(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】マスクブランクス、位相シフトマスク、製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/38 20120101AFI20231213BHJP
G03F 1/32 20120101ALI20231213BHJP
G03F 1/80 20120101ALI20231213BHJP
【FI】
G03F1/38
G03F1/32
G03F1/80
(21)【出願番号】P 2019170050
(22)【出願日】2019-09-19
【審査請求日】2022-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000101710
【氏名又は名称】アルバック成膜株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100192773
【氏名又は名称】土屋 亮
(72)【発明者】
【氏名】汐崎 英治
(72)【発明者】
【氏名】望月 聖
(72)【発明者】
【氏名】野口 鳩徳
【審査官】牧 隆志
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-272071(JP,A)
【文献】特開2017-033004(JP,A)
【文献】国際公開第2014/171512(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/003486(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0081065(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00 - 1/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と、
該透明基板の表面に積層されたCrを主成分とする位相シフト層と、
前記位相シフト層に積層された密着層と、
を備えるマスクブランクスであって、
前記密着層が、
Niと、
Co、Fe、Ti、Si、Al、Nb、Mo、WおよびHfから選択された少なくとも1種の金属と、を含むことを特徴とするマスクブランクス。
【請求項2】
前記密着層が、
Niと、
Tiと、
Co、Fe、Si、Al、Nb、Mo、WおよびHfから選択された少なくとも1種の金属と、を含むことを特徴とする請求項1記載のマスクブランクス。
【請求項3】
前記密着層が、3.5nm以上5.0nm以下の膜厚とされることを特徴とする請求項1または2記載のマスクブランクス。
【請求項4】
前記密着層に
フォトレジスト層が積層されたことを特徴とする請求項1から3のいずれか記載のマスクブランクス。
【請求項5】
請求項1から
3のいずれかに記載されたマスクブランクスの製造方法であって、
前記透明基板に、前記位相シフト層と前記密着層とを順に積層する工程を有し、
前記密着層を形成する際に、酸素、窒素、炭素のいずれか1以上を含有する成膜雰囲気ガス中において、Niを含むとともに、Co、Fe、Ti、Si、Al、Nb、Mo、WおよびHfから選択された少なくとも1種の金属を含むターゲットを用いてスパッタリングすることにより、
Niと、Co、Fe、Ti、Si、Al、Nb、Mo、WおよびHfから選択された少なくとも1種の金属と、を含む密着層を形成することを特徴とするマスクブランクスの製造方法。
【請求項6】
Niと、Tiと、Co、Fe、Si、Al、Nb、Mo、WおよびHfから選択された少なくとも1種の金属と、を含む密着層を形成することを特徴とする請求項5記載のマスクブランクスの製造方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載された製造方法により製造されたマスクブランクスを用いて位相シフトマスクを製造する方法であって、
前記密着層上に
フォトレジスト層を積層してから前記フォトレジスト層に所定の開口パターンを
設ける工程と、
前記開口パターンを設けた前記フォトレジスト層越しに前記位相シフト層と前記密着層とを同一のエッチング液によって同時にウェットエッチングする工程と、を有することを特徴とする位相シフトマスクの製造方法。
【請求項8】
前記エッチング液として、硝酸セリウム第2アンモニウムを含むエッチング液を用いることを特徴とする請求項7記載の位相シフトマスクの製造方法。
【請求項9】
透明基板と、
該透明基板の表面に積層されたCrを主成分とする位相シフト層と、
前記位相シフト層に積層された密着層と、
を備える位相シフトマスクであって、
前記密着層が、
Niと、
Co、Fe、Ti、Si、Al、Nb、Mo、WおよびHfから選択された少なくとも1種の金属と、を含むことを特徴とする位相シフトマスク。
【請求項10】
前記密着層が、
Niと、
Tiと、
Co、Fe、Si、Al、Nb、Mo、WおよびHfから選択された少なくとも1種の金属と、を含むことを特徴とする請求項9記載の位相シフトマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマスクブランクス、位相シフトマスク、製造方法に関し、特に位相シフトマスクや、マスクブランクス、および、積層膜およびマスク形成方法に用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体分野では、高密度実装を図るため、回路パターンの微細化が進められている。これに伴い、露光波長の短波長化や、露光方法の改善などが検討されている。
このような回路パターンの微細化に対応するため、フォトマスクにおいては、単純な遮光膜のパターンのみで形成されたバイナリーマスクから、パターン縁における光干渉を用いて、単波長を用い、より微細なパターン形成が可能な位相シフトマスク(Phase-Shifting Mask:PSM)が使用されるに至っている。
