(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】水平削孔式薬液注入工法・システムおよびプログラム
(51)【国際特許分類】
E02D 3/12 20060101AFI20231213BHJP
E02D 3/10 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
E02D3/12 101
E02D3/10 101
(21)【出願番号】P 2020073794
(22)【出願日】2020-04-17
【審査請求日】2022-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107272
【氏名又は名称】田村 敬二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109140
【氏名又は名称】小林 研一
(72)【発明者】
【氏名】秋本 哲平
(72)【発明者】
【氏名】上野 一彦
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-059673(JP,A)
【文献】特開2006-257281(JP,A)
【文献】特開2012-046873(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
E02D 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤を水平削孔して薬液を前記地盤内に注入することで前記地盤を固化する水平削孔式薬液注入工法であって、
前記地盤内に水平方向に延びるように形成した孔内に設置した注入管
の薬液の注入口を通じた注入ポンプによる前記薬液の注入中に、前記地盤内に水平方向に延びるように形成した別の孔内に
設置した吸水管の吸水口を通して負圧ポンプにより吸水を行うことで前記地盤の表面における変動を抑制する水平削孔式薬液注入工法。
【請求項2】
前記注入管を設置する孔と前記吸水
管を設置する孔とがほぼ平行である請求項1に記載の水平削孔式薬液注入工法。
【請求項3】
前記薬液の注入速度と前記吸水の速度とを同等に設定して前記薬液の注入と前記吸水とを開始する請求項1または2に記載の水平削孔式薬液注入工法。
【請求項4】
前記薬液の注入中に前記地盤の表面または近傍における変動量を測定し、この測定結果に基づいて前記薬液の注入に関する制御と前記吸水に関する制御とを行う請求項1乃至3のいずれかに記載の水平削孔式薬液注入工法。
【請求項5】
前記測定された変動量が所定値を超えたとき、前記地盤の変動が隆起の場合に前記薬液の注入の停止、前記薬液の注入速度の低下および前記吸水の速度の増加の少なくともいずれかを行い、前記地盤の変動が沈下の場合に前記吸水の停止または前記吸水の速度の低下を行うように制御する請求項4に記載の水平削孔式薬液注入工法。
【請求項6】
前記吸水された水に前記薬液が混入しているか否かを判断し、前記薬液が混入しているとき、前記吸水を停止する、または、前記吸水の速度を低減するように制御する請求項1乃至5のいずれかに記載の水平削孔式薬液注入工法。
【請求項7】
前記注入管は、
さらに前記吸水のための吸水口
を有し、
前記地盤内に形成した複数の孔内に前記注入管として少なくとも第1および第2の注入管をそれぞれ設置し、前記第1の注入管において前記薬液を前記注入口から注入し、前記第2の注入管
が前記吸水管として前記吸水を前記吸水口で行う請求項1乃至6のいずれかに記載の水平削孔式薬液注入工法。
【請求項8】
前記地盤内に形成された前記薬液の注入のための複数の注入用孔とは別に前記吸水を行うための吸水用孔を前記複数の注入用孔のいずれかの近傍に形成し、前記吸水用孔に前
記吸水管を設置する請求項1乃至6のいずれかに記載の水平削孔式薬液注入工法。
【請求項9】
前記吸水管はスリーブパッカー式の複数の吸水口を有する請求項8に記載の水平削孔式薬液注入工法。
【請求項10】
地盤を水平削孔して薬液を前記地盤内に注入することで前記地盤を固化する水平削孔式薬液注入システムであって、
前記地盤内に水平方向に延びるように形成された孔内に設置された注入管
の薬液の注入口より前記薬液の注入を行うための薬液注入手段と、
前記地盤内に水平方向に延びるように形成された別の孔内に
設置された吸水管の吸水口より吸水を行うための吸水手段と、を備え、
前記薬液注入手段は、前記薬液の注入のための注入ポンプを有し、
前記吸水手段は、前記吸水のための負圧ポンプを有し、
前記
注入ポンプによる前記薬液の注入中に前記
負圧ポンプにより前記吸水を行うことで前記地盤の表面における変動を抑制する水平削孔式薬液注入システム。
【請求項11】
前記注入管を設置する孔と前記吸水
管を設置する孔とがほぼ平行である請求項10に記載の水平削孔式薬液注入システム。
【請求項12】
前記地盤の表面または近傍における変動量を測定するための測定手段と、
前記薬液注入手段と前記吸水手段とを制御するための制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記測定手段による測定結果に基づいて前記薬液の注入に関する制御および前記吸水に関する制御を行う請求項10または11に記載の水平削孔式薬液注入システム。
【請求項13】
前記制御手段は、前記薬液の注入速度と前記吸水の速度とを同等に設定して制御を開始する請求項12に記載の水平削孔式薬液注入システム。
【請求項14】
前記測定手段により測定された変動量が所定値を超えたとき、前記制御手段は、前記地盤の変動が隆起の場合に前記薬液の注入の停止、前記薬液の注入速度の低下および前記吸水の速度の増加の少なくともいずれかを行い、前記地盤の変動が沈下の場合に前記吸水の停止または前記吸水の速度の低下を行うように制御する請求項12または13に記載の水平削孔式薬液注入システム。
【請求項15】
前記吸水された水に前記薬液が混入しているか否かを判断するための判断手段を備え、
前記判断手段により前記薬液が混入していると判断されたとき、前記制御手段は、前記吸水を停止する、または、前記吸水の速度を低減するように制御する請求項12乃至14のいずれかに記載の水平削孔式薬液注入システム。
【請求項16】
前記注入管は、
さらに前記吸水のための吸水口
を有し、
前記地盤内に形成された複数の孔内に前記注入管として少なくとも第1および第2の注入管をそれぞれ設置し、前記薬液注入手段により前記第1の注入管において前記薬液を前記注入口から注入し、前記吸水手段により前記第2の注入管
が前記吸水管として前記吸水を前記吸水口で行う請求項10乃至15のいずれかに記載の水平削孔式薬液注入システム。
【請求項17】
前記地盤内に前記薬液の注入のための複数の注入用孔を上下方向に多段に形成し、
前記注入用孔とは別に前記吸水を行うための吸水用孔を下段の前記注入用孔の下側および/または上段の前記注入用孔の上側に形成し、前記吸水用孔に前
