(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】緩衝器
(51)【国際特許分類】
F16F 9/58 20060101AFI20231213BHJP
F16F 9/32 20060101ALI20231213BHJP
F16F 9/516 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
F16F9/58 A
F16F9/32 N
F16F9/516
(21)【出願番号】P 2020045472
(22)【出願日】2020-03-16
【審査請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】514241869
【氏名又は名称】カヤバモーターサイクルサスペンション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】森 健
【審査官】松林 芳輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-215040(JP,A)
【文献】特開2001-241485(JP,A)
【文献】特開2015-187469(JP,A)
【文献】特開平04-157224(JP,A)
【文献】特開2014-173620(JP,A)
【文献】特開2014-181737(JP,A)
【文献】特開2014-181757(JP,A)
【文献】特開2005-054924(JP,A)
【文献】特開2014-031852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/00-9/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、
前記シリンダの端部に設けられた環状のロッドガイドと、
前記ロッドガイドの内周に挿通されて前記シリンダ内に移動自在に挿入されるピストンロッドと、
前記シリンダ内に挿入されて前記シリンダ内を圧側室と前記ロッドガイドに面する伸側室とに区画するピストンと、
前記ピストンロッドの側方から開口して前記伸側室と前記圧側室とを連通する通路と、
前記ピストンロッドの外周に軸方向移動可能に装着されて前記通路を開閉する環状のシャッタと、
前記シャッタと前記ロッドガイドとを連結する弾性部材と、
前記ピストンロッドに装着されて前記シャッタに軸方向で対向するストッパとを備え、
前記シャッタは、前記ストッパと当接して前記通路を閉じた状態で前記ストッパから離間するように前記圧側室の圧力を受ける受圧部を有する
ことを特徴とする緩衝器。
【請求項2】
前記シャッタは、前記ピストンロッドの外周に摺接する筒状のシャッタ部と、前記シャッタ部のストッパ側端の外周に設けられて前記ストッパに対向するフランジ部と、前記シャッタ部の内周から前記フランジ部の内周にかけて設けられるとともに前記シャッタが前記ストッパに当接した状態で前記通路に対向する環状凹部とを有し、
前記受圧部は、前記環状凹部で形成されたテーパ面である
ことを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項3】
前記シャッタは、前記ピストンロッドの外周に摺接する筒状のシャッタ部と、前記シャッタ部のストッパ側端の外周に設けられて前記ストッパに対向するフランジ部と、前記シャッタ部の内周から前記フランジ部の内周にかけて設けられるとともに前記シャッタが前記ストッパに当接した状態で前記通路に対向する環状凹部とを有し、
前記受圧部は、前記環状凹部で前記シャッタ部に形成されて前記ストッパに平行な第1環状面と、前記環状凹部で前記フランジ部に形成されて前記ストッパに平行な第2環状面とで形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項4】
前記ロッドガイドに装着されて、前記ストッパに当接した際に内周側に空隙を形成する環状のリバウンドクッションを備えた
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
緩衝器は、たとえば、鞍乗型車両における車両の車体と車輪との間に介装されて使用され、伸縮時に発生する減衰力で車体と車輪の振動を抑制する。
【0003】
