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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】作業機
(51)【国際特許分類】
   F16H 48/24 20060101AFI20231213BHJP
   A01B 33/08 20060101ALI20231213BHJP
   F16H 48/38 20120101ALI20231213BHJP
   B60K 17/28 20060101ALI20231213BHJP
   B60K 23/04 20060101ALI20231213BHJP
   F16D 11/00 20060101ALI20231213BHJP
   F16D 11/10 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
F16H48/24
A01B33/08 Z
F16H48/38
B60K17/28 B
B60K23/04 D
F16D11/00 A
F16D11/10 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020217043
(22)【出願日】2020-12-25
(65)【公開番号】P2022102356
(43)【公開日】2022-07-07
【審査請求日】2022-12-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100162031
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 豊彦
(74)【代理人】
【識別番号】100175721
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 秀文
(72)【発明者】
【氏名】亀田 大地
(72)【発明者】
【氏名】前田 伸治
(72)【発明者】
【氏名】渡 剛
(72)【発明者】
【氏名】森田 栄作
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-099350(JP,A)
【文献】特開昭50-143948(JP,A)
【文献】実開平01-098737(JP,U)
【文献】特公昭50-006941(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 48/24
A01B 33/08
F16H 48/38
B60K 17/28
B60K 23/04
F16D 11/00
F16D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪の差動を可能とする差動装置と、
前記差動装置に向かって突出する第一突出部を有し、前記差動装置に近接する方向に移動して前記第一突出部を前記差動装置に係合させることで前記差動装置による前記車輪の差動を禁止する差動禁止状態と、前記差動装置から離間する方向に移動して前記第一突出部と前記差動装置との係合を解除することで前記差動装置による前記車輪の差動を許容する差動許容状態と、を切り替え可能なデフロック部材と、
を具備し、
前記第一突出部の先端部は、
前記差動装置に向かって先鋭状に形成され
前記デフロック部材の移動方向と平行な方向に移動することによって、作業装置へ動力を伝達可能な動力伝達状態と、前記作業装置へ動力を伝達不能な動力遮断状態と、を切り替え可能な作業動力切替部材と、
前記デフロック部材及び前記作業動力切替部材を一体的に移動させることが可能な可動部材と、
をさらに具備し、
前記可動部材は、
前記デフロック部材に係合可能な第一係合部と、
前記作業動力切替部材に係合可能な第二係合部と、
前記第一係合部及び前記第二係合部と一体的に形成され、操作具の操作に伴う回転運動を直線運動に変換することで、前記第一係合部及び前記第二係合部を前記デフロック部材の移動方向と平行な方向に移動させることが可能な移動部と、
を具備する、
作業機。
【請求項2】
前記第一突出部の基端部は、
前記デフロック部材の移動方向に対して略平行に延びるように形成される、
請求項1に記載の作業機。
【請求項3】
前記差動装置は、
前記デフロック部材に向かって突出し、前記第一突出部と係合可能な第二突出部を具備し、
前記第二突出部の先端部は、
前記デフロック部材に向かって先鋭状に形成される、
請求項1又は請求項2に記載の作業機。
【請求項4】
前記第二突出部の基端部は、
前記デフロック部材の移動方向に対して略平行に延びるように形成される、
請求項3に記載の作業機。
【請求項5】
前記可動部材は、
前記デフロック部材及び前記作業動力切替部材を一方向に移動させることで、前記デフロック部材を前記差動禁止状態へ切り替えると共に前記作業動力切替部材を前記動力伝達状態に切り替えることが可能であり、
前記デフロック部材及び前記作業動力切替部材を他方向に移動させることで、前記デフロック部材を前記差動許容状態へ切り替えると共に前記作業動力切替部材を前記動力遮断状態に切り替えることが可能である、
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の作業機。
【請求項6】
前記可動部材は、
前記デフロック部材及び前記作業動力切替部材を前記一方向に移動させる場合、前記作業動力切替部材を前記動力伝達状態に切り替えるよりも前に、前記第一突出部の先端部を前記差動装置と係合させることで前記デフロック部材を前記差動禁止状態に切り替える、
請求項5に記載の作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪の差動の可否を切り替え可能な作業機の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車輪の差動の可否を切り替え可能な作業機の技術は公知となっている。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【0003】
特許文献1に記載の歩行型管理機(作業機)は、爪クラッチ及びフォーク等を具備する。爪クラッチは、車軸にスライド移動可能に設けられる。爪クラッチは、デフ装置の入力スプロケットに形成されたクラッチ係合部と噛合可能に構成される。フォークは、操作具の操作に伴って爪クラッチをクラッチ係合部に近接離間させることができる。フォークは、爪クラッチをクラッチ係合部に近接させることで、爪クラッチ及びクラッチ係合部を係合させて差動を禁止することができる。また、フォークは、爪クラッチをクラッチ係合部から離間させることで、上記係合を解除して差動を許容することができる。
【0004】
