(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】膜貫通ナノ細孔
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20231213BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20231213BHJP
C12Q 1/00 20060101ALI20231213BHJP
G01N 27/00 20060101ALI20231213BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
C12M1/34 B ZNA
C12M1/00 Z
C12Q1/00 Z
G01N27/00 Z
G01N33/68
(21)【出願番号】P 2019523195
(86)(22)【出願日】2017-07-14
(86)【国際出願番号】 GB2017052089
(87)【国際公開番号】W WO2018011603
(87)【国際公開日】2018-01-18
【審査請求日】2020-07-13
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-15
(32)【優先日】2016-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】507299817
【氏名又は名称】ユーシーエル ビジネス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ホワーカ,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ピュー,ジュヌビエーブ
(72)【発明者】
【氏名】バーンズ,ジョナサン
【合議体】
【審判長】福井 悟
【審判官】飯室 里美
【審判官】田中 耕一郎
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第02695949(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0291153(US,A1)
【文献】Nature nanotechnology,2016年01月11日,Vol.11,p152-156
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
C12Q
BIOSIS/MEDLINE/CAplus/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質二重層または半流動体膜貫通ナノ細孔であって、
i.少なくとも1つの足場ポリヌクレオチド鎖と、
ii.複数のステープルポリヌクレオチド鎖と、
iii.少なくとも1つの疎水性修飾ポリヌクレオチド鎖であって、ポリヌクレオチド鎖および疎水性部分を含む、少なくとも1つの疎水性修飾ポリヌクレオチド鎖と、を含み、
前記複数のステープルポリヌクレオチド鎖の各々が、前記膜貫通ナノ細孔の三次元構造を形成するように、前記少なくとも1つの足場ポリヌクレオチド鎖とハイブリダイズして、前記少なくとも1つの疎水性修飾ポリヌクレオチド鎖が、前記少なくとも1つの足場ポリヌクレオチド鎖の一部分とハイブリダイズし、
前記膜貫通ナノ細孔が、膜貫通領域内に複数のDNA二本鎖の壁厚を有し、かつ、少なくとも約5nmの最小内部幅を有する中央チャネルを画定する、膜貫通ナノ細孔。
【請求項2】
前記少なくとも1つの足場鎖、前記複数のステープルポリヌクレオチド鎖の各々、および前記疎水性修飾ポリヌクレオチド鎖の前記ポリヌクレオチド鎖が、DNAを含む、請求項1に記載の膜貫通ナノ細孔。
【請求項3】
前記ナノ細孔のアセンブリが、DNA折り紙技術によるものである、請求項2に記載の膜貫通ナノ細孔。
【請求項4】
前記ナノ細孔の前記中央チャネルの前記最小内部幅が、約5nm~約20nmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の膜貫通ナノ細孔。
【請求項5】
前記ナノ細孔の前記中央チャネルの前記最小内部幅が、約5nm~約10nmである、請求項4に記載の膜貫通ナノ細孔。
【請求項6】
前記ナノ細孔の前記中央チャネルの前記最小内部幅が、7.5nmである、請求項5に記載の膜貫通ナノ細孔。
【請求項7】
前記ナノ細孔が、少なくとも1つのキャップ領域を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の膜貫通ナノ細孔。
【請求項8】
前記膜貫通領域が、前記少なくとも1つのキャップ領域に隣接して配置されている、請求項7に記載の膜貫通ナノ細孔。
【請求項9】
1つのキャップ領域が存在し、前記膜貫通領域が、前記ナノ細孔の一端に位置する、請求項8に記載の膜貫通ナノ細孔。
【請求項10】
前記膜貫通領域が、前記チャネルと同軸の約1nm~約7nmの高さを有する、請求項7~9のいずれか一項に記載の膜貫通ナノ細孔。
【請求項11】
前記膜貫通領域が、前記チャネルと同軸の約3nm~約5nmの高さを有する、請求項10に記載の膜貫通ナノ細孔。
【請求項12】
前記キャップ領域が、前記チャネルと同軸の約20nm~約70nmの高さを有する、請求項7~11のいずれか一項に記載の膜貫通ナノ細孔。
【請求項13】
前記キャップ領域が、前記チャネルと同軸の約40nm~約50nmの高さを有する、請求項12に記載の膜貫通ナノ細孔。
【請求項14】
前記ナノ細孔が、1つ以上のアダプタポリヌクレオチド鎖をさらに含み、前記少なくとも1つの疎水性修飾ポリヌクレオチド鎖が、前記1つ以上のアダプタポリヌクレオチド鎖を介して前記ナノ細孔にハイブリダイズし、前記1つ以上のアダプタポリヌクレオチド鎖が、各々、第1の末端および第2の末端を有し、前記アダプタポリヌクレオチド鎖の前記第1の末端が、前記少なくとも1つの足場ポリヌクレオチド鎖とハイブリダイズし、前記アダプタポリヌクレオチド鎖の前記第2の末端が、前記少なくとも1つの疎水性修飾ポリヌクレオチド鎖とハイブリダイズする、請求項1~13のいずれか一項に記載の膜貫通ナノ細孔。
【請求項15】
前記アダプタポリヌクレオチド鎖中の前記ポリヌクレオチドがDNAを含む、請求項14に記載の膜貫通ナノ細孔。
【請求項16】
前記少なくとも1つの疎水性部分が脂質を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の膜貫通ナノ細孔。
【請求項17】
前記脂質が、ステロール、アルキル化フェノール、フラボン、飽和および不飽和脂肪酸、ならびに合成脂質分子(ドデシル-ベータ-D-グルコシドを含む)からなる群から選択される、請求項16に記載の膜貫通ナノ細孔。
【請求項18】
-前記ステロールが、コレステロール、コレステロールの誘導体、フィトステロール、エルゴステロール、および胆汁酸からなる群から選択される、
-前記アルキル化フェノールが、メチル化フェノール、およびトコフェロールからなる群から選択される、
-前記フラボンが、フラバノン含有化合物、および6-ヒドロキシフラボンからなる群から選択される、
-前記飽和および不飽和脂肪酸が、ラウリン酸、オレイン酸、リノール酸、およびパルミチン酸の誘導体からなる群から選択される、および/または
-前記合成脂質分子が、ドデシル-ベータ-D-グルコシドである、請求項17に記載の膜貫通ナノ細孔。
【請求項19】
前記足場鎖のヌクレオチド配列が、m13mp18DNA(配列番号1)のDNA配列を含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の膜貫通ナノ細孔。
【請求項20】
前記複数のステープル鎖のヌクレオチド配列が、配列番号2~218を含む群から選択される、請求項1~19のいずれか一項に記載の膜貫通ナノ細孔。
【請求項21】
前記1つ以上のアダプタ鎖のヌクレオチド配列が、配列番号219~241を含む群から選択される、請求項14~20のいずれか一項に記載の膜貫通ナノ細孔。
【請求項22】
前記少なくとも1つの疎水性修飾ヌクレオチド鎖の配列が、配列番号242または243を含む群から選択される、請求項14~21のいずれか一項に記載の膜貫通ナノ細孔。
【請求項23】
前記ナノ細孔が、四辺形の形状である、前記チャネルの長手方向軸に対して垂直な断面を有する、請求項1~22のいずれか一項に記載の膜貫通ナノ細孔。
【請求項24】
前記四辺形が、正方形である、請求項23に記載の膜貫通ナノ細孔。
【請求項25】
前記膜貫通ナノ細孔が、修飾されており、前記中央チャネルが、1つ以上の狭窄部を含む、請求項1~24のいずれか一項に記載の膜貫通ナノ細孔。
【請求項26】
請求項1~25のいずれか一項に記載の膜貫通ナノ細孔のうちの1つ以上を含む膜。
【請求項27】
前記膜が、脂質二重層を含む、請求項26に記載の膜。
【請求項28】
前記膜が、ポリマーで形成された半流動体膜を含む、請求項26に記載の膜。
【請求項29】
前記半流動体膜を形成する前記ポリマーが、両親媒性合成ブロックコポリマーで構成されている、請求項28に記載の膜。
【請求項30】
前記両親媒性合成ブロックコポリマーが、親水性コポリマーブロックと疎水性コポリマーブロックとで構成されている、請求項29に記載の膜。
【請求項31】
前記親水性コポリマーブロックが、ポリ(エチレングリコール)/ポリ(エチレンオキシド)(PEG/PEO)、およびポリ(2-メチルオキサゾリン)からなる群から選択され、前記疎水性コポリマーブロックが、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリ(カプロラクトン)(PCL)、ポリ(ラクチド)(PLA)、およびポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)からなる群から選択される、請求項30に記載の膜。
【請求項32】
前記ポリマー膜が、両親媒性ブロックコポリマーポリ2-(メタクリロイルオキシ)エチルホスホリルコリン-b-(ジイソプロピルアミノ)エチルメタクリレート(PMPC-b-PDPA)で構成されている、請求項29に記載の膜。
【請求項33】
前記膜が、小胞、ミセル、平面膜、または液滴の形態である、請求項26~32のいずれか一項に記載の膜。
【請求項34】
前記膜が、固相基質を含む、請求項26に記載の膜。
【請求項35】
生物学的センサであって、請求項26~34のいずれか一項に記載の膜と、1つ以上の膜貫通ナノ細孔を通るイオン流を測定するための装置と、を含む、生物学的センサ。
【請求項36】
請求項35に記載の1つ以上の生物学的センサを含む、生物学的センシングデバイス。
【請求項37】
分子センシングのための方法であって、
i.請求項26~34のいずれか一項に記載の膜を提供することと、
ii.前記ナノ細孔を試験基質と接触させ、前記ナノ細孔を通るイオンの流れ、または前記ナノ細孔を横切る電子流を確立することと、
iii.前記ナノ細孔を通る前記イオン流、または前記膜貫通ナノ細孔のうちの1つ以上を横切る前記電子流を測定することと、を含む方法。
【請求項38】
前記イオンの流れが、前記膜の第1の側から前記膜の第2の側である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記分子センシングが、検体の検出または特徴付けであり、イオン流または電子流の変化が、前記検体の指標である、請求項37または請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記方法が、ステップiiiの後に、前記試験基質が存在しない場合の前記1つ以上の膜貫通ナノ細孔を通るまたは前記1つ以上の膜貫通ナノ細孔を横切るイオン流または電子流と比較した、前記1つ以上の膜貫通ナノ細孔を通るまたは前記1つ以上の膜貫通ナノ細孔を横切るイオン流または電子流の変化によって、前記試験基質の存在を判定するさらなるステップを含む、請求項37~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記試験基質が、球状タンパク質、ポリヌクレオチド-タンパク質構築物、標識ポリヌクレオチド、または標識タンパク質である、請求項37~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
分子ゲーティングのための方法であって、
i.請求項26~34のいずれか一項に記載の膜を提供することと、
ii.前記ナノ細孔内のチャネルの前記最小内部幅未満の直径を有する少なくとも1つの生体分子を提供することと、
iii.前記少なくとも1つの生体分子が前記ナノ細孔を通過するまで培養することと、を含む、方法。
【請求項43】
前記少なくとも1つの生体分子が、前記ナノ細孔を通過すると、前記ナノ細孔を通って戻るのを防止する物理的変化が施される、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記少なくとも1つの生体分子が、球状タンパク質、ポリヌクレオチド-タンパク質構築物、標識ポリヌクレオチド、または標識タンパク質である、請求項42または請求項43に記載の方法。
【請求項45】
脂質二重層または半流動体膜貫通ナノ細孔であって、
i.少なくとも1つの疎水性アンカーを含む少なくとも1つの足場ヌクレオチド鎖であって、前記疎水性アンカーが、ポリヌクレオチド鎖および疎水性部分を含む、足場ヌクレオチド鎖と、
ii.複数のステープルポリヌクレオチド鎖と、を含み、
前記複数のステープルポリヌクレオチド鎖の各々が、前記膜貫通ナノ細孔の三次元構造を形成するように、前記少なくとも1つの足場ポリヌクレオチド鎖とハイブリダイズし、
前記膜貫通ナノ細孔が、膜貫通領域内に複数のDNA二本鎖の壁厚を有し、かつ、少なくとも約5nmの最小内部幅を有する中央チャネルを画定する、膜貫通ナノ細孔。
【請求項46】
前記少なくとも1つの足場鎖の前記ポリヌクレオチド、前記複数のステープルポリヌクレオチド鎖の各々、および前記少なくとも1つの疎水性アンカーが、DNAを含む、請求項45に記載の膜貫通ナノ細孔。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の膜ナノ構造体およびそれらの使用に関する。特に、タンパク質センシングおよび分子ゲート作製の用途における広いチャネルの膜ナノ細孔に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ細孔は、イオンおよびある特定の分子が通過し得る膜内にチャネルを形成する膜貫通ポリマーおよび複合体である。チャネルの最小直径は、典型的にはナノメートル(10-9メートル)の範囲であるため、ある特定のこれらのポリペプチドは、「ナノ細孔」と名付けられている。
【0003】
膜に結合したナノ細孔は、多くの潜在的使用法を有する。一例は、無標識でおよび携帯可能な様式で、生体分子を分析するためのセンサとしてのナノ細孔の使用法である。この手法の一実施形態では、電位が膜結合ナノ細孔を横切って印加され、イオンがチャネルを流れることを生じる。このイオンの流れは、電流として測定されることができる。単一チャネル記録法を使用する好適な電気的測定技術は、例えば、WO2000/28312号(特許文献1)、および、D.Stoddart et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,2010,106,7702-7(非特許文献1)に記載されている。マルチチャネル記録技術もまた、例えば、WO2009/077734号(特許文献2)および国際出願第WO2011/067559号(特許文献3)に記載されている。光学的測定は、電気的測定(Soni GV et al.,Rev Sci Instrum.2010 Jan;81(1):014301(非特許文献2))と組み合わせられ得る。あるいは、膜結合ナノ細孔を通るイオンの流れは、膜を横切ってイオン勾配を提供することによって達成され得る。
【0004】
他の潜在的使用法は、光センサ、電池、および電気デバイスとして機能する種々の膜ポンプ、チャネルおよび細孔を利用するナノ細孔を含有する液滴界面二重層によって接合された液滴の、機能的に相互接続されたネットワークの提供にある(例えば、Holden,M,A,et al,,J.Am,Chem,Soc.129,8650-8655(2007)(非特許文献3)、25 Maglia,G.et al.Nat.Nanotechnol,4,437-440(2009)(非特許文献4)参照)。別の使用法は、国際出願第PCT/GB2012/052736号(特許文献4)に開示のものなど、薬物送達ビヒクルとして使用するためのカプセル化液滴またはマルチソームの提供である。
