(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】処理炉
(51)【国際特許分類】
F27B 9/24 20060101AFI20231213BHJP
B29B 13/02 20060101ALI20231213BHJP
B29C 31/00 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
F27B9/24 Z
B29B13/02
B29C31/00
(21)【出願番号】P 2020166151
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2022-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】小牧 毅史
(72)【発明者】
【氏名】福重 耕平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 努
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/163175(WO,A1)
【文献】特公昭51-027136(JP,B1)
【文献】特開2004-315119(JP,A)
【文献】実開平06-036837(JP,U)
【文献】特開平06-263294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 9/00- 9/40
B29C 35/00-35/18
B29C 71/00-71/04
B65H 19/00-19/30
C08J 7/00
C21D 9/48- 9/56
F26B 13/00-25/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬入口と、搬出口と、前記搬入口と前記搬出口との間に配置された処理室と、を備える炉体と、
前記炉体の外側であって前記搬入口の近傍に配置され、被処理物が巻回された搬入口ローラと、
前記処理室内に配置されており、前記被処理物を案内する複数の案内ローラと、
前記炉体の外側であって前記搬出口の近傍に配置され、前記処理室内を搬送された前記被処理物を巻き取る搬出口ローラと、
前記搬入口ローラに巻回された前記被処理物を、前記搬入口から前記複数の案内ローラを介して前記搬出口まで架け渡す通し装置と、
前記搬入口ローラの回転を制御する制御装置と、
を備えており、
前記搬入口ローラに巻回された前記被処理物の先端が前記搬出口ローラに取付けられた状態では、前記被処理物は、前記複数の案内ローラによって規定される第1の搬送経路を通って前記搬入口から前記搬出口まで搬送され、
前記通し装置は、
前記搬入口ローラに巻回された前記被処理物の先端が着脱可能に取付けられる取付部材と、
前記取付部材を予め設定された第2の搬送経路に沿って移動させる移動装置と、
を備えており、
前記第2の搬送経路は、前記取付部材に取付けられた前記被処理物が前記複数の案内ローラに架け渡されるように、前記第1の搬送経路に沿って設定されており、
前記処理室内においては、前記第2の搬送経路の長さは、前記第1の搬送経路の長さよりも長くされており、
前記制御装置は、前記移動装置により前記取付部材を前記第2の搬送経路に沿って移動させて前記搬入口ローラに巻回された前記被処理物を前記複数の案内ローラに架け渡す場合において、前記取付部材の前記第2の搬送経路上の位置が隣接する前記案内ローラに架け渡された前記被処理物にたわみが生じる位置にあるときは、前記搬入口ローラから前記被処理物が送られないように前記搬入口ローラの回転を停止させ、
前記制御装置は、前記複数の案内ローラの回転をさらに制御し、
前記炉体は、前記搬入口と前記搬出口とを結ぶ第1方向に対して平行に配置された第1の壁と、前記第1方向に対して平行に配置されると共に前記第1の壁と対向する第2の壁を備えており、
前記複数の案内ローラは、
前記処理室の中心から見て前記第1の壁側となる位置において、前記第1方向に間隔を空けて配置される1又は複数の第1の案内ローラと、
前記処理室の中心から見て前記第2の壁側となる位置において、前記第1方向に間隔を空けて配置される1又は複数の第2の案内ローラと、
を備えており、
前記搬入口から搬送される前記被処理物は、前記第1の案内ローラと前記第2の案内ローラの一方に最初に架け渡された後、前記第1の案内ローラと前記第2の案内ローラとに交互に架け渡されて前記搬出口まで架け渡されており、
前記移動装置により前記取付部材を前記第2の搬送経路に沿って移動させて前記搬入口ローラに巻回された前記被処理物を前記複数の案内ローラに架け渡す場合において、前記制御装置は、前記第1の案内ローラと前記第2の案内ローラの一方に発生するトルクが一定となるように回転を制御し、前記第1の案内ローラと前記第2の案内ローラの他方は等速度で回転するように制御する、処理炉。
【請求項2】
前記制御装置は、前記移動装置により前記取付部材を前記第2の搬送経路に沿って移動させて前記搬入口ローラに巻回された前記被処理物を前記複数の案内ローラに架け渡す場合において、前記取付部材の前記第2の搬送経路上の位置が隣接する前記案内ローラに架け渡された前記被処理物に生じたたわみが解消される位置にあるときは、前記搬入口ローラから前記被処理物が送られるように前記搬入口ローラを回転させる、請求項1に記載の処理炉。
【請求項3】
前記移動装置は、
前記取付部材が着脱可能に取付けられ、
前記第2の搬送経路に沿って設けられ、前記搬入口から前記処理室を通って前記搬出口まで伸びると共に、前記炉体の外部または内部を通って前記搬出口から前記搬入口まで戻るローラチェーンと、
前記ローラチェーンを駆動する駆動モータと、を備えている、請求項1又は2に記載の処理炉。
【請求項4】
前記処理室内であって前記第1の搬送経路に沿って配置され、
前記搬入口ローラと前記複数の案内ローラと前記搬出口ローラによって搬送される前記被処理物を加熱する複数のヒータをさらに備えており、
前記複数のヒータによって前記処理室内が所定の加熱雰囲気とされている状態において、前記通し装置は、前記搬入口ローラに巻回された前記被処理物を、前記搬入口から前記複数の案内ローラを介して前記搬出口まで架け渡すことが可能となっている、請求項1~3のいずれか一項に記載の処理炉。
【請求項5】
前記所定の加熱雰囲気においては、前記処理室内の温度が0~400℃以下となっている、請求項4に記載の処理炉。
【請求項6】
前記処理室内に気体を供給する給気装置と、前記処理室内の前記気体を排気する排気装置と、をさらに備えており、
前記給気装置及び前記排気装置によって前記処理室内が所定の雰囲気とされている状態において、前記通し装置は、前記搬入口ローラに巻回された前記被処理物を、前記搬入口から前記複数の案内ローラを介して前記搬出口まで架け渡すことが可能となっている、請求項1~5のいずれか一項に記載の処理炉。
【請求項7】
前記所定の雰囲気においては、前記処理室内の酸素濃度が10%以下となっている、請求項4に記載の処理炉。
