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特許7402120酸化物超電導線材および酸化物超電導線材の製造方法
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  • 特許-酸化物超電導線材および酸化物超電導線材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】酸化物超電導線材および酸化物超電導線材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 12/06 20060101AFI20231213BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20231213BHJP
   C01G 1/00 20060101ALI20231213BHJP
   C01G 3/00 20060101ALI20231213BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20231213BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
H01B12/06
H01B13/00 565D
C01G1/00 S
C01G3/00
C23C28/00 B
C23C14/08 L
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020093241
(22)【出願日】2020-05-28
(65)【公開番号】P2021190256
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2022-12-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2016年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、高温超電導実用化促進技術開発/高磁場マグネットシステム開発/高温超電導高安定磁場マグネットシステム技術開発に関する委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【弁理士】
【氏名又は名称】小室 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】柿本 一臣
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-230869(JP,A)
【文献】特開平07-061817(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 12/06
H01B 13/00
C01G 1/00
C01G 3/00
C23C 28/00
C23C 14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に積層された中間層と、
前記中間層上に積層された超電導体層と、
前記超電導体層上に積層され、銀により形成された保護層と、を備え、
前記超電導体層は、前記中間層に接して酸化物超電導体により形成された超電導層と、前記保護層に接するバッファ層と、を有し、
前記バッファ層は、銀および前記超電導層と同種の酸化物超電導体を含み、
前記バッファ層の前記超電導体層に対する厚さの比率は6.7~40.0%であり、
前記バッファ層に含まれる銀の前記酸化物超電導体に対する体積比率は5~50vol%である、酸化物超電導線材。
【請求項2】
前記バッファ層の厚さが0.2~1.2μmである、請求項1に記載の酸化物超電導線材。
【請求項3】
臨界電流密度が2.0MA/cm以上である、請求項1または2に記載の酸化物超電導線材。
【請求項4】
基板上に中間層を積層する工程と、
酸化物超電導体により形成された超電導層をPLD法によって前記中間層上に積層する工程と、
前記超電導層と同種の酸化物超電導体および銀を含むバッファ層をPLD法によって前記超電導層上に積層する工程と、
前記バッファ層上に銀の保護層を積層し、積層体を得る工程と、
前記積層体に対して酸素アニール処理を行う工程と、を有し、
前記バッファ層をPLD法によって形成する際に用いるターゲットには、銀および前記酸化物超電導体が含まれ、
