(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】繊維複合材料の品質管理方法および繊維複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/046 20180101AFI20231213BHJP
【FI】
G01N23/046
(21)【出願番号】P 2020086834
(22)【出願日】2020-05-18
【審査請求日】2023-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】596133485
【氏名又は名称】日本ポリプロ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】303060664
【氏名又は名称】日本ポリエチレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】市川 智之
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-126023(JP,A)
【文献】特開2019-215328(JP,A)
【文献】国際公開第2013/054884(WO,A1)
【文献】播摩 一成ほか,“繊維強化ポリプロピレンにおける射出成形品の繊維長分布が機械的特性に及ぼす影響”,成形加工,2017年09月20日,第29巻, 第10号,PP.384-388
【文献】岡田 光了ほか,“射出成形条件が長繊維強化樹脂の機械特性と繊維長分布に及ぼす影響”,あいち産業科学技術総合センター研究報告 / あいち産業科学技術総合センター企画連携部企画室 編,2018年,第7号,PP.10-13
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-G01N 23/2276
G01N 21/84-G01N 21/958
G01B 11/00-G01B 11/30
G06T 7/00-G06T 7/90
C08J 5/00-C08J 5/24
D01F 8/00-D01F 8/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記ステップを含む、繊維複合材料の品質管理方法。
1)
1-a)X線CT測定により、複数の繊維複合材料Aについて、重量平均繊維長B1または数平均繊維長B2をそれぞれ求めるステップ、
1-b)複数の繊維複合材料Aについて、
シャルピー衝撃強度または曲げ強度を測定し、実測値Cをそれぞれ得るステップ、
2)前記重量平均繊維長B1または数平均繊維長B2に対して、前記実測値Cをプロットし、相関係数の2乗であるR
2が0.97を超える、重量または数平均繊維長と
シャルピー衝撃強度または曲げ強度の実測値との相関式を得るステップ、
3)前記ステップ1-a)のX線CT測定と同様にして、繊維複合材料aの重量平均繊維長b1または数平均繊維長b2を求め、該重量平均繊維長b1または数平均繊維長b2および前記ステップ2)の相関式から、繊維複合材料aの
シャルピー衝撃強度または曲げ強度の推定値cを見積もるステップ、並びに
4)
シャルピー衝撃強度または曲げ強度において合格基準値Xを設定し、前記
シャルピー衝撃強度または曲げ強度の推定値cが合格基準値Xを満たす繊維複合材料aを合格と判定するステップ。
【請求項2】
前記ステップ1-a)のX線CT測定が以下の条件を満たす、請求項1に記載の繊維複合材料の品質管理方法。
測定面の大きさは、5mmφ~30mmφである。
測定する繊維の本数は、5,000本以上である。
【請求項3】
前記ステップ1-a)のX線CTによる測定が、さらに以下の条件を満たす、請求項1または2に記載の繊維複合材料の品質管理方法。
前記重量平均繊維長B1、数平均繊維長B2、重量平均繊維長b1または数平均繊維長b2を求めるために測定される繊維長は、0.05mm~20mmである。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の品質管理方法を含む、繊維複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維複合材料の品質管理方法および繊維複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂に炭素繊維やガラス繊維等の繊維状添加剤を含む繊維複合材料は、元の熱可塑性樹脂よりも力学物性が向上することが広く知られており(特許文献1)、自動車分野をはじめとする様々な産業分野で使用されている。これらの繊維複合材料が示す力学物性は、射出成形条件により異なり、射出成形条件が異なる繊維複合材料ごとに要求される性能を満たす(合格)か満たさない(不合格)かを簡便に評価する品質管理手法が必要である。
【0003】
一方で、繊維複合材料に含まれる繊維状添加剤の長さ(繊維長)と力学物性には相関があることは知られており(非特許文献1および2)、その繊維長を測定する方法としては、焼却法が用いられていた。この方法は、試料を高温にして樹脂部分を焼却し灰分として完全に取り除いた後、残った繊維状添加剤についてノギスや顕微鏡により目視で繊維長を求めるものである(以下、焼却法という。特許文献2および3)。
その他の方法としては、X線CTにより測定する非破壊測定方法も知られている(特許文献4~9、非特許文献3)。この方法は、X線CTを用いて機械的に測定および解析することにより繊維長を求める方法である(以下、X線CT法という)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-3691号公報
【文献】特開2005-23216号公報