緩衝器は、内部に搭載されているバルブによって減衰力を発生するが、このほかに、最伸長時におけるロッドガイドとピストンロッドの先端に設けたリバウンドストッパとの激しい衝突を防止するために、ストロークエンド近傍まで伸長するとそれ以上の伸長を抑制する油圧ロック機構を備える場合がある。
【0004】
油圧ロック機構は、たとえば、シリンダの端部に装着されるロッドガイドに取り付けられた環状のリバウンドクッションと、ロッドガイドにコイルばねを介して取り付けられてピストンロッドの外周に移動自在に摺接してピストンロッドに設けられた伸側室と圧側室とを連通する減衰力調整用通路を開閉するシャッタとを備えている。
【0005】
具体的には、シャッタは、ピストンロッドがシリンダに対して伸側のストロークエンド近傍まで変位すると、ピストンロッドの外周に装着された環状のストッパに当接して、ピストンロッドの側方から開口する減衰力調整用通路を閉塞する。シャッタによって減衰力調整用通路が閉塞されるため、伸側室内の圧力上昇が促進されてピストンロッドの伸長側への移動が抑制される。また、この状態からさらに緩衝器が伸長作動すると、シャッタが減衰力調整用通路閉じたままストッパと共に移動し、リバウンドクッションがストッパに当接する。この状態では、シャッタによって減衰力調整用通路が閉塞されるとともにリバウンドクッションとリバウンドストッパとの当接によって、リバウンドクッションの内周側の空間が伸側室および圧側室から隔絶される。このような状況となると、油圧ロック機構は、ピストンロッドが伸長側へのストロークに対して前記空間内の圧力を上昇させてピストンロッドのそれ以上の伸長側への移動を阻止する油圧ロック機能を発揮して、リバウンドストッパとロッドガイドとが勢いよく衝突するのを防止している(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、従来の緩衝器では、コイルばねでシャッタをロッドガイドから離間した位置に配置でき、減衰力調整用通路を早いタイミングで閉塞できるので、ピストンロッドの速度を十分に減速して、最伸長時の衝撃を緩和できる。
【0008】
しかしながら、従来の緩衝器では、シャッタが減衰力調整用通路を閉塞してからピストンロッドの移動方向が逆となって収縮する際に、シャッタが減衰力調整用通路を開放するまでに要するピストンロッドの収縮側への移動量が多くなる。つまり、シャッタをコイルばねによってピストン側にずらして配置した分だけ、緩衝器の伸長時にシャッタが減衰力調整用通路を閉塞してからピストンロッドがストロークエンドへ達するまでの距離を長くできるが、反対にピストンロッドが伸長側のストロークエンドから収縮側へ移動する際にシャッタが減衰力調整用通路を開放するまでのピストンロッドの移動量が増えてしまう。
【0009】
すると、この緩衝器の伸長の際にシャッタによって減衰力調整用通路が閉塞されて油圧ロックが機能してから緩衝器が収縮する際、シャッタが減衰力調整用通路を開放するまでの間、油圧ロック機能が発揮されたままとなる。このような状況となると、緩衝器の収縮初期の減衰力が高くなって、緩衝器はスムーズに収縮作動できなくなってしまう。
【0010】
そこで、本発明は、最伸長後の収縮行程への切り換わりにおいて減衰力が過剰となるのを抑制して車両における乗心地を向上できる緩衝器の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記した課題を解決するために、本発明の緩衝器は、シリンダと、シリンダの端部に設けられた環状のロッドガイドと、ロッドガイドの内周に挿通されてシリンダ内に移動自在に挿入されるピストンロッドと、シリンダ内に挿入されてシリンダ内を圧側室とロッドガイドに面する伸側室とに区画するピストンと、ピストンロッドの側方から開口して伸側室と圧側室とを連通する通路と、ロッドガイドの外周に軸方向移動自在に装着されて通路を開閉する環状のシャッタと、シャッタとロッドガイドとを連結する弾性部材と、ピストンロッドに装着されてシャッタに軸方向で対向するストッパとを備え、シャッタは、ストッパと当接して通路を閉じた状態でストッパから離間するように圧側室の圧力を受ける受圧部を有している。
【0012】
このように構成された緩衝器では、最伸長後に収縮行程に切り換わった際にシャッタが速やかに通路を開放するので、最伸長時の液圧ロック機能を発揮しつつも、最伸長後の収縮行程への切り換わりにおいて過剰な減衰力を発生することなく収縮作動する。
