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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】通気・通液性ヒータおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/20 20060101AFI20231213BHJP
   H05B 3/10 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
H05B3/20 321
H05B3/10 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019168150
(22)【出願日】2019-09-17
(65)【公開番号】P2021048000
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000153591
【氏名又は名称】株式会社巴川製紙所
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 仁朗
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 昴
【審査官】高橋 武大
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/131591(WO,A1)
【文献】特開2001-084831(JP,A)
【文献】実開昭52-116808(JP,U)
【文献】特開2011-169325(JP,A)
【文献】特開2017-114731(JP,A)
【文献】特開平02-046682(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0155347(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/00-3/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電導性繊維シートと、
前記電導性繊維シートの少なくとも一方の主面に付いている絶縁性耐熱繊維シートと、
を有し、
前記電導性繊維シートと前記絶縁性耐熱繊維シートとが、前記電導性繊維シートよりも抵抗が高い耐熱結着物によって結着されていて、
前記耐熱結着物が、有機物の一部を炭化してなる炭化度が0.70以上1.00未満である樹脂炭化物である、通気・通液性ヒータ。
【請求項2】
前記絶縁性耐熱繊維シートがセラミックス繊維シートである、請求項1に記載の通気・通液性ヒータ。
【請求項3】
前記絶縁性耐熱繊維シートを構成する繊維同士が前記耐熱結着物によって結着されているか、または熱融着されている、請求項1または2に記載の通気・通液性ヒータ。
【請求項4】
前記電導性繊維シートが金属繊維シートまたは導電性繊維シートである、請求項1~3のいずれかに記載の通気・通液性ヒータ。
【請求項5】
前記電導性繊維シートを構成する繊維同士が前記耐熱結着物によって結着されているか、または熱融着されている、請求項1~4のいずれかに記載の通気・通液性ヒータ。
【請求項6】
絶縁性耐熱繊維シートまたは絶縁性耐熱繊維を抄いてなる層の上に、電導性繊維シートまたは電導性繊維を抄いてなる層を重ねて、積層体Aを得る積層工程と、
前記積層体Aを有機物含有溶液に含侵した後、乾燥することで前記有機物含有溶液中から溶剤を除去して積層体Bを得る除去工程と、
前記積層体Bを不活性雰囲気内で150~700℃にて加熱することで、請求項1~のいずれかに記載の通気・通液ヒータを得る加熱工程と、を備える、通気・通液性ヒータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は通気・通液性ヒータおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、いくつかの通気性ヒータが提案されている。
