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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】バルブ及び緩衝器
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/348 20060101AFI20231213BHJP
   F16F 9/508 20060101ALI20231213BHJP
   F16F 9/32 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
F16F9/348
F16F9/508
F16F9/32 L
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019201178
(22)【出願日】2019-11-06
(65)【公開番号】P2021076139
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】安井 剛
(72)【発明者】
【氏名】水野 和之
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-183919(JP,A)
【文献】特開2015-086966(JP,A)
【文献】特開平02-076937(JP,A)
【文献】特公昭39-006264(JP,B1)
【文献】特開2018-076920(JP,A)
【文献】特公昭36-000455(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/348
F16F 9/508
F16F 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状であって外周と内周の一方を自由端として軸方向の両側への撓みが許容されるリーフバルブと、
前記リーフバルブの前記自由端との間に隙間をあけて設けられる環状の対向部と、
前記リーフバルブの軸方向の一方に積層されるサブリーフバルブと、
前記リーフバルブに前記隙間と並列に形成されて、前記一方側からの圧力を受けて前記リーフバルブが前記サブリーフバルブから離れる方向へ撓む場合にのみ開く通路とを備え
前記リーフバルブが撓むと前記隙間が大きくなる
ことを特徴とするバルブ。
【請求項2】
環状であって外周と内周の一方を自由端として軸方向の両側への撓みが許容されるリーフバルブと、
前記リーフバルブの前記自由端との間に隙間をあけて設けられる環状の対向部と、
前記リーフバルブの軸方向の一方に積層される第一のサブリーフバルブと、
前記リーフバルブの軸方向の他方に積層される第二のサブリーフバルブと、
前記リーフバルブに前記隙間と並列に形成されて、前記リーフバルブが前記第一のサブリーフバルブから離れる方向へ撓むと開く通路とを備え、
前記リーフバルブには、前記リーフバルブの肉厚を貫通する通孔が形成され、
前記第二のサブリーフバルブには、軸方向視で前記通孔と重なり合う位置に前記第二のサブリーフバルブの肉厚を貫通する孔が形成され、
前記通路は、前記通孔と前記孔により形成されて、前記第一のサブリーフバルブで開閉される
ことを特徴とするバルブ。
【請求項3】
環状であって外周と内周の一方を自由端として軸方向の両側への撓みが許容されるリーフバルブと、
前記リーフバルブの前記自由端との間に隙間をあけて設けられる環状の対向部と、
前記リーフバルブの軸方向の一方に積層される第一のサブリーフバルブと、
前記リーフバルブの軸方向の他方に積層される第二のサブリーフバルブと、
前記第二のサブリーフバルブの前記リーフバルブとは反対側に積層される第三のサブリーフバルブと
前記リーフバルブに前記隙間と並列に形成されて、前記リーフバルブが前記第一のサブリーフバルブから離れる方向へ撓むと開く通路とを備え、
前記リーフバルブには、前記リーフバルブの肉厚を貫通する通孔が形成され、
前記第二のサブリーフバルブには、軸方向視で前記通孔と重なり合う位置に、前記第二のサブリーフバルブの肉厚を貫通するとともに側方へ開口する切欠きが形成され、
前記通路は、前記通孔と前記切欠きにより前記リーフバルブと前記第三のサブリーフバルブとの間に形成される隙間により形成されて、前記第一のサブリーフバルブで開閉される
ことを特徴とするバルブ。
【請求項4】
環状であって外周と内周の一方を自由端として軸方向の両側への撓みが許容されるリーフバルブと、
前記リーフバルブの前記自由端との間に隙間をあけて設けられる環状の対向部と、
前記リーフバルブの軸方向の一方に積層される第一のサブリーフバルブと、
前記リーフバルブの軸方向の他方に積層される第二のサブリーフバルブと、
前記リーフバルブに前記隙間と並列に形成されて、前記リーフバルブが前記第一のサブリーフバルブから離れる方向へ撓むと開く第一の通路と、
前記リーフバルブに前記隙間と並列に形成されて、前記リーフバルブが前記第二のサブリーフバルブから離れる方向へ撓むと開く第二の通路とを備える
ことを特徴とするバルブ。
【請求項5】
前記リーフバルブには、前記リーフバルブの肉厚を貫通する第一、第二の通孔が形成され、
前記第一のサブリーフバルブには、軸方向視で前記第二の通孔と重なり合う位置に、前記第一のサブリーフバルブの肉厚を貫通する第一のサブリーフバルブ孔が形成され、
前記第二のサブリーフバルブには、軸方向視で前記第一の通孔と重なり合う位置に、前記第二のサブリーフバルブの肉厚を貫通する第二のサブリーフバルブ孔が形成され、
前記第一の通路は、前記第一の通孔と前記第二のサブリーフバルブ孔により形成されて、前記第一のサブリーフバルブで開閉され、
前記第二の通路は、前記第二の通孔と前記第一のサブリーフバルブ孔により形成されて、前記第二のサブリーフバルブで開閉される
ことを特徴とする請求項4に記載のバルブ。
【請求項6】
前記第一の通孔は、前記第二の通孔より外周側又は内周側に形成されている
ことを特徴とする請求項5に記載のバルブ。
