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特許7401998芳香族ハロゲン化物の製造方法及び製造設備
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】芳香族ハロゲン化物の製造方法及び製造設備
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/12 20060101AFI20231213BHJP
   C07C 25/08 20060101ALI20231213BHJP
   B01D 11/04 20060101ALI20231213BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20231213BHJP
【FI】
C07C17/12
C07C25/08
B01D11/04 B
C07B61/00 300
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2019165355
(22)【出願日】2019-09-11
(65)【公開番号】P2021042165
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391018592
【氏名又は名称】月島環境エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【弁理士】
【氏名又は名称】小室 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】仁平 仁
(72)【発明者】
【氏名】北野 芳周
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 孝弥
(72)【発明者】
【氏名】津崎 裕也
(72)【発明者】
【氏名】神戸 達哉
(72)【発明者】
【氏名】菊池 尚仁
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-207991(JP,A)
【文献】特開昭61-090725(JP,A)
【文献】特開2010-120934(JP,A)
【文献】特開平10-330300(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
B01D
C07B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属含有触媒を用いて、芳香族化合物と、無機ハロゲン化物及びハロゲンの少なくとも一方とから芳香族ハロゲン化物を生成する工程(a)と、
前記芳香族ハロゲン化物を蒸留した後の蒸留残渣液と、前記蒸留残渣液と相分離する抽剤とを混合して混合液を得て、前記混合液において、前記蒸留残渣液に含まれる前記金属含有触媒に由来する金属化合物を前記抽剤側に抽出し、抽出残渣液を得る工程(b)と、
燃焼炉において前記抽出残渣液を燃焼してハロゲン化物を含む排ガスを発生させる工程(c)と、
前記排ガスから前記ハロゲン化物を回収する工程(d)とを含み、
前記抽剤のpHが5~9の範囲であることを特徴とする、芳香族ハロゲン化物の製造方法。
【請求項2】
前記排ガスを熱交換器に通して熱回収を行う工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の芳香族ハロゲン化物の製造方法。
【請求項3】
前記芳香族化合物がベンゼンであり、前記ハロゲンとして塩素を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の芳香族ハロゲン化物の製造方法。
【請求項4】
前記芳香族ハロゲン化物がジクロロベンゼンであることを特徴とする請求項3に記載の芳香族ハロゲン化物の製造方法。
【請求項5】
前記金属含有触媒が鉄化合物を含有しており、前記金属化合物が鉄化合物を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の芳香族ハロゲン化物の製造方法。
【請求項6】
前記工程(b)において、前記蒸留残渣液から前記抽剤に抽出される前記鉄化合物の割合が80重量%以上であることを特徴とする請求項5に記載の芳香族ハロゲン化物の製造方法。
【請求項7】
前記抽剤が90重量%以上の水を含むことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の芳香族ハロゲン化物の製造方法。
【請求項8】
前記抽剤への前記金属化合物の溶解度が、1g/抽剤100g以上であることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の芳香族ハロゲン化物の製造方法。
【請求項9】
前記工程(b)が、比重差を利用して前記混合液を前記抽出残渣液と抽出後抽剤とに分離する工程を含むことを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の芳香族ハロゲン化物の製造方法。
【請求項10】
前記混合液の温度が20~50℃の範囲であることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の芳香族ハロゲン化物の製造方法。
【請求項11】
前記蒸留残渣液と前記抽剤との混合がラインミキサによって行われる請求項1~10のいずれか一項に記載の芳香族ハロゲン化物の製造方法。
【請求項12】
前記ラインミキサに通液する前記混合液に含まれる前記抽剤の重量が、前記蒸留残渣液に対して3倍以上であることを特徴とする請求項11に記載の芳香族ハロゲン化物の製造方法。
【請求項13】
前記ラインミキサにおける前記混合液の線速が、30~200cm/sであることを特徴とする請求項11又は12に記載の芳香族ハロゲン化物の製造方法。
【請求項14】
前記蒸留残渣液と前記抽剤との混合が攪拌槽の内部で行われることを特徴とする請求項1~10のいずれか一項に記載の芳香族ハロゲン化物の製造方法。
【請求項15】
前記攪拌槽に供給する前記抽剤の重量が、前記蒸留残渣液に対して3倍以上であることを特徴とする請求項14に記載の芳香族ハロゲン化物の製造方法。
【請求項16】
金属含有触媒を用いて、芳香族化合物と、無機ハロゲン化物及びハロゲンの少なくとも一方とから芳香族ハロゲン化物の生成を行う反応装置と、
前記反応装置にて生成された前記芳香族ハロゲン化物を含む液を蒸留する蒸留装置と、
前記蒸留装置の蒸留残渣液と、前記蒸留残渣液と相分離する抽剤とを混合し、前記蒸留残渣液に含まれる前記金属含有触媒に由来する金属化合物を前記抽剤側に抽出させる混合装置と、
