(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】金属検出装置
(51)【国際特許分類】
G01V 3/10 20060101AFI20231213BHJP
【FI】
G01V3/10 F
(21)【出願番号】P 2020067491
(22)【出願日】2020-04-03
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】307011510
【氏名又は名称】株式会社熊平製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神田 信之
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-010349(JP,A)
【文献】特開平05-180950(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査体が通過する検出エリアを挟むように配置される送信コイル及び検出コイルと、
前記検出エリアを金属物が通過したときに前記検出コイルから出力される電圧より算出される電圧変化量に基づいて金属物の有無を判定する金属検出部とを備えた電磁誘導方式の金属検出装置において、
被検査体が前記検出エリアの通過を開始する通過開始及び前記検出エリアの通過を完了する通過完了の両タイミングを含む通過タイミングを取得する通過タイミング取得部を備え、
前記通過タイミング取得部は、前記通過開始から前記通過完了までの時間を、被検査体が前記検出エリアを通過する通過時間として更に取得し、
前記金属検出部は、
前記検出コイルから出力される電圧より算出される電圧変化量を、前記通過タイミング取得部で取得した通過タイミング
及び通過時間で時間積分して積分値を算出し、算出された
積分値と金属有無判定用閾値とを比較し、前記
積分値が前記金属有無判定用閾値以上である場合に金属物があると判定
し、
前記金属検出部は、更に、前記通過タイミング取得部で取得した通過時間が所定時間以下の場合には、所定時間よりも長い場合に比べて低周波のノイズを高い除去レベルで除去するフィルタ処理を、前記検出コイルから出力される電圧より算出される電圧変化量を示す信号に対して実行することを特徴とする金属検出装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の金属検出装置において、
前記通過タイミング取得部は、前記検出エリアにおける被検査体の通過方向上流部で当該被検査体を検出する上流側センサと、前記検出エリアにおける被検査体の通過方向下流部で当該被検査体を検出する下流側センサとを備えていることを特徴とする金属検出装置。
【請求項3】
請求項
1に記載の金属検出装置において、
前記金属検出部は、前記検出コイルから出力される電圧より算出される電圧変化量を継続して取得し、前記電圧変化量の積分区間の長さを、前記通過タイミング取得部で取得した通過時間に応じて変更することを特徴とする金属検出装置。
【請求項4】
請求項
1に記載の金属検出装置において、
前記金属検出部は、前記通過タイミング取得部で取得した通過時間が所定時間以下の場合にフィルタ処理を前記信号に対して実行する第1フィルタと、前記通過タイミング取得部で取得した通過時間が所定時間よりも長い場合にフィルタ処理を前記信号に対して実行する第2フィルタとを備えるとともに、前記第1フィルタ及び前記第2フィルタに前記信号を送出可能に構成され、
前記第1フィルタは、前記第2フィルタに比べて低周波のノイズを高い除去レベルで除去することを特徴とする金属検出装置。
【請求項5】
請求項
4に記載の金属検出装置において、
前記金属検出部は、前記第1フィルタによってフィルタ処理が実行された場合の前記積分値を増大させる増大処理を実行することを特徴とする金属検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検査体の金属を検出する金属検出装置に関し、特に、電磁誘導方式を採用する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば各種イベント会場、会議場、文化施設等のように金属物の持ち込みが制限されている場所への入口に金属検出装置が設置されることがある。金属検出装置は、特許文献1に開示されているような電磁誘導方式を採用したものがある。電磁誘導方式の場合は送信コイルと検出コイルを備えており、検出エリアを挟むように送信コイルと検出コイルを対向配置することによって検出エリアに磁界を発生させ、その磁場の乱れを信号処理部において検出可能に構成されている。検出エリアを通過する被検査体が金属を有している場合には磁場の乱れが大きくなり、このことによる検出コイルの電圧変化量を時間積分した積分値が所定の閾値以上になると被検査体が金属を有していると判定し、外部に報知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、検出コイルの電圧変化量を時間積分する積分区間は固定値とされているのが一般的であるが、積分区間を固定値にしていると、以下のような問題が発生するおそれがあった。
