(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】換気口端末部材、及び、建物
(51)【国際特許分類】
F24F 7/04 20060101AFI20231213BHJP
F24F 13/24 20060101ALN20231213BHJP
【FI】
F24F7/04 B
F24F13/24
(21)【出願番号】P 2019234638
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】511032534
【氏名又は名称】三菱地所レジデンス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(73)【特許権者】
【識別番号】500398614
【氏名又は名称】株式会社メルコエアテック
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】野田 憲太郎
(72)【発明者】
【氏名】黒木 拓
(72)【発明者】
【氏名】大脇 雅直
(72)【発明者】
【氏名】水野 徳人
(72)【発明者】
【氏名】田中 祐介
【審査官】渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】特許第5258712(JP,B2)
【文献】特開2019-207041(JP,A)
【文献】特開2019-090591(JP,A)
【文献】特開平07-139584(JP,A)
【文献】特開2004-149080(JP,A)
【文献】特開平11-044004(JP,A)
【文献】特開2000-121113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 7/04
F24F 13/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の外壁に形成された換気孔に取付けられる換気口端末部材であって、
建物の外壁面より建物の外側に突出するフード部と、フード部の天板の上に弾性支持体を介して設けられた水滴受板と、水滴受板の水滴を受ける表面とは反対側の裏面に設けられた制振材とを備え
、
弾性支持体は、中央側の中央板部がフード部の天板に取付けられて左右両方の端部側の端板部が水滴受板に取付けられた板ばねにより構成され、
板ばねの左の端板部と制振材の左端側と水滴受板の左端側とがボルト及びナットにより接合されたとともに、板ばねの右の端板部と制振材の右端側と水滴受板の右端側とがボルト及びナットにより接合されたことを特徴とする換気口端末部材。
【請求項2】
制振材は、板面が水滴受板の裏面と対向するように配置されて水滴受板に取付けられた単一の制振板、又は、複数の制振板が積層された積層制振板により形成されたことを特徴とする請求項1に記載の換気口端末部材。
【請求項3】
制振材は、板面が水滴受板の裏面と対向するように配置されて水滴受板に取付けられた制振板と、当該制振板におけるフード部の天板と対向する面となる裏面に取付けられた錘とにより形成されたことを特徴とする請求項1に記載の換気口端末部材。
【請求項4】
錘は錘板により形成され、当該錘板の板面と制振板の板面とが対向するように当該錘板が制振板の裏面に取付けられ
、
錘板は、制振板よりも左右の長さが短い平板により形成され、
錘板と制振板とが圧着又は加締めにより接合され、
板ばねの左の端板部と制振板の左端側と水滴受板の左端側とがボルト及びナットにより接合されたとともに、板ばねの右の端板部と制振板の右端側と水滴受板の右端側とがボルト及びナットにより接合されたことを特徴とする請求項3に記載の換気口端末部材。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載された換気口端末部材のフード部及び水滴受板が外壁面よりも外側に突出するように当該換気口端末部材が外壁に設けられた建物であって、
