(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】静電チャック
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20231213BHJP
【FI】
H01L21/68 R
(21)【出願番号】P 2019231047
(22)【出願日】2019-12-23
【審査請求日】2022-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三輪 要
(72)【発明者】
【氏名】村上 勝久
【審査官】三浦 みちる
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0115194(US,A1)
【文献】特開2009-188162(JP,A)
【文献】特開2005-079415(JP,A)
【文献】特開2015-195346(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の表面と、前記第1の表面とは反対側の第2の表面と、を有する板状部材と、
前記板状部材の内部に配置され、静電引力を発生させるチャック電極と、
第3の表面を有し、前記第3の表面が前記板状部材の前記第2の表面側に位置するように配置され、冷却機構を有するベース部材と、
前記板状部材の前記第2の表面と前記ベース部材の前記第3の表面との間に配置されて前記板状部材と前記ベース部材とを接合する接合部と、
を備え、
前記板状部材の前記第1の表面上に対象物を保持する静電チャックにおいて、
前記板状部材の前記第1の表面には、複数のガス吐出孔と、前記複数のガス吐出孔を取り囲む連続的な壁状の凸部と、が形成されており、
前記静電チャックの内部には、前記複数のガス吐出孔に連通するガス流路が形成されており、
前記静電チャックは、さらに、前記複数のガス吐出孔の内の少なくとも2つについて設けられ、各前記ガス吐出孔からのガス吐出量を調整する吐出量調整部を備え
、
前記ガス流路は、
共通ガス流路と、
前記共通ガス流路から分岐し、各前記ガス吐出孔につながる複数の個別ガス流路と、
を含み、
前記吐出量調整部は、各前記ガス吐出孔につながる前記個別ガス流路の所定の位置における流路面積を増減させる流路面積調整機構を含み、
前記流路面積調整機構は、前記個別ガス流路に面する前記流路面積調整機構の先端部の位置を変位させることにより、前記個別ガス流路の流路面積を増減させ、
前記板状部材は、セラミックスにより形成されており、
前記個別ガス流路の前記所定の位置は、前記板状部材の内部の位置であり、
前記流路面積調整機構の前記先端部の少なくとも一部は、金属により形成されており、
前記静電チャックは、さらに、前記流路面積調整機構の前記先端部の少なくとも一部を覆うように配置され、セラミックスにより形成されたキャップ部材を備える、
ことを特徴とする静電チャック。
【請求項2】
請求項
1に記載の静電チャックにおいて、
前記個別ガス流路は、前記板状部材と前記接合部と前記ベース部材とにまたがって形成されており、
前記静電チャックは、さらに、前記個別ガス流路と前記接合部の端面との間に介在し、エラストマーにより形成された保護部材を備える、
ことを特徴とする静電チャック。
【請求項3】
第1の表面と、前記第1の表面とは反対側の第2の表面と、を有する板状部材と、
前記板状部材の内部に配置され、静電引力を発生させるチャック電極と、
第3の表面を有し、前記第3の表面が前記板状部材の前記第2の表面側に位置するように配置され、冷却機構を有するベース部材と、
前記板状部材の前記第2の表面と前記ベース部材の前記第3の表面との間に配置されて前記板状部材と前記ベース部材とを接合する接合部と、
を備え、
前記板状部材の前記第1の表面上に対象物を保持する静電チャックにおいて、
前記板状部材の前記第1の表面には、複数のガス吐出孔と、前記複数のガス吐出孔を取り囲む連続的な壁状の凸部と、が形成されており、
前記静電チャックの内部には、前記複数のガス吐出孔に連通するガス流路が形成されており、
前記静電チャックは、さらに、前記複数のガス吐出孔の内の少なくとも2つについて設けられ、各前記ガス吐出孔からのガス吐出量を調整する吐出量調整部を備え、
前記ガス流路は、
共通ガス流路と、
前記共通ガス流路から分岐し、各前記ガス吐出孔につながる複数の個別ガス流路と、
を含み、
前記吐出量調整部は、各前記ガス吐出孔につながる前記個別ガス流路に配置され、流量可変にガスを送り出すポンプ機構を含む、
ことを特徴とする静電チャック。
【請求項4】
請求項1から請求項
3までのいずれか一項に記載の静電チャックにおいて、
さらに、各前記ガス吐出孔付近の圧力を検知する圧力検知部を備え、
前記吐出量調整部は、前記圧力検知部による圧力の検知結果に基づき、各前記ガス吐出孔からのガス吐出量を調整する、
ことを特徴とする静電チャック。
【請求項5】
請求項
4に記載の静電チャックにおいて、
前記吐出量調整部は、前記圧力検知部により検知された圧力が相対的に低い前記ガス吐出孔のガス吐出量が相対的に増加するように、各前記ガス吐出孔からのガス吐出量を調整する、
ことを特徴とする静電チャック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、静電チャックに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体を製造する際にウェハを保持する保持装置として、静電チャックが用いられる。静電チャックは、例えばセラミックス材料により形成された板状部材と、板状部材の内部に配置されたチャック電極と、例えば金属材料により形成されたベース部材と、板状部材とベース部材とを接合する接合部とを備えており、チャック電極に電圧が印加されることにより発生する静電引力を利用して、板状部材の表面(以下、「吸着面」という。)にウェハを吸着して保持する。
【0003】
静電チャックの吸着面に保持されたウェハの温度が所望の温度にならないと、ウェハに対する各処理(成膜、エッチング等)の精度が低下するおそれがあるため、静電チャックにはウェハの温度分布を制御する性能が求められる。そのため、例えばベース部材に形成された冷媒流路に冷媒を供給することによる冷却によって、板状部材の吸着面の温度分布の制御(ひいては、吸着面に保持されたウェハの温度分布の制御)が行われる。
【0004】
また、静電チャックにおいて、板状部材とウェハとの間の伝熱特性を高めてウェハの温度分布の制御性を向上させるため、ウェハと板状部材の吸着面との間の空間にヘリウムガス等の不活性ガスを供給可能とした構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような構成の静電チャックでは、板状部材の吸着面に、複数のガス吐出孔が形成されており、静電チャックの内部に、該複数のガス吐出孔に連通するガス流路が形成されている。このガス流路に不活性ガスが供給されると、該不活性ガスは上記複数のガス吐出孔から、ウェハと板状部材の吸着面との間の上記空間に供給される。なお、該空間に供給された不活性ガスを該空間内に留めるために、板状部材の吸着面には、上記複数のガス吐出孔を取り囲む連続的な壁状の凸部(「シールバンド」とも呼ばれる。)が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