【0005】
すなわち、金属検出装置においては、単位時間当たりの検査処理数をできるだけ多くしたいという要求があり、この要求を満たすためには上記積分区間を短くする必要がある。ところが、上記積分区間を短くすると、当該積分区間における検出コイルの電圧変化量の中でノイズ成分の占める割合が増加し、誤検出の原因になりやすい。加えて、被検査体が送信コイルと検出コイルとの間をゆっくりと進む場合があり、この場合に上記積分区間が短く設定されていると、被検査体の通行時間が上記積分区間よりも長くなってしまうことがある。その結果、被検査体が金属を有しているにも関わらず、検出コイルの電圧変化量の積分値が所定の閾値よりも低くなり、金属検出ができなくなる。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、送信コイルと検出コイルとの間を通過する被検査体の速さが一定でなくても、その速さに適応できるようにして金属物の検出漏れを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明では、被検査体の通行時間を取得し、通行時間を積分区間として検出コイルの電圧変化量を時間積分し、得られた積分値に基づいて金属物の有無を判定するようにした。
【0008】
第1の発明は、被検査体が通過する検出エリアを挟むように配置される送信コイル及び検出コイルと、前記検出エリアを金属物が通過したときに前記検出コイルから出力される電圧より算出される電圧変化量に基づいて金属物の有無を判定する金属検出部とを備えた電磁誘導方式の金属検出装置において、被検査体が前記検出エリアの通過を開始する通過開始及び前記検出エリアの通過を完了する通過完了の両タイミングを含む通過タイミングを取得する通過タイミング取得部を備え、前記通過タイミング取得部は、前記通過開始から前記通過完了までの時間を、被検査体が前記検出エリアを通過する通過時間として更に取得し、前記金属検出部は、前記検出コイルから出力される電圧より算出される電圧変化量を、前記通過タイミング取得部で取得した通過タイミング及び通過時間で時間積分して積分値を算出し、算出された積分値と金属有無判定用閾値とを比較し、前記積分値が前記金属有無判定用閾値以上である場合に金属物があると判定し、前記金属検出部は、更に、前記通過タイミング取得部で取得した通過時間が所定時間以下の場合には、所定時間よりも長い場合に比べて低周波のノイズを高い除去レベルで除去するフィルタ処理を、前記検出コイルから出力される電圧より算出される電圧変化量を示す信号に対して実行することを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、金属物を有する被検査体が通過する検出エリアを通過すると、送信コイルと検出コイルとの間の磁場が金属物によって乱れ、検出コイルから出力される電圧が変化する。これと並行して、通過タイミング取得部は、被検査体が検出エリアを通過する際の通過開始及び通過完了の両タイミングを含む通過タイミングを取得する。
【0010】
通過タイミング取得部で取得した通過タイミングに基づいて被検査体が検出エリアを通過し始めた時(被検査体の通過開始時)を推定することができる。これにより、被検査体が検出エリアを通過している時の電圧変化量を算出することができる。
【0011】
つまり、本発明では、電圧変化量の算出区間を被検査体の速度に合わせて柔軟に変化させることができるので、被検査体が検出エリアをゆっくりと通過した場合には、電圧変化量の算出区間も被検査体の通過時間に対応して長くなり、また、被検査体が検出エリアを速く通過した場合には、電圧変化量の算出区間も被検査体の通過時間に対応して短くなる。これにより、算出された電圧変化量が実際の被検査体の通過速さ及びタイミングを反映したものになるので、金属物の検出漏れを抑制できる。
【0012】
また、通過タイミング取得部により、被検査体が検出エリアを通過する通過タイミングと、被検査体が検出エリアを通過するのに要した時間(通過時間)との両方を取得することができる。ここで取得される通過時間は、被検査体の速度に応じて変化することになり、被検査体の速度が速ければ短くなり、被検査体の速度が遅ければ長くなる。したがって、電圧変化量の算出区間を被検査体の検出エリアの通過時間に合わせて柔軟に変化させることができる。
【0013】