【0003】
一方、フラットパネルディスプレイ(FPD)分野では、大板用のマスクブランクスにおいて、露光光の波長としてi線(波長365nm)、h線(波長403nm)、g線(波長436nm)からなる複合波長を用いた露光にてパターン形成が行われている。
また、バイナリーマスクとしてクロムを含む層を遮光膜としたマスクが用いられている。
特許文献1に示すように大板用クロムマスクは、ウェットエッチングプロセスで、クロム系材料からなるブランクスとして作製される。この際、クロムエッチャントに浸漬、またはスプレー状にして、エッチングをおこなっている。
【0004】
最近、上記FPD分野においても、高精細な画面を形成するためにパターンプロファイルが微細化する傾向にあり、従来の遮光膜をパターン化したフォトマスク(バイナリーマスク)に代えて、ハーフトーン型の位相シフトマスクが用いられている。
【0005】
ハーフトーン型の位相シフトマスク用ブランク(ハーフトーン型位相シフトマスクブランクとも呼ぶ)は、基本的に、石英基板の一面側に単層のシフター膜を設けることにより位相シフト効果を発現している。シフター膜に要求される光学特性は、位相シフト効果(露光波長における180度の位相角)と所定の透過率である。
たとえば、クロム系膜(酸化窒化膜)によりシフター膜を形成した場合、ハーフトーン型位相シフトマスクブランクでは、シフター膜の表面における表面反射率が23%(波長365nm)程度となる。通常のクロム膜を用いたバイナリーブランクでは、表面反射率が15%以下(波長365nm)である。
FPD分野では、露光光の波長としてi線、h線、g線からなる複合波長を用い、露光光量を稼いでいる。各波長において、位相角は180度からズレが生じることになるが、トータルで位相シフト効果があることが確認されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このようなハーフトーン型位相シフトマスクを製造する際には、フォトリソグラフィ工程として、マスクブランクに積層したフォトレジストを露光して、パターニングをおこなっている。
しかしながら、フォトレジストと位相シフト層等のシフター膜との密着が充分でないと、正確なパターニングができなくなるという問題があった。
特に、特許文献1においては、サイドエッチングに対してこれを解決しようとしているが、フォトレジストとの密着に関しては解決されておらず、その問題の解決が望まれていた。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、半導体、または、フラットパネルディスプレイの製造に好適に用いられ、パターニングの正確性を向上するという目的を達成しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のマスクブランクスは、透明基板と、
該透明基板の表面に積層されたCrを主成分とする位相シフト層と、
前記位相シフト層に積層された密着層と、
を備えるマスクブランクスであって、
前記密着層が、
Niと、
Co、Fe、Ti、Si、Al、Nb、Mo、WおよびHfから選択された少なくとも1種の金属と、を含むことにより上記課題を解決した。
本発明の前記密着層は、Niと、Tiと、Co、Fe、Si、Al、Nb、Mo、WおよびHfから選択された少なくとも1種の金属と、を含むことができる。
本発明において、前記密着層が、3.5nm以上5.0nm以下の膜厚とされることが好ましい。
本発明の前記フォトレジスト層が、ノボラック系樹脂からなることが可能である。
また、本発明のマスクブランクスにおいて、前記密着層に前記フォトレジスト層が積層された手段を採用することもできる。
本発明のマスクブランクスの製造方法は、上記のいずれかに記載されたマスクブランクスの製造方法であって、
前記透明基板に、前記位相シフト層と前記密着層とを順に積層する工程を有し、
前記密着層を形成する際に、成膜雰囲気として酸素、窒素、炭素のいずれか1以上を含有する成膜雰囲気ガス中において、Niを含むとともに、Co、Fe、Ti、Si、Al、Nb、Mo、WおよびHfから選択された少なくとも1種の金属を含むターゲットを用いてスパッタリングすることにより、Niと、Co、Fe、Ti、Si、Al、Nb、Mo、WおよびHfから選択された少なくとも1種の金属と、を含む密着層を形成することができる。
また、本発明の位相シフトマスクの製造方法は、上記の製造方法により製造されたマスクブランクスを用いて位相シフトマスクを製造する方法であって、
前記密着層上に所定の開口パターンを有する前記フォトレジスト層を形成する工程と、
この形成した前記フォトレジスト層越しに前記位相シフト層と前記密着層とを同一のエッチング液によって同時にウェットエッチングする工程と、を有することができる。
また、前記エッチング液として、硝酸セリウム第2アンモニウムを含むエッチング液を用いることが好ましい。
本発明の位相シフトマスクは、透明基板と、該透明基板の表面に積層されたCrを主成分とする位相シフト層と、前記位相シフト層に積層された密着層と、を備える位相シフトマスクであって、前記密着層が、Niと、Co、Fe、Ti、Si、Al、Nb、Mo、WおよびHfから選択された少なくとも1種の金属と、を含むことを特徴とする位相シフトマスクとすることができる。
本発明の位相シフトマスクは、前記密着層が、Niと、Tiと、Co、Fe、Si、Al、Nb、Mo、WおよびHfから選択された少なくとも1種の金属と、を含むものでもよい。
【0010】
本発明のマスクブランクスは、透明基板と、
該透明基板の表面に積層されたCrを主成分とする位相シフト層と、
前記位相シフト層に積層された密着層と、
を備えるマスクブランクスであって、
前記密着層にフォトレジスト層を積層して所定の開口パターンを形成した後、前記位相シフト層と前記密着層とを、同一のエッチング液によってエッチングすることで、
