IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本製紙株式会社の特許一覧

特許7402154セルロースナノファイバー分散液の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】セルロースナノファイバー分散液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/04 20060101AFI20231213BHJP
   D21H 11/20 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
C08B15/04
D21H11/20
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020505716
(86)(22)【出願日】2019-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2019006001
(87)【国際公開番号】W WO2019176465
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-09-07
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2018046229
(32)【優先日】2018-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112427
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 芳洋
(72)【発明者】
【氏名】村松 利一
(72)【発明者】
【氏名】渡部 啓吾
(72)【発明者】
【氏名】重見 淳之
【合議体】
【審判長】井上 典之
【審判官】瀬良 聡機
【審判官】宮崎 大輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/57710(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
CAPLUS,REGISTRY
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)、(B)の工程を有することを特徴とする、化学変性したセルロースから透明度の高いセルロースナノファイバー分散液を製造するセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
工程(A):シングルディスクタイプのリファイナーのファインバータイププレートを用いて、 前記リファイナーのプレートの回転せん断速度を100(1/ms)以上、前記化学変性したセルロースの処理速度を11.6m 3 /hr以下、及び前記プレートの周速を30.7m/s以上とし、叩解処理時の濃度が5~10%である前記化学変性したセルロースを叩解処理する予備解繊工程、
工程(B):前記予備解繊工程(A)で得られたセルロースを1MPa~400MPaの処理圧での高圧式分散機による処理で解繊するである本解繊工程。
【請求項2】
前記予備解繊工程(A)において、前記プレートのクリアランスが0.01~0.4mmであることを特徴とする請求項1記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少ない電力消費量で製造される、透明度の高いセルロースナノファイバー分散液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースを微細化して得られたセルロースナノファイバーは、1~100nm程度のナノレベルの繊維径を有する繊維であり、その分散液は高い透明性を有している。このため透明性を求められる用途、例えば光学フィルム、フィルム用のコーティング剤、ガラスへの複合化等への応用が期待される。そのため、セルロースナノファイバーの製造方法に関して種々の検討が行われている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-1728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のセルロースナノファイバーの製造方法では、一般的に超高圧ホモジナイザーのようなせん断力の強い分散機により複数回、微細化の処理を行うため、製造に莫大な電力を使用する。また、超高圧ホモジナイザーは、非常に細い間隙に、サンプルを押し込み高圧とするため、パルプのような大きな繊維を処理する場合、詰まりなどを発生させ、非常に生産性、作業性が劣ることなどが問題であった。
【0005】
本発明は、少ない電力消費量で、透明度の高いセルロースナノファイバー分散液を効率よく製造するセルロースナノファイバー分散液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の(1)~(7)を提供する。
【0007】
(1)下記(A)、(B)の工程を有することを特徴とする、化学変性したセルロースから透明度の高いセルロースナノファイバー分散液を製造するセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
工程(A):シングルディスクタイプのリファイナーを用いて前記化学変性したセルロースを叩解処理する予備解繊工程、
工程(B):前記予備解繊工程(A)で得られたセルロースを1MPa~400MPaの処理圧での高圧式分散機による処理で解繊する本解繊工程。
【0008】
(2)前記予備解繊工程(A)において、前記リファイナーで使用するプレートは、粘状叩解用プレート、ファインバータイププレート、原料流路を塞ぐ構造を有するプレート、砥石プレート、溝の無い平らな金属プレートの何れかであることを特徴とする(1)記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
【0009】
(3)前記予備解繊工程(A)において、前記化学変性したセルロースの処理速度が30m3/hr以下であることを特徴とする(1)または(2)記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
