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特許7402066粘着シート、繰り返し屈曲積層部材および繰り返し屈曲デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】粘着シート、繰り返し屈曲積層部材および繰り返し屈曲デバイス
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20231213BHJP
   C09J 133/04 20060101ALI20231213BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20231213BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20231213BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20231213BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20231213BHJP
   G09F 9/00 20060101ALN20231213BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J133/04
C09J11/08
C09J11/06
B32B27/00 M
B32B27/30 A
G09F9/00 342
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020010844
(22)【出願日】2020-01-27
(65)【公開番号】P2021116359
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】小鯖 翔
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 洋一
(72)【発明者】
【氏名】七島 祐
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-089975(JP,A)
【文献】特開2019-108498(JP,A)
【文献】特開2019-189819(JP,A)
【文献】特開2019-218513(JP,A)
【文献】特開2019-99714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
B32B 27/00,27/30
G09F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰り返し屈曲されるデバイスを構成する一の屈曲性部材と他の屈曲性部材とを貼合するための粘着剤層を有する粘着シートであって、
前記粘着剤層を厚さ100μmにしたものについて、2枚のテトロンメッシュ#380で挟み、40℃、90%RHの条件でJIS K7129に準拠して測定した水蒸気透過度が、150g/(m・24h)以上であり、
前記粘着剤層を構成する粘着剤の85℃における貯蔵弾性率G’(85)が、0.02MPa以上、0.2MPa以下であり、
ソーダライムガラスに対する粘着力が、3N/25mm以上、60N/25mm以下であり、
前記粘着剤層を構成する粘着剤が、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、ポリロタキサン化合物(B)と、架橋剤(C)とを含有する粘着性組成物を架橋してなる粘着剤であり、
前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)のガラス転移温度が、-40℃以上、10℃以下であり、
前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量が、90万以上、300万以下である
ことを特徴とする粘着シート。
【請求項2】
前記粘着剤層を構成する粘着剤のゲル分率が、10%以上、90%以下であることを特徴とする請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
前記粘着剤層の23℃におけるヘイズ値が、10%以下であることを特徴とする請請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項4】
前記粘着剤層を構成する粘着剤の23℃における貯蔵弾性率G’(23)が、0.02MPa以上、0.3MPa以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項5】
前記粘着シートが、2枚の剥離シートを備えており、
前記粘着剤層が、前記2枚の剥離シートの剥離面と接するように前記剥離シートに挟持されている
ことを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項6】
繰り返し屈曲されるデバイスを構成する一の屈曲性部材および他の屈曲性部材と、
前記一の屈曲性部材と前記他の屈曲性部材とを互いに貼合する粘着剤層と
を備えた繰り返し屈曲積層部材であって、
前記粘着剤層が、請求項1~のいずれか一項に記載の粘着シートの粘着剤層からなる
ことを特徴とする繰り返し屈曲積層部材。
【請求項7】
請求項に記載の繰り返し屈曲積層部材を備えたことを特徴とする繰り返し屈曲デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繰り返し屈曲されるデバイス用の粘着シート、ならびに繰り返し屈曲積層部材および繰り返し屈曲デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、デバイスの一種である、電子機器の表示体(ディスプレイ)として、屈曲可能な屈曲性ディスプレイが提案されている。屈曲性ディスプレイとしては、1回だけ曲面成形するものの他に、繰り返し屈曲させる(折り曲げる)用途の繰り返し屈曲ディスプレイが提案されている。
【0003】
上記のような繰り返し屈曲ディスプレイにおいては、当該屈曲性ディスプレイを構成する一の屈曲可能な部材(屈曲性部材)と、他の屈曲性部材とを粘着シートの粘着剤層によって貼合することが考えられる。しかしながら、繰り返し屈曲ディスプレイに従来の粘着シートを使用すると、繰り返しの屈曲により、屈曲部における粘着剤層と被着体との界面に剥がれが発生するなど、耐久性に問題が生じる。
【0004】
上記従来の粘着シートとしては、例えば、特許文献1に開示された粘着シートが挙げられる。この粘着シートは、芳香族環構造を有するモノマー由来の構造単位を含む(メタ)アクリル系ポリマーと、ポリロタキサンとを含む粘着剤組成物から構成される粘着剤層を有するものであり、光学用途において、応力緩和性および耐久性に優れることを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-155911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示される実施例では、アクリル系ポリマーにて架橋点となる水酸基含有モノマーの配合量が少なく、架橋剤の使用量も少ないものとなっている。そのため、架橋剤がポリロタキサン同士の架橋に消費され、ポリロタキサンとアクリル系ポリマーとの架橋構造形成が不十分になるものと考えられる。したがって、当該粘着剤は、繰り返し屈曲ディスプレイに適用するには応力緩和性が不十分なものである。
【0007】
本発明は、上記のような実状に鑑みてなされたものであり、屈曲に対する耐久性に優れた粘着シート、繰り返し屈曲積層部材および繰り返し屈曲デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、繰り返し屈曲されるデバイスを構成する一の屈曲性部材と他の屈曲性部材とを貼合するための粘着剤層を有する粘着シートであって、前記粘着剤層を厚さ100μmにしたものについて、2枚のテトロンメッシュ#380で挟み、40℃、90%RHの条件でJIS K7129に準拠して測定した水蒸気透過度が、150g/(m・24h)以上であり、前記粘着剤層を構成する粘着剤の85℃における貯蔵弾性率G’(85)が、0.02MPa以上、0.2MPa以下であることを特徴とする粘着シートを提供する(発明1)。
【0009】
上記発明(発明1)においては、粘着剤層が上記の物性を有することにより、当該粘着剤層によって一の屈曲性部材と他の屈曲性部材とを貼合してなる積層体を高温下で繰り返し屈曲させたときや、長期間屈曲状態に置いた場合に、屈曲部における粘着剤層と被着体との界面に剥がれが発生し難く、耐久性に優れる。また、粘着剤層が上記の水蒸気透過度を有することにより、耐湿熱白化性にも優れる。
【0010】
上記発明(発明1)においては、前記粘着剤層を構成する粘着剤のゲル分率が、10%以上、90%以下であることが好ましい(発明2)。
【0011】
上記発明(発明1,2)においては、前記粘着剤層の23℃におけるヘイズ値が、10%以下であることが好ましい(発明3)。
【0012】
上記発明(発明1~3)においては、前記粘着剤層を構成する粘着剤の23℃における貯蔵弾性率G’(23)が、0.02MPa以上、0.3MPa以下であることが好ましい(発明4)。
【0013】
上記発明(発明1~4)においては、前記粘着剤層を構成する粘着剤が、ポリロタキサン化合物を含有することが好ましい(発明5)。
【0014】
上記発明(発明1~5)においては、前記粘着剤層を構成する粘着剤が、アクリル系粘着剤であることが好ましい(発明6)。
【0015】
上記発明(発明1~6)においては、前記粘着シートが、2枚の剥離シートを備えており、前記粘着剤層が、前記2枚の剥離シートの剥離面と接するように前記剥離シートに挟持されていることが好ましい(発明7)。
【0016】
第2に本発明は、繰り返し屈曲されるデバイスを構成する一の屈曲性部材および他の屈曲性部材と、前記一の屈曲性部材と前記他の屈曲性部材とを互いに貼合する粘着剤層とを備えた繰り返し屈曲積層部材であって、前記粘着剤層が、前記粘着シート(発明1~7)の粘着剤層からなることを特徴とする繰り返し屈曲積層部材を提供する(発明8)。
【0017】
第3に本発明は、前記繰り返し屈曲積層部材(発明8)を備えたことを特徴とする繰り返し屈曲デバイスを提供する(発明9)。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る粘着シート、繰り返し屈曲積層部材および繰り返し屈曲デバイスは、屈曲に対する耐久性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る粘着シートの断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る繰り返し屈曲積層部材の断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る繰り返し屈曲デバイスの断面図である。
図4】静的屈曲試験を説明する説明図(側面図)である。
図5】動的屈曲試験を説明する説明図(側面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。