【0013】
また、緩衝器におけるシャッタは、ピストンロッドの外周に摺接する筒状のシャッタ部と、シャッタ部のストッパ側端の外周に設けられてストッパに対向するフランジ部と、シャッタ部の内周からフランジ部の内周にかけて設けられるとともにシャッタがストッパに当接した状態で通路に対向する環状凹部とを有しており、受圧部が環状凹部で形成されたテーパ面となっていてもよい。このように構成された緩衝器によれば、シャッタの受圧部の有効受圧面積も確保しつつも、液体がシャッタとストッパとの間をスムーズに通過でき、シャッタがより円滑に通路を開放できるから、伸長作動から収縮作動への切り換わりの際の減衰力をより低減できより一層車両における乗心地を向上できる。
【0014】
また、緩衝器におけるシャッタは、ピストンロッドの外周に摺接する筒状のシャッタ部と、シャッタ部のストッパ側端の外周に設けられてストッパに対向するフランジ部と、シャッタ部の内周からフランジ部の内周にかけて設けられるとともにシャッタがストッパに当接した状態で通路に対向する環状凹部とを有しており、受圧部は、環状凹部でシャッタ部に形成されてストッパに平行な第1環状面と、環状凹部でフランジ部に形成されてストッパに平行な第2環状面とで形成されてもよい。このように受圧部を形成してもシャッタにストッパから離間する力を付与するように圧側室の圧力を作用させ得る。
【0015】
そして、前述のように、シャッタにのみ環状凹部を設けて受圧部を形成する場合には、シャッタのみに加工を施せばよいので、緩衝器の加工コストを低減できる。
【0016】
また、緩衝器は、ロッドガイドに装着されて、ストッパに当接した際に内周側に空隙を形成する環状のリバウンドクッションを備えてもよい。このように構成された緩衝器によれば、シャッタで通路を閉塞した後にリバウンドクッションとストッパとが当接すると、空隙を伸側室および圧側室から隔絶して液圧ロック機能を発揮できるから、ロッドガイドとストッパとの衝突を阻止し得る。
【発明の効果】
【0017】
以上より、本発明の緩衝器によれば、最伸長時のロック機能を発揮しつつも、最伸長後の収縮行程への切り換わりにおいて減衰力が過剰となるのを抑制して車両における乗心地を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】一実施の形態における緩衝器の縦断面図である。
【
図2】一実施の形態における緩衝器の一部拡大縦断面図である。
【
図3】一実施の形態における緩衝器の一部拡大縦断面図である。
【
図4】一実施の形態の第1変形例における緩衝器の一部拡大縦断面図である。
【
図5】一実施の形態の第2変形例における緩衝器の一部拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。
図1および
図2に示すように、一実施の形態における緩衝器Dは、シリンダ1と、シリンダ1の端部に設けられた環状のロッドガイド2と、ロッドガイド2の内周に挿通されてシリンダ1内に移動自在に挿入されるピストンロッド3と、シリンダ1内に挿入されてシリンダ1内を圧側室R2とロッドガイド2に面する伸側室R1とに区画するピストン4と、ピストンロッド3の側方から開口して伸側室R1と圧側室R2とを連通する通路Pと、ロッドガイド2の外周に軸方向移動自在に装着されて通路Pを開閉する環状のシャッタ6と、シャッタ6とロッドガイド2とを連結する弾性部材としてのコイルばねSと、ピストンロッド3に装着されてシャッタ6に軸方向で対向するストッパとしてのリバウンドストッパ13とを備えて構成されている。そして、この緩衝器Dの場合、図示しない車両における車体と車輪との間に介装されて使用され、車体および車輪の振動を抑制する。
【0020】
以下、緩衝器Dの各部について詳細に説明する。
図1に示すように、シリンダ1の
図1中上端には、環状のロッドガイド2が装着されている。そして、ロッドガイド2の内周には、ピストンロッド3が挿通されており、ロッドガイド2は、ピストンロッド3のシリンダ1に対する軸方向となる
図1中上下方向の相対移動を案内する。
【0021】
ロッドガイド2は、シリンダ1内に嵌合する環状の本体部2aと、本体部2aの内周から
図2中上方へ立ち上がる筒状の凸部2bと、本体部2aの下端外周から
