(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】半導体発光装置
(51)【国際特許分類】
H01L 33/30 20100101AFI20231213BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
H01L33/30
H01L21/205
(21)【出願番号】P 2020153978
(22)【出願日】2020-09-14
【審査請求日】2022-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】菅原 秀人
(72)【発明者】
【氏名】鎌倉 孝信
【審査官】東松 修太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-167099(JP,A)
【文献】特開2002-335007(JP,A)
【文献】特開2004-281559(JP,A)
【文献】特開2012-160665(JP,A)
【文献】特開2017-054954(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00-33/64
H01S 5/00- 5/50
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式Al
XGa
1-XAs(0<X<1)で表される化合物半導体を含むn形の第1半導体層と、
組成式Al
YGa
1-YAs(0<Y<1)で表される化合物半導体を含むp形の第2半導体層と、
前記第1半導体層と前記第2半導体層との間に設けられた発光層と、
を備え、
前記第1半導体層は、n形の第1不純物を含み、前記第2半導体層は、p形の第2不純物を含み、
前記第1半導体層および前記第2半導体層は、それぞれ、炭素および酸素をさらに含み、
前記第1半導体層の炭素濃度は、前記第1半導体層の前記第1不純物の濃度よりも低く、
前記第2半導体層の炭素濃度は、前記第1半導体層の前記炭素濃度と略同一であり、
前記第2半導体層の前記第2不純物の濃度は、前記第2半導体層の前記炭素濃度よりも低
く、
前記第1半導体層の前記炭素濃度は、前記第1半導体層の前記酸素の濃度よりも高く、
前記第2半導体層の前記炭素濃度は、前記第2半導体層の前記酸素の濃度よりも高い半導体発光装置。
【請求項2】
前記第2半導体層の前記炭素濃度は、前記第1半導体層の前記炭素濃度よりも高く、
前記第2半導体層の前記酸素の濃度は、前記第1半導体層の前記酸素の濃度よりも高い請求項1記載の半導体発光装置。
【請求項3】
前記第1半導体層の前記炭素濃度及び前記第2半導体層の前記炭素濃度は、いずれも3.0×10
18cm
-3以下である請求項1または2に記載の半導体発光装置。」
【請求項4】
前記第1不純物は、シリコン(Si)もしくはゲルマニウム(Ge)である請求項1~3のいずれか1つに記載の半導体発光装置。
【請求項5】
前記第2不純物は、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)のいずれかである請求項1~4のいずれか1つに記載の半導体発光装置。
【請求項6】
前記発光層は、組成式In
ZGa
1-ZAs(0<Z<1)で表される化合物半導体を含む請求項1~5のいずれか1つに記載の半導体発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、半導体発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
AlGaAs系混晶半導体を材料とする半導体発光装置では、発光特性を向上させるために、AlGaAs中に含有される酸素(O)および炭素(C)を低減することが望ましいとされている。例えば、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)を用いてAlGaAs系混晶を成長する場合、AlGaAs中に取り込まれる酸素および炭素の量が少なくなる成長条件を選択する。しかしながら、半導体発光装置は、複数の組成の異なる半導体層を含み、各半導体層の成長条件は、結晶の品質向上および製造コストの低減の観点から見て、必ずしもAlGaAs中に取り込まれる酸素および炭素を少なくする条件に適合する訳ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
