(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】空走時間特定方法、空走距離特定方法、それらの装置及びコンピュータ用のプログラム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/00 20060101AFI20231213BHJP
【FI】
G08G1/00 D
(21)【出願番号】P 2019196743
(22)【出願日】2019-10-29
【審査請求日】2022-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】501271479
【氏名又は名称】株式会社トヨタマップマスター
(74)【代理人】
【識別番号】100095577
【氏名又は名称】小西 富雅
(74)【代理人】
【識別番号】100100424
【氏名又は名称】中村 知公
(72)【発明者】
【氏名】山下 由美子
(72)【発明者】
【氏名】宇井 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】大崎 新太郎
【審査官】武内 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-062763(JP,A)
【文献】特開2018-206210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載カメラ及び走行履歴記憶部を備えた車両の空走時間を特定する空走時間特定方法であって、
道路への乱侵入があったか否かを判定する乱侵入判定ステップと、
乱侵入があったと判定されたとき、前記車載カメラで撮影された画像データに基づき、乱侵入の開始時刻t1を特定する乱侵入開始時刻特定ステップと、
乱侵入開始時刻t1の後に、前記走行履歴記憶部に記憶された前記車両の走行履歴データに基づき、事故を回避するための回避運転操作がなされた回避運転操作時刻t2を特定する回避運転操作時刻特定ステップと、
前記乱侵入開始時刻t1から前記回避運転操作時刻t2までの空走時間T1を演算する空走時間演算ステップと、を備える空走時間特定方法において、
前記乱侵入判定ステップで判定された結果を検証する判定検証ステップが更に備えられ、該判定検証ステップは、
前記車載カメラの撮影画像を解析して乱侵入を発見することとなった侵入発見時刻t3を特定するステップと、
前記
撮影画像を解析して、前記乱侵入の発生した道路上の位置を特定するステップと、
前記車両が前記特定された道路上の位置に到達した
到達時刻t4特定する到達時刻特定ステップと、
前記
侵入発見時刻t3から前記到達時刻t4までに要した時間に基づき、前記乱侵入があったか否かを判定するステップと、を備える空走時間特定方法。
【請求項2】
前記乱侵入判定ステップは、前記車載カメラで撮影された前記画像データを解析して行う、請求項1に記載の空走時間特定方法。
【請求項3】
前記乱侵入判定ステップで判定された結果を検証する判定検証ステップが更に備えられ、
該判定検証ステップは、
前記車載カメラの撮影画像を解析して乱侵入の発生した道路上の位置までの距離を演算する距離演算ステップと、に備え、
演算された前記距離に基づき、前記乱侵入があったか否かを判定するステップと、を備える、
請求項1又は2に記載の空走時間特定方法。
【請求項4】
請求項1~3の何れかにに記載の空走時間特定方法であって、前記空走時間T1に基づき空走距離を演算するステップが更に備えられる空走距離特定方法。
【請求項5】
車載カメラ及び走行履歴記憶部を備えた車両の空走時間を特定する空走時間特定装置であって、
道路への乱侵入があったか否かを判定する乱侵入判定部と、
乱侵入があったと判定されたとき、前記車載カメラで撮影された画像データに基づき、乱侵入の開始時刻t1を特定する乱侵入開始時刻特定部と、
乱侵入開始時刻t1の後に、前記走行履歴記憶部に記憶された前記車両の走行履歴データに基づき、事故を回避するための回避運転操作がなされた回避運転操作時刻t2を特定する回避運転操作時刻特定部と、
前記乱侵入開始時刻t1から前記回避運転操作時刻t2までの空走時間T1を演算する空走時間演算部と、を備える空走時間特定装置において、
前記乱侵入判定部で判定された結果を検証する判定検証部が更に備えられ、該判定検証部は、
前記車載カメラの撮影画像を解析して乱侵入を発見することとなった侵入発見時刻t3を特定する侵入発見時刻特定部と、
前記
撮影画像を解析して、前記乱侵入の発生した道路上の位置を特定する乱侵入発生位置特定部と、
前記車両が前記特定された道路上の位置に到達した
到達時刻t4特定する到達時刻特定部と、
前記
侵入発見時刻t3から前記到達時刻t4までに要した時間に基づき、前記乱侵入があったか否かを判定する判定部と、を備える空走時間特定装置。
【請求項6】
車載カメラ及び走行履歴記憶部を備えた車両の空走時間を特定する空走時間特定装置であって、乱侵入判定部、乱侵入開始時刻特定部、乱侵入開始時刻特定部、回避運転操作時刻特定部及び空走時間演算部と、を備える空走時間特定装置のコンピュータ用のプログラムであって、
前記乱侵入判定部に、道路への乱侵入があったか否かを判定させ、
前記乱侵入開始時刻特定部に、乱侵入があったと判定されたとき、前記車載カメラで撮影された画像データに基づき、乱侵入の開始時刻t1を特定させ、
前記回避運転操作時刻特定部に、乱侵入開始時刻t1の後に、前記走行履歴記憶部に記憶された前記車両の走行履歴データに基づき、事故を回避するための回避運転操作がなされた回避運転操作時刻t2を特定させ、
前記空走時間演算部に、前記乱侵入開始時刻t1から前記回避運転操作時刻t2までの空走時間T1を演算させる、
空走時間特定装置のコンピュータ用のプログラムにおいて、
前記空走時間特定装置には、前記乱侵入判定部で判定された結果を検証する判定検証部が更に備えられ、該判定検証部は侵入発見時刻特定部、乱侵入発生位置特定部、到達時刻特定部及び判定部を備え、
