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特許7402184可視光から遠赤外光の波長領域の光線を透過するガラス材料
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  • 特許-可視光から遠赤外光の波長領域の光線を透過するガラス材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】可視光から遠赤外光の波長領域の光線を透過するガラス材料
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/32 20060101AFI20231213BHJP
   C03C 4/10 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
C03C3/32
C03C4/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020568203
(86)(22)【出願日】2020-01-23
(86)【国際出願番号】 JP2020002355
(87)【国際公開番号】W WO2020153435
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2019011091
(32)【優先日】2019-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、防衛装備庁、安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】515078497
【氏名又は名称】株式会社五鈴精工硝子
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】末次 竜也
(72)【発明者】
【氏名】中野 和泰
(72)【発明者】
【氏名】東 紀吉
(72)【発明者】
【氏名】山黒 隆夫
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-300338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 3/32
C03C 4/10
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル濃度で、
S:50~70%、
Ge:15~30%、
Ga:5~20%、
Ba:0.5~15%並びに
Cl、Br及びIからなる群より選択される少なくとも1種:3~15%
(但し、該Clが単独で含有される場合のモル濃度は、6~15%である)が含有されることを特徴とする、可視光から遠赤外光の波長領域の光線を透過するガラス材料であって、結晶化温度(Tc)とガラス転移温度(Tg)との差(ΔT値)が120K以上である、ガラス材料。
【請求項6】
モールド成型により、球面レンズ、非球面レンズ、レンズアレイ、マイクロレンズアレイ又は回折格子を作製するために用いられる、請求項1~4の何れか一項に記載のガラス材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光から遠赤外光の波長領域の光線を透過するガラス材料に関する。
【背景技術】
【0002】
防犯及び認証機器等に用いられるセンサーでは、主に光学素子が使用されており、これらのセンサーに使用される光学素子は、赤外線を透過する赤外線透過材料から構成されている。近年、防犯及び安全等に対する意識の高まり、そして社会的要請等から、これらの機器に対して、高性能、小型化、且つ高い汎用性が求められている。従って、これらの機器に用いられるセンサーについても、小型化する必要があり、それに用いられる赤外線透過能を発揮する光学素子も、高性能及び小型化等が求められ、その製造工程において高い生産性が求められる。
【0003】
赤外線透過能を有する光学素子の材料として、例えば、ゲルマニウム又はセレン化亜鉛等を挙げることができる。しかしながら、これらの材料は、結晶であり、その加工手段は、研磨成型に限定されることから、このような結晶材料を用いてレンズアレイ等の複雑な形状の光学素子を量産することは、非常に困難である。また、特に、ゲルマニウムは高価な材料であるため、これを材料としたセンサーを製造することは、汎用性が高いとは言い難い。