しかしながら、特許文献1の歩行型管理機では、爪クラッチとクラッチ係合部との周方向における相対的な位置関係によっては、爪クラッチを近接させる際に爪クラッチの端面がクラッチ係合部の端面に当接してうまく噛み合わず、車輪の差動を禁止できない可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-63224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の如き状況を鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、差動許容状態から差動禁止状態への切り替えを安定して行うことが可能な作業機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、車輪の差動を可能とする差動装置と、前記差動装置に向かって突出する第一突出部を有し、前記差動装置に近接する方向に移動して前記第一突出部を前記差動装置に係合させることで前記差動装置による前記車輪の差動を禁止する差動禁止状態と、前記差動装置から離間する方向に移動して前記第一突出部と前記差動装置との係合を解除することで前記差動装置による前記車輪の差動を許容する差動許容状態と、を切り替え可能なデフロック部材と、を具備し、前記第一突出部の先端部は、前記差動装置に向かって先鋭状に形成され、前記デフロック部材の移動方向と平行な方向に移動することによって、作業装置へ動力を伝達可能な動力伝達状態と、前記作業装置へ動力を伝達不能な動力遮断状態と、を切り替え可能な作業動力切替部材と、前記デフロック部材及び前記作業動力切替部材を一体的に移動させることが可能な可動部材と、をさらに具備し、前記可動部材は、前記デフロック部材に係合可能な第一係合部と、前記作業動力切替部材に係合可能な第二係合部と、前記第一係合部及び前記第二係合部と一体的に形成され、操作具の操作に伴う回転運動を直線運動に変換することで、前記第一係合部及び前記第二係合部を前記デフロック部材の移動方向と平行な方向に移動させることが可能な移動部と、を具備するものである。
【0009】
請求項2においては、前記第一突出部の基端部は、前記デフロック部材の移動方向に対して略平行に延びるように形成されるものである。
【0010】
請求項3においては、前記差動装置は、前記デフロック部材に向かって突出し、前記第一突出部と係合可能な第二突出部を具備し、前記第二突出部の先端部は、前記デフロック部材に向かって先鋭状に形成されるものである。
【0011】
請求項4においては、前記第二突出部の基端部は、前記デフロック部材の移動方向に対して略平行に延びるように形成されるものである。
【0013】
請求項5においては、前記可動部材は、前記デフロック部材及び前記作業動力切替部材を一方向に移動させることで、前記デフロック部材を前記差動禁止状態へ切り替えると共に前記作業動力切替部材を前記動力伝達状態に切り替えることが可能であり、前記デフロック部材及び前記作業動力切替部材を他方向に移動させることで、前記デフロック部材を前記差動許容状態へ切り替えると共に前記作業動力切替部材を前記動力遮断状態に切り替えることが可能であるものである。
【0014】
請求項6においては、前記可動部材は、前記デフロック部材及び前記作業動力切替部材を前記一方向に移動させる場合、前記作業動力切替部材を前記動力伝達状態に切り替えるよりも前に、前記デフロック部材を前記差動禁止状態に切り替えるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0016】
請求項1においては、部品点数を削減して省スペース化を図ることができる。また、可動部材の強度の低下を抑制することができる。
【0017】
請求項2においては、第一突出部が差動装置から離脱するのを防止することができる。
【0018】
請求項3においては、差動許容状態から差動禁止状態への切り替えをより安定して行うことができる。
【0019】
請求項4においては、第一突出部が差動装置から離脱するのを防止することができる。
【0021】
請求項5においては、操作性を向上させることができる。
【0022】
請求項6においては、差動許容状態から差動禁止状態への切り替えを安定して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の作業機の一実施形態に係る歩行型管理機を示した側面図。
図2】ミッションケースに設けられた軸及びギヤの一部を示した前方斜視図。
図3】同じく、後方斜視図。
図4】同じく、側面図。
図5】クラッチ部材、デフロックシフタ及びスライド機構を示す斜視図。
図6】同じく、側面図。
図7】同じく、正面図。
図8】同じく、前方分解斜視図。
図9】(a)PTOギヤを示す斜視図。(b)同じく、側面図。
図10】(a)PTOシフタを示す斜視図。(b)同じく、側面図。(c)同じく、正面図。
図11】PTOギヤ及びPTOシフタの爪部を示す模式断面図。
図12】(a)デフスプロケットを示す斜視図。(b)同じく、側面図。
図13】(a)デフロックシフタを示す斜視図。(b)同じく、側面図。(c)同じく、正面図。
図14】デフスプロケット及びデフロックシフタの爪部を示す模式断面図。
図15】シフトフォークを示す斜視図。
図16】(a)同じく、側面図。(b)同じく、正面図。
図17】(a)PTOシフタの爪部がPTOギヤの爪部に近接した状態を示す模式断面図。(b)デフスプロケット及びデフロックシフタの爪部の先端部が係合した状態を示す模式断面図。
図18】(a)PTOギヤ及びPTOシフタの爪部が係合した状態を示す模式断面図。(b)デフスプロケット及びデフロックシフタの爪部の基部が係合した状態を示す模式断面図。
図19】(a)PTOギヤ及びPTOシフタの爪部の端面同士が当接した状態を示す模式断面図。(b)図19(a)におけるデフスプロケット及びデフロックシフタの爪部の位置関係を示す模式断面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下では、図1を参照して、本発明の作業機の一実施形態に係る歩行型管理機1について説明する。また、以下では、歩行型管理機1の進行方向を前方向(図中の矢印F方向)、後退方向を後方向(図中の矢印B方向)、作業者が進行方向を見たときの左側を左方向(図中の矢印L方向)、作業者が進行方向を見たときの右側を右方向(図中の矢印R方向)、鉛直上方を上方向(図中の矢印U方向)、鉛直下方を下方向(図中の矢印D方向)として説明する。
【0025】
歩行型管理機1は、機体フレーム2、車輪3、エンジン4、燃料タンク5、ボンネット6、カバー7、ミッションケース8、ロータリ耕耘装置9、クラッチ機構10、ハンドルフレーム11、ハンドル連結部12及び操縦ハンドル13等を具備する。
【0026】
機体フレーム2は、板材を適宜折り曲げて形成される部材である。機体フレーム2は、左右一対の車輪3に支持される。左右一対の車輪3は、後述する差動装置30により差動可能に構成される。エンジン4は、機体フレーム2に載置される。燃料タンク5は、エンジン4の後方に配置される。当該エンジン4及び燃料タンク5は、ボンネット6によって覆われる。エンジン4の側方には、エンジン4の動力をミッションケース8に伝達するクラッチ機構10を覆うカバー7が設けられる。
【0027】
ミッションケース8は、エンジン4からの動力が伝達されることで回転する回転軸8a、並びに回転軸8a及び車軸3aに動力を伝達する複数の軸及びギヤ(図2参照)等を有する。ロータリ耕耘装置9は、回転軸8aに固定される耕耘爪9aと、耕耘爪9aの上部を覆う耕耘カバー9bと、を具備する。クラッチ機構10は、エンジン4からミッションケース8への動力伝達の可否を切り替えるためのものである。本実施形態のクラッチ機構10としては、プーリに巻回されたベルトに張力(テンション)を付与することで動力を伝達可能とする、いわゆるベルトテンションクラッチを想定している。
【0028】