【0010】
(4)前記予備解繊工程(A)において、前記化学変性したセルロースの処理時の濃度が2.5~15質量%であることを特徴とする(1)~(3)の何れかに記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
【0011】
(5)前記予備解繊工程(A)において、前記プレートのクリアランスが0.01~0.4mmであることを特徴とする(2)~(4)の何れかに記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
【0012】
(6)前記予備解繊工程(A)において、前記プレートの周速が24.5m/s以上であることを特徴とする(2)~(5)の何れかに記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
【0013】
(7)前記予備解繊工程(A)において、前記プレートの回転のせん断速度が100(1/ms)以上であることを特徴とする(2)~(6)の何れかに記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、少ない電力消費量で、透明度の高いセルロースナノファイバー分散液を効率よく製造する方法を提供することができる。また、本発明によれば、化学変性したセルロースをナノファイバー化する本解繊工程において、生産性を悪化させる解繊機での詰まりの発生を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のセルロースナノファイバー分散液の製造方法は、工程(A):シングルディスクタイプのリファイナーを用いて化学変性したセルロースを叩解処理する予備解繊工程、及び、工程(B):前記予備解繊工程(A)で得られたセルロースを1MPa~400MPaの処理圧での高圧式分散機による処理で解繊する本解繊工程、を有することを特徴とする。
【0016】
本発明は、従来の叩解装置による機械的叩解処理による予備解繊と、本解繊とを組み合わせることにより、各々異なる機構によってセルロース繊維の解繊が行われるため、消費電力を抑えながら、透明度の高いセルロースナノファイバー分散液を製造することができる。
【0017】
本発明により透明度の高いセルロースナノファイバー分散液が得られる理由は以下のように推察される。予備解繊では、原料となる化学変性したセルロースの微細化が進み、また、セルロース繊維の外側がほぐされた状態になる。そのため、その後の本解繊で超高圧ホモジナイザー等のせん断エネルギーがセルロースに作用しやすくなり、効率的に透明度の高いセルロースナノファイバー分散液を製造することができる。
【0018】
(1)セルロース原料
本発明において、セルロース原料とは、セルロースを主体とした様々な形態の材料をいい、パルプ(晒又は未晒木材パルプ、晒又は未晒非木材パルプ、精製リンター、ジュート、マニラ麻、ケナフ等の草本由来のパルプなど)、酢酸菌等の微生物によって生産されるセルロース等の天然セルロース、セルロースを銅アンモニア溶液、モルホリン誘導体等の何らかの溶媒に溶解した後に紡糸された再生セルロース、及び上記セルロース原料に加水分解、アルカリ加水分解、酵素分解、爆砕処理、振動ボールミル等の機械的処理等をすることによってセルロースを解重合した微細セルロースなどが例示される。
【0019】
(2)セルロースの化学変性工程
(酸化)
本発明において、セルロース原料の酸化は公知の方法を用いて行うことができ、特に限定されるものではないが、セルロースナノファイバーの絶乾質量に対して、カルボキシル基の量が0.5mmol/g~3.0mmol/gになるように調整することが好ましい。
【0020】
その一例として、セルロースをN-オキシル化合物、及び、臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で酸化剤を用いて水中で酸化することにより得ることができる。この酸化反応により、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、表面にアルデヒド基と、カルボキシル基またはカルボキシレート基を有するセルロース系ファイバーを得ることができる。反応時のセルロースの濃度は特に限定されないが、5質量%以下が好ましい。N-オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。N-オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。
【0021】
N-オキシル化合物の使用量は、原料となるセルロースを酸化できる触媒量であれば特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.01~10mmolが好ましく、0.02~1mmolがより好ましく、0.05~0.5mmolがさらに好ましい。また、反応系に対し0.1~4mmol/L程度がよい。
【0022】
臭化物とは臭素を含む化合物であり、その例には、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属が含まれる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、その例には、ヨウ化アルカリ金属が含まれる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。臭化物およびヨウ化物の合計量は、例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.1~100mmolが好ましく、0.1~10mmolがより好ましく、0.5~5mmolがさらに好ましい。
【0023】
酸化剤としては、公知のものを使用でき、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などを使用できる。中でも、安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムは好ましい。酸化剤の適切な使用量は、例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.5~500mmolが好ましく、0.7~50mmolがより好ましく、1~25mmolがさらに好ましく、3~10mmolが最も好ましい。また、例えば、N-オキシル化合物1molに対して1~40molが好ましい。