【0004】
一方で、上記するセンサーの生産性の向上を目的とした、結晶でない赤外線透過材料として、S、Se又はTe等の元素を主成分とする、カルコゲナイドガラスが存在する。カルコゲナイドガラスは、例えば、特許文献1~7に記載されている。
【0005】
特許文献1には、カルコゲナイドガラスを原料とした、プラスチックを成型する方法によって、光学素子を作製すること、及びそれに適したガラス組成が記載されている。
【0006】
特許文献2及び3には、具体的なカルコゲナイドガラスの組成が開示されているものの、これらの文献には、生産性の高いモールド成型に適した具体的なガラスの組成は、記載されていない。
【0007】
特許文献4及び5には、カルコゲナイドガラスをモールド成型する方法が記載されている。しかしながら、カルコゲナイドガラスの具体的な組成は、記載されておらず、モールド成型が困難な組成となるガラスも含まれており、その成型性を向上するには、更なる検討が必要である。
【0008】
特許文献6には、モル濃度で、Ge:2~22%、Sb及びBiからなる群から選択される少なくとも1種:6~34%、Sn:1~20%並びにS、Se及びTeからなる群から選択される少なくとも1種:58~70%を含有することを特徴とする、モールド成型用赤外線透過ガラスが開示されている。しかしながら、特許文献6が開示するガラスの透過範囲は、いわゆる、「大気の窓」と呼ばれる3~5μm及び8~12μmといった、赤外域の光線に限定される。
【0009】
特許文献7には、モル濃度で、Ge:0~2%、Ga:3~30%、Sb:10~40%、S:45~70%、Sn、Ag、Cu、Te及びCsからなる群から選択される少なくとも1種:3~30%並びにCl、Br及びIからなる群から選択される少なくとも1種:0~30%を含有することを特徴とする、モールド成型に適した赤外線透過ガラスが開示されている。しかしながら、特許文献7が開示するガラスは、可視域の一部(約600nm程度)から赤外域の光線しか透過しない。
【0010】
非特許文献1及び2は、Ge-Ga-S―CsX系のガラスについて開示しているに過ぎず、このガラスに他の成分を添加できること、またそれによって得られる効果については、何ら記載されていない。
【0011】
また、非特許文献3には、GeS-Ga-MCl(MはBa又はCd)系のカルゴゲナイドガラスが記載され、モル濃度で3~5.7%のClを含有するガラスが記載されているものの、これが透過する光線の波長については何ら記載されておらず、当該ガラスのバンドキャップ波長が、460~500nm付近程度であるとの記載しかない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2006-290738号公報
【文献】特開2006-076845号公報
【文献】特開平5-085769号公報
【文献】特開平6-092654号公報
【文献】特開平5-004824号公報
【文献】特許第5339720号公報
【文献】WO2016/159289公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】J. Phys. Chem. B 113 (2009) pp.14574-14580
【文献】Journal of Solid State Chemistry 220 (2014) pp238-244
【文献】Solid State Science 7 (2005) 303-309
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
現在開発が進められている、防犯及び認証機器等の用途に用いられる、センサーに加工しやすい、モールド形成に適したカルコゲナイドガラスは、可視域の一部の領域から赤外線の領域の光線しか透過しない。そうすると、より広範囲の波長を透過する光学素子を製造する際には、何種類かの異なる透過特性を発揮する光学素子を組み合わせる必要があるので、近年の社会的要請に基づく、上記する機器等の小型化に応じることができない。
【0015】
よって、本発明は、モールド成型に適した、小型化に対応することができる、可視光から遠赤外光の波長領域の光線を透過するガラス材料を提供することを、主な課題又は目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のモル濃度で表される組成のカルコゲナイドガラスが、上記する課題を達成できることを見出した。本発明は、このような知見を基にして完成されたものであり、下記に示す態様の発明を広く包含する。