〔粘着シート〕
本発明の一実施形態に係る粘着シートは、繰り返し屈曲デバイスを構成する一の屈曲性部材と他の屈曲性部材とを貼合するための粘着剤層を有しており、好ましくは、当該粘着剤層の片面または両面に剥離シートを積層してなる。繰り返し屈曲デバイスおよび屈曲性部材については、後述する。
【0021】
本実施形態に係る粘着シートにおいて、上記粘着剤層を厚さ100μmに調製し、2枚のテトロンメッシュ#380で挟み、40℃、90%RHの条件でJIS K7129に準拠して測定した水蒸気透過度は、150g/(m・24h)以上であり、上記粘着剤層を構成する粘着剤の85℃における貯蔵弾性率G’(85)は、0.02MPa以上、0.2MPa以下である。なお、本明細書における水蒸気透過度および貯蔵弾性率の測定方法の詳細は、後述する試験例に示す通りである。
【0022】
本実施形態における粘着剤層が上記の物性を有することにより、屈曲に対する耐久性(以下、単に「耐久性」という場合がある。)に優れたものとなる。具体的には、当該粘着剤層によって一の屈曲性部材と他の屈曲性部材とを貼合してなる積層体を高温下で繰り返し屈曲させたとき(以下、「動的な耐久性」または「動的耐久性」という場合がある。)や、長期間屈曲状態に置いた場合(以下、「静的な耐久性」または「静的耐久性」という場合がある。)に、屈曲部における粘着剤層と被着体との界面に剥がれが発生し難い。また、本実施形態に係る粘着シートは、粘着剤層が上記の水蒸気透過度を有することにより、繰り返し屈曲デバイスが高温高湿条件下に置かれた場合でも、粘着剤層に浸入した水分が、常温常湿に戻ったときに当該粘着剤層から抜け易くなり、水分の凝結が生じ難くなって、当該粘着剤層の白化が抑制される。すなわち、本実施形態に係る粘着シートは、耐久性および耐湿熱白化性の両方に優れる。
【0023】
上記の耐久性および耐湿熱白化性の観点から、上記水蒸気透過度は、150g/(m・24h)以上であることを要し、160g/(m・24h)以上であることが好ましく、特に170g/(m・24h)以上であることが好ましく、さらには190g/(m・24h)以上であることが好ましい。一方、上記の耐久性の観点から、上記水蒸気透過度は、500g/(m・24h)以下であることが好ましく、300g/(m・24h)以下であることがより好ましく、水素結合増加に伴う粘着剤層表面の硬度上昇よる耐久性への影響を加味すると、特に250g/(m・24h)以下であることが好ましく、さらには200g/(m・24h)以下であることが好ましい。
【0024】
また、上記の耐久性の観点から、上記粘着剤層を構成する粘着剤の貯蔵弾性率G’(85)は、0.02MPa以上であることを要し、0.03MPa以上であることが好ましく、特に0.04MPa以上であることが好ましく、さらには0.05MPa以上であることが好ましい。また、同じく耐久性の観点から、上記貯蔵弾性率G’(85)は、0.2MPa以下であることを要し、0.1MPa以下であることが好ましく、特に0.08MPa以下であることが好ましく、さらには0.06MPa以下であることが好ましい。
【0025】
また、上記粘着剤層を構成する粘着剤の23℃における貯蔵弾性率G’(23)は、0.02MPa以上であることが好ましく、0.03MPa以上であることがより好ましく、特に0.04MPa以上であることが好ましく、さらには0.07MPa以上であることが好ましい。これにより、貯蔵弾性率G’(85)の上記下限値を満たしやすいものとなる。また、当該貯蔵弾性率G’(23)は、0.3MPa以下であることが好ましく、0.15MPa以下であることがより好ましく、特に0.10MPa以下であることが好ましく、さらには0.08MPa以下であることが好ましい。これにより、貯蔵弾性率G’(85)の上記上限値を満たしやすいものとなる。
【0026】
上記粘着剤層を構成する粘着剤のゲル分率は、10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、特に30%以上であることが好ましく、さらには40%以上であることが好ましい。これにより、粘着剤は、繰り返し屈曲に耐え得ることのできる好適な凝集力を発揮する。その結果、耐久性がより優れたものとなる。一方、本実施形態における粘着剤のゲル分率は、90%以下であることが好ましく、75%以下であることがより好ましく、特に65%以下であることが好ましく、さらには55%以下であることが好ましく、47%以下であることが最も好ましい。これにより、屈曲による粘着剤中における残留応力が低減されるものと推定され、耐久性がより優れたものとなる。なお、本明細書におけるゲル分率の測定方法は、後述する試験例に示す通りである。
【0027】
上記粘着剤層の23℃におけるヘイズ値は、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、特に1%以下であることが好ましく、さらには0.7%以下であることが好ましい。粘着剤層の23℃におけるヘイズ値が上記であることにより、光透過性に優れ、繰り返し屈曲ディスプレイ用として好適なものとなる。上記23℃におけるヘイズ値の下限値は、特に限定されず、0%以上であることが好ましく、0.1%以上であることがより好ましい。
【0028】
また、上記粘着剤層の-40℃におけるヘイズ値は、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、特に1%以下であることが好ましく、さらには0.7%以下であることが好ましい。粘着剤層の-40℃におけるヘイズ値が上記であることにより、得られるフレキシブルディスプレイの寒冷下での耐久性を優れたものとすることができる。上記-40℃におけるヘイズ値の下限値は、特に限定されず、0%以上であることが好ましく、0.1%以上であることがより好ましい。ここで、-40℃におけるヘイズ値は、粘着剤層を-40℃の環境下に240時間置いた後、23℃、50%RHの環境下に1時間静置してから測定した値とする。
【0029】
なお、上記ヘイズ値は粘着剤層の厚さも含めた特性値であり、粘着剤層の厚さにかかわらず、上記ヘイズ値を満たすことが好ましい。ここで、本明細書におけるヘイズ値は、JIS K7136:2000に準じて測定した値とする。
【0030】
上記粘着剤層の23℃における全光線透過率は、画像・映像の視認性の観点から、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、特に90%以上であることが好ましく、さらには95%以上であることが好ましい。上記23℃における全光線透過率の上限値は、通常、100%である。なお、本明細書における全光線透過率は、JIS K7361-1:1997に準拠して測定した値である。
【0031】
また、上記粘着剤層の-40℃における全光線透過率は、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、特に90%以上であることが好ましく、さらには95%以上であることが好ましい。粘着剤層の-40℃における全光線透過率が上記であることにより、得られるフレキシブルディスプレイの寒冷下での耐久性を優れたものとすることができる。一方、上記-40℃における全光線透過率の上限値は、通常、100%である。ここで、-40℃における全光線透過率は、粘着剤層を-40℃の環境下に240時間置いた後、23℃、50%RHの環境下に1時間静置してから測定した値とする。
【0032】
本実施形態に係る粘着シートの一例としての具体的構成を図1に示す。
図1に示すように、一実施形態に係る粘着シート1は、2枚の剥離シート12a,12bと、それら2枚の剥離シート12a,12bの剥離面と接するように当該2枚の剥離シート12a,12bに挟持された粘着剤層11とから構成される。なお、本明細書における剥離シートの剥離面とは、剥離シートにおいて剥離性を有する面をいい、剥離処理を施した面および剥離処理を施さなくても剥離性を示す面のいずれをも含むものである。
【0033】
1.構成要素
1-1.粘着剤層
粘着剤層11は、前述した物性を有する粘着剤からなるものである。粘着剤層11を構成する粘着剤の種類は、前述した物性(特に水蒸気透過度および貯蔵弾性率G’(85))が満たされれば特に限定されず、例えば、アクリル系粘着剤(主ポリマー:アクリル系ポリマー)、ポリエステル系粘着剤(主ポリマー:ポリエステル系ポリマー)、ポリウレタン系粘着剤(主ポリマー:ポリウレタン系ポリマー)、ゴム系粘着剤(主ポリマー:ゴム系ポリマー)、シリコーン系粘着剤(主ポリマー:シリコーン系ポリマー)等のいずれであってもよい。また、当該粘着剤は、エマルション型、溶剤型または無溶剤型のいずれでもよく、架橋タイプまたは非架橋タイプのいずれであってもよい。それらの中でも、前述した物性を満たし易く、粘着物性、光学特性等にも優れるアクリル系粘着剤が好ましく、特に、溶剤型のアクリル系粘着剤が好ましい。
【0034】
本実施形態における粘着剤は、ポリロタキサン化合物を含有する粘着剤であることが好ましく、特にポリロタキサン化合物を含有するアクリル系粘着剤であることが好ましい。具体的には、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)(主ポリマーに該当)と、ポリロタキサン化合物(B)と、好ましくはさらに架橋剤(C)とを含有する粘着性組成物(以下「粘着性組成物P」という場合がある。)を架橋してなる粘着剤であることが好ましい。かかる粘着剤であれば、前述した物性を満たすことができ、また、良好な粘着力が得られ易い。なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及びメタクリル酸の両方を意味する。他の類似用語も同様である。また、「重合体」には「共重合体」の概念も含まれるものとする。
【0035】
(1)粘着性組成物Pの成分
(1-1)(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、良好な粘着性を発現するための(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、架橋点となる反応性官能基を有するモノマー(反応性官能基含有モノマー)とを含有することが好ましい。
【0036】
また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、芳香環含有モノマーを含有することが好ましい。これにより、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)とポリロタキサン化合物(B)との相溶性が良好になり、低温環境下でもその相溶性が維持される。したがって、特に-40℃におけるヘイズ値および-40℃における全光線透過率が満たされ易くなる。
【0037】
さらに、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、窒素原子含有モノマーを含有することが好ましい。これにより、反応性官能基含有モノマー由来の反応性官能基を活性化して、反応性官能基が比較的少なめでもポリロタキサン化合物(B)との架橋をより効率的に進めることができる。そのため、得られる粘着剤の凝集力と柔軟性が向上し、前述した貯蔵弾性率G’(85)(および貯蔵弾性率G’(23))がより満たされ易くなる。