前記混合装置により混合された混合液を、抽出残渣液と抽出後抽剤とに分離する分離装置と、
前記分離装置により分離された前記抽出残渣液を燃焼する燃焼炉と、
前記燃焼炉において発生したハロゲン化物を含む排ガスからハロゲン化物を回収するハロゲン化物回収装置と、を備え
前記抽剤のpHが5~9の範囲であることを特徴とする芳香族ハロゲン化物の製造設備。
【請求項17】
前記排ガスから熱回収を行う熱回収装置を備えることを特徴とする請求項16に記載の芳香族ハロゲン化物の製造設備。
【請求項18】
前記分離装置が、比重差を利用して、前記混合液を前記抽出残渣液と前記抽出後抽剤とに分離する装置であることを特徴とする請求項16又は17に記載の芳香族ハロゲン化物の製造設備。
【請求項19】
前記混合装置に供給される前記蒸留残渣液又は前記抽剤の少なくとも一方の温度を調節することを特徴とする請求項1618のいずれか一項に記載の芳香族ハロゲン化物の製造設備。
【請求項20】
前記混合装置がラインミキサであることを特徴とする請求項1619のいずれか一項に記載の芳香族ハロゲン化物の製造設備。
【請求項21】
前記混合装置が攪拌槽であることを特徴とする請求項1619のいずれか一項に記載の芳香族ハロゲン化物の製造設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ハロゲン化物の製造方法及び製造設備に関する。より詳細には、芳香族化合物と無機ハロゲン化物及びハロゲンの少なくとも一方から芳香族ハロゲン化物を生成し、蒸留精製後の残渣液と抽剤を接触させて残渣液から触媒の主成分である金属化合物を除去した後、燃焼炉において残渣液を燃焼し、燃焼熱を回収した後にハロゲン化物を回収することを特徴とする、芳香族ハロゲン化物の製造方法及び製造設備に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ハロゲン化物は医薬・農薬原料として有用な化合物であり、中でもp-ジクロロベンゼンは、医薬・農薬原料のみならず、それ自体が殺虫剤、防虫剤として使用される工業的価値の高い化合物である。p-ジクロロベンゼンは、エンジニアリングプラスチックであるポリフェニレンサルファイドの原料としても使用されており、近年急激にその需要が伸びている。
【0003】
芳香族ハロゲン化物の製造方法としては、芳香族化合物を金属触媒の存在下でハロゲン化する方法が一般的である。このような方法により得られる生成物は、芳香族ハロゲン化物以外に、不純物・ハロゲン化物・触媒由来の金属化合物を含有している。
【0004】
芳香族ハロゲン化物、特にp-ジクロロベンゼンを製造する方法としては、液相において、ルイス酸触媒の存在下、ベンゼンやクロロベンゼンを塩素分子により塩素化する方法が知られている。例えば、特許文献1には、ルイス酸として塩化第二鉄、助触媒に二塩化二硫黄を用い、反応温度35~37℃を維持しながら塩素ガスでクロロベンゼンを塩素化することで、75重量%の選択率でp-ジクロロベンゼンを製造する方法が記載されている。
【0005】
特許文献2には、芳香族ハロゲン化物の製造工程からハロゲン化物を回収する手法として、ベンゼンを塩素化反応塔で塩素化してp-ジクロロベンゼンを製造するにあたり、塩素化反応において発生する塩化水素ガスを含む反応ガスを洗浄塔でベンゼンと接触させて、前記反応ガス中に含まれるベンゼンよりも高沸点の有機化合物をベンゼンに吸収除去させ、次いで吸収除去後の反応ガスを断熱吸収式塩酸回収塔に送り、回収塔の塔底から粗塩酸を得ると共に、回収塔の塔頂から排出ガスを得る塩酸の回収方法が記載されている。
【0006】
特許文献3には、芳香族ハロゲン化物の製造工程から鉄分を除去する手法として、1、2価の鉄化合物を含有する液状塩素化炭化水素に塩素を溶解させた後、該液状塩素化炭化水素を活性炭と接触させる液状塩素化炭化水素中の鉄除去方法が記載されている。
【0007】
特許文献4には、芳香族ハロゲン化物の製造工程から、ラインミキサを用いて鉄分を抽出する手法として、フィッシャー・トロプシュ由来炭化水素流れを処理域に送り、酸性水溶液流れを前記処理域へ送り、前記処理域でフィッシャー・トロプシュ由来炭化水素流れを酸性水溶液流れと接触させて混合物流れを形成させ、そして前記混合物流れを、少なくとも1つの抽出済みフィッシャー・トロプシュ由来炭化水素流れと少なくとも1つの変性された酸性水溶液に分離する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第3226447号明細書
【文献】特開2001-261308号公報
【文献】特開平2-255631号公報
【文献】特表2007-530710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示されたような、p-ジクロロベンゼンの一般的な製造法においては、製品から鉄分を除去するために反応液を水洗浄する必要があり、これに用いた水は塩化水素も吸収して塩酸となるため、塩酸から鉄を分離し、塩酸を回収する工程が必要となる。そのため、工程の煩雑化・エネルギー原単位の悪化を招き、処理すべき排水量も多くなる場合がある。
特許文献2に開示された方法では、有機層に高沸点の不純物が蓄積するおそれがある。また、これら高沸点化合物には有機化合物の塩素化物も含まれているが、熱回収および塩素分の回収が実施されておらず、原料及びエネルギー原単位が悪化する場合がある。
特許文献3に開示された方法では、鉄分を塩酸に溶解させる必要があり、設備に腐食対策が必要となる。また、吸着材として用いられている活性炭は、連続使用するためには再生処理が必要である。さらに、熱回収および塩素分の回収が実施されておらず、原料及びエネルギー原単位が悪化する。
【0010】
特許文献4に開示された方法では、170℃・4日間という長時間条件下であっても、抽出液側へ移動する金属は29~95重量%程度であり、特に鉄分の抽出率は抽出液を水としたケースでは53重量%と低い。また、抽出された金属を回収するフィルターは閉塞することが懸念される。
このように、芳香族化合物から芳香族ハロゲン化物を製造するためには、ハロゲン化物・金属の分離・回収に多大なエネルギー要したり、設備面の対策が必要であったりする場合があるため、より効率的な手法が求められている。加えて、芳香族ハロゲン化物を精製した際の不純物(蒸留残渣液など)から、ハロゲン化物や熱の回収を実施するプロセスは確立していない。
【0011】
