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特許7402077燃料電池システムにおける電解質膜・電極構造体の劣化検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】燃料電池システムにおける電解質膜・電極構造体の劣化検出方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20231213BHJP
   H01M 8/0438 20160101ALI20231213BHJP
   H01M 8/04664 20160101ALI20231213BHJP
   B60L 58/30 20190101ALI20231213BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20231213BHJP
【FI】
H01M8/04 Z
H01M8/0438
H01M8/04664
B60L58/30
H01M8/10 101
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020025871
(22)【出願日】2020-02-19
(65)【公開番号】P2021131957
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】井上 一秀
(72)【発明者】
【氏名】尾島 邦明
(72)【発明者】
【氏名】井上 智之
(72)【発明者】
【氏名】大神 統
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-174694(JP,A)
【文献】特開2018-60757(JP,A)
【文献】特開2014-175056(JP,A)
【文献】特開2012-119300(JP,A)
【文献】特開2019-114351(JP,A)
【文献】特開2013-246984(JP,A)
【文献】特開2016-27534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/04-8/0668
B60L 58/30-58/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジェクタを介して供給される燃料ガスが、燃料ガス供給路を通じて燃料ガス入口から電解質膜・電極構造体のアノード電極側に供給される一方、酸化剤ガスが酸化剤ガス入口から前記電解質膜・電極構造体のカソード電極側に供給されて発電する燃料電池と、
該燃料電池の発電電力により駆動される回転電機を含む負荷と
料ガス出口から前記燃料ガス入口までの燃料ガス循環路に配設された圧力センサと、
を備える燃料電池システムにおける前記電解質膜・電極構造体の劣化を検出する方法であって、
車速判定工程と、
荷変動抑制工程と
ガス圧低下勾配算出工程と
劣化判定工程と、を備え、
前記車速判定工程で、
前記燃料電池システムを搭載した車両が停止状態であるか前記車両の車速が所定車速以下であるかを判定した後、
前記負荷変動抑制工程では、
前記燃料電池から前記回転電機への電力の供給を停止して前記燃料電池が一定の発電電流を発電するアイドル発電状態にして前記負荷の変動を抑制し、
前記ガス圧低下勾配算出工程では、
前記負荷の変動が抑制されている間に、前記インジェクタが前記燃料ガス供給路を通じて間欠的に前記燃料ガスを吐出しているON区間の終了時点のガス圧と、前記燃料ガスを吐出しないOFF区間を経た、次のON区間の開始時点のガス圧と、から前記OFF区間のガス圧低下勾配を算出し、
前記劣化判定工程では、
算出された前記ガス圧低下勾配に基づき前記電解質膜・電極構造体の劣化の有無を判定する
燃料電池システムにおける電解質膜・電極構造体の劣化検出方法。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムにおける電解質膜・電極構造体の劣化検出方法であって、
前記圧力センサが、前記燃料ガス入口側に配置されている
