(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】回転電機の駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20231213BHJP
【FI】
H02M7/48 E
(21)【出願番号】P 2019222183
(22)【出願日】2019-12-09
【審査請求日】2022-11-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】清水 浩史
(72)【発明者】
【氏名】赤間 貞洋
【審査官】高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-175747(JP,A)
【文献】特開2011-066954(JP,A)
【文献】特開2010-081786(JP,A)
【文献】特開2006-149153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/42 - 7/98
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数相に対応する複数の巻線を有する回転電機に適用される、回転電機の駆動装置(10)であって、
直流電源に接続され、前記巻線の一端に相ごとに接続された上アームスイッチ及び下アームスイッチを備える第1インバータ(INV1)と、
前記巻線の他端に相ごとに接続された上アームスイッチ及び下アームスイッチを備える第2インバータ(INV2)と、
前記第1インバータの直流高電位側と前記第2インバータの直流高電位側とを接続する高電位接続線(La)と、
前記第1インバータの直流低電位側と前記第2インバータの直流低電位側とを接続する低電位接続線(Lb)と、
を含み、前記回転電機のH駆動が可能な駆動回路(11)と、
前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチの開閉を制御することにより前記第1インバータと前記第2インバータとを交互に作動させる非対称スイッチング制御を実行可能な制御部(12)と、を備え、
対となる前記上アームスイッチと前記下アームスイッチにおける一方のスイッチは、前記非対称スイッチング制御時に導通損失が高くなる側である高損失スイッチであり、他方のスイッチは、前記非対称スイッチング制御時に導通損失が低くなる側である低損失スイッチであり、
少なくとも1対の前記上アームスイッチと前記下アームスイッチにおいて、前記高損失スイッチは、前記低損失スイッチよりもオン抵抗が低いスイッチング素子である、回転電機の駆動装置。
【請求項2】
前記高損失スイッチは、ユニポーラ半導体素子である請求項1に記載の回転電機の駆動装置。
【請求項3】
前記高損失スイッチは、逆方向導通時の同期整流が可能なユニポーラ半導体素子である請求項1または2に記載の回転電機の駆動装置。
【請求項4】
前記高損失スイッチは、シリコンよりもバンドギャップが広い半導体を材料とする半導体素子である請求項1~3のいずれかに記載の回転電機の駆動装置。
【請求項5】
前記高損失スイッチは、前記低損失スイッチよりも素子サイズが大きい半導体素子である請求項1~4のいずれかに記載の回転電機の駆動装置。
【請求項6】
前記高損失スイッチは、前記低損失スイッチよりも素子厚が薄い半導体素子である請求項1~5のいずれかに記載の回転電機の駆動装置。
【請求項7】
前記駆動回路は、前記高電位接続線および前記低電位接続線の少なくとも一方に備えられた、前記第1インバータと前記第2インバータとを導通または遮断する接続線スイッチ(SC)をさらに備えることにより、前記回転電機のH駆動とY駆動とを切り替え可能であり、
前記制御部は、前記接続線スイッチと、前記上アームスイッチと、前記下アームスイッチとの開閉を制御することにより、前記回転電機のH駆動制御とY駆動制御とを切り替え可能であり、
前記Y駆動制御時には、前記第1インバータと前記第2インバータのうちの少なくともいずれか一方は、前記上アームスイッチと前記下アームスイッチのうち、いずれか一方が中性点を構成する中性点構成スイッチであるとともに他方が中性点を構成しない非中性点構成スイッチであり、
前記中性点構成スイッチは、前記非中性点構成スイッチよりもオン抵抗が低いスイッチング素子である、請求項1~6のいずれかに記載の回転電機の駆動装置。
【請求項8】
前記上アームスイッチと前記下アームスイッチのうち、前記高損失スイッチであるとともに前記中性点構成スイッチであるスイッチは、他のスイッチよりもオン抵抗が低い、請求項7に記載の回転電機の駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数相に対応する複数の巻線を有する回転電機に適用される、回転電機の駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2つのインバータを含み、回転電機のH駆動が可能に構成された駆動回路を備える、回転電機の駆動装置が知られている。特許文献1には、3相の巻線を備える回転電機において、各相の巻線を2つのインバータ(Hブリッジインバータ)で駆動する駆動回路が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