静電チャックでは、例えば、経年による壁状の凸部(シールバンド)の一部分の摩耗等に起因して、ウェハと板状部材の吸着面との間の上記空間からの不活性ガスの漏れが発生し、該空間内における不活性ガスの濃度が不均一になることがある。該空間内における不活性ガスの濃度が不均一になると、ウェハと板状部材との間の伝熱特性が不均一になり、その結果、ウェハの温度分布の制御性が低下する(例えば、ウェハの温度分布の面内均一性が低下する)おそれがある。また、例えば、静電チャックの製品バラツキ等に起因して、各ガス吐出孔からの不活性ガスの吐出量にバラツキがある場合も、やはり、ウェハと板状部材の吸着面との間の上記空間内における不活性ガスの濃度が不均一になり、その結果、ウェハの温度分布の制御性が低下するおそれがある。また、例えば、ウェハと板状部材の吸着面との間の上記空間において、あえて、特定の部分の不活性ガスの濃度を高くしたり、反対に低くしたりすることにより、ウェハの各部分における温度を所望の温度に制御することも考えられるが、従来の静電チャックではこのような制御を実現することはできない。このように、従来の静電チャックでは、ウェハと板状部材の吸着面との間の上記空間における不活性ガスの濃度の制御性に向上の余地があり、そのために、板状部材の吸着面の温度分布の制御性に向上の余地があり、ひいては、静電チャックに保持されるウェハの温度分布の制御性の点で向上の余地がある。
【0007】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0009】
(1)本明細書に開示される静電チャックは、第1の表面と、前記第1の表面とは反対側の第2の表面と、を有する板状部材と、前記板状部材の内部に配置され、静電引力を発生させるチャック電極と、第3の表面を有し、前記第3の表面が前記板状部材の前記第2の表面側に位置するように配置され、冷却機構を有するベース部材と、前記板状部材の前記第2の表面と前記ベース部材の前記第3の表面との間に配置されて前記板状部材と前記ベース部材とを接合する接合部と、を備え、前記板状部材の前記第1の表面上に対象物(例えばウェハ)を保持する。本静電チャックにおいて、前記板状部材の前記第1の表面には、複数のガス吐出孔と、前記複数のガス吐出孔を取り囲む連続的な壁状の凸部と、が形成されており、前記静電チャックの内部には、前記複数のガス吐出孔に連通するガス流路が形成されており、前記静電チャックは、さらに、前記複数のガス吐出孔の内の少なくとも2つについて設けられ、各前記ガス吐出孔からのガス吐出量を調整する吐出量調整部を備える。本静電チャックによれば、各ガス吐出孔からの不活性ガスの吐出量を調整する吐出量調整部を備えるため、吐出量調整部を用いて各ガス吐出孔からの不活性ガスの吐出量を調整することができる。そのため、対象物と板状部材の第1の表面との間の空間内の各位置における不活性ガスの濃度の制御性を向上させることができ、ひいては対象物の温度制御性を向上させることができる。
【0010】
例えば、経年による壁状の凸部の一部分の摩耗に起因して、対象物と板状部材の第1の表面との間の空間からの不活性ガスの漏れが発生し、該空間内の各位置における不活性ガスの濃度が不均一になることがある。そのような場合にも、吐出量調整部によって各ガス吐出孔からの不活性ガスの吐出量を調整することにより、該不活性ガスの濃度の不均一を緩和・解消することができる。また、例えば、静電チャックの製品バラツキ等に起因して、各ガス吐出孔からの不活性ガスの吐出量にバラツキがあり、その結果、対象物と板状部材の第1の表面との間の空間内の各位置における不活性ガスの濃度が不均一になることがある。そのような場合にも、吐出量調整部によって各ガス吐出孔からの不活性ガスの吐出量を調整することにより、該不活性ガスの濃度の不均一を緩和・解消することができる。また、例えば、対象物と板状部材の第1の表面との間の空間において、あえて、特定の位置の不活性ガスの濃度を高くしたり、反対に低くしたりすることにより、対象物の各位置における温度を所望の温度に制御することが望まれる場合がある。そのような場合にも、吐出量調整部によって各ガス吐出孔からの不活性ガスの吐出量を調整することにより、該空間内の各位置における不活性ガスの濃度を自在に制御することができる。
【0011】
(2)上記静電チャックにおいて、前記ガス流路は、共通ガス流路と、前記共通ガス流路から分岐し、各前記ガス吐出孔につながる複数の個別ガス流路と、を含み、前記吐出量調整部は、各前記ガス吐出孔につながる前記個別ガス流路の所定の位置における流路面積を増減させる流路面積調整機構を含む構成としてもよい。本静電チャックによれば、各ガス吐出孔につながる個別ガス流路の所定の位置における流路面積を増減させることにより、各ガス吐出孔からの不活性ガスの吐出量を調整することができるため、比較的簡易な構成により、各ガス吐出孔からの不活性ガスの吐出量の調整を実現することができる。
【0012】
(3)上記静電チャックにおいて、前記流路面積調整機構は、前記個別ガス流路に面する前記流路面積調整機構の先端部の位置を変位させることにより、前記個別ガス流路の流路面積を増減させる構成としてもよい。本静電チャックによれば、比較的簡易な構成により、各ガス吐出孔につながる個別ガス流路の流路面積を増減させることができ、これにより、各ガス吐出孔からの不活性ガスの吐出量の調整を実現することができる。
【0013】
(4)上記静電チャックにおいて、前記板状部材は、セラミックスにより形成されており、前記個別ガス流路の前記所定の位置は、前記板状部材の内部の位置であり、前記流路面積調整機構の前記先端部の少なくとも一部は、金属により形成されており、前記静電チャックは、さらに、前記流路面積調整機構の前記先端部の少なくとも一部を覆うように配置され、セラミックスにより形成されたキャップ部材を備える構成としてもよい。本静電チャックによれば、セラミックス製のキャップ部材の存在により、個別ガス流路付近の絶縁性を向上させることができると共に、流路面積調整機構の先端部(金属製の部分)と板状部材(セラミックス製)との干渉に起因するパーティクルの発生を抑制することができる。
【0014】
(5)上記静電チャックにおいて、前記ガス流路は、共通ガス流路と、前記共通ガス流路から分岐し、各前記ガス吐出孔につながる複数の個別ガス流路と、を含み、前記吐出量調整部は、各前記ガス吐出孔につながる前記個別ガス流路に配置され、流量可変にガスを送り出すポンプ機構を含む構成としてもよい。本静電チャックによれば、各ガス吐出孔につながる個別ガス流路に配置されたポンプ機構によって個別ガス流路における不活性ガスの流量を変更することにより、各ガス吐出孔からの不活性ガスの吐出量を調整することができ、各ガス吐出孔からの不活性ガスの吐出量の比較的高精度な調整を実現することができる。
【0015】
(6)上記静電チャックにおいて、前記個別ガス流路は、前記板状部材と前記接合部と前記ベース部材とにまたがって形成されており、前記静電チャックは、さらに、前記個別ガス流路と前記接合部の端面との間に介在し、エラストマーにより形成された保護部材を備える構成としてもよい。本静電チャックによれば、保護部材の存在により、個別ガス流路が形成されることに伴って接合部の端面がプラズマ等に晒されて劣化することを抑制することができる。