【0024】
セルロースの酸化工程は、比較的温和な条件であっても反応を効率よく進行させることができる。よって、反応温度は4~40℃が好ましく、また15~30℃程度の室温であってもよい。反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHの低下が認められる。酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを8~12、好ましくは10~11程度に維持することが好ましい。反応媒体は、取扱い性の容易さや、副反応が生じにくいこと等から水が好ましい。
【0025】
酸化反応における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5~6時間、例えば、1~4時間程度である。また、酸化反応は、2段階に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られた酸化セルロースを、再度、同一または異なる反応条件で酸化させることにより、1段目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化させることができる。
【0026】
カルボキシル化(酸化)方法の別の例として、オゾンを含む気体とセルロース原料とを接触させることにより酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、グルコピラノース環の少なくとも2位及び6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。オゾンを含む気体中のオゾン濃度は、50~250g/m3であることが好ましく、70~220g/m3であることがより好ましい。セルロース原料に対するオゾン添加量は、セルロース原料の固形分を100質量部とした際に、0.1~30質量部であることが好ましく、5~30質量部であることがより好ましい。オゾン処理温度は、0~50℃であることが好ましく、20~50℃であることがより好ましい。オゾン処理時間は、特に限定されないが、1~360分程度であり、30~300分程度が好ましい。オゾン処理の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度に酸化及び分解されることを防ぐことができ、酸化セルロースの収率が良好となる。オゾン処理を施した後に、酸化剤を用いて、追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物や、酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸等が挙げられる。例えば、これらの酸化剤を水またはアルコール等の極性有機溶媒中に溶解して酸化剤溶液を作成し、溶液中にセルロース原料を浸漬させることにより追酸化処理を行うことができる。
【0027】
セルロース系ファイバーのカルボキシル基、カルボキシレート基、アルデヒド基の量は、上記した酸化剤の添加量、反応時間をコントロールすることで調整することができる。カルボキシル基量の測定方法は例えば、酸化セルロースの0.5質量%スラリー(水分散液)60mLを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出することができる。
カルボキシル基量〔mmol/g酸化セルロース又はセルロースナノファイバー〕
=a〔mL〕×0.05/酸化セルロース質量〔g〕
【0028】
(カルボキシメチル化)
本発明において、セルロース原料のカルボキシメチル化は公知の方法を用いて行うことができ、特に限定されるものではないが、セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル基置換度が0.01~0.50となるように調整することが好ましい。その一例として次のような製造方法を挙げることができるが、従来公知の方法で合成してもよく、市販品を使用してもよい。セルロースを発底原料にし、溶媒に3~20質量倍の水及び/又は低級アルコール、具体的にはメタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等の単独、又は2種以上の混合媒体を使用する。なお、低級アルコールの混合割合は、60~95質量%である。マーセル化剤としては、発底原料の無水グルコース残基当たり0.5~20倍モルの水酸化アルカリ金属、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用する。発底原料と溶媒、マーセル化剤を混合し、反応温度0~70℃、好ましくは10~60℃、かつ反応時間15分~8時間、好ましくは30分~7時間、マーセル化処理を行う。その後、カルボキシメチル化剤をグルコース残基当たり0.05~10.0倍モル添加し、反応温度30~90℃、好ましくは40~80℃、かつ反応時間30分~10時間、好ましくは1時間~4時間、エーテル化反応を行う。
【0029】
グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度の測定方法としては、例えば、次の方法を用いることができる。すなわち、1)カルボキシメチル化セルロース繊維(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。2)硝酸メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(CM化セルロース)を水素型CM化セルロースにする。3)水素型CM化セルロース(絶乾)を1.5~2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。4)80%メタノール15mLで水素型CM化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。5)指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定する。6)カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する。
