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特許7402128クレーン装置、及びクレーン装置の運転管理システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】クレーン装置、及びクレーン装置の運転管理システム
(51)【国際特許分類】
   B66C 13/00 20060101AFI20231213BHJP
   B66C 13/46 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
B66C13/00 Z
B66C13/46 G
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020114230
(22)【出願日】2020-07-01
(65)【公開番号】P2022012413
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】及川 裕吾
(72)【発明者】
【氏名】大槻 真弘
(72)【発明者】
【氏名】田上 達也
(72)【発明者】
【氏名】竹脇 僚哉
【審査官】長尾 裕貴
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108382999(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0346294(US,A1)
【文献】特開2017-039611(JP,A)
【文献】特開2014-193760(JP,A)
【文献】特開2007-204208(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/00 - 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻上用、横行用、走行用の夫々の用途に応じた動作制御が可能な制御手段が取り付けられたクレーン装置の管理システムであって、
前記制御手段は、
前記クレーン装置の巻上方向、横行方向、走行方向における予め定めた評価項目に関する測定値を測定する測定手段と、
前記測定手段からの前記評価項目別の前記測定値とこれに対応する基準評価値とを比較して評価点を求め、巻上方向、横行方向、走行方向毎に前記評価項目別の前記評価点から総合評価点を求める測定項目評価手段とを備え、
更に、前記管理システムは前記制御手段の前記測定項目評価手段で求められた前記評価点、及び前記総合評価点を表示する表示手段を備えると共に、
前記制御手段と前記表示手段は通信部を備えており、前記制御手段と前記表示手段は、クラウドネットワークを介して夫々の前記通信部と接続され、前記クラウドネットワークのサーバに前記制御手段から、少なくとも、前記評価点、及び前記総合評価点が送られて記憶される
ことを特徴とするクレーン装置の運転管理システム。
【請求項2】
請求項1に記載のクレーン装置の運転管理システムにおいて、
予め定めた前記評価項目は、巻上用誘導電動機の始動頻度、負荷時間率、及び荷重率を含む
ことを特徴とするクレーン装置の運転管理システム
【請求項3】
請求項1、又は請求項2に記載のクレーン装置の運転管理システムにおいて、
前記評価項目の前記測定値は時系列で保存されており、前記測定項目評価手段は、保存された前記測定値からグラフを作成し、前記クラウドネットワークを介して前記表示手段に送信される
ことを特徴とするクレーン装置の運転管理システム。
【請求項4】
巻上用、横行用、走行用の夫々の用途に応じた動作制御が可能な制御手段が取り付けられたクレーン装置であって、
前記制御手段は、
前記クレーン装置の巻上方向、横行方向、走行方向における予め定めた評価項目に関する測定値を測定する測定手段と、
前記測定手段からの前記評価項目別の前記測定値とこれに対応する基準評価値とを比較して評価点を求め、巻上方向、横行方向、走行方向毎に前記評価項目別の前記評価点から総合評価点を求める測定項目評価手段とを備え、
前記制御手段は通信部を備えており、前記測定項目評価手段で求められた前記評価点、及び前記総合評価点の少なくとも一方を外部の表示手段の通信部に送信すると共に、
前記制御手段と前記外部の表示手段は、クラウドネットワークを介して夫々の前記通信部と接続され、前記クラウドネットワークのサーバに前記制御手段から、記評価点、及び前記総合評価点の少なくとも一方が送られて記憶される
