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特許7402130燃料電池システムの温度推定方法及び燃料電池システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】燃料電池システムの温度推定方法及び燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0432 20160101AFI20231213BHJP
   H01M 8/04014 20160101ALI20231213BHJP
   H01M 8/04537 20160101ALI20231213BHJP
   H01M 8/0438 20160101ALI20231213BHJP
【FI】
H01M8/0432
H01M8/04014
H01M8/04537
H01M8/0438
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020117492
(22)【出願日】2020-07-08
(65)【公開番号】P2022014958
(43)【公開日】2022-01-21
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100212657
【弁理士】
【氏名又は名称】塚原 一久
(72)【発明者】
【氏名】中村 健
【審査官】大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-282794(JP,A)
【文献】特開2009-123670(JP,A)
【文献】特開2019-149225(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/04-8/0668
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池スタック、冷却部、及び補機を備える燃料電池ユニットと、
前記燃料電池ユニットを制御する制御部と、
を有する燃料電池システムの温度推定方法であって、
前記補機を、前記燃料電池ユニットの内側において、前記冷却部により生成される冷却風の流路に配置し、
前記制御部により、
前記燃料電池スタックの温度と前記補機の温度との温度差に対応する蓄熱の第1時定数、及び前記補機の温度と前記燃料電池ユニット外の温度との温度差に対応する放熱の第2時定数を用いて、前記燃料電池スタックからの蓄熱の影響と、前記冷却風による放熱の影響とに応じて、前記補機の温度変化を推定し、
前記燃料電池スタックの発電量に応じて前記第1時定数を設定し、前記冷却部の冷却量に応じて前記第2時定数を設定する、
燃料電池システムの温度推定方法。
【請求項2】
前記補機は、前記燃料電池スタックと熱的に結合された状態で接続され、
前記制御部は、前記燃料電池スタックの発電量を検出し、検出した前記発電量が大きいほど、前記第1時定数を小さく設定する、
請求項1に記載の燃料電池システムの温度推定方法。
【請求項3】
前記制御部は、前記冷却部の前記冷却量を検出し、検出した前記冷却量が大きいほど前記第2時定数を小さく設定する、
請求項1または請求項2のいずれかに記載の燃料電池システムの温度推定方法。
【請求項4】
前記冷却部は、熱を外部に放出する冷却ファンを備え、
前記制御部は、前記冷却ファンの回転数に基づいて、前記冷却量を検出する、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の燃料電池システムの温度推定方法。
【請求項5】
前記補機は、前記燃料電池スタックからの排気と排水とを行う排気排水弁である、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の燃料電池システムの温度推定方法。
【請求項6】
前記補機は、前記流路おいて前記冷却部の上流側に配置されている、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の燃料電池システムの温度推定方法。
【請求項7】
燃料電池スタック、冷却部、及び補機を備える燃料電池ユニットと、
前記燃料電池ユニットを制御する制御部と、を有し、
前記補機は、前記燃料電池ユニットの内側において、前記冷却部により生成される冷却風の流路に配置され、
前記制御部は、
前記燃料電池スタックの温度と前記補機の温度との温度差に対応する蓄熱の第1時定数、及び前記補機の温度と前記燃料電池ユニット外の温度との温度差に対応する放熱の第2時定数を用いて、前記燃料電池スタックからの蓄熱の影響と、前記冷却風による放熱の影響とに応じて、前記補機の温度変化を推定し、
前記燃料電池スタックの発電量に応じて前記第1時定数を設定し、前記冷却部の冷却量に応じて前記第2時定数を設定する、
燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、燃料電池システムの温度推定方法及び燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムは、酸素を含む空気と水素とを供給された燃料電池スタックにおいて酸素と水素を結合させることにより発電を行う。