【請求項8】
前記所定の雰囲気においては、前記処理室内の露点が0℃以下となっている、請求項4に記載の処理炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する技術は、搬入口から処理室を通って搬出口まで架け渡される被処理物を処理する処理炉に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示される処理炉では、被処理物は、搬入口から処理室内に搬入され、処理室内を搬送されている間に処理(例えば、乾燥処理等)が行われ、搬出口から炉外に搬出される。したがって、被処理物の処理時間は、被処理物が処理室内を搬送されている時間となる。特許文献1の処理炉では、処理室内のスペースを有効活用するために、処理室内には複数の案内ローラが設置される。被処理物は、搬入口から複数の案内ローラを介して搬出口まで架け渡され、処理室内を複数の案内ローラによって規定される搬送経路を通って搬送される。処理室内に複数の案内ローラを設けることで搬送経路が長くなり、これによって必要な処理時間が確保されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
上記の処理炉では、被処理物の処理を開始する前の準備作業として、搬入口ローラに巻回されている被処理物を搬入口を通って処理室内に導入し、処理室内から搬出口を通って炉外の搬出口ローラに取付けなければならない。一方、処理炉の処理室内には、被処理物の処理時間を長くするために複数の案内ローラが設置され、これら複数の搬送ローラによって複雑な搬送経路が形成されている。このため、準備作業を行う際は、処理室内に導入した被処理物を、複数の案内ローラに順に架け渡しながら搬出口まで複雑な搬送経路を通って導かなければならず、処理開始前の準備作業が煩雑となっていた。本明細書は、被処理物の処理を開始する前の準備作業を簡便化することができる技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書に開示する処理炉は、搬入口と、搬出口と、搬入口と搬出口との間に配置された処理室と、を備える炉体と、炉体の外側であって搬入口の近傍に配置され、被処理物が巻回された搬入口ローラと、処理室内に配置され、被処理物を案内する複数の案内ローラと、炉体の外側であって搬出口の近傍に配置され、処理室内を搬送された被処理物を巻き取る搬出口ローラと、搬入口ローラに巻回された被処理物を、搬入口から複数の案内ローラを介して搬出口まで架け渡す通し装置と、搬入口ローラの回転を制御する制御装置と、を備えている。搬入口ローラに巻回された被処理物の先端が搬出口ローラに取付けられた状態では、被処理物は、複数の案内ローラによって規定される第1の搬送経路を通って搬入口から搬出口まで搬送される。通し装置は、搬入口ローラに巻回された被処理物の先端が着脱可能に取付けられる取付部材と、取付部材を予め設定された第2の搬送経路に沿って移動させる移動装置と、を備えている。第2の搬送経路は、取付部材に取付けられた被処理物が複数の案内ローラに架け渡されるように、第1の搬送経路に沿って設定されている。処理室内においては、第2の搬送経路の長さは、第1の搬送経路の長さよりも長くされている。制御装置は、移動装置により取付部材を第2の搬送経路に沿って移動させて搬入口ローラに巻回された被処理物を複数の案内ローラに架け渡す場合において、取付部材の第2の搬送経路上の位置が隣接する案内ローラに架け渡された被処理物にたわみが生じる位置にあるときは、搬入口ローラから被処理物が送られないように搬入口ローラの回転を停止させる。
【0006】
上記の処理炉では、処理開始前の準備作業を行う際は、通し装置を用いて被処理物を搬入口ローラから搬出口ローラまで架け渡す。すなわち、まず、搬入口ローラに巻回された被処理物の先端を、通し装置の取付部材に取付ける。次いで、搬入口ローラを回転させて被処理物を搬入口ローラから送り出しながら、移動装置によって取付部材を予め設定された第2の搬送経路に沿って移動させる。これによって、被処理物の先端が取付けられた取付部材が処理室内を第2の搬送経路に沿って移動し、被処理物が複数の案内ローラに架け渡される。被処理物が複数の案内ローラに架け渡されると、被処理物の先端が取付部材から取り外され、搬出口ローラに取付けられる。これによって、被処理物が搬入口ローラから搬出口ローラまで架け渡される。移動装置によって取付部材を第2の搬送経路に沿って移動させながら、搬入口ローラを回転させればよいため、処理開始前の準備作業を簡便に行うことができる。
なお、処理室内においては、被処理物を複数の案内ローラに架け渡すために、取付部材の第2の搬送経路の長さは、第1の搬送経路の長さよりも長くされている。このため、取付部材の第2の搬送経路上の位置によっては、隣接する案内ローラに架け渡された被処理物にたわみが生じる。被処理物にたわみが生じた状態で、搬入口ローラから被処理物が送り続けられると、被処理物がたわんだ状態で案内ローラに巻き付けられてしまい、作業をやり直さなければならない。上記の熱処理炉では、取付部材が特定の位置(すなわち、隣接する案内ローラに架け渡された被処理物にたわみが生じる位置)にくると、搬入口ローラが回転を停止し、搬入口ローラから被処理物が送られない。このため、被処理物がたわんだ状態で案内ローラに巻き付けられてしまうことが抑制され、被処理物を案内ローラに適切に架け渡すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図5】通し装置を制御する制御系の構成を示すブロック図。
【
図6】取付部材とチェーンとシート体W(被処理物)を平面視した図。
【
図7】シート体Wの軌道と、チェーンの軌道と、複数の案内ローラの一部を拡大して示す図。
【
図8A】取付部材がx
1点(A点)にあるときの上部案内ローラ22aとシート体Wの状態を示す図。
【
図8B】取付部材がx
2点にあるときの上部案内ローラ22aとシート体Wの状態を示す図。
【
図8C】取付部材がx
3点にあるときの上部案内ローラ22aとシート体Wの状態を示す図。
【
図8D】取付部材がx
4点(B点)にあるときの上部案内ローラ22aとシート体Wの状態を示す図。
【
図9】通し装置を起動する起動スイッチ45と、チェーン42を駆動するチェーン駆動モータ42と、取付部材29を検出するセンサ29と、搬入口ローラ21を駆動する搬入口モータ21aの各動作を説明するためのタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書に開示する処理炉では、制御装置は、移動装置により取付部材を第2の搬送経路に沿って移動させて搬入口ローラに巻回された被処理物を複数の案内ローラに架け渡す場合において、取付部材の第2の搬送経路上の位置が隣接する案内ローラに架け渡された被処理物に生じたたわみが解消される位置にあるときは、搬入口ローラから被処理物が送られるように搬入口ローラを回転させてもよい。このような構成によると、案内ローラに架け渡された被処理物に過大な張力が作用することを抑制することができる。
