(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】診断システム
(51)【国際特許分類】
B60R 16/04 20060101AFI20231213BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20231213BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20231213BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20231213BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20231213BHJP
B60L 58/20 20190101ALI20231213BHJP
B60L 58/12 20190101ALI20231213BHJP
B60L 58/16 20190101ALI20231213BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20231213BHJP
B60L 1/00 20060101ALI20231213BHJP
H01M 10/42 20060101ALI20231213BHJP
G01R 31/392 20190101ALI20231213BHJP
【FI】
B60R16/04 W
H02J7/00 P
H02J7/00 Y
H02J7/00 X
H01M10/48 P
H01M10/44 P
B60L50/60
B60L58/20
B60L58/12
B60L58/16
B60L3/00 S
B60L1/00 L
H01M10/42 P
G01R31/392
(21)【出願番号】P 2020124440
(22)【出願日】2020-07-21
【審査請求日】2023-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100183438
【氏名又は名称】内藤 泰史
(72)【発明者】
【氏名】矢口 優
(72)【発明者】
【氏名】児玉 良治
(72)【発明者】
【氏名】鴨宮 宗近
【審査官】池田 晃一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0217719(US,A1)
【文献】特開2017-227539(JP,A)
【文献】特開2006-304551(JP,A)
【文献】特開2020-11529(JP,A)
【文献】国際公開第2011/158381(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 16/02 ; 16/04
H02J 7/00
H01M 10/42 - 10/48
B60L 1/00 - 58/40
G01R 31/36 - 31/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動用バッテリ及び補機用バッテリとして機能する、互いに切り離し可能に構成された複数の二次電池について、SOCの値を取得する取得部と、
前記取得部によって取得されたSOCの値に基づき、前記複数の二次電池が、充放電制御により充放電曲線の微分曲線のピーク形状を取得できる状態であるか否かを判定し、該ピーク形状を取得できる状態である場合に、前記複数の二次電池に含まれる一部の二次電池が前記補機用バッテリとしてのみ機能するように、前記複数の二次電池の切り離し制御を行うバッテリ制御部と、
前記切り離し制御によって前記補機用バッテリとしてのみ機能することとなった前記一部の二次電池について、充放電制御により充放電曲線の微分曲線のピーク形状を取得し、該ピーク形状に基づき、前記複数の二次電池の劣化状態を推定する推定部と、を備える二次電池の診断システム。
【請求項2】
前記バッテリ制御部は、前記一部の二次電池が切り離されて前記補機用バッテリとしてのみ機能している状態において、前記一部の二次電池が、充放電制御により充放電曲線の微分曲線のピーク形状を取得できる状態でない場合には、前記一部の二次電池を、前記複数の二次電池に含まれる他の二次電池と統合し、前記複数の二次電池を前記駆動用バッテリ及び前記補機用バッテリとして機能させる、請求項1記載の診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の駆動用バッテリとして機能する二次電池の劣化状態を診断する手法として、二次電池の充放電曲線の微分特性を求め、該微分特性におけるピーク箇所の情報から、二次電池の劣化状態を表すSOH(State Of Health)を判定する手法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、駆動用バッテリ(二次電池)の劣化状態を高精度に推定するためには、充放電曲線の微分特性におけるピーク形状を高精度に取得する必要がある。