上記事情に鑑み、本発明は、芳香族ハロゲン化物の蒸留残渣液から触媒に由来する金属成分を除去することができるとともに、ハロゲン化物の回収率を向上することができる芳香族ハロゲン化物の製造方法及び製造設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を達成するため鋭意検討し、芳香族ハロゲン化物の蒸留残渣液と抽剤とを接触させて蒸留残渣液中の金属分を抽出した後、燃焼炉において抽出後の残渣液を燃焼してハロゲン化物を含む排ガスを発生させて熱およびハロゲン化物を回収することで、芳香族ハロゲン化物の残渣分から、不純物・ハロゲン化物・触媒由来の金属分を効率的に分離・除去・再利用・熱回収可能であることを見出した。
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の各態様は以下の構成を採用する。
本発明に係る芳香族ハロゲン化物の製造方法は、金属含有触媒を用いて、芳香族化合物と、無機ハロゲン化物及びハロゲンの少なくとも一方とから芳香族ハロゲン化物を製造する工程(a)と、前記芳香族ハロゲン化物を蒸留した後の蒸留残渣液と、前記蒸留残渣液と相分離する抽剤とを混合して混合液を得て、前記混合液において、前記蒸留残渣液に含まれる前記金属含有触媒に由来する金属化合物を前記抽剤側に抽出し、抽出残渣液を得る工程(b)と、燃焼炉において前記抽出残渣液を燃焼してハロゲン化物を含む排ガスを発生させる工程(c)と、前記排ガスから前記ハロゲン化物を回収する工程(d)とを含むことを特徴としている。
【0014】
前記の芳香族ハロゲン化物の製造方法によれば、前記金属含有触媒に由来する金属化合物を抽出することができ、ハロゲン化物回収率を向上させることができる。これにより、安定的に芳香族ハロゲン化物を製造し、安定的に抽出残渣液を燃焼することができる。
【0015】
前記の芳香族ハロゲン化物の製造方法は、前記排ガスを熱交換器に通して熱回収を行う工程を含んでもよい。この場合、芳香族ハロゲン化物のエネルギー原単位を低減することができる。
【0016】
前記芳香族化合物はベンゼンであってもよく、前記ハロゲンとして塩素を用いてもよい。この場合、工業的に有用な芳香族ハロゲン化物である芳香族塩化物を高収量で得ることができる。
【0017】
前記芳香族ハロゲン化物はジクロロベンゼンであってもよい。この場合、工業的に有用な芳香族ハロゲン化物であり、エンジニアリングプラスチックの原料として需要があるジクロロベンゼンを高収量で得ることができる。
【0018】
前記金属含有触媒が鉄化合物を含有しており、前記金属化合物が鉄化合物を含んでもよい。この場合、効率よく芳香族ハロゲン化物を合成することができる。また、前記金属化合物が鉄化合物を含むことにより、抽剤は鉄化合物を抽出することができる。
【0019】
前記工程(b)において、前記蒸留残渣液から前記抽剤に抽出される前記鉄化合物の割合が80重量%以上であってもよい。この場合、前記鉄化合物を抽剤側に抽出し、蒸留残渣液が含有する鉄化合物の80重量%以上を回収することにより、燃焼炉や熱回収装置をより安定的に運転することができる。
【0020】
前記抽剤は90重量%以上の水を含んでもよい。この場合、前記抽剤によって、前記蒸留残渣液に含まれる前記金属含有触媒に由来する前記金属化合物を抽出することができる。
【0021】
前記抽剤への前記金属化合物の溶解度が、1g/抽剤100g以上であってもよい。この場合、抽剤は、蒸留残渣液が含有する金属化合物をより効率的に抽出することができる。
【0022】
前記抽剤のpHは5~9の範囲であってもよい。前記抽剤のpHが上記下限値以上であることにより、抽剤に対する金属化合物の溶解度を十分なものとすることができる。また、前記抽剤のpHが上記上限値以下であることにより、抽剤と蒸留残渣液とは相分離する。
【0023】
前記工程(b)は、比重差を利用して前記混合液を前記抽出残渣液と抽出後抽剤とに分離する工程を含んでもよい。この場合、前記抽出残渣液と抽出後抽剤とを容易に分離することができる。
【0024】
前記混合液の温度は20~50℃であってもよい。前記混合液の温度が上記下限値以上であることにより、混合液に含まれる芳香族ハロゲン化物が固化することを抑制し、固体中に金属化合物が取り込まれることを抑制することができる。前記混合液の温度が上記上限値以下であることにより、蒸留残渣液に対する金属化合物の溶解度を低いものとすることができ、抽剤により抽出される金属化合物の量を高めることができる。
【0025】
前記蒸留残渣液と前記抽剤との混合はラインミキサによって行われてもよい。この場合、前記蒸留残渣液と前記抽剤とを混合する装置が占有する空間を低減することができ、その混合する装置により消費されるエネルギーを低減することができる。
【0026】
前記ラインミキサに通液する前記混合液に含まれる前記抽剤の重量は、前記蒸留残渣液に対して3倍以上であってもよい。この場合、前記蒸留残渣液から前記抽剤へ抽出される前記金属化合物の割合を高めることができる。
【0027】
前記ラインミキサにおける前記混合液の線速が、30~200cm/sであってもよい。線速が上記下限値以上であることにより、前記抽出残渣液の液滴径が微細化され、液液分散が十分なものとなり、前記抽剤側へ抽出される前記金属化合物の割合を高めることができる。線速が上記上限値以下であることにより、ラインミキサ内のエレメントにおける圧力損失を低減して経済性を高めることができ、また、過大な負荷がかかってラインミキサが破損するおそれを低減することができる。
【0028】
前記蒸留残渣液と前記抽剤との混合は攪拌槽の内部で行われてもよい。この場合、前記蒸留残渣液と前記抽剤との混合を十分なものとすることができる。
【0029】
前記攪拌槽に供給する前記抽剤の重量は、前記蒸留残渣液に対して3倍以上であってもよい。この場合、前記蒸留残渣液から前記抽剤へ抽出される前記金属化合物の割合を高めることができる。
【0030】
本発明に係る芳香族ハロゲン化物の製造設備は、金属含有触媒を用いて芳香族化合物と無機ハロゲン化物及びハロゲンの少なくとも一方とから芳香族ハロゲン化物の生成を行う反応装置と、前記反応装置にて生成された前記芳香族ハロゲン化物を含む液を蒸留する蒸留装置と、前記蒸留装置の蒸留残渣液と、前記蒸留残渣液と相分離する抽剤とを混合し、前記蒸留残渣液に含まれる前記金属含有触媒に由来する金属化合物を前記抽剤側に抽出させる混合装置と、前記混合装置により混合された混合液を、抽出残渣液と抽出後抽剤とに分離する分離装置と、前記分離装置により分離された前記抽出残渣液を燃焼する燃焼炉と、前記燃焼炉において発生したハロゲン化物を含む排ガスからハロゲン化物を回収するハロゲン化物回収装置と、を備えることを特徴としている。
【0031】