【0038】
したがって、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、芳香環含有モノマーと、反応性官能基含有モノマーとを含有することがより好ましく、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、芳香環含有モノマーと、窒素原子含有モノマーと、反応性官能基含有モノマーとを含有することが特に好ましい。
【0039】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル基の炭素数が1~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含むことが好ましい。アルキル基は、直鎖状または分岐鎖状であることが好ましい。
【0040】
アルキル基の炭素数が1~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、ホモポリマーとしてのガラス転移温度(Tg)が-40℃以下であるもの(以下「低Tgアルキルアクリレート」という場合がある。)と、ホモポリマーとしてのガラス転移温度(Tg)が0℃を超えるモノマー(以下「高Tgアルキルアクリレート」と称する場合がある。)とを含有することが好ましい。かかる低Tgアルキルアクリレートおよび高Tgアルキルアクリレートを構成モノマー単位として含有することにより、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)のコンフォメーションが小さくなり過ぎることを防止するものと推定される。その結果、ポリロタキサン化合物(B)との接触点を増加させ、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が少なめの架橋点しか有さなくても、ポリロタキサン化合物(B)と十分な架橋構造が形成されるものと推定される。そのため、得られる粘着剤層が、良好な粘着力を発揮しつつ、前述した貯蔵弾性率G’(85)を満たし易いものとなる。
【0041】
低Tgアルキルアクリレートとしては、例えば、アクリル酸n-ブチル(Tg-55℃)、アクリル酸n-オクチル(Tg-65℃)、アクリル酸イソオクチル(Tg-58℃)、アクリル酸2-エチルヘキシル(Tg-70℃)、アクリル酸イソノニル(Tg-58℃)、アクリル酸イソデシル(Tg-60℃)、メタクリル酸イソデシル(Tg-41℃)、メタクリル酸n-ラウリル(Tg-65℃)、アクリル酸トリデシル(Tg-55℃)、メタクリル酸トリデシル(Tg-40℃)等が好ましく挙げられる。中でも、粘着力の観点から、低Tgアルキルアクリレートとして、ホモポリマーのTgが、-45℃以下であるものであることがより好ましく、-50℃以下であるものであることが特に好ましい。具体的には、アクリル酸n-ブチルおよびアクリル酸2-エチルヘキシルが特に好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
上記高Tgアルキルアクリレートとしては、例えば、アクリル酸メチル(Tg10℃)、メタクリル酸メチル(Tg105℃)、メタクリル酸エチル(Tg65℃)、メタクリル酸n-ブチル(Tg20℃)、メタクリル酸イソブチル(Tg48℃)、メタクリル酸t-ブチル(Tg107℃)、アクリル酸n-ステアリル(Tg30℃)、メタクリル酸n-ステアリル(Tg38℃)等が挙げられる。上記の中でも、貯蔵弾性率G’(85)を満たし易い観点から、アクリル酸メチルおよびメタクリル酸メチルが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、上記高Tgアルキルアクリレートには、後述する芳香環含有モノマーおよび窒素原子含有モノマーは含まない。
【0043】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、低Tgアルキルアクリレートを、40質量%以上含有することが好ましく、特に50質量%以上含有することが好ましく、さらには60質量%以上含有することが好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、低Tgアルキルアクリレートを、90質量%以下含有することが好ましく、特に80質量%以下含有することが好ましく、さらには75質量%以下含有することが好ましい。
【0044】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、高Tgアルキルアクリレートを、1質量%以上含有することが好ましく、特に4質量%以上含有することが好ましく、さらには8質量%以上含有することが好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、高Tgアルキルアクリレートを、24質量%以下含有することが好ましく、特に18質量%以下含有することが好ましく、さらには13質量%以下含有することが好ましい。
【0045】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、アルキル基の炭素数が1~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを45質量%以上含有することが好ましく、60質量%以上含有することがより好ましく、特に70質量%以上含有することが好ましく、さらには75質量%以上含有することが好ましい。また、当該(メタ)アクリル酸アルキルエステルを94質量%以下含有することが好ましく、90質量%以下含有することがより好ましく、特に88質量%以下含有することが好ましく、さらには83質量%以下含有することが好ましい。アルキル基の炭素数が1~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを上記の量で含有すると、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)に好適な粘着性を付与させることができるとともに、前述した貯蔵弾性率G’が満たされ易くなる。
【0046】
芳香環含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸2-フェニルエチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ナフチル、(メタ)アクリル酸2-フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシブチル、エトキシ化o-フェニルフェノールアクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ビフェニルジ(メタ)アクリレート、ペンタフルオロベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、芳香環含有モノマーを1質量%以上含有することが好ましく、4質量%以上含有することがより好ましく、特に8質量%以上含有することが好ましく、さらには12質量以上%含有することが好ましい。また、芳香環含有モノマーを40質量%以下含有することが好ましく、30質量%以下含有することがより好ましく、特に23質量%以下含有することが好ましく、さらには18質量%以下含有することが好ましい。芳香環含有モノマーの含有量が上記の範囲にあることにより、前述した-40℃におけるヘイズ値および貯蔵弾性率G’が満たされ易くなる。また、粘着性も良好に維持される。
【0048】
窒素原子含有モノマーとしては、アミノ基を有するモノマー、アミド基を有するモノマー、窒素含有複素環を有するモノマーなどが挙げられ、中でも、アミノ基を有するモノマーが好ましい。また、構成される粘着剤の高次構造中で上記窒素原子含有モノマー由来部分の自由度を高める観点から、当該窒素原子含有モノマーは、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を形成するための重合に使用される1つの重合性基以外に反応性不飽和二重結合基を含有しないことが好ましい。窒素原子含有モノマーは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
アミノ基を有するモノマーとしては、例えば(メタ)アクリル酸モノメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸モノエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸モノメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸モノエチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等が挙げられる。
【0050】
アミド基を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-tert-ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-フェニル(メタ)アクリルアミド、N-(n-ブトキシメチル)(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ビニルカプロラクタムが挙げられる。
【0051】
窒素含有複素環を有するモノマーとしては、例えば、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-ビニル-2-ピロリドン、N-(メタ)アクリロイルピロリドン、N-(メタ)アクリロイルピペリジン、N-(メタ)アクリロイルピロリジン、N-(メタ)アクリロイルアジリジン、アジリジニルエチル(メタ)アクリレート、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、2-ビニルピラジン、1-ビニルイミダゾール、N-ビニルカルバゾール、N-ビニルフタルイミド等が挙げられる。
【0052】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、窒素原子含有モノマーを0.01質量%以上含有することが好ましく、0.1質量%以上含有することがより好ましく、特に0.3質量%以上含有することが好ましく、さらには0.8質量以上%含有することが好ましい。また、窒素原子含有モノマーを14質量%以下含有することが好ましく、8質量%以下含有することがより好ましく、特に4質量%以下含有することが好ましく、さらには2質量%以下含有することが好ましい。窒素原子含有モノマーの含有量が上記の範囲にあることにより、前述した貯蔵弾性率G’が満たされ易くなる。また、粘着性も良好に維持される。
【0053】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として反応性官能基含有モノマーを含有することで、当該反応性官能基含有モノマー由来の反応性官能基を介して、後述する架橋剤(C)と反応し、架橋構造(三次元網目構造)が形成される。これにより、所望の凝集力を有し、前述した物性を満たし易い粘着剤が得られる。