【0016】
(7)上記静電チャックにおいて、さらに、各前記ガス吐出孔付近の圧力を検知する圧力検知部を備え、前記吐出量調整部は、前記圧力検知部による圧力の検知結果に基づき、各前記ガス吐出孔からのガス吐出量を調整する構成としてもよい。本静電チャックによれば、対象物と板状部材の第1の表面との間の空間内の各位置における不活性ガスの濃度の制御性をさらに向上させることができ、ひいては対象物の温度制御性をさらに向上させることができる。
【0017】
(8)上記静電チャックにおいて、前記吐出量調整部は、前記圧力検知部により検知された圧力が相対的に低い前記ガス吐出孔のガス吐出量が相対的に増加するように、各前記ガス吐出孔からのガス吐出量を調整する構成としてもよい。本静電チャックによれば、各ガス吐出孔付近の圧力が均等に近付くように、各ガス吐出孔からの不活性ガスの吐出量を調整することができるため、対象物と板状部材の第1の表面との間の空間内の各位置における不活性ガスの濃度の均一性を向上させることができ、ひいては対象物の温度の面内均一性を向上させることができる。
【0018】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、静電チャック、静電チャックを備える半導体製造装置、それらの製造方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態における静電チャック100の外観構成を概略的に示す斜視図
【
図2】第1実施形態における静電チャック100のXZ断面構成を概略的に示す説明図
【
図3】第1実施形態における静電チャック100のXY平面(上面)構成を概略的に示す説明図
【
図4】第1実施形態の静電チャック100における不活性ガスの供給量を調整するための構成を示す説明図
【
図5】第2実施形態における静電チャック100のXZ断面構成を概略的に示す説明図
【
図6】第3実施形態における静電チャック100のXZ断面構成を概略的に示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0020】
A.第1実施形態:
A-1.静電チャック100の構成:
図1は、第1実施形態における静電チャック100の外観構成を概略的に示す斜視図であり、
図2は、第1実施形態における静電チャック100のXZ断面構成を概略的に示す説明図であり、
図3は、第1実施形態における静電チャック100のXY平面(上面)構成を概略的に示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向といい、Z軸負方向を下方向というものとするが、静電チャック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
【0021】
静電チャック100は、対象物(例えばウェハW)を静電引力により吸着して保持する装置であり、例えば半導体製造装置の真空チャンバー内でウェハWを固定するために使用される半導体製造装置用部品である。静電チャック100は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向(Z軸方向))に並べて配置された板状部材10およびベース部材20を備える。板状部材10とベース部材20とは、板状部材10の下面S2(
図2参照)とベース部材20の上面S3とが、後述する接合部30を挟んで上記配列方向に対向するように配置されている。すなわち、ベース部材20は、ベース部材20の上面S3が板状部材10の下面S2側に位置するように配置されている。板状部材10の下面S2は、特許請求の範囲における第2の表面に相当し、ベース部材20の上面S3は、特許請求の範囲における第3の表面に相当する。
【0022】
板状部材10は、Z軸方向視で略円形の板状の部材であり、本実施形態ではセラミックス(例えば、アルミナや窒化アルミニウム等)を含む材料により形成されている。なお、本実施形態では、板状部材10は、セラミックスを主成分として含む材料により形成されている。本明細書において、主成分とは、体積含有率が最も高い成分を意味する。板状部材10は、外周に沿って上側に切り欠きが形成された部分である外周部OPと、外周部OPの内側に位置する内側部IPとから構成されている。板状部材10における内側部IPの厚さ(Z軸方向における厚さであり、以下同様。)は、外周部OPに形成された切り欠きの分だけ、外周部OPの厚さより厚くなっている。すなわち、板状部材10の外周部OPと内側部IPとの境界の位置で、板状部材10の厚さが変化している。
【0023】
板状部材10の内側部IPの直径は例えば50mm~500mm程度(通常は200mm~350mm程度)であり、板状部材10の外周部OPの直径は例えば60mm~510mm程度(通常は210mm~360mm程度)である(ただし、外周部OPの直径は内側部IPの直径より大きい)。また、板状部材10の内側部IPの厚さは例えば1mm~10mm程度であり、板状部材10の外周部OPの厚さは例えば0.5mm~9.5mm程度である(ただし、外周部OPの厚さは内側部IPの厚さより薄い)。
【0024】
板状部材10の上面S1のうち、内側部IPにおける上面(以下、「吸着面」ともいう。)S11は、Z軸方向に略直交する略円形の表面である。吸着面S11は、特許請求の範囲における第1の表面に相当する。なお、本明細書では、Z軸方向に直交する方向を「面方向」という。
【0025】
板状部材10の上面S1のうち、外周部OPにおける上面(以下、「外周上面」ともいう。)S12は、Z軸方向に略直交する略円環状の表面である。板状部材10の外周上面S12には、例えば、静電チャック100を固定するための治具(不図示)が係合する。
【0026】
図2に示すように、板状部材10の内部には、導電性材料(例えば、タングステン、モリブデン、白金等)により形成されたチャック電極40が配置されている。Z軸方向視でのチャック電極40の形状は、例えば略円形である。チャック電極40にチャック用電源(不図示)から電圧が印加されると、静電引力が発生し、この静電引力によってウェハWが板状部材10の吸着面S11に吸着固定される。
【0027】
また、板状部材10の内部には、導電性材料(例えば、タングステン、モリブデン、白金等)を含む抵抗発熱体により構成されたヒータ電極50が配置されている。ヒータ電極50にヒータ用電源(不図示)から電圧が印加されると、ヒータ電極50が発熱することによって板状部材10が温められ、板状部材10の吸着面S11に保持されたウェハWが温められる。これにより、ウェハWの温度分布の制御が実現される。
【0028】
ベース部材20は、例えば板状部材10の外周部OPと同径の、または、板状部材10の外周部OPより径が大きい円形平面の板状部材であり、例えば金属(アルミニウムやアルミニウム合金等)により形成されている。ベース部材20の直径は例えば220mm~550mm程度(通常は220mm~350mm)であり、ベース部材20の厚さは例えば20mm~40mm程度である。
【0029】
