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特許7402182金属コード被覆用ゴム組成物、スチールコード・ゴム複合体、タイヤ及び化工品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】金属コード被覆用ゴム組成物、スチールコード・ゴム複合体、タイヤ及び化工品
(51)【国際特許分類】
   C08L 7/00 20060101AFI20231213BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20231213BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20231213BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20231213BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
C08L7/00
C08K3/04
C08K3/36
B60C1/00 C
C08L9/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020565158
(86)(22)【出願日】2020-01-07
(86)【国際出願番号】 JP2020000189
(87)【国際公開番号】W WO2020145274
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2022-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2019002614
(32)【優先日】2019-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】小山内 圭太
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-124366(JP,A)
【文献】特開2016-113522(JP,A)
【文献】特開2017-052833(JP,A)
【文献】国際公開第2018/225478(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/015368(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/012946(WO,A1)
【文献】特開2011-184553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
B60C1/00-16/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、ポリブタジエンゴム、及びイソブチレンイソプレンゴムからなる群より選択される少なくとも一種を含むゴム成分と、
セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)吸着比表面積が110~160m/gであり、遠心沈降法で得られた凝集体分布における最多頻度であるストークス相当径Dstを含むピークの半値幅ΔD50が60nm以下であり、且つ、前記ΔD50と前記Dstとの比(ΔD50/Dst)が0.95以下であるカーボンブラックと、
CTAB吸着比表面積が200m/g以上のシリカと、
加硫剤と、を含み、
前記カーボンブラックの含有量が前記シリカの含有量よりも多く、前記加硫剤の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して3.0~7.0質量部であることを特徴とする、金属コード被覆用ゴム組成物。
【請求項2】
前記カーボンブラックの圧縮ジブチルフタレート(24M4DBP)吸収量が、80~110cm/100gであることを特徴とする、請求項1に記載の金属コード被覆用ゴム組成物。
【請求項3】
前記シリカの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して5~25質量部であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の金属コード被覆用ゴム組成物と、該金属コード被覆用ゴム組成物が被覆されたスチールコードと、を備えることを特徴とする、スチールコード・ゴム複合体。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の金属コード被覆用ゴム組成物を用いたことを特徴とする、タイヤ。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の金属コード被覆用ゴム組成物を用いた化工品であって、ホース、コンベアベルト又はクローラであることを特徴とする、化工品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属コード被覆用ゴム組成物、スチールコード・ゴム複合体、タイヤ及び化工品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、強度が必要なタイヤのタイヤ内部には、リング状のタイヤ本体の子午線方向に沿って埋設されるコードから構成されたカーカスと、該カーカス層のタイヤ径方向外側に配設されたベルトとを備える。また、ベルトやカーカスは、スチールコードをコーティングゴムで覆ったスチールコード・ゴム複合体によって構成される場合があり、タイヤに耐荷重性、耐牽引性等を付与している。加えて、スチールコードのコーティングゴムについては、高い耐久性、その中でも特に高い耐亀裂性が求められている。
【0003】