【0017】
項1 モル濃度で、
S:50~70%、
Ge:15~30%、
Ga:5~20%、
Ba:0.5~15%並びに
Cl、Br及びIからなる群より選択される少なくとも1種:3~15%
(但し、該Clが単独で含有される場合のモル濃度は、6~15%である)が含有されることを特徴とする、可視光から遠赤外光の波長領域の光線を透過するガラス材料。
【0018】
項2 更に、モル濃度で、Rb及び/又はCs:0%超過15%以下が含有される、項1に記載のガラス材料。
【0019】
項3 前記光線が420nm以上12μm以下の範囲の波長である、項1又は項2に記載のガラス材料。
【0020】
項4 ガラス転移温度(Tg)が320℃以上である、項1~項3の何れか一項に記載のガラス材料。
【0021】
項5 結晶化温度(Tc)とガラス転移温度(Tg)との差(△T値)が120K以上である、項1~項4の何れか一項に記載のガラス材料。
【0022】
項6 モールド成型により、球面レンズ、非球面レンズ、レンズアレイ、マイクロレンズアレイ又は回折格子を作製するために用いられる、項1~項5の何れか一項に記載のガラス材料。
【発明の効果】
【0023】
本発明のガラス材料は、可視光から遠赤外光の、より好ましくは、420nm以上12μm以下の範囲の波長の、非常に広範囲の波長領域の光線を透過することができるので、複数の異なる透過特性を示すガラスを組み合わせることなく、本発明のガラス材料単独で、十分な範囲の可視領域及び赤外領域の光線を透過することができる。つまり、本発明のガラス材料をのみを使用することにより、防犯及び認証機器等に用いられるセンサーの小型化が実現できる。
【0024】
また、本発明のガラス材料は、非結晶のカルコゲナイドガラスであるため、結晶化ガラスとは異なり、モールド成型に適しており、球面レンズ、非球面レンズ又はレンズアレイ等の複雑な形状の光学素子を、簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、実施例4(一点鎖線)、比較例5(破線)及び比較例6(実線)の透過スペクトルを示す図である。
図2図2は、実施例6(破線)及び実施例8(実線)の透過スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の赤外線透過ガラスについて説明する。
【0027】
本明細書のA~Bとの記載は、A以上B以下であることを意味する。
【0028】
本発明のガラス材料は、可視光から遠赤外光の波長領域の光線を透過するガラス材料であって、モル濃度で、
S:50~70%、
Ge:15~30%、
Ga:5~20%、
Ba:0.5~15%並びに
Cl、Br及びIからなる群より選択される少なくとも1種:3~15%(但し、該Clが単独で含有される場合のモル濃度は、6~15%である)が含有されることを特徴とする、ガラス材料である。
【0029】
上記組成を有する本発明のガラス材料は、赤外領域の非常に広範囲の波長領域の光線を透過することができる。また、非結晶のカルコゲナイドガラスである点で、結晶化ガラスとは異なり、モールド成型に適しており、非球面レンズ、レンズアレイ等の複雑な形状の光学素子を、簡便に製造することができる。
【0030】
以下、本発明のガラス材料の各成分について、その含有量と共に説明する。多成分系ガラス材料においては、各元素の成分が相互に影響してガラス材料の固有の特性を決定するため、各元素成分の量的範囲を各成分の特性に応じて論じることは必ずしも妥当ではないが、以下に本発明のガラス材料に含有される各元素成分の量的範囲を規定した根拠を述べる。
【0031】
本発明のガラス材料は、モル濃度(=含有量)で、
S:50~70%、
Ge:15~30%、
Ga:5~20%、
Ba:0.5~15%並びに
Cl、Br及びIからなる群より選択される少なくとも1種:3~15%、
を含む。
【0032】