ベース部材20は、板状部材10の下面S2とベース部材20の上面S3との間に配置された接合部30によって、板状部材10に接合されている。接合部30の厚さは、例えば0.1mm~1mm程度である。本実施形態では、接合部30は、樹脂材料(接着材料)を主成分として含んでいる。接合部30に含まれる樹脂材料としては、シリコーン樹脂やフッ素樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等の種々の樹脂材料を用いることができるが、耐熱性が高く、かつ、柔軟な樹脂材料であるシリコーン樹脂やフッ素樹脂を用いることが好ましい。また、接合部30は、樹脂材料に加えて、例えばセラミックスの充填材(フィラー)を含んでいてもよい。
【0030】
ベース部材20の内部には冷媒流路21が形成されている。冷媒流路21に冷媒(例えば、フッ素系不活性液体や水等)が流されると、ベース部材20が冷却され、接合部30を介したベース部材20と板状部材10との間の伝熱(熱引き)により板状部材10が冷却され、板状部材10の吸着面S11に保持されたウェハWが冷却される。これにより、ウェハWの温度分布の制御が実現される。冷媒流路21は、特許請求の範囲における冷却機構に相当する。
【0031】
また、静電チャック100は、静電チャック100の周囲に存在するプラズマやプロセスガスから接合部30の外周面を保護するためのOリング110を備える。Oリング110は、例えばエラストマー(例えば、合成ゴム)により形成されている。
図2に示すように、Oリング110は、板状部材10の下面S2とベース部材20の上面S3とに当接しており、該当接箇所において封止機能を発揮することにより、接合部30の外周面がプラズマやプロセスガスに晒されて劣化することを抑制する。
【0032】
A-2.板状部材10の吸着面S11の構成:
図2および
図3に示すように、板状部材10の吸着面S11には、凹部79と複数の凸部70とが形成されている。より詳細には、板状部材10の吸着面S11において、凸部70が形成されていない部分が凹部79となっている。
【0033】
板状部材10の吸着面S11に形成された複数の凸部70は、吸着面S11の外周に沿って連続的に形成された壁状の凸部70(以下、「シールバンド72」という。)を含む。
図3に示すように、Z軸方向視でのシールバンド72の形状は、板状部材10の吸着面S11の中心P0を中心とした略円環状である。シールバンド72は、Z軸方向視で、後述する複数のガス吐出孔12を取り囲むように形成されている。また、
図2に示すように、シールバンド72の断面(Z軸に平行で、かつ、吸着面S11の中心を通る断面)の形状は、略矩形である。シールバンド72の高さは、例えば、10μm~20μm程度である。また、シールバンド72の幅(Z軸方向視でのシールバンド72の延伸方向に直交する方向の大きさ)は、例えば、0.5mm~5.0mm程度である。シールバンド72は、特許請求の範囲における壁状の凸部に相当する。
【0034】
また、板状部材10の吸着面S11に形成された複数の凸部70は、板状部材10の吸着面S11におけるシールバンド72より内側の領域に形成された複数の独立した柱状の凸部70(以下、「柱状凸部73」という。)を含む。
図3に示すように、Z軸方向視での各柱状凸部73の形状は、略円形である。Z軸方向視で、複数の柱状凸部73は、略均等間隔で配置されていることが好ましい。また、
図2に示すように、各柱状凸部73の断面(Z軸に平行な断面)の形状は、略矩形である。柱状凸部73の高さは、シールバンド72の高さと略同一であり、例えば、10μm~20μm程度である。また、柱状凸部73の幅(Z軸方向視での柱状凸部73の最大径)は、例えば、0.5mm~1.5mm程度である。
【0035】
ウェハWは、板状部材10の吸着面S11における複数の凸部70(シールバンド72および柱状凸部73)の頂面に支持される。すなわち、板状部材10の吸着面S11はウェハWを保持する吸着面として機能すると上述したが、より詳細には、ウェハWを保持するのは、吸着面S11の内、複数の凸部70の頂面である。ウェハWが複数の凸部70の頂面に支持された状態では、ウェハWの表面(下面)と、板状部材10の吸着面S11(より詳細には吸着面S11の凹部79)との間に、空間が存在することとなる。後述するように、この空間には、不活性ガスが供給される。
【0036】
A-3.不活性ガス供給のための構成:
静電チャック100は、板状部材10とウェハWとの間の伝熱性を高めてウェハWの温度分布の制御性をさらに高めるため、ウェハWの表面(下面)と板状部材10の吸着面S11(吸着面S11の凹部79)との間に存在する空間に、不活性ガス(例えば、ヘリウムガス)を供給するための構成を備えている。
【0037】
すなわち、
図2および
図3に示すように、板状部材10の吸着面S11には、複数のガス吐出孔12(本実施形態では、4つのガス吐出孔12a~12d)が形成されている。また、静電チャック100の内部には、複数のガス吐出孔12に連通するガス流路130が形成されている。なお、
図3では、説明の便宜上、静電チャック100の内部に形成されたガス流路130を構成する各部分を破線で示している。
【0038】
ガス流路130の構成について、さらに詳細に説明する。
図2に示すように、ベース部材20には、ベース部材20の下面S4から上面S3にわたって上下方向に延びるベース部材ガス流路131が形成されている。また、接合部30には、ベース部材20のベース部材ガス流路131に連通する貫通孔132が形成されている。また、板状部材10の下面S2には、接合部30の貫通孔132に連通する凹部133が形成されている。また、板状部材10の内部には、凹部133の底面に連通すると共に上方に延びる縦流路134と、縦流路134の上端付近を起点として面方向(本実施形態ではX軸方向およびY軸方向)に延びる4本の横流路135と、各横流路135の外周側端部を互いに連結するように面方向に延びる形状の(本実施形態では吸着面S11の中心P0を中心とした略円環状の)連結流路136と、連結流路136の所定の位置を起点として面方向(本実施形態ではX軸方向およびY軸方向)に延びる4本の枝流路137と、各枝流路137から吸着面S11まで上方に延びて、吸着面S11のガス吐出孔12において開口するガス噴出流路138とが形成されている。なお、ガス流路130の各構成部分の内、枝流路137およびガス噴出流路138を除く構成部分は、複数のガス吐出孔12に対して共通に設けられたガス流路(以下、「共通ガス流路」ともいう。)である。一方、枝流路137およびガス噴出流路138は、共通ガス流路から分岐し、各ガス吐出孔12につながる個別のガス流路(以下、「個別ガス流路」ともいう。)である。
【0039】
なお、板状部材10の凹部133を経由した板状部材10とベース部材20との間の放電やガスの放電等の発生を抑制するために、凹部133内には、通気性プラグ160が配置されている。通気性プラグ160は、絶縁性材料により形成された略円柱状の部材であり、板状部材10より気孔率が高い多孔質部材である。通気性プラグ160の形成材料としては、例えばセラミックス多孔質体やグラスファイバー、耐熱性ポリテトラフルオロエチレン樹脂スポンジ等を用いることができる。
【0040】