また近年、自動車の低燃費性能向上の観点から、タイヤの転がり抵抗を低減させるため、上述したコーティングゴムの低発熱性についても改善要求が高まっている。このような要求に対し、カーボンブラックの使用量を低減させることや、低級カーボンブラックを使用することによって、ヒステリシスロスを低下させたゴム組成物を製造し、タイヤ部材に適用する技術が知られている。
例えば特許文献1には、CTAB吸着比表面積が100~170m/g、DBP吸収量が100~150ml/100gのハードカーボンブラック領域に属し、かつ遠心沈降法で測定したアグリゲート径、形状係数等が特定の関係を満たすカーボンブラックを30~80重量部を配合したゴム組成物が開示されている(特許文献1参照)。
【0004】
ただし、カーボンブラックの含有量を減少させたゴム組成物や、特許文献1に開示されているような、粒度の適正化を図ったカーボンブラックを含むゴム組成物を、上述したコーティングゴムに用いた場合、低ロス性については一定の改善効果が得られるものの、十分な耐亀裂性を得ることはできず、低ロス性と耐亀裂性との両立が可能となる技術の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-057967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そのため、本発明の目的は、耐亀裂性と低発熱性とを高いレベルで両立できる、金属コード被覆用ゴム組成物及びスチールコード・ゴム複合体を提供することにある。また、本発明の他の目的は、耐亀裂性と低転がり抵抗性とを高いレベルで両立できるタイヤ、及び、耐亀裂性に優れる化工品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の要旨構成は、以下の通りである。
本発明の金属コード被覆用ゴム組成物は、ゴム成分と、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)吸着比表面積が110~160m/gであり、遠心沈降法で得られた凝集体分布における最多頻度であるストークス相当径Dstを含むピークの半値幅ΔD50が60nm以下であり、且つ、前記ΔD50と前記Dstとの比(ΔD50/Dst)が0.95以下であるカーボンブラックと、CTAB吸着比表面積が200m/g以上のシリカと、加硫剤と、を含み、前記カーボンブラックの含有量が前記シリカの含有量よりも多く、前記加硫剤の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して3.0~7.0質量部であることを特徴とする。
上記構成によって、耐亀裂性と低発熱性とを高いレベルで両立できる。
【0008】
また、本発明の金属コード被覆用ゴム組成物では、前記カーボンブラックの圧縮ジブチルフタレート(24M4DBP)吸収量が、80~110cm/100gであることが好ましい。低発熱性を低下させることなく、耐亀裂性をより向上できるためである。
【0009】
さらに、本発明の金属コード被覆用ゴム組成物では、前記シリカの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して5~25質量部であることが好ましい。耐亀裂性及び低発熱性をより向上させることができるためである。
【0010】
本発明のスチールコード・ゴム複合体は、上述した本発明の金属コード被覆用ゴム組成物と、金属コード被覆用ゴム組成物が被覆されたスチールコードと、を備えることを特徴とする。
上記構成によって、耐亀裂性と低発熱性とを高いレベルで両立できる。
【0011】
本発明のタイヤは、上述した本発明の金属コード被覆用ゴム組成物を用いたことを特徴とする。
上記構成によって、耐亀裂性と低転がり抵抗性とを高いレベルで両立できる。
【0012】
本発明の化工品は、上述した本発明の金属コード被覆用ゴム組成物を用いた化工品であって、ホース、コンベアベルト又はクローラであることを特徴とする。
上記構成によって、耐亀裂性と低転がり抵抗性とを高いレベルで両立できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐亀裂性と低発熱性とを高いレベルで両立できる、金属コード被覆用ゴム組成物及びスチールコード・ゴム複合体を提供することが可能となる。また、本発明によれば、耐亀裂性と低転がり抵抗性とを高いレベルで両立できるタイヤ、及び、耐亀裂性に優れる化工品を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の金属コード被覆用ゴム組成物、スチールコード・ゴム複合体及びタイヤを、その実施形態に基づいて詳細に説明する。
<金属コード被覆用ゴム組成物>
本発明の金属コード被覆用ゴム組成物は、ゴム成分と、カーボンブラックと、シリカと、加硫剤と、を含む。
そして、本発明の金属コード被覆用ゴム組成物では、前記カーボンブラックとして、前記セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)吸着比表面積が110~160m/gであり、遠心沈降法で得られた凝集体分布における最多頻度であるストークス相当径Dstを含むピークの半値幅ΔD50が60nm以下であり、且つ、前記ΔD50と前記Dstとの比(ΔD50/Dst)が0.95以下であるカーボンブラックを用いるとともに、前記シリカとして、CTAB吸着比表面積が200m/g以上のシリカを用い、前記カーボンブラックの含有量が前記シリカの含有量よりも多く、前記加硫剤の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して3.0~7.0質量部であることを特徴とする。
【0015】