A=[(100×F’-(0.1NのH2SO4)(mL)×F)×0.1]/(水素型CM化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:水素型CM化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F’:0.1NのH2SO4のファクター
F:0.1NのNaOHのファクター
【0030】
(カチオン化)
本発明において、セルロース原料のカチオン化は公知の方法を用いて行うことができ、カチオン化により例えば、アンモニウム、ホスホニウム、スルホニウム、これらアンモニウム、ホスホニウムまたはスルホニウムを有する基をセルロース分子に有することができるが、アンモニウムを有する基が好ましく、特に、四級アンモニウムを含む基が好ましい。具体的なカチオン化の方法としては、特に限定されるものではないが、一例として、セルロース原料にグリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3-クロロ-2ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド又はそのハロヒドリン型などのカチオン化剤と触媒である水酸化アルカリ金属(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)を水及び/又は炭素数1~4のアルコールの存在下で反応させることによって、四級アンモニウムを含む基を有する、カチオン変性されたセルロースを得ることができる。
【0031】
なお、この方法において、得られるカチオン変性されたセルロースのグルコース単位当たりのカチオン置換度は、反応させるカチオン化剤の添加量、水及び/又は炭素数1~4のアルコールの組成比率をコントロールすることによって、調整することができる。ここでいう置換度とは、セルロースを構成する単位構造(グルコピラノース環)あたりの導入された置換基の個数を示す。言い換えると、「導入された置換基のモル数を、グルコピラノース環の水酸基の総モル数で割った値」として定義する。純粋セルロースは単位構造(グルコピラノース環)あたり3個の置換可能な水酸基を有しているため、本発明のセルロース繊維の置換度の理論最大値は3(最小値は0)である。
【0032】
本発明において、カチオン化されたセルロースのグルコース単位当たりのカチオン置換度は0.01~0.40であることが好ましい。セルロースにカチオン置換基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発する。このため、カチオン置換基を導入したセルロースは容易にナノ解繊することができる。なお、グルコース単位当たりのカチオン置換度が0.01より小さいと、十分にナノ解繊することができない。一方、グルコース単位当たりのカチオン置換度が0.40より大きいと、膨潤あるいは溶解するため、繊維形態を維持できなくなり、ナノファイバーとして得られなくなる場合がある。
【0033】
グルコース単位当たりのカチオン置換度は、試料(カチオン変性されたセルロース)を乾燥させた後に、全窒素分析計TN-10(三菱化学)で窒素含有量を測定し、次式により算出することができる。ここで言う置換度とは、無水グルコース単位1モル当たりの置換基のモル数の平均値を表している。
カチオン置換度=(162×N)/(1-151.6×N)
N:窒素含有量
【0034】
(エステル化)
セルロース原料または解繊セルロース繊維をエステル化して、エステル化セルロース繊維またはエステル化セルロースナノファイバーを得る方法は、特に限定されないが例えば、セルロース原料または解繊セルロース繊維に対し化合物Aを反応させる方法が挙げられる。化合物Aについては後述する。
【0035】
セルロース原料または解繊セルロース繊維に対し化合物Aを反応させる方法としては例えば、セルロース原料または解繊セルロース繊維に化合物Aの粉末又は水溶液を混合する方法、セルロース原料または解繊セルロース繊維のスラリーに化合物Aの水溶液を添加する方法等が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高まり、且つエステル化効率が高くなることから、セルロース原料または解繊セルロース繊維又はそのスラリーに化合物Aの水溶液を混合する方法が好ましい。
【0036】
化合物Aとしては例えば、リン酸系化合物(例、リン酸、ポリリン酸)、亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸、これらのエステル等が挙げられる。化合物Aは、塩の形態でもよい。上記の中でも、低コストであり、扱いやすく、またセルロース原料(例、パルプ繊維)のセルロースにリン酸基を導入して、解繊効率の向上が図れるなどの理由から、リン酸系化合物が好ましい。リン酸系化合物は、リン酸基を有する化合物であればよく、例えば、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム等が挙げられる。用いられるリン酸系化合物は、1種、あるいは2種以上の組み合わせでもよい。これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、下記解繊工程で解繊しやすく、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸のナトリウム塩がより好ましく、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムがさらに好ましい。また、反応の均一性が高まり、且つリン酸基導入の効率が高くなることから、エステル化においてはリン酸系化合物の水溶液を用いることが好ましい。リン酸系化合物の水溶液のpHは、リン酸基導入の効率が高くなることから、7以下が好ましい。パルプ繊維の加水分解を抑える観点から、pH3~7がより好ましい。
【0037】