実施形態は、発光特性を向上させ、低コストで製造できる半導体発光装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係る半導体発光装置は、組成式AlXGa1-XAs(0<X<1)で表される化合物半導体を含むn形の第1半導体層と、組成式AlYGa1-YAs(0<Y<1)で表される化合物半導体を含むp形の第2半導体層と、前記第1半導体層と前記第2半導体層との間に設けられた発光層と、を備える。前記第1半導体層は、n形の第1不純物を含み、前記第2半導体層は、p形の第2不純物を含む。前記第1半導体層および前記第2半導体層は、それぞれ、炭素および酸素をさらに含み、前記第1半導体層の炭素濃度は、前記第1半導体層の前記第1不純物の濃度よりも低い。前記第2半導体層の炭素濃度は、前記第1半導体層の前記炭素濃度と略同一であり、前記第2半導体層の前記第2不純物の濃度は、前記第2半導体層の前記炭素濃度よりも低い。前記第1半導体層の前記炭素濃度は、前記第1半導体層の前記酸素の濃度よりも高い。前記第2半導体層の前記炭素濃度は、前記第2半導体層の前記酸素の濃度よりも高い。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】第1実施形態に係る半導体発光装置の模式断面図である。
【
図2】
図1に示す半導体層中の炭素および酸素の濃度プロファイルである。
【
図3】AlGaAs層における不純物濃度の成長温度依存性を示すグラフである。
【
図4】第2実施形態に係る半導体発光装置の半導体層における炭素および酸素の濃度プロファイルである。
【
図5】第3実施形態に係る半導体発光装置を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施の形態について図面を参照しながら説明する。図面中の同一部分には、同一番号を付してその詳しい説明は適宜省略し、異なる部分について説明する。なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
【0008】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る半導体発光装置1の模式断面図である。半導体発光装置1は、例えば、発光ダイオードである。なお、
図1では、n側電極およびp側電極を省略している。
【0009】
図1に示すように、半導体発光装置1は、n形の第1半導体層(以下、n形クラッド層102)と、発光層103と、p形の第2半導体層(以下、p形クラッド層104)と、を備える。発光層103は、n形クラッド層102とp形クラッド層104との間に設けられる。
【0010】
n形クラッド層102およびp形クラッド層104は、組成式AlXGa1-XAs(0<X<1)で表される化合物半導体(以下、AlGaAs)を含む。発光層103は、InZGa1-ZAs(0<Z<1)で表される化合物半導体(以下、InGaAs)を含む。
【0011】
n形クラッド層102、発光層103およびp形クラッド層104は、図示しない半導体基板、例えば、GaAsを含む化合物半導体基板(以下GaAs基板)上に、順に積層される。
【0012】
GaAs基板とn形クラッド層102との間には、n形バッファ層101が設けられる。n形バッファ層101は、GaAsを含む。さらに、p形クラッド層104上に、p形コンタクト層105が設けられる。
【0013】
n形バッファ層101およびn形クラッド層102は、n形不純物、例えば、シリコン(Si)またはゲルマニウム(Ge)を含む。p形クラッド層104およびp形コンタクト層105は、p形不純物、例えば、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)のいずれかを含む。
【0014】
図示しないp側電極およびn側電極の間に順方向電圧が印加された時、半導体発光装置1は、n形クラッド層102から発光層103に注入される電子と、p形クラッド層104から発光層103に注入される正孔と、の再結合により光を放射する。
【0015】
図1に示す各半導体層は、例えば、MOCVD法を用いて、図示しないGaAs基板上に形成される。MOCVDでは、III族元素を含む有機金属原料(以下、III族原料)と、V族元素を含む水素化物原料(V族原料)と、を用いる。III族原料は、例えば、トリメチルガリウム:(CH
3)
3Ga(以下、TMG)、トリメチルアルミニウム:(CH
3)
3Al(以下、TMA)である。V族原料は、例えば、アルシン(AsH
3)である。
【0016】
MOCVD法を用いて化合物半導体結晶を成長する過程においては、有機金属から結晶内への炭素(C)の取り込みが起こることが知られている。例えば、原料ガスとして供給されるTMGが熱分解を起こしてCH3が発生し、そのほとんどはV族原料の熱分解によるHと結びつくことで安定なメタン(CH4)を形成し、成長結晶外に排除される。しかしながら、Gaと水素(H)との結合が切れずに共に結晶内に取り込まれるメチル基(CH3)も含まれる。これが残留不純物となって、結晶中のC濃度を決めることになる。このように、成長結晶内へのCの取り込みにはIII族原料の量、V族原料の量および反応時の熱量などが関係する。