例えば特許文献1には、通電により発熱するセラミック磁器材料よりなる通気構造の板状のヒータ本体と、該ヒータ本体を内部に収容するための凹部を具えたハウジング部材とを具えたインテーク空気加熱用ヒータであって、前記ヒータ本体の一方の側と前記ハウジング部材との間にシート状緩衝材を介在せしめ、更に前記ヒータ本体の他方の側と前記ハウジング部材との間に圧縮ばね部材を設けたことを特徴するインテーク空気加熱用ヒータが記載されている。そして、このようなインテーク空気加熱用ヒータは、シート状緩衝材を板状のヒータ本体の一方の側とハウジング部材との間に介在せしめ、且つヒータ本体の他方の側とハウジング部材との間に圧縮ばね部材を設けたことから、ヒータ本体に対する押圧荷重は、取付寸法に若干の変動があっても常に適正範囲に保たれ、エンジンの吸気マニホールド内の振動の激しい箇所に取り付けられても、緩んだり破損したりすることなく安定に作動すると記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、金属製のパイプ内に、シート形状と波つきシート形状とに形成した金属繊維多孔質焼結体の双方を重ねて円筒状に巻き取ったハニカム構造材を収容し、前記パイプの外側に誘導子を配置し、前記パイプ内に被加熱流体を通すように構成した電磁誘導加熱装置が記載されている。そして、このような電磁誘導加熱装置は、導電体の加熱効率が良いから、流体を効率よく加熱することができ、導電体を容易に、比較的安価に提供でき、イニシャルコストが低い効果を奏すると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開昭61-123860号公報
【文献】特開2003-123949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のようなインテーク空気加熱用ヒータは、ヒータ部分にセラミック磁器材料を用いているため靭性に乏しい。また、ヒータ自体の熱容量が大きいため熱応答性が低い。
また、特許文献2に記載の電磁誘導加熱装置は、金属繊維多孔質焼結体がむき出しのため、抵抗加熱等には不向きであり、また、ハニカム構造であるためヒータの面を気体等が通過する確率が低く、熱交換率が低い。
【0006】
本発明は上記のような課題を解決することを目的とする。すなわち、本発明は、柔軟性に優れ、ヒータオン時は加熱が早く、かつ、ヒータオフ時は冷却が早く熱応答性に優れ、熱バラツキが小さく、温度ムラは生じ難く、効率よく気体、液体等を加熱することができるヒータおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討し、本発明を完成させた。
本発明は以下の(1)~(8)である。
(1)電導性繊維シートと、
前記電導性繊維シートの少なくとも一方の主面に付いている絶縁性耐熱繊維シートと、
を有し、
前記電導性繊維シートと前記絶縁性耐熱繊維シートとが、前記電導性繊維シートよりも抵抗が高い耐熱結着物によって結着されている、通気・通液性ヒータ。
(2)前記絶縁性耐熱繊維シートがセラミックス繊維シートである、上記(1)に記載の通気・通液性ヒータ。
(3)前記絶縁性耐熱繊維シートを構成する繊維同士が前記耐熱結着物によって結着されているか、または熱融着されている、上記(1)または(2)に記載の通気・通液性ヒータ。
(4)前記電導性繊維シートが金属繊維シートまたは導電性繊維シートである、上記(1)~(3)のいずれかに記載の通気・通液性ヒータ。
(5)前記電導性繊維シートを構成する繊維同士が前記耐熱結着物によって結着されているか、または熱融着されている、上記(1)~(4)のいずれかに記載の通気・通液性ヒータ。
(6)前記耐熱結着物が、有機物の一部を炭化してなる炭化度が0.70以上1.00未満である樹脂炭化物、またはセラミックスである、上記(1)~(5)のいずれかに記載の通気・通液性ヒータ。
(7)絶縁性耐熱繊維シートまたは絶縁性耐熱繊維を抄いてなる層の上に、電導性繊維シートまたは電導性繊維を抄いてなる層を重ねて、積層体Aを得る積層工程と、
前記積層体Aに有機物含有溶液を含侵した後、乾燥することで前記有機物含有溶液中から溶剤を除去して積層体Bを得る除去工程と、
前記積層体Bを不活性ガス雰囲気内で150~700℃にて加熱する加熱工程と、
を備える製造方法によって得られる通気・通液性ヒータ。
(8)絶縁性耐熱繊維シートまたは絶縁性耐熱繊維を抄いてなる層の上に、電導性繊維シートまたは電導性繊維を抄いてなる層を重ねて、積層体Aを得る積層工程と、
前記積層体Aを有機物含有溶液に含侵した後、乾燥することで前記有機物含有溶液中から溶剤を除去して積層体Bを得る除去工程と、
前記積層体Bを不活性ガス雰囲気内で150~700℃にて加熱することで、上記(1)~(6)のいずれかに記載の通気・通液ヒータを得る加熱工程と、を備える、通気・通液性ヒータの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、柔軟性に優れ、ヒータオン時は加熱が早く、かつ、ヒータオフ時は冷却が早く熱応答性に優れ、熱バラツキが小さく、温度ムラは生じ難く、効率よく気体、液体等を加熱することができるヒータおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明のヒータの概略断面図である。