燃料電池システムにおける電解質膜・電極構造体の劣化検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電解質膜・電極構造体のアノード電極側に供給される燃料ガスと前記電解質膜・電極構造体のカソード電極側に供給される酸化剤ガスの電気化学反応により発電する燃料電池を備える燃料電池システムにおける電解質膜・電極構造体の劣化検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、固体高分子型燃料電池は、高分子イオン交換膜からなる電解質膜の一方の面にアノード電極が、他方の面にカソード電極が、それぞれ配設された電解質膜・電極構造体(MEA)を備えている。MEAが、セパレータによって挟持されることにより、発電セル(単位セル)が構成されている。通常、所定の数の発電セルが積層されることにより、例えば、車載用燃料電池スタックとして燃料電池車両(燃料電池電気自動車等)に組み込まれている。
【0003】
前記発電セルにおいて、燃料ガスがカソード電極側にリークし、又は酸化剤ガスがアノード電極側にリークする「クロスリーク」が生じることがある。クロスリークが生じると、発電性能が低下する。
【0004】
例えば、特許文献1には、前記クロスリークを検出する技術が開示されている。この技術では、燃料ガス及び酸化剤ガスの少なくとも一方の反応ガスの供給停止後における対象セルの電圧挙動を電圧検出手段により検出する。次いで、反応ガス供給停止後における基準セルの電圧挙動と前記対象セルの電圧挙動との差に基づいて、対象セルのクロスリークをクロスリーク検出手段により検出する。このようにして、各セルのクロスリークを検出することができるとされている(特許文献1の[0008])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-73497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、上記技術により、クロスリークを精度良く検出することができるとされている。
【0007】
しかしながら、特許文献1では、クロスリークを検出するために、対象セルの電圧挙動を計測することが必要となり、各セルの電圧挙動を計測することから計測箇所が多く、計測が煩雑で、燃料電池スタックのセルのクロスリークを検出するのに相当に時間がかかるという課題がある。
【0008】
この発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、簡易に、短時間に、精度良く燃料電池の劣化(クロスリーク)を検出することを可能とする燃料電池システムにおける電解質膜・電極構造体の劣化検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の一態様に係る燃料電池システムにおける電解質膜・電極構造体の劣化検出方法は、インジェクタを介して供給される燃料ガスが、燃料ガス供給路を通じて燃料ガス入口から電解質膜・電極構造体のアノード電極側に供給される一方、酸化剤ガスが酸化剤ガス入口から前記電解質膜・電極構造体のカソード電極側に供給されて発電する燃料電池と、該燃料電池の発電電力により駆動される回転電機を含む負荷と、燃料ガス出口から前記燃料ガス入口までの燃料ガス循環路に配設された圧力センサと、を備える燃料電池システムにおける前記電解質膜・電極構造体の劣化を検出する方法であって、車速判定工程と、負荷変動抑制工程と、ガス圧低下勾配算出工程と劣化判定工程と、を備え、前記車速判定工程で、前記燃料電池システムを搭載した車両が停止状態であるか前記車両の車速が所定車速以下であるかを判定した後、前記負荷変動抑制工程では、前記燃料電池から前記回転電機への電力の供給を停止して前記燃料電池が一定の発電電流を発電するアイドル発電状態にして前記負荷の変動を抑制し、前記ガス圧低下勾配算出工程では、前記負荷の変動が抑制されている間に、前記インジェクタが前記燃料ガス供給路を通じて間欠的に前記燃料ガスを吐出しているON区間の終了時点のガス圧と、前記燃料ガスを吐出しないOFF区間を経た、次のON区間の開始時点のガス圧と、から前記OFF区間のガス圧低下勾配を算出し、前記劣化判定工程では、算出された前記ガス圧低下勾配に基づき前記電解質膜・電極構造体の劣化の有無を判定する。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、負荷の変動が抑制された状態で、燃料電池に燃料ガスを所定量供給したときの圧力の変化を、燃料ガス出口から燃料ガス入口までの燃料ガス循環路に配設された圧力センサにより計測するようにしたので、計測用に新たな部材を設けることなく簡易に、短時間に、精度良く燃料電池システムにおける電解質膜・電極構造体の劣化(クロスリーク)を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施形態に係る燃料電池システムにおける電解質膜・電極構造体の劣化検出方法が実施される燃料電池システムを搭載した車両(燃料電池車両)の構成例を示すブロック図である。