【0005】
ナノ細孔内側を通過、結合または滞留する個々の分子は、チャネルを通るイオン流を低減してイオン電流の読み出しを得る(例えば、Liu X.,Mihovilovic Skanata M.,Stein D.Nat.Commun.6,6222(2015)(非特許文献5)、Lindsay S.Nat.Nanotechnol.11,109-111(2016)(非特許文献6)、Howorka S.,Siwy Z.Chem.Soc.Rev.38,2360-2384(2009)(非特許文献7)、Wang Y.,Zheng D.,Tan Q.,Wang M.X.,Gu L.Q.Nat.Nanotechnol.6,668-674(2011)(非特許文献8)、および、Wei R.S.,Gatterdam V.,Wieneke R.,Tampe R.,Rant U.Nat.Nanotechnol.7,257-263(2012)(非特許文献9)参照)。電流の低減によって測定されるようなイオン流の低減の程度は、細孔内または細孔の近くの障害のサイズを示す。したがって、測定された電流は、チャネルに対する障害のサイズまたは程度の尺度として使用することができる。電流の変化は、分子もしくは分子の一部が細孔もしくはその付近で結合したことを識別するために使用することができ(分子センシング)、またはある特定のシステムでは、細孔のサイズに基づいて、細孔内に存在する分子の本質を決定するために使用することができる。この原理は、ナノ細孔に基づいた核酸配列決定において使用される。
【0006】
センシング手法を特定の検体に適合させるには、ナノ細孔の構造を調整することに依拠する。主な例は、タンパク質構造を有し、その狭い内腔が、DNAヌクレオチドのサイズと一致し、したがって個々の移行しているDNA鎖の電気的配列決定を可能にする膜細孔MspAおよびα溶血素である(Cherf G.M.,Lieberman K.R.,Rashid H.,Lam C.E.,Karplus K.,Akeson M.Nat.Biotechnol.30,344-348(2012)(非特許文献10)、Manrao E.A.,et al.Nat.Biotechnol.30,349-353(2012)(非特許文献11)、および、Quick J.,et al.Nature530,228-232(2016)(非特許文献12))、またはnucleotides(Clarke J.,Wu H.C.,Jayasinghe L.,Patel A.,Reid S.,Bayley H.Nat.Nanotechnol.4,265-270(2009)(非特許文献13))。
【0007】
天然の折り畳み状態のままで、診断上または環境上重要なタンパク質検体へ、強力なセンシング原理を拡張するには、異なる一連のナノ細孔が必要である。
【0008】
折り畳みタンパク質または他の大きな生体分子用のセンサとして有用であるためには、ナノ細孔によって形成された好適な膜チャネルは、ある特定の基準を満たすべきであり、すなわち、
1)チャネル内腔は、チャネル内腔内側の大きな生体分子の分子を収容するために少なくとも約5nm幅であるべきであり、チャネル内の大きな生体分子の結合は、検体が細孔入口で結合する場合よりもより高い読み出し感度を生じる。
2)細孔は、電気的な読み出しにおいて一定のベースレベルを達成する(すなわち、バックグラウンドノイズを低減する)ように構造的に定義されるべきである。および
3)細孔寸法は、細孔を異なる生体分子サイズに適合するように容易に調整可能であるべきである。
【0009】
現在までのところ、既存の生物学的細孔または人工細孔のいずれもこれらの基準の全てを満たすものはない。
【0010】
潜在的なタンパク質細孔の観点からは、狭いα溶血素細孔は、細孔入口で選択されたタンパク質の結合を達成するように調整することができる(Movileanu L.,Howorka S.,Braha O.,Bayley H.Nat.Biotechnol.18,1091-1095(2000)(非特許文献14)、Rotem D.,Jayasinghe L.,Salichou M.,Bayley H.J.Am.Chem.Soc.134,2781-2787(2012)(非特許文献15))が、この手法は一般的ではない。さらに、パーフリンゴリジンおよび関係する細孔は、少なくとも20nmの直径を有するが、それらのサイズは不均一である(Dang T.X.,Hotze E.M.,Rouiller I.,Tweten R.K.,Wilson-Kubalek E.M.J.Struct.Biol.150,100-108(2005)(非特許文献16))。比較すると、ClyAは、4.5nmの定義の幅を有し、その直径は、容易に調整可能ではない(Maglia G.,Henricus M.,Wyss R.,Li Q.,Cheley S.,Bayley H.Nano Lett.9,3831-3836(2009)(非特許文献17)、Soskine M.,Biesemans A.,Maglia G.J.Am.Chem.Soc.137,5793-5797(2015)(非特許文献18))。タンパク質細孔のデノボ設計(Dang et al、同書)は、折り畳みポリペプチドの最終的な結果を予測することが困難であるため、選択肢ではない。
【0011】
十分に広いナノ細孔はまた、無機材料から製造されることもできる(例えば、Wei R.S.,Gatterdam V.,Wieneke R.,Tampe R.,Rant U.Nat.Nanotechnol.7,257-263(2012)(非特許文献19)、Dekker C.Nat.Nanotechnol.2,209-215(2007)(非特許文献20)、Miles B.N.,Ivanov A.P.,Wilson K.A.,Dogan F.,Japrung D.,Edel J.B.Chem.Soc.Rev.42,15-28(2013)(非特許文献21)、およびYusko E.C.,et al.Nat.Nanotechnol.6,253-260(2011)(非特許文献22)参照)が、それらは、携帯可能な分析ナノ細孔デバイス(Quick J.,et al.Nature530,228-232(2016)(非特許文献23))として標準的である疎水性膜フォーマットと互換性がない。
【0012】
核酸二重鎖、特にDNA二重鎖で構成される細孔は、センシングナノ細孔用の別の可能性を表す。DNAナノ細孔は、最近、6つの六角形に配置され、中空チャネルを取り囲む相互連結したDNA二重鎖の構造的コアから得られている(例えば、Douglas S.M.,Marblestone A.H.,Teerapittayanon S.,Vazquez A.,Church G.M.,Shih W.M.Nucleic Acids Res.37,5001-5006(2009)(非特許文献24)、Zheng J.,et al.Nature461,74-77(2009)(非特許文献25)、Rothemund P.W.Nature440,297-302(2006)(非特許文献26)、Fu J.,et al.Nat.Nanotechnol.9,531-536(2014)(非特許文献27)、Burns J.R.,et al.Angew.Chem.Int.Ed.52,12069-12072(2013)(非特許文献28)、およびSeifert A.,Gopfrich K.,Burns J.R.,Fertig N.,Keyser U.F.,Howorka S.ACS Nano9,1117-1126(2015)(非特許文献29)参照)。膜挿入は、疎水性脂質アンカーを細孔の外側に備えることを通じて達成された。しかしながら、これらの細孔は、直径が2nm以下の狭い内腔を有する。別の欠点は、構造的な不安定性であり、高い貫膜電圧の標準的な実験条件で80%のチャネル閉鎖をもたらす(Zheng et al、同書)。
【0013】
DNAナノ細孔用のモジュール式構築原理によって、細孔直径のカスタマイズ(Gopfrichet al,Nano.Lett.,15(5),3134-3138(2015)(非特許文献30)、WO2013/083983号(特許文献5))、および輸送を調節するための制御可能なゲートの設置(Burns J.R.,Seifert A.,Fertig N.,Howorka S.A.,Nat.Nanotechnol.11,152-156(2016)(非特許文献31))が可能となった。
【0014】
負に帯電したポリヌクレオチドの、好適にはDNAのナノ構造体を疎水性層、例えばリン脂質二重層に挿入することは未だに一般的な課題であり、より大きな直径のナノ細孔に対するこの問題は、増加することが予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】WO2000/28312号
【文献】WO2009/077734号
【文献】WO2011/067559号
【文献】PCT/GB2012/052736号
【文献】WO2013/083983号
【非特許文献】
【0016】
【文献】D.Stoddart et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,2010,106,7702-7
【文献】Soni GV et al.,Rev Sci Instrum.2010 Jan;81(1):014301
【文献】Holden,M,A,et al,,J.Am,Chem,Soc.129,8650-8655(2007)
【文献】Maglia,G.et al.Nat.Nanotechnol,4,437-440(2009)
【文献】Liu X.,Mihovilovic Skanata M.,Stein D.Nat.Commun.6,6222(2015)
【文献】Lindsay S.Nat.Nanotechnol.11,109-111(2016)
【文献】Howorka S.,Siwy Z.Chem.Soc.Rev.38,2360-2384(2009)
【文献】Wang Y.,Zheng D.,Tan Q.,Wang M.X.,Gu L.Q.Nat.Nanotechnol.6,668-674(2011)
【文献】Wei R.S.,Gatterdam V.,Wieneke R.,Tampe R.,Rant U.Nat.Nanotechnol.7,257-263(2012)
【文献】Cherf G.M.,Lieberman K.R.,Rashid H.,Lam C.E.,Karplus K.,Akeson M.Nat.Biotechnol.30,344-348(2012)
【文献】Manrao E.A.,et al.Nat.Biotechnol.30,349-353(2012)
【文献】Quick J.,et al.Nature530,228-232(2016)
【文献】Clarke J.,Wu H.C.,Jayasinghe L.,Patel A.,Reid S.,Bayley H.Nat.Nanotechnol.4,265-270(2009)
【文献】Movileanu L.,Howorka S.,Braha O.,Bayley H.Nat.Biotechnol.18,1091-1095(2000)
【文献】Rotem D.,Jayasinghe L.,Salichou M.,Bayley H.J.Am.Chem.Soc.134,2781-2787(2012)
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【文献】Maglia G.,Henricus M.,Wyss R.,Li Q.,Cheley S.,Bayley H.Nano Lett.9,3831-3836(2009)
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【文献】Dekker C.Nat.Nanotechnol.2,209-215(2007)
【文献】Miles B.N.,Ivanov A.P.,Wilson K.A.,Dogan F.,Japrung D.,Edel J.B.Chem.Soc.Rev.42,15-28(2013)
【文献】Yusko E.C.,et al.Nat.Nanotechnol.6,253-260(2011)
【文献】Quick J.,et al.Nature530,228-232(2016)
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【文献】Gopfrichet al,Nano.Lett.,15(5),3134-3138(2015)
【文献】Burns J.R.,Seifert A.,Fertig N.,Howorka S.A.,Nat.Nanotechnol.11,152-156(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、最小直径、構造的な定義および適合性の上の基準を満たす膜貫通ナノ細孔を提供することが当該分野において必要とされている。
【0018】
かかる細孔が、生物学的リン脂質二重層にだけでなく、合成ポリマー小胞を構成する膜、膜または固相基質内でも使用可能であり得ることも望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0019】
発明の概要
従来技術システムの上記欠点のうちの少なくとも1つを克服もしくは軽減するか、または関連技術システムに有用な代替物を少なくとも提供することが、本発明の目的である。
【0020】
第1の態様では、本発明は、膜貫通ナノ細孔であって、
i.少なくとも1つの足場ポリヌクレオチド鎖と、
ii.複数のステープルポリヌクレオチド鎖と、
iii.疎水性修飾ポリヌクレオチド鎖であって、ポリヌクレオチド鎖および疎水性部分を含む、少なくとも1つの疎水性修飾ポリヌクレオチド鎖と、を含み、
複数のステープルポリヌクレオチド鎖の各々が、少なくとも1つの足場ポリヌクレオチド鎖とハイブリダイズして、膜貫通ナノ細孔の三次元構造を形成し、少なくとも1つの疎水性修飾ポリヌクレオチド鎖が、少なくとも1つの足場ポリヌクレオチド鎖の一部分にハイブリダイズし、
膜貫通ナノ細孔が、少なくとも約5nmの最小内部幅を有する中央チャネルを画定する、膜貫通ナノ細孔に関する。
【0021】
典型的には、少なくとも1つの足場鎖中のポリヌクレオチド、複数のステープルポリヌクレオチド鎖の各々、および疎水性修飾ポリヌクレオチド鎖は、DNAを含む。好適には、ナノ細孔のアセンブリが、DNA折り紙技術によるものである、請求項2に記載の膜貫通ナノ細孔。
【0022】
一実施形態では、ナノ細孔の中央チャネルの最小内部幅は、約5nm~約20nmである。好適には、ナノ細孔の中央チャネルの最小内部幅は、約5nm~約10nmである。一実施形態では、ナノ細孔の中央チャネルの最小内部幅は、7.5nmである。
【0023】
一実施形態では、ナノ細孔は、膜貫通領域と少なくとも1つのキャップ領域とを含む。好適には、膜貫通領域は、少なくとも1つのキャップ領域に隣接して配置されている。1つのキャップ領域が存在する実施形態では、膜貫通領域は、ナノ細孔の一端に位置する。
【0024】
一実施形態では、膜貫通領域は、チャネルと同軸の約1nm~約7nmの寸法を有する。好適には、膜貫通領域は、チャネルと同軸の約3nm~約5nmの寸法を有する。さらなる実施形態では、キャップ領域は、チャネルと同軸の約20nm~約70nmの寸法を有する。好適には、キャップ領域は、チャネルと同軸の約40nm~約50nmの寸法を有する。
【0025】
一実施形態では、第1の態様のナノ細孔は、1つ以上のアダプタポリヌクレオチド鎖をさらに含み、少なくとも1つの疎水性修飾ポリヌクレオチド鎖が、1つ以上のアダプタポリヌクレオチド鎖を介してナノ細孔にハイブリダイズし、1つ以上のアダプタポリヌクレオチド鎖が、第1の末端および第2の末端を各々有し、アダプタポリヌクレオチド鎖の第1の末端が、少なくとも1つの足場ポリヌクレオチド鎖とハイブリダイズし、アダプタポリヌクレオチド鎖の第2の末端が、少なくとも1つの疎水性修飾ポリヌクレオチド鎖とハイブリダイズする。好適には、アダプタポリヌクレオチド鎖中のポリヌクレオチドは、DNAである。
【0026】