微分曲線を取得するタイミングとしては、車両の走行時及び非走行時が考えられる。充放電制御を理由とした車両のデッドタイムを短縮する観点等からは、車両の走行時に微分曲線を取得することが好ましい。しかしながら、ピーク形状を高精度に取得するためには、低電流且つ定電流の状態で充放電制御を行う必要があるところ、駆動用バッテリの電力がドライバアクセル操作によって任意に変化する走行中においては、低電流且つ定電流の状態で充放電制御を行うことが困難である。このため、従来、走行中に駆動用バッテリの劣化状態を診断することは困難であった。
【0005】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、走行中に二次電池の劣化状態を適切に診断することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る診断システムは、車両の駆動用バッテリ及び補機用バッテリとして機能する、互いに切り離し可能に構成された複数の二次電池について、SOCの値を取得する取得部と、取得部によって取得されたSOCの値に基づき、複数の二次電池が、充放電制御により充放電曲線の微分曲線のピーク形状を取得できる状態であるか否かを判定し、該ピーク形状を取得できる状態である場合に、複数の二次電池に含まれる一部の二次電池が補機用バッテリとしてのみ機能するように、複数の二次電池の切り離し制御を行うバッテリ制御部と、切り離し制御によって補機用バッテリとしてのみ機能することとなった一部の二次電池について、充放電制御により充放電曲線の微分曲線のピーク形状を取得し、該ピーク形状に基づき、複数の二次電池の劣化状態を推定する推定部と、を備える。
【0007】
本発明の一態様に係る診断システムによれば、車両の駆動用バッテリ及び補機用バッテリとして機能している複数の二次電池が、微分曲線のピーク形状を取得できる状態であると判定された場合において、複数の二次電池に含まれる一部の二次電池が補機用バッテリとしてのみ機能するように、複数の二次電池の切り離し制御が行われる。そして、本診断システムでは、切り離されて補機用バッテリとしてのみ機能することとなった一部の二次電池について微分曲線のピーク形状が取得され、複数の二次電池の劣化状態が推定される。ピーク形状を高精度に取得するためには、低電流且つ定電流の状態で充放電制御を行う必要があるところ、駆動用バッテリの電力がドライバアクセル操作によって任意に変化する走行中においては、低電流且つ定電流の状態で充放電制御を行うことが困難である。この点、本発明の一態様に係る診断システムでは、通常時は駆動用バッテリ及び補機用バッテリを兼ねている二次電池の一部が、微分曲線のピーク形状を取得できる状態となった場合に、補機用バッテリとしてのみ機能する。補機用バッテリは、駆動用バッテリと異なり、補機が通常の動作を行った場合においても低電流且つ定電流の状態とし易い。定電流且つ定電流の状態とされた一部の二次電池についてピーク形状が取得されることによって、当該一部の二次電池の微分曲線のピーク形状を高精度に取得することができる。そして、一部の二次電池は、切り離し前において複数の二次電池に含まれており、複数の二次電池に含まれる他の二次電池と共に駆動用バッテリ及び補機用バッテリとして機能していたので、複数の二次電池に含まれる他の二次電池と劣化状態が同等であると考えられる。このため、一部の二次電池のピーク形状に基づき複数の二次電池の劣化状態が推定されることによって、複数の二次電池の劣化状態を高精度に推定することができる。以上のように、本発明の一態様に係る診断システムによれば、走行中に二次電池の劣化状態を適切に診断することができる。
【0008】
バッテリ制御部は、一部の二次電池が切り離されて補機用バッテリとしてのみ機能している状態において、一部の二次電池が、充放電制御により充放電曲線の微分曲線のピーク形状を取得できる状態でない場合には、一部の二次電池を、複数の二次電池に含まれる他の二次電池と統合し、複数の二次電池を駆動用バッテリ及び補機用バッテリとして機能させてもよい。このような構成によれば、劣化状態推定のために切り離されていた一部の二次電池がピーク形状を取得することができる状態でない(そのようなSOCの状態ではない)場合において、当該一部の二次電池を適切に他の二次電池と統合することができ、複数の二次電池が無意味に切り離された状態となることを抑制できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、走行中に二次電池の劣化状態を適切に診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】二次電池の診断システムの機能ブロック図である。