前記位相シフト層に形成された位相シフトパターンの平面視したパターン形状が前記フォトレジスト層に形成されたフォトレジストパターンによって設定される平面視したパターン形状と一致した位相シフトマスクを製造可能とされる。
この密着層により、位相シフト層とフォトレジスト層との密着性を向上して、パターニング時にエッチング液が位相シフト層とフォトレジスト層との間に染み込んでしまうことを防止できる。これにより、侵入したエッチング液により位相シフト層が不必要にエッチングされてしまい、位相シフト層のパターニングにおけるパターン形状が所望の状態よりもエッチングされてしまうことを防止することができる。
したがって、位相シフト層に形成される位相シフトパターンにおける形状の正確性を向上して、より公正性な位相シフトマスクを提供することが可能となる。
【0011】
本発明の前記密着層が、Ni、Co、Fe、Ti、Si、Al、Nb、Mo、WおよびHfから選択された少なくとも1種の金属を主成分とする。
これにより、パターニング時にエッチング液が位相シフト層とフォトレジスト層との間に侵入してしまうことを防止できる充分な密着性を位相シフト層とフォトレジスト層との間で維持することが可能となる。
同時に、フォトレジスト層越しに位相シフト層と密着層とを同一のエッチング液によって同時にウェットエッチングすることが可能となる。
【0012】
本発明において、前記密着層が、10.0nm以下の膜厚とされる。
これにより、位相シフト層と密着層とを同一のエッチング液によって同時にウェットエッチングした際に、位相シフト層のみをウェットエッチングしたのと同じエッチング時間でパターニングを完了することが可能となる。パターニング時にエッチング液が位相シフト層とフォトレジスト層との間に侵入してしまうことを位相シフト層の全域で防止できる充分な密着性を位相シフト層とフォトレジスト層との間で維持することが可能となる。
【0013】
本発明の前記フォトレジスト層が、ノボラック系樹脂からなる。
これにより、フォトレジスト層越しに位相シフト層と密着層とを同一のエッチング液によって同時にウェットエッチングすることが可能となる。
同時に、パターニング時にエッチング液が位相シフト層とフォトレジスト層との間に侵入してしまうことを防止できる。
【0014】
また、本発明のマスクブランクスにおいて、前記密着層に前記フォトレジスト層が積層される。
これにより、透明基板に位相シフト層と密着層とフォトレジスト層とが積層されたマスクブランクスとして、所望の位相シフトマスクとしてすぐにパターニング可能なマスクブランクスを提供することが可能となる。
【0015】
本発明のマスクブランクスの製造方法は、上記のいずれかに記載されたマスクブランクスの製造方法であって、
前記透明基板に、前記位相シフト層と前記密着層とを順に積層する工程を有し、
前記密着層が、成膜雰囲気として酸素、窒素、炭素のいずれか1以上を含有する雰囲気ガスを含有し、Ni、Co、Fe、Ti、Si、Al、Nb、Mo、WおよびHfから選択された少なくとも1種の金属を主成分としてスパッタリングにより成膜される。
これにより、所望の光学特性を有する位相シフト層と、フォトレジスト層との充分な密着性を呈することの可能な密着層を有するマスクブランクスを製造可能とすることができる。
【0016】
また、本発明の位相シフトマスクの製造方法は、上記の製造方法により製造されたマスクブランクスを用いて位相シフトマスクを製造する方法であって、
前記密着層上に所定の開口パターンを有する前記フォトレジスト層を形成する工程と、
この形成した前記フォトレジスト層越しに前記位相シフト層と前記密着層とを同一のエッチング液によって同時にウェットエッチングする工程と、
を有する。
これにより、所望の光学特性を有する位相シフトパターンを有するとともに、所望のパターン形状を有する位相シフトマスクを製造することが可能となる。
【0017】
また、前記エッチング液として、硝酸セリウム第2アンモニウムを含むエッチング液を用いる。
これにより、Crを主成分とする位相シフト層をエッチングする際に、Ni、Co、Fe、Ti、Si、Al、Nb、Mo、WおよびHfから選択された少なくとも1種の金属を主成分とする密着層とを同時にエッチングして、所望のパターン形状を有する位相シフトマスクを製造することが可能となる。
【0018】
本発明の位相シフトマスクにおいては、上記の製造方法により製造されたことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、位相シフト層のみをウェットエッチングしたのとほぼ同じエッチング時間でパターニングをおこなうことが可能で、フォトレジスト層と位相シフト層との密着性を向上して、所望の位相シフトパターンを正確に形成することの可能なマスクブランクスを提供することができるという効果を奏することが可能となる。また、所望の位相シフトパターンを正確に形成した位相シフトマスクを提供することができるという効果を奏することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係るマスクブランクスの第1実施形態を示す模式断面図である。
【
図2】本発明に係るマスクブランクス、位相シフトマスクの製造方法の第1実施形態を示すフローチャートである。
【
図3】本発明に係るマスクブランクス、位相シフトマスクの製造方法の第1実施形態を示す模式工程図である。
【
図4】本発明に係るマスクブランクス、位相シフトマスクの製造方法の第1実施形態を示す模式工程図である。
【
図5】本発明に係るマスクブランクス、位相シフトマスクの製造方法の第1実施形態を示す模式工程図である。
【
図6】本発明に係るマスクブランクス、位相シフトマスクの製造方法の第1実施形態を示す模式工程図である。
【
図7】本発明に係るマスクブランクス、位相シフトマスクの製造方法の第1実施形態を示す模式工程図である。
【
図8】本発明に係るマスクブランクス、位相シフトマスクの製造方法の第1実施形態を示す模式工程図である。
【
