(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】静電チャック装置用基台、静電チャック装置およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20231213BHJP
H02N 13/00 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H02N13/00 D
(21)【出願番号】P 2019209590
(22)【出願日】2019-11-20
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000153591
【氏名又は名称】株式会社巴川製紙所
(72)【発明者】
【氏名】高村 正
(72)【発明者】
【氏名】山崎 允義
(72)【発明者】
【氏名】萩原 知哉
(72)【発明者】
【氏名】四方 良二
(72)【発明者】
【氏名】清水 勇気
【審査官】井上 和俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-016704(JP,A)
【文献】特開平11-160870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
H02N 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
台座の側面にポリイミド樹脂層が形成された静電チャック装置用基台であって、前記側面に形成されたポリイミド樹脂層の厚さの標準偏差が5
μm以下であることを特徴とする静電チャック装置用基台。
【請求項2】
前記請求項1に記載の静電チャック装置用基台を用いたことを特徴とする静電チャック装置。
【請求項3】
台座の側面にポリイミド樹脂層を形成する工程を含む静電チャック装置用基台の製造方法であって、
前記台座を加熱しながら、ポリイミド前駆体をノズルを介して該台座の表面に噴霧することを特徴とする静電チャック装置用基台の製造方法。
【請求項4】
第1の絶縁性有機フィルムの厚さ方向の上面に内部電極を形成する工程と、
前記内部電極における前記第1の絶縁性有機フィルムとは反対側の面に第2の絶縁性有機フィルムを貼着する工程と、
前記第1の絶縁性有機フィルムにおける前記内部電極とは反対側の面が、側面にポリイミド樹脂層が形成された基台の厚さ方向の上面側となるように、前記第1の絶縁性有機フィルム、前記内部電極および前記第2の絶縁性有機フィルムを含む静電吸着シートを、前記基台の一方の面に接合する工程と、
前記第2の絶縁性有機フィルムの厚さ方向の上面、並びに、前記樹脂層の側面を覆うように密着層を形成する工程と、
前記密着層の厚さ方向の上面を覆うようにセラミックス下地層を形成する工程と、
を有する静電チャック装置の製造方法であって、
前記基台が、台座の側面にポリイミド樹脂層が形成され、前記側面に形成されたポリイミド樹脂層の厚さの標準偏差が5μm以下であることを特徴とする静電チャック装置の製造方法。
【請求項5】
前記セラミックス下地層の厚さ方向の上面にセラミックス表層を形成する工程を有することを特徴とする請求項4に記載の静電チャック装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電チャック装置用基台、静電チャック装置およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハを使用して半導体集積回路を製造する場合や、ガラス基台、フィルム等の絶縁性基台を使用した液晶パネルを製造する場合には、半導体ウエハ、ガラス基台、絶縁性基台等の基材を所定部位に吸着保持する必要がある。そのため、それらの基材を吸着保持するために、機械的方法によるメカニカルチャックや真空チャック等が用いられていた。しかしながら、これらの保持方法は、基材(被吸着体)を均一に保持することが困難である、真空中で使用することができない、試料表面の温度が上昇し過ぎる等の問題があった。そこで、近年、被吸着体の保持には、これらの問題を解決することができる静電チャック装置が用いられている。
【0003】
静電チャック装置は、内部電極となる導電性支持部材と、それを被覆する誘電性材料からなる誘電層と、を主要部として備える。この主要部により被吸着体を吸着させることができる。静電チャック装置内の内部電極に電圧を印加して、被吸着体と導電性支持部材との間に電位差を生じさせると、誘電層の間に静電気的な吸着力が発生する。これにより、被吸着体は導電性支持部材に対しほぼ平坦に支持される。
【0004】
