(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】位置推定装置、位置推定システム、位置推定方法
(51)【国際特許分類】
G01S 5/04 20060101AFI20231213BHJP
【FI】
G01S5/04
(21)【出願番号】P 2019132681
(22)【出願日】2019-07-18
【審査請求日】2022-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】314012087
【氏名又は名称】株式会社光電製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】519262098
【氏名又は名称】西森 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】西森 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】満井 勉
(72)【発明者】
【氏名】村田 真一
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-250865(JP,A)
【文献】特開2003-232843(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0192083(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 3/00- 3/74
G01S 5/00- 5/14
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の移動体のそれぞれは、送信源から送信された送信信号を受信可能な1つのアンテナを搭載しており、前記複数の移動体のそれぞれと無線通信する通信部と、
前記通信部を介して前記複数の移動体のそれぞれに対して、経路上の複数の位置に移動することを指示する指示部と、
前記通信部を介して前記複数の移動体のそれぞれから、前記指示部からの指示にしたがって移動した経路上の複数の位置のそれぞれにおける受信結果を受けつける受付部と、
前記受付部において受けつけた受信結果をもとに、各移動体に到来した送信信号の到来方向を推定し、各移動体における到来方向をもとに、前記送信源の位置を推定する推定部と、
を備え、
前記指示部は、各移動体に対して、方向が互いに異なった複数の経路に沿った移動を指示し、
前記受付部は、各移動体から、複数の経路のそれぞれにおける受信結果を受けつけ、
前記推定部は、各移動体に対して複数の経路のそれぞれに対する到来方向を推定し、各移動体における複数の到来方向をもとに、前記送信源の位置を推定することを特徴と
する位置推定装置。
【請求項2】
前記指示部は、各移動体に対して、直交する方向の2つの経路に沿った移動を指示することを特徴とする請求項
1に記載の位置推定装置。
【請求項3】
前記指示部は、各移動体に対して、90度よりも小さい角度異なった方向の3つ以上の経路に沿った移動を指示することを特徴とする請求項
1に記載の位置推定装置。
【請求項4】
前記指示部は、各移動体に対して、環状の経路に沿った移動を指示することを特徴とする請求項1に記載の位置推定装置。
【請求項5】
送信源から送信された送信信号を受信可能な1つのアンテナをそれぞれ搭載した複数の移動体と、
前記複数の移動体のそれぞれと無線通信する位置推定装置とを備え、
前記位置推定装置は、
前記複数の移動体のそれぞれに対して、経路上の複数の位置に移動することを指示する指示部と、
前記複数の移動体のそれぞれから、前記指示部からの指示にしたがって移動した経路上の複数の位置のそれぞれにおける受信結果を受けつける受付部と、
前記受付部において受けつけた受信結果をもとに、各移動体に到来した送信信号の到来方向を推定し、各移動体における到来方向をもとに、前記送信源の位置を推定する推定部と、
を備え
、
前記指示部は、各移動体に対して、方向が互いに異なった複数の経路に沿った移動を指示し、
前記受付部は、各移動体から、複数の経路のそれぞれにおける受信結果を受けつけ、
前記推定部は、各移動体に対して複数の経路のそれぞれに対する到来方向を推定し、各移動体における複数の到来方向をもとに、前記送信源の位置を推定することを特徴とする位置推定システム。
【請求項6】
複数の移動体のそれぞれは、送信源から送信された送信信号を受信可能な1つのアンテナを搭載しており、前記複数の移動体のそれぞれと無線通信するステップと、
無線通信により前記複数の移動体のそれぞれに対して、経路上の複数の位置に移動することを指示するステップと、
無線通信により前記複数の移動体のそれぞれから、指示にしたがって移動した経路上の複数の位置のそれぞれにおける受信結果を受けつけるステップと、
受けつけた受信結果をもとに、各移動体に到来した送信信号の到来方向を推定し、各移動体における到来方向をもとに、前記送信源の位置を推定するステップと、
を備え
、