エステル化の方法としては例えば、以下の方法が挙げられる。セルロース原料または解繊セルロース繊維の懸濁液(例えば、固形分濃度0.1~10質量%)に化合物Aを撹拌しながら添加し、セルロースにリン酸基を導入する。セルロース原料または解繊セルロース繊維を100質量部とした際に、化合物Aがリン酸系化合物の場合、化合物Aの添加量はリン元素量として、0.2質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。これにより、エステル化セルロース繊維またはエステル化セルロースナノファイバーの収率をより向上させることができる。上限は500質量部以下が好ましく、400質量部以下がより好ましい。これにより化合物Aの使用量に見合った収率を効率よく得ることができる。従って、0.2~500質量部が好ましく、1~400質量部がより好ましい。
【0038】
セルロース原料または解繊セルロース繊維に対し化合物Aを反応させる際、さらに化合物Bを反応系に加えてもよい。化合物Bを反応系に加える方法としては例えば、セルロース原料または解繊セルロース繊維のスラリー、化合物Aの水溶液、又はセルロース原料もしくは解繊セルロース繊維と化合物Aのスラリーに、化合物Bを添加する方法が挙げられる。
【0039】
化合物Bは特に限定されないが、塩基性を示すことが好ましく、塩基性を示す窒素含有化合物がより好ましい。「塩基性を示す」とは通常、フェノールフタレイン指示薬の存在下で化合物Bの水溶液が桃~赤色を呈すること、または/および化合物Bの水溶液のpHが7より大きいことを意味する。塩基性を示す窒素含有化合物は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、アミノ基を有する化合物が好ましい。アミノ基を有する化合物として例えば、尿素、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。この中でも低コストで扱いやすい点で、尿素が好ましい。化合物Bの添加量は、2~1000質量部が好ましく、100~700質量部がより好ましい。反応温度は0~95℃が好ましく、30~90℃がより好ましい。反応時間は特に限定されないが、通常1~600分程度であり、30~480分が好ましい。エステル化反応の条件がこれらのいずれかの範囲内であると、セルロースが過度にエステル化されて溶解しやすくなることを抑制することができ、リン酸エステル化セルロースの収率を向上させることができる。
【0040】
セルロース原料または解繊セルロース繊維に化合物Aを反応させた後、通常はエステル化セルロース繊維またはエステル化セルロースナノファイバーの懸濁液が得られる。エステル化セルロース繊維またはエステル化セルロースナノファイバーの懸濁液は必要に応じて脱水される。脱水後には加熱処理を行うことが好ましい。これにより、セルロース原料または解繊セルロース繊維の加水分解を抑えることができる。加熱温度は、100~170℃が好ましく、加熱処理の際に水が含まれている間は130℃以下(更に好ましくは110℃以下)で加熱し、水を除いた後100~170℃で加熱処理することがより好ましい。
【0041】
リン酸エステル化セルロースにおいては、セルロースにリン酸基置換基が導入されており、セルロース同士が電気的に反発する。そのため、リン酸エステル化セルロース繊維は容易にセルロースナノファイバーまで解繊することができる(このようにセルロースナノファイバーとなるまで行う解繊を、ナノ解繊ともいう。)。リン酸エステル化セルロース繊維のグルコース単位当たりのリン酸基置換度は0.001以上が好ましい。これにより、十分な解繊(例えばナノ解繊)が実施できる。リン酸エステル化セルロース繊維のグルコース単位当たりのリン酸基置換度の上限は0.40以下が好ましい。これにより、リン酸エステル化セルロース繊維の膨潤又は溶解を抑制し、セルロースナノファイバーが得られない事態の発生を抑制することができる。従って、リン酸エステル化セルロース繊維のグルコース単位当たりのリン酸基置換度は、0.001~0.40であることが好ましい。また、リン酸エステル化により変性されているセルロースナノファイバー(リン酸エステル化セルロースナノファイバー)のグルコース単位当たりのリン酸基置換度は0.001以上が好ましい。上限は、0.40以下が好ましい。したがって、リン酸エステル化セルロースナノファイバーのグルコース単位当たりのリン酸基置換度は0.001~0.40であることが好ましい。リン酸エステル化セルロース繊維に対して、煮沸後冷水で洗浄する等の洗浄処理がなされることが好ましい。これにより解繊を効率よく行うことができる。
【0042】
なお、このセルロース原料を化学変性させ、変性セルロースを得る工程で使用される反応タンクは特に限定されるものではないが、撹拌羽根を設けたタンク、パルパー、ニーダー、リボン型混合装置、スクリュー型混合装置等を例示することができる。これらの中でも概ね原料濃度3%以下で反応を進める場合は、液体や液状のスラリーの撹拌を行うことができる撹拌羽根を設けたタンクやパルパーを使用することが好ましい。また、概ね原料濃度3%を超える条件で反応を進める場合は、反応物が液状の形態を取らず固形状であるため、それらを混合撹拌できるニーダー、リボン型混合装置、スクリュー型混合装置を使用することが好ましい。
【0043】
(3)脱水・洗浄工程
本発明において、セルロースの化学変性工程で得られた化学変性セルロースの分散液を、脱水処理後に水で洗浄する工程であり、この工程を行うことにより不純物が少ないセルロースナノファイバー分散液を得ることができる。
【0044】
この工程では、遠心分離式、真空脱水式、加圧脱水式のタイプの脱水装置を使用することができる。具体的には、遠心分離式としてバスケット型遠心分離機、デカンタ型遠心分離機など、真空脱水式としてドラム型真空脱水機、水平ベルトフィルターなど、加圧脱水式としてフィルタープレス、チューブプレス、スクリュープレス、ベルトプレス水平ベルトフィルター、ポリディスクフィルター、振動スクリーンなどを挙げることができる。これらの中でも脱水原料に強いせん断力を加えることなく脱水を行うことができるため、加圧脱水式(フィルタープレス、チューブプレス、スクリュープレス)、遠心分離式(バスケット型、デカンタ型)、真空脱水式(ドラム型真空脱水機、水平ベルトフィルター)が好ましい。また、これらの複数を組み合わせて使用することもできる。
【0045】
(4)化学変性セルロースの濃度調整工程