建物の上下階の外壁に設けられた各換気口端末部材の各水滴受板の表面が、垂直線上に位置されたことを特徴とする建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フード部の天板の上に弾性支持体を介して水滴受板が設けられた構造を備えた換気口端末部材等に関する。
【背景技術】
【0002】
集合住宅、ホテル、事務所ビル等の建物においては、換気設備の設置が義務付けられている。当該換気設備としては、居室に換気口が設置されて、居室の外壁にベントキャップ等と呼称される換気口端末部材が設置されることが多い。
当該換気口端末部材は、フード部が外壁面よりも外側に突出するように建物の上下階の外壁の換気孔にそれぞれ取付けられ、上下階の各換気口端末部材が、垂直線上に位置されることが多い。
当該建物においては、降雨等の後に、上階の換気口端末部材から水滴が落下して下階の換気口端末部材のフード部の天板の上に衝突した際に、水滴落下衝突音が生じ、当該水滴落下衝突音が固体伝播音として居室内に伝播する。
当該水滴落下衝突音の低下対策を施した換気口端末部材としては、例えば、フード部の天板の上に弾性支持体を介して水滴受板が設けられた構造のものが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された換気口端末部材では、フード部の天板の上に弾性支持体を介して水滴受板が設けられた構造であるため、弾性支持体のばねによる減衰効果によって水滴落下衝突時における低周波数帯域の音を低減させる効果が得られるが、水滴受板の表面に対する水滴落下衝突時における中高周波数帯域の音を低減させる効果が十分ではないという課題があった。
本願発明は、水滴受板の表面に対する水滴落下衝突時における中高周波数帯域の音を低減させる効果を向上させた換気口端末部材等を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る換気口端末部材は、建物の外壁に形成された換気孔に取付けられる換気口端末部材であって、建物の外壁面より建物の外側に突出するフード部と、フード部の天板の上に弾性支持体を介して設けられた水滴受板と、水滴受板の水滴を受ける表面とは反対側の裏面に設けられた制振材とを備え、弾性支持体は、中央側の中央板部がフード部の天板に取付けられて左右両方の端部側の端板部が水滴受板に取付けられた板ばねにより構成され、板ばねの左の端板部と制振材の左端側と水滴受板の左端側とがボルト及びナットにより接合されたとともに、板ばねの右の端板部と制振材の右端側と水滴受板の右端側とがボルト及びナットにより接合されたことを特徴とする。
また、制振材は、板面が水滴受板の裏面と対向するように配置されて水滴受板に取付けられた単一の制振板、又は、複数の制振板が積層された積層制振板により形成されたことを特徴とする。
また、制振材は、板面が水滴受板の裏面と対向するように配置されて水滴受板に取付けられた制振板と、当該制振板におけるフード部の天板と対向する面となる裏面に取付けられた錘とにより形成されたことを特徴とする。
また、錘は錘板により形成され、当該錘板の板面と制振板の板面とが対向するように当該錘板が制振板の裏面に取付けられ、錘板は、制振板よりも左右の長さが短い平板により形成され、錘板と制振板とが圧着又は加締めにより接合され、板ばねの左の端板部と制振板の左端側と水滴受板の左端側とがボルト及びナットにより接合されたとともに、板ばねの右の端板部と制振板の右端側と水滴受板の右端側とがボルト及びナットにより接合されたことを特徴とする。
本発明に係る換気口端末部材によれば、水滴受板の表面に対する水滴落下衝突時における中高周波数帯域の音を低減させる効果を向上させた換気口端末部材を提供できる。
また、本発明に係る建物は、上述した換気口端末部材のフード部及び水滴受板が外壁面よりも外側に突出するように当該換気口端末部材が外壁に設けられた建物であって、建物の上下階の外壁に設けられた各換気口端末部材の各水滴受板の表面が、垂直線上に位置されたことを特徴とするので、換気口端末部材の水滴受板の表面に対する水滴落下衝突時における中高周波数帯域の音を低減させる効果を向上させた建物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図4】換気口端末部材の水滴受板の近傍部分を示す断面図。