前記侵入発見時刻特定部に、前記車載カメラの撮影画像を解析して乱侵入を発見することとなった侵入発見時刻t3を特定させ、
前記乱侵入発生位置特定部に、前記
撮影画像を解析して、前記乱侵入の発生した道路上の位置を特定させ、
前記到達時刻特定部に、前記車両が前記特定された道路上の位置に到達した
到達時刻t4特定させ、
前記判定部に、前記
侵入発見時刻t3から前記到達時刻t4までに要した時間に基づき、前記乱侵入があったか否かを判定させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空走時間特定方法、空走距離特定方法、それらの装置及びそのコンピュータ用のプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ここで空走時間とは、ドライバが危険を感じて、ブレーキをかけ、ブレーキが効き始めるまでの時間をいう。空走距離とは、ドライバが危険を感じて、ブレーキをかけ、ブレーキが効き始めるまでに車が進む距離を指す。危険の対象には、例えば、歩行者が横断歩道外で道路を横断する乱横断や側道からの人及び車両等の急な飛び出し等(以下、「乱侵入」という)がある。
急ブレーキをかけても停止するまでに車両が所定の距離(制動距離)を進むことは避けられない。換言すれば、車両の現在地から乱侵入のある位置までの距離が当該制動距離内にあれば、たとえ急ブレーキをかけたとしても乱侵入のあった対象との衝突を避けられない。この場合、運転者に全ての責任を負わせるのは酷である。
【0003】
また、乱侵入に気が付いてもブレーキをかけるまでにタイムラグが生じることも避けられない。このタイムラグは運転者の運動神経や反射神経等に依存するので、平均的能力以上を運転者に要求することも酷である。このタイムラグが空走時間であり、空走距離を生む。運転者にはこの空走距離と制動距離とを考慮した運転が求められる。換言すれば、乱侵入に対して、運転者が通常の注意力をもって平均的な運動能力でブレーキをかけたときに生じた事故についてまで、運転者に過剰な責任を問うことは酷である。その一方、運転者の注意力に依存しがちなブレーキのタイミングは、事故現場ではブレーキ痕として現れ、運転者の責任の軽重の判断するときの参考資料となることがある。
【0004】
なお、ドライブレコーダの普及により画像が撮影され、例えば事故が生じたときには事故発生時を起点にそれより所定時間前までの画像が保存される。また、このドライブレコーダの画像データと車両の走行履歴(速度、ブレーキの操作等)とをリンクすることができる(特許文献1)。
本件発明に関連する技術を開示する文献として特許文献2~6を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-73431号公報
【文献】特開2015-185111号公報
【文献】特開2011-28415号公報
【文献】特開2010-170390号公報
【文献】特開2008-282097号公報
【文献】特快2013-998315号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
事故が発生した際、運転者のかけたブレーキのタイミングは、運転者の責任の軽重を評価するときに考慮されうるものであるが、当該ブレーキのタイミングを具体的に特定する技術は提案されていない。
そこでこの発明は、事故が発生した際、運転者が適切にブレーキをかけていたか否かを判断する際の指標となる、空走時間や空走距離を特定できるようにする。既述のように、空走時間とは、ドライバが危険を感じて、ブレーキをかけ、ブレーキが効き始めるまでに要する時間を指し、空走距離は当該空走時間中に車両が移動した距離を指す。なお、「ドライバが危険を感じて」とは、通常の注意力をそなえたドライバであれば危険を感じるべきタイミングを指す。従って、空走時間や空走距離が標準的なそれらに比べて長くなることはもっぱら運転者に起因する。即ち、わき見運転などの不注意運転中であったり、危険を感じる能力が低かったり、危険を感じてからブレーキをかけるまでの反応が鈍かったりする等、である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の第1の局面は、事故が発生したときの空走時間を特定する方法を規定する。即ち、この発明の第1の局面は、車載カメラ及び走行履歴記憶部を備えた車両の空走時間を特定する空走時間特定方法であって、
事故があったか否かを判定する事故判定ステップと、
事故があったと判定されたとき、前記車載カメラで撮影された画像データに基づき、乱侵入の開始時刻t1を特定する乱侵入開始時刻特定ステップと、
乱侵入開始時刻t1の後に、前記走行履歴記憶部に記憶された前記車両の走行履歴データに基づき、事故回避のための回避運転操作がなされた回避運転操作時刻t2を特定する回避運転操作時刻特定ステップと、
前記乱侵入開始時刻t1から前記回避運転操作時刻t2までの空走時間T1を演算する空走時間演算ステップと、を備える。
【0008】
このように規定される第1の局面の空走時間特定方法によれば、事故が生じたとき、ドライブレコーダに代表される車載カメラにより撮影された画像が事故発生時刻から所定時間遡って保存される。このとき、画像には時刻のデータが関連つけられている。このようにして保存された画像データを解析して乱侵入の開始時刻t1、すなわち運転者が危険と感じるべき時刻が特定される。他方、走行履歴記憶部に保存された走行履歴(例えば、ブレーキの時刻)に基づき乱侵入した人や車両との事故を回避するための回避運転操作がなされた時刻(回避運転操作時刻)t2が特定される。走行履歴にはCANデータやプローブデータを用いることができる。乱侵入の開始時刻t1から回避運転操作時刻t2までの時間が空走時間T1となる。この空走時間T1が標準的な運転手と同等及びそれ以下であれば、仮に事故が発生したとしても、運転手の過失は比較的軽くなると推定できる。他方、この空走時間T1が標準を大きく超えるときには、運転手の過失は比較的重くなる推定されるおそれがある。
【0009】