前記ターゲットに含まれる銀の前記酸化物超電導体に対する体積比率が5~50vol%である、酸化物超電導線材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導線材および酸化物超電導線材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、基板と、中間層と、酸化物超電導体により形成された超電導層と、銀により形成された保護層と、を備えた酸化物超電導線材が開示されている。保護層は超電導層上に形成されている。保護層は、事故時に発生する過電流をバイパスしたり、超電導層と保護層の上に設けられる層との間で起こる化学反応を抑制したりする等の機能を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-10833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の構成では、超電導層と保護層との間の界面では、互いに異なる種類の材質である酸化物超電導体と銀とが接合されることになる。このように、異種材同士の接合(ヘテロ接合)では、超電導層と保護層との間の電気抵抗が大きいため、超電導層から保護層へバイパス電流が流れにくいという問題があった。また、酸化物超電導線材を超電導コイル等の入出力電極に接続したり、酸化物超電導線材同士を接続したりする場合においても、超電導層と保護層との間の電気抵抗が損失の大小に大きく寄与する。
他方、酸化物超電導線材においては、効率よく臨界電流が流れるために超電導層の臨界電流密度を高く保つことが求められている。
【0005】
本発明はこのような事情を考慮してなされ、超電導層の臨界電流密度を高く保ち、超電導層と保護層との間の電気抵抗を低減することが可能な酸化物超電導線材、またはそのような酸化物超電導線材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の第1態様に係る酸化物超電導線材は、基板と、前記基板上に積層された中間層と、前記中間層上に積層された超電導体層と、前記超電導体層上に積層され、銀により形成された保護層と、を備え、前記超電導体層は、前記中間層に接して酸化物超電導体により形成された超電導層と、前記保護層に接するバッファ層と、を有し、前記バッファ層は、銀および前記超電導層と同種の酸化物超電導体を含み、前記バッファ層の前記超電導体層に対する厚さの比率は6.7~40.0%であり、前記バッファ層に含まれる銀の前記酸化物超電導体に対する体積比率は5~50vol%である。
【0007】
上記態様によれば、超電導層と保護層との間にバッファ層が介在し、バッファ層には超電導層と同種の酸化物超電導体および保護層と同種の銀が含まれている。このため、超電導層とバッファ層との間では酸化物超電導体同士の同種接合(ホモ接合)となり、バッファ層と保護層との間では銀同士のホモ接合となる。これにより、超電導層と保護層との間の電気抵抗を低減することができる。さらに、バッファ層の超電導体層に対する厚さの比率が6.7~40.0%であり、バッファ層に含まれる銀の前記酸化物超電導体に対する体積比率が5~50vol%であることで、超電導層と保護層との間の電気抵抗および臨界電流密度の両方で良好な性能が得られる。
【0008】
ここで、前記バッファ層の厚さが0.2~1.2μmであってもよい。
【0009】
この場合、酸化物超電導線材の全体の厚みを従来と同等にしながら、上記の通り、超電導層と保護層との間の電気抵抗および臨界電流密度の両方で良好な性能を得ることができる。
【0010】
本発明の第2態様に係る酸化物超電導線材の製造方法は、基板上に中間層を積層する工程と、酸化物超電導体により形成された超電導層をPLD法によって前記中間層上に積層する工程と、前記超電導層と同種の酸化物超電導体および銀を含むバッファ層をPLD法によって前記超電導層上に積層する工程と、前記バッファ層上に銀の保護層を積層し、積層体を得る工程と、前記積層体に対して酸素アニール処理を行う工程と、を有する。
【0011】
このように、バッファ層をPLD法によって形成することで、酸化物超電導体および銀を含むバッファ層をより緻密に超電導層上に積層することができる。したがって、超電導層とバッファ層との間、およびバッファ層と保護層との間の電気抵抗をより確実に低減できる。
【0012】
また、前記バッファ層をPLD法によって形成する際に用いるターゲットには、銀および前記酸化物超電導体が含まれ、前記ターゲットに含まれる銀の前記酸化物超電導体に対する体積比率が5~50vol%であってもよい。
【0013】