【
図5】建物の上下階の外壁に取付けられた上の換気口端末部材から下の換気口端末部材に水滴が落下する状態を示す図。
【
図8】制振材の有無による検証実験結果を示す数値表及びグラフ。
【
図9】錘板の板厚の違いによる検証実験結果を示す数値表及びグラフ。
【
図10】錘板の左右幅の長さの違いによる検証実験結果を示す数値表及びグラフ。
【
図11】制振材を構成する制振板の数の違いによる検証実験結果を示す数値表及びグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0007】
実施形態1
図1乃至
図7に示すように、実施形態1に係る換気口端末部材1は、建物90の外壁91に建物90の内外に連通するように形成された換気孔92に挿入される筒部2(
図5参照)と、建物90の外壁面93より建物90の外側に突出するフード部3(
図5参照)と、フード部3の天板32の上に板状の弾性支持体4を介して設けられた水滴受板5と、水滴受板5の水滴を受ける面とは反対側の裏面(即ち、弾性支持体4が連結される面(フード部3の天板32と例えば平行又は略平行に対向する面))51a(
図4参照)に設けられた制振材6とを備えた構成とした。
当該換気口端末部材1の筒部2、フード部3、水滴受板5、制振材6は、例えば金属板により形成される。
尚、本明細書においては、換気口端末部材1の上、下、左、右、前、後は、
図1,
図2に示した方向と定義して説明する。
【0008】
図1乃至
図3に示すように、フード部3は、四角形状の前板31と、天板(上板)32と、左側板33と、右側板34と、後板35とを備えた直方体函状に形成されており、下部が開口された室外側通風孔36に形成されて、かつ、後板35を形成する四角形状の板の中央側が開口された室内側通風孔37に形成され、当該室内側通風孔37の孔縁側に筒部2の一端開口縁側が接続されている。即ち、筒部2が、フード部3の後板35に接続されて当該後板35の後方に延長するように設けられた構成となっている。筒部2は、例えば、円筒部に形成される。
即ち、フード部3は、換気口端末部材1が換気孔92に取付けられることによって、下部の室外側通風孔36、及び、室内側通風孔37を介して、建物90の内側から建物90の外側に、又は、建物90の外側から建物90の内側に空気を流通させることが可能な構成となっている。
また、室外側通風孔36、及び、室内側通風孔37のうち、少なくとも、一方の通風孔は、防虫対策等のためにメッシュ孔やガラリ等により形成されている。
【0009】
換言すれば、フード部3は、四角形状の前板31と、前板31の板面と対向する板面を備えた後板35と、前板31の四角形の上辺と後板35の四角形の上辺とを繋ぐ天板32と、前板31の四角形の上辺の一端より下方に延長する四角形の左辺と後板35の四角形の上辺の一端より下方に延長する左辺とを繋ぐ左側板33と、前板31の四角形の上辺の他端より下方に延長する四角形の右辺と後板35の四角形の上辺の他端より下方に延長する右辺とを繋ぐ右側板34とで構成され、換気口端末部材1が換気孔92に取付けられた場合、これら前板31と天板32と左側板33と右側板34と後板35とで囲まれた空間が、下部の室外側通風孔36を介して室外と連通し、かつ、後板35の室内側通風孔37を介して室内と連通するように構成されている。
【0010】
即ち、換気口端末部材1は、筒部2が筒部2の他端側から建物90の外壁91に形成された換気孔92に挿入されて、フード部3の後板35の後面の周辺部より後方に突出する囲み枠のように形成された設置枠35Aの後端縁35aが建物90の外壁面93に近接し、かつ、天板32が上方、左側板33が左側、右側板34が右側に位置された状態となるように設置される。
尚、筒部2の外周面には、例えば図外の板ばねが設けられており、当該筒部2が換気孔92内に押し込まれて当該板ばねが換気孔92の内面にばね弾性によって押し付けられることによって、換気口端末部材1が換気孔92に固定され、当該固定された状態で、フード部3の設置枠35Aの後端縁35aと外壁面93との隙間にシーリング材等の隙間充填剤が充填されることにより、換気口端末部材1が換気孔92に取付けられる。