また、検出コイルから出力される電圧より算出される電圧変化量の積分開始時を被検査体の通過開始時とし、積分区間を通過タイミング取得部で取得した通過時間とすることで、被検査体が検出エリアを通過している時の電圧変化量の積分値を取得することができる。
【0014】
つまり、本発明では、積分区間を固定値とすることなく、被検査体の速度、即ち検出エリアの通過時間に合わせて柔軟に変化させることができるので、被検査体が検出エリアをゆっくりと通過した場合には、積分区間も被検査体の通過時間に対応して長くなり、また、被検査体が検出エリアを速く通過した場合には、積分区間も被検査体の通過時間に対応して短くなる。これにより、算出された積分値が実際の被検査体の通過速さ及びタイミングを反映したものになるので、金属物の検出漏れを抑制できる。
【0015】
すなわち、検出コイルから出力される電圧より算出される電圧変化量を示す信号を抽出する場合、その抽出時間が短ければ短いほどノイズ成分の影響を受けやすくなり、検出性能の低下及び誤検出の可能性が高くなる。これに対して、本発明では、通過タイミング取得部で取得した通過時間が所定時間以下で短い場合には、長い場合に比べて低周波のノイズを高い除去レベルで除去することができるので、積分区間が短くてもノイズ成分の影響が低減され、よって、検出性能の低下が回避されるとともに、誤検出の可能性が低下する。
【0016】
第2の発明は、前記通過タイミング取得部は、前記検出エリアにおける被検査体の通過方向上流部で当該被検査体を検出する上流側センサと、前記検出エリアにおける被検査体の通過方向下流部で当該被検査体を検出する下流側センサとを備えていることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、被検査体が検出エリアを通過する際、通過方向上流部において上流側センサによって検出された後、通過方向下流部において下流側センサによって検出される。これにより、被検査体の正確な通過タイミングや通過時間を取得することが可能になる。上流側センサ及び下流側センサの種類は特に限定されるものではなく、例えば赤外線センサ、超音波センサ、三次元情報を計測可能なTOFカメラ、被検査体の通過状況を一般的なカメラで撮影して画像解析した結果に基づいて判定する手段等を用いることができる。
【0018】
第3の発明は、前記金属検出部は、前記検出コイルから出力される電圧より算出される電圧変化量を継続して取得し、前記電圧変化量の積分区間の長さを、前記通過タイミング取得部で取得した通過時間に応じて変更することを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、金属検出装置の運用時には、検出コイルから出力される電圧より算出される電圧変化量を金属検出部が継続して取得しておき、被検査体の検出エリアの通過時間を取得した段階で、金属検出部による電圧変化量の積分区間の長さを通過時間に応じた長さにすることができる。
【0020】
第4の発明は、前記金属検出部は、前記通過タイミング取得部で取得した通過時間が所定時間以下の場合にフィルタ処理を前記信号に対して実行する第1フィルタと、前記通過タイミング取得部で取得した通過時間が所定時間よりも長い場合にフィルタ処理を前記信号に対して実行する第2フィルタとを備えるとともに、前記第1フィルタ及び前記第2フィルタに前記信号を送出可能に構成され、前記第1フィルタは、前記第2フィルタに比べて低周波のノイズを高い除去レベルで除去することを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、予め第1フィルタ及び第2フィルタを設けておくことで、通過タイミング取得部で取得した通過時間に応じたフィルタ処理を第1フィルタまたは第2フィルタで実行することができる。尚、通過時間の判定は2段階ではなく、3段階以上にすることもでき、この場合、低周波のノイズの除去レベルが異なる第3フィルタや第4フィルタを設ければよい。
【0022】
第5の発明は、前記金属検出部は、前記第1フィルタによってフィルタ処理が実行された場合の前記積分値を増大させる増大処理を実行することを特徴とする。
【0023】
すなわち、第1フィルタによってフィルタ処理が実行されて低周波ノイズが除去されると信号が減衰する。この場合に、例えば一定のゲインをかけて積分値を増大させることで、第1フィルタ処理の有無の差を補正することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、被検査体が検出エリアを通過する通過タイミングを取得する通過タイミング取得部を備えているので、検出コイルから出力される電圧より算出される電圧変化量の算出区間を実際の被検査体の通過時間に合わせることができ、金属物の検出漏れを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施形態に係る金属検出装置の斜視図である。
【