前記芳香族ハロゲン化物の製造設備によれば、蒸留残渣液から前記金属含有触媒に由来する金属化合物を抽出することができ、燃焼炉にて発生したハロゲン化物を回収することができる。これにより、反応装置及び燃焼炉を安定的に運転することができる。
【0032】
芳香族ハロゲン化物の製造設備は、前記排ガスから熱回収を行う熱回収装置を備えてもよい。この場合、芳香族ハロゲン化物のエネルギー原単位を低減することができる。
【0033】
前記分離装置が、比重差を利用して前記混合液を前記抽出残渣液と前記抽出後抽剤とに分離する装置であってもよい。この場合、前記分離装置は、前記混合液を前記抽出残渣液と抽出後抽剤とを容易に分離することができる。
【0034】
前記混合装置に供給される前記蒸留残渣液又は前記抽剤の少なくとも一方の温度を調節してもよい。この場合、前記抽剤が気化すること、及び、前記芳香族ハロゲン化物が固化することを防止することができる。
【0035】
前記混合装置はラインミキサであってもよい。この場合、前記混合装置により占有される空間を低減することができ、前記混合装置により消費されるエネルギーを低減することができる。
【0036】
前記混合装置は攪拌槽であってもよい。この場合、前記蒸留残渣液と前記抽剤との混合を十分なものとすることができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、芳香族ハロゲン化物の蒸留残渣液から触媒に由来する金属成分を除去することができるとともに、ハロゲン化物の回収率を向上することができる芳香族ハロゲン化物の製造方法及び製造設備を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明の一実施形態にかかる芳香族ハロゲン化物の製造設備のブロック図である。
図2】本発明の一実施形態にかかる芳香族ハロゲン化物の製造設備を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明に係る、芳香族ハロゲン化物の製造方法及び製造設備について、図面を参照しつつ詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態による芳香族ハロゲン化物の製造設備の構成を示すブロック図である。この図において、芳香族ハロゲン化物の製造設備は、芳香族ハロゲン化物の生成を行う反応装置4と、反応装置4にて生成された芳香族ハロゲン化物を蒸留する蒸留装置6と、蒸留装置の蒸留残渣液8と抽剤10とから混合液を得る混合装置12と、混合液を抽出残渣液と抽出後抽剤とに分離する分離装置14と、抽出残渣液を燃焼する燃焼炉22と、燃焼炉22の排ガスから熱回収する熱回収装置24と、ハロゲン化物を回収するハロゲン化物回収装置26とを備える。このような芳香族ハロゲン化物の製造設備によれば、芳香族ハロゲン化物の蒸留残渣液から前記金属含有触媒に由来する金属化合物を抽出することができるとともに、芳香族ハロゲン化物のエネルギー原単位を低減することができる。
【0040】
反応装置4には、原料である芳香族炭化水素1及びハロゲン・ハロゲン化物2と、金属含有触媒3とが供給され、原料から金属含有触媒の作用によって芳香族ハロゲン化物18が合成される。ハロゲン・ハロゲン化物2は、無機ハロゲン化物及びハロゲンの少なくとも一方である。
【0041】
芳香族化合物としては、芳香族ハロゲン化物を製造可能な化合物であれば特に制限はないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンや、これら芳香族化合物がアルキル化、ニトロ化、アミノ化した化合物を用いることができる。また、ナフタレン環、アントラセン環等の多環式芳香族化合物やそれらの芳香環のアルキル化、ニトロ化、アミノ化物を用いることもできる。生成する芳香族ハロゲン化物の有用性から、芳香族化合物としては芳香族炭化水素を用いることが好ましく、ベンゼンを用いることがより好ましい。また、ハロゲン化反応を円滑に進行させるため、ハロゲン化反応の前に不純物を除去する工程、例えば脱水工程等を経由しても良い。
【0042】
芳香族ハロゲン化物としては、芳香族化合物と無機ハロゲン化物及びハロゲンの少なくとも一方から製造可能な化合物であれば特に制限はないが、ベンゼン、トルエン、キシレンや、これら芳香族化合物がアルキル化、ニトロ化、アミノ化した化合物のハロゲン化物が挙げられる。また、ナフタレン環、アントラセン環等の多環式芳香族化合物やそれらの芳香環のアルキル化、ニトロ化、アミノ化物のハロゲン化物でも良い。生成物の有用性から、芳香族ハロゲン化物としては芳香族炭化水素の塩素化物が好ましく、p-ジクロロベンゼン等のジクロロベンゼンがより好ましい。この場合、工業的に有用な芳香族ハロゲン化物であるジクロロベンゼンを高収量で得ることができる。
【0043】
芳香族ハロゲン化物の原料となるハロゲンとしては、塩素ガスを用いることがより好ましく、必要であれば、他のハロゲン、例えば、フッ素、臭素、ヨウ素等を使用してもよい。芳香族ハロゲン化物の原料となる無機ハロゲン化物としては、塩素化合物を用いることが好ましい。また、ハロゲン化反応に塩素ガスを用いる際には、窒素等の反応に関与しないイナートガスが含まれていても良い。
【0044】
金属含有触媒としてはルイス酸触媒が好ましく、ルイス酸触媒としては金属塩化物が好ましい。金属塩化物としては、塩化アンチモンや塩化第二鉄が好ましく、その中でも塩化第二鉄がより好ましい。金属含有触媒とは別に助触媒の添加も可能であり、例えば二塩化二硫黄などが好適に用いられる。鉄化合物を含有する金属含有触媒を用いることにより、効率よく芳香族ハロゲン化物を合成することができる。また、燃焼炉の排ガスに含まれるハロゲン化物としては、ハロゲン化水素が好ましく、塩化水素がより好ましい。
【0045】
反応装置4において芳香族ハロゲン化物を合成する方法としては、特に制限はないが、例えば、原料である芳香族化合物と、無機ハロゲン化物及びハロゲンの少なくとも一方と、金属含有触媒とを反応装置4に投入し、所定温度・圧力で加熱し、所定の時間反応させた後に、生成物を抜き出す形式が挙げられる。上述した芳香族ハロゲン化物を合成する方法としては、例えば、回分式、半回分式、連続式の何れの手法を用いても良く、製造工程後に経由する精製工程で分離された原料である芳香族化合物や中間生成物を、原料として再び製造工程に戻しても良い。また、芳香族ハロゲン化物が複数のハロゲンを含む場合は、製造工程を複数に分割し、順次芳香族化合物と結合するハロゲン数を増やす方式を用いても良い。
【0046】