ガス源(不図示)から供給された不活性ガス(例えばヘリウムガス)が、ベース部材ガス流路131内に流入すると、該不活性ガスは、接合部30の貫通孔132および板状部材10の凹部133内に配置された通気性プラグ160の内部を通過して、板状部材10の内部に形成された縦流路134に流入する。その後、該不活性ガスは、縦流路134から横流路135に流入し、横流路135および連結流路136を介して面方向に流れつつ、各枝流路137に流入する。その後、該不活性ガスは、各枝流路137からガス噴出流路138に流入し、吸着面S11に形成された各ガス吐出孔12から吐出される。このようにして、ウェハWの表面と板状部材10の吸着面S11(吸着面S11の凹部79)との間に存在する空間に、不活性ガスが供給される。
【0041】
ここで、上述したように、ウェハWは、板状部材10の吸着面S11における複数の凸部70(シールバンド72および柱状凸部73)の頂面に支持される。すなわち、シールバンド72の頂面は、ウェハWの表面(下面)に接する。そのため、ウェハWの表面と板状部材10の吸着面S11との間に存在する上記空間は、シールバンド72により閉ざされた空間となる。従って、該空間に供給された不活性ガスは、(シールバンド72の頂面とウェハWの表面との間のわずかな隙間を介して漏洩する分を除いて)該空間内に留まり、ウェハWと板状部材10との間の伝熱性を高める機能を継続的に発揮する。
【0042】
A-4.不活性ガスの供給量調整のための構成:
本実施形態の静電チャック100は、上述したウェハWの表面と板状部材10の吸着面S11との間に存在する空間への不活性ガスの供給量を調整するための構成を備えている。
図4は、第1実施形態の静電チャック100における不活性ガスの供給量を調整するための構成を示す説明図である。
図4には、静電チャック100の一部分(
図2のX1部)のXZ断面構成が拡大して示されている。
【0043】
図2および
図4に示すように、本実施形態の静電チャック100は、ポジショナー150を備える。ポジショナー150は、Z軸方向に延びる略円柱状の部材である。本実施形態では、ポジショナー150は、板状部材10の吸着面S11に形成された各ガス吐出孔12に対応して設けられている。すなわち、本実施形態の静電チャック100には、4つのガス吐出孔12に対応する4つのポジショナー150が設けられている。
【0044】
各ポジショナー150は、各ガス吐出孔12につながる枝流路137とガス噴出流路138との接続位置付近から下方に向かってベース部材20の下面S4まで延びるポジショナー用孔140内に配置されている。ポジショナー用孔140の下端部の内周面には雌ネジ141が形成されており、ポジショナー用孔140の該下端部に、外周面に雄ネジが形成された略円柱状の固定部材162が螺号している。ポジショナー150の下端部は、固定部材162の上端部に接合されている。そのため、固定部材162を回転させて上下方向における固定部材162の位置を調整することにより、上下方向におけるポジショナー150の位置(後述する基準位置Po)を調整することができる。また、固定部材162とポジショナー用孔140の表面との間に介在するOリング164により、ポジショナー用孔140は気密に保たれている。なお、ポジショナー用孔140は、各ガス吐出孔12について設けられた枝流路137に連通していることから、個別ガス流路の一部であり、板状部材10と接合部30とベース部材20とにまたがって形成されている。
【0045】
図4に示すように、ポジショナー150の先端部(上端部)は、個別ガス流路(より具体的には、枝流路137とガス噴出流路138との接続位置付近)に面している。なお、本実施形態では、ポジショナー150の上端部の一部(Z軸方向視での中心付近の部分)が、上側に突出している。また、本実施形態のポジショナー150は、上下方向に変形可能に構成されている。例えば、ポジショナー150は、特開2015-115542号公報や特開2015-122438号公報に開示されているような圧電アクチュエーターにより構成されている。該圧電アクチュエーターは、ピエゾ素子等の圧電素子(圧電セラミックス)が上下方向に複数積層された積層体を金属製のカバーで囲んだ構成を有しており、供給される駆動電圧に応じて上下方向に変形する。ポジショナー150の変形についての制御は、例えば、図示しない制御回路による供給電圧の制御により実現される。
【0046】
ポジショナー150が上下方向に変形することにより、個別ガス流路に面するポジショナー150の先端部の位置が変位し、その結果、個別ガス流路の所定の位置(より具体的には、枝流路137とガス噴出流路138との接続位置付近)における流路面積が増減する。個別ガス流路の流路面積が増減すると、該個別ガス流路の圧力損失が増減し、該個別ガス流路を流れる不活性ガスの流量(すなわち、該個別ガス流路につながるガス吐出孔12からの不活性ガスの吐出量)が増減する。例えば、
図4に示すように、ポジショナー150の先端部が基準位置Poから上側の位置Puに変位すると、個別ガス流路(枝流路137およびガス噴出流路138)の流路面積が減少し、該個別ガス流路につながるガス吐出孔12からの不活性ガスの吐出量が減少する。反対に、ポジショナー150の先端部が基準位置Poから下側の位置Plに変位すると、個別ガス流路(枝流路137およびガス噴出流路138)の流路面積が増加し、該個別ガス流路につながるガス吐出孔12からの不活性ガスの吐出量が増加する。このように、ポジショナー150は、個別ガス流路に面する先端部の位置を変位させることにより、該個別ガス流路の流路面積を増減させ、これにより該個別ガス流路につながるガス吐出孔12からの不活性ガスの吐出量を調整する。ポジショナー150は、特許請求の範囲における吐出量調整部および流路面積調整機構に相当する。
【0047】
なお、本実施形態の静電チャック100では、
図4に示すように、ポジショナー150の先端部(金属製のカバーに覆われた部分)の少なくとも一部が、セラミックスにより形成されたキャップ部材158により覆われている。本実施形態では、キャップ部材158は、ポジショナー150の上面の全体を覆っている。
【0048】
また、上述したように、ポジショナー用孔140は、個別ガス流路の一部を構成しており、板状部材10と接合部30とベース部材20とにまたがって形成されている。本実施形態の静電チャック100では、
図2に示すように、ポジショナー用孔140と接合部30の端面との間に、接合部30の端面を保護するためのOリング120が配置されている。Oリング120は、例えばエラストマー(例えば、合成ゴム)により形成されている。なお、Oリング120の形成材料は、弾性を有し、かつ、耐プラズマ性、耐熱性、耐薬品性に優れた材料であることが好ましい。Oリング120は、特許請求の範囲における保護部材に相当する。
【0049】
A-5.第1実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態の静電チャック100は、板状部材10と、チャック電極40と、ベース部材20と、接合部30と、を備える。板状部材10は、吸着面S11と、吸着面S11とは反対側の下面S2とを有する部材である。チャック電極40は、板状部材10の内部に配置され、静電引力を発生させる。ベース部材20は、上面S3を有し、上面S3が板状部材10の下面S2側に位置するように配置され、冷媒流路21を有する部材である。接合部30は、板状部材10の下面S2とベース部材20の上面S3との間に配置されて板状部材10とベース部材20とを接合する。また、板状部材10の吸着面S11には、複数のガス吐出孔12と、複数のガス吐出孔12を取り囲む連続的な壁状のシールバンド72とが形成されている。静電チャック100の内部には、複数のガス吐出孔12に連通するガス流路130が形成されている。また、本実施形態の静電チャック100は、さらに、複数のガス吐出孔12のそれぞれについて設けられ、各ガス吐出孔12からの不活性ガスの吐出量を調整するためのポジショナー150を備える。