【0017】
例えば、AlGaAs系混晶中のC濃度は、III族原料の量(成長速度)、V族原料の量(III族原料の量との関係においてV/III比で表されるMOCVD法の基本条件の一つ)、成長温度、Al混晶比(結晶中のAl量)、基板面方位(成長する基板結晶)などのパラメータに依存する。例えば、Van Deelen, 他、Parameter study of intrinsic carbon doping of AlXGa1-XAs by MOCVD. Journal of Crystal Growth, 271 (3-4), pp. 376-384. (2004))を参照。
【0018】
炭素(C)は、III‐V族化合物半導体におけるアクセプタとなり得る不純物である。例えば、結晶中の炭素濃度を極力下げることにより、意図的ドーピングされる他の不純物による導電性制御が可能となる。このため、上記の各パラメータは、通常、C濃度が低くなるように設定される。
【0019】
さらに、上記の原料や本原料を、プロセス加工点に供給するためのキャリアガス中には、その精製過程では除去しきれない微量の酸素(O)が含まれている。このため、MOCVD成長では、成長結晶内への酸素(O)取り込みも問題となる。特に、酸素(O)との結合が強いアルミニウム(Al)を含むAlGaAs系混晶では取り込みが多くなる。したがって、成長条件の選択により、酸素(O)の取り込みを抑制する手法もとられる。
【0020】
しかしながら、半導体発光装置の生産性の観点から見ると、C濃度およびO濃度を下げるように上記パラメータを選択することが望ましい訳ではない。例えば、MOCVD法では、III族原料に対してV族原料を多く供給する非平衡状態における成長を特徴としている。このため、結晶に取り込まれるV族元素に対して、結晶成長に寄与しないV族原料も存在し、原料効率が低くなる。そこで、生産性の観点からは、V族原料の無効率を減らすために、V族原料の供給量を減らすこと、つまりV/III比を低くすることが求められる。その結果、メタン(CH4)として排出される炭素が減少し、結晶内のC濃度が高くなってしまう。
【0021】
また、半導体発光装置のクラッド層として用いられるAlXGa1-XAs混晶は、発光層のキャリア閉じ込めを有効にするために、バンドギャップを大きくすること、つまり、Alの組成比Xを大きくすることが求められる。Al原料のTMAでは、AlとCH3との結合が比較的強い。また、Alと酸素(O)との結合が強い。このため、Alは、これら不純物元素を結晶内に多く引き込んでしまう性質を持っている。
【0022】
さらに、発光層にInGaAs系混晶を用いる場合には、その成長温度の適正値はAlGaAs混晶のそれよりも低い。例えば、発光層およびクラッド層の成長を連続的に実施する場合、発光特性を左右する活性層に適した条件を選択する。このため、AlGaAs混晶の成長温度は、その適正値よりも低くなってしまう。これも、結晶中の炭素(C)および酸素(O)の濃度を高くする原因となる。このように、AlGaAs系混晶中への炭素(C)および酸素(O)の取り込みは、半導体発光装置の生産性や構造設計の観点と、各半導体層における導電性の制御やデバイス特性の観点と、の間において背反事項であり、適宜バランスをとって設計されるべきものとされていた。
【0023】
これに対し、本願発明者による鋭意実験によれば、1)炭素(C)は、結晶内のV族サイトに位置し、比較的蒸気圧が高いV族の空孔を埋めること、2)酸素(O)が存在することにより形成される深い準位のドナーを補償すること、3)酸素OもV族サイトに位置するため、炭素(C)の存在が、酸素(O)の取り込みを抑制し、結晶全体の原子配列の緻密性を向上させ、導電性の制御においても有益であることがわかった。すなわち、結晶中の炭素(C)を酸素(O)よりも高濃度とすることにより、AlGaAs混晶の結晶品質を高くできることがわかった。
【0024】
実施形態に係る半導体発光装置1は、AlGaAs系混晶を含むn形クラッド層102およびp形クラッド層104を有し、その製造過程において、AlGaAs層の結晶品質を向上するために、酸素(O)および炭素(C)が結晶内に取り込まれる結晶成長条件を採用する。これにより、半導体発光装置1では、炭素(C)を高濃度に含有するn形クラッド層102およびp形クラッド層104を有しながらも、発光特性および信頼性を向上させることができる。
【0025】