回転電機のH駆動が可能に構成された駆動回路においては、2つのインバータを交互にPWM制御する交互PWM駆動が知られている。交互PWM駆動では、2つのインバータのうち一方においてはPWM制御を実行し、他方においてはPWM制御を実行しない。2つのインバータのうち、PWM制御を実行中ではない側のインバータでは、対となる上アームスイッチと下アームスイッチのうちのいずれか一方のスイッチにおける導通損失が、他方のスイッチにおける導通損失よりも高くなる。このような対となる上アームスイッチと下アームスイッチにおける損失の不均衡により、損失の高い側のスイッチにおいてより発熱量が高くなり、素子の劣化や温度破壊等が不均衡に進行することが懸念される。
【0005】
特許文献1では、上記の損失の不均衡を改善するために、所定の条件下で2つのインバータの上アームスイッチと下アームスイッチとを同様にPWM制御するPD-PWM(Phase Disposition PWM)制御を実行する。しかしながら、特許文献1のPD-PWM制御では、上記の導通損失の不均衡を改善される一方でシステム損失が増加することが懸念される。また、複雑な位相制御が要求され、位相制御にずれが生じるとトルクリプルの発生が懸念される。
【0006】
上記に鑑み、本発明は、簡易な制御でシステム損失を増やすことなく、インバータを構成する上アームスイッチと下アームスイッチにおける損失の不均衡を改善する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、複数相に対応する複数の巻線を有する回転電機に適用される、回転電機の駆動装置を提供する。この駆動装置は、直流電源に接続され、前記巻線の一端に相ごとに接続された上アームスイッチ及び下アームスイッチを備える第1インバータと、前記巻線の他端に相ごとに接続された上アームスイッチ及び下アームスイッチを備える第2インバータと、前記第1インバータの直流高電位側と前記第2インバータの直流高電位側とを接続する高電位接続線と、前記第1インバータの直流低電位側と前記第2インバータの直流低電位側とを接続する低電位接続線と、を含み、前記回転電機のH駆動が可能な駆動回路と、前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチの開閉を制御することにより前記第1インバータと前記第2インバータとを交互に作動させる非対称スイッチング制御を実行可能な制御部と、を備える。対となる前記上アームスイッチと前記下アームスイッチにおける一方のスイッチは、前記非対称スイッチング制御時に導通損失が高くなる側である高損失スイッチであり、他方のスイッチは、前記非対称スイッチング制御時に導通損失が低くなる側である低損失スイッチである。少なくとも1対の前記上アームスイッチと前記下アームスイッチにおいて、前記高損失スイッチは、前記低損失スイッチよりもオン抵抗が低いスイッチング素子である。
【0008】
本発明に係る駆動装置では、上アームスイッチ及び下アームスイッチの開閉を制御することにより第1インバータと第2インバータとを交互に作動させる非対称スイッチング制御を実行する際に、対となる上アームスイッチと下アームスイッチのうち、一方は、非対称スイッチング制御における非作動時に導通損失が高くなる側である高損失スイッチとなり、他方は、導通損失が低くなる側である低損失スイッチとなり得る。本発明に係る駆動装置では、少なくとも1対の上アームスイッチと下アームスイッチにおいて、高損失スイッチは、低損失スイッチよりもオン抵抗が低いスイッチング素子が用いられるように、各スイッチとして用いられるスイッチング素子が選定されている。導通損失の高い高損失スイッチとして、オン抵抗が低いスイッチング素子が用いられるため、導通損失が低減されて、高損失スイッチにおける損失が低減される。このため、高損失スイッチと低損失スイッチとの間の損失の不均衡が改善される。言い換えると、上アームスイッチと下アームスイッチとの間の損失の不均衡が改善される。その結果、簡易な制御でシステム損失を増やすことなく、インバータを構成する上アームスイッチと下アームスイッチにおける損失の不均衡を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】回転電機をH駆動する際の非対称スイッチング制御の一例としての交互PWM駆動の駆動パターンを示す図。
【
図3】
図2に示す交互PWM駆動時の電流経路を示す図。
【
図4】
図1の駆動装置においてスイッチとして用いられる半導体素子のオン抵抗を示す図。
【
図5】
図1の駆動装置におけるスイッチの損失を示す図。
【
図6】変形例に係る交互PWM駆動の駆動パターンを示す図。
【
図7】回転電機をY駆動する際の各スイッチの制御例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