本発明において、予備解繊工程を効率よく行うために、化学変性セルロースの分散液の濃度を2.5質量%~15質量%、より好ましくは3質量%~10質量%に調整する。0.5質量%未満であると変性パルプの存在が少なすぎるため効率的に解繊できない。一方、15質量%を超えると化学変性セルロース分散液の粘度が高すぎて効率的に解繊することができない。
【0046】
(5)予備解繊工程(A)
本発明において、予備解繊の叩解処理で使用される装置はシングルディスクタイプのリファイナーである。シングルディスクタイプのリファイナーは、プレート面の精度が高く、プレートクリアランスを狭めて運転できる。予備解繊工程(A)を行うことによりセルロース繊維の外層をほぐすことや内部のフィブリル化につながり、本解繊工程(B)でセルロースナノファイバーが得やすくなり負荷が低減される。
【0047】
予備解繊工程(A)において、シングルディスクタイプのリファイナーにおける化学変性セルロースの処理速度は、30m3/hr以下である。処理速度を30m3/hr以下とすることにより、透明度の高いセルロースナノファイバー分散液を製造することができる。
【0048】
予備解繊工程(A)において、シングルディスクタイプのリファイナーには、製紙用のプレート(粘状叩解用プレート、ファインバータイププレート)、原料流路を塞ぐ構造を有するプレート(ダム付きプレート)、砥石プレート、溝の無い平らな金属プレートの何れかが用いられる。
【0049】
予備解繊工程(A)で用いるリファイナーのプレートクリアランスは0.01mm~0.4mm、より好ましくは0.1mm~0.3mmである。0.01mm未満だとプレートの摩耗が激しくなり、また0.4mmを超えるとクリアランスが広すぎて処理が進みにくい。また予備解繊工程(A)では、油圧式やエアー式のジャッキを用いてロータ側プレートを移動させクリアランスを調整させる通常のリファイナーを用いても良いが、より好ましくはボールねじ式のクリアランス調整機構を持ったリファイナーを用い、更にレーザー位置測定機構などでプレート間のクリアランスを厳密に制御した方が、効率よく予備解繊を行うことができる。
【0050】
また予備解繊工程(A)において、プレートの周速は、好ましくは24.5m/s以上、より好ましくは30m/s以上である。プレートの周速を24.5m/s以上とすることにより、効率よく予備解繊を行うことができる。また予備解繊工程(A)において、リファイナーのプレートの回転せん断速度は、100(1/ms)以上、より好ましくは、150(1/ms)以上である。
【0051】
ここでプレートの回転せん断速度=(プレートの周速度/プレートクリアランス)である。プレートの回転せん断速度が100(1/ms)未満である場合には、効率よく予備解繊を行うことができない。また、予備解繊工程(A)では、通常のヘッドケース形状のリファイナーを用いても良いが、ヘッドケース内部に滞留する原料を攪拌することによる発熱を防止するため、ヘッドケース内空間を10L以下とした方が良い。また、より好ましくは、ヘッドケース内空間にパルプの冷却のための、冷却水ジャケットを設置することにより、パルプへの熱の影響を抑えながら処理した方が良い。
【0052】
(6)本解繊工程(B)
本発明において、本解繊とは、予備解繊によって得られたセルロースを、高圧式分散機を用いて強力なせん断力を印加して、平均繊維長0.5~5μm、平均繊維幅3~100nmまで解繊を行うことをいう。特に、セルロースナノファイバーを効率よく得るには、化学変性セルロース分散液に1MPa~400MPaの圧力を印加し、かつ強力なせん断力を印加できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。より好ましくは、化学変性セルロース分散液に10MPa~400MPaの圧力を印加し、かつ強力なせん断力を印加できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。この処理により、化学変性セルロースが解繊してセルロースナノファイバーが形成され、かつセルロースナノファイバーが媒体中に分散して、セルロースナノファイバー分散液が製造される。なお媒体としては、取扱い容易性から水を用いることが好ましい。
<平均繊維長及び平均繊維幅の測定方法>
セルロースナノファイバーの平均繊維長及び平均繊維幅は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いてセルロースナノファイバーを観察することで測定することができる。
【実施例
【0053】
次に実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
[実施例1]
(パルプ原料の調整:酸化パルプ)
針葉樹由来の漂白済み未叩解パルプ(日本製紙社製)5g(絶乾)を、TEMPO(東京化成社製)78mg(0.5mmol)と臭化ナトリウム(和光純薬社製)756mg(7.35mmol)を溶解した水溶液500mLに加え、パルプが均一に分散するまで攪拌した。ここに次亜塩素酸ナトリウム(和光純薬社製)2.3mmolを水溶液の形態で加え、次いで、次亜塩素酸ナトリウムをパルプ1g当たり0.23mmol/分の添加速度となるように送液ポンプを用いて徐々に添加し、パルプの酸化を行った。次亜塩素酸ナトリウムの全添加量が22.5mmolとなるまで添加を継続した。反応中は系内のpHは低下するが、3N水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。水酸化ナトリウム水溶液を添加し始めてから(すなわち、酸化反応が開始されてpHの低下が見られた時点から)、添加を終了するまで(すなわち、酸化反応が終了してpHの低下が見られなくなった時点まで)の時間を反応時間とした。この反応液を塩酸にて中性になるまで中和した後、反応後の液をガラスフィルターで濾過し、十分に水洗することで酸化処理したパルプを得た。
【0055】
(酸化パルプのカルボキシル基量の測定)
酸化パルプのカルボキシル基量は、次の方法で測定した。酸化パルプの0.5質量%スラリーを60mL調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出した。
カルボキシル基量〔mmol/g酸化パルプ〕