従来の静電チャック装置としては、静電チャック装置における基台の平面及び側面をポリイミド樹脂層で被覆することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されているような静電チャック装置においては、基台の側面に形成されたポリイミド樹脂層が、十分な厚さのポリイミド樹脂層ではなかったため、耐電圧性に問題が生じていた。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、基台の側面に十分な厚さを有するポリイミド樹脂層を形成することによって、十分な耐電圧性を有する静電チャック装置用基台、静電チャック装置およびそれらの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]台座の側面にポリイミド樹脂層が形成された静電チャック装置用基台であって、前記側面に形成されたポリイミド樹脂層の厚さの標準偏差が5μm以下であることを特徴とする静電チャック装置用基台。
[2]前記[1]に記載の静電チャック装置用基台を用いたことを特徴とする静電チャック装置。
[3]台座の側面にポリイミド樹脂層を形成する工程を含む静電チャック装置用基台の製造方法であって、
前記台座を加熱しながら、ポリイミド前駆体をノズルを介して該台座の表面に噴霧することを特徴とする静電チャック装置用基台の製造方法。
【0009】
[4]第1の絶縁性有機フィルムの厚さ方向の上面に内部電極を形成する工程と、
前記内部電極における前記第1の絶縁性有機フィルムとは反対側の面に第2の絶縁性有機フィルムを貼着する工程と、
前記第1の絶縁性有機フィルムにおける前記内部電極とは反対側の面が、側面にポリイミド樹脂層が形成された基台の厚さ方向の上面側となるように、前記第1の絶縁性有機フィルム、前記内部電極および前記第2の絶縁性有機フィルムを含む静電吸着シートを、前記基台の一方の面に接合する工程と、
前記第2の絶縁性有機フィルムの厚さ方向の上面、並びに、前記樹脂層の側面を覆うように密着層を形成する工程と、
前記密着層の厚さ方向の上面を覆うようにセラミックス下地層を形成する工程と、を有する静電チャック装置の製造方法であって、
前記基台が、台座の側面にポリイミド樹脂層が形成され、前記側面に形成されたポリイミド樹脂層の厚さの標準偏差が5μm以下であることを特徴とする静電チャック装置の製造方法。
[5]前記セラミックス下地層の厚さ方向の上面にセラミックス表層を形成する工程を有することを特徴とする前記[4]に記載の静電チャック装置の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、基台の側面に十分な厚さを有するポリイミド樹脂層を形成することによって、十分な耐電圧性を有する静電チャック装置用基台、静電チャック装置およびそれらの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の静電チャック装置用基台の概略構成を示し、静電チャック装置用基台の高さ方向に沿う断面図である。
【
図2】本発明の静電チャック装置の概略構成を示し、静電チャック装置の高さ方向に沿う断面図である。
【
図3】静電チャック装置用基台、静電吸着シート、セラミックス層を分解して示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用した実施形態の静電チャック装置用基台(以下、基台という)、静電チャック装置およびそれらの製造方法について説明する。なお、以下の説明で用いる図面において、各構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。
なお、本実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0013】
[基台]
本発明の静電チャック装置1は、
図3に示すように基台10、静電吸着シート2、セラミックス層60から構成される。
図3においては、セラミックス層60はセラミックス板として記載されているが、セラミックス層60が溶射で形成されてもよい。また、
図3においては、静電チャック装置1は平面形状が円形であるが、その他の形状でもかまわない。
【0014】
本発明の静電チャック装置1における基台10は、
図1に示すように台座200の側面200bにポリイミド樹脂層100が形成されている。
基台10の厚さ方向の上面10aにポリイミド樹脂層が形成されていてもよいが、静電吸着シート2を強固に接着させるため、
図1に示すように上面10aの静電吸着シート2を接着させる部位はポリイミド樹脂層が形成されていないほうが好ましい。
側面200bとは、台座200における200c、200d、200e、200f及び200gの面全てをいう。
【0015】