【請求項7】
シリンダと、
前記シリンダ内に軸方向へ移動可能に挿入されるロッドと、
請求項1から6の何れか一項に記載のバルブとを備え、
前記バルブは、前記シリンダと前記ロッドが軸方向へ相対移動する際に生じる液体の流れに対して抵抗を与える
ことを特徴とする緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブと、バルブを備えた緩衝器の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バルブは、例えば、緩衝器の伸縮時に生じる液体の流れに抵抗を与えて減衰力を発生するのに利用されている。さらに、そのようなバルブの中には、内周と外周の一方を固定端、他方を自由端として軸方向の両側への撓みが許容されるリーフバルブと、このリーフバルブの自由端の端面に向かって突出するとともに、その自由端の端面に対向した状態で、この端面との間に微小な隙間を形成する環状の対向面を含む対向部とを備えるものがある(例えば、特許文献1)。
【0003】
上記構成によれば、リーフバルブの自由端の端面と対向部の対向面とが対向した状態であってもこれらの間に微小な隙間ができるので、リーフバルブの自由端側の端部がその端面を対向部の対向面に対向させた位置から対向しない位置まで軸方向の両側へ動ける。これにより、緩衝器の伸縮速度(ピストン速度)が上昇するとリーフバルブの自由端側の端部が撓み、その端面と対向部の対向面とが対向しなくなる。そして、ピストン速度の上昇に伴いリーフバルブの撓み量が増えると自由端と対向部との間にできる隙間が大きくなってリーフバルブを通過する液体の流量が増える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平2-76937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、リーフバルブの耐久性を向上させる上では、リーフバルブを通過する液体の流量を確保しつつ、リーフバルブの撓み量を小さくするのが好ましい。そして、リーフバルブを通過する液体の流量を確保しつつ撓み量を小さくするには、リーフバルブの撓み量が小さくてもリーフバルブの自由端の端面と対向面とが対向しなくなるように、対向面とその近傍の対向部の軸方向長さ(厚み)を短くする必要がある。とはいえ、強度確保等の観点から、対向部の軸方向長さを短くするにも限界があり、従来のバルブでは、リーフバルブを通過する液体の流量を確保しつつリーフバルブの耐久性を向上させるのが難しい。
【0006】
そこで、本発明の目的は、このような不具合を解消し、リーフバルブを通過する液体の流量を確保しつつ、リーフバルブの耐久性を向上できるバルブ、及び緩衝器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するバルブは、軸方向の両側への撓みが許容されるリーフバルブと、このリーフバルブの自由端との間に隙間をあけて設けられる環状の対向部と、リーフバルブの軸方向の一方に積層されるサブリーフバルブ(第一のサブリーフバルブ)と、リーフバルブに隙間と並列に形成されて、一方側からの圧力を受けてリーフバルブがサブリーフバルブから離れる方向へ撓む場合にのみ開く通路(第一の通路)とを備え、リーフバルブが撓むと隙間が大きくなることを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、リーフバルブが撓んで通路が開き、その通路を液体が通過できるようになる分、リーフバルブの撓み量に対する流量が増えるので、リーフバルブを通過する液体の流量を確保しつつ、リーフバルブの撓み量が大きくなるのを抑制してリーフバルブの耐久性を向上できる。
【0009】
また、他の発明のバルブは、軸方向の両側への撓みが許容されるリーフバルブと、このリーフバルブの自由端との間に隙間をあけて設けられる環状の対向部と、リーフバルブの軸方向の一方に積層される第一のサブリーフバルブと、リーフバルブの軸方向の他方に積層される第二のサブリーフバルブと、リーフバルブに隙間と並列に形成されて、リーフバルブが第一のサブリーフバルブから離れる方向へ撓むと開く通路とを備え、通路がリーフバルブの肉厚を貫通する通孔と第二のサブリーフバルブの肉厚を貫通する孔により形成されて、第一のサブリーフバルブで開閉されることを特徴とする。これにより、リーフバルブが第一のサブリーフバルブから離れる方向へ撓むと開く通路を容易に形成できるとともに、軸方向視における通孔と孔とが重なり合う量を変更すれば通路の開口面積を変更できるので、その通路の開口面積の調節を容易にできる。
【0010】
また、さらに他の発明のバルブは、軸方向の両側への撓みが許容されるリーフバルブと、このリーフバルブの自由端との間に隙間をあけて設けられる環状の対向部と、リーフバルブの軸方向の一方に積層される第一のサブリーフバルブと、リーフバルブの軸方向の他方に積層される第二のサブリーフバルブと、この第二のサブリーフバルブのリーフバルブとは反対側に積層される第三のサブリーフバルブと、リーフバルブに隙間と並列に形成されて、リーフバルブが第一のサブリーフバルブから離れる方向へ撓むと開く通路とを備え、通路がリーフバルブに形成される通孔と、第二のサブリーフバルブに形成される切欠きによりリーフバルブと第三のサブリーフバルブとの間に形成される隙間により形成されて、第一のサブリーフバルブで開閉されることを特徴とする
【0011】
これにより、リーフバルブが第一のサブリーフバルブから離れる方向へ撓むと開く通路を容易に形成できる。さらに、切欠きの形状の変更により通路の開口面積を変更できるので、その開口面積の調節を一層容易にできる。加えて、リーフバルブが第一のサブリーフバルブから離れる方向へ撓んで通路が開いた後に、第三のサブリーフバルブが第二のサブリーフバルブから離れて通路の開口面積を広げるようにもできる。
【0012】
