は20%圧縮変形したときの圧縮変位(mm)
R:粒子の半径(mm)
【0033】
上記圧縮弾性率は、セラミック造孔用粒子材の硬さを普遍的かつ定量的に表す。上記圧縮弾性率の使用により、セラミック造孔用粒子材の硬さを定量的かつ一義的に表すことができる。
【0034】
本発明に係るセラミック造孔用粒子材では、上記粒子の平均圧縮回復率は、50%以上である。上記粒子の平均圧縮回復率は、好ましくは53%以上、より好ましくは55%以上であり、好ましくは70%以下、より好ましくは60%以下である。上記粒子の平均圧縮回復率が、上記下限以上及び上記上限以下であると、セラミック体により一層均一な空孔を形成することができる。なお、上記粒子の平均圧縮回復率は、上記粒子を構成する有機材料の構造及び架橋度を調整することにより制御することができる。
【0035】
上記粒子の圧縮回復率は、以下のようにして測定できる。
【0036】
試料台上に粒子を散布する。散布された粒子1個について、微小圧縮試験機を用いて、円柱(直径100μm、ダイヤモンド製)の平滑圧子端面で、25℃で、粒子の中心方向に、粒子が30%圧縮変形するまで負荷(反転荷重値)を与える。その後、原点用荷重値(0.40mN)まで除荷を行う。この間の荷重-圧縮変位を測定し、下記式から圧縮回復率を求めることができる。なお、負荷速度は0.33mN/秒とする。上記微小圧縮試験機として、例えば、フィッシャー社製「フィッシャースコープH-100」等が用いられる。上記セラミック造孔用粒子材における上記平均圧縮回復率は、任意に選択された50個の粒子の圧縮回復率を算術平均することにより、算出することが好ましい。
【0037】
圧縮回復率(%)=[L2/L1]×100
L1:負荷を与えるときの原点用荷重値から反転荷重値に至るまでの圧縮変位
L2:負荷を解放するときの反転荷重値から原点用荷重値に至るまでの除荷変位
【0038】
本発明に係るセラミック造孔用粒子材は、上記粒子の平均粒子径の1.7倍以上の粒子径を有する粗大粒子を含まないか、又は、上記粒子の全個数100%中、上記粒子の平均粒子径の1.7倍以上の粒子径を有する粗大粒子を0.0002%以下で含む。上記セラミック造孔用粒子材では、上記粒子の全個数100%中、上記粒子の平均粒子径の1.7倍以上の粒子径を有する粗大粒子を0.0002%以下(1000000個当たり2個以下)で含むことが好ましく、0.0001%以下(1000000個当たり1個以下)で含むことがより好ましい。上記セラミック造孔用粒子材では、上記粒子の平均粒子径の1.7倍以上の粒子径を有する粗大粒子を含まないことが特に好ましい。上記セラミック造孔用粒子材が、上記の好ましい態様を満足すると、セラミック体の強度の低下をより一層効果的に抑制することができる。
【0039】
上記の好ましい態様を満足するセラミック造孔用粒子材を得る方法としては、目的とする粒子径を有する粒子を、分級装置を用いて選別する方法等が挙げられる。分級装置の方式としては、慣性力の原理を用いた方法、及び粒子径サイズを利用した方法等が挙げられる。
【0040】
上記セラミック造孔用粒子材では、上記粒子の平均粒子径は、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは2μm以上であり、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。上記粒子の平均粒子径が、上記下限以上及び上記上限以下であると、セラミック体により一層均一な空孔を形成することができ、かつ、セラミック体の強度の低下をより一層効果的に抑制することができる。セラミック体の原料としてより一層好適に用いる観点からは、上記粒子の平均粒子径は、0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。
【0041】
上記粒子の粒子径は、上記粒子が真球状である場合には直径を意味し、上記粒子が真球状以外の形状である場合には、その体積相当の真球と仮定した際の直径を意味する。セラミック造孔用粒子材では、上記粒子の平均粒子径は、数平均粒子径であることが好ましい。上記粒子の平均粒子径は、任意の粒度分布測定装置により測定することができる。例えば、レーザー光散乱、電気抵抗値変化、撮像後の画像解析等の原理を用いた粒度分布測定装置等を用いて測定することができる。さらに具体的には、上記粒子の平均粒子径の測定方法として、粒度分布測定装置(ベックマンコールター社製「Multisizer4」)を用いて、約100000個の粒子の粒子径を測定し、平均粒子径を測定する方法が挙げられる。