従来、ゴム組成物の低発熱性及び耐亀裂性を向上させるためには、カーボンブラックのアグリゲート構造の発達度合を小さくする低ストラクチャー化を行ったり、カーボンブラックを微粒径化することにより耐亀裂性を向上させ、凝集体分布をブロードにすることで発熱の悪化を抑えてきた。
しかしながら、カーボンブラックの形態をこのように制御しても、耐亀裂性の十分な向上が難しいという課題があった。これは、カーボンブラックの凝集体分布をブロードにすることで、大粒径成分が増えるためであると考えられる。
【0016】
そのため、本発明の金属コード被覆用ゴム組成物は、カーボンブラック及びシリカについて、上述したような構成とすることで、耐亀裂性と低発熱性とを高いレベルで両立することができる。この理由は、定かではないが、次の理由が推察される。
加硫ゴムの発熱は、一般に、加硫ゴムに含まれるカーボンブラック、シリカ等の充填剤が、ゴム中で擦れ合うことにより生じ、従って、既述のように、カーボンブラックの微粒径成分が増える環境では、低発熱性が悪化する傾向にある。そして、本発明のゴム組成物では、CTAB比表面積が110~160m/gとなる大粒径のカーボンブラック及びCTAB比表面積が200m/g以上となるような微粒径のシリカを用いるとともに、それぞれの含有量について調整を行うことによって、微粒径なシリカが、カーボンブラック同士の隙間に入り込み、粒子同士の凝集には影響を与えることなく、低発熱性の状態を維持することができる一方で、加硫ゴムの摩耗、亀裂のような破壊の領域においては、ゴムと、カーボンブラック及びシリカとが、強く相互作用するような状態にすることができるため、耐亀裂性を向上できると考えられる。
それによって、本発明では、発熱の悪化を抑えるためにカーボンブラックの凝集体分布をブロード化する必要性がなく、カーボンブラックのΔD50を60nm以下、ΔD50とDstとの比(ΔD50/Dst)を0.95以下として、カーボンブラックの凝集体分布をシャープ化することにより、カーボンブラックの大粒径成分の増加を抑制することができ、耐亀裂性を向上し得ると考えられる。
【0017】
さらに、本発明の金属コード被覆用ゴム組成物では、加硫剤の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して3.0~7.0質量部であるため、金属コードとの接着性を低下させることなく、加硫後の金属コード被覆用ゴム組成物の耐亀裂性等の強度を高めることができる。
【0018】
以下、本発明の金属コード被覆用ゴム組成物の構成成分について説明する。
(ゴム成分)
本発明の金属コード被覆用ゴム組成物のゴム成分については、特に限定はされない。例えば、天然ゴム(NR)及び合成ジエン系ゴムからなる群より選択される少なくとも1種のジエン系ゴムを含むことができる。
前記合成ジエン系ゴムとしては、例えば、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエン-イソプレンゴム(BIR)、スチレン-イソプレンゴム(SIR)、スチレン-ブタジエン-イソプレンゴム(SBIR)等が挙げられる。
【0019】
また、前記ゴム成分は、低ロス性を低下させることなく、耐亀裂性を向上できる観点からは、前記ジエン系ゴムとして、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、ポリブタジエンゴム、及びイソブチレンイソプレンゴムからなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましく、天然ゴム及びポリブタジエンゴムからなる群より選択される少なくとも一種を含むことがより好ましい。
さらに、前記ゴム成分は、低ロス性を低下させることなく、耐亀裂性を向上できる観点からは、少なくとも前記天然ゴムを含むことが好ましい。さらにまた、前記ゴム成分が天然ゴムを含有する場合、前記天然ゴムの含有割合は、耐摩耗性及び耐亀裂性をより向上する観点から、前記ゴム成分において70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
なお、前記ゴム成分は、本発明の効果を損なわない限度において、非ジエン系ゴムを含むこともできる。
【0020】
(カーボンブラック)
また、本発明の金属コード被覆用ゴム組成物は、前記ゴム成分に加えて、カーボンブラックを含む。
前記カーボンブラックについては、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)吸着比表面積が110~160m/gであり、遠心沈降法で得られた凝集体分布における最多頻度であるストークス相当径Dstを含むピークの半値幅ΔD50が60nm以下であり、且つ、前記ΔD50と前記Dstとの比(ΔD50/Dst)が0.95以下である。
【0021】
前記カーボンブラックは、前記CTAB比表面積を110~160m/gの範囲にすることで、低発熱性及び耐亀裂性を高いレベルで維持できる。前記CTAB比表面積が110m/g未満であると、十分な耐亀裂性や耐摩耗性が得られず、前記CTAB比表面積が160m/gを超えると低発熱性が悪化する。また、耐摩耗性及び耐亀裂性をより向上する観点からは、前記カーボンブラックのCTAB比表面積が、115m/g以上であることが好ましく、120m/g以上であることがより好ましい。また、低発熱性をより向上する観点からは、前記カーボンブラックのCTAB比表面積が、157m/g以下であることが好ましく、153m/g以下であることがより好ましい。
なお、前記カーボンブラックのCTAB比表面積は、JIS K 6217-3:2001年(比表面積の求め方-CTAB吸着法)に準拠した方法で測定することができる。
【0022】