Sは、本発明のガラス材料の骨格構造を形成する元素である。本発明のガラス材料に含有されるSの量は、モル濃度で50~70%である。好ましくは、モル濃度で52~68%程度であり、より好ましくは、モル濃度で55~65%程度である。なお、より具体的な下限値としては、モル濃度で、52.8%以上、又は53.4%以上の数値をとることができ、上限値としては、58.1%以下、58.6%以下、61.1%以下、又は61.7%以下の数値をとることができる。上記するSの含有量が、50%未満又は70%を超える場合には、本発明のガラス材料のモールド成型性が低下するおそれがある。
【0033】
Geは、本発明のガラス材料の網目構造を形成する元素である。本発明のガラス材料に含有されるGeの量は、モル濃度で15~30%である。好ましくは、モル濃度で17~28%程度であり、より好ましくは、モル濃度で20~25%程度である。なお、より具体的な下限値としては、モル濃度で15.1%以上、15.3%以上、19.5%以上、又は19.8%以上の数値をとることができ、上限値としては、21.2%以下又は24.3%以下の数値をとることができる。上記するGeの含有量が、モル濃度で15%未満又は30%を超える場合には、本発明のガラス材料が容易に結晶化するおそれがある。
【0034】
Gaは、本発明のガラス材料の網目構造を形成する元素である。本発明のガラス材料に含有されるGaの量は、モル濃度で5~20%である。好ましくは、モル濃度で6~18%程度であり、より好ましくは、モル濃度で8~15%程度である。なお、より具体的な下限値としては、モル濃度で8.8%以上、9.0%以上、12.4%以上、12.5%以上、又は12.6%以上の数値をとることができ、上限値としては、15.1以下又は15.3以下の数値をとることができる。上記するGaの含有量が、モル濃度で5%未満又は20%を超える場合には、本発明のガラス材料が容易に結晶化するおそれがある。
【0035】
Baは、本発明のガラス材料にガラス形成及び熱安定性を向上させることができる元素である。また、Baは、本発明のガラス材料に短波長の光線を透過することができる効果を与えることができる元素である。本発明のガラス材料に含有されるBaの量は、モル濃度で0.5~15%である。好ましくは、モル濃度で0.5~12%程度であり、より好ましくは、モル濃度で0.5~10%程度である。なお、より具体的な下限値としては、モル濃度で0.8%以上、1.6%以上、1.7%以上、1.8%以上、又は1.9%以上の数値をとることができ、上限値としては、2.5以下又は3.5以下の数値をとることができる。上記するBaの含有量が、モル濃度で0.5%未満又は15%を超える場合には、本発明のガラス材料が容易に結晶化するおそれがある。
【0036】
ハロゲンであるCl、Br及びIは、本発明のガラス材料に短波長の光線を透過することができる効果を与えることができる元素である。本発明のガラス材料に含有されるCl、Br及びIからなる群より選択される少なくとも1種の量は、モル濃度で3~15%である。好ましくは、モル濃度で3~12%程度であり、より好ましくは、モル濃度で3~10%程度である。なお、より具体的な下限値としては、モル濃度で3.4%以上、3.5%以上、5、4%以上、又は7.1%以上の数値をとることができ、上限値としては、9.4以下の数値をとることができる。
【0037】
なお、上記する本発明のガラス材料に含有されるハロゲンがClのみである場合の含有量は、上記に規定するハロゲンのモル濃度の含有量ではなく、モル濃度で6~15%とする。なお、より具体的な下限値としては、モル濃度で6.1%以上の数値をとることができ、上限値としては、8.3%以下の数値をとることができる。
【0038】
上記するCl、Br及びIからなる群より選択される少なくとも1種の含有量が、モル濃度で3%未満の場合には、本発明のガラス材料が容易に結晶化するおそれがあり、これが15%を超える場合には、本発明のガラス材料の水分に対する耐性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0039】
本発明のガラス材料には、Rb及び/又はCsを任意的に追加することができる。Rb及びCsは、本発明のガラス材料のガラス形成性及び熱安定性をより向上させることができる元素である。また、Rb及び/又はCsは、本発明のガラス材料に短波長の光線を透過することができる効果を与えることができる元素である。即ち、本発明のガラス材料に、Rb及び/又はCsを追加することにより、より優れた赤外線透過ガラスを製造することができる。
【0040】