【0054】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が、当該重合体を構成するモノマー単位として含有する反応性官能基含有モノマーとしては、分子内に水酸基を有するモノマー(水酸基含有モノマー)、分子内にカルボキシ基を有するモノマー(カルボキシ基含有モノマー)などが好ましく挙げられる。これらの反応性官能基含有モノマーは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0055】
上記反応性官能基含有モノマーの中でも、水酸基含有モノマーまたはカルボキシ基含有モノマーが好ましく、特に、水酸基含有モノマーが好ましい。水酸基含有モノマーは、前述した物性を満たし易い。
【0056】
水酸基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル等が挙げられる。上記の中でも、前述した物性の満たし易さの観点から、炭素数が1~4のヒドロキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸が挙げられる。中でも、得られる(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の粘着力の点からアクリル酸が好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、反応性官能基含有モノマーを、1質量%以上含有することが好ましく、特に2質量%以上含有することが好ましく、さらには3質量%以上含有することが好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、反応性官能基含有モノマーを、13質量%以下含有することが好ましく、特に8質量%以下含有することが好ましく、さらには5質量%以下含有することが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)がモノマー単位として上記の量で反応性官能基含有モノマーを含有すると、架橋剤(C)との架橋反応により、得られる粘着剤の凝集力が適度なものとなり、前述した貯蔵弾性率G’を満たし易いものとなる。また、前述した水蒸気透過度も満たしやすいものとなる。
【0059】
なお、耐湿熱白化性の観点およびポリロタキサン化合物(B)との架橋を確実にして貯蔵弾性率G’を低下させる観点からは、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)における水酸基含有モノマーの割合を大きくすることが有利とも考えられる。しかしながら、水酸基含有モノマーの割合を大きくし過ぎると、水蒸気透過度が上がり過ぎて、粘着剤中の水素結合が非常に多くなり、弾性率に現れない程度で粘着剤層表面が硬くなると推定され、これにより耐屈曲性が低下することがある。
【0060】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、カルボキシ基含有モノマーを含まないことも好ましい。カルボキシ基は酸成分であるため、カルボキシ基含有モノマーを含有しないことにより、粘着剤の貼付対象に、酸により不具合が生じるもの、例えばスズドープ酸化インジウム(ITO)等の透明導電膜や、金属膜、金属メッシュなどが存在する場合にも、酸によるそれらの不具合(腐食、抵抗値変化等)を抑制することができる。
【0061】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成する反応性官能基含有モノマーとして、カルボキシ基含有モノマーではなく、水酸基含有モノマーを含有することで、架橋剤(C)(特にイソシアネート系架橋剤)を介した(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)とポリロタキサン化合物(B)との架橋がより効率良く行われる。その結果、前述した貯蔵弾性率G’がより満たされ易くなる。
【0062】
ここで、「カルボキシ基含有モノマーを含まない」とは、カルボキシ基含有モノマーを実質的に含有しないことを意味し、カルボキシ基含有モノマーを全く含有しない他、カルボキシル基による透明導電膜や金属配線等の腐食が生じない程度にカルボキシ基含有モノマーを含有することを許容するものである。具体的には、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)中に、モノマー単位として、カルボキシ基含有モノマーを0.1質量%以下、好ましくは0.01質量%以下、さらに好ましくは0.001質量%以下の量で含有することを許容するものである。
【0063】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、所望により、当該重合体を構成するモノマー単位として、他のモノマーを含有してもよい。他のモノマーとしては、反応性官能基含有モノマーの前述した作用を阻害しないためにも、反応性官能基を含有しないモノマーが好ましい。かかるモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、酢酸ビニル、スチレンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重合態様は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。
【0065】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量は、10万以上であることが好ましく、40万以上であることがより好ましく、特に90万以上であることが好ましく、さらには140万以上であることが好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量は、300万以下であることが好ましく、230万以下であることがより好ましく、特に180万以下であることが好ましく、さらには160万以下であることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量が上記の範囲内にあると、前述した物性を満たし易いものとなる。なお、本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0066】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、-80℃以上であることが好ましく、-60℃以上であることがより好ましく、特に-50℃以上であることが好ましく、さらには-40℃以上であることが好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、10℃以下であることが好ましく、0℃以下であることがより好ましく、特に-10℃以下であることが好ましく、さらには-20℃以下であることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)のガラス転移温度(Tg)が上記の範囲であると、前述した貯蔵弾性率G’が満たされ易くなる。なお、本明細書における(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、当該(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を構成する各モノマーのホモポリマーとしてのガラス転移温度(Tg)に基づき、FOXの式により算出したものとする。
【0067】
粘着性組成物Pにおいて、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
(1-2)ポリロタキサン化合物(B)
ポリロタキサン化合物(B)は、少なくとも2つの環状分子の開口部に直鎖状分子が貫通し、かつ、直鎖状分子の両末端にブロック基を有してなる化合物である。このポリロタキサン化合物(B)においては、環状分子が直鎖状分子上を自由に移動(スライド)することが可能であるが、ブロック基により環状分子は直鎖状分子からは抜け出せない構造となっている。すなわち、直鎖状分子および環状分子は、共有結合等の化学結合ではなく、いわゆる機械的結合によりその形態を維持するものとなっている。
【0069】
粘着性組成物Pから得られる粘着剤は、かかるポリロタキサン化合物(B)を含有することにより、応力緩和性が高くなり、前述した貯蔵弾性率G’を満たし易いものとなる。特に、粘着性組成物Pが架橋剤(C)を含有する場合に、粘着性組成物Pを架橋させると、架橋剤(C)の反応性基と、ポリロタキサン化合物(B)が有する環状分子の反応性基とが反応し、架橋剤付加物が形成される。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体が有する反応性官能基含有モノマー由来の反応性官能基により、架橋剤付加物中の架橋剤(C)を介してポリロタキサン化合物(B)の1つの環状分子と結合し、同様に、別の(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が当該ポリロタキサン化合物(B)の別の環状分子と結合するものと推定される。その結果、複数の(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)同士が、上記のスライド可能な機械的結合を有するポリロタキサン化合物(B)を介して架橋された構造(架橋構造)が形成される。かかる架橋構造を含むことで、得られる粘着剤は、応力緩和性により優れ、前述した貯蔵弾性率G’をより満たし易いものとなる。
【0070】
なお、得られる粘着剤の全てが上記の構造である必要はなく、2つの(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が、ポリロタキサン化合物(B)を介さず、架橋剤(C)により直接結合されている構造等を含んでいてもよい。
【0071】
本実施形態におけるポリロタキサン化合物(B)は、架橋剤(C)の反応性基と反応可能な反応性基を含む環状分子を有することが好ましい。また、当該反応性基は、親水性を有する官能基であることが好ましい。ポリロタキサン化合物(B)の環状分子がかかる反応性基を有することにより、前述した水蒸気透過度が満たされ易くなる。当該反応性基としては、例えば、水酸基、カルボキシ基等が挙げられ、中でも水酸基が好ましい。
【0072】
本実施形態におけるポリロタキサン化合物(B)は、環状分子として環状オリゴ糖を有することが好ましい。環状オリゴ糖は、修飾しない状態で、反応性基として水酸基を有する。また、ポリロタキサン化合物(B)の環状分子として環状オリゴ糖を使用することにより、適切な環径の選択が可能となり、それにより、直鎖状分子上で環状分子が移動することによる効果が発現しやすい。さらに、様々な置換基等の導入も容易であり、それにより、得られる粘着剤の物性を調整することが可能となる。さらに、環状オリゴ糖であれば、入手も容易であるという利点もある。なお、本明細書において、「環状分子」または「環状オリゴ糖」の「環状」は、実質的に「環状」であることを意味する。すなわち、直鎖状分子上で移動可能であれば、環状分子は完全には閉環でなくてもよく、例えば螺旋構造であってもよい。