【0003】
この燃料電池システムの燃料ガスの循環路において、燃料ガスと生成水とを分離して排気と排水とを行う排気排水弁と呼ばれる補機が、燃料電池スタックに取り付けられている。この排気排水弁には生成水が溜まっており、氷点下等の低温環境下で燃料電池システムの停止状態が長く続いた場合には、排気排水弁が凍結する。これにより、燃料電池システムの正常な始動が妨げられる恐れがある。なお、燃料電池システムが稼働中であっても、低温環境下の場合、排気排水弁が凍結する可能性がある。また、排気排水弁に限らず、他の補機についても、同様に不具合が生じる可能性がある。従って、補機の温度を精度良く推定する必要がある。
【0004】
補機の温度を検出するために燃料電池ユニット内にセンサを設けると、燃料電池システムのコストが上昇する問題がある。そこで、燃料電池システムにおいて、外気温センサで検知された外気温を利用して、補機の温度を推定する手法が、特許文献1に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-147102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の方法では、燃料電池ユニットの外周面がパネル部材または部品で覆われている構成の場合、外気温の利用による補機の温度推定には誤差が生じる。また、ラジエータ等の冷却部により燃料電池スタックが冷却されている場合、ラジエータファンにより生成される冷却風の影響があるため、外気温を用いて補機の温度を精度良く推定することはできない。
【0007】
本開示は、上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、燃料電池ユニットが仕切りの内側に設けられ、冷却部により燃料電池スタックを冷却している場合に、燃料電池ユニット内にセンサを設けることなく、補機の温度を精度良く推定することが可能な燃料電池システムの温度推定方法及び燃料電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の燃料電池システムの温度推定方法は、燃料電池スタック、冷却部、及び補機を備える燃料電池ユニットと、燃料電池ユニットを制御する制御部と、を有する燃料電池システムの温度推定方法であって、補機を、燃料電池ユニットの内側において、冷却部により生成される冷却風の流路に配置し、制御部により、燃料電池スタックの温度と補機の温度との温度差に対応する蓄熱の第1時定数、及び補機の温度と燃料電池ユニット外の温度との温度差に対応する放熱の第2時定数を用いて、燃料電池スタックからの蓄熱の影響と、冷却風による放熱の影響とに応じて、補機の温度変化を推定し、燃料電池スタックの発電量に応じて第1時定数τ1を設定し、冷却部の冷却量に応じて第2時定数τ2を設定する。
【0009】
本開示の燃料電池システムは、燃料電池スタック、冷却部、及び補機を備える燃料電池ユニットと、燃料電池ユニットを制御する制御部と、を有し、補機は、燃料電池ユニットの内側において、冷却部により生成される冷却風の流路に配置され、制御部は、燃料電池スタックの温度と補機の温度との温度差に対応する蓄熱の第1時定数、及び補機の温度と燃料電池ユニット外の温度との温度差に対応する放熱の第2時定数を用いて、燃料電池スタックからの蓄熱の影響と、冷却風による放熱の影響とに応じて、補機の温度変化を推定し、燃料電池スタックの発電量に応じて第1時定数を設定し、冷却部の冷却量に応じて第2時定数を設定する。
【0010】
本開示において、補機が燃料電池スタックと熱的に結合された状態で接続されている場合には、制御部は、燃料電池スタックの発電量を検出し、検出した発電量が大きいほど、第1時定数を小さく設定してもよい。
【0011】
本開示において、制御部は、冷却部の冷却量を検出し、検出した冷却量が大きいほど第2時定数を小さく設定してもよい。
【0012】
本開示において、冷却部は熱を外部に放出する冷却ファンを備え、制御部は、冷却ファンの回転数に基づいて、冷却量を検出してもよい。
【0013】
本開示において、補機は、燃料電池スタックからの排気と排水とを行う排気排水弁であってもよい。
【0014】
本開示において、燃料電池スタックに生じる熱を冷却部の冷却風により外部に排出する場合、補機は、流路において冷却部の上流側に配置されていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、燃料電池ユニットが仕切りの内側に設けられ、冷却部により燃料電池スタックを冷却している場合に、燃料電池ユニット内にセンサを設けることなく、補機の温度を精度良く推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施の形態1に係る燃料電池システムの概略構成を示すブロック図である。
図2】実施の形態1に係る燃料電池ユニットの各部の配置を示す説明図である。
図3】実施の形態1に係る燃料電池システムの温度推定の様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、燃料電池システムの実施の形態につき、図面を用いて説明する。なお、各図において、同一部分には同一符号を付している。
【0018】
実施の形態1.