図1に示すn形クラッド層102およびp形クラッド層104は、例えば、Al混晶比0.5(X=0.5)を有するAlGaAsを含む。また、n形クラッド層102は、n形不純物としてシリコン(Si)を含み、p形クラッド層104は、p形不純物として亜鉛(Zn)を含む。これらの不純物は、MOCVDによる結晶成長過程において、導電制御のためにドーピングされる。
【0026】
MOCVDの成長パラメータは以下の通りである。
成長温度:720℃
成長速度:3μm/h
V/III比:20
ここで、発光層103と、各クラッド層と、の間の界面の急峻性を保つために、n形クラッド層102、発光層103およびp形クラッド層104は、各層間における温度変更などによる成長中断を伴うことなく、連続的に成長される。
【0027】
図2(a)および(b)は、
図1に示す半導体層中の炭素および酸素の濃度プロファイルである。
図2(a)および(b)は、SIMS(Secondary Ion Mass Spectroscopy)分析による炭素濃度プロファイルおよび酸素濃度プロファイルをそれぞれ示している。横軸は、p形コンタクト層105の表面からの深さ(μm)であり、縦軸は、炭素および酸素濃度(cm
-3)である。
【0028】
図2(a)に示すように、n形クラッド層102およびp形クラッド層104の炭素濃度は、共に、7×10
17cm
-3である。すなわち、n形クラッド層102およびp形クラッド層104の炭素濃度は、略同一である。
図2(b)に示すように、n形クラッド層102およびp形クラッド層104の酸素濃度は、共に1×10
16cm
-3である。n形クラッド層102およびp形クラッド層104の酸素濃度も略同一である。
【0029】
ここで、「略同一」とは、例えば、濃度プロファイルの測定の誤差範囲で、各元素の濃度が重なり合うことを言う。例えば、SIMS分析による濃度は、標準偏差10%程度の相対誤差を含むことが知られている。
【0030】
このように、実施形態に係る結晶成長条件では、AlGaAs中に炭素(C)および酸素(O)が共に含有され、その濃度はCが優位に高いことがわかる。これにより、V族空孔対して、炭素(C)および酸素(O)が高い比率で配置されていること、および、酸素(O)の深い準位ドナーを炭素(C)のアクセプタが補償していることが推測される。
【0031】
n形クラッド層102の導電性を制御するために、炭素(C)および酸素(O)の不純物濃度に対し、濃度2.3×1018cm-3のシリコン(Si)がドーピングされる。また、p形クラッド層104の導電性制御のために、濃度3.0×1017cm-3の亜鉛(Zn)がドーピングされる。n形クラッド層102では、シリコン濃度を炭素濃度よりも高く設定することにより、意図的にドーピングされた不純物により導電性を制御する。
【0032】
図3は、AlGaAsの不純物濃度の成長温度依存性を示すグラフである。
図3には、n形クラッド層102における不純物濃度、実効ドナー濃度の成長温度依存性を示している。横軸は、成長温度Tg(℃)であり、縦軸は、濃度(cm
-3)である。なお、シリコン(Si)原料の供給量は一定である。また、結晶中のシリコン原子および炭素原子の全てがドナーおよびアクセプタとして働く訳ではないことに留意すべきである。
【0033】
図3に示すように、成長温度Tgが高くなると、シリコン濃度は上昇し、炭素濃度は低下する。結晶中の実効ドナー濃度は、シリコンのドナー濃度と、炭素のアクセプタ濃度と、の関係で決まる。例えば、成長温度Tg=720℃では、シリコン濃度は2.3×10
18cm
-3であり、炭素濃度は7.0×10
17cm
-3である。シリコン濃度の方が炭素濃度よりも高いことから、この時の実効ドナー濃度は、シリコン濃度優位であり、1.6×10
18cm
-3のn形となる。また、成長温度Tg=680℃では、炭素濃度は2.0×10
18cm
-3であり、シリコン濃度よりも高くなる。このため、アクセプタが優位となり、結晶の導電性はp形に逆転する。このように、成長温度Tgに依存する炭素濃度に対して、結晶が所望の導電性を有するように、シリコンを意図的にドーピングする。
【0034】
実施形態に係る半導体層の構造が従来と異なる点は、n形クラッド層102およびp形クラッド層104が酸素(O)と炭素(C)を含有し、炭素濃度が比較的高く、且つn形クラッド層102およびp形クラッド層104の中において、略同一の濃度である点にある。すなわち、上述したように、結晶内の炭素濃度を比較的高いレベルにすることにより、n形クラッド層102およびp形クラッド層104のV族空孔を埋めることが可能となり、且つ、酸素濃度を抑制することが可能となり、結晶品質を向上させることができる。
【0035】
なお、MOCVDを用いた結晶成長は、結晶成長室における真空度を一定のレベル以下の高真空とし、原料ガスの純度を一定レベル以上の高純度とすることにより、結晶中への酸素の取り込みを抑制することを前提として実施される。本実施形態によれば、そのような条件下においても結晶中に取り込まれる酸素濃度を、結晶成長条件により最適化することができる。