【0073】
環状オリゴ糖としては、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン等のシクロデキストリンが好ましく挙げられ、中でも特にα-シクロデキストリンが好ましい。ポリロタキサン化合物(B)の環状分子は、ポリロタキサン化合物(B)中または粘着性組成物P中で2種以上混在していてもよい。
【0074】
上記環状オリゴ糖が反応性基として有する水酸基は、環状オリゴ糖がオリジナル(修飾前の状態をいう。)で有する水酸基であってもよいし、環状オリゴ糖に置換基として導入された水酸基であってもよい。
【0075】
上記環状分子の水酸基価は、下限値として10mgKOH/g以上であることが好ましく、30mgKOH/g以上であることがより好ましく、50mgKOH/g以上であることが特に好ましい。水酸基価の下限値が上記であると、ポリロタキサン化合物(B)が架橋剤(C)と十分に反応することができ、かつ、所定量の水酸基が残存し、前述した水蒸気透過度が満たされ易くなる。また、上記環状分子の水酸基価は、上限値として1000mgKOH/g以下であることが好ましく、200mgKOH/g以下であることがより好ましく、100mgKOH/g以下であることが特に好ましい。水酸基価の上限値が上記の値を超えると、同一の環状分子において多数の架橋が生じることにより、当該環状分子自体が架橋点となり、ポリロタキサン化合物(B)全体としての架橋点の効果を発揮できなくなり、その結果、得られる粘着剤において十分な柔軟性が確保できなくなるおそれがある。
【0076】
ポリロタキサン化合物(B)の直鎖状分子は、環状分子に包接され、共有結合等の化学結合でなく機械的な結合で一体化することができる分子または物質であって、直鎖状のものであれば、特に限定されない。なお、本明細書において、「直鎖状分子」の「直鎖」は、実質的に「直鎖」であることを意味する。すなわち、直鎖状分子上で環状分子が移動可能であれば、直鎖状分子は分岐鎖を有していてもよい。
【0077】
ポリロタキサン化合物(B)の直鎖状分子としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリテトラヒドロフラン、ポリアクリル酸エステル、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレン等が好ましく、これらの直鎖状分子は、粘着性組成物P中で2種以上混在していてもよい。
【0078】
ポリロタキサン化合物(B)の直鎖状分子の数平均分子量は、下限値として3,000以上であることが好ましく、特に10,000以上であることが好ましく、さらには20,000以上であることが好ましい。数平均分子量の下限値が上記であると、環状分子の直鎖状分子上での移動量が確保され、ポリロタキサン化合物(B)に起因する架橋構造の柔軟性が十分に得られる。また、ポリロタキサン化合物(B)の直鎖状分子の数平均分子量は、上限値として300,000以下であることが好ましく、特に200,000以下であることが好ましく、さらには100,000以下であることが好ましい。数平均分子量の上限値が上記であると、ポリロタキサン化合物(B)の溶媒への溶解性が良好になる。
【0079】
ポリロタキサン化合物(B)のブロック基は、環状分子が直鎖状分子により串刺し状になった形態を保持し得る基であれば、特に限定されない。このような基としては、嵩高い基、イオン性基等が挙げられる。
【0080】
具体的には、ポリロタキサン化合物(B)のブロック基は、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、ピレン類、アントラセン類等、あるいは、数平均分子量1,000~1,000,000の高分子の主鎖または側鎖等が好ましく、これらのブロック基は、ポリロタキサン化合物(B)中または粘着性組成物P中で2種以上混在していてもよい。
【0081】
以上説明したポリロタキサン化合物(B)は、従来公知の方法(例えば特開2005-154675に記載の方法)によって得ることができる。
【0082】
本実施形態に係る粘着性組成物P中におけるポリロタキサン化合物(B)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、4質量部以上であることがより好ましく、特に6質量部以上であることが好ましく、さらには7質量部以上であることが好ましい。また、ポリロタキサン化合物(B)の含有量は、30質量部以下であることが好ましく、24質量部以下であることがより好ましく、17質量部以下であることが特に好ましく、12質量部以下であることがさらに好ましい。ポリロタキサン化合物(B)の含有量が上記の範囲にあることにより、前述した水蒸気透過度および貯蔵弾性率G’の両方が満たされ易くなる。
【0083】
(1-3)架橋剤(C)
架橋剤(C)は、反応性基を有する。この反応性基は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が有する反応性官能基、およびポリロタキサン化合物(B)の環状分子が有する反応性基と反応可能なものであることが好ましい。かかる架橋剤(C)は、ポリロタキサン化合物(B)と架橋剤付加物を形成する。そして、当該架橋剤付加物は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)同士を架橋し、三次元網目構造を形成する。これにより、得られる粘着剤の凝集力が向上し、前述した物性が満たされ易くなる。
【0084】
上記架橋剤(C)としては、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アミン系架橋剤、メラミン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、ヒドラジン系架橋剤、アルデヒド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、金属アルコキシド系架橋剤、金属キレート系架橋剤、金属塩系架橋剤、アンモニウム塩系架橋剤等が挙げられる。これらの中でも、水酸基との反応性が高いイソシアネート系架橋剤が好ましい。イソシアネート系架橋剤によれば、反応性基として水酸基を有するポリロタキサン化合物(B)の架橋剤付加を十分に行うことができ、それによって、前述した水蒸気透過度および貯蔵弾性率G’がより満たされ易くなる。なお、架橋剤(C)は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0085】
イソシアネート系架橋剤は、少なくともポリイソシアネート化合物を含むものである。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネートなど、及びそれらのビウレット体、イソシアヌレート体、さらにはエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ヒマシ油等の低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体などが挙げられる。
【0086】
粘着性組成物P中における架橋剤(C)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、特に1.0質量部以上であることが好ましく、さらには1.3質量部以上であることが好ましい。また、当該含有量は、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、特に2質量部以下であることが好ましく、さらには1.8質量部以下であることが好ましい。架橋剤(C)の含有量が上記の範囲内にあると、前述した物性が満たされ易くなる。
【0087】
(1-4)各種添加剤
粘着性組成物Pには、所望により、アクリル系粘着剤に通常使用されている各種添加剤、例えば、シランカップリング剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、粘着付与剤、酸化防止剤、光安定剤、軟化剤、充填剤、屈折率調整剤などを添加することができる。なお、後述の重合溶媒や希釈溶媒は、粘着性組成物Pを構成する添加剤に含まれないものとする。
【0088】
粘着性組成物Pは、上記のシランカップリング剤を含有することが好ましい。これにより、得られる粘着剤層において、被着体である屈曲性部材との密着性が向上し、粘着力がより好ましいものとなる。
【0089】
シランカップリング剤としては、分子内にアルコキシシリル基を少なくとも1個有する有機ケイ素化合物であって、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)との相溶性がよく、光透過性を有するものが好ましい。
【0090】
かかるシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の重合性不飽和基含有ケイ素化合物、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ構造を有するケイ素化合物、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン等のメルカプト基含有ケイ素化合物、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ基含有ケイ素化合物、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、あるいはこれらの少なくとも1つと、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン等のアルキル基含有ケイ素化合物との縮合物などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0091】
粘着性組成物P中におけるシランカップリング剤の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、特に0.05質量部以上であることが好ましく、さらには0.1質量部以上であることが好ましい。また、当該含有量は、1質量部以下であることが好ましく、特に0.5質量部以下であることが好ましく、さらには0.3質量部以下であることが好ましい。シランカップリング剤の含有量が上記の範囲にあることで、得られる粘着剤層は、被着体である屈曲性部材との密着性が向上し、粘着力がより大きいものとなる。
【0092】
(2)粘着性組成物Pの製造
粘着性組成物Pは、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を製造し、得られた(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、ポリロタキサン化合物(B)と、所望により架橋剤(C)および添加剤を加えることで製造することができる。