記吸水管を設置する請求項10乃至15のいずれかに記載の水平削孔式薬液注入システム。
【請求項18】
前記吸水管はスリーブパッカー式の複数の吸水口を有する請求項17に記載の水平削孔式薬液注入システム。
【請求項19】
請求項4乃至6のいずれかに記載の水平削孔式薬液注入方法における前記制御をコンピュータに実行させる、または、請求項12乃至15のいずれかに記載の水平削孔式薬液注入システムにおける前記制御手段をコンピュータにおいて機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤を水平削孔して薬液を注入することで地盤を固化する水平削孔式薬液注入工法、水平削孔式薬液注入システム、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
既設構造物直下の液状化対策工法として、地表面から既存施設直下に向かって削孔し、薬液注入によって地盤改良する薬液注入工法が知られている(たとえば、非特許文献1参照)。薬液注入工法は、
図1に示すように、地盤内の土粒子間の間隙水を薬液に置き換えることで地盤を固化し地盤の液状化を防止する工法である。
【0003】
図2に既設構造物直下の曲がり削孔による従来の施工例を示す。曲がり削孔機100により削孔ロッド101を駆動することで削孔を地盤に対し傾斜方向に直線的に行ってから曲がるように向きが制御されて水平方向に既設構造物直下まで行う。複数回の削孔後に、
図3のように、地盤内に上下方向に複数段設置した注入管102~104の各注入口105から薬液を地盤内に注入する(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
図17に水平削孔による従来の施工例を示す。
図17の水平削孔の施工においては、
図2の曲がり削孔機を使用する代わりに、地盤改良対象地盤に沿って縦坑(または溝)Hを掘削し、縦坑Hから改良対象地盤に対し水平方向に既設構造物の直下まで水平削孔を行い、地盤内に上下方向に複数段設置した注入管102~104の各注入口105から薬液を地盤内に注入する。
【0005】
図4に注入管102の拡大図を示す。注入管102は、注入外管110と注入ホース111と複数の注入口115と、を備え、注入時の薬液の逸走防止のため注入外管110の内部にダブルパッカー式の注入装置112を挿入し、セメントベントナイト等の充填物によるスリーブパッカー注入を行い、注入口115の左右にスリーブパッカー113,114を形成し、注入外管110内を洗浄した後、薬液が注入ポンプにより注入ホース111を通して送られ、特殊ストレーナからなる注入口115から地盤G内に注入される(たとえば、特許文献1・非特許文献1参照)。かかる薬液注入により地盤G内に薬液が浸透し、
図4の破線で示すように、略球状の固化体Cが形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】「浸透固化処理工法技術マニュアル(2010年版)」平成22年6月 一般財団法人 沿岸技術研究センター
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記薬液注入工法は、既存施設に対する影響が少ない工法ではあるものの、対象地盤の土質や改良条件によっては隆起等の変状を発生させる可能性がある。例えば、細粒分が多く薬液が浸透しにくい地盤や、周囲を不透水層で囲まれて地下水を追い出しにくい地盤では、薬液の注入に伴い地盤内の圧力が上昇し、地盤を隆起させてしまう。特に改良深度が浅い地盤は、土被り圧が小さいため隆起を生じやすい。
図5は、既設構造物として空港の滑走路を例にした場合の隆起メカニズムを概略的に示す断面図である。滑走路RWの直下において薬液注入を行って多数の略球状の固化体Cを水平方向に形成した場合、改良深度が浅く、周囲に不透水層がある場合では、図の破線のような圧力分布が生じ、滑走路RWが隆起してしまう。空港の滑走路では飛行機の離発着時の走行に支障をきたすため、厳しい隆起制限が定められている。
【0009】
一般的な隆起対策は、注入速度の低下であるが、機械で制御できる最低速度で注入しても隆起してしまう地盤もあり、所定の薬液量が注入できず、液状化対策が完了しないといった問題が生じている。
【0010】
隆起を抑制し防止するためには、地盤内で上昇した圧力を低下させる必要がある。しかし、上部には既設構造物があるため、上部からウェルポイント等による吸水を実施することは不可能である。そこで、改良対象地盤の外側でのウェルポイントによる吸水が考えられるものの、吸水箇所が改良対象地盤外となってしまうため、改良対象地盤外からの吸水がほとんどであったり、吸水機器設置位置も既設構造物により間隔が離れてしまい、その結果、改良対象地盤への効果はほとんどない。
【0011】
なお、
図2の工法と
図17の工法とを比較すると、両者は、既設構造物の直下に水平方向の薬液注入孔を設ける点で共通する一方、
図2では曲がり削孔機を使用し傾斜方向から既設構造物の直下へと水平方向に削孔するのに対し、
図17では改良対象地盤に沿って掘削した縦坑(溝)から水平方向に削孔する点で相違する。本明細書においては、構造物の直下に水平方向の薬液注入孔を設け薬液注入をする工法等を提案し、これを水平削孔式薬液注入工法と称するが、かかる水平削孔式薬液注入工法は、
図2の曲がり削孔式薬液注入工法および
図17の水平削孔式薬液注入工法のいずれをも含む。すなわち、地盤内で水平方向に延びる孔は、
図2,
図17のいずれの工法によって形成してよい。
【0012】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、既設構造物の直下において水平削孔式薬液注入を行う際に地盤の圧力を低下させ、地盤における隆起や沈下の変動を抑制する水平削孔式薬液注入工法・システム、およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための水平削孔式薬液注入工法は、地盤を水平削孔して薬液を前記地盤内に注入することで前記地盤を固化する水平削孔式薬液注入工法であって、前記地盤内に水平方向に延びるように形成した孔内に設置した注入管の薬液の注入口を通じた注入ポンプによる前記薬液の注入中に、前記地盤内に水平方向に延びるように形成した別の孔内に設置した吸水管の吸水口を通して負圧ポンプにより吸水を行うことで前記地盤の表面における変動を抑制するものである。
【0014】
この水平削孔式薬液注入工法によれば、地盤内の水平方向に延びる孔内に設置された注入管による薬液注入中に、地盤内の水平方向に延びる別の孔において吸水を行うことで、地盤内の間隙水等を外部に効率的に排出することができ、薬液注入に起因して上昇する地盤の圧力を効率的に低下させることができ、これにより、改良対象地盤の表面における隆起や沈下の変動を抑制することができる。また、地盤内から吸水し間隙水を排出できるので、地盤内への薬液注入を促進でき、所定量の薬液の注入が容易となる。なお、改良対象地盤における薬液注入・吸水により隆起だけではなく沈下も発生しうることから隆起現象と沈下現象を併せて地盤の変動とする。