前記指示するステップは、各移動体に対して、方向が互いに異なった複数の経路に沿った移動を指示し、
前記受けつけるステップは、各移動体から、複数の経路のそれぞれにおける受信結果を受けつけ、
前記推定するステップは、各移動体に対して複数の経路のそれぞれに対する到来方向を推定し、各移動体における複数の到来方向をもとに、前記送信源の位置を推定することを特徴とする位置推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置推定技術に関し、送信源の位置を推定する位置推定装置、位置推定システム、位置推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
救難信号の送信源あるいは違法基地局の位置を探索するために、複数のアンテナ素子を規則的に配置して構成されるアレーアンテナを使用して、アレーアンテナに到来する複数の到来波それぞれの到来方向が推定される。一般的にアレーアンテナは、所定の位置に固定されるので、監視対象の地域が限定される。監視対象の地域を自由に変更するために、アレーアンテナが搭載された移動体の移動がなされる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1によれば、移動体にアレーアンテナを搭載させる必要がある。そのため、さらに簡易な構成が求められる。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡易な構成により送信源の位置を推定する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の位置推定装置は、複数の移動体のそれぞれは、送信源から送信された送信信号を受信可能な1つのアンテナを搭載しており、複数の移動体のそれぞれと無線通信する通信部と、通信部を介して複数の移動体のそれぞれに対して、経路上の複数の位置に移動することを指示する指示部と、通信部を介して複数の移動体のそれぞれから、指示部からの指示にしたがって移動した経路上の複数の位置のそれぞれにおける受信結果を受けつける受付部と、受付部において受けつけた受信結果をもとに、各移動体に到来した送信信号の到来方向を推定し、各移動体における到来方向をもとに、送信源の位置を推定する推定部と、を備える。
【0007】
本発明の別の態様は、位置推定システムである。この位置推定システムは、送信源から送信された送信信号を受信可能な1つのアンテナをそれぞれ搭載した複数の移動体と、複数の移動体のそれぞれと無線通信する位置推定装置とを備える。位置推定装置は、複数の移動体のそれぞれに対して、経路上の複数の位置に移動することを指示する指示部と、複数の移動体のそれぞれから、指示部からの指示にしたがって移動した経路上の複数の位置のそれぞれにおける受信結果を受けつける受付部と、受付部において受けつけた受信結果をもとに、各移動体に到来した送信信号の到来方向を推定し、各移動体における到来方向をもとに、送信源の位置を推定する推定部と、を備える。
【0008】
本発明のさらに別の態様は、位置推定方法である。この方法は、複数の移動体のそれぞれは、送信源から送信された送信信号を受信可能な1つのアンテナを搭載しており、複数の移動体のそれぞれと無線通信するステップと、無線通信により複数の移動体のそれぞれに対して、経路上の複数の位置に移動することを指示するステップと、無線通信により複数の移動体のそれぞれから、指示にしたがって移動した経路上の複数の位置のそれぞれにおける受信結果を受けつけるステップと、受けつけた受信結果をもとに、各移動体に到来した送信信号の到来方向を推定し、各移動体における到来方向をもとに、送信源の位置を推定するステップと、を備える。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡易な構成により送信源の位置を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1に係る位置推定システムの構成を示す図である。
【
図2】
図1の指示部において生成される経路を示す図である。
【
図3】
図3(a)-(c)は、
図1の推定部における処理の概要を示す図である。
【
図4】
図4(a)-(b)は、
図1の推定部における別の処理の概要を示す図である。
【
図5】
図1の位置推定システムによる推定結果を示す図である。
【
図6】
図1の位置推定装置による推定手順を示すフローチャートである。
【
図7】実施例2において生成される経路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施例1)
本実施例を具体的に説明する前に、まず概要を述べる。近年、マイクロ波帯では、携帯電話および無線LAN(Local Area Network)の普及に伴って様々なシステムが導入もしくは導入予定となっている。そのため、この周波数帯では空き周波数が少なくなっている。しかしながら、実際は、場所ごとあるいは時間ごとに着目すれば、全ての場所あるいは時間で全部の周波数が使用されているわけではない。このような現状に鑑み、場所あるいは時間で空いている周波数を用いて2次利用するコグニティブ無線が注目されている。コグニティブ無線を実現するためには、電波を送信する送信源を推定することが必要となる。また、マイクロ波帯では不法に電波が送信されているかの把握も重要である。特に、2.4GHz帯におけるアンライセンスバンドでは様々な場所で使用されているので、送信源を推定することが必要になる。