また、別の発明のバルブは、軸方向の両側への撓みが許容されるリーフバルブと、このリーフバルブの自由端との間に隙間をあけて設けられる環状の対向部と、リーフバルブの軸方向の一方に積層される第一のサブリーフバルブと、リーフバルブの軸方向の他方に積層される第二のサブリーフバルブと、リーフバルブに隙間と並列に形成されて、リーフバルブが第一のサブリーフバルブから離れる方向へ撓むと開く第一の通路と、リーフバルブに上記隙間と並列に形成されて、リーフバルブが第二のサブリーフバルブから離れる方向へ撓むと開く第二の通路とを備えることを特徴とする。これにより、リーフバルブが軸方向のどちらに撓む場合であっても、リーフバルブを通過する液体の流量を確保しつつ、リーフバルブの撓み量が大きくなるのを抑制できるので、リーフバルブの耐久性を一層向上できる。
【0013】
また、上記バルブでは、第一の通路がリーフバルブに形成される第一の通孔と第二のサブリーフバルブに形成される第二のサブリーフバルブ孔により形成されるとともに、第一のサブリーフバルブで開閉される一方で、第二の通路が第二の通孔と第一のサブリーフバルブに形成される第一のサブリーフバルブ孔により形成されるとともに、第二のサブリーフバルブで開閉されるとしてもよい。これにより、第一、第二の通路を容易に形成できるとともに、各通路の開口面積を個別に容易に調整できる。
【0014】
また、上記バルブでは、リーフバルブに形成される第一の通孔が第二の通孔より外周側に形成されていてもよい。これにより、リーフバルブ、第一のサブリーフバルブ、第二のサブリーフバルブの周方向の位置合わせをしなくても、第一の通孔と第二のサブリーフバルブ孔とを連通させるとともに、第二の通孔と第一のサブリーフバルブ孔とを連通させるのが容易である。
【0015】
また、上記バルブが緩衝器に設けられていて、その緩衝器が上記バルブの他に、シリンダと、このシリンダ内に軸方向へ移動可能に挿入されるロッドとを備え、前記シリンダと前記ロッドが軸方向へ相対移動する際に生じる液体の流れに対して上記バルブで抵抗を与えてもよい。これにより、緩衝器の伸縮時に上記バルブの抵抗に起因する減衰力を発生できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のバルブ、及びバルブを備えた緩衝器によれば、リーフバルブを通過する液体の流量を確保しつつ、リーフバルブの耐久性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施の形態に係るバルブである減衰バルブを備えた緩衝器を示した縦断面図である。
図2図1のピストン部を拡大して示した部分拡大図である。
図3図2の一部を拡大して示した部分拡大図である。
図4】本発明の一実施の形態に係るバルブである減衰バルブのリーフバルブ、及び第一、第二のサブリーフバルブを分解して示した平面図である。
図5図3に示すリーフバルブが下方へ撓んだ状態を説明する説明図である。
図6】本発明の一実施の形態に係るバルブである減衰バルブの第一の変形例を示し、この変形例に係る減衰バルブのリーフバルブが下方へ撓んだ状態を説明する説明図である。
図7図6に示す第一の変形例に係る減衰バルブのリーフバルブ、及び第一、第二、第三のサブリーフバルブを分解して示した平面図である。
図8】(a)は、本発明の一実施の形態に係るバルブである減衰バルブの第二の変形例を示し、この変形例に係る減衰バルブのリーフバルブが下方へ撓んだ状態を説明する説明図である。(b)は、(a)に記載のリーフバルブが上方へ撓んだ状態を説明する説明図である。
図9図8に示す第二の変形例に係る減衰バルブのリーフバルブ、及び第一、第二のサブリーフバルブを分解して示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。いくつかの図面を通して付された同じ符号は、同じ部品(部分)か対応する部品(部分)を示す。
【0019】
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係るバルブは、緩衝器Dのピストン部に具現化された減衰バルブVである。そして、緩衝器Dは、自動車等の車両の車体と車軸との間に介装されている。以下の説明では、説明の便宜上、特別な説明がない限り図1に示す緩衝器Dの上下を、単に「上」「下」という。
【0020】
なお、本発明に係るバルブを備えた緩衝器の取付対象は、車両に限らず適宜変更できる。また、取付状態での緩衝器の上下を取付対象に応じて適宜変更できるのは勿論である。具体的には、本実施の形態の緩衝器Dを図1と同じ向きで車両に取り付けても、上下逆向きにして車両に取り付けてもよい。
【0021】
つづいて、上記緩衝器Dの具体的な構造について説明する。図1に示すように、緩衝器Dは、有底筒状のシリンダ1と、このシリンダ1内に摺動自在に挿入されるピストン2と、下端がピストン2に連結されて上端がシリンダ1外へと突出するピストンロッド3とを備える。
【0022】
そして、ピストンロッド3の上端には、ブラケット(図示せず)が設けられており、ピストンロッド3がそのブラケットを介して車体と車軸の一方に連結される。その一方、シリンダ1の底部1aにもブラケット(図示せず)が設けられており、シリンダ1がそのブラケットを介して車体と車軸の他方に連結される。
【0023】
このようにして緩衝器Dは車体と車軸との間に介装される。そして、車両が凹凸のある路面を走行する等して車輪が車体に対して上下に振動すると、ピストンロッド3がシリンダ1に出入りして緩衝器Dが伸縮するとともに、ピストン2がシリンダ1内を上下(軸方向)に移動する。
【0024】
また、緩衝器Dは、シリンダ1の上端を塞ぐとともに、ピストンロッド3を摺動自在に支える環状のシリンダヘッド10を備える。その一方、シリンダ1の下端は底部1aで塞がれている。このように、シリンダ1内は、密閉空間とされている。そして、そのシリンダ1内のピストン2から見てピストンロッド3とは反対側に、フリーピストン11が摺動自在に挿入されている。
【0025】