また、前記カーボンブラックは、遠心沈降法で得られた凝集体分布における最多頻度であるストークス相当径Dstを含むピークの半値幅ΔD50を60nm以下とすることで、耐摩耗性及び耐亀裂性の向上を図ることができる。また、前記ΔD50の下限値は特に制限されないが、製造性の観点からは、20nm以上であることが好ましい。さらに、ゴム組成物の耐亀裂性と製造性との両立の観点からは、前記カーボンブラックのΔD50を、20~55nmとすることが好ましく、25~50nmとすることがより好ましい。
なお、前記ΔD50(nm)は、遠心沈降法で得られた凝集体分布曲線において、その頻度が最大点の半分の高さのときの分布の幅である。前記Dstは、JIS K6217-6記載の方法に従って遠心沈降法を用いて得られた凝集体分布の最多頻度を与える凝集体サイズのことであり、ストークス沈降径と呼ばれるものである。このDstをカーボンブラック凝集体の平均径とする。また、本発明では、カーボンブラックの凝集体分布は、体積基準での凝集体分布を意味している。
【0023】
さらに、前記カーボンブラックは、前記ΔD50と前記Dstとの比(ΔD50/Dst)を0.95以下とすることで、優れた耐亀裂性や耐破壊性を実現できる。前記ΔD50と前記Dstとの比(ΔD50/Dst)の下限値については特に限定はされないが、低発熱性を悪化させない観点からは、0.50以上であることが好ましい。また、ゴム組成物の耐亀裂性と低発熱性とのより高いレベルでの両立の観点からは、ΔD50/Dstは、0.50~0.90であることが好ましく、0.55~0.87であることがより好ましい。
【0024】
さらにまた、前記カーボンブラックは、圧縮ジブチルフタレート(24M4DBP)吸収量が、80~110cm/100gであることが好ましい。
前記カーボンブラックの24M4DBP吸収量を、80cm/100g以上とすることで、ゴム補足力が強まり、耐摩耗性及び耐亀裂性を高めることができ、110cm/100g以下とすることで、発熱性が低く、また未加硫ゴム粘度が低下して工場での加工性が良好となる。さらに、同様の観点から、前記カーボンブラックの24M4DBP吸収量は、80~105cm/100gであることがより好ましく、80~100cm/100gであることがさらに好ましい。
なお、前記カーボンブラックの24M4DBP吸収量(cm/100g)は、ISO 6894に準拠し、24,000psiの圧力で4回繰り返し圧力を加えた後、DBP(ジブチルフタレート)吸収量を測定した値である。この24M4DBP吸収量は、いわゆるファンデルワールス力により生じている変形・破壊性の構造形態(2次ストラクチャー)によるDBP吸収量を排除し、非破壊性の真のストラクチャーの構造形態(1次ストラクチャー)に基づくDBP吸収量を求めるときに用いる、1次ストラクチャーを主体とするカーボンブラックの骨格的構造特定を評価する指標である。
【0025】
また、前記カーボンブラックの種類は、上述したCTAB、ΔD50及びDstが上記範囲となるものであれば特に制限されず、例えば、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF等のカーボンブラックが挙げられ、市販品を用いてもよい。なお、前記カーボンブラックの種類は、1種のみを用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。
【0026】
本発明の金属コード被覆用ゴム組成物では、前記カーボンブラックの含有量が、後述するシリカの含有量(質量)よりも多いことを要する。微粒径なシリカが、前記カーボンブラック同士の隙間に入り込みやすくなり、粒子同士の凝集には影響を与えることなく、低発熱性の状態を維持できるとともに、耐亀裂性についても向上させることができるためである。
なお、本発明でのカーボンブラック及びシリカの含有量については、複数種のカーボンブラック及び複数種のシリカを用いる場合は、それぞれの合計量を含有量とする。
【0027】
さらに、前記カーボンブラックと前記シリカとの合計含有量における、前記カーボンブラックの含有割合は、65~85質量%であることが好ましく、70~85質量%であることがより好ましい。前記カーボンブラックの含有割合を、65質量%以上とすることで、耐亀裂性をより高めることができ、前記カーボンブラックの含有割合を、85質量%以下とすることで、低発熱性の悪化を抑えることができる。
【0028】
さらにまた、前記カーボンブラックの含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して、33~55質量部であることが好ましく、40~46質量部であることがより好ましい。前記カーボンブラックの含有量を、前記ゴム成分100質量部に対して、40質量部以上とすることで、よりすぐれた耐亀裂性を実現でき、46質量部以下とすることで、低発熱性の悪化をより確実に抑えることができる。
【0029】
(シリカ)
本発明の金属コード被覆用ゴム組成物は、前記ゴム成分及び前記カーボンブラックに加えて、シリカを含む。
前記シリカについては、CTAB吸着比表面積が200m/g以上である。前記シリカのCTAB吸着比表面積を200m/g以上とすることで、金属コード被覆用ゴム組成物の耐亀裂性を高めることができる。
なお、前記シリカのCTAB比表面積については、ASTM-D3765-80の方法に準拠した方法で測定することができる。
【0030】
また、前記シリカのCTAB比表面積は、より優れた耐亀裂性を実現できる観点から、210m/g以上であることが好ましく、220m/g以上であることがより好ましく、230m/g以上であることがさらに好ましい。
前記シリカのCTAB比表面積の上限値については特に限定はされないが、現時点において、300m/gを超えるシリカを入手することはできない。
【0031】