【0015】
上記水平削孔式薬液注入工法において、前記注入管を設置する孔と前記吸水管を設置する孔とがほぼ平行であることが好ましい。
【0016】
また、前記薬液の注入速度と前記吸水の速度とを同等に設定して前記薬液の注入と前記吸水とを開始することが好ましい。
【0017】
また、前記薬液の注入中に前記地盤の表面または近傍における変動量を測定し、この測定結果に基づいて前記薬液の注入に関する制御と前記吸水に関する制御とを行うことが好ましい。薬液の注入に関する制御と吸水に関する制御として、たとえば、注入開始や停止や再開・注入速度・吸水開始や停止や再開・吸水速度の制御がある。なお、変動量の測定は地盤の表面または近傍において複数箇所で行うことが好ましい。
【0018】
また、前記測定された変動量が所定値を超えたとき、前記地盤の変動が隆起の場合に前記薬液の注入の停止、前記薬液の注入速度の低下および前記吸水の速度の増加の少なくともいずれかを行い、前記地盤の変動が沈下の場合に前記吸水の停止または前記吸水の速度の低下を行うように制御することが好ましい。薬液の注入中に変動量を測定し、その変動量が所定値を超えたとき薬液注入の停止や注入速度の低下や吸水速度の増加や低下により、変動量が所定の許容最大値を超えることを未然に防止できる。
【0019】
また、前記吸水された水に前記薬液が混入しているか否かを判断し、前記薬液が混入しているとき、前記吸水を停止する、または、前記吸水の速度を低減するように制御することが好ましい。吸水された水に薬液が混入している場合には、吸水の停止や吸水速度の低減により、薬液が吸水されてしまうことを防止できる。たとえば、薬液が酸性の場合、吸水された水のpHを計測することで、薬液混入の有無を判断できる。
【0020】
また、前記注入管は、さらに前記吸水のための吸水口を有し、前記地盤内に形成した複数の孔内に前記注入管として少なくとも第1および第2の注入管をそれぞれ設置し、前記第1の注入管において前記薬液を前記注入口から注入し、前記第2の注入管が前記吸水管として前記吸水を前記吸水口で行うことが好ましい。吸水後に第2の注入管に注入ポンプを付け替えて薬液を注入口から注入することができ、また、薬液注入後に第1の注入管に負圧ポンプを付け替えて吸水を吸水口で行うことができる。
【0021】
また、前記地盤内に形成された前記薬液の注入のための複数の注入用孔とは別に前記吸水を行うための吸水用孔を前記複数の注入用孔のいずれかの近傍に形成し、前記吸水用孔に前記吸水のための吸水管を設置するようにしてもよい。吸水管には負圧ポンプが接続される。また、前記吸水管はスリーブパッカー式の複数の吸水口を有するように構成できる。
【0022】
上記目的を達成するための水平削孔式薬液注入システムは、地盤を水平削孔して薬液を前記地盤内に注入することで前記地盤を固化する水平削孔式薬液注入システムであって、
前記地盤内に水平方向に延びるように形成された孔内に設置された注入管の薬液の注入口より前記薬液の注入を行うための薬液注入手段と、前記地盤内に水平方向に延びるように形成された別の孔内に設置された吸水管の吸水口より吸水を行うための吸水手段と、を備え、
前記薬液注入手段は、前記薬液の注入のための注入ポンプを有し、前記吸水手段は、前記吸水のための負圧ポンプを有し、
前記注入ポンプによる前記薬液の注入中に前記負圧ポンプにより前記吸水を行うことで前記地盤の表面における変動を抑制するものである。
【0023】
この水平削孔式薬液注入システムによれば、地盤内の水平方向に延びる孔内に設置された注入管による薬液注入中に、地盤内の水平方向に延びる別の孔において吸水を行うことで、地盤内の間隙水等を外部に効率的に排出することができ、薬液注入に起因して上昇する地盤の圧力を効率的に低下させることができ、これにより、改良対象地盤の表面における隆起や沈下の変動を抑制することができる。また、地盤内から吸水し間隙水を排出できるので、地盤内への薬液注入を促進でき、所定量の薬液の注入が容易になる。
【0024】
上記水平削孔式薬液注入システムにおいて、前記注入管を設置する孔と前記吸水管を設置する孔とがほぼ平行であることが好ましい。
【0025】
また、前記地盤の表面または近傍における変動量を測定するための測定手段と、前記薬液注入手段と前記吸水手段とを制御するための制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記測定手段による測定結果に基づいて前記薬液の注入に関する制御および前記吸水に関する制御を行うことが好ましい。薬液の注入に関する制御と吸水に関する制御として、たとえば、注入開始や停止や再開・注入速度・吸水開始や停止や再開・吸水速度の制御がある。なお、変動量の測定は地盤の表面または近傍において複数箇所で行うことが好ましい。
【0026】
また、前記制御手段は、前記薬液の注入速度と前記吸水の速度とを同等に設定して制御を開始することが好ましい。
【0027】
また、前記測定手段により測定された変動量が所定値を超えたとき、前記制御手段は、前記地盤の変動が隆起の場合に前記薬液の注入の停止、前記薬液の注入速度の低下および前記吸水の速度の増加の少なくともいずれかを行い、前記地盤の変動が沈下の場合に前記吸水の停止または前記吸水の速度の低下を行うように制御することが好ましい。薬液の注入中に変動量を測定し、その変動量が所定値を超えたとき薬液注入の停止や注入速度の低下や吸水速度の増加や低下により、変動量が許容最大値を超えることを未然に防止できる。
【0028】
また、前記吸水された水に前記薬液が混入しているか否かを判断するための判断手段を備え、前記判断手段により前記薬液が混入していると判断されたとき、前記制御手段は、前記吸水を停止する、または、前記吸水の速度を低減するように制御することが好ましい。吸水された水に薬液が混入している場合には、吸水の停止や吸水速度の低減により、薬液が吸水されてしまうことを防止できる。たとえば、薬液が酸性の場合、吸水された水のpHを計測することで、薬液混入の有無を判断できる。
【0029】
また、前記注入管は、さらに前記吸水のための吸水口を有し、前記地盤内に形成された複数の孔内に前記注入管として少なくとも第1および第2の注入管をそれぞれ設置し、前記薬液注入手段により前記第1の注入管において前記薬液を前記注入口から注入し、前記吸水手段により前記第2の注入管が前記吸水管として前記吸水を前記吸水口で行うことが好ましい。吸水後に第2の注入管に薬液注入手段の注入ポンプを付け替えて薬液を注入口から注入することができ、また、薬液注入後に第1の注入管に吸水手段の負圧ポンプを付け替えて吸水を吸水口で行うことができる。