【0013】
未知の送信源の位置を推定する技術の一例では、基準局において受信した信号の電力が使用される。しかしながら、この技術では、信号の伝搬損失が自由空間伝搬損失であることを条件としているので、推定精度に問題があり、多くの基準局を設ける必要がある。また、未知の送信源の位置を推定する技術の別の一例では、複数のアレーアンテナを用いてそれらの到来方向の結果から推定される。到来方向を推定するアルゴリズムとして、ビームフォーマ法、MUSIC(Multiple Signal Classification)等が使用される。実際の無線通信環境では、アレーアンテナを備えた基地局よりも高い建物が存在するので、到来方向の推定精度が低下する。一方、特許文献1のように、アレーアンテナが搭載された移動体、例えばドローンを飛行させれば、到来方向の推定における建物の影響が低減される。しかしながら、前述のごとく、さらに簡易な構成が求められる。
【0014】
本実施例に係る位置推定システムでは、1つのアンテナを搭載した移動体、例えばドローンを移動させる。移動の一例は飛行である。移動体を経路に沿って移動する間に、経路上における複数の位置で、送信源からの信号を受信する。また、複数の位置のそれぞれにおける受信結果が組み合わされてから、信号の到来方向が推定される。つまり、1つのアンテナしか搭載しなくても位置を変えることによって、仮想的なアレーアンテナが形成される。
【0015】
図1は、位置推定システム1000の構成を示す。位置推定システム1000は、移動体100と総称される第1移動体100a、第2移動体100b、第3移動体100c、位置推定装置200を含む。第1移動体100aは第1アンテナ110aを含み、第2移動体100bは第2アンテナ110bを含み、第3移動体100cは第3アンテナ110cを含む。第1アンテナ110a、第2アンテナ110b、第3アンテナ110cはアンテナ110と総称される。つまり、複数の移動体100のそれぞれは、送信源(図示せず)から送信された送信信号を受信可能な1つのアンテナ110を搭載する。第1移動体100aは、通信部120、制御部130、記憶部140、駆動部150、測定部160、測位部170を含む。通信部120から測位部170は第2移動体100b、第3移動体100cにも含まれる。位置推定装置200は、指示部210、通信部220、受付部230、推定部240を含む。
図1では移動体100の数は「3」とされているが、移動体100の数は「4以上」であってもよい。
【0016】
移動体100は、例えば、ドローンのような無人航空機であり、位置推定装置200からの指示に応じて移動する。通信部120は、位置推定装置200との間で無線通信を実行することによって、位置推定装置200からの信号を受信したり、位置推定装置200に信号を送信したりする。例えば、位置推定装置200から受信する信号は、移動体100が移動すべき経路の情報(以下、「経路情報」という)を含み、位置推定装置200に送信する信号は、送信源からの送信信号の受信結果を含む。制御部130は、移動体100の動作を制御する。制御部130は、通信部120から経路情報を受けつけた場合、経路情報を記憶部140に記憶させる。記憶部140は、例えば、SSD(Solid State Drive)、HDD(Hard Disk Drive)等の記憶媒体である。
【0017】
測位部170は、GPS(Global Positioning System)による測位機能を有し、移動体100の現在の位置情報を取得する。制御部130は、記憶部140に記憶された経路情報に沿って、測位部170において取得した位置情報が移動するように、測位部170の制御内容を決定する。これは、経路情報に沿って移動体100が移動するように駆動部150を制御することに相当する。制御部130は、制御内容を駆動部150に出力する。駆動部150は、モータ、プロペラ、エンジン等の動力機能と、移動体100の移動方向を操舵するための操舵機能とを有する。駆動部150は、制御部130からの制御内容にしたがって駆動する。
【0018】
アンテナ110は、前述のごとく、送信源から送信された送信信号を受信する。アンテナ110に広帯域アンテナが使用される場合、様々な周波数に対応可能である。測定部160は、アンテナ110における送信信号の受信結果を取得する。受信結果は、受信した送信信号の大きさ、位相等を含む。測定部160は、受信結果を制御部130に出力する。制御部130は、測定部160から受けつけた受信結果を受けつけるとともに、当該受信結果を取得した位置情報を測位部170から受けつける。制御部130は、受信結果と位置情報との組合せ(以下、これもまた「受信結果」という)を通信部120に出力する。