シリンダ1内において、そのフリーピストン11より上側には、作動油等の液体が充填された液室Lが形成されている。その一方、シリンダ1内におけるフリーピストン11より下側には、エア、又は窒素ガス等の圧縮ガスが封入されたガス室Gが形成されている。このように、シリンダ1内は、フリーピストン11で液室Lとガス室Gとに仕切られている。
【0026】
そして、緩衝器Dの伸長時にピストンロッド3がシリンダ1から退出し、その退出したピストンロッド3の体積分シリンダ内容積が増加すると、フリーピストン11がシリンダ1内を上側へ移動してガス室Gを拡大させる。反対に、緩衝器Dの収縮時にピストンロッド3がシリンダ1内へ侵入し、その侵入したピストンロッド3の体積分シリンダ内容積が減少すると、フリーピストン11がシリンダ1内を下側へ移動してガス室Gを縮小させる。
【0027】
このように、本実施の形態では、緩衝器Dが片ロッド、単筒型であり、シリンダ1に出入りするピストンロッド3の体積分をガス室Gで補償している。しかし、緩衝器Dの構成は、この限りではない。例えば、ガス室Gに替えて液体とガスを収容するリザーバを設け、緩衝器の伸縮時にシリンダとリザーバとの間で液体をやり取りしてシリンダに出入りするピストンロッド体積分を補償してもよい。さらに、緩衝器を両ロッド型にして、ピストンの両側にピストンロッドを設けてもよく、この場合には、ピストンロッド体積分を補償するための構成自体を省略できる。
【0028】
つづいて、シリンダ1内の液室Lは、ピストン2でピストンロッド3側の伸側室L1と、その反対側(反ピストンロッド側)の圧側室L2とに区画されている。そのピストン2は、ピストンロッド3の外周に形成される段差3aとピストンロッド3の先端部に螺合するナット30で挟まれて、ピストンロッド3の外周に縦並びに保持される二つのバルブディスク4,5を有して構成される。
【0029】
その二つのバルブディスク4,5のうちの、上側(伸側室L1側)のバルブディスク4には、伸側と圧側のメインバルブ6,7が装着されている。その一方、下側(圧側室L2側)のバルブディスク5には、極低速バルブ8が装着されている。そして、二つのバルブディスク4,5、伸側と圧側のメインバルブ6,7及び極低速バルブ8を含んで減衰バルブVが構成されている。以下、この減衰バルブVを構成する各部材について詳細に説明する。
【0030】
図2に示すように、上側のバルブディスク4は、ピストンロッド3の挿通を許容する取付孔4aが中心部に形成される環状の本体部4bと、この本体部4bの下端外周部から下方へ突出する筒状のスカート部4cとを含む。さらに、本体部4bには、スカート部4cの内周側に開口して本体部4bを軸方向へ貫通する伸側と圧側のポート4d,4eが形成されている。そして、伸側のポート4dが本体部4bの下側に積層される伸側のメインバルブ6で開閉され、圧側のポート4eが本体部4bの上側に積層される圧側のメインバルブ7で開閉される。
【0031】
また、下側のバルブディスク5は、ピストンロッド3の挿通を許容する取付孔5aが中心部に形成されるとともに、上側のバルブディスク4におけるスカート部4cの内周に嵌合する環状の嵌合部5bと、この嵌合部5bの下端外周部から下方へ突出する筒部5cと、この筒部5cの下端から径方向内側へ突出する環状の対向部5dとを含む。そして、嵌合部5bとスカート部4cの間がシール5eで塞がれるとともに、嵌合部5bには、スカート部4cの内側と筒部5cの内側を連通する連通孔5fが形成されている。なお、シール5eについては、嵌合部5bをスカート部4cに圧入することで両者の間をシールできる場合には省略してもよい。さらに、嵌合部5bの下側に、バルブストッパ9と、極低速バルブ8が積層されており、この極低速バルブ8は、筒部5cの下端に位置する対向部5dの開口を塞ぐように設けられている。
【0032】
これにより、メインバルブ6,7から圧側室L2へと向かう液体は、上側のバルブディスク4におけるスカート部4cの内側と、下側のバルブディスク5における連通孔5f及び筒部5cの内側と、極低速バルブ8とをこの順に流れる。反対に、圧側室L2からメインバルブ6,7へ向かう液体は、上記経路を逆向きに流れる。このように、本実施の形態の極低速バルブ8は、伸側室L1と圧側室L2とを連通する通路の途中にメインバルブ6,7と直列に設けられている。以下、メインバルブ6,7と極低速バルブ8との間に位置するスカート部4cの内側から筒部5cの内側にかけての空間を中間室L3とする。
【0033】
伸側と圧側のメインバルブ6,7は、それぞれ、一枚以上のリーフバルブを有して構成されている。このリーフバルブは、弾性を有する薄い環状板であり、各メインバルブ6,7は、外周側の撓みが許容された状態で内周側をバルブディスク4に固定され、外周部をバルブディスク4に離着座させて対応するポート4d,4eの出口を開閉する。
【0034】
伸側のポート4dの入口は伸側室L1に開口しており、伸側室L1の圧力が伸側のメインバルブ6の外周部を下方へ撓ませて、伸側のポート4dを開く方向へ作用する。その一方、圧側のポート4eの入口は中間室L3に開口しており、この中間室L3の圧力が圧側のメインバルブ7の外周部を上方へ撓ませて、圧側のポート4eを開く方向へ作用する。
【0035】
さらに、伸側と圧側のメインバルブ6,7を構成するリーフバルブのうちの、最もバルブディスク4側に位置する一枚目のリーフバルブの外周部には、それぞれ切欠き6a,7aが形成されている。これにより、伸側と圧側のメインバルブ6,7が閉弁していても、切欠き6a,7aによりオリフィスが形成されて、液体がそのオリフィスを通って伸側室L1と中間室L3との間を行き来する。
【0036】
上記切欠き6a,7aにより形成されるオリフィスは、液体の双方向流れを許容する。このため、伸側と圧側のメインバルブ6,7に形成される切欠き6a,7aのうちの一方を省略してもよい。また、オリフィスの形成方法は、適宜変更できる。例えば、伸側又は圧側のメインバルブ6,7が離着座する弁座に打刻を形成し、この打刻によりオリフィスを形成してもよい。また、オリフィスをチョークに替えてもよい。さらに、メインバルブは、ポペットバルブ等のリーフバルブ以外のバルブでもよい。