【0009】
本明細書に開示する処理炉では、制御装置は、複数の案内ローラの回転をさらに制御してもよい。炉体は、搬入口と搬出口とを結ぶ第1方向に対して平行に配置された第1の壁と、第1方向に対して平行に配置されると共に第1の壁と対向する第2の壁を備えていてもよい。複数の案内ローラは、処理室の中心から見て第1の壁側となる位置において、第1方向に間隔を空けて配置される1又は複数の第1の案内ローラと、処理室の中心から見て第2の壁側となる位置において、第1方向に間隔を空けて配置される1又は複数の第2の案内ローラと、を備えていてもよい。搬入口から搬送される被処理物は、第1の案内ローラと第2の案内ローラの一方に最初に架け渡された後、第1の案内ローラと第2案内ローラとに交互に架け渡されて搬出口まで架け渡されていてもよい。移動装置により取付部材を第2の搬送経路に沿って移動させて搬入口ローラに巻回された被処理物を複数の案内ローラに架け渡す場合において、制御装置は、第1の案内ローラと第2の案内ローラの一方に発生するトルクが一定となるように回転を制御し、第1の案内ローラと第2の案内ローラの他方は等速度で回転するように制御してもよい。このような構成によると、第1の案内ローラと第2の案内ローラに被処理物が架け渡されたときに、架け渡された被処理物に過大な張力が作用することを抑制しながら、被処理物を搬出口に向かって送ることができる。
【0010】
本明細書に開示する処理炉では、移動装置は、取付部材が着脱可能に取付けられ、第2の経路経路に沿って設けられ、搬入口から処理室を通って搬出口まで伸びると共に、炉体の外部または内部を通って搬出口から搬入口まで戻るローラチェーンと、ローラチェーンを駆動する駆動モータと、を備えていてもよい。このような構成によると、ローラチェーンを駆動することで、取付部材を搬入口と搬出口の間で循環させることができる。
【0011】
本明細書に開示する処理炉では、処理室内であって第1の搬送経路に沿って配置され、搬送装置によって搬送される被処理物を加熱する複数のヒータをさらに備えていてもよい。複数のヒータによって処理室内が所定の加熱雰囲気とされている状態において、通し装置は、搬入口ローラに巻回された被処理物を、搬入口から複数の案内ローラを介して搬出口まで架け渡すことが可能となっていてもよい。このような構成によると、処理室内が所定の加熱雰囲気に調整されている状態で、搬入口ローラに巻回された被処理物を搬入口から搬出口まで架け渡すことができる。したがって、準備作業の後、速やかに被処理物の処理を行うことができる。
【0012】
本明細書に開示する処理炉では、所定の加熱雰囲気においては、処理室内の温度が400℃以下となっていてもよい。
【0013】
本明細書に開示する処理炉では、処理室内に気体を供給する給気装置と、処理室内の気体を排気する排気装置と、をさらに備えていてもよい。給気装置及び排気装置によって処理室内が所定の雰囲気とされている状態において、通し装置は、搬入口ローラに巻回された被処理物を、搬入口から複数の案内ローラを介して搬出口まで架け渡すことが可能となっていてもよい。このような構成によると、処理室内が所定の雰囲気に調整されている状態で、搬入口ローラに巻回された被処理物を搬入口から搬出口まで架け渡すことができる。したがって、準備作業の後、速やかに被処理物の処理を行うことができる。
【0014】
本明細書に開示する処理炉では、所定の雰囲気においては、処理室内の酸素濃度が10%以下となっていてもよい。また、本明細書に開示する処理炉では、所定の雰囲気においては、処理室内の露点は0℃以下となっていてもよい。
【実施例】
【0015】
以下、実施例1に係る熱処理炉10(処理炉の一例)について説明する。本実施例の熱処理炉10は、ワークW(被処理物の一例)に含まれる水分を除去する乾燥炉(脱水装置)である。ワークWは、長手方向に連続して伸びるシート体(被処理物の一例)であり、例えば、液晶ディスプレイ、有機EL、電池などに用いられるフィルムが該当する。このようなフィルムは、フィルム自体に水分が含まれる場合や、あるいは、フィルムに被覆層が被覆されている場合は当該被覆層に水分が含まれていることがある。このため、まずはフィルムに含まれる水分が除去され、その後、水分が除去されたフィルムを所望の大きさに切断して、最終製品が製造される。本実施例の熱処理炉10は、このようなシート体から水分を除去するために用いることができる。
【0016】
以下、図面を参照して、熱処理炉10の構成を説明する。
図1,2に示すように、熱処理炉10は、直方体形状の炉体12と、炉体12へのワークWの搬入と搬出を行う搬送装置20と、ワークWを加熱する加熱装置(26,28)と、ワークWの表面に冷却ガスを供給する給気装置(38等)を備えている。
【0017】
炉体12は、下壁13と、下壁13に対向する上壁14と、下壁13に一端が接続されると共に上壁14に他端が接続される側壁17,18(
図2参照)と、これらの壁13,14,17,18によって取囲まれる処理室(19a,19b)の端部を閉じる搬入側壁15及び搬出側壁16を備える。
下壁13は、平面視すると矩形状の板材であり、処理室(19a,19b)の下方に配置されている。
図1に示すように、下壁13には、x方向に略一定の間隔を空けて複数の排気口13aが設けられている。複数の排気口13aのそれぞれは、排気ファン13bに接続されている。排気ファン13bが運転すると、処理室(19a,19b)内の雰囲気ガスが処理室(19a,19b)外に排気されるようになっている。
上壁14は、下壁13と同一形状の板材であり、処理室(19a,19b)の上方に配置されている。上壁14にも、下壁13と同様に、x方向に略一定の間隔を空けて複数の排気口14aが設けられている。複数の排気口14aのそれぞれは、排気ファン14bに接続されている。排気ファン14bが運転すると、処理室(19a,19b)内の雰囲気ガスが処理室(19a,19b)外に排気されるようになっている。
搬入側壁15には搬入口15aが設けられており、搬出側壁16には搬出口16bが形成されている。搬入口15aと搬出口16bの高さ方向の位置は同一の位置となっており、搬入口15aと搬出口16bは互いに対向している。
図1から明らかなように、処理室(19a,19b)は、搬入口15aと搬出口16bとの間に配置されている。
なお、炉体12を構成する各壁13,14,15,16,17,18の内面(すなわち、処理室(19a,19b)側の面)には、鏡面加工が施されている。その結果、これらの面の赤外領域の電磁波(詳細には、後述するヒータ26,28が放射する電磁波)の反射率は50%以上となっている。これによって、ヒータ26,28が放射する電磁波をワークWへ効率的に照射できるようになっている。
【0018】
搬送装置20は、炉体12の外側であって搬入口15aの近傍に配置される搬入口ローラ21と、炉体12の外側であって搬出口16aの近傍に配置される搬出口ローラ25と、処理室(19a,19b)内に配置される複数の案内ローラ(22a,22b,22c,24)を備えている。