図2】本発明のヒータにおける絶縁性耐熱繊維シートの拡大写真である。
図3】本発明のヒータにおける導電性耐熱繊維シートの拡大写真である。
図4】TG-DTA試験結果を示すチャートである。
図5】200℃で加熱した場合のレーザーラマン分光測定の結果を示すチャートである。
図6】400℃で加熱した場合のレーザーラマン分光測定の結果を示すチャートである。
図7】600℃で加熱した場合のレーザーラマン分光測定の結果を示すチャートである。
図8】800℃で加熱した場合のレーザーラマン分光測定の結果を示すチャートである。
図9】1000℃で加熱した場合のレーザーラマン分光測定の結果を示すチャートである。
図10】加熱する前のカーボン繊維シートのレーザーラマン分光測定の結果を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明について説明する。
本発明は、電導性繊維シートと、前記電導性繊維シートの少なくとも一方の主面に付いている絶縁性耐熱繊維シートと、を有し、前記電導性繊維シートと前記絶縁性耐熱繊維シートとが、前記電導性繊維シートよりも抵抗が高い耐熱結着物によって結着されている、通気・通液性ヒータである。
このような通気・通液性ヒータを、以下では「本発明のヒータ」ともいう。
【0011】
また、本発明は、絶縁性耐熱繊維シートまたは絶縁性耐熱繊維を抄いてなる層の上に、電導性繊維シートまたは電導性繊維を抄いてなる層を重ねて、積層体Aを得る積層工程と、前記積層体Aを有機物含有溶液に含侵した後、乾燥することで前記有機物含有溶液中から溶剤を除去して積層体Bを得る除去工程と、前記積層体Bを不活性ガス雰囲気内で150~700℃にて加熱することで、本発明のヒータを得る加熱工程と、を備える、通気・通液性ヒータの製造方法である。
このような製造方法を、以下では「本発明の製造方法」ともいう。
【0012】
本発明のヒータは、本発明の製造方法によって製造することが好ましい。
【0013】
本発明のヒータについて図1を用いて説明する。
図1に示すように本発明のヒータ1は、電導性繊維シート3と、絶縁性耐熱繊維シート5とを有している。図1に例示した態様の本発明のヒータ1の場合、絶縁性耐熱繊維シート5を2つ有しており、これら2つの絶縁性耐熱繊維シート5が1つの電導性繊維シート3を挟んでいて、これらは主面同士が付いている。
そして、電導性繊維シート3と絶縁性耐熱繊維シート5とが、耐熱結着物7によって結着されている。
【0014】
<絶縁性耐熱繊維シート>
絶縁性耐熱繊維シート5について説明する。
絶縁性耐熱繊維シート5は、後述する電導性繊維シートよりも絶縁性が高い(電気を通し難い)シート状のものである。
絶縁性耐熱繊維シート5の典型例として、絶縁性耐熱繊維を用いて抄造して得たシート状のものであって、絶縁性耐熱繊維同士が耐熱結着材によって結着されているものが挙げられる。
なお、絶縁性耐熱繊維シートおよび電導性繊維シートの抵抗値はWO2018/131658に記載のvan der Pauw法により測定することができる。後述する耐熱結着物の抵抗値は、耐熱結着物を通気・通液ヒータからサンプリングし(こそぎ落す等)、小片をペレット化して測定することができる。
【0015】
絶縁性耐熱繊維シート5は、主として絶縁性耐熱繊維からなるシートであり、絶縁性耐熱繊維を50質量%以上含むことが好ましく、60質量%以上含むことがより好ましく、70質量%以上含むことがより好ましく、80質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことがより好ましく、100質量%、すなわち、不可避的不純物以外は絶縁性耐熱繊維以外のものを含まないことがさらに好ましい。
【0016】
絶縁性耐熱繊維シート5は、上記のように主として絶縁性耐熱繊維からなり、絶縁性耐熱繊維以外は、耐熱結着物7および不可避的不純物であることが好ましい。
【0017】
絶縁性耐熱繊維シート5を構成する繊維同士が耐熱結着物7によって結着されているか、または熱融着されていることが好ましい。
絶縁性耐熱繊維シート5を構成する繊維同士を耐熱結着物7によって結着する方法については後述する。
また、絶縁性耐熱繊維シート5を構成する繊維同士を熱融着する方法は特に限定されず、繊維の少なくとも一部が溶解する温度を加えて加圧する方法等、従来公知の方法によって熱融着することができる。
【0018】
ここで、絶縁性耐熱繊維シート5を構成する繊維同士が耐熱結着物7によって結着されている態様について、図2を用いて説明する。
図2は、絶縁性耐熱繊維シートの一態様であるアルミナ繊維シートに、フェノール樹脂を含侵し、乾燥した後、窒素雰囲気内で600℃にて1h加熱して得られた本発明のヒータが備える絶縁性耐熱繊維シートの拡大写真であり、図2(a)が200倍、(b)が1000倍、(c)が5000倍に拡大した写真である。