【0019】
位置推定装置200の指示部210に、複数の移動体100に監視させるべき監視領域の中心位置が設定されると、指示部210は、複数の移動体100のそれぞれに対する経路を生成する。
図2は、指示部210において生成される経路を示す。中心位置Pが設定されると、指示部210は、中心位置Pから距離Rだけ離れた位置に第1移動体100aに対する第1経路300と第2経路302を生成する。第1経路300と第2経路302は、方向が互いに異なった2つの経路であり、例えば第1経路300は経度一定で緯度が変化する方向に延び、第2経路302は緯度が一定で経度が変化する方向に延びる。そのため、これらは直交する。第1経路300上には、位置A1から位置A5が例えば等間隔に配置され、第2経路302上には、位置A5から位置A9が例えば等間隔に配置される。第1経路300と第2経路302は、位置A5において結合される。
【0020】
また、指示部210は、中心位置Pから距離Rだけ離れた位置に第2移動体100bに対する第3経路310と第4経路312を生成する。第3経路310と第4経路312も、方向が互いに異なった2つの経路であり、例えば直交する。第3経路310上には、位置B1から位置B5が例えば等間隔に配置され、第4経路312上には、位置B5から位置B9が例えば等間隔に配置される。そのため、第3経路310と第4経路312は、位置B5において結合される。
【0021】
さらに、指示部210は、中心位置Pから距離Rだけ離れた位置に第3移動体100cに対する第5経路320と第6経路322を生成する。第5経路320と第6経路322も、方向が互いに異なった2つの経路であり、例えば直交する。第5経路320上には、位置C1から位置C5が例えば等間隔に配置され、第6経路322上には、位置C5から位置C9が例えば等間隔に配置される。そのため、第5経路320と第6経路322は、位置C5において結合される。
【0022】
ここで、中心位置Pから位置A5に向かう方向、中心位置Pから位置B5に向かう方向、中心位置Pから位置C5に向かう方向は互いに120度ずれるように設定される。なお、指示部210において生成される経路の形状は
図2に示された形状に限定されない。指示部210は、第1経路300と第2経路302とに関する情報(以下、これもまた「経路情報」という)を通信部220経由で第1移動体100aに送信させる。指示部210は、第3経路310と第4経路312とに関する情報(以下、これもまた「経路情報」という)を通信部220経由で第2移動体100bに送信させる。指示部210は、第5経路320と第6経路322とに関する情報(以下、これもまた「経路情報」という)を通信部220経由で第3移動体100cに送信させる。つまり、指示部210は、複数の移動体100のそれぞれに対して、直交する方向の2つの経路に沿いながら、経路上の複数の位置に移動することを指示する。
【0023】
通信部220は、複数の移動体100のそれぞれと無線通信する。通信部220は、指示部210から経路情報を受けつけると、経路情報が含まれた信号を各移動体100に送信する。この経路情報にしたがって、第1移動体100aは、第1経路300上の位置A1に移動して第1アンテナ110aでの受信結果を取得し、位置A2に移動して第1アンテナ110aでの受信結果を取得する。これに続いて、第1移動体100aは、位置A3、位置A4、位置A5に順に移動して第1アンテナ110aでの受信結果を取得する。つまり、第1移動体100aは、時間をずらしながら位置A1から位置A5における受信結果を取得する。これらの受信結果は第1経路300における受信結果といえる。また、第1移動体100aは、第2経路302上の位置A5から位置A9に対しても同様の処理を実行することによって、時間をずらしながら位置A5から位置A9における受信結果を取得する。これらの受信結果は第2経路302における受信結果といえる。
【0024】
ここで、指示部210から指示した位置A1と、実際に第1移動体100aが移動した位置とがずれることもある。そのため、前述のごとく、受信結果には、第1移動体100aが移動した位置についての位置情報が含まれる。ここでは説明を明瞭にするために、指示部210から指示した位置A1と、実際に第1移動体100aが移動した位置とが一致するものとする。第1移動体100aは、第1経路300における受信結果と第2経路302における受信結果とが含まれた信号を位置推定装置200に送信する。第2移動体100b、第3移動体100cも同様の処理を実行する。
【0025】
通信部220は、各移動体100から、受信結果が含まれた信号を受信する。受付部230は、通信部220を介して複数の移動体100のそれぞれから、指示部210からの指示にしたがって移動した複数の経路のそれぞれにおける受信結果を受けつける。推定部240は、受付部230において受けつけた受信結果をもとに、第1処理として、各移動体100に到来した送信信号の到来方向を推定する。例えば、各移動体100に対して複数の経路のそれぞれに対する到来方向が推定される。到来方向には、例えば、ビームフォーマ法が使用されるが、ビームフォーマ法に限定されない。