【0050】
このように、本実施形態の静電チャック100は、各ガス吐出孔12からの不活性ガスの吐出量を調整するポジショナー150を備えるため、ポジショナー150を用いて各ガス吐出孔12からの不活性ガスの吐出量を調整することができる。そのため、ウェハWと板状部材10の吸着面S11との間の空間内の各位置における不活性ガスの濃度の制御性を向上させることができ、ひいてはウェハWの温度制御性を向上させることができる。
【0051】
例えば、経年によるシールバンド72の一部分の摩耗に起因して、ウェハWと板状部材10の吸着面S11との間の空間からの不活性ガスの漏れが発生し、該空間内の各位置における不活性ガスの濃度が不均一になることがある。そのような場合には、該不活性ガスの濃度の不均一が緩和・解消されるように、ポジショナー150が制御される。例えば、
図3のY1部のシールバンド72が摩耗して、この部分からの不活性ガスの漏れが発生した場合には、該部分の近くに位置するガス吐出孔12(ガス吐出孔12c)からの不活性ガスの吐出量を増加させるべく、該ガス吐出孔12cについて設けられたポジショナー150を変形させることによってポジショナー150の先端部の位置を下方に変位させる。それに代えて、あるいは、それと共に、該部分の近くに位置するガス吐出孔12(ガス吐出孔12c)以外のガス吐出孔12(12a,12b,12d)からの不活性ガスの吐出量を減少させるべく、各ガス吐出孔12a,12b,12dについて設けられた各ポジショナー150を変形させることによって各ポジショナー150の先端部の位置を上方に変位させる。このような制御を行うことにより、ウェハWと板状部材10の吸着面S11との間の空間内の各位置における不活性ガスの濃度の不均一が緩和・解消され、該不均一に起因するウェハWの温度分布の制御性の低下(例えば、ウェハWの温度分布の面内均一性の低下)を抑制することができる。
【0052】
なお、ウェハWと板状部材10の吸着面S11との間の空間内の各位置における不活性ガスの濃度が不均一になっていることは、例えば、ウェハWに対する各処理の出来映えに基づき検知することができる。
【0053】
また、例えば、静電チャック100の製品バラツキ(例えば、枝流路137やガス噴出流路138の形状や位置のバラツキ)等に起因して、各ガス吐出孔12からの不活性ガスの吐出量にバラツキがあり、その結果、ウェハWと板状部材10の吸着面S11との間の空間内の各位置における不活性ガスの濃度が不均一になることがある。そのような場合には、該不活性ガスの濃度の不均一が緩和・解消されるように、ポジショナー150が制御される。例えば、他のガス吐出孔12と比べて不活性ガスの吐出量が少ないガス吐出孔12については、該ガス吐出孔12からの不活性ガスの吐出量を増加させるべく、該ガス吐出孔12について設けられたポジショナー150を変形させることによってポジショナー150の先端部の位置を下方に変位させる。それに代えて、あるいは、それと共に、該ガス吐出孔12以外のガス吐出孔12(不活性ガスの吐出量が比較的多いガス吐出孔12)からの不活性ガスの吐出量を減少させるべく、これらのガス吐出孔12について設けられた各ポジショナー150を変形させることによって各ポジショナー150の先端部の位置を上方に変位させる。このような制御を行うことにより、ウェハWと板状部材10の吸着面S11との間の空間内の各位置における不活性ガスの濃度の不均一が緩和・解消され、該不均一に起因するウェハWの温度分布の制御性の低下(例えば、ウェハWの温度分布の面内均一性の低下)を抑制することができる。
【0054】
また、例えば、ウェハWと板状部材10の吸着面S11との間の空間において、あえて、特定の位置の不活性ガスの濃度を高くしたり、反対に低くしたりすることにより、ウェハWの各位置における温度を所望の温度に制御することが望まれる場合がある。そのような場合には、例えば、該空間における不活性ガスの濃度を高くしたい位置の近くのガス吐出孔12について、該ガス吐出孔12からの不活性ガスの吐出量を増加させるべく、該ガス吐出孔12について設けられたポジショナー150を変形させることによってポジショナー150の先端部の位置を下方に変位させる。反対に、例えば、該空間における不活性ガスの濃度を低くしたい位置の近くのガス吐出孔12について、該ガス吐出孔12からの不活性ガスの吐出量を減少させるべく、該ガス吐出孔12について設けられたポジショナー150を変形させることによって各ポジショナー150の先端部の位置を上方に変位させる。このような制御を行うことにより、ウェハWと板状部材10の吸着面S11との間の空間内の各位置における不活性ガスの濃度を自在に制御することができ、ウェハWの温度分布の制御性を向上させることができる。
【0055】
また、本実施形態の静電チャック100では、ガス流路130は、複数のガス吐出孔12に対して共通に設けられた共通ガス流路(ベース部材20のベース部材ガス流路131、接合部30の貫通孔132、板状部材10の凹部133、縦流路134、横流路135、連結流路136)と、共通ガス流路から分岐し、各ガス吐出孔12につながる個別ガス流路(枝流路137、ガス噴出流路138、ポジショナー用孔140)とを含んでいる。そして、ポジショナー150は、個別ガス流路の所定の位置(枝流路137とガス噴出流路138との接続位置付近)における流路面積を増減させることにより、該個別ガス流路につながるガス吐出孔12からの不活性ガスの吐出量を調整する。このように、本実施形態の静電チャック100によれば、各ガス吐出孔12につながる個別ガス流路の所定の位置における流路面積を増減させることにより、各ガス吐出孔12からの不活性ガスの吐出量を調整することができるため、比較的簡易な構成により、各ガス吐出孔12からの不活性ガスの吐出量の調整を実現することができる。なお、本実施形態の静電チャック100では、ポジショナー150は、個別ガス流路に面する先端部の位置を変位させることにより、該個別ガス流路の流路面積を増減させるため、比較的簡易な構成により、各ガス吐出孔12につながる個別ガス流路の流路面積を増減させることができ、これにより、各ガス吐出孔12からの不活性ガスの吐出量の調整を実現することができる。
【0056】
また、本実施形態の静電チャック100では、板状部材10はセラミックスにより形成されている。また、ポジショナー150が個別ガス流路において流路面積を増減させる所定の位置は、枝流路137とガス噴出流路138との接続位置付近であり、これは板状部材10の内部の位置である。また、ポジショナー150の先端部の少なくとも一部は、金属により形成されている。また、本実施形態の静電チャック100は、さらに、ポジショナー150の先端部の少なくとも一部を覆うように配置され、セラミックスにより形成されたキャップ部材158を備える。そのため、本実施形態の静電チャック100によれば、セラミックス製のキャップ部材158の存在により、個別ガス流路付近の絶縁性を向上させることができると共に、上下方向に変形可能なポジショナー150の先端部(金属製の部分)と板状部材10(セラミックス製)との干渉に起因するパーティクルの発生を抑制することができる。