ことを特徴とするクレーン装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクレーン装置、及びクレーン装置の運転管理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
クレーン装置は定期点検が法令により義務付けられているが、点検の際、クレーン装置の構成部品の消耗状況、稼働情報等を加味して、部品交換の指示、及び使用方法の改善等の提案を点検者がオペレータに対して行っている。そして、部品交換に関しては、クレーン装置の製造会社が判断基準を設けているので、この判断基準に基づいて明確に判断できるようになっている。一方、使用方法の改善に関しては、クレーン装置の稼働情報を解析する必要があるため、点検者の知識や経験等により提案内容に個人差(レベル差)が生じる傾向にある。
【0003】
この問題を解決するために、例えば特許第6013974号公報(特許文献1)に記載されている方法が知られている。特許文献1では、遠隔通信を用いて稼働情報、エラー情報から、クレーン装置、及びこれの構成部品の残存寿命を演算し、例えば、制御装置の側でインチング(微小移動)操作の周期を制限する制御、クレーン装置の動作速度を低下させる制御等のクレーン装置の動作を規制している。このような、制御動作の改善を行うことで、部品交換サイクルが延長でき、しかもクレーン装置自体の延命にもつながるという効果がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6013974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1においては、制御装置の側で制御動作を規制することによってクレーン装置の延命にはつながるが、どのように使用方法を改善すれば良いかといった提案事項がオペレータへ伝わらない。このため、オペレータが特許文献1に記載の制御動作を規制する技術を採用せず、残存寿命が短いクレーン装置を運転する場合、従来と同様の使用方法を実行することにより、部品交換サイクルが延長できない、クレーン装置の寿命改善に貢献できない、といった課題を生じることがある。
【0006】
本発明の目的は、明確にオペレータへ使用方法の改善の提案を行うことができ、しかもオペレータの運転技術の向上が図れるクレーン装置、及びクレーン装置の運転管理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の特徴は、クレーン装置の巻上方向、横行方向、走行方向における予め定めた評価項目に関する測定値を測定する測定手段と、測定手段からの評価項目別の測定値とこれに対応する基準評価値とを比較して評価点を求め、巻上方向、横行方向、走行方向毎に評価項目別の評価点から総合評価点を求める測定項目評価手段と、測定項目評価手段で求められた評価点、及び総合評価点の少なくとも一方を表示する表示手段を備えるクレーン装置の運転管理システム、にある。
【0008】
本発明の第2の特徴は、クレーン装置の巻上方向、横行方向、走行方向における予め定めた評価項目に関する測定値を測定する測定手段と、測定手段からの評価項目別の測定値とこれに対応する基準評価値とを比較して評価点を求め、巻上方向、横行方向、走行方向毎に評価項目別の評価点から総合評価点を求める測定項目評価手段を備えるクレーン装置、にある。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、明確にオペレータへ使用方法の改善の提案を行うことができ、しかもオペレータの運転技術の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】インバータ式クレーン装置の全体構成図を示す斜視図である。
図2】本発明の実施形態になるインバータ式クレーン装置の制御部の構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態の特徴である運転評価制御部の具体的な構成を示すブロック図である。
図4】クレーン装置の運転評価基準と実際の採点を説明する説明図である。
図5】始動回数の保存方法を説明する説明図である。
図6】インチングの計数方法を説明する説明図である。
図7】評価値の表示例を説明する説明図である。