本発明においては、前記側面200bに形成されたポリイミド樹脂層100の厚さの標準偏差が5以下でなければならない。更に、ポリイミド樹脂層の厚さの標準偏差は4以下が好ましく、特にポリイミド樹脂層の厚さの標準偏差は3以下であることが好ましい。ポリイミド樹脂層100の厚さが、上記標準偏差内であれば、ポリイミド樹脂層100が均質な層膜を有しているため、十分な耐電圧性を有することができる。
【0016】
ここでいうポリイミド樹脂層100の厚さとは、台座200における側面200bにおける任意の箇所36点を測定した厚さをいう。
台座200における側面200bにおける任意の箇所36点を測定する方法は、ポリイミド樹脂層100の厚さを、渦電流計(Elcometer社製 商品名:Elcometer A456C)で測定すればよい。
【0017】
本発明においては、前記側面200bに形成されたポリイミド樹脂層100の表面粗さRaは0.1~3が好ましく、更にRaは0.2~2.5が好ましく、特にRaは0.3~2が好ましい。ポリイミド樹脂層100の表面粗さRaが上記の範囲内であれば、該ポリイミド樹脂層100の表面に形成する密着層50が剥がれにくい。
【0018】
台座200としては、特に限定されないが、セラミックス基台、炭化ケイ素基台、アルミニウムやステンレス等からなる金属基台等が挙げられる。
【0019】
ここでいうポリイミド樹脂層100の表面粗さRaは、ポリイミド樹脂層100の表面における任意の箇所36点を測定した厚さの平均値をいう。
ポリイミド樹脂層100の表面粗さRaは、装置名:接触式表面粗計(サーフコーダーSE1700α、小坂研究所社製)を用い、スキャンスピード0.1mm/secでスキャンし、JIS B 0601-2001に準じて求めることができる。
【0020】
[基台の製造方法]
本発明の基台10は、台座200を加熱しながら、ポリイミド前駆体120をノズル110を介して該台座200の表面に噴霧しながらポリイミド樹脂層100を形成して得ることができる。
台座200は、図示しないホットプレートにのせながら加熱することが好ましいが、加熱する方法は他の方法でもかまわない。ホットプレートの加熱温度を100℃~120℃に調整し、台座200の表面が100℃~120℃にすることが好ましいが、ポリイミド樹脂層100を形成するためのポリイミド前駆体120に合わせながら適宜台座200の表面温度を調整してもかまわない。
【0021】
ノズル110は、ポリイミド前駆体120を噴霧しながら台座200の表面を均一な速度(例えば、移動速度100~500mm/sec)で移動させることが好ましい。ノズル110は移動しながらポリイミド前駆体120を噴霧するため、台座200に付着されたポリイミド前駆体120は完全に乾燥する前に、同一箇所を複数回噴霧される。そのため、台座200に形成されたポリイミド前駆体120が硬化されたポリイミド樹脂層100は、20μm~120μmの厚さを有することができる。
図1においては、ノズル110は1箇所で示しているが複数のノズルを使用してポリイミド前駆体を噴霧してもよい。
【0022】
本発明においては、前記台座200の表面粗さRaは0.1~3が好ましく、更にRaは0.2~2.5が好ましく、特にRaは0.3~2が好ましい。台座200の表面粗さRaが上記の範囲内であれば、該台座200の表面に形成するポリイミド樹脂層100が剥がれにくい。
【0023】
ここでいう台座200の表面粗さRaは、台座200の表面における任意の箇所36点を測定した厚さの平均値をいう。
台座200の表面粗さRaは、装置名:接触式表面粗計(サーフコーダーSE1700α、小坂研究所社製)を用い、スキャンスピード0.1mm/secでスキャンし、JIS B 0601-2001に順じて求めることができる。
【0024】
[静電チャック装置]
図2は、本実施形態の静電チャック装置の概略構成を示し、静電チャック装置の高さ方向に沿う断面図である。
図2に示すように、本実施形態の静電チャック装置1は、基台10と、複数の内部電極20と、接着剤層30と、絶縁性有機フィルム40と、密着層50と、セラミックス層60と、を備える。詳細には、
図2に示すように、本実施形態の静電チャック装置1は、基台10と、第1の内部電極21と、第2の内部電極22と、第1の接着剤層31と、第2の接着剤層32と、第1の絶縁性有機フィルム41と、第2の絶縁性有機フィルム42と、密着層50と、セラミックス層60と、を備える。
【0025】
本実施形態の静電チャック装置1では、基台10の表面(基台10の厚さ方向の上面)10aにて、第1の接着剤層31と、第1の絶縁性有機フィルム41と、第1の内部電極21および第2の内部電極22と、第2の接着剤層32と、第2の絶縁性有機フィルム42と、密着層50と、セラミックス層60とがこの順に積層されている。
【0026】