【文献】特開2017-039300号公報
【文献】特表2019-529648号公報
【文献】特開2014-100879号公報
【文献】特開2012-116916号公報
【文献】特開2018-144176号公報
【文献】国際公開第2016/167349号
【文献】特開2019-219254号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】R&D神戸製鋼技報,Vol.47,No.2/Sep.1997,通巻186号,自動車用材料特集
【文献】マツダ技報No.30(2012)P.191
【文献】住友化学 技術誌 2012(2012年6月29日発行,P17-26)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、焼却法は、人による目視の観察であるため、測定本数が増やせないこと(2,000本程度)、実施者によりサンプル調整法や測定がばらつくこと、測定に時間を要すること、短いものは評価されににくく数マイクロメートル単位の測定の精度が悪いこと等の課題があった。また、従来行われていたX線CT法の具体的な手法では、測定範囲の都合から5mm程度までの長さしか測定できず、さらに湾曲している繊維の長さは測定できなかったり、測定本数は最大でも5,000本であったり精度を向上させるには制約が大きいという課題があった。そのため、繊維複合材料に含まれる繊維長を迅速かつ高精度に求めることが従来から望まれていた。
さらに、いずれの方法でも、繊維複合材料に含まれる繊維状添加剤(以下、単に繊維と呼ぶこともある)の繊維長に基づく繊維複合材料の機械物性の推定値から、性能の合否判定を行って品質を管理することは行われてない。
【0007】
そこで本発明の目的は、繊維複合材料の品質を非破壊で迅速かつ簡便に管理することができる品質管理方法、および該品質管理方法を含む繊維複合材料の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、複数の繊維複合材料を用いて、X線CTにより求めた重量または数平均繊維長と特定の物性の実測値との相関式であって、その相関係数の2乗の値(R2)が0.97を超える相関式を作成し;前記相関式を用いて対象試料の重量または数平均繊維長から前記物性の実測値を推定し;前記物性に対し設定された合格基準値に基づき、対象試料の合否を判定する、繊維複合材料の品質管理方法により、上記課題を解決できることを見出した。
本発明は、以下の[1]~[5]に関する。
【0009】
[1]下記ステップを含む、繊維複合材料の品質管理方法。
1)1-a)X線CT測定により、複数の繊維複合材料Aについて、重量平均繊維長B1または数平均繊維長B2をそれぞれ求めるステップ、1-b)複数の繊維複合材料Aについて、所定の物性を測定し、実測値Cをそれぞれ得るステップ、
2)前記重量平均繊維長B1または数平均繊維長B2に対して、前記実測値Cをプロットし、相関係数の2乗であるR2が0.97を超える、重量または数平均繊維長と所定の物性の実測値との相関式を得るステップ、
3)前記ステップ1-a)のX線CT測定と同様にして、繊維複合材料aの重量平均繊維長b1または数平均繊維長b2を求め、該重量平均繊維長b1または数平均繊維長b2および前記ステップ2)の相関式から、繊維複合材料aの所定の物性の推定値cを見積もるステップ、並びに
4)所定の物性において合格基準値Xを設定し、前記所定の物性の推定値cが合格基準値Xを満たす繊維複合材料aを合格と判定するステップ。
[2]前記ステップ1-a)のX線CT測定が以下の条件を満たす、[1]に記載の繊維複合材料の品質管理方法。
測定面の大きさは、5mmφ~30mmφである。
測定する繊維の本数は、5,000本以上である。
[3]前記ステップ1-a)のX線CTによる測定が、さらに以下の条件を満たす、[1]または[2]に記載の繊維複合材料の品質管理方法。
前記重量平均繊維長B1、数平均繊維長B2、重量平均繊維長b1または数平均繊維長b2を求めるために測定される繊維長は、0.05mm~20mmである。
[4]前記所定の物性が、シャルピー衝撃強度または曲げ強度である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の繊維複合材料の品質管理方法。
[5][1]~[4]のいずれか1つに記載の品質管理方法を含む、繊維複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、繊維複合材料の品質を非破壊で迅速かつ簡便に管理することができる品質管理方法、および該品質管理方法を含む繊維複合材料の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1の試料iにおける繊維長測定データである。
【
図2】実施例2の試料iiにおける繊維長測定データである。
【
図3】X線CTによる測定から求めた重量平均繊維長または焼却法による測定から求めた重量平均繊維長とシャルピー衝撃強度の相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の繊維複合材料の品質管理方法および製造方法について詳細に説明する。なお、本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0013】
本発明の繊維複合材料の品質管理方法は、以下のステップ1)~4)を含むことを特徴とする。ステップ1-a)およびステップ1-b)はいずれを先に実施してもよく、ステップ1-a)およびステップ1-b)を合わせたステップ1)は、ステップ2)の前に行われ、ステップ2)はステップ3)の前に行われる。そして、最後にステップ4)が行われる。つまり、本発明の繊維複合材料の品質管理方法は、ステップ1)~ステップ4)を順次経る。