【0030】
また、前記地盤内に前記薬液の注入のための複数の注入用孔を上下方向に多段に形成し、前記注入用孔とは別に前記吸水を行うための吸水用孔を下段の前記注入用孔の下側または上段の前記注入用孔の上側に形成し、前記吸水用孔に前記吸水のための吸水管を設置するようにしてもよい。吸水管には吸水手段の負圧ポンプが接続される。また、前記吸水管はスリーブパッカー式の複数の吸水口を有するように構成できる。
【0031】
なお、好ましい注入管は、上述の水平削孔式薬液注入方法における前記注入管または上述の水平削孔式薬液注入システムにおける前記注入管として使用可能な薬液注入管である。この注入口と吸水口とを有する注入管により薬液注入と吸水とを同時に行うことができる。
【0032】
なお、好ましい吸水管は、上述の水平削孔式薬液注入方法における前記吸水管または上述の水平削孔式薬液注入システムにおける前記吸水管として使用可能な吸水管である。スリーブパッカー式の複数の吸水口を有する吸水管により、吸水を効率的に行うことができる。
【0033】
上記目的を達成するためのプログラムは、上述の水平削孔式薬液注入方法における前記制御をコンピュータに実行させる、または、上述の水平削孔式薬液注入システムにおける前記制御手段をコンピュータにおいて機能させるためのコンピュータ用プログラムである。
【0034】
このプログラムによれば、上述の水平削孔式薬液注入方法における前記制御をコンピュータに実行させることができ、または、上述の水平削孔式薬液注入システムにおける前記制御手段をコンピュータにおいて機能させることができるので、薬液の注入に関する制御と吸水に関する制御とを実行でき、これらの制御の一部または全部を自動的に実行できるように構成できる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、既設構造物の直下において水平削孔式薬液注入を行う際に地盤の圧力を低下させ、地盤の変動を抑制する水平削孔式薬液注入工法・システム、およびプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】薬液注入工法の原理を説明するための概略図である。
【
図2】既設構造物直下の従来の曲がり削孔による施工例を概略的に示す図である。
【
図3】
図2の曲がり削孔後に注入管により薬液を地盤内に注入する従来の施工例を概略的に示す図である。
【
図5】既設構造物として空港の滑走路を例にした場合の隆起等の変動メカニズムを概略的に示す断面図である。
【
図6】第1の実施形態において注入管により薬液注入と吸水とを行う状況を概略的に示す断面図である。
【
図7】
図6の注入管の注入口における注入状況を示す要部側面図である。
【
図8】
図6の注入管の吸水口における吸水状況を示す要部側面図である。
【
図9】第1,第2の実施形態による曲がり削孔式薬液注入工法を実施可能な曲がり削孔式薬液注入システムを概略的に示す図である。
【
図10】
図9のPC49の構成例の概略を示すブロック図である。
【
図11】第1の実施形態による曲がり削孔式薬液注入工法の各工程を説明するためのフローチャートである。
【
図12】
図9の変動量測定工程S06での変動量測定結果に基づく制御工程を説明するためのフローチャートである。
【
図13】
図9のpH計測工程S07でのpH計測結果に基づく制御工程を説明するためのフローチャートである。
【
図14】第2の実施形態において複数段の注入管の上部に吸水管を設置し薬液注入と吸水とを行う状況を概略的に示すY-Z方向の断面図(a)およびX-Z方向の断面図(b)である。
【
図15】複数段の注入管の下部に吸水管を設置し薬液注入と吸水とを行う状況を概略的に示すY-Z方向の断面図(a)およびX-Z方向の断面図(b)である。
【
図17】既設構造物直下の従来の水平削孔による施工例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。なお、本実施形態は、曲がり削孔式薬液注入工法・システムによるものである。
【0038】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、薬液の注入管に注入口と吸水口とを設け、1本の注入管で薬液の注入を行うとともに別の注入管で吸水を行い、薬液注入箇所の周辺で吸水を行うことで地盤内の圧力を低下させ地盤の変動を抑制するものである。
図6は、第1の実施形態において注入管により薬液注入と吸水とを行う状況を概略的に示す断面図である。
図7は、
図6の注入管の注入口における注入状況を示す要部側面図である。
図8は、
図6の注入管の吸水口における吸水状況を示す要部側面図である。なお、
図6では、注入管において注入口と吸水口とを強調するため実際よりも大きく表示している(後述の
図14,
図15においても同様である)。
【0039】
図6の地盤Gにおいてたとえば
図2のように先端ビット101aが装着された削孔ロッド101を、曲がり削孔機100にセットし、削孔機100を施工現場の所定位置に設置し、削孔機100を駆動し、地表面Sから傾斜方向に削孔を直線的に行い、途中、曲がるように向きが制御され、水平方向に行う。このとき、中空式ジャイロによりリアルタイムに削孔ロッド101の先端位置が検出されロッド先端の姿勢が制御される。次に、挿入式位置検出装置を削孔ロッド101内に先端まで挿入し、削孔経路の位置計測を行い、削孔位置が計画位置に到達していないと判断されると、削孔が継続され、再度の位置計測により削孔位置が計画位置に到達したと判断されると、削孔が完了する。
【0040】
上述のようにして、
図6のように、傾斜方向から水平方向に延びるように複数の孔51,52,53を地盤G内の上下方向に形成する。複数の孔51,52,53は互いにほぼ並行に形成される。また、さらなる複数の孔が
図6の紙面垂直方向に複数の孔51,52,53と並ぶように形成される。なお、複数の孔51~53の直上には空港滑走路等の既設構造物が設置されている。
【0041】
次に、
図2の削孔機100により削孔ロッド101を逆回転させて先端ビット101aを外してロストし、次に、注入管の注入外管65(
図7,
図8)を削孔ロッド101内に挿入してから、削孔ロッド101を引き抜き、注入外管65(
図7,
図8)を地盤G内に残置する。なお、曲がり削孔式薬液注入工法については、たとえば、本出願人が他の出願人とともに先に出願した特許文献1に詳述されている。
【0042】
上述のようにして,
図6の地盤内の複数の孔51~53内にそれぞれ注入管61,62,63を設置する。各注入管61~63には、先端(図の左端)から所定の一定間隔で多数の薬液の注入口A1,A2,A3,A4,・・・が設けられ、注入口A1とA2との間、注入口A2とA3との間,注入口A3とA4との間、・・・には、吸水口B1、B2,B3,・・・が設けられている。
【0043】
図6,