内部電極20の厚さ方向の両面(内部電極20の厚さ方向の上面20a、内部電極20の厚さ方向の下面20b)側にそれぞれ絶縁性有機フィルム40が設けられている。詳細には、第1の内部電極21の厚さ方向の上面21a側および第2の内部電極22の厚さ方向の上面22a側に、第2の絶縁性有機フィルム42が設けられている。また、第1の内部電極21の厚さ方向の下面21b側および第2の内部電極22の厚さ方向の下面22b側に、第1の絶縁性有機フィルム41が設けられている。
【0027】
少なくとも内部電極20および絶縁性有機フィルム40を含む静電吸着シート2の厚さ方向の上面2a(第2の絶縁性有機フィルム42の上面42a)に、密着層50を介してセラミックス層60が積層されている。
【0028】
図2に示すように、密着層50は、静電吸着シート2の上面2aの全面、静電吸着シート2の側面2bの全面および基台10に形成されたポリイミド樹脂層100の全面を覆うことが好ましい。
【0029】
図2に示すように、セラミックス層60は、密着層50の外面50aの全面を覆うことが好ましい。
【0030】
図2に示すように、セラミックス層60は、セラミックス下地層61と、セラミックス下地層61の上面(セラミックス下地層61の厚さ方向の上面)61aに形成され、凹凸を有するセラミックス表層62と、を有することが好ましい。
【0031】
第1の内部電極21および第2の内部電極22は、第1の絶縁性有機フィルム41または第2の絶縁性有機フィルム42に接していてもよい。また、第1の内部電極21および第2の内部電極22は、
図2に示すように、第2の接着剤層32の内部に形成されていてもよい。第1の内部電極21および第2の内部電極22の配置は、適宜設計することができる。
【0032】
第1の内部電極21と第2の内部電極22は、それぞれ独立しているため、同一極性の電圧を印加するだけではなく、極性の異なる電圧を印加することもできる。第1の内部電極21および第2の内部電極22は、導電体、半導体および絶縁体等の被吸着体を吸着することができれば、その電極パターンや形状は特に限定されない。また、第1の内部電極21のみが単極として設けられていてもよい。
【0033】
内部電極20としては、電圧を印加した際に静電吸着力を発現できる導電性物質からなるものであれば特に限定されない。内部電極20としては、例えば、銅、アルミニウム、金、銀、白金、クロム、ニッケル、タングステン等の金属からなる薄膜、および前記の金属から選択される少なくとも2種の金属からなる薄膜が好適に用いられる。このような金属の薄膜としては、蒸着、メッキ、スパッタリング等により成膜されたものや、導電性ペーストを塗布乾燥して成膜されたもの、具体的には、銅箔等の金属箔が挙げられる。
【0034】
第2の接着剤層32の厚さが、内部電極20の厚さよりも大きくなっていれば、内部電極20の厚さは特に限定されない。内部電極20の厚さは、20μm以下であることが好ましい。内部電極20の厚さが、20μm以下であれば、第2の絶縁性有機フィルム42を形成する際に、その上面42aに凹凸が生じ難い。その結果、第2の絶縁性有機フィルム42上にセラミックス層60を形成する際や、セラミックス層60を研磨する際に、不良が生じ難い。
【0035】
内部電極20の厚さは、1μm以上であることが好ましい。内部電極20の厚さが1μm以上であれば、内部電極20と、第1の絶縁性有機フィルム41または第2の絶縁性有機フィルム42とを接合する際に、十分な接合強度が得られる。
【0036】
第1の内部電極21と第2の内部電極22に、極性の異なる電圧を印加する場合、隣接する第1の内部電極21と第2の内部電極22の間隔(内部電極20の厚さ方向と垂直な方向の間隔)は、2mm以下であることが好ましい。第1の内部電極21と第2の内部電極22の間隔が2mm以下であれば、第1の内部電極21と第2の内部電極22の間に十分な静電力が発生し、十分な吸着力が発生する。
【0037】
内部電極20から被吸着体までの距離、すなわち、第1の内部電極21の上面21aおよび第2の内部電極22の上面22aからセラミックス表層62上に吸着される被吸着体までの距離(第1の内部電極21の上面21aおよび第2の内部電極22の上面22a上に存在する、第2の接着剤層32、第2の絶縁性有機フィルム42、密着層50、セラミックス下地層61およびセラミックス表層62の厚さの合計)は、0.05mm以上0.15mm以下であることが好ましい。内部電極20から被吸着体までの距離が0.05mm以上であれば、第2の接着剤層32、第2の絶縁性有機フィルム42、密着層50、セラミックス下地層61およびセラミックス表層62からなる静電吸着シートの絶縁性を確保することができる。一方、内部電極20から被吸着体までの距離が0.15mm以下であれば、十分な吸着力が発生する。
【0038】