【0019】
図2から、アルミナ繊維シートを構成するアルミナ繊維同士を、樹脂炭化物が結着していることを確認できる。ここで樹脂炭化物は耐熱結着物7の好適態様である。
また、樹脂炭化物からなる結着部分は繊維に滑らかに追従していたり、膜を形成していたりして、特徴的な態様となっていることが図2から確認できる。
【0020】
絶縁性耐熱繊維は、セラミックス繊維であることが好ましい。
セラミックス繊維の種類は特に限定されず、アルミナ繊維、アルミナ-シリカ繊維、炭化ケイ素シート、ロックウール繊維、ボロンシートであってよく、アルミナ-シリカ繊維であることが好ましい。
ここでアルミナ-シリカ繊維はAl23とSiO2との質量比が60:40~98:2であることが好ましい。
【0021】
絶縁性耐熱繊維の長さは1~100mmであることが好ましく、3~10mmであることがより好ましい。
【0022】
絶縁性耐熱繊維の繊維径は1~20μmであることが好ましく、5~15μmであることがより好ましい。
【0023】
なお、絶縁性耐熱繊維の長さおよび繊維径は、絶縁性耐熱繊維シートの断面についての写真(走査型電子顕微鏡を用いて30倍で観察して得る写真)において、絶縁性耐熱繊維シートの観察視野における全ての繊維の長さおよび繊維径(繊維の長手方向に対して直角方向の長さ)を測定し、それらを単純平均して求めた値を意味するものとする。
【0024】
絶縁性耐熱繊維シートの厚さは50~1000μmであることが好ましく、100~500μmであることがより好ましい。
絶縁性耐熱繊維シートの厚さは、本発明のヒータの主面に垂直な方向における断面(すなわち、図1に示すような断面)の拡大写真(30倍)を得た後、その断面の拡大写真において絶縁性耐熱繊維シートの厚さを無作為に選択した10か所にて測定し、それらの単純平均値を求め、得られた平均値とする。
【0025】
絶縁性耐熱繊維シートにおける坪量は50~300g/m2であることが好ましく、100~200g/m2であることがより好ましい。
【0026】
<電動性繊維シート>
電動性繊維シート3について説明する。
電導性繊維シート3は通電することで発熱するシートであればよく、金属繊維シートまたは導電性繊維シートであることが好ましい。
【0027】
導電性繊維シート3は、主として金属繊維および/または導電性繊維からなるシートであり、金属繊維および/または導電性繊維を50質量%以上含むことが好ましく、60質量%以上含むことがより好ましく、70質量%以上含むことがより好ましく、80質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことがより好ましく、100質量%、すなわち、不可避的不純物以外は金属繊維および/または導電性繊維以外のものを含まないことがさらに好ましい。
【0028】
電動繊維シート3は、上記のように主として金属繊維および/または導電性繊維からなり、金属繊維および/または導電性繊維以外は、不可避的不純物のみ、または、耐熱結着物7および不可避的不純物であることが好ましい。
【0029】
ここで、電導性繊維シート3を構成する繊維同士が耐熱結着物7によって結着されている態様について、図3を用いて説明する。
図3は、電導性繊維シート(導電性繊維シート)の一態様であるカーボン繊維シートに、フェノール樹脂を含侵し、乾燥した後、窒素雰囲気内で600℃にて1h加熱して得られた本発明のヒータが備える電導性繊維シートの拡大写真であり、図3(a)が50倍、(b)が200倍、(c)が1000倍に拡大した写真である。
【0030】
図3から、カーボン繊維シートを構成するカーボン繊維同士を、樹脂炭化物が結着していることを確認できる。ここで樹脂炭化物は耐熱結着物7の好適態様である。
また、樹脂炭化物からなる結着部分は繊維に滑らかに追従していたり、膜を形成していたりして、特徴的な態様となっていることが図3から確認できる。
【0031】
<金属繊維シート>
金属繊維シートは金属板であってもよいが、金属繊維を用いて抄造した後、金属繊維同士が結着または融着されたものであることが好ましい。
金属繊維として、例えばステンレス繊維、ニクロム、が例示される。
金属繊維同士は耐熱結着材によって結着されていてもよいが、熱融着されていることが好ましい。金属繊維同士を熱融着する方法は特に限定されず、例えば従来公知の方法であってよい。
金属繊維同士を耐熱結着材によって結着する方法については後述する。
【0032】
金属繊維の長さは1~100mmであることが好ましく、3~10mmであることがより好ましい。
【0033】