図7のように、注入管61~63は、注入外管65と注入ホース66と複数の注入口A(
図6のA1,A2,A3,A4,・・・)と、を備え、注入時の薬液の逸走防止のため注入外管65の内部にダブルパッカー式の注入装置67を挿入し、セメントベントナイト等の充填物によるスリーブパッカー注入を行い、注入口Aの左右にスリーブパッカー68,69を形成することで、スリーブパッカー68,69の外周面を地盤G内に形成した孔51~53の内周面に密着させ、注入時の薬液の逸走を防止するようにし、注入外管65内を洗浄した後、薬液が注入ポンプにより注入ホース66を通して送られ、特殊ストレーナからなる注入口Aから地盤G内に注入される。かかる薬液注入により地盤G内に薬液が浸透し、略球状の固化体が形成される。
【0044】
また、
図6,
図8のように、注入管61~63は、さらに、注入口A間に吸水口B(
図6のB1,B2,B3,B4,・・・)を備え、吸水口Bに相当する注入外管65の外周面には多数の吸水孔bが設けられている。注入口Aの場合と同様に、外管65の内部にダブルパッカー式の注入装置67を挿入し、セメントベントナイト等の充填物によるスリーブパッカー注入を行い、注入口Bの左右にスリーブパッカー68,69を形成することで、スリーブパッカー68,69の外周面を地盤G内の孔51~53の内周面に密着させ、吸水時の他部分からの空気や水の吸引を防止するようにし、注入外管65内を洗浄した後、吸水が負圧ポンプにより注入ホース66を通して行われる。
【0045】
たとえば、注入管62の注入口A2から薬液を地盤G内に注入している間に、注入管62の上の注入管61の吸水口B1,B2から吸水を行うことで、薬液注入箇所周辺で吸水を実施する。なお、この場合、注入管62の下の注入管63の吸水口B1,B2から吸水を行うようにしてもよい。また、たとえば、注入管62の注入口A3から薬液を注入する場合は、注入管61の吸水口B2,B3から、あるいは、注入管63の吸水口B2,B3から吸水を行う。また、注入管61の注入口A2から薬液を注入する場合は、その下の注入管62または63の吸水口B1,B2から吸水を行う。同様に、注入管63の注入口A2から薬液を注入する場合は、その上の注入管62または61の吸水口B1,B2から吸水を行う。
【0046】
図8のように、吸水を注入管のスリーブパッカー式による吸水口Bから行うことで、吸水箇所を限定でき、他の吸水口等からの吸水を防止し、対象の吸水口から効率的に吸水でき、また、吸水管理や注入外管の清掃も容易である。なお、吸水に用いた注入管は、注入ホース66に注入ポンプを付け替えることで薬液注入に用いることができる。また、薬液注入に用いた注入管は、注入ホース66に負圧ポンプを付け替えることで吸水に用いることができる。
【0047】
次に、第1の実施形態による曲がり削孔式薬液注入工法を実施可能な曲がり削孔式薬液注入システムについて
図9を参照して説明する。
図9は、第1の実施形態による曲がり削孔式薬液注入工法を実施可能な曲がり削孔式薬液注入システムを概略的に示す図である。
【0048】
図9の曲がり削孔式薬液注入システム10は、薬液注入部20と、吸水部30と、変動量測定部40と、pH計測部35と、制御部47と、を備え、地盤G内の改良対象領域Kに薬液注入を行う際にその直上の空港滑走路RWの表面Sでの隆起や沈下の変動を抑制する構成になっている。
【0049】
なお、
図9の曲がり削孔式薬液注入システム10は、
図2のような曲がり削孔のための曲がり削孔機100をも備えるが、削孔機100は削孔終了後に撤去されるために図示を省略している。
【0050】
薬液注入部20は、地盤G内へ注入される薬液の流量を計測する薬液流量計21と、薬液を注入管へ送り出して地盤G内へ注入するための注入ポンプ22と、薬液を貯留し注入ポンプ22へ供給するタンク23と、を有し、
図9では、注入ポンプ22は
図6の注入管62に接続され注入口A2から薬液を注入する。
【0051】
吸水部30は、地盤G内から吸水する水の流量を計測する吸水流量計31と、負圧を作用させて地盤G内から吸水するための負圧ポンプ32と、を有し、
図9では、負圧ポンプ32は
図6の注入管61に接続され吸水口B1,B2から吸水を行う。
【0052】
変動量測定部40は、
図9の改良対象領域Kの直上の空港滑走路RWの表面Sに2次元的に所定間隔で配置され固定された多数のミラー42~46をターゲットにして自動で追尾して同時に距離と角度とを測定するように改良対象領域Kの外側に設置された自動追尾式の測距装置41を有する。測距装置41は、測定した距離と角度とから各ミラー42~46における鉛直方向の変位量を算出し変動量とする。すなわち、薬液注入開始前に各ミラー42~46の鉛直方向高さh0を測定し、薬液注入開始後に各ミラー42~46の鉛直方向高さh1を測定したとすると、変動量Δhは次式(1)から求めることができる。また、変動量Δhは各ミラー42~46ごとに求める。なお、たとえば所定の基準高さに対し鉛直上方向の変位量を+、鉛直下方向の変位量を-とすることで、地盤の変動が隆起であるか、沈下であるかを判断できる。
Δh=h1-h0 (1)
【0053】
ミラーの設置個数は、たとえば、面積10m2に1個とすることができるが、実際の薬液注入箇所に応じて設置し、薬液注入箇所は施工現場によって相違するため、その都度設定することが好ましい。また、自動追尾式測距装置41は、多数のミラー42~46を1個ずつ順に測定し,たとえば1個当たりの測定に30秒程度の時間を要し、たとえばミラー10~20個で5~10分程度かかる。薬液注入は、固化体1個当たり3~6時間程度かかるので、変動量測定は、薬液注入と比べればほぼリアルタイムに行うことができるといえる。また、ミラーの個数が増えたりミラー全部の測定時間を短縮する場合には、測距装置41を増設するようにしてもよい。測定した変動量が所定値を超えた場合は、薬液注入停止や吸水速度増加により変動量を低減させる。なお、自動追尾式測距装置41は、自動追尾トータルステーションなどともよばれ、市販のものを使用できる。
【0054】
pH計測部35は、負圧ポンプ32により地盤G内から吸水した水のpHを計測する。地盤G内に注入する薬液はpHがたとえば2~5の酸性であるため、地盤G内から吸水した水のpH計測値がたとえば6以下で酸性であると、注入した薬液を吸水していると判断できる。薬液吸水と判断されると、吸水速度低減や吸水停止により薬液吸水を防止する。なお、pH計測部35は市販のpH計測器を使用することができる。また、吸水した水は、pH計測後一定値以上(中性)であればそのまま放水してもよいが、一定値以下の時にはpH調整後に放水する。
【0055】
制御部47は、コントローラ48と、パーソナルコンピュータ(PC)49と、を有する。コントローラ48は、薬液注入部20における薬液注入と吸水部30における吸水とを、変動量測定部40で測定した変動量とpH計測部で計測した吸水した水のpH値とに基づいて調整し制御する。すなわち、コントローラ48は、薬液注入部20の注入ポンプ21を制御し注入速度を調整し、吸水部30の負圧ポンプ31を制御し吸水速度を調整する。