【
図3】二次電池の充放電曲線の一例を示す図である。
【
図4】二次電池の充放電曲線の微分特性の一例を示す図である。
【
図5】二次電池の統合及び分離を説明する回路図である。
【
図6】二次電池の統合及び分離を説明する回路図である。
【
図7】二次電池の統合及び分離を説明する回路図である。
【
図8】二次電池の統合及び分離を説明する回路図である。
【
図9】二次電池の統合及び分離を説明する回路図である。
【
図10】二次電池の統合及び分離を説明する回路図である。
【
図11】二次電池の統合及び分離を説明する回路図である。
【
図12】二次電池の診断処理(診断方法)を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して種々の実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を付すこととし、同一又は相当の部分に対する重複した説明は省略する。
【0012】
図1は、二次電池の診断システム10の機能ブロック図である。本実施形態における二次電池とは、例えば車載用のリチウムイオン電池であるが、その他の二次電池であってもよい。本実施形態における二次電池は、例えば車両の駆動用バッテリ及び補機用バッテリとして機能する(詳細は後述)。本実施形態では、二次電池が車両の駆動用バッテリ及び補機用バッテリとして機能するリチウムイオン電池であるとして説明する。より詳細には、二次電池は、例えば、グラファイト系負極を用いたリチウムイオン電池である。
【0013】
最初に、
図2~
図4も参照しながら、本実施形態に係る二次電池の診断システム10の概要について説明する。診断システム10は、例えば、駆動用バッテリ及び補機用バッテリとして機能する二次電池の状態推定・監視を行うBMS(Battery Management System)の機能を有している。診断システム10は、二次電池の内部状態を非破壊で推定するシステムであり、具体的には二次電池の残存容量を表すSOC(State Of Charge)の値を推定する。診断システム10は、二次電池の電流、電圧、及び表面温度に基づいて、周知の技術によりSOCの値を推定する。ここで、SOCの値を高精度に推定するためには、二次電池の劣化状態(SOH)が考慮されること(すなわち、SOCの値がSOHの値に基づき補正されること)が好ましい。診断システム10は、SOHの値を推定し、該SOHの値によりSOCの値を補正することにより、SOCの値を高精度に推定している。
【0014】
診断システム10は、充放電時において測定される二次電池の電流及び電圧に基づいて、二次電池の充放電曲線(
図3参照)を求め、更に、該充放電曲線の微分特性(微分曲線,
図4参照)を求め、該微分曲線に基づいて二次電池の劣化状態(SOH)を推定している。
【0015】
図3は、二次電池の充放電曲線の一例を示す図である。
図3に示されるように、充放電曲線は、横軸が容量(mAh)、縦軸が電圧(V)とされて、充電時及び放電時における二次電池の電流及び電圧に基づき導出される。
図4は、二次電池の充放電曲線の微分特性(微分曲線)の一例を示す図である。
図4に示されるように、微分曲線は、横軸が容量(SOC(%))、縦軸がdV/dQ(Vは電圧、Qは容量)とされて、充放電曲線に基づき導出される。
【0016】
図4に示されるように、微分曲線においては、充電及び放電共に、ピーク(曲線において局所的に凸形状となった部分)が生じている。すなわち、
図4の例では、充電曲線において2つのピークP1,P2、放電曲線において2つのピークP3,P4が生じている。このようなピークの情報(ピークの形状及び位置)は、二次電池の劣化状態を推定する上で重要な情報となる。
【0017】
診断システム10は、具体的には、二次電池の温度(詳細には内部温度)、劣化状態、及びCレートの組み合わせ毎に充放電曲線の微分曲線を記録した台上データ(
