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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】人工毛髪用繊維および頭飾品
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/90 20060101AFI20231213BHJP
   A41G 3/00 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
D01F6/90 311A
A41G3/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020559893
(86)(22)【出願日】2019-11-20
(86)【国際出願番号】 JP2019045394
(87)【国際公開番号】W WO2020121759
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2018234894
(32)【優先日】2018-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】堀端 篤
(72)【発明者】
【氏名】武井 淳
【審査官】中西 聡
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/092922(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/056629(WO,A1)
【文献】特開2007-332507(JP,A)
【文献】特開2011-246845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F、A41G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリアミドを含有する樹脂組成物で構成される人工毛髪用繊維であって、
前記樹脂組成物が重量平均分子量7万以上15万以下の脂肪族ポリアミド(A)と重量平均分子量4万以上5.5万以下の脂肪族ポリアミド(B)とを含み、
前記人工毛髪用繊維をヘキサフルオロイソプロパノールに溶解したときに得られる溶解成分の重量平均分子量Mwが4.6万以上6.5万未満である人工毛髪用繊維。
【請求項2】
前記樹脂組成物全体に対する前記脂肪族ポリアミド(A)の含有率が20質量%以上80質量%以下であり、前記樹脂組成物全体に対する前記脂肪族ポリアミド(B)の含有率が20質量%以上80質量%以下である請求項に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項3】
前記樹脂組成物が半芳香族ポリアミドをさらに含有し、前記樹脂組成物全体に対する半芳香族ポリアミドの含有率が1質量%以上20質量%以下である請求項1または2に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項4】
前記脂肪族ポリアミドがポリアミド6、ポリアミド66からなる群から選ばれる少なくとも1種以上である請求項1乃至のいずれか1項に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の人工毛髪用繊維を用いた頭飾品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工毛髪用繊維および頭飾品に関する。
【背景技術】
【0002】
人工毛髪用繊維を構成する素材として、ポリアミドがある。特許文献1には、ポリアミドを含有する樹脂組成物を繊維化した人工毛髪用繊維が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-246843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリアミドを原料とした人工毛髪用繊維は、人毛に似た良好な触感をある程度有している。本発明者は、ポリアミドを原料とした人工毛髪用繊維のカールセット性と触感についての関係を鋭意検討したところ、カールセット性を良好にしようとすると、きしみが生じやすくなり触感が低下するという課題があることを見出した。
【0005】
そこで、本発明は、良好なカールセット性と良好な触感とをバランスよく発揮する人工毛髪用繊維に関する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、脂肪族ポリアミドを含有する樹脂組成物で構成される人工毛髪用繊維であって、前記人工毛髪用繊維をヘキサフルオロイソプロパノールに溶解したときに得られる溶解成分の重量平均分子量Mwが4.6万以上6.5万未満である人工毛髪用繊維が提供される。