図3】検出コイルから出力された信号から検波信号を生成する過程を説明する図である。
【
図4】磁界周波数とレベルとの関係を示すグラフである。
【
図5】低速用フィルタ、中速用フィルタ及び高速用フィルタの周波数特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0027】
図1は、本発明の実施形態に係る金属検出装置1の斜視図である。金属検出装置1は、例えばイベント会場、会議場、文化施設、仮設の入出国検査場の入口等に設置することができる装置であり、被検査体としての人が所持している金属物の有無を検出し、金属物を検出した場合には周囲に光や音で報知するように構成されている。金属物を検出した場合には外部機器(例えばゲート開閉器)等に制御信号を出力して制御することもできる。
【0028】
金属検出装置1は入口に設置されることが想定されているので、全体形状としては、一度に1人が通過することが可能な縦長のゲート型をなしている。すなわち、金属検出装置1は、検出エリアSを挟むように配置される第1側板部2及び第2側板部3と、上側連結部4とを備えている。上側連結部4は必要に応じて設ければよく、必須な部材ではない。
【0029】
検出エリアSは、人が通過する通路の一部であり、この検出エリアS内に金属物があるか否かを金属検出装置1によって検出することができるようになっている。人が通過する方向を矢印Aで示す。また、X方向を人が通過する方向とし、Y方向を人が通過する通路の幅方向とし、Z方向を上下方向としているが、これは説明の便宜を図るために定義するだけである。
【0030】
第1側板部2及び第2側板部3は、上下方向に延びるとともに、人が通過する方向(矢印Aで示す方向)に沿うように配置されている。第1側板部2及び第2側板部3の上端部は、一般的な成人の頭部位置よりも上に位置している。第1側板部2及び第2側板部3の端面部には、報知用発光部17がそれぞれ設けられている。報知用発光部17は、例えば発光ダイオード等の光源を有しており、金属物が検出された場合には赤色で点灯する一方、金属物が検出されない場合には赤色以外の色で点灯または消灯するように、後述する制御部8(
図2に示す)によって制御される。報知用発光部17の設置位置は特に限定されるものではない。
【0031】
上側連結部4は、第1側板部2の上部から第2側板部3の上部まで延び、第1側板部2の上部と第2側板部3の上部とを連結する部分であり、第1側板部2及び第2側板部3と一体化している。上側連結部4は、金属検出装置1の天井部を構成する部分でもあり、略水平に延びるように形成されている。上側連結部4は筐体状をなしており、この上側連結部4の内部に、金属検出装置1の一部を構成する制御基板等(図示せず)を設けることができる。
【0032】
(金属検出装置1の詳細構成)
図2に示すように、金属検出装置1は、送信コイルA及び検出コイルBと、入口側通行センサ(上流側センサ)7a及び出口側通行センサ(下流側センサ)7bと、制御部(金属検出部)8と、報知用スピーカー16と、前記報知用発光部17とを有している。送信コイルA及び検出コイルBは従来から使用されているものであるため詳細な説明は省略する。
【0033】
送信コイルAは、第1側板部2に設けられており、外部からは見えないように第1側板部2に内蔵されている。送信コイルAは、第1側板部2の上部から下部に亘っており、金属物が検出エリアSの上部、中間部、下部のいずれにあっても検出可能にしてある。
【0034】
金属検出装置1は、検出エリアSに磁界を発生させる部分として従来から周知の回路構成を有している。すなわち、検出エリアSに磁界を発生させる部分は、前記送信コイルAと、送信コイルAに接続されて該送信コイルAと共振する共振回路Cと、共振回路Cに接続されて任意の周波数を生成する信号発生器Dとを備えている。信号発生器Dは、制御部8に設けておくことができる。
【0035】
検出コイルBは1つであってもよいし、Z方向に並ぶ複数のコイルで構成されていてもよい。検出コイルBも外部からは見えないように第2側板部3に内蔵されている。検出コイルBを複数設ける場合、第2側板部3の上部、中間部、下部のそれぞれに設けておくことができる。
【0036】
検出コイルBには、当該検出コイルBから出力された信号を任意の増幅率で増幅する増幅器5が接続されている。検出コイルBから出力された信号は増幅器5によって増幅されて出力される。検出コイルBが複数設けられている場合、増幅器5を検出コイル毎に設けることができる。増幅器5の増幅率の変更は、例えば管理者等によって行うことができる。
【0037】
各増幅器5の出力段には、A/Dコンバータ6が接続されている。増幅器5から出力された信号(アナログ信号)はA/Dコンバータ6によってデジタル信号とされて出力される。
【0038】