1)1-a)X線CT測定により、複数の繊維複合材料Aについて、重量平均繊維長B1または数平均繊維長B2をそれぞれ求めるステップ、1-b)複数の繊維複合材料Aについて、所定の物性を測定し、実測値Cをそれぞれ得るステップ、
2)前記重量平均繊維長B1または数平均繊維長B2に対して、前記実測値Cをプロットし、相関係数の2乗であるR2が0.97を超える、重量または数平均繊維長と所定の物性の実測値との相関式を得るステップ、
3)前記ステップ1-a)のX線CT測定と同様にして、繊維複合材料aの重量平均繊維長b1または数平均繊維長b2を求め、該重量平均繊維長b1または数平均繊維長b2および前記ステップ2)の相関式から、繊維複合材料aの所定の物性の推定値cを見積もるステップ、並びに
4)所定の物性において合格基準値Xを設定し、前記所定の物性の推定値cが合格基準値Xを満たす繊維複合材料aを合格と判定するステップ。
【0014】
本発明の繊維複合材料の品質管理方法によれば、短時間で高精度に測定された重量または数平均繊維長から、繊維複合材料の合否を判断することができる。
さらに、所定の物性の実測値と、重量または数平均繊維長から見積もった物性の推定値との乖離がほとんどないことから、不適切に不合格品となる材料およびロスを削減することができる。
また、本発明の繊維複合材料の品質管理方法を繊維複合材料の製造に含めることで、迅速に製品の合否判定を行うことができる。
【0015】
[1]繊維複合材料A
繊維複合材料Aは、重量または数平均繊維長と所定の物性の実測値との相関式を得るために使用される材料である。繊維複合材料Aは、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂と繊維状添加剤との複合材であればよく、熱可塑性樹脂と繊維状添加剤との複合材であることが好ましい。熱可塑性樹脂と繊維状添加剤との複合材は、従来公知の射出成形法、押出成形法、中空成形法、圧縮成形法、熱プレス等の成形方法を用いて成形加工された成形品であれば、サイズおよび形状を問わず適用できる。
【0016】
相関式の導出に用いる複数の繊維複合材料Aは、測定対象である繊維複合材料aと同種類のものを用いる。具体的には、繊維複合材料Aおよび繊維複合材料aは、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂および繊維状添加剤が同種類であり、繊維状添加剤の繊維径および含有率が同程度である。例えば、繊維複合材料aがポリプロピレンとガラス繊維の複合材料である場合、相関式の導出に用いる繊維複合材料Aもポリプロピレンとガラス繊維の複合材料であり、両者の繊維状添加剤の繊維径および含有率も同程度とする。
繊維複合材料A中の繊維状添加剤の平均繊維径は、繊維複合材料aの繊維状添加剤の平均繊維径に対して±50%以内であることが好ましく、より好ましくは±20%以内、特に好ましくは±10%以内である。繊維複合材料A中の繊維状添加剤の含有率は、繊維複合材料aの繊維状添加剤の含有率に対して±50%以内であることが好ましく、より好ましくは±10%以内、特に好ましくは±5%以内である。また、繊維複合材料Aおよび繊維複合材料aの成形形状は特に限定されないが、同じであることが好ましい。本実施例では、繊維複合材料Aおよび繊維複合材料aをJIS K 7139記載のタイプA1型に成形している。また、繊維複合材料Aおよび繊維複合材料aの成形は、同じ成形方法を用いることとし、同程度の成形条件で行うことが好ましい。
【0017】
複数の繊維複合材料Aは、繊維複合材料Aと繊維複合材料aの関係と同様に、同種類のものを用いる。具体的には、上記の繊維複合材料Aと繊維複合材料aの関係と同様である。重量または数平均繊維長と所定の物性の実測値との相関式の精度を高めるために、繊維状添加剤の繊維長が広い範囲で分布した、少なくとも3つの繊維複合材料Aを用いることが好ましく、4つ以上の繊維複合材料Aを用いることがより好ましい。本実施例では、繊維複合材料Aとして、重量平均繊維長が0.83~1.70mmのガラス繊維とポリプロピレンとの複合材料を3つ使用している。
【0018】
熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアセタール樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、熱可塑性エラストマー等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。このなかでも、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂が好ましく、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン6がより好ましい。強度、弾性および溶融粘度の観点から、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂が好ましい。これらの熱可塑性樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0019】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アニリン樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ジアクリルフタレート樹脂、ケイ素樹脂等が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0020】