【0037】
つづいて、極低速バルブ8は、図3に示すように、リーフバルブ8aと、その上下に積層される第一、第二のサブリーフバルブ8b,8cとを有して構成されている。リーフバルブ8aと、第一、第二のサブリーフバルブ8b,8cは、それぞれ弾性を有する薄い環状板であり、第一、第二のサブリーフバルブ8b,8cの外径は、リーフバルブ8aの外径よりも小さい。
【0038】
さらに、極低速バルブ8の上下には、外径がリーフバルブ8a、及び第一、第二のサブリーフバルブ8b,8cの外径よりも小さい間座80a,80bが一枚以上積層されている。そして、極低速バルブ8の内周部が間座80a,80bで挟まれてバルブディスク5に固定されている。その一方、極低速バルブ8における間座80a,80bよりも外周側は、それぞれ上下両側への撓みが許容されている。このように、本実施の形態では、リーフバルブ8a、及び第一、第二のサブリーフバルブ8b,8cの内周が固定端、外周が自由端となっている。
【0039】
また、リーフバルブ8aは、撓んでいない状態でその自由端の端面となる外周面f1が対向部5dの内周面f2と相対向する位置に設けられている。換言すると、バルブディスク5の対向部5dは、撓んでいない状態でのリーフバルブ8aの外周面(自由端の端面)f1に向かって突出し、その対向部5dの内周面f2がリーフバルブ8aの外周面f1と対向する対向面となっている。なお、「撓んでいない状態」とは、無負荷時の状態(自然長となった状態)に保たれていることをいう。
【0040】
リーフバルブ8aが撓んでいない状態で、そのリーフバルブ8aの外周面f1と対向部5dの内周面f2とが相対向した状態であっても、リーフバルブ8aの外周(自由端)と対向部5dとの間には隙間Pができる。そして、この隙間Pによって、リーフバルブ8aの外周(自由端)の対向部5dに対する上下の移動が許容される。しかし、その隙間Pは非常に狭いので、隙間Pを介した液体の移動はほとんど起こらない。
【0041】
圧側室L2の圧力はリーフバルブ8aの外周部を上方へ撓ませる方向へ作用する。その一方、中間室L3の圧力はリーフバルブ8aの外周部を下方へ撓ませる方向へ作用する。そして、圧側室L2又は中間室L3の圧力を受けてリーフバルブ8aの外周部が上下に撓み、外周面f1と対向部5dの内周面f2とが上下にずれて対向しなくなると、リーフバルブ8aの撓み量が大きくなるほどその外周(自由端)と対向部5dとの間にできる隙間Pが広がる。
【0042】
また、リーフバルブ8aと、この下側に重なる第二のサブリーフバルブ8cは、孔開リーフバルブであり、これらにはそれぞれピストンロッド3の挿通を許容する取付孔(符示せず)の他に、その肉厚を貫通する孔が形成されている。以下、リーフバルブ8aに形成される孔と、第二のサブリーフバルブ8cに形成される孔とを区別するため、前者を通孔h1、後者を孔h2とする。また、減衰バルブVを構成する各部材がピストンロッド3の外周に装着された状態を取付状態とする。
【0043】
図4に示すように、リーフバルブ8aの通孔h1は、平面視において円形で、リーフバルブ8aの周方向に八つ並んで形成されている。その一方、第二のサブリーフバルブ8cの孔h2は、平面視において円弧状で、第二のサブリーフバルブ8cの周方向に三つ並んで形成されている。そして、図3に示すように、リーフバルブ8aと第二のサブリーフバルブ8cが取付状態にある場合、これらの周方向の位置合わせをしなくても、一つの孔h2に対して二以上の通孔h1が連通される。
【0044】
これにより、通孔h1の下端が第二のサブリーフバルブ8cで塞がれるのを防ぎ、通孔h1の下端が常に開放された状態に維持される。なお、通孔h1の下端が第二のサブリーフバルブ8cで塞がれるのを防ぐには、リーフバルブ8aと第二のサブリーフバルブ8cの取付状態において、通孔h1の下端開口と孔h2の上端開口が軸方向視(軸方向の一方から見た状態)で重なるように通孔h1と孔h2を配置すればよく、このような位置関係になっている限り、通孔h1及び孔h2の数、形状、及び配置は任意に変更できる。また、通孔h1を平面視において円弧状として、リーフバルブ8aの周方向に並べて形成してもよく、孔h2を平面視において円形として、第二のサブリーフバルブ8cの周方向に並べて形成してもよい。
【0045】
その一方、リーフバルブ8aの上側に重なる第一のサブリーフバルブ8bは、本実施の形態において、ピストンロッド3の挿通を許容する取付孔(符示せず)以外に孔を持たない孔無リーフバルブである。そして、図3に示すように、リーフバルブ8aと第一のサブリーフバルブ8bが取付状態にある場合、第一のサブリーフバルブ8bの外周がリーフバルブ8aの通孔h1の上側開口よりも外周側に位置する。
【0046】
これにより、第一のサブリーフバルブ8bの外周がリーフバルブ8aの上面に当接した状態では、通孔h1の上端が第一のサブリーフバルブ8bで塞がれる。また、図3に示すリーフバルブ8aの外周部が圧側室L2の圧力を受けて上方へ撓むと、これに倣うように第一のサブリーフバルブ8bの外周部も上方へ撓むので、第一のサブリーフバルブ8bの外周がリーフバルブ8aの上面に当接した状態に維持されて、通孔h1の上端が第一のサブリーフバルブ8bで閉塞された状態に維持される。
【0047】
これに対して、図5に示すように、リーフバルブ8aの外周部が中間室L3の圧力を受けて下方へ撓むと、第一のサブリーフバルブ8bの外周がリーフバルブ8aの上面から離れ、通孔h1の上端が開放される。リーフバルブ8aの外周部が下方へ撓む場合、これに倣うように第二のサブリーフバルブ8cの外周部も下方へ撓むので、第二のサブリーフバルブ8cの外周はリーフバルブ8aの下面に当接した状態に維持されるが、通孔h1の下端は孔h2により下方へ開放されている。
【0048】