さらに、前記シリカは、BET法によって測定された比表面積(BET比表面積)が100~300m/gであることが好ましく、150~250m/gであることがより好ましい。前記シリカのBET比表面積を100~300m/gとすることで、シリカ同士の凝集を抑えるとともに、ゴムの補強性に要する表面積を確保することができ、低発熱性と耐亀裂性とをより高いレベルで両立できる。
なお、前記シリカのBET比表面積については、JISK 6430:2008年の方法に準拠して測定することができる。
【0032】
前記シリカの種類については、CTAB比表面積が200m/g以上となるものであれば特に制限はなく、例えば、湿式シリカ、コロイダルシリカ、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられる。
上述した中でも、前記シリカは、湿式シリカであることが好ましく、沈降シリカであることがより好ましい。これらのシリカは、分散性が高く、低発熱性の改善を図り、且つ、耐亀裂性をより向上できる。なお、沈降シリカとは、製造初期に、反応溶液を比較的高温、中性~アルカリ性のpH領域で反応を進めてシリカ一次粒子を成長させ、その後酸性側へ制御することで、一次粒子を凝集させる結果得られるシリカのことである。
また、前記シリカは、市販品でもよく、例えば、ローディア社のZeosilPremium 200MP(商品名)として、入手することができる。
なお、前記シリカは、一種のみ用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0033】
また、前記シリカの含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して、2~25質量部であることが好ましく、5~25質量部であることがより好ましく、5~14質量部であることがより好ましい。前記シリカの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して2質量部以上であれば、耐亀裂性をより向上でき、25質量部以下とすることで、加工性悪化を抑えることができる。
【0034】
(シランカップリング剤)
本発明の金属コード被覆用ゴム組成物は、シリカ含有するため、シリカ-ゴム成分間の結合を強化して補強性をさらに高めた上で、シリカの分散性を向上させるため、シランカップリング剤を含むこともできる。
前記シランカップリング剤を含む場合、その含有量は、シリカの含有量に対して5~15質量%以下であることが好ましい。前記シランカップリング剤の含有量が前記シリカの含有量に対して15質量%以下であることで、シリカの分散性を改良する効果が得られるとともに、経済性も損ないにくい。また、シランカップリング剤の含有量が、シリカの含有量に対して5質量%以上であることで、ゴム組成物中のシリカの分散性を高めることができる。
【0035】
なお、シランカップリング剤としては、特に制限されない。例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールトリスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド等が好適に挙げられる。
【0036】
(加硫剤)
本発明の金属コード被覆用ゴム組成物は、上述したゴム成分、カーボンブラック及びシリカ、並びに、任意成分のシランカップリング剤に加えて、加硫剤を含む。
ここで、前記加硫剤の含有量については、前記ゴム成分100質量部に対して3.0~7.0質量部である。加硫剤を、上記範囲で含有することによって、金属コードとの密着性を低下させることなく、金属コード被覆用ゴム組成物の加硫後の強度(耐亀裂性等)を高めることができる。
なお、前記加硫剤の種類については、例えば、硫黄等が挙げられる。
【0037】
(加硫促進剤)
本発明の金属コード被覆用ゴム組成物は、上述したゴム成分、カーボンブラック、シリカ及び加硫剤、並びに、任意成分のシランカップリング剤に加えて、加硫促進剤をさらに含むことが好ましい。
前記加硫促進剤を含むことによって、加硫を促進させ、金属コード被覆用ゴム組成物の加硫後の強度をより高めることができる。
【0038】
ここで、前記加硫促進剤の種類については、特に限定はされず、グアニジン系、アルデヒド-アミン系、アルデヒド-アンモニア系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チオ尿素系、ジチオカルバメート系、ザンテート系等の加硫促進剤が挙げられる。これらの加硫促進剤は、一種のみ用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0039】
また、上述した加硫促進剤の中でも、金属コード被覆用ゴム組成物の加硫後の強度をより高めることができる観点からは、スルフェンアミド系の加硫促進剤を用いることが好ましい。
前記スルフェンアミド系の加硫促進剤としては、例えば、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-メチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-エチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-プロピル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-ペンチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-ヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-ヘプチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-オクチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-2-エチルヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-デシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-ドデシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-ステアリル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジメチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジエチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジプロピル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジペンチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジヘプチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジオクチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジ-2-エチルヘキシルベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジデシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジドデシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジステアリル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド等が挙げられる。
これらの中でも、前記加硫促進剤は、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミドを少なくとも含むことがより好ましい。
【0040】
さらに、前記加硫促進剤の含有量は、金属コード被覆用ゴム組成物の低発熱性と耐亀裂性とをさらに向上する観点から、ゴム成分100質量部に対して、0.2質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましく、また、2.0質量部以下であることが好ましく、1.8質量部以下であることがより好ましく、1.6質量部以下であることがさらに好ましい。
【0041】
なお、本発明の金属コード被覆用ゴム組成物は、上述したゴム成分、カーボンブラック、シリカ及び加硫剤、並びに、任意成分としてのシランカップリング剤及び加硫促進剤の他にも、その他の成分を、発明の効果を損なわない程度に含むことができる。
その他の成分としては、例えば、軟化剤、ステアリン酸、老化防止剤、亜鉛華、樹脂、ワックス、オイル等の、ゴム工業界で通常使用されている添加剤を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜含むことができる。
【0042】
前記その他成分のうち、亜鉛華(ZnO)については、加硫促進助剤として用いられる。
本発明の金属コード被覆用ゴム組成物が亜鉛華をさらに含むことによって、加硫を促進させ、金属コード被覆用ゴム組成物の加硫後の強度をより高めることができる。
ここで、前記亜鉛華の含有量については、特に限定はされないが、金属コード被覆用ゴム組成物の低発熱性と耐亀裂性とをさらに向上する観点からは、前記ゴム成分100質量部に対して、5~13質量部であることが好ましく、7~10質量部であることがより好ましい。
【0043】
なお、本発明の金属コード被覆用ゴム組成物は、金属コードとの接着性を高める観点からは、コバルト化合物を含むこともできる。コバルト化合物の種類については、特に限定はされず、要求される性能に応じて適宜選択することができる。また、本発明の金属コード被覆用ゴム組成物は、環境への負荷の観点からは、コバルトを含まない(コバルトフリー)のゴム組成物であっても良い。
【0044】
本発明の金属コード被覆用ゴム組成物の製造方法は、特に限定はされない。
例えば、上述した各成分を配合して、バンバリーミキサー、ロール、インターナルミキサー等の混練り機を使用して混練りすることによって製造することができる。
なお、本発明の金属コード被覆用ゴム組成物の各成分の混練は、全一段階で行ってもよく、二段階以上に分けて行ってもよい。
【0045】
<スチールコード・ゴム複合体>
本発明のスチールコード・ゴム複合体は、上述した本発明の金属コード被覆用ゴム組成物と、該金属コード被覆用ゴム組成物が被覆されたスチールコードと、を備えることを特徴とする。
スチールコードのコーティングゴムとして、本発明の金属コード被覆用ゴム組成物を用いることによって、得られたスチールコード・ゴム複合体は、低発熱性と耐亀裂性との両立が可能となる。
【0046】
ここで、前記スチールコードを本発明の金属コード被覆用ゴム組成物によって被覆する方法としては、特に限定はされないが、例えば以下に示す方法を用いることができる。
ブラスめっきされた所定の本数のスチールコードを、所定の間隔で平行に並べ、これらのスチールコードを上下両側から、本発明のゴム組成物からなる厚さ0.5mm程度の未加硫のゴムシートでコーティングした後、例えば160℃程度の温度で、20分間程度加硫処理する。
このようにして得られたスチールコード・ゴム複合体は、低発熱性と耐亀裂性との両立に加えて、優れた金属-ゴム接着性を有する。
【0047】