一実施形態では、少なくとも1つの疎水性部分は、脂質を含む。好適には、脂質は、ステロール、アルキル化フェノール、フラボン、飽和および不飽和脂肪酸、ならびに合成脂質分子(ドデシル-ベータ-D-グルコシド)を含むからなる群から選択される。典型的には、ステロールは、コレステロール、コレステロールの誘導体、フィトステロール、エルゴステロール、および胆汁酸からなる群から選択され、アルキル化フェノールは、メチル化フェノール、およびトコフェロールからなる群から選択され、フラボンは、フラバノン含有化合物、および6-ヒドロキシフラボンからなる群から選択され、飽和および不飽和脂肪酸は、ラウリン酸、オレイン酸、リノール酸、およびパルミチン酸の誘導体からなる群から選択され、および/または合成脂質分子は、ドデシル-ベータ-D-グルコシドである。
【0027】
一実施形態では、足場鎖のヌクレオチド配列は、M13mp18DNA(配列番号1)のDNA配列を含む。さらなる実施形態では、複数のステープル鎖のヌクレオチド配列は、配列番号2~218を含む群から選択される。なおさらなる実施形態では、1つ以上のアダプタ鎖のヌクレオチド配列は、配列番号219~241を含む群から選択され、他の実施形態では、少なくとも1つの疎水性修飾ヌクレオチド鎖の配列は、配列番号242または243を含む群から選択される。
【0028】
一実施形態では、ナノ細孔は、四辺形の形状である、チャネルの長手方向軸に対して垂直な断面を有する。好適には、四辺形は、正方形である。別の実施形態では、膜貫通ナノ細孔は、修飾され、中央チャネルが1つ以上の狭窄部を含む。
【0029】
第2の態様では、本発明は、本発明の第1の態様の膜貫通ナノ細孔のうちの1つ以上を含む膜を提供する。
【0030】
第2の態様の一実施形態では、膜は、二重層を含む。二重層は、脂質二重層であり得る。あるいは、膜は、ポリマーで形成された半流動体膜を含む。好適には、半流動体膜を形成するポリマーは、両親媒性合成ブロックコポリマーで構成されている。典型的には、両親媒性合成ブロックコポリマーは、親水性コポリマーブロックと疎水性コポリマーブロックとで構成されている。実施形態では、親水性コポリマーブロックは、ポリ(エチレングリコール)(PEG/PEO)、およびポリ(2-メチルオキサゾリン)からなる群から選択され、疎水性コポリマーブロックは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリ(カプロラクトン)(PCL)、ポリ(ラクチド)(PLA)、およびポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)からなる群から選択される。好適には、ポリマー膜は、両親媒性ブロックコポリマーポリ2-(メタクリロイルオキシ)エチルホスホリルコリン-b-ジイソプロピルアミノ)エチルメタクリレート(PMPC-b-PDPA)で構成されている。
【0031】
本発明の第2の態様の一実施形態では、膜は、小胞、ミセル、平面膜、または液滴の形態である。膜は、液滴界面二重層または液滴-液滴二重層を形成し得る。さらなる実施形態では、膜は固相基質を含む。
【0032】
本発明の第3の態様では、生物学的センサが、本発明の第2の態様の膜と、1つ以上の膜貫通ナノ細孔を通るイオン流、または横切る電子流を測定するための装置とを備える、生物学的センサが提供される。
【0033】
第4の態様では、本発明は、本発明の第3の態様の生物学的センサを1つ以上含む生物学的センシングデバイスを提供する。
【0034】
本発明の第5の態様では、分子センシングのための方法であって、
i.本発明の第2の態様に従った膜を設けることと、
ii.ナノ細孔を試験基質と接触させ、ナノ細孔を通るイオンの流れまたはナノ細孔を横切る電子流を確立することと、
iii.ナノ細孔を通るイオン流または膜貫通ナノ細孔のうちの1つ以上を横切る電子流を測定することと、を含む方法を提供する。
【0035】
第5の態様の一実施形態では、イオンの流れは、膜の第1の側から膜の第2の側である。さらなる実施形態では、分子センシングは、検体の検出または特徴付けであり、イオン流または電子流の変化は検体の指標である。
【0036】
本発明の第5の態様のさらなる実施形態では、方法は、ステップ(iii)の後に、試験基質が存在しない場合の膜を通るまたは横切るイオン流または電子流と比較した、膜を通るまたは横切るイオン流または電子流の変化によって、試験基質の存在を決定するさらなるステップを含む。
【0037】
一実施形態では、試験基質は、球状タンパク質、ポリヌクレオチド-タンパク質構築物、標識ポリヌクレオチド、または標識タンパク質である。
【0038】
本発明の第5の態様(および適切な他の態様)での使用に好適なセンシング装置は、WO2008/102210、WO2009/07734、WO2010/122293、WO2011/067559またはWO2014/04443のうちのいずれかに開示のように配置されている測定システムを含み得る。センシング装置は、電位差下で開き口を通るイオン電流を測定するために、膜の各側面に配置された電極を含み得る。電極は、電極に電圧を供給するために配置された制御回路と、イオン流を測定するために配置された測定回路とを含む電気回路に接続され得る。共通電極は、共通電極と膜の反対側の側面に設けられた電極との間の開き口(aperture)を通るイオン流を測定するために設けられ得る。
【0039】
ナノ細孔アレイのいずれかの側面に設けられた流動体チャンバは、シスチャンバおよびトランスチャンバと称され得る。ナノ細孔のアレイによって決定される分子実体は、典型的には、共通電極を含むシスチャンバに添加される。別々のトランスチャンバは、アレイの反対側の側面に設けられ得、各トランスチャンバは、電極を含み、各開き口を通るイオン流は、トランスチャンバの電極と共通電極との間で測定される。
【0040】
開き口を横切るトンネル電流の測定(Ivanov AP et al.,Nano Lett.2011 Jan 12、11(1):279-85)、または、WO2005/124888号、US8828138号、WO2009/035647号、もしくはXie et al,Nat Nanotechnol.2011 Dec 11、7(2):119-125によって開示の電界効果トランジスタ(FET)デバイスなどの、開き口に対する分子実体の動きに関連する代替的または追加の測定を実行してもよい。測定デバイスは、開き口内の分子実体の存在または通過を判定するためのソース電極およびドレイン電極を含むFETナノ細孔デバイスであり得る。FETナノ細孔デバイスを用いる利点、すなわち局所的な電位もしくは静電容量を測定するために開き口を横切るFET測定を用いる利点、または開き口を横切るトンネル電流の測定を用いる利点は、測定シグナルが特定の開き口に対して非常に局所的であることであり、したがって、共有のトランスチャンバを含むデバイスが用いられ得る。これは、上述のように、開き口を通るイオン流を測定するためのものなど、各開き口に対して別々のトランスチャンバを設ける必要がなく、デバイスの構築を大きく単純化する。その結果、アレイ内に非常に高密度の開き口、例えば10nm未満のピッチおよび106の開き口/cm2の密度を有する開き口を含むアレイを都合よく設けることができる。
【0041】
本発明の第6の態様では、分子ゲーティングのための方法であって、
i.本発明の第2の態様に従った膜を設けることと、
ii.ナノ細孔内のチャネルの最小内部幅未満の直径を有する少なくとも1つの生体分子を提供することと、
iii.少なくとも1つの生体分子がナノ細孔を通過するまで培養することと、を含む、方法を提供する。
【0042】
本発明の第6の態様の実施形態では、少なくとも1つの生体分子がナノ細孔を通過したとき、生体分子がナノ細孔を通って戻るのを防止する物理的変化を施される。
【0043】
一実施形態では、少なくとも1つの生体分子は、球状タンパク質、ポリヌクレオチド-タンパク質構築物、標識ポリヌクレオチド、または標識タンパク質である。
【0044】
本発明の第7の態様は、膜貫通ナノ細孔であって、
i.少なくとも1つの疎水性アンカーを含む少なくとも1つの足場ヌクレオチド鎖であって、疎水性アンカーが、ポリヌクレオチド鎖および疎水性部分を含む、少なくとも1つの足場ヌクレオチド鎖と、
ii.複数のステープルポリヌクレオチド鎖と、を含み、
複数のステープルポリヌクレオチド鎖の各々が、少なくとも1つの足場ポリヌクレオチド鎖とハイブリダイズして、膜貫通ナノ細孔の三次元構造を形成し、
膜貫通ナノ細孔が、少なくとも約5nmの最小内部幅を有する中央チャネルを画定する、膜貫通ナノ細孔を提供する。
【0045】
第7の態様の実施形態では、少なくとも1つの足場鎖内のポリヌクレオチド、複数のステープルポリヌクレオチド鎖の各々、および疎水性アンカーは、DNAを含む。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】NPとして示される大きな膜貫通DNAナノ細孔の設計を示す。(A)膜に埋め込まれている細孔は、薄い灰色および濃い灰色の円柱として示されている、正方形に配置されたDNA二重鎖で構成されている。後者は、膜挿入のためにコレステロール脂質アンカー(斜線で陰影付けされている)を担持する。タンパク質トリプシン(図示せず)は、膜のシス側からトランス側へ細孔を介して通過することができる。(B)ナノ細孔の上面図および側面図。(C)寸法を注釈した細孔内腔の幾何学形状を示すための横断面図。
【
図2】ナノ細孔NP
-Cの2D DNAマップを示す。足場鎖は、中間の灰色で示され、ステープル鎖は濃い灰色で示されている。左手側の点で終わる水平の鎖は、それらの配列の一部分をコレステロール修飾アンカーポリヌクレオチドにハイブリダイズするアダプタ鎖を示している。DNA鎖の5’末端および3’末端は、それぞれ正方形および三角形として表されている。二重鎖は、左に番号が付けられている。
【
図3】DNAナノ細孔のアセンブリ、純度、寸法、および膜相互作用特性の確認結果を示す。(A)洗剤SDSを含まないおよび洗剤SDSを含む、足場鎖(ss)、およびナノ細孔NP
-C、およびNPのゲル電気泳動分析。dsDNAマーカーの位置およびbp長は、電気泳動図の側面にkbpで与えられている。(B)マイカ上で鎖状に組み立てられたNP
-CのAFM顕微鏡写真(上)および高さプロファイル(下)。顕微鏡写真では、AFMカンチレバーによる中空DNAナノ構造体の圧縮のために、細孔は正方形に見える。顕微鏡写真のスケールバーは、上の画像と下の画像でそれぞれ250および100nmであり、垂直スケールは両方の画像で0~14nmである。AFM高さプロファイルは、下のAFM画像の5つのDNAナノ細孔の寸法を示している。(C)6.9~12.5nMの範囲の、SUV膜小胞を全く用いない(最も左のレーン)または量を増加させながらSUV膜小胞を用いて培養した、NPおよびNP
-Cのゲル電気泳動図。脂質アンカーを含むNPのアップシフトしたバンドは、二層膜との相互作用を示している。相互作用は、アンカーを含まないNP
-Cでは起こらない。最も右のバンドは、DNAの半量が充填されているため、より弱い。長さ10および1kbpの2つのdsDNAマーカーの位置は、ゲルの右側に与えられている。
【
図3】折り畳みDNAナノ細孔(7.88mLの溶出体積)と、過剰なステープル鎖(16.13mLの溶出体積)とを含有するアセンブリ混合物のサイズ排除クロマトグラフィートレースを示す。吸光は、260nmで測定された。
【
図4】折り畳みDNAナノ細孔(7.88mLの溶出体積)と、過剰なステープル鎖(16.13mLの溶出体積)とを含有するアセンブリ混合物のサイズ排除クロマトグラフィートレースを示す。吸光は、260nmで測定された。
【
図5】マイカに2nMの濃度で付着したコレステロールを含まないNP
-CのAFM顕微鏡写真を示す。DNAナノ細孔は、正方形状の構造体の鎖として集合する。正方形の外観は、AFMカンチレバーによる中空ナノ構造体の圧縮によって引き起こされると思われる。離れて欠けた正方形の蛇状の他の物は、マイカ基質にDNAを固定するために使用されたNi
2+およびMg
2+カチオンによる立体配座に凝集し、変化した、DNA細孔の鎖である可能性が最も高い。
【
図6】CaDNAnoソフトウェアを使用して設計され描写された、DNAナノ細孔NPの、上(A)、下(B)、側面(C)、および斜め側面(D)からみた描写画像を示す。円柱は、足場鎖(中間の灰色)およびステープルポリヌクレオチド(濃い灰色)で構成されているDNA二重鎖を表している。薄い灰色の鎖は、対になっていない一本鎖部分をコレステロール修飾アンカーポリヌクレオチド(図示せず)にハイブリダイズするアダプタポリヌクレオチドである。
【
図7】コレステロールタグ付きDNAナノ細孔と脂質小胞との相互作用のゲル電気泳動分析を示す。(A)DNAナノ細孔は、24個の可能性のある膜貫通二重鎖全てに脂質アンカーを担持していた。これは、5’末端に付着しているコレステロールTEG修飾を含む12個のDNAポリヌクレオチド、および3’末端の12個のDNAポリヌクレオチドに相当する。(B、C)5’末端に12個の脂質アンカー(B)、および3’末端に12個の脂質アンカー(C)を有する細孔のゲル。脂質濃度は、0.42mM(レーン2)、0.58mM(レーン3)、0.67mM(レーン4)、0.75mM(レーン5)である。dsDNAマーカーの位置およびbp長は、ゲルの右側に与えられている。
【
図8】NP DNAナノ細孔が脂質二重層の貫通を確立する、単一チャネル電流記録法を介した分析を示す。(A)膜のシス側(
図1A)に対する、1MのKCl、10mMのHEPES、pH8.0、および+20mVでの、単一NP細孔の代表的なイオン電流トレース(B)+20mV~+50mVでの32個の独立した単一チャネルの記録から得たチャネルコンダクタンスのヒストグラム(C)-100~+100mVで実施した電圧傾斜で記録された単一DNA細孔のトレース。高コンダクタンス状態は、濃い灰色で色分けされ、低コンダクタンス状態は、薄い灰色で分けられている。低コンダクタンス状態を示すようにトレースを選択したため、実際の発生頻度が過剰に表されている。(D)10個の単一チャネルの電流トレースからの平均偏差および標準偏差を示すIV曲線。(E)正電圧の大きさと相関する、高コンダクタンス状態および低コンダクタンス状態の確率。天然のものは、細孔が少なくとも10秒間電圧の切り替えに曝されなかったことを示す一方で、摂動された細孔は、20mVの間隔で+/-40V~+/-100Vに手動で引き起こした電圧の切り替えを、1秒間隔で少なくとも8回経験した。
図9に記載のように、複数のトレースを累積した全点のヒストグラム分析から確率を得た。
【
図9】開放した高コンダクタンス状態(実線)、およびパーティクローズのより低コンダクタンス状態(斜線)の、NP細孔の電流分布を示す全点のヒストグラムを示す。電流分布は、開放チャネル電流に対して正規化した。分布は、(A)少なくとも10秒間記録電位に保持された天然の細孔、および(B)1秒間隔で複数の電圧の切り替えに曝された摂動された細孔についてのものである。記録電位が示されている。Aのヒストグラムは、各電圧での3つの15秒区間の独立したトレースを合計することによって得、Bのヒストグラムは、1秒区画の各7つの独立した線の合計からであった。
【
図10】巨大単層小胞から蛍光プローブFAM-PEG
350を放出するナノ細孔NPを示す。コレステロール修飾DNAポリヌクレオチド(左)およびNP(右)を用いて培養したPEG
350-FAMを満たした小胞の蛍光画像。
【
図11】NP細孔を通るタンパク質トリプシンの輸送を示す。(A)細孔の移行のない短時間の接触(タイプI)または正常な輸送(タイプII)をもたらす、DNAナノ細孔のタンパク質分子とのその相互作用の概略。(B)タイプIおよびタイプIIの遮断をもたらす、1.26μMのトリプシンの存在下のシス側で記録された単一チャネルの電流トレース。開放チャネル電流I
o、遮断振幅A、および滞留時間τ
offが定義されている。(C)シスチャンバに1.26μMのトリプシンを含む単一チャネルの電流記録法の、τ
offおよびAを示す散布図。図中の各点は、タンパク質のDNAナノ細孔との個々の接触事象を表している。散布図は、568個のデータポイントで構成されている。
【
図12】本発明に従ったDNAナノ構造体の代表的なトンネル電子顕微鏡(TEM)画像を示す。スケールバー=50nm。
【
図13】単一の単細胞小胞(SUV)に付着している、本発明に従ったDNAナノ構造体の代表的なトンネル電子顕微鏡(TEM)画像を示す。スケールバー=50nm。
【
図14】単一の単細胞小胞(SUV)に付着している、本発明に従ったDNAナノ構造体の代表的なトンネル電子顕微鏡(TEM)画像を示す。スケールバー=50nm。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明を説明する前に、本発明の理解を補助するであろう多数の定義を提供する。本明細書に引用される全ての参考文献は、その全体が参考として援用される。他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0048】