【0011】
フード部3の天板32の上に弾性支持体4を介して設けられた水滴受板5は、フード部3の天板32の上方を覆うように配置された板材により構成される。
水滴受板5は、例えば、フード部3の天板32の長方形よりも一回り小さい長方形状の平板により形成されて板面がフード部3の天板32の板面と所定の間隔を隔てて平行又は略平行に対向するように配置された平板部51と、当該平板部51を構成する左右に長い長方形板の前後の側縁より傾斜して下るように形成された前後の傾斜板部52,52とを備える。
平板部51の前側縁より延長するように設けられた前側の傾斜板部52の上表面はフード部3の天板32の前側の側縁に近付くように下る傾斜面に形成され、平板部51の後側縁より延長するように設けられた後側の傾斜板部52の上表面はフード部3の天板32の後側の側縁に近付くように下る傾斜面に形成される。
即ち、平板部51の上表面を形成する板面に水滴が落下した場合に、当該水滴が傾斜板部52の傾斜面を介して下方に流下するように構成されている。
そして、水滴受板5は、平板部51の上表面を構成する左右に長い長方形の中心5Cが、フード部3の天板32の板面と直交して当該天板32の表面を構成する左右に長い長方形の中心を通過する垂直線V上に位置されるように、弾性支持体4を介してフード部3の天板32の上に設けられる。
【0012】
弾性支持体4は、板ばね60を使用した。
当該板ばね60は、
図3,
図4,
図7に示すように、天板32の上面の中央側に連結される中央板部62と、中央板部62の左右両方の端部からそれぞれ天板32の上面と直交して水滴受板5の平板部51に近づく方向に延長する左右の立ち上がり板部63,63と、左右の立ち上がり板部63,63の上端からそれぞれ互いに反対方向に上がって傾斜するように延長する左右の傾斜板部64,64と、各傾斜板部64,64の上端からそれぞれ互いに反対方向に延長して水滴受板5の平板部51の左右両側に連結される左右両方の端板部61,61とを備えた形状のものを用いた。
【0013】
板ばね60は、中央側の中央板部62がフード部3の天板32に取付けられて左右両方の端部側の端板部61,61が水滴受板5に取付けられた金属板等の板材により構成され、貫通孔Xは、例えば、板ばね60の中央板部62と端板部61との間の部分において、板ばね60の延長方向(左右方向)及び前後幅方向に延長する矩形状の孔により構成されている。
具体的には、
図3,
図7に示すように、貫通孔Xは、板ばね60の延長方向に沿って左の立ち上がり板部63及び傾斜板部64の全域に亘って延長する左の貫通孔Xと、板ばね60の延長方向に沿って右の立ち上がり板部63及び傾斜板部64の全域に亘って延長する右の貫通孔Xとにより構成される。
また、左の貫通孔X及び右の貫通孔Xは、立ち上がり板部63及び傾斜板部64の前後幅方向の中央側に設けられる。換言すれば、左の貫通孔X及び右の貫通孔Xは、貫通孔Xの前側側縁X1と立ち上がり板部63及び傾斜板部64の前側縁60aとの間の板幅aと、貫通孔Xの後側側縁X2と立ち上がり板部63及び傾斜板部64の後側縁60bとの間の板幅aとが等しくなるように、立ち上がり板部63及び傾斜板部64の前後幅方向の中央側に形成されている。
【0014】
図3,
図4,
図6に示すように、制振材6は、制振板7と錘板8とを備えた構成とした。
制振材6は、例えば、金属製の平板により形成された制振板7及び錘板8により構成される。
図6に示すように、制振板7は、例えば平板部51よりも一回り小さい左右に長い長方形で板厚がコンマ数mm~数mmの平板により形成される。
錘板8は、例えば制振板7よりも左右の長さが短い四角形で板厚がコンマ数mm~数mmの平板により形成される。
即ち、制振材6は、例えば錘板8の板面と制振板7の板面とが対面するようにした状態で、当該錘板8と制振板7とが例えば圧着や加締め等による機械的接合方法により接合された構成とした。