搬入口ローラ21にはワークWが巻回されている。搬入口ローラ21に券回されたワークWは、搬入口15aから処理室(19a,19b)を通って搬出口16aまで架け渡されている。具体的には、ワークWは、搬入口ローラ21から搬入口15aを通って案内ローラ(22a,22b,22c,24)に架け渡され、さらに案内ローラ(22a,22b,22c,24)から搬出口16aを介して搬出口ローラ25に架け渡されている。搬入口ローラ21には搬入口モータ21a(
図1では図示を省略(ただし、
図5に図示))が接続されている。搬入口モータ21aにより搬入口ローラ21が回転すると、搬入口ローラ21に券回されたワークWが処理室(19a,19b)に送り出される。なお、搬入口ローラ21と搬入口15aの間には、テンションローラ(46a,46b)(
図1では図示を省略。ただし、
図7に図示)が配置されている。テンションローラ(46a,46b)は、上側テンションローラ46aと下側テンションローラ46bとから構成される。搬入口ローラ21から送り出されたワークWは、テンションローラ(46a,46b)を通って搬入口15aに送り出される。ワークWが上側テンションローラ46aと下側テンションローラ46bに挟まれることで、ワークWに張力が付与される。なお、ワークWに張力を付与する構成としては、公知の種々の構成を採ることができ、例えば、サクションロールを用いてもよい。
搬出口ローラ25は、処理室(19a,19b)から搬出されるワークWを巻き取るローラである。搬出口ローラ25には図示しない駆動装置が接続されており、駆動装置により搬出口ローラ25が回転駆動される。搬入口ローラ21から送り出されたワークWは、案内ローラ(22a,22b,22c,24)に案内されて処理室(19a,19b)内の所定の搬送経路を移動し、搬出口16aから処理室(19a,19b)外に送り出され、回転駆動される搬出口ローラ25に巻き取られる。すなわち、案内ローラ(22a,22b,22c,24)は、処理室(19a,19b)内のワークWの搬送経路を規定している。
【0019】
案内ローラ(22a,22b,22c,24)は、上壁14の近傍に配置される複数の上部案内ローラ(22a,22b,22c)と、下壁13の近傍に配置される複数の下部案内ローラ24を備えている。なお、本実施例において、案内ローラ(22a,22b,22c,24)には、ワークWと接触する接触式ローラを用いたが、ワークWを非接触で案内する非接触式ローラを用いることもできる。
上部案内ローラ(22a,22b,22c)(請求項でいう第1の案内ローラの一例)は、x方向に一定の間隔を空けて配置されている。具体的には、上部案内ローラ22aは搬入口15aに隣接して配置され、上部案内ローラ22cは搬出口16aに隣接して配置されている。複数の案内ローラ22bは、上部案内ローラ22aと上部案内ローラ22cの間に等間隔で配置されている。上部案内ローラ(22a,22b,22c)のそれぞれの高さ方向の位置は同一となっている。上部案内ローラ(22a,22b,22c)のそれぞれには、上部モータ23a(
図5に図示)が接続されている。上部モータ23aを駆動することで、上部案内ローラ(22a,22b,22c)が回転するようになっている。なお、上部モータ23aの回転軸には、トルクセンサ23b(
図5に図示)が取り付けられている。トルクセンサ23bは、コントローラ44に接続されており、上部モータ23aの回転軸(すなわち、上部案内ローラ(22a,22b,22c))に作用するトルクを検出する。後述するように、通し装置がワークWをセットする際は、コントローラ44は、トルクセンサ23bで検出されるトルクが一定となるように上部モータ23aを回転駆動する。
複数の下部案内ローラ24(請求項でいう第2の搬送ローラの一例)のそれぞれは、上部案内ローラ(22a,22b,22c)と同様、x方向に一定の間隔を空けて配置されている。隣接する下部案内ローラ24のx方向の間隔は、上部案内ローラ(22a,22b,22c)のx方向の間隔と同一となっている。複数の下部案内ローラ24のx方向の位置は、隣接する上部案内(22a,22b,22c)の中央位置となっている。複数の下部案内ローラ24の高さ方向の位置は同一となっている。下部案内ローラ24のそれぞれには、下部モータ27a(
図5に図示)が接続されている。下部モータ27aを駆動することで、下部案内ローラ24が回転するようになっている。なお、下部モータ27aの回転軸には、エンコーダ27b(
図5に図示)が取り付けられている。エンコーダ27bは、コントローラ44に接続されており、下部モータ27aの回転軸(すなわち、下部案内ローラ24)の回転数を検出する。後述するように、通し装置がワークWをセットする際は、コントローラ44は、エンコーダ27bで検出される回転数が一定となるように下部モータ27aを回転駆動する。
【0020】
上述したように上部案内ローラ(22a,22b,22c)と下部案内ローラ24が配置されているため、搬入口15aからx方向に搬送されるワークWは、上部案内ローラ22aによって下方に向かって搬送され、次いで、下部案内ローラ24によって上方に向かって搬送され、以下、上部搬送ローラ22bと下部搬送ローラ24によって上下方向に繰り返し搬送される。そして、最も搬出口16a側に配置された下部搬送ローラ24から上方に向かって搬送されるワークWは、上部案内ローラ22cによって搬出口16aに向かって搬送される。このように、処理室(19a,19b)内を上下方向に繰り返し搬送することで、処理室(19a,19b)内のスペースを有効に活用でき、ワークWを乾燥させるための処理時間を確保している。なお、
図1から明らかなように、案内ローラ(22a,22b,22c,24)に架け渡されたワークWによって、処理室(19a,19b)は、上壁14側に設けられる上部処理室19aと、下壁13側に設けられる下部処理室19bとに区分されている。なお、
図2から明らかなように、ワークWがない位置(すなわち、ワークWのY方向の両端の外側の位置)では、上部処理室19aと下部処理室19bは接続されている。
【0021】
加熱装置は、処理室(19a、19b)内に配置され、搬送装置20によって搬送されるワークWを加熱する。加熱装置は、案内ローラ(22a,22b,22c,24)の近傍に配置された第1ヒータ(26a,26b)と、上部案内ローラ(22a,22b,22c)と下部案内ローラ24の間の高さに配置された第2ヒータ28を備えている。
図2に示すように、第1ヒータ(26a,26b)と第2ヒータ28は、案内ローラ(22a,22b,22c,24)の軸線方向に伸びており、ワークWの幅方向(y方向)の全体を加熱可能となっている。
【0022】