= a〔mL〕× 0.05/酸化パルプ質量〔g〕
この測定の結果、得られた酸化パルプのカルボキシル基量は1.60mmol/gであった。
【0056】
(酸化パルプの予備解繊)
上記酸化処理を経た酸化パルプのスラリーを相川鉄工製シングルディスクタイプのリファイナーを用いて予備解繊処理を行った。リファイナーは、ファインバータイプのプレートを用い、プレート刃の形状は、刃幅0.8mm、溝幅1.5mm、刃長90mm、刃角度15°とし、プレートクリアランス0.1mmとした。リファイナーによる予備解繊の処理速度を1m3/hr、予備解繊処理に用いた酸化パルプのスラリーの原料濃度を3%(w/v)とし、リファイナーのプレートの周速度を40.2m/s、プレートの回転せん断速度を402.0(1/ms)、リファイナーパス回数を1とした。その結果、予備解繊処理は問題なく操業を行うことができた。予備解繊の消費電力は、0.76kWh/kgであった。
【0057】
(酸化パルプの本解繊)
予備解繊処理を施したパルプスラリーを濃度3%(w/v)にて、超高圧ホモジナイザーによる処理を処理圧140MPaでおこなった。その結果、本解繊処理は問題なく操業を行うことができた。この時の消費電力は1.8kWh/kgであった。また、得られたセルロースナノファイバー分散液を1%(w/v)に希釈後、超音波装置にて脱泡し、紫外可視分光光度計(UV-1800、島津製作所製)の660nmの波長にて測定した透過度(%)、即ち透明度は71.0%であった。
【0058】
[実施例2]
実施例1の実験条件のうち、プレートをファインバータイプのプレートの外周にダムが形成されたものであり、プレート刃の形状が、刃幅0.8mm、溝幅1.0mm、刃長80mm、刃角度15°のものに変更し、処理速度を3m3/hrに変更した以外は実施例1の実験条件と同じ条件で実験を行った。この場合予備解繊、本解繊の両工程とも問題なく操業を行うことができた。予備解繊の消費電力は、0.17kWh/kg、本解繊の消費電力は、1.8kWh/kgであった。また得られたセルロースナノファイバー分散液の透明度は、44.5%であった。
【0059】
[実施例3]
実施例1の実験条件のうち、プレートを砥石プレート(刃なし)に変更し、処理速度を3m3/hrに変更した以外は実施例1の実験条件と同じ条件で実験を行った。この場合予備解繊、本解繊の両工程とも問題なく操業を行うことができた。予備解繊の消費電力は、0.18kWh/kg、本解繊の消費電力は、1.8kWh/kgであった。また得られたセルロースナノファイバー分散液の透明度は、44.1%であった。
【0060】
[実施例4]
実施例1の実験条件のうち、プレートを粘状叩解用プレートであり、プレート刃の形状が、刃幅4.5mm、溝幅3.5-4.5mm、刃長95mm、刃角度10°のものに変更し、プレートクリアランスを0.13mm、処理速度を19.2m3/hrに、プレート周速を24.6m/s、プレートの回転せん断速度を189.2(1/ms)、リファイナーによる処理回数を3とした以外は実施例1の実験条件と同じ条件で実験を行った。この場合予備解繊、本解繊の両工程とも問題なく操業を行うことができた。予備解繊の消費電力は、0.03kWh/kg、本解繊の消費電力は、1.8kWh/kgであった。また得られたセルロースナノファイバー分散液の透明度は、52.3%であった。
【0061】
[実施例5]
実施例1の実験条件のうち、プレートをダム付きタイプ(3段ダム)であり、プレート刃の形状が、刃幅4.0mm、溝幅4.0mm、刃長75-85mm、刃角度0°のものに変更し、処理速度を9.0m3/hrに、プレート周速を24.6m/s、プレートの回転せん断速度を246.0(1/ms)、リファイナーによる処理回数を2とした以外は実施例1の実験条件と同じ条件で実験を行った。この場合予備解繊、本解繊の両工程とも問題なく操業を行うことができた。予備解繊の消費電力は、0.05kWh/kg、本解繊の消費電力は、1.8kWh/kgであった。また得られたセルロースナノファイバー分散液の透明度は、51.6%であった。
【0062】
[実施例6]
実施例1の実験条件のうち、原料濃度を5パーセントに変更した以外は実施例1の実験条件と同じ条件で実験を行った。その結果予備解繊、本解繊の両工程とも問題なく操業を行うことができた。予備解繊の消費電力は、0.65kWh/kg、本解繊の消費電力は、1.8kWh/kgであった。また得られたセルロースナノファイバー分散液の透明度は、69.0%であった。
【0063】
[実施例7]
実施例1の実験条件のうち、処理速度を3m3/hrに変更した以外は実施例1の実験条件と同じ条件で実験を行った。この場合予備解繊、本解繊の両工程とも問題なく操業を行うことができた。予備解繊の消費電力は、0.25kWh/kg、本解繊の消費電力は、1.8kWh/kgであった。また得られたセルロースナノファイバー分散液の透明度は、54.6%であった。
【0064】
[実施例8]
実施例1の実験条件のうち、処理速度を3m3/hrに、原料濃度を5%に変更した以外は実施例1の実験条件と同じ条件で実験を行った。この場合予備解繊、本解繊の両工程とも問題なく操業を行うことができた。予備解繊の消費電力は、0.28kWh/kg、本解繊の消費電力は、1.8kWh/kgであった。また得られたセルロースナノファイバー分散液の透明度は、63.3%であった。
【0065】
[実施例9]
実施例1の実験条件のうち、処理速度を9m3/hrに変更した以外は実施例1の実験条件と同じ条件で実験を行った。この場合予備解繊、本解繊の両工程とも問題なく操業を行うことができた。予備解繊の消費電力は、0.07kWh/kg、本解繊の消費電力は、1.8kWh/kgであった。また得られたセルロースナノファイバー分散液の透明度は、52.7%であった。
【0066】
[実施例10]
実施例1の実験条件のうち、処理速度を9m3/hrに、原料濃度を5%に変更した以外は実施例1の実験条件と同じ条件で実験を行った。この場合予備解繊、本解繊の両工程とも問題なく操業を行うことができた。予備解繊の消費電力は、0.08kWh/kg、本解繊の消費電力は、1.8kWh/kgであった。また得られたセルロースナノファイバー分散液の透明度は、63.5%であった。
【0067】
[実施例11]