【0093】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、重合体を構成するモノマーの混合物を通常のラジカル重合法で重合することにより製造することができる。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重合は、所望により重合開始剤を使用して、溶液重合法により行うことが好ましい。溶液重合法によって(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を重合することにより、得られる重合体の高分子量化と、分子量分布の調整とが容易となり、さらに低分子量体の生成を低減することが可能となる。このため、ゲル分率を比較的小さくして架橋の程度を緩めた場合であっても、繰り返し屈曲に伴う粘着剤の偏りが生じ難く、耐久性に優れた粘着剤が得られ易い。
【0094】
溶液重合法で使用する重合溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、トルエン、アセトン、ヘキサン、メチルエチルケトン等が挙げられ、2種類以上を併用してもよい。
【0095】
重合開始剤としては、アゾ系化合物、有機過酸化物等が挙げられ、2種類以上を併用してもよい。アゾ系化合物としては、例えば、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1'-アゾビス(シクロヘキサン1-カルボニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)、ジメチル2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4'-アゾビス(4-シアノバレリック酸)、2,2'-アゾビス(2-ヒドロキシメチルプロピオニトリル)、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]等が挙げられる。
【0096】
有機過酸化物としては、例えば、過酸化ベンゾイル、t-ブチルパーベンゾエイト、クメンヒドロパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2-エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシビバレート、(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキシド、ジプロピオニルパーオキシド、ジアセチルパーオキシド等が挙げられる。
【0097】
なお、上記重合工程において、2-メルカプトエタノール等の連鎖移動剤を配合することにより、得られる重合体の重量平均分子量を調節することができる。
【0098】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が得られたら、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の溶液に、ポリロタキサン化合物(B)、ならびに所望により架橋剤(C)、添加剤および希釈溶剤を添加し、十分に混合することにより、溶剤で希釈された粘着性組成物P(塗布溶液)を得る。
【0099】
なお、上記各成分のいずれかにおいて、固体状のものを用いる場合、あるいは、希釈されていない状態で他の成分と混合した際に析出を生じる場合には、その成分を単独で予め希釈溶媒に溶解もしくは希釈してから、その他の成分と混合してもよい。
【0100】
上記希釈溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、塩化メチレン、塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール等のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、2-ペンタノン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル、エチルセロソルブ等のセロソルブ系溶剤などが用いられる。
【0101】
このようにして調製された塗布溶液の濃度・粘度としては、コーティング可能な範囲であればよく、特に制限されず、状況に応じて適宜選定することができる。例えば、粘着性組成物Pの濃度が10~60質量%となるように希釈する。なお、塗布溶液を得るに際して、希釈溶剤等の添加は必要条件ではなく、粘着性組成物Pがコーティング可能な粘度等であれば、希釈溶剤を添加しなくてもよい。この場合、粘着性組成物Pは、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重合溶媒をそのまま希釈溶剤とする塗布溶液となる。
【0102】
(3)粘着剤の製造
本実施形態における粘着剤層11を構成する粘着剤は、好ましくは粘着性組成物Pを架橋してなるものである。粘着性組成物Pの架橋は、通常は加熱処理により行うことができる。なお、この加熱処理は、所望の対象物に塗布した粘着性組成物Pの塗膜から希釈溶剤等を揮発させる際の乾燥処理で兼ねることもできる。
【0103】
加熱処理の加熱温度は、50~150℃であることが好ましく、特に70~120℃であることが好ましい。また、加熱時間は、10秒~10分であることが好ましく、特に50秒~2分であることが好ましい。
【0104】
加熱処理後、必要に応じて、常温(例えば、23℃、50%RH)で1~2週間程度の養生期間を設けてもよい。この養生期間が必要な場合は、養生期間経過後、養生期間が不要な場合には、加熱処理終了後、粘着剤が形成される。
【0105】
粘着性組成物Pが架橋剤(C)を含有する場合、上記の加熱処理(及び養生)により、架橋剤(C)を介して、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)およびポリロタキサン化合物(B)が架橋されて架橋構造が形成され、粘着剤が得られる。
【0106】
(4)粘着剤層の厚さ
本実施形態に係る粘着シート1における粘着剤層11の厚さ(JIS K7130に準じて測定した値)は、下限値として1μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、特に10μm以上であることが好ましく、さらには15μm以上であることが好ましい。粘着剤層11の厚さの下限値が上記であると、所望の粘着力を発揮し易く、耐久性がより優れたものとなる。
【0107】
また、粘着剤層11の厚さは、上限値として300μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、特に90μm以下であることが好ましく、より薄い繰り返し屈曲デバイスを得ることができる観点から、さらには40μm以下であることが好ましい。粘着剤層11の厚さの上限値が上記であると、繰り返し屈曲により粘着剤層に発生する応力が大きくなり過ぎることを抑制し、耐久性をより優れたものにすることができる。なお、粘着剤層11は単層で形成してもよいし、複数層を積層して形成することもできる。
【0108】
1-2.剥離シート
剥離シート12a,12bは、粘着シート1の使用時まで粘着剤層11を保護するものであり、粘着シート1(粘着剤層11)を使用するときに剥離される。本実施形態に係る粘着シート1において、剥離シート12a,12bの一方または両方は必ずしも必要なものではない。
【0109】
剥離シート12a,12bとしては、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニルフィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム等が用いられる。また、これらの架橋フィルムも用いられる。さらに、これらの積層フィルムであってもよい。
【0110】
上記剥離シート12a,12bの剥離面(特に粘着剤層11と接する面)には、剥離処理が施されていることが好ましい。剥離処理に使用される剥離剤としては、例えば、アルキッド系、シリコーン系、フッ素系、不飽和ポリエステル系、ポリオレフィン系、ワックス系の剥離剤が挙げられる。なお、剥離シート12a,12bのうち、一方の剥離シートを剥離力の大きい重剥離型剥離シートとし、他方の剥離シートを剥離力の小さい軽剥離型剥離シートとすることが好ましい。
【0111】
剥離シート12a,12bの厚さについては特に制限はないが、通常20~150μm程度である。
【0112】
2.物性
(1)粘着力
本実施形態に係る粘着シート1のソーダライムガラスに対する粘着力は、下限値として0.1N/25mm以上であることが好ましく、1N/25mm以上であることがより好ましく、特に3N/25mm以上であることが好ましく、さらには4.5N/25mm以上であることが好ましい。粘着シート1のソーダライムガラスに対する粘着力の下限値が上記であると、耐久性がより優れたものとなる。一方、上記粘着力の上限値については、特に制限されないが、リワーク性が必要な場合がある。このような観点から、上記粘着力は、60N/25mm以下であることが好ましく、30N/25mm以下であることがより好ましく、10N/25mm以下であることが特に好ましい。なお、本明細書における粘着力は、基本的にはJIS Z0237:2009に準じた180度引き剥がし法により測定した粘着力をいい、具体的な試験方法は、後述する試験例に示す通りである。
【0113】
(2)CIE1976L*a*b*表色系
本実施形態に係る粘着シート1の粘着剤層11は、CIE1976L*a*b*表色系により規定される明度L*が、60以上であることが好ましく、70以上であることがより好ましく、特に80以上であることが好ましく、さらには90以上であることが好ましい。また、当該明度L*は、100以下であることが好ましく、99以下であることがより好ましく、特に98以下であることが好ましい。粘着剤層11の色度a*の絶対値は、0以上であることが好ましく、特に0.1以上であることが好ましく、さらには0.2以上であることが好ましい。また、当該色度a*の絶対値は、0.8以下であることが好ましく、特に0.6以下であることが好ましく、さらには0.4以下であることが好ましい。粘着剤層11の色度b*の絶対値は、0以上であることが好ましく、特に0.1以上であることが好ましく、さらには0.2以上であることが好ましい。また、当該色度b*の絶対値は、0.8以下であることが好ましく、特に0.6以下であることが好ましく、さらには0.4以下であることが好ましい。上記により、粘着剤層11は、繰り返し屈曲ディスプレイ用として好適な色味を有するものとなる。なお、本明細書における明度L*、色度a*およびb*の測定方法は、後述する試験例に示す通りである。
【0114】
3.粘着シートの製造
粘着シート1の一製造例として、上記粘着性組成物Pを使用した場合について説明する。一方の剥離シート12a(または12b)の剥離面に、粘着性組成物Pの塗布液を塗布し、加熱処理を行って粘着性組成物Pを熱架橋し、塗布層を形成した後、その塗布層に他方の剥離シート12b(または12a)の剥離面を重ね合わせる。養生期間が必要な場合は養生期間をおくことにより、養生期間が不要な場合はそのまま、上記塗布層が粘着剤層11となる。これにより、上記粘着シート1が得られる。加熱処理および養生の条件については、前述した通りである。
【0115】