これにより、中間室L3の液体が第一のサブリーフバルブ8bとリーフバルブ8aの間から通孔h1に流入し、この通孔h1と孔h2を通って圧側室L2へ移動できるようになる。つまり、通孔h1と孔h2とで、リーフバルブ8aの外周(自由端)と対向部5dとの間にできる隙間Pに並列される通路Bが形成される。そして、この通路Bが第一のサブリーフバルブ8bで開閉されるとともに、この第一のサブリーフバルブ8bは、リーフバルブ8aが下方へ撓んだ場合に通路Bを開き、その通路Bを中間室L3から圧側室L2へ向かう液体の流れを許容する。
【0049】
また、リーフバルブ8aと第一のサブリーフバルブ8bの上方への撓み量がある程度大きくなると、リーフバルブ8aと第一のサブリーフバルブ8bの一方又は両方がバルブストッパ9に当接し、それ以上の撓みが阻止される。このように、バルブストッパ9は、リーフバルブ8aと第一のサブリーフバルブ8bの上方への撓み量を制限する。
【0050】
反対に、リーフバルブ8aと第二のサブリーフバルブ8cの下方への撓み量がある程度大きくなると、リーフバルブ8aと第二のサブリーフバルブ8cの一方又は両方がナット30に当接し、それ以上の撓みが阻止される。このように、ナット30は、リーフバルブ8aと第二のサブリーフバルブ8cの下方への撓み量を制限するバルブストッパとして機能する。なお、ナット30とは別に、リーフバルブ8aと第二のサブリーフバルブ8cの下方への撓み量を制限するバルブストッパを設けてもよいのは勿論である。
【0051】
さらに、そのナット30の上端には、径方向に沿うように溝30aが形成されている。この溝30aは、リーフバルブ8a又は第二のサブリーフバルブ8cがナット30に当接したときに、通路Bと圧側室L2との連通が遮断されるのを防止する。なお、そのような溝30aは、極低速バルブ8に形成されていてもよい。また、溝30aに替えて孔をナット(バルブストッパ)30に形成し、この孔によって第一のサブリーフバルブ8bが通路Bを開いたときの通路Bの連通が保障されていてもよい。
【0052】
以下、本実施の形態に係る減衰バルブ(バルブ)Vを備えた緩衝器Dの作動について説明する。
【0053】
緩衝器Dの伸長時には、ピストン2がシリンダ1内を上方へ移動して伸側室L1を圧縮し、この伸側室L1の液体が減衰バルブVを通って圧側室L2へと移動する。当該液体の流れに対しては、伸側のメインバルブ6、各メインバルブ6,7の切欠き6a,7aにより形成されたオリフィス、又は極低速バルブ8により抵抗が付与されるので伸側室L1の圧力が上昇し、緩衝器Dが伸長作動を妨げる伸側減衰力を発揮する。
【0054】
反対に、緩衝器Dの収縮時には、ピストン2がシリンダ1内を下方へ移動して圧側室L2を圧縮し、この圧側室L2の液体が減衰バルブVを通過して伸側室L1へと移動する。当該液体の流れに対しては、圧側のメインバルブ7、各メインバルブ6,7の切欠き6a,7aにより形成されたオリフィス、又は極低速バルブ8により抵抗が付与されるので圧側室L2の圧力が上昇し、緩衝器Dが収縮作動を妨げる圧側減衰力を発揮する。
【0055】
そして、上記緩衝器Dでは、ピストン速度に応じて伸側と圧側のメインバルブ6,7が開弁したり、極低速バルブ8のリーフバルブ8aの外周部が上下に撓んだりして減衰力特性(ピストン速度に対する減衰力の特性)が変化する。
【0056】
より詳しくは、緩衝器Dの動き出しのようなピストン2の速度(ピストン速度)が極めて低く、ピストン速度が0(ゼロ)に近い極低速域にある場合、伸側と圧側のメインバルブ6,7は閉じている。その一方、極低速バルブ8のリーフバルブ8aの外周部は、緩衝器Dの伸長時には下方へ、収縮時には上方へと撓み、リーフバルブ8aの外周面f1と対向部5dの内周面f2が上下にずれて対向しなくなる。
【0057】
この場合、伸側室L1と圧側室L2との間を行き来する液体は、各メインバルブ6,7の切欠き6a,7aにより形成されるオリフィスと、中間室L3と、上下にずれたリーフバルブ8aの外周と対向部5dの内周との間にできる隙間Pを通過する。また、緩衝器Dの伸長時には、下方へ撓むリーフバルブ8aの上面から第一のサブリーフバルブ8bの外周が離れて通路Bが開く。極低速域では、伸長時における通路Bと隙間Pとを合わせた流路の開口面積と、収縮時における隙間Pの開口面積が、それぞれピストン速度の上昇に伴い大きくなるが、各メインバルブ6,7の切欠き6a,7aにより形成された全オリフィスの開口面積よりも小さい。
【0058】
このため、ピストン速度が極低速域にある場合、液体が伸側室L1と圧側室L2との間を移動する際の圧力損失は、伸長時にはリーフバルブ8aの外周と対向部5dの内周との間にできる隙間Pと通路Bとを合わせた流路による圧力損失が支配的となり、収縮時には隙間Pによる圧力損失が支配的となる。そして、極低速域での減衰力特性は、伸長時にも収縮時にもピストン速度に比例するバルブ特有の特性となる。リーフバルブ8aにおける通孔h1の設置位置をリーフバルブ8aの図5よりも内周寄りにするか、中間室L3側から圧力を受けた際にリーフバルブ8aがリーフバルブ8cによって支持されていない外周部がより撓むように設定して、ピストン速度が極低速域にある場合に通路Bが開かないようにし、ピストン速度が低速域或いは中高速域にある場合に通路Bが開くように設定してもよい。
【0059】
なお、前述のように、リーフバルブ8aの外周面f1と対向部5dの内周面f2とが対向した状態であってもこれらの間に微小な隙間ができる。このため、極低速域内の低速側の領域で、液体がその微小な隙間を通過するとしてもよい。このような場合には、極低速域内の低速側の領域で、その微小な隙間による圧力損失が支配的となって減衰力特性がビストン速度の二乗に比例するオリフィス特有の特性となり、極低速域内の高速側の領域でバルブ特有の特性となる。
【0060】
つづいて、ピストン速度が高くなり、極低速域から脱して低速域にある場合、極低速域にある場合と同様に、伸側と圧側のメインバルブ6,7は閉じている。その一方、極低速バルブ8におけるリーフバルブ8aの外周部の撓み量は大きくなって、伸長時における隙間Pと通路Bとを合わせた流路の開口面積と、収縮時における隙間Pの開口面積が、それぞれ各メインバルブ6,7の切欠き6a,7aにより形成された全オリフィスの開口面積よりも大きくなる。