反応装置4にて生成された芳香族ハロゲン化物は蒸留装置6へ導入され、生成した芳香族ハロゲン化物は、金属含有触媒を含む高沸点化合物を分離するための蒸留工程に供される。蒸留工程の運転条件としては、芳香族ハロゲン化物と、金属含有触媒を含む高沸点化合物とを分離可能な条件であれば特に制限はないが、例えば蒸留塔に芳香族ハロゲン化物・金属含有触媒を含む混合物を投入し、所定温度・圧力・還流比・滞留時間で蒸留を実施し、蒸留塔上部から芳香族ハロゲン化物を主成分として含む混合物を抜き出し、下部からは金属含有触媒・製造工程の高沸点不純物を含む混合物(以下「高沸点残渣」と称する)を抜き出す方式が挙げられる。また、生成した芳香族ハロゲン化物が複数存在する場合は、蒸留工程を複数準備し、各々の芳香族ハロゲン化物分離に適した蒸留条件で分離する方式を用いても良い。また、複数発生した高沸点残渣を混合させて抽剤と接触させる工程に供与しても良い。
【0047】
高沸点化合物を分離した芳香族ハロゲン化物は、更に不純物を除去するために、蒸留・晶析・洗浄・吸着・抽出・遠心分離・乾燥・イオン交換等の精製処理を実施しても良い。また、これらの精製処理によって発生した不純物と、高沸点残渣とを混合しても良い。蒸留残渣液8は高沸点残渣を含み、芳香族化合物、芳香族ハロゲン化物、製造工程で副生した高沸点化合物、金属含有触媒等を含有してもよい。蒸留残渣液8に含まれる触媒・高融点化合物等は固体であっても良いが、抽出処理に供するために流動性を持つことが好ましく、流動性を向上させるための液体を添加しても良い。流動性を向上させるために添加する液体としては、蒸留残渣液と相分離しない物質を用いることが好ましく、精製処理にて発生した高沸点残渣等の不純物を用いることがより好ましい。
【0048】
蒸留装置6から送られてきた蒸留残渣液8、及び、蒸留残渣液8と相分離する抽剤10は、混合装置12に導入されて混合される。抽剤10は蒸留残渣液8に含まれる金属含有触媒に由来する金属化合物を抽出するため、蒸留残渣液8と相分離する液体である必要がある。蒸留残渣液8は芳香族化合物または/および芳香族ハロゲン化物を含有していることから、抽剤10としては親水性の液体が好ましく、90重量%以上の水を含むことがより好ましく、水を用いることが特に好ましい。抽剤10が上記下限値以上の水を含むことにより、抽剤によって、蒸留残渣液に含まれる金属含有触媒に由来する金属化合物を十分に抽出することができる。
【0049】
抽剤に対する金属化合物の溶解度は1g/抽剤100g以上であることが好ましく、10g/抽剤100g以上であることがより好ましい。抽剤10への金属化合物の溶解度が上記下限値以上であると、抽剤は、蒸留残渣液が含有する金属化合物をより効率的に抽出することができる。例えば、金属含有触媒に由来する金属化合物が塩化第二鉄であり、抽剤として水を用いた場合、抽剤への塩化第二鉄の溶解度は92g/抽剤100gとなる。蒸留残渣液8から抽剤10に抽出される鉄化合物の割合が80重量%以上であってもよい。この場合、鉄化合物を抽剤側に抽出し、蒸留残渣液8が含有する鉄化合物の80重量%以上を回収することができる。
【0050】
抽剤10のpHは、5~9の範囲にあることが好ましい。抽剤10のpHが上記下限値以上であることにより、抽剤10に対する金属化合物の溶解度を十分なものとすることができる。また、抽剤10のpHが上記上限値以下であることにより、抽剤と蒸留残渣液8とは十分に相分離する。
【0051】
混合液の温度は20~50℃の範囲であることが好ましく、20~35℃の範囲であることがより好ましい。混合液の温度が上記下限値以上であることにより、混合液に含まれる芳香族ハロゲン化物が固化することを抑制し、固体中に金属化合物が取り込まれることを抑制することができる。混合液の温度が上記上限値以下であることにより、蒸留残渣液8に対する金属化合物の溶解度を低いものとすることができ、抽剤10により抽出される金属化合物の量を高めることができる。また、蒸留残渣液8と抽剤10とを混合する前に、少なくとも一方の液の温度を温度調整手段により調整してから混合すると良い。温度調整手段としては、冷却または加温できる手段であれば特に限定されず、例えば、二重管式熱交換器を用いることができる。
【0052】
例えば、高い温度(例えば100℃以上)の蒸留残渣液8と抽剤10とを混合した場合、抽剤10が気化するおそれがあり、また20℃未満の抽剤10と蒸留残渣液8とを混合した場合には、蒸留残渣液8に含まれる芳香族ハロゲン化物が固化するおそれがある。そのため、混合する時の蒸留残渣液8の温度としては、例えば、100℃未満であってもよく、好ましくは40~60℃に調整されていることが好ましい。また、混合する時の抽剤10の温度としては、例えば、20℃以上であってもよく、好ましくは25~40℃に調整されていることが好ましい。なお、蒸留残渣液8の温度及び抽剤10の温度の両方を上記範囲内に調整してから混合することがより好ましい。これにより、抽剤10の気化や芳香族ハロゲン化物の固化をより確実に防ぐことができる。
【0053】
蒸留残渣液8と抽剤10を混合する方法としては、特に制限はなく、例えば、回分式、半回分式、連続式であってもよい。回分式により混合する具体的な方法としては、例えば、蒸留残渣液8及び抽剤10を所定の容器に入れ、所定の時間撹拌する方法が挙げられる。また、連続式により混合する具体的な方法としては、蒸留残渣液8と抽剤10を混合装置12に連続的に導入し、所定の時間、滞留、接触させた後、得られた混合液を連続的に抜き出す方法が挙げられる。
【0054】
混合装置12としては、特に制限はないが、混合する方法が回分式または半回分式である場合、蒸留残渣液8及び抽剤10を撹拌可能な容器または槽を用いることが好ましい。このような容器または槽を用いる場合、蒸留残渣液8と抽剤10との混合を十分なものとすることができる。混合する方法が連続式である場合、蒸留残渣液8及び抽剤10を撹拌可能な容器をまたは槽を用いることが好ましく、ラインミキサ(静的混合器)を用いることがより好ましい。混合装置12としてラインミキサを用いる場合、混合装置12が占有する空間を低減することができ、混合装置12により消費されるエネルギーを低減することができる。ラインミキサとしては、例えば、スタティックミキサTシリーズ(ノリタケカンパニー製)等を好適に用いることができる。
【0055】
蒸留残渣液8と抽剤10を混合する装置としてラインミキサを用いる場合、混合液の線速(供給液の流量/ラインミキサの内径基準断面積より算出)は、30~200cm/sであることが好ましく、50~150cm/sであることがより好ましい。線速が上記下限値以上であることにより、抽出残渣液の液滴径が微細化され、液液分散が十分なものとなり、抽剤側への抽出される金属化合物の割合を高めることができる。線速が上記上限値以下であることにより、ラインミキサ内のエレメントにおける圧力損失を低減して経済性を高めることができ、また、過大な負荷がかかって装置が破損するおそれを低減することができる。