入口側通行センサ7a及び出口側通行センサ7bは、被検査体が検出エリアSを通過する通過タイミング及び通過時間を取得するための通過タイミング取得部を構成するものである。通過タイミング取得部は、通過タイミングのみを取得するものであってもよい。通過タイミングには、被検査体が検出エリアSの通過を開始する通過開始及び検出エリアSの通過を完了する通過完了の両タイミングを含むことができる。両タイミングを取得すれば、被検査体の検出エリアSの通過時間を取得することができる。
【0039】
入口側通行センサ7aは、検出エリアSにおける被検査体の通過方向上流部において被検査体の有無を検出するセンサである。出口側通行センサ7bは、検出エリアSにおける被検査体の通過方向下流部において被検査体の有無を検出するセンサである。
【0040】
具体的には、入口側通行センサ7a及び出口側通行センサ7bは、赤外線センサや超音波センサ等のように物体、特に人が接近したことを検出可能なセンサで構成されている。
図1に示すように、入口側通行センサ7aは、第1側板部2の検出エリアS側の面における通過方向上流部に配設されている。入口側通行センサ7aの位置は、金属物が検出エリアSを通過する際、検出エリアSの磁場が乱れ始める当該金属物の位置に対応している。よって、入口側通行センサ7aよりも上流側に金属物が位置しても検出エリアSの磁場は殆ど乱れない。また、出口側通行センサ7bは、第1側板部2の検出エリアS側の面における通過方向下流部に配設されている。出口側通行センサ7bの位置は、金属物が検出エリアSを通過する際、検出エリアSの磁場の乱れが終わる当該金属物の位置に対応している。よって、出口側通行センサ7bよりも下流側に金属物が位置しても検出エリアSの磁場は殆ど乱れない。
【0041】
制御部8は、例えばマイクロプロセッサ、集積回路等で構成することができる。制御部8は、処理ブロック14と、金属検出判定部15とを備えている。さらに、処理ブロック14は、通過タイミング処理部9、フィルタ10A~10C、検波処理部11A~11C、位相処理部11b、積分処理部12A~12C及び信号選択部13を備えている。これら各部はハードウェアで構成されていてもよいし、ソフトウェアとハードウェアとの組み合わせで構成されていてもよい。位相処理部11bは、信号発生器Dに接続されている。
【0042】
通過タイミング処理部9は、被検査体が検出エリアSを通過した通過タイミングを取り込むとともに、被検査体が検出エリアSを通過するのに要する通過時間を取り込む部分である。通過タイミング処理部9には、入口側通行センサ7a及び出口側通行センサ7bが接続されており、入口側通行センサ7a及び出口側通行センサ7bから出力される被検査体の検出信号が入力されるようになっている。金属検出装置1の運用開始後、入口側通行センサ7aから検出信号が入力されると、通過タイミング処理部9はそのタイミングを被検査体が検出エリアSに入った通過開始タイミングとして記憶または保持する。通過開始タイミングの記憶または保持後、出口側通行センサ7bから検出信号が入力されると、通過タイミング処理部9はそのタイミングを被検査体が検出エリアSから出た通過完了タイミングとして記憶または保持する。
【0043】
通過開始タイミング及び通過完了タイミングは、制御部8の内部クロック等から取得した時刻であってもよいし、金属検出装置1の運用開始から計時されるタイマー(図示せず)等から得られた各種経過時間等であってもよい。通過開始タイミングから通過完了タイミングまでの時間が被検査体の検出エリアSの通過時間である。通過時間は、必要に応じて通過タイミング処理部9で算出することができる。
【0044】
通過タイミング処理部9には、検出コイルBから出力された信号も入力される。検出コイルBから出力された信号は、検出コイルBから出力された電圧より算出される電圧変化量を示す信号であり、
図3の最上部に入力信号SGとしてその一例を表すことができる。検出コイルBから出力された信号は、金属検出装置1の運用開始後から運用終了時まで継続して通過タイミング処理部9に入力されている。
【0045】
図3に示すように、通過タイミング処理部9は、入口側通行センサ7a及び出口側通行センサ7bから出力される検出信号に基づいて、被検査体が検出エリアSを通過している間の通過時信号SG1を取得することができる。すなわち、入口側通行センサ7aは被検査体を検出しているときにのみ検出信号SG2を通過タイミング処理部9に出力し、また、出口側通行センサ7bは被検査体を検出しているときにのみ検出信号SG3を通過タイミング処理部9に出力する。通過タイミング処理部9は、入力信号SGのうち、入口側通行センサ7aの検出信号SG2の立ち下がり時から出口側通行センサ7bの検出信号SG3の立ち下がり時までの間の信号を切り出して通過時信号SG1とする。
【0046】