図2参照)を予め記憶しており、導出した微分曲線と台上データの微分曲線とを照合する(互いのピークの形状及び位置を比較する)ことにより、二次電池の劣化状態を導出する。すなわち、診断システム10は、台上データの中から、充放電制御に係る充放電条件である二次電池の温度及びCレートの情報が一致すると共に微分曲線におけるピークの情報が類似するデータを特定し、該データの劣化状態を、診断対象の二次電池の劣化状態とみなす。なお、Cレートとは、電池に対して充放電する時の電流の大きさであり、電流に基づき導出されるものである。Cレートは、充放電のスピードを示すものである。
【0018】
ここで、上述したような劣化状態を推定すべく、充放電曲線の微分曲線を取得する場合には、通常、車両の停止時に二次電池の充放電が行われる。劣化状態(SOH)を高精度に導出するためには、微分曲線のピークが適切な形状で取得される必要がある。この点、比較的高Cレート(すなわち高電流)で充放電を行った場合には二次電池の化学構造変化(内部構造変化)が急激に進行してしまい充放電曲線のデータサンプリング感度が不足しピークを適切な形状で取得することができないおそれがある。そのため、ピークの形状及び位置を適切に取得する観点から、比較的低Cレート(すなわち低電流)で充放電が行われる。このことにより、充放電に要する時間が長くなり、二次電池が車両の駆動用バッテリ及び補機用バッテリとして機能していない時間(デッドタイム)が長くなってしまうことが問題になる。
【0019】
デッドタイムを短縮する観点からは、充放電曲線の微分曲線を取得するための充放電制御を走行中に行うことが好ましい。しかしながら、微分曲線のピーク形状を高精度に取得するためには、低電流且つ定電流の状態で充放電制御を行う必要があるところ、駆動用バッテリの電力がドライバアクセル操作によって任意に変化する走行中においては、低電流且つ定電流の状態で充放電制御を行うことが困難である。このような理由から、従来、走行中に駆動用バッテリとして機能する二次電池の劣化状態を診断することは困難であった。
【0020】
診断システム10は、従来困難であった、走行中における二次電池(駆動用バッテリ)の劣化状態の適切な診断を実現するものである。上述したように、駆動用バッテリとして機能する二次電池については、走行中における電力の変化が激しいため、従来走行中において充放電制御を行うことが困難であった。この点、本発明者らは、補機用バッテリとして機能している状態においては、動作中であっても、低電流(低Cレート)且つ定電流の状態で二次電池の充放電制御を行えることができることに着目した。そして、本発明者らは、通常時は駆動用バッテリとしても機能する複数の二次電池の一部の二次電池について、他の二次電池から切り離して補機用バッテリとしてのみ機能させた状態で充放電制御を行いピーク形状を取得することにより、駆動用バッテリとして機能する二次電池の劣化状態を適切に推定することができることを見出した。
【0021】
すなわち、診断システム10では、車両の駆動用バッテリ及び補機用バッテリとして機能する、互いに切り離し可能に構成された複数の二次電池が用意されている。そして、診断システム10は、複数の二次電池についてSOCの値を取得し、複数の二次電池が、充放電制御により微分曲線のピーク形状を取得できる状態であるか(例えば、2つあるピークのうち、低SOC側のピーク形状を取得できる程度にSOCの値が小さいか)を判定し、ピーク形状を取得できる状態である場合に、複数の二次電池に含まれる一部の二次電池が補機用バッテリとしてのみ機能するように、複数の二次電池の切り離し制御を行い、補機用バッテリとしてのみ機能することとなった一部の二次電池について、充放電制御により微分曲線のピーク形状を取得し、該ピーク形状に基づき、複数の二次電池の劣化状態を推定する。
【0022】
以下では、
図1を参照し、二次電池の診断システム10の機能の詳細について説明する。
図1に示されるように、診断システム10は、記憶部11と、取得部12と、バッテリ制御部13と、SOH推定部14(推定部)と、を備えている。
【0023】
記憶部11は、二次電池の温度、劣化状態、及びCレートの組み合わせ毎の二次電池の充放電曲線の微分曲線が記録された台上データ(
図2参照)を記憶するデータベースである。このような台上データは、例えば電池の種類毎に予め準備されている。
【0024】