この場合、バッファ層に含まれる銀の酸化物超電導体に対する体積比率を5~50vol%とし、超電導層と保護層との間の電気抵抗を低減することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の上記態様によれば、超電導層と保護層との間の電気抵抗を低減することが可能な酸化物超電導線材、またはそのような酸化物超電導線材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態の酸化物超電導線材の断面図である。
図2】PLD装置の概略図である。
図3A図1の酸化物超電導線材の製造工程を示す図である。
図3B図3Aに続く工程を示す図である。
図3C図3Bに続く工程を示す図である。
図3D図3Cに続く工程を示す図である。
図3E図3Dに続く工程を示す図である。
図4】表1に基づいて作成したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本実施形態の酸化物超電導線材について図面に基づいて説明する。
図1に示すように、酸化物超電導線材10は、基板11と、中間層12と、超電導層13と、バッファ層14と、保護層15と、がこの順に積層された積層体16を有している。超電導層13およびバッファ層14は、超電導体層Sを構成している。
【0017】
基板11は、テープ状の金属基板である。金属基板を構成する金属の具体例として、ハステロイ(登録商標)に代表されるニッケル合金、ステンレス鋼、ニッケル合金に集合組織を導入した配向Ni-W合金などが挙げられる。基板11の寸法は、例えば幅10mm、厚さ0.1mm、長さ1000mmである。
【0018】
中間層12は、多層構成でもよく、例えば基板11側から超電導層13側に向かう順で、拡散防止層、ベッド層、配向層、キャップ層等を有してもよい。これらの層は必ずしも1層ずつ設けられるとは限らず、一部の層を省略する場合や、同種の層を2以上繰り返し積層する場合もある。中間層12は、金属酸化物であってもよい。配向性に優れた中間層12の上に超電導層13を成膜することにより、配向性に優れた超電導層13を得ることが容易になる。
【0019】
超電導体層Sは、中間層12上に積層されている。超電導体層Sは、中間層12に接する超電導層13と、保護層15に接するバッファ層14と、を有する。
超電導層13は、酸化物超電導体から構成される。酸化物超電導体としては、例えば一般式REBaCu(RE123)等で表されるRE-Ba-Cu-O系酸化物超電導体が挙げられる。希土類元素REとしては、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのうちの1種又は2種以上が挙げられる。RE123の一般式において、yは7-x(酸素欠損量)である。超電導層13の厚さは、例えば約2μmである。超電導層13は、電流異方性が発現するように結晶配向性を整えて形成するとよい。具体的には、結晶のc軸を基板11の表面(成膜面)対して垂直に配向させ、電流が流れ易いa軸またはb軸を基板11の長さ方向に配向するように成膜するとよい。これにより良好な臨界電流特性を得ることができる。
【0020】
バッファ層14は、超電導層13と同種の酸化物超電導体および銀により形成されている。本明細書において、バッファ層14および超電導層13における酸化物超電導体が「同種」であるとは、双方とも銅系の酸化物超電導体(RE-Ba-Cu-O)であることを意味する。バッファ層14に超電導層13と同種の酸化物超電導体が含まれることで、バッファ層14と超電導層13とが同種の物質同士で接合(ホモ接合)されることになり、超電導層13とバッファ層14との間の電気抵抗を低減することができる。さらに、バッファ層14に、後述する保護層15の構成物質と同種である銀が含まれることで、バッファ層14と保護層15との間の電気抵抗を低減することができる。このように、超電導層13上に直接保護層15を形成するのではなく、バッファ層14を介在させることで、超電導層13と保護層15との間の電気抵抗を低減できる。
なお、これ以降、超電導層13と保護層15との間の電気抵抗を、単に「層間抵抗R」と言う。
【0021】
バッファ層14および超電導層13における酸化物超電導体は、希土類元素REが互いに同じであることが好ましい。この場合、層間抵抗Rをより低減することができる。
また、バッファ層14および超電導層13における酸化物超電導体は、希土類元素REが互いに同じであり、かつ、REとBaとCuの含有比率も互いに同じであることがより好ましい。このように、バッファ層14および超電導層13における酸化物超電導体の組成を同一にすることで、層間抵抗Rをより確実に低減することが可能になる。