【0057】
また、本実施形態の静電チャック100では、個別ガス流路の一部を構成するポジショナー用孔140は、板状部材10と接合部30とベース部材20とにまたがって形成されている。また、本実施形態の静電チャック100は、さらに、ポジショナー用孔140と接合部30の端面との間に介在し、エラストマーにより形成されたOリング120を備える。そのため、本実施形態の静電チャック100によれば、Oリング120の存在により、ポジショナー用孔140が形成されることに伴って接合部30の端面がプラズマ等に晒されて劣化することを抑制することができる。
【0058】
B.第2実施形態:
図5は、第2実施形態における静電チャック100のXZ断面構成を概略的に示す説明図である。以下では、第2実施形態の静電チャック100の構成の内、上述した第1実施形態の静電チャック100の構成と同一の構成については、同一の符号を付すことによってその説明を適宜省略する。
【0059】
図5に示すように、第2実施形態の静電チャック100は、各ガス吐出孔12付近の圧力を検知する構成を備える点が、第1実施形態の静電チャック100と異なる。より詳細には、第2実施形態の静電チャック100では、各ガス噴出流路138から分岐して、ベース部材20の下面S4まで延びる圧力検知用孔142が形成されており、圧力検知用孔142は、圧力計143に接続されている。圧力計143は、例えば数トール程度の圧力を検知可能な高精度の圧力センサである。圧力計143は、圧力検知用孔142を介してつながったガス噴出流路138の圧力を検知することにより、ガス吐出孔12付近の圧力を検知する。圧力計143は、特許請求の範囲における圧力検知部に相当する。
【0060】
圧力計143による圧力検知結果は、制御回路148に入力される。制御回路148は、圧力計143から入力された圧力値に基づき、ポジショナー150を制御する。例えば、制御回路148は、あるガス噴出流路138について検知された圧力値が規定値より低い場合には、該ガス噴出流路138につながるガス吐出孔12からの不活性ガスの吐出量を増加させるべく、該ガス吐出孔12について設けられたポジショナー150を変形させることによってポジショナー150の先端部の位置を下方に変位させる。反対に、制御回路148は、あるガス噴出流路138について検知された圧力値が規定値より高い場合には、該ガス噴出流路138につながるガス吐出孔12からの不活性ガスの吐出量を減少させるべく、該ガス吐出孔12について設けられたポジショナー150を変形させることによってポジショナー150の先端部の位置を上方に変位させる。このような制御を行うことにより、ウェハWと板状部材10の吸着面S11との間の空間内の各位置における不活性ガスの濃度の不均一が緩和・解消され、該不均一に起因するウェハWの温度分布の制御性の低下(例えば、ウェハWの温度分布の面内均一性の低下)を抑制することができる。
【0061】
なお、第2実施形態においても、第1実施形態において例示したように、ウェハWと板状部材10の吸着面S11との間の空間において、あえて、特定の位置の不活性ガスの濃度を高くしたり、反対に低くしたりすることにより、ウェハWの各位置における温度を所望の温度に制御することもできる。
【0062】
以上説明したように、第2実施形態の静電チャック100は、各ガス吐出孔12付近の圧力を検知する圧力計143を備える。また、各ポジショナー150は、圧力計143による圧力の検知結果に基づき、各ガス吐出孔12からの不活性ガスの吐出量を調整する。そのため、第2実施形態の静電チャック100によれば、ウェハWと板状部材10の吸着面S11との間の空間内の各位置における不活性ガスの濃度の制御性をさらに向上させることができ、ひいてはウェハWの温度制御性をさらに向上させることができる。例えば、ポジショナー150は、圧力計143により検知された圧力が相対的に低いガス吐出孔12からの不活性ガスの吐出量が相対的に増加するように、各ガス吐出孔12からの不活性ガスの吐出量を調整する。このようにすれば、各ガス吐出孔12付近の圧力が均等に近付くように、各ガス吐出孔12からの不活性ガスの吐出量を調整することができるため、ウェハWと板状部材10の吸着面S11との間の空間内の各位置における不活性ガスの濃度の均一性を向上させることができ、ひいてはウェハWの温度の面内均一性を向上させることができる。
【0063】
C.第3実施形態:
図6は、第3実施形態における静電チャック100のXZ断面構成を概略的に示す説明図である。以下では、第3実施形態の静電チャック100の構成の内、上述した第1実施形態または第2実施形態の静電チャック100の構成と同一の構成については、同一の符号を付すことによってその説明を適宜省略する。
【0064】
図6に示すように、第3実施形態の静電チャック100は、各ガス吐出孔12からの不活性ガスの吐出量を調整するための構成が、第1実施形態および第2実施形態の静電チャック100と異なる。より詳細には、第3実施形態の静電チャック100は、該構成として、ポジショナー150の代わりにポンプ170を備える。本実施形態では、ポンプ170は、板状部材10の吸着面S11に形成された各ガス吐出孔12に対応して設けられている。すなわち、本実施形態の静電チャック100には、4つのガス吐出孔12に対応する4つのポンプ170が設けられている。ポンプ170は、特許請求の範囲における吐出量調整部およびポンプ機構に相当する。
【0065】
各ポンプ170は、各枝流路137と各ガス噴出流路138との間に設けられたポンプ用孔146内に配置されている。枝流路137とポンプ用孔146との接続箇所には、枝流路137からポンプ用孔146へのガスの流入を許容し、かつ、ポンプ用孔146から枝流路137へのガスの流入を許容しない弁176が配置されている。同様に、ポンプ用孔146とガス噴出流路138との接続箇所には、ポンプ用孔146からガス噴出流路138へのガスの流入を許容し、かつ、ガス噴出流路138からポンプ用孔146へのガスの流入を許容しない弁176が配置されている。ポンプ用孔146の下端部には、略円柱状の固定部材163が固定されている。ポンプ170の下端部は、固定部材163の上端部に接合されている。また、固定部材163とポンプ用孔146の表面との間に介在するOリング164により、ポンプ用孔146は気密に保たれている。なお、ポンプ用孔146は、各ガス吐出孔12について設けられた枝流路137に連通していることから、個別ガス流路の一部であり、板状部材10と接合部30とベース部材20とにまたがって形成されている。
【0066】