この発明の第2の局面は次のように規定される。即ち、第1の局面で特定された空走時間T1に基づき空走距離を演算するステップが更に備えられる空走距離特定方法。
空走時間T1の間の速度を空走時間T1で積分することにより空走距離が得られる。この空走時間T1は短時間であるため、空走時間T1に含まれる一の時刻(例えば、乱侵入の開始時刻t1)の速度がその間維持されたとして、空走距離を演算することも可能である。
このようにして得られ空走距離もまた、事故が発生した際、運転者の責任の軽重を判断する指標となりうる。
【0010】
この発明の第3の局面は運転者の運転能力、特に乱侵入に対応する危険回避能力の指標となる空走時間を特定する。
ここに、空走時間とは、既述のように乱侵入の開始時刻から回避運転操作時刻までの時間を指す。
空走時間は運転者が乱侵入を発見してからブレーキをかけるまでの反応時間であるので、空走時間は運転者の危険回避能力の指標となる。なお、事故が発生したときのみにこの空走時間を特定していたのでは運転者の本来的な危険回避能力の指標とすることはできない。よって、日ごろの運転時に常に空走時間を測定して、例えばその平均時間を演算することにより、運転者の本来的な危険回避能力を推定することができる。
かかる空走時間とそのときの走行速度から導き出される空走距離も、同じく、運転者の危険回避能力の指標となりうる。
【0011】
以上より、この発明の第3の局面は次のように規定される。
車載カメラ及び走行履歴記憶部を備えた車両の空走時間を特定する空走時間特定方法であって、
道路への乱侵入があったか否かを判定する乱侵入判定ステップと、
乱侵入があったと判定されたとき、前記車載カメラで撮影された画像データに基づき、乱侵入の開始時刻t1を特定する乱侵入開始時刻特定ステップと、
乱侵入開始時刻t1の後に、前記走行履歴記憶部に記憶された前記車両の走行履歴データに基づき、事故を回避するための回避運転操作がなされた回避運転操作時刻t2を特定する回避運転操作時刻特定ステップと、
前記乱侵入開始時刻t1から前記回避運転操作時刻t2までの空走時間T1を演算する空走時間演算ステップと、を備える空走時間特定方法。
このように規定される第3の局面の空走時間特定方法によれば、車両の走行中にその進行方向前方にて乱侵入が発見されたとき、事故があったか否かにかかわらず、空走時間T1が特定される。
【0012】
この発明の第4の局面は次のように規定される。即ち、第3の局面に規定の空走時間特定方法において、前記乱侵入特定ステップは、前記車載カメラで撮影された前記画像データを解析して行う。
撮像画像にもとづく乱侵入があったか否かの判定は、例えば乱横断の場合、横断歩道のない道路の中央付近に人が存在しているか否かによる。より具体的には、検証対象となる道路の中央から幅方向左右端までの各半分の領域に人が存在したとき、乱横断(すなわち、乱侵入)があったものとする。乱侵入があったか否かの判定は撮像画面に対してリアルタイムで、もしくは保存された撮像画像に対して所定のタイミングで行う。そして、乱侵入があったと判定されたときは、その乱侵入があった時刻より遡って所定の時間の画像を保存し、その後の処理に備える。
【0013】
上記のようにして乱侵入があったと判定されたとき、保存された画像データに基づき乱侵入開始時刻特定ステップにより乱侵入の開始時刻t1が特定される。例えば、人の映像が道路の端に重なった時刻を乱侵入開始時刻t1とすることができる。なお、乱侵入特定ステップで認識した人と、この乱侵入開始時刻特定ステップで認識した人との同定をすることが好ましい。例えば、汎用的な顔認証ソフトを用いることができる。乱侵入の対象が車両の場合も同様に同定作業を行うことが好ましい。
回避運転操作としては走行履歴としてのCANデータの中の、ブレーキ操作データ、加速度データ、速度データ及びABSのオンオフデータなどを用いることができる。
【0014】
車載カメラの撮影画像において乱侵入が認められたとしても、その位置が車両から遠く離れておればそこに危険はないので、運転者はブレーキをかける必要がない。即ち、乱侵入に対する運転者の危険回避能力が問われるのは、車両の現在地から乱侵入のある位置までの距離が短いときに限られる。換言すれば、遠い位置の乱侵入は、乱侵入判定の対象から除外する必要がある。
そこで、この発明の第5の局面では、撮像画像を処理して乱侵入発見時刻の車両の位置から乱侵入のあった地点までの距離を特定し、その距離に基づき、すなわち、その距離が所定のしきい値より長いときは、乱侵入があったか否かの判定から除外する。
【0015】
以上より、この発明の第5の局面は次のように規定される。第3又は第4の局面に規定の空走時間特定方法において、
前記乱侵入判定ステップで判定された結果を検証する判定検証ステップが更に備えられ、該判定検証ステップは、
前記車載カメラの撮影画像を解析して乱侵入の発生した道路上の位置までの距離を演算する距離演算ステップと、
演算された前記距離に基づき、前記乱侵入があったか否かを判定するステップと、を備える。
【0016】
第5の局面の判定検証ステップでは、乱侵入のあった時点における車両の位置から乱侵入のあった位置までの距離d1を撮影画像から演算して、例えばその距離と所定のしきい値とを比較して、所定のしきい値よりも遠いときは乱侵入有無の判定から除外する。
【0017】
同様に、乱侵入のあった位置に到達するまでに長い時間がかかる場合も乱侵入有無の判定から除外することができる。
即ち、この発明の第6の局面は次のように規定される。第3又は第4の局面に規定の空走時間特定方法において、前記乱侵入判定ステップで判定された結果を検証する判定検証ステップが更に備えられ、該判定検証ステップは、
前記車載カメラの撮影画像を解析して乱侵入を発見することとなった侵入発見時刻t3を特定するステップと、
前記撮像画像を解析して、前記乱侵入の発生した道路上の位置を特定するステップと、
前記車両が前記特定された道路上に位置に到達した時刻t4特定する到達時刻特定ステップと、
前記進入発見時刻t3から前記到達時刻t4までに要した時間に基づき、前記乱侵入があったか否かを判定するステップと、を備える。
【0018】