【0022】
保護層15は、事故時に発生する過電流をバイパスしたり、超電導層13と保護層15の上に設けられる層との間で起こる化学反応を抑制したりする等の機能を有する。保護層15は、銀(Ag)により形成されている。保護層15はスパッタ法等により形成することができる。保護層15の厚さは、例えば1~30μmである。
【0023】
バッファ層14を介在させることで層間抵抗Rを低減できる理由について、さらに詳しく説明する。
バッファ層14に含まれる超電導層13と同種の酸化物超電導体は、超電導層13を構成する酸化物超電導体と同じ結晶配向性を有している。つまり、バッファ層14に含まれる酸化物超電導体は、結晶のc軸が基板11の表面に対して垂直に配向し、a軸またはb軸が基板11の長さ方向に配向している。これにより、バッファ層14と超電導層13とのホモ結合が強化され、層間抵抗Rをさらに低減することができる。
【0024】
バッファ層14に含まれる銀は、粒子状であり、バッファ層14に含まれる酸化物超電導体の結晶粒の表面に沿うように偏在している。バッファ層14に含まれる酸化物超電導体はc軸配向しているため、酸化物超電導体の表面に偏在する銀粒子も基板11の表面に対して垂直方向に並んでいる。したがって、酸化物超電導体のa軸またはb軸に対して銀粒子が垂直に並ぶ関係となり、酸化物超電導体と銀粒子との電気的結合が容易となる。さらに、銀粒子は基板11の表面に対して垂直方向に並んでいるため、銀粒子と保護層15との電気的結合も強化され、バッファ層14と保護層15との間の電気抵抗が低減される。
以上の理由により、バッファ層14を介在させることで、層間抵抗Rを低減することができる。
【0025】
以上説明したように、本実施形態の酸化物超電導線材10は、基板11と、基板11上に積層された中間層12と、中間層12上に積層された超電導体層Sと、超電導体層S上に積層され、銀により形成された保護層15と、を備えている。そして、超電導体層Sは、中間層12に接して酸化物超電導体により形成された超電導層13と、保護層15に接するバッファ層14と、を有し、バッファ層14は、銀および超電導層13と同種の酸化物超電導体を含んでいる。このため、超電導層13とバッファ層14との間では酸化物超電導体同士の同種接合(ホモ接合)となり、バッファ層14と保護層15との間では銀同士のホモ接合となる。これにより、層間抵抗Rを低減することができる。
【0026】
次に、以上のように構成された酸化物超電導線材10の製造方法の一例について説明する。なお、下記製造方法はあくまで一例であり、他の製造方法を採用してもよい。
【0027】
まず、PLD(Pulsed Laser Deposition)法について説明する。PLD法では、図2に示すようなPLD装置20を用いる。PLD装置20は、光源21および集光レンズ22を備えている。光源21は、レーザー光Lを出射する。集光レンズ22は、レーザー光Lをターゲット23の表面23aに集光させる。これにより、ターゲット23の構成粒子を叩き出し、若しくは蒸発させて、プルーム24を発生させる。プルーム24に含まれるターゲット23の構成粒子が、積層対象物25に堆積することで、積層対象物25の表面に前記構成粒子の薄膜が形成される。したがって、ターゲット23の構成粒子の組成を変更することで、積層対象物25に形成される薄膜の組成を適宜変更可能である。なお、図2では複数の積層対象物25に同時に薄膜を形成する様子を示しているが、積層対象物25の数は1つでもよい。
【0028】
酸化物超電導線材10を製造する際は、図3Aに示すように、基板11を用意する。必要に応じて、基板11の表面をアルミナ粒子等を用いて研磨し、基板11の表面をアセトン等により脱脂、洗浄する。
次に、図3Bに示すように、基板11上に中間層12を積層する。中間層12は、PLD法によって形成してもよいし、その他の公知の方法により形成してもよい。
【0029】
次に、図3Cに示すように、中間層12上に超電導層13を積層する。超電導層13は、PLD法によってc軸配向(厚さ方向に配向)して形成される。このとき、中間層12が表面に形成された基板11(図3B)が、図2における積層対象物25となる。また、超電導層13を構成する酸化物超電導体のブロックが、図2におけるターゲット23となる。
【0030】