【0056】
また、コントローラ48には、薬液流量計21、吸水流量計31,測距装置41,pH計測部35からの出力信号が入力し、薬液流量計21からの出力信号により薬液注入速度と注入した注入薬液量、および、吸水流量計31からの出力信号により吸水速度と吸水した吸水量が得られコントローラ48の各表示器に表示され、また、変動量測定部40で測定した変動量およびpH計測部35で計測した吸水した水のpH値が各表示器に表示される。
【0057】
コントローラ48により、各表示器に表示された薬液注入速度・注入薬液量・吸水速度・吸水量・変動量・pH値に基づいて注入ポンプ21を制御し注入圧の調整により薬液注入速度を調整し、また、負圧ポンプ31を制御し負圧の調整により吸水速度と吸水量を調整する。かかる調整・制御は、注入ポンプ21・負圧ポンプ31の各操作部を手動で操作して行うことができるが、コントローラ48と通信可能に接続されたPC49により自動的に行うこともできる。
【0058】
図10は、
図9のPC49の構成例の概略を示すブロック図である。
図10のように、PC49は、外部との通信のため外部と接続するインターフェース部(I/F)49aと、各種制御を実行するCPU(中央演算処理装置)49bと、制御の際のプログラムや各種情報を一時的に保存するRAM等からなるメモリ49cと、ハードディスクや半導体記録媒体等からなる記憶装置から構成され各種データを記録し保存するデータベース部49dと、液晶パネル等からなる表示部49eと、キーボードやマウス等のポインティングデバイスからなる情報入力部49fと、ハードディスクやROM等からなる記憶装置から構成され各種ソフトウェアを格納するソフトウェア格納部49gと、を備える。ソフトウェア格納部49gには、OS(オペレーティングシステム)95および薬液注入・吸水の制御と管理のための薬液注入・吸水制御管理ソフト96が格納されている。
【0059】
PC49は、さらに、薬液注入の作動・停止・薬液注入速度の制御を行う薬液注入制御部49hと、吸水の作動・停止・吸水速度の制御を行う吸水制御部49iと、変動量を管理し変動量が所定値を超えるか否かを判断する変動量管理部49jと、吸水した水のpHを管理しpHが6以下となるか否かを判断するpH管理部49kと、を備える。なお、管理値であるpH6以下については、使用する薬液等に応じて変更することができる。データベース部49dは、薬液注入量や薬液注入速度等のデータを記録する薬液注入記録部91と、吸水量や吸水速度等のデータを記録する吸水記録部92と、測定した変動量等を記録する変動量記録部93と、計測したpH値等を記録するpH記録部94と、を有する。
【0060】
次に、第1の実施形態の曲がり削孔式薬液注入システムによる曲がり削孔式薬液注入工法の各工程について
図11のフローチャートを参照して説明する。
図11は、第1の実施形態による曲がり削孔式薬液注入工法の各工程を説明するためのフローチャートである。
【0061】
図11のように、まず、
図9の各種機器や資材等を地盤の周辺に搬入し組み立てや配置を行い、薬液注入施工のための準備をする(S01)。
【0062】
次に、
図6,
図9のように、改良対象領域Kに対し表面Sから
図2の曲がり削孔を行い傾斜方向から水平方向に互いに平行に延びるように複数の孔51~53を地盤G内に形成する(S02)。なお、
図9の改良対象領域Kの紙面垂直方向の距離に応じて
図6,
図9の紙面垂直方向に同様の曲がり削孔により複数の孔を形成する。
【0063】
次に、
図6~
図9のように、複数の孔51~53に注入管61~63を挿入し設置する(S03)。注入管の設置後、
図6,
図7のように孔52に設置された注入管62の注入口A2から薬液注入が可能なようにし、注入管62の注入ホース66が薬液注入部20に接続される、また、
図6,
図8のように孔51に設置された注入管61の吸水口B1,B2から吸水可能なようにし、注入管61の注入ホース66が吸水部30に接続される。
【0064】
次に、
図9の薬液注入部20の注入ポンプ22を作動させ、
図6,
図7のように、注入管62の注入ホース66を通して薬液を注入口A2から地盤G内に注入する(S04)。
【0065】
薬液注入工程S04とほぼ同時に
図9の吸水部30の負圧ポンプ32を作動させ、
図6,
図8のように、注入管61の注入ホース66を通して吸水口B1,B2で地盤G内から吸水を行う(S05)。なお、注入ポンプ22による薬液注入速度と負圧ポンプ32による吸水速度は、ほぼ同等になるように設定されるが、途中、変動量測定結果やpH値計測結果に応じて適宜調整され増減される。この場合、たとえば、
図6の注入管62の注入口A2から薬液を注入し注入管61の吸水口B1,B2から吸水を行うように複数の吸水口から吸水を行うときには、複数の吸水口の合計吸水速度を薬液注入速度と同等に設定して薬液の注入と吸水とを開始する。
【0066】
薬液注入工程S04および吸水工程S05の直後に、
図9の変動量測定部40により表面Sの変動量を測定し(S06)、pH計測部35により吸水した水のpHを計測する(S07)。
【0067】
次に、所定量の薬液が地盤G内に注入されるまで上記工程S04~S07を続け、薬液流量計21の測定結果から所定量の薬液が注入されたと確認されると、注入管62の注入口A2からの薬液注入が完了し(S08のYes)、地盤内に略球状の固化体が形成される。
【0068】
なお、
図6では注入管62の注入口A1での薬液注入は完了した状態であり、注入口A2での薬液注入が完了すると、順に注入管62の注入口A3,・・・からの薬液注入および注入管61の吸水口B2,B3,・・・からの吸水に移る。このようにして注入管61~63により薬液注入を行い、地盤内に多数の略球状の固化体を形成する。
【0069】
次に、
図11の変動量測定工程S06での変動量測定結果に基づく制御工程について
図12を参照して説明する。
図12は、
図11の変動量測定工程S06での変動量測定結果に基づく制御工程を説明するためのフローチャートである。
【0070】
図11,
図12のように、薬液注入工程S04と吸水工程S05との実行中に
図9の変動量測定部40により表面Sの隆起や沈下の変動量を測定し(S06)、この変動量の測定結果に基づいて薬液注入速度と吸水速度とを適宜調整することで変動を抑制した最適な薬液注入速度と吸水速度で薬液注入と吸水を行うが、この測定した変動量が所定値を超えたとき(S11のYes)、測定した変動量から判断して地盤の変動が隆起の場合(S12)、注入ポンプ22による注入停止および/または負圧ポンプ32による吸水速度の増加を行う(S14)。この場合、注入停止に代えて注入速度の低下を行うこともある。また、地盤の変動が沈下の場合(S13)、負圧ポンプ32による吸水停止または吸水速度の低下を行う(S15)。
