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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】車載システム
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20231213BHJP
【FI】
G08G1/16 E
G08G1/16 F
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020062324
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021163022
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000101732
【氏名又は名称】アルパイン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 克志
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【弁理士】
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【弁理士】
【氏名又は名称】橘 和之
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【弁理士】
【氏名又は名称】片寄 恭三
(72)【発明者】
【氏名】矢部 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】川崎 康博
(72)【発明者】
【氏名】橋口 拓允
(72)【発明者】
【氏名】浅田 健志
(72)【発明者】
【氏名】若松 功二
【審査官】西畑 智道
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-006191(JP,A)
【文献】特開2007-161056(JP,A)
【文献】特開2016-192127(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
G01C 21/00-21/36
G01C 23/00-25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車に搭載される車載システムであって、
曲を表すハイレゾリューションオーディオを再生するオーディオ装置と、
曲の識別または曲の曲調を曲の着目属性として、着目属性の各値にそれぞれ対応づけて、前記自動車の運転の安定度を表す運転安定性が良好となる、着目属性の値が対応する値である曲の音量を制御音量として登録した音量テーブルと、
所定の契機で、オーディオ装置が再生している曲の音量が、当該曲の着目属性の値に対応づけて前記音量テーブルに登録されている制御音量となるように、前記オーディオ装置を制御する音量制御手段と、
前記自動車の運転安定性を計測する運転安定性計測手段と、
前記運転安定性計測手段が計測した運転安定性と前記オーディオ装置が再生している曲の着目属性の値と当該再生している曲の音量とに基づいて、着目属性の値毎に、前記運転安定性が良好となる、着目属性が当該値である曲の音量を学習し制御音量として当該値に対応づけて前記音量テーブルに登録する音量学習手段とを有することを特徴とする車載システム。
【請求項2】
自動車に搭載される車載システムであって、
曲を表すハイレゾリューションオーディオを再生するオーディオ装置と、
曲の識別または曲の曲調を曲の着目属性として、着目属性の各値にそれぞれ対応づけて、前記自動車の運転の安定度を表す運転安定性が良好となる、着目属性の値が対応する値である曲の音量を制御音量として登録した音量テーブルと、
所定の契機で、オーディオ装置が再生している曲の音量が、当該曲の着目属性の値に対応づけて前記音量テーブルに登録されている制御音量となるように、前記オーディオ装置を制御する音量制御手段と、
個人の特徴のタイプ毎に当該タイプに対応する音量テーブルを蓄積した音量テーブル提供サーバから、前記自動車の運転者の特徴に整合するタイプに対応する音量テーブルをダウンロードする音量テーブル取得手段とを有し、
前記タイプに対応する音量テーブルには、着目属性の各値にそれぞれ対応づけて、対応するタイプに整合する特徴を持つ個人が運転者である場合に運転安定性が良好となる、着目属性の値が対応する値である曲の音量が制御音量として登録されていることを特徴とする車載システム。
【請求項3】
自動車に搭載される車載システムであって、
曲を表すハイレゾリューションオーディオを再生するオーディオ装置と、
曲の識別または曲の曲調を曲の着目属性として、着目属性の各値にそれぞれ対応づけて、前記自動車の運転の安定度を表す運転安定性が良好となる、着目属性の値が対応する値である曲の音量を制御音量として登録した音量テーブルと、
所定の契機で、オーディオ装置が再生している曲の音量が、当該曲の着目属性の値に対応づけて前記音量テーブルに登録されている制御音量となるように、前記オーディオ装置を制御する音量制御手段と、
複数のユーザのそれぞれに対応する複数の前記音量テーブルと、
運転者を個人認識する個人認識手段とを備え、
前記音量制御手段は、所定の契機で、オーディオ装置が再生している曲の音量が、前記個人認識手段が個人認識したユーザに対応する音量テーブルに、当該曲の着目属性の値に対応づけて登録されている制御音量となるように、前記オーディオ装置を制御し、
前記ユーザに対応する音量テーブルには、着目属性の各値にそれぞれ対応づけて、対応するユーザが運転者である場合に運転安定性が良好となる、着目属性の値が対応する値である曲の音量が制御音量として登録されていることを特徴とする車載システム。
【請求項4】
請求項3記載の車載システムであって、
前記自動車の運転安定性を計測する運転安定性計測手段と、
前記個人認識手段が個人認識したユーザと前記運転安定性計測手段が計測した運転安定性と前記オーディオ装置が再生している曲の着目属性の値と当該再生している曲の音量とに基づいて、複数のユーザのそれぞれについて、着目属性の値毎に、前記運転安定性が良好となる、着目属性が当該値である曲の音量を学習し制御音量として当該値に対応づけて当該ユーザに対応する前記音量テーブルに登録する音量学習手段とを有することを特徴とする車載システム。
【請求項5】
自動車に搭載される車載システムであって、
曲を表すハイレゾリューションオーディオを再生するオーディオ装置と、
前記自動車の運転安定性を計測する運転安定性計測手段と、
前記運転安定性計測手段が計測した前記自動車の運転安定性が所定レベルよりも劣化したときに、前記オーディオ装置が再生している曲の音量を変化させながら、前記運転安定性計測手段に前記運転安定性を計測させて、当該運転安定性計測手段で計測される前記運転安定性が良好となる前記曲の音量を探索し、前記曲の音量を探索した音量に設定する音量制御手段とを有することを特徴とする車載システム。
【請求項6】
請求項1、2または3記載の車載システムであって、
前記所定の契機は、前記自動車の運転の安定度の劣化の発生と、前記自動車の狭隘道路区間の走行の発生と、前記自動車曲がりくねった道路区間道路区間の走行の発生と、前記自動車の周辺環境の悪化の発生とのうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする車載システム。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5または6記載の車載システムであって、
前記運転安定性は、前記自動車と車線境界線との距離の安定性であることを特徴とする車載システム。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5または6記載の車載システムであって、
前記運転安定性は、前記自動車と当該自動車の前走車との車間距離の安定性であることを特徴とする車載システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の運転を支援する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の運転を支援する技術としては、自動車の運転者の脳波を計測し、計測した脳波から推定される運転者の状態に応じた運転支援を行う技術が知られている(たとえば、特許文献1、2)。
【0003】
また、本発明に関連する技術としては、楽曲のテンポ、リズム、音域等から、当該楽曲の「楽しい」、「優しい」、「悲しい」などの曲調を算定する技術が知られている(たとえば、特許文献3)。
【0004】
また、本発明に関連する技術としては、いわゆるハイレゾリューションオーディオ等の、人間の耳に聴こえる周波数の上限を超えて複雑に変化する超高周波を含む音であるハイパーソニックサウンドが、それを聴取する人間の脳に影響するハイパーソニックエフェクトを利用して、人間に有益な影響を与える技術が知られている(たとえば、特許文献4、5、6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-100227号公報
【文献】特開2018-192909号公報
【文献】特開2006- 23524号公報
【文献】国際公開2014/027695号
【文献】特開2014-113506号公報
【文献】特開2014-113506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に脳波を計測するためには、多数の電極を持つ脳波センサを頭部に装着する必要がある。しかし、脳波センサを頭部に装着することは煩雑であり、また、髪型等のために正しく脳波を計測できるように脳波センサを頭部に装着することができない場合もある。