本発明のガラス材料に含有されるRb及び/又はCsの量は、本発明の効果を奏する範囲において、特に限定されない。具体的には、モル濃度で0%を超過し15%以下程度とすることができる。好ましくは、モル濃度で1~12%程度であり、より好ましくは、モル濃度で1~10%程度であり、最も好ましくは、モル濃度で1~7%程度である。なお、より具体的な下限値としては、1.1%以上又は1.8%以上の数値をとることができ、上限値としては、6.9%以下又は5.7%以下の数値をとることができる。
【0041】
本発明のガラス材料は、上記成分以外に必要に応じて、Sb、Ta、W、In、Bi等を含んでもよい。これらの成分の含有量(合計量)は、本発明の効果を奏する範囲において、特に限定されない。具体的には、モル濃度で0~10%が好ましく、1~5%がより好ましい。これらの元素を添加する理由は限定されないが、例えば、ガラスを形成し易くする等の理由を挙げることができる。
【0042】
本発明のガラス材料は、上記する各成分の含有量を適宜組み合わせて製造することができる。
【0043】
本発明のガラス材料は、可視光から遠赤外光の波長領域の光線を透過する。より具体的には、420nm以上12μm以下の範囲の波長の光線を透過する。よって、本発明のガラス材料は、いわゆる大気の窓と呼ばれる、3以上5μm以下及び8以上12μm以下の波長の光線を透過することができる。また、本発明のガラス材料は、一般に、可視光線として定義される360nm以上750nm以下の範囲の波長の大部分の光線を透過することができる。
【0044】
本発明のガラス材料のガラス転移温度(Tg)は、本発明の効果を奏する範囲において、特に限定されない。具体的なガラス転移温度(Tg)は、モールド成型する際の適正温度である320℃程度以上とすることができる。本発明のガラス材料の好ましいTgとして、350℃程度以上とすることができ、より好ましくは370℃以上であり、390℃程度以上とすることが、最も好ましい。
【0045】
本発明のガラス材料が結晶化する際の温度(Tc)は、本発明の効果を奏する範囲において、特に限定されない。具体的な結晶化する際の温度(Tc)は、ガラスになりやすいことに鑑みて、510℃程度以上とすることができ、530℃程度以上とすることが、より好ましい。
【0046】
本発明のガラス材料の熱的安定性を示す△T値(結晶化温度(Tc)とガラス転移温度(Tg)との差)は、本発明の効果を奏する範囲において、特に限定されない。本発明のガラス材料の具体的な△T値は、120K程度以上とすることができる。△T値が大きいほど本発明のガラス材料は、熱的安定性が高くモールド成型性が良好であることを意味し、具体的に△T値が150K以上である場合には、モールド成型性は極めて高いと判断できる。
【0047】
本発明のガラス材料の製造方法は、本発明の効果を奏する範囲において、特に限定されない。例えば、公知の方法を採用することができ、具体的には、石英アンプル内に各成分の原料を所定量を封入し、これを熱処理に供することにより、内容物をガラス化させて製造することができる。
【0048】
本発明のガラス材料の原料として、Ge、Ga、S、Rb、Cs、Cl、Br、I等の単体、GeS、Ga、BaS、CsS、RbS等のカルコゲン化合物、GeX、GaX、BaX、CsX、RbX(X=Cl、Br、I)等のハロゲン化物又は前記ハロゲン化物に水分が含有した水和物含有ハロゲン化物が挙げることができる。これらの原料は、2種以上を任意に組み合わせて使用できる。
【0049】
上記する熱処理を行う時間は、内容物が十分にガラス化される時間であればよく、特に限定されない。具体的には、12~48時間程度が好ましく、24~36時間程度がより好ましい。また、ガラス化の際は、段階的に昇温速度を変更しながら加熱すること又は一定時間加熱した温度を保持すること等が好ましい。
【0050】
なお、上記する具体的な製造方法で製造する際に使用する石英アンプルは、真空乾燥機により、十分に内部を乾燥させることが好ましい。
【0051】
本発明のガラス材料は、モールド成型性が高い。モールド成型する際には、前記ガラス材料を軟化点付近まで加熱し、例えば、上型と下型とで挟み込んで熱プレスすることにより所望の形状に成型する。このような成型に要する加熱温度は、特に限定されない。具体的には、屈伏点より10~70℃程度高い温度が好ましく、屈伏点より20~50℃程度高い温度がより好ましい。
【0052】