金属繊維の繊維径は1~20μmであることが好ましく、5~15μmであることがより好ましい。
【0034】
なお、金属繊維の長さおよび繊維径は、金属繊維シートの断面についての写真(走査型電子顕微鏡を用いて30倍で観察して得る写真)において、金属繊維シートの観察視野における全ての繊維の長さおよび繊維径(繊維の長手方向に対して直角方向の長さ)を測定し、それらを単純平均して求めた値を意味するものとする。
【0035】
金属繊維シートの厚さは20~500μmであることが好ましく、50~300μmであることがより好ましい。
金属繊維シートの厚さは、本発明のヒータの主面に垂直な方向における断面(すなわち、図1に示すような断面)の拡大写真(30倍)を得た後、その断面の拡大写真において電導性繊維シートの厚さを無作為に選択した10か所にて測定し、それらの単純平均値を求め、得られた平均値とする。
【0036】
金属繊維シートにおける坪量は20~300g/m2であることが好ましく、50~200g/m2であることがより好ましい。
【0037】
<導電性繊維シート>
導電性繊維シートは金属以外の導電性繊維を用いて抄造した後、導電性繊維同士が結着または融着されたものであることが好ましい。
導電性繊維シートを形成し得る金属以外の導電性繊維として、例えば、カーボン繊維が例示される。
導電性繊維同士は熱融着されていてもよいが、耐熱結着材によって結着されていることが好ましい。導電性繊維同士を耐熱結着材によって結着する方法については後述する。
【0038】
導電性繊維の長さは1~100mmであることが好ましく、3~10mmであることがより好ましい。
【0039】
導電性繊維の繊維径は1~20μmであることが好ましく、5~15μmであることがより好ましい。
【0040】
なお、導電性繊維の長さおよび繊維径は、前述の金属繊維の場合と同様の方法によって求めるものとする。
【0041】
導電性繊維シートの厚さは20~1000μmであることが好ましく、50~500μmであることがより好ましい。
導電性繊維シートの厚さは、前述の金属繊維の場合と同様の方法によって求めるものとする。
【0042】
導電性繊維シートにおける坪量は20~200g/m2であることが好ましく、30~100g/m2であることがより好ましい。
【0043】
前述の通り、絶縁性耐熱繊維シート5および電導性繊維シート3を構成する繊維同士が耐熱結着物によって結着されている態様を図2および図3に示したが、これと同様に、本発明のヒータにおける電導性繊維シート3と絶縁性耐熱繊維シート5とは耐熱結着物によって結着されている。
すなわち、電導性繊維シート3を構成する繊維と、絶縁性耐熱繊維シート5を構成する繊維とが、図2図3および図1に示すように耐熱結着物7によって結着されている。
そして、図2図3に示したように、樹脂炭化物からなる結着部分は繊維に滑らかに追従していたり、膜を形成していたりして、特徴的な態様となっている。
このような態様となる理由は、主に本発明のヒータの製造方法に起因していると考えられる。そこで、以下に本発明の製造方法について説明する。
【0044】
<本発明の製造方法>
本発明の製造方法は以下に説明する積層工程、除去工程および加熱工程を備える。
【0045】
<積層工程>
本発明の製造方法が備える積層工程について説明する。
積層工程では、電導性繊維シートまたは電導性繊維を抄いてなる層と、絶縁性耐熱繊維シートまたは絶縁性耐熱繊維を抄いてなる層とを用意する。
【0046】
ここで、電導性繊維を抄いてなる層とは、電動性繊維(金属繊維および/または導電性繊維)を抄いて得られた層状のものであって、さらに電導性繊維同士を結着するための操作を加えられていないものを意味する。電動性繊維を抄いて得られた層状のものに、電導性繊維同士を結着するための操作を加えられたものが電導性繊維シートである。
【0047】
同様に、絶縁性耐熱繊維を抄いてなる層とは、絶縁性耐熱繊維を抄いて得られた層状のものであって、さらに絶縁性耐熱繊維同士を結着するための操作を加えられていないものを意味する。絶縁性耐熱繊維を抄いて得られた層状のものに、絶縁性耐熱繊維同士を結着するための操作を加えられたものが絶縁性耐熱繊維シートである。
【0048】
なお、電導性繊維を抄いてなる層および絶縁性耐熱繊維を抄いてなる層の厚さおよび坪量は、前述の導電性繊維シートおよび絶縁性耐熱繊維シートの厚さおよび坪量と同様であってよい。
【0049】
積層工程では、上記のような絶縁性耐熱繊維シートまたは絶縁性耐熱繊維を抄いてなる層の上に、電導性繊維シートまたは電導性繊維を抄いてなる層を重ね、積層体Aを得る。