ポンプ170がポンプ用孔146内に配置された状態において、ポンプ170の先端(上端)の上方には空間178が存在する。また、本実施形態のポンプ170は、上下方向に脈動可能に構成されている。例えば、ポンプ170は、特開2015-115542号公報や特開2015-122438号公報に開示されているような圧電アクチュエーターにより構成されている。該圧電アクチュエーターは、ピエゾ素子等の圧電素子(圧電セラミックス)が上下方向に複数積層された積層体を金属製のカバーで囲んだ構成を有しており、供給される駆動電圧に応じて上下方向に脈動する。ポンプ170の脈動についての制御は、第2実施形態におけるポジショナー150の制御と同様に、圧力計143による圧力検知結果が入力される制御回路148が、入力された圧力値に基づき、ポンプ170への供給電圧を制御することにより実現される。
【0067】
ポンプ170は、脈動を行うことにより、枝流路137からポンプ用孔146における空間178へと不活性ガスを吸い込み、さらに、該空間178からガス噴出流路138へと不活性ガスを送り出す。これにより、ガス噴出流路138につながるガス吐出孔12から不活性ガスが吐出される。
【0068】
制御回路148は、あるガス噴出流路138について検知された圧力値が規定値より低い場合には、該ガス噴出流路138につながるガス吐出孔12からの不活性ガスの吐出量を増加させるべく、該ガス吐出孔12について設けられたポンプ170による不活性ガスの送出量を増加させる。反対に、制御回路148は、あるガス噴出流路138について検知された圧力値が規定値より高い場合には、該ガス噴出流路138につながるガス吐出孔12からの不活性ガスの吐出量を減少させるべく、該ガス吐出孔12について設けられたポンプ170による不活性ガスの送出量を減少させる。このような制御を行うことにより、ウェハWと板状部材10の吸着面S11との間の空間内の各位置における不活性ガスの濃度の不均一が緩和・解消され、該不均一に起因するウェハWの温度分布の制御性の低下(例えば、ウェハWの温度分布の面内均一性の低下)を抑制することができる。
【0069】
なお、第3実施形態においても、第1実施形態において例示したように、ウェハWと板状部材10の吸着面S11との間の空間において、あえて、特定の位置の不活性ガスの濃度を高くしたり、反対に低くしたりすることにより、ウェハWの各位置における温度を所望の温度に制御することもできる。
【0070】
以上説明したように、第3実施形態の静電チャック100は、各ガス吐出孔12につながる個別ガス流路に配置され、流量可変にガスを送り出すポンプ170を備える。そのため、第2実施形態の静電チャック100によれば、各ガス吐出孔12につながる個別ガス流路に配置されたポンプ170によって個別ガス流路における不活性ガスの流量を変更することにより、各ガス吐出孔12からの不活性ガスの吐出量を調整することができ、各ガス吐出孔12からの不活性ガスの吐出量の比較的高精度な調整を実現することができる。
【0071】
D.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0072】
上記実施形態における静電チャック100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、各ガス吐出孔12からの不活性ガスの吐出量を調整する構成として、ポジショナー150やポンプ170を用いているが、各ガス吐出孔12からの不活性ガスの吐出量を調整する他の構成を用いてもよい。また、上記実施形態では、ガス吐出孔12からの不活性ガスの吐出量を調整する構成が、すべてのガス吐出孔12について設けられているが、必ずしもすべてのガス吐出孔12について設けられている必要はない。すなわち、ガス吐出孔12からの不活性ガスの吐出量を調整する構成が少なくとも2つのガス吐出孔12について設けられていれば、該構成が設けられた少なくとも2つのガス吐出孔12からの不活性ガスの吐出量を調整することができ、ウェハWと板状部材10の吸着面S11との間の空間内の各位置における不活性ガスの濃度の制御性を向上させることができ、ひいてはウェハWの温度制御性を向上させることができる。
【0073】
なお、各ガス吐出孔12からの不活性ガスの吐出量を調整する構成(該構成の内、実際に不活性ガスの吐出量の調整を担う部分(例えば、ポジショナー150やポンプ170の上端部))は、板状部材10内に設けられることが好ましい。このようにすれば、ガス吐出孔12の近くに不活性ガスの吐出量の調整を担う部分を配置することができ、より早く不活性ガスの吐出量を調整することができる。
【0074】
また、上記実施形態では、ポジショナー150やポンプ170が圧電アクチュエーターにより構成されているが、ポジショナー150やポンプ170は、各ガス吐出孔12からの不活性ガスの吐出量を調整することが可能である限りにおいて、他の構成であってもよい。
【0075】
また、上記実施形態では、各ガス吐出孔12付近の圧力を検知するために設けられた圧力検知用孔142が、各ガス噴出流路138に連通しているが、圧力検知用孔142は、ガス噴出流路138に連通することなく、直接的に板状部材10の吸着面S11におけるガス吐出孔12の付近に開口しているとしてもよい。このようにしても、圧力検知用孔142を介して、圧力計143による各ガス吐出孔12付近の圧力の検知を実現することができる。
【0076】
また、上記実施形態では、静電チャック100がヒータ電極50を備えているが、静電チャック100はヒータ電極50を備えていなくてもよい。静電チャック100がヒータ電極50を備えていなくても、ベース部材20に形成された冷媒流路21に冷媒を供給することにより、ウェハWの温度分布の制御を実現することができる。このような構成においても、ポジショナー150やポンプ170を用いて各ガス吐出孔12からの不活性ガスの吐出量を調整することにより、ウェハWと板状部材10の吸着面S11との間の空間内の各位置における不活性ガスの濃度の制御性を向上させて、ウェハWの温度制御性を向上させることができる。
【0077】
また、上記実施形態では、板状部材10の内部に1つのチャック電極40が設けられた単極方式が採用されているが、板状部材10の内部に一対のチャック電極40が設けられた双極方式が採用されてもよい。また、上記実施形態の静電チャック100における各部材を形成する材料は、あくまで例示であり、各部材が他の材料により形成されてもよい。例えば、上記実施形態では、板状部材10がセラミックスを含む材料により形成されているが、板状部材10が他の材料により形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0078】
10:板状部材 12:ガス吐出孔 20:ベース部材 21:冷媒流路 30:接合部 40:チャック電極 50:ヒータ電極 70:凸部 72:シールバンド 73:柱状凸部 79:凹部 100:静電チャック 110:Oリング 120:Oリング 130:ガス流路 131:ベース部材ガス流路 132:貫通孔 133:凹部 134:縦流路 135:横流路 136:連結流路 137:枝流路 138:ガス噴出流路 140:ポジショナー用孔 141:雌ネジ 142:圧力検知用孔 143:圧力計 146:ポンプ用孔 148:制御回路 150:ポジショナー 158:キャップ部材 160:通気性プラグ 162:固定部材 163:固定部材 164:Oリング 170:ポンプ 176:弁 178:空間 IP:内側部 OP:外周部 S11:吸着面 S12:外周上面 S1:上面 S2:下面 S3:上面 S4:下面 W:ウェハ