他に示されない限り、本発明の実施は、化学、分子生物学、微生物学、組換えDNA技術、および化学的方法の従来技術を用い、それらは当業者の能力の範囲内である。かかる技術はまた、例えば、文献M.R.Green,J.Sambrook,2012,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Fourth Edition,Books1-3,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、Ausubel,F.M.et al.(1995 and periodic supplements、Current Protocols in Molecular Biology,ch.9,13,and16,John Wiley&Sons,New York,N.Y.)、B.Roe,J.Crabtree,and A.Kahn,1996,DNA Isolation and Sequencing:Essential Techniques,John Wiley&Sons、J.M.Polak and James O’D.McGee,1990,In Situ Hybridisation:Principles and Practice,Oxford University Press、M.J.Gait(Editor),1984,Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press、およびD.M.J.Lilley and J.E.Dahlberg,1992,Methods of Enzymology:DNA Structure Part A:Synthesis and Physical Analysis of DNA Methods in Enzymology,Academic Pressに説明されている。これらの一般的なテキストの各々は、参照により本明細書に援用される。
【0049】
本明細書で使用される場合、用語「含む(comprise)」とは、詳述された要素のうちのいずれかが必然的に含まれ、他の要素も同様に任意選択的に含まれ得ることを意味する。「から本質的になる(consisting essentially of)」とは、詳述された任意の要素が必然的に含まれ、列挙された要素の基本的特徴および新規の特徴に実質的に影響を及ぼすであろう要素は除外され、他の要素が任意選択的に含まれ得ることを意味する。「からなる(consisting of)」とは、列挙されているもの以外の全ての要素が除外されることを意味する。これらの用語の各々によって定義される実施形態は、本発明の範囲内にある。
【0050】
本明細書で使用される用語「膜」とは、選択的に取り囲むまたは分離する透過性の境界、仕切り、バリアまたはフィルムである。膜は、それぞれシス側およびトランス側と呼ばれ得る2つの側面または表面を有する。膜は、薄い(すなわち、その幅および長さよりも実質的に薄い厚さを有する)ので、ナノ細孔によって貫通されることが可能である。本発明の文脈では、膜厚は、典型的にはナノメートル(10-9メートル)の範囲である。膜の配置は限定されず、任意の形態、例えば、リポソーム、小胞で、または平面もしくは非平面のシートとしてあり得る。本発明において有用な膜の具体例としては、脂質二重層、ポリマーフィルム、または固相基質が挙げられる。
【0051】
本明細書で使用される用語「固相膜」または「固相基質」とは、1つ以上の開き口が設けられている固相物質から形成された膜を指す。例えば参照により本明細書に援用される米国特許第8,828,211号に開示のそれぞれの1つ以上の開き口内に、1つ以上のナノ細孔を配置してもよい。固相膜は、これらに限定されないが、II-IVおよびIII-V材料などの材料、窒化ケイ素、Al2O3、およびSiO2などの酸化物および窒化物、Si、MoS2、ポリアミドなどの固相有機および無機ポリマー、Teflon(登録商標)などのプラスチック、または二成分付加硬化型シリコーンゴムなどのエラストマー、ならびにガラスを含む導電体、電気半導体、または電気絶縁体を問わず、マイクロエレクトロニクス材料を含む有機および無機材料の一方または両方を含み得る。膜は、グラフェンなどの単原子層、または両方が参照により本明細書に援用される米国特許第8,698,481号および米国特許出願公開第2014/174927号に開示のものなどのわずかな原子数の厚さの層から形成され得る。参照により本明細書に援用される米国特許出願公開第2013/309776号に開示の、2つ以上のグラフェン層など、2つ以上の材料の層が挙げられ得る。好適な窒化ケイ素膜は、米国特許第6,627,067号に開示されており、米国特許出願公開第2011/053284号に開示のものなど、膜は、化学的に官能化され得、その両方が参照により本明細書に援用される。かかる構造体は、例えば、参照により本明細書に援用される米国特許第8,828,211号に開示されている。開き口の内壁は、出願公開第WO2009/020682号に開示のように、官能化コーティングでコーティングしてもよい。1つ以上の開き口は、それぞれの1つ以上の開き口における1つ以上のナノ細孔の提供を補助するために、疎水性であるか、または疎水性コーティングを備えていてもよい。固相基質に開き口を設けるための好適な方法は、出願公開第WO03003446号および同第WO2016/187519号に開示されている。
【0052】
本明細書で使用される用語「核酸」とは、各ヌクレオチドの3’末端および5’末端がホスホジエステル結合によって接合している、単一鎖または二本鎖の共有結合的に連結しているヌクレオチドの配列である。ポリヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド塩基またはリボヌクレオチド塩基から構成され得る。核酸は、DNAおよびRNAを含み得、典型的には合成して製造されるが、自然の供給源から単離されてもよい。核酸としては、例えばメチル化されているか、または例えば7-メチルグアノシンでの5’-キャッピング、切断およびポリアデニル化などの3’-プロセッシング、ならびにスプライシング、もしくは発蛍光団もしくは他の化合物による標識付けの化学修飾を施されているDNAもしくはRNAといった、修飾DNAもしくはRNAがさらに挙げられ得る。核酸としてはまた、ヘキシトール核酸(HNA)、シクロヘキセン核酸(CeNA)、トレオース核酸(TNA)、グリセロール核酸(GNA)、ロックド核酸(LNA)、およびペプチド核酸(PNA)などの合成核酸(XNA)が挙げられ得る。このように、本明細書で用語「DNA」および「RNA」が使用される場合、これらの用語は自然のヌクレオチドのみを含むと限定されないことが理解されるべきである。本明細書において「ポリヌクレオチド」とも称される核酸のサイズは、典型的には、二本鎖ポリヌクレオチドの塩基対の数(bp)として、または単一鎖ポリヌクレオチドの場合にはヌクレオチドの数(nt)として表される。1000bpまたはntは、キロベース(kb)と等しい。長さが約100ヌクレオチド未満のポリヌクレオチドは、典型的には「オリゴヌクレオチド」と呼ばれる。
【0053】
本明細書中で使用される場合、用語「3’」(「3プライム」)および「5’」(「5プライム」)とは、当技術分野におけるそれらの通常の意味を取って、すなわちポリヌクレオチドの末端を区別する。ポリヌクレオチドは、5’および3’末端を有し、ポリヌクレオチド配列は、慣例的に5’から3’方向に書かれる。用語「ポリヌクレオチド分子の相補体」とは、参照配列と比較して相補的な塩基配列および逆方向を有するポリヌクレオチド分子を指す。
【0054】
本明細書で使用される用語「二重鎖」とは、二本の撚り合わせられたDNAを指し、2つの相補的なDNA配列のヌクレオチドが一緒に結合し、次いでコイル状に二重らせんを形成することを意味する。
【0055】
本発明によれば、本明細書に記載の核酸配列に対する相同性は、単に100%の配列同一性に限定されない。明らかに低い配列同一性を有するにもかかわらず、多くの核酸配列は互いに対して生化学的同等性を示す場合がある。本発明では、相同な核酸配列は、低ストリンジェンシーの条件下で互いにハイブリダイズするであろうものと見なされる(Sambrook J.et al、上記)。
【0056】
本明細書中で使用される場合、用語「ナノ構造」とは、典型的にはバイオポリマー、構造がその幾何学形状の少なくとも1つの寸法または面がナノスケール内である(すなわち、10-9メートル)、好適には自然または非自然の核酸で構成された、予め設計された二次元または三次元分子構造体を指す。ナノスケール構造体は、好適には約100nm未満、典型的には50nm未満、最も好適には20nm未満の寸法または幾何学形状を有する。ナノスケール構造体は、好適には、約0.1nmより大きい、典型的には約1nmより大きい、任意選択的には約2nmより大きい寸法または幾何学形状を有する。核酸ナノ構造体のアセンブリは、溶液中で自然に起こり得るか、またはこれらに限定されないが、核酸足場、核酸アプタマー、核酸ステープル、補酵素、および分子シャペロンを含む追加の補因子の存在を必要とし得る。所望のナノ構造体が、DNAなどの1つ以上の予め設計された自然な自己折り畳み核酸分子から生じる場合、これは典型的には核酸「折り紙」と称される。例示的な三次元DNAナノ構造体は、ナノバレル、典型的には長方形、多角形、円形、または楕円形の実質的に平面のナノ構造体であるナノラフト、ナノスフェアおよび星状多面体ナノ構造体を含む規則的なもしくは不規則な多面体ナノ構造体を含み得る。例示的な二次元DNAナノ構造体は、ナノディスクまたはナノプレートを含み得る。二次元または三次元のナノスケール構造体および形状を作製するためのDNAの合理的な設計および折り畳みは、当技術分野において既知である(例えば、Rothemund(2006)Nature440,297-302)。
【0057】
ナノ構造体を形成する核酸配列は、典型的には合成して製造されるであろうが、それらはまた、従来の組換え核酸技術によっても得られ得る。必要な配列を含むDNA構築物は、微生物宿主生物(E.coliなど)内で増殖させたベクター内に含まれ得る。これにより、バイオリアクター内で大量のDNAを調製し、次いで従来技術を使用して採取することが可能になるであろう。所望のDNA配列を、制限エンドヌクレアーゼによる切除、およびクロマトグラフィーまたは電気泳動分離などの使用による単離によって、ベクターを単離、精製して、余分な物質を除去してもよい。
【0058】
本発明の文脈では、用語「アミノ酸」とは、その最も広い意味で使用され、自然のL α-アミノ酸または残基を含むことを意味する。自然のアミノ酸に対して一般的に使用される1文字および3文字の略称:A=Ala、C=Cys、D=Asp、E=Glu、F=Phe、G=Gly、H=His、I=Ile、K=Lys、L=Leu、M=Met、N=Asn、P=Pro、Q=Gln、R=Arg、S=Ser、T=Thr、V=Val、W=Trp、およびY=Tyr(Lehninger,A.L.,(1975)Biochemistry,2d ed.,pp.71-92,Worth Publishers,New York)が、本明細書で使用される。総称「アミノ酸」としてはさらに、D-アミノ酸、レトロ-インベルソアミノ酸、ならびにアミノ酸類似体などの化学修飾アミノ酸、ノルロイシンなどのタンパク質に通常組み込まれていない自然のアミノ酸、およびβ-アミノ酸などのアミノ酸に特徴的であることが当技術分野において既知の特性を有する化学合成された化合物が挙げられる。例えば、自然のPheまたはProと同じペプチド化合物の立体配座の制限を可能にする、フェニルアラニンまたはプロリンの類似体または模倣物質は、アミノ酸の定義内に含まれる。かかる類似体および模倣物質は、本明細書では、それぞれのアミノ酸の「機能的等価物」と称される。アミノ酸の他の例は、参照により本明細書に援用されるRoberts and Vellaccio,The Peptides:Analysis,Synthesis,Biology,Gross and Meiehofer,eds.,Vol.5p.341,Academic Press,Inc.,N.Y.1983によって列挙されている。
【0059】
「ポリペプチド」は、自然に生成されるかまたは合成手段によってインビトロで生成されるかにかかわらず、ペプチド結合によって接合されているアミノ酸残基のポリマーである。長さが約12アミノ酸残基未満のポリペプチドは、典型的には「ペプチド」と称され、長さが約12~約30アミノ酸残基のものは、「オリゴペプチド」と称され得る。本明細書で使用される用語「ポリペプチド」とは、自然のポリペプチド、前駆体形態、またはプロタンパク質の生成物を指す。ポリペプチドはまた、これらに限定されないが、グリコシル化、タンパク質分解切断、脂質化(lipidization)、シグナルペプチド切断、プロペプチド切断、リン酸化などが挙げられ得る、成熟または翻訳後修飾プロセスを受け得る。用語「タンパク質」とは、本明細書では、1つ以上のポリペプチド鎖を含むポリマーを指すために使用されている。
【0060】
本明細書で使用される用語「折り畳みタンパク質」とは、それが形成されるポリペプチド鎖(一次構造)の翻訳後にいくつかの三次元形状を獲得したタンパク質を指す。この用語は、典型的には局所的な三次元構造体が形成される折り畳みプロセスの第1段階であるタンパク質の二次構造、例えばアルファヘリックスまたはベータシートを指す場合がある。この用語は、より典型的には、タンパク質の二次構造体が折り畳まれて疎水性または共有結合的な相互作用を通じて構造を安定化したタンパク質の三次構造を指す場合がある。この用語はまた、1つ以上のタンパク質サブユニットが組み立てられた四次構造体を有するタンパク質も包含する。必要に応じて、折り畳みタンパク質は、「天然の」タンパク質構造とも呼ばれる場合があり、タンパク質がその生物学的機能を呈する形態であり得る。
【0061】
本明細書で使用される場合、用語「内部幅」とは、チャネルの長手方向軸に対して垂直な平面内で、1つの壁の内面から反対側の壁の内面までチャネルの内部に広がる直線距離を指す。チャネルの内部幅は、その長手方向軸に沿って一定でもよく、または変化してもよい。「最小内部幅」とは、チャネルの入口と出口との間のチャネルの長手方向軸に沿った最小内部幅である。チャネルの最小内部幅は、チャネルを通過し得る物体の最大サイズを定義する。
【0062】
本明細書中で使用される場合、用語「疎水性」とは、有機分子およびポリマーを含む無極性の特徴を有する分子を指す。例は、飽和または不飽和炭化水素である。分子は、両親媒性を有していてもよい。
【0063】
本明細書中で使用される場合、用語「疎水性修飾」とは、1つ以上の疎水性部分を有するポリヌクレオチド鎖の修飾(接合、結合、あるいは連結)に関する。本明細書で定義される「疎水性部分」とは、疎水性有機分子である。疎水性部分は、非極性または低極性の脂肪族、脂肪族-芳香族、または芳香族鎖を含む任意の部分であり得る。好適には、本発明において利用される疎水性部分は、長鎖炭素環式分子、ポリマー、ブロックコポリマー、および脂質などの分子を包含する。本明細書で定義される用語「脂質」とは、脂肪酸およびそれらの誘導体(トリ、ジ、モノグリセリド、およびリン脂質を含む)、ならびにコレステロールなどのステロール含有代謝産物に関する。本発明の実施形態内に含まれる疎水性部分は、脂質系の細胞膜などのリン脂質二重層と非共有結合的な引力による相互作用を形成することができ、ナノ細孔用の膜アンカーとして機能する。本発明のある特定の実施形態によれば、膜を固定する特性を有する脂質分子などの好適な疎水性部分としては、ステロール(コレステロール、コレステロールの誘導体、フィトステロール、エルゴステロール、および胆汁酸を含む)、アルキル化フェノール(メチル化フェノールおよびトコフェロールを含む)、フラボン(6-ヒドロキシフラボンなどのフラバノン含有化合物を含む)、飽和および不飽和脂肪酸(ラウリン酸、オレイン酸、リノール酸、およびパルミチン酸などの誘導体を含む)、ならびに合成脂質分子(ドデシル-ベータ-D-グルコシドを含む)が挙げられ得る。ポリマー膜用のアンカーは、脂質二重層用のアンカーと同じでもよく、または異なってもよい。特定の疎水性部分アンカーは、選択された膜の結合性能に基づいて選択され得る。
【0064】