【0042】
上記セラミック造孔用粒子材では、上記粒子の粒子径の変動係数(CV値)は、好ましくは10%以下、より好ましくは7%以下、さらに好ましくは5%以下である。上記CV値が、上記上限以下であると、セラミック体の原料としてより一層好適に用いることができる。
【0043】
上記CV値は、下記式で表される。
【0044】
CV値(%)=(ρ/Dn)×100
ρ:粒子の粒子径の標準偏差
Dn:粒子の粒子径の平均値
【0045】
上記粒子のアスペクト比は、好ましくは2以下、より好ましくは1.5以下、さらに好ましくは1.2以下である。上記アスペクト比は、長径/短径を示す。上記アスペクト比は、任意の粒子10個を電子顕微鏡又は光学顕微鏡にて観察し、最大径と最小径をそれぞれ長径、短径とし、各粒子の長径/短径の平均値を算出することにより求めることが好ましい。
【0046】
上記セラミック造孔用粒子材では、上記粒子の300℃での熱分解重量減少率は、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下である。上記粒子の300℃での熱分解重量減少率が、上記上限以下であると、セラミック体により一層均一な空孔を形成することができ、かつ、セラミック体の強度の低下をより一層効果的に抑制することができる。また、上記粒子の300℃での熱分解重量減少率が、上記上限以下であると、セラミック体の原料としてより一層好適に用いることができる。なお、上記粒子を構成する有機材料の架橋度を大きくすることにより、上記粒子の300℃での熱分解重量減少率を上記下限以上及び上記上限以下に容易に制御することができる。
【0047】
上記粒子の300℃での熱分解重量減少率は、以下のようにして測定することができる。
【0048】
10mgの粒子を用意する。次に、熱重量分析装置(リガク社製「Thermo Plus EVO2」又は日立ハイテック社製「TG/DTA7300」)を用いて、ガス:空気、ガス流量:100ml/min、開始温度:25℃、終了温度:550℃、及び昇温速度:5℃/minの条件で測定を行う。得られた結果から、粒子の300℃での重量G(mg)を算出し、下記式(1)により、粒子の300℃での熱分解重量減少率を算出することができる。
【0049】
粒子の300℃での熱分解重量減少率(重量%)=[(10-G)/10]×100 ・・・式(1)
【0050】
以下、セラミック造孔用粒子材及び粒子の他の詳細を説明する。なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」と「メタクリレート」との一方又は双方を意味し、「(メタ)アクリル」は「アクリル」と「メタクリル」との一方又は双方を意味する。
【0051】
(セラミック造孔用粒子材及び粒子の他の詳細)
上記セラミック造孔用粒子材及び上記粒子の材料は特に限定されない。上記セラミック造孔用粒子材及び上記粒子の材料は、有機材料であることが好ましい。
【0052】
上記有機材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン等のポリオレフィン樹脂;ポリメチルメタクリレート及びポリメチルアクリレート等のアクリル樹脂;ポリカーボネート、ポリアミド、フェノールホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ベンゾグアナミンホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリアセタール、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ジビニルベンゼン重合体、並びにジビニルベンゼン共重合体等が挙げられる。上記ジビニルベンゼン共重合体等としては、ジビニルベンゼン-スチレン共重合体及びジビニルベンゼン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。上記セラミック造孔用粒子材及び上記粒子の圧縮特性を好適な範囲に容易に制御できるので、上記セラミック造孔用粒子材及び上記粒子の材料は、エチレン性不飽和基を有する重合性単量体を1種又は2種以上重合させた重合体であることが好ましい。
【0053】
上記セラミック造孔用粒子材及び上記粒子を、エチレン性不飽和基を有する重合性単量体を重合させて得る場合、上記エチレン性不飽和基を有する重合性単量体としては、非架橋性の単量体と架橋性の単量体とが挙げられる。
【0054】
