(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】航空機用燃料油組成物
(51)【国際特許分類】
C10L 1/04 20060101AFI20231213BHJP
【FI】
C10L1/04
(21)【出願番号】P 2020056426
(22)【出願日】2020-03-26
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塚 武
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/026061(US,A1)
【文献】特開2004-323626(JP,A)
【文献】特表2011-505490(JP,A)
【文献】特開2013-209476(JP,A)
【文献】特開2005-139382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/00
C10G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機用燃料油組成物であって、
(a)15℃における密度が0.760~0.820g/cm
3、
(b)引火点が38℃以上、
(c)常圧蒸留における95容量%留出温度が246.0℃~260.0℃、
(d)硫黄分含有量が2500質量ppm以下、
(e)炭素数13以上のノルマルパラフィンの合計含有量(質量%)/炭素数9~炭素数12のノルマルパラフィンの合計含有量(質量%)で表される比が0.40以下
である灯油基材を含む
ことを特徴とする航空機用燃料油組成物。
【請求項2】
前記灯油基材を構成する炭素数9以上のノルマルパラフィンの合計含有割合が15質量%~35質量%である請求項1に記載の航空機用燃料油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機用燃料油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機用燃料油(「航空タービン燃料油」とも称する場合がある。)は、航空機用タービンエンジンに用いられる燃料油であって、航空機の主翼中に貯蔵され、エンジンへの供給に際し、エンジンからの排熱と熱交換することにより燃焼効率を上げると共に、エンジン冷却の役割をも担っている。
【0003】
航空機用燃料油を構成する燃料油基材としては、通常、原油を常圧蒸留して得られる灯油留分(直留灯油)を水素化脱硫した灯油基材が主に用いられている。
【0004】
ところで、航空機が成層圏付近の高度を飛行する場合には、例えば-40℃程度の低温下で飛行することになることから、航空機用燃料油中の水分の氷結やワックス分の析出を抑制し、フィルター、配管等が閉塞しないような低温特性を有することが重要であり、石油連盟の「共同利用貯油施設向け統一規格:ISSUE 30」(非特許文献1参照)には、航空機用燃料油の析出点(Freezing Point)は-47.0℃以下とすることが規定されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】「共同利用貯油施設向け統一規格:ISSUE 30(2019年9月)(Reference:International JFSCL Issue 30)Jet A-1』 石油連盟
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記析出点の規定を満たし、低温下でも所望の低温流動性を発揮するために、通常、留出温度の高い重質成分をカットし、可能な限り軽質化した灯油留分を利用する対応が採られている。
【0007】
しかしながら、灯油留分を軽質化すれば灯油留分の得率が低下してしまう一方で、一般に灯油の需要は冬季に高くなり、また軽油においても冬季には灯油留分の配合割合を増加させて低温流動性能を向上させることが求められるため、冬季には航空機用燃料油の需給が逼迫するおそれがある。
【0008】
この場合、原油の処理量を増加して灯油留分を増産する対応も考えられるが、石油製品は連産品であるために灯油留分のみを増産することは困難である。
【0009】