図2中下方へ立ち上がる筒状のクッション保持部2cとを備えている。また、ロッドガイド2の本体部2aの内周から凸部2bの内周にかけてピストンロッド3の外周に摺接する筒状のブッシュ7が装着されている。さらに、本体部2aの外周には、シリンダ1とロッドガイド2との間をシールするシールリング8が装着される環状溝2dが設けられている。
【0022】
クッション保持部2cの内径は、本体部2aの内径よりも大径とされている。よって、クッション保持部2cとピストンロッド3との間には環状隙間が形成されている。
【0023】
そして、ロッドガイド2における本体部2aの
図2中下方であってクッション保持部2cの内周には、ピストンロッド3の外周に摺接する環状のUパッキン9と、コイルばねSの
図2中上端を保持するばね受部材20と、環状のスペーサ21と、リバウンドクッション15とが順に装着されている。詳しくは、クッション保持部2cは、
図2中下方へ向かうほど内径が3段に大径となっており、
図2中最下端には内周側へ突出するフランジ部2eを備えている。Uパッキン9は、クッション保持部2cの内径が最小となる部位に嵌合されており、ロッドガイド2とピストンロッド3との間シールしている。
【0024】
ばね受部材20は、環状のプレート部20aと、プレート部20aの内周から
図2中下方へ延びてピストンロッド3の外周に摺接する環状の嵌合部20bとを備えており、クッション保持部2cの
図2中の中段にスペーサ21とともに積層されている。さらに、リバウンドクッション15は、クッション保持部2cの
図2中の最下方側の段部とスペーサ21の
図2中下端に積層されており、外周が前記下方側の段部とフランジ部2eとで挟持されてロッドガイド2に固定されている。リバウンドクッション15の内径は、ピストンロッド3の外径よりも大径とされており、リバウンドクッション15とピストンロッド3との間に環状隙間が形成されている。また、リバウンドクッション15は、内周に
図2中下方へ突出する環状の突出部15aを備えており、ロッドガイド2のクッション保持部2cに装着された状態でロッドガイド2の最下端より突出部15aが
図2中下方へ突出している。
【0025】
つづいて、ばね受部材20の嵌合部20bの外周には、弾性部材としてのコイルばねSの
図2中上端が嵌合されている。コイルばねSは、リバウンドクッション15とロッドガイド2とで挟持されるばね受部材20を介してロッドガイド2に取付けられている。なお、スペーサ21を廃止して、リバウンドクッション15でばね受部材20をロッドガイド2に固定してもよい。ただし、スペーサ21を設けるとリバウンドクッション15の位置を
図2中下方へ配置でき、コイルばねSの密着長を長くできコイルばねSの設計自由度が向上し、さらには、コイルばねSの収容スペースを確保しやすくなるという利点がある。
【0026】
なお、本体部2aの肩がシリンダ1の内周に装着されたCリング10に当接しており、ロッドガイド2は、シリンダ1に対して抜け出る方向への移動が規制され、シリンダ1内の圧力を受けてCリング10に押圧されるのでシリンダ1に対して固定される。
【0027】
さらに、ロッドガイド2の凸部2bの
図2中上端外周には、ピストンロッド3の外周に摺接するダストシール5が装着されており、シリンダ1内への水や塵などの侵入が防止されている。
【0028】
ピストンロッド3は、前述したようにロッドガイド2の内周に挿通されている。ピストンロッド3は、先端に、ピストン4、伸側減衰バルブ11、圧側減衰バルブ12およびリバウンドストッパ13が装着される小径部3aを備えている。小径部3aの先端には、ピストンナット14が螺着されており、ピストンナット14によって、ピストン4、伸側減衰バルブ11、圧側減衰バルブ12およびリバウンドストッパ13がピストンロッド3に固定されている。
【0029】
リバウンドストッパ13は、軸方向にてリバウンドクッション15の突出部15aに対向している。よって、緩衝器Dが最伸長するとリバウンドストッパ13がリバウンドクッション15の突出部15aに当接して、リバウンドクッション15の内周側の環状の空隙Lと伸側室R1との直接的な連通を断つようになっている。
【0030】
ピストン4は、前述したようにピストンロッド3の先端に装着されるとともにシリンダ1内に摺動自在に挿入されており、シリンダ1内をロッドガイド2に面する