尚、通過タイミング処理部9は、入力信号SGのうち、入口側通行センサ7aの検出信号SG2の立ち上がり時から出口側通行センサ7bの検出信号SG3の立ち上がり時までの間の信号を切り出して通過時信号SG1としてもよい。
【0047】
通過タイミング処理部9は、入口側通行センサ7aの検出信号SG2と出口側通行センサ7bの検出信号SG3との間隔に基づいて、被検査体の検出エリアSの通過時間を読み取ることができる。また、通過タイミング処理部9は、通過時間と、入口側通行センサ7a及び出口側通行センサ7bの距離とに基づいて、被検査体の速度を算出することもできる。算出した被検査体の速度を、高速、中速、低速の3つに区分することができる。例えば、被検査体の速度が5m/秒以上を高速とし、被検査体の速度が3m/秒以下を低速とし、被検査体の速度が3m/秒を超え、5m/秒未満を中速と定義することができるが、これは一例であり、被検査体の種類や金属検出装置1の設置場所等に応じて任意に設定することができる。また、被検査体の速度範囲を2つに分けてもよいし、4つ以上に分けてもよい。
【0048】
ここで、通過タイミング処理部9が抽出した通過時信号SG1は、抽出時間T1が長ければ長いほど、
図4に符号20で示すようにメインロープの帯域が狭く磁界周波数成分Fが捉えやすくなる。反対に、抽出時間T1が短いと、符号21で示すようにメインロープの帯域が広くなり、磁界周波数成分Fが捉えづらく、他のノイズとなる成分が多くなる。したがって、抽出時間T1が短くなればなるほどノイズの影響が顕在化するので、金属物の検出性能が低下し、誤検出が多くなるおそれがある。
【0049】
このことに対し、本例では、
図2に示すように、通過タイミング処理部9が抽出した通過時信号SG1の出力経路を複数に分岐させて、通過時信号SG1を複数のフィルタ10A~10Cにそれぞれ入力し、被検査体の速度に応じて、それぞれ特性の異なるフィルタ10A~10Cによるフィルタ処理を実行可能にしている。
【0050】
フィルタ10A~10Cは、磁界周波数成分F(
図4に示す)を取り出すフィルタ(例えば、くし型フィルタと低周波ノイズを除去するハイパスフィルタ)であり、上記速度範囲の数と同じ数だけ設けられている。この例では、上記速度範囲が3つあるので、フィルタ10A~10Cは、3つのフィルタ、即ち低速用フィルタ(第1フィルタ)10A、中速用フィルタ(第2フィルタ)10B及び高速用フィルタ10Cで構成されている。低速用フィルタ10Aは、被検査体の速度が上記低速範囲であるときのためのフィルタであり、従って、
図3に示す時間T1が長いときの通過時信号SG1に対して適用される。また、中速用フィルタ10Bは、被検査体の速度が上記中速範囲であるときのためのフィルタであり、従って、
図3に示す時間T1が中程度であるときの通過時信号SG1に対して適用される。また、高速用フィルタ10Cは、被検査体の速度が上記高速範囲であるときのためのフィルタであり、従って、
図3に示す時間T1が短いときの通過時信号SG1に対して適用される。フィルタ10A~10Cの処理は並行して実行される。尚、上記速度範囲が2つ(低速と高速)であれば2つのフィルタ(低速用フィルタと高速用フィルタ)、4つ以上であれば4つ以上のフィルタを含むことができる。
【0051】
低速用フィルタ10A、中速用フィルタ10B及び高速用フィルタ10Cのノイズ除去特性(周波数特性)は
図5に示すとおりである。高速用フィルタ10Cは、中速用フィルタ10B及び低速用フィルタ10Aに比べて誤検知の原因となり得る、例えば100Hz未満の低周波のノイズを高い除去レベルで除去可能に構成されている。また、中速用フィルタ10Bは、低速用フィルタ10Aに比べて低周波のノイズ除去効果が高い。低速用フィルタ10Aは低周波のノイズ除去効果が最も低くなっている。つまり、制御部8は、被検査体の通過時間が所定時間以下の場合には、所定時間よりも長い場合に比べて低周波のノイズ除去効果の高いフィルタ処理を、検出コイルBから出力される電圧より算出される電圧変化量を示す信号に対して実行することができる。
【0052】
検波処理部11A~11Cは、低速用フィルタ10Aに接続される低速用検波処理部11Aと、中速用フィルタ10Bに接続される中速用検波処理部11Bと、高速用フィルタ10Cに接続される高速用検波処理部11Cとで構成されている。低速用検波処理部11Aは、低速用フィルタ10Aから出力された信号を振幅または位相検波処理する部分である。中速用検波処理部11Bは、中速用フィルタ10Bから出力された信号を振幅または位相検波処理する部分である。高速用検波処理部11Cは、高速用フィルタ10Cから出力された信号を振幅または位相検波処理する部分である。各検波処理部11A~11Cには、位相処理部11bが接続されている。検波処理部11A~11Cによる処理後の信号波形の一例を