そして、水滴受板5の平板部51の裏面51aと制振板7における錘板8が取付けられていない板面とを対面させた状態で制振板7の左右の両端側を例えばボルト及びナット等による機械的接合により接合した。
即ち、実施形態1では、後述する弾性支持体4の左右の両端側と制振板7の左右の両端側とを一緒にボルト及びナット等による機械的接合によって水滴受板5の平板部51の裏面51aに接合した構成とした。
【0015】
尚、
図3,
図6,
図7に示すように、水滴受板5の平板部51の左右両端側、制振板7の左右両端側、板ばね60の中央板部62及び端板部61,61、フード部3の天板32の中央側には、ボルト41を通すためのボルト挿通孔45が形成されている。
また、
図4に示すように、中央板部62の上面とナット42との間、端板部61の下面とナット42との間には、例えば、平座金43及びばね座金44が設置されることが好ましい。
【0016】
実施形態1の換気口端末部材1は、
図3に示すように、弾性支持体4を、貫通孔Xが形成された板ばね60により構成し、当該板ばね60の中央板部62の中心と天板32の上面の中心とを一致させた状態で当該中央板部62と天板32とが1組以上のボルト41(
図4参照)及びナット42により連結されるとともに、天板32に連結された板ばね60の中央板部62よりも上方に位置された板ばね60の左右両方の端板部61,61と制振材6の制振板7の左右両端側と平板部51の左右両端側とがボルト41及びナット42により接合された構成とした。
【0017】
例えば、制振板7における錘板8が取付けられている側の板面の左右両端側に弾性支持体4(板ばね60)の左右の両端側の端板部61,61の板面を対面させた状態で、弾性支持体4の左右の両端側と制振板7の左右の両端側とを一緒にボルト41及びナット42による機械的接合によって水滴受板5の平板部51の裏面51aに接合した後、弾性支持体4の中央側の中央板部62をフード部3の天板32にボルト41及びナット42による機械的接合により接合したことによって、フード部3の天板32の上に弾性支持体4を介して設けられた制振材6付きの水滴受板5を備えた実施形態1の換気口端末部材1が構成されることになる。
【0018】
そして、
図5に示すように、上下階の外壁91,91に、フード部3及び水滴受板5が外壁面93より外側に突出するように実施形態1の各換気口端末部材1,1が設けられ、各換気口端末部材1,1の各水滴受板5,5の平板部51,51の上表面の中心5C,5Cが、垂直線V上に位置された建物90が構成される。
当該建物90においては、上階に取付けられた換気口端末部材1のフード部3の板面を伝って下方に流れてくる水Wが下階に取付けられた換気口端末部材1の水滴受板5の平板部51の上表面に落下する。
【0019】
実施形態2
実施形態1では、水滴受板5の裏面51aに、制振板7と錘板8とを有した構成の制振材6を備えた換気口端末部材1を例示したが、水滴受板5の裏面51aに、錘板8を備えずに、単一の制振板7のみで形成された制振材6、又は、複数の制振板7が積層された積層制振板により形成された制振材6を有した構成の換気口端末部材1であってもよい。
当該複数の制振板7が積層された積層制振板により形成された制振材6は、例えば2枚の制振板7,7の板面同士を対面させた状態で、当該制振板7と制振板7とを例えば圧着や加締め等による機械的接合方法により接合した構成とした。
そして、当該2枚の制振板7,7を積層した積層制振板により形成された制振材6の左右の両端側を例えばボルト及びナット等による機械的接合により水滴受板5の平板部51に接合した構成の換気口端末部材1とした。
【0020】
本発明の換気口端末部材1の水滴落下衝突音低減効果を確認するための実験を以下のように行った。
【0021】
・実験方法
共同住宅の給気孔に取付けた換気口端末部材の各試験体、即ち、それぞれ異なる制振材を備えた水滴受板の試験体、及び、制振材を備えない水滴受板の試験体の平板部の上表面に水滴が落下する状況を模擬した実験を簡易無響室内で行った。
実験設備は以下のとおりである。