【0007】
したがって、上述の技術のように運転者の脳波を計測して運転支援を行うことは現実的には困難である。
そこで、本発明は、脳波を計測することなく運転者の状態に応じた運転支援を行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題達成のために、本発明は、自動車に搭載される車載システムに、曲を表すハイレゾリューションオーディオを再生するオーディオ装置と、曲の識別または曲の曲調を曲の着目属性として、着目属性の各値にそれぞれ対応づけて、前記自動車の運転の安定度を表す運転安定性が良好となる、着目属性の値が対応する値である曲の音量を制御音量として登録した音量テーブルと、所定の契機で、オーディオ装置が再生している曲の音量が、当該曲の着目属性の値に対応づけて前記音量テーブルに登録されている制御音量となるように、前記オーディオ装置を制御する音量制御手段とを備えたものである。
【0009】
ここで、このような車載システムに、さらに、前記自動車の運転安定性を計測する運転安定性計測手段と、前記運転安定性計測手段が計測した運転安定性と前記オーディオ装置が再生している曲の着目属性の値と当該再生している曲の音量とに基づいて、着目属性の値毎に、前記運転安定性が良好となる、着目属性が当該値である曲の音量を学習し制御音量として当該値に対応づけて前記音量テーブルに登録する音量学習手段とを備えるようにしてもよい。
【0010】
また、このような車載システムに、さらに、個人の特徴のタイプ毎に当該タイプに対応する音量テーブルを蓄積した音量テーブル提供サーバから、前記自動車の運転者の特徴に整合するタイプに対応する音量テーブルをダウンロードする音量テーブル取得手段を設けるようにしてもよい。ただし、前記タイプに対応する音量テーブルは、着目属性の各値にそれぞれ対応づけて、対応するタイプに整合する特徴を持つ個人が運転者である場合に運転安定性が良好となる、着目属性の値が対応する値である曲の音量が制御音量として登録されているものとする。
【0011】
また、このような車載システムに、さらに、複数のユーザのそれぞれに対応する複数の前記音量テーブルと、運転者を個人認識する個人認識手段とを設け、前記音量制御手段において、所定の契機で、オーディオ装置が再生している曲の音量が、前記個人認識手段が個人認識したユーザに対応する音量テーブルに、当該曲の着目属性の値に対応づけて登録されている制御音量となるように、前記オーディオ装置を制御するようにしてもよい。ただし、前記ユーザに対応する音量テーブルは、着目属性の各値にそれぞれ対応づけて、対応するユーザが運転者である場合に運転安定性が良好となる、着目属性の値が対応する値である曲の音量が制御音量として登録されているものとする。
【0012】
また、この場合には、車載システムに、前記自動車の運転安定性を計測する運転安定性計測手段と、前記個人認識手段が個人認識したユーザと前記運転安定性計測手段が計測した運転安定性と前記オーディオ装置が再生している曲の着目属性の値と当該再生している曲の音量とに基づいて、複数のユーザのそれぞれについて、着目属性の値毎に、前記運転安定性が良好となる、着目属性が当該値である曲の音量を学習し制御音量として当該値に対応づけて当該ユーザに対応する前記音量テーブルに登録する音量学習手段とを設けるようにしてよい。
【0013】
また、前記課題達成のために、本発明は、自動車に搭載される車載システムに、曲を表すハイレゾリューションオーディオを再生するオーディオ装置と、前記自動車の運転安定性を計測する運転安定性計測手段と、前記走行暗転性計測手段が計測した前記自動車の運転安定性が所定レベルよりも劣化したときに、前記オーディオ装置が再生している曲の音量を変化させながら、前記運転安定性が良好となる前記曲の音量を探索し、前記曲の音量を探索した音量に設定する音量制御手段とを備えたものである。
【0014】
また、前記課題達成のために、本発明は、自動車に搭載される車載システムに、曲を表すハイレゾリューションオーディオを再生するオーディオ装置と、曲の識別または曲の曲調を曲の着目属性として、着目属性の各値にそれぞれ対応づけて、前記自動車の運転の安定度を表す運転安定性が良好となる、着目属性の値が対応する値である曲の超高周波の成分の大きさを登録した制御テーブルと、所定の契機で、前記オーディオ装置を制御して、オーディオ装置が再生している曲の超高周波の成分の大きさを、当該曲の着目属性の値に対応づけて前記制御テーブルに登録されている大きさとする制御手段とを備えたものである。
【0015】
ここで、以上の車載システムにおいて、前記所定の契機としては、前記自動車の運転の安定度の劣化の発生、前記自動車の狭隘道路区間の走行の発生、前記自動車曲がりくねった道路区間道路区間の走行の発生、前記自動車の周辺環境の悪化の発生等を用いることができる。