ここで、電導性繊維シートまたは電導性繊維を抄いてなる層の上に、さらに別の絶縁性耐熱繊維シートまたは絶縁性耐熱繊維を抄いてなる層を重ねて積層体Aとしてもよい。この場合、2つの絶縁性耐熱繊維シートまたは絶縁性耐熱繊維を抄いてなる層によって、電導性繊維シートまたは電導性繊維を抄いてなる層を挟む態様となる。
絶縁性耐熱繊維シート、絶縁性耐熱繊維を抄いてなる層、電導性繊維シートまたは電導性繊維を抄いてなる層の積層数に制限はない。
【0050】
<除去工程>
次に、本発明の製造方法が備える除去工程について説明する。
除去工程では、積層体Aに有機物含有溶液を含侵する。
ここで有機物含有溶液は、溶媒を用いて有機物を溶解して得られるものである。
有機物としてはフェノール樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂、メラミン樹脂などが挙げられる。
また、これらを溶解する溶媒としては、前記有機物を溶解可能な溶媒であれば特に限定されるものではない。
また、有機物含有溶液には架橋剤を加えることが好ましい。ここで架橋剤は有機物含有溶液に含まれる有機物を重合することができる架橋剤であれば特に限定されない。
【0051】
本発明の製造方法では、上記のような溶媒に上記のような有機物を溶解して有機物含有溶液を調整する。有機物含有溶液に含まれる有機物の濃度は1~100質量%であることが好ましく、5~20質量%であることがより好ましい。
このような有機物含有溶液に積層体Aに含侵する。
【0052】
次に、有機物含有溶液を含侵した積層体Aを乾燥させる。
乾燥させるための手段は特に限定されない。例えば50~120℃に調整された乾燥器内に0.5~2時間、保持することで、有機物含有溶液に含まれている溶媒を除去することができる。
このようにして積層体Aに有機物含有溶液を含侵した後、乾燥することで有機物含有溶液中から溶剤を除去して積層体Bを得ることができる。
【0053】
このようにして有機物含有溶液中から溶媒を除去すると、その過程において、表面張力や粘度上昇等の影響で、積層体Aを構成する繊維同士が交差または集合している箇所へ有機物含有溶液は移動する。そして、その箇所において溶媒が完全に除去される前に、有機物の重合が徐々に進行するので、ゆるやかに固化することになる。そのために、図2図3に示したように、積層体Aを構成する繊維同士の結着部分は繊維に滑らかに追従していたり、膜を形成していたりして、特徴的な態様となっていると考えられる。また、その結着部分は柔軟性に優れるため、結果として本発明のヒータはハンドリング強度が高くなると考えられる。
【0054】
<加熱工程>
次に、本発明の製造方法が備える加熱工程について説明する。
加熱工程では、上記のようにして得られた積層体Bを不活性ガス雰囲気内で150~700℃、好ましくは200~600℃で加熱する。
加熱させるための手段は特に限定されない。例えば150~700℃(好ましくは200~600℃)に調整され不活性ガス雰囲気が満たされた加熱炉内に0.5~10時間、保持することで、有機物含有溶液に含まれていた有機物の一部のみをカーボン化する。
【0055】
不活性ガスは特に限定されず、窒素、アルゴンが挙げられる。
【0056】
積層体Bを構成する繊維同士を結着している、有機物の一部のみがカーボン化したものが、耐熱結着物である。ただし、耐熱結着物はセラミックスを含んでもよく、セラミックスであってもよい。セラミックとして炭化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナ等が挙げられる。
耐熱結着物は、電導性繊維シートよりも抵抗が高い。
【0057】
このようにして有機物の一部のみをカーボン化すると、カーボン化(炭化)による質量減少が小さいため、ひび割れ等が発生し難い。そのために、積層体Bを構成する繊維同士を結着している有機物は柔軟性を保つことができると考えられる。そのために、図2図3に示したように、本発明の断熱材におけるセラミック繊維同士の結着部分は滑らかで、特徴的な態様となっていると考えられる。
また、その結着部分は柔軟性に優れるため、結果として本発明のヒータはハンドリング強度が高くなると考えられる。
【0058】
このように耐熱結着物は、有機物の一部のみがカーボン化した樹脂炭化物であることが好ましいが、本願発明者は、有機物のどの程度の部分がカーボン化している場合が好ましいかについて検討した。
以下にその検討結果について説明する。
【0059】
本願発明者は、アルミナ繊維シートを5枚用意し、各々にフェノール樹脂を含侵し、乾燥した後、5枚の各々を、窒素雰囲気内で200℃、400℃、600℃、800℃、1000℃にて1h加熱した。
【0060】
そして、測定サンプルの各々について、TG-DTA試験を行った。得られたチャートを図4に示す。