また、前記スチールコードは、スチール製のモノフィラメント及びマルチフィラメント(撚りコード又は引き揃えられた束コード)のいずれでも良く、その形状は制限されない。スチールコードが撚りコードである場合の撚り構造についても特に制限はなく、単撚り、複撚り、層撚り、複撚りと層撚りの複合撚りなどの撚り構造が挙げられる。これらのスチールコードは、ゴム組成物との接着性を好適に確保する観点から表面にめっき処理、接着剤処理などの表面処理がなされていることが好ましい。
前記スチールフィラメントの表面には、めっきが施されていてもよい。めっきの種類としては、特に制限されず、例えば、亜鉛(Zn)めっき、銅(Cu)めっき、スズ(Snめっき、ブラス(銅-亜鉛(Cu-Zn))めっき、ブロンズ(銅-スズ(Cu-Sn))めっき等が挙げられる。これらの中でもブラスめっきを用いることが好ましい。
【0048】
さらに、例えば、表面のN原子が2原子%以上60原子%以下であって、かつ、表面のCu/Zn比が1以上4以下であるスチールフィラメントを使用することができる。また、スチールフィラメントとしては、フィラメント半径方向内方にフィラメント最表層5nmまでの酸化物として含まれるリンの量が、炭素(C)の量を除いた全体量の割合で、7.0原子%以下である場合が挙げられる。
さらにまた、接着剤処理を使用する場合には、例えばロード社製、商品名「ケムロック」(登録商標)などによる接着剤処理を用いること好ましい。
【0049】
なお、本発明のスチールコード・ゴム複合体の用途は、特に限定はされない。例えば、各種自動車用タイヤ、コンベアベルト、ホース、ゴムクローラなど、特に強度が要求されるゴム物品に用いられ、それらの中の補強材として用いることができる。特に、各種自動車用ラジアルタイヤのベルト、カーカスプライ、ワイヤーチェーファーなどの補強部材として好適に用いることができる。
【0050】
<タイヤ>
本発明のタイヤは、上述した本発明の金属コード被覆用ゴム組成物を用いたことを特徴とする。
タイヤを構成する部材中に、本発明の金属コード被覆用ゴム組成物、ひいてはスチールコード・ゴム複合体を用いることによって、低転がり抵抗性の向上が可能になるとともに、耐亀裂性についても改善を図ることができる。
【0051】
また、本発明のタイヤは、空気入りタイヤであることが好ましく、該空気入りタイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
なお、本発明のタイヤの製造方法は特に限定されず、常法に基づき製造することができる。一般に、各種成分を含有させたゴム組成物が未加硫の段階で各部材に加工され、タイヤ成形機上で通常の方法により貼り付け成形され、生タイヤが成形される。この生タイヤを加硫機中で加熱加圧して、タイヤが製造される。例えば、本発明のゴム組成物を混練の上、得られたゴム組成物でスチールコードをゴム引きして未加硫のベルト、未加硫のカーカス、及び他の未加硫部材を積層し、未加硫積層体を加硫することでタイヤを得ることができる。
【実施例
【0052】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0053】
<実施例1~9、比較例1~7>
表1又は表2に示す成分を用い、表1に示す成分組成に従って、各サンプルのゴム組成物を調製した。
その後、黄銅(ブラス)めっき(Cu:63質量%、Zn:37質量%)したスチールコード(1×5×0.25mm(素線径))を12.5mm間隔で平行に並べ、調製したゴム組成物で被覆した後、145℃で30分間の条件で加硫して、スチールコード・ゴム複合体のサンプルを作製した。
表1及び表2中の各成分の詳細は下記の通りである。なお、カーボンブラックの詳細については、表1中に示している。また、各成分の含有量は、ゴム成分100質量部に対する含有量(質量部)である。
【0054】
●シリカ1の製造方法
10g/Lの濃度を有する珪酸ナトリウム溶液(3.5のSiO/NaO重量比)の12Lを25Lのステンレス鋼製反応器に導入した。この溶液を80℃に加熱した。全反応をこの温度で実施した。80g/Lの濃度を有する硫酸をpHが8.9の値に達するまで撹拌しながら(300rpm、プロペラ攪拌機)導入した。
230g/Lの濃度を有する珪酸ナトリウム溶液(3.5のSiO/NaO重量比を有する)を76g/分の速度で、及び80g/Lの濃度を有する硫酸を反応混合物のpHを8.9の値に維持するように設定された速度で該反応器に15分にわたって同時に導入した。しかして、かろうじて凝集した粒子のゾルが得られた。このゾルを回収し、そして冷水が循環している銅コイルを使用して急速に冷却した。反応器を迅速に清浄にした。
4Lの純水をこの25L反応器に導入した。80g/Lの濃度を有する硫酸をpHが4の値に達するまで導入した。195g/分の流量での冷却ゾル及びpHを4に設定するのを可能にする流量での硫酸(80g/Lの濃度を有する)の同時添加を40分にわたって実施した。10分間続く熟成工程を実施した。
同時ゾル/硫酸添加の40分後には、20分間にわたる76g/分の流量での珪酸ナトリウム(第1の同時添加の場合と同一の珪酸ナトリウム)及び反応混合物のpHを4の値に維持するように設定された流量での硫酸(80g/L)の同時添加があった。20分後に、酸の流れを8のpHが得られるまで停止させた。
新たな同時添加を60分にわたって76g/分の珪酸ナトリウム流量で(第1の同時添加の場合と同一の珪酸ナトリウム)及び反応混合物のpHを8の値に維持するように設定された硫酸(80g/Lの濃度を有する)の流量で実施した。撹拌速度を混合物が非常に粘稠になったときに増加させた。
この同時添加後に、反応混合物を80g/Lの濃度を有する硫酸によって5分間にわたって4のpHにした。混合物を10分にわたってpH4で熟成させた。スラリーを減圧下で濾過及び洗浄し(15%のケーク固形分)、希釈後、得られたケークを機械的に砕解した。得られたスラリーをタービン噴霧乾燥機によって噴霧乾燥させ、シリカ1を得た。