足場の下部に内径900mm角の箱(内部をグラスウールで吸音処理した箱)を設置し、箱の正面中央の位置の外側に換気口端末部材の試験体を設置するとともに、内側にレジスター(内側換気口)を設置した。レジスターは樹脂製のプッシュタイプとし、実験時は「開」の状態とした。
共同住宅の一般的な階高を想定し,換気口端末部材の水滴受板の平板部の上表面に高さ3mの位置からスポイトを使って水滴を落下させた。
水滴落下衝突音の測定は、マイクロホンを箱内部の中心の位置に設置し、水滴落下衝突音の1/3オクターブバンド音圧レベルを測定した。各試験体の水滴受板の平板部の上表面への水滴の落下回数は、1試験体に対し50回とし、外部からの影響の小さい40回のデータの平均値を測定値とした。
【0022】
尚、実験に用いた換気口端末部材の試験体の共通諸元は、以下の通りである。
・換気口端末部材の筒部、フード部、水滴受板、制振材、弾性支持体の材質=ステンレス鋼SUS304。
・フード部の左右幅寸法=200mm、フード部の上下高さ寸法=200mm、フード部の前後幅寸法=93mm。
・筒部の径=147mm、筒部の前後幅寸法=47mm。
・水滴受板の前後幅寸法=85mm、水滴受板の平板部の前後幅寸法(短辺寸法)=75mm、水滴受板の平板部の左右幅幅寸法(長辺寸法)200mm、水滴受板の板厚1.5mm。
・制振板の前後幅寸法(短辺寸法)7D(
図6参照)=72mm、制振板の左右幅寸法(長辺寸法)7W(
図6参照)=168mm、制振板の板厚=0.5mm。
・錘板の前後幅寸法=72mm。
弾性支持体としての板ばねの左右幅寸法4W(
図7参照)=164mm、板ばねの前後幅寸法4D(
図7参照)=50mm、板ばねの中央板部の左右幅寸法=90mm、板ばねの中央板部から端板部までの高さ寸法=10mm。
【0023】
以下のような試験体A乃至Gによる実験を行った結果に基づいて、以下のような検証を行った。尚、試験体C以外の試験体は、制振板と水滴受板の平板部との接合は、ボルト及びナットによる接合とした。
(1)制振材の有無による検証(後述する試験体A,B,C,Gの比較)
(2)錘板の板厚の違いによる検証(後述する試験体A,E,Gの比較)
(3)錘板の左右幅の長さの違いによる検証(後述する試験体A,F,D,Gの比較)
(4)制振材を構成する制振板の数の違いによる検証(後述する試験体I,B,Gの比較)
【0024】
(1)制振材の有無による検証実験では、以下の試験体A,B,C,Gによる実験を行った結果に基づいて検証を行った。
・試験体A=制振材あり(制振板+錘板(板厚1.0mm、左右幅(
図6の8W参照)寸法=60mm)。
・試験体B=制振材あり(制振板のみ、ボルト及びナットによる接合)。
・試験体C=制振材あり(制振板のみ、接着剤による貼付)。
・試験体G=制振材なし。
【0025】
制振材の有無による検証実験結果を
図8(a),(b)に示す。
検証実験結果から明らかなように、制振材ありの試験体A,B,Cでは、制振材なしの試験体Gと比べて、630Hz帯域以上の中高周波数帯域において、水滴受板の表面に対する水滴落下衝突時の音圧レベルが低下しており、制振材ありの換気口端末部材は、水滴落下衝突音の低減効果に優れた換気口端末部材となることがわかった。
また、制振材(制振板+錘板)ありの試験体Aと制振材(制振板のみ)ありの試験体B,Cとを比べた場合、試験体Aでは、630Hz帯域、800Hz帯域において、水滴落下衝突時の音圧レベルが顕著に低下しており、中高周波数帯域において、水滴落下衝突音の低減効果に特に優れた換気口端末部材となることがわかった。
【0026】
(2)錘板の板厚の違いによる検証実験では、以下の試験体A,E,Gによる実験を行った結果に基づいて検証を行った。
・試験体A=制振材あり(制振板+錘板(板厚1.0mm、左右幅寸法=60mm)。
・試験体E=制振材あり(制振板+錘板(板厚0.5mm、左右幅寸法=60mm)。
・試験体G=制振材なし。
【0027】
錘板の板厚の違いによる検証実験結果を
図9(a),(b)に示す。
検証実験結果から明らかなように、試験体Aと試験体Eとを比べた場合、錘板の板厚が薄い試験体Eでは、630Hz帯域、800Hz帯域において、水滴受板の表面に対する水滴落下衝突時の音圧レベルが高くなり、中高周波数帯域において、水滴落下衝突音の低減効果が悪くなる傾向にあることがわかった。