粘着シート1の他の製造例としては、一方の剥離シート12aの剥離面に、粘着性組成物Pの塗布液を塗布し、加熱処理を行って粘着性組成物Pを熱架橋し、塗布層を形成して、塗布層付きの剥離シート12aを得る。また、他方の剥離シート12bの剥離面に、上記粘着性組成物Pの塗布液を塗布し、加熱処理を行って粘着性組成物Pを熱架橋し、塗布層を形成して、塗布層付きの剥離シート12bを得る。そして、塗布層付きの剥離シート12aと塗布層付きの剥離シート12bとを、両塗布層が互いに接触するように貼り合わせる。養生期間が必要な場合は養生期間をおくことにより、養生期間が不要な場合はそのまま、上記の積層された塗布層が粘着剤層11となる。これにより、上記粘着シート1が得られる。この製造例によれば、粘着剤層11が比較的厚い場合であっても、安定して製造することが可能となる。
【0116】
上記粘着性組成物Pの塗布液を塗布する方法としては、例えばバーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等を利用することができる。
【0117】
〔繰り返し屈曲積層部材〕
図2に示すように、本実施形態に係る繰り返し屈曲積層部材2は、第1の屈曲性部材21(一の屈曲性部材)と、第2の屈曲性部材22(他の屈曲性部材)と、それらの間に位置し、第1の屈曲性部材21および第2の屈曲性部材22を互いに貼合する粘着剤層11とを備えて構成される。
【0118】
上記繰り返し屈曲積層部材2における粘着剤層11は、前述した粘着シート1の粘着剤層11である。
【0119】
繰り返し屈曲積層部材2は、繰り返し屈曲デバイス自体であるか、または繰り返し屈曲デバイスの一部を構成する部材である。繰り返し屈曲デバイスは、繰り返しの屈曲(折り曲げを含む)が可能なディスプレイ(繰り返し屈曲ディスプレイ)であることが好ましいが、これに限定されるものではない。かかる繰り返し屈曲デバイスとしては、例えば、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)ディスプレイ、電気泳動方式のディスプレイ(電子ペーパー)、基板としてプラスチック基板(フィルム)を用いた液晶ディスプレイ、フォルダブルディスプレイ等が挙げられ、タッチパネルであってもよい。
【0120】
第1の屈曲性部材21および第2の屈曲性部材22は、繰り返しの屈曲(折り曲げを含む)が可能な部材であり、例えば、カバーフィルム、ガスバリアフィルム、ハードコートフィルム、偏光フィルム(偏光板)、偏光子、位相差フィルム(位相差板)、視野角補償フィルム、輝度向上フィルム、コントラスト向上フィルム、拡散フィルム、半透過反射フィルム、電極フィルム、透明導電性フィルム、金属メッシュフィルム、フレキシブルガラス、フィルムセンサー(タッチセンサーフィルム)、液晶ポリマーフィルム、発光ポリマーフィルム、フィルム状液晶モジュール、有機ELモジュール(有機ELフィルム,有機EL素子)、電子ペーパーモジュール(フィルム状電子ペーパー)、TFT(Thin Film Transistor)基板等が挙げられる。
【0121】
第1の屈曲性部材21および第2の屈曲性部材22の少なくとも一方は、ポリイミドフィルム、または粘着剤層11側にポリイミドフィルムを備えた積層体であってもよい。ポリイミドフィルムは、一般的に粘着剤層との密着性が低いが、本実施形態における粘着剤層11によれば、ポリイミドフィルムが被着体であっても、優れた耐久性が得られる。
【0122】
第1の屈曲性部材21および第2の屈曲性部材22のヤング率は、それぞれ0.1~10GPaであることが好ましく、特に0.5~7GPaであることが好ましく、さらには1.0~5GPaであることが好ましい。第1の屈曲性部材21および第2の屈曲性部材22のヤング率がかかる範囲にあることで、各屈曲性部材について繰り返し屈曲させることが容易になる。
【0123】
また、第1の屈曲性部材21および第2の屈曲性部材22のそれぞれは、その中心線で折り曲げた際に、ひび割れや不可逆的な変形なく折り曲げられる角度(屈曲性部材面で形成される鋭角側の折り曲げ角度)が、150°以下であることが好ましく、90°以下であることがより好ましく、60°以下であることが特に好ましく、30°以下であることがさらに好ましく、10°以下であることが最も好ましい。これにより、後述の繰り返し屈曲デバイスを容易に得ることができる。
【0124】
第1の屈曲性部材21および第2の屈曲性部材22の厚さは、それぞれ10~3000μmであることが好ましく、特に25~1000μmであることが好ましく、さらには50~500μmであることが好ましい。第1の屈曲性部材21および第2の屈曲性部材22の厚さがかかる範囲にあることで、各屈曲性部材について繰り返し屈曲させることが容易になる。
【0125】
上記繰り返し屈曲積層部材2を製造するには、一例として、粘着シート1の一方の剥離シート12aを剥離して、粘着シート1の露出した粘着剤層11を、第1の屈曲性部材21の一方の面に貼合する。
【0126】
その後、粘着シート1の粘着剤層11から他方の剥離シート12bを剥離して、粘着シート1の露出した粘着剤層11と第2の屈曲性部材22とを貼合し、繰り返し屈曲積層部材2を得る。また、他の例として、第1の屈曲性部材21および第2の屈曲性部材22の貼合順序を入れ替えてもよい。
【0127】
〔繰り返し屈曲デバイス〕
本実施形態に係る繰り返し屈曲デバイスは、上記の繰り返し屈曲積層部材2を備えたものであり、繰り返し屈曲積層部材2のみからなってもよいし、一または複数の繰り返し屈曲積層部材2と、他の屈曲性部材とを備えて構成されてもよい。一の繰り返し屈曲積層部材2と他の繰り返し屈曲積層部材2とを積層するとき、または繰り返し屈曲積層部材2と他の屈曲性部材とを積層するときには、前述した粘着シート1の粘着剤層11を介して積層することが好ましい。
【0128】
本実施形態に係る繰り返し屈曲デバイスは、粘着剤層が前述した粘着剤からなるため、繰り返し屈曲させたときや、長期間屈曲状態に置いた場合にも、屈曲部における粘着剤層と被着体との界面に剥がれが発生し難く、かつ、屈曲による光漏れおよび視認性低下が抑制される。
【0129】
本実施形態における一例としての繰り返し屈曲デバイスを図3に示す。なお、本発明に係る繰り返し屈曲デバイスは、当該繰り返し屈曲デバイスに限定されるものではない。
【0130】
図3に示すように、本実施形態に係る繰り返し屈曲デバイス3は、上から順に、カバーフィルム31と、第1の粘着剤層32と、偏光フィルム33と、第2の粘着剤層34と、タッチセンサーフィルム35と、第3の粘着剤層36と、有機EL素子37と、第4の粘着剤層38と、TFT基板39とを積層して構成される。上記のカバーフィルム31、偏光フィルム33、タッチセンサーフィルム35、有機EL素子37およびTFT基板39は、屈曲性部材に該当する。
【0131】
第1の粘着剤層32、第2の粘着剤層34、第3の粘着剤層36および第4の粘着剤層38の少なくともいずれか1層は、前述した粘着シート1の粘着剤層11である。第1の粘着剤層32、第2の粘着剤層34、第3の粘着剤層36および第4の粘着剤層38のいずれか2層以上が前述した粘着シート1の粘着剤層11であることが好ましく、全ての粘着剤層32,34,36,38が粘着シート1の粘着剤層11であることが最も好ましい。
【0132】
ここで、例えば、TFT基板39がポリイミドフィルムを含む場合、特に、第4の粘着剤層38側にポリイミドフィルムを備えている場合は、少なくとも第4の粘着剤層38は、前述した粘着シート1の粘着剤層11であることが好ましい。
【0133】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0134】
例えば、粘着シート1における剥離シート12a,12bのいずれか一方または両方は省略されてもよく、また、剥離シート12aおよび/または12bの替わりに所望の屈曲性部材が積層されてもよい。
【実施例
【0135】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0136】
〔実施例1〕
1.(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の調製
アクリル酸n-ブチル70質量部、アクリル酸メチル10質量部、アクリル酸2-フェノキシエチル15質量部、アクリル酸ジメチルアミノエチル1質量部およびアクリル酸2-ヒドロキシエチル4質量部を溶液重合法により共重合させて、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を調製した。この(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の分子量を後述する方法で測定したところ、重量平均分子量(Mw)150万であった。また、FOXの式により算出された(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、-35℃であった。
【0137】
2.粘着性組成物の調製
上記工程1で得られた(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部(固形分換算値;以下同じ)と、ポリロタキサン化合物(B)(アドバンスト・ソフトマテリアルズ社製,製品名「セルム スーパーポリマー SH3400P」,直鎖状分子:ポリエチレングリコール,環状分子:ヒドロキシプロピル基およびカプロラクトン鎖を有するα-シクロデキストリン,ブロック基:アダマンタン基,重量平均分子量(Mw)70万,水酸基価72mgKOH/g)5.0質量部と、架橋剤(C)としてのトリメチロールプロパン変性キシリレンジイソシアネート(綜研化学社製,製品名「TD-75」)1.5質量部と、シランカップリング剤としての3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.17質量部とを混合し、十分に撹拌して、メチルエチルケトンで希釈することにより、粘着性組成物の塗布溶液を得た。
【0138】
3.粘着シートの製造
得られた粘着性組成物の塗布溶液を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した重剥離型剥離シート(リンテック社製,製品名「SP-PET752150」)の剥離処理面に、ナイフコーターで塗布した。そして、塗布層に対し、90℃で1分間加熱処理して塗布層を形成した。
【0139】
次いで、上記で得られた重剥離型剥離シート上の塗布層と、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した軽剥離型剥離シート(リンテック社製,製品名「SP-PET381130」)とを、当該軽剥離型剥離シートの剥離処理面が塗布層に接触するように貼合し、23℃、50%RHの条件下で7日間養生することにより、厚さ25μmの粘着剤層を有する粘着シート、すなわち、重剥離型剥離シート/粘着剤層(厚さ:25μm)/軽剥離型剥離シートの構成からなる粘着シートを作製した。なお、粘着剤層の厚さは、JIS K7130に準拠し、定圧厚さ測定器(テクロック社製,製品名「PG-02」)を使用して測定した値である。
【0140】