次に、図3Dに示すように、超電導層13上にバッファ層14を積層する。バッファ層14は、PLD法によって形成する。このとき、中間層12および超電導層13が表面に形成された基板11(図3C)が、図2における積層対象物25となる。また、バッファ層14を構成する、銀を含む酸化物超電導体のブロックが、図2におけるターゲット23となる。
【0031】
次に、図3Eに示すように、バッファ層14上に保護層15を積層する。保護層15は、スパッタ法等によって形成する。これにより、積層体16が得られる。
【0032】
次に、酸素アニール処理を行う。より詳しくは、積層体16を酸素雰囲気下で300~500℃に加熱する。酸素アニール処理を行うことで、保護層15に含まれる銀とバッファ層14に含まれる銀とが、保護層15とバッファ層14との界面において結合する。これにより、バッファ層14と保護層15との間の電気抵抗を低下させることができる。なお、図1では、酸素アニール処理によって保護層15とバッファ層14との間で銀同士が接合していることを模式的に示すため、保護層15とバッファ層14との境界を波線で表している。逆に図3Eでは、酸素アニール処理の前の状態を模式的に示すため、保護層15とバッファ層14との境界を直線で表している。
【0033】
このように、本実施形態の酸化物超電導線材10の製造方法は、基板11上に中間層12を積層する工程と、中間層12上に酸化物超電導体の超電導層13を積層する工程と、超電導層13と同種の酸化物超電導体および銀を含むバッファ層14をPLD法によって超電導層13上に積層する工程と、バッファ層14上に銀の保護層15を積層して積層体16を得る工程と、積層体16に対して酸素アニール処理を行う工程と、を有する。このように、バッファ層14をPLD法によって形成することで、酸化物超電導体および銀をより緻密にバッファ層14として堆積させることができる。したがって、超電導層13とバッファ層14との間、およびバッファ層14と保護層15との間の電気抵抗をより確実に低減できる。
【0034】
以下、具体的な実験例を用いて、上記実施形態を説明する。表1に示すように、サンプル1~15の酸化物超電導線材10を作製し、臨界電流密度Jc[MA/cm2]を求めた。サンプル1~15の超電導体層Sの厚さは、3.0μmで一定とした。また、サンプル1~15の酸化物超電導線材10を用いて接続構造体を作製して接続抵抗を測定し、後述する接続抵抗比を求めた。サンプル2~15の酸化物超電導線材10の構造は、前記実施形態で説明した通りである。
【0035】
表1において、「臨界電流密度Jc」とは、超電導層13の単位断面積あたりの臨界電流値Icである。
表1において、「接続抵抗比」とは、バッファ層なし(サンプル1)の酸化物超電導線材10を用いて作製した接続構造体の接続抵抗をRC0[nΩ・cm]とし、バッファ層あり(サンプル2~15)の酸化物超電導線材10を用いて作製した接続構造体の電気抵抗をRC1[nΩ・cm]としたとき、RC0に対するRC1の比(RC1/RC0)である。
【0036】
詳述すると、先ず、バッファ層なし(サンプル1)の酸化物超電導線材10を2本準備し、保護層15同士を向き合わせて接続長さ2cmで半田接続した接続構造体を作製した。次に、一方の酸化物超電導線材10の超電導層13と他方の酸化物超電導線材10の超電導層13との間の電気抵抗を測定し、その電気抵抗をRC0とした。測定は、測定対象物を超電導状態にしたうえで4端子抵抗測定法により行った。同様に、バッファ層あり(サンプル2~15)の酸化物超電導線材10で接続構造体を作製して各接続構造体の接続抵抗を測定し、その電気抵抗をRC1[nΩ・cm]とした。そして、サンプル2~15の接続構造体ごとに接続抵抗比(RC1/RC0)の値を求めた。サンプル1の接続抵抗比は1.000とした。
【0037】
上述した接続構造体の電気抵抗(RC0及びRC1)は、超電導層13と保護層15との間の電気抵抗(層間抵抗R)と、保護層15と接続用半田との間の電気抵抗との合計と考えることができる。このうち、保護層15と接続用半田との間の電気抵抗はサンプル1~15によらず同じと考えられるため、接続構造体の接続抵抗の差異は各サンプルの層間抵抗Rの差異に起因すると考えられる。したがって、各サンプルで作製した接続構造体の接続抵抗を比較することで、各サンプルの層間抵抗Rの大小関係を知ることができる。
【0038】
接続抵抗比(RC1/RC0)は、サンプル1(バッファ層なし)の層間抵抗Rを基準にしたときに、サンプル2~15(バッファ層あり)の層間抵抗Rがどの程度低下したのかを知る指標となりうる。例えば、表1において、サンプル2の接続抵抗比が0.188であり、サンプル3の接続抵抗比が0.159であることから、バッファ層14を設けたことによる層間抵抗Rの低減効果は、サンプル2よりもサンプル3の方が大きいことが分かる。