【0036】
実施形態に係る半導体発光装置1では、例えば、V族空孔を低減することができ、酸素原子により生じる深い準位を低減することができる。これにより、深い準位を介した非発光再結合を抑制し、発光特性を向上させることができる。さらに、V族空孔を抑制することにより、n形クラッド層102のシリコン、および、p形クラッド層104の亜鉛の発光層103への拡散を防ぐことができる。これにより、両クラッド層と発光層との界面の急峻性を確保し、優れたデバイス特性を引き出すことも可能となる。
【0037】
本実施形態に係る格子不整合系ヘテロ構造(AlGaAs/InGaAs/AlGaAs)において、AlGaAs中の酸素の存在は、結晶硬度にも影響を与える。例えば、酸素濃度を低減することにより、結晶硬度を低下させ、結晶歪に対する耐性を向上させることができる。また、AlGaAs中の酸素濃度の抑制は発光層103に加わる歪の抑制にもつながり、優れたデバイス特性を与える一因ともなる。
【0038】
(第2実施形態)
図4(a)および(b)は、第2実施形態に係る半導体発光装置の半導体層における炭素および酸素の濃度プロファイルである。
図4(a)および(b)は、SIMS分析による炭素濃度プロファイルおよび酸素濃度プロファイルをそれぞれ示している。横軸は、p形コンタクト層105の表面からの深さ(μm)であり、縦軸は、炭素および酸素濃度(cm
-3)である。
【0039】
この例では、成長温度Tgを680℃として、MOCVDにより結晶成長する。成長温度Tgを720℃から680℃に下げることは、発光層103のInGaAsの結晶性を向上させる上で優位である。これにより、発光特性を向上させることが可能となる。
【0040】
図4(a)および(b)に示すように、成長温度Tgを低下させたことにより、炭素濃度は、2.0×10
18cm
-3となり、酸素濃度は、3.5×10
16cm
-3となる。炭素濃度および酸素濃度は、共に上昇している。これは、温度Tgの低下により、第1実施形態に比べて成長III族原料のCH
3の乖離が進まなくなり、熱分解温度が比較的高いTMAからの炭素(C)の取り込みが多くなったこと、また、結晶表面に付着した酸素の脱離が抑制されためと考えられる。これに伴い、意図的にドーピングされる不純物シリコン(Si)および亜鉛(Zn)の濃度は、それぞれ、3.0×10
18cm
-3および7.0×10
17cm
-3である。n形クラッド層102では、その導電性を制御するためにシリコンのドーピング量を増している。
【0041】
図4(a)に示すように、炭素濃度は、n形クラッド層102およびp形クラッド層104において、2.0×10
18cm
-3程度である。例えば、発光層103の近傍において、n形クラッド層102の炭素濃度は、p形クラッド層104の炭素濃度と略同一である。この例でも、炭素原子はV族空孔を埋めて結晶全体として有益に働いている。本実施形態に係る半導体発光装置は、半導体発光装置1と同等の特性を示した。
【0042】
例えば、p形クラッド層104のp形不純物として拡散係数の大きい亜鉛(Zn)を意図的にドーピングする場合、Zn濃度が1.0×1018cm-3を超えると、その拡散が顕著になる。これにより、p形クラッド層104と発光層103との界面や、発光層103のInGaAsの結晶性を劣化させ、半導体発光装置の特性を劣化させる。そこで、所望のアクセプタ濃度を得るために、成長温度Tgをさらに下げて、炭素濃度をより高濃度にするとしても、成長温度Tgに起因した結晶性の劣化を伴うことになるので、成長温度Tgにも下限がある。このため、結晶中の炭素濃度には、成長温度Tgの下限に対応した上限値が存在し、例えば、3.0×1018cm-3以下とすることが好ましい。これにより、所望のアクセプタ濃度を得つつ、結晶性の劣化を抑制できる最適な条件を見出すことができる。
【0043】
なお、実施形態は上記の例に限定されるものではなく、例えば、炭素濃度は、n形クラッド層102およびp形クラッド層104において略同一であり、3.0×1018cm-3以下であればよい。
【0044】
また、炭素濃度に影響を与える各成長パラメータは、さまざまに変形して適用されてもよい。例えば、n形クラッド層102およびp形クラッド層104の成長条件を適宜変更することも可能である。
【0045】
例えば、n形クラッド層102の成長温度Tgをp形クラッド層104の成長温度Tgよりも高くすることにより、n形クラッド層102の結晶性を良くすることができる。これにより、n形クラッド層102の上に成長される発光層103の結晶性も良くなる。この場合、p形クラッド層104の炭素濃度および酸素濃度は、n形クラッド層102の炭素濃度および酸素濃度よりも高くなる。