図9】本発明に係るマスクブランクス、位相シフトマスクの製造方法の第1実施形態を示す模式工程図である。
【
図10】本発明に係るマスクブランクスの製造方法の第1実施形態における製造装置を示す模式図である。
【
図11】従来の位相シフトマスクの製造方法を示す模式工程図である。
【
図12】従来の位相シフトマスクの製造方法を示す模式工程図である。
【
図13】従来の位相シフトマスクの製造方法を示す模式工程図である。
【
図14】本発明に係るマスクブランクスの第2実施形態を示す模式断面図である。
【
図15】本発明に係るマスクブランクス、位相シフトマスクの実験例を示す画像である。
【
図16】本発明に係るマスクブランクス、位相シフトマスクの実験例を示す画像である。
【
図17】従来のマスクブランクス、位相シフトマスクの実験例を示す画像である。
【
図18】従来のマスクブランクス、位相シフトマスクの実験例を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係るマスクブランクスの第1実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態におけるマスクブランクスを示す模式断面図であり、図において、符号MBは、マスクブランクスである。
【0022】
本実施形態に係るマスクブランクスMBは、露光光の波長が365nm~436nmの範囲で使用される位相シフトマスクに供されるものとされる。
本実施形態に係るマスクブランクスMBは、
図1に示すように、透明基板(ガラス基板)Sと、この透明基板S上に形成された位相シフト層11と、位相シフト層11上に形成された密着層12とで構成される。
【0023】
本実施形態のマスクブランクスMBにおいては、後述するように、位相シフト層11と密着層12とが、同一のエッチング液によりエッチング可能とされている。
本実施形態に係るマスクブランクスMBは、密着層12上に形成されたフォトレジスト層13とで構成されてもよい。
【0024】
透明基板Sとしては、透明性および光学的等方性に優れた材料が用いられる。透明基板Sとして、例えば、石英ガラス基板を用いることができる。透明基板Sの大きさは特に制限されず、当該マスクを用いて露光する基板(例えばLCD(液晶ディスプレイ)、プラズマディスプレイ、有機EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイなどのFPD用基板)、半導体基板に応じて適宜選定される。本実施形態では、径寸法100mm程度の基板や、一辺50~100mm程度から、一辺300mm以上の矩形基板に適用可能であり、更に、縦450mm、横550mm、厚み8mmの石英基板や、最大辺寸法1000mm以上で、厚み10mm以上の基板も用いることができる。
【0025】
また、透明基板Sの表面を研磨することで、透明基板Sのフラットネスを低減するようにしてもよい。透明基板Sのフラットネスは、例えば、20μm以下とすることができる。これにより、マスクの焦点深度が深くなり、微細かつ高精度なパターン形成に大きく貢献することが可能となる。さらにフラットネスは10μm以下と、小さい方が良好である。
【0026】
位相シフト層11は、Crを主成分とするものである。
位相シフト層11は、たとえば、Cr単体、並びにCrの酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、炭化窒化物および酸化炭化窒化物から選択される1つで構成することができ、また、これらの中から選択される2種以上を積層して構成することもできる。
【0027】
具体的には、位相シフト層11は、酸化窒化炭化クロム系材料からなり、DCスパッタリング法で成膜される。この場合、プロセスガスとして、不活性ガス、窒化性ガス及び酸化性ガス、あるいは窒化性ガス及び酸化性ガスの混合ガスを用いることができる。成膜圧力は、例えば、0.1Pa~0.5Paとすることができる。不活性ガスとしては、ハロゲン、特にアルゴンを適用することができる。
【0028】
酸化性ガスには、CO、CO2、NO、N2O、NO2、O2等が含まれる。窒化性ガスには、NO、N2O、NO2、N2等が含まれる。不活性ガスとしては、Ar、He、Xe等が用いられるが、典型的には、Arが用いられる。なお、上記混合ガスに、CH4等の炭化性ガスがさらに含まれてもよい。
【0029】
位相シフト層11は、エッチングレート、屈折率、透過率、反射率などが、異なる層が積層して多層に形成してもよい。
【0030】
位相シフト層11は、300nm以上500nm以下の波長領域の何れかの光(例えば、波長436nmのg線、波長405nmのh線、波長365nmのi線)に対して略180°の位相差をもたせることが可能な厚さ(例えば、90~170nm)で形成されることができる。位相シフト層11は、例えば、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法、レーザー蒸着法、ALD法等により成膜できる。
【0031】
密着層12は、位相シフト層11とフォトレジスト層13との密着性を向上して、パターニング時にエッチング液が位相シフト層11とフォトレジスト層13との間に染み込んでしまうことを防止する。また、密着層12は、位相シフト層11と同じエッチング液でエッチング可能なものとされる。
【0032】
密着層12としては、Ni、Co、Fe、Ti、Si、Al、Nb、Mo、W、Cu、V、Ta、ZrおよびHfから選択された1種以上の金属を主成分とするものを用いることができる。
密着層12としては、例えば、Niを主成分とすることができる。具体的には、密着層12として、Niが60atm%含まれたNi合金膜を用いることができる。さらに、密着層12としては、例えば、Ni-Ti-Nb-Mo膜を用いることができる。
なお、密着層12をNiのみからなる単膜とした場合、磁性が強く、通常磁力のマグネットではマグネトロンスパッタリングにしようすることが難しいため好ましくない。そこで、添加元素を加える、酸化物とする等の手法により、磁性を弱める。