但し、試験体Eと制振材なしの試験体Gと比べた場合は、試験体Eは、630Hz帯域以上の中高周波数帯域において、水滴受板の表面に対する水滴落下衝突時の音圧レベルが低下しており、水滴落下衝突音の低減効果に優れた換気口端末部材となることがわかった。
【0028】
(3)錘板の左右幅長さの違いによる検証実験では、以下の試験体A,F,D,Gによる実験を行った結果に基づいて検証を行った。
・試験体A=制振材あり(制振板+錘板(板厚1.0mm、左右幅寸法=60mm)。
・試験体F=制振材あり(制振板+錘板(板厚1.0mm、左右幅寸法=40mm)。
・試験体D=制振材あり(制振板+錘板(板厚1.0mm、左右幅寸法=20mm)。
・試験体G=制振材なし。
【0029】
錘板の左右幅長さの違いによる検証実験結果を
図10(a),(b)に示す。
検証実験結果から明らかなように、試験体Aと試験体Fと試験体Dとを比べた場合、錘板の左右幅寸法が小さくなるほど、630Hz帯域、800Hz帯域において、水滴受板の表面に対する水滴落下衝突時の音圧レベルが高くなり、中高周波数帯域において、水滴落下衝突音の低減効果が悪くなる傾向にあることがわかった。
但し、試験体Fと試験体Dと制振材なしの試験体Gとを比べた場合は、試験体F,Dでは、630Hz帯域以上の中高周波数帯域において、水滴受板の表面に対する水滴落下衝突時の音圧レベルが低下しており、水滴落下衝突音の低減効果に優れた換気口端末部材となることがわかった。
【0030】
(4)制振材を構成する制振板の数の違いによる検証実験では、以下の試験体I,B,Gによる実験を行った結果に基づいて検証を行った。
・試験体I=制振板を積層した制振材(積層制振材)。
・試験体B=単一の制振板による制振材。
・試験体G=制振材なし。
【0031】
制振材を構成する制振板の数の違いによる検証実験結果を
図11(a),(b)に示す。
検証実験結果から明らかなように、制振板を積層した制振材を有した試験体Iと単一の制振板による制振材を有した試験体Bとを比べた場合、試験体Iでは、630Hz帯域、800Hz帯域において、水滴受板の表面に対する水滴落下衝突時の音圧レベルが低下しており、制振材ありの換気口端末部材は、水滴落下衝突音の低減効果に優れた換気口端末部材となることがわかった。
【0032】
即ち、実験から、水滴受板5の平板部51の水滴を受ける面とは反対側の裏面51aに制振材6を備えた実施形態1及び実施形態2に係る換気口端末部材1は、水滴受板5の平板部51の裏面51aに制振材6を備えない換気口端末部材と比べて、中高周波数帯域において、水滴受板5の表面に対する水滴落下衝突時の音圧レベルが低下し、水滴落下衝突音の低減効果に優れた換気口端末部材1となることがわかった。
【0033】
また、試験体A,B,E,F,D,Iによる実験から、平板により形成された制振板7の板面が水滴受板5の平板部51の裏面51aと対向するように配置されて、水滴受板5からの振動を受けて振動可能なように、制振材6が、ボルト及びナット等による機械的接合により水滴受板5に取付けられた構成とすることで、水滴受板5の平板部51の裏面51aに制振材6を備えない換気口端末部材と比べて、中高周波数帯域において、水滴受板5の表面に対する水滴落下衝突時の音圧レベルが低下し、水滴落下衝突音の低減効果に優れた換気口端末部材となることがわかった。
尚、水滴受板5からの振動を受けて振動可能なように制振材6が水滴受板5に取付けられた構成とは、制振材6の制振板7の板面と水滴受板5の平板部51の裏面51aとの面同士が溶接や接着剤等で全面固定されていない状態をいう。
実験では、制振材6の制振板7の板面と水滴受板5の平板部51の裏面51aとが接着剤による貼付で接合された試験体Cについても実験を行った。当該試験体Cであっても、制振材6を備えない試験体Gの換気口端末部材と比べて、中高周波数帯域において、水滴受板5の表面に対する水滴落下衝突時の音圧レベルが低下し、水滴落下衝突音の低減効果に優れるが、500Hz帯域においては、制振材6なしの試験体Gよりも性能が悪いという結果が得られた。