図3に検波信号SG5として示す。検波信号SG5は、通過時信号SG1の振幅または位相の変化分を示している。検波処理部11A~11Cの処理も並行して実行される。
【0053】
積分処理部12A~12Cは、低速用検波処理部11Aに接続される低速用積分処理部12Aと、中速用検波処理部11Bに接続される中速用積分処理部12Bと、高速用検波処理部11Cに接続される高速用積分処理部12Cとで構成されている。低速用積分処理部12Aは、低速用検波処理部11Aから出力される検波信号SG5で得られる変化量を、被検査体の検出エリアSの通過時間で時間積分する部分する部分である。中速用積分処理部12Bは、中速用検波処理部11Bから出力される検波信号SG5で得られる変化量を、被検査体の検出エリアSの通過時間で時間積分する部分する部分である。高速用積分処理部12Cは、高速用検波処理部11Cから出力される検波信号SG5で得られる変化量を、被検査体の検出エリアSの通過時間で時間積分する部分する部分である。
【0054】
すなわち、検波信号SG5は検出コイルBから出力される電圧より算出される電圧変化量を示しているので、積分処理部12A~12Cは、各々、検出コイルBから出力される電圧より算出される電圧変化量を、被検査体の通過タイミング及び通過時間で時間積分して積分値を算出する。このときの積分区間は、被検査体の通過時間が長ければ長くなり、短ければ短くなるので、通過時間に応じて変更されることになる。また、積分処理部12A~12Cによる積分の開始時は、入口側通行センサ7aの検出信号SG2の立ち上がり時または立ち下がり時であるので、被検査体の通過タイミングと一致させることができる。積分処理部12A~12Cの処理も並行して実行される。
【0055】
仮に、出口側通行センサ7bの検出信号SG3が出力されるまでフィルタ処理、検波処理、積分処理が実行されないと、金属物の有無の判定結果が出るまでに時間がかかることになるが、本例のように、フィルタ10A~10C、検波処理部11A~11C及び積分処理部12A~12Cをそれぞれ低速用、中速用、高速用の3つ設けておき、低速用、中速用、高速用の各々の処理を並行して実行することで、金属物の有無の判定結果を高速に出力できる。
【0056】
積分処理部12A~12Cで算出された積分値は信号選択部13に出力される。低速用積分処理部12A、中速用積分処理部12B及び高速用積分処理部12Cから出力される積分値を、それぞれ低速時積分値、中速時積分値及び高速時積分値とする。信号選択部13は、入口側通行センサ7a及び出口側通行センサ7bから出力される検出信号に基づいて算出された被検査体の通過時間に応じた積分値を、低速時積分値、中速時積分値及び高速時積分値の中から選択する。具体的には、被検査体の速度が低速範囲にあるときには低速時積分値を選択し、被検査体の速度が中速範囲にあるときには中速時積分値を選択し、被検査体の速度が高速範囲にあるときには高速時積分値を選択する。このとき、速度を用いずに通過時間を用いて積分値を選択してもよい。尚、被検査体の通過時間が例えば100msを下回る場合のように、短時間である場合には、電源などの低周波ノイズの影響を受けやすいので、高速とみなして積分値を選択することができる。
【0057】
中速用フィルタ10B及び高速用フィルタ10Cを適用した積分値(中速時積分値及び高速時積分値)を使用する場合、
図5に示すように磁界周波数成分Fが低速用フィルタ10Aに比べて減衰する。これを補うため、信号選択部13では、中速時積分値及び高速時積分値を増大させる増大処理を実行する。具体的には、中速時積分値及び高速時積分値に一定のゲインをかけることにより、通過時間によるフィルタ特性の差を補正することができる。例えば、金属物を持った被検査体(人間)が検出エリアSを50msで通過した高速時と、200msで通過した中速時との2つのデータを取得すると、高速時の磁界周波数成分のピーク値と、中速時の磁界周波数成分のピーク値との差はある程度一定の差(例えば6~7dB程度の差)が生じていたので、上記補正処理を実行することで、判定結果のばらつきを抑制することができる。
【0058】
また、
図4に示すように、通過時間の相違によって磁界周波数スペクトルピークの差が生じるが、その差はほぼ一定のため、フィルタ10A~10Cにより、磁界周波数成分F以外の周波数成分を除去したのち、信号選択部13で同様に一定のゲインをかけることにより、通過時間の相違によるスペクトルピークの差を補正することができる。
【0059】
以上の処理により、検出エリアSの通過時間の相違による金属物の有無判定のばらつきを抑えることができる。尚、上記2つの補正処理は必要に応じて実行すればよい。
【0060】