繊維状添加剤は、繊維複合材料の力学物性を向上させる目的で配合されるものであり、前記熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂とは区別される。繊維状添加剤としては、通常使用されているものであれば特に限定されず、例えば、無機繊維、有機繊維、金属繊維、またはこれらを組み合わせたハイブリッド構成の強化繊維が使用できる。無機繊維としては、炭素繊維、黒鉛繊維、ボロン繊維、ゾノライト、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、タングステンカーバイド繊維、ボロン繊維、ガラス繊維;チタン酸カリウム、マグネシウムオキシサルフェート、窒化珪素ホウ酸アルミニウム、塩基性硫酸マグネシウム、酸化亜鉛、ワラストナイト、炭酸カルシウム等の針状(ウィスカー)無機充填剤等が挙げられる。有機繊維としては、アラミド繊維、ポリエステル繊維等が挙げられる。金属繊維としては、ステンレス、鉄等の繊維が挙げられ、また金属を被覆した炭素繊維でもよい。繊維状添加剤は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。この中でも好ましくは無機繊維であって、特に好ましくは炭素繊維またはガラス繊維である。
【0021】
繊維複合材料Aは、本発明の効果を損なわない範囲で、ほかの充填剤が含まれていても良い。充填剤としては、沈降性炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の粒状無機充填剤、ガラスバルーンのようなバルーン状無機充填剤、ケナフ、ジュート、木粉等の有機充填剤が例示される。
また、繊維複合材料Aは、本発明の効果を損なわない範囲で、ゴム等のエラストマー等の従来公知の成分を配合させることができる。
【0022】
[2]測定物の形態
X線CT測定を行う際の試料は、繊維複合材料Aであって、成形品から切り取ったものでもよいし、測定用に作製したものであってもよい。
前記試料は、厚さ(深さ方向の幅)が0.01mm~20mmであることが好ましい。測定時間は、分解能と測定対象試料の体積に依存する。例えば射出成形品の試料の厚みは、一定の分解能を維持し、かつ一度の測定で試料全体を分割せず測定できる観点から、15mm以下が好ましく、10mm以下がより好ましく、5mm以下が特に好ましい。測定の精度の観点からは、適度な厚みを有していることが好ましく、0.05mm~4mmであることが好ましい。
前記試料は、大きさ(平面方向の幅)が5mmφ~100mmφであってもよい。試料の測定面の大きさは、含まれる繊維長や繊維状添加剤の種類にもよるが、5mmφ~30mmφが好ましく、10mmφ~30mmφがより好ましく、例えば20mmφで行うことができる。測定面の大きさを上記範囲とすることにより、繊維の太さ程度の極微小な繊維長から、従来は測定することができていない10mmはもちろん、10mm超の長い繊維長まで、短時間に高精度で計測することが可能である。
【0023】
[3]X線CT
X線CTとは、X線を対象試料に360度全方向から照射し、その結果、透過してきた放射線を検出することで、対象試料の材質や内部構造を知る方法である。波長1pm~10nmの電磁波であるX線は物質に入射すると、さまざまな原因により吸収されながら通過する。CT(スキャン装置)は、前述のX線が対象試料内を透過する際の「透過しやすさ」および「吸収されやすさ」の違いを利用して、材質や構造を調べることができる。異なる材料で構成された物質の場合だけでなく、同じ物質であっても、密度が異なるとX線の吸収係数に違いが出るため、その差を計測することが可能となる。
【0024】
本発明に使用することができるX線CTは特に限定されないが、得られた画像の解析において、樹脂部分と繊維部分を従来の二値化による区別ではなく、繊維部分をグレースケール化することで、繊維同士の分別を行える解析方法を用いるものが好ましい。
【0025】
本発明における具体的なX線CT装置および測定方法並びにその結果から繊維長を求める方法について、以下に説明する。本発明においては、SCANCO社製MicroCT-50を使用することができる。用いるX線管球は、一般的な開放管または密封管であってよい。X線検出器は、広範囲であって高解像度の画像を得るという点において、画素数が大きく画素が小さいことが好ましく、本発明では画素数400万で0.02mmの素子を使用してもよい。センサーの種類としては、対象物に対してMTF(Modulation Transfer Function)が10%以上の感度が得られるものであれば限定しないが、像の歪みが少ないCCD(Charged-coupled devices:電荷結合素子)やCMOS(complementary metal-oxide-semiconductor:相補性金属酸化物半導体)が好ましい。センサーの種類は、保護フィルム、シンチレータ、アンプまたはX線イメージインテンシファイアを介した方式であってもよく、またX線に対する感度が一般的なものより高いタイプであってもよく、その他の方式であってもよく、さらには繊維の種類やサイズによって使い分けてもよい。例えば、異なる物質の分別ができるようなデュアルエナジーセンサーであってもよいし、異なる多種類の繊維が含まれる場合は、それに応じたセンサーを準備し、複数の画像を解析するような装置であってもよい。撮像枚数としては、検査に必要な分解能と計測解析時間の観点から、100枚~10,000枚が好ましく、1,000枚~5,000枚がより好ましい。
【0026】