本発明者らは、構造的に定義された広いチャネルの有機ナノ細孔を特定した。ナノ細孔の構造は、多数の使用法において好適になる。1つのかかる使用法は、生体分子センシング用途、特に折り畳みタンパク質が細孔内を通過、結合または滞留し得るタンパク質センシング用途である。ナノ細孔の修飾型は、特定の折り畳みタンパク質または他の生体分子へのチャネルの適合性をさらに向上するのに役立ち得る。生体分子センシングは、細孔内腔またはチャネル内に分子受容体を設置することによって向上され得る。
【0065】
本発明に従った広いチャネルのDNAナノ細孔は、ClyAまたはアルファ-溶血素などの既存のタンパク質細孔、および既知のDNAナノ細孔を超える利点を提供する。ナノ構造は、折り畳みタンパク質、典型的には三次元の三次構造または四次構造を有するタンパク質が、その中を通過し、結合し、または滞留することを可能にする、広く安定な膜貫通チャネルを提供する。ナノ細孔のチャネル内で折り畳みタンパク質を通過または結合させることは、チャネルの口でのタンパク質の結合と比較して、開放チャネルを通るイオン流のより効果的な遮断を通じて改善された読み出しシグナルをもたらす。
【0066】
DNA細孔は、その性質上、通常のタンパク質細孔よりも負に帯電している。カーゴの潜在的な静電反発力が発生した場合、より高いイオン強度または電荷中和DNAによって補うことができる(Burns J.,Stulz E.,Howorka S.Self-assembled DNA nanopores that span lipid bilayers.Nano Lett.13,2351-2356(2013))。
【0067】
ナノ細孔のチャネルの広い開口部はまた、生体分子の分子ゲーティングにおけるナノ細孔の潜在的な用途をもたらすポリマー膜を通って、折り畳みタンパク質および大きな生体分子の移行を容易にする。最近開発された合成膜貫通DNAナノ細孔は、膜を横切る輸送を制御するための新しく潜在的に一般的な段取りを提供する(例えば、Douglas S.M.,Marblestone A.H.,Teerapittayanon S.,Vazquez A.,Church G.M.,Shih W.M.Nucleic Acids Res.37,5001-5006(2009)、Zheng J.,et al.Nature461,74-77(2009)、Fu J.,et al.Nat.Nanotechnol.9,531-536(2014)、Burns J.R.,et al.Angew.Chem.Int.Ed.52,12069-12072(2013)、およびSeifert A.,Gopfrich K.,Burns J.R.,Fertig N.,Keyser U.F.,Howorka S.ACS Nano9,1117-1126(2015)参照)。
【0068】
制御された孔径を有するナノ細孔を作製し、それらを自然の膜または合成膜に挿入する能力は、内腔寸法を制御するカスタマイズされた選択的に透過性の膜の構築を可能にし、任意選択的に、細孔の他の特徴が、これらの膜を通過することが可能な生体分子の制御を可能にする。本発明において特に実用的であるのは、今日まで不可能であった、大きな球状タンパク質を含む大きな生体分子をかかる膜に通過させることを可能にする、本発明のナノ細孔のサイズ増加である。これは、生物学の分野における他の使用法と共に医学において潜在的な実用性を有する。例えば、いくつかの大きな、すなわち直径10~30nmの膜細孔であり、これらは、「補体系」(抗体および食細胞の、生物から微生物および損傷した細胞を除去し、炎症を促進し、病原体の原形質膜を攻撃する能力を向上する(補う)自然免疫系の一部)などにおいて、細菌を殺傷するために免疫細胞によって生成される。特にC9タンパク質は、他の付属タンパク質と一緒になって膜侵襲複合体を形成する、大きな細孔を形成する。膜細孔はまた、真核宿主細胞を攻撃し殺傷するために病原菌によっても使用される。これらの細菌の細孔の例は、パーフリノグリシン(perfringolysin)またはリステリオリシンOを含むコレステロール依存性細胞溶解素である。
【0069】
一例として、本発明に従ったナノ細孔を含む自然のポリマーまたは合成ポリマーで形成された小胞は、ナノリアクターとして使用され得る。基質タンパク質または生体分子は、ナノ細孔を通して小胞内部に入り、所望の反応が小胞内で起こることを、小胞の内部のカプセル化酵素が可能にすると考えられる。一例として、トリプシンなどのカプセル化プロテアーゼ酵素は、小胞内側で保持され得、ここで比較的大きく制御可能なサイズのナノ細孔が、いくつかの基質タンパク質以外の他のタンパク質を分解のために進入させないようにでき、それによって無差別な消化から特定のタンパク質を保護する。同様に、タンパク質またはペプチド系の医薬品などの同様の小胞内に含有されるカーゴ(積み荷分子:cargo)の放出に対する制御は、カーゴの通過を可能にするナノ細孔を有する膜を用いて可能であろう。
【0070】
本発明の一実施形態によれば、ほぼ細長い円筒形の細孔壁によって囲まれ画定される比較的大きい最小直径(例えば、約5nmより大きい)を有する中央チャネルまたは内腔を有する新規な核酸ナノ細孔が提供される。本明細書に記載のように、ナノ細孔は、構造的に定義され、異なる細孔チャネルサイズへの適合を可能にするように調整可能である。細孔は、任意の好適な核酸で構成され得る。1つ以上のDNA二重鎖から形成されたナノ細孔は、定義されたサイズのナノスケールアーキテクチャの合理的な設計に優れた構築材料であるため、特に好適である(Langecker M.,et al.Science338,932-936(2012)、Burns J.,Stulz E.,Howorka S.Nano Lett.13,2351-2356(2013)、Burns J.R.,Al-Juffali N.,Janes S.M.,Howorka S.Angew.Chem.Int.Ed.53,12466-12470(2014)、Burns J.R.,Seifert A.,Fertig N.,Howorka S.Nat.Nanotechnol.11,152-156(2016))。
【0071】
ナノ細孔は、ほぼ細長い円筒形状を有するが、任意の好適な形状を有するように設計されてもよい。ナノ細孔の寸法は、使用される足場鎖の長さ、細孔の内張りに使用される核酸二重鎖の層の数、および細孔の高さによってある程度決定される。例えば、7249塩基長である足場鎖M13mp18の使用に基づく3層の正方形ナノ細孔設計については、細孔は、最小内部幅または開口部がおよそ40nm、および対角線幅が57nmで設計され得る。同じ足場鎖M13mp18を使用する代替的な可能な設計では、310nmの最大長さであるがたったの2.5nmnの最小内部幅を有し、したがって本発明の範囲外である細孔である。
【0072】
本発明の実施形態に従ったナノ細孔は、キャップ領域および膜貫通領域の2つの領域を含む。膜貫通領域は、膜の平面内に位置するナノ細孔の部分として定義され、キャップ領域は、膜貫通領域に付着し、膜の表面から延在しているナノ細孔の部分である。ナノ細孔は、膜の片側のみにキャップ領域を有するか、あるいは膜の両側に1つずつ、2つのキャップ領域を有し得る。2つ以上のキャップ領域がある場合、これらは互いに同じでも異なっていてもよい。好適には、ナノ細孔は、ナノ細孔への入口を形成する膜の片側に1つのキャップ領域を有する。
【0073】
キャップ領域は、任意の好適なサイズの寸法を有し得る。キャップ領域が膜表面からごくわずかに延在することも可能であるが、典型的には、キャップ領域は、膜表面から細孔壁の上部までの垂直距離による測定で、膜から伸びる少なくとも5nmの高さを有する。好適には、キャップ領域は、少なくとも10nm、15nm、20nm、25nm、30nm、35nm、40nm、45nm、または50nm以上の高さを有し得る。好適には、キャップ領域の高さは、最大で100nm、90nm、80nm、70nm、60nm、または50nm以下である。キャップ領域の高さは、使用される足場ポリヌクレオチドの長さ、および細孔を形成するポリヌクレオチド二重鎖の層の数によって決定され得る。例えば、コンピュータソフトウェア(CaDNAnoソフトウェア、http://www.cadnano.orgで入手可能)を使用した計算によれば、M13mp18足場鎖を使用し、細孔の20nmの最小内部幅を有する正方形断面のDNA細孔については、細孔壁が2本の二重鎖の厚さの場合、細孔の最大高さは約37nmであり、細孔壁が3つの二重鎖の厚さの場合20nm、細孔が4つの二重鎖の厚さの場合、13nmである。
【0074】
膜貫通領域は、任意の好適なサイズの寸法を有し得る。典型的には、膜貫通領域は、それが存在する膜の厚さとほぼ一致する高さを有する。生物学的脂質二重層膜の厚さは、約3.5~10nmの範囲であり得る。両親媒性合成ブロックコポリマーで構成されている膜の厚さは、5~50nmのより広い範囲を示す(C.LoPresti,H.Lomas,M.Massignani,T.Smart,G.Battaglia,J.Mater.Chem.2009,19,3576-3590)。したがって、好適には、膜貫通領域は、少なくとも約3.5nmの高さを有し得るが、3nm、2.5nm、2nm、1.5nm、または1.0nm以下程の低い高さを有する膜貫通領域を有することが可能であり得る。好適には、膜貫通領域は、少なくとも5nmの高さを有し得る。膜貫通領域は、最大で100nm、90nm、80nm、70nm、60nm、50nm、40nm、30nm、20nm、または10nm以下の高さを有し得る。好適には、膜貫通領域は、合成ポリマー層については50nmの最大高さ、脂質二重層については10nmの最大高さを有する。
【0075】
ナノ細孔を通過するチャネルまたは内腔は、膜に対して平行で、チャネルの長手方向軸に対して垂直な断面プロファイルを有する。この断面プロファイルは、任意の形状および寸法のものであり得る。チャネルの形状および寸法は、その全長にわたって一定でもよく、または変化してもよい。好適には、チャネルは、その全長にわたって一定の断面プロファイルおよびサイズを有する。好適には、チャネルの断面プロファイルは四辺形、典型的には正方形、または少なくともほぼ円形である。この断面のチャネルの最小開口部または幅は、折り畳みタンパク質へのアクセスを可能にするのに好適である。典型的には、チャネルの最小開口部または幅は、少なくとも5nm、6nm、6.5nm、7nm、7.5nm、8nm、8.5nm、9nm、9.5nm、10nm、11nm、12nm、13nm、14nm、15nm、16nm、17nm、18nm、19nm、20nm、25nm以上である。好適には、開口部は、約5nm~約20nmである。典型的には、開口部は、約5nm~約10nmである。チャネルの最大開口部は、細孔の構造的な妥当性を維持し、対象の分子が通過したときに電気的な読み出しを得る必要性によってのみ制限される。好適には、チャネルの最大幅または開口部は、50nm、45nm、40nm、35nm、30nm、25nm、20nm、18nm、15nm、12nm、または10nmである。好適には、チャネルの最小開口部の断面積は、少なくとも20nm2、25nm2、30nm2、35nm2、40nm2、45nm2、50nm2、60nm2、70nm2、80nm2、90nm2、または100nm2以上である。好適には、チャネルの最小開口部の断面積は、多くとも200nm2、180nm2、160nm2、140nm2、120nm2、100nm2、90nm2、80nm2、70nm2、60nm2、50nm2、40nm2、30nm2、20nm2、または15nm2以下である。
【0076】
最適な性能を達成するために、チャネルサイズの変動は、細孔ごとに最小限であるべきである。表面積のわずかな変動でさえ、開放状態(任意の標的検体がない)または結合状態(標的検体がチャネルの中またはその付近に存在する)の両方において、所与の細孔を通るイオン流に顕著なずれをもたらし得る。イオン流におけるかかる変動は、電気的な読み出しにおいてより低いシグナル対ノイズ比をもたらし、それによって検出感度を低減させる。本発明に従ったナノ細孔は、孔径のばらつきが小さい(
図12~14参照)。
【0077】
ナノ細孔は、1つ以上の狭窄部を設けるために修飾され得る。狭窄部は、チャネル幅を制限し得る。狭窄部は、チャネル幅を約0.5nm~チャネルの幅までに制限し得る。狭窄部は、チャネル幅の狭まりであり、チャネルの長さに沿って2つ以上の狭窄部が設けられ得る。チャネルは、例えば、2つのかかる狭窄部を設けられ得る。狭窄部は、離間していてもよい。狭窄部は、互いに1nm以上離間していてもよく、例えば1nm~20nm、より具体的には5~10nmの値で離間していてもよい。修飾は、化学的なものであり得る。ナノ細孔の組み立て後に修飾を行ってもよい。あるいは、ナノ細孔の組み立て前に、足場および/またはステープル鎖に修飾を行ってもよい。チャネル直径を狭くするためのタンパク質ナノ細孔への化学修飾の例は、PCT/GB2017/050961に記載されている。
【0078】
好適には、本発明のナノ細孔は、「足場-および-ステープル(scaffold-and-staple)」手法を介して組み立てられる。核酸ナノ構造、特にDNAナノ構造体へのこの重要な段取りにおいて、DNAは、ナノスケールの三次元形状を作製するための建築材料として利用される。この技術は他の核酸にも等しく適用可能であるが、複数のハイブリダイズしていない線状分子からのこれらの複雑なナノ構造体のアセンブリは、典型的には「DNA折り紙」と称される。
【0079】
DNA折り紙プロセスは、概して、複数の合理的に設計された「ステープル」DNA鎖を使用して、1つ以上の細長い「足場」DNA鎖を特定の形状に折り畳むことを含む。足場鎖は、任意の十分に非反復的な配列を有し得る。足場配列としての使用に好適な多くのDNA配列がある。市販の例としては、それらの塩基長に従って名づけられた単一鎖足場DNA配列、例えばP7249(M13mp18におけるような塩基配列;7249塩基)、p7560型(7560塩基)、例えば、Eurofins Genomics(https://www.eurofinsgenomics.eu/en/dna-rna-oligonucleotides/oligo-design-more/dna-origami/scaffold-dna.aspx、2017年7月13日アクセス)から入手可能なp8064(8064塩基)が挙げられる。ステープル鎖の配列は、それらが足場鎖の特定の定義された部分にハイブリダイズし、そうすることで足場鎖に特定の立体配置をとらせるように設計される。DNA折り紙構造体の作製に有用な方法は、例えば、Rothemund,P.W.,Nature440:297-302(2006)、Douglas et al,Nature459:414-418(2009)、Dietz et al,Science325:725-730(2009)、および米国特許出願公開第2007/0117109号、同第2008/0287668号、同第2010/0069621号、および同第2010/0216978号に見出され得、これらの各々は、その全体が参照により本明細書に援用される。ステープル配列設計は、例えば、http://www.cadnano.orgで入手可能なCaDNAnoソフトウェアを使用して容易にすることができる。
【0080】
本発明の文脈では、ステープル鎖の配列は、ポリヌクレオチド、好適にはDNAのナノ構造が、膜貫通ナノ構造体に対応する立体配置または構成をとるように選択される。いくつかの実施形態では、DNAナノ構造のステープル鎖は、DNAナノ構造が実質的にチャネル形状またはチューブ形状であるように選択される。かかる実施形態では、DNAナノ構造の内面は、チューブの内側の表面、すなわち膜貫通チャネルの内部の表面である一方で、DNAナノ構造の外面は、チューブの外側である。
【0081】