【0056】
混合装置12として、蒸留残渣液8及び抽剤10を撹拌可能な容器または槽を用いる場合、及び、ラインミキサを用いる場合、抽剤10の重量は、蒸留残渣液8に対して3倍以上であることが好ましい。この場合、抽剤10によって金属化合物を十分に抽出することができる。
【0057】
続いて、混合装置12において得られた混合液は分離装置14に導入され、抽出残渣液(油層20)と抽出後抽剤(水層16)とに分離される。分離する手法としては、特に制限はないが、例えば、抽出残渣液と抽出後抽剤の比重差を利用して分離する手法であることが好ましい。この場合、前記抽出残渣液と抽出後抽剤とを容易に分離することができる。抽出残渣液と抽出後抽剤の比重差を利用して分離する手法としては、例えば、遠心分離、静置分離等であってもよい。抽出残渣液と抽出後抽剤の比重差を利用して分離する具体的な手法としては、混合液を抽出残渣液と抽出後抽剤を分離するための装置に導入し、所定の時間(半回分式・連続式であれば、所定の滞留時間)静置分離し相分離させることで、親水性の抽出後抽剤と、親油性の抽出残渣液に比重分離する手法がより好ましい。
【0058】
燃焼炉22において、抽剤と接触後の残渣液を燃焼処理により排ガスが発生し、熱回収装置24において得られた排ガスから燃焼熱を回収し、ハロゲン化物回収装置26においてハロゲン化物28を回収することが可能になる。燃焼炉の温度は、廃液の不完全燃焼が防止可能な温度とすることが好ましく、例えば1000~1450℃が好ましく、1000~1200℃の範囲にあることがより好ましい。燃焼に必要な酸素を供給するため、抽剤と接触後の残渣液と空気を予め混合した後に、燃焼炉22に供給しても良い。
【0059】
次に、上述の図1に示された芳香族ハロゲン化物の製造設備の一実施形態について図2にて詳細に説明する。本実施形態の芳香族ハロゲン化物の製造設備30は、芳香族ハロゲン化物を合成する反応装置36と、芳香族ハロゲン化物を蒸留する蒸留装置42と、蒸留残渣液を適温に保つ熱交換器48と、蒸留残渣液と抽剤とを混合して混合液を得る混合装置56と、混合液を抽出残渣と抽出後抽剤とに分離する分離装置58とを備えている。図2の反応装置36、蒸留装置42、混合装置56、分離装置58は、それぞれ、図1の反応装置4、蒸留装置6、混合装置12、分離装置14に対応する。
【0060】
反応装置36には、ベンゼン供給源31からベンゼンが、塩素供給源32から塩素ガスが、触媒供給源34から触媒としての金属含有触媒が、導入される。反応装置36は撹拌機38を備え、撹拌機38は、反応装置36に導入された内容物を撹拌する。反応装置36においては、金属含有触媒の触媒活性によって、ベンゼンと、塩素ガスとが反応して芳香族ハロゲン化物が生成する。
【0061】
反応装置36の形状は槽状であり、反応装置36の大きさは特に限定されず、所望の量の芳香族ハロゲン化物を得るために、適切な大きさに設定してよい。反応装置36の壁面は、塩素等のハロゲンにより腐食されない材料によって形成されている。撹拌機38の形状及び動作形態としては、芳香族ハロゲン化物の反応効率を高めるものであれば特に限定されず、反応装置36の内容物の全体を十分に継続的に混合できるものであってもよい。
【0062】
芳香族ハロゲン化物の製造設備30が備える反応装置36の個数は、1個であってもよく、2個以上であってもよい。所望の芳香族ハロゲン化物が複数種類のハロゲン原子を含む場合は、芳香族ハロゲン化物の製造設備30が備える複数の反応装置36において、異なる種類のハロゲン、ハロゲン化物を、順次、芳香族化合物と反応させてもよい。
【0063】
反応装置36から、芳香族ハロゲン化物と、金属含有触媒とを含む混合物が導出され、ポンプ40によって、蒸留装置42へ導入される。蒸留装置42は上端に芳香族ハロゲン化物回収管44を備え、導入された混合物は加熱されて、気化した芳香族ハロゲン化物は芳香族ハロゲン化物回収管44から回収される。芳香族ハロゲン化物の製造設備30が備える蒸留装置42の個数は1個であってもよく、2個以上であってもよい。所望の芳香族ハロゲン化物が複数種類ある場合は、複数個の蒸留装置42において、各々の芳香族ハロゲン化物を精製してもよい。
【0064】
芳香族ハロゲン化物回収管44から回収された気体は、芳香族ハロゲン化物以外に、原料であるベンゼン、反応により生成した塩化水素、中間生成物等を含んでいる。芳香族ハロゲン化物の製造設備30は、芳香族ハロゲン化物回収管44から回収された気体から、芳香族ハロゲン化物を精製する精製装置(図示せず)を備えていてもよく、精製装置において分離された、原料、中間生成物は、反応装置36に戻してもよい。
【0065】
蒸留装置42において、導入された混合物の加熱温度としては、芳香族ハロゲン化物が分解しない温度に設定することが好ましく、所望の芳香族ハロゲン化物の物理化学的性質を考慮して設定してよい。金属含有触媒を含む高沸点化合物は、気化せずに蒸留装置42の底部に滞留して蒸留残渣液となり、蒸留残渣液はポンプ46によって熱交換器48へと通され、冷却される。
【0066】
抽剤は抽剤供給管54から供給され、熱交換器49を通り、芳香族ハロゲン化物が固化しない温度にまで加熱される。適度な温度に保温された蒸留残渣液は、抽剤供給管54から供給された抽剤と合流し、混合装置56に導入され、混合装置56において蒸留残渣液と抽剤とはよく混合されて、混合液となる。抽剤は蒸留残渣液と相分離するものであり、蒸留残渣液と、抽剤とがよく混合されると、蒸留残渣液に含まれる金属含有触媒に由来する金属化合物は、抽剤側へ抽出される。混合装置56としては、回分式、半回分式、連続式のいずれであってもよい。混合装置56が回分式、半回分式である場合、混合装置56は混合液を撹拌可能な槽であってもよい。混合装置56が連続式である場合、混合装置56はラインミキサであってもよい。混合装置56は、芳香族ハロゲン化物が固化しない温度に保温するための加熱器を備えていてもよい。
【0067】
混合装置56において混合された混合液は、混合液供給管60を通って分離装置58へ導入され、分離装置58において、混合液は抽出残渣液と抽出後抽剤とに分離する。このとき、金属含有触媒に由来する金属化合物は、抽出後抽剤に抽出されている。分離装置58において、混合液は、抽出残渣液と抽出後抽剤との比重の差を利用して、これらは分離される。分離する方法としては、例えば、遠心分離、静置分離であってもよい。分離する方法が遠心分離である場合、分離装置58は遠心分離が可能である装置であってもよい。分離する方法が静置分離である場合、分離装置58は混合液を貯留する槽であってもよい。分離装置58は、芳香族ハロゲン化物が固化しない温度に保温するための加熱器を備えていてもよい。