また、三次元構築した画素のサイズである分解能は、画像処理の観点から、繊維直径に対して1/2以下であることが好ましく、1/3以下である必ことがさらに好ましい。例えば、1ボクセル当たり4.4μm程度の分解能の3D画像データが得られる。得られた3D画像データはその傾きを、画像処理装置付属ソフト(SCANCO社製、μCT V6.1)のAlignZ機能を用いて補正する。傾き補正後は、繊維部分と樹脂部分とを分離するために、装置付属ソフト(SCANCO社製、μCT V6.1)のFiber Tracking機能を用いて繊維部分がグレースケールの画像となるように目視でコントラストの閾値を設定する。コントラストの閾値を設定することで、樹脂部分は暗く、繊維部分は繊維の中心部分が明るく外側がそれよりも暗い、輝度に分布があるグレースケール画像が得られる。閾値は、繊維部分と樹脂部分を分離しかつ、繊維部分の画像をグレースケール化できる値であれば任意に選ばれるが、0では黒一色となってしまうため、0超であることが好ましい。一方、閾値の上限は、5,000では濃淡の区別がつきにくくなることがあるため、5,000未満であることが好ましく、2,000~5,000未満であることがより好ましい。このようにコントラストの閾値を設定し得られるグレースケール画像から繊維長を求めることは、従来の二値化による画像処理ではなし得なかった、湾曲している繊維の測定および測定本数の大幅増を可能にし、高精度な繊維長の算出を可能とするものである。
【0027】
本発明で測定する繊維の本数は、5,000本以上が好ましく、7,500本以上がより好ましく、10,000本以上がさらに好ましく、15,000本以上がよりさらに好ましく、20,000本以上が特に好ましい。計測にかかる時間は、計測する繊維の本数が多くなれば長くなる。そのため、測定する繊維の本数は、測定時間を考慮して適宜変更することができる。
【0028】
[4]重量平均繊維長B1および数平均繊維長B2
本発明において、重量平均繊維長B1および数平均繊維長B2は、X線CT測定により、複数の繊維複合材料Aについて求めた平均繊維長である。
本発明における平均繊維長は重量平均であっても、数平均であってもよい。繊維長の長いものを重視する場合は、重量平均繊維長を用いることが好ましい。数平均繊維長(Ln)および重量平均繊維長(Lw)は、上述の[3]により得られた繊維長をもとに、平均繊維長をLi、平均繊維長がLiである繊維の本数をNiとすると、それぞれ以下の数式(1-1)および(1-2)により求められる。
Ln=ΣLiNi/ΣNi ・・・(1-1)
Lw=ΣLi
2Ni/ΣLiNi ・・・(1-2)
【0029】
本発明における繊維複合材料Aに含まれる繊維状添加剤の繊維長は、繊維の直径以上であって、20mm以下である。繊維長の下限は、装置としては繊維の直径を測定することもできるため特に限定されないが、繊維複合材料の性能の観点から好ましくは0.05mm以上であって、より好ましくは0.1mm以上、さらに好ましくは0.3mm以上、特に好ましくは0.4mm以上である。繊維長の上限は、装置としては20mm以下であればよく、これ以下であれば測定精度に影響はみられないが、繊維複合材料の性能の観点から好ましくは15mm以下であることが好ましく、より好ましくは10mm以下である。さらに5mm以下であってもよく、また2.5mm以下であってもよい。
【0030】
[5]所定の物性
本発明における所定の物性は、機械物性であって、一般的に樹脂製品を評価する方法としてJIS、ISO、ASTM等で規定される試験法に挙げられる物性が挙げられる。具体的には、引張特性試験、引張強度試験、引張弾性率試験、シャルピー衝撃試験、アイゾット衝撃強度試験、デュポン衝撃強度試験、デインスタット衝撃強度試験、引張衝撃強さの試験、バックドロップ衝撃強度試験、デューロメーターによる硬さ試験、曲げ強度試験、曲げ弾性率試験、片持ち梁曲げこわさ試験、引裂強度試験、ダート落下による衝撃強度試験、打抜強度試験、ロックウェル硬さ試験、ガードナー衝撃強度試験、ねじり剛性率試験、打ち抜きによる剪断強度試験、圧縮試験、鉛筆引掻き硬度試験、計装化落錘衝撃試験、ハイレート衝撃試験、低温ダート衝撃強度試験、落錘衝撃強度試験、引張クリープ試験、熱間内圧クリープ試験、全周ノッチ式クリープ試験、被覆材料の押し込み深さ試験、反り試験、ヒンジ特性試験、フィルムステフネス試験、鋼管被覆材料の耐衝撃性試験等から得られる物性が挙げられる。この他JIS、ISO、ASTMにかかわらず最終製品を切り出しての測定等独自の試験法を用いてもよい。これらのうち、引張強度試験、引張弾性率試験、シャルピー衝撃試験、曲げ強度試験または曲げ弾性率試験から得られる物性であることが好ましく、シャルピー衝撃試験、曲げ強度試験または引張強度試験から得られる物性であることがより好ましく、シャルピー衝撃試験または曲げ強度試験から得られる物性であることがさらに好ましい。所定の物性は、シャルピー衝撃強度または曲げ強度であることが特に好ましい。
【0031】
上記機械物性の各試験方法は、JIS法、ISO法、ASTM法等のいずれの方法によるものであってもよい。本発明では、JIS法を採用している。
シャルピー衝撃強度:JIS K 7111に準拠して測定した(ノッチ付き)。
曲げ強度および曲げ弾性率:JIS K 7171に準拠して測定した。
引張強度および引張弾性率:JIS K 7161-2に準拠して測定した(引張速度:5mm/分)。
【0032】
[6]物性値の合格基準値X