図8】評価値の項目別表示例を説明する説明図である。
図9】評価値のグラフ例を説明する説明巣図である。
図10図2に示すクレーン装置の制御部の変形例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例をもその範囲に含むものである。
【0012】
図1は本発明が適用されるインバータ式クレーン装置の全体構成を示し、図2は本発明の実施形態になるインバータ式クレーン装置の制御部の構成を示している。尚、本実施形態で使用されるインバータ式クレーン装置は、ワイヤーロープ負荷測定装置を備えており、吊荷の荷重を測定できる構成とされている。
【0013】
図1において、インバータ式クレーン装置は、クレーンフック1、ワイヤーロープ2、巻上誘導電動機3、巻上用ドラム4、横行誘導電動機5、横行用車輪6、横行用ガーダー7、走行誘導電動機8、走行用車輪9、走行用ガーダー10、巻上・横行インバータ制御装置11、ケーブルに吊り下げられた操作入力装置12、走行用インバータ制御装置13等から構成されている。また、巻上誘導電動機3、横行誘導電動機5、及び走行誘導電動機8には誘導電動機用ブレーキ14(図2参照)が各々に内蔵されている。
【0014】
インバータ式クレーン装置は、クレーンフック1に取り付けた荷物を、巻上誘導電動機3によって回転する巻上用ドラム4により、ワイヤーロープ2を巻き上げ/巻き下げすることでY方向(Y方向、-Y方向の矢印で示す)、即ち上下方向に荷物を移動する。また、横行用車輪6を横行誘導電動機5が回転させ、横行用ガーダー7に沿ってX方向(X方向、-X方向の矢印で示す)に移動する。更に、走行用車輪9を走行誘導電動機8が回転させ、走行用ガーダー10に沿ってZ方向(Z方向、-Z方向の矢印で示す)に移動する。
【0015】
図2に示すように、巻上・横行インバータ制御装置11には、巻上・横行インバータ制御部15、巻上用インバータ16、横行用インバータ17が内蔵されている。また、走行用インバータ制御装置13には、走行インバータ制御部18、及び走行用インバータ19が内蔵されている。また、巻上・横行インバータ制御部15と走行インバータ制御部18とは通信線20によって接続されている。
【0016】
巻上誘導電動機3と横行誘導電動機5は、巻上・横行用インバータ制御装置11に格納された巻上・横行インバータ制御部15により制御される。即ち、オペレータが操作入力装置12から所定の指示を入力すると、巻上・横行インバータ制御部15は、巻上用インバータ16と横行用インバータ17を制御するため、巻上用インバータ16と横行用インバータ17に制御に必要な制御情報を与える。
【0017】
そして、巻上用インバータ16と横行用インバータ17は、巻上誘導電動機3と横行誘導電動機5に必要な周波数、電圧、電流を加え、同時に誘導電動機用ブレーキ14を開放制御する。これによって、巻上用ドラム4の場合、クレーンフック1に取り付けられた荷物が、落下することなくY方向に移動させられ、また、横行用車輪6の場合、横行用ガーダー7に沿って横行用車輪6をX方向に移動させる。
【0018】
同様に走行用車輪9に取り付けてある走行誘導電動機8は、オペレータが操作入力装置12からの所定の指示を入力すると、走行用インバータ制御装置13に格納された走行インバータ制御部18が走行用インバータ19を制御し、走行用インバータ19は走行誘導電動機8に必要な周波数、電圧、電流を加え、同時に誘導電動機用ブレーキ14を開放制御することで、走行用ガーダー10に沿って走行用車輪9をZ方向に移動させる。
【0019】
以上は、通常のクレーン装置の説明であり、次に本発明の実施形態の説明を行う。本実施形態では、上述の通信線20とは別に、運転評価用の通信線21によって巻上・横行インバータ制御部15と走行インバータ制御部18とが接続されている。更に巻上・横行インバータ制御装置11には通信部22が設けられており、この通信部22は、運転評価用の通信線21によって巻上・横行インバータ制御部15と接続されている。
【0020】
通信部22は無線通信によってクラウドネットワークCLDに接続されており、このクラウドネットワークCLDは、通信部を備えた表示端末23とも無線通信で接続されている。したがって、クラウドネットワークCLDを介して、通信部22と表示端末23は、相互にアクセス可能な環境に設定されている。表示端末23は可搬型のタブレット端末やパーソナルコンピュータ(PC)を使用することができる。尚、表示端末23はクレーン装置に設けても良いものである。