【0068】
混合液から分離した抽出後抽剤は、輸送管66を通って貯留槽67へ導入された後、ポンプ70によって排出管72を通って排出される。
【0069】
混合液から分離した抽出残渣液は、抽出残渣回収管62を通り排出され、抽出残渣貯留槽74に導入される。抽出残渣貯留槽74に貯留された抽出残渣液は、ポンプ76によって抽出残渣輸送管78を通り燃焼炉に導入される。
【0070】
燃焼炉に導入された抽出残渣液は燃焼処理され、例えば、可燃性である原料のベンゼン等が燃焼する。燃焼のために必要な酸素を供給するために、抽出残渣液は予め空気と混合されてもよい。燃焼後の排ガスは熱回収装置に導入されて、燃焼により生成した熱が回収される。多管式熱交換器を備える熱回収装置を用いて、水を加圧蒸気として回収してもよい。熱回収後の排ガスは、ハロゲン化物回収装置に導入されて、ハロゲン化物は回収される。
【実施例
【0071】
以下、本発明の実施例を挙げて、本発明の効果を実証する。本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0072】
図2に示される芳香族ハロゲン化物の製造設備において、塩化第二鉄を触媒として用いて、ベンゼンと塩素を反応させてパラジクロロベンゼンを製造し、蒸留装置にてパラジクロロベンゼンを精製し、触媒由来の鉄分を含む高沸点の蒸留残渣液(以下「残渣」と称する)を得た。残渣は5.73重量%の塩化第二鉄(1.98重量%の鉄)を含有していた。
残渣および抽剤中の鉄分については、以下の手法にて分析を実施した。
残渣・抽剤中の有機物を除去するため、白金皿(内径50mm、深さ25mm)にサンプルを1g精秤し、濃硝酸(98重量%:和光純薬製)を15mL添加し、電熱器上で加熱乾固してサンプルを炭化させた後、800℃に加熱した電気炉(ヤマト科学製 :FP310)で1時間加熱灰化した。灰化した白金皿をデシケータ内で放冷後、塩酸(35-37重量%:和光純薬製)をイオン交換水で6規定に希釈したものを15mL加え、電熱器上で灰分を加熱溶解させた後、灰分溶解液をメスフラスコに移液して、1規定の塩酸でメスアップし、測定用の原液を作成した。
この原液をフレーム式原子吸光分光光度計(アジレント・テクノロジー製:240FS AA)を使用して、波長248.3nmの光源にて鉄分を測定した。なお、測定用原液中の鉄分濃度が検量範囲内(0.1~5ppm)となるよう、適宜測定前に1規定の塩酸で希釈した。
【0073】
(実施例1)
バイアル瓶(50ml)に残渣20g・抽剤(イオン交換水)10g・撹拌子(PTFE樹脂製:長さ10mm)を入れ、外気温25℃の条件下、スターラー(日伸理化製:SW-RS077D)用いて回転数900rpmで30分間撹拌した。撹拌後に5分静置して相分離させ、上層である抽剤層(以下「水層」と称する)、および下層である抽出残渣(以下「油層」と称する)の液を採取し、残渣も含め鉄分含有量(以下「鉄分」と称する)を測定した。結果、水層中の鉄分は0.14g、残渣の鉄分は0.40gであり、残渣から抽剤側へ移動した鉄分([抽出後抽剤中の鉄含有量]/[抽出前残渣の鉄含有量]から算出、以下「鉄分除去率」と称する)は35.6%であった。水層のpHを測定したところ、1.06であった。
【0074】
(実施例2)
バイアル瓶にさらに水酸化ナトリウム水溶液(25重量%:関東化学製)0.5gを添加する他は、実施例1と同一の条件にて撹拌・相分離・鉄分測定を実施した。結果、水層中の鉄分は0.11g、残渣の鉄分は0.40gであり、鉄分除去率は27.3%であった。また、水層のpHは1.46であった。
【0075】
(実施例3)
バイアル瓶にさらに水酸化ナトリウム水溶液(25重量%)1.0gを添加する他は、実施例1と同一の条件にて撹拌・相分離・鉄分測定を実施した。結果、水層中の鉄分は0.10g、残渣の鉄分は0.40gであり、鉄分除去率は26.1%であった。また、水層のpHは1.83であった。
【0076】
(比較例1)
バイアル瓶にさらに水酸化ナトリウム水溶液(25重量%)3.0gを添加する他は、実施例1と同一の条件にて撹拌を実施した。撹拌後に5分静置したが、残渣と抽剤は分離しなかった。
【0077】
(実施例4)
バイアル瓶の容量を300ml、添加する抽剤(イオン交換水)を200gとする他は、実施例1と同一の条件にて撹拌・相分離・鉄分測定を実施した。結果、水層中の鉄分は0.40g、残渣の鉄分は0.40gであり、鉄分除去率は100%であった。また、水層のpHは1.92であった。
【0078】
(実施例5)
バイアル瓶に入れる残渣を30g、抽剤(イオン交換水)を15gとする他は、実施例1と同一の条件にて撹拌・相分離・鉄分測定を実施した。結果、水層中の鉄分は0.19g、残渣の鉄分は0.60gであり、鉄分除去率は32.8%であった。また、水層のpHは1.02であった。
相分離後の油層を回収し、バイアル瓶に回収した油層25g・抽剤(イオン交換水)を12.5g入れる他は、実施例1と同一の条件にて撹拌・相分離・鉄分測定を実施した。結果、水層中の鉄分は0.10g、バイアル瓶に投入した回収油層の鉄分は0.28gであり、鉄分除去率は35.2%であった。また、水層のpHは1.24であった。
相分離後の油層を再び回収し、バイアル瓶に回収した油層20g・抽剤(イオン交換水)を10g入れる他は、実施例1と同一の条件にて撹拌・相分離・鉄分測定を実施した。結果、水層中の鉄分は0.06g、バイアル瓶に投入した回収油層の鉄分は0.09gであり、鉄分除去率は38.6%であった。また、水層のpHは1.46であった。
【0079】
(実施例6)
バイアル瓶の容量を300ml、添加する抽剤(イオン交換水)を100gとする他は、実施例1と同一の条件にて撹拌・相分離・鉄分測定を実施した。結果、水層中の鉄分は0.40g、残渣の鉄分は0.39gであり、鉄分除去率は98.3%であった。また、水層のpHは1.76であった。
【0080】
(実施例7)
バイアル瓶の容量を100ml、添加する抽剤(イオン交換水)を40gとする他は、実施例1と同一の条件にて撹拌・相分離・鉄分測定を実施した。結果、水層中の鉄分は0.40g、残渣の鉄分は0.29gであり、鉄分除去率は72.6%であった。また、水層のpHは1.39であった。
【0081】
(実施例8)
添加する抽剤を塩酸(35-37重量%)10gとする他は、実施例1と同一の条件にて撹拌・相分離・鉄分測定を実施した。結果、水層中の鉄分は0.06g、残渣の鉄分は0.40gであり、鉄分除去率は14.0%であった。また、水層のpHは0未満であった。