この発明の第7の局面は次のように規定される。即ち、第3~6の局面で特定された空走時間T1に基づき空走距離を演算するステップが更に備えられる空走距離特定方法。
空走距離は走行速度との関係で変化する。例えば、空走時間が標準を上回っていても、いつも安全運転に注意して速度を抑え気味の運転者であればその空走距離は短くなる。従って、第7の局面で求める空走距離は、空走時間とは異なる観点からの、運転者の危険回避能力の指針となる。
【0019】
この発明の第8の局面は次のように規定される。即ち、
車載カメラ及び走行履歴記憶部を備えた車両の空走時間を特定する空走時間特定装置であって、
事故があったか否かを判定する事故判定部と、
事故があったと判定されたとき、前記車載カメラで撮影された画像データに基づき、乱侵入の開始時刻t1を特定する乱侵入開始時刻特定部と、
乱侵入開始時刻t1の後に、前記走行履歴記憶部に記憶された前記車両の走行履歴データに基づき、事故回避のための回避運転操作がなされた回避運転操作時刻t2を特定する回避運転操作時刻特定部と、
前記乱侵入開始時刻t1から前記回避運転操作時刻t2までの空走時間T1を演算する空走時間演算部と、を備える空走時間特定装置。
このように規定される空走時間特定装置によれば、第1の局面の発明と同様の作用ないし効果が奏される。
【0020】
この発明の第9の局面は次のように規定される。即ち、
第8の局面で規定の空走時間特定装置に前記空走時間T1に基づき空走距離を演算する空走距離演算部が更に備えられる空走距離特定装置。
このように規定さえる第9の局面の空走距離特定措置によれば、第2の局面の発明と同様の作用ないし効果が得られる。
【0021】
この発明の第10の局面は次のように規定される。即ち、
車載カメラ及び走行履歴記憶部を備えた車両の空走時間を特定する空走時間特定装置であって、
道路への乱侵入があったか否かを判定する乱侵入判定部と、
乱侵入があったと判定されたとき、前記車載カメラで撮影された画像データに基づき、乱侵入の開始時刻t1を特定する乱侵入開始時刻特定部と、
乱侵入開始時刻t1の後に、前記走行履歴記憶部に記憶された前記車両の走行履歴データに基づき、事故を回避するための回避運転操作がなされた回避運転操作時刻t2を特定する回避運転操作時刻特定部と、
前記乱侵入開始時刻t1から前記回避運転操作時刻t2までの空走時間T1を演算する空走時間演算部と、を備える空走時間特定装置。
このように規定される第10の局面の空走時間特定措置によれば、第3の局面の発明と同様の作用ないし効果が得られる。
【0022】
この発明の第11の局面は次のように規定される。即ち、
第10の局面で規定の空走時間特定装置において、前記乱侵入判定部は、前記車載カメラで撮影された前記画像データを解析して道路への乱侵入があったか否かを判定する。
このように規定される第11の局面の空走時間特定措置によれば、第4の局面の発明と同様の作用ないし効果が得られる。
【0023】
この発明の第12の局面は次のように規定される。即ち、
第10又は11の局面で規定の空走時間特定装置において、前記乱侵入判定部で判定された結果を検証する判定検証部が更に備えられ、
該判定検証部は
前記車載カメラの撮影画像を解析して乱侵入の発生した道路上の位置までの距離を演算する距離演算部と、
演算された前記距離に基づき、前記乱侵入があったか否かを判定する判定部と、を備える。
このように規定される第12の局面の空走時間特定措置によれば、第5の局面の発明と同様の作用ないし効果が得られる。
【0024】
この発明の第13の局面は次のように規定される。即ち、
第10又は11の局面で規定の空走時間特定装置において、前記乱侵入判定部で判定された結果を検証する判定検証部が更に備えられ、該判定検証部は、
前記車載カメラの撮影画像を解析して乱侵入を発見することとなった侵入発見時刻t3を特定する侵入発見時刻特定部と、
前記撮像画像を解析して、前記乱侵入の発生した道路上の位置を特定する乱侵入発生位置特定部と、
前記車両が前記特定された道路上の位置に到達した時刻t4特定する到達時刻特定部と、
前記進入発見時刻t3から前記到達時刻t4までに要した時間に基づき、前記乱侵入があったか否かを判定する判定部と、を備える。
このように規定される第13の局面の空走時間特定措置によれば、第6の局面の発明と同様の作用ないし効果が得られる。
【0025】
この発明の第14の局面は次のように規定される。即ち、
第9~14のいずれか局面で規定の空走時間特定装置に前記空走時間T1に基づき空走距離を演算する空走距離演算部が更に備えられる空走距離特定装置。
このように規定さえる第14の局面の空走距離特定措置によれば、第7の局面の発明と同様の作用ないし効果が得られる。
【0026】
この発明の第15の局面は次のように規定される。即ち、
車載カメラ及び走行履歴記憶部を備えた車両の空走時間を特定する空走時間特定装置であって、事故判定部、乱侵入開始時刻特定部、回避運転操作時刻特定部、空走時間演算部を備える空走時間特定装置のコンピュータ用のプログラムであって、
前記事故判定部に、事故があったか否かを判定させ、
前記乱侵入開始時刻特定部に、事故があったと判定されたとき、前記車載カメラで撮影された画像データに基づき、乱侵入の開始時刻t1を特定させ、
前記回避運転操作時刻特定部に、乱侵入開始時刻t1の後に、前記走行履歴記憶部に記憶された前記車両の走行履歴データに基づき、事故回避のための回避運転操作がなされた回避運転操作時刻t2を特定させ、
前記空走時間演算部に前記乱侵入開始時刻t1から前記回避運転操作時刻t2までの空走時間T1を演算させる、空走時間特定装置のコンピュータ用のプログラム。
このように規定される第15の局面のプログラムによれば、第1の局面と同様の作用ないし効果が得られる。
【0027】
この発明の第16の局面は次のように規定される。即ち、
第15の局面で規定のプログラムに加え、空走距離演算部に、前記空走時間T1に基づき空走距離を演算させる空走時間特定装置のコンピュータ用のプログラムである。