図1中でピストン4よりも上方側の伸側室R1と
図1中でピストン4よりも下方側の圧側室R2とに区画している。そして、伸側室R1と圧側室R2内には、作動油等の液体が充填されている。なお、液体は、作動油以外にも、たとえば、水、水溶液といった液体とされてもよい。
【0031】
ピストン4は、伸側室R1と圧側室R2とを連通する伸側通路4aと圧側通路4bとを備えている。そして、伸側減衰バルブ11は、ピストン4の
図1中下方に積層されていて伸側通路4aの
図1中下端を開閉し、圧側減衰バルブ12は、ピストン4の
図1中上方に積層されていて圧側通路4bの
図1中上端を開閉する。これら伸側減衰バルブ11および圧側減衰バルブ12は、ともに環状板でなるリーフバルブを複数積層して構成される積層リーフバルブとされている。そして、伸側減衰バルブ11は、ピストンロッド3がシリンダ1に対して
図1中上方へ移動する緩衝器Dの伸長行程において、ピストン4によって圧縮される伸側室R1から拡大される圧側室R2へ向かって伸側通路4aを通過する作動油の流れに対して開弁するとともに抵抗を与える。圧側減衰バルブ12は、ピストンロッド3がシリンダ1に対して
図1中下方へ移動する緩衝器Dの収縮行程において、ピストン4によって圧縮される圧側室R2から拡大される伸側室R1へ向かって圧側通路4bを通過する作動油の流れに対して開弁するとともに抵抗を与える。また、リバウンドストッパ13は、環状であって伸側減衰バルブ11の
図1中上方に積層されており、ロッドガイド2に取付けられたリバウンドクッション15に対向している。
【0032】
また、ピストンロッド3は、本実施の形態では内部が中空な筒状であって、ピストンロッド3の小径部3aよりも
図2中上方から開口して内部に通じる横孔3bを備えている。このピストンロッド3の横孔3bと横孔3bよりも
図1中下方の中空部とで、伸側室R1と圧側室R2とを連通する通路Pが形成される。なお、ピストンロッド3の内周であって横孔3bよりも下方側には筒状の弁座部材16が装着され、また、ピストンロッド3内には、軸方向へ移動可能にニードル17aが挿入されている。ニードル17aは、ピストンロッド3内に挿通されたコントロールロッド17の先端に形成されており、ピストンロッド3の図示しない上端に装着される図外のアジャスタの操作によって軸方向へ移動可能である。そして、ニードル17aを弁座部材16に対して遠近させると、ニードル17aと弁座部材16との間に隙間を広狭させ得るので、通路Pを通過する作動油の流れに与える抵抗を大小変更できる。このように、本実施の形態の緩衝器Dは、弁座部材16とニードル17aとで構成される減衰力調整バルブVを備えている。
【0033】
なお、シリンダ1の
図1中下端は、閉塞されており、詳しくは図示しないが、緩衝器Dを車体或いは車輪側に連結するブラケットを備えている。また、シリンダ1内には、圧側室R2の下方に気室Gを区画するフリーピストンFが摺動自在に挿入されている。
【0034】
そして、緩衝器Dが伸長する際には、圧縮される伸側室R1から拡大する圧側室R2へ向かう作動油の流れに対して伸側減衰バルブ11と減衰力調整バルブVとで抵抗を与え、緩衝器Dは、伸長を妨げる減衰力を発生する。よって、減衰力調整バルブVにおける前記隙間を広狭させることで緩衝器Dの伸側減衰力を高低調整し得る。また、緩衝器Dの伸長行程時には、ピストンロッド3がシリンダ1内から退出するために、ピストンロッド3がシリンダ1内から退出する体積に見合った分だけフリーピストンFが
図1中上方へ移動して気室Gが拡大し、ピストンロッド3がシリンダ1内から退出する体積の補償が行われる。
【0035】
反対に、緩衝器Dが収縮する際には、圧縮される圧側室R2から拡大する伸側室R1へ向かう作動油の流れに対して圧側減衰バルブ12と減衰力調整バルブVとで抵抗を与える。また、緩衝器Dの収縮の際には、ピストンロッド3がシリンダ1内へ侵入するために、ピストンロッド3がシリンダ1内へ侵入する体積に見合った分だけフリーピストンFが
図1中下方へ移動して気室Gが縮小し、ピストンロッド3がシリンダ1内へ侵入する体積の補償が行われる。よって、緩衝器Dが収縮行程にある場合、圧側減衰バルブ12および減衰力調整バルブVが前記した作動油の流れに抵抗を与えるので、緩衝器Dは、収縮を妨げる圧側減衰力を発生する。また、減衰力調整バルブVにおける前記隙間を広狭させることで緩衝器Dの圧側減衰力を高低調整し得る。