【0016】
ここで、以上のような車載システムにおいて、前記運転安定性は、前記自動車と車線境界線との距離の安定性としてよい。
また、以上のような車載システムにおいて、前記運転安定性は、前記自動車と当該自動車の前走車との車間距離の安定性としてもよい。
以上のような車載システムによれば、ハイレゾリューションオーディオの音量やハイレゾリューションオーディオの高周波の成分の大きさと運転者の感じる「正味の快(快-不快)」との相関と、運転者の感じる「正味の快」と自動車の運転安定性と、自動車の操作の運転操作の正確性との間にある相関を利用して、脳波を計測することなく運転者の状態に応じた運転支援を行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、脳波を計測することなく運転者の状態に応じた運転支援を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係る車載システムの構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態に係るカメラの配置を示す図である。
図3】本発明の実施形態に係る運転安定性の算出法を示す図である。
図4】本発明の実施形態に係る音量データベースを示す図である。
図5】本発明の実施形態に係る音量学習処理を示すフローチャートである。
図6】本発明の実施形態に係る音量制御処理を示すフローチャートである。
図7】本発明の実施形態に係る音量調整処理を示すフローチャートである。
図8】本発明の実施形態の他の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1に、本実施形態に係る車載システムの構成を示す。
車載システム1は自動車に搭載されるシステムであり、図示するようにフロントカメラ101、バックカメラ102、車内カメラ103、自動車の状態や周辺環境の状態を検出する各種のセンサ104、運転安定性算出部105、個人認識部106、ナビゲーションシステム107、状況監視部108、音量制御部109、音量データベース110、音量学習部111、オーディオ装置112、スピーカ113を備えている。
【0020】
ここで、オーディオ装置112は、人間の耳に聴こえる周波数の上限を超えて複雑に変化する超高周波を含む音であるハイパーソニックサウンドであるハイレゾリューションオーディオを再生し、スピーカ113から出力する。より具体的には、オーディオ装置112は、たとえば、(サンプリングレート、量子化ビット数)が、(96kHz、24bit)や(192kHz、24bit)のハイレゾリューションオーディオを再生出力する。
【0021】
また、図2aに示すように、バックカメラ102は後方路面を自動車の後方のようすを撮影するカメラであり、フロントカメラ101は自動車の前方のようすを撮影するカメラである。
【0022】
また、図2bに示すように、車内カメラ103は、自動車車内に配置され、運転席に着座した運転者の頭部を運転者の前方より撮影するカメラである。
また、運転安定性算出部105は、バックカメラ102が撮影した後方映像やフロントカメラ101が撮影した前方映像から、図3に示す自動車と自動車側方の車線境界線(白線等)との距離D1、D2を検出し、距離D1、D2の平均の、所定の期間中の標準偏差の逆数を、自動車の運転の安定度を表す運転安定性として算出する。
【0023】
次に、個人認識部106は、車内カメラ103が撮影した運転者の頭部の映像を画像認識し、運転者が誰であるかを個人認識する。ただし、個人認識部106における個人認識は、運転者が入力したIDから個人認識を行うなど他の手法によって行うようにしてもよい。
【0024】
また、ナビゲーションシステム107は、地図データとGNSS受信器を備え、現在位置の算出や目的地までのルート設定や、現在位置の案内やルートに沿った走行案内などを行う。
【0025】
また、状況監視部108は、センサ104やバックカメラ102やフロントカメラ101を用いて、現在の日照状況や降雨/降雪の状況や煙霧状況などの自動車周辺の環境の状況を検出する。
【0026】
次に、図4に、音量データベース110の内容を示す。
図示するように、音量データベース110には、自動車の運転者となることのあるユーザ毎に対応して設けた個人レコードが蓄積される。
各個人レコードには、対応するユーザの識別情報である個人IDと、曲音量テーブルと曲調音量テーブルが格納される。
曲音量テーブルには、オーディオ装置112で再生される楽曲毎に、当該楽曲の識別情報である曲識別子と、曲属性と、音量が登録される。曲属性としては、楽曲のタイトルや、アーティストや、「明るい」/「穏やか」/「悲しい」などの曲調等を登録する。曲調音量テーブルに記録する「明るい」、「穏やか」、「悲しい」等の曲調は、例えば曲調解析ソフトウェアを用いて分類することができる。