耕耘カバー9bの上方には、ハンドルフレーム11が配置される。ハンドルフレーム11は、操縦ハンドル13を支持するためのフレームである。ハンドルフレーム11は、後上方へ延びるように形成される。ハンドルフレーム11の後上端部には、ハンドル連結部12を介して操縦ハンドル13が取り付けられる。
【0029】
操縦ハンドル13は、作業者が操縦するためのものである。操縦ハンドル13は、操作可能な主クラッチレバー13a及びデフロックレバー13bを具備する。主クラッチレバー13aは、ケーブル(不図示)を介してクラッチ機構10と接続される。デフロックレバー13bは、ケーブル111(図6参照)等を介して後述するスライド機構60と接続される。
【0030】
上述の如く構成された歩行型管理機1は、操縦ハンドル13の主クラッチレバー13aが操作されることで、前記ベルトに張力が付与されてクラッチ機構10が作動される。これにより、エンジン4からの動力がミッションケース8へと伝達される。これによって、歩行型管理機1は、車輪3及び耕耘爪9aを回転させて圃場を耕耘することができる。
【0031】
また、歩行型管理機1は、主クラッチレバー13aの操作が解除されることで、前記ベルトへの張力の付与が停止され、クラッチ機構10の作動が停止される。これにより、車輪3及び耕耘爪9aの回転が停止される。
【0032】
また、歩行型管理機1は、デフロックレバー13bが操作されることで、左右一対の車輪3の差動の可否を切り替えることができる。
【0033】
以下では、図1から図3を参照し、エンジン4から耕耘爪9a(ロータリ耕耘装置9)への動力伝達について簡単に説明する。なお、図2図3及び後述する図4は、ミッションケース8に設けられた軸やギヤ等を示すものである。また、図2から図4では、説明の便宜上、一部のギヤ及び軸を省略している。
【0034】
エンジン4が駆動すると、エンジン4からの動力がクラッチ機構10を介して入力軸21へ伝達される。当該動力は、図2及び図3に示す入力ギヤ21a及び第一中間ギヤ22a等を介して中間軸22へ伝達される。中間軸22へ伝達された動力は、PTOギヤ23等を介してPTO軸24へ伝達され、当該PTO軸24に取り付けられたチェーン24aを介して図1に示す回転軸8aへ伝達される。こうして、エンジン4からの動力が耕耘爪9aへ伝達され、耕耘爪9aを回転させることができる。
【0035】
以下では、図1図2及び図4を参照し、エンジン4から車輪3への動力伝達について簡単に説明する。
【0036】
上述の如く、図1に示すエンジン4からの動力は、入力軸21から中間軸22へ伝達される。中間軸22へ伝達された動力は、図2及び図4に示す第二中間ギヤ22b及び伝達ギヤ25aを介して伝達軸25へ伝達される。当該伝達軸25へ伝達された動力は、伝達軸25に取り付けられた伝達チェーン25bを介して差動装置30へ伝達される。
【0037】
差動装置30は、車輪3の差動を可能とするためのものである。差動装置30は、デフスプロケット31、ピニオンギヤ32及びサイドギヤ33を具備する。デフスプロケット31は、伝達チェーン25bを介して伝達軸25と連結される。ピニオンギヤ32は、デフスプロケット31に支持され、当該デフスプロケット31の回動に伴って一体的に回動可能、かつ、デフスプロケット31に対して相対的に回動(自転)可能に構成される。サイドギヤ33は、車軸3aに支持され、ピニオンギヤ32と歯合する。
【0038】
上述の如く構成される差動装置30のデフスプロケット31には、伝達チェーン25bを介してエンジン4からの動力が伝達される。当該動力は、ピニオンギヤ32及びサイドギヤ33を介して左右一対の車軸3aへ伝達される。こうしてエンジン4からの動力が左右一対の車輪3へ伝達され、車輪3を回転させることができる。また、差動装置30は、車輪3の負荷に応じてピニオンギヤ32がデフスプロケット31に対して回動(自転)することで、車輪3を差動させて歩行型管理機1を旋回させ易くすることができる。
【0039】
歩行型管理機1では、上述した耕耘爪9aへの動力伝達の可否と、差動装置30による差動の可否とを切り替え可能に構成されている。以下、具体的に説明する。
【0040】
図3及び図5に示すように、歩行型管理機1は、PTOシフタ40、デフロックシフタ50及びスライド機構60を具備する。なお、図5以降の図面には、差動の可否及び動力伝達の可否の切り替えに関連する部材のみを適宜記載している。
【0041】
PTOシフタ40は、耕耘爪9aへの動力伝達の可否を切り替えるためのものである。PTOシフタ40は、後述するように、PTOギヤ23と係合する又は係合を解除することで、動力伝達の可否を切り替えることができる。以下ではまず、PTOギヤ23の構成について説明し、その後にPTOシフタ40の構成を説明する。また、以下では、図5及び図7に示すようなPTOギヤ23とPTOシフタ40とが係合していない状態を基準としてPTOギヤ23及びPTOシフタ40の構成を説明する。
【0042】
図7から図9に示すように、PTOギヤ23は、軸線方向を左右方向(PTO軸24の軸線方向に平行な方向)に向けた略筒状に形成される。PTOギヤ23は、左部、左右中途部及び右部で径が異なる段付きの円筒状に形成される。PTOギヤ23は、PTO軸24に相対回転可能に支持される。PTOギヤ23は、対向面23a及び爪部23bを具備する。
【0043】
対向面23aは、PTOシフタ40と対向する面である。対向面23aは、PTOギヤ23の内側に形成される。また、対向面23aは、右方を向くように形成される。
【0044】
爪部23bは、PTOシフタ40と係合可能な部分である。図9及び図11に示すように、爪部23bは、対向面23aから右方(PTOシフタ40側)へ向けて突出するように形成される。爪部23bは、略直方体状に形成される。爪部23bは、PTOギヤ23の周方向に間隔をあけて複数(本実施形態では3個)形成される。
【0045】
図8及び図10に示すように、PTOシフタ40は、軸線方向を左右方向に向けた略筒状に形成される。PTOシフタ40は、左右中途部の外径が左右両端部の外径よりも小さい段付きの円筒状に形成される。PTOシフタ40は、PTOギヤ23に右方から進入可能に形成される。PTOシフタ40は、対向面41、爪部42及び被係合部43を具備する。
【0046】
対向面41は、PTOギヤ23の対向面23aと対向する面である。具体的には、対向面41は、PTOシフタ40の左側面である。
【0047】
爪部42は、PTOギヤ23の爪部23bと係合可能な部分である。図10及び図11に示すように、爪部42は、対向面41から左方(PTOギヤ23側)へ向けて突出するように形成される。爪部42は、略直方体状に形成される。爪部42は、PTOシフタ40の周方向に間隔をあけて複数(本実施形態では3個)形成される。複数の爪部42の間隔は、PTOギヤ23の複数の爪部23bの間隔と略同一となるように設定される。
【0048】
被係合部43は、後述するシフトフォーク120(図8参照)と係合される部分である。被係合部43は、PTOシフタ40の左右中途部に形成される。被係合部43は、他の部分よりも外径が小さくなるように形成される。
【0049】