【0071】
なお、所定値は、構造物に関する法令や規格や仕様等で規定された変動量の基準値(最大許容値)未満に設定されることが好ましい。また、
図9の変動量測定部40の多数のミラー42~46による測定結果がばらついた場合には,たとえば、変動量の最大絶対値について上記工程S11の判断を行う。
【0072】
隆起の場合、上記変動量が低下するまで注入停止や増加した吸水速度での吸水を続け、その後の変動量測定により変動量が所定値以下になったと判断されると(S16のYes)、薬液注入を再開し(S04)、また、吸水速度を元に戻す。一方、沈下の場合、上記変動量が低下するまで吸水停止や吸水速度の低下を続け、その後の変動量測定により変動量が所定値以下になったと判断されると(S16のYes)、
図12の破線のように吸水を再開し(S05)、または、吸水速度を元に戻す。
【0073】
図12の変動量制御工程S11~S16により、薬液注入による表面Sの変動量を許容最大値未満に制御し管理することができる。また、たとえば、測定された変動量が所定値以下でも変動量の時間変化率が急なときは、薬液注入速度と吸水速度とを早めに調整することで変動量が所定値を超えないように制御し管理できる。
【0074】
次に、
図11のpH計測工程S07でのpH計測結果に基づく制御工程について
図13を参照して説明する。
図13は、
図11のpH計測工程S07でのpH計測結果に基づく制御工程を説明するためのフローチャートである。
【0075】
図13のように、薬液注入工程S04と吸水工程S05との実行中に
図9のpH計測部35により地盤G内から吸水された水のpHを計測するが(S07)、かかるpH測定結果がたとえば6以下となって酸性を示したとき(S17のYes)、負圧ポンプ32による吸水停止または吸水速度の低減を行う(S18)。なお、薬液注入工程S04は、変動量測定で所定値を超えない限り継続して行う。
【0076】
使用する薬液がたとえばpH2~5の酸性の場合、吸水した水のpH測定結果が中性からpH6以下に変化し弱酸性~酸性に傾いたとき、地盤G内に注入した薬液が吸水されたと判断し、吸水停止または吸水速度低下を行い、その後のpH計測により中性に戻ったと判断される、または、所定の時間をおいて実施するpH計測により中性に戻ったと判断されると(S19のYes)、吸水を再開し(S05)、または、吸水速度を元に戻す。なお、pH6以下を管理値としたが、これに限定されず、pHの管理値は、必要に応じて適宜変更できる。
【0077】
図13のpH制御工程S17~S19により、吸水による薬液吸水を防止し所定量の薬液を地盤G内に確実に注入するように制御し管理することができる。
【0078】
図9の曲がり削孔式薬液注入システム10は、
図10のPC49により自動運転が可能である。すなわち、PC49は、コントローラ48との間で送受信をすることでコントローラ48から各種データを受信し、また、コントローラ48に対し各種制御信号を送信し、
図10の注入・吸水制御管理ソフト96から読み出された薬液注入・吸水の制御と管理のためのプログラムをCPU49bの制御により実行することで、薬液注入制御部49h、吸水制御部49i、変動量管理部49j、pH値管理部49kでの制御により
図9の薬液注入システム10における各制御を実行し、薬液注入工法の上記制御ステップ(
図12のS11~S16、
図13のS17~S19)を実行する。
【0079】
上述のようにして
図9の削孔式薬液注入システム10はPC49により自動運転を行うことができる。なお、コントローラ48による手動運転を行う場合でも、各種データはPC49に送信されデータベース部49dの各部91~94に記録される。また、
図9の薬液注入システム10では手動運転と自動運転とを随時切り替えて薬液注入・吸水を行うことも可能である。
【0080】
以上のように、
図6~
図13の曲がり削孔式薬液注入工法・システムによれば、地盤内において水平方向に延びる孔52内に設置された注入管62による薬液注入中に、地盤内の水平方向に延びる別の孔51に設置された注入管61により吸水を行うことで、地盤内の間隙水等を外部に排出することができ、薬液注入に起因して上昇する地盤の圧力を効率的に低下させることができ、これにより、改良対象領域Kが小さい被り圧のため変動を生じ易い地盤であっても、その直上の空港滑走路RWの表面Sにおける隆起や沈下の変動を抑制することができる。
【0081】
また、吸水のため負圧を地盤に載荷させることで、吸水量のコントロールが可能であり、また、細粒分が多く薬液が浸透しにくい地盤(透水性が低い地盤)であっても吸水することが可能である。また、地盤内から間隙水を吸水し排出することで、地盤内の間隙水の薬液への置き換えが容易となり、薬液注入が促進され、所定量の薬液を注入できる。また、吸水を薬液注入箇所周辺で行うことで効果的な地盤の圧力低下が可能である。また、地盤内から間隙水を吸水し排水することで地盤の沈下が発生した際には、吸水速度を低減もしくは吸水を停止し、地盤内に薬液が注入されることで地盤の沈下を防止できる。
【0082】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、地盤内に薬液注入用孔とは別に水平方向に延びる吸水用孔を曲がり削孔により形成し、この吸水用孔に設置した吸水管により、注入管による薬液注入中に地盤内からの吸水を行うことで地盤内の圧力を低下させ地盤の変動を抑制するものである。
図14は、第2の実施形態において複数段の注入管の上部に吸水管を設置し薬液注入と吸水とを行う状況を概略的に示すY-Z方向の断面図(a)およびX-Z方向の断面図(b)である。
図15は、複数段の注入管の下部に吸水管を設置し薬液注入と吸水とを行う状況を概略的に示すY-Z方向の断面図(a)およびX-Z方向の断面図(b)である。
図16は、
図14,
図15の吸水管の吸水状況を示す要部側面図である。
【0083】
以下、第2の実施形態について第1の実施形態との相違点を主に説明する。
図14(a)のように、地盤Gに地表面Sから曲がり削孔を行い、傾斜方向から水平方向に延びるように吸水用孔54を、上下方向に複数段に形成された注入用孔51~53の上部に孔51~53とほぼ平行に形成する。また、
図14(b)のように、複数の注入用孔51~53と同様の複数の注入用孔を方向Xに複数の孔51~53と並ぶように形成し、複数の孔の上部に吸水用孔54と同様の複数の吸水用孔を方向Xに形成する。
【0084】
図14(a)(b)のように、上段の各注入用孔に注入管71a~71jが設置され、中段の各注入用孔に注入管72a~72jが設置され、下段の各注入用孔に注入管73a~73jが設置される。注入管71a~71j、72a~72j、73a~73jは、
図4のような通常の注入管を使用できる。
【0085】
また、注入管71a~71jの上部の吸水用孔に吸水管70a~70kが設置される。吸水管70a~70kは、