図1に、回転電機の駆動制御を実行する駆動装置10を示す。回転電機は、U相巻線Uと、V相巻線Vと、W相巻線Wとを備えている。駆動装置10は、駆動回路11と、制御部12と、直流電源VDCとを備えている。駆動回路11は、第1インバータINV1と、第2インバータINV2と、高電位接続線Laと、低電位接続線Lbと、接続線スイッチSCとを備えている。
【0011】
第1インバータINV1は、直流電源VDCに接続されており、回転電機のU相巻線Uの一端に接続された上アームスイッチSU1a及び下アームスイッチSU1bと、V相巻線Vの一端に接続された上アームスイッチSV1a及び下アームスイッチSV1bと、W相巻線Wの一端に接続された上アームスイッチSW1a及び下アームスイッチSW1bとを備える。
【0012】
第2インバータINV2は、直流電源VDCに接続されており、回転電機のU相巻線Uの他端に接続された上アームスイッチSU2a及び下アームスイッチSU2bと、V相巻線Vの他端に接続された上アームスイッチSV2a及び下アームスイッチSV2bと、W相巻線Wの他端に接続された上アームスイッチSW2a及び下アームスイッチSW2bとを備える。
【0013】
高電位接続線Laは、第1インバータINV1の直流高電位側と第2インバータINV2の直流高電位側とを接続する配線である。低電位接続線Lbは、第1インバータINV1の直流低電位側と前記第2インバータの直流低電位側とを接続する。
【0014】
第1インバータINV1において、各相の上アームスイッチSU1a,SV1a,SW1aの高電位側端子は直流電源VDCの正極端子に接続され、各相の下アームスイッチSU1b,SV1b,SW1bの低電位側端子は直流電源VDCの負極端子に接続されている。上アームスイッチSU1a,SV1a,SW1a及び下アームスイッチSU1b,SV1b,SW1bは、それぞれ半導体スイッチング素子である。より具体的には、上アームスイッチSU1a,SV1a,SW1aは、炭化ケイ素(SiC)を材料とするMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)である。下アームスイッチSU1b,SV1b,SW1bは、シリコンを材料とする、逆並列に接続された還流ダイオードを有するIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)である。
【0015】
第2インバータINV2において、各相の上アームスイッチSU2a,SV2a,SW2aの高電位側端子は高電位接続線Laに接続され、各相の下アームスイッチSU2b,SV2b,SW2bの低電位側端子は低電位接続線Lbに接続されている。上アームスイッチSU2a,SV2a,SW2a及び下アームスイッチSU2b,SV2b,SW2bは、それぞれ半導体スイッチング素子である。より具体的には、上アームスイッチSU2a,SV2a,SW2aは、SiCを材料とする、MOSFETである。下アームスイッチSU2b,SV2b,SW2bは、シリコンを材料とする、逆並列に接続された還流ダイオードを有するIGBTである。
【0016】
第1インバータINV1において、各相の上アームスイッチSU1a,SV1a,SW1aと下アームスイッチSU1b,SV1b,SW1bとの間の中間点には、それぞれ、巻線U、V、Wの一端(第2インバータINV2と接続されていない一端)が接続されている。第2インバータINV2において、各相の上アームスイッチSU2a,SV2a,SW2aと下アームスイッチSU2b,SV2b,SW2bとの間の中間点には、それぞれ、巻線U、V、Wの一端(第1インバータINV1と接続されていない一端)が接続されている。
【0017】
接続線スイッチSCは、高電位接続線Laに設けられており、高電位接続線Laを導通または遮断することにより、第1インバータINV1と第2インバータINV2とを導通または遮断する。接続線スイッチSCが閉状態(オン状態)の場合には、駆動回路11は、Hブリッジ回路として利用することができ、回転電機のH駆動が可能となる。
【0018】
接続線スイッチSCが開状態(オフ状態)の場合には、駆動回路11によって回転電機のY駆動が可能となる。例えば、第2インバータINV2の全ての上アームスイッチSU2a,SV2a,SW2aを閉状態とするとともに全ての下アームスイッチSU2b,SV2b,SW2bを開状態とすることにより、回転電機のY駆動が可能となる。すなわち、回転電機のU相巻線Uと、V相巻線Vと、W相巻線WとをY結線で接続することができる。この場合、上アームスイッチSU2a,SV2a,SW2aは、Y結線(星形結線)の中性点を構成する中性点構成スイッチに相当する。
【0019】
制御部12は、CPUや各種メモリからなるマイコンを備えており、回転電機における各種の検出情報や、力行駆動及び発電の要求に基づいて、第1インバータINV1および第2インバータINV2における各スイッチの開閉(オンオフ)により通電制御を実施する。回転電機の検出情報には、例えば、レゾルバ等の角度検出器により検出される回転子の回転角度(電気角情報)や、電圧センサにより検出される電源電圧(インバータ入力電圧)、電流センサにより検出される各相の通電電流が含まれる。制御部12は、さらに、接続線スイッチSCの開閉を制御する。制御部12は、第1インバータINV1および第2インバータINV2の各スイッチおよび接続線スイッチSCを操作する操作信号を生成して出力する。