上記非架橋性の単量体としては、ビニル化合物として、スチレン、α-メチルスチレン、クロルスチレン等のスチレン単量体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル等のビニルエーテル化合物;酢酸ビニル、酪酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等の酸ビニルエステル化合物;塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン含有単量体;(メタ)アクリル化合物として、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート化合物;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の酸素原子含有(メタ)アクリレート化合物;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル含有単量体;トリフルオロメチル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロエチル(メタ)アクリレート等のハロゲン含有(メタ)アクリレート化合物;α-オレフィン化合物として、ジイソブチレン、イソブチレン、リニアレン、エチレン、プロピレン等のオレフィン化合物;共役ジエン化合物として、イソプレン、ブタジエン等が挙げられる。
【0055】
上記架橋性の単量体としては、ビニル化合物として、ジビニルベンゼン、1,4-ジビニロキシブタン、ジビニルスルホン等のビニル単量体;(メタ)アクリル化合物として、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート化合物;アリル化合物として、トリアリル(イソ)シアヌレート、トリアリルトリメリテート、ジアリルフタレート、ジアリルアクリルアミド、ジアリルエーテル;シラン化合物として、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、n-デシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、トリメトキシシリルスチレン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン、メチルフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン等のシランアルコキシド化合物;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ジメトキシメチルビニルシシラン、ジメトキシエチルビニルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、ジエトキシエチルビニルシラン、エチルメチルジビニルシラン、メチルビニルジメトキシシラン、エチルビニルジメトキシシラン、メチルビニルジエトキシシラン、エチルビニルジエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の重合性二重結合含有シランアルコキシド;デカメチルシクロペンタシロキサン等の環状シロキサン;片末端変性シリコーンオイル、両末端シリコーンオイル、側鎖型シリコーンオイル等の変性(反応性)シリコーンオイル;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸等のカルボキシル基含有単量体等が挙げられる。
【0056】
上記セラミック造孔用粒子材及び上記粒子は、上記エチレン性不飽和基を有する重合性単量体を重合させることによって得ることができる。上記の重合方法としては特に限定されず、ラジカル重合、イオン重合、重縮合(縮合重合、縮重合)、付加縮合、リビング重合、及びリビングラジカル重合等の公知の方法が挙げられる。また、他の重合方法としては、ラジカル重合開始剤の存在下での懸濁重合が挙げられる。
【0057】
上記セラミック造孔用粒子材及び上記粒子は、有機無機ハイブリッド粒子であってもよい。上記セラミック造孔用粒子材及び上記粒子は、コアシェル粒子であってもよい。上記セラミック造孔用粒子材及び上記粒子が有機無機ハイブリッド粒子である場合に、上記セラミック造孔用粒子材及び上記粒子の材料である無機物としては、シリカ、アルミナ、チタン酸バリウム、ジルコニア及びカーボンブラック等が挙げられる。上記無機物は金属ではないことが好ましい。上記シリカにより形成されたセラミック造孔用粒子材及び上記粒子としては特に限定されないが、加水分解性のアルコキシシリル基を2つ以上持つケイ素化合物を加水分解して架橋重合体粒子を形成した後に、必要に応じて焼成を行うことにより得られる粒子が挙げられる。上記有機無機ハイブリッド粒子としては、架橋したアルコキシシリルポリマーとアクリル樹脂とにより形成された有機無機ハイブリッド粒子等が挙げられる。