図1に示すように、第1ヒータ(26a,26b)は、上部案内ローラ(22a,22b,22c)の上方に配置される複数の第1上部ヒータ26aと、下部案内ローラ24の下方に配置される複数の第1下部ヒータ26bを備えている。第1上部ヒータ26aのそれぞれは、対応する上部案内ローラ(22a,22b,22c)と対向して配置されており、第1下部ヒータ26bのそれぞれは対応する下部案内ローラ24と対向して配置されている。このため、第1上部ヒータ26aと上部案内ローラ(22a,22b,22c)の間にワークWが位置し、ワークWは第1上部ヒータ26aによって直接加熱される。同様に、第1下部ヒータ26bと下部案内ローラ24の間にワークWが位置し、ワークWは第1下部ヒータ26bによって直接加熱される。
【0023】
第2ヒータ28は、上部案内ローラ(22a,22b,22c)のそれぞれの下方に、z方向に間隔を空けて2個配置されている。また、第2ヒータ28は、下部案内ローラ24のそれぞれの上方に、z方向に間隔を空けて2個配置されている。このため、x方向に間隔を空けて11個の第2ヒータ28が並ぶと共に、y方向に間隔を空けて2個の第2ヒータ28が並んで配置されている。図から明らかなように、第2ヒータ28は、上部案内ローラ(22a,22b,22c)と下部案内ローラ24に架け渡されたワークWと対向する位置(すなわち、ワークWの搬送方向に隣接する案内ローラ間の中間位置の近傍)に配置されている。第2ヒータ28が案内ローラ(22a,22b,22c,24)の軸線方向に伸びているため、上部案内ローラ(22a,22b,22c)と下部案内ローラ24に架け渡されたワークWの幅方向の全体が第2ヒータ28によって加熱される。
【0024】
第1ヒータ(26a,26b)は、赤外領域の電磁波を放射する公知の波長制御可能なヒータであり、第1ヒータ(26a,26b)と第2ヒータ28は同一構造を有している。このため、ここでは第2ヒータ28の構造について簡単に説明する。
図3に示すように、第2ヒータ28は、フィラメント30と、フィラメント30を収容する内管32と、内管32を収容する外管34を備えている。フィラメント30は、例えば、タングステン製の発熱体であり、図示しない外部電源から電力が供給されるようになっている。フィラメント30に電力が供給されて所定温度(例えば、1200~1700℃)となると、フィラメント30から赤外線を含む電磁波が放射される。内管32は、フィラメント30から放射される電磁波のうち特定の波長領域(本実施例では、赤外領域)の電磁波のみを透過する赤外線透過材料によって形成されている。内管32を形成する赤外線透過材料を適宜選択することで、フィラメント30から内管32の外部に放射される電磁波の波長を所望の波長に調整することができる。外管34も、内管32と同一の赤外線透過材料によって形成されている。したがって、内管32を透過した電磁波は、外管34を透過して外部に放射される。内管32と外管34の間の空間36は、冷媒(例えば、空気)が流れる冷媒流路となっている。空間36(すなわち、冷媒流路)に冷媒が供給されることで、外管34の温度が高温となり過ぎることが防止されている。これによって、ワークWの過熱が防止される。なお、赤外領域の電磁波を放射する波長制御可能なヒータについては、例えば、特許4790092号に詳細に開示されている。
【0025】
給気装置は、処理室(19a,19b)内をy方向に伸びる複数の給気管38と、処理室(19a,19b)外に配置されて複数の給気管38に冷却ガスを供給する給気ファン(図示省略)を備えている。
図4に示すように、給気管38には、周方向の2か所に噴出孔39a,39bが形成されている。このため、給気ファンから給気管38に供給された冷却ガスは、噴出孔39a,39bから処理室(19a,19b)内に噴射される。本実施例では、噴出孔39a,39bから噴射される冷却ガスの噴出方向がワークWの表面に対して直交するように、給気管38を設置する向きが調整されている。
図4に示すように、噴出孔39a,39bは、給気管38の軸線を挟んで対向する位置に配置されている。このため、給気管38の搬入口15a側と搬出口16a側のそれぞれにワークWが位置する場合、当該給気管38の噴出孔39aから噴射される冷却ガスは一方のワークWに噴射され、当該給気管38の噴出孔39bから噴射される冷却ガスは他方のワークWに噴射される。また、
図2に示すように、給気管38の噴出孔39a,39bは、y方向に間隔を空けて複数形成されている。このため、噴出孔39a,39bから噴射される冷却ガスは、ワークWの幅方向(y方向)の全体に噴射されることになる。
【0026】
図1に示すように、給気管38は、上部案内ローラ(22a,22b,22c)のそれぞれの下方に、z方向に間隔を空けて2個配置されている。また、給気管38は、下部案内ローラ24のそれぞれの上方に、z方向に間隔を空けて2個配置されている。
図1から明らかなように、給気管38は、第1ヒータ(26a,26b)及び第2ヒータ28が配置される位置とは異なる位置に配置されている。具体的には、第2ヒータ28と給気管38はz方向(搬送方向)に等しい間隔を空けて交互に配置されている。また、上述したように、案内ローラ(22a,22b,22c,24)に架け渡されたワークWによって、処理室(19a,19b)は上部処理室19aと下部処理室19bとに区分されているが、上部処理室19aと下部処理室19bのそれぞれに給気管38が配置されている。
【0027】
給気管38に供給される冷却ガスとしては、例えば、不活性ガス、窒素、Arガス等を用いることができる。処理室(19a,19b)内の雰囲気ガスは、給気管38から処理室(19a,19b)内に噴射されるガスによって調整される。本実施例では、ワークWに含まれる水分を除去するため、処理室(19a,19b)内の雰囲気ガスは、露点が0℃以下となるガスに調整されている。より詳細には、処理室(19a,19b)内の雰囲気は、酸素濃度が10%以下に調整されている。また、露点は、0℃以下に調整されている。なお、冷却ガスとしては、露点が0℃以下となる大気としてもよい。
【0028】
コントローラ44は、CPU,ROM,RAMを備えたプロセッサによって構成され、搬送装置20と加熱装置(26,28)と給気装置と排気装置(13b,14b)を制御する。具体的には、コントローラ44は、搬送装置20を制御することでワークWの搬送速度及び張力を制御し、加熱装置(26,28)を制御することでワークWの加熱量を制御し、給気装置を制御することで給気管38からワークWに噴射される冷却ガスの流量及び流速を制御する。また、コントローラ44は、後述する通し装置を制御し、搬入口ローラ21に巻回されたワークWを搬出口ローラ25にセットする。通し装置の構成及び制御方法については、後で詳述する。
【0029】