【0007】
また、本発明によれば、上述した人工毛髪用繊維を用いた頭飾品が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、良好なカールセット性と良好な触感とをバランスよく発揮する人工毛髪用繊維に関する技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0010】
(人工毛髪用繊維)
実施形態に係る人工毛髪用繊維は、脂肪族ポリアミドを含有する樹脂組成物で構成される。人工毛髪用繊維をヘキサフルオロイソプロパノールに溶解したときに得られる溶解成分の重量平均分子量Mwが4.6万以上6.5万未満である。
以下、本実施形態の人工毛髪用繊維について詳細に説明する。
【0011】
本実施形態の人工毛髪用繊維を構成する樹脂組成物に含まれる脂肪族ポリアミドは、芳香環を有さないポリアミドであり、脂肪族ポリアミドとして、ラクタムの開環重合によって形成されるn-ナイロンや、脂肪族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸の共縮重合反応で合成されるn,m-ナイロンが挙げられる。
【0012】
ラクタムの炭素原子数は、6以上12以下が好ましく、6がさらに好ましい。脂肪族ジアミンおよび脂肪族ジカルボン酸の炭素原子数は、それぞれ、6以上12以下が好ましく、6がさらに好ましい。脂肪族ジアミンおよび脂肪族ジカルボン酸は、炭素原子鎖の両末端に官能基(アミノ基又はカルボキシル基)を有するものが好ましいが、官能基は、両末端以外の位置に設けられていてもよい。炭素原子鎖は、直鎖状であることが好ましいが分岐を有していてもよい。脂肪族ポリアミドとしては、たとえば、ポリアミド6およびポリアミド66が挙げられる。
【0013】
具体的には、ポリアミド6として、東レ株式会社製CM1007、CM1017、CM1017XL3、CM1017K、CM1026などが挙げられる。ポリアミド66として、東レ株式会社製CM3007、CM3001-N、CM3006、CM3301L、デュポン株式会社製ザイテル101、ザイテル42A、旭化成ケミカルズ株式会社製レオナ1300S、1500、1700などが挙げられる。
【0014】
本実施形態の樹脂組成物は、重量平均分子量が7万以上15万以下の脂肪族ポリアミド(A)および重量平均分子量が4万以上5.5万以下の脂肪族ポリアミド(B)を含むことが好ましい。脂肪族ポリアミド(B)は相対的に低コストであり、本実施形態の樹脂組成物が脂肪族ポリアミド(B)を含む場合には、人工毛髪用繊維の原料コストを抑制することができる。
【0015】
樹脂組成物全体に対する脂肪族ポリアミド(A)の含有率の下限は20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。脂肪族ポリアミド(A)の含有率の上限は80質量%以下が好ましく、75質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましい。脂肪族ポリアミド(A)の含有率を上記範囲とすることにより、良好なカールセット性と良好な触感とをバランス良く発揮させることができる。
【0016】
また、樹脂組成物全体に対する脂肪族ポリアミド(B)の含有率の下限は20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。脂肪族ポリアミド(B)の含有率の上限は80質量%以下が好ましく、75質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましい。脂肪族ポリアミド(B)の含有率を上記範囲とすることにより、良好なカールセット性と良好な触感とをバランス良く発揮させることができる。
【0017】
また、樹脂組成物に含まれる脂肪族ポリアミド(A)の質量と脂肪族ポリアミド(B)の質量との和に対する脂肪族ポリアミド(A)の質量の割合(%)は、20%以上80%以下が好ましい。脂肪族ポリアミド(A)の質量の上記割合を上記範囲とすることにより、良好なカールセット性と良好な触感とをバランス良く発揮させることができる。
【0018】
樹脂組成物は、半芳香族ポリアミドを含んでもよい。半芳香族ポリアミドとは、脂肪族ポリアミドと脂肪族ジアミンと芳香族ジカルボン酸とを縮合重合した骨格を持つポリアミドである。半芳香族ポリアミドを含むことにより、重量平均分子量が高くなりやすくなる。また、後述する難燃剤を含んだとしても、人工毛髪用繊維の加工性を良好に保持できる。