接着剤層30を構成する接着剤としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、スチレン系ブロック共重合体、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、アミン化合物、ビスマレイミド化合物等から選択される1種または2種以上の樹脂を主成分とする接着剤が用いられる。
【0039】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、トリヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラグリシジルフェノールアルカン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジグリシジルジフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジグリシジルビフェニル型エポキシ樹脂等の2官能基または多官能エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中でも、ビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。ビスフェノール型エポキシ樹脂の中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が特に好ましい。また、エポキシ樹脂を主成分とする場合、必要に応じて、イミダゾール類、第3アミン類、フェノール類、ジシアンジアミド類、芳香族ジアミン類、有機過酸化物等のエポキシ樹脂用の硬化剤や硬化促進剤を配合することもできる。
【0040】
フェノール樹脂としては、アルキルフェノール樹脂、p-フェニルフェノール樹脂、ビスフェノールA型フェノール樹脂等のノボラックフェノール樹脂、レゾールフェノール樹脂、ポリフェニルパラフェノール樹脂等が挙げられる。
【0041】
スチレン系ブロック共重合体としては、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体(SEPS)等が挙げられる。
【0042】
絶縁性有機フィルム40を構成する材料としては、特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル類、ポリエチレン等のポリオレフィン類、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド、トリアセチルセルロース、シリコーンゴム、ポリテトラフルオロエチレン等が用いられる。これらの中でも、絶縁性に優れることから、ポリエステル類、ポリオレフィン類、ポリイミド、シリコーンゴム、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリテトラフルオロエチレンが好ましく、ポリイミドがより好ましい。ポリイミドフィルムとして、例えば、東レ・デュポン社製のカプトン(商品名)、宇部興産社製のユーピレックス(商品名)等が用いられる。
【0043】
絶縁性有機フィルム40の厚さは、特に限定されないが、10μm以上100μm以下であることが好ましく、25μm以上50μm以下であることがより好ましい。絶縁性有機フィルム40の厚さが10μm以上であれば、絶縁性を確保することができる。一方、絶縁性有機フィルム40の厚さが100μm以下であれば、十分な吸着力が発生する。
【0044】
密着層50は、例えば、ポリシラザンと、無機充填剤と、を含む樹脂組成物から構成される。
【0045】
樹脂組成物に含まれるポリシラザンとしては、例えば、当該分野で公知のものが挙げられる。ポリシラザンは有機ポリシラザンであってもよく、無機ポリシラザンであてもよい。これらの材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0046】
樹脂組成物中のポリシラザンの含有量は、90質量%以上100質量%以下であることが好ましく、95質量%以上100質量%以下であることがより好ましい。
【0047】
無機充填剤としては、例えば、シリカ、石英粉、アルミナ、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、ダイヤモンド粉、マイカ、フッ素樹脂粉およびジルコン粉からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
無機充填剤が上記の材料であることにより、密着層50の耐プラズマ性および耐電圧性を向上させることができる。
【0048】
無機充填剤は、球形粉体および不定形粉体の少なくとも一方であることが好ましい。球形粉体とは、粉体粒子の角部を丸めた球状体をいう。また、不定形粉体とは、破砕片状、板状、鱗片状、針状など形状が一定な形を取らないものをいう。