【0055】
●カーボンブラックの物性
なお、表1に示すカーボンブラックの諸物性は、以下の方法にて求めた。
(i)圧縮ジブチルフタレート吸収量(24M4DBP)
24M4DBP吸収量(cm/100g)は、ISO 6894に準拠して測定した。
【0056】
(ii)CTAB比表面積
CTAB比表面積(m/g)は、JIS K 6217-3:2001(比表面積の求め方-CTAB吸着法)に準拠した方法で測定した。
【0057】
(iii)凝集体分布(遠心沈降法)
測定装置としては、Disk Centrifuge Photosedimentometer(DCP)「BI-DCP Particle sizer」(Brookhaven社製)を用いた。また、以下のとおり、ISO/CD 15825-3に準拠して測定した。
若干の界面活性剤を加えた25容量%エタノール水溶液中に、0.05~0.1質量%のカーボンブラックを加え、超音波処理(1/2インチ発振チップ、出力50W)を施して完全に分散させて分散液とした。沈殿液(スピン液)として蒸留水17.5mlを注加した回転ディスクの回転数を8,000rpmとし、上記分散液0.02~0.03mlを注加した。上記分散液の注加と同時に記録計を作動させ、回転ディスクの外周近傍の一定点を沈降により通過するカーボンブラック凝集体量を光学的に測定し、その吸光度(頻度)を時間に対する連続曲線として記録した。沈降時間を下記のストークスの一般式(A)によってストークス相当径dに換算し、凝集体のストークス相当径とその頻度との対応曲線を得た。
d=K/√t (A)
上記式(A)において、dは沈殿開始t分後における回転ディスクの光学測定点を通過するカーボンブラック凝集体のストークス相当径(nm)である。定数Kは、測定時におけるスピン液の温度、粘度、カーボンブラックとの密度差(カーボンブラックの真密度を1.86g/cm3とする)、及び回転ディスクの回転数により決定される値である。本実施例及び比較例では、スピン液として蒸留水17.5mlを用い、測定温度23.5℃、ディスク回転数8,000rpmとしたため、定数Kは261.75となった。この測定結果から、モード径Dst(nm)、半値幅ΔD50(nm)、及び比(ΔD50/Dst)を得た。なお、モード径Dst及び半値幅ΔD50の定義は以下のとおり
である。
モード径Dst:上記の凝集体のストークス相当径とその頻度との対応曲線において、最多頻度であるストークス相当径のことをいう。
半値幅ΔD50:上記の凝集体のストークス相当径とその頻度との対応曲線において、その頻度が最大点の半分の高さのときの分布の幅のことをいう。
【0058】
<評価>
作製したスチールコード・ゴム複合体の各サンプルから加硫ゴムの試験片を切り出し、以下の条件で、耐亀裂性及び低発熱性について評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0059】
(1)耐亀裂性
各サンプルから得られた加硫ゴム試験片に対し、100℃の空気雰囲気下で24時間劣化させた後、ダンベル状に打ち抜き、中心部に1mmの予亀裂を入れたサンプルを疲労試験機にて、80℃、チャック間距離20mm、一定応力の条件で、5Hzのストロークを与え、完全に破断するまでの回数を測定した。
評価については、比較例1の加硫ゴム試験片が破断するまでの回数を100としたときの指数として表示し、この指数値が大きいほど寿命が長く、耐亀裂性が優れていることを示す。
【0060】
(2)低発熱性
各サンプルから得られた加硫ゴム試験片に対し、粘弾性測定装置(レオメトリックス社製)を使用し、温度60℃、歪5%、周波数15Hzでtanδを測定した後、その逆数を算出した。
評価については、比較例1のtanδの逆数を100として、下記式にて各サンプルの試験片の発熱性指数を表示した。指数値が大きいほど、ヒステリシスロスが小さく、低発熱性が良好であることを示す。
発熱性指数={(各サンプルの試験片のtanδの逆数)/(比較例1の試験片のtanδの逆数)}×100
【0061】
【表1】
*1 天然ゴム:RSS#1
*2 シリカ1:シリカ1は、下記製造方法により製造したCTAB比表面積=230m/g、BET表面積=236m/gのシリカである。
*3 シリカ2:日本シリカ工業株式会社製、商品名「ニップシールAQ」(CTAB比表面積=150m/g、BET表面積=220m/g)
*4 コバルト脂肪酸塩:OMG社製、商品名「マノボンドC22.5」
*5 ステアリン酸:新日本理化株式会社製、商品名「ステアリン酸50S」
*6 老化防止剤6C:N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、大内新興化学工業株式会社製、商品名「ノクラック 6C」
*7 亜鉛華:ハクスイテック株式会社製、商品名「3号亜鉛華」
*8 加硫促進剤CBS:N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、大内新興化学工業株式会社製、商品名「ノクセラーCZ-G」
*9 加硫剤:硫黄、鶴見化学株式会社製、商品名「粉末硫黄」
【0062】
表1の結果から、各実施例のサンプルについては、各比較例のサンプルに比べて、耐亀裂性及び低発熱性について、バランス良く優れた効果を示すことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、耐亀裂性と低発熱性とを高いレベルで両立できる、金属コード被覆用ゴム組成物及びスチールコード・ゴム複合体を提供することが可能となる。また、本発明によれば、耐亀裂性と低転がり抵抗性とを高いレベルで両立できるタイヤ、及び、耐亀裂性に優れる化工品を提供することが可能となる。