本発明の所定の物性の合格基準値Xは、繊維複合材料に求められる機械物性の性能に相当し、繊維複合材料の用途により複数の物性に対して要求されることもあるものである。さらに同じ用途の繊維複合材料であっても仕様ごとに変わることもあるものである。例えば、マツダ技報No.30(2012)P.191の「バンパ用高剛性ポリプロピレン材料の開発」で示されているが、自動車用バンパにおける所定の物性は、弾性率や高速引張強度であって、弾性率の合格基準値は、従来材では1,570MPa以上、開発品では2,300MPa以上である。高速引張強度の合格基準値は、従来材で57MPa以上、開発品では57MPa以上である。また、例えば、ダイセルポリマー株式会社のエンプラ樹脂「ノバイロ」シリーズ中、フィラーとしてガラス繊維(GF)を含む樹脂であって、製品名称「セビアンN」のグレード「GRSJ1」における所定の物性は、引張強さ、曲げ強さ、曲げ弾性率、ノッチ付きシャルピー衝撃強さ、ノッチ付きアイゾット衝撃強度試験、ロックウェル硬さ等であって、合格基準値はそれぞれ、88MPa以上、140MPa以上、6,000MPa以上、4kJ/m2以上、40J/m以上、M95以上である。例えば、東レ・デュポン株式会社の「Kevlar(登録商標)29」における所定の物性は、引張強度、引張弾性率、破断時伸度等であって、合格基準値はそれぞれ、2,920MPa以上、70.5GPa以上、3.6%以上である。
【0033】
[7]ステップ1-a)、ステップ1-b)およびステップ2)
本発明のステップ1)は、複数の繊維複合材料Aについて、重量平均繊維長B1または数平均繊維長B2および所定の物性の実測値Cを得るステップであり、ステップ2)は、前記重量平均繊維長B1または数平均繊維長B2と前記実測値Cとの相関式、およびその相関係数の2乗(R
2)を得るステップである。繊維複合材料に含まれる繊維の重量または数平均繊維長とその複合材料の機械物性に相関があることは、一般的に知られている。例えば、R&D神戸製鋼技報,Vol.47,No.2/Sep.1997,通巻186号,自動車用材料特集,P74の
図3では、重量平均繊維長と衝撃強度の関係が示されていて、これによれば、重量平均繊維長と衝撃強度は相関することがわかる。また、特開2002-3691号公報の段落0027によれば、0.5mm以下の炭素繊維フィラーが増加し、0.5mm~2mmの炭素繊維フィラーが減少した複合材料では、高強度・高剛性化する効果が低下するとあり、繊維長と機械物性は相関関係にあることが読み取れる。つまり、繊維複合材料に含まれる繊維状添加剤の重量または数平均繊維長とその繊維複合材料における機械物性を相関式で表すことは、技術的な裏付けを有するものである。
【0034】
本発明におけるステップ1)の各測定は、前述した[3]、[4]および[5]に記載の装置、条件および方法により行い、重量平均繊維長B1または数平均繊維長B2および物性の実測値Cを得ることができる。
本発明において、ステップ2)から得られる重量平均繊維長B1または数平均繊維長B2と所定の物性の実測値Cとの相関式は、重量または数平均繊維長に対して所定の物性の測定値をプロットした点を用いて、最小二乗法等によって得られる近似線または近似曲線により表されるものである。近似曲線は、一次関数、二次関数、三次関数、指数関数、対数関数等から選択できるが、一次関数であるあることが好ましい。重量または数平均繊維長に対する所定の物性の測定値のプロット数は、3点以上であればよい。つまり、本発明において、前記ステップ1)における各測定は少なくとも3回行われる。プロット数に上限は特にないが、点数は繊維長の測定と物性の測定の回数に影響するため、多数のプロットとなる場合は各測定の回数も多くなり時間を要することから、点数に上限を設けるとするならば、10点以下であってもよいが、5点以下であってもよい。
【0035】
プロット数を複数得るために、本発明のステップ1-a)およびステップ1-b)は、測定対象である繊維複合材料Aを変更し複数回繰り返し行われる。
【0036】
本発明における前記相関式の相関係数Rは、2種類のデータの関係を示す指標である。本発明における相関式の相関係数の2乗(R2)を求める方法としては、JIS Z 8101(1.23)の標本共分散を対応する標本標準偏差の積で割った量として規定する方法、エクセルのグラフツールから求められる値を採用する方法等が挙げられる。本発明の実施例では、R2は、重量または数平均繊維長に対して所定の物性の測定値をプロットした3点を用いて最小二乗法によって引いた直線とプロットの座標のズレ量の合算平均(D)を標準偏差(E)で割ることにより求めた値(R2=D/E)を採用している。本発明におけるR2は、0.97を超えて大きく、好ましくは0.98以上、さらに好ましくは0.99以上である。R2の上限は、1であり、R2は、1に近いほど重量または数平均繊維長を基にして物性の推定値を求めた際に、その推定値が実測値に近似することを意味する。
【0037】
[8]ステップ3)
本発明のステップ3)は、品質管理対象である繊維複合材料aについて、ステップ1-a)のX線CT測定と同様にして、重量平均繊維長b1または数平均繊維長b2を求めたのち、その値およびステップ2)から得られる相関式から、所定の物性の値を推定値cとして見積もる工程である。複数の繊維複合材料について所定の物性における推定値cを得るとき、その繊維複合材料が同一種(同一の熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂の種類かつ同一の繊維状添加剤の種類)であって、さらに所定の物性が同一の物性である場合、前記ステップ2)から得られる相関式は繊維複合材料ごとに作成される必要はなく、1つの相関式を使うこともできる。品質管理において、繊維複合材料が同一種で同一の物性を評価するのであれば、一度得られた前記相関式を一定期間使用し、複数の測定対象に対して物性の推定値cを求めることができる。
【0038】
[9]繊維複合材料a