取得部12は、充電時又は放電時において検出される電流及び電圧の値を取得する。取得部12は、複数の二次電池22から構成されている電池モジュール2の電流センサ21から、各二次電池22に流れる電流値を取得する。また、取得部12は、電池モジュール2を構成する複数の二次電池22の端子間の電圧を測定する電圧センサから、各二次電池22に印可される電圧値を取得する。複数の二次電池22は、通常状態においては、統合されて、全体として1つの、駆動用バッテリ及び補機用バッテリとして機能している。そして、複数の二次電池22は、互いに切り離し可能に構成されている。すなわち、複数の二次電池22は、その一部のみを分離することが可能に構成されている(詳細は後述)。取得部12は、取得した電流及び電圧の値に応じて、複数の二次電池22についてSOCの値を推定する。取得部12は、従来より周知の技術を利用して、電流、電圧、及び二次電池22の表面温度等に基づいてSOCの値を推定する。以上のようにして、取得部12は、複数の二次電池22のSOCの値を取得する。
【0025】
取得部12は、また、二次電池22の充放電制御に係る充放電条件として、温度、劣化状態、及びCレートの情報を取得する。温度は、二次電池22の内部温度であり、例えば二次電池22の表面温度及び電池モジュール2の電流センサ21により検出される電流等に応じて導出される。劣化状態は、例えば車両の走行履歴から推定される二次電池22の劣化状態である。Cレートは、予め定められた値であってもよいし、電流センサ21により検出される電流に応じて導出されてもよい。
【0026】
バッテリ制御部13は、まず、取得部12によって取得されたSOCの値に基づき、複数の二次電池22が、充放電制御により充放電曲線の微分曲線のピーク形状を取得できる状態であるか否かを判定する。例えば、
図4に示されるような微分曲線の放電曲線におけるピークP3の形状(低SOC側のピークP3の形状)を取得したい場合においては、バッテリ制御部13は、記憶部11に記憶された台上データから、取得部12によって取得された充放電条件に合致する微分曲線(放電曲線)を特定すると共に、該放電曲線におけるピークP3に対応するSOCの値を特定する。そして、バッテリ制御部13は、取得部12によって取得されたSOCの値が、充放電条件に応じて特定されたSOCの値に近づいており(所定時間放電制御を行うことにより、SOCの値がピークP3に対応するSOCの値になる状態であり)ピークP3の形状を取得できる状態であるか否かを判定する。以下では、診断システム10が放電制御を行う例を説明する。
【0027】
バッテリ制御部13は、複数の二次電池22が微分曲線のピーク形状を取得できる状態であると判定した場合には、複数の二次電池22に含まれる一部の二次電池22が補機用バッテリとしてのみ機能するように、複数の二次電池22の切り離し制御を行う。すなわち、バッテリ制御部13は、通常状態においては全て統合されて車両の駆動用バッテリ及び補機用バッテリとして機能している複数の二次電池22について、ピーク形状を取得できる状態であると判定した場合には、その一部を切り離し、切り離した二次電池22を補機用バッテリとしてのみ機能させる。また、バッテリ制御部13は、一部の二次電池22が切り離されて補機用バッテリとして機能している状態において、一部の二次電池22が微分曲線のピーク形状を取得できる状態でない場合には、当該一部の二次電池22を、他の二次電池22と統合し、複数の二次電池22を駆動用バッテリ及び補機用バッテリとして機能させてもよい。
【0028】
二次電池22の統合及び分離について、
図5~
図11を参照して説明する。
図5~
図11は、二次電池22の統合及び分離を説明する回路図である。
図5~
図11においては、複数の二次電池22を、便宜的に主機バッテリ53又は補機バッテリ54と示す。主機バッテリ53及び補機バッテリ54が統合されている状態においては、これらは区別されることなく、いずれも駆動用バッテリ及び補機用バッテリとして機能する。一方で、主機バッテリ53及び補機バッテリ54が分離された状態においては、主機バッテリ53は駆動用バッテリとしてのみ機能し、補機バッテリ54は補機用バッテリとしてのみ機能する。説明の便宜上、
図5~
図11においては主機バッテリ53及び補機バッテリ54をそれぞれ1つのみ示している。
図5~
図11においては、モータ51、インバータ52、主機バッテリ53、補機バッテリ54、補機55、及びリレー91,91,92,92,93,93を含む回路(並列回路)が示されている。また、
図5~
図11には、非走行時において充電を行う際の外部充電器100が示されている。
【0029】
まず、バッテリ統合使用時(全ての二次電池22が駆動用バッテリ及び補機用バッテリとして機能する場合)においては、バッテリ制御部13は、主機バッテリ53及び補機バッテリ54が統合されて、主機バッテリ53及び補機バッテリ54が全体で1つのバッテリとしてモータ51及び補機55に電力を供給するように、主機バッテリ53及び補機バッテリ54間のリレー91,91をON状態にする(