図2図2は、図1のうち、制御システムの概略構成を示すブロック図である。
図3図3は、燃料電池車両の通常走行時の発電動作説明に供される矢線を付したブロック図である。
図4図4は、実施形態に係る燃料電池システムにおける電解質膜・電極構造体の劣化検出方法の説明に供されるフローチャートである。
図5図5は、図4のうち、劣化検出処理の詳細説明に供されるフローチャートである。
図6図6A図6B図6Cは、実施形態に係る燃料電池システムにおける電解質膜・電極構造体の劣化検出方法の説明に供されるタイミングチャートである。
図7図7A図7Bは、比較例に係る燃料電池システムにおける電解質膜・電極構造体の劣化検出方法の説明に供されるタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明に係る燃料電池システムにおける電解質膜・電極構造体の劣化検出方法について実施形態を挙げ、添付の図面を参照して以下に詳細に説明する。
【0013】
[実施形態]
[構成]
図1は、実施形態に係る燃料電池システムにおける電解質膜・電極構造体の劣化検出方法が実施される燃料電池システム12を搭載した車両(燃料電池車両)10の構成例を示す概略ブロック図である。
【0014】
図1に示すように、燃料電池車両10は、例えば、燃料電池電気自動車である。
【0015】
燃料電池車両10は、燃料電池システム12の他、数百ボルト程度の高電圧Vhを発生する高圧バッテリ(HVBAT:高圧蓄電装置)14、該高圧バッテリ14よりも電圧の低い数十ボルト程度以下の低電圧Vl、例えば+12[V]を発生する低圧バッテリ(LVBAT:低圧蓄電装置)16、昇圧コンバータ(FCVCU:燃料電池電圧制御ユニット)18、インバータ(INV:回転電機の駆動装置)20、モータ(車両駆動用の回転電機)24、昇降圧(両方向)コンバータ(BATVCU:バッテリ電圧制御ユニット)26、降圧コンバータ(DC/DCコンバータ)28、制御システム(ECU)30、及び電源スイッチ(電源SW)32を備える。
【0016】
図2は、図1のうち、制御システム30の概略構成を示すブロック図である。なお、図2において、図1に示したものと同一の構成要素には同一の符号を付けている。
【0017】
制御システム30は、それぞれが、ECU(電子制御ユニット)により構成される統括ECU(MGECU)30A、モータECU30B、FCECU30C、バッテリECU(BATECU)30D、及び昇圧コンバータ制御ECU(FCVCUECU)30Eを含む。
【0018】
各ECUは、CPUがメモリに記憶されたプログラムを実行することで後述する各種機能制御部等として動作し、燃料電池システム12を含む燃料電池車両10の各構成要素を制御線(無線も含む。)を通じて制御する。
【0019】
図1において、燃料電池システム12は、基本的には、燃料電池スタック(燃料電池)34、酸化剤ガス供給装置36、及び燃料ガス供給装置38を備える。
【0020】
酸化剤ガス供給装置36は、燃料電池スタック34に酸化剤ガスを供給し、燃料ガス供給装置38は、前記燃料電池スタック34に燃料ガスを供給する。
【0021】
燃料電池スタック34は、複数の発電セル40が積層される。発電セル40は、電解質膜・電極構造体44と、前記電解質膜・電極構造体44を挟持するセパレータ45、46とを備える。
【0022】
電解質膜・電極構造体44は、例えば、水分を含んだパーフルオロスルホン酸の薄膜である固体高分子電解質膜41と、前記固体高分子電解質膜41を挟持するカソード電極42及びアノード電極43とを備える。
【0023】
カソード電極42及びアノード電極43は、カーボンペーパ等からなるガス拡散層(図示せず)を有する。白金合金が表面に担持された多孔質カーボン粒子は、ガス拡散層の表面に一様に塗布されることにより、電極触媒層(図示せず)が形成される。電極触媒層は、固体高分子電解質膜41の両面に形成される。
【0024】
一方のセパレータ45の電解質膜・電極構造体44に向かう面には酸化剤ガス入口連通口(酸化剤ガス入口)58aと酸化剤ガス出口連通口(酸化剤ガス出口)58bとを連通するカソード流路(酸化剤ガス流路)47が形成される。すなわち、燃料電池スタック34には、カソード流路47を通じてカソード電極42に酸化剤ガス(例えば、空気)を供給する酸化剤ガス入口連通口58a及び酸化剤ガス出口連通口58bが形成される。
【0025】