次に、上述した熱処理炉10を用いてワークWから水分を除去する処理を説明する。まず、給気管38から処理室(19a,19b)内に冷却ガスを供給し、処理室(19a,19b)内を所定の雰囲気に調整する。次いで、コントローラ44は、モータ(21a,23a,27a等)を駆動することで、ワークWを搬入口15aから処理室(19a,19b)を通って搬出口16aまで搬送する。この際、コントローラ44は、加熱装置(26,28)を制御してワークWに赤外線領域の電磁波を照射すると共に、給気管38からワークWの表面に冷却ガスを噴出する。加熱装置(26,28)から赤外線領域の電磁波が照射されると、ワークWに含まれる水分が照射された電磁波を吸収し、水分が蒸発する。ワークWから蒸発した水分は、給気管38から噴射される冷却ガスによってワークWの表面から除去される。ワークWの表面から除去された水分(ただし、水分には微量の有機溶剤が含まれる)を含んだ雰囲気ガスは、下壁13の排気口13aと、上壁14の排気口14aのそれぞれから処理室(19a,19b)外に排気される。ワークWは、搬入口15aから搬出口16aまで搬送される間に水分が除去される。水分が除去されたワークWは、搬出口ローラ25に巻き取られる。
【0030】
上記の熱処理炉10によると、案内ローラ(22a,22b,22c,24)の近傍で、案内ローラ(22a,22b,22c,24)と対向する第1ヒータ(26a,26b)を備えている。また、上部案内ローラ(22a,22b,22c)と下部案内ローラ24の間に第2ヒータ28を備えている。これらヒータ26a,26b,28のため、案内ローラ(22a,22b,22c,24)に接触した状態におけるワークWに対する熱収支を制御でき、また、案内ローラ(22a,22b,22c,24)に接触していない状態におけるワークWに対する熱収支を制御することができる。このため、ワークWの熱収支を好適に制御でき、ワークWから水分を除去する処理の効率を格段に向上することができる。例えば、ワークWが案内ローラ(22a,22b,22c,24)に接触することで、ワークWから案内ローラ(22a,22b,22c,24)に熱が流れてワークWが冷却され過ぎてしまう場合は、第1ヒータ(26a,26b)からワークWに供給する熱量を増加し、ワークWが冷却され過ぎないようにする。これによって、ワークWから水分を除去する効率が低下してしまうことを防止することができる。
【0031】
また、上記の熱処理炉10では、給気管38と第2ヒータ28が搬送方向に交互に配置され、また、給気管38からの冷却ガスはワークWの表面に直交する方向から噴射される。これによって、ワークWの内部から蒸発した水分がワークWの表面から速やかに除去され、ワークWからの水分の除去が促進される。これによっても、ワークWの水分の除去効率を高めることができる。
【0032】
さらに、案内ローラ(22a,22b,22c,24)に架け渡されたワークWによって、処理室(19a,19b)は上部処理室19aと下部処理室19bとに区分されるが、上部処理室19aと下部処理室19bのそれぞれに給気管38と排気口14a,13aが配置されている。このため、上部処理室19aに供給された冷却ガス及び下部冷却室19bに供給された冷却ガスは、除去された水分と共に速やかに処理室(19a,19b)外に排気される。これによっても、処理室(19a,19b)内のガスの流れが好適化され、ワークWの水分除去効率を高めることができる。
【0033】
なお、ヒータ(26a,26b,28)は、内管及び外管を形成する赤外線透過材料を選択することで、放射する赤外線の波長領域を調整することができる。このため、ワークWの特性に応じて放射する電磁波の波長を調整することで、ワークWの熱処理効率を向上することができる。例えば、ワークWとして、固形分(フェノール・エポキシ樹脂、10~90wt%)と、該固形分をスラリー状又はペースト状とする溶媒(水又は溶剤(例えば、IPA(イソプロピルアルコール、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)等)から構成される物質を乾燥する場合を考える。このようなワークWを乾燥する場合、熱処理炉10の前半では近赤外線波長を選択したヒータ(26a,26b,28)により水又は溶剤の乾燥を行い、熱処理炉10の後半では遠赤外線波長を選択したヒータ(26a,26b,28)によるアニーリングを行うようにしてもよい。
【0034】
また、上記の実施例では、ヒータ(26a,26b,28)は、全て同一の波長領域の電磁波を放射したが、このような例に限られない。例えば、ヒータ(26a,26b,28)から放射される電磁波の波長は、搬送経路上の位置に応じて調整されていてもよい。例えば、熱処理炉10によってワークWから水分を除去する場合、ワークWに含まれる水分量は、搬入口15aから搬出口16aに向かって徐々に低下する。このため、ヒータ(26a,26b,28)から放射される電磁波の波長を、搬入口15aから搬出口16aに向かって徐々に長くすることで、水分量に応じた電磁波をワークWに照射することができる。
【0035】
また、上記の実施例では、案内ローラ(22a,22b,22c,24)の近傍に第1ヒータ(26a,26b)を配置し、第1ヒータ(26a,26b)によってワークWを加熱したが、このような例に限られない。例えば、案内ローラの内部に熱媒が流れる流路を設け、案内ローラによってワークWを加熱してもよい。このような構成によっても、案内ローラに接触する状態におけるワークWの熱収支が制御可能となり、ワークWの熱処理効率を向上することができる。
【0036】
次に、搬入口ローラ21に巻回されたワークWを搬出口ローラ25にセットするための通し装置について説明する。
図1,6に示すように、通し装置は、処理室(19a,19b)内と処理室(19a,19b)外を通って循環する一対のローラチェーン42a,42bと、一対のローラチェーン42a,42bに着脱可能に取付けられる取付棒43(取付部材の一例)と、一対のローラチェーン42a,42bを駆動する駆動モータ42c(
図5に図示)を備えている。
【0037】
一対のローラチェーン42a,42bは、
図6に示すように、ワークWの両側に配置されている。具体的には、ローラチェーン42a,42bは、ワークWが架け渡される案内ローラ(22a,22b,22c,24)に対して側方(すなわち、+y方向の側壁18側と-y方向の側壁17側(
図2参照))にそれぞれ配置されている。
図1に示すように、ローラチェーン42a,42bは、案内ローラ(22a,22b,22c,24)に架け渡されたワークWと同様に、搬入口15aから上下方向に向きを変えながら搬出口16aまで伸び、搬出口16aから処理室(19a,19b)の外側を通って搬入口15aに戻っている。より詳細には、ローラチェーン42a,42bは、搬入口15aからx方向(上部案内ローラ22aの方向)に向かって伸び、上部案内ローラ22aの外側を回って下部案内ローラ24に向かって方向を変え、次いで、下部案内ローラ24の外側を回って上部案内ローラ22bに向かって方向を変え、以下、同様に、上部案内ローラ22bと下部案内ローラ24を順に経由し、上部案内ローラ22cの外側を回って搬出口16aから炉外に伸びている。搬出口16aから炉外に伸びるローラチェーン42a,42bは、180度反転して炉体12の上方を-x方向に伸び、搬入口15aまで戻っている。ワークWを案内ローラ(22a,22b,22c,24)に架け渡す必要があるため、ローラチェーン42a,42bの軌道(第2の搬送経路の一例)は、案内ローラ(22a,22b,22c,24)の外側を大回りしている。このため、ローラチェーン42a,42bの軌道は、処理室19内においては、案内ローラ(22a,22b,22c,24)によって規定されるワークWの搬送経路(第1の搬送経路の一例)よりも長くなり、また、ワークWの搬送経路の複数個所(すなわち、上下方向(z方向)に伸びる各経路部分の中央)で交差している。