はじめに、実施の形態1における燃料電池システム100の構成について、図1を参照して説明する。図1は、実施の形態1に係る燃料電池システム100の概略構成を示すブロック図である。
【0019】
[燃料電池システムの構成]
図1に示される燃料電池システム100は、主に、制御部101と、燃料電池ユニット110とを備えている。燃料電池システム100は、発電した電力を車両部200に供給する。燃料電池ユニット110には、コンプレッサ111と、水素タンク112と、水素供給弁113と、排気排水弁114と、ポンプ115と、燃料電池スタック116と、ラジエータ117と、DCDC変換部118と、蓄電装置119とが設けられている。
【0020】
制御部101は、燃料電池ユニット110の発電に関連する各種制御を行うと共に、補機の温度を推定する際の制御を行う。補機とは、主機である燃料電池スタック116を作動させるために最小限必要な補助機能をもつ機器のことである。この実施の形態において、補機は、排気排水弁114を意味するが、その他の各種のポンプ及びバルブ等も含まれる。
【0021】
コンプレッサ111は、制御部101に制御され、酸素を含む空気を燃料電池スタック116に供給する。水素タンク112は、水素供給弁113を通して、充填されている水素を燃料電池スタック116に供給する。水素供給弁113は、制御部101に制御され、水素タンク112から燃料電池スタック116に供給する水素ガス量を調整する。
【0022】
排気排水弁114は、排気と排水とを行うもので、燃料電池スタック116から排出されるアノードオフガスに含まれる水素と水とを分離して水を排出し、水素をポンプ115に供給する。ポンプ115は、排気排水弁114により分離された水素を、水素タンク112からの水素に合流させ、燃料電池スタック116に供給する。排気排水弁114は、燃料電池スタック116と熱的に結合された状態で接続されている。
【0023】
燃料電池スタック116は、複数個の発電する燃料電池セルが積層されたスタック構造により構成されている。燃料電池スタック116は、制御部101の制御に基づいて、水素供給弁113を介した水素タンク112からの水素とコンプレッサ111からの空気に含まれる酸素とにより発電を行う。燃料電池スタック116には、センサ116sが取り付けられている。センサ116sは、燃料電池スタック116の温度を検出し、検出した温度を制御部101に通知する。
【0024】
ラジエータ117は、燃料電池スタック116内の冷却媒体循環系を循環する冷却媒体により燃料電池スタック116で発生する熱を回収する。ラジエータ117には、冷却ファン117fが設けられている。ラジエータ117は、回収した熱を、冷却ファン117fの送風により、燃料電池ユニット110の外部に放出する。
【0025】
DCDC変換部118は、燃料電池スタック116の発電出力を一定の電圧に変換する。たとえば、DCDC変換部118は、燃料電池スタック116の出力側に取り付けられた電圧変換部であり、例えば、80ボルト程度の電圧を48ボルト又は12ボルト程度の電圧に変換して出力する。DCDC変換部118は、燃料電池スタック116から供給される電力の電圧と電流、すなわち発電量を制御部101に通知する。
【0026】
蓄電装置119は、DCDC変換部118から出力される電力を充電可能にDCDC変換部118と車両部200との間に接続されている。蓄電装置119は、負荷において瞬間的な大電流が流れる際には充電された電力を放出する。
【0027】
車両部200は、DCDC変換部118から供給される電力により駆動する。車両部200には、センサ200sが取り付けられている。センサ200sは、外気の温度を検出し、検出した温度を制御部101に通知する。
【0028】
[燃料電池ユニット110における各部の配置]
ここで、燃料電池ユニット110の構成及び部品配置について、図2を参照して説明する。図2は、実施の形態1に係る燃料電池ユニット110の各部の配置を示す説明図である。
【0029】
燃料電池ユニット110の外周面のうち1つの面には、ラジエータ117が配置されている。そして、ラジエータ117は、燃料電池スタック116から回収した熱を、冷却ファン117fの送風により、燃料電池ユニット110の外部に放出する。すなわち、ラジエータ117と冷却ファン117fとは、冷却部を構成している。なお、制御部101は、冷却ファン117fの回転数または風量により、冷却部の冷却量を検出する。
【0030】