ここで、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を100質量部(固形分換算値)とした場合の粘着性組成物の各配合(固形分換算値)を表1に示す。なお、表1に記載の略号等の詳細は以下の通りである。
[(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)]
BA:アクリル酸n-ブチル
MA:アクリル酸メチル
PhEA:アクリル酸2-フェノキシエチル
DMAEA:アクリル酸ジメチルアミノエチル
HEA:アクリル酸2-ヒドロキシエチル
【0141】
〔実施例2~6,比較例1~2〕
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を構成する各モノマーの種類および割合、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量(Mw)、ポリロタキサン化合物(B)の配合量、架橋剤(C)の配合量、ならびに粘着剤層の厚さを表1に示すように変更する以外、実施例1と同様にして粘着シートを製造した。各例における(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)のFOXの式により算出されたガラス転移温度(Tg)を表1に記載した。
【0142】
〔試験例1〕(ゲル分率の測定)
実施例および比較例で作製した粘着シートを80mm×80mmのサイズに裁断して、その粘着剤層をポリエステル製メッシュ(品名:テトロンメッシュ #200)に包み、その質量を精密天秤にて秤量し、上記メッシュ単独の質量を差し引くことにより、粘着剤のみの質量を算出した。このときの質量をM1とする。
【0143】
次に、上記ポリエステル製メッシュに包まれた粘着剤を、室温下(23℃)で酢酸エチルに24時間浸漬させた。その後粘着剤を取り出し、温度23℃、相対湿度50%の環境下で、24時間風乾させ、さらに80℃のオーブン中にて12時間乾燥させた。乾燥後、その質量を精密天秤にて秤量し、上記メッシュ単独の質量を差し引くことにより、粘着剤のみの質量を算出した。このときの質量をM2とする。ゲル分率(%)は、(M2/M1)×100で表される。結果を表2に示す。
【0144】
〔試験例2〕(水蒸気透過度の測定)
実施例および比較例で作製した粘着シートの粘着剤層を積層し、厚さ100μmとした。得られた厚さ100μmの上記粘着剤層について、2枚のテトロンメッシュ#380で挟み、40℃、90%RHの条件でJIS K7129に準拠して、透過率測定機(LYSSY社製,製品名「L80-5000」)を用いて、水蒸気透過度(g/(m・24h))を測定した。結果を表2に示す。
【0145】
〔試験例3〕(貯蔵弾性率G’の測定)
実施例および比較例で作製した粘着シートの粘着剤層を複数層積層し、厚さ3mmの積層体とした。得られた粘着剤層の積層体から、直径8mmの円柱体(高さ3mm)を打ち抜き、これをサンプルとした。
【0146】
上記サンプルについて、JIS K7244-1に準拠し、粘弾性測定装置(Anton paar社製,製品名「MCR302」)を用いてねじりせん断法により、以下の条件で貯蔵弾性率G’を測定し、23℃における貯蔵弾性率G’(23)および85℃における貯蔵弾性率G’(85)(MPa)を取得した。結果を表2に示す。
測定周波数:1Hz
測定温度:-20℃~150℃
【0147】
〔試験例4〕(ヘイズ値の測定)
実施例および比較例で作製した粘着シートの粘着剤層をガラスに貼合して、これを測定用サンプルとした。ガラスでバックグラウンド測定を行った上で、上記測定用サンプルについて、JIS K7136:2000に準じて、ヘイズメーター(日本電色工業社製,製品名「NDH-5000」)を用いて、23℃におけるヘイズ値(全光線ヘイズ値;%)を測定した。結果を表2に示す。
【0148】
また、上記測定用サンプルを-40℃の環境下に240時間置いた後、23℃、50%RHの環境下に1時間静置した。そして、上記と同様にしてヘイズ値(-40℃におけるヘイズ値;%)を測定した。結果を表2に示す。
【0149】
〔試験例5〕(全光線透過率の測定)
実施例および比較例で作製した粘着シートの粘着剤層をガラスに貼合して、これを測定用サンプルとした。ガラスでバックグラウンド測定を行った上で、上記測定用サンプルについて、JIS K7361-1:1997に準じて、ヘイズメーター(日本電色工業社製,製品名「SH-7000」)を用いて、23℃における全光線透過率(%)を測定した。結果を表2に示す。
【0150】
また、上記測定用サンプルを-40℃の環境下に240時間置いた後、23℃、50%RHの環境下に1時間静置した。そして、上記と同様にして全光線透過率(-40℃における全光線透過率;%)を測定した。結果を表2に示す。
【0151】
〔試験例6〕(L*a*b*の測定)
実施例および比較例で作製した粘着シートの粘着剤層について、同時測光分光式色度計(日本電色工業社製,製品名「SQ2000」)を使用し、CIE1976L*a*b*表色系により規定される明度L*、色度a*および色度b*を測定した。結果を表2に示す。
【0152】
〔試験例7〕(粘着力の測定)
実施例および比較例で作製した粘着シートから軽剥離型剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層を、易接着層を有するポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡社製,製品名「PET A4300」,厚さ:100μm)の易接着層に貼合し、重剥離型剥離シート/粘着剤層/PETフィルムの積層体を得た。得られた積層体を25mm幅、110mm長に裁断した。
【0153】
23℃、50%RHの環境下にて、上記積層体から重剥離型剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層をソーダライムガラス板(日本板硝子社製,製品名「ソーダライムガラス」,厚さ:1.1mm)に貼付し、栗原製作所社製オートクレーブにて0.5MPa、50℃で、20分加圧した。その後、23℃、50%RHの条件下で24時間放置してから、引張試験機(オリエンテック社製,テンシロン)を用い、剥離速度300mm/min、剥離角度180度の条件で、PETフィルムと粘着剤層との積層体を被着体から剥離したときの粘着力(N/25mm)を測定した。ここに記載した以外の条件はJIS Z0237:2009に準拠して、測定を行った。結果を表2に示す。
【0154】
〔試験例8〕(静的耐久性の評価)
23℃、50%RHの環境下にて、実施例および比較例で作製した粘着シートから軽剥離型剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層を、ポリイミド(PI)フィルム(東レ・デュポン社製,製品名「カプトン 100PI」,厚さ:25μm,ヤング率:3.4GPa)の一方の面に貼合した。次いで、重剥離型剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層を、同PIフィルムに貼合した。そして、栗原製作所社製オートクレーブにて0.5MPa、50℃で、20分加圧した後、23℃、50%RHの条件下で24時間放置した。このようにして得たPIフィルム/粘着剤層/PIフィルムからなる積層体を、50mm幅、200mm長に裁断し、これをサンプルとした。
【0155】
得られたサンプルを、85℃の環境下、図4に示すように、立設した2枚のガラス板からなる保持プレート(相互間距離:3mm)の間に、屈曲させた状態で24時間保持した。この静的屈曲試験を行った後、試験片の屈曲部における粘着剤層と被着体との界面に剥離がないか否か、目視により確認した。なお、各例ごと10サンプルについて評価を行った。結果を表3に示す。
◎:10サンプル全て剥離なし
〇:9~5サンプルにおいて剥離なし
△:4~2サンプルにおいて剥離なし
×:9サンプル以上で剥離あり
【0156】
〔試験例9〕(動的耐久性の評価)
試験例8と同様にして得たPIフィルム/粘着剤層/PIフィルムからなる積層体を、150mm×50mmに裁断し、これを試験片とした。得られた試験片の両端部を、図5に示すように、面状態無負荷U字伸縮試験機(ユアサシステム機器社製,製品名「DLDMLH-FS」)の2つの保持プレートに固定した。そして、85℃、50%RHの環境下、屈曲径3mmφ、ストローク80mm、屈曲速度30rpmにて、試験片を3万回屈曲させた。
【0157】
上記の動的屈曲試験を行った後、試験片の屈曲部における粘着剤層と被着体との界面に剥離がないか否か、目視により確認した。なお、各例ごと10サンプルについて評価を行った。結果を表3に示す。
◎:10サンプル全て剥離なし
〇:9~5サンプルにおいて剥離なし
△:4~2サンプルにおいて剥離なし
×:9サンプル以上で剥離あり
【0158】
〔試験例10〕(耐湿熱白化性の評価)
実施例および比較例で作製した粘着シートの粘着剤層を、厚さ1.1mmの無アルカリガラス板(水蒸気透過度0.0006g/(m・24h))と、厚さ0.7mmのプラスチック板(三菱レイヨン社製,製品名「アクリライト MR-200」,水蒸気透過度44g/(m・24h・100μm))とで挟み、これをサンプルとした。得られたサンプルを、50℃、0.5MPaの条件下で20分間オートクレーブ処理した後、常圧、23℃、50%RHにて24時間放置した。
【0159】
上記サンプルについて、JIS K7136:2000に準じ、ヘイズメーター(日本電色工業社製,製品名「NDH-5000」)を用いてヘイズ値(耐久試験前のヘイズ値;%)を測定した。
【0160】
次に、上記サンプルを、85℃、85%RHの湿熱条件下にて1000時間保管し(耐久試験)、その後、23℃、50%RHの常温常湿にて24時間放置した。当該サンプルについて、ヘイズ値(耐久試験後のヘイズ値;%)を上記と同様にして測定した。
【0161】
測定された耐久試験前後でのヘイズ値の差に基づき、以下の基準にて耐湿熱白化性を評価した。
◎…ヘイズ値の差が、1.5未満である。
○…ヘイズ値の差が、1.5以上、8.0未満である。
×…ヘイズ値の差が、8.0以上である。
【0162】
【表1】
【0163】
【表2】
【0164】
【表3】
【0165】
表3から分かるように、実施例の粘着シートの粘着剤層は、2つの屈曲性部材を貼合して長時間屈曲状態に置いたとき、および繰り返し屈曲させたときに、粘着剤層と屈曲性部材との界面に剥離が発生せず、耐久性に優れるものであった。また、実施例の粘着シートの粘着剤層は、耐湿熱白化性にも優れるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明は、繰り返し屈曲デバイスを構成する一の屈曲性部材と他の屈曲性部材とを貼合するのに好適である。
【符号の説明】
【0167】
1…粘着シート
11…粘着剤層
12a,12b…剥離シート
2…繰り返し屈曲積層部材
21…第1の屈曲性部材
22…第2の屈曲性部材
3…繰り返し屈曲デバイス
31…カバーフィルム
32…第1の粘着剤層
33…偏光フィルム
34…第2の粘着剤層
35…タッチセンサーフィルム
36…第3の粘着剤層
37…有機EL素子
38…第4の粘着剤層
39…TFT基板
S…試験片
P…保持プレート
図1
図2
図3
図4
図5