なお、TG-DTA試験の試験条件は次の通りである。
・機器:STA7200RV、EMAステーション(HITACHI社製)
・温度範囲:30 → 1000℃
・雰囲気:窒素(300ml/min)
・昇温速度:10℃/min
・試料量:約10mg
・試料容器:Pt製オープン容器
【0061】
TG-DTA試験では、状態変化に伴う吸熱・発熱等がなければ、チャートにおいてベースラインから変化はなく、一方で状態変化に伴う吸熱等がある場合にはベースラインから下がる曲線を描くことになる。
図4から、800℃または1000℃で加熱した場合は、チャートにおいてベースラインから変化がなく、一方で、200℃、400℃、600℃で加熱した場合に、チャートにおいてベースラインから下がる曲線となっている。
【0062】
また、図4においてチャート(グラフ)内に示された右肩上がりの略直線は温度を表している。200℃、400℃、600℃、800℃、1000℃の各温度の場合を示すラインが下がり始めるときが、測定サンプルの状態変化(例えば、O、H等の減少)が始まるときと考えられるので、その部分から縦に真っすぐな線を引き、温度を示す直線と交わるところが、分解開始温度と推定される。
【0063】
これより、800℃または1000℃で加熱した場合は、状態変化に伴う吸熱・発熱等はなく、一方で、200℃、400℃、600℃で加熱した場合は状態変化に伴う吸熱等があることが確認できる。
すなわち、200℃、400℃、600℃で加熱した場合は、有機物の一部のみがカーボン化しており、一方で、800℃または1000℃で加熱した場合は、有機物の全てがカーボン化していると推定される。
【0064】
次に、本願発明者は、カーボン繊維シートを5枚用意し、各々にフェノール樹脂を含侵し、乾燥した後、5枚の各々を、窒素雰囲気内で200℃、400℃、600℃、800℃、1000℃にて1h加熱した。
【0065】
そして、測定サンプルの各々について、レーザーラマン分光測定を行った。得られたチャートを図5図9に示す。
図5が200℃で加熱した場合、図6が400℃で加熱した場合、図7が600℃で加熱した場合、図8が800℃で加熱した場合、図9が1000℃で加熱した場合であり、各図において上側がカーボン繊維に焦点を当てた結果、下段がフェノール樹脂含侵部に焦点を当てた結果を示している。
なお、図10は、フェノール樹脂を含侵させる前のカーボン繊維シートについて、同様のレーザーラマン分光測定を行った結果を示している。
【0066】
なお、レーザーラマン分光測定の測定条件は次の通りである。
・機器:顕微レーザーラマン分光装置 Nicolet Almega XR (サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)
・レーサ゛ー波長:532nm
・レーサ゛ー出力:50%
・露光時間:0.50sec
・露光回数:15回
・分光器アハ゜ーチャ:25μmヒ゜ンホール
【0067】
図5図6に示される200℃、400℃で加熱した場合では、カーボンのピークは検出されていないが、図7に示される600℃で加熱した場合でカーボンのピークが出現し、図8図9に示される800℃、1000℃で加熱した場合では、図10に示されるカーボン繊維のピークとほぼ同じ形状の波形になっている。
【0068】
このような測定結果より、200℃、400℃、600℃で加熱した場合は、有機物の一部のみがカーボン化しており、一方で、800℃または1000℃で加熱した場合は、有機物の全てがカーボン化していると推定される。
【0069】
次に本願発明者は、上記のTG-DTA試験の場合と同様に、アルミナ繊維シートを5枚用意し、各々にフェノール樹脂を含侵し、乾燥した後、5枚の各々を、窒素雰囲気内で200℃、400℃、600℃、800℃、1000℃にて1h加熱した。
【0070】
そして、測定サンプルの各々について、XPS分析(X線光電子分光分析)に供した。
なお、測定条件は次の通りである。
・分析装置:Quantera SXM(アルバック・ファイ社製)
・X線源:単色化AlKα
・X線出力、X線照射径:25.0W、φ100μm
・測定領域:Point 100μm
・光電子取り込み角:45deg
・Wide Scan:280.0eV,1.000eV/Step
・Narrow Scan:69.0 eV;0.125eV/Step
【0071】
その結果、200℃にて加熱した測定サンプルの1s原子軌道のC(炭素)量が73.0atom%、O(酸素)量が19.8atom%、Al量が2.6atom%、Si量が1.1atom%と求められた。