【0036】
なお、前述したところでは、ピストンロッド3がシリンダ1内に出入りする体積の補償をシリンダ1内にフリーピストンFを設けて気室Gを形成することで行っているが、シリンダ1外に圧側室R2に連通されるリザーバタンクを設けて前記体積の補償を行ってもよい。その場合、圧側室R2とリザーバタンクとの間に圧側室R2からリザーバタンクへ向かう作動油の流れに抵抗を与えるベースバルブを設け、ベースバルブが圧側減衰力の発生に寄与するようにしてもよい。
【0037】
つづいて、ロッドガイド2には、ピストンロッド3の外周に軸方向移動自在に摺接するシャッタ6が装着されている。シャッタ6は、
図2および
図3に示すように、ピストンロッド3の外周に軸方向移動自在に摺接する筒状のシャッタ部6aと、シャッタ部6aの
図2中下端外周となるストッパ側端の外周に設けられてリバウンドストッパ13に対向するフランジ部6bと、シャッタ部6aの内周からフランジ部6bの内周にかけて設けられる環状凹部Cで形成されるテーパ面6cとを備えて構成されている。
【0038】
環状凹部Cは、具体的には、
図2に示すように、シャッタ部6aの内周の中間部から下方にかけて円錐台形状に切り取るとともに、フランジ部6bの内周側を円錐台形状に切り取ってできる形状とされている。このようにシャッタ6に環状凹部Cを形成すると、シャッタ6の内周には、途中で傾斜角度が変化するテーパ面6cが形成されるとともに、テーパ面6cの上端に水平面6dが形成される。シャッタ6は、リバウンドストッパ13に当接した状態において、横孔3bを閉塞でき、環状凹部Cは、リバウンドストッパ13に当接した状態において、ピストンロッド3の横孔3bに対向していればよい。
【0039】
シャッタ6のシャッタ部6aの外周には、コイルばねSの
図2中下端が嵌合されており、シャッタ6は、ばね受部材20およびコイルばねSを介してロッドガイド2に連結されている。また、シャッタ6は、ピストンロッド3がシリンダ1に対して
図2中上方に移動し、
図3に示すようにリバウンドストッパ13に当接すると、シャッタ部6aをピストンロッド3の横孔3bに対向させて横孔3bを閉塞する。また、シャッタ6がリバウンドストッパ13に当接した状態となると、環状凹部Cは、横孔3bに対向して通路Pを介して圧側室R2に連通される。なお、本実施の形態の緩衝器Dでは、弾性部材をコイルばねSとしているが、弾性部材は、コイルばねS以外のばねやゴムといった弾性体とされてもよい。
【0040】
つまり、シャッタ6が横孔3bを閉塞しても環状凹部C内が圧側室R2に連通され、シャッタ6のテーパ面6cと水平面6dを受圧面として圧側室R2内の圧力がテーパ面6cと水平面6dとに作用する。したがって、シャッタ6は、環状凹部Cが横孔3bに対向する状態では、圧側室R2の圧力の作用でリバウンドストッパ13から離間する軸方向の力を受けることになる。よって、本実施の形態では、シャッタ6において、リバウンドストッパ13と当接して通路Pを閉じた状態でリバウンドストッパ13から離間するように圧側室R2の圧力を受ける受圧部は、前記テーパ面6cおよび前記水平面6dとで形成されている。なお、シャッタ6をリバウンドストッパ(ストッパ)13から離間する力を付与するように圧側室R2の圧力が作用する受圧部における有効受圧面積は、受圧部を軸方向に投影した面積となるが、シャッタ6に作用させたい力に応じて有効受圧面積を設定すればよい。
【0041】
このように構成された緩衝器Dは、ピストンロッド3がシリンダ1に対して
図2中上方へ移動する伸長行程にあって、リバウンドストッパ13にシャッタ6が当接するまでピストンロッド3が移動すると、シャッタ6のシャッタ部6aが横孔3bに完全に対向して通路Pを閉塞する。通路Pがシャッタ6によって閉じられる前は、伸側室R1と圧側室R2とが伸側通路4aと通路Pの双方を介して連通状態におかれ、通路Pがシャッタ6によって閉塞されると伸側通路4aのみで伸側室R1と圧側室R2とが連通される状態となる。このように、通路Pがシャッタ6によって閉塞されることにより流路面積が減少するため、緩衝器Dが発生する減衰力は、通路Pがシャッタ6により閉塞される前よりも閉塞された後の方が高くなる。前述のように、シャッタ6が通路Pを閉塞するようになると緩衝器Dは、伸側の減衰力を高めるのでピストンロッド3の伸長側への移動速度が減殺される。