従って、本発明では、制振材6の制振板7の板面と水滴受板5の平板部51の裏面51aとの面同士が溶接や接着剤等で全面固定された構成としてもよいが、500Hz帯域の性能を向上させたい場合には、制振材6の制振板7が、ボルト及ナット等による機械的接合により、水滴受板5からの振動を受けて振動可能なように、水滴受板5に取付けられた構成とすることが望ましいと考えられる。
【0034】
また、試験体B,Cによる実験から、板面が水滴受板5の平板部51の裏面51aと対向するように配置されて水滴受板の平板部51に取付けられた制振板7により形成された制振材6を備えた構成とすることで、中高周波数帯域において、水滴受板5の表面に対する水滴落下衝突時の音圧レベルが低下し、水滴落下衝突音の低減効果に優れた換気口端末部材となることがわかった。
【0035】
また、試験体A,E,F,Dによる実験から、板面が水滴受板5の平板部51の裏面51aと対向するように配置されて水滴受板5の平板部51に取付けられた制振板7と、当該制振板7におけるフード部3の天板32と対向する面となる裏面に取付けられた錘板8とにより形成された制振材6を備えた構成とすることで、中高周波数帯域において、水滴受板5の表面に対する水滴落下衝突時の音圧レベルが低下し、水滴落下衝突音の低減効果に優れた換気口端末部材となることがわかった。
【0036】
また、試験体B,Iによる実験から、制振板7を積層した構成の制振材6を備えた構成とすることで、単一の制振板7による制振材6を備えた構成と比べ、中高周波数帯域において、水滴受板5の表面に対する水滴落下衝突時の音圧レベルが低下し、水滴落下衝突音の低減効果に優れた換気口端末部材となることがわかった。
【0037】
尚、本発明の換気口端末部材においては、3枚以上の複数枚の板材を積層して形成された積層板により構成した制振板を用いても構わない。
【0038】
また、上記では、平板により形成された制振板7を用いた例を示したが、平板以外の板、例えば、波板、凹凸板等の板により形成された制振板を用いても構わない。
【0039】
また、上記では、平板により形成された錘板8を用いた例を示したが、平板以外の錘を用いても構わない。
【0040】
また、制振材6は、金属以外の材料により形成されたものであってもよい。
【0041】
また、本発明においては、換気口端末部材1の全体形状は丸形でもよい。
また、換気口端末部材1のフード部3の天板32や水滴受板5の形状は矩形でなくてもよい。
また、換気口端末部材1は、開口部が、フード部3の下部のみでなく、フード部3の側面、正面に設けられた構成であってもよい。また、開口部にネットが張られた構成のものであってもよい。
また、換気口端末部材1は、筒部2を備えずに、外壁に直接取り付けられる構成のものであってもよい。
【0042】
また、弾性支持体4(ばね板60)の貫通孔Xは、弾性支持体4におけるフード部3の天板32及び水滴受板5と接していない部分に、例えば、弾性支持体4の中心を基準として、前後左右に均等に設けられていればよく、個数、形状等は、特に限定されない。
例えば、貫通孔Xは、板状の弾性支持体4の延長方向に沿って延長する複数の長孔(スリット)が板状の弾性支持体4の板幅方向に沿って所定間隔を隔てて並ぶように形成された構成、あるいは、板状の弾性支持体4の板幅方向に沿って延長する複数の長孔(スリット)が板状の弾性支持体4の延長方向に沿って所定間隔を隔てて並ぶように形成された構成、あるいは、円孔や矩形孔等の複数の個別孔が板状の弾性支持体4の延長方向に沿って所定間隔を隔てて並ぶように形成された構成、円孔や矩形孔等の複数の個別孔が板状の弾性支持体4にパンチングメタルのようにランダムに形成された構成等であってもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 換気口端末部材、3 フード部、4 弾性支持体、5 水滴受板、6 制振材、
7制振板、8 錘板、32 フード部の天板、51a 水滴受板の平板部の裏面、
90 建物、91 外壁、92 換気孔、93 外壁面。