【0058】
上記有機無機ハイブリッド粒子は、コアと、該コアの表面上に配置されたシェルとを有するコアシェル型の有機無機ハイブリッド粒子であることが好ましい。上記コアが有機コアであることが好ましい。上記シェルが無機シェルであることが好ましい。上記セラミック造孔用粒子材における粒子は、有機コアと上記有機コアの表面上に配置された無機シェルとを有する有機無機ハイブリッド粒子であることが好ましい。
【0059】
上記有機コアの材料としては、上述した有機材料等が挙げられる。
【0060】
上記無機シェルの材料としては、シリカ、アルミナ、チタン酸バリウム、ジルコニア及びカーボンブラック等が挙げられる。上記無機シェルの材料は、シリカであることが好ましい。上記無機シェルは、上記コアの表面上で、金属アルコキシドをゾルゲル法によりシェル状物とした後、該シェル状物を焼成させることにより形成されていることが好ましい。上記金属アルコキシドはシランアルコキシドであることが好ましい。上記無機シェルはシランアルコキシドにより形成されていることが好ましい。
【0061】
上記セラミック造孔用粒子材及び上記粒子は、有機材料のみにより形成されていることが好ましい。この場合には、上記セラミック造孔用粒子材及び上記粒子の圧縮特性を好適な範囲に容易に制御することができ、セラミック体の原料としてより一層好適に用いることができる。
【0062】
(セラミック体形成用材料)
本発明に係るセラミック体形成用材料は、セラミック原料と、上述したセラミック造孔用粒子材とを含む。
【0063】
上記セラミック原料は特に限定されない。上記セラミック原料としては、アルミナ、ジルコニア、ケイ酸アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、マグネシア、サイアロン、スピネムルライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等が挙げられる。上記セラミック原料は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0064】
上記セラミック体形成用材料は、バインダーを含んでいてもよい。上記バインダーは特に限定されない。上記バインダーとしては、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセトアセタール等のポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール系樹脂、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシエチルメチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース等のセルロース系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル等の(メタ)アクリル系樹脂、ポリアミドイミド、ポリイミド等のイミド系樹脂、ポリエチレンオキサイド等のエチレン系樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリメタリロニトリル等のニトリル系樹脂、ポリウレタン等のウレタン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデンポリフッ化ビニル、酢酸ビニル等のビニル系樹脂、及びスチレンブタジエンゴム等のゴム系樹脂を含有する樹脂等が挙げられる。上記バインダーは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0065】
上記セラミック体形成用材料は、有機溶剤を含んでいてもよい。上記有機溶剤は特に限定されない。上記有機溶剤としては、酢酸エチル、トルエン、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、アセトン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、キシレン、エチレングリコールおよびその誘導体、ブチルカルビトールやターピネオール等の高沸点有機溶剤、及びこれらの混合溶剤等が挙げられる。上記有機溶剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0066】