他方のセパレータ46の電解質膜・電極構造体44に向かう面には、燃料ガス入口連通口(燃料ガス入口)56aと燃料ガス出口連通口(燃料ガス出口)56bとを連通するアノード流路(燃料ガス流路)48が形成される。すなわち、燃料電池スタック34には、アノード流路48を通じてアノード電極43に燃料ガス(例えば、水素ガス)を供給する燃料ガス入口連通口56a及び燃料ガス出口連通口56bが形成される。
【0026】
なお、燃料電池スタック34には、各発電セル40に図示しない冷却媒体を流通させる冷却媒体入口連通口(不図示)及び冷却媒体出口連通口(不図示)が形成される。
【0027】
積層された発電セル40の出力、すなわち燃料電池スタック34の出力(高電圧の発電電圧Vfcの発電電力)は、制御システム30による制御下に、昇圧コンバータ18及びインバータ20を通じてモータ24に供給されると共に、昇圧コンバータ18及び昇降圧コンバータ(降圧コンバータとして機能)26を通じて高圧バッテリ14に充電可能である。
【0028】
また、燃料電池スタック34の出力(発電電圧Vfcの発電電力)は、昇圧コンバータ18、昇降圧コンバータ(降圧コンバータとして機能)26及び降圧コンバータ28を通じて低圧バッテリ16に充電可能である。
【0029】
高圧バッテリ14の高電圧Vhの電力は、例えば、電源スイッチ32がオフ(OFF)状態からオン(ON)状態に遷移する起動時(始動時)あるいは燃料電池車両10の走行中のアクセル操作による加速時に昇降圧コンバータ(昇圧コンバータとして機能)26、及びインバータ20を通じてモータ24を駆動可能である。
【0030】
このように、モータ24は、高圧バッテリ14の電力及び/又は燃料電池スタック34の電力(力行電力)により駆動可能である。一方、減速時に発生するモータ24の回生電力は、インバータ20、昇降圧コンバータ(降圧コンバータとして機能)26を通じて、高圧バッテリ14に充電される。
【0031】
さらに、高圧バッテリ14の高電圧Vhの電力は、エアポンプ(AP、エアコンプレッサ)52やエアコンディショナ(不図示)を駆動可能である。
【0032】
低圧バッテリ16の低電圧Vlの電力は、酸化剤ガスの排気再循環ポンプ(EGRポンプ)54、インジェクタ57、制御システム30、及び後述する各種電磁バルブの他、図示しない灯火器等の低圧負荷に供給される。
【0033】
酸化剤ガス供給装置36には、大気からの空気を吸入し圧縮して酸化剤ガスとして燃料電池スタック34に供給するエアポンプ52が、酸化剤ガス供給路60に配設される。
【0034】
酸化剤ガス供給路60には、加湿器(HUM)62と、バイパスバルブ64を介して前記加湿器62をバイパスするバイパス路66とが設けられる。
【0035】
酸化剤ガス供給路60は、加湿器62及び酸化剤ガス供給路65を通じて燃料電池スタック34の酸化剤ガス入口連通口58aに連通する。
【0036】
酸化剤ガス出口連通口58bには、酸化剤排ガス排出路67及び加湿器62を通じて、酸化剤排ガス排出路68が連通する。酸化剤排ガス排出路68と酸化剤ガス供給路60との間にはEGRポンプ54が設けられている。
【0037】
EGRポンプ54は、例えば、電源スイッチ32がオフ状態とされた発電終了時に、酸化剤ガス出口連通口58bから排出されたガスである酸化剤排ガス(カソードオフガス)の一部を酸化剤ガス入口連通口58a側に還流させる。
【0038】
エアポンプ52の酸化剤ガス供給路60側には、入口封止バルブ70が配設される。
【0039】
酸化剤排ガス排出路68には、出口封止バルブ72が設けられると共に、出口封止バルブ72の下流には、背圧制御バルブ74を通じて希釈器76が接続される。
【0040】
燃料ガス供給装置38は、高圧水素を貯留する高圧の水素タンク80を備え、前記高圧の水素タンク80は、燃料ガス供給路82を介して燃料電池スタック34の燃料ガス入口連通口56aに連通する。燃料ガス供給路82には、水素タンク80側から燃料ガスの流れ方向に沿って、図示しない遮断バルブ、燃料ガスの圧力調整用のレギュレータバルブ84、インジェクタ57及びエジェクタ86が、直列に設けられる。なお、インジェクタ57は、2個以上を並列に設けてもよい。
【0041】
燃料電池スタック34の燃料ガス出口連通口56bには、燃料排ガス路88が連通する。燃料排ガス路88は、気液分離器90に接続されると共に、前記気液分離器90には、液体成分(液水)を排出するドレン路92と、水素及び窒素を含む気体成分を排出する気体路94とが設けられる。
【0042】
気体路94は、循環路96を介してエジェクタ86に接続される一方、パージバルブ98の開放作用下に希釈器76に連通する。ドレン路92は、ドレンバルブ100を介して希釈器76に連通する。