このような状況下、本発明は、重質成分を多量に含む灯油基材を構成基材とするにも拘わらず、優れた低温流動性を発揮し得る航空機用燃料油組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記技術課題を解決するために本発明者が鋭意検討したところ、驚くべきことに、(a)15℃における密度が0.760~0.820g/cm3、(b)引火点が38℃以上、(c)常圧蒸留における95容量%留出温度が246.0℃~260.0℃、(d)硫黄分含有量が2500質量ppm以下、(e)炭素数13以上のノルマルパラフィンの合計含有量(質量%)/炭素数9~炭素数12のノルマルパラフィンの合計含有量(質量%)で表される比が0.40以下である灯油基材を含む航空機用燃料油組成物により、上記技術課題を解決し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)航空機用燃料油組成物であって、
(a)15℃における密度が0.760~0.820g/cm3、
(b)引火点が38℃以上、
(c)常圧蒸留における95容量%留出温度が246.0℃~260.0℃、
(d)硫黄分含有量が2500質量ppm以下、
(e)炭素数13以上のノルマルパラフィンの合計含有量(質量%)/炭素数9~炭素数12のノルマルパラフィンの合計含有量(質量%)で表される比が0.40以下
である灯油基材を含む
ことを特徴とする航空機用燃料油組成物、
(2)前記灯油基材を構成する炭素数9以上のノルマルパラフィンの合計含有割合が15質量%~35質量%である上記(1)に記載の航空機用燃料油組成物
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、重質成分を多量に含む灯油基材を構成基材とするにも拘わらず、優れた低温流動性を発揮し得る航空機用燃料油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
なお、本明細書中、数値範囲を現す「~」は、その上限及び下限としてそれぞれ記載されている数値を含む範囲を表す。また、「~」で表される数値範囲において上限値のみ単位が記載されている場合は、下限値も同じ単位であることを意味する。
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。
本明細書において組成物中の各成分の含有率又は含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本明細書において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0014】
本発明に係る航空機用燃料油組成物は、
(a)15℃における密度が0.760~0.820g/cm3、
(b)引火点が38℃以上、
(c)常圧蒸留における95容量%留出温度が246.0℃~260.0℃、
(d)硫黄分含有量が2500質量ppm以下、
(e)炭素数13以上のノルマルパラフィンの合計含有量(質量%)/炭素数9~炭素数12のノルマルパラフィンの合計含有量(質量%)で表される比が0.40以下
である灯油基材を含む
ことを特徴とするものである。
【0015】
本発明に係る航空機用燃料油組成物は、灯油基材を構成基材として含むものであり、本出願書類において、灯油基材とは、原油を常圧蒸留して得られる灯油留分(直留灯油)を水素化脱硫してなるものを意味する。
【0016】
本発明に係る航空機用燃料油組成物を構成する灯油基材は、(a)15℃における密度が、0.760~0.820g/cm3であるものであり、0.765g/cm3~0.800g/cm3であることが好ましく、0.770g/cm3~0.800g/cm3であることがより好ましい。
航空機用燃料油組成物を構成する灯油基材の密度が上記範囲内にあることにより、航空機用燃料油組成物の燃焼時に良好な燃焼状態を容易に発揮することができる。
【0017】
なお、本出願書類において、15℃における密度は、JIS K 2249-1:2011「原油及び石油製品-密度の求め方―(振動法)」により測定される密度を意味する。
【0018】
本発明に係る航空機用燃料油組成物を構成する灯油基材は、(b)引火点が、38℃以上であるものであり、39℃以上であるものが好ましく、40℃以上であるものがさらに好ましい。
航空機用燃料油組成物を構成する灯油基材の引火点が上記範囲内にあることにより、より容易な取り扱いが可能となる
【0019】