【0082】
(実施例9)
撹拌時間を1分とする他は、実施例1と同一の条件にて撹拌・相分離・鉄分測定を実施した。結果、水層中の鉄分は0.11g、残渣の鉄分は0.40gであり、鉄分除去率は27.8%であった。また、水層のpHは1.07であった。
【0083】
(実施例10)
バイアル瓶の容量を100ml、添加する抽剤をイオン交換水30gと塩酸(6規定)0.5gの混合物とする他は、実施例1と同一の条件にて撹拌・相分離・鉄分測定を実施した。結果、水層中の鉄分は0.22g、残渣の鉄分は0.40gであり、鉄分除去率は56.0%であった。また、水層のpHは1.11であった。
【0084】
(実施例11)
スターラー付き恒温槽(ヤマト科学製:MD-81)を用いて、循環水の温度を40℃とし、撹拌時に恒温槽へ投入して抽出を実施する他は、実施例1と同一の条件にて撹拌・相分離・鉄分測定を実施した。結果、水層中の鉄分は0.10g、残渣の鉄分は0.40gであり、鉄分除去率は25.8%であった。また、水層のpHは1.07であった。
【0085】
(実施例12)
循環水の温度を80℃とする他は、実施例11と同一の条件にて撹拌・相分離・鉄分測定を実施した。結果、水層中の鉄分は0.62g、残渣の鉄分は0.40gであり、鉄分除去率は15.7%であった。また、水層のpHは1.11であった。
【0086】
(実施例13)
バイアル瓶の容量を300ml、添加する抽剤(イオン交換水)を100g、撹拌時間を1分とする他は、実施例1と同一の条件にて撹拌・相分離・鉄分測定を実施した。結果、水層中の鉄分は0.34g、残渣の鉄分は0.40gであり、鉄分除去率は86.6%であった。また、水層のpHは1.82であった。
【0087】
(実施例14)
外気温を20℃とする他は、実施例1と同一の条件にて撹拌・相分離・鉄分測定を実施した。結果、水層中の鉄分は0.10g、残渣の鉄分は0.40gであり、鉄分除去率は24.1%であった。また、水層のpHは1.30であった。なお、撹拌中~静置分離の間、油層側に固形物析出が観察された。
【0088】
(実施例15)
3方継手(swagelok製)の2か所にPTFE製チューブを取り付け、ポンプ(ヤマト科学製:EASY-LOAD 7518-10)およびフッ化エラストマー製チューブを用いて作成した残渣供給ライン・抽剤供給ラインとPTFE製チューブ接続し、3方継手の残りにスタティックミキサー(ノリタケカンパニー製:T4-12-D、内径2.5mm、長さ100mm)を接続した。残渣供給ラインからは、ウォーターバスで70℃とした残渣を2.4L/hで通液し、抽剤供給ラインからは室温(25℃)のイオン交換水を13.6L/hで通液し、スタティックミキサーにて混合した。スタティックミキサーを通過する液の線速は23cm/secであった。通液から5秒経過した後、スタティックミキサー出の混合液を1Lのメスシリンダーに500~1000ml程度採取し、5分静置して相分離させ、水層および油層の液を採取し、残渣も含め鉄分を測定した。結果、水層の鉄分は1.06g、通液量から計算される残渣の鉄分は1.41gであり、鉄分除去率は86.6%であった。
【0089】
(実施例16)
残渣の通液量を4.6L/h、イオン交換水の通液量を21.4L/hとする他は、実施例15と同一の条件にて混合・相分離・鉄分測定を実施した。スタティックミキサーを通過する液の線速は37cm/secであった。水層の鉄分は1.79g、通液量から計算される残渣の鉄分は1.81gであり、鉄分除去率は99.0%であった。
【0090】
(実施例17)
残渣の通液量を12.2L/h、イオン交換水の通液量を27.8L/hとする他は、実施例15と同一の条件にて混合・相分離・鉄分測定を実施した。スタティックミキサーを通過する液の線速は57cm/secであった。水層の鉄分は2.61g、通液量から計算される残渣の鉄分は3.21gであり、鉄分除去率は81.1%であった。
【0091】
(実施例18)
残渣の通液量を6.3L/h、イオン交換水の通液量を33.7L/hとする他は、実施例15と同一の条件にて混合・相分離・鉄分測定を実施した。スタティックミキサーを通過する液の線速は57cm/secであった。水層の鉄分は1.49g、通液量から計算される残渣の鉄分は1.61gであり、鉄分除去率は92.7%であった。
【0092】
(実施例19)
残渣の通液量を14.6L/h、イオン交換水の通液量を50.4L/hとする他は、実施例15と同一の条件にて混合・相分離・鉄分測定を実施した。スタティックミキサーを通過する液の線速は92cm/secであった。水層の鉄分は3.00g、通液量から計算される残渣の鉄分は3.00gであり、鉄分除去率は100%であった。
また、分液後の油層約10gを白金皿(内径50mm、深さ25mm)に入れ、電熱器上で加熱乾固させた際、発生するガスにアンモニア水(28-30重量%:関東化学製)を近づけると、塩化アンモニウムの白煙が発生することを確認したことから、油層加熱による塩化水素回収は可能と考えられる。また、鉄分測定の前処理時に、残渣には触媒由来の鉄分が固体として白金皿に残存していたが、油層には残存物が目視で確認できず、また鉄分の含有率も0%であったことから、鉄分抽出後の油層から燃焼・熱交換による熱回収時を実施する際に、熱交換器の詰まりを生じるような閉塞物は殆ど析出しないと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明によれば、芳香族ハロゲン化物の蒸留残渣液から触媒に由来する金属成分を除去することができるとともに、芳香族ハロゲン化物のエネルギー原単位を低減することができる芳香族ハロゲン化物の製造方法及び製造設備を提供することができる。
【符号の説明】
【0094】
1…芳香族炭化水素、2…ハロゲン・ハロゲン化物、3…金属含有触媒、4…反応装置、6…蒸留装置、8…蒸留残渣液、10…抽剤、12…混合装置、14…分離装置、16…抽出後抽剤(水層)、18…芳香族ハロゲン化物、20…抽出残渣液(油層)、22…燃焼炉、24…熱回収装置、26…ハロゲン化物回収装置、28…ハロゲン化物、30…芳香族ハロゲン化物の製造設備、31…ベンゼン供給源、32…塩素供給源、34…触媒供給源、36…反応装置、38…撹拌機、40…ポンプ、42…蒸留装置、44…芳香族ハロゲン化物回収管、46…ポンプ、48、49…熱交換器、54…抽剤供給管、56…混合装置、58…分離装置、60…混合液供給管、62…抽出残渣回収管、66…輸送管、67…貯留槽、70…ポンプ、72…排出管、74…抽出残渣貯留槽、76…ポンプ、78…抽出残渣輸送管
図1
図2