【0027】
また、曲調音量テーブルには、「明るい」、「穏やか」、「悲しい」などの曲調毎に、音量と分布データを登録する。各曲調に対して登録される音量は、曲音量テーブルに登録されている、その曲調の楽曲の音量の平均値や最頻値であり、分布データは同じ個人レコードの曲音量テーブルに登録されている、その曲調の楽曲の音量の分布を表すデータである。
【0028】
以下、このような車載システム1において運転者の運転を支援する動作について説明する。
さて、本発明者らが行った実験によれば、運転者がハイレゾリューションオーディオを聴取している状態では、ハイレゾリューションオーディオの音量と脳波計を用いて計測した運転者の感じる「正味の快(快-不快)」との間には相関がある。また、脳波計を用いて計測した運転者の感じる「正味の快」と自動車と車線境界線との距離の標準偏差の逆数として示される運転安定性との間には、「正味の快」が大きくなると運転安定性が高くなる相関がある。
【0029】
したがって、ハイレゾリューションオーディオの音量と運転安定性と運転者の感じる「正味の快」の間には、運転安定性が高くなるようにハイレゾリューションオーディオの音量を設定すると、運転者の感じる「正味の快」が大きくなる相関がある。ただし、この相関の特性は、個人毎、楽曲毎に異なるものであった。
【0030】
また、運転者がハイレゾリューションオーディオを聴取している状態では、脳波計を用いて計測した運転者の感じる「正味の快」と、アクセル操作やブレーキ操作やハンドリング操作やギアシフト操作などの運転操作の正確性との間には、「正味の快」が高くなると運転操作の正確性が高くなる相関がある。
【0031】
したがって、ハイレゾリューションオーディオの音量を、運転安定性が高くなるように設定すると、運転安定性が高くなるのみならず、運転者の感じる「正味の快」が大きくなって運転操作の正確性も高くなるという関係が導かれる。
【0032】
そこで、本実施形態では、この関係を利用して、ハイレゾリューションオーディオの音量を制御することにより、運転操作の正確性を向上する運転支援を行う。
この運転支援は行う図4に示した音量データベース110を構築する音量学習部111の音量学習処理と、オーディオ装置112の音量を制御する音量制御部109の音量制御処理によって行う。
【0033】
まず、音量学習部111がオーディオ装置112と所要の情報を交換しながら行う音量学習処理について説明する。
ここで、音量学習処理は、音量データベース110の、個人認識部106が運転者として認識した個人の個人レコードの曲音量テーブルに所定数以上の楽曲が登録されていない場合に実行される処理である。
【0034】
図5に、この音量学習処理の手順を示す。
図示するように、音量学習部111は音量学習処理において、音量学習部111は、オーディオ装置112において再生されている楽曲である再生楽曲が、個人認識部106が運転者として認識した個人の個人レコードの曲音量テーブルに登録されていない楽曲となるのを監視する(ステップ502)。
【0035】
そして、再生楽曲が運転者の個人レコードの曲音量テーブルに登録されていない楽曲となったならば、オーディオ装置112がスピーカ113から出力するハイレゾリューションオーディオの音量を、予め定めた音量の調整範囲の下限の音量に設定し(ステップ504)、所定時間の経過を待つ(ステップ506)。
【0036】
そして、所定時間が経過したならば(ステップ506)、運転安定性算出部105に、経過した所定時間の期間中の運転安定性を算出させる(ステップ508)。
そして、現在のオーディオ装置112の音量が、音量の調整範囲の上限に達したかどうかを調べ(ステップ510)、達していなければ、オーディオ装置112の音量を予め定めた単位調整量増加し(ステップ512)、ステップ506からの処理に戻る。なお、ハイレゾリューションオーディオに含まれる、人間の耳に聴こえる周波数の上限を超える超高周波は、人間の耳に聴こえない。しかしながら、ハイレゾリューションオーディオの音量を変化させると、それに含まれる超高周波の振幅レベル(大きさ)も音量に対応して変化する。
【0037】
一方、現在のオーディオ装置112の音量が、音量の調整範囲の上限に達した場合には(ステップ510)、運転者の個人レコードの曲音量テーブルに、再生楽曲のエントリを作成し、作成したエントリに、曲識別子、曲属性、ステップ508で最も高い運転安定性が算出されたときのオーディオ装置112の音量を登録する(ステップ514)。ここで、再生楽曲の曲属性はオーディオ装置112から取得する。ただし、再生楽曲の曲調がオーディオ装置112から取得できない場合には、再生楽曲の曲調は、再生楽曲の再生中に、再生楽曲のテンポやリズムや音域等から識別して用いるようにしてもよい。
【0038】