【0061】
このため、ピストン速度が低速域にある場合、液体が伸側室L1と圧側室L2との間を移動する際の圧力損失は、切欠き6a,7aにより形成されたオリフィスによる圧力損失が支配的となる。そして、低速域での減衰力特性は、ピストン速度の二乗に比例するオリフィス特有の特性となる。
【0062】
つづいて、ピストン速度がさらに高くなり、低速域から脱して中高速域にある場合、緩衝器Dの伸長時には伸側のメインバルブ6が開き、収縮時には圧側のメインバルブ7が開く。さらに、極低速バルブ8のリーフバルブ8aの撓み量が低速域と比較して大きくなり、上下にずれたリーフバルブ8aの外周と対向部5dの内周との間にできる隙間Pが広くなる。
【0063】
この場合、伸側室L1と圧側室L2との間を行き来する液体は、伸側又は圧側のメインバルブ6,7の開弁によってその外周部とバルブディスク4との間にできる隙間(開口部)と、中間室L3と、上下にずれたリーフバルブ8aの外周と対向部5dの内周との間にできる隙間Pと、伸長時にはリーフバルブ8aに形成される通路Bを通過する。中高速域において、隙間Pは広く、液体が比較的抵抗なく通過する。
【0064】
このため、ピストン速度が中高速域にある場合、液体が伸側室L1と圧側室L2との間を移動する際の圧力損失は、伸側又は圧側のメインバルブ6,7の開口部による圧力損失が支配的となる。そして、中高速域での減衰力特性は、ピストン速度に比例するバルブ特有の特性となり、低速域と比較して傾きが小さくなる。また、中高速域の途中でメインバルブ6,7が開き切る場合には、その開き切った速度を境に減衰力特性がポート特有の特性となって、傾きが再び大きくなる。
【0065】
以下、本実施の形態に係る減衰バルブ(バルブ)V、及びその減衰バルブVを備えた緩衝器Dの作用効果について説明する。
【0066】
本実施の形態に係る減衰バルブ(バルブ)Vは、環状であって外周を自由端として軸方向の両側への撓みが許容されるリーフバルブ8aと、このリーフバルブ8aの外周(自由端)との間に隙間Pをあけて設けられる環状の対向部5dと、リーフバルブ8aの上側(軸方向の一方)に積層される第一のサブリーフバルブ(サブリーフバルブ)8bと、リーフバルブ8aに隙間Pと並列に形成されて、リーフバルブ8aが第一のサブリーフバルブ8bから離れる方向へ撓むと開く通路Bとを備える。
【0067】
上記構成によれば、リーフバルブ8aが撓んで通路Bが開くと、液体が通路Bと隙間Pの両方を通過できるようになる。これにより、通路Bをもたないリーフバルブと比較して、撓み量が同じであっても、液体が通路Bを通過できるようになった分、リーフバルブ8aを通過する液体の流量が増える。このように、上記構成によれば、リーフバルブ8aの撓み量に対する流量が増えるので、リーフバルブ8aを通過する液体の流量を確保しつつ、リーフバルブ8aの撓み量が大きくなるのを抑制してリーフバルブ8aの耐久性を向上できる。
【0068】
また、本実施の形態の減衰バルブ(バルブ)Vは、リーフバルブ8aの下側(軸方向の他方)に積層される第二のサブリーフバルブ8cを備えている。さらに、リーフバルブ8aには、その肉厚を貫通する通孔h1が形成されるとともに、第二のサブリーフバルブ8cには、軸方向視で通孔h1と重なり合う位置に第二のサブリーフバルブ8cの肉厚を貫通する孔h2が形成されている。そして、通路Bが通孔h1と、孔h2により形成されて、第一のサブリーフバルブ8bで開閉される。
【0069】
上記構成によれば、リーフバルブ8aが第一のサブリーフバルブ8bから離れる方向へ撓むと開く通路Bを容易に形成できる。さらに、通孔h1と孔h2の重なり合う量を変更すると通路Bの開口面積を変更できるので、通路Bの開口面積の調整を容易にできる。そして、その通路Bの開口面積は、中高速域で発生する減衰力のチューニング要素になるので、上記構成によれば減衰力のチューニングを容易にできる。
【0070】
なお、第二のサブリーフバルブ8cは省略されても、変更されてもよい。例えば、第二のサブリーフバルブを変更した第一の変形例に係る減衰バルブでは、図6,7に示すように、リーフバルブ8aの下側(軸方向の他方)に積層される第二のサブリーフバルブ8dに、軸方向視で通孔h1と重なり合う位置に、第二のサブリーフバルブ8dの肉厚を貫通するとともに側方へ開口する切欠きh3が形成されている。そして、その第二のサブリーフバルブ8dのリーフバルブ8aとは反対側に第三のサブリーフバルブ8eが積層されており、通路Bが通孔h1と、切欠きh3によりリーフバルブ8aと第三のサブリーフバルブ8eとの間に形成される隙間により形成されて、第一のサブリーフバルブ8bで開閉される。
【0071】
このような場合にも、リーフバルブ8aが第一のサブリーフバルブ8bから離れる方向へ撓むと開く通路Bを容易に形成できる。さらに、第二のサブリーフバルブ8dにおける切欠きh3の側方への開口部の幅w(図7)を変更すれば、通路Bの開口面積を変更できるので、通路Bの開口面積の調節を一層容易にできる。そして、通路Bの開口面積は、中高速域で発生する減衰力のチューニング要素になるので、上記構成によれば減衰力のチューニングを一層容易にできる。
【0072】
加えて、上記第二、第三のサブリーフバルブ8d,8eを設けた場合、リーフバルブ8aが第一のサブリーフバルブ8bから離れて通路Bを開いた後に、さらに第二のサブリーフバルブ8dから第三のサブリーフバルブ8eが離れて、通路Bの開口面積がもう一段階大きくなるようにしてもよい。このように、第一の変形例に係る減衰バルブによれば、通路Bを二段階に開くようにもできる。
【0073】