上記セラミック体形成用材料は、上記セラミック原料、上記セラミック造孔用粒子材、上記バインダー及び上記有機溶剤の他に、例えば、充填剤、増量剤、軟化剤、可塑剤、着色剤、酸化防止剤、滑剤及び帯電防止剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0067】
(空孔を有するセラミック材料の製造方法)
本発明に係る空孔を有するセラミック体の製造方法は、セラミック原料と、上述したセラミック造孔用粒子材とを含むセラミック体形成用材料を、成形することにより成形体を得る成形工程を備える。本発明に係る空孔を有するセラミック体の製造方法は、上記成形体を焼成して、セラミック体を得る焼成工程を備える。本発明に係る空孔を有するセラミック体の製造方法では、上記焼成工程において、セラミック造孔用粒子材を焼失させて、上記セラミック体に空孔を形成する。
【0068】
本発明に係る空孔を有するセラミック体の製造方法では、特定のセラミック造孔用粒子材を用いているので、上記セラミック造孔用粒子材が焼失した後に空孔となる空間が塞がれることなく、均一な空孔を形成することができる。さらに、上記セラミック造孔用粒子材により形成される空孔によりセラミック体が欠けることを効果的に防止することができ、セラミック体の強度の低下を効果的に抑制することができる。
【0069】
上記空孔を有するセラミック体の製造方法は、セラミック原料と、上述したセラミック造孔用粒子材とを含むセラミック体形成用材料を、成形することにより成形体を得る成形工程を備える。
【0070】
上記成形体を成形する方法は特に限定されない。上記成形体は、公知の成形方法によって成形することができる。上記成形体を作製する方法としては、上記セラミック体形成用材料をPETフィルム等の支持体上にドクターブレード法等の公知の方法により塗布し、有機溶剤等を乾燥除去する方法や、上記セラミック体形成用材料をスプレードライヤー法等により顆粒状に造粒した後、該顆粒を乾式プレス法により成形する方法等が挙げられる。
【0071】
上記空孔を有するセラミック体の製造方法は、上記成形体を焼成して、セラミック体を得る焼成工程を備える。上記空孔を有するセラミック体の製造方法では、上記焼成工程において、セラミック造孔用粒子材を焼失させて、上記セラミック体に空孔を形成する。
【0072】
上記焼成工程の焼成条件は特に限定されない。上記焼成条件は、上記セラミック造孔用粒子材を焼失させて、上記セラミック体に空孔を形成することができる条件であれば特に限定されない。上記焼成条件の加熱温度は、好ましくは800℃以上、より好ましくは1000℃以上であり、好ましくは1700℃以下、より好ましくは1500℃以下である。上記焼成条件の加熱時間は、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上であり、好ましくは7時間以下、より好ましくは5時間以下である。上記焼成条件が、上記の好ましい態様を満足すると、空孔を有するセラミック体をより一層好適に製造することができる。
【0073】
(用途)
上記セラミック造孔用粒子材は、ガスセンサ素子の保護層を形成するために用いられることが好ましい。上記セラミック造孔用粒子材は、セラミック原料と混合されて用いられることが好ましい。上記セラミック造孔用粒子材は、ガスセンサ素子のセラミック保護層を形成するために用いられることが好ましい。上記セラミック体形成用材料により得られるセラミック体は、ガスセンサ素子のセラミック保護層を形成するために用いられることが好ましい。上記空孔を有するセラミック体の製造方法により得られる空孔を有するセラミック体は、ガスセンサ素子のセラミック保護層として用いられることが好ましい。
【0074】
上記ガスセンサ素子としては、例えば、A/Fセンサ素子、及び酸素センサ素子等が挙げられる。上記A/Fセンサ素子は、車両用の内燃機関等の排気系に配置され、被測定ガス(排ガス等)中の特定ガス濃度(酸素濃度等)に依存して電極間を流れる限界電流を基に内燃機関に供給される混合気の空燃比(A/F)を検出する。上記酸素センサ素子は、被測定ガス(排ガス等)と基準ガス(大気等)との間の特定ガス濃度(酸素濃度等)比に依存して電極間に生じる起電力を基に空燃比を検出する。
【0075】