このように規定される第16の局面のプログラムによれば、第2の局面の発明と同様の作用ないし効果が得られる。
【0028】
この発明の第17の局面は次のように規定される。即ち、
車載カメラ及び走行履歴記憶部を備えた車両の空走時間を特定する空走時間特定装置であって、乱侵入判定部、乱侵入開始時刻特定部、乱侵入開始時刻特定部、回避運転操作時刻特定部及び空走時間演算部と、を備える空走時間特定装置のコンピュータ用のプログラムであって、
前記乱侵入判定部に、道路への乱侵入があったか否かを判定させ、
前記乱侵入開始時刻特定部に、乱侵入があったと判定されたとき、前記車載カメラで撮影された画像データに基づき、乱侵入の開始時刻t1を特定させ、
前記回避運転操作時刻特定部に、乱侵入開始時刻t1の後に、前記走行履歴記憶部に記憶された前記車両の走行履歴データに基づき、事故を回避するための回避運転操作がなされた回避運転操作時刻t2を特定させ、
前記空走時間演算部に、前記乱侵入開始時刻t1から前記回避運転操作時刻t2までの空走時間T1を演算させる、
空走時間特定装置のコンピュータ用のプログラム。
このように規定される第17の局面のプログラムによれば、第3の局面の発明と同様の作用ないし効果が得られる。
【0029】
この発明の第18の局面は次のように規定される。即ち、
第17の局面で規定されるプログラムにおいて、前記乱侵入判定部に、前記車載カメラで撮影された前記画像データを解析させ、道路への乱侵入があったか否かを判定させる。
このように規定される第18の局面のプログラムによれば、第4の局面の発明と同様の作用ないし効果が得られる。
【0030】
この発明の第19の局面は次のように規定される。即ち、
第17又は18の局面で規定されるプログラムにおいて、前記空走時間特定装置には、前記乱侵入判定部で判定された結果を検証する判定検証部が更に備えられ、該判定検証部は距離演算部と判定部とを備え、
前記距離演算部に、前記車載カメラの撮影画像を解析して乱侵入の発生した道路上の位置までの距離を演算させ、
前記判定部に、演算された前記距離に基づき、前記乱侵入があったか否かを判定させる。
このように規定される第19の局面のプログラムによれば、第5の局面の発明と同様の作用ないし効果が得られる。
【0031】
この発明の第20の局面は次のように規定される。即ち、
第17又は18の局面で規定されるプログラムにおいて、前記空走時間特定装置には、前記乱侵入判定部で判定された結果を検証する判定検証部が更に備えられ、該判定検証部は侵入発見時刻特定部、乱侵入発生位置特定部、到達時刻特定部及び判定部を備え、
前記侵入発見時刻特定部に、前記車載カメラの撮影画像を解析して乱侵入を発見することとなった侵入発見時刻t3を特定させ、
前記乱侵入発生位置特定部に、前記撮像画像を解析して、前記乱侵入の発生した道路上の位置を特定させ、
前記到達時刻特定部に、前記車両が前記特定された道路上の位置に到達した時刻t4特定させ、
前記判定部に、前記進入発見時刻t3から前記到達時刻t4までに要した時間に基づき、前記乱侵入があったか否かを判定させる。
このように規定される第20の局面のプログラムによれば、第6の局面の発明と同様の作用ないし効果が得られる。
【0032】
この発明の第21の局面は次のように規定される。即ち、
第17~第20のいずれかの局面に規定のプログラムに加え、空走距離演算部に、前記空走時間T1に基づき空走距離を演算させる空走距離特定装置のコンピュータ用のプログラムである。
このように規定される第21の局面に規定のプログラムによれば、第7の局面の発明と同様の作用ないし効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】
図1はこの発明の一の実刑形態の空走時間特定装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2はこの発明の一の実施形態の空走距離特定装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は他の実施形態の空走時間特定装置の構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は他の実施形態の空走距離特定装置の構成を示すブロック図である。
【
図5】
図5は
図3の空走時間特定装置又は
図4の空走距離特定装置に適用される乱侵入の判定検証部の機能を示すブロック図である。
【
図6】
図6は他の判定検証部の機能を示すブロック図である。
【
図7】
図7Aは
図2の空走距離特定装置の動作を示すフローチャートであり、
図7Bは動作のタイミングを示すタイムチャートである。
【
図8】
図8Aは
図4の空走距離特定装置の動作を示すフローチャートであり、
図8Bその動作のタイミングを示すタイムチャートである。
【
図9】
図9Aは
図5の判定検証部の動作を示すフローチャートであり、
図9Bはその動作のタイミングを示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1はこの発明の空走時間特定装置1を示す。
この空走時間特定装置1は車両のデータを収集するデータ収集(DA)部3、事故発生時に収集したデータを保存するブラックボックス(BB)部5、ブラックボックス部5のデータを解析する解析部(AZ)7を備える。
データ収集部3、ブラックボックス部5は車両に組み込まれている。解析部7はサーバ装置に組み込まれており、ブラックボックス部5とデータ通信が可能である。
勿論、解析部7を車両側に組み込むことも可能である。他方、ブラックボックス部5をサーバ側に組み込んで、ブラックボックス部5とデータ収集部3とを通信により連結することもできる。
【0035】
上記において、車両10にはデータ収集部3として、ドライブレコーダ11及び走行履歴保存部13が備えられる。
ドライブレコーダ11にはカメラが取り付けられており、少なくとも車両10の進行方向前方の景色の動画を録画している。
ドライブレコーダ11には撮影時刻のデータも併せて保存される。
他方、走行履歴保存部13にはブレーキ操作、速度、加速度などの車輛10に関係するCANデータがその時刻とともに保存される。