繊維複合材料aは、製造され、品質管理の対象となる材料である。繊維複合材料aは、繊維複合材料Aと同種類の繊維複合材料である。繊維複合材料Aは、前記ステップ2)の相関式を得るために作成された試料であるのに対して、繊維複合材料aは、繊維複合材料Aと同じ種類であって、実際に製品として製造されている繊維複合材料であることができる。
【0039】
[10]重量平均繊維長b1または数平均繊維長b2および所定の物性の推定値c
重量平均繊維長b1または数平均繊維長b2は、繊維複合材料aに含まれる繊維の重量または数平均繊維長であって、繊維複合材料aから得られる試験片を用いて前記重量平均繊維長B1または数平均繊維長B2と同じ条件および方法により求める。所定の物性の推定値cは、この重量平均繊維長b1または数平均繊維長b2をステップ2)から得られる相関式におけるx(重量平均繊維長B1または数平均繊維長B2に対応する変数)に代入して得られる値である。本発明のR2は0.97を超えて大きいことから、物性の推定値cは物性の実測値に非常に近似した値であると考えられる。
【0040】
[11]ステップ4)
本発明のステップ4)は、非破壊法により求めた品質管理対象の複合材料における重量または数平均繊維長により、その材料として必要な性能(機械物性)を満たすかどうかを判定し、満たすものを合格とする品質管理を行うステップである。具体的には、前記物性の推定値cが前述の[6]で定義する必要な物性の合格基準値Xを満たせば、その材料は合格品とし、基準値を満たさなければ、不合格品となる。
【0041】
[12]本発明の品質管理方法を含む、繊維複合材料の製造方法
本発明の繊維複合材料の製造方法は、本発明の繊維複合材料の品質管理方法を製造工程中に含むことを特徴とする。
本発明の繊維複合材料の製造方法は、本発明の繊維複合材料の品質管理方法を用いることにより、迅速かつ高精度で材料の性能(機械物性)を見積もることが可能であるため、ロス品の削減を含む製造コストの低減、高レベルの品質管理等を図ることができる。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明を実施例および比較例によって、更に具体的に説明し、各実施例のデータおよび各実施例と各比較例の対照により、本発明の構成の合理性と有意性および従来技術に対する卓越性を実証する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものでない。
【0043】
1.繊維複合材料
繊維複合材料Aとして、共に日本ポリプロ株式会社製であるガラス繊維含有ポリプロピレンLR26YおよびホモポリプロピレンMA1Bを53/47で混合した材料を用いた。射出成形条件は、溶融温度255℃、型温35℃、射出圧40MPa、射出速度20mm/s、保圧時間33秒とし、背圧を1、5および12MPaの3つの条件にて射出成形し、JIS K 7139記載のタイプA1型に成形した(試料i、iiおよびiii)。
【0044】
繊維複合材料aとして、背圧を8MPaとした以外は、試料i、iiおよびiiiと同様に成形した(試料I)。繊維複合材料aの所定の物性は、シャルピー衝撃強度であって、合格基準値Xは、30kJ/m2以上であった。各試料の背圧の条件は、以下のとおりである。
・試料i :背圧 1MPa
・試料ii :背圧 5MPa
・試料iii:背圧 12MPa
・試料I :背圧 8MPa
【0045】
2.X線CTによる重量平均繊維長の計測
装置は、SCANCO社製MicroCT-50を用いて測定を行った。上記1.から得られた厚さ4mmの試料を約20mmφに切断し、専用の測定用フォルダーにセットした。X線管球出力90kV、44mA(4W)の出力で3.4時間かけX線スキャンを行い、1ボクセル当たり4.4μmの分解能の3D画像データを得た。装置付属の画像処理ソフト(SCANCO社製、μCT V6.1)のAlignZ機能を用いて得られた画像データの傾き補正を実施し、その後、装置付属の画像処理ソフト(SCANCO社製、μCT V6.1)のFiber Tracking機能を用いて目視でコントラストの閾値を3500に設定し、グレースケール画像を得た。この画像から前記Fiber Tracking機能を用いて繊維長を計測し、重量平均繊維長得た。
【0046】
3.シャルピー衝撃強度試験
上記1.で得られた試料について、23℃に調整した恒温室にて、JIS K 7111に準拠してシャルピー衝撃強度試験を実施した。
【0047】
実施例1
(1-1)X線CTを用いた重量平均繊維長B1の計測
試料iを用いて、X線CTにより重量平均繊維長を求めた。繊維長は測定領域の厚さ4mm、20mmφにおいて、約10mmまでの長さを計測し、合計250,277本測定された。かかった時間は6時間15分だった。得られた繊維長の重量平均繊維長を表1に示す。計測した繊維長および体積分率または頻度の関係を
図1に示す。
(1-2)シャルピー衝撃強度試験(実測値C)
試料iを用いて、JIS K 7111に準拠して実施した。得られたシャルピー衝撃強度の実測値を表1に示す。
【0048】
実施例2
(2-1)X線CTを用いた重量平均繊維長B1の計測
実施例1(1-1)において、試料iの代わりに試料iiを用いた以外は、同様に行った。繊維長は測定領域において262,547本測定された。得られた重量平均繊維長を表1に示す。計測した繊維長および体積分率または頻度の関係を
図2に示す。
(2-2)シャルピー衝撃強度試験(実測値C)
実施例1(1-2)において、試料iの代わりに試料iiを用いた以外は同様に行った。得られたシャルピー衝撃強度の実測値を表1に示す。
【0049】
実施例3
(3-1)X線CTを用いた重量平均繊維長B1の計測