【0043】
希釈器76は、燃料電池スタック34の燃料ガス出口連通口56bから排出される燃料排ガス(水素ガスを含有するアノードオフガス)と、前記燃料電池スタック34の酸化剤ガス出口連通口58bから排出される酸化剤排ガス(酸素を含有するカソードオフガス)とを混在させて、水素濃度を規定値以下に希釈する機能を有する。
【0044】
酸化剤ガス供給路65、酸化剤排ガス排出路67、燃料ガス供給路82、燃料排ガス路88及び高圧の水素タンク80の出口側には、それぞれ圧力センサ102a、102b、102c、102d及び102eが配置される。酸化剤ガス供給路65には、湿度計103が配置される。酸化剤排ガス排出路67、燃料排ガス路88には、温度計104a、104bが配置される。
【0045】
なお、この実施形態では、理解の便宜のために、燃料ガス入口連通口56aの入口側に配置される圧力センサ102cにより計測されるガス圧力(燃料ガス圧力、水素圧力)をガス圧PHとする。ガス圧PHは、FCECU30Cに送られる。
【0046】
高圧バッテリ14、低圧バッテリ16、昇圧コンバータ18、昇降圧コンバータ26、降圧コンバータ28及びインバータ20等の電気回路には、図示しない電圧計、電流計及び温度計が配置され、各計測値は、制御システム30に送られる。
【0047】
図2において、FCECU30Cは、酸化剤ガス供給装置36(エアポンプ52等)を制御して燃料電池34に対する酸化剤ガスの供給を制御すると共に、燃料ガス供給装置38(水素タンク80からの水素の供給を遮断する図示しない遮断バルブ、レギュレータバルブ84、インジェクタ57等)を制御して燃料電池34に対して燃料ガスの供給を制御する。また、FCECU30Cは、燃料電池34の状態等を検知して統括ECU30Aに送る。
【0048】
昇圧コンバータ用ECU30Eは、統括ECU30Aからの稼働指令に基づき昇圧コンバータ18を駆動制御し燃料電池スタック34の発電電流Ifcを制御する。
【0049】
なお、燃料電池スタック34は、該燃料電池スタック34の端子間電圧である発電電圧Vfcが上昇すると、発電電流Ifcが低下する所定の電圧・電流特性を有しているので、昇圧コンバータ用ECU30Eを通じて昇圧コンバータ18により燃料電池34の発電電圧Vfcを固定制御することにより、該固定の発電電圧Vfcに応じた発電電流Ifcを、前記電圧・電流特性上の一定値に制御することができる。
【0050】
昇圧コンバータ用ECU30Eは、統括ECU30Aから稼働指令を受けると共に、燃料電池34の稼働状態(発電電流Ifc等)を統括ECU30Aに送る。
【0051】
モータECU30Bは、統括ECU30Aからの稼働指令を受けてインバータ20を通じてモータ24をトルク制御すると共に、昇降圧コンバータ26を通じて高圧バッテリ14からインバータ20に印加される電圧を昇圧制御する。モータECU30Bは、回生時にモータ24の回生電圧を昇降圧コンバータ26を通じて降圧し高圧バッテリ14に充電する降圧制御も行う。なお、モータECU30Bからモータ24等の稼働状態が統括ECU30Aに送られる。
【0052】
バッテリECU30Dは、高圧バッテリ14の充放電制御を行うと共に、降圧コンバータ28を通じて低圧バッテリ16の充放電制御を行う。なお、バッテリECU30Dから高圧バッテリ14及び低圧バッテリ16の稼働状態(BAT稼働状態)が統括ECU30Aに送られる。
【0053】
[走行時等における燃料電池車両10の通常動作]
基本的には以上のように構成される燃料電池システム12を搭載した燃料電池車両10の走行時等における通常動作(それぞれ加減速動作を伴う市中走行、郊外走行、及び高速道走行等の通常走行時発電動作)について、図1のブロック図に、燃料ガス、酸化剤ガス、及び電力の流れに沿って矢線を付した図3を参照して、以下に説明する。
【0054】
電源スイッチ32がON状態となっている通常動作時には、高電圧Vhの電力で動作するエアポンプ52から酸化剤ガス供給路60に酸化剤ガス(空気)が送られる。この酸化剤ガスは、加湿器62を通って加湿された後、又は、バイパス路66を通って前記加湿器62をバイパスした後、燃料電池スタック34の酸化剤ガス入口連通口58aに供給される。
【0055】
なお、加湿器62は、酸化剤ガス(乾燥した空気)が流通する流路63aと、燃料電池スタック34の酸化剤ガス出口連通口58bからの排出ガス(湿潤な酸化剤排ガス、カソードオフガス)が、燃料電池スタック34の酸化剤ガス出口連通口58b及び酸化剤排ガス排出路67を通じて流通する流路63bを有し、エアポンプ52から供給された酸化剤ガスを加湿する機能を有している。すなわち、加湿器62は、酸化剤排ガス中に含まれる水分を、多孔質膜を介して供給ガス(酸化剤ガス)に移動させる。