【0049】
無機充填剤が、球形粉体および不定形粉体の少なくとも一方であることにより、樹脂組成物における樹脂中の充填状態が均一分散または最密充填となるように配合設計が可能で、さらに樹脂中から無機充填剤の一部が露出するような設計とすることで、表面突起によるアンカー効果を高め、セラミックス層60を構成する材料との密着性を向上させることが可能となる。
【0050】
無機充填剤の平均粒子径は、1μm以上10μm以下であることが好ましく、3μm以上6μm以下であることがより好ましい。
無機充填剤が球形粉体の場合、その直径(外径)を粒子径とし、無機充填剤が不定形粉体の場合、その形状の最も長い箇所を粒子径とする。
【0051】
樹脂組成物中の無機充填剤の含有量は、ポリシラザン100質量部に対して、100質量部以上300質量部以下であることが好ましく、150質量部以上250質量部以下であることがより好ましい。
【0052】
樹脂組成物は、ポリシラザンおよび無機充填剤のみを含んでいてもよいし、ポリシラザンおよび無機充填剤以外の成分(本明細書においては、「他の成分」と称することがある)を含んでいてもよい。
他の成分は、特に限定されず、目的に応じて任意に選択できる。
他の成分としては、例えば、繊維状充填剤が挙げられる。繊維状充填剤は、植物繊維、無機繊維および繊維化された有機樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。植物繊維としては、パルプ等が挙げられる。無機繊維としては、アルミナからなる繊維等が挙げられる。繊維化された有機樹脂としては、アラミドやテフロン(登録商標)等からなる繊維が挙げられる。
【0053】
樹脂組成物全体(100体積%)に対する、無機充填剤と繊維状充填剤の合計含有量は10体積%以上80体積%以下であることが好ましい。
【0054】
密着層50の厚さは、1μm以上40μm以下であることが好ましく、5μm以上20μm以下であることがより好ましい。密着層50の厚さが1μm以上であれば、局所的に密着層50が薄くなることがなく、溶射により、密着層50上にセラミックス層60均一に形成することができる。一方、密着層50の厚さが40μm以下であれば、十分な吸着力が発生する。
【0055】
セラミックス層60を構成する材料としては、特に限定されず、例えば、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、酸化スズ、酸化インジウム、石英ガラス、ソーダガラス、鉛ガラス、硼珪酸ガラス、窒化ジルコニウム、酸化チタン等が用いられる。これらの材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
これらの材料は、平均粒子径が1μm以上25μm以下の粉体であることが好ましい。
このような粉体を用いることにより、セラミックス層60の空隙を減少させ、セラミックス層60の耐電圧を向上させることができる。
【0056】
セラミックス下地層61の厚さは、10μm以上80μm以下であることが好ましく、25μm以上50μm以下であることがより好ましい。セラミックス下地層61の厚さが10μm以上であれば、十分な耐プラズマ性および耐電圧性を示す。一方、セラミックス下地層61の厚さが80μm以下であれば、十分な吸着力が発生する。
【0057】
セラミックス表層62の厚さは、5μm以上20μm以下であることが好ましい。セラミックス表層62の厚さが5μm以上であれば、セラミックス表層62の全域にわたって、凹凸を形成できる。一方、セラミックス表層62の厚さが20μm以下であれば、十分な吸着力が発生する。
【0058】
セラミックス表層62は、その表面を研磨することによって、その吸着力を向上することができ、その表面の凹凸を表面粗さRaとして調整することができる。
ここで、表面粗さRaとは、JIS B0601-2001に規定される方法により測定した値を意味する。
【0059】
セラミックス表層62の表面粗さRaは、0.05μm以上0.5μm以下であることが好ましい。セラミックス表層62の表面粗さRaが前記の範囲内であれば、被吸着体を良好に吸着することができる。セラミックス表層62の表面粗さRaが大きくなると、被吸着体とセラミックス表層62との接触面積が小さくなるため、吸着力も小さくなる。
【0060】
[静電チャックの製造方法]
図2を参照して、本実施形態の静電チャック装置1の製造方法を説明する。
第1の絶縁性有機フィルム41の表面(第1の絶縁性有機フィルム41の厚さ方向の上面)41aに、銅等の金属を蒸着して、金属の薄膜を形成する。その後、エッチングを行って、金属の薄膜を所定の形状にパターニングして、第1の内部電極21と第2の内部電極22を形成する。
【0061】