信号選択部13で選択された積分値は金属検出判定部15に出力される。金属検出判定部15では、信号選択部13から出力された積分値と、予め設定された金属有無判定用閾値とを比較し、積分値が金属有無判定用閾値以上である場合に金属物があると判定する一方、積分値が金属有無判定用閾値未満である場合には金属物が無いと判定する。金属有無判定用閾値は記憶部(図示せず)に予め記憶されている。金属有無判定用閾値は任意の値に設定することができる。この判定手法は従来から周知の手法を用いることができる。
【0061】
金属検出判定部15の判定結果に応じて報知用スピーカー16及び報知用発光部17が制御部8によって制御される。金属検出判定部15が、金属物があると判定した場合には、報知用スピーカー16に報知音を発生させるとともに、報知用発光部17を警告色で発光させる。金属検出判定部15が、金属物が無いと判定した場合には、報知用スピーカー16に報知音を発生させることなく、報知用発光部17も警告色を発光させない。
【0062】
(実施形態の作用効果)
以上説明したように、この実施形態に係る金属検出装置1によれば、金属物を有する被検査体が通過する検出エリアSを通過すると、送信コイルAと検出コイルBとの間の磁場が金属物によって乱れ、検出コイルBから出力される電圧が変化する。これと並行して、被検査体が検出エリアSを通過する通過タイミング及び通過時間を取得することができる。検出コイルBから出力される電圧より算出される電圧変化量の積分開始時を被検査体の通過開始時とし、積分区間を被検査体の通過時間とすることで、被検査体が検出エリアSを通過している時の電圧変化量の積分値を取得することができる。
【0063】
つまり、積分区間を固定値とすることなく、被検査体の通過時間に合わせて柔軟に変化させることができるので、被検査体が検出エリアSをゆっくりと通過した場合には、低速時の処理によって積分区間も被検査体の通過時間に対応して長くなり、また、被検査体が検出エリアを速く通過した場合には、高速時の処理によって積分区間も被検査体の通過時間に対応して短くなる。これにより、算出された積分値が実際の被検査体の通過速さ及びタイミングを反映したものになるので、金属物の検出漏れを抑制できる。
【0064】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。上記実施形態では、電圧変化量を時間積分した積分値と金属有無判定用閾値とを比較して金属物の有無を判定しているが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、通過タイミング取得部で取得した通過開始及び通過完了時の電圧の瞬時値の変化量を算出し、算出された電圧変化量と金属有無判定用閾値とを比較して金属物の有無を判定してもよい。また、通過タイミング部で取得した被検査体の検査エリアSの通過時間内に変化した電圧の総和を算出し、算出された電圧変化量と金属有無判定用閾値とを比較して金属物の有無を判定してもよい。通過タイミング取得部で通過タイミング及び通過時間を取得することで、例えば被検査体が検出エリアSを通過し始めた時から通過し終わるまでの電圧変化量を算出することができる。被検査体の速度が速ければ電圧変化量の算出区間が短くなり、被検査体の速度が遅ければ電圧変化量の算出区間が長くなる。よって、電圧変化量の算出区間を、被検査体の速度に合わせて柔軟に変えることができる。また、電圧変化量の算出開始のタイミングを、被検査体の通過タイミングに合わせることができる。したがって、算出された電圧変化量が実際の被検査体の通過速さ及びタイミングを反映したものになるので、金属物の検出漏れを抑制できる。
【0065】
また、上記実施形態では、入口側通行センサ7a及び出口側通行センサ7bを別々に備え、被検査体の通過タイミング及び通過時間を取得しているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、検出エリアSを含む所定領域を撮影可能なカメラと、カメラで取得された画像を解析する画像解析装置とを用意し、カメラで撮影して取得された画像を画像解析装置で画像解析した結果に基づいて、検出エリアSにおける被検査体の通過状況を判定可能にし、入口側通行センサ7a及び出口側通行センサ7bを別々に備えることなく、被検査体の通過タイミング及び通過時間を取得してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上説明したように、本発明に係る金属検出装置は、例えば、各種イベント会場、会議場、文化施設等のように金属物の持ち込みが制限されている場所への入口に設置することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 金属検出装置
7a 入口側通行センサ(上流側センサ、通過タイミング取得部)
7b 出口側通行センサ(下流側センサ、通過タイミング取得部)
8 制御部
10A 低速用フィルタ(第1フィルタ)
10B 中速用フィルタ(第2フィルタ)
A 送信コイル
B 出力コイル
S 検出エリア