【0056】
このときの加湿の程度は、固体高分子電解質膜41を加湿して燃料電池スタック34において発電性能が良好に発揮される加湿量に設定される。加湿量の設定は、湿度計103を参照した制御システム30によるバイパスバルブ64の開度制御により行われる。
【0057】
一方、燃料ガス供給装置38では、制御システム30の制御下にレギュレータバルブ84でガス圧が制御された水素タンク80からの燃料ガスが、制御システム30によるインジェクタ57の開閉制御下に、燃料ガス供給路82に吐出される。この燃料ガスは、循環路96を通じてエジェクタ86に吸引された燃料排ガスと混合されてエジェクタ86から吐出され、燃料電池スタック34の燃料ガス入口連通口56aに供給される。なお、燃料排ガスを循環させるエジェクタ86に加えて、循環路96に循環ポンプ、いわゆる水素循環ポンプを設けてもよい。
【0058】
燃料電池スタック34内で、酸化剤ガスは、酸化剤ガス入口連通口58aから各発電セル40のカソード流路47を介してカソード電極42に供給される。一方、水素ガスは、燃料ガス入口連通口56aから各発電セル40のアノード流路48を介してアノード電極43に供給される。従って、各発電セル40では、カソード電極42に供給される空気中に含まれる酸素ガスと、アノード電極43に供給される水素ガスとが、電極触媒層内で電気化学反応により消費されて発電が行われる。
【0059】
次いで、カソード電極42に供給されて酸素が消費された酸化剤排ガス及び反応生成水は、酸化剤ガス出口連通口58bに排出され、酸化剤排ガス排出路68を流通して希釈器76に導入される。同様に、アノード電極43に供給され水素が消費された燃料排ガス(一部が消費された燃料ガス)が燃料ガス出口連通口56bに排出される。燃料排ガスは、燃料排ガス路88から気液分離器90に導入されて液体成分(液水)が除去された後、気体路94から循環路96を介してエジェクタ86に吸引される。
【0060】
複数の発電セル40が電気的に直列に接続された燃料電池スタック34により発電された高電圧の発電電圧Vfcの電力は、制御システム30の制御下に昇圧コンバータ18を介してモータ24の必要駆動トルクを得るためにさらに高電圧(駆動電圧)Vinvの電力に変換されてインバータ20の入力側に供給される。
【0061】
インバータ20は、図示しないアクセル開度に基づいて制御システム30を通じてデューティが制御され、モータ24を3相PWM駆動する。これにより燃料電池車両10が走行する。
【0062】
燃料電池スタック34により発電された発電電圧Vfcの電力に余裕がある場合、制御システム30の制御下に昇降圧コンバータ26を通じて高電圧Vhの高圧バッテリ14を充電すると共に、降圧コンバータ28を介して低電圧Vlの電力に変換して低圧バッテリ16を充電する。
【0063】
高圧バッテリ14の高電圧Vhの電力は、モータ24の他、エアポンプ52、図示しないエアコンディショナ等の高圧負荷に供給される。
【0064】
低圧バッテリ16の低電圧Vlの電力は、制御システム30、インジェクタ57等の低圧負荷に供給される。
【0065】
高圧バッテリ14及び低圧バッテリ16の各SOC(充電状態、満充電状態で100[%])は、図示しない電圧計、電流計、温度計により検出される電圧、電流、温度に基づいて図示しないマップが参照されて制御システム30により算出される。
【0066】
[燃料電池車両10の燃料電池システム12における電解質膜・電極構造体44の劣化検出動作]
以上が走行時等における燃料電池システム12の通常動作の説明である。次に、この発明の要部に係わる燃料電池システムにおける電解質膜・電極構造体の劣化検出方法について、これを実施する燃料電池システム12を搭載する燃料電池車両10との関係において、図4のフローチャートを参照して、以下に説明する。
【0067】
ステップS1にて、統括ECU30Aは、電源スイッチ32がON状態にあるか否かを確認し、ON状態にある(ステップS1:YES)とき、ステップS2にて、モータ24のエンコーダ(不図示)からエンコード信号が入力されるモータECU30Bから車速情報を得、車速が所定車速以下であるか否か判定する。
【0068】
この実施形態では、燃料電池車両10が停止状態(ステップS2:YES)であって、燃料電池スタック34が、いわゆるアイドル発電状態にあるものとする。
【0069】