【0042】
また、本実施の形態の緩衝器Dでは、リバウンドストッパ13がシャッタ6に当接した状態からさらに伸長して、ピストンロッド3が
図3中上方へ移動すると、リバウンドクッション15がリバウンドストッパ13に当接して環状の空隙Lと伸側室R1との直接の連通を断つ。このように、通路Pがシャッタ6によって閉塞され、さらに、空隙Lと伸側室R1との連通が断たれた状態では、ピストンロッド3がそれ
図2中上方へ移動しようとすると、空隙L内の圧力が上昇して、緩衝器Dは、それ以上の伸長を抑制する液圧ロック機能を発揮する。このように緩衝器Dは、最伸長時にロック機能を発揮するので、リバウンドストッパ13がリバウンドクッション15を押しつぶしてロッドガイド2へ勢いよく衝突するのを防止できる。
【0043】
このように空隙Lがシャッタ6およびリバウンドクッション15によって閉鎖された状態から、緩衝器Dが伸長行程から収縮行程に切り換わると、ピストンロッド3の
図2中下方への移動に伴って圧側室R2内の圧力が上昇する。この圧側室R2内の圧力は、通路Pを介してシャッタ6の環状凹部C内に作用する。よって、圧側室R2内の圧力がシャッタ6のテーパ面6cおよび水平面6dで形成される受圧部に作用し、シャッタ6に
図3中上方へ押し上げる力が生じる。この力の働きによって、シャッタ6とリバウンドストッパ13とが離間して、両者の間に隙間が生じて、空隙Lと圧側室R2とが通路Pを介して連通される。
【0044】
すると、空隙L内の圧力が速やかに上昇するため、液圧ロックが解除され、緩衝器Dは、伸長作動から収縮作動への切り換わりにおいて過剰な減衰力を発揮することなく円滑に収縮する。つまり、緩衝器Dは、伸長作動から収縮作動への切り換わりにおいて、収縮行程初期で減衰力が大きくなることなく収縮し始める。
【0045】
以上、本実施の形態の緩衝器Dは、シリンダ1と、シリンダ1の端部に設けられた環状のロッドガイド2と、ロッドガイド2の内周に挿通されてシリンダ1内に移動自在に挿入されるピストンロッド3と、シリンダ1内に挿入されてシリンダ1内を圧側室R2とロッドガイド2に面する伸側室R1とに区画するピストン4と、ピストンロッド3の側方から開口して伸側室R1と圧側室R2とを連通する通路Pと、ロッドガイド2の外周に軸方向移動自在に装着されて通路Pを開閉する環状のシャッタ6と、シャッタ6とロッドガイド2とを連結するコイルばね(弾性部材)Sと、ピストンロッド3に装着されてシャッタ6に軸方向で対向するリバウンドストッパ(ストッパ)13とを備え、シャッタ6は、リバウンドストッパ(ストッパ)13と当接して通路Pを閉じた状態でリバウンドストッパ(ストッパ)13から離間するように圧側室R2の圧力を受ける受圧部を有している。
【0046】
このように構成された緩衝器Dでは、シャッタ6が通路Pを閉塞しても通路Pを介して圧側室R2内の圧力がシャッタ6に設けた受圧部に作用し、シャッタ6をリバウンドストッパ(ストッパ)13から離間させる力が発揮され、緩衝器Dが伸長作動から収縮作動に転じた際に速やかにシャッタ6が通路Pを開放する。よって、本実施の形態の緩衝器Dは、最伸長後に収縮行程に切り換わった際にシャッタ6が速やかに通路Pを開放するので、最伸長時の液圧ロック機能を発揮しつつも、最伸長後の収縮行程への切り換わりにおいて速やかに液圧ロックを解除して過剰な減衰力を発生することなく収縮作動する。以上より、本実施の形態の緩衝器Dによれば、最伸長後の収縮行程への切り換わりにおいて減衰力が過剰となるのを抑制して車両における乗心地を向上できる。
【0047】
また、本実施の形態の緩衝器Dは、コイルばね(弾性部材)Sでシャッタ6をロッドガイド2に連結をしており、シャッタ6を下方に配置できるから、ピストンロッド3が最伸長するよりも前段階から通路Pを閉塞して減衰力を高めて最伸長時の衝撃を緩和できる。
【0048】