図5及び図7に示すように、PTOシフタ40は、PTO軸24の右端部に支持される。当該PTOシフタ40は、PTO軸24にスプライン嵌合されること等により、PTO軸24に対して左右方向へ相対的に移動可能、かつPTO軸24と一体的に回転可能に構成される。PTOシフタ40は、PTOギヤ23の右方に配置される。PTOシフタ40の対向面41は、PTOギヤ23の対向面23aと対向する(図11参照)。
【0050】
上述の如く構成されるPTOシフタ40は、左右方向へ移動することで耕耘爪9aへの動力伝達の可否を切り替えることができる。具体的には、PTOシフタ40は、図5及び図7に示す状態から左方へ移動することでPTOギヤ23に近接し、当該PTOギヤ23内に進入する。当該PTOシフタ40の爪部42は、PTOギヤ23の爪部23bと噛み合う。具体的には、PTOシフタ40の爪部42は、PTOギヤ23の爪部23bの周方向における一側に配置される(図18(a)参照)。
【0051】
こうして、PTOシフタ40は、PTOギヤ23の爪部23bに対して自身の爪部42が当接(係合)し、PTOギヤ23の回転に伴って一体的に回転する。PTO軸24はPTOシフタ40と一体的に回転し、チェーン24aを介してエンジン4からの動力が耕耘爪9aへと伝達される。以下では、このような耕耘爪9aへ動力を伝達可能な状態を「動力伝達状態」と称する。
【0052】
また、PTOシフタ40は、右方へ移動することで、図11に示すように、爪部42がPTOギヤ23の爪部23bから離間し、当該爪部23bとの係合を解除する。こうして耕耘爪9aへの動力伝達が遮断される。以下では、このような耕耘爪9aへ動力を伝達不能な状態を「動力遮断状態」と称する。
【0053】
図5及び図7に示すデフロックシフタ50は、車輪3の差動の可否を切り替えるためのものである。デフロックシフタ50は、後述するように、差動装置30のデフスプロケット31と係合する又は係合を解除することで、差動の可否を切り替えることができる。以下ではまず、デフスプロケット31の構成について説明し、その後にデフロックシフタ50の構成を説明する。また、以下では、図5及び図7に示すようなデフスプロケット31とデフロックシフタ50とが係合していない状態を基準としてデフスプロケット31及びデフロックシフタ50の構成を説明する。
【0054】
図7図8及び図12に示すように、デフスプロケット31は、板面を左右方向に向けた略円板状に形成される。デフスプロケット31は、例えば鍛造等によって製造される。デフスプロケット31は、対向面31a及び爪部31bを具備する。
【0055】
対向面31aは、デフロックシフタ50と対向する面である。具体的には、対向面31aは、デフスプロケット31の右側面である。
【0056】
爪部31bは、デフロックシフタ50と係合可能な部分である。図12及び図14に示すように、爪部31bは、対向面31aから右方(デフロックシフタ50側)へ向けて突出するように形成される。爪部31bは、デフスプロケット31の周方向に間隔をあけて複数(本実施形態では16個)形成される。
【0057】
爪部31bの基部31c(左部)は、略左右方向(デフロックシフタ50の移動方向と略平行な方向)へ延びるように形成される。具体的には、基部31cの周方向における両側面(図14の紙面上側面及び紙面下側面)が、デフスプロケット31の径方向視(図14)において左右方向に略平行となるように形成される。なお、本実施形態の基部31cは、デフスプロケット31の径方向視において、左右方向に対して僅かに(数度程度)傾斜する方向へ延びるように形成される。こうして基部31cは、先端に向かうにつれて僅かに先が細くなる(周方向に沿った幅(図14では紙面上下方向幅)が小さくなる)ように形成される。このように、基部31cの周方向における両側面は、製造時(鍛造時)に型から抜くための勾配を有するように形成される。
【0058】
爪部31bの先端部31d(右端部)は、右方に向かって先鋭状に形成される。具体的には、先端部31dは、デフスプロケット31の径方向視において、周方向における一側(図14では紙面上側)と他側(図14では紙面下側)とが右方に向かうにつれて互いに近接し、先端(右端)が尖るように形成される。
【0059】
図8及び図13に示すように、デフロックシフタ50は、板面を左右方向に向けた略板状に形成される。デフロックシフタ50は、側面視略円環状に形成される。デフロックシフタ50は、例えば鍛造等によって製造される。デフロックシフタ50は、対向面51、爪部52及び被係合部53を具備する。
【0060】
対向面51は、デフスプロケット31の対向面31aと対向する面である。具体的には、対向面51は、デフロックシフタ50の左側面である。
【0061】
爪部52は、デフスプロケット31の爪部31bと係合可能な部分である。図13及び図14に示すように、爪部52は、対向面51から左方(デフスプロケット31側)へ突出するように形成される。爪部52は、デフロックシフタ50の周方向に間隔をあけて複数(本実施形態では16個)形成される。複数の爪部52の間隔は、デフスプロケット31の複数の爪部31bの間隔と略同一となるように設定される。
【0062】
爪部52は、デフスプロケット31の爪部31bと略同一形状に形成される。すなわち、爪部52の基部52a(右部)は、略左右方向(デフロックシフタ50の移動方向と略平行な方向)へ延びるように形成される。こうして基部52aの周方向における両側面(図14の紙面上側面及び紙面下側面)が、デフロックシフタ50の径方向視において左右方向に略平行となるように形成される。爪部52の基部52aの突出幅(左右方向幅)は、デフスプロケット31の爪部31bの基部31cの突出幅と略同一となるように形成される。爪部52の基部52aは、デフロックシフタ50の径方向視において、左右方向に対して僅かに(数度程度)傾斜する方向へ延びるように形成される。爪部52の基部52aの左右方向に対する傾斜角度は、デフスプロケット31の爪部31bの基部31cの傾斜角度と略同一の角度となっている。こうして、爪部52の基部52aの周方向における両側面は、製造時(鍛造時)に型から抜くための勾配を有すると共に、デフスプロケット31の爪部31bの基部31cと面で接触可能に形成される。
【0063】
また、爪部52の先端部52b(左端部)は、左方(デフスプロケット31)に向かって先鋭状に形成される。爪部52の先端部52bの突出幅(左右方向幅)は、デフスプロケット31の爪部31bの先端部31dの突出幅と略同一となるように形成される。爪部52の先端部52bは、デフロックシフタ50の径方向視において、周方向における一側(図14では紙面上側)と他側(図14では紙面下側)とが左方に向かうにつれて互いに近接し、先端(左端)が尖るように形成される。爪部52の先端部52bの左右方向に対する傾斜角度は、デフスプロケット31の爪部31bの先端部31dの傾斜角度と略同一の角度となっている。こうして、爪部52の先端部52bは、デフスプロケット31の爪部31bの先端部31dと面で接触可能に形成される。
【0064】
被係合部53は、シフトフォーク120(図8参照)と係合される部分である。被係合部53は、PTOシフタ40の左右中途部に形成される。被係合部53は、他の部分よりも外径が小さくなるように形成される。
【0065】
図5及び図6に示すように、デフロックシフタ50は、右側の車軸3aに支持されて、デフスプロケット31の右方に配置される。こうしてデフロックシフタ50の対向面51は、デフスプロケット31の対向面31aと対向する。デフロックシフタ50は、車軸3aにスプライン嵌合されること等により、車軸3aに対して左右方向へ相対的に移動可能、かつ車軸3aと一体的に回転可能に構成される。また、図6及び図7に示すように、デフロックシフタ50は、PTOシフタ40の左前下方に配置される。