【0026】
例えば、1つの移動体100における1つの経路に対する受信信号ベクトルx(t)は次のように示される。
【数1】
ここで、受信信号ベクトルx(t)は、次のように、各位置での受信結果を含む。
【数2】
例えば、第1移動体100aの第1経路300に対して、x
1(t)は位置A1での受信結果を示し、x
2(t)は位置A2での受信結果を示す。これらの受信結果の取得時間は異なるが、ここでは、全て同一時間tに取得されたとみなす。A
0はモードベクトルであり、次のように示される。
【数3】
【0027】
s
0(t)は送信信号ベクトルであり、次のように示される。
【数4】
n(t)は熱雑音ベクトルであり、次のように示される。
【数5】
a(θ
0L)はモードベクトルであり、次のように示される。
【数6】
受信信号ベクトルx(t)の相関行列R
rrは次のように計算される。
【数7】
これらを使用して、評価関数P
BF(θ)は次のように計算される。
【数8】
推定部240は、評価関数P
BF(θ)が最大となるθを到来方向として導出する。
【0028】
図3(a)-(c)は、推定部240における処理の概要を示す。
図3(a)では、第1経路300に対して推定された到来方向θが第1到来方向400として示される。第1到来方向400は、第1経路300の中心である位置A3を起点として延びる。また、第3経路310に対して推定された到来方向θが第3到来方向410として示され、第5経路320に対して推定された到来方向θが第5到来方向420として示される。
図3(b)では、第2経路302に対して推定された到来方向θが第2到来方向402として示され、第4経路312に対して推定された到来方向θが第4到来方向412として示され、第6経路322に対して推定された到来方向θが第6到来方向422として示される。
図2に戻る。
【0029】
推定部240は、第2処理として、各移動体100における複数の到来方向をもとに、送信源の位置を推定する。推定部240は、第1到来方向400、第3到来方向410、第5到来方向420を第1組として組み合わせ、第1到来方向400、第3到来方向410、第6到来方向422を第2組として組み合わせる。推定部240は、第1到来方向400、第4到来方向412、第5到来方向420を第3組として組み合わせ、第1到来方向400、第4到来方向412、第6到来方向422を第4組として組み合わせる。推定部240は、第2到来方向402、第3到来方向410、第5到来方向420を第5組として組み合わせ、第2到来方向402、第3到来方向410、第6到来方向422を第6組として組み合わせる。推定部240は、第2到来方向402、第4到来方向412、第5到来方向420を第7組として組み合わせ、第2到来方向402、第4到来方向412、第6到来方向422を第8組として組み合わせる。
【0030】
推定部240は、各組に対して送信源の位置を推定する。
図3(a)では、第1組に対して、第1到来方向400、第3到来方向410、第5到来方向420を交差させて、第1領域500aが導出される。第1領域500aは、三角形の形状を有する。また、
図3(b)では、第8組に対して、第2到来方向402、第4到来方向412、第6到来方向422を交差させて、第8領域500hが導出される。
図3(c)では、第5組に対して、第2到来方向402、第3到来方向410、第5到来方向420を交差させて、第5領域500eが導出される。第2組から第4組、第6組、第7組のそれぞれに対して、第2領域500bから第4領域500d、第6領域500f、第7領域500gが導出される。第1領域500aから第8領域500hは領域500と総称される。推定部240は、複数の領域500の面積を比較し、面積が最小の領域500を選択する。例えば、
図3(b)の第8領域500hの面積が最小である。
【0031】
図4(a)-(b)は、推定部240における別の処理の概要を示す。
図4(a)は、第1到来方向400、第3到来方向410、第5到来方向420が一点で結合される場合である。この場合、三角形の領域500が一点で示され、面積が最小の「0」となる。
図4(b)は、第3到来方向410と第5到来方向420とが平行である場合である。この場合、三角形の領域500が形成されず、面積が最大の「無限大」となる。
図2に戻る。推定部240は、選択した領域500のうちの一点を送信源の位置として特定する。この一点は、三角形の内心、外心、垂心、重心、傍心のいずれかとする。推定部240は、特定した送信源の位置を出力する。
【0032】
図5は、位置推定システム1000による推定結果を示す。ここでは、市街地環境を想定したレイトレース計算により評価がなされる。レイトレースの反射回数は5回とし、回折は2回としている。また、第1移動体100aから第3移動体100cは、150mの上空を移動させる。送信源から送信される信号には5GHz帯の信号を想定した。各経路の位置数は16であり、隣接した位置の間隔は半波長であるとする。これは、素子間隔が半波長である素子数16のアレーアンテナに相当する。また、到来方向推定法としてビームフォーマ法が使用される。結果として、送信源の位置Tの推定精度は10cm以内に収まっている。