なお、
図7に示すように、ローラチェーン42a,42bの軌道上の一ヵ所には、取付棒43を検出するための検出センサ29が配置されている。より詳細には、検出センサ29は、搬入口14aの近傍であって、ローラチェーン42a,42bに取付けられた取付棒43が所定の位置にきたときに当該取付棒43と近接する位置に配置されている。検出センサ29は、取付棒43がローラチェーン42a,42bの軌道(第2の搬送経路)上の所定の位置を通過したことを検知する。検出センサ29から出力される信号は、コントローラ44に入力されるようになっている。なお、検出センサ29には、発光部と受光部から構成される光学式センサや、近接センサ等を用いることができる。
【0038】
取付棒43は、その一端がローラチェーン42aに着脱可能に取付けられ,その他端がローラチェーン42bに着脱可能に取付けられる。取付棒43には、搬入口ローラ21に巻回されたワークWの先端が着脱可能に取付けられる。取付棒43が一対のローラチェーン42a,42bに取付けられた状態では、取付棒43はローラチェーン42a,42bに対して直交し、取付棒43に取り付けられたワークWはローラチェーン42a,42bに対して平行に伸びている。
【0039】
駆動モータ42cは、一対のローラチェーン42a,42bの一方(すなわち、駆動側ローラチェーン)に接続されている。ローラチェーン42a,42bに取付棒43が取り付けられた状態で駆動モータ42cが回転すると、駆動側ローラチェーンが回転し、それによって従動側ローラチェーンも回転する。ローラチェーン42a,42bが回転することで、ローラチェーン42a,42bに取付けられた取付棒43及びワークWの先端もローラチェーン42a,42bの軌道に沿って移動することとなる。
【0040】
図5に示すように、上述した通し装置は、コントローラ44によって制御される。すなわち、コントローラ44には、起動スイッチ45と、検出センサ29と、搬入口モータ21aと、駆動モータ42cと、上部モータ23aと、下部モータ27aが接続されている。起動スイッチ45は、作業者によって操作され、ワークWを搬出口ローラ25へセットするための準備作業の開始をコントローラ44に入力する。検出センサ29は、取付棒43を検出すると、その検出信号をコントローラ44に入力する。コントローラ44は、起動スイッチ45からの信号によって搬入口モータ21a、駆動モータ42c、上部モータ23a、下部モータ27aの動作を開始する。また、コントローラ44は、検出センサ29からの検出信号と、検出信号が入力してからの時間に基づいて取付部材43の位置(ローラチェーン42a,42bの軌道上の位置)を算出し、算出した位置に応じて搬入口モータ21aの回転を制御する。コントローラ44が搬入口モータ21a、駆動モータ42c、上部モータ23a、下部モータ27aの動作を制御することによって、搬入口ローラ21に巻回されたワークWが搬出口ローラ25の近傍まで架け渡される。
【0041】
次に、搬入口ローラ21に巻回されたワークWの先端を搬出口ローラ25にセットする際の手順について説明する。搬入口ローラ21に処理対象となっているワークWをセットすると、作業者は、ローラチェーン42a,42bから取付棒43を取り外し、搬入口ローラ21に巻回されているワークWの先端を取付棒43に取付ける。ワークWの先端が取付けられた取付棒43は、ローラチェーン42a,42bに取付けられる。そして、作業者は、起動スイッチ45を押圧し、通し装置を起動する。
【0042】
起動スイッチ45が押圧されると、まず、コントローラ44は駆動モータ42cの駆動を開始する。これにより、ローラチェーン42a,42bが回転し、これに伴って取付棒43は、ローラチェーン42a,42bの軌道上を移動する。コントローラ44は、取付棒43の移動に応じて搬入口モータ21aを回転駆動し、搬入口ローラ21に巻回されたワークWを送り出す。なお、本実施例では、駆動モータ42cは、予め定められた一定の速度で駆動(すなわち、定速駆動)される。このため、取付棒43も、ローラチェーン42a,42bの軌道上を一定の速度で移動する。一方、後で詳述するように、搬入口モータ21aは、取付棒43の位置(すなわち、ローラチェーン42a,42bの軌道上の位置)に応じて回転駆動される。また、コントローラ44は、トルクセンサ23bの検出値に基づいて上部モータ23aを制御し、エンコーダ27bの検出値に基づいて下部モータ27aを制御する。具体的には、上部モータ23aは、トルクが目標値未満の状態では回転を停止し、トルクが目標値以上となると、トルクが目標値となるように回転駆動される。一方、下部モータ27aは、予め設定された速度で定速駆動される。
【0043】
次に、コントローラ44は、検出センサ29からの検出信号が入力したか否かを監視する。検出センサ29からの検出信号がコントローラ44に入力すると、コントローラ44はタイマを起動し、検出信号が入力してからの時間を計測する。そして、コントローラ44は、タイマで計測された時間から取付棒43の位置を算出する。上述したように、検出センサ29が配置された位置は既知であり、搬入口モータ21aは定速で駆動される。このため、コントローラ44は、タイマで計測した時間から取付棒43の位置を算出することができる。取付棒43の位置が算出されると、コントローラ44は、取付棒43の位置に応じて搬入口モータ21aの回転駆動を制御する。
【0044】
ここで、搬入口モータ21aの回転駆動制御について説明する。
図7に示すように、ローラチェーン42の軌道(取付棒34の搬送経路)は、案内ローラ(22a,22b,22c,24)によって規定されるワークWの搬送経路よりも長くなっている。すなわち、ローラチェーン42の軌道には、案内ローラ22aに対応した屈曲点(A点)が設けられ、案内ローラ24に対応した屈曲点(C点、E点)が設けられ、以下、各案内ローラ(22b,24,22c)のそれぞれに対応した屈曲点が設けられている。取付棒43に取付けられたワークWを各案内ローラ(22a,22b,22c,24)に架け渡すため、各屈曲点(A,C,E,G,・・)は対応する案内ローラに対して外側の位置に配置されている。このため、ローラチェーン42の軌道(取付棒34の搬送経路)は、ワークWの搬送経路よりも長くならざるを得ない。このため、搬入口モータ21aを定速回転させると、取付棒34の位置によってはワークWにたわみ(たるみ)が生じることになる。ワークWにたわみが生じた状態で案内ローラ(22a,22b,22c,24)に架け渡そうとすると、ワークWがしわが生じた状態で案内ローラ(22a,22b,22c,24)に巻き付けられてしまうことがある。そこで、本実施例では、取付棒43の位置に応じて搬入口モータ21aの回転駆動を制御する。