なお、本出願書類において、引火点は、JIS K 2265-1 引火点の求め方―第1部:タグ密閉法により測定される値を意味する。
【0020】
本発明に係る航空機用燃料油組成物を構成する灯油基材は、常圧蒸留における初留点(IBP)が、135.0~165.0℃であるものが好ましく、137.0~163.0℃であるものがより好ましく、139.0~161.0℃であるものがさらに好ましい。
本発明に係る航空機用燃料油組成物を構成する灯油基材は、常圧蒸留における10容量%留出温度(T10)が、150.0~190.0℃であるものが好ましく、152.0~188.0℃であるものがより好ましく、154.0 ~186.0℃であることがさらに好ましい。
本発明に係る航空機用燃料油組成物を構成する灯油基材は、常圧蒸留における50容量%留出温度(T50)が、170.0~230.0℃であるものが好ましく、174.0~226.0℃であるものがより好ましく、178.0~222.0℃であるものがさらに好ましい。
本発明に係る航空機用燃料油組成物を構成する灯油基材は、常圧蒸留における90容量%留出温度(T90)が、210.0~245.0℃であるものが好ましく、215.0~245.0℃であるものがより好ましく、220.0~245.0℃であるものがさらに好ましい。
本発明に係る航空機用燃料油組成物を構成する灯油基材は、(c)常圧蒸留における95容量%留出温度(T95)が、246.0~260.0℃であり、248.0~260.0℃であるものが好ましく、250.0~260.0℃であるものがより好ましい。
本発明に係る航空機用燃料油組成物を構成する灯油基材は、終点(EP)が、246.0~300.0℃であるものが好ましく、248.0~290.0℃であるものがより好ましく、250.0~280.0℃であるものがさらに好ましい。
【0021】
本発明に係る航空機用燃料油組成物は、T95が高い重質成分を多量に含む灯油基材を構成基材とするものであり、重質成分をカットすることなく有効に利用できることから冬季等における灯油留分の需要が高い時期においても、その供給量を容易に増加することができるとともに、上記のとおり重質成分を多量に含む灯油基材を構成基材とするものであるにも拘わらず、優れた低温流動性を容易に発揮することができる。
本発明に係る航空機用燃料油組成物を構成する灯油基材は、IBP、T10、T50、T90、T95およびEPが上記範囲内にあることにより、航空機用タービンエンジンにおける噴霧状態や燃焼状態が適切に保たれ、デポジット生成や排出ガス性状の低下を容易に抑制することができる。
なお、本出願書類において、IBP、T10、T50、T90、T95およびEPは、JIS K2254:1998「石油製品-蒸留試験方法」により測定される常圧蒸留における留出温度を意味する。
【0022】
本発明に係る航空機用燃料油組成物を構成する灯油基材は、(d)硫黄分含有量が、2500質量ppm以下であるものであり、250質量ppm以下であるものがより好ましく、25質量ppm以下であるものがさらに好ましい。
本発明に係る航空機用燃料油組成物を構成する灯油基材の硫黄分含有量が上記範囲内にあることにより、燃焼時における硫黄酸化物の生成を容易に低減することができる。
【0023】
なお、本出願書類において、硫黄分含有量は、500質量ppm以下の硫黄分含有量については、JIS K 2541-6:2003「原油及び石油製品-硫黄分試験方法-第6部:紫外蛍光法」により測定された値を意味し、500質量ppmを超える硫黄分含有量については、JIS K 2541-4:2003「原油及び石油製品-硫黄分試験方法-第4部:放射線励起法」により測定された値を意味する。
【0024】
本発明に係る航空機用燃料油組成物を構成する灯油基材は、(e)炭素数13以上のノルマルパラフィンの合計含有量(質量%)/炭素数9~炭素数12のノルマルパラフィンの合計含有量(質量%)で表される比が、0.40以下であるものであり、0.39以下であるものが好ましく、0.38以下であるものがより好ましい。
本発明に係る航空機用燃料油組成物を構成する灯油基材において、(e)炭素数13以上のノルマルパラフィンの合計含有量(質量%)/炭素数9~炭素数12のノルマルパラフィンの合計含有量(質量%)で表される比の下限は特に制限されないが、上記比は、通常0.25以上である。
【0025】