【0020】
図2は、制御部12による第1インバータINV1および第2インバータINV2のスイッチ制御の一例を示す図である。より具体的には、接続線スイッチSCを閉状態に制御して回転電機をH駆動する際の駆動例として、交互PWM駆動を実行する場合の駆動パターンを示している。交互PWM駆動は、第1インバータINV1と第2インバータINV2とを交互に作動させる非対称スイッチング制御の一例である。
【0021】
図2に示す交互PWM駆動においては、期間T1と期間T2とによってU相電圧UVの波形の1周期が構成されている。U相電流UIは、U相電圧UVに対して位相が90°遅れている。期間T1において第1インバータINV1側では、PWM制御を実行し、第2インバータINV2側では、上アームスイッチSU2a,SV2a,SW2aを閉状態かつ下アームスイッチSU2b,SV2b,SW2bを開状態に固定する。期間T2において第2インバータINV2側では、PWM制御を実行し、第1インバータINV1側では、上アームスイッチSU1a,SV1a,SW1aを閉状態かつ下アームスイッチSU1b,SV1b,SW1bを開状態に固定する。交互に期間T1と期間T2の制御が実行される。
【0022】
図3には、期間T1において駆動回路11に流れる電流経路を太線で示している。期間T1において、U相電流が負電流である場合には、
図3に矢印で示す方向に電流が流れ、上アームスイッチSU2a,SV2a,SW2aのMOSFETに電流が流れる。U相電流が正電流である場合には、
図3に矢印で示す方向とは逆方向に電流が流れ、上アームスイッチSU2a,SV2a,SW2aのダイオードに電流が流れる。期間T1ごとに周期的に上アームスイッチSU2a,SV2a,SW2aに電流が流れる一方で、期間T1においては下アームスイッチSU2b,SV2b,SW2bには電流が流れないという状態が繰り返される。このため、上アームスイッチSU2a,SV2a,SW2aにおける発熱量は、下アームスイッチSU2b,SV2b,SW2bにおける発熱量よりも大きくなる。
【0023】
図2,3に示すように、交互PWM制御を実行する際に、第1インバータINV1と第2インバータINV2のうち、PWM制御をしていない側のインバータ(例えば第2インバータINV2)では、上アームスイッチ(例えば、上アームスイッチSU2a,SV2a,SW2a)は閉状態に制御されて電流が流れ、下アームスイッチ(例えば、下アームスイッチSU2b,SV2b,SW2b)は開状態に制御されて電流が流れない。このため、上アームスイッチにおいては、導通損失が生じ、下アームスイッチでは、導通損失が生じない。導通損失により、上アームスイッチにおける発熱量は、下アームスイッチにおける発熱量よりも大きくなる。
【0024】
図4は、IGBTまたはMOSFETのオン抵抗を示す図である。縦軸はコレクタ電流Icまたはドレイン電流Idを示しており、横軸は、コレクタ-エミッタ間電圧Vceまたはドレイン-ソース間電圧Vdsを示している。参照番号21,22,23は、それぞれ、炭化ケイ素(SiC)を材料とするMOSFET,シリコン(Si)を材料とするMOSFET、シリコンを材料とするIGBTを示している。参照番号21,22にしめすように、MOSFETでは、零ボルト程度の低電位領域から線形のオン抵抗特性を有し、順方向通電層にpn接合を含むIGBT(参照番号23)よりもオン抵抗が低くなる。また、参照番号21,22に示すように、シリコンを材料とするMOSFETよりも、SiCを材料とするMOSFETの方がオン抵抗が低くなる。
【0025】
図5は、IGBTを、よりオン抵抗の低いMOSFETに置き換えた場合の損失の変化をシミュレーションにより算出した結果を示す図である。参照番号31~34は、それぞれ、順方向導通損失、逆方向導通損失、スイッチング損失、リカバリ損失を示している。
図5の左側から、(1)上アームスイッチSU1aとしてIGBTを用いた場合、(2)上アームスイッチSU1aとしてMOSFETを用いた場合、(3)下アームスイッチSU1bとしてIGBTを用いた場合を示している。なお、(1)と(3)に用いたIGBTは同じ半導体素子であり、
図4に示す参照番号23の半導体素子に相当する。(2)に用いたMOSFETは、
図4に示す参照番号21の半導体素子に相当し、(1)および(3)のIGBTよりもオン抵抗が低い。
【0026】
図5に示すように、上アームスイッチSU1aとしてIGBTを用いた場合(1)には、同様にIGBTを下アームスイッチSU1bとして用いた場合(3)よりも、主として参照番号31,32に示す順方向および逆方向の導通損失が高くなることにより、全体の損失が高くなっている。双方ともIGBTを用いた場合には、上アームスイッチSU1aにおける全損失が下アームスイッチSU1bにおける全損失より高くなる。