また、上記ガスセンサ素子は、被測定ガス側電極及び基準ガス側電極を設けた固体電解質体以外に、例えば、基準ガスを導入する基準ガス室の酸素濃度を調整するための酸素ポンプ用の固体電解質体等を備えていてもよい。また、上記ガスセンサ素子は、例えば、固体電解質体、拡散抵抗層等を積層して構成された積層型のガスセンサ素子であってもよく、一端が閉塞されると共に他端が開放された固体電解質体を有するコップ型のガスセンサ素子であってもよい。
【0076】
図1は、本発明に係るセラミック造孔用粒子材をセラミック保護層の原料として用いたガスセンサ素子の一例を模式的に示す断面図である。なお、
図1において、ガスセンサ素子の大きさ、厚み、形状等は、図示の便宜上、実際の大きさ及び形状から適宜変更している。
【0077】
図1に示すガスセンサ素子1は、酸素イオン伝導性の固体電解質体11と、固体電解質体11の一方の面と他方の面とにそれぞれ設けられた被測定ガス側電極12及び基準ガス側電極13と、被測定ガス側電極12に接触させる被測定ガスを透過させる多孔質の拡散抵抗層17とを備える。ガスセンサ素子1は、拡散抵抗層17の外表面17A上に形成された保護層2を備える。上記保護層は、セラミック体であることが好ましい。
【0078】
固体電解質体11の基準ガス側電極13側には、ガスを透過させない基準ガス室形成層14が配置されている。基準ガス室形成層14には、溝部14Bが設けられており、この溝部14Bによって基準ガス室14Aが形成されている。基準ガス室14Aは、基準ガス(大気)を導入することができるように構成されている。
【0079】
基準ガス室形成層14における固体電解質体11とは反対側の表面には、ヒータ基板15が配置されている。ヒータ基板15には、通電により発熱する発熱体(ヒータ)15Aが基準ガス室形成層14と対面するよう配置されている。発熱体15Aは、通電によって発熱させることにより、ガスセンサ素子1を活性温度まで加熱することができるように構成されている。
【0080】
固体電解質体11の被測定ガス側電極12側には、開口部16Bを有する絶縁層16が配置されている。絶縁層16は、電気的絶縁性を有し、ガスを透過させない。絶縁層16における固体電解質体11とは反対側の表面には、多孔質の拡散抵抗層17が配置されている。拡散抵抗層17は、ガス透過性を有する。
【0081】
固体電解質体11と、絶縁層16の開口部16Bと、拡散抵抗層17とにより覆われた部分には、被測定ガス室16Aが形成されている。被測定ガス室16Aは、被測定ガス(排ガス等)を拡散抵抗層17から導入することができるように構成されている。拡散抵抗層17における絶縁層16とは反対側の表面には、遮蔽層18が配置されている。遮蔽層18は、電気的絶縁性を有し、ガスを透過させない。
【0082】
上記セラミック造孔用粒子材を含むセラミック体形成用材料を、上記拡散抵抗層の外表面に塗布し、上記セラミック体形成用材料を焼成することにより、上記保護層を形成することができる。上記保護層には、均一な空孔が形成されており、上記拡散抵抗層の外表面から上記被測定ガス室に導入される被測定ガス(排ガス等)中の被毒物質(例えば、鉛及びリン等)をトラップすることができる。結果として、上記被測定ガス側電極の被毒劣化及びそれに伴うガスセンサ素子の特定の低下を効果的に防止することができる。
【0083】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0084】
(実施例1)
(1)セラミック造孔用粒子材(粒子)の作製
ジビニルベンゼン(純度96%)500重量部及びテトラメチロールメタントリアクリレート500重量部に過酸化ベンゾイル20重量部を加えて、均一に溶解するまで攪拌し、モノマー混合液を得た。分子量約1700のポリビニルアルコールを純水に溶解させ、2重量%ポリビニルアルコール水溶液を得た。得られた2重量%ポリビニルアルコール水溶液4000重量部を反応釜に入れ、さらに、得られたモノマー混合液を反応釜に入れて、4時間攪拌することで、得られるセラミック造孔用粒子材(粒子)が所定の平均粒子径(後述の3.01μm)を有するように、モノマーの液滴の粒子径を調整した。その後、90℃の窒素雰囲気下で9時間反応を行い、モノマー液滴の重合反応を行って、粒子を得た。得られた粒子を熱水、メタノール及びアセトンのそれぞれにて数回洗浄した後、分級操作を行ってセラミック造孔用粒子材を回収した。得られたセラミック造孔用粒子材(粒子)の平均粒子径は3.01μmであった。
【0085】
(2)セラミック体形成用材料の作製