【0021】
次に、本実施形態の特徴部分である運転評価制御部24について、図3を用いて説明する。図3において、巻上・横行インバータ制御部15は運転評価制御部24を備えている。この運転評価制御部24は、実際には巻上・横行インバータ制御部15を構成するマイクロコンピュータによって実行される機能を、機能ブロックとして表現している。つまり、マイクロコンピュータは制御プログラムによって各種の制御機能を実行するものであり、この制御機能を機能ブロックとして捉えているものである。ただ、運転評価制御部24は、単独でクレーン装置に設けられても良いものである。
【0022】
運転評価制御部24は、運転データ入力部25を備えており、この運転データ入力部25には、少なくとも、ブレーキ信号(Bsig)、モータ電流信号(Msig)、操作入力装置12のスイッチ信号(Ssig)、電源信号(Vsig)、荷重信号(Lsig)が入力されている。尚、これらの入力信号以外の入力信号を入力することも可能であることは言うまでもない。
【0023】
運転データ入力部25から入力された運転データは、必要に応じて始動頻度測定部26、負荷時間率測定部27、インチング測定部28、運転中電源遮断回数測定部29、及び荷重率測定部30に与えられ、夫々の測定部26~30によって必要な評価項目が測定される。これらの測定動作はマイクロコンピュータの制御プログラムによって実行される。測定された夫々の評価項目は、時間の経過に伴って順番に測定項目保存部31で保存される。この測定項目保存部31は、例えばマイクロコンピュータのRAM領域を使用して保存することができる。
【0024】
測定項目保存部31に保存された夫々の評価項目は、測定項目評価部32で評価されるが、この評価については後述する。測定項目評価部32で評価が完了すると、この評価結果は無線通信によって、クラウドネットワークCLDに送られ、更に無線通信によって表示端末23に送られる。表示端末23はオペレータによって閲覧することができ、この評価結果は、オペレータに対してクレーン装置の使用方法の改善を促すことができ、オペレータの運転技術の向上が図れるようになる。
【0025】
次に、運転評価制御部24の評価方法の具体的な例を説明する。尚、クレーン装置の運転評価をする上で、クレーン装置の運転方向(巻上方向、横行方向、走行方向)に対して様々な評価項目が挙げられるが、以下では巻上方向の例を説明する。もちろん、横行方向、走行方向についても評価項目が異なる場合もあるが、以下に説明する手法と同様の手法で運転評価を行うことができる。
【0026】
図4はクレーン装置の巻上方向の評価項目と、これに対する評価点の配分、及び実運転での測定値から採点を実施した結果を示している。測定値は、図3に示す夫々の測定部26~30で測定され、また、採点は図3に示す測定項目評価部32で評価される。
【0027】
巻上方向の評価項目としては、始動頻度(回/h)、負荷時間率(%ED)、インチング(回/h)、運転中電源遮断回数(回/h)、荷重率(K)としている。そして、各評価項目に対して、2点刻みで10点から20点までの基準評価点を設定し、夫々の基準評価点に対して比較の基準となる評価基準範囲を設定している。
【0028】
例えば、始動頻度(回/h)においては、20点であれば「0~400」の評価基準範囲、18点であれば「401~450」の評価基準範囲、16点であれば「451~500」の評価基準範囲、14点であれば「501~550」の評価基準範囲、12点であれば「551~600」の評価基準範囲、10点であれば「601~660」の評価基準範囲、といった設定がされている。したがって、測定値がどの評価基準範囲に属するかによって点数が決定されることになる。他の評価項目についても図4に示してある通りなので、その説明を省略する。
【0029】
ここで、上述したように、巻上方向以外に、横行方向、走行方向も個別に評価項目を設定することで、より実態にあった評価を実施することができる。また、図4に示した評価項目、点数は一例であり、別な評価項目の設定や評価項目数の増減、点数の配分など、クレーン装置に合わせて決定するのが望ましい。また、評価基準範囲は後から変更できるようにしても良い。
【0030】
次に図4に示すの各評価項目の測定方法について説明する。尚、以下に説明する測定方法は一例であり、別の測定方法で測定しても差し支えない。