また、本実施の形態の緩衝器Dにあっては、シャッタ6は、ピストンロッド3の外周に摺接する筒状のシャッタ部6aと、シャッタ部6aのストッパ側端の外周に設けられてリバウンドストッパ(ストッパ)13に対向するフランジ部6bと、シャッタ部6aの内周からフランジ部6bの内周にかけて設けられるとともにシャッタ6がリバウンドストッパ(ストッパ)13に当接した状態で通路Pに対向する環状凹部Cとを有しており、受圧部が環状凹部Cで形成されたテーパ面6cとなっている。このように受圧部をテーパ面6cで形成する場合、受圧部を軸方向に投影した有効受圧面積に圧側室R2の圧力を乗じた値の力がシャッタ6に軸方向へ移動させる力として作用する。また、シャッタ6の内周側にリバウンドストッパ(ストッパ)13側が大径となるようにテーパ面6cが形成されているので、通路Pを介して圧側室R2、環状凹部Cを通過して空隙Lへ流入する液体はテーパ面6cに沿ってスムーズに流れるので、液体の空隙L内への移動しやすくなる。よって、本実施の形態の緩衝器Dによれば、シャッタ6の受圧部の有効受圧面積も確保しつつも、液体がシャッタ6とリバウンドストッパ(ストッパ)13との間をスムーズに通過でき、シャッタ6がより円滑に通路Pを開放できるから、伸長作動から収縮作動への切り換わりの際の減衰力をより低減できより一層車両における乗心地を向上できる。なお、本実施の形態のシャッタ6における受圧部は、水平面6dを含んでいるが、テーパ面6cのみで形成されてもよい。
【0049】
また、環状凹部C1は、
図4に示すように、シャッタ6のシャッタ部6aの内周の中間部から下端にかけて矩形に切り欠くとともにフランジ部6bの内周から中間部までを矩形に切り欠いた形状としてもよい。このように環状凹部C1をシャッタ6に形成すると、シャッタ6のシャッタ部6aには、リバウンドストッパ(ストッパ)13に平行な第1環状面6eが形成され、シャッタ6のフランジ部6bには、リバウンドストッパ(ストッパ)13に平行な第2環状面6fが形成される。そして、受圧部は、これら第1環状面6eと第2環状面6fとで形成されている。このように受圧部を形成してもシャッタ6にリバウンドストッパ(ストッパ)13から離間する力を付与するように圧側室R2の圧力を作用させ得る。
なお、シャッタ6をリバウンドストッパ(ストッパ)13から離間する力を付与するように圧側室R2の圧力が作用する受圧部における有効受圧面積は、前述したように、受圧部を軸方向に投影した面積となるが、シャッタ6に作用させた一からの設定に応じて有効受圧面積を設定すればよい。
【0050】
なお、
図5に示すように、シャッタ6のシャッタ部6aの内周に溝6gを設け、リバウンドストッパ13のシャッタ側端の内周から中間にかけて溝6gに通じる環状溝13aを設けて、シャッタ6の環状溝13aに対する対向面を受圧部としてもよい。このようにすると、リバウンドストッパ(ストッパ)13にも加工が必要となる。他方、シャッタ6にのみ環状凹部C,C1を設けて受圧部を形成する場合には、シャッタ6のみに加工を施せばよいので、緩衝器Dの加工コストを低減できる。
【0051】
また、本実施の形態の緩衝器Dは、ロッドガイド2に装着されて、リバウンドストッパ(ストッパ)13に当接した際に内周側に空隙Lを形成する環状のリバウンドクッション15を備えている。このように構成された緩衝器Dによれば、シャッタ6で通路Pを閉塞した後にリバウンドクッション15とリバウンドストッパ(ストッパ)13とが当接すると、空隙Lを伸側室R1および圧側室R2から隔絶して液圧ロック機能を発揮できるから、ロッドガイド2とリバウンドストッパ(ストッパ)13との衝突を阻止し得る。なお、本実施の形態の緩衝器Dは、コイルばね(弾性部材)Sでシャッタ6をロッドガイド2に連結をしており、シャッタ6を下方に配置でき、緩衝器Dの最伸長時の衝撃を緩和できるので、液圧ロック機能の発揮が不要であれば緩衝器Dの最伸長時に密閉される空隙Lを形成するリバウンドクッション15を省略できる。
【0052】
また、前述した実施の形態では、通路Pに減衰力調整バルブVを設けていたが、減衰力調整バルブVは廃止されてもよい。
【0053】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0054】
1・・・シリンダ、2・・・ロッドガイド、3・・・ピストンロッド、4・・・ピストン、6・・・シャッタ、6a・・・シャッタ部、6b・・・フランジ部、6c・・・テーパ面(受圧部)、6d・・・水平面(受圧部)、6e・・・第1環状面(受圧部)、6f・・・第2環状面(受圧部)、13・・・リバウンドストッパ(ストッパ)、15・・・リバウンドクッション、C,C1・・・環状凹部、L・・・空隙、P・・・通路、D・・・緩衝器、R1・・・伸側室、R2・・・圧側室、S・・・コイルばね(弾性部材)