本発明者等の検討によれば、常圧蒸留における95容量%留出温度が246.0℃~260.0℃と高く重質成分を多量に含む灯油基材を構成基材とする場合においても、上記灯油基材中の「炭素数13以上のノルマルパラフィンの合計含有量(質量%)/炭素数9~炭素数12のノルマルパラフィンの合計含有量(質量%)」で表される比が0.40以下である灯油基材は、析出点を-47.0℃以下に容易に抑制することができる。
このため、常圧蒸留における95容量%留出温度が246.0℃~260.0℃と高く重質成分を多量に含むものであっても、上記質量比が所定範囲内にある灯油基材を航空機用燃料油組成物の基材として選定することにより、優れた低温流動性を容易に発揮することができる。
【0026】
本発明に係る航空機用燃料油組成物は、灯油基材中の炭素数13以上のノルマルパラフィンの合計含有量が、3.00~11.00質量%であるものが好ましく、3.00~10.50質量%であるものがより好ましく、3.00~10.00質量%であるものがさらに好ましい。
また、本発明に係る航空機用燃料油組成物は、灯油基材中の炭素数9~炭素数12のノルマルパラフィンの合計含有量が、15.00~30.00質量%であるものが好ましく、16.00~30.00質量%であるものがより好ましく、17.00~30.00質量%であるものがさらに好ましい。
本発明に係る航空機用燃料油組成物において、灯油基材中の炭素数13以上のノルマルパラフィンの合計含有量および灯油基材中の炭素数9~炭素数12のノルマルパラフィンの合計含有量が各々上記範囲内にあることにより、重質成分を多量に含む灯油基材を構成基材とするにも拘わらず、両者の比を所望範囲に容易に制御し、優れた低温流動性、特に析出点を所望範囲に容易に制御し得る航空機用燃料油組成物を提供することができる。
【0027】
本発明に係る航空機用燃料油組成物において、灯油基材中の炭素数9以上のノルマルパラフィンの合計含有量は、15.00質量%~32.00質量%であることが好ましく、17.00質量%~32.00質量%であることがより好ましく、19.00質量%~32.00質量%であることがさらに好ましい。
本発明に係る航空機用燃料油組成物において、灯油基材中の炭素数9以上のノルマルパラフィンの合計含有量が上記範囲にあることにより、良好な着火性を容易に発揮することができる。
【0028】
なお、本出願書類において、灯油基材中の炭素数13以上のノルマルパラフィンの合計含有量、灯油基材中の炭素数9~炭素数12のノルマルパラフィンの合計含有量および灯油基材中の炭素数9以上のノルマルパラフィンの含有量は、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS、Agilent社製6890N)を用い、以下の表1記載の条件下で測定、算出される値を意味する。
【0029】
【0030】
本発明に係る航空機用燃料油組成物において、灯油基材中の飽和炭化水素の含有割合は、75.0~95.0容量%であることが好ましく、77.0~93.0容量%であることがより好ましく、79.0~91.0容量%であることがさらに好ましい。
本発明に係る航空機用燃料油組成物において、灯油基材中の飽和炭化水素の含有割合が上記範囲内にあることにより、良好な燃焼性を容易に発揮することができる。
【0031】
本発明に係る航空機用燃料油組成物において、灯油基材中のオレフィン分(不飽和炭化水素)の含有割合は、0.0~0.5容量%であることが好ましく、0.0~0.3容量%であることがより好ましく、0.0~0.1容量%であることがさらに好ましい。
本発明に係る航空機用燃料油組成物において、灯油基材中のオレフィン分の含有割合が上記範囲内にあることにより、貯蔵時に良好な酸化安定性を容易に発揮することができる。
【0032】
本発明に係る航空機用燃料油組成物において、灯油基材中の芳香族炭化水素化合物の含有割合は、5.0~25.0容量%であることが好ましく、5.0~24.0容量%であることがより好ましく、5.0~23.0容量%であることがさらに好ましい。
本発明に係る航空機用燃料油組成物において、灯油基材中の芳香族炭化水素の含有割合が上記範囲内にあることにより、良好な燃焼性を容易に発揮することができる。
【0033】
なお、本出願書類において、飽和炭化水素、オレフィン分(不飽和炭化水素)および芳香族炭化水素の含有割合は、JPI-5S-49-07「石油製品-炭化水素タイプ試験方法-高速液体クロマトグラフ法」により測定された値を意味する。