【0046】
n形クラッド層102およびp形クラッド層104には、それぞれの所望のキャリア濃度を得るために、n形ドーパントであるケイ素(Si)およびp形ドーパントである亜鉛(Zn)がドーピングされる。n形クラッド層102におけるSiのドーピングレベルおよびp形クラッド層104におけるZnのドーピングレベルは、炭素濃度および酸素濃度よりも高く設定されることが一般的である。このため、p形クラッド層104にドーピングされたZnが発光層103へ拡散し、発光特性を劣化させる場合がある。これに対し、pクラッド層104の炭素濃度をn形クラッド層102の炭素濃度よりも高くすることにより、発光層103へのZnの拡散を抑制することが好ましい。
【0047】
逆に、p形クラッド層104の成長温度Tgをn形クラッド層102の成長温度Tgよりも高くすることも可能である。この場合、n形クラッド層102の炭素濃度および酸素濃度は、p形クラッド層104の炭素濃度および酸素濃度よりも高くなる。このような濃度制御は、半導体発光素子の駆動電流密度が低く、Zn拡散が生じ難い場合に有効である。
【0048】
上記のいずれの場合においても、n形クラッド層102およびp形クラッド層104のそれぞれにおける炭素濃度と酸素濃度の相対比率が同じであることが好ましい。
【0049】
(第3実施形態)
図5は、第3実施形態に係る半導体発光装置2を示す模式断面図である。半導体発光装置2は、第1および第2実施形態に記載した半導体層(101~105)を備える。
【0050】
半導体発光装置2は、n形GaAs基板501と、n側電極502と、p側電極503と、をさらに備える。
【0051】
n形GaAs基板501は、例えば、MOCVDを用いて、n形バッファ層101、n形クラッド層102、発光層103、p形クラッド層104およびp形コンタクト層105を順にエピタキシャル成長するために用いられる。
【0052】
n側電極502およびp側電極503は、その間に順バイアスを印加し、駆動電流を流すことにより、半導体発光装置2を発光させるために用いられる。
【0053】
p側電極503は、p形コンタクト層105の全面に形成される。このため、駆動電流は、p型電極503からp形コンタクト層105の全面に均一に注入される。したがって、発光層103における発光は均一になる。
【0054】
発光層103は、例えば、組成式In
0.2Ga
0.8Asで表される化合物半導体混晶を含み、例えば、950nmの中心波長を有する光を放射する。発光層103から放射される光は、その下面および上面の両方から放射される。下面から放射される光は、n形GaAs基板501を透して外部に取り出される。一方、上面から放射される光は、p形コンタクト層105とp側電極503との界面において反射され、下方に向きを変えて伝播し、n形GaAs基板501を透して外部に取り出される。つまり、半導体発光装置2は、下面側から光を取り出す裏面発光型デバイスである。なお、
図5中に示す矢印は、発光層103から放射される光の伝播経路を表している。
【0055】
なお、n形GaAs基板501、n形バッファ層101およびp形コンタクト層105にドーピングされる不純物の種類および濃度は、以下の通りである。
n形GaAs基板501:シリコン(Si)、1.0×1018cm-3
n形GaAsバッファ層101:シリコン(Si)、8.0×1017cm-3
p形GaAsコンタクト層105:亜鉛(Zn)、2.0×1018cm-3
なお、これらの3層における炭素および酸素濃度は、例えば、SIMS分析における検出限界以下である。すなわち、実施形態に係る半導体装置1および2では、炭素(C)および酸素(O)は、比較的Al組成の高い発光領域に存在する。
【0056】
第1実施形態において説明したように、n形AlGaAsクラッド層102のSi濃度は、2.3×1018cm-3であり、他層よりも高い。これは、n形AlGaAsクラッド層102に含まれる炭素(C)の濃度が比較的高いためである。
【0057】
実施形態に係る半導体発光装置2を、例えば、受光素子とともにフォトカプラに搭載する場合には、p側電極503およびn側電極502のそれぞれに、ボンディングワイヤー(図示しない)が接続される。また、半導体発光装置2は、例えば、樹脂部材(図示しない)によって覆われる。
【0058】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0059】
1、2…半導体発光装置、 101…n形バッファ層、 102…n形クラッド層、 103…発光層、 104…p形クラッド層、 105…p形コンタクト層、 501…n形GaAs基板、 502…n側電極、 503…p側電極、 Tg…成長温度