ドライブレコーダ11の時刻データと走行履歴保存部13の時刻データは、相互に若しくは後述する第1の事故時運行履歴保存部30において関連付けられる。
【0036】
ブラックボックス部5は事故判定部20、第1の事故時運行履歴保存部30及び送信部35を備える。
事故判定部20は、車両10に事故が発生したか否かを判定する。例えば、走行履歴保存部13に保存されている加速度の変化を読み取り、その変化が所定のしきい値を超える減速方向の加速度、横方向の加速度、若しくは回転する加速度であったとき、事故が発生したと判定する。ドライブレコーダ11の撮影画像を解析して事故発生の有無を判定することも可能である。
【0037】
事故が発生したと判定した事故判定部20はドライブレコーダ11が撮影した画像の中から事故発生時刻より所定時間前まで(例えば3分前まで)の画像データを第1の事故時運行履歴保存部30の画像データ保存部31へ送り、ここに保存させる。
上記事故判定部20と画像データ保存部31の機能はドライブレコーダ11自体が備えることもある。
【0038】
事故が発生したと判定した事故判定部20は走行履歴保存部13に保存されている事故発生時刻から所定時間前までの走行履歴データの中から、事故を避けるために運転者が行う回避運転操作を特徴つける操作に関するCANデータを抽出し、その時刻とともにCANデータ保存部33に保存させる。かかるCANデータとしてブレーキに関するデータがある。その他、加速度変化、タイヤ抵抗に関するデータ、ABSのオンオフ動作に関するデータも回避運転装置を特徴つけるデータとして用いることができる。
撮影された画像データ及びCANデータに代表される走行履歴データを総称して運行履歴データとする。
【0039】
送信部35は、第1の事故時運行履歴保存部30に保存されたデータ、即ち画像データ保存部31に保存されている事故前画像データ(例えば、事故発生時刻よりさかのぼって3分間の動画)と、CANデータ保存部33に保存されている回避運転操作を特徴つけるデータ(例えば、事故発生時刻よりさかのぼって3分間のブレーキに関するデータ)を送信する。
【0040】
解析部7は、受信部36、第2の事故時運行履歴保存部40、乱侵入開始時刻特定部50、回避運転操作時刻特定部55及び空走時間演算部60を備える。
ブラックボックス部5の送信部35から送られてきた第1の事故時運行履歴に関するデータは、受信部36を介して、第2の事故時運行履歴保存部40に保存される。
乱侵入開始時刻特定部50は第2の事故時運行履歴保存部40に保存されている事故前画像データを解析して、乱侵入開始時刻t1を特定する。ここに、乱侵入開始時刻t1とは、通常の注意力をそなえた運転手であれば、事故を引き起こす前に、危険を感じるべき時刻を指す。例えば、乱侵入として乱横断があったとき、人影と道路の端とが一致した時刻、若しくは、人影の中心が道路の端と一致した時刻を、乱横断が開始された時刻t1とする。
【0041】
回避運転操作時刻特定部55は、CANデータ保存部33に保存されているブレーキに関するデータの中から、急ブレーキを特定しうるデータ、即ち、ブレーキの変化率が大きいもの、を抽出する。その変化の開始時刻がブレーキをかけた時刻、即ち、回避運転操作時刻t2となる。
【0042】
空走時間演算部60は乱侵入開始時刻t1から回避運転操作時刻t2までの時間(=空走時間T1)を演算する。
このようにして演算された空走時間T1は汎用的な方法で出力される。例えば、ディスプレイへの表示、プリンタでのプリント、音声出力等である。
【0043】
図2にこの発明の空走距離特定装置1Aを示す。なお、
図1と同一の要素には同一の符号を付してその説明を省略する。
この空走距離特定装置1Aは、
図1の空走時間特定装置1に空走時間演算部70を付加したものである。
空走時間演算部70は、乱侵入開始時刻t1の車両の速度に空走時間T1を乗算して空走距離としている。
この例では、CANデータ保存部33には、走行履歴保存部13より、車速データが送られているものとする。
【0044】
図3にこの発明の他の実施態様の空走時間特定装置1Bを示す。なお、
図1と同じ作用を奏する要素には同一の符号を付してその説明を省略する。
この空走時間特定装置1Bは運転中、事故の発生の有無にかかわらず、作動し、運転者の空走時間を常に収集する。
乱侵入判定部120は、車両の前方で乱侵入があったか否かを判定する。この判定は、ドライブレコーダ11のカメラの撮影画像を解析することにより行う。
例えば、進行する道路の中央に所定幅の監視領域を設定する。このとき、横断歩道や交差点などは除外する。監視領域に人影や車両の側面が映り込んだとき、乱侵入があったものと推定される。
監視領域の設定は任意に行える。例えば、車両が進行する道路の中央から道路左右端までの各半分の領域を監視領域とすることができる。
【0045】
乱侵入判定部120により乱侵入があったものと判定されたとき、乱侵入判定部120は、乱侵入があったとされた時刻t3から前後の所定時間のカメラによる撮影画像を事故前の画像データとして画像データ保存部131に保存する。
この例では、乱侵入が認識された時刻t3の前後の運行履歴データを保存することとしている。乱侵入の位置の如何によっては、乱侵入が認識された後に危険回避の運転操作がなされる場合があるからである。
その後の処理は
図1の場合と同様であり、空走時間T1が演算される。
この実施形態の空走時間特定装置1Bによれば、常に運転者の空走時間が特定される。このようにして蓄積された運転者固有の空走時間を統計処理(例えば平均化処理)し、これを運転者の危機回避能力の指標とすることができる。
【0046】
図4にこの発明の他の実施態様の空走距離特定装置1Cを示す。なお、
図1及び
図3と同一の要素には同一の符号を付してその説明を省略する。
この空走距離特定装置1Cは、
図3の空走時間特定装置1Bに空走時間演算部70を付加したものである。
空走時間演算部70は、乱侵入開始時刻t1の車両の速度に空走時間T1を乗算して空走距離としている。