また、リーフバルブ8aには、そのリーフバルブ8aが一方へ撓むと開く通路の他に、他方へ撓むと開く通路が設けられていてもよい。例えば、第二の変形例に係る減衰バルブは、図8,9に示すように、リーフバルブ8fの上側に積層される第一のサブリーフバルブ8gと、リーフバルブ8fに隙間Pと並列に形成されて、リーフバルブ8fが第一のサブリーフバルブ8gから離れる方向へ撓むと開く第一の通路B1の他に、リーフバルブ8fの下側に積層される第二のサブリーフバルブ8hと、リーフバルブ8fに隙間Pと並列に形成されて、リーフバルブ8fが第二のサブリーフバルブ8hから離れる方向へ撓むと開く第二の通路B2が形成される。
【0074】
上記構成によれば、図8(a)に示すように、液体がリーフバルブ8fを下方へ撓ませて中間室L3から圧側室L2へ向かう場合であっても、図8(b)に示すように、リーフバルブ8fを上方へ撓ませて圧側室L2から中間室L3へ向かう場合であっても、その両方でリーフバルブ8fを通過する液体の流量を確保しつつ、リーフバルブ8fの撓み量が大きくなるのを抑制できる。このため、リーフバルブ8fの耐久性を一層向上できる。
【0075】
さらに、第二の変形例に係る減衰バルブでは、リーフバルブ8fに、その肉厚を貫通する第一、第二の通孔h4,h5が形成され、第二のサブリーフバルブ8hの軸方向視で第一の通孔h4と重なり合う位置に、第二のサブリーフバルブ8hの肉厚を貫通する第二のサブリーフバルブ孔h6が形成され、第一のサブリーフバルブ8gの軸方向視で第二の通孔h5と重なり合う位置に、第一のサブリーフバルブ8gの肉厚を貫通する第一のサブリーフバルブ孔h7が形成されている。
【0076】
そして、第一の通路B1が第一の通孔h4と第二のサブリーフバルブ孔h6により形成されて、第一のサブリーフバルブ8gで開閉される。その一方、第二の通路B2は、第二の通孔h5と第一のサブリーフバルブ孔h7により形成されて、第二のサブリーフバルブ8hで開閉される。当該構成によれば、第一、第二の通路B1,B2を容易に形成できるとともに、各通路B1,B2の開口面積を個別に容易に調整できるので、伸圧両側の減衰力のチューニングを容易にできる。
【0077】
また、第二の変形例に係る減衰バルブでは、第一の通孔h4は、第二の通孔h5より外周側に形成されている。これにより、リーフバルブ8f、第一のサブリーフバルブ8g、第二のサブリーフバルブ8hの周方向の位置合わせをしなくても、第一の通孔h4と第二のサブリーフバルブ孔h6とを連通させるとともに、第二の通孔h5と第一のサブリーフバルブ孔h7とを連通させるのが容易である。
【0078】
しかし、第一の通孔h4を第二の通孔h5より内周側に形成してもよいのは勿論、リーフバルブ8f、第一のサブリーフバルブ8g、第二のサブリーフバルブ8hの周方向の位置合わせをするのであれば、同一円周上に第一、第二の通孔h4,h5を配置してもよい。さらに、第二の変形例に係る減衰バルブのように、リーフバルブ8fに、第一、第二の通路B1,B2を形成する場合であっても、図6,7に示すような切欠きリーフバルブ(第二のサブリーフバルブ8d)と孔無リーフバルブ(第三のサブリーフバルブ8e)を利用して第一、第二の通路B1,B2を形成してもよい。
【0079】
また、第二の変形例に係る減衰バルブでは、バルブストッパ9の下端とナット(バルブストッパ)30の上端に、それぞれ径方向に沿う溝9a,30aが形成されている。そして、ナット30の溝30aによって第一のサブリーフバルブ8gが第一の通路B1を開いたときの第一の通路B1の連通が保障される。その一方、バルブストッパ9の溝9aによって第二のサブリーフバルブ8hが第二の通路B2を開いたときの第二の通路B2の連通が保障される。しかし、前述のように、各溝30a,9aを孔に替えてもよい。
【0080】
また、各実施の形態では、リーフバルブ8a,8f、及び各サブリーフバルブ8b,8c,8d,8e,8g,8hの内周が固定端、外周が自由端となっているが、外周が固定端、内周が自由端となっていてもよい。また、本実施の形態において、本発明に係るリーフバルブ、及びサブリーフバルブは、メインバルブ6,7に直列される極低速バルブ8に利用されている。しかし、本発明に係るリーフバルブ、及びサブリーフバルブをメインバルブとして利用してもよい。さらに、上記説明では、ピストン速度の領域を、極低速域、低速域、中高速域に区画しているが、各領域の閾値はそれぞれ任意に設定できる。
【0081】
また、本実施の形態の減衰バルブ(バルブ)Vは、緩衝器Dに利用されている。そして、その緩衝器Dは、シリンダ1と、シリンダ1内に軸方向へ移動可能に挿入されるピストンロッド3とを備え、シリンダ1とピストンロッド3が軸方向へ相対移動する際に生じる液体の流れに減衰バルブVで抵抗を与える。このため、緩衝器Dが伸縮してシリンダ1とピストンロッド3が軸方向へ相対移動するときに、減衰バルブ(バルブ)Vの抵抗に起因する減衰力を発生できる。
【0082】
そして、本実施の形態に係る減衰バルブ(バルブ)Vは、緩衝器Dのピストンロッド3に装着されたピストン部分に具現化されている。しかし、シリンダ1に出入りするロッドは、必ずしもピストンが取り付けられたピストンロッドでなくてもよく、減衰バルブVを設ける位置はピストン部に限らない。例えば、前述のように、緩衝器がリザーバを備える場合には、シリンダ1とリザーバとを連通する通路の途中に本発明に係るバルブを設けてもよい。
【0083】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0084】
B・・・通路、B1・・・第一の通路、B2・・・第二の通路、D・・・緩衝器、h1・・・通孔、h2・・・孔、h3・・・切欠き、h4・・・第一の通孔、h5・・・第二の通孔、h6・・・第二のサブリーフバルブ孔、h7・・・第一のサブリーフバルブ孔、P・・・隙間、V・・・減衰バルブ(バルブ)、1・・・シリンダ、3・・・ロッド(ピストンロッド)、5d・・・対向部、8a,8f・・・リーフバルブ、8b,8g・・・第一のサブリーフバルブ(サブリーフバルブ)、8c,8d,8h・・・第二のサブリーフバルブ、8e・・・第三のサブリーフバルブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9