【0066】
上述の如く構成されるデフロックシフタ50は、左右方向(PTOシフタ40の移動方向と平行な方向)へ移動することで差動の可否を切り替えることができる。具体的には、デフロックシフタ50は、図5及び図7に示す状態から左方へ移動することでデフスプロケット31に近接する。当該デフロックシフタ50の爪部52は、デフスプロケット31の爪部31bと噛み合う。具体的には、デフロックシフタ50の爪部52は、デフスプロケット31の爪部31bの周方向における一側に配置される(図18(b)参照)。
【0067】
こうして、デフロックシフタ50は、デフスプロケット31の爪部31bに対して自身の爪部52が当接(係合)し、デフスプロケット31の回転に伴って一体的に回転する。これによって左右一対の車軸3aが一体的に回転し、車輪3の差動が禁止される。以下では、このような差動を禁止した状態を「差動禁止状態」と称する。
【0068】
また、デフロックシフタ50は、右方へ移動することで、図14に示すように、爪部52がデフスプロケット31の爪部31bから離間し、当該爪部31bとの係合を解除する。こうして車輪3の差動が許容される。以下では、このような差動を許容した状態を「差動許容状態」と称する。
【0069】
スライド機構60は、PTOシフタ40及びデフロックシフタ50を動作させるためのものである。図5から図8に示すように、スライド機構60は、シャフト70、ピン80、受け部材90、バネ100、接続部材110及びシフトフォーク120を具備する。
【0070】
シャフト70は、後述するシフトフォーク120を左右方向へ移動可能に支持するためのものである。シャフト70は、軸線方向を左右方向に向けて配置される。シャフト70は、ミッションケース8に回動可能に支持される(不図示)。
【0071】
ピン80は、シャフト70の左右中途部に挿通される。ピン80は、軸線方向をシャフト70の径方向へ向けて配置される。ピン80の軸線方向における一端部及び他端部は、シャフト70の外周から突出するように形成される。
【0072】
受け部材90は、シフトフォーク120を受けるものである。受け部材90は、シャフト70の外径よりも大きな外径を有する略円環状に形成され、シャフト70に形成される溝部(不図示)に嵌め合わされる。受け部材90は、ピン80及びシフトフォーク120の右方に配置される。こうして受け部材90は、シフトフォーク120の右方への移動を規制する(シフトフォーク120を受ける)ことができる。
【0073】
バネ100は、シフトフォーク120を付勢するものである。バネ100は、シフトフォーク120を挟んでピン80の左側に配置され、シフトフォーク120を右方へ付勢する。
【0074】
接続部材110は、シャフト70と図1に示すデフロックレバー13bとを接続するものである。接続部材110は、板面の中途部が屈曲するような略L字状に形成される。接続部材110は、シャフト70の右端部に固定される。接続部材110は、図6に示すケーブル111及びバネ112を介してデフロックレバー13bと接続され、当該デフロックレバー13bの操作に伴って回動可能に構成される。また、接続部材110は、自身の回動に伴ってシャフト70を回動させることができる。
【0075】
図8図15及び図16に示すシフトフォーク120は、PTOシフタ40及びデフロックシフタ50を一体的に移動させるためのものである。シフトフォーク120は、側面視略L字状に形成される(図16(a)参照)。シフトフォーク120は、円筒部121、デフ接続部122、デフ係合部123、PTO接続部124、PTO係合部125、第一リブ126及び第二リブ127を具備する。
【0076】
円筒部121は、略円筒状に形成される部分である。円筒部121は、軸線方向が左右方向を向くように形成される。円筒部121は、シャフト70が挿通可能に形成される。円筒部121は、切欠部121aを具備する。
【0077】
切欠部121aは、円筒部121を右方から切り欠いたように形成される。切欠部121aの周方向における一端面(図16(b)では上端面)は、左右方向に延びるように形成される。切欠部121aの切欠部121aの周方向における他端面(図16(b)では下端面)は、左方に向かうにつれて一端面側(上側)に近接するように形成される。切欠部121aは、周方向に間隔をあけて2つ形成される。
【0078】
デフ接続部122は、円筒部121と後述するデフ係合部123とを接続する部分である。デフ接続部122は、略板状に形成される。デフ接続部122は、円筒部121から前方へ直線的に延出するように形成される。
【0079】
デフ係合部123は、デフロックシフタ50と係合可能な部分である。デフ係合部123は、デフ接続部122の前端部と連続するように形成される。デフ係合部123は、開口部を前方へ向けた側面視略半円状に形成される。デフ係合部123は、当接部123aを具備する。
【0080】
当接部123aは、デフロックシフタ50と当接する部分である。当接部123aは、他の部分よりも厚みが厚くなるように形成される。当接部123aは、デフ係合部123の周方向に間隔をあけて複数形成される。具体的には、当接部123aは、デフ係合部123の中心C123を挟んで互いに対向する位置(デフ係合部123の周方向における両端部)2箇所と、当該2箇所の間(デフ係合部123の両端部からそれぞれ略90度間隔をあけた位置)1箇所に形成される。すなわち当接部123aは合計3個形成される。
【0081】
PTO接続部124は、円筒部121と後述するPTO係合部125とを接続する部分である。PTO接続部124は、略板状に形成される。PTO接続部124は、側面視において円筒部121から上方へ延出するように形成される(図16(a)参照)。PTO接続部124の下部には、右方へ向けて屈曲するような第一屈曲部124aが形成される。また、第一屈曲部124aの右方は、上方へ向けて屈曲するような第二屈曲部124bが形成される。こうしてPTO接続部124は、下端部に対して上端部が右方へずれるように形成される(図16(b)参照)。
【0082】
PTO係合部125は、PTOシフタ40と係合可能な部分である。PTO係合部125は、PTO接続部124の上端部と連続するように形成される。PTO係合部125は、開口部を前上方へ向けた側面視略半円状に形成される。PTO係合部125は、側面視においてデフ係合部123と重複しないように形成される(図16(a)参照)。より詳細には、PTO係合部125は、側面視においてデフ係合部123の後上方に形成される。当該PTO係合部125の中心C125と円筒部121の中心C121とを結ぶ線L2と、デフ係合部123の中心C123と前記中心C121とを結ぶ線L1とが成す角αは、側面視において90度以下となるように形成される。また、PTO係合部125は、デフ係合部123に対して左右方向に変位した位置に形成される。より詳細には、PTO係合部125は、左右位置がデフ係合部123の左右位置に対して右方にずれるように形成される(図16(b)参照)。PTO係合部125は、当接部125aを具備する。
【0083】