次いで、ステップS3にて、燃料電池スタック34から出力される発電電流Ifcの値が、所定電流値(閾値電流値)Ith未満である(Ifc<Ith)か否かが判定される。
【0070】
所定電流値Ith未満でない(ステップS3:NO)ときには、すなわち、発電電流Ifcの値が所定電流値Ithより大きい大電流である時には、後述する劣化検出処理(ステップS8)を実行しても検出精度が悪くなるので、ステップS4にて負荷変動抑制要求が非出力の状態であることが確認され、ステップS2に戻る。
【0071】
一方、発電電流Ifcの値が、所定電流値Ith未満である(ステップS3:YES、Ifc<Ith)場合には、ステップS5にてFCECU30Cから負荷変動抑制要求が出力され、これを検知した統括ECU30Aは、ステップS6にて、各ECU(FCECU30C、昇圧コンバータ用ECU30E、モータECU30B、バッテリECU30D)の稼働状態を確認する。
【0072】
そして、確認した稼働状態に基づき燃料電池スタック34の負荷変動抑制制御(低負荷電力制御)が可能である(ステップS6:YES)と判断した場合、昇圧コンバータ用ECU30Eの制御下に昇圧コンバータ18の入力電圧、すなわち発電電圧(燃料電池電圧)Vfcの値を、発電電流Ifcの値が所定電流値(閾値電流値)Ith以下の一定値になるように保持制御し、ステップS8の燃料電池システム12の劣化検出処理に進む。
【0073】
なお、負荷変動抑制制御(低負荷電力制御)が可能ではない(ステップS6:NO)と判断した場合、ステップS7にて、燃料電池システム12の劣化検出処理は、非実施であるとしてステップS2に戻る。
【0074】
図5は、ステップS8の燃料電池システム12の劣化検出処理の説明に供される詳細フローチャートである。
【0075】
図6A図6B図6Cは、ステップS8の燃料電池システム12の劣化検出処理の説明に供されるタイミングチャートである。
【0076】
ステップS8aにて、図6Aに示す負荷変動が抑制された低負荷(Ifc<Ith:ステップS3:YES)状態で、図6Cに示すように、FCECU30Cは、間欠的にインジェクタ57をON状態(時点t1~t2=Ton:ON、時点t2~t3=Toff:OFF)にし、そのON区間Tonに燃料ガスを所定量吐出させ、エジェクタ86を通じて燃料ガス入口連通口56aに供給する。
【0077】
次いで、ステップS8bにて、吐出後のOFF区間(時点t2~t3=ΔT)での発電によるガス圧PHの降下値を圧力センサ102cによりガス圧ΔPとして計測する(図6B参照)。なお、OFF区間は、ms(ミリセコンド)オーダーの期間である。
【0078】
次いで、ステップS8cにて、吐出後のOFF区間(ΔT)でのガス圧PHの低下勾配を、ΔP/ΔTとして算出する。
【0079】
次に、算出した低下勾配|ΔP/ΔT|が、予め設定された所定勾配|Sth|を上回る(|ΔP/ΔT|>|Sth|)か否かをステップS8dにて判定する。
【0080】
|ΔP/ΔT|>|Sth|と判定が成立した(ステップS8d:YES)場合、ステップS8eにて、相対的に高圧とされているアノード電極43側から相対的に低圧とされているカソード電極42への燃料ガスのクロスリークが発生していて電解質膜・電極構造体44が劣化していると判定する。
【0081】
その一方、|ΔP/ΔT|≦|Sth|と判定が非成立の場合、ステップS8fにて、クロスリークは非発生で電解質膜・電極構造体44が正常であると判定する。
【0082】
なお、図7A図7Bは、比較例のタイミングチャートである。図7Aに示すように、発電電流Ifcの値が小電流の所定電流値Ith以上の値である(ステップS3:NO)場合には、発電電流Ifcに応じた燃料ガスを吐出する必要があるため、図7Bに示すように、圧力センサ102cにより検出されるガス圧PHの変動が大きくなり、吐出後のOFF区間(図6B図6Cの時点t2~t3=ΔTに対応する区間)でのガス圧PHの降下値を圧力センサ102cにより識別して計測することが略不可能であり、結果として、電解質膜・電極構造体44の劣化を精度良く検出することができない。
【0083】
つまり、負荷変動が大きい場合には、負荷変動に追随して圧力変動も大きくなるため、図6A図6B図6Cを参照して説明したIfc<Ith(負荷制限)を前提として圧力降下手法による検知精度が著しく悪化し、電解質膜・電極構造体44の劣化によるガス圧低下と見分け難くなる。
【0084】
[実施形態から把握し得る発明]
ここで、上記実施形態から把握し得る発明について、以下に記載する。なお、理解の便宜のために構成要素には実施形態で用いた符号を付けているが、該構成要素は、その符号をつけたものに限定されない。