【0019】
上記の芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、オクタデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸や、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,2-ナフタレンジカルボン酸、およびイソフタル酸等が挙げられる。なかでも、テレフタル酸を主成分として含むことが好ましい。
上記の脂肪族ジアミンとしては、例えば、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、4-メチル-1,8-オクタンジアミン、1,10-デカジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン等の直鎖状脂肪族ジアミンや、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、4-メチル-1,8-オクタンアミン、5-メチル-1,9-ノナンジアミン等の分岐鎖状脂肪族ジアミンや、イソホロンジアミン、ノルボルナンジメチルアミン、トリシクロデカンジメチルアミン等の脂環式ジアミンが挙げられる。なかでも、炭素数が10の脂肪族ジアミンであることが好ましく、1,10-デカジアミンがより好ましい。
【0020】
また、半芳香族ポリアミドとしては、融点が280~350℃であるものが好適である。これにより、毛髪加工時の耐熱性が得られ、触感およびカール性を両立した人工毛髪繊維が得られやすくなる。
【0021】
半芳香族ポリアミド樹脂としては、例えば、ナイロン4T(PA4T)、ナイロン6T(PA6T)、ナイロンMXD6(PAMXD6)、ナイロン9T(PA9T)、ナイロン10T(PA10T)、ナイロン11T(PA11T)、ナイロン12T(PA12T)、ナイロン13T(PA13T)等が挙げられる。半芳香族ポリアミド樹脂は、具体的には、ナイロン4T(PA4T)、ナイロン6T(PA6T)、ナイロンMXD6(PAMXD6)、ナイロン9T(PA9T)、ナイロン10T(PA10T)、ナイロン11T(PA11T)、ナイロン12T(PA12T)、ナイロン13T(PA13T)等が挙げられる。
【0022】
樹脂組成物全体に対する半芳香族ポリアミドの含有率の下限は1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、4質量%以上がさらに好ましい。一方、半芳香族ポリアミドの含有率の上限は20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。半芳香族ポリアミドの含有率を上記範囲とすることにより、後述する難燃剤などの添加剤を含む場合により加工性が低下することを抑制することができる。
【0023】
本実施形態の人工毛髪用繊維のヘキサフルオロイソプロパノール溶解成分の重量平均分子量Mwを特定するものである。かかる重量平均分子量Mwの好ましい測定方法としては、人工毛髪用繊維とヘキサフルオロイソプロパノールとを、25℃で6時間、超音波洗浄機を用いて混合・撹拌した後に得られた溶液を用いて、ゲル浸透クロマトグラフィ(以下、GPCと記す。)により測定することが挙げられる。
【0024】
人工毛髪用繊維をヘキサフルオロイソプロパノールに溶解したときに得られる溶解成分の重量平均分子量Mwの下限は、4.6万以上が好ましく、4.8万以上がより好ましく、5.0万以上がさらに好ましい。一方、当該重量平均分子量Mwの上限は、6.5万未満であり、6.3万以下が好ましく、6.1万以下がより好ましい。
当該重量平均分子量Mwを、上記下限値以上とすることにより、良好な触感を保持しつつ、カールセット性を向上できる。一方、当該重量平均分子量Mwを、上記上限値以下とすることにより、良好なカールセット性を保持しつつ、きしみを低減しやすくなる。また、重量平均分子量Mwを上記範囲とすることにより、良好なカールセット性と良好な触感とをバランス良く発揮させることができる。
なお、人工毛髪用繊維のヘキサフルオロイソプロパノール溶解成分の重量平均分子量Mwを上記の数値範囲内に制御する方法としては、脂肪族ポリアミドの重量平均分子量や脂肪族ポリアミドの組み合わせ等によって調整できる。
また、人工毛髪用繊維のヘキサフルオロイソプロパノール溶解成分の重量平均分子量Mwの測定は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて測定することができる。