次いで、内部電極20の厚さ方向の上面(内部電極20における第1の絶縁性有機フィルム41とは反対側の面)20aに、第2の接着剤層32を介して、第2の絶縁性有機フィルム42を貼着する。
【0062】
次いで、第1の絶縁性有機フィルム41の厚さ方向の下面(第1の絶縁性有機フィルム41における内部電極20とは反対側の面)41bが、側面にポリイミド樹脂層が形成された基台10の表面(基台10の厚さ方向の上面)10a側となるように、第1の絶縁性有機フィルム41、内部電極20、第2の接着剤層32および第2の絶縁性有機フィルム42を含む静電吸着シート2を、第1の接着剤層31を介して、基台10の表面10aに接合する。
【0063】
次いで、第2の絶縁性有機フィルム42の厚さ方向の上面(第2の絶縁性有機フィルム42における内部電極20とは反対側の面)42a、静電吸着シート2の厚さ方向の側面2b、および基台10の側面200b表面のポリイミド樹脂層100を覆うように密着層50を形成する。
密着層50を形成する方法は、第2の絶縁性有機フィルム42の厚さ方向の上面(第2の絶縁性有機フィルム42における内部電極20とは反対側の面)42a、静電吸着シート2の厚さ方向の側面2b、および基台10の側面200b表面のポリイミド樹脂層100を覆うように密着層50を形成することができれば、特に限定されない。密着層50を形成する方法としては、例えば、バーコート法、スピンコート法、スプレーコート法等が挙げられる。
【0064】
次いで、密着層50の厚さ方向の上面(密着層50における静電吸着シート2とは反対側の面)50aを覆うように第2のセラミックス下地層61を形成する。
第2のセラミックス下地層61を形成する方法は、例えば、第2のセラミックス下地層61を構成する材料を含むスラリーを密着層50の外面全面に塗布し、焼結して第2のセラミックス下地層61を形成する方法、第2のセラミックス下地層61を構成する材料を密着層50の外面全面に溶射して第2のセラミックス下地層61を形成する方法等が挙げられる。
ここで、溶射とは、被膜(本実施形態では、第2のセラミックス下地層61)となる材料を加熱溶融後、圧縮ガスを用いて被処理体へ射出することにより成膜する方法のことである。
【0065】
次いで、セラミックス下地層61の厚さ方向の上面61aに、セラミックス表層62を形成する。
セラミックス表層62を形成する方法は、例えば、セラミックス下地層61の厚さ方向の上面61aに、所定の形状のマスキングを施した後、セラミックス表層62を構成する材料をセラミックス下地層61の厚さ方向の上面61aに溶射してセラミックス表層62を形成する方法、セラミックス表層62を構成する材料をセラミックス下地層61の厚さ方向の上面61a全面に溶射してセラミックス表層62を形成した後、そのセラミックス表層62を、ブラスト処理により削って、セラミックス表層62を凹凸形状に形成する方法等が挙げられる。
【0066】
以上の工程により、本実施形態の静電チャック装置1を作製することができる。
【0067】
以上説明した本実施形態の静電チャック装置の製造方法においては、基台10の表面にポリイミド樹脂層100が形成されているため、十分な耐電圧性を有する静電チャック装置を製造することができる。
【実施例】
【0068】
(実施例1)
アルミニウム製の台座200を用意した。該台座200における静電吸着シート2を接着させる表面にサンドブラストを行って表面を粗くした。該台座200のサンドブラスを行った面の任意の箇所36点の表面粗さRaを測定した。該台座200の任意の箇所36点の表面粗さRaの平均値は2.6であった。
該台座200をホットプレート上に置いて台座200の表面温度が100℃になるように加熱した後、ポリイミド前駆体をノズルを介して該台座200の表面に噴霧した。ノズルは、台座200の上面10aにおける静電吸着シート2を接着させる部位を除いた箇所から台座200の下面に速度300mm/secで移動しながら台座200の側面200bを噴霧し本発明の基台10を作製した。
ノズルによる台座200の側面200bへの噴霧は、側面200b全面を3回行った。該ポリイミド前駆体は台座200の側面200bに均一に付着していた。次に、ポリイミド前駆体を表面に噴霧された台座200を250℃に調整したオーブン内に3時間おいてポリイミド前駆体を硬化させてポリイミド樹脂層100を形成した。該ポリイミド樹脂層100の任意の箇所36点の表面粗さRaを測定した。該ポリイミド樹脂層100の任意の箇所36点の表面粗さRaの平均値は1.2であった。
【0069】
次に上記で得た基台10に対して次のようにして耐電圧性を確認した。