【0085】
この発明に係る燃料電池システムにおける電解質膜・電極構造体の劣化検出方法は、燃料ガス供給路82を通じて供給される燃料ガスが燃料ガス入口56aから電解質膜・電極構造体44のアノード電極43側に供給されると共に、燃料ガス出口56bからの燃料排ガスが前記燃料ガスに混合されて前記燃料ガス入口56aに供給される一方、酸化剤ガスが酸化剤ガス入口58aから前記電解質膜・電極構造体44のカソード電極42側に供給されて発電する燃料電池34と、該燃料電池34の発電電力により駆動される負荷24と、前記燃料ガス出口56bから前記燃料ガス入口56aまでの燃料ガス循環路96に配設された圧力センサ102cと、を備える燃料電池システム12における前記電解質膜・電極構造体44の劣化を検出する方法であって、前記負荷の変動を抑制する負荷変動抑制工程(ステップS5、S6)と、前記負荷の変動が抑制された状態で、前記燃料電池34に前記燃料ガスを所定量供給した後の圧力の変化を、前記圧力センサ102cにより計測するガス圧計測工程(ステップS8b)と、を備える。
【0086】
このように、負荷の変動が抑制された状態で、燃料ガスを燃料電池34に所定量供給した後の圧力の変化を、前記燃料ガス出口56bから前記燃料ガス入口56aまでの燃料ガス循環路96に配設された圧力センサ102cにより計測するようにしたので、計測用に新たな部材を設けることなく簡易に、短時間に、精度良く燃料電池システム12における電解質膜・電極構造体44の劣化(クロスリーク)を検出することができる。
【0087】
この場合、前記燃料ガス供給路82に直列にインジェクタ57とエジェクタ86を配設し、前記エジェクタ86は、前記インジェクタ57から供給される燃料ガスに、前記燃料排ガスを吸引して混合した燃料ガスを前記燃料ガス入口56aに吐出し、前記インジェクタ57は、前記燃料ガスの前記所定量の供給を担うようにしている。
【0088】
この構成によれば、インジェクタ57の開閉制御下に、容易に所定小量の燃料ガスを燃料電池34に供給することができる。
【0089】
なお、前記圧力センサ102cが、前記エジェクタ86の吐出口と前記燃料ガス入口56aとの間に配設されているようにすることでガス圧計測用の新たな圧力センサを設ける必要がない。
【0090】
ここで、前記圧力センサ102cにより計測された検出圧力ΔPの所定時間Toff(ΔT)内の低下量に基づき前記電解質膜・電極構造体44の劣化の有無を判定する劣化判定工程(ステップS8d)をさらに備えることが好ましい。
【0091】
この構成によれば、負荷変動抑制制御実施中(ステップS6)に、劣化検出処理を実施することができる。
【0092】
さらに、前記負荷が回転電機24を含み、前記負荷の変動を抑制する負荷変動抑制工程(ステップS6:YES)では、前記回転電機24への電力の供給が停止されているようにすることが好ましい。
【0093】
回転電機24の回転停止状態の低負荷時のアイドル発電時に安定した値の検出圧力ΔPを検出することができるので、検出精度を上げることができる。
【0094】
なお、この発明は、上述の実施形態に限らず、この明細書の記載内容に基づき、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【符号の説明】
【0095】
10…燃料電池車両 12…燃料電池システム
14…高圧バッテリ 16…低圧バッテリ
18…昇圧コンバータ 20…インバータ
24…負荷(モータ、回転電機) 26…昇降圧コンバータ
28…降圧コンバータ 30…制御システム
30A…統括ECU 30B…モータECU
30C…FCECU 30D…バッテリECU
30E…昇圧コンバータ用ECU 32…電源スイッチ
34…燃料電池スタック(燃料電池) 36…酸化剤ガス供給装置
38…燃料ガス供給装置 40…発電セル
41…固体高分子電解質膜 42…カソード電極
43…アノード電極 44…電解質・電極構造体
45、46…セパレータ 47…カソード流路
48…アノード流路 52…エアポンプ
54…EGRポンプ 56a…燃料ガス入口連通口
56b…燃料ガス出口連通口 57…インジェクタ
58a…酸化剤ガス入口連通口 58b…酸化剤ガス出口連通口
60、65…酸化剤ガス供給路 62…加湿器
80…水素タンク(燃料タンク) 86…エジェクタ
96…燃料ガス循環路 102a~102e…圧力センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7