【0031】
先ず始動頻度(回/h)は、1時間当たりに巻上誘導電動機3が動作した回数であり、誘導電動機用ブレーキ14が解放されて再び制動された時点で1回と計数される。1分間における合計の計数値を、図5に示すように60個分(1時間に相当)の保存エリアに1分毎に保存していく構成としている。
【0032】
例えば、図5の(t1)では最初の1分経過後の合計計数値が記憶され、(t2)では次の1分経過後の合計計数値が記憶され、(t3)では次の1分経過後の合計計数値が記憶され、その後(t4)では58分経過後の合計計数値が記憶され、(t5)では次の1分経過後の合計計数値が記憶され、以後この動作を繰り返すことになる。
【0033】
尚、この保存エリアはリングバッファのような記憶手段であり、始動頻度を保存する際、一番古い測定値に新たな測定値を上書きすることで、最新の60分間の始動頻度(測定値)を記憶することができる。これらの60個分の測定値を全て加算することで始動頻度(回/h)が求められる。ここまでは、始動頻度測定部26、及び測定項目保存部31で実行される処理である。
【0034】
図4に戻って、今回の始動頻度(回/h)は「452回/h」であるため、始動頻度で設定されている評価基準範囲のどの範囲に属しているか判断される。今回は「451~500」の範囲に属しているので評価点は「16」に決定される。この評価点の決定は、測定項目評価部32で実行される処理である。
【0035】
次に、負荷時間率(%ED)の測定方法について説明する。負荷時間率(%ED)は1時間当たりの巻上誘導電動機3へ通電された時間の割合、すなわち、1時間当たりの運転時間の割合となり、負荷時間率(%ED)も始動頻度(回/h)と同様に、図5に示すような形態で保存していき、以下の「数1」に示す演算を実行することで、負荷時間率(%ED)が求められる。
【0036】
【数1】
【0037】
例えば、今回の負荷時間率(%ED)の測定値は「33」である。
【0038】
そして、図4に戻って今回の負荷時間率(%ED)は「33(%ED)」であるため、負荷時間率で設定されている評価基準範囲のどの範囲に属しているか判断される。今回は「0~40」の範囲に属しているので評価点は「20」に決定される。この評価点の決定は、測定項目評価部32で実行される処理である。
【0039】
上述した始動頻度と負荷時間率は、夫々のクレーン装置の製造会社により定められているクレーン装置の仕様であり、仕様を超えた使い方をしていないかどうか確認するための評価項目として設定されている。
【0040】
次に、インチングの測定方法について説明する。ここで、インチングとは寸動操作のことであり、クレーン装置は吊り荷の吊り上げ時や、着床時にインチングが多用される傾向がある。過度のインチングは、電磁接触器、リレー接点、誘導電動機用ブレーキ14の構成部品へのダメージが大きくなるので、部品寿命を早めるといった弊害を生じる。このため、インチングに対する評価も重要である。
【0041】
インチング(回/h)は短時間での始動回数を測定することで判定できる。本実施形態では、例えば図6に示すように、一旦ブレーキによる制動が行われてから次に解放するまでの時間が1秒未満の場合、インチングの回数を1回として計数する。1分間のインチングの回数を合計してインチング回数を求め、図5に示すような形態で保存していき、60個分のデータを全て加算することでインチング回数が求められる。例えば、今回のインチングの回数は「182」である。
【0042】
そして、図4に戻って今回のインチング(回/h)は「182(回/h)」であるため、インチングで設定されている評価基準範囲のどの範囲に属しているか判断される。今回は「181~200」の範囲に属しているので評価点は「10」に決定される。この評価点の決定は、測定項目評価部32で実行される処理である。
【0043】
次に、運転中電源遮断回数の測定方法について説明する。ここで、運転中に電源遮断されると、吊り荷の振れが大きくなり安全性が損なわれる恐れがあり、また、誘導電動機用ブレーキ14の構成部品へのダメージが大きくなるので、部品寿命を早めるといった弊害を生じる。尚、操作入力装置12から電源遮断の指示を行わず、クレーン装置へ供給される電源が瞬停などにより遮断された場合も、巻上・横行インバータ制御部15、走行インバータ制御部18に対する電源遮断の指示は、操作入力装置12からの指示と同様に与えられる。