そして、次に、運転者の個人レコードの曲調音量テーブルの再生楽曲の曲調に対して登録されている音量を、当該曲調に対して登録されている分布データと、ステップ514で再生楽曲に対して曲音量テーブルに登録した音量とを用いて、その曲調の楽曲の音量の平均値や最頻値である音量に更新すると共に、今回曲音量テーブルに登録した音量が反映されるように分布データを更新する(ステップ516)。
【0039】
なお、初期状態において、各個人レコードの曲調音量テーブルには、各曲調の音量としてデフォルトの音量が登録され、分布データとして分布データ無しが登録されている。ステップ516において、音量が更新する曲調が分布データ無しが登録されている曲調である場合には、ステップ514で再生楽曲に対して曲音量テーブルに登録した音量を、その曲調の曲の音量の最初のサンプル値として、音量と分布データを更新する。
【0040】
そして、ステップ502からの処理に戻る。
以上、音量学習部111が行う音量学習処理について説明した。
このような音量学習処理によれば、運転者と自動車の運転者となることのあるユーザ毎に、各曲、各曲調の、運転安定性が高くなるオーディオ装置112の音量を音量データベース110に登録することができる。
【0041】
次に、音量制御部109が行う音量制御処理について説明する。
ここで、音量制御処理は、個人認識部106が運転者として認識した個人が、音量データベース110の曲音量テーブルに所定数以上の楽曲が登録されている場合、すなわち、音量学習処理が実行されない場合に実行される処理である。
【0042】
図6に、この音量制御処理の手順を示す。
図示するように、音量制御部109は音量制御処理において、現時点と現時点から所定時間長の時間前の時点の間の期間の運転安定性を運転安定性算出部105に算出させながら、算出された運転安定性が予め定めたしきい値Thよりも劣化するのを監視する(ステップ602)。
【0043】
また、音量制御部109は、現在、自動車が、狭隘道路区間や曲がりくねった道路区間など運転に注意を要する要注意区間を走行中であるかどうかを監視する(ステップ604)。ここで、要注意区間の走行中の有無は、ナビゲーションシステム107が現在位置や地図データに基づいて算出し音量制御部109に通知する。
【0044】
また、音量制御部109は、状況監視部108が検出している現在の自動車周辺の環境の状況が、夕暮れや煙霧や降雨/降雪などにより周囲が見えかったりするために運転に注意を要する状況である要注意状況にあるかどうかを監視する(ステップ606)。
【0045】
そして、運転安定性が予め定めたしきい値Thよりも劣化しているか(ステップ602)、要注意区間の走行中であるか(ステップ604)、要注意状況にあるか(ステップ606)のいずれかである場合には、オーディオ装置112において再生されている楽曲である再生楽曲が、個人認識部106が運転者として認識した個人の個人レコードの曲音量テーブルに登録されているかどうかを調べ(ステップ608)、登録されていれば、その個人レコードの曲音量テーブルの再生楽曲に登録されている音量に、オーディオ装置112がスピーカ113から出力するハイレゾリューションオーディオの音量を設定し、音量の変更を禁止することにより、設定した音量にオーディオ装置112の音量を固定する(ステップ610)。
【0046】
そして、運転安定性が予め定めたしきい値Thよりも劣化しておらず、かつ、要注意区間の走行中でなく、かつ、要注意状況でない状況となったならば(ステップ614)、オーディオ装置112の音量の変更を許可して音量の固定を解除し(ステップ616)、ステップ602からの処理に戻る。
【0047】
一方、再生楽曲が運転者の個人レコードの曲音量テーブルに登録されていない場合には(ステップ608)、運転者の個人レコードの曲調音量テーブルの再生楽曲の曲調に登録されている音量に、オーディオ装置112がスピーカ113から出力するハイレゾリューションオーディオの音量を設定し、音量の変更を禁止することにより、設定した音量にオーディオ装置112の音量を固定する(ステップ612)。なお、再生楽曲の曲調がオーディオ装置112から取得できない場合には、再生楽曲の曲調は、再生楽曲の再生中に、再生楽曲のテンポやリズムや音域等から識別して用いるようにする。
【0048】
そして、運転安定性が予め定めたしきい値Thよりも劣化しておらず、かつ、要注意区間の走行中でなく、かつ、要注意状況でない状況となったならば(ステップ614)、オーディオ装置112の音量の変更を許可して音量の固定を解除し(ステップ616)、ステップ602からの処理に戻る。
【0049】
以上、音量制御部109が行う音量制御処理について説明した。
以上、本発明の実施形態について説明した。