図5参照)。
【0030】
また、バッテリ分離使用時(主機バッテリ53が駆動用バッテリとしてのみ機能し、補機バッテリ54が補機用バッテリとしてのみ機能する場合)においては、バッテリ制御部13は、主機バッテリ53及び補機バッテリ54が分離されて、主機バッテリ53がモータ51に電力を供給し補機バッテリ54が補機55に電力を供給するように、主機バッテリ53及び補機バッテリ54間のリレー91,91をOFF状態にする(
図6参照)。
図6に示される状態においては、主機バッテリ53からの電力はモータ51側にしか供給されず、補機バッテリ54からの電力は補機55側にしか供給されない。後述するように、この状態において補機バッテリ54について放電制御により放電曲線のピーク形状が取得される。なお、補機バッテリ54は、走行時の回生による充電は行わない。そのため、補機バッテリ54のSOCが0%となった場合には、補機55への電力供給は分離した主機バッテリ53側から行う。
【0031】
また、バッテリ統合時において外部充電器100から充電が行われる場合には、バッテリ制御部13は、バッテリ統合状態(リレー91,91がON状態とされた状態)からさらに、外部充電器100と補機バッテリ54とをつなぐリレー93,93をON状態にする(
図7参照)。なお、バッテリ制御部13は、リレー93,93ではなく、外部充電器100と主機バッテリ53とをつなぐリレー92,92をON状態にしてもよい。
【0032】
また、バッテリ分離時において外部充電器100から充電が行われる場合には、主機バッテリ53及び補機バッテリ54のうち、SOCが低下しているバッテリから先に充電されて、SOCの値が同程度となった後に併せて充電される。すなわち、例えばバッテリ分離時において補機バッテリ54のSOCが低下している場合には、バッテリ制御部13は、外部充電器100と補機バッテリ54とをつなぐリレー93,93をON状態にしてから(
図8参照)、補機バッテリ54のSOCの値が主機バッテリ53のSOCの値と同程度となった後において、主機バッテリ53及び補機バッテリ54間のリレー91,91をON状態にする(
図9参照)。また、例えばバッテリ分離時において主機バッテリ53のSOCが低下している場合には、バッテリ制御部13は、外部充電器100と主機バッテリ53とをつなぐリレー92,92をON状態にしてから(
図10参照)、主機バッテリ53のSOCの値が補機バッテリ54のSOCの値と同程度となった後において、主機バッテリ53及び補機バッテリ54間のリレー91,91をON状態にする(
図11参照)。
【0033】
SOH推定部14は、バッテリ制御部13による切り離し制御によって補機用バッテリとしてのみ機能することとなった二次電池22について、放電制御により放電曲線のピーク形状を取得し、該ピーク形状に基づき、複数の二次電池の劣化状態を推定する。具体的には、SOH推定部14は、記憶部11の台上データの中から、充放電条件である二次電池22の温度及びCレートの情報が一致すると共にピーク形状が類似するデータを特定し、該データの劣化状態を、補機用バッテリとしてのみ機能する二次電池22の劣化状態とみなす。そして、補機用バッテリとしてのみ機能する二次電池22も、分離前においては他の二次電池22(すなわち、駆動用バッテリとして機能する二次電池22)と一体的に電力を供給していたため、補機用バッテリとしてのみ機能する二次電池22の劣化状態は、駆動用バッテリとして機能する二次電池22の劣化状態と推定することができる。このように、SOH推定部14は、分離後に補機用バッテリとしてのみ機能する二次電池22の劣化状態を導出することにより、駆動用バッテリとして機能する二次電池22の劣化状態を推定する。
【0034】
次に、本実施形態に係る二次電池の診断処理(診断方法)について、
図12を参照して説明する。
図12は、二次電池の診断処理(診断方法)を示すフローチャートである。
【0035】
図12に示されるように、診断システム10では、最初に、車両の駆動用バッテリ及び補機用バッテリとして機能する互いに切り離し可能に構成された複数の二次電池22について、SOCの値が取得される(ステップS1)。
【0036】
そして、診断システム10では、取得されたSOCの値に基づき、複数の二次電池22が、放電制御により放電曲線の微分曲線のピーク形状を取得できる状態であるか否かが判定される(ステップS2)。ステップS2において取得可能でないと判定された場合には、以降の処理は実施されない(複数の二次電池は統合されたままとされる)。
【0037】