モールド成型により作製する光学素子は、特に限定されない。具体的には、赤外線を透過する性質が求められる、球面レンズ、非球面レンズ、レンズアレイ、マイクロレンズアレイ、回折格子等を挙げることができる。これらは、赤外線を用いた各種センサに用いられる光学素子として有用である。
【0053】
本発明のガラス材料を用いて作製した赤外線センサー用レンズは、従来のGe-Sb-Sn-S系ガラス又はGa-Sb-Sn-S系ガラスを用いて作製した典型例と比較して、その感度が20%程度以上にまで向上することが確認されている。
【実施例
【0054】
以下に、本発明をより詳細に説明するための実施例を示す。但し、本発明は実施例に限定されないことは言うまでもない。
【0055】
石英アンプルを用意し、内部を精製水で洗浄した。次いで、ロータリー真空ポンプを作動させて真空下で石英アンプルをバーナーで熱して水分を蒸発させた。次に、下記の表1及び2に示される組成となるように各成分の原料を混合して石英アンプル内部に入れ、ロータリー真空ポンプでアンプル内部を十分に真空にした後、H-Oバーナーを用いて封管した。
【0056】
封管した石英アンプルを、室温から150℃までを87℃/時間、150℃から450℃までを100℃/時間と昇温した後に、450℃で6時間保持し、その後、450℃から980℃まで87℃/時間の昇温速度で昇温した後に、同じ温度で8時間保持した。そして、これを室温まで自然冷却して、内容物をガラス化させた。
【0057】
ガラス化したガラスのTg及びTcを、DSCを用いて測定した。またガラス化したガラスの200nmから2000nm(2μm)の透過特性を可視分光光度計(U4100:日立製)で、そして2μmから20μmの透過特性をフーリエ変換型赤外分光装置(FT-IR Spetoram100:パーキンエルマー製)で測定した。
【0058】
実施例1~8及び比較例1~6について、ガラス化したものを○印とし、ガラス化していないものをx印として、表1及び2に示す。
【0059】
なお、表1及び2に記載の、1)~3)の意味は次の通りである。
1)△T:結晶化温度(Tc)-ガラス転移温度(Tg)
2)短波長側透過率50%波長:厚さ2mmでの短波長側の50%透過している波長の値
3)長波長側透過率50%波長:厚さ2mmでの長波長側の50%透過している波長の値
【0060】
【表1】
【表2】
【0061】
また、実施例4(モル濃度で、Ge:19.5%、Ga:12.4%、S:57.5%、Ba:3.5%及びI:7.1%)、比較例5(モル濃度で、Ga:12.5%、S:50.0%、I:8.3%、Sb:20.9%及びCs:8.3%)及び比較例6(モル濃度で、Ge:21.2%、Ga:12.4%、S:61.1%、Ba:1.8%及びCl:3.5%)で得た、ガラス試料の可視領域及び赤外領域における透過スペクトルを、図1に示す。
【0062】
図1及び表1に示す結果から明らかな通り、実施例4のガラス材料は、比較例5のガラス試料と比べて、「短波長の波長側の透過率50%波長」がより短波長側にシフトしており、可視領域を十分透過していることが分かる。また、実施例4のガラス材料は、比較例5及び6のガラス試料と比べて、可視領域の透過率が高い傾向でとなることも明らかとなった。
【0063】
また、実施例6(モル濃度で、Ge:19.7%、Ga:12.5%、S:58.1%、Ba:2.5%、CI:6.1%、Cs:1.0%、及び:Rb0.1%)及び実施例8(モル濃度で、Ge:15.1%、Ga:15.1%、S:52.8%、Ba:1.9%、Br:0.4%、I:9.0%、Cs:8.3%、及びRb:0.7)で得た、ガラス試料の可視領域及び赤外領域における透過スペクトルを、図2に示す。
【0064】
Cs及び/又はRbを含有する実施例5~8のガラス材料は、Cs及び/又はRbを含有しない実施例1~4のガラス材料に比べて、「短波長の波長側の透過率50%波長」がより短波長側にシフトしていることが明らかとなった。また、実施例6及び8のガラス材料が示す透過率は、実施例4のガラス材料と同様に、比較例5及び6のガラス材料よりも、可視領域の透過率が高い傾向であることも明らかとなった。
【0065】
(非球面レンズの作製)
屈伏点が400℃である実施例4のガラス材料を窒素雰囲気中450℃においてモールド成型をし、非球面レンズを作製した。その結果、良好な非球面レンズを作製することができた。他の実施例で得られたガラス材料を用いる場合にも、同様に良好な非球面レンズが作製できる。
図1
図2