【0027】
これに対して、上アームスイッチSU1aとしてMOSFETを用いた場合(2)には、(1)に示す場合と比較して、参照番号31,32に示す順方向および逆方向の導通損失が低減されている。上アームスイッチSU1aを、IGBTから、よりオン抵抗の低いMOSFETに置き換えることにより、導通損失の1/4程度を低減することができ、上アームスイッチSU1aにおける全損失を、下アームスイッチSU1bにおける全損失と同程度に低減できることが分かった。その結果、上アームスイッチSU1aにおける全損失と下アームスイッチSU1bにおける全損失との不均衡を改善できることが分かった。
【0028】
上記のとおり、第1実施形態によれば、第1インバータINV1と第2インバータINV2とを交互に作動させる非対称スイッチング制御として、交互PWM制御を実行する際に、PWM制御されていない側のインバータにおいて、上アームスイッチSU1a,SV1a,SW1a,SU2a,SV2a,SW2aは導通損失が高くなる側である高損失スイッチとなり、下アームスイッチSU1b,SV1b,SW1b,SU2b,SV2b,SW2bは導通損失が低くなる側である低損失スイッチとなる。駆動装置10では、上アームスイッチSU1a,SV1a,SW1a,SU2a,SV2a,SW2aとしてMOSFETが用いられる一方、下アームスイッチSU1b,SV1b,SW1b,SU2b,SV2b,SW2bとしてはIGBTが用いられ、このMOSFETは、下アームスイッチSU1b,SV1b,SW1b,SU2b,SV2b,SW2bに用いられるIGBTよりもオン抵抗が低い。導通損失が高くなる高損失スイッチとなる上アームスイッチSU1a,SV1a,SW1a,SU2a,SV2a,SW2aとして、よりオン抵抗が低いMOSFETが用いられることにより、IGBTを用いる場合よりも導通損失を低減することができる。その結果、
図5に示すように、対となる上アームスイッチにおける全損失と下アームスイッチにおける全損失との不均衡を改善できる。
【0029】
なお、第1実施形態では、高損失スイッチに用いられる比較的オン抵抗の低いスイッチング素子としてMOSFETを例示し、低損失スイッチに用いられる比較的オン抵抗の高いスイッチング素子としてIGBTを例示して説明したが、これに限定されない。高損失スイッチに用いられるスイッチング素子は、低損失スイッチに用いられるスイッチング素子よりもオン抵抗が低いものであればよい。半導体素子をスイッチング素子として用いる場合には、半導体素子の素子構造、材料、素子サイズなどを適宜選択することにより、高損失スイッチを低損失スイッチよりも低オン抵抗にすることができる。
【0030】
例えば、素子構造としては、高損失スイッチとして、ユニポーラ半導体素子を用い、低損失スイッチとしてバイポーラ半導体素子を用いてもよい。ユニポーラ半導体素子は、順方向通電層が同じ導電型の半導体層(例えばn層)のみから構成されるため、
図4に示すように零ボルト程度の低電位領域から線形のオン抵抗特性を有し、順方向通電層にpn接合を含むバイポーラ半導体素子よりもオン抵抗が低くなる。さらに、高損失スイッチとしては、逆方向導通時の同期整流が可能なユニポーラ半導体素子を用いることが好ましい。このようなユニポーラ素子は逆方向導通時にゲート端子にオン信号を入力することにより、ボディダイオードを介さずに逆方向通電ができるため、零ボルト程度の低電位領域から線形のオン抵抗特性を有し、さらにオン抵抗が低くなる。逆方向導通時の同期整流が可能なユニポーラ半導体素子としては、MOSFETを例示することができる。
【0031】
例えば、半導体素子の材料について、高損失スイッチとして、シリコンよりもバンドギャップが広い半導体を材料とする半導体素子を用い、低損失スイッチとしてシリコンを材料とする半導体素子を用いてもよい。よりバンドギャップが広い半導体を材料とすることにより、オン抵抗を低減することができる。シリコンよりもバンドギャップが広い半導体としては、炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)等を例示することができる。バンドギャップが広い半導体は、絶縁破壊強度が高く、半導体素子の素子厚(導通方向の厚み)を薄くすることができるため、オン抵抗を低減することができる。
【0032】
また、高損失スイッチは、低損失スイッチよりも素子サイズが大きい半導体素子であってもよい。素子サイズが大きいとは、半導体素子の導通方向に略垂直な面が大きいことを意味する。半導体素子の素子サイズを大きくすることにより電流密度が低くなるため、オン抵抗を低減することができる。
【0033】
また、高損失スイッチは、低損失スイッチよりも、導通方向の素子厚が薄い半導体素子であってもよい。縦型のMOSFETやIGBTにおいては、導通方向の素子厚を薄くすると導通距離が短くなるため、オン抵抗を低減することができる。
【0034】
(変形例)
図6に示すように、交互PWM制御においては、第1インバータINV1と第2インバータINV2について、PWM制御を実行する順序を逆にしても、同様のU相電圧VUの波形およびU相電流IUの波形を得ることができる。