メチルエチルケトン(MEK)を付着させたベンコットンを用いて基台10の表面を拭きゴミなどを除去した。次に、金属磨き液(日本磨料工業社製、商品名:PiKAL)を付着させたベンコットンを用いて真鍮製の電極の表面を磨いた。次に、基台10のポリイミド樹脂層100に該電極を接触し、台座200を接地した。そして、該電極に5kV/1minの速度で電圧を上昇させ、短絡するか否か確認した。その結果、14kVの耐電圧を有していた。
上記の結果から本発明の基台は、実用上十分な耐電圧性を有することが確認された。
【0070】
次に上記で得た基台10におけるポリイミド樹脂層100の厚さを測定した。ポリイミド樹脂層100の厚さは、渦電流計(Elcometer社製 商品名:Elcometer A456C)を使用し、任意の箇所36点を測定した。その厚さ及び当該厚さから得られた標準偏差を表1に記した。
【0071】
【0072】
次に、第1の絶縁性有機フィルム41として、膜厚50μmのポリイミドフィルムの片面に銅を5μmの厚さでメッキし、その銅箔表面にフォトレジストを塗布した後、パターン露光後に現像処理を行い、エッチングにより不要な銅箔を除去した。その後、ポリイミドフィルム上の銅箔を洗浄することにより、フォトレジストを除去し、第1の内部電極21、第2の内部電極22を形成させた。これらの第1の内部電極21、第2の内部電極22上に、第2の接着剤層32として乾燥および加熱により半硬化させた絶縁性接着シート(厚さ20μm)を積層した後、さらに、第2の絶縁性有機フィルム42として膜厚50μmのポリイミドフィルムを貼着し、熱処理により接着させた。
【0073】
さらに、第1の絶縁性有機フィルム41であるポリイミドフィルム上に、第1の接着剤層31として乾燥および加熱により半硬化させた絶縁性接着シート(厚さ20μm)を積層し、前記基台10における上面10aに貼着させ、熱処理により接着させ、基台10表面に静電吸着シート2を作製した。
なお、第1の接着剤層31及び第2の接着剤層32は、下記組成からなる接着成分を混合溶解させたものを、有機フィルム上に塗布し、乾燥および加熱することで得た。
・アクリロニトリル-ブタジエンゴム(JSR社製 商品名:T4103) 100質量部
・高純度エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製 商品名:jER YL980) 60質量部
・フェノール樹脂(アイカ工業社製 商品名:CKM-2400) 40質量部
・2-エチルメチルイミダゾール(和光純薬工業社製) 5質量部
【0074】
次に、前記で得た基台10に接着された静電吸着シート2の表面に密着層50を塗布した後、セラミックス下地層61を形成し、本発明の静電チャック装置を作製した。
上記の静電チャック装置の表面状態を確認した結果、セラミックス下地層61に亀裂や脱落は生じていなかった。また、該静電チャック装置は、実用上十分な耐電圧性を有していた。
【0075】
(比較例1)
前記実施例1において、基台10の作製時に台座200を加熱しないでポリイミド前駆体をノズルを介して該台座200の表面に噴霧した以外は、同様にして比較用の基台10を作製した。
その結果、比較用の基台10における台座200表面上のポリイミド前駆体は、該台座200にまだらに付着しており、また台座200の側壁の垂直部と水平部との角にポリイミド前駆体の溜まりが生じており、均一なポリイミド前駆体の付着膜を形成することができていないことが確認された。
【0076】
次に上記で得た比較用の基台10におけるポリイミド樹脂層100の厚さを測定した。ポリイミド樹脂層100の厚さは、渦電流計(Elcometer社製 商品名:Elcometer A456C)を使用し、任意の箇所36点を測定した。その厚さ及び当該厚さから得られた標準偏差を表2に記した。
【0077】
【0078】
上記均一なポリイミド前駆体の付着膜を形成していない台座200では、一部金属表面が露出しているため耐電圧試験ができなく、耐電圧を測定することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の静電チャック装置によれば、基台10の表面に均一な厚さを有するポリイミド樹脂層100が形成されているため、十分な耐電圧性を有することができる。したがって、本発明の静電チャック装置によれば、半導体製造プロセスにおけるドライエッチング装置用ウエハ等の導電体または半導体を安定に静電吸着保持することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 静電チャック装置
2 静電吸着シート
10 基台
20 内部電極
21 第1の内部電極
22 第2の内部電極
30 接着剤層
31 第1の接着剤層
32 第2の接着剤層
40 絶縁性有機フィルム
41 第1の絶縁性有機フィルム
42 第2の絶縁性有機フィルム
50 密着層
60 セラミックス層
61 セラミックス下地層
62 セラミックス表層
100 ポリイミド樹脂層
200 台座