【0045】
図8A~8Dに基づいて、搬入口モータ21aの回転駆動を具体的に説明する。
図8Aに示すように、取付棒43が検出センサ29の位置から屈曲点Aまで移動する間は、テンションローラ(46a,46b)から取付棒43までの距離は徐々に長くなるため、ワークWにたわみが生じることはない。一方、
図8Bに示すように、取付棒43が屈曲点Aを通過して下方に移動を開始すると、取付棒43は案内ローラ22aに徐々に近づいていくため、テンションローラ(46a,46b)から取付棒43までの距離は徐々に短くなる。その結果、搬入口モータ21aからワークWを送り出さなくても、ワークWにはたわみが生じることとなる。したがって、取付棒43が屈曲点Aを超えて下降を開始した初期においては、搬入口モータ21aを駆動してワークWを送り出す必要はない。このため、本実施例では、取付棒43がワークWにたわみが生じない位置のときは、搬入口モータ21aの駆動を停止する。
【0046】
搬入口モータ21aの駆動を停止した状態で取付棒43がさらに下降すると、
図8Cに示すように、ワークWが案内ローラ22aに接触することになる。上述したように、案内ローラ22aは、作用するトルクが目標値以下となるように駆動される。このため、ワークWから案内ローラ22aに作用するトルクが大きくなると案内ローラ22aが回転し、ワークWに過大な張力が発生することが抑制される。取付棒43がさらに下降すると、
図8Dに示すように、ワークWにたわみが生じていない状態となる。したがって、
図8Dに示す状態から取付棒43がさらに下降すると、それに応じて搬入口モータ21aの回転駆動を再開し、搬入口ローラ21からワークWを送り出す。搬入口ローラ21からワークWが送り出されると共に、案内ローラ22aがトルク制御されることで、ワークWに過大な張力が作用することなく、取付棒43は下降してゆくことになる。
【0047】
以下、取付棒34の搬送経路上の各屈曲点(C点,E点,G点,・・)から所定の範囲(C点~D点、E点~F点、G点~H点,・・)においては、ワークWにたわみが生じるため、搬入口モータ21aの駆動を停止し、ワークWの送り出しを停止する。これによって、ワークWに過大なたわみが生じることが抑制され、ワークWにしわが生じた状態で案内ローラ(22a,22b,22c,24)に巻き付けられてしまうことが抑制される。なお、下部案内ローラ24は定速回転することで、ワークWが取付棒34側に常に送られることになる。このため、取付棒34が上昇してゆくとき(すなわち、下部案内ローラ24側から上部案内ローラ22b側に向かって移動するとき)のワークWのたわみが速やかに解消され、ワークWが重力によって大きくたわむことを抑制することができる。
【0048】
上述のように、取付棒43の位置に応じて搬入口モータ21aの回転駆動を制御することで、ワークWは処理室19内の案内ローラ(22a,22b,22c,24)のそれぞれに架け渡される。取付棒43が搬出口16aから炉外に移動し、搬出口ローラ25の近傍まで移動すると、作業者は、起動スイッチ45を押圧して通し装置を停止する。次いで、作業者は、ローラチェーン42a,42bから取付棒43を取り外し、さらに、取付棒43からワークWの先端を取り外す。そして、取り外したワークWの先端を、搬出口ローラ25にセットし、ワークWのセットを完了する。
【0049】
図9は、上述したワークWをセットする際の各部の動作のタイミングチャートを示している。
図9に示すように、時刻t1で起動スイッチ45を押圧すると、それに応じてローラチェーン42a,42bが回転し、また、搬入口ローラ21も回転する。そして、時刻t2で検出センサ29が取付棒43を検出すると、その信号がコントローラ44に入力される。コントローラ44は、時刻t2からの経過時間を計時することで、その後の各部の動作を制御する。時刻t1から予め設定された時間T1が経過して時刻t3となると、取付棒43は屈曲点Aに到達し、それに応じて搬入口ローラ21の回転が停止する。搬入口ローラ21の回転が停止してから予め設定された時間T2が経過した時刻t4となると、取付棒43はB点に到達してワークWのたわみが解消されるため、搬入口ローラ21の回転を再開する。以下、取付棒43の位置に応じて搬入口ローラ21の回転がオン-オフされ、取付棒43が処理室19内を移動し、搬出口ローラ25の近傍まで移動してゆくことになる。
【0050】
上述した説明から明らかなように、本実施例の熱処理炉では、通し装置を用いて搬入口ローラ21に巻回されたワークWの先端を搬出口ローラ25にセットすることができる。このため、処理開始前の準備作業を簡便に行うことができる。特に、通し装置は、処理室19内が所定の雰囲気の状態のままで動作させることができる。したがって、例えば、搬入口ローラ21に新たなワークWをセットするときは、処理室19内の加熱雰囲気を維持した状態のまま新たなワークWをセットすることができる。このため、新たにセットしたワークWを直ちに処理することができ、ワークWの処理効率を高めることができる。
【0051】
なお、上記の実施例では、ワークWにたわみが生じるときに搬入口ローラ21の回転を停止し、ワークWのたわみが解消したときに搬入口ローラ21の回転を再開したが、このような例に限られない。例えば、ワークWにたわみが生じても、そのたわみが許容できる量であれば、搬入口ローラ21の回転を停止しなくてもよい。同様に、ワークWのたわみが許容できる量まで解消したときに、搬入口ローラ21の回転を再開してもよい。すなわち、請求項でいう「たわみが生じる位置」には、たわみが許容範囲の上限となる位置が含まれており、また、「たわみが解消される位置」には、たわみが許容範囲の上端となる位置が含まれている。
【0052】
また、上記の実施例では、ローラチェーン42a,42bは、搬入口15aから処理室内を通って搬出口16aまで伸び、搬出口16aから炉外を通って搬入口15aまで戻っていたが、このような例に限られない。例えば、搬入口15aから処理室内を通って搬出口16aまで伸びたローラチェーンは、炉内(すなわち、処理室)を通って搬入口15aまで戻るようにしてもよい。
また、上記の実施例では、上部モータ23aは、トルクが目標値未満の状態では回転を停止し、トルクが目標値以上となると、トルクが目標値となるように回転駆動され、下部モータ27aは予め設定された速度で定速駆動されたが、このような例に限られない。例えば、上部モータ23a及び下部モータ27aのそれぞれが、トルクが目標値未満の状態では回転を停止し、トルクが目標値以上となると、トルクが目標値となるように回転駆動されてもよい。
【0053】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0054】
10 熱処理炉
12 炉体
22 上部案内ローラ
24 下部案内ローラ
26 第1ヒータ
28 第2ヒータ
38 給気管