また、400℃にて加熱した測定サンプルの1s原子軌道のC(炭素)量が78.7atom%、O(酸素)量が17.7atom%、Al量が2.5atom%、Si量が1.1atom%と求められた。
また、600℃にて加熱した測定サンプルの1s原子軌道のC(炭素)量が81.9atom%、O(酸素)量が14.1atom%、Al量が3.0atom%、Si量が1.0atom%と求められた。
また、800℃にて加熱した測定サンプルの1s原子軌道のC(炭素)量が81.5atom%、O(酸素)量が13.8atom%、Al量が3.5atom%、Si量が1.2atom%と求められた。
さらに、1000℃にて加熱した測定サンプルの1s原子軌道のC(炭素)量が81.1atom%、O(酸素)量が13.6atom%、Al量が3.9atom%、Si量が1.3atom%と求められた。
【0072】
ここで、各測定サンプルに含まれるO(酸素)は、Cと結合しているものと、AlまたはSiと結合しているものに概ね分かれると考えられる。そして、AlとOとが結合したものはAl23の態様で存在しており、SiとOとが結合したものはSiO2の態様で存在していると考えると、各測定サンプルにおいてCと結合しているO量を算出することができる。
このような考えに基づいて計算すると、200℃にて加熱した測定サンプルに含まれるCと結合しているO(酸素)量は13.7atom%と算出される。
また、400℃にて加熱した測定サンプルに含まれるCと結合しているO(酸素)量は11.8atom%と算出される。
また、600℃にて加熱した測定サンプルに含まれるCと結合しているO(酸素)量は7.6atom%と算出される。
また、800℃にて加熱した測定サンプルに含まれるCと結合しているO(酸素)量は6.4atom%と算出される。
さらに、1000℃にて加熱した測定サンプルに含まれるCと結合しているO(酸素)量は5.2atom%と算出される。
【0073】
本願発明者は、前述のようなTG-DTA試験、レーザーラマン分光測定の結果およびXPS分析の結果を考察した。
そして、800℃および1000℃で加熱した場合は完全に炭化している状態と考えられ、これに対して、200℃、400℃、600℃で加熱した場合は、炭化(カーボン化)の途中段階、すなわち、有機物の一部についてのみ炭化している状態と考えた。
また、その炭化の程度(炭化度)は、1000℃にて加熱した測定サンプルの1s原子軌道のC(炭素)量とCに結合しているO(酸素)量との合計を基準とし、この基準に対する比率として表すことができると考えた。つまり、1000℃にて加熱した測定サンプルのCatom%/(Catom%+Cと結合しているOatom%)を求め、この値に対する200℃、400℃、600℃、800℃にて加熱した測定サンプルのCatom%/(Catom%+Cと結合しているOatom%)の値を、各測定サンプルにおける炭化度とすることとした。
【0074】
そこで、各測定サンプルについて、Catom%/(Catom%+Cと結合しているOatom%)を算出した。
Catom%/(Catom%+Cと結合しているOatom%)の値は、200℃にて加熱した測定サンプルの場合が0.842、400℃にて加熱した測定サンプルの場合が0.870、600℃にて加熱した測定サンプルの場合が0.915、800℃にて加熱した測定サンプルの場合が0.928、1000℃にて加熱した測定サンプルの場合が0.940となった。
この考えに基づいて炭化度を計算すると、次のようになる。
【0075】
200℃で加熱した場合の炭化度:0.842÷0.940=0.896
400℃で加熱した場合の炭化度:0.870÷0.940=0.926
600℃で加熱した場合の炭化度:0.915÷0.940=0.973
800℃で加熱した場合の炭化度:0.928÷0.940=0.987
【0076】
これより、本発明における耐熱結着物は、有機物の一部のみがカーボン化した炭化度が0.70以上1.00未満である樹脂炭化物であることが好ましく、この炭化度は0.80~0.99であることがより好ましく、0.85~0.98であることがさらに好ましいと、本願発明者は考えるに至った。
【0077】
前述のような本発明の製造方法によって、本発明のヒータを製造することができる。
このような本発明のヒータは柔軟性に優れ、ヒータオン時は加熱が早く、ヒータオフ時は冷却が早いために熱応答性に優れ、熱バラツキが小さく、温度ムラは生じ難く、効率よく気体等を加熱することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 本発明のシート
3 電導性繊維シート
5 絶縁性耐熱繊維シート
7 耐熱結着物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10