当接部125aは、PTOシフタ40と当接する部分である。当接部125aは、他の部分よりも厚みが厚くなるように形成される。当接部125aは、PTO係合部125の周方向に間隔をあけて複数形成される。具体的には、当接部125aは、PTO係合部125の中心C125を挟んで互いに対向する位置(PTO係合部125の周方向における両端部)2箇所と、当該2箇所の間(PTO係合部125の両端部からそれぞれ略90度間隔をあけた位置)1箇所に形成される。すなわち当接部125aは合計3個形成される。
【0084】
第一リブ126及び第二リブ127は、第一屈曲部124aを補強する部分である。第一リブ126及び第二リブ127は、円筒部121及びPTO接続部124に亘るように形成される。第二リブ127は、PTO接続部124を挟んで第一リブ126の右側に配置される。
【0085】
上述の如く構成されるシフトフォーク120の円筒部121は、図5及び図7に示すように、シャフト70に挿通され、当該シャフト70に左右方向へ相対移動可能に支持される。円筒部121の切欠部121aには、ピン80が当接される。デフ係合部123は、デフロックシフタ50の被係合部53に嵌め合わされる。また、PTO係合部125は、PTOシフタ40の被係合部43に嵌め合わされる。こうしてPTOシフタ40及びデフロックシフタ50は、シフトフォーク120に対して相対的に回動可能、かつ一体的に左右方向へ移動可能にシフトフォーク120と係合される。
【0086】
以下では、上述の如く構成されるスライド機構60の動作を説明する。
【0087】
スライド機構60は、図1に示すデフロックレバー13bの前方及び後方への揺動操作に伴ってPTOシフタ40及びデフロックシフタ50を左右方向へ一体的にスライド移動させ、PTOシフタ40等の状態を切り替えることができる。以下では、デフロックレバー13bを前方へ揺動操作させる場合を例に挙げて説明する。
【0088】
デフロックレバー13bが前方へ揺動操作されると、図6に示すスライド機構60の接続部材110が後上方へ引っ張られ、接続部材110及びシャフト70は、図6における時計回り方向へ回動する。当該回動に伴ってピン80は、シャフト70と同一方向へ回動し、図7に示すシフトフォーク120の切欠部121a(傾斜している部分)を押圧する。これにより、シャフト70の回転運動がシフトフォーク120の直線運動に変換され、シフトフォーク120は、バネ100の付勢力に抗して左方へ移動する。
【0089】
シフトフォーク120の左方への移動に伴って、PTOシフタ40及びデフロックシフタ50は、シフトフォーク120と一体的に左方へ移動する。これにより、PTOシフタ40は、PTOギヤ23に近接する。また、デフロックシフタ50は、デフスプロケット31に近接する。
【0090】
本実施形態では、PTOシフタ40及びデフロックシフタ50のうち、デフロックシフタ50の爪部52が、PTOシフタ40の爪部42よりも先に相手側(デフスプロケット31の爪部31b)と噛み合う位置に到達するように、PTOシフタ40及びデフロックシフタ50の配置や爪部42・52の形状等が適宜設定されている。したがって、シフトフォーク120が左方へ移動すると、図17に示すように、デフロックシフタ50の爪部52の先端部52bは、デフスプロケット31の爪部31bの先端部31dに対して周方向の一側(図17(b)では紙面上側)に配置され、当該先端部31dと当接(係合)する。こうして、デフロックシフタ50は、差動許可状態から差動禁止状態へ切り替えられる。このとき、PTOシフタ40の爪部42は、PTOギヤ23の爪部23bに対して右方に離間する位置に配置される(図17(a)に示す距離A参照)。
【0091】
図17に示す状態からさらにシフトフォーク120が左方へ移動すると、図18に示すように、PTOシフタ40の爪部42は、PTOギヤ23の爪部23bと噛み合う位置に到達する。こうしてPTOシフタ40は、爪部42がPTOギヤ23の爪部23bと係合し、動力遮断状態から動力許容状態へ切り替えられる。このとき、デフロックシフタ50の爪部52は、基部52aがデフスプロケット31の爪部31bの基部31cと係合する。
【0092】
ここで、上述の如く、デフスプロケット31及びデフロックシフタ50の爪部31b・52の先端部31d・52bは、先鋭状に形成されている。このため、デフロックシフタ50の移動時に爪部31b・52の先端部31d・52bの先端同士が当接したとしても、デフスプロケット31及びデフロックシフタ50は、当該先端の形状に倣うように相対的に回動する。これによって、爪部52の先端部52bをデフスプロケット31の爪部31bの先端部31dに確実に係合させることができる。
【0093】
また、デフロックシフタ50は、先端部31d・52bが当接した状態(図17(b)に示す状態)で左方へ移動することで、爪部52の先端部52bでデフスプロケット31の爪部31bの先端部31dを押し込むこととなる。これにより、押し込み力が回転力に変換され、デフロックシフタ50は、爪部31b・52の先端部31d・52bに案内されるように(デフスプロケット31及びデフロックシフタ50が相対回動しながら)左方へ移動する。これによって、デフロックシフタ50は、爪部52をデフスプロケット31の爪部31bに円滑に係合させることができる。
【0094】
また、図19に示すように、仮に、PTOシフタ40の爪部42の右端面がPTOギヤ23の爪部23bの左端面に当接し、シフトフォーク120の左方への移動が規制されたとしても、デフロックシフタ50の爪部52の先端部52bは、デフスプロケット31の爪部31bの先端部31dと噛み合っている。このように、デフロックシフタ50は、PTOシフタ40よりも先に相手側(デフスプロケット31)と係合することで、PTOシフタ40の係合の可否に関わらず、差動禁止状態へ切り替えることができる。なお、PTOギヤ23は、比較的(デフスプロケット31よりも)回転数が高いため、図19(a)のように爪部23b・42の端面同士が当接しても、PTOシフタ40に対して相対回転して端面同士の当接が解除され、爪部23b・42が速やかに係合されることとなる。
【0095】
以上のように、シフトフォーク120は、デフロックレバー13bの前方への揺動操作によって、デフロックシフタ50を左方へ移動させて差動禁止状態へ切り替えると共に、PTOシフタ40を左方へ移動させて動力伝達状態へ切り替えることができる。このような構成によれば、1つの操作具(デフロックレバー13b)の操作により、例えば耕耘作業を好適に行うことができる状態(歩行型管理機1が直進し易く、耕耘爪9aが回動可能な状態)へと容易に切り替えることができる。これによって、操作性を向上させることができる。
【0096】
また、スライド機構60は、PTOギヤ23及びPTOシフタ40の爪部23b・42を係合させた場合に、デフロックシフタ50の爪部52の基部52aとデフスプロケット31の爪部31bの基部31cとを係合させている(図18参照)。こうしてPTOシフタ40を動力伝達状態へ切り替えた場合に、先端部31d・52bよりも左右方向に対する傾斜角度が小さい基部31c・52aを面で接触させることで、デフロックシフタ50とデフスプロケット31との係合が解除されるのを防止することができる。
【0097】