【0044】
運転中電源遮断回数(回/h)は、例えば、誘導電動機用ブレーキ14が解放中に、操作入力装置12から、巻上・横行インバータ制御部15、走行インバータ制御部18に電源遮断指示が来ると1回として計数する。1分間の運転中電源遮断回数を合計して運転中電源遮断回数を求め、図5に示すような形態で保存していき、60個分のデータを全て加算することで運転中電源遮断回数が求められる。例えば、今回の運転中電源遮断回数は「8」である。
【0045】
ここで、電源が遮断された場合、即座に巻上・横行インバータ制御部15、走行インバータ制御部18に対する電源供給が遮断されると、制御プログラムが機能しなくなって電源遮断回数の計数ができなくなる恐れがある。
【0046】
しかしながら、一般的なクレーン装置は、横行インバータ制御部15、走行インバータ制御部18に搭載している平滑コンデンサを介し、マイクロコンピュータの駆動電源を生成して供給されているので、電源が遮断されても、平滑コンデンサの放電時間により十分に制御プログラムを機能させることができ、電源遮断回数を計数する時間は担保されている。
【0047】
そして、図4に戻って今回の電源遮断回数(回/h)は「8(回/h)」であるため、運転中電源遮断回数で設定されている評価基準範囲のどの範囲に属しているか判断される。今回は「7~8」の範囲に属しているので評価点は「12」に決定される。この評価点の決定は、測定項目評価部32で実行される処理である。
【0048】
次に、荷重率(K)の測定方法について説明する。荷重率は以下の「数2」で演算できる。
【0049】
【数2】
【0050】
ここで、P1、P2、P3…は、定格過重に対する荷重の割合であり、t1、t2、t3…は、全使用時間に対する各荷重における使用時間の割合である。
【0051】
例えば、定格過重1tのクレーン装置において、往路は0.2tの吊り具で、0.4tの吊り荷を運搬し、復路は無負荷(0.2tの吊り具)で元の位置に戻る場合、「数2」を用いて荷重率(K)を演算すると、以下の「数3」となる。
【0052】
【数3】
【0053】
ここで、「0.2」は吊り具の質量、「0.4」は吊り荷の質量、「0.5」は往路、復路に係る時間の割合である。例えば、今回の荷重率(K)は約「0.48」である。
【0054】
尚、制御プログラム上で演算させる場合、例えば、吊り荷の質量を電流値により測定し、測定した荷重を無負荷(0%~10%)、軽負荷(11%~25%)、中負荷(26%~50%)、重負荷(51%~75%)、超重負荷(76%~100%)、過負荷(101%以上)と区分し、区分した荷重別の運転時間を計測する。1分間の間の運転時間を求め、図5に示すような形態で保存していき、60個分のデータを(式2)を用いて演算することで、荷重率(K)が求められる。
【0055】
そして、図4に戻って今回の荷重率(K)は「0.48」であるため、荷重率(K)で設定されている評価基準範囲のどの範囲に属しているか判断される。今回は「0~0.65」の範囲に属しているので評価点は「20」に決定される。この評価点の決定は、測定項目評価部32で実行される処理である。
【0056】
そして、測定項目評価部32は、巻上方向について各評価項目の評価点を合計して、総合的な評価点を求める。図4に示すように、今回の巻上方向の総合評価点は「78」となる。また、同様に横行方向、走行方向についても評価項目毎に評価点、及び総合評価点が求められる。図7にあるように、横行方向の総合評価点は「85」であり、走行方向の総合評価点は「92」である。
【0057】
巻上方向、横行方向、走行方向の総合評価点が求められると、更に測定項目評価部32は、クレーン装置全体としての全体総合評価点を求める。この全体総合評価点は、巻上方向、横行方向、走行方向の総合評価点を加算して求めた平均値として求められる。今回の全体総合評価点は「85」となる
図7に示す、巻上方向、横行方向、走行方向の総合評価点と全体総合評価点を記載した表は、必要に応じて表示端末23に送られ、表示画面に表示される。これによって、オペレータはクレーン装置全体の運転評価と、巻上方向、横行方向、走行方向の個別の駆動系の運転評価を知ることができる。尚、評価点は数値ではなく、記号で表示しても良い。
【0058】