このように、本実施形態によれば、ハイレゾリューションオーディオの音量と運転者の感じる「正味の快」との相関と、運転者の感じる「正味の快」と自動車の運転安定性と、自動車の操作の運転操作の正確性との間にある相関を利用して、脳波を計測することなく運転者の状態に応じた運転支援を行うことができる。
【0050】
ここで、以上の実施形態の音量制御処理は、ステップ610を、オーディオ装置112が出力するハイレゾリューションオーディオの超高周波の成分の振幅レベル(大きさ)が、運転者の個人レコードの曲音量テーブルの再生楽曲に登録されている音量に対応する大きさとなるように、ハイレゾリューションオーディオの超高周波の成分のみの振幅レベルの調整を行う周波数特性に、オーディオ装置112が備えるイコライザーの周波数特性を設定して、オーディオ装置112の音量とイコライザーの周波数特性を固定するステップとし、ステップ612を、オーディオ装置112が出力するハイレゾリューションオーディオの超高周波の成分の振幅レベルが、運転者の個人レコードの曲調音量テーブルの再生楽曲の曲調に登録されている音量に対応する大きさとなるように、ハイレゾリューションオーディオの超高周波の成分のみの振幅レベルの調整を行う周波数特性に、オーディオ装置112が備えるイコライザーの周波数特性を設定して、オーディオ装置112の音量とイコライザーの周波数特性を固定するステップとしてもよい。
【0051】
なお、この場合には、ステップ616において、オーディオ装置112の音量の固定の解除と共に、イコライザーの周波数特性の固定を解除する。
このように超高周波の振幅レベルのみを制御しても、ハイレゾリューションオーディオの超高周波の振幅レベルとハイパーソニックエフェクトによる運転者の感じる「正味の快」との相関と、運転者の感じる「正味の快」と自動車の運転安定性と、自動車の操作の運転操作の正確性との間にある相関を利用して、脳波を計測することなく運転者の状態に応じた運転支援を行うことができることが期待できる。
【0052】
なお、このように音量制御処理において、ハイレゾリューションオーディオの超高周波の成分の振幅レベルのみを調整する場合には、図5の音量学習処理は、ハイレゾリューションオーディオ全体の音量に代えて、最も高い運転安定性が算出される超高周波の成分の振幅レベルを学習して曲音量テーブルや曲調音量テーブルに登録する処理としてもよい。但し、この場合には、音量制御処理のステップ610、ステップ612では、運転者の個人レコードの曲音量テーブルや曲調音量テーブルに登録されている振幅レベルに、ハイレゾリューションオーディオの超高周波の成分の振幅レベルを調整する周波数特性に、オーディオ装置112が備えるイコライザーの周波数特性を設定する。
【0053】
ところで、以上の実施形態では、運転安定性算出部105において図3に示す自動車と自動車側方の車線境界線(白線等)との距離の逆数を運転安定性として算出したが、これは、運転安定性算出部105において、フロントカメラ101が撮影した前方映像や自動車に設けたレーダ装置の計測値から、図3に示す自動車と前走車との車間距離Lを検出し車間距離Lの標準偏差の逆数を運転安定性として算出するようにしてもよい。車間距離Lの標準偏差も、自動車と自動車側方の車線境界線との距離の標準偏差と同様に、自動車の運転の安定度を表すので、このようにしても同様の効果を得ることが期待できる。
【0054】
また、以上の実施形態は、運転者が特定の一人に限られる場合には、車内カメラ103や個人認識部106による個人認識を行う必要はない。また、この場合には、音量データベース110に当該一人の個人レコードのみを記憶し、この個人レコードを常に、運転者の個人レコードとして音量学習処置や音量制御処理を行うようにする。
【0055】
また、以上の実施形態は、音量データベース110と音量学習部111を設けずに、音量制御部109において、図6に示した音量制御処理に代えて、図7に示す音量調整処理を行うようにしてもよい。
【0056】
この音量調整処理において音量制御部109は、運転安定性が予め定めたしきい値Th1よりも劣化しているか(ステップ702)、要注意区間の走行中であるか(ステップ704)、要注意状況にあるか(ステップ706)を監視し、いずれかである場合には、オーディオ装置112がスピーカ113から出力するハイレゾリューションオーディオの音量を、予め定めた音量の調整範囲の下限の音量に設定し(ステップ708)、所定時間の経過を待って(ステップ710)、運転安定性算出部105に、経過した所定時間の期間中の運転安定性を算出させる(ステップ712)。
【0057】
そして、算出された運転安定性が所定のしきい値Th2(Th2>Th1)よりも良好であるかどうかを調べ(ステップ714)、良好でなければ、現在のオーディオ装置112の音量が、音量の調整範囲の上限に達したかどうかを調べ(ステップ716)、達していなければ、オーディオ装置112の予め定めた単位調整量増加し(ステップ718)、ステップ710からの処理に戻る。