なお、図1に示すデフロックレバー13bが後方へ揺動操作された場合、前方へ揺動操作された場合とは反対方向(図6における反時計回り方向)にシャフト70及びピン80が回動する。この場合、図5及び図7に示すシフトフォーク120は、バネ100によって付勢されて右方へ移動する。
【0098】
PTOシフタ40及びデフロックシフタ50は、シフトフォーク120の右方への移動に伴って一体的に右方へ移動する。こうしてPTOシフタ40及びデフロックシフタ50は、PTOギヤ23及びデフスプロケット31から離間する。
【0099】
このように、シフトフォーク120は、デフロックレバー13bの後方への揺動操作によって、デフロックシフタ50を右方へ移動させて差動許可状態へ切り替えると共に、PTOシフタ40を右方へ移動させて動力遮断状態へ切り替えることができる。このような構成によれば、1つの操作具(デフロックレバー13b)の操作により、例えば通常走行や旋回を好適に行うことができる状態(歩行型管理機1が旋回し易く、耕耘爪9aが回動不能な状態)へと容易に切り替えることができる。これによって、操作性を向上させることができる。
【0100】
また、1つの部品(シフトフォーク120)でPTOシフタ40及びデフロックシフタ50の状態を一括して変更でき、部品点数を削減して省スペース化を図ることができる。
【0101】
以上の如く、本実施形態に係る歩行型管理機1(作業機)は、車輪3の差動を可能とする差動装置30と、前記差動装置30に向かって突出する爪部52(第一突出部)を有し、前記差動装置30に近接する方向(左方)に移動して前記爪部52を前記差動装置30に係合させることで前記差動装置30による前記車輪3の差動を禁止する差動禁止状態と、前記差動装置30から離間する方向(右方)に移動して前記爪部52と前記差動装置30との係合を解除することで前記差動装置30による前記車輪3の差動を許容する差動許容状態と、を切り替え可能なデフロックシフタ50(デフロック部材)と、を具備し、前記爪部52の先端部52bは、前記差動装置30に向かって先鋭状に形成されるものである。
【0102】
このように構成することにより、爪部52を差動装置30に係合させる際に先端部52bに倣うようにデフロックシフタ50を移動させ、爪部52を差動装置30に係合させることができる。これにより、差動許容状態から差動禁止状態への切り替えを安定して行うことができる。
【0103】
また、前記爪部52の基部52a(基端部)は、前記デフロックシフタ50の移動方向(左右方向)に対して略平行に延びるように形成されるものである。
【0104】
このように構成することにより、爪部52の基部52aを差動装置30に係合させることで、爪部52が差動装置30から離脱する(係合が解除される)のを防止することができる。
【0105】
また、前記差動装置30は、前記デフロックシフタ50に向かって突出し、前記爪部52と係合可能な爪部31b(第二突出部)を具備し、前記爪部31bの先端部31dは、前記デフロックシフタ50に向かって先鋭状に形成されるものである。
【0106】
このように構成することにより、デフロックシフタ50の爪部52をデフスプロケット31の爪部31bに係合させる際に爪部31b・52の先端部31d・52bに倣うようにデフロックシフタ50を移動させ、差動許容状態から差動禁止状態への切り替えをより安定して行うことができる。
【0107】
また、前記爪部31bの基部31c(基端部)は、前記デフロックシフタ50の移動方向に対して略平行に延びるように形成されるものである。
【0108】
このように構成することにより、デフロックシフタ50の爪部52をデフスプロケット31の爪部31bの基部31cに係合させることで、爪部52が差動装置30から離脱する(係合が解除される)のを防止することができる。
【0109】
また、前記歩行型管理機1は、前記デフロックシフタ50の移動方向と平行な方向に移動することによって、ロータリ耕耘装置9(作業装置)へ動力を伝達可能な動力伝達状態と、前記ロータリ耕耘装置9へ動力を伝達不能な動力遮断状態と、を切り替え可能なPTOシフタ40(作業動力切替部材)と、前記デフロックシフタ50及び前記PTOシフタ40を一体的に移動させることが可能なシフトフォーク120(可動部材)と、をさらに具備するものである。
【0110】
このように構成することにより、部品点数を削減して省スペース化を図ることができる。
【0111】
また、前記シフトフォーク120は、前記デフロックシフタ50及び前記PTOシフタ40を一方向(左方)に移動させることで、前記デフロックシフタ50を前記差動禁止状態へ切り替えると共に前記PTOシフタ40を前記動力伝達状態に切り替えることが可能であり、前記デフロックシフタ50及び前記PTOシフタ40を他方向(右方)に移動させることで、前記デフロックシフタ50を前記差動許容状態へ切り替えると共に前記PTOシフタ40を前記動力遮断状態に切り替えることが可能である。
【0112】
このように構成することにより、操作性を向上させることができる。
【0113】
また、前記シフトフォーク120は、前記デフロックシフタ50及び前記PTOシフタ40を前記一方向に移動させる場合、前記PTOシフタ40を前記動力伝達状態に切り替えるよりも前に、前記爪部52の先端部52bを前記差動装置30と係合させることで前記デフロックシフタ50を前記差動禁止状態に切り替えるものである(図17参照)。
【0114】
このように構成することにより、PTOシフタ40を動力伝達状態へ切り替えられない場合であっても、爪部52の先端部52bを差動装置30と係合させることができる(図19参照)。これにより、差動許容状態から差動禁止状態への切り替えを安定して行うことができる。
【0115】
また、以上の如く、本実施形態に係る歩行型管理機1(作業機)は、車輪3の差動を可能とする差動装置30と、所定方向(左右方向)への移動に伴って、前記差動装置30による前記車輪3の差動を禁止する差動禁止状態と、前記差動装置30による前記車輪3の差動を許容する差動許容状態と、を切り替え可能なデフロックシフタ50(デフロック部材)と、前記所定方向への移動に伴って、ロータリ耕耘装置9(作業装置)へ動力を伝達可能な動力伝達状態と、前記ロータリ耕耘装置9へ動力を伝達不能な動力遮断状態と、を切り替え可能なPTOシフタ40(作業動力切替部材)と、前記デフロックシフタ50及び前記PTOシフタ40を一体的に移動させることが可能なシフトフォーク120(可動部材)と、を具備するものである。
【0116】
このように構成することにより、1つのシフトフォーク120により2つの部材(デフロックシフタ50及びPTOシフタ40)の切り替え動作を一括して実行可能となり、部品点数を削減して省スペース化を図ることができる。
【0117】
また、前記シフトフォーク120は、前記所定方向に沿って移動可能となるように支持される円筒部121(被支持部)と、前記デフロックシフタ50に係合可能なデフ係合部123(第一係合部)と、前記所定方向から見て前記デフ係合部123と重複しないように形成され、前記PTOシフタ40に係合可能なPTO係合部125(第二係合部)と、を具備するものである(図16(a)参照)。
【0118】
このように、デフ係合部123とPTO係合部125を側面視で(所定方向から見て)重複しないように配置することで、デフ係合部123とPTO係合部125とを左右方向(所定方向)に近づけて配置可能となる。こうして、互いの干渉を避けながらシフトフォーク120のコンパクト化が図り易くなる。