図6に示す交互PWM制御では、U相電圧VUおよびU相電流IUの波形は
図2と同様であるが、期間T1と期間T2との順序が入れ替わっている。
【0035】
なお、
図6に示す交互PWM駆動においても、
図2と同様に、期間T1においては、第1インバータINV1側では、PWM制御が実行され、第2インバータINV2側では、上アームスイッチSU2a,SV2a,SW2aを開状態かつ下アームスイッチSU2b,SV2b,SW2bを閉状態に固定する。期間T2においては、第2インバータINV2側では、PWM制御が実行され、第1インバータINV1側では、上アームスイッチSU1a,SV1a,SW1aを開状態かつ下アームスイッチSU1b,SV1b,SW1bを閉状態に固定する。交互に期間T1と期間T2の制御が実行される。
【0036】
図6に示す交互PWM制御を実行する際には、第1インバータINV1と第2インバータINV2のうち、PWM制御をしていない側のインバータでは、上アームスイッチは開状態に制御されて電流が流れず、下アームスイッチは閉状態に制御されて電流が流れる。このため、下アームスイッチにおいては、導通損失が生じ、上アームスイッチでは、導通損失が生じない。
【0037】
このため、
図6に示す交互PWM制御を実行する場合には、
図1に示す駆動装置10において、下アームスイッチとして、上アームスイッチよりもオン抵抗が低い半導体素子を用いることが好ましい。具体的には、例えば、第1実施形態とは逆に、上アームスイッチSU1a,SV1a,SW1aとして、シリコンを材料とする、逆並列に接続された還流ダイオードを有するIGBTを用い、下アームスイッチSU1b,SV1b,SW1bとして、SiCを材料とするMOSFETを用いてもよい。
【0038】
言い換えると、駆動回路11の第1インバータINV1及び第2インバータINV2において、上アームスイッチSU1a,SV1a,SW1a,SU2a,SV2a,SW2aにオン抵抗の高い半導体素子が用いられ、下アームスイッチSU1b,SV1b,SW1b,SU2b,SV2b,SW2bにオン抵抗の低い半導体素子が用いられている場合には、制御部12は、
図6に示すように、他方のインバータでPWM制御が実行されている際に上アームスイッチを開状態に制御し、下アームスイッチを閉状態に制御するように、交互PWM制御を実行するように構成されていることが好ましい。
【0039】
また、駆動回路11の第1インバータINV1及び第2インバータINV2において、下アームスイッチSU1b,SV1b,SW1b,SU2b,SV2b,SW2bにオン抵抗の高い半導体素子が用いられ、上アームスイッチSU1a,SV1a,SW1a,SU2a,SV2a,SW2aにオン抵抗の低い半導体素子が用いられている場合には、制御部12は、
図2に示すように、他方のインバータでPWM制御が実行されている際に上アームスイッチを閉状態に制御し、下アームスイッチを開状態に制御するように、交互PWM制御を実行するように構成されていることが好ましい。
【0040】
(第2実施形態)
図7は、制御部12により、駆動回路11を回転電機のY駆動に利用可能に制御された状態の一例を示す図である。
図7に示すように、接続線スイッチSCを開状態に制御し、第2インバータINV2の上アームスイッチSU2a,SV2a,SW2aを閉状態に制御し、第2インバータINV2の下アームスイッチSU2b,SV2b,SW2bを開状態に制御することにより、回転電機のU相巻線Uと、V相巻線Vと、W相巻線Wとは、Y結線された状態となる。より具体的には、巻線U,V,Wの第2インバータINV2側の巻線端子が、それぞれ上アームスイッチSU2a,SV2a,SW2aを介して接続されることにより、Y結線が実現される。第2インバータINV2を利用してY結線を構成するとともに、第1インバータINV1についてPWM制御等を実行することにより、回転電機をY駆動させることができる。上アームスイッチSU2a,SV2a,SW2aは、Y結線の中性点を構成する中性点構成スイッチに相当する。下アームスイッチSU2b,SV2b,SW2bは、中性点を構成しないため、非中性点構成スイッチに相当する。
【0041】
図7に示すように回転電機のY駆動を実行する際には、上アームスイッチSU2a,SV2a,SW2aは閉状態に制御されて電流が流れ、下アームスイッチSU2b,SV2b,SW2bは開状態に制御されて電流が流れない。このため、上アームスイッチSU2a,SV2a,SW2aにおいては、導通損失が生じ、下アームスイッチSU2b,SV2b,SW2bにおいては、導通損失が生じない。すなわち、中性点構成スイッチである上アームスイッチSU2a,SV2a,SW2aは導通損失が比較的高くなり、非中性点構成スイッチである下アームスイッチSU2b,SV2b,SW2bは導通損失が比較的低くなる。
【0042】