この例では、CANデータ保存部33には、運行履歴保存部13より、車速データが送られているものとする。
【0047】
ドライブレコーダのカメラで撮影された画像を解析して乱侵入が認められたとしても、その位置が車両の現在地から遠くはなれていれば、運転手が危険を感じることがないので、空走時間や空走距離を規定する定義から外れる。
したがって、かかる場合、即ち画像解析の結果乱侵入が認められるがその位置が遠く離れている場合は乱侵入判定の対象外とする。
図5には、乱侵入判定部120の判定結果を検証する判定検証部220を示す。この判定検証部220は
図3及び
図4において、乱侵入判定部120と第1の乱侵入時運行履歴保存部130の間に組み込まれる。
【0048】
この判定検証部220は距離演算部221を備える。乱侵入が発見されて乱侵入判定部120により乱侵入有りと判定されたとき、距離演算部221は得られた画像を処理して、車両の現在位置から乱侵入が特定された位置まで距離を演算する。当該距離は、例えば、乱侵入があった位置近くの道路標識、電柱、その他の地物の大きさから推定可能である。
判定部223において、演算された距離が所定のしきい値距離より大きいときは、運転手はそもそも危険を感じなかったものとして、乱侵入はなかったものとする。ここに、しきい値距離は例えば30m~50mとすることができる。乱侵入が認められたときの車速に応じてしきい値距離を変更可能である。
乱侵入判定部120は、当該判定検証部220の検証結果に基づいて、即ち、乱侵入の位置が所定の距離以内にあったときのみ、運行履歴データを第1の乱侵入運行履歴保存部に保存させる。
【0049】
図6に他の例の判定検証部230を示す。
この判定検証部230乱侵入発見時刻特定部231、乱侵入位置特定部233、到達時間特定部235、到達時間演算部237及び判定部239を備える。
乱侵入時刻特定部231は、乱侵入判定部120が乱侵入有りと判定した時刻、例えば、道路中央に人影を発見した時刻t3を特定する。乱侵入位置特定部233は発見された乱侵入の道路の位置を特定する。例えば、乱侵入のある位置の道路に面する道路標識、建物などの地物を特定する。到達時刻特定部235は、乱侵入位置特定部で特定された道路上の位置に車両が到達した時刻t4を特定する。道路上の位置に車両が到達した時刻t4の特定は画像データを処理することにより行うこともできるし、道路の位置の座標が特定できれば、車両のナビゲーション装置の位置情報から特定することもできる。到達時間演算部237は乱侵入発見時刻t3から車両が乱侵入のあった位置に到達した時刻t4までに要した時間(到達時間T2)を演算する。
【0050】
判定部239において、到達時間T2が所定のしきい値時間より長いときは、運転手はそもそも危険を感じなかったものとして、乱侵入はなかったものとする。ここに、しきい値時間は例えば5秒~30秒とすることができる。このしきい値時間は乱侵入が認められたときの車速に応じで変更してもよい。
乱侵入判定部120は、当該判定検証部239の検証結果に基づいて、即ち、到達時間T2が所定の時間内にあったときのみ、運行履歴データを第1の乱侵入運行履歴保存部に保存させる。
【0051】
上記において、ブラックボックス部5を動作させるため、コンピュータ装置が用いられる。このコンピュータ装置は演算部とメモリ装置を備える。演算部は事故判断部、乱侵入判定部、判定検証部送信部を制御する。メモリ装置には当該演算部をコントロールするプログラムが保存される。メモリ措置は画像データ保存部及びCANデータ保存部を含む第1の乱侵入前画像保存部としても機能する。
解析部7の動作はサーバ装置のコンピュータ資源を利用する。サーバ装置の演算部が乱侵入開始時間特定部、回避運転操作時刻特定部、空走時間演算部及び空走時刻演算部として機能する。サーバ装置のメモリ装置の所定領域に、演算部をコントロールするプログラムが保存される。メモリ措置の他の所定領域は第2の事故時運行履歴保存部、第2の乱侵入時運行履歴保存部として機能する。
【0052】
次に、
図7Aのフローチャート及び
図7Bのタイムチャートに基づき、
図2の空走距離特定装置1Aの動作について説明をする。
図7Bに示すように、時間Tの進行とともに、ドライブレコーダ11のカメラで撮影された画像データと走行履歴保存部13より事故の特定に資するCANデータ(例えば、加速度データ)が継続的にブラックボックス部5の事故判定部20へ送信される(ステップS1)。
ステップ2では、例えば、急激な減速方向の加速度データが検出されたとき、事故判定部20は事故が発生したものと判定する(ステップ2)。
【0053】
事故が発生したと判定されたとき(ステップ2:Y)、事故判定部20は事故発生時刻t3からさかのぼって所定時間(例えば3分)前までの車両の運行履歴データを第1の事故時運行履歴保存部30に保存させる(ステップS3)。ここに、運行履歴データにはドライブレコーダ11のカメラで撮影した画像データ(事故前画像)と危険の回避運転操作を代表するCANデータとしてブレーキデータと速度データとがあり、それぞれ画像データ保存部31とCANデータ保存部33に保存される。
ドライブレコーダ11や走行履歴保存部13が所定期間データを保存していれば、事故判定部20は必要なデータをこれらから読み出して、第1の事故時運行履歴保存部30へ書き込むことができる。他方、ドライブレコーダ11や走行履歴保存部13が所定期間のデータを保存できないときは、事故判定部20内にバッファメモリを備え、その中に常に所定時間(例えば、しきい値時間の3倍の長さの時間)の運行履歴データを保存することが好ましい。
【0054】
このようにして保存された事故時運行履歴データは送信部35を介して送信され、解析部7の受信部36で受信される。
受信された事故時運行履歴データは第2の事故時運行履歴保存部40に保存される。これにより、各車両の事故時運行履歴データがサーバ側の第2の事故時運行履歴保存部40に集積されることとなる。
【0055】