実施例1の実験条件のうち、処理速度を15m3/hrに、プレート周速を24.6m/s、プレートの回転せん断速度を246.0(1/ms)、リファイナーによる処理回数を3とした以外は実施例1の実験条件と同じ条件で実験を行った。この場合予備解繊、本解繊の両工程とも問題なく操業を行うことができた。予備解繊の消費電力は、0.03kWh/kg、本解繊の消費電力は、1.8kWh/kgであった。また得られたセルロースナノファイバー分散液の透明度は、57.3%であった。
【0068】
[実施例12]
実施例1の実験条件のうち、プレートクリアランスを0.08mm、処理速度を23.4m3/hrに、プレート周速30.7m/s、プレートの回転せん断速度を383.8(1/ms)、リファイナーによる処理回数を8とした以外は実施例1の実験条件と同じ条件で実験を行った。この場合予備解繊、本解繊の両工程とも問題なく操業を行うことができた。予備解繊の消費電力は、0.03kWh/kg、本解繊の消費電力は、1.8kWh/kgであった。また得られたセルロースナノファイバー分散液の透明度は、63.3%であった。
【0069】
[実施例13]
実施例1の実験条件のうち、原料濃度を7%に変更した以外は実施例1の実験条件と同じ条件で実験を行った。この場合予備解繊、本解繊の両工程とも問題なく操業を行うことができた。予備解繊の消費電力は、0.45kWh/kg、本解繊の消費電力は、1.8kWh/kgであった。また得られたセルロースナノファイバー分散液の透明度は、70.0%であった。
【0070】
[実施例14]
実施例1の実験条件のうち、処理速度を3m3/hrに、プレート周速55.8m/s、プレートの回転せん断速度を558.0(1/ms)に変更した以外は実施例1の実験条件と同じ条件で実験を行った。この場合予備解繊、本解繊の両工程とも問題なく操業を行うことができた。予備解繊の消費電力は、0.57kWh/kg、本解繊の消費電力は、1.8kWh/kgであった。また得られたセルロースナノファイバー分散液の透明度は、67.3%であった。
【0071】
[実施例15]
実施例1の実験条件のうち、処理速度を9m3/hrに、原料濃度を10%に、リファイナーによる処理回数を3とした以外は実施例1の実験条件と同じ条件で実験を行った。この場合予備解繊、本解繊の両工程とも問題なく操業を行うことができた。予備解繊の消費電力は、0.12kWh/kg、本解繊の消費電力は、1.8kWh/kgであった。また得られたセルロースナノファイバー分散液の透明度は、60.2%であった。
【0072】
[実施例16]
実施例1の実験条件のうち、プレートクリアランスを0.22mm、処理速度を11.6m3/hrに、原料濃度を5%、プレート周速30.7m/s、プレートの回転せん断速度を139.5(1/ms)、リファイナーによる処理回数を4とした以外は実施例1の実験条件と同じ条件で実験を行った。この場合予備解繊、本解繊の両工程とも問題なく操業を行うことができた。予備解繊の消費電力は、0.29kWh/kg、本解繊の消費電力は、1.8kWh/kgであった。また得られたセルロースナノファイバー分散液の透明度は、68.0%であった。
【0073】
実施例1~16のリファイナー条件、消費電力、実験結果は表1の通りであった。
【表1】
【0074】
[比較例1]
予備解繊処理を行わず、本解繊の超高圧ホモジナイザーによる処理を処理圧140MPaで1回行った。その結果、本解繊処理においては、分散ノズルに詰まりが発生した。本解繊の消費電力は、1.8kWh/kgであった。また得られたセルロースナノファイバー分散液の透明度は、30.0%であった。
【0075】
[比較例2]
リファイナーのプレートとして、プレート刃の形状が刃幅2.2mm、溝幅3.8-4.8mm、刃長95mm、刃角度0°のカットタイプのプレートを用い、プレートクリアランスを0.1mmとして予備解繊を行おうとしたが、メタルタッチが生じ予備解繊を行うことが出来なかった。
【0076】
[比較例3]
実施例1の実験条件のうち、処理速度を40m3/hrに、リファイナーによる処理回数を3とした以外は実施例1の実験条件と同じ条件で実験を行った。この場合予備解繊、本解繊の両工程とも問題なく操業を行うことができた。予備解繊の消費電力は、0.07kWh/kg、本解繊の消費電力は、1.8kWh/kgであった。また得られたセルロースナノファイバー分散液の透明度は、33%であり低かった。
【0077】
[比較例4]
実施例1の実験条件のうち、原料濃度を16パーセントに、リファイナーによる処理回数を3とした以外は実施例1の実験条件と同じ条件で予備解繊を行うとしたが、サンプルの粘度が高く、操業性が悪く、予備解繊を行うことが出来なかった。
【0078】
[比較例5]
実施例1の実験条件のうち、プレート周速を15m/s、プレートの回転せん断速度を150.0(1/ms)、リファイナーによる処理回数を3とした以外は実施例1の実験条件と同じ条件で実験を行った。この場合予備解繊、本解繊の両工程とも問題なく操業を行うことができた。予備解繊の消費電力は、1.8kWh/kg、本解繊の消費電力は、1.8kWh/kgであった。また得られたセルロースナノファイバー分散液の透明度は、35.2%であり低かった。
【0079】
比較例1~5のリファイナー条件、消費電力、実験結果は表2の通りであった。
【表2】
【0080】
実施例1~16においては、低消費電力で、透明度が高い高品質なセルロースナノファイバー分散液が製造できた。また、予備解繊及び本解繊の操業性は良好で、分散ノズルの詰まりは発生しなかった。更に、求める透明度に応じ予備解繊の回数及び超高圧ホモのパス回数は適宜調整すればよい。
【0081】
これに対して比較例1では、本解繊処理において分散ノズルに詰まりが発生し操業性が不良であった。また得られたセルロースナノファイバー分散液の透明度は、実施例1~16に比較して低いものであった。比較例2では、メタルタッチが発生し予備解繊を行うことが出来なかった。比較例3では、得られたセルロースナノファイバー分散液の透明度は、実施例1~16に比較して低いものであった。比較例4では、サンプルの粘度が高すぎて操業性が悪く、予備解繊を行うことが出来なかった。比較例5では、得られたセルロースナノファイバー分散液の透明度は、実施例1~16に比較して低いものであった。