【0025】
本実施形態の人工毛髪用繊維のヘキサフルオロイソプロパノール溶解成分の分子量分布は、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)を指標とすることができる。当該重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)は、2.0~3.0が好ましく、2.1~2.9がより好ましく、2.2~2.8がさらに好ましい。
当該当該重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)を、上記数値範囲内とすることで、良好なカールセット性と良好な触感とをバランス良く発揮させることができる。
【0026】
<添加剤>
本実施形態で用いられる樹脂組成物は、必要に応じて添加剤、たとえば、難燃剤、難燃助剤、微粒子、耐熱剤、光安定剤、蛍光剤、酸化防止剤、静電防止剤、顔料、染料、可塑剤、潤滑剤等を含有してもよい。
【0027】
上記の難燃剤としては、臭素系難燃剤、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、および水和金属化合物などが挙げられる。なかでも、脂肪族ポリアミドとの相溶性等の観点から、臭素系難燃剤であることが好ましい。臭素系難燃剤としては、例えば、臭素化エポキシ樹脂及び臭素化フェノキシ樹脂が挙げられる。これらは1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
難燃剤の含有量は、樹脂組成物全体に対して、好ましくは1~20質量%であり、より好ましくは5~15質量%である。
【0028】
(人工毛髪用繊維の製造方法)
実施形態に係る人工毛髪用繊維の製造方法の一例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0029】
まず、上述した脂肪族ポリアミドを含有する樹脂組成物を溶融混練する。溶融混練するための装置としては、種々の一般的な混練機を用いることができる。溶融混練としては、たとえば一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどが挙げられる。これらのうちでは、二軸押出機が、混練度の調整、操作の簡便性の点から好ましい。人工毛髪用繊維は、ポリアミドの種類により適正な温度条件のもと、通常の溶融紡糸法で溶融紡糸することにより製造することができる。
【0030】
脂肪族ポリアミドとしてポリアミド66、半芳香族ポリアミドとしてポリアミド10Tを所定の割合で用いた場合は、押出機、口金、必要に応じてギヤポンプなどの溶融紡糸装置の温度を270℃以上310℃以下として溶融紡糸し、冷却用の水を入れた水槽で冷却し、繊度のコントロールを実施しながら、引取速度を調整して、未延伸糸が得られる。溶融紡糸装置の温度は、脂肪族ポリアミドと半芳香族ポリアミドの添加量の割合に応じて、適宜調整することができる。また、水槽による冷却に関らず、冷風での冷却による紡糸も可能である。冷却水槽の温度、冷風の温度、冷却時間、引取速度は、吐出量および口金の孔数によって適宜調整することができる。
【0031】
溶融紡糸の際、単純な円形のみならず、ノズル孔が特殊形状の紡糸ノズルを用い、人工毛髪繊維の断面形状を繭型、Y型、H型、X型、花びら型等の異形にすることもできる。
【0032】
得られた未延伸糸に対して、繊維の引張強度を向上させるために延伸処理を行う。延伸処理は、未延伸糸を一旦ボビンに巻き取ってから溶融紡糸工程とは別の工程にて延伸する2工程法や、ボビンに巻き取ることなく溶融紡糸工程から連続して延伸する直接紡糸延伸法のいずれの方法によってもよい。また、延伸処理は、1度で目的の延伸倍率まで延伸する1段延伸法、又は2回以上の延伸によって目的の延伸倍率まで延伸する多段延伸法で行なわれる。熱延伸処理を行う場合における加熱手段としては、加熱ローラ、ヒートプレート、スチームジェット装置、温水槽などを使用することができ、これらを適宜併用することもできる。
【0033】
本実施形態の人工毛髪用繊維の繊度の下限は10dtex以上が好ましく、30dtex以上がより好ましく、35dtex以上がさらに好ましい。また、本実施形態の人工毛髪用繊維の繊度の上限は、150dtex以下が好ましく、120dtex以下がより好ましい。
【0034】
以上説明した人工毛髪用繊維によれば、良好なカールセット性と良好な触感とをバランス良く発揮させることができる。
【0035】