冷却ファン117fの送風のため、燃料電池ユニット110の外周面のうち、ラジエータ117が配置された面以外のいずれか他の面に、空気を取り入れる開口部117aが設けられていてもよい。なお、空気を取り入れるため開口は、このような開口部117aでなくとも、空気が流入可能な部品の間の隙間であってもよい。
【0031】
図2に示される矢印は、ラジエータ117の冷却ファン117fにより生じる冷却風の流路を示している。排気排水弁114は、燃料電池ユニット110の内側であって、ラジエータ117の冷却ファン117fにより生成される冷却風の流路において、冷却ファン117fの上流に配置されている。
【0032】
燃料電池ユニット110の外周面のうち、ラジエータ117と開口部117a以外は、パネル部材で仕切られて覆われているか、または、燃料電池ユニット110を構成する各種の部品で仕切られて覆われている。すなわち、燃料電池ユニット110は、各種の部品を仕切りの内側に備えている。ここで、「パネル部材または各種の部品により覆われている」とは、パネル部材または各種の部品の間に多少の隙間が存在する状態も含んでいる。
【0033】
[補機の温度の推定]
次に、燃料電池ユニット110内の補機の温度を推定する方法について図3を参照して説明する。図3は、実施の形態1に係る燃料電池システム100の温度推定の様子を示す説明図である。
【0034】
ここで、温度推定の対象となる補機として、排気排水弁114を具体例にして説明を続ける。燃料電池ユニット110において、排気排水弁114の温度T2を測定するセンサと、燃料電池ユニット110内の温度を測定するセンサは、コストを理由にして設けられていない。
【0035】
一方、燃料電池スタック116に取り付けられたセンサ116sは、燃料電池スタック116の温度T1を検出し、検出した温度を制御部101に通知する。また、車両部200に設けられたセンサ200sは、外気の温度T3を検出し、検出した温度を制御部101に通知する。なお、外気の温度T3は、燃料電池ユニット110外の温度でもある。
【0036】
燃料電池ユニット110が一定時間以上にわたって非発電状態にあるとき、燃料電池スタック116の温度T1と、排気排水弁114の温度T2と、燃料電池ユニット110内の温度とは、センサ200sにより検知された外気の温度T3と等しくなる。
【0037】
燃料電池ユニット110が発電状態にあるとき、排気排水弁114は、熱的に結合された状態で接続された燃料電池スタック116から熱供給を受けるのに加え、燃料電池ユニット110から排出される高温の生成水により熱供給を受ける。すなわち、排気排水弁114の蓄熱量は増大し、温度が上昇しやすくなる。
一方、排気排水弁114は、ラジエータ117の冷却ファン117fによる燃料電池ユニット110内の換気により放熱され、温度が下がりやすくなる。すなわち、この蓄熱と放熱とのバランスにより、排気排水弁114の温度が変化する。
【0038】
そこで、燃料電池スタック116の温度T1と排気排水弁114の温度T2との温度差に対応する蓄熱に関する第1時定数τ1、排気排水弁114の温度T2と外気の温度T3との温度差に対応する放熱に関する第2時定数τ2とを定める。そして、排気排水弁114の温度変化dT2/dtを、
dT2/dt=(T1-T2)/τ1+(T2-T3)/τ2、と算出する。
この式において、第1時定数τ1と第2時定数τ2を以下のように定める。
【0039】
燃料電池ユニット110が発電中であれば、非発電時に滞留している生成水より高い温度の生成水が排気排水弁114に流入する。また、燃料電池スタック116の発電量が大きくなると、高い温度の生成水の水量が増える。このため、制御部101は、DCDC変換部118から通知を受けた発電量に応じて第1時定数τ1を変化させる。具体的には、制御部101は、燃料電池スタック116の発電量が大きいほど第1時定数τ1を小さくする。
【0040】
燃料電池ユニット110が発電中であってラジエータ117が動作中であれば、ラジエータ117の冷却ファン117fの回転数または風量に応じて冷却量が変化し排気排水弁114の放熱が進行する。このため、制御部101は、冷却ファン117fの回転数または風量に応じた冷却量を検出し、その検出した冷却量に応じて第2時定数τ2を変化させる。具体的には、ラジエータ117の冷却量が大きいほど第2時定数τ2を小さくする。ここで、制御部101は、ラジエータ117の冷却ファン117fの回転数を回転数検知手段によって検知してもよいし、冷却ファン117fに対する回転指示を利用して回転数を認識してもよい。