【0033】
この構成は、ハードウエア的には、任意のコンピュータのCPU、メモリ、その他のLSIで実現でき、ソフトウエア的にはメモリにロードされたプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ハードウエアとソフトウエアの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0034】
以上の構成による位置推定システム1000の動作を説明する。
図6は、位置推定装置200による推定手順を示すフローチャートである。指示部210は、各移動体100に複数の経路に沿った移動を指示する(S10)。受付部230は、各移動体100から複数の経路のそれぞれに対応した受信信号ベクトルを受信結果として受けつける(S12)。推定部240は、各移動体100の複数の経路のそれぞれに対する到来方向を推定する(S14)。推定部240は、到来方向を組み合わせることによって、複数の領域を推定する(S16)。推定部240は、面積が最小となる領域を選択し、送信源の位置を特定する(S18)。
【0035】
本実施例によれば、1つのアンテナを搭載した移動体を経路上の複数の位置に移動させ、複数の位置での受信結果を使用するので、アレーアンテナを移動体に搭載しなくても、アレーアンテナと同様の受信信号ベクトルを取得できる。また、アレーアンテナを移動体に搭載しなくても、アレーアンテナと同様の受信信号ベクトルが取得されるので、到来方向を推定できる。また、アレーアンテナを移動体に搭載しなくても到来方向が推定されるので、簡易な構成により送信源の位置を推定できる。また、各移動体に対して、方向が互いに異なった複数の経路に沿った移動を指示し、各経路における受信結果を使用するので、送信源に対して様々な角度に配置された仮想的なアレーアンテナを実現できる。また、送信源に対して様々な角度に配置された仮想的なアレーアンテナが実現されるので、到来方向の推定精度の悪化を抑制できる。また、到来方向の推定精度の低下が抑制されるので、送信源の位置推定の精度の悪化を抑制できる。また、各移動体に対して、直交する方向の2つの経路に沿った移動を指示するので、処理を簡易にできる。
【0036】
(実施例2)
次に実施例2を説明する。実施例2は、実施例1と同様に、1つのアンテナを搭載した移動体、例えばドローンを移動させることによって、送信源からの信号を受信させる。実施例1では、経路は直線状に形成され、各移動体に複数の経路を移動させている。一方、実施例2では、経路は環状に形成され、各移動体に環状の経路を移動させる。実施例2に係る位置推定システム1000は
図1と同様のタイプである。ここでは実施例1との差異を中心に説明する。
【0037】
図7は、指示部210において生成される経路を示す図である。ここでは、一例として、第1移動体100aに対する第7経路350を示す。第7経路350は環状に形成され、第7経路350上には、位置D1から位置D8が例えば等間隔に配置される。第2移動体100b、第3移動体100cに対する経路も同様に形成される。指示部210は、各移動体100に対して、環状の経路に沿った移動を指示する。これに続く処理は、これまでと同様であるが、推定部240は、各移動体100における到来方向を推定した後、これらの到来方向を組み合わせることによって、送信源の位置が推定される。つまり、領域の面積の比較が省略される。
【0038】
本発明の実施例によれば、各移動体に対して、環状の経路に沿った移動を指示するので、処理を簡易にできる。
【0039】
以上、本発明の実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素の組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0040】
実施例1において、指示部210は、各移動体100に対して、2つの経路に沿った移動を指示している。しかしながらこれに限らず例えば、指示部210は、各移動体100に対して、90度よりも小さい角度異なった方向の3つ以上の経路に沿った移動を指示してもよい。本変形例によれば、仮想的なアレーアンテナの方向が増えるので、送信源の位置の推定精度を向上できる。
【0041】
実施例1、2において、指示部210から指示される経路は同一高度に設定される。しかしながらこれに限らず、高度を変えるような経路が指示されてもよい。本変形例によれば、建物の影響が低減されるので、送信源の位置の推定精度を向上できる。
【符号の説明】
【0042】
100 移動体、 110 アンテナ、 120 通信部、 130 制御部、 140 記憶部、 150 駆動部、 160 測定部、 170 測位部、 200 位置推定装置、 210 指示部、 220 通信部、 230 受付部、 240 推定部、 1000 位置推定システム。