【0039】
【表1】
【0040】
表1における「超電導体層に対する厚さ比率」は、バッファ層14の、超電導体層Sの厚さ全体に占める比率(以下、単に比率Pという)を示している。例えばサンプル2では、超電導体層Sの厚さ(3.0μm)に対して、バッファ層14の厚さが0.2μmであるため、比率P=0.2÷3.0×100=6.7%となる。
表1における「銀の体積比率」は、バッファ層14における銀の体積比率(100×(銀の体積/(酸化物超電導体の体積+銀の体積)))を示している。なお、サンプル1については、バッファ層14を形成せずに、超電導層13上に直接保護層15を形成した。
銀の体積比率は、0~50%の範囲で変化させた。銀の体積比率は、バッファ層14をPLD法で形成する際におけるターゲット23の組成を変更することで調整できる。すなわち、ターゲット23の銀の体積比率が、バッファ層14の銀の体積比率と実質的に一致する。また、バッファ層14の厚さは、0~1.4μmの範囲で変化させた。
【0041】
表1の結果をもとに作成したグラフを図4に示す。図4における横軸は先述の比率Pであり、第1縦軸は臨界電流密度Jcであり、第2縦軸は接続抵抗比である。○印のプロットは接続抵抗比(すなわち第2縦軸)を示し、×印のプロットは臨界電流密度Jc(すなわち第1縦軸)を示している。
【0042】
表1に示すように、バッファ層14の厚さが0.2μm以上の範囲(サンプル2~15)では、接続抵抗比の値を0.188以下とすることができた。このように、バッファ層14を設けることで層間抵抗Rが大幅に低減することが確認できた。
【0043】
また、図4に示すように、比率Pが6.7%~40.0%の範囲内では、臨界電流密度Jcを2.0[MA/cm2]以上とすることができた。一方、比率Pが46.7%であるサンプル9については、臨界電流密度Jcが1.5[MA/cm2]と相対的に小さくなった。これは、超電導体層Sに占めるバッファ層14の厚さが大きすぎることで、超電導層13の断面積が不足し、臨界電流密度Jcに悪影響を及ぼしたためである。
【0044】
また、本実施例では、バッファ層14における銀の体積比率が5~50vol%の範囲内で確認を行った。銀の体積比率が50vol%を超える場合については、データは無いが、バッファ層14に含まれる酸化物超電導体の割合が小さくなりすぎて、層間抵抗Rが増大したり、臨界電流密度Jcが低下したりすることが推測される。
【0045】
以上を総合すると、バッファ層14の超電導体層Sに対する厚さの比率は6.7~40.0%であり、かつ、バッファ層14に含まれる銀の体積比率が5~50vol%であることが好ましい。これにより、2.0MA/cm以上の臨界電流密度Jcを確保しつつ、接続抵抗比を0.188以下に低減することができる。
【0046】
また、バッファ層14の厚みを0.2~1.2μmとすることで、酸化物超電導線材10の全体の厚みを従来と同等にしながら、層間抵抗Rおよび臨界電流密度Jcの両方で良好な性能を得ることができる。
【0047】
なお、バッファ層14の銀の体積比率を5~50vol%とするには、PLD法でバッファ層14を形成する際に用いるターゲット23の銀の体積比率を5~50vol%とすればよい。すなわち、ターゲット23には銀および酸化物超電導体が含まれ、ターゲット23に含まれる銀の酸化物超電導体に対する体積比率が5~50vol%であればよい。
【0048】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0049】
例えば、積層体16の周囲に、不図示の安定化層を設けてもよい。安定化層を設けた場合、事故時に発生する過電流をバイパスしたり、超電導層13及び保護層15を機械的に補強したりすることができる。安定化層の材質としては、例えば銅を採用可能である。
【0050】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態や変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0051】
10…酸化物超電導線材 11…基板 12…中間層 13…超電導層 14…バッファ層 15…保護層 23…ターゲット S…超電導体層
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4