特に、人工毛髪用繊維を構成する樹脂組成物が相対的に原料コストが安価な脂肪族ポリアミド(B)を含有する場合には、人工毛髪用繊維の製造コストの低減を図りつつ、良好なカールセット性と良好な触感とをバランス良く発揮させることができる。
【0036】
(頭飾品)
上述した人工毛髪用繊維は頭飾品を構成する繊維として好適に用いられる。頭飾品とは、人の頭部を飾る装飾品であり、具体的には、かつら、部分かつら、ヘアピース、ブレード、エクステンションヘア、ドールヘアー、リボン、ビーズ等である。
【0037】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
以下、参考形態の例を付記する。
1. 脂肪族ポリアミドを含有する樹脂組成物で構成される人工毛髪用繊維であって、
前記人工毛髪用繊維をヘキサフルオロイソプロパノールに溶解したときに得られる溶解成分の重量平均分子量Mwが4.6万以上6.5万未満である人工毛髪用繊維。
2. 前記樹脂組成物が重量平均分子量7万以上15万以下の脂肪族ポリアミド(A)と重量平均分子量4万以上5.5万以下の脂肪族ポリアミド(B)とを含む、1.に記載の人工毛髪用繊維。
3. 前記樹脂組成物全体に対する前記脂肪族ポリアミド(A)の含有率が20質量%以上80質量%以下であり、前記樹脂組成物全体に対する前記脂肪族ポリアミド(B)の含有率が20質量%以上80質量%以下である2.に記載の人工毛髪用繊維。
4. 前記樹脂組成物が半芳香族ポリアミドをさらに含有し、前記樹脂組成物全体に対する半芳香族ポリアミドの含有率が1質量%以上20質量%以下である1.乃至3.のいずれか1つに記載の人工毛髪用繊維。
5. 前記脂肪族ポリアミドがポリアミド6、ポリアミド66からなる群から選ばれる少なくとも1種以上である1.乃至4.のいずれか1つに記載の人工毛髪用繊維。
6. 1.乃至5.のいずれか1つに記載の人工毛髪用繊維を用いた頭飾品。
【実施例1】
【0038】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
吸湿率が1000ppm未満になるように乾燥した脂肪族ポリアミド類および半芳香族ポリアミドが表1に記載された配合比になるようにブレンドを行った。なお、用いた脂肪族ポリアミド類、半芳香族ポリアミドの詳細は以下のとおりであり、特開2008-274086等に記載の公知の製法で得た。
脂肪族ポリアミドA:ナイロン66、重量平均分子量Mw90000、デュポン社製、Zytel 42A
脂肪族ポリアミドB:ナイロン66、重量平均分子量Mw50000、東レ株式会社製、アミランCM3001-N
脂肪族ポリアミドC:ナイロン66、重量平均分子量Mw160000、自社製
脂肪族ポリアミドD:ナイロン66、重量平均分子量Mw60000、自社製
脂肪族ポリアミドE:ナイロン66、重量平均分子量Mw30000、自社製
半芳香族ポリアミド:ナイロン10T、TVESTAMID HO Plus M3000、ダイセルエボニック社製
ブレンドした材料または単独で用いた材料は、φ30mm二軸押出機を用いて混練し、紡糸用の原料ペレットを得た。
【0040】
ついで、吸水率が1000ppm以下になるようにペレットを除湿乾燥した後、φ40mm単軸溶融紡糸機を用いて紡糸し、穴径0.5mm/本のダイスから排出した溶融樹脂を、約30℃の水槽を通して冷却しながら、吐出量と巻き取り速度を調整し、設定繊度の未延伸糸を作成した。φ40mm溶融紡糸機の設定温度は、脂肪族ポリアミド類と半芳香族ポリアミドの添加量の割合に応じて、適宜調整した。
【0041】
得られた未延伸糸を100℃で延伸し、その後、180℃でアニールを行い、所定維度の人工毛髪用繊維を得た。延伸倍率は3倍、アニール時の弛緩率は5%にて行った。アニール時の弛緩率とは、(アニール時の巻き取りローラの回転速度)/(アニール時の送り出しローラの回転速度)で算出される値である。
【0042】
得られた人工毛髪用繊維について、後述する評価方法および基準に従って、重量平均分子量、数平均分子量、触感、およびカールセット性の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0043】
[重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn]
得られた人工毛髪用繊維と、ヘキサフルオロイソプロパノールとを、25℃で6時間、超音波洗浄機を用いて混合・撹拌した後に得られた溶液を用いて、ゲル浸透クロマトグラフィを用いて、以下の測定を行った。
下記設備、条件による測定により重量平均分子量Mwおよび数平均分子量Mnを求めた。