また、密着層12をNiに添加物を加えた合金とすることで、密着層12におけるクロムエッチャントに対するエッチングレートが所定値となるように調整する。
さらに、密着層12をNi系酸化物とすることにより、膜表面の酸素原子がフォトレジスト層13との密着性を向上するように促している。
【0033】
密着層12の膜厚としては、10.0nm以下とされる。密着層12の膜厚としては、3.0nm~7.0nmの範囲とされることが好ましく、3.5nm~5.0nmの範囲とされることがより好ましい。
密着層12の膜厚が上記の値よりも厚くなると、位相シフト層11と密着層12とを同一のエッチング液によって同時にウェットエッチングした際に、位相シフト層11のみをウェットエッチングした際のエッチング時間でパターニングを完了することが難しくなるため好ましくない。あるいは、異なる組成である位相シフト層11と密着層12とを同一のエッチング液でエッチング処理できなくなる可能性があり好ましくない。さらに、位相シフト層11として設定した光学特性である、反射率、屈折率、透過率、消衰係数等の数値が、設定した所望の状態からずれてしまう可能性があり、好ましくない。
【0034】
また、密着層12の膜厚としては、位相シフト層11の全面に亘って形成可能な膜厚以上であればよい。
密着層12の膜厚が上記の値よりも薄くなると、パターニング時にエッチング液が位相シフト層とフォトレジスト層との間に侵入してしまうことを位相シフト層の全域で防止できない可能性があるため、好ましくない。あるいは、密着層12が、位相シフト層11の全面に亘って均一に形成できない可能性があり好ましくない。
【0035】
フォトレジスト層13は、FPD製造において使用されている公知のレジストとされる。フォトレジスト層13は、例えば、ノボラック系樹脂からなることができる。
【0036】
本実施形態のマスクブランクスMBは、例えばFPD用ガラス基板に対するパターニング用マスクである位相シフトマスクMを製造する際に適用することができる。
この位相シフトマスクMは、たとえば、180°の位相差をもたせることが可能な位相シフトパターン11pを有する。
【0037】
たとえば、位相シフトマスクMによれば、露光処理において、波長領域の光、特にg線(436nm)、h線(405nm)、i線(365nm)を含む複合波長を露光光として用いることで、位相の反転作用により光強度が最小となる領域を形成して、露光パターンをより鮮明にすることができる。このような位相シフト効果により、パターン精度が大幅に向上し、微細かつ高精度なパターン形成が可能となる。
【0038】
また、位相シフト層11の厚みは、i線に対して略180°の位相差をもたせる厚みとすることができる。さらに、h線またはg線に対して略180°の位相差をもたせることが可能な厚みで位相シフト層11を形成してもよい。ここで「略180°」とは、180°又は180°近傍を意味し、例えば、180°±10°以下である。この位相シフトマスクMによれば、上記波長領域の光を用いることで位相シフト効果に基づくパターン精度の向上を図ることができ、微細かつ高精度なパターン形成が可能となる。これにより、高画質のフラットパネルディスプレイを製造することができる。
【0039】
以下、本実施形態のマスクブランクスMBの製造方法、および、マスクブランクスによる位相シフトマスクの製造方法について説明する。
図2は、本実施形態におけるマスクブランクスによる位相シフトマスク製造工程を示すフローチャートである。
図3~
図6は、本実施形態におけるマスクブランクスの製造工程を示す断面図である。
図10は、本実施形態におけるマスクブランクスの製造装置を示す模式図である。
【0040】
本実施形態におけるマスクブランクスMBは、
図10に示す製造装置により製造される。
【0041】
図10に示す製造装置S20は、インライン式のスパッタリング装置とされ、ロード室S21と、成膜室(真空処理室)S22と、アンロード室S25と、を有するものとされる。
なお、製造装置S20としてインターバック式のスパッタリング装置とされることもできる。
成膜室(真空処理室)S22は、ロード室S21に密閉手段S23を介して接続される。
アンロード室S25は、成膜室S22に密閉手段S24を介して接続される。
【0042】
ロード室S21には、搬送手段S21aと、排気手段S21bと、が設けられる。
搬送手段S21aは、外部から搬入されたガラス基板Sを成膜室S22へと搬送する。 排気手段S21bは、ロード室S21の内部を粗真空引きするロータリーポンプ等とされる。
【0043】
成膜室S22には、基板保持手段S22aと、ターゲットS22bを有するカソード電極(バッキングプレート)S22cと、電源S22dと、ガス導入手段S22eと、高真空排気手段S22fと、が設けられている。
【0044】
基板保持手段S22aは、搬送手段S21aによって搬送されてきたガラス基板Sを受け取り、成膜中にターゲットS22bと対向するようにガラス基板Sを保持する。
基板保持手段S22aは、また、ガラス基板Sをロード室S21から搬入可能とされている。基板保持手段S22aは、また、ガラス基板Sをアンロード室S25へ搬出可能とされている。
【0045】
ターゲットS22bは、ガラス基板Sに位相シフト層11を成膜するために必要な組成を有する材料からなる。
カソード電極(バッキングプレート)S22c、電源S22d、ガス導入手段S22e、高真空排気手段S22fは、位相シフト層11を成膜する材料を供給するための構成である。
【0046】
電源S22dは、ターゲットS22bを有するカソード電極(バッキングプレート)S22cに負電位のスパッタ電圧を印加する。
ガス導入手段S22eは、成膜室S22の内部にガスを導入する。
高真空排気手段S22fは、成膜室S22の内部を高真空引きするターボ分子ポンプ等である。
【0047】