いくつかの実施形態では、DNAナノ構造の足場鎖は、膜貫通ナノ構造が、第1のDNA二重鎖ドメイン、および第2またはさらなるDNA二重鎖ドメインを有するように選択され、第1のドメインの第1の末端が、1つ以上の一本鎖DNAヒンジ、またはクロスオーバー配列もしくは単に「クロスオーバー」によって、第2またはさらなるドメインの第1の末端に付着される。(Burns J.R.,et al.Angew.Chem.Int.Ed.52,12069-12072(2013)、Burns J.R.,Al-Juffali N.,Janes S.M.,Howorka S.Angew.Chem.Int.Ed.53,12466-12470(2014)、およびYang Y.,Zhao Z.,Zhang F.,Nangreave J.,Liu Y.,Yan H.Nano Lett.13,1862-1866(2013)).クロスオーバーは、2本の二重鎖の末端などの2本のDNA二重鎖を接続する単純な単一鎖DNAループであり得る。クロスオーバーはまた、2つのDNA二重鎖が同じ部位で2つの鎖によって相互連結されている構造体も含む。このタイプのクロスオーバーは、ホリデイジャンクションと呼ばれる。ホリデイジャンクションは、一緒に接合した4本の二本鎖アームを含有する分岐核酸構造である。ホリデイジャンクションは十字の形態でもよいが、DNAナノ構造体の場合、十字形の4本のアームはより平行であり、それによって片側の各2本の腕は二重鎖を形成する。DNAナノテク構造体におけるクロスオーバーについての参考文献は、Seeman,N.C.,Annu.Rev.Biochem.79,65-87(2010)である。
【0082】
本発明のナノ細孔は、ほぼ疎水性の膜(脂質二重層、ポリマーまたは固相)に親水性のDNAナノ細孔を付着または接続または固定するアンカーとして機能する1つ以上の疎水性部分を含み得る。疎水性アンカーは、細孔に付着している。好適な付着は、ポリヌクレオチド、好適には5’または3’末端に、疎水性部分、好適にはコレステロールなどの脂質を担持するDNAポリヌクレオチド鎖を介する。これらの疎水性修飾アンカー鎖は、「アダプタ」ポリヌクレオチド鎖を介して、細孔の足場セクションを形成するポリヌクレオチド配列の対応する部分にハイブリダイズする。あるいは、疎水性アンカーは、疎水性修飾ポリヌクレオチドを使用して細孔と組み立てられる。単一の細孔上の疎水性修飾アンカーの数は限定されず、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1の数であり得る。コレステロールは、本発明におけるアンカーとしての使用に特に好適な疎水性部分であることが見出された。アンカーとして他の脂質を使用することが考慮されるが、所与の膜については、特定の疎水性部分、および所与の数の疎水性アンカーが特に好ましいことが予期され得る。
【0083】
本発明のナノ細孔が挿入され得る膜は、任意の好適なタイプのものであり得る。意図する使用法に応じて、膜は、脂質二重層、またはポリマーシートもしくはフィルム、または固相基質であり得る。固相膜では、基質は、ナノ細孔がその中に位置する開き口をすでに含み得、それによって開き口の内部寸法およびチャネル幅を適合させる。膜は、疎水性アンカーによる固定を促進するために、典型的には疎水性である。
【0084】
脂質二重層は、生物学的生物中に偏在している。本発明に従ったナノ細孔は、標的細胞または小胞の脂質膜に挿入されて、膜を横切る特定の折り畳みタンパク質の移行を容易にし得ると考えられる。ある特定の折り畳みタンパク質への移行の特異性は、ナノ細孔内のチャネルのサイズの変動を通じて制御され得る。
【0085】
専売品および非専売品の合成ポリマーフィルムまたはシートは、Oxford Nanopore Technologies(登録商標)によって販売されているMinION(登録商標)システム、Roche(登録商標)によって販売されているGS FLX+(登録商標)、およびGS Junior(登録商標)システム、Illumina(登録商標)によって販売されているHiSeq(登録商標)、Genome Analyzer IIx(登録商標)、MiSeq(登録商標)、およびHiScanSQ(登録商標)システム、Life Technologiesによって販売されているIon PGM(登録商標)システム、およびIon Proton System(登録商標)、Beckman Coulter(登録商標)によって販売されているCEQ(登録商標)システム、ならびにPacific Biosciences(登録商標)によって販売されているPacBio RS(登録商標)、およびSMRT(登録商標)システムなどの「チップベース」のナノ細孔配列決定および分析用途において広く使用されている。このタイプのポリマー膜に挿入するナノ細孔の能力は、これらのシステムが折り畳みタンパク質センシング用途に適合することを可能にするであろう。
【0086】
ポリマー膜は、任意の好適な材料で形成され得る。典型的には、合成膜は、両親媒性合成ブロックコポリマーで構成されている。親水性ブロックコポリマーの例は、ポリ(エチレングリコール)(PEG/PEO)、またはポリ(2-メチルオキサゾリン)である一方で、疎水性ブロックの例は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリ(カプロラクトン)(PCL)、ポリ(ラクチド)(PLA)、またはポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)である。実施形態では、使用されるポリマー膜は、両親媒性ブロックコポリマーポリ2-(メタクリロイルオキシ)エチルホスホリルコリン-b-ジイソプロピルアミノ)エチルメタクリレート(PMPC-b-PDPA)から形成され得る。DNAナノ細孔は、培養を通じてかかるポリマーソームの壁に挿入され得る。理論に縛られることを望むものではないが、挿入プロセスは、完全な挿入を達成するために、膜を係留する第1のステップ、続いてDNA細孔の垂直方向への再配向による第2のステップを含むと思われる。しかしながら、これはコレステロールアンカーが細孔内に含まれることを必要とし、それなしでは挿入は起こらない。例示的な一実施形態は、以下の実施例2に記載されている。
【0087】
ナノ細孔が様々な厚さの膜に挿入され得るように本発明のナノ細孔を適合させる能力は、重要な利点である。
【0088】
本明細書に開示の分子センサおよびデバイスは、検体の検出または特徴付けに使用され得る。本明細書に開示のナノ細孔のチャネル寸法は、非折り畳みタンパク質または球状タンパク質などのより大きな検体の検出に特に好適であるが、ナノ細孔はまた、他の検体の検出にも好適である。ナノ細孔は、チャネルの幅を低減するように修飾されて、ナノ細孔をより小さな幅を有する検体の検出に好適にすることができる。しかしながら、修飾されたチャネルを有さないナノ細孔もまた、より小さな幅を有する検体を検出するために使用され得る。逆に、修飾されたナノ細孔を使用して、チャネルまたは狭窄部の幅よりも大きい幅を有する検体を決定してもよい。
【0089】
検体は、チャネルの完全なまたは部分的な移行を引き起こされ得る。検体は、例えばチャネル内またはチャネル入口に、例えば狭窄部に保持または滞留され得る。シグナルの測定、例えば移行中のイオン流の変化を使用して、検体を検出または特徴付けてもよい。あるいは、検体を検出または特徴付けるために、検体は、ナノ細孔チャネルの入り口を横切って通過し得る。
【0090】
検出または特徴付けされ得る検体の例は、折り畳みまたは非折り畳みタンパク質、ヌクレオソームなどのDNAタンパク質構築物、およびデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)などのポリヌクレオチド、多糖類、および合成ポリマーである。標的ポリヌクレオチドは、DNAの1本の鎖にハイブリダイズされたRNAの1本の鎖を含むことができる。ポリヌクレオチドは、当該技術分野で既知の任意の合成核酸、例えば、ペプチド核酸(PNA)、グリセロール核酸(GNA)、トレオース核酸(TNA)、ロックド核酸(LNA)、またはヌクレオチド側鎖を有する他の合成ポリマーであり得る。ポリヌクレオチドは、単一鎖もしくは二本鎖であり得るか、または三次もしくは四次構造を有し得る。タンパク質または核酸は、検出可能な標識で標識され得る。標識は、発蛍光団など、光学的に検出可能であり得る。検体は、酵素であり得、センサは、酵素の立体配座の変化を判定するために使用され得る。
【0091】
検体の有無を検出することができる。あるいは、検体は、例えば核酸の場合特徴付けされ得、ヌクレオチドの配列は、経時的に測定されたシグナルにおける特徴的な混乱から判定され得る。タンパク質の場合、タンパク質構造の面が判定され得る。タンパク質は、ナノ細孔を使用して検出前に展開され得る。かかる例は、PCT/US2013/026414号に開示されている。
【0092】
本発明を、以下の非限定的な実施例によってさらに説明する。
【実施例】
【0093】
材料および方法
天然、およびトリ(エチレングリコール)(TEG)リンカーを含むコレステロール標識DNAポリヌクレオチドを、Integrated DNA Technologies(Leuven、ベルギー)またはATDbio(Southampton、英国)から購入し、それぞれ1μmolスケールで脱塩またはHPLC精製を用いた。1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、および1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPhPC)を、Avanti Polar Lipids(Alabaster、アラバマ州)から入手した。M13mp18 DNAは、New England Biolabs(Ipswich、英国)からのものであった。PEG350-FAMは、CHEM Quest(英国)を入手形成した。他に記述されない限り、他の全ての試薬および溶媒は、Sigma-Aldrichから購入した。
【0094】
ナノ細孔設計
DNA折り紙ナノ細孔は、CaDNAnoソフトウェアの正方格子バージョンを使用して設計した(Douglas S.M.,Marblestone A.H.,Teerapittayanon S.,Vazquez A.,Church G.M.,Shih W.M.Nucleic Acids Res.37,5001-5006(2009))。構造設計の剛性を評価するために、CaDNAnoおよびCanDo(Castro C.E.,et al.Nat.Methods8,221-229(2011))を用いて鎖経路モデリングを数サイクル行った。7249nt長の単一鎖M13mp18 DNAを足場鎖として選択した。それぞれ
図6および2に示されるように、足場を中間の灰色で、ステープル鎖を濃い灰色で強調して、DNAナノ細孔および2D DNAマップを表現する。設計では、脂質アンカーは、5’または3’末端にコレステロールを担持するDNAポリヌクレオチドを介して細孔に付着している。これらのコレステロール修飾アンカー鎖は、アダプタポリヌクレオチドを介して細孔にハイブリダイズし、アダプタが仲介する結合によって、高価なコレステロール修飾ポリヌクレオチドの数を2つまでに制限することが可能である。ステープル鎖、アダプタ鎖、およびコレステロール修飾アンカー鎖のDNA配列を、表1に提供する。
【0095】
アセンブリ
DNAナノ細孔は、14mMのMgCl2を追加した1×TAE緩衝液、ならびにそれぞれ最終濃度4.2nMおよび100nMのM13mp18足場およびステープルの混合物を含有するワンポット反応において、NP-Cをまずアニーリングすることによって形成した。アセンブリは、5分当たり1℃の冷却速度で80℃~60℃の第1のアニーリング段階と、300分当たり1℃の冷却速度で60℃~20℃の第2の段階とを含む7日間のプロトコルを使用して行った。コレステロール脂質アンカーを含むナノ細孔NPを形成するために、サイズ排除クロマトグラフィー(下記参照)を用いて精製を受けたNP-Cを、コレステロール修飾アンカーポリヌクレオチド(細孔の結合部位あたり1.1当量の鎖、最大24部位)と混合し、30℃で12時間培養した。
【0096】
小胞を用いないおよび用いたDNAナノ細孔のアガロースゲル電気泳動
アセンブリ生成物を、任意選択的に0.015%SDSを追加した標準的な1×TAE緩衝液中で、1.5%アガロースゲル電気泳動を使用して分析した。DNA細孔試料(10μL)を、6×ゲル充填緩衝液(2μL)と混合し、次いでウェルに充填した。ゲルを、8°Cで1時間の間、70Vで泳動させた。1000塩基対マーカー(New England Biolabs)を参照標準として使用した。臭化エチジウム溶液を用いた染色および紫外線照射によって、DNAバンドを可視化した。染色の前に、SDS含有ゲルを脱イオン水で20分間洗浄した。
【0097】
NPの膜との相互作用を分析するために、小さい単層小胞(SUV)を形成した。DOPE(0.3mmol、22.3μL)およびDOPC(0.7mmol、110μL)のクロロホルム溶液を混合し、オーブンで乾燥させた丸底フラスコ(10mL)に添加し、続いてロータリーエバポレーターを20分間使用して真空下で溶媒を除去した。小胞を形成するために、0.3MのKCl、15mMのトリス、pH8.0(1mL)の溶液を添加し、懸濁液を室温で20分間超音波処理した。SUV調製物を4℃で保存し、1週間以内に使用した。実験前に、SUV溶液を2秒間ボルテックスした。SUVを用いたナノ細孔のアガロースゲル電気泳動分析のために、SDSを省略しゲルを40Vで泳動したことを除いて、上述の同じゲル条件を使用した。細孔(15μL、1μM、0.3M KCl、15mM Tris、pH8.0)をSUV(15μL、1mM、0.3M KCl、15mM Tris、pH8.0)と共に37℃で30分間培養した。混合物に、青色ローディングダイ(6×、SDSなし、10μL)を添加し、ゲル(30μL)に充填した。
【0098】
精製
組み立てられたナノ細孔を、Superdex 200 10/300GLカラム(GE Healthcare)を装備したAKTA精製器100/10を使用して、8℃で毎分0.5mLの流速を使用して、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を介して過剰なステープルから精製した。溶出液を260、280および295nmでのUV-vis吸光を介して監視し、折り畳みDNA細孔を含有する画分をプールした。
【0099】
原子間力顕微鏡法
DNA折り紙細孔NP-Cを、タイプEスキャナー(Veeco Instruments、Santa Barbara、米国)およびシリコン先端の窒化物カンチレバー(Bruker、Camarillo、米国)を備えたMultimode VIII AFMを使用して、液体中のタッピングモードを使用して画像化した。新たに切断されたマイカをSECで精製したDNA細孔溶液(100μL)と共に15分間培養した。余分な液体を吸い取り、14mMのMgCl2および4mMのNiCl2を追加した1×TAE緩衝液(100μL)と交換した。
【0100】
ナノ細孔電流記録法
平面脂質二重層の電気生理学的電流測定のために、多電極キャビティアレイ(MECA)チップ(IONERA、Freiburg、ドイツ)を備えた、集積チップに基づいた平行二重層記録設定(parallel bilayer recording setup)(Orbit 16、Nanion Technologies、Munich、ドイツ)を使用した(Burns J.R.,Seifert A.,Fertig N.,Howorka S.A.Nat.Nanotechnol.11,152-156(2016)、Del Rio Martinez J.M.,Zaitseva E.,Petersen S.,Baaken G.,Behrends J.C.Small 11,119-125(2015))。二重層は、オクタン(10mg mL-1)中に溶解したDPhPCを、磁気撹拌棒を介して広げることによって形成した。電解液は、1MのKClおよび10mMのHEPES、pH8.0であった。細孔挿入のために、コレステロール固定DNAナノ細孔と0.5%のOPOE(1MのKCl、10mMのHEPES中のn-オクチルオリゴオキシエチレン、pH8.0)との2:1混合物を二重層のシス側に添加した。細孔の挿入を容易にするために、+30mVの正電圧を印加した。現在のステップを検出することによって、正常な組み込みを観察した。電流トレースを、2.873kHzでベッセルフィルタし、PATCHMASTERソフトウェア(HEKA Elektronik)を備えたEPC-10パッチクランプ増幅器(HEKA Elektronik、Lambrecht/Pfalz、ドイツ)を用いて10kHzで取得した。Clampfit(Molecular Devices、Sunnyvale、CA、米国)を使用して単一チャネル分析を実施した。
【0101】
発蛍光団で満たした小胞を用いる放出アッセイ