駆動装置10では、上アームスイッチSU2a,SV2a,SW2aとしてMOSFETが用いられる一方、下アームスイッチSU2b,SV2b,SW2bとしてはIGBTが用いられ、このMOSFETは、下アームスイッチSU2b,SV2b,SW2bに用いられるIGBTよりもオン抵抗が低い。導通損失が高い中性点構成スイッチとなる上アームスイッチSU2a,SV2a,SW2aとして、よりオン抵抗が低いMOSFETが用いられることにより、IGBTを用いる場合よりも導通損失を低減することができる。その結果、上アームスイッチSU2a,SV2a,SW2aにおける全損失と下アームスイッチSU2b,SV2b,SW2bにおける全損失との不均衡を改善できる。
【0043】
なお、上記の実施形態では、高電位接続線Laに設けられ、高電位接続線Laの導通と遮断とを切り替え可能な接続線スイッチSCを例示して説明したが、これに限定されない。接続線スイッチSCは、高電位接続線Laと低電位接続線Lbとのいずれか一方に設けられていればよい。
【0044】
中性点構成スイッチに用いられるスイッチング素子としては、高損失スイッチと同様のオン抵抗が低いスイッチング素子を用いることができる。半導体素子をスイッチング素子として用いる場合には、半導体素子の素子構造、材料、素子サイズなどを適宜選択することにより、中性点構成スイッチを非中性点構成スイッチよりも低オン抵抗にすることができる。半導体素子の素子構造について、例えば、中性点構成スイッチは、ユニポーラ半導体素子であってもよい。さらには、中性点構成スイッチは、逆方向導通時の同期整流が可能なユニポーラ半導体素子であってもよい。
【0045】
また、半導体素子の材料について、中性点構成スイッチは、シリコンよりもバンドギャップが広い半導体(例えば、SiC、GaN)を材料とする半導体素子であってもよい。また、中性点構成スイッチは、非中性点構成スイッチよりも素子サイズが大きい半導体素子であってもよい。また、中性点構成スイッチは、非中性点構成スイッチよりも素子厚が薄い半導体素子であってもよい。
【0046】
1対の上アームスイッチと下アームスイッチにおいて、Y駆動時において中性点構成スイッチとなるスイッチが、H駆動時において高損失スイッチとなるスイッチに一致するように、接続線スイッチSCの設置位置(高電位接続線Laまたは低電位接続線Lb)と交互PWM制御のパターン(
図2または
図6に示すパターン)とを選択することが好ましい。H駆動とY駆動とのいずれの駆動パターンにおいても、上アームスイッチにおける全損失と下アームスイッチにおける全損失との不均衡を改善できる。
【0047】
具体的には、
図2に示す交互PWM制御を実行する場合には、接続線スイッチSCは高電位接続線Laに設置することが好ましい。H駆動時とY駆動時とのいずれの場合においても導通損失が高くなる上アームスイッチとして低オン抵抗のスイッチング素子を用いることにより、下アームスイッチにおける全損失と上アームスイッチにおける全損失との不均衡を改善できる。
【0048】
また、
図6に示す交互PWM制御を実行する場合には、接続線スイッチSCは低電位接続線Lbに設置することが好ましい。H駆動時とY駆動時とのいずれの場合においても導通損失が高くなる下アームスイッチとして低オン抵抗のスイッチング素子を用いることにより、上アームスイッチにおける全損失と下アームスイッチにおける全損失との不均衡を改善できる。
【0049】
なお、各スイッチのうち、高損失スイッチかつ中性点構成スイッチであるスイッチのみを低オン抵抗のスイッチング素子として、他のスイッチは、同じスイッチング素子を用いてもよい。例えば、H駆動時に
図2に示す交互PWM制御を実行し、Y駆動時には
図7に示す制御を実行する場合には、高損失スイッチかつ中性点構成スイッチである上アームスイッチSU2a,SV2a,SW2aとしては低オン抵抗のスイッチング素子を用いる一方で、高損失スイッチかつ非中性点構成スイッチである上アームスイッチSU1a,SV1a,SW1aとしては、低損失スイッチである下アームスイッチSU1b,SV1b,SW1b,SU2b,SV2b,SW2bと同様に、比較的オン抵抗の高いスイッチング素子を用いてもよい。例えば、低オン抵抗のスイッチング素子が比較的高価である場合などに、H駆動時とY駆動時の双方において導通損失が高くなる上アームスイッチSU2a,SV2a,SW2aのみに低オン抵抗のスイッチング素子を適用することにより、コストを抑えながら、各駆動時における上アームスイッチにおける損失と下アームスイッチにおける損失との不均衡を改善できる。
【0050】
上記の各実施形態によれば、下記の効果を得ることができる。
【0051】
回転電機の駆動装置10は、複数相に対応する複数の巻線(例えば、U相巻線U、V相巻線V、W相巻線W)を有する回転電機に適用され、駆動回路11と、制御部12とを備える。駆動回路11は、回転電機のH駆動を実行可能に構成されており、直流電源VDCに接続され、巻線の一端に相ごとに接続された上アームスイッチSU1a,SV1a,SW1a及び下アームスイッチSU1b,SV1b,SW1bを備える第1インバータINV1と、巻線の他端に相ごとに設けられた上アームスイッチSU2a,SV2a,SW2a及び下アームスイッチSU2b,SV2b,SW2bを備える第2インバータINV2と、第1インバータINV1の直流高電位側と第2インバータINV2の直流高電位側とを接続する高電位接続線Laと、第1インバータINV1の直流低電位側と第2インバータINV2の直流低電位側とを接続する低電位接続線Lbと、を含む。