アンロード室S25には、成膜室S22から搬入されたガラス基板Sを外部へと搬送する搬送手段S25aと、この室内を粗真空引きするロータリーポンプ等の排気手段S25bが設けられる。
【0048】
図10に示す製造装置S20においては、ロード室S21から搬入したガラス基板Sに対して、成膜室(真空処理室)S22においてスパッタリング成膜をおこなった後、アンロード室S25から成膜の終了したガラス基板Sを外部に搬出する。
【0049】
成膜工程においては、成膜室(真空処理室)S22において、ガス導入手段S22eから成膜室S22にスパッタガスと反応ガスとを供給し、外部の電源からバッキングプレート(カソード電極)S22cにスパッタ電圧を印加する。また、マグネトロン磁気回路によりターゲットS22b上に所定の磁場を形成してもよい。成膜室S22内でプラズマにより励起されたスパッタガスのイオンが、カソード電極S22cのターゲットS22bに衝突して成膜材料の粒子を飛び出させる。そして、飛び出した粒子と反応ガスとが結合した後、ガラス基板Sに付着することにより、ガラス基板Sの表面に所定の膜が形成される。
【0050】
この際、位相シフト層11の成膜と、密着層12の成膜とで、必要な組成を有するターゲットS22bに交換する。また、位相シフト層11の成膜と、密着層12の成膜とで、ガス導入手段S22eから異なる量の窒素ガスなどの必要な成膜ガスを供給するとともに、その分圧を制御するように切り替えて、その組成を設定した範囲内にする。
【0051】
さらに、これら位相シフト層11の成膜と、密着層12の成膜とに加え、他の膜を積層する場合には、対応するターゲット、ガス等のスパッタ条件としてスパッタリングにより成膜するか、他の成膜方法によって該当膜を積層して、本実施形態のマスクブランクスMBを製造する。
【0052】
本実施形態におけるマスクブランクスMBの製造方法は、
図2に示すように、基板準備工程S01と、位相シフト層形成工程S02と、密着層形成工程S03と、フォトレジスト層形成工程S04と、を有する。
【0053】
本実施形態におけるマスクブランクスMBの製造方法は、まず、
図2に示す基板準備工程S01として、上述した表面処理などをおこなったガラス基板Sを準備する(
図3)。
【0054】
次いで、
図2に示す位相シフト層形成工程S02として、
図10に示す製造装置S20において、ガラス基板S上に、DCスパッタリング法などを用いて、Crを主成分とする位相シフト層11を所定の膜厚となるように成膜する(
図4)。
位相シフト層形成工程S02においては、位相シフト層11で要求される光学特性に応じて、必要な組成、たとえばCrを主成分とするターゲットS22bを用いる。
【0055】
また、位相シフト層形成工程S02においては、窒素、酸素、炭素等を含有するガス雰囲気(成膜雰囲気)とするとともに、所定の光学特性となるように、雰囲気ガスの種類・成膜条件、たとえば雰囲気ガス中の窒素濃度、酸素濃度、炭素濃度などを設定する。
さらにスパッタリングの進行に伴い、その条件を変化させることもできる。
【0056】
次いで、
図2に示す密着層形成工程S03として、
図10に示す製造装置S20において、ガラス基板S上に、DCスパッタリング法などを用いて、Niを主成分とする密着層12を所定の膜厚となるように成膜する(
図5)。
密着層形成工程S03においては、密着層12で要求される光学特性に応じて、必要な組成、たとえばNiを主成分とするターゲットS22bを用いる。
【0057】
また、密着層形成工程S03においては、酸素、窒素、炭素のいずれか1以上を含有する雰囲気ガスを含有するガス雰囲気(成膜雰囲気)とするとともに、所定の光学特性となるように、雰囲気ガスの種類・成膜条件、たとえば雰囲気ガス中の窒素濃度、酸素濃度、炭素濃度などを設定する。
さらにスパッタリングの進行に伴い、その条件を変化させることもできる。
【0058】
次いで、
図2に示すフォトレジスト層形成工程S04として、マスクブランクスMBの最上層である密着層12の上にフォトレジスト層13が形成される(
図6)。フォトレジスト層13は、ポジ型でもよいしネガ型でもよいが、ポジ型とすることができる。フォトレジスト層13としては、液状レジストが用いられる。
【0059】
以下、このように製造された本実施形態のマスクブランクスMBから位相シフトマスクMを製造する方法について説明する。
図7~
図9は、本実施形態におけるマスクブランクスによる位相シフトマスクの製造工程を示す断面図である。
【0060】
本実施形態における位相シフトマスクMの製造方法は、
図2に示すように、フォトレジストパターン形成工程S05と、位相シフトパターン形成工程S06と、フォトレジスト層除去工程S07と、を有する。
【0061】
図2に示すフォトレジストパターン形成工程S05においては、フォトレジスト層13を露光するとともに、現像することで、密着層12の上に所定のパターン形状(開口パターン)を有するフォトレジストパターン13pが形成される(
図7)。
フォトレジストパターン13pは、密着層12、位相シフト層11のエッチングマスクとして機能し、これらの各層11,12のエッチングパターンに応じて適宜形状が定められる。一例として、フォトレジストパターン13pは、位相シフト領域においては、形成する位相シフトパターン11pの開口幅寸法に対応した開口幅を有する形状に設定される。
【0062】
次いで、
図2に示す位相シフトパターン形成工程S06として、フォトレジストパターン13p越しに所定のエッチング液を用いて密着層12、位相シフト層11をウェットエッチングする工程を開始する。
【0063】
この位相シフトパターン形成工程S06としては、これら二層12,11を連続して一回のエッチング処理によってパターン形成をおこなう。
位相シフトパターン形成工程S06におけるエッチング液としては、硝酸セリウム第2アンモニウムを含むエッチング液を用いることができ、例えば、硝酸や過塩素酸等の酸を含有する硝酸セリウム第2アンモニウムを用いることが好ましい。
【0064】