オーブンで乾燥させた丸底フラスコ(10mL)にDOPE(0.3mmol、50μL)およびDOPC(0.7mmol、550μL)の溶液を添加し、20分間ロータリーエバポレーターを使用して溶媒を真空下で除去し、超高真空下で3時間の間薄膜を乾燥させることによって、巨大単層小胞(GUV)を形成した。PEG350-FAM(10μM)を含有するソルビトール(1M、1mL)の溶液をフラスコに添加し、溶液を30秒間超音波処理して発蛍光団で満たした小胞を形成した。20分の培養後、GUV懸濁液の一部分(1μL)を8ウェルガラスチャンバ(LabTek)内のPBS(200μL)に添加した。小胞を5分間沈降させた後、NP/OPOE(12.5μlの0.5%OPOE、37.5μlのPBS、100μLのSEC精製NP、35℃で30分間培養)の混合物、またはOPOE/アンカー-コレステロール鎖(12.5μLの0.5%OPOE、37.5μLのPBS、100μLのSEC精製アンカー-コレステロール鎖、35℃で30分間培養)の混合物を添加した。515nmでの励起および適切な発光フィルタを使用して、GUVの蛍光画像を収集した。
【0102】
実施例1:本発明に従った広いチャネルのDNAナノ細孔のアセンブリおよび特徴付け
本発明に従った膜貫通DNAナノ細孔10の一実施形態を、
図1に示す。この実施形態では、DNA二重鎖を、およそ7.5nm×7.5nmの内部寸法を有する広いチャネルの内腔を作製するために、正方形に配置し、相互連結する。上の「ナノ細孔電流記録法」の段落で概説したように、広い細孔が、正常に脂質二重層に挿入され、従来技術のより小さい直径のDNAナノ細孔よりも高い電圧でかなり少ない閉鎖を示している(例えば、ダグラスS.M.,Marblestone A.H.,Teerapittayanon S.,Vazquez A.,Church G.M.,Shih W.M.Nucleic Acids Res.37,5001-5006(2009)、Zheng J.,et al.Nature461,74-77(2009)、Rothemund P.W.Nature440,297-302(2006)、Fu J.,et al.Nat.Nanotechnol.9,531-536(2014)、Burns J.R.,et al.Angew.Chem.Int.Ed.52,12069-12072(2013)、およびSeifert A.,Gopfrich K.,Burns J.R.,Fertig N.,Keyser U.F.,Howorka S.ACS Nano9,1117-1126(2015)参照)。
【0103】
ナノ細孔10は、CaDNAnoソフトウェア(Burns J.R.,et al.Angew.Chem.Int.Ed.52,12069-12072(2013))を用いて設計し、組み立てたときに正方形に配置されたDNA二重鎖12、14を含む。DNA二重鎖12、14は、クロスオーバー16によって相互連結されている。この実施形態では、細孔10は、46nmの全高および特徴を有し、膜表面と平行な断面プロファイルで正方形の設計を有する。細孔10の外側の長さは、22.5nmである。
【0104】
この実施形態では、キャップ領域18は、高さが35nmであり、直立した細孔壁22によって囲まれたほぼ正方形のチャネルまたは内腔19を備える。細孔壁22は、構造安定性を高めるために複数の二重鎖層で構成されている(
図1)。この実施形態では、細孔壁22は、3つの二重鎖層で構成されているが、細孔の要件に応じて細孔壁22は、1つ、2つ、3つ、4つ、または5つ以上の二重鎖層の厚さであってもよい。
【0105】
膜貫通領域20では、細孔壁22は、キャップ領域18におけるよりも少ない二重鎖層を備えて、全体的な孔径を減少させることができるため、膜挿入のエネルギーコストを下げる。
図1に示される実施形態では、膜貫通領域の細孔壁は、2つの二重鎖層の厚さである。
【0106】
膜貫通領域20は、脂質アンカー24を担持する。脂質アンカー24は、コレステロールで構成されている。
【0107】
断面図(
図1C)に示されるように、細孔内腔19は、7.5nm×7.5nmであり、その上部は、分子の侵入を容易にするのを助けるためのより広い開口部を特徴とする。膜に挿入されると(
図1A)、細孔10は、タンパク質カーゴ26を膜のシス側からトランス側へ輸送することを可能にすると予想される。
【0108】
細孔は、DNA折り紙の「足場-および-ステープル」手法を介して正常に組み立てられた(Rothemund,P.W.,Nature440,297-302(2006)。DNAナノ構造体へのこの重要な段取りでは、ステープルポリヌクレオチドは、長い単一鎖DNA足場を折り畳む順路を指示する
。それぞれ、例示的な成分鎖の2D-DNAマップを
図2に示し、DNA配列を表1に提供する。
【0109】
DNA足場の配列は、M13mp18 DNA(配列番号1)からのものである。
【0110】
表1.DNAステープル、アダプタ、およびコレステロール修飾アンカーポリヌクレオチドの配列。全てのDNA配列は、5’末端から3’末端である。ステープルおよびアダプタポリヌクレオチドの名称は、螺旋および、鎖の3’末端がナノ構造の番号を付けられたDNA螺旋内に位置する塩基対の座標として記載されている、細孔の2D DNAマップ(
図2)内のそれらの位置を示している。2つのコレステロール修飾アンカー鎖の名称は、コレステロール-TEG修飾が5’末端または3’末端のどちらに付着しているのかを示している。アダプタ鎖は、DNAステープル鎖またはコレステロール修飾アンカーポリヌクレオチド(太字で強調表示されている)のいずれかにハイブリダイズする2つの配列部分を有する。5’末端に後者の配列部分を担持するアダプタは、3’-コレステロールアンカーポリヌクレオチドにハイブリダイズする。逆に、3’末端に配列部分を有するアダプタは、5’-コレステロールアンカーポリヌクレオチドにハイブリダイズする。アダプタ鎖21[64]は、5’末端および3’末端の両方のハイブリダイゼーションセグメントを特徴とする。
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
ナノ細孔の脂質アンカーを含まない多様体(NP-
C)をまず組み立て、次いでコレステロールアンカーを担持する貫膜領域ポリヌクレオチド内の粘着性の末端にハイブリダイズすることによって、脂質修飾細孔(NP)に変換してもよい。NP
-Cのアセンブリは、最適化されたアニーリングプロトコールに従った(下の「アセンブリ」の段落参照)。ゲル電気泳動によって製造結果を分析して、コレステロールを含まないNP-
Cについて示されるような単一の定義されたバンド(
図3A、パネル-SDS)を得、折り畳まれた生成物の均質な集団を示している。細孔バンドは、足場鎖(ss)とは異なる高さで移動し(
図3A)、完全なアセンブリを示唆していた。コレステロールアンカーを有する細孔NPはまた、洗剤SDSで分析した場合の定義されたバンド(
図3A、パネル+SDS)をもたらして、ゲルマトリックスとの疎水性相互作用によって引き起こされると思われる既知のストリーキングを抑制する(
図3A、パネル-SDS)(Langecker M、et al.Science338,932-936(2012)、Burns J.R.,Al-Juffali N.,Janes S.M.,Howorka S.Angew.Chem.Int.Ed.53,12466-12470(2014))。
【0123】
4.87MDのモル質量を有するDNA細孔は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を介して過剰なステープルポリヌクレオチドから精製し(
図4)、生物物理学的特徴付けのために使用した。
【0124】
原子間力顕微鏡(AFM)を適用して、合成DNAナノ細孔の寸法を決定した。試料を、Mg
2+およびNi
2+と共に培養して、負に偏光し原子的に平坦なマイカ基質上に負に帯電したナノ構造体を吸着させた。細孔NP-
CのAFM顕微鏡写真は、複数の細孔で構成されている鎖状構造体を特徴としていた(
図3B、上のパネル、
図5)。対イオンまたは平滑末端スタッキングによって一緒に保持されている他の表面吸着DNAナノ構造体についての関連する高次アセンブリが、観察されている(Burns JR.,Seifert A.,Fertig N.,Howorka S.Nat.Nanotechnol.11,152-156(2016)、Aghebat Rafat A.,Pirzer T.,Scheible M.B.,Kostina A.,Simmel F.C.Angew.Chem.Int.Ed.53,7665-7668(2014))。SEC(
図4)およびゲル電気泳動(
図3A)が溶液中の細孔のモノマー性を確認したので、基質効果のために多成分鎖のみが形成されたことは確かである。AFM分析によって示されるように、高アスペクト比のDNAナノ細孔は、マイカ上に横方向に配向して吸着して、負の基質表面とのカチオンが仲介する相互作用を最大化した。確かに、別々のDNA細孔のAFMプロファイル(
図3B、中央および下のパネル)は、AFMカンチレバーチップによって圧縮された横方向の細孔と一致する10.2±1.1nm(n=19)の平均高さを得た(Burns J.R.,Seifert A.,Fertig N.,Howorka S.A Nat.Nanotechnol.11,152-156(2016))。10.2nmの値は、6つの二重鎖の厚さである他のDNA構造体でも得られた範囲内である(Schmied J.J.,et al.Nat.Protoc.9,1367-1391(2014))。細孔内腔の側面に隣接するDNA二重鎖が絞り出されるので、その正方形の外観は、細孔の圧縮に起因するものである(
図3B)。正方形の一辺の長さは、36.0±10.5nm(FWHM、n=19、
図3B、下のパネル)であり、これは細孔のキャップ領域の広げられた公称幅22.5nmと高さ35nmの両方を含む。コレステロール含有鎖を含まないNP-
Cの貫膜領域の大部分は、2本のみの二重鎖の厚さであるため(
図6CおよびD)、AFMではあまり明瞭に撮像されない。
【0125】
コレステロールタグ付きNPの脂質二重層への固定は、ゲルシフトアッセイを使用して確立した。固定に則して、NPのバンドをアップシフトし、充填スロットに留まるようにゲルを入れることができなかった小さい単層小胞(SUV)と共に移動させた(
図8C)。増加量のSUVは、シフトアップしたDNAバンド(
図8C)への完全な変換をもたらし、全ての細孔が二重層と相互作用したことを示した。対照的に、アンカーを含まないNP
-Cは、いかなるゲルシフトも生じず(
図8C)、膜挿入のためのコレステロールの必要性と一致する。半数のコレステロールアンカーを含む細孔は、不完全なゲルシフトをもたらした(
図7)。
【0126】
ナノ細孔NPの膜貫通性は、単一チャネル電流記録法で確認した。個々の細孔を、平面脂質二重層に挿入し(Del Rio Martinez J.M.,Zaitseva E.,Petersen S.,Baaken G.,Behrends J.C.Small 11,119-125(2015)、Goyal P.,et al.Nature 516,250-253(2014))、膜を横切って電位を印加して、電解質イオンの流れを生じた(Burns J.R.,Seifert A.,Fertig N.,Howorka S.Nat.Nanotechnol.11,152-156(2016))。標準的な電解質条件下で、細孔のシス側に対して+20mVの電位で49.5pAの定電流を観察した(
図3A)。32個の細孔の対応するコンダクタンス分布は、最大2.29±0.26nSを有した(
図3B)。広い細孔内腔と一致して、コンダクタンスは、2nmの直径の参照DNA細孔よりも2.6倍高い(Langecker M.,et al.Synthetic lipid membrane channels formed by designed DNA nanostructures.Science 338,932-936(2012))。NPの幾何学形状に基づいて理論上のコンダクタンスを計算すると、6.7nSの値が得られた。しかし、ナノスケールに限られた細孔内のイオン輸送は、モデル-バルク溶液中のように電解質イオンの一定の移動性-の基本的な前提が、負に帯電した壁には有効ではないため、この値は高すぎる(Ho C.,Qiao R.,Heng J.B.,Chatterjee A.,Timp R.J.Electrolytic transport through a synthetic nanometer-diameter pore.Proc.Natl.Acad.Sci.USA102,10455-10450(2005))。より低い実験的コンダクタンスを考慮すると、3本の二重鎖の厚さの細孔壁を横切るイオン漏出が主要な役割を果たすとは考えにくい。漏出は、NPの場合のような平行よりもむしろ、単一の二重鎖細孔壁(Maingi V.,Lelimousin M.,Howorka S.,Sansom M.S.ACS Nano 9,11209-11217(2015))、および電界に対して垂直に配向された層状の二重鎖構造を横切るイオン輸送(Yoo J.,Aksimentiev A.Proc.Natl.Acad.Sci.USA110,20099-20104(2013)、Plesa C.,et al.ACS Nano8,35-43(2014))に対するシミュレーションで以前見出されている。電圧勾配は、対称的な細孔に対して予想されるように、NPがオーム挙動のものであることを確立した(
図3C)。30~40mVを超えると、細孔は、より低いコンダクタンス状態に切り替わる可能性があった。30%でのコンダクタンス降下の大きさ(
図3D)は、以前のDNAナノ細孔についての80%の値よりもかなり小さい(Seifert A.、Gopfrich K.、Burns J.R.,Fertig N.,Keyser U.F.,Howorka S.ACS Nano 9,1117-1126(2015)、Burns J.R.,Seifert A.,Fertig N.,Howorka S.A biomimetic Nat.Nanotechnol.11,152-156(2016))。さらに、コンダクタンス状態が切り替わる確率は、新しい細孔でははるかに低い。より高いコンダクタンス状態の確率として定量化された、新しい大きな細孔は、20mVで100%および100mVで75%が開放した(
図3E、2本の左のバー、「天然」)ことに比較して、小さいDNAナノ細孔は、それぞれ80%および20%であった。しかしながら、大きなDNA細孔の天然の状態および開放状態は、電圧の切り替えを繰り返すことによって摂動して、メモリ効果が達成され、その結果、より低い開放確率を生じた可能性があった(
図3E、2本の右のバー、「摂動」)。
【0127】
脂質小胞からの蛍光プローブの放出によって示されるように、細孔NPは、膜を横切って分子カーゴを流すことができた。巨大単層小胞(GUV)を、蛍光染料フルオレセインアミダイト(FAM)と結合したポリ(エチレングリコール)PEG
350で満たした。蛍光タグ付きタンパク質とは異なり、2.4nmの直径のFAM-PEG
350(Merzlyak PG、Yuldasheva L.N.,Rodrigues C.G.,Carneiro C.M.M.,Krasilnikov O.V.,Bezrukov S.M.Biophys.J.77,3023-3033(1999)、Krasilnikov O.V.,Rodrigues C.G.,Bezrukov S.M.Phys.Rev.Lett.97,018301(018301-018304)(2006))は、GUVに高密度で充填され得、蛍光顕微鏡画像において強い視覚的シグナルを生じさせ(
図10、左パネル)、GUVのサイズ分布は、標準的な状態の範囲内であった(Moscho A.,Orwar O.,Chiu D.T.,Modi B.P.,Zare R.N.Proc.Natl.Acad.Sci.USA93,11443-11447(1996))。コレステロールタグ付きNPの添加は、SUV形状に影響を与えないままで(
図10、右)、蛍光の際立った減少をもたらし、破裂することなく細孔が膜に穴をあけたことを強く示唆している。この解釈を立証するにあたり、コレステロール修飾DNAポリヌクレオチドを特徴とするネガティブコントロールは、小胞の蛍光を変化させず(
図104A、左)、細孔活性のない膜固定は膜穿刺をもたらさないことを示している。
【0128】
DNAチャネルの内腔に沿ったタンパク質の輸送(
図11)を、単一チャネル電流記録法で調べた。試験タンパク質として、4.3×3.8×2.3nm(pI10.1)の分子サイズを有するトリプシンを選択した。シス側にそれを添加する際に、より短いタイプIの事象およびより長いタイプIIの事象(
図5B)の2つのタイプの、持続時間τ