セラミック体形成用材料として、重量比でSiO2/BaO/B2O3/MgO/Al2O3/Y2O3=29/23/9/16/16/7の組成のガラスA(平均粒子径2μm)を準備した。次に、ガラスA75重量%と、アルミナ(平均粒子径2.1μm)25重量%とを混合して混合物を得た。得られた混合物100重量部に対して、得られたセラミック造孔用粒子材20重量部を配合し、さらに、アクリル樹脂、可塑剤(フタル酸ジオクチル(DOP))及びトルエンを適量添加することでスラリー化して、セラミック体形成用材料を得た。
【0086】
(3)セラミック体の作製
PETフィルム上に、得られたセラミック体形成用材料をスクリーン印刷により塗工し、150℃及び10分間の条件で乾燥させることで、成形体を得た。
【0087】
得られた成形体を、900℃及び1時間の条件で焼成させることで、セラミック体を得た。
【0088】
(実施例2)
セラミック造孔用粒子材を作製する際に、ジビニルベンゼン(純度96%)500重量部及びテトラメチロールメタントリアクリレート500重量部をジビニルベンゼン(純度96%)700重量部及びテトラメチロールメタントリアクリレート300重量部に変更した。また、セラミック造孔用粒子材の平均粒子径を3.05μmに変更した。上記の変更以外は、実施例1と同様にして、セラミック造孔用粒子材、セラミック体形成用材料及びセラミック体を得た。
【0089】
(実施例3)
セラミック造孔用粒子材を作製する際に、セラミック造孔用粒子材の平均粒子径を4.57μmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、セラミック造孔用粒子材、セラミック体形成用材料及びセラミック体を得た。
【0090】
(実施例4)
セラミック造孔用粒子材を作製する際に、粒子の平均粒子径の1.7倍以上の粒子径を有する粗大粒子の含有量を0.0002%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、セラミック造孔用粒子材、セラミック体形成用材料及びセラミック体を得た。
【0091】
(比較例1)
セラミック造孔用粒子材を作製する際に、ジビニルベンゼン(純度96%)500重量部及びテトラメチロールメタントリアクリレート500重量部をジビニルベンゼン(純度96%)600重量部及びイソボルニルアクリレート400重量部に変更した。また、セラミック造孔用粒子材の平均粒子径を3.00μmに変更した。上記の変更以外は、実施例1と同様にして、セラミック造孔用粒子材、セラミック体形成用材料及びセラミック体を得た。
【0092】
(比較例2)
セラミック造孔用粒子材を作製する際に、ジビニルベンゼン(純度96%)500重量部及びテトラメチロールメタントリアクリレート500重量部をイソボルニルアクリレート800重量部、シクロヘキシルメタクリレート100重量部、及びポリテトラメチレングリコールジアクリレート100重量部に変更した。また、セラミック造孔用粒子材の平均粒子径を2.75μmに変更した。上記の変更以外は、実施例1と同様にして、セラミック造孔用粒子材、セラミック体形成用材料及びセラミック体を得た。
【0093】
(比較例3)
セラミック造孔用粒子材を作製する際に、分級条件を変更したこと以外は、実施例1と同様にして、セラミック造孔用粒子材、セラミック体形成用材料及びセラミック体を得た。
【0094】
(実施例5)
セラミック造孔用粒子材を作製する際に、セラミック造孔用粒子材の平均粒子径を10.02μmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、セラミック造孔用粒子材、セラミック体形成用材料及びセラミック体を得た。
【0095】
(評価)
(1)粒子の平均圧縮弾性率
得られた粒子について、上記平均圧縮弾性率(平均20%K値、平均10%K値(25)及び平均10%K値(200))を、上述した方法により、微小圧縮試験機(フィッシャー社製「フィッシャースコープH-100」)を用いて測定した。また、平均10%K値(25)及び平均10%K値(200)の測定結果から、平均10%K値(200)の、平均10%K値(25)に対する比(平均10%K値(200)/平均10%K値(25))を算出した。
【0096】
(2)粒子の平均圧縮回復率
得られた粒子の上記平均圧縮回復率を、上述した方法により、微小圧縮試験機(フィッシャー社製「フィッシャースコープH-100」)を用いて測定した。
【0097】
(3)粒子の平均粒子径
得られた粒子について、粒度分布測定装置(ベックマンコールター社製「Multisizer4」)を用いて、約100000個の粒子の粒子径を測定し、平均粒子径を算出した。
【0098】
(4)粗大粒子の含有量