【0058】
一方、ステップ714で算出された運転安定性が所定のしきい値Th2よりも良好であると判定された場合には、オーディオ装置112に音量の変更を禁止することにより、オーディオ装置112の音量を現在の音量に固定する(ステップ720)。
【0059】
そして、運転安定性が予め定めたしきい値Th1よりも劣化しておらず、かつ、要注意区間の走行中でなく、かつ、要注意状況でない状況となったならば(ステップ722)、オーディオ装置112の音量の変更を許可して音量の固定を解除し(ステップ724)、ステップ702からの処理に戻る。
【0060】
また、ステップ716において、現在のオーディオ装置112の音量が、音量の調整範囲の上限に達したと判定された場合には、オーディオ装置112に音量を予め定めたディフォルトの音量に設定して音量の変更を禁止することにより、オーディオ装置112の音量をデフォルトの音量に固定する(ステップ726)。
【0061】
そして、運転安定性が予め定めたしきい値Thよりも劣化しておらず、かつ、要注意区間の走行中でなく、かつ、要注意状況でない状況となったならば(ステップ722)、オーディオ装置112の音量の変更を許可して音量の固定を解除し(ステップ724)、ステップ702からの処理に戻る。
【0062】
以上、音量調整処理について説明した。
ここで、以上の音量調整処理では、ステップ718において、オーディオ装置112に出力するハイレゾリューションオーディオ全体の音量を単位調整量増加させたが、ステップ718では、オーディオ装置112に出力するハイレゾリューションオーディオの超高周波の成分の振幅レベル(ゲイン)のみを単位調整量増加させてもよい。
【0063】
このような音量調整処理によっても、ハイレゾリューションオーディオの音量と運転者の感じる「正味の快」との相関と、運転者の感じる「正味の快」と自動車の運転安定性と、自動車の操作の運転操作の正確性との間にある相関を利用して、脳波を計測することなく運転者の状態に応じた運転支援を行うことができる。
【0064】
また、以上の実施形態では、音量データベース110を音量学習部111が構築するようにしたが、これは、外部から音量データベース110を取得して用いるようにしてもよい、
すなわち、この場合には、車載システム1に移動通信装置を設け、図8に示すように、移動通信網とインターネットを介して、インターネット上に配置した音量データ提供サーバ2にアクセスできるようにする。
【0065】
また、音量データ提供サーバ2に接続した個人属性毎音量データベース3を設け、個人属性毎音量データベース3に、性別や年齢や職種や車種や楽曲嗜好などの属性の組み合わせである個人属性毎に、曲音量レコードと曲調音量レコードを登録した個人属性レコードを格納する。ここで、各個人属性の個人属性レコードの曲音量テーブルに登録される各曲の音量は、当該個人属性を満たす運転者、自動車において運転安定性を最大とすると推定される、当該曲の音量である。より具体的には、音量データ提供サーバ2において、各自動車の車載システム1から、上述した音量学習処理等により算出された、各曲の運転安定性を最大とする音量を、車載システム1に登録されている運転者の個人属性と共にサンプル情報として収集し、収集したサンプル情報から、個人属性毎に各曲の音量を、当該個人属性を示すサンプル情報の当該曲の音量の平均値や最頻値として求め、各個人属性の個人属性レコードの曲音量テーブルの各曲の音量として登録する。
【0066】
また、各個人属性の個人属性レコードの曲調音量テーブルに登録される各曲調の音量は、同じ個人属性レコードの曲音量テーブルに登録されているその曲調の各曲の音量の平均値や最頻値とする。
【0067】
そして、音量データ提供サーバ2において、車載システム1からの要求に応じて、指定された個人属性の個人属性レコードを車載システム1に提供するようにする。
また、車載システム1において、音量制御部109が移動通信装置を用いて音量データ提供サーバ2にアクセスし、予め登録された運転者となることのある各ユーザの個人属性に整合する個人属性レコードを取得し、取得した各個人属性レコードを、その個人属性レコードの個人属性に整合するユーザの個人レコードとして記憶し、音量制御処理において用いるようにする。
【符号の説明】
【0068】
1…車載システム、2…音量データ提供サーバ、3…個人属性毎音量データベース、101…フロントカメラ、102…バックカメラ、103…車内カメラ、104…センサ、105…運転安定性算出部、106…個人認識部、107…ナビゲーションシステム、108…状況監視部、109…音量制御部、110…音量データベース、111…音量学習部、112…オーディオ装置、113…スピーカ。
図1
図2
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図5
図6
図7
図8