offでの異なる電流の遮断が発生した。遮断はまた、異なるレベルの振幅Aを有した(
図11B)。そのτ
offおよびAを散布図に別々の点として、各事象をプロットすると、2つの遮断タイプは、2つの異なる領域に密集した(
図11C)。単一指数関数的減衰分布への適合度から得た17.5±5.5ms(N=3)の平均で、タイプIは、1ms未満のτ
offを有した一方で、タイプIIは、2~200msのτ
off値を特徴とした。他の際立った特徴として、開放チャネル電流I
0に対して正規化すると、タイプIIのみが26.2±0.7%(N=3)の定義された振幅Aを有した(
図11C)一方で、タイプIのAは、5~35%の範囲であった。
【0129】
無機細孔を通る関係する電流の特色に則して(Wei R.S.,Gatterdam V.,Wieneke R.,Tampe R.,Rant U.Nat.Nanotechnol.7,257-263(2012)、Yusko E.C.,et al.Nat.Nanotechnol.6,253-260(2011)、Oukhaled A.,et al.ACS Nano5,3628-3638(2011))、タイプIの事象は、細孔とタンパク質の短い一時的な接触と解釈される(
図11A、明るい緑色)一方で、タイプIIは、DNAチャネルを通じたトリプシンの動きを表しているように見える(
図11B、濃い緑色)。この解釈は、(i)タイプIIの事象のより長い持続時間と、細孔を通る予想された長い輸送プロセスとの間の一致によって立証される。さらなる立証としては、(ii)タイプIIの事象の実験的振幅と、30%の計算上の遮断レベルとの間の一致である。後者の値は、トリプシンと細孔内腔との断面積比から誘導した。最後に、電流遮断の狭い分布は、概ね一定幅のチャネルを通って移動するタンパク質によって引き起こされる電流遮断の均質性に則している。
【0130】
本発明に従ったナノ細孔の透過電子顕微鏡(TEM)画像を
図12~
図14に示す。
図12は、本発明のDNAナノ細孔のTEM画像を示している。
図13および14は、SUVに付着した代表的なDNAナノ細孔構造体のTEM画像を示す。細孔構造の一貫性は、画像に明瞭に示されている。
【0131】
実施例2:DNAナノ細孔の調製および合成ポリマー膜への挿入
PMPC-b-PDPA膜ポリマーソームの合成
2-(メタクリロイルオキシ)エチルホスホリルコリンモノマー(MPC、純度99.9%)(例えば、Biocompactibles UK)、2-(ジイソプロピルアミノ)エチルメタクリレート(DPA)、および残りの化学物質は、Sigma Aldrichから購入した。ブロックコポリマーPMPC-PDPAは、公開されているプロトコルに従って原子移動ラジカル重合(ATRP)によって合成した。[L.Ruiz-Perez,J.Madsen,E.Themistou,J.Gaitzsch,L.Messager,S.P.Armes,G.Battaglia,Polym.Chem.2015,6,2065-2068]要するに、EtOH(5mL)中のモルホリノエチルブロモイソ酪酸エステル(ME-Br、前述の合成)中の溶液[H.Lomas,I.Canton,S.MacNeil,J.Du,S.P.Armes,A.J.Ryan,A.L.Lewis,G.Battaglia,Adv.Mater.2007,19,4238-4243.](0.190g、0.68mmol、1当量)を、丸底フラスコに入れた後、MPC(5.000g、1.70mmol、25当量)を添加した。混合物を撹拌し、さらに30分間窒素でパージし、30℃に加熱した。次いで、2,2’-ビピリジン(bpy)(0.223g、1.42mmol、2当量)および臭化銅(I)(Cu(I)Br)(0.097g、0.68mmol、1当量)の混合物を、一定の窒素流下で添加した。混合物を60分間撹拌して、高粘性の褐色の物質を得、NMRでサンプリングして変換率の程度を推定した。その間に、EtOH(13mL)中のDPA(12.27g、57.6mmol、85当量)の溶液を調製し、別のフラスコ中で60分間窒素でパージした。DPA溶液を重合混合物に添加し、反応溶液をさらに10分間パージし、30℃で一晩放置した。18時間後、
1H NMR分析により、変換率が>99%であることを確認した。反応混合物をEtOH(30mL)中に希釈すると、溶液は徐々に緑色に変わり、銅系触媒の酸化を示した。混合物をシリカに通過させ、溶媒を部分的に蒸発させて不透明な溶液を得、次いでこれを各透析サイクルにつき8~14時間の間CH
2Cl
2、MeOH、および水(各2回)に対して透析した(MWCO1000Da)。ポリマーを凍結乾燥させ、真空下で2時間の間120℃で乾燥させて13.3g(77%)の収量を生じた。CDCl
3/MeOD(3:1)の混合物の
1H NMR分析は、ポリマーの組成がPMPC
25-PDPA
72であると決定した。サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)は、多分散性指数(PDI)が1.22の値を有することを立証した。全てのポリマーソーム分散液は、薄膜水和法によって調製した(J.Gaitzsch,D.Appelhans,L.Wang,G.Battaglia,B.Voit,Angew.Chem.Int.Ed.2012,51,4448-4451)。典型的には、ブロックコポリマーPMPC
25-PDPA
72を、CHCl
3とMeOHとの混合物(2:1、5mL)に溶解し、次いで30℃の真空下で一晩乾燥させた。得られた乾燥ポリマーフィルムを、PBS(5mL)中で水和し、激しく撹拌した。撹拌下で7週間後、ポリマー小胞懸濁液を遠心分離サイクルを通じて精製した。要するに、アリコート(500μL)を1000RCFで10分間遠心分離した。上清をさらに23,000RCFで20分間遠心分離し、得られたペレットをPBS(450μL)に再懸濁し、20分間超音波処理して、ポリマー小胞の単分散懸濁液を得た。ポリマーソーム懸濁液内のPMPC
25-PDPA
72の濃度を、UV-vis分光法によって測定した。典型的には、ポリマーソーム懸濁液(20μL)をPBS、pH2.0に1:10で希釈し、吸光度をλ=220nmで記録した。PMPC
25-PDPA
72の濃度を、ポリマーの較正曲線を使用して計算した。ポリマーソームのサイズおよびその分布は、段落1.8に記載されているように動的光散乱法によって決定した。懸濁液の単位体積中のポリマーソームの数を計算するために、PMPC
25-PDPA
72の濃度およびポリマーソームのサイズを、いくつかの式に基づくMatlab(登録商標)スクリプトの入力変数として使用した。式(1)に従うと、ポリマーソームの数N
pは、実験的に決定されたポリマー鎖の総数N
cを、ポリマーソーム当たりのポリマー鎖の数N
aggで割ることによって得られる。
【数1】
【0132】
Naggは、式(2)において、ポリマーソーム疎水性膜の体積V
pを、小胞充填パラメータp=1と仮定したポリマーのPDPAブロックVPDPAの分子体積の生成物で割った比として定義される。
【数2】
【0133】
分子体積V
PDPAは、次のように定義される。
【数3】
式中、M
PDPAは、PDPAブロックのモル質量であり、ρ
PDPAは、疎水性鎖のバルク密度であり、これは1.02g/mlであり、N
Aは、アボガドロ数である。
【0134】
PMPC-b-PDPA膜へのDNAナノ細孔の挿入
ナノ細孔の溶液(0.005μM、25μL、10mMのTris、10mMのNiCl2中、pH7.4)を新たに切断したマイカに添加し、5分間室温で培養した。次いで上清を除去し、続いて緩衝溶液(25μL、10mMのTris、pH7.4)を添加して、NiCl2の濃度を~1mMに低減した。
【0135】
ポリマーソームへのトリプシンのカプセル化、サイズ排除クロマトグラフィーによるそれらの精製、およびUV-vis分光法による特徴付け
ブタのトリプシン(1000~2000U/mg)を、公開されている手順(L.Wang,L.Chierico,D.Little,N.Patikarnmonthon,Z.Yang,M.Azzouz,J.Madsen,S.P.Armes,G.Battaglia,Angew.Chem.Int.Ed.2012,51,11122-11125)に従って、電気穿孔法によってポリマーソーム中にカプセル化してもよい。
【0136】
要するに、PMPC25-PDPA72ポリマーソーム(5mg mL-1、200μL)の懸濁液とトリプシンの溶液(25mg mL-1、200μL)とを穏やかに混合し、電気穿孔セルに入れた。続いてこの混合物を、電気穿孔器(Eppendorf2510)に移し、各パルス間に30秒の間隔で、2500Vの電圧で5パルスのAC電界を使用して、電気穿孔した。カプセル化トリプシンを含むポリマーソームを、セファロース4Bを使用してSECによって過剰な遊離トリプシンから精製した。ゲル濾過媒体(EtOH中20%スラリー)を、まずPBSで複数回洗浄し、遠心分離した(5000RCF、5分)。次いで、セファロースをクロマトグラフィーカラムに充填し、PBSで5回洗浄した。試料(400μL)をカラムに適用し、500μLの画分を収集することによって精製物質を溶出した。単離されたトリプシン、およびトリプシンに曝されなかったポリマーソームもまた、精製して対応する参照溶出体積(それぞれ10~15mLおよび5~6mL)を得た。カプセル化トリプシンを含有するSEC精製ポリマーソーム画分中のタンパク質含有量を、UV-vis分光法によって分析して、Carry Eclipse Varian分光光度計を使用して280nmで吸光度の指数を得た。PMPC25-PDPA72ポリマー含有量を決定するために、カプセル化トリプシンを含むポリマーソームと同じ精製手順を施された、タンパク質を含まないポリマーソームを、220nmでのUV-分光法によって分析した。ポリマーソーム溶液(20μL)を、pH2.0のPBSで10倍希釈した。トリプシンの濃度は、PMPC25-PDPA72あり、吸光度の指数、ならびにpH2.0のPBS中のPMPC25-PDPA72ポリマーおよびトリプシンの較正曲線から計算した。
【0137】
カプセル化トリプシンを含むポリマーソームの酵素アッセイ
カプセル化トリプシンを含有するSEC精製ポリマーソームを用いてナノリアクターアッセイを実行した。ポリマーソームの懸濁液(14μMトリプシン、0.62mg mL-1ポリマー、50μL)、ならびにDNAナノ細孔NP-3CまたはNP-0C(1μM、25μL)およびB-NAR-AMCペプチド(1mM、25μL)の溶液をPBS、pH7.4(100μL)に添加した。ネガティブコントロール用に、DNAナノ細孔溶液をPBS、pH7.4(25μL)と置き換えた。ポリマーソームおよびDNAナノ細孔を含まないポジティブコントロール用に、B-NAR-AMCペプチド(1mM、25μL)およびトリプシン溶液(25μM、50μL)を、PBS、pH7.4(125μL)と混合した。ポジティブコントロールにおける即時反応を回避するために、より低濃度のトリプシン(500nM、50μL)を使用して変換率を低下させた。全ての測定値は、Carry Eclipse蛍光分光光度計で記録した。各混合物の蛍光発光は、λexc=380nmで400~600nmの間で監視した。
【0138】
要約すると、本明細書に記載されているのは、合理的に設計され、構造的に定義された前例のない広い膜細孔である。これらの細孔は、既存の生物起源のチャネルおよび合成チャネルと比較して、顕著な利点を提供し、バイオセンシング、合成生物学、およびDNAナノテクノロジーを含む多くの潜在的用途を有し得る。
【0139】
既存のタンパク質細孔とは異なり、本明細書に記載のナノ細孔は、構造的な定義、およそ50nm2の広い断面の内腔、および調整可能なサイズのモジュール式設計の基準を満たす。新しいDNAナノ細孔は、10倍大きい内腔およびより高い構造安定性、すなわち、より範囲が狭く、より少ない頻度のより低いコンダクタンス状態によって、現在のDNA細孔を超えている。より低いコンダクタンスは、DNAナノアーキテクチャにおいて正常である緩いDNA末端によって引き起こされると思われるので、共有結合的に閉鎖した構造を達成するためにDNA末端をライゲーションすることによって、将来、改善された細孔が形成され得る。さらなる利点として、細孔設計は、高度にモジュール式であり、ナノテクノロジーにおいて試験済みの構造原理を利用する。現実的に、この手法を拡張して、より広いまたはより短いDNA細孔でさえも造ることができる。
【0140】
膜を横切ってタンパク質を流すのに十分に広いDNA細孔は、例えばタンパク質検出のためのセンサにおける使用など、多くの用途を切り開く。他の同様にエキサイティングな用途では、細孔は、膜を横切るタンパク質の流れを調節するために閉鎖可能な蓋を有する分子弁を作製するように適合され得る(Burns J.R.,Seifert A.,Fertig N.,Howorka S.A biomimetic Nat.Nanotechnol.11,152-156(2016)、Andersen E.S.,et al.Nature459,73-76(2009))。弁は、薬物送達ナノデバイス(Mura S.,Nicolas J.,Couvreur P.Nat. Mater.12,991-1003(2013))に使用され得、これは、生体適合性ポリマー壁を有する安定な小胞で構成され得る(Messager L.,et al.Angew.Chem.Int.Ed.in press(2016)、Howse J.R.,Jones R.A.,Battaglia G.,Ducker R.E.,Leggett G.J.,Ryan A.J.Nat.Mater.8,507-511(2009))。DNAナノ細孔はまた、膜を横切ってカーゴを選択的に輸送する分子機械の生成を助け得る(Franceschini L.,Soskine M.,Biesemans A.,Maglia G.Nat.Commun.4,2415(2013))。最後に、負に帯電した大きなDNAチャネルを疎水性二重層に固定する方法に関する新しい洞察は、他の膜に係留されたDNAナノ構造体の開発に大いに役立つであろう。確かに、ごく最近、脂質に固定されたDNA材料(Edwardson T.G.,Carneiro K.M.,McLaughlin C.K.,Serpell C.J.,Sleiman H.F.Nat.Chem.5,868-875(2013))は、分子の細胞内部へのアクセスを制御するために、または膜の形態を決定するためなど、膜タンパク質の機能を模倣するように造られている(Kocabey S.,et al.Membrane-assisted growth of DNA origami nanostructure arrays.ACS Nano9,3530-3539(2015)、Czogalla A.,et al.Angew.Chem.Int.Ed.54,6501-6505(2015)、Johnson-Buck A.,Jiang S.,Yan H.,Walter N.G.ACS Nano8,5641-5649(2014)、Yang Y.,et al.Nat.Chemistry8,476-483(2016)、Xu W.,et al.J.Am.Chem.Soc.138,4439-4447(2016)、Perrault S.D.,Shih W.M.ACS Nano8,5132-5140(2014)。これらのバイオミメティック構造体は、基礎研究、バイオテクノロジー、および生物医学において注目されている(Howorka S.Nanotechnology.Changing of the guard.Science352,890-891(2016)、Chen Y.J.,Groves B.,Muscat R.A.,Seelig G.Nat.Nanotechnol.10,748-760(2015))。
【0141】
本明細書では本発明の特定の実施形態を詳細に開示してきたが、これは例としておよび説明の目的にのみ行われたものである。前述の実施形態は、次の添付の特許請求の範囲に対する限定を意図するものではない。核酸出発材料の選択は、現在記載の実施形態の知識を有する当業者にとって日常的な事項であると思われる。本発明者らは、特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、本発明に対して様々な置換、変更、および修正が行われ得ることを予期している。
【0142】
【0143】
【0144】
【0145】
【0146】
【0147】
【0148】
【0149】
【0150】
【0151】
【0152】
【配列表】