ここで、密着層12はこのエッチング液に対して位相シフト層11とほぼ同じようにエッチングすることができるため、密着層12と位相シフト層11とが同時にパターニングされて、密着パターン12pおよび位相シフトパターン11pとが同時に形成される(
図8)。
密着パターン12pおよび位相シフトパターン11pは、フォトレジストパターン13pに対応した開口幅を有する形状とされる。つまり、密着パターン12pおよび位相シフトパターン11pは、平面視してフォトレジストパターン13pと略一致した形状とされる。
【0065】
位相シフトパターン形成工程S06において、密着層12は、フォトレジスト層13と位相シフト層11との密着性を高める。このため、フォトレジスト層13と位相シフト層11との間にエッチング液が染み込むことがない。
これにより、侵入したエッチング液により位相シフト層11が不必要にエッチングされてしまい、位相シフトパターン11pの形状が所望の状態よりもエッチングされてしまうことを防止することができる。したがって、位相シフト層11に形成される位相シフトパターンにおける形状の正確性を向上することができる。
【0066】
また、密着層12の膜厚が、上述した値として設定されていることにより、密着層12と位相シフト層11とを、同一のエッチング液によって同時にウェットエッチングすることが可能となる。
【0067】
次いで、
図2に示すフォトレジスト層除去工程S07として、フォトレジストパターン13pを除去する。フォトレジストパターン13pの除去には、公知のレジスト剥離液を用いることができるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0068】
以上により、
図9に示すように、密着パターン12pおよび位相シフトパターン11pが形成されたエッジ強調型の位相シフトマスクMが得られる。
【0069】
本実施形態によれば、透明基板S上に、位相シフト層11、密着層12およびフォトレジスト層13をこの順で積層してマスクブランクスMBを構成した。
このマスクブランクスMBのフォトレジスト層13にフォトレジストパターン13pを形成し、ウェットエッチングするだけで、位相シフト層11と密着層12とのエッチングを正確に行い、密着層12のない場合とほぼ同じエッチング処理時間としてエッジ強調型の位相シフトマスクMを製造できる。
これにより、製造工程において、工程数の増加や作業時間の増大を招くことなく、パターン形成の正確性を向上することが可能となる。
【0070】
しかも、密着層12の膜厚を上述した値としたことにより、密着層12を除去しない場合でも、光学特性を変化することなく、位相シフトマスクMを製造できる。
【0071】
本実施形態の位相シフトマスクMは、例えばFPD用のガラス基板Sに対するパターニング用マスクとして構成することができる。位相シフトマスクMを用いたガラス基板Sのパターニングには、露光光にi線、h線及びg線の複合波長を用いて、微細かつ高精度なパターン形成が可能となる。この位相シフトマスクMによれば、形成されたパターン形状の正確性の向上が可能となる。これにより、高画質のフラットパネルディスプレイを製造することができる。
【0072】
本実施形態のマスクブランクスMBにおける作用について検証する。
【0073】
図11~
図13は、密着層12を設けていない従来のマスクブランクスMB0から位相シフトマスクM0を製造する模式工程図である。
なお、
図11は、
図6に示した工程に対応し、
図12は、
図8に示した工程に対応し、
図13は、
図9に示した工程に対応している。
【0074】
密着層12を設けていない従来のマスクブランクスMB0を用いて、位相シフトマスクM0を製造した場合には、フォトレジスト層13と位相シフト層11との間で密着していない箇所が存在する可能性がある。
この場合、フォトレジストパターン13pと位相シフト層11との間に形成された隙間にエッチング液が染み込んで、
図12に示すように、位相シフト層11が、フォトレジストパターン13pで規定された領域よりも大きくエッチングされてしまう可能性がある。
したがって、位相シフトマスクM0においては、形成された位相シフトパターン11p0が、フォトレジストパターン13pで規定された形状とは一致しない可能性がある。
【0075】
これに対し、本実施形態のように、密着層12をフォトレジスト層13と位相シフト層11との間に設けたマスクブランクスMBを用いて、位相シフトマスクMを製造した場合には、フォトレジスト層13と位相シフト層11との密着性を向上することができる。
したがって、
図8に示すように、形成された位相シフトパターン11pが、フォトレジストパターン13pで規定された形状とは一致する。
【0076】
以下、本発明に係るマスクブランクスの第2実施形態を、図面に基づいて説明する。
図14は、本実施形態におけるマスクブランクスを示す模式断面図であり、本実施形態において、上述した第1実施形態と異なるのは、フォトレジスト層に関する点であり、これ以外の上述した第1実施形態と対応する構成には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0077】
本実施形態のマスクブランクスMBにおいては、密着層12が最上層とされており、位相シフトパターン11pを形成する際に、
図6と同様に、フォトレジスト層13を形成する。その後、
図7と同様に、フォトレジストパターン13pを形成して、
図9と同様に、位相シフトパターン11pを有する位相シフトマスクMを製造する。
【0078】
本実施形態によれば、上述した第1実施形態と同等の効果を奏することができる。
【実施例】
【0079】
以下、本発明にかかる実施例を説明する。
【0080】
まず、本発明におけるマスクブランクスおよび位相シフトマスクの具体例として、パターン形状の確認をおこなうために、SEM写真を撮影した。
【0081】
<実験例1>
マスクブランクスMBを製造した。