【0041】
ここで、排気排水弁114の温度変化dT2/dtの推定を開始する時点、すなわち、燃料電池システム100の始動時において、排気排水弁114の温度T2の初期値は、それまで燃料電池ユニット110が非発電状態にあれば、センサ200sにより検知された外気の温度T3と等しくなる。そして、排気排水弁114の温度変化dT2/dtの推定を続ける場合、温度変化dT2/dtによって排気排水弁114の温度T2を更新しながら実行すればよい。なお、排気排水弁114の温度T2の初期値は、以上の説明と異なる値を使用してもよい。
【0042】
なお、工場出荷時などにおいて、各種の条件を変更しながら燃料電池ユニット110を発電状態にして、排気排水弁114の温度を計測し、燃料電池スタック116の発電量と第1時定数τ1との関係、ラジエータ117による冷却量と第2時定数τ2との関係を予め決定しておく。これにより、制御部101は、動作状態に応じて、第1時定数τ1と第2時定数τ2を適切な値に設定することができる。
【0043】
以上のように、燃料電池ユニット110内にセンサを設けず、蓄熱と放熱の影響を考慮することで、排気排水弁114の温度変化を精度良く推定することが可能になる。以上の説明では、排気排水弁114の温度変化を推定しているが、他の補機についても同様に温度変化を推定することができる。
【0044】
[実施の形態により得られる効果]
本開示の実施の形態の温度推定方法によれば、冷却風の流路に配置された補機について、燃料電池スタック116の温度T1と排気排水弁114の温度T2との温度差に対応する蓄熱の第1時定数τ1、及び排気排水弁114の温度T2と燃料電池ユニット110外の温度T3との温度差に対応する放熱の第2時定数τ2に基づいて、燃料電池スタック116の発電量に応じてτ1を設定し、ラジエータ117の冷却量に応じてτ2を設定し、燃料電池スタック116からの蓄熱の影響と、ラジエータ117の冷却風による放熱の影響とに応じて、排気排水弁114の温度変化dT2/dtを推定することにより、燃料電池ユニット110内にセンサを設けることなく、排気排水弁114の温度を精度良く推定することができる。
【0045】
制御部101は、ラジエータ117の冷却量を検出し、検出した冷却量が大きいほど第2時定数τ2を小さく設定することにより、冷却による放熱の影響を適切に求めることができ、排気排水弁114の温度を精度良く推定することができる。
【0046】
排気排水弁114は、燃料電池スタック116と熱的に結合された状態で接続されており、制御部101は、燃料電池スタック116の発電量を検出し、検出した発電量が大きいほど、第1時定数τ1を小さく設定することにより、蓄熱の影響を適切に求めることができ、排気排水弁114の温度を精度良く推定することができる。
【0047】
ラジエータ117の冷却ファン117fにより燃料電池スタック116を冷却し、制御部101は、冷却ファン117fの回転数または風量に基づいて冷却量を検出することにより、冷却による放熱の影響を適切に求めることができ、排気排水弁114の温度を精度良く推定することができる。
【0048】
排気排水弁114は、冷却風の流れの流路においてラジエータ117の冷却ファン117fの上流側に配置されているため、冷却による放熱の影響を適切に求めることができ、排気排水弁114の温度を精度良く推定することができる。
【0049】
[その他の実施の形態]
上記の実施の形態において、産業車両などの車両部200適用される燃料電池システム100を一例に挙げたが、本開示の燃料電池システム100は産業車両に限らず、各種一般車両用、または、定置用など様々な用途に適用可能である。
【0050】
上記の実施の形態において、制御部101は、1つのECU(Engine Control UnitまたはElectronic Control Unit)により構成されてもよいし、機能別の複数のECUによって構成されてもよい。
【符号の説明】
【0051】
100 燃料電池システム、101 制御部、110 燃料電池ユニット、111 コンプレッサ、112 水素タンク、113 水素供給弁、114 排気排水弁(補機)、115 ポンプ、116 燃料電池スタック、116s センサ、117 ラジエータ(冷却部)、117f 冷却ファン(冷却部)、118 DCDC変換部、119 蓄電装置、200 車両部、200s センサ。
図1
図2
図3