得られた粒子について、フロー式粒子像分析装置(マルバーン社製「FPIA-3000」)を用いて、約1000000個の粒子を測定した。
【0099】
得られた粒子の測定結果から、粒子の全個数100%中、粒子の平均粒子径の1.7倍以上の粒子径を有する粗大粒子の含有量を算出した。
【0100】
(5)300℃での熱分解重量減少率
得られた粒子10mgを用意した。次に、熱重量分析装置(リガク社製「Thermo Plus EVO2」又は日立ハイテック社製「TG/DTA7300」)を用いて、ガス:空気、ガス流量:100ml/min、開始温度:25℃、終了温度:550℃、及び昇温速度:5℃/minの条件で測定を行った。得られた結果から、粒子の300℃での重量G(mg)を算出し、下記式(1)により、粒子の300℃での熱分解重量減少率を算出した。
【0101】
粒子の300℃での熱分解重量減少率(重量%)=[(10-G)/10]×100 ・・・式(1)
【0102】
(6)セラミック体における空孔の有無及び空孔の均一性
得られたセラミック体について、以下のようにして、セラミック体に空孔が形成されているか否かを確認し、以下の基準で判定した。
【0103】
得られたセラミック体を切断した。セラミック体の断面を、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジー社製「S-3500N」)を用いて3000倍の倍率でセラミック体の断面画像を撮影し、空孔の有無を確認した。
【0104】
[セラミック体における空孔の有無の判定基準]
○:セラミック体に空孔が形成されている(単位断面積あたり20%以上の空隙)
△:セラミック体に空孔が形成されている(単位断面積あたり1%以上20%未満の空隙)
×:セラミック体に空孔が形成されていない
【0105】
また、セラミック体に形成された空孔について、以下のようにして、セラミック体の空孔径を測定した。
【0106】
上記の方法で、セラミック体の断面画像を撮影した。次に、上記セラミック体の断面画像上の端部から10μmの位置より内側に存在する1つの空孔の長径及び短径を計測し、上記長径及び上記短径の平均値((長径+短径)/2)を1つの空孔の空孔径(A)とした。また、同様にして、上記セラミック体の断面画像上の端部から10μmの位置より内側に存在する全ての空孔に対して空孔径(A)を求めた。なお、断面画像上の端部から10μmの位置より内側に存在する全ての空孔のうち、該10μmの位置より内側の領域から空孔の一部がはみ出している空孔は測定対象から除いた。
【0107】
全ての空孔径(A)の中から、空孔径(A)の最大値の95%以上100%以下の空孔径(A)を示す空孔の割合(個数)を求めて、セラミック体における空孔の均一性を以下の基準で判定した。
【0108】
[セラミック体における空孔の均一性の判定基準]
○:空孔径(A)の最大値の95%以上100%以下の空孔径(A)を示す空孔の割合が60%以上
△:空孔径(A)の最大値の95%以上100%以下の空孔径(A)を示す空孔の割合が40%以上60%未満
×:空孔径(A)の最大値の95%以上100%以下の空孔径(A)を示す空孔の割合が40%未満
【0109】
(7)セラミック体の曲げ強度
得られたセラミック体について、以下のようにして、セラミック体の曲げ強度を測定した。
【0110】
得られたセラミック体を3mm×4mm×50mmに加工し、オートグラフを用いて、JIS R-1601に基づく3点曲げ強度を測定した。表1における曲げ強度は、実施例1において、セラミック造孔用粒子材を用いずに作製したセラミック体の曲げ強度を1.00としたときの相対値である。
【0111】
(8)セラミック体のガス透過性
得られたセラミック体について、以下のようにして、ガスが透過できるか否かを確認し、以下の基準で判定した。
【0112】
得られたセラミック体を3mmの厚みに加工し、密閉容器の中央部にパッキンを用いて固定した。固定されたセラミック体の片側から100ml/minの空気(ガス)を送り、反対側にガスが透過したか否かを確認した。
【0113】
[セラミック体のガス透過性の判定基準]
○:ガスが透過できる
×:ガスが透過できない
【0114】
結果を下記の表1に示す。
【0115】
【符号の説明】
【0116】
1…ガスセンサ素子
2…保護層
11…固体電解質体
12…被測定ガス側電極
13…基準ガス側電極
14…基準ガス室形成層
14A…基準ガス室
14B…溝部
15…ヒータ基板
15A…発熱体
16…絶縁層
16A…被測定ガス室
16B…開口部
17…拡散抵抗層
17A…外表面
18…遮蔽層