使用装置:ポンプ・・shodexDS-4
カラム・・shodex GPC HFIP-806M×2 + HFIP-803
検出器・・shodex RI-71
溶離液:ヘキサフルオロイソプロパノール(+添加剤CFCOONa(5mmol/L))
前処理:メンブレンフィルタ-(0.2μm)で濾過
濃度:0.2w/v%
注入量:100μL
カラム温度:40℃
流速:1.0ml/分
標準物質:標準ポリメチルメタクリレ-ト(PMMA)
検量線は標準PMMAで作成し、重量平均分子量Mwおよび数平均分子量MnはPMMA換算値で表した。
【0044】
[触感(きしみ性)]
各実施例および各比較例の人工毛髪用繊維の触感(きしみ性)を以下の方法で評価した。
人工毛髪用繊維を長さ250mm、重量20gに束ねた繊維束サンプルを使用し、人工毛髪用繊維処理技術者(実務経験5年以上)10人の手触りによる判定で、次の評価基準で評価した。
◎(優):技術者9人以上が、きしみ性が低いと評価したもの
○(良):技術者の7人又は8人が、きしみ性が低いと評価したもの
×(不可):技術者の6人以下が、きしみ性が低いと評価したもの
なお、人工毛髪用繊維のきしみ性が低いほど、触感が良好となる。
【0045】
[カールセット性]
各実施例および各比較例の人工毛髪用繊維のカールセット性を以下の方法で評価した。
人工毛髪用繊維を長さ50cm、総重量2.0グラムに調整して繊維束を形成し、この繊維束に180℃の鉄製の焼き鏝(鏝の直径1.4cm)に巻いてカールをかけた後、焼き鏝から離して、一方端を固定して吊り下げたときにカールがあるか否かを確認した。カールがなされた状態の定義として、吊り下げた際の人工毛髪用繊維の基端と先端の間隔が、カール前の全長50cmの0.85倍未満(42.5cm未満)になった場合とした。評価前の試料として、評価のばらつきを無くすために、温度23℃、湿度50%で24時間保管した試料を採用した。人工毛髪用繊維のカールセット性について、カールセットまでに要する焼き鏝での加熱時間に応じて、次の基準で判断した。
◎(優):焼き鏝での加熱時間が5秒未満でカールセットされた
○(良):焼き鏝での加熱時間が5秒以上10秒未満でカールセットされた
×(不可):焼き鏝での加熱時間が10秒以上でカールセットされた
【0046】
[加工性]
各実施例および各比較例の人工毛髪用繊維からなる未延伸糸の加工性について、未延伸糸100本束を延伸倍率3倍で30分間延伸処理する際に発生する糸切れの回数を評価した。具体的には、30分の延伸処理後、得られた延伸糸を目視で観察して糸切れの数を数え、次の評価基準に従い加工性を評価した。
◎(優):糸切れが0回/30分
○(良):糸切れが1回以上3回未満/30分
×(不可):糸切れが3回以上10回未満/30分
【0047】
【表1】
【0048】
表1に示すように、重量平均分子量Mwが7万以上15万以下の脂肪族ポリアミド(A)および重量平均分子量Mwが4万以上5.5万以下の脂肪族ポリアミド(B)を含む実施例1~4の各人工毛髪用繊維では、触感(きしみ性)およびカールセット性が共に◎(優)の評価となった。上記脂肪族ポリアミド(A)、上記脂肪族ポリアミド(B)の少なくとも一方を含まない実施例5~11の人工毛髪用繊維では、触感(きしみ性)およびカールセット性の一方が◎(優)の評価となるものの、他方が○(良)の評価となった。また、比較例1~4の各人工毛髪用繊維では、触感(きしみ性)およびカールセット性のいずれか一方が×(不可)の評価となった。
【0049】
実施例1~4の人工毛髪用繊維と同様な配合および割合の樹脂組成物に所定量の難燃剤を添加した実施例12~15の人工毛髪用繊維について、上述した重量平均分子量Mw、触感、およびカールセット性の評価に加えて、加工性の評価を行った。その結果を表2に示す。実施例12~15の人工毛髪用繊維に用いた難燃剤は以下のとおりである。
臭素化エポキシ樹脂:阪本薬品工業株式会社製、SRT-20000
【0050】
【表2】
【0051】
表2に示すように、脂肪族ポリアミドA、脂肪族ポリアミドBに加えて難燃剤を含む実施例12~14の人工毛髪用繊維では、加工性の評価が○(良)となったが、半芳香族ポリアミドをさらに含む実施例15の人工毛髪用繊維では加工性の評価が◎(優)となり、難燃剤含有による加工性の低下を半芳香族ポリアミド含有により補えることが確認された。
【0052】
この出願は、2018年12月14日に出願された日本出願特願2018-234894号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。