ここで、ガラス基板S上に、スパッタリング法により、位相シフト層11たるクロムの酸化窒化炭化膜を120nmの厚さで成膜し、密着層12たるNi-Ti-Nb-Mo膜を4nmの厚さで成膜し、東京応化工業社製 THMR-ip3500を用いてフォトレジスト層13を膜厚500nm~800nmで積層して、マスクブランクスMBを得た。
【0082】
ここで、位相シフト層11を、酸化窒化炭化クロム系材料からなるターゲットS22bにより、DCスパッタリング法で成膜する。この場合、プロセスガスとして、不活性ガス、窒化性ガス及び酸化性ガス、あるいは窒化性ガス及び酸化性ガスの混合ガスを用いることができる。成膜圧力は、例えば、0.1Pa~0.5Paとすることができる。不活性ガスとしては、ハロゲン、特にアルゴンを適用することができる。
【0083】
酸化性ガスには、CO、CO2、NO、N2O、NO2、O2等が含まれる。窒化性ガスには、NO、N2O、NO2、N2等が含まれる。不活性ガスとしては、Ar、He、Xe等が用いられるが、典型的には、Arが用いられる。なお、上記混合ガスに、CH4等の炭化性ガスがさらに含まれてもよい。
ここで、酸化性ガスの流量比を以下の様に設定する。
成膜圧力は、0.1~0.9Paとし、スパッタ成膜時の混合ガスの流量比をAr:N2:CO2=(1~16):(1~16):(1~8)に制御することができる。
【0084】
ついで、密着層12を、Ni合金系材料からなるターゲットS22bによりDCスパッタリング法で成膜する。密着層12としては、Ni、Co、Fe、Ti、Si、Al、Nb、Mo、W、Cu、V、Ta、ZrおよびHfから選択された1種以上の金属を主成分とするものを用いること、例えば、Ni-Ti-Nb-Mo膜を用いる。この場合、プロセスガスとして、ArガスおよびO2ガスの混合ガスとし、スパッタ成膜時の混合ガスの流量比をAr:O2=(1~16):(1~8)に制御することができる。
成膜圧力は、例えば、成膜圧力は、0.1~0.9Paとすることができる。
酸化性ガスには、CO、CO2、NO、N2O、NO2、O2等が含まれる。窒化性ガスには、NO、N2O、NO2、N2等が含まれる。不活性ガスとしては、Ar、He、Xe等が用いられるが、典型的には、Arが用いられる。なお、上記混合ガスに、CH4等の炭化性ガスがさらに含まれてもよい。
【0085】
このマスクブランクスMBに露光現像処理を施して、フォトレジストパターン13pを形成した。
次いで、このフォトレジストパターン13p越しに硝酸セリウム第2アンモニウムと過塩素酸との混合エッチング液を用いて密着層12および位相シフト層11をエッチングして位相シフトパターン11pを形成することで、位相シフトマスクMを得た。
【0086】
ここでは、
図8に示すフォトレジストパターン13pを除去していない状態を
図15に示す。また、
図9に示すフォトレジストパターン13pを除去した位相シフトマスクMに対応する状態を
図16に示す。
【0087】
<実験例2>
比較のため、密着層12を設けない以外は、実験例1と同じ条件としてマスクブランクスMB0を製造した。
【0088】
ここでは、
図8に示すフォトレジストパターン13pを除去していない状態を
図17に示す。また、
図9に示すフォトレジストパターン13pを除去した位相シフトマスクMに対応する状態を
図18に示す。
図17,
図18に示すように、密着層12がないと、位相シフトパターン11p0において、位相シフト層が除去された側面が傾斜していることがわかる。
【0089】
これらの結果から、密着層12を設けることで、位相シフトパターン11pにおいて、位相シフト層が除去された側面が傾斜しておらず、位相シフトパターン11pの形状がフォトレジストパターン13pで規定される形状からずれていないことがわかる。
【0090】
<実験例3>
上述した実験例1において、密着層12の膜厚を変化させたマスクブランクスを作成した。
【0091】
このとき、エッチング処理時間と密着層12の膜厚との関係を確認した。
密着層12の膜厚測定は、位相シフト層11との合算値とし、ガラス基板S表面からの厚さをブルカー社Dektak(登録商標)によって、測定した。
なお、密着層12の膜厚は2.0nm~10.0nmの範囲で変化させた。
【0092】
ここで、密着層12の膜厚を変化させることで、密着層12の膜厚としては、10.0nm以下とされることが好ましいことがわかった。特に、密着層12の膜厚が、3.0nm~7.0nmの範囲とされることが好ましく、3.5nm~5.0nmの範囲とされることがより好ましいことがわかる。また、密着層12の膜厚としては、位相シフト層11の全面に亘って形成可能な膜厚以上であればよいことがわかる。
【0093】
<実験例4>
上述した実験例1において、位相シフト層11の光学特性が、密着層12によって変化しないことを確認した。
ここで、矩形のガラス基板Sにおいて、i線に対する位相角および透過率を測定し、位相角177.96(deg)と透過率4.86%を得た。位相角、透過率の測定にはレーザーテック社製MPM-365Gを用いて、基板Sをリファレンスとして測定した。
なお、密着層12の膜厚は4.0nmとした。位相シフト層の膜厚は120nmとした。
【0094】
この結果から、i線に対する位相角(度)および透過率(%)が、所定の範囲に収まっており、位相シフトマスクとしての光学特性を満たしていることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の活用例として、大型用マスクで高精細パターンを必要とした際に、当該改善で、位相シフトマスク(PSM)層の断面形状を垂直にできることから、パターン精度の向上に繋がる高精細用の大型マスクを挙げることができる。
【符号の説明】
【0096】
MB…マスクブランクス
M…位相シフトマスク
S…ガラス基板(透明基板)
11…位相シフト層
12…密着層
13…フォトレジスト層
11p…位相シフトパターン
12p…密着パターン
13p…フォトレジストパターン