図16のように、スリーブパッカー式の複数の吸水口Bを有し、吸水口Bに相当する外管65Aの外周面には多数の吸水孔bが設けられている。
図8と同様に、外管65Aの内部にダブルパッカー式の注入装置67を挿入し、セメントベントナイト等の充填物によるスリーブパッカー注入を行い、吸水口Bの左右にスリーブパッカー68,69を形成することで、スリーブパッカー68,69の外周面を地盤G内の吸水用孔の内周面に密着させ、吸水時の他部分からの空気や水の吸引を防止するようにし、外管65A内を洗浄した後、吸水が
図9の負圧ポンプ32により注入ホース66を通して行われるようになっている。また、
図14(a)の吸水口B1,B2,B3,B4,・・・は、
図16の吸水口Bに対応する。なお、
図14(b)のように、吸水管70a~70kの各位置は、各注入管71a~71j、72a~72j、73a~73jに対し注入管のX方向配置間隔の半分だけずれるようにしてもよい。
【0086】
図14(a)のように、各注入管は、図の左端から注入口A1,A2,A3,A4,・・・を有し、たとえば、
図14(a)(b)のように、注入管72iの注入口A2から薬液を注入する場合は、その上の周辺近傍の吸水管70jの吸水口B2,B3または吸水管70iの吸水口B2,B3から吸水する。この場合、吸水管70jの吸水口B2,B3と吸水管70iの吸水口B2,B3とから同時に吸水するようにしてもよい。同様に、たとえば、注入管72iの注入口A3から薬液を注入する場合は、その上の周辺近傍の吸水管70iの吸水口B3,B4または吸水管70hの吸水口B3,B4から、もしくは両吸水管70i,70hの吸水口B3,B4から吸水する。なお、注入管は、
図4の注入管102と同様の構成とし、注入口A1,A2,A3,A4,・・・は注入口115と同様の構成としてよい。また、吸水開始時にたとえば吸水管70jの吸水口B2,B3の合計吸水速度が注入管72iの注入口A2における薬液注入速度と同等に設定される。
【0087】
図15(a)(b)の別の例は、吸水用孔54と同様の吸水用孔55を、上下方向に複数段に形成された注入用孔51~53の下部に孔51~53とほぼ平行に形成し、各吸水用孔に
図16の吸水管74a~74kを設置する。各注入管は
図14(b)と同様に設置される。たとえば、
図15(a)(b)のように、注入管72iの注入口A2から薬液を注入する場合は、その下の周辺近傍の吸水管74jの吸水口B2,B3または吸水管74iの吸水口B2,B3から吸水する。
【0088】
なお、
図14では、下段の何本かの注入管での薬液注入が完了してから、順に中段,上段の注入管に移り、また、
図15では、上段の何本かの注入管での薬液注入が完了してから、順に中段,下段の注入管に移るが、これらの本数は、たとえば地盤条件や吸水方向により適宜設定される。
【0089】
第2の実施形態による曲がり削孔式薬液注入工法は、
図9,
図10の曲がり削孔式薬液注入システム10により実行可能であるが、この場合、吸水管70j,70iや吸水管74j,74i等の吸水管は、吸水部30に接続される。また、薬液注入工法の各工程は、
図11~
図13と同様であるが、
図11の曲がり削孔工程S02で
図14,
図15の各吸水用孔を形成し、また、注入管設置工程S03で各吸水用孔に吸水管70a~70kまたは74a~74kを設置する。
【0090】
また、
図14の吸水用孔54と
図15の吸水用孔55との両方を注入用孔51~53の上下に孔51~53とほぼ平行に形成し、吸水用孔54,55に設置された吸水管70a~70kと74a~74kとにより同時にまたは交互に吸水するようにしてもよい。吸水管70a~70kと74a~74kとによる吸水は、吸水開始時に複数の吸水口の合計吸水速度が薬液注入速度と同等であればよく、各吸水口における吸水速度は同じであっても異なってもよい。
【0091】
上述の第2の実施形態の曲がり削孔式薬液注入工法・システムによれば、地盤Gの改良対象領域K内において水平方向に延びる注入用孔内に設置された注入管による薬液注入中に、地盤内の水平方向に延びる吸水用孔に設置された吸水管により吸水を行うことで、地盤内の間隙水等を外部に排出することができ、薬液注入に起因して上昇する地盤の圧力を効率的に低下させることができ、これにより、改良対象領域Kが小さい被り圧のため変動を生じ易い地盤であっても、その直上の空港滑走路RWの表面Sにおける隆起や沈下の変動を抑制することができる。また、第1の実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0092】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。たとえば、本実施形態では、空港滑走路RWの直下の地盤を改良対象としたが、本発明はこれに限定されず、各種構造物の直下の地盤を改良対象にできる。この場合、構造物が地表面に構築された建築物等である場合は、変動量はその構造物の周囲で測定するようにでき、また、たとえば倉庫や体育館のように、広い平面がある構造物の場合には、その平面直下の地表面で変動量を測定するようにできる。また、変動量の測定を地盤表面で直接行うことができない場合には、地盤表面の近傍で行うようにしてもよい。
【0093】
また、本実施形態では、薬液の注入中に吸水を行ったが、本発明は、薬液の注入前や注入後にも吸水を行うことを排除するものではなく、変動量測定結果等に基づいて注入前および/または注入後に吸水を行うようにしてもよい。
【0094】
また、
図14,
図15では、吸水管として
図16のようなスリーブパッカー式の複数の吸水口Bを有する吸水管を用いたが、これに限定されず、
図6~
図8のような注入口と吸水口とを有する注入管を用いてもよく、また、塩ビ管等の可撓性の管に多数の吸水孔を設けた有孔管を使用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明によれば、構造物直下において地盤改良のための薬液注入に起因する地表面の隆起や沈下を抑制できるので、薬液注入工法により地盤の液状化防止を地盤の隆起・沈下の問題なく実現できる。
【符号の説明】
【0096】
10 曲がり削孔式薬液注入システム
20 薬液注入部
21 注入流量計
22 注入ポンプ
30 吸水部
31 吸水流量計
32 負圧ポンプ
35 pH計測部
40 変動量測定部
41 測距部
42~46 ミラー
47 制御部
48 コントローラ
49 パーソナルコンピュータ(PC)
51~53 注入管が設置される孔
61~63 注入管
65 注入外管
66 注入ホース
54,55 吸水用孔
70a~70k,74a~74k 吸水管
71a~71j,72a~72j,73a~73j 注入管
A,A1,A2,A3,A4 注入口
B,B1,B2,B3 吸水口
G 地盤
K 改良対象領域
RW 空港滑走路
S 地表面,表面