【0034】
本発明に係る航空機用燃料油組成物は、構成基材として、上記灯油基材を、50 ~100容量%含むものが好ましく、75~100容量%含むものがより好ましく、上記灯油基材のみを含むものがさらに好ましい。
【0035】
本発明に係る航空機用燃料油組成物は、上記構成基材の他に、各種添加剤を配合してなるものであってもよい。
上記添加剤としては、氷結防止剤、酸化防止剤、金属不活性剤、静電気防止剤、潤滑性向上剤、導電度調整剤、腐食防止剤等の公知の燃料添加剤から選択される一種以上が挙げられる。
本発明に係る航空機用燃料油組成物は、上記構成基材(燃料油基材)の他に各種添加剤を含んでいてもよい。氷結防止剤を除いた添加剤の含有量は、構成基材合計に対して70mg/l以下とすることが好ましく、58mg/l以下とすることがより好ましい。また、氷結防止剤の含有量は、構成基材全合計量に対して0.2容量%以下であることが好ましく、含まれていないことがより好ましい。
【0036】
本発明に係る航空機用燃料油組成物は、引火点が、38~80℃であることが好ましく、39~80℃であることがより好ましく、40~80℃であることがさらに好ましい。
本発明に係る航空機用燃料油組成物の引火点が上記範囲内にあることにより、容易かつ安全に取り扱うことができる。
なお、本出願書類において、引火点は、JIS K 2265-1:2007「引火点の求め方―第1部:タグ密閉法」により測定された値を意味する。
【0037】
本発明に係る航空機用燃料油組成物は、30℃における動粘度が、1.001~1.600mm2/sであることが好ましく、1.051~1.550mm2/sであることがより好ましく、1.100~1.500mm2/sであることがさらに好ましい。
本発明に係る航空機用燃料油組成物の30℃における動粘度が上記範囲内にあることにより、移送時等に既存設備を大きく変更することなく容易に取り扱うことができる。
なお、本出願書類において、30℃における動粘度は、JIS K 2283:2000「原油及び石油製品-動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」により測定された値を意味する。
【0038】
本発明に係る航空機用燃料油組成物は、析出点が、-47.0℃以下であることが好ましく、-48.0℃以下であることがより好ましく、-49.0℃以下であることがさらに好ましい。
本発明に係る航空機用燃料油組成物の析出点の下限値は、特に制限されないが、上記析出点は、通常、-65.0℃以上である。
本発明に係る航空機用燃料油組成物の析出点が-47.0℃以下であることにより、優れた低温流動性を容易に発揮することができる。
なお、本出願書類において、析出点は、JIS K 2276:2003「石油製品―航空燃料油試験方法 析出点試験方法」により測定された値を意味する。
【0039】
本発明によれば、重質成分を多量に含む灯油基材を構成基材とするにも拘わらず、優れた低温流動性を発揮し得る航空機用燃料油組成物を提供することができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれ等の例により何ら限定されるものではない。
【0041】
(参考例1~参考例10(従来法により灯油基材を調製した例))
種々の原油を各々常圧蒸留処理して、重質成分を除去した灯油留分(直留灯油)を得た後、水素化脱硫することにより、各々表2に示す性状を有する灯油基材を得た。
上記灯油基材からなる燃料油組成物を、各々参考例1~参考例10における航空機用燃料油組成物とした。
【0042】
表1より、参考例1~参考例10においては、95容量%留出温度(T95)が246.0℃未満になるように重質成分を除去した灯油基材を用いていることから、航空機用燃料油組成物において、析出点を-47.0℃以下に制御し得ることが分かる。
【0043】
【0044】
(実施例1)
参考例1で用いたものと同一の中米系原油および中東系原油を混合した混合原油1を用い、参考例1とは処理条件を変更して常圧蒸留処理することにより、95容量%留出温度(T95)が246.0℃~260.0℃の範囲内にあり重質成分を多量に含む灯油留分(直留灯油)を得た後、水素化脱硫することにより、炭素数13以上のノルマルパラフィンの合計含有量(質量%)/炭素数9~炭素数12のノルマルパラフィンの合計含有量(質量%)で表される比が0.34であるとともに、表3に示す各種性状を有する灯油基材を得た。