また、測定項目評価部32は、図8に示す運転評価を作成する構成とされている。図8においては、夫々の評価項目毎に測定値、及び評価点を表示し、更に最も高い基準評価点に対する現在の評価点を対比した相対評価を求めて表示するようにしている。これによれば、運転操作で改善する必要がある操作がより分かり易くなる。例えば、インチングに関しては、相対評価が「10/20」であるので、インチングの操作を少なくすることが必要なことをオペレータに促すことができる。
【0059】
このように、測定項目評価部32は、図7図8にあるように、夫々の測定部20~30からの評価項目別の測定値とこれに対応する基準評価値とを比較して評価点を求め、巻上方向、横行方向、走行方向毎に評価項目別の評価点から総合評価点を求め、この評価点、及び総合評価点の少なくとも一方を表示端末に表示するようにしている。もちろん、図7図8に示す表をそのまま表示させることもできることは言うまでもない。
【0060】
更に、例えば1時間毎の夫々の評価項目に対応した測定値を保存しておくことで、図9に示すようなグラフ(始動頻度)を作成して表示することができる。このグラフは、始動頻度だけではなく、負荷時間率、インチング回数、電源遮断回数、荷重率についてもグラフ化することが可能である。これによれば、どの時間帯の運転を改善するべきか、といった運転操作の改善を促す情報を明確にしてオペレータに供給できるようになる。
【0061】
ここで、図9における運転評価に関する情報は、巻上・横行インバータ制御部15、走行インバータ制御部18で記憶し、更に演算して表示するようにしているが、過去のデータを順次保存していくと膨大なデータ量となるので、図2に示すように、クラウドネットワークCLDを利用して、少なくとも、測定値、評価点、及び総合評価点がクラウドのサーバに送られて記憶されるようにしても良い。更に測定値だけ送って、サーバで評価点、及び総合評価点を演算して表示することも可能である。
【0062】
つまり、巻上・横行インバータ制御部15は巻上方向、横行方向、走行方向の測定データ(測定値)や演算データ(評価点や総合評価点)を通信部22へ送り、通信部22は送られてきた測定データや演算データをクラウドネットワークCLDへ送信する。クラウドのサーバでは、1時間間隔で過去1ヵ月間の測定データや演算データを保存する。
【0063】
そして保存された測定データや演算データは、表示端末23の表示画面上に、図7図8図9に示すような表示が行われる。尚、図7図8図9の表示は任意であり、表示端末23で必要な表やグラフを選択して表示することができる。
【0064】
ここで、通信部22は巻上・横行インバータ制御装置11だけに配置するのではなく、図10に示すように、巻上・横行インバータ制御装置11に通信部22Aを配置し、走行用インバータ制御装置18に通信部22Bを配置しても良い。通信部22A、22Bは図2と同様にクラウドネットワークCLDに無線通信で接続される。
【0065】
本実施形態によれば、オペレータへ運転方法の改善を促す情報を明確に提案することができる。また、オペレータが他のクレーン装置を使用する際も、運転方法の改善を促す情報を学習しているので、運転操作の安全性向上、効率向上を図ることができる。更に、運転評価に関する情報(測定値)の可視化(グラフ化)により、運転が集中する時間帯が明確になるので、設備の増設や作業工程の変更などにより、作業効率の向上を図ることができる。
【0066】
尚、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0067】
1…クレーンフック、2…ワイヤーロープ、3…巻上誘導電動機、4…巻上ドラム、5…横行誘導電動機、6…横行用車輪、7…横行用ガーダー、8…走行誘導電動機、9…走行用車輪、10…走行用ガーダー、11…巻上・横行インバータ制御装置、12…操作入力装置、13…走行用インバータ制御装置、14…誘導電動機用ブレーキ、15…巻上・横行インバータ制御部、16…巻上用インバータ、17…横行用インバータ、18…走行インバータ制御部、19…走行用インバータ、20…通信線、21…通信線、22…通信部、23…表示端末、24…運転評価制御部、25…運転データ入力部、26…始動頻度測定部、27…負荷時間率測定部、28…インチング測定部、29…運転中電源遮断回数測定部、30…荷重率(K)測定部、31…測定項目保存部、32…測定項目評価部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10