ステップS5では、第2の事故時運行履歴保存部40に保存されている運行履歴データの中の事故前画像データが乱侵入開始時間特定部50に読み出されて、乱侵入の開始時刻t1が特定される。例えば、人影が道路の端と重なったときを乱侵入開始時間とすることができる。
ステップS7では、同じく運用履歴データの中のブレーキに関するCANデータと速度データが読み出されて回避運転操作時刻t2が特定される。ブレーキが強くかけられ、かつ急激な減速の開始時刻を回避運転操作時刻t2とすることができる。
【0056】
ステップS9では、乱侵入開始時刻t1から回避運転操作時刻t2までの時間を演算して空走時間T1とする。乱侵入開始時刻t1の車速は第2の事故時運行履歴保存部40に保存されているので、当該車速と空走時間T1とを乗算して、空走距離を演算する(ステップS11)。
【0057】
次に、
図8Aのフローチャート及び
図8Bのタイムチャートに基づき、
図4に示した実施形態の動作について説明をする。なお、
図8において
図7と同じ要素には同じ符号を付してその説明を省略する。
図8Bに示すとおり、時間Tの進行とともに、ドライブレコーダ11のカメラで撮影された画像データと走行履歴保存部13より事故の特定に資するCANデータ(例えば、加速度データ)が継続的にブラックボックス部5の乱侵入判定部120へ送信される(ステップS21)。
ステップS22では、送信されてきた画像データを乱侵入判定部120が解析して、乱侵入の有無を判定する。例えば、車両の進行方向前方の道路であって横断歩道以外のところに人影を認識したとき、乱侵入が発生したものと判定する。
【0058】
乱侵入が発生したと判定されたとき(ステップ22:Y)、乱侵入判定部第120は乱侵入事故発生時刻t3の前後の所定時間(例えば前に3分、後に1分)の車両の運行履歴データを第1の乱侵入時運行履歴保存部130に保存させる(ステップ23)。ここに、運行履歴データにはドライブレコーダ11のカメラで撮影した画像データ(乱侵入前画像)と危険の回避運転操作を代表するCANデータとしてブレーキデータと速度データとがあり、それぞれ画像データ保存部131とCANデータ保存部33に保存される。
このようにして保存された乱侵入時運行履歴データは送信部35を介して送信され、解析部7の受信部36で受信される。
受信された事故時運行履歴データは第2の乱侵入時運行履歴保存部140に保存される。これにより、各車両が乱侵入に遭遇したときの乱侵入時運行履歴データがサーバ側の第2の乱侵入時運行履歴保存部140に集積されることとなる。
【0059】
ステップ25では、第2の乱侵入時運行履歴保存部140に保存されている運行履歴データの中の事故前画像データが乱侵入開始時間特定部50に読み出されて、乱侵入の開始時刻t1が特定される。例えば、人影が道路の端と重なったときを乱侵入開始時間とすることができる。
ステップS7では、同じく運用履歴データの中のブレーキに関するCANデータと速度データがみ出されて回避運転操作時刻t2が特定される。ブレーキが強くかけられ、かつ急激な減速の開始時刻を回避運転操作時刻t2とすることができる。
【0060】
車両から遠い先で乱侵入が発生していても運転者が危険を感じることはない。したがって、
図5、
図6の例では、運転者が危険を感じないような乱侵入については判定の対象から外すようにした。
図5の例では、撮影画像を処理して乱侵入があったと判定された結果を、判定検証部220で検証している。
図5の例の動作を
図9Aのフローチャート及び
図9Bのタイムチャートを参照して説明する。
【0061】
既述のように、乱侵入判定部120はドライブレコーダ11からの画像を解析して、乱侵入があったか否かの判定をしている(ステップ201、203)。そして、乱侵入を発見したとき(ステップ203:Y)、その時(t3)の画像をバッファメモリに保存(ステップ205)する。ステップ207ではステップ205で保存された画像を処理して、車両から乱侵入があった地点までの距離d1を演算する。画像に移された道路標識や電柱その他の基準となる地物の大きさから距離を推定することができる。
【0062】
このようにして演算された距離d1が所定のしきい値距離以上に長いとき、ステップ209において乱侵入があったとの判定を取り消す。他方、距離d1がしきい値距離より短いときは、乱侵入有りとの判定を有効として、
図8のステップ25へ進む。即ち、乱侵入を認識した時刻t3の前後の所定時間の運行履歴データ(画像データとCANデータ)を第1の乱侵入時運行履歴保存部130に保存し、その後のデータ処理に備える。
【0063】
図6の判定検証部230の動作を
図10Aのフローチャートに示す。なお、
図10において、
図9と同じ要素には同一の符号を付してその説明を部分的に省略する。
この判定検証部230は、車両が乱侵入のあった位置に到達するのに要する時間を演算する。そのため、ステップ211で乱侵入を発見した時刻t3を特定し、ステップ213では乱侵入の位置を道路上にポイントする。乱侵入を発見した画像において、乱侵入が認められた位置の直近の地物(道路標識、建物、その他)を指定する。そして、ドライブレコーダからの画像を解析して指定した地物に車両が到達した時刻t4を特定する(ステップ215)。なお、ここで説明した各時刻や距離の関係を
図10Bにまとめてある。
【0064】
車両の到達時間T2(=t4-t3)が所定のしきい値時間以上に長いとき、乱侵入ありとの判定は取り消される。他方、到達時間T2が所定のしきい値未満であると、乱侵入有りとして
図8のステップ25へ進む。即ち、乱侵入を認識した時刻t3より所定時間前までの運行履歴データ(画像データとCANデータ)を第1の乱侵入時運行履歴保存部130に保存し、その後のデータ処理に備える。
【0065】
本発明は、上記実施形態、実施例、変形例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【符号の説明】
【0066】
1、1B 空走時間特定装置
1A、1C 空走距離特定装置
3 データ収集部
5 ブラックボックス部
7 解析部
10 車両
11 カメラ付きのドライブレコーダ
13 CANデータに代表される走行履歴の保存部