上記灯油基材からなる燃料油組成物を本実施例における航空機用燃料油組成物とした。
【0045】
(実施例2)
参考例4で用いたものと同一の中東系原油1を用い、参考例4とは処理条件を変更して常圧蒸留処理することにより、95容量%留出温度が246.0℃~260.0℃の範囲内にあり重質成分を多量に含む灯油留分(直留灯油)を得た後、水素化脱硫することにより、炭素数13以上のノルマルパラフィンの合計含有量(質量%)/炭素数9~炭素数12のノルマルパラフィンの合計含有量(質量%)で表される比が0.40であるとともに、表3に示す各種性状を有する灯油基材を得た。
上記灯油基材からなる燃料油組成物を本実施例における航空機用燃料油組成物とした。
【0046】
(比較例1)
中米系原油および中東系原油を混合した混合原油2を常圧蒸留処理して、95容量%留出温度(T95)が260.0℃超である灯油留分(直留灯油)を得た後、水素化脱硫することにより、炭素数13以上のノルマルパラフィンの合計含有量(質量%)/炭素数9~炭素数12のノルマルパラフィンの合計含有量(質量%)で表される比が0.42であるとともに、表3に示す性状を有する灯油基材を得た。
上記灯油基材からなる燃料油組成物を本比較例における航空機用燃料油組成物とした。
【0047】
(比較例2)
中米系原油および中東系原油を混合した混合原油3を常圧蒸留処理して、95容量%留出温度(T95)が246.0℃~260.0℃の範囲内にある灯油留分(直留灯油)を得た後、水素化脱硫することにより、炭素数13以上のノルマルパラフィンの合計含有量(質量%)/炭素数9~炭素数12のノルマルパラフィンの合計含有量(質量%)で表される比が0.49であるとともに、表3に示す各種性状を有する灯油基材を得た。
上記灯油基材からなる燃料油組成物を本比較例における航空機用燃料油組成物とした。
【0048】
(比較例3)
中東系原油2を常圧蒸留処理して、95容量%留出温度(T95)が246.0℃~260.0℃の範囲内にある灯油留分(直留灯油)を得た後、水素化脱硫することにより、炭素数13以上のノルマルパラフィンの合計含有量(質量%)/炭素数9~炭素数12のノルマルパラフィンの合計含有量(質量%)で表される比が0.55であるとともに、表3に示す各種性状を有する灯油基材を得た。
上記灯油基材からなる燃料油組成物を本比較例における航空機用燃料油組成物とした。
【0049】
(比較例4)
中米系原油および中東系原油を混合した混合原油4を常圧蒸留処理して、95容量%留出温度(T95)が260.0℃超である灯油留分(直留灯油)を得た後、水素化脱硫することにより、炭素数13以上のノルマルパラフィンの合計含有量(質量%)/炭素数9~炭素数12のノルマルパラフィンの合計含有量(質量%)で表される比が0.36であるとともに、表3に示す各種性状を有する灯油基材を得た。
上記灯油基材からなる燃料油組成物を本比較例における航空機用燃料油組成物とした。
【0050】
【0051】
表3より、実施例1~実施例2においては、95容量%留出温度(T95)が246.0℃~260.0℃と重質成分を多量に含む灯油基材を用いているにも拘わらず、係る灯油基材における密度、引火点および硫黄分含有量が所定の規定を満たすとともに、「炭素数13以上のノルマルパラフィンの合計含有量(質量%)/炭素数9~炭素数12のノルマルパラフィンの合計含有量(質量%)」で表される比が0.40以下であることから、各航空機用燃料油組成物において、析出点を-47.0℃以下に制御して優れた低温流動性を発揮し得ることが分かる。
【0052】
一方、表3より、比較例1~比較例4においては、95容量%留出温度(T95)が260.0℃超であったり(比較例1、比較例4)、「炭素数13以上のノルマルパラフィンの合計含有量(質量%)/炭素数9~炭素数12のノルマルパラフィンの合計含有量(質量%)」で表される比が0.40超である(比較例1~比較例3)ことから、各航空機用燃料油組成物における析出点が-47.0℃超となり、低温流動性に劣ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、重質成分を多量に含む灯油基材を構成基材とするにも拘わらず、優れた低温流動性を発揮し得る航空機用燃料油組成物を提供することができる。