【0119】
また、前記所定方向から見て、前記デフ係合部123と前記円筒部121とを結ぶ直線L1と、前記PTO係合部125と前記円筒部121とを結ぶ直線L2の成す角αは、90度以下となるように形成されているものである(図16(a)参照)。
【0120】
このように構成することにより、デフ係合部123及びPTO係合部125を側面視で(所定方向から見て)比較的近い位置に配置して、形状のコンパクト化を図ることができる。
【0121】
また、前記デフ係合部123と前記PTO係合部125は、前記所定方向に沿って互いに変位した位置に形成されているものである(図16(b)参照)。
【0122】
このように構成することにより、デフ係合部123及びPTO係合部125を側面視で(所定方向から見て)近い位置に配置しても、互いの干渉を避けることが可能となる。こうして、互いの干渉を避けながらシフトフォーク120のコンパクト化が図り易くなる。
【0123】
また、前記シフトフォーク120は、前記円筒部121と前記デフ係合部123とを接続するデフ接続部122(第一接続部)と、前記円筒部121と前記PTO係合部125とを接続するPTO接続部124(第二接続部)と、をさらに具備し、前記デフ接続部122及び前記PTO接続部124の少なくとも一方(PTO接続部124)は、屈曲するように形成された第一屈曲部124a及び第二屈曲部124bと、前記第一屈曲部124aを補強するように形成された第一リブ126及び第二リブ127と、を具備するものである。
【0124】
このように構成することにより、第一リブ126及び第二リブ127によりシフトフォーク120の強度の低下を抑制することができる。
【0125】
また、前記シフトフォーク120は、前記デフロックシフタ50及び前記PTOシフタ40を一方向(左方)に移動させることで、前記デフロックシフタ50を前記差動禁止状態へ切り替えると共に前記PTOシフタ40を前記動力伝達状態に切り替えることが可能であり、前記デフロックシフタ50及び前記PTOシフタ40を他方向(右方)に移動させることで、前記デフロックシフタ50を前記差動許容状態へ切り替えると共に前記PTOシフタ40を前記動力遮断状態に切り替えることが可能である。
【0126】
このように構成することにより、操作性を向上させることができる。
【0127】
また、前記シフトフォーク120は、前記デフロックシフタ50及び前記PTOシフタ40を前記一方向に移動させる場合、前記PTOシフタ40を前記動力伝達状態に切り替えるよりも前に、前記デフロックシフタ50を前記差動禁止状態に切り替えるものである(図17参照)。
【0128】
このように構成することにより、PTOシフタ40を動力伝達状態へ切り替えられない場合であっても、デフロックシフタ50を差動禁止状態へ切り替えることができる(図19参照)。これにより、差動許容状態から差動禁止状態への切り替えを安定して行うことができる。
【0129】
なお、本実施形態に係る歩行型管理機1は、作業機の実施の一形態である。
また、本実施形態に係る爪部52は、第一突出部の実施の一形態である。
また、本実施形態に係るデフロックシフタ50は、デフロック部材の実施の一形態である。
また、本実施形態に係る爪部31bは、第二突出部の実施の一形態である。
また、本実施形態に係るロータリ耕耘装置9は、作業装置の実施の一形態である。
また、本実施形態に係るPTOシフタ40は、作業動力切替部材の実施の一形態である。
また、本実施形態に係るシフトフォーク120は、可動部材の実施の一形態である。
また、本実施形態に係る円筒部121は、被支持部の実施の一形態である。
また、本実施形態に係るデフ係合部123は、第一係合部の実施の一形態である。
また、本実施形態に係るPTO係合部125は、第二係合部の実施の一形態である。
また、本実施形態に係るデフ接続部122は、第一接続部の実施の一形態である。
また、本実施形態に係るPTO接続部124は、第二接続部の実施の一形態である。
【0130】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【0131】
例えば、作業機は、歩行型管理機1であったが、作業機の種類はこれに限定されるものではなく、例えば、収穫機、草刈機等であってもよい。
【0132】
また、デフスプロケット31及びデフロックシフタ50の爪部31b・52の基部31c・52aは、左右方向に対して僅かに傾斜するように形成されたが、基部31c・52aの形状は特に限定されるものではない。例えば、基部31c・52aは、左右方向に平行に延出するように形成されていてもよい。また、基部31c・52aは、必ずしも左右方向と略平行な方向に延出する必要はなく、例えば、先端部31d・52bと同程度の勾配を有するものであってもよい。すなわち、爪部31b・52は、略V字状に形成されるものであってもよい。
【0133】
また、デフスプロケット31の爪部31bは、デフロックシフタ50の爪部52と略同一形状に形成されるものとしたが、爪部31bの形状は特に限定されるものではなく、任意の形状とすることができる。
【0134】
また、シフトフォーク120は、左方への移動によりPTOシフタ40を動力伝達状態へ切り替えると共にデフロックシフタ50を差動禁止状態へ切り替え、右方への移動によりPTOシフタ40を動力遮断状態へ切り替えると共にデフロックシフタ50を差動許容状態へ切り替えたが、シフトフォーク120の移動方向と、動力伝達状態、動力遮断状態、差動禁止状態及び差動許容状態の切り替えと、の関係は、特に限定されるものでない。
【0135】
また、デフロックシフタ50の爪部52は、PTOシフタ40の爪部42がPTOギヤ23と係合する前にデフスプロケット31の爪部31bと係合したが(図17参照)、爪部52がデフスプロケット31と係合するタイミングは特に限定されるものではない。例えば、デフロックシフタ50は、PTOシフタ40がPTOギヤ23と係合するのと同じタイミングで、デフスプロケット31と係合してもよい。
【0136】
また、シフトフォーク120のデフ係合部123及びPTO係合部125の位置関係は、特に限定されるものではない。すなわち、デフ係合部123は、PTO係合部125と側面視で重複しないように形成されたが(図16(a)参照)、これに限定されるものではなく、デフロックシフタ50及びPTOシフタ40の配置等に応じて任意に変更可能である。また、デフ係合部123は、PTO係合部125に対して左右方向に変位した位置に形成されたが(図16(b)参照)、これに限定されるものではなく、デフロックシフタ50の配置等に応じて任意に変更可能である。
【0137】
また、デフ係合部123と円筒部121とを結ぶ直線L1と、PTO係合部125と円筒部121とを結ぶ直線L2との成す角αは、側面視で90度以下となるように形成されたが(図16(a)参照)、これに限定されるものではなく、任意の角度とすることができる。
【0138】
また、シフトフォーク120は、必ずしも第一リブ126及び第二リブ127を具備する必要はない。
【符号の説明】
【0139】
1 歩行型管理機(作業機)
3 車輪
30 差動装置
50 デフロックシフタ(デフロック部材)
52 爪部(第一突出部)
52b 先端部
図1
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