実施例1(1-1)において、試料iの代わりに試料iiiを用いた以外は、同様に行った。繊維長は測定領域において335,917本測定された。得られた重量平均繊維長を表1に示す。
(3-2)シャルピー衝撃強度試験(実測値C)
実施例1(1-2)において、試料iの代わりに試料iiiを用いた以外は同様に行った。得られたシャルピー衝撃強度の実測値を表1に示す。
【0050】
実施例4
(4)重量平均繊維長とシャルピー衝撃強度との相関式の作成および相関係数の2乗(R
2)の算出
実施例1~3から得られた重量平均繊維長とシャルピー衝撃強度の結果を用いて、X軸に重量平均繊維長、Y軸にシャルピー衝撃強度をプロットし、最小二乗法により、重量平均繊維長とシャルピー衝撃強度の相関式を1次式として求めた。次に、この相関式を用いて、相関係数の2乗(R
2)を算出した。重量平均繊維長とシャルピー衝撃強度をプロットしたグラフを
図3に示す。また、相関式およびR
2を表2に示す。
【0051】
比較例1
(1c-1)焼却法を用いた重量平均繊維長B1′の計測
試料は試料iと同ロットの成形品を用いて、特開2005-23216号公報の段落0038の(3)に記載の方法に従って繊維長の測定を行い、重量平均繊維長を算出した(測定本数は2,000本)。測定には、樹脂部の焼却に2時間、前処理および繊維長測定に10時間、合計12時間を要した。得られた重量繊維長平均を表1に示す。
(1c-2)シャルピー衝撃強度試験(実測値C)
実施例1(1-2)から得られた結果と同一であり、結果を表1に示す。
【0052】
比較例2
(2c-1)焼却法を用いた重量平均繊維長B1′の計測
比較例1において、試料iiと同ロットの成形品を用いた以外は、比較例1と同様に重量平均繊維長を得た。結果を表1に示す。
(2c-2)シャルピー衝撃強度試験(実測値C)
実施例2(2-2)から得られた結果と同一であり、結果を表1に示す。
【0053】
比較例3
(3c-1)焼却法を用いた重量平均繊維長B1′の計測
比較例1において、試料iiiと同ロットの成形品を用いた以外は、比較例1と同様に重量平均繊維長を得た。結果を表1に示す。
(3c-2)シャルピー衝撃強度試験(実測値C)
実施例3(3-2)から得られた結果と同一であり、結果を表1に示す。
【0054】
比較例4
(4c)重量平均繊維長とシャルピー衝撃強度との相関式の作成および相関係数の2乗(R
2)の算出
比較例1~3から得られた結果を用いて、実施例4と同様にして、重量平均繊維長とシャルピー衝撃強度との相関式および相関係数の2乗(R
2)を算出した。重量平均繊維長とシャルピー衝撃強度をプロットしたグラフを
図3に示す。また、相関式およびR
2を表2に示す。
【0055】
【0056】
【0057】
実施例5
試料のシャルピー衝撃強度の合格基準値Xを30kJ/m2に設定した。実施例1において、試料iの代わりに試料Iを用いた以外は同様に、重量平均繊維長b1を求めた。繊維長は測定領域において307,118本測定された。かかった時間は7時間20分時間だった。重量平均繊維長b1は1.42mmだった。この重量平均繊維長b1と実施例4から得られた相関式を用いてシャルピー衝撃強度の推定値cを求めると32.3kJ/m2であり、試料Iは合格となった。結果を表3に示す。
【0058】
比較例5
試料のシャルピー衝撃強度の合格基準値Xを30kJ/m2に設定した。比較例1において、試料iの代わりに試料Iを用いた以外は同様に、重量平均繊維長b1′を求めたところ、2.89mmだった。測定には、樹脂部の焼却に2時間、前処理および繊維長測定に10時間、合計12時間を要した。この重量平均繊維長b1′と比較例4から得られた相関式を用いてシャルピー衝撃強度の推定値c′を求めると、26.1kJ/m2であり、この方法において試料Iは不合格となった。結果を表3に示す。
【0059】
参考例1
試料Iについて、シャルピー衝撃強度試験を行ったところ、シャルピー衝撃強度の実測値は、32.3kJ/m2であった。結果を表3に示す。
【0060】
【0061】
X線CTを用いて計測した重量平均繊維長B1と物性C(実施例1~3)の相関式におけるR2は0.97を超えて大きく(実施例4)、この相関式を用いて推定した製品の物性値(シャルピー衝撃強度)cは、合格基準値X以上を示し、合格となった(実施例5)。また、実施例5により得られた推定値は、実測値(参考例1)とほぼ一致しており、推定値の精度が高いことが確認できた。
一方、従来法である焼却法により、同じ試料Iについて得られた物性の推定値c′は、合格基準値以下であり不合格となった。また、推定値c′は、実測値から大きくはずれていた。このように、比較例では、実際は合格となる製品が不合格と判断され、不適格なロス品を発生させており、実施例の管理方法の方が適していることがわかる。
さらに、繊維長の測定時間は実施例の方が比較例よりも格段に短縮されており、品質管理の効率が大きく向上している。従来のX線CT法では、繊維長5mm程度までしか測定できず、測定本数は最大でも5,000本であり、精度を向上させるには制約が大きかった。実施例のX線CT法では、測定面の大きさを20mmφとし、得られた画像の解析において、繊維部分をグレースケール化し、繊維同士の分別を行うことにより、従来法では困難であった約10mmまでの繊維長を計測し、5,000本をはるかに上回る本数の計測を実現しており、繊維複合材料に含まれる繊維状添加剤の繊維長を迅速かつ高精度に求めることが可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の繊維複合材料の品質管理方法によれば、高精度で短時間に所定の物性値を推定することができ、さらに無用なロス品も削減できることから、高効率で環境負荷を軽減することが可能な、非常に有用な品質管理方法を提供できる。