一方で、ステップS2において取得可能であると判定された場合には、診断システム10では、複数の二次電池22に含まれる一部の二次電池22が補機用バッテリとしてのみ機能するように、複数の二次電池22の分離(切り離し制御)が行われる(ステップS3)。
【0038】
そして、診断システム10では、補機バッテリ54として機能することとなった一部の二次電池22について、放電制御により放電曲線の微分曲線が導出される(ステップS4)。最後に、診断システム10では、導出した微分曲線のピーク形状が取得され、該ピーク形状に基づき、複数の二次電池22の劣化状態が推定される(ステップS5)。
【0039】
次に、本実施形態に係る二次電池の診断システム10の作用効果について説明する。
【0040】
本実施形態に係る二次電池の診断システム10は、車両の駆動用バッテリ及び補機用バッテリとして機能する、互いに切り離し可能に構成された複数の二次電池22について、SOCの値を取得する取得部12と、取得部12によって取得されたSOCの値に基づき、複数の二次電池22が、放電制御により放電曲線の微分曲線のピーク形状を取得できる状態であるか否かを判定し、該ピーク形状を取得できる状態である場合に、複数の二次電池22に含まれる一部の二次電池22が補機用バッテリとしてのみ機能するように、複数の二次電池22の切り離し制御を行うバッテリ制御部13と、切り離し制御によって補機用バッテリとしてのみ機能することとなった一部の二次電池22について、放電制御により放電曲線の微分曲線のピーク形状を取得し、該ピーク形状に基づき、複数の二次電池22の劣化状態を推定するSOH推定部14と、を備える。
【0041】
本実施形態に係る診断システム10によれば、車両の駆動用バッテリ及び補機用バッテリとして機能している複数の二次電池22が、微分曲線のピーク形状を取得できる状態であると判定された場合において、複数の二次電池22に含まれる一部の二次電池22が補機用バッテリとしてのみ機能するように、複数の二次電池22の切り離し制御が行われる。そして、本診断システム10では、切り離されて補機用バッテリとしてのみ機能することとなった一部の二次電池22について微分曲線のピーク形状が取得され、複数の二次電池22の劣化状態が推定される。ピーク形状を高精度に取得するためには、低電流且つ定電流の状態で放電制御を行う必要があるところ、駆動用バッテリの電力がドライバアクセル操作によって任意に変化する走行中においては、低電流且つ定電流の状態で放電制御を行うことが困難である。この点、本実施形態に係る診断システム10では、通常時は駆動用バッテリ及び補機用バッテリを兼ねている二次電池22の一部が、微分曲線のピーク形状を取得できる状態となった場合に、補機用バッテリとしてのみ機能する。補機用バッテリは、駆動用バッテリと異なり、補機が通常の動作を行った場合においても低電流且つ定電流の状態とし易い。定電流且つ定電流の状態とされた一部の二次電池22についてピーク形状が取得されることによって、当該一部の二次電池22の微分曲線のピーク形状を高精度に取得することができる。そして、一部の二次電池22は、切り離し前において複数の二次電池22に含まれており、複数の二次電池22に含まれる他の二次電池と共に駆動用バッテリ及び補機用バッテリとして機能していたので、複数の二次電池22に含まれる他の二次電池22と劣化状態が同等であると考えられる。このため、一部の二次電池22のピーク形状に基づき複数の二次電池22の劣化状態が推定されることによって、複数の二次電池22の劣化状態を高精度に推定することができる。以上のように、本実施形態に係る診断システム10によれば、走行中に二次電池22の劣化状態を適切に診断することができる。
【0042】
バッテリ制御部13は、一部の二次電池22が切り離されて補機用バッテリとしてのみ機能している状態において、一部の二次電池22が、放電制御により放電曲線の微分曲線のピーク形状を取得できる状態でない場合には、一部の二次電池22を、複数の二次電池22に含まれる他の二次電池22と統合し、複数の二次電池22を駆動用バッテリ及び補機用バッテリとして機能させてもよい。このような構成によれば、劣化状態推定のために切り離されていた一部の二次電池22がピーク形状を取得することができる状態でない(そのようなSOCの状態ではない)場合において、当該一部の二次電池22を適切に他の二次電池22と統合することができ、複数の二次電池22が無意味に切り離された状態となることを抑制できる。
【符号の説明】
【0043】
10…診断システム、12…取得部、13…バッテリ制御部、14…SOH推定部、22…二次電池。