【0052】
制御部12は、上アームスイッチSU1a,SV1a,SW1a,SU2a,SV2a,SW2a及び下アームスイッチSU1b,SV1b,SW1b,SU2b,SV2b,SW2bの開閉を制御することにより第1インバータINV1と第2インバータINV2とを交互に作動させる非対称スイッチング制御(例えば、交互PWM制御)を実行可能に構成されている。
【0053】
駆動装置10では、対となる上アームスイッチと下アームスイッチ(例えば、上アームスイッチSU1aと下アームスイッチSU1b)における一方のスイッチは、非対称スイッチング制御時に導通損失が高くなる側である高損失スイッチ(例えば、上アームスイッチSU1a)であり、他方のスイッチ(例えば、下アームスイッチSU1b)は、非対称スイッチング制御時に導通損失が低くなる側である低損失スイッチである。少なくとも1対の上アームスイッチと下アームスイッチにおいて、高損失スイッチ(例えば、上アームスイッチSU1a)は、低損失スイッチ(例えば、下アームスイッチSU1b)よりもオン抵抗が低いスイッチング素子(例えば、IGBTよりもオン抵抗が低いMOSFET)である。導通損失の高い高損失スイッチとして、オン抵抗が低いスイッチング素子が用いられるため、導通損失が低減されて、高損失スイッチにおける損失が低減される。このため、高損失スイッチと低損失スイッチとの間の損失の不均衡が改善され、上アームスイッチと下アームスイッチとの間の損失の不均衡が改善される。
【0054】
高損失スイッチに用いられるスイッチング素子は、低損失スイッチに用いられるスイッチング素子よりもオン抵抗が低いものであればよい。半導体素子をスイッチング素子として用いる場合には、半導体素子の素子構造、材料、素子サイズなどを適宜選択することにより、高損失スイッチを低損失スイッチよりも低オン抵抗にすることができる。半導体素子の素子構造について、例えば、高損失スイッチは、ユニポーラ半導体素子であってもよい。ユニポーラ半導体素子としては、電界効果トランジスタ(FET)、MOSFET等を例示できる。さらには、高損失スイッチは、逆方向導通時の同期整流が可能なユニポーラ半導体素子(例えば、MOSFET)であってもよい。
【0055】
また、半導体素子の材料について、高損失スイッチは、シリコンよりもバンドギャップが広い半導体(例えば、SiC、GaN)を材料とする半導体素子であってもよい。また、高損失スイッチは、低損失スイッチよりも素子サイズが大きい半導体素子であってもよい。また、高損失スイッチは、低損失スイッチよりも素子厚が薄い半導体素子であってもよい。
【0056】
駆動回路11は、さらに、高電位接続線Laおよび低電位接続線Lbの少なくとも一方に備えられた、第1インバータINV1と第2インバータINV2との導通を開閉する接続線スイッチSCをさらに備えることにより、回転電機のH駆動とY駆動とを切り替え可能である。また、制御部12は、接続線スイッチSCと、上アームスイッチと、下アームスイッチとの開閉を制御することにより、回転電機のH駆動制御とY駆動制御とを切り替え可能である。
【0057】
駆動回路11において、Y駆動制御時には、第1インバータINV1と第2インバータINV2のうちの少なくともいずれか一方は、上アームスイッチと下アームスイッチのうち、いずれか一方が中性点を構成する中性点構成スイッチであり、他方が中性点を構成しない非中性点構成スイッチである。この場合、中性点構成スイッチは、非中性点構成スイッチよりもオン抵抗が低いことが好ましい。導通損失の高い中性点構成スイッチとして、オン抵抗が低いスイッチング素子が用いられるため、導通損失が低減されて、中性点構成スイッチにおける損失が低減される。このため、中性点構成スイッチと非中性点構成スイッチとの間の損失の不均衡が改善され、上アームスイッチと下アームスイッチとの間の損失の不均衡が改善される。
【0058】
さらに、接続線スイッチSCを備え、回転電機のH駆動制御とY駆動制御とを切り替え可能な駆動回路11においては、上アームスイッチと下アームスイッチのうち、高損失スイッチであるとともに中性点構成スイッチであるスイッチは、他のスイッチよりもオン抵抗が低いように構成されていてもよい。例えば、低オン抵抗のスイッチング素子が比較的高価である場合などに、高損失スイッチであるとともに中性点構成スイッチであるスイッチのみを低オン抵抗の低いスイッチング素子とし、他のスイッチは比較的安価でオン抵抗が低くないスイッチング素子としてもよい。これによって、コストを抑えることと、上アームスイッチにおける損失と下アームスイッチにおける損失との不均衡を改善することとを両立することができる。